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<神山村の三人娘>~②~

相変も変わらずノンHの小説です。

<<登場人物>>

 中三トリオ<幼馴染>
 タマミ……ミーハーの体育会系。おかっぱ頭(今回の映画鑑賞
の言いだしっぺ)/大港町にある新興キネマ
 ヨーコ……真ん中で長い髪を分けている。口数少ない文学少女
 ジュリ……ソバカスだらけの顔にショートヘア。ボーイシュ。

 千倉先生……担任の先生
 増田神父……銀縁眼鏡、長身でイケメン

******************

<神山村の三人娘>~②~

 「先週の土曜日、大港(隣町)へ行ったんだって?」
 牧師様は左手で持ったレポートを見ながら銀縁の眼鏡を右手で
押し上げてみせる。

 『あのレポート用紙に何が書いてあるんだろう』
 一方、睨まれた方の三人はというと、その神父の手元が不安で
仕方がなかった。

 ここは元々隠れキリシタンの村。牧師様も世間で言うお坊さん
ではない。神父様は村のモラルの中心的存在。村じゅうの人たち
から敬われていて、大人でさえも教義に反するような事をすれば
罰を与える権限をもっている。
 いわんや子どもたちはなおさらだった。

 「どうしたの?行かなかったのかい?」
 三人が黙っているので、再度尋ねると……

 「いえ……それは……」
 タマミだけが心細そうに口を開く。

 「参考書を買いに行ったんだろう?お母さんはそう言ってたよ」

 「ええ、そうです」
 ほんのちょっぴり安心する三人。
 でも、すぐに……

 「それで……映画の方はどうだったの?楽しかったかい?」

 安心したのもつかの間、核心を突く言葉が飛び出して三人の心
が一様に騒いだ。

 『えっ、どうしてわかったんだろう』

 蒼白い顔の三人。でも、その答えは簡単だった。
 帰りの列車で盛り上がる三人の甲高い声をたまたま居合わせた
神父様も後ろの席で聞いていたのである。

 それだけではない。
 女の子たちはこんな面白いネタを自分の心の奥底にずっとしま
い続けておくことなんてできない。

 翌日の学校でさっそく……

 「あなただけ、特別に教えてあげる。他の子には絶対言っちゃ
だめよ」
 なんて、あてにならない約束をしてコソコソ話。
 秘密を持つ子は一人また一人と増えていく。

 結果、噂は数日で学校中に広まり、今では、それを知らない子
の方が少なくなっていた。
 当然、先生や牧師様がこれを知っていたとしても何の不思議も
なかったのである。

 そんな子供の動揺を見透かすかのように神父様が……
 「今、新興キネマで掛かっていたのは、たしかエマニエル夫人
とO嬢の物語だっけ?」

 「……………………」
 もうばれてるとは分かったが、さすがに三人、『そうです』と
は言いにくかった。

 「実はね、このことはすでに学校中の噂になってて、千倉先生
の方からもはっきりさせて欲しいと頼まれていたんだ」
 神父様は再び手元のレポート用紙に視線を落とす。

 『はっきりさせるってどういうことだろう?』
 『お仕置きして欲しいってこと?』
 『親も知っちゃってるのかなあ?』
 三人の不安はつのる一方だ。

 「………………」
 「………………」
 「………………」

 「面白かったかい?」
 三人は口を開かなかったのに、神父様は語り始める。

 「そう、面白かったみたいだね。帰りの列車の中でもたいそう
はしゃいでたものね」

 「えっ!?…………」「いえ…………」「それは…………」
 三人は一瞬驚き、あとは絶句する。

 帰りの列車で盛り上がった三人の娘たちは、自分たちのことに
だけかまけていて、周りに誰がいたのかなんて全然注意を払って
いなかったのである。

 「今さら君たちにこんなことを言わなくても分かってるだろう
けど、ああした映画は、君たちが見ていいものじゃないんだよ。
映画館のポスターにも、『成人映画』とか『18歳未満お断り』
って書いてあったはずだけど………見えなかったかな?」

 「はい、ごめんなさい」
 三人はか細い声で答えた。

 その瞬間、神父様はそれまで脇息のようにご自分が肘をついて
いた書斎机で小さな作業を始める。
 そこに置かれていた天秤に小さな分銅を乗せたのだ。

 「あっ!……」「ああ……」「だめ……」
 三人はすまなそうな顔はしていてもそれが気になる様子で上目
遣いに覗き見る。

 それって三人の少女にとってはあまり見たくないものなのだが、
見ないわけにもいかなかった。

 天秤皿に乗せられたのは5gの分銅。これは罪の重さをあらわ
していた。

 そして、神父様は軽くなって持ち上がったもう一方の天秤皿に
金貨を一枚乗せる。これでバランスを取るのだ。

 こちらは、その罪を償うためにはどのような罰が必要かの判断。
石、銅貨、銀貨、金貨、プラチナ、ダイヤモンドまであるのだが、
子供たちが被るのは金貨までだった。

 その最高刑が天秤皿に乗ったのである。
 三人にしてみたら見たくはなくても見るしかなかった。

 「君たちの楽しい話し声を聴くとはなしに聞いていてわかった
ことなんだけどね。君たちが、こうした映画を理解するにはまだ
時間がかかりそうだということだ。……もっとも、中身は分から
なくても、とても綺麗な衣装だったとか華麗な身体だったという
のは覚えてるだろうけどね」

 三人は動揺してお互いの顔を見合わせる。
 『からかわれてる』『バカにされている』そうは思ったけど、
でも身分違い。仕方がなかった。
 そんななか、ヨーコだけがおずおずと先生にたずねてみる。

 「神父様……神父様は、あの映画をご覧になったことがあるん
ですか?」

 「あるよ」
ヨーコの問いに神父様は笑って答えた。

 すると、女の子たちがどよめいた。
 女の子たちの感性では神父様があんな映画をご覧になることは
まずないだろうと思っていたのである。

 「ん?おかしいかい?……それは僕が聖職者だからかな?……
でもね、それって神父だからこそ見てるんだ。……巷で流行って
いるものは、たとえ好みが違っていても、できるだけ見るように
しているんだよ。お説教する時、概念論だけの無味乾燥な話では
誰の心にも残らないからね。村の人たちみんなの心に寄り添って
いきたいんだ。……そうそう、あれが封切られたのは……たしか
3年前だったか。多くの人と一緒に僕も観客席の隅で見てたよ」

 「で……その……どうでした?」
 ヨーコが恐る恐る尋ねると……

 「どうって?」
 逆に尋ねられた。

 牧師様はヨーコの顔をしばし覗きこんでから……
 「どうやら君はほかの子と違って衣装や女性の裸以外にも興味
があったみたいだね」

 「えっ!?」

 「あれを単なるポルノ映画と呼ぶ人もいるけど、私が見た感じ
では、あれはあれで人の心理の一面を切り取った立派な文芸作品
だと思うよ。だから、多くのお客さんがあの映画にひきつけられ
たんじゃないのかな」

 「やっぱり」

 「君には、何か感じるところがあったんだね」

 「いえ、はっきりとはわかりませんけど……」

 「いいかい、人はありとあらゆるしがらみから自らを解き放ち
たいと思う反面。すべてを人に任せて、そこに安住を得たいとも
思っているんだ。二つのまったく相反する気持を持ってる。……
私だってそうだ」

 「でも、それって矛盾してませんか?」

 「矛盾?……だって、それが人間だもの。人間は矛盾を抱えて
当たり前。葛藤があって当たり前。そんなことはギリシャの神様
たちにだってあることだもん。弱い人間にあっては、そんなこと
罪でもなければ、恥じいることでもないさ」

 「ギリシャ神話?……エレクトラとか」

 「エレクトラコンプレックスね。ま、それも一つかな。経験の
ない君たちにしてみたら無理もないか。君たちはまだ親から完全
に独立して生きたことがないからね。いいかい、赤ん坊というの
は母親に全てを任せて安住を得ているけど、自分であれこれでき
るようになると、その愛はかえって邪魔になる。そこで、思春期
にはいり親からの独立をはたすんだけど……そうやってすべての
しがらみから自由になれば望みどおりの幸せが手に入るのかとい
うと、そうもいかないんだ。これから先は何をやるにも自己責任
というのは、かえって辛い事でもあるんだよ」

 「どうしてですか?それって、仕事がうまくいかないからとか
……そういう事ですか?」
 タマミが二人の話に食いつく。

 「そうじゃないよ。世の中のすべてがたとえ意のままになった
としても、その苦痛から逃れることはできないだ」

 「どうしてですか?何でも自由にできたら楽しくて仕方がない
と思うけど……」
 ジュリも口を開いた。

 「最初はね……でも、すぐに飽きる」

 「?」「?」「?」

 「人が楽しいって感じるのは実は困難があるから楽しいんだ。
何でも思う通り出来てしまったら、何が楽しいのかもわからなく
なってしまう。……君たちは空気を吸うだろう?」

 「それはもちろん……」

 「それって生きていくうえでとっても大事なものだよね。……
だけど息を吸うたびに『ああ、ありがたい、ありがたい』だなん
て思わないだろう。……それと同じだよ。……何でも当たり前に
なってしまったことは楽しいことでも幸せなことでもないんだ」

 「O嬢は自分で困難を求めたんですか?」
 ヨーコの声がした。

 「そういうことだね。恐らく今の自分の生活に不満があるわけ
じゃないと思うよ。でも、そうやって自分の姿を確認したかった
んだ。神様の国は光の国だそうだけど、もし本当に光だけの世界、
楽しいだけの世界なんてものがあったとしたら、そこに入った人
は物の形がわからないだろうね。人間は光だけでなく、そこに陰
を見つけて初めてそれがどんな形なのか分かるんだ。神様にいく
らここが幸せの国だと言われてもそれを感じることはできないと
思うよ。全てがプラス、全てが善、全てが楽しいだけの世界なん
て、世の中どこにも存在しないんだよ」

 「わあ、ショック、私、これでも精一杯頑張って罪を犯さない
ようにしてきたのに……今回だって友だちに誘われたから、つい
乗っちゃって」
 ジュリが言うと、すぐにほかの二人が……

 「わあ~~よく言うわ」
 「あんたが一番楽しんでたじゃないのさあ」
 と反論されてしまった。

 「だから、いいんだよ。君たちはまだ子供なんだから、まずは
正しいことが何かを学ばなきゃ。美しいものが何かを学ばなきゃ。
その心がけは大事だよ。何も曲がったことをしなさいと教えてる
んじゃないんだから」
 神父様は納得した様子だった。

 ただ、しばらく間を置いてからこうも言うのだった。
 「聖職者の中には、ただただ罪に怯え神の罰から逃げ回ってる
だけの人もいるけど……こんな人は、たとえご自身だけ光の中に
入っても、そこに他人の姿は見えていないだろうね」

 『どういうこと?』
 『意味不明?』
 『何言ってるんだろう?』

 三人の不思議そうな顔を見て、神父様は思わず難しい話をして
しまった自分に苦笑する。でも、ここまできたから最後まで話す
ことにしたのである。

 「自分独りだけ罪を作らないことが立派なんじゃない。時には
友だちと一緒になって罪をつくり罰を受ける勇気も必要なんだ。
そうやって初めて、人は引き上げるべき友だちの手の在りかや心
の在りかを知ることになるのだから……友だちだって救うことが
できるというわけさ」

 「それなら、わざと悪さをしてお仕置きを受けなさいってこと
ですか?」
 ヨーコの顔は不思議そうだった。

 「わざと、というのは感心しないけど、君たちは色んなところ
でまだ未熟だ。だから、あえて悪さをしようとしなくても自然に
暮らしていればそういう結果になるよ。……それで十分さ。……
今回だって、みんなで相談してキセルで帰ることにしたんだろう」

 「えっ……」「……」「……」
 三人は再び顔を青くした。

 「神父様、ご存知だったんですか?」
 タマミがか細い声で尋ねるから……
 『あっ、バカ、何で自分から罪を認めてるのよ』
 あとの二人が慌てて袖を引くが……もう手遅れだった。

 「知るも何も、あんな大声で話していたら、一緒の車両にいた
私だけじゃなく、車掌さんにだって聞こえていたと思うよ」

 「え~~そうなんだ。ヨーコ、あんた声が大きいのよ」
 「何よ、あんただって同じでしょう。バカ笑いして……」
 「バカだけ余分よ。私はあんたに釣られただけじゃない」

 突然のことに仲間割れしていると……その間に神父様は分銅を
つまみあげる。また5gの分銅。
 そして、バランスを取るための硬貨もまた金貨だった。

 「18禁の映画を見た事といい、キセルで帰ってきた事といい、
これは金貨でしか釣り合いが取れないかもしれないね」
 神父様の独り言に三人はおしゃべりをやめ、テーブルに置かれ
たの天秤を見つめる。

 金貨二枚は背筋の凍るようなお仕置き。それはこの村で暮らす
子供たちなら誰でも知っていることだった。
 だから、三人はたちまち泣き出しそうな顔になる。

 すると、それを見た神父様はこう語りかけるのだ。
 「そんなに悲しい顔しなくてもいいじゃないか。君たちはまだ
子供だもの。そんなに厳しい罰にはならないよ」

 「…(ほっ、よかった)…」
 「…(助かった)…」
 「…(許してもらえるのかな)…」
 神父様の言葉に単純な三人は一瞬安堵したが、それはあくまで
ほんの一瞬でしかない。

 「君たちは、これから修道院へ行って、お浣腸を我慢してから
お尻が真っ赤になるまでシスターたちの鞭を受ければ自宅に帰れ
るわけだし……お家でも、お尻にお灸を据えられるくらいがせい
ぜいだろうから……心配はいらないよ」

 神父様はすまして言ってのけるが……それって、三人とっては
ごく普通の展開。当たり前のお仕置き。何一つ罰が緩くなった訳
ではなかった。

 「……」「……」「……」
 三人は再びお通夜みたいな顔になる。
 『何だ、期待して損した』というわけだ。

 そんな三人に向かって神父様は皮肉を言う。
 「何だか不満そうだね。でも、痛い思いをしたり、恥ずかしい
思いをしただけで許されるというのは、君たちがまだ子供だから
なんだよ。大人が受ける罰に比べたらまだまだ寛大な処置なんだ」

 「…(そんなこと言ったって)……」
 ジュリはそう思ったが言葉にはしなかった。

 「大人が間違いを起こせば、地位も財産も失って社会から放逐
される。お尻を叩かれてごめんなさいすれば、それで水に流して
くれるわけじゃないんだ。だから、一見うまくいっているように
みえても、常に独りで自分の悪心と戦い続けなければならない。
特に自分を叱ってくれる人が周囲に誰もいなくなるとその思いは
さらに強くなって、擬似的にでもいいから自分を罰してくれる人
や壊れるほど強く自分を抱いてくれる人を求めるようになるんだ。
O嬢もキャリアウーマンだろう、そんな人の一人かなと思ったよ」

 「?」「?」「?」
 神父様のお話は中三の娘たちには難しかったようで、神父様は
『私はなぜこんな子どもにこんな話をしてしまったのだろう』と
思って笑った。

 「要するに、君たちがこれを見るのは少々早かったって事かな。
……でも、『何事によらず経験するにこしたことがない』という
のが僕のポリシーだから……その意味では君たちが18禁の映画
を見たことは規則違反で罰の対象だけど、無益だったとは思って
いないんだ。ま、こんなこと言うと、また校長先生に『あなたは
聖職者らしくない』って叱られるかもしれないけどね」

 神父様は再び苦笑して最後は優しい眼差しだったが、三人娘は
当然ながら生きた心地などしなかった。

 彼女たちにしてみたら長い説教は退屈で……
 『18禁の映画を見たからお仕置き』
 『キセルをしたからお仕置き』
 これだけで十分だったのである。

 ところが、話はそれで終わらなかった。

 「ところで……」
 神父様はそう言って再び手元のレポート用紙に目を通す。

 そして、やおらこう語りかけるのだ。
 「タマミちゃんは数学と理科、それに社会の成績が、いま一つ
みたいだね」

 「えっ……ええ、まあ……」
 指摘されたタマミははっきりとした返事を返さない。頬を赤ら
め、思わず頭をかくだけだが……三人はそこで初めて、神父様の
手元にあるレポート用紙が自分たちの学校での成績なんだと理解
したのだった。

 「ヨーコちゃんは数学と理科か……理数系は苦手かね。私は、
パズルを解いてるみたいで好きだったけどなあ」

 神父様がこう言うとヨーコちゃん……
 「だって、数学って数字と記号ばかりで人間が出てこないから
つまらないんです。答えも約束通りにしかならなくて、意外性が
ないっていうか……とにかく退屈なんです」

 「なるほど、型にはまった答えしかでてこない教科は嫌なんだ。
でも、英語と国語だけよくてもいい高校には入れないよ」

 「それは……そうなんですけど……」

 「逆に、ジュリちゃんは、数学、理科、社会とかはできるんだ
けど語学が苦手みたいだね」

 「私、暗記してると眠くなるんです。睡眠薬にはちょうどいい
です」

 「なるほど、人それぞれだね」

 神父様は三人のレポートを見終わると、あらためて三人を前に
こう宣言するのだった。

 「実はね、担任の千倉先生や君たちのお父さんお母さんから、
私、相談を受けているんだ。『成績の上がらない今、親を騙して
町に映画なんか見に行く子をそのままにしていていいだろうか』
ってね」

 「騙してなんかいません。あれは、あくまで参考書を町へ買い
に行っただけなんです」
 ヨーコは気色ばんだが、神父様にそれは通用しなかった。

 「それはどうかな。君たちが列車の中でしていたおしゃべりを
聞いていると、映画を見に行くのが本来の目的だったみたいだけ
ど……違うのかね」

 「えっ、神父様は私たちの話を盗み聞きしてたんですか?」
 ジュリは声を荒げたが……

 「盗み聞きはひどいな。ただね、あんなに大きな声なら聞きた
くなくても聞こえるよ。それに、親御さんたちは参考書を買いに
行く為だけにしては夜遅くなって帰って来たって心配なさって
たよ」

 「それは……」
 ジュリの声がたちまち小さくなる。

 「それはキセルのために隣の駅で降りなきゃいけなかったから。
だから、家に着くのも遅くなった。違うかい?」

 「……」「……」「……」
 三人はこういわれると一言もない。

 「そもそも、君たちは親御さんたちに『映画を見に行きます』
って断って出てきたのかね」

 「……」「……」「……」
 三人は誰一人口を開かない。

 そもそも、成人映画を見に行きますなんて、親に言えるはずが
なかった。

 「君たちは町の映画館へは子供たちだけで勝手に見に行っては
いけないってルール、忘れちゃったのかな」

 「子供って……私たち、もう中三なんですよ。来年は子供じゃ
なくなるんです」
 タマミは不満そうだが……

 「来年は来年。村の掟では15歳はまだ子供なんだよ。16歳
になって、大人たちが一人前と認めて、初めて大人の仲間入りが
できるんだ。自分勝手に大人になれるわけじゃないんだよ。……
だから今はまだ子供。お仕置きだって素直に受けなきゃならない。
わかってるだろう?」

 神父様はこう言ってまた分銅の錘5g追加する。
 やはりバランスを取るために反対側の皿にも金貨が……。

 これで金貨が三枚。
 それがどのような意味を持つものか、この村に生まれた三人が
知らないはずがなかった。
 だから、三人が三人ともがっかりとした顔でため息だ。

 「あのう~~少し、おまけしてもらえませんか……」
 天秤を見つめていたヨーコがだめもとで神父様に交渉してみる
が……

 「おまけって……君たちそんなに修道院が好きだったのかな。
……え~~っと、前に君たちが修道院でお仕置きを受けたのは、
……いつだ……いつだ……」
 神父様はヨーコの申し出を受けてテーブルに置かれたお仕置き
台帳を捲り始める。
 そこには村の子供たち全員がいつどこでどんなお仕置きを受け
たかが書かれていた。

 「あ~~あった、あった」
 神父様の声。答えはすぐに出てきた。

 「なんだ、なんだ、前回はもう二年も前じゃないか。おまけだ
なんてせがむから最近も修道院に行ってきたのかと思ったら……
これなら同情の余地はないね」

 「だめですか?」

 「長い間お仕置きを受けていないのは立派だけど、だからって
お仕置きを免除することはできないな。むしろ、大人になる前に
ちゃんと思い出しておいた方がいいな。鞭の味も浣腸の味も……
それって大切なことなんだから……」

 「え~~~」
 「そんなあ~~」
 「いやだあ~~~」
 ひよこたちの大合唱。

 でも、神父様はひるまない。

 「『鞭を惜しむはその子を憎むなり』という言葉があるように、
お仕置きは大事な人との大切なスキンシップだもの。大事にされ
てる証しみたいなものだから子供にとっては決して不名誉なこと
ではないんだよ」

 『そんなこと言ったって痛いのいやだし恥ずかしいのはもっと
嫌だもん』

 三人は同じように思ったが、三人はこの村で生まれた子供たち。
神父様の決定は絶対で、拒否できないという現実を、そのお尻で
十分に理解していたのだった。

***************************

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このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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