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小暮男爵 ~第一章~ §12 / ランチタイムの話題

小暮男爵/第一章


<<目次>>
§1  旅立ち         * §11  二人のお仕置き②
§2  お仕置き誓約書   * §12  ランチタイムの話題
§3  赤ちゃん卒業?   * §13  お父様の来校
§4  勉強椅子       * §14  お仕置き部屋への侵入
§5  朝のお浣腸      * §15  お股へのお灸
§6  朝の出来事      * §16  瑞穂お姉様のお仕置き
§7  登校          * §17  明君のお仕置き
§8  桃源郷にて      * §18  天使たちのドッヂボール
§9  桃源郷からの帰還  * §19  社子春たちのお仕置き
§10 二人のお仕置き① * §20  六年生へのお仕置き


***<< §12 >>**/ランチタイムの話題/**

 私たちの学校でのお昼はその為だけに作られた食堂で頂きます。

 体育館の半分ほどの広さに丸い窓がアクセントのその部屋には
ペルシャ絨毯が敷き詰められクラスごとの大きなテーブルが置か
れていました。

 テーブルに並ぶ食器もちょっぴり値の張る陶器や磁器、銀製品。
子供用のプラスチックやアルミの食器などでは真の躾はできない
とお父様方が揃えられたのです。そのためこの場所は子どもさえ
いなければまるでホテルの宴会場のようにも見えます。

 子どもにはちょっと贅沢すぎる空間ですが、この学校には父兄
の他にも卒業生の方々がよく臨時講師として招かれておりました
から、そうした人たちが食事するスペースも確保しておかなけれ
ばなりません。

 OBOGの中には、お父様方傘下の企業で現社長の腹心として
取締役に着いている紳士とか大学教授、弁護士、医師、高級官僚
など成功者の方々がたくさんいらっしゃいます。そうした方々を
まさか埃たつ教室に招いてプラスチックの食器で食事をさせると
いうわけにはいきませんでした。

 そんな高級レストラン(?)に最初にやってくるのは上級生の
お姉さんたちが親しみを込めてチビちゃんと呼ぶ小学一年生から
三年生の小学校下級生の子たちです。
 時間割の都合上このチビちゃんたちがたいてい一番のりでした。

 彼らはまず中庭で摘んできた草花を各テーブルに置かれた一輪
挿しの花瓶に生けて回ります。
 それが済むとお姉さま方のテーブルを回って、お皿やナイフ、
フォーク、スプーン、箸箱といったものを並べていきます。
 身長がちょっぴり足りませんからそのための専用の踏み台まで
用意されていました。

 もちろん私もチビちゃんと呼ばれていた頃はこれをやっていま
した。
 でも、このお仕事、なぜか自分たちが食べる分の食器について
はやらないのです。

 チビちゃんたちが食べる分を持ってくるのは少し遅れて食堂に
入って来る上級生のお姉さまたち。

 まず厨房入った中学生のお姉さまグループがチビちゃんたちの
ための料理を盛り付け、小学四年生から六年生の上級生グループ
が配膳台でそれを受け取って、お腹をすかせたチビちゃんたちの
テーブルへ運びます。
 要するに小学校高学年グループは、ウェートレスさんの仕事を
することになるのでした。

 配膳台から出てくるチビちゃんたちの料理は色んな料理が一つ
のお皿に盛られたワンプレートスタイル。一見すると社員食堂や
学食などで提供される定食のようにも見えますが、アレルギーや
どうしてもその食材に手を着けられない子の為に個別の盛り付け
が細かく指示されていました。

 そのため、お料理の取り違えが起こらないようにボールやお皿、
グラスにまでその子の好きな花が家紋代わりに描かれていますし、
箸も箸箱もその子専用。スプーンやフォークなどの食器には一つ
一つ名前が掘り込まれています。もちろん料理を運ぶトレイにも
ちゃんとその子の名前が貼り付けてありました。

 つまりここの給食は一応決まった献立はあるのですが、その子
の事情に応じて料理も食器もすべてがオーダーメイドなのです。
ですから給仕役の私たちもそれを間違えるわけにはいきません。
食器と料理を慎重に確認してからトレイに乗せチビちゃんたちの
待つテーブルを回ります。

 その子の前に来てもう一度確認。
 「愛子ちゃんのお皿、チューリップだったわよね」
 って、その子にあらためて確認を取ってからお料理を並べます。

 そもそも何で上級生の私たちがチビちゃんたちの為に給仕役を
やらされるの?という不満もないことはないのですが……
 それを先生に言うと……

 「何言ってるの、あなたたちは女の子なんだから当たり前です」
 の一言で片付けられてしまいます。

 実際ここは戦前まで華族様専用の学校でしたから、当然こんな
仕事もありませんでしたが、戦後、お父様が学校を買い取られて
からは『これからは何事も平民の流儀に習って…』と大きく方向
転換されたんだそうです。

 ちなみに、園長先生がおっしゃるには、昔の名残りがあるのは
胤子先生への一礼といつでも誰に対しても同じ『ごきげんよう』
というご挨拶だけなんだそうです。

 他の子の不満はともかく、私としては料理をテーブルに運んで
行く先でチビちゃんたちが必ず……
 「ありがとうございます。お姉さま」
 と笑顔で迎えてくれるのが励みでした。

 上級生も……
 「午後も先生お友だちに囲まれて幸せが続きますように」
 と返すのが一般的です。

 最後にその子の手を取って、ハンドキスをして別れます。
 これは西洋の習慣ではなく、いつの頃からか始まったこの学校
独自のしきたり。あくまでサービスです。
 ところが、相手は幼いですからね、嫌いな先輩のキスだと露骨
にそこをゴシゴシと拭ったりします。

 その後、私たちはこの日のお昼をご一緒する先生の為に料理を
運び、中学生のお姉様たちのテーブルも回ります。
 そして最後が、私たちのテーブルでした。

 文字通り小学校高学年組は給食の給仕役をやらされてる訳です
が、私自身はそれがそんなに苦痛ではありませんでした。
 だって、そのことでみんな笑顔になってくれますから、多くの
人の役に立っているという実感がありました。
 
 大事な事はみんなで助け合って食事の準備をすること。他の人
にやっていただいたことには感謝すること。うちの学校にあって
は給食はそんな常識を学ぶ場だったんです。

 さて、そうやって苦労のあげくいただく料理なんですが、実は
部屋の内装に比べるとこちらはそんなに豪華版じゃありません。

 この日のメニューは、トマトシチューにサラダ、黒パン、牛乳、
ちょっぴりのフルーツといったところでしょうか。
 シチューやサラダ、それにフルーツといったものはチビちゃん
たちのワンプレートとは違って、あえて個別にせずクラスごとに
置かれた大きな鉢に入れてあります。
 それを担任の小宮先生から分けてもらうことになっていました。

 もちろんこれだって自分たちで勝手に取り分けた方が手っ取り
早いんですが、夕食のお肉の塊をわざわざお父様が切り分けて、
一皿ずつ家族に振舞うのと同じで、全ては権威づけの為でした。

 私たちの置かれた特殊事情で、小宮先生は学校の先生であると
同時に私たちにとってはお母様でもあるわけですから、私たちが
素直に尊敬の念を抱けるよう工夫されていたのでした。

 さて、普段のお昼はこんな感じで豪華な料理はでません。
 ただ、例外があって、月に一度、外からシェフが来て私たちに
本格的なコース料理を振舞ってくれる日があります。

 この日の料理は確かに豪華なんですが、テーブルマナーを学ぶ
のが本来の目的ですからお行儀よくしていなければなりませんし、
慣れないフォークやナイフと格闘しなければなりません。
 おかげで、お料理そのものをそんなに美味しいと感じる余裕は
ありませんでした。

 実は、さっき名前の彫られたフォークやナイフがあるって言い
ましたけど、普段の食事であれはたいていお飾りなんです。

 当時、私たちが日常的に使っていたのは、あくまで自分の箸箱
から取り出すマイ箸。チビちゃんたちはその方が食べやすいので
スプーンやフォークを使いますが、私たちの年齢になると大半が
箸を使って食べます。食卓には練習用にと毎回フォークやナイフ
が並べられますが、一度も料理に触れることなく下げられること
がほとんどでした。

 そんなことより、女の子たちにとって一番のご馳走は気の置け
ないお友だちとのおしゃべり。これが何よりのご馳走でした。

 ですから、私たちは席に着くなりすぐにおしゃべりを始めます。
園長先生が手を叩いて一瞬場内が静まりますが、それが続くのは
全員が唱和する「いただきます」の瞬間まで。すぐに、さっきの
続きが始まるのでした。

 そんなおしゃべりを楽しむ大事な時間に慣れない洋食器は邪魔
でしかない。わかるでしょう。

 「ねえ、ねえ、お尻、痛かった?今も赤くなってるの?ねえ、
教えてよ。私のところからだと、前の子が邪魔になってはっきり
見えなかったのよ」
 お下げ髪の詩織ちゃんがあけすけに尋ねます。

 『えっ、また……』
 私はうんざり。そして、返事に困ります。

 実はお仕置きが終わって図画教室に行く時も、授業が終わって
この食堂へ来る時もお友だちの話題はこればっかり。
 私はお友だちからしつこく同じ質問を受けていました。

 でも、その時は……
 「私、慣れてるから」
 なんて半笑いで応えていたのですが、父兄も同席しているこの
テーブルで言われるとさすがにカチンときます。

 正直、『あなたさあ、他のお友だちの話、聞いてなかったの!』
って怒鳴りたい気分でした。
 でもそれをやっちゃうと恥の上塗りにもなりますから、あえて
黙っていたのです。

 「ダメよ、詩織ちゃん。場所柄をわきまえなさい。お食事中に
するお話じゃないでしょう」
 さっそく、詩織の家庭教師、町田先生がたしなめます。

 実は、付き添いの家庭教師さんたち、授業中は教え子の様子を
黙って見守るだけですが、休み時間になると、今の授業で分から
なさそうにしていた箇所にアドバイスを送りにやってきます。

 そしてお昼には、まるで学校の先生のような顔をして教え子の
隣りに座り、私たちと同じメニューの昼食をいただくのでした。

 入学したての頃は右も左もわかりませんから学校まで着いきて
くれる家族同然の家庭教師の存在を頼もしく思っていましたが、
上級生ともなると、いつも監視される生活は逆にうっとうしいと
感じられることが多くなります。
 ただ、こんな時だけは助かりました。

 今にして思うと、家庭教師がそばにいたから授業で分からない
処も即座にフォローされますし、後ろ盾になってくれますから、
お友だちから仲間はずれにされたり虐められたりすることもあり
ません。それに、うっかり今日の宿題を忘れてたとしても、家庭
教師も一緒に聞いていますから家に帰ってからやり忘れるなんて
こともありませんでした。

 それに何より一番大きな利点は、学校で落ち込むようなこと、
例えば今回のようなお仕置きがあっても、家庭教師という身内が
その胸を貸してくれること、甘えさせてくれることでした。

 「ねえ、広志君、鷲尾の谷ってどんな処なの?」
 今度は里香ちゃんが広志君に尋ねています。

 すると広志君、最初困った顔をしましたが、すぐに持ってきた
自分の絵を見せます。そして、ぶっきらぼうに……
 「こういう処さ」

 「わあ~~~」
 「すご~~い」
 「綺~~~麗」
 たちまち女の子たちが立ち上がり里香ちゃんの席は人だかりに。

 「ほらほら、食事中ですよ」
 小宮先生の声も耳に入らないほどの人気だったのです。

 「絵の周りの、この黒い縁は何?」

 「洞穴だよ。その中から外を見て描いたんだ」

 「ねえねえ、上から下がってるこの蔓は?」
 「山葡萄」
 「じゃあ、この岩の間に咲いてる花は?」
 「山百合」
 広志君は女の子の質問にそっけなく答えます。

 「ねえ、この棒は何なの?」
 「棒じゃないよ。雲の間から陽が差してるのさ」
 「ねえ、こんなにもくもくの雲なんて本当に湧くの?」
 「湧くよ。榎田先生に聞いたけど、あの辺は気流の関係で黒く
て厚い雲が湧きやすいんだって。学校はあの谷より高い処にある
からこの雲は下に見えるんだって」

 広志君の絵は小学生としてはとても細密で遠くの町の様子まで
細かく描きわけられています。
 こんな細かな絵ですから、図画授業の時間内ではまだ完成して
いませんでした。ただ、そんな未完成の絵でも見てみたいという
希望者は何も子供たちだけではありませんでした。

 「ほらほら、席へ戻りなさい」
 小宮先生がそう言って里香ちゃんから絵を取上げると、今度は
家庭教師の人たちがその絵を一目見ようと席を立ちます。
 
 「わあ、こんな表現、小学生がするのね。しかも様になってる
ところが凄いわ」
 「本当。神秘的ね。この光の帯から本当に天使が降りてきそう
だもの」
 「ねえ、この百合よく描けてると思わない。まさに谷間に咲く
白百合って感じかしら」
 「私はこの街のシルエットがたまらないわ。よくこんなに精密
に描けるもんね」

 小宮先生も群がる家庭教師軍団に呆れ顔。これでは叱ったはず
の生徒に示しがつきませんでした。
 でも、それほどまでに広志君の絵は上手だったのです。

 一方、その頃、当の広志君はというと、自分の絵が評価されて
いることにはまったく興味がない様子で、隣のテーブルにばかり
視線を走らせています。

 『?』
 視線の先を追うとそこは六年生のテーブル。そしてそこに何が
あったかというと、大きな鏡でした。

 前にも説明しましたが、鏡というのは私たちの隠語で、実際は
磨かれた鉄板です。その鉄板を座面に敷いて女の子が一人、食堂
の椅子に腰を下ろしています。

 『あれかあ』
 女の子はスカートを目一杯広げて何とか鉄の座布団を隠そうと
していますが、鏡の角が飛び出して光っていたのです。

 光の奥は、当然、ノーパン。
 広志君はそれを見ていたのでした。

 『まったく、男の子ってどうしてああスケベなんだろう』
 私は広志君に軽蔑の眼差しを送りましたが、当の広志君は……
もう夢中で、私の事など気づく様子がありません。

 実は、昼食の最中は授業ではありませんから、ちょっとぐらい
の粗相では罰は受けないものなのです。
 それがこうして昼食の最中も鏡を敷かされてるわけですから、
 『瑞穂お姉様ったら前の授業でよほど担任の先生を怒らせたに
違いないわ』
 私は直感的にそう思います。

 「ねえ、ジロジロ見てたらみっともないわよ」
 私が広志君に注意すると……
 「いいじゃないか、お仕置きなんだもん。僕らだってたっぷり
見られたんだし……自業自得だよ」

 「だって、可哀想でしょう」

 「そんなことないよ。僕たちの方がよっぽど可哀想だよ。お尻
までみんなに見られたんだよ」

 「そりゃそうだけど、笑わなくてもいいでしょう……」

 「別に笑ってなんかいないよ。でも、お昼の時間まで鏡の上に
座らされてるんだもん。これからきっと厳しいお仕置きがあると
思うよ。それを想像してると何だか楽しくなっちゃうんだよね。
美咲ちゃんはそんなの思わないの?」

 「思いません!」
 急に声が大きくなってしまいました。

 「まったく、男の子って悪趣味ね。よその子の不幸を利用して
楽しむなんて……そっとしておいてあげればいいじゃないの」

 「いいじゃないか、思うだけなんだから……誰にも迷惑かけて
ないし……」
 広志君口を尖らせます。

 「…………」私は呆れたという顔をします。
 でも、そう言ってる私だって、表向きはともかく、心の中では
思わず、瑞穂お姉さまが鏡の上に座っている原因をあれこれ想像
してしまうのでした。

 『ほんと、瑞穂お姉様どうしたのかしら?単元テストの成績が
ものすごく悪かったとか……』
 単元テストというのは一学期に十回ほどある業者テストのこと
で、復習を兼ねて行われます。九十点と言いたいところですが、
女の子の場合は八十点を越えていればお咎めなしでした。

 『違うなあ、あのテストはたとえ六十点でも、やらされるのは
たいてい担任の先生との居残り特訓だけだもの』

 『カンニング!?……もしそうなら、そりゃあ怖いことになる
かもしれないけど、まさかね。瑞穂お姉さまは頭がいいんだもの。
そんなの必要ないわ』

 『それとも、先生に悪戯?……お姉様って、学級委員のくせに
わりとヤンチャなのよね。……ぶうぶうクッションを先生の椅子
に仕込むとか、蛇や蛙の玩具を教卓の引き出しに入れておくとか。
……ん~~~でも瑞穂お姉様が今さらそんな幼い子みたいなこと
するはずないか……』

 『先生にたてついた?ってのは……ちょっと癇癪持ちだけど、
栗山先生とは仲がいいもんね、そもそも学級委員やってるのも、
栗山先生のご指名なんだから。……あ~あ、思いつかないわね。
……廊下を走った?……そんな事ぐらいじゃこんな罰受けないか。
……それとも、お友だちとの喧嘩した?……違うわね。たしかに
あれで男の子みたいな処もあるけど……』

 いくら考えても答えなんて出てくるはずがありません。
 もちろん、直接、本人に確かめるのが手っ取り早いでしょうが、
それって嫌われちゃう可能性もありますから、女の子としては、
あえてそんなリスクを犯してまで尋ねたいとは思いませんでした。

 ところが……
 その答えは、意外に早くやってきます。

 話題のテーブルから、六年生の担任、栗山先生がお鍋を抱えて
こちらのテーブルへやって来たのです。
 栗山先生は私たちの小宮先生を訪ねたのでした。

 「ねえ、シチュー残っちゃってるけど、食べない?」
「どうしたの?いつも足らないって言ってるくせに……」
 「今日は全員食欲がないみたいなのよ」
 当初の用件はコレだったのですが……

 「原因は、あれ?」
 小宮先生は瑞穂お姉様に視線を送ります。
 「察しがいいわね。そういうことよ」
 「ねえ、ミホ(瑞穂)、どうしたの?」
 小宮先生が私に代わって尋ねてくださいました。

 すると……
 「四時間目、授業時間が中途半端になっちゃったから各自自習
にしておいたんだけど…そうしたらあの子たち、授業中二階から
飛び降りて遊んでたのよ」

 「二階から!?」

 「ほら、私の教室の窓の下に伐採した木の枝や葉っぱが集めら
れてて小山になってるところがあるでしょう。あそこに向かって
飛び降りる遊びを始めちゃったってわけ」

 「危ないことするわね。一歩間違えれば大怪我じゃないの。…
…で、それをミホ(瑞穂)が?」

 「そうなのよ。あの子が最初にやり始めたの。何しろあの子、
他人に乗せられやすいから……友だちに囃し立てられられると、
ついつい悪ノリしちゃって……どうやら三回も窓の庇から飛んだ
らしいわ」

 「帰りは?」

 「正々堂々、玄関からご帰還よ。……何度も何度も同じ生徒が
授業中に廊下を通るんでおかしいなと思って窓の外に身を乗り出
してみたら、女の子が傘を差してスカートを翻して二階の窓から
飛び降りるのが目に入ったってわけ」

 「あなた見たの?」
 「違うわよ」
 「じゃあ、誰かに見つかったの?」

 「梅津先生」

 「おや、おや、一番まずいのに見つかっちゃったわけだ」

 「こうなったら、私だって叱らないわけにはいかないでしょう。
瑞穂と囃し立ててた数人を運動場に連れて行って、全員を肋木に
縛りつけておいてお尻叩き」

 「あらあら、……パンツ下ろして?」

 「そこまではしないけど、スカートは上げて革のスリッパで、
しっかり1ダースは叩いてあげたわ」

 「どおりでポンポンと小気味のいい音が運動場から聞こえると
思ったら、あれ、あなただったのね。要するに私がこの子たちを
お仕置きしたしわ寄せがあなたに来たってわけだ」

 「ま、そういうことになるのかな」

 「あらあらごめんなさい。とんだ肉体労働させちゃったわね」

 「やあねえ、冗談よ。決まってるじゃない。そうじゃなくて、
この子たちも、もう六年生だし……お鞭の味も少しは覚えさせて
おこうかと思って……いつまでも平手でお尻ペンペンでもないで
しょう」

 「なるほど、それで今日は食事も喉を通らないってわけね」

 「瑞穂もさすがに応えたみたいで、お尻叩きのあとも泣いてた
から、お仕置きも兼ねてお尻を冷やさせてるのよ」

 先生二人はひそひそ話でしたが、女の子たちは、全員そ知らぬ
ふりで聞き耳をたてています。
 誰にしてもこんな美味しい話を聞かない手はありませんでした。

 『瑞穂お姉さま、この分じゃお家に帰ってからもお仕置きね』
 私は思わずお灸を据えられて悲鳴を上げている瑞穂お姉さまを
想像してしまいます。

 それって悲劇でも同情でも何でもありません。
 邪まな思いが私の心を喜ばせ、いつしか口元が緩みます。
 ここまで来ると、私に広志君のことをとやかく言う資格なんて
ありませんでした。

 そして、それはいつしか瑞穂お姉さまではなく私自身がお父様
からお仕置きを受けている映像へと変化していきます。

 誰にも気取られないように平静を装ってはいましたが、心の中
ではどす黒い雲が幾重にも渦を捲いて神様からいただいたはずの
清らかな光を閉じ込めてしまいます。

 しだいに甘い蜜が身体の中心線を痺れさせ子宮を絞りあげます。
 吐息が乱れ呼吸が速くなります。
 邪悪な願望が心の中で渦巻いて、糸巻き車の針に指を刺すよう
悪魔が囁きます。

 『私も、お姉様みたいに鏡を敷いて震えてみたい。お父様から
お仕置きされてみたい。息もできないくらいに身体を押さえつけ
られて、身体が木っ端微塵になるほどお尻を叩かれたら……ああ、
最後はお父様の胸の中で愛されるの。ううう……幸せだろうなあ』
 私は独り夢想してもだえていました。

 最もして欲しくないことなのに、本当にそうなったら逃げ回る
くせに、私の心は悲劇を渇望してさ迷っていました。
 そう、私の心の中では思い描く悲劇の先にはなぜか悦楽の都が
あるような気がしてならないのでした。


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このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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