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ケンとメリー<3>

 ケンとメリー<3>

 二人は二十人の人類の為に広いコロニーを作る。
赤ん坊とその母親の為に住む家、着る物、当然三度三度の食事
も与え続けて面倒をみた。ただ当初の計画では彼らをその村から
出すつもりはなかった。

 ケンは、彼らをあくまで家畜として飼うつもりでいたからだ。
四方を有刺鉄線と高い柵で囲い、入口に鍵を掛けて、彼らが一歩
たりともコロニーから出られないように管理するつもりでいたの
である。

 というのは……
 キメラ星はエデン38星雲の中でも最も成熟した星の一つで、
他の異性人たちからも『エデンの中のエデン』と羨ましがられる
ほど完成された秩序や理性で動いている。
 しかし彼らが飼おうとしている地球人たちどうだろう。彼らは
歴史的にも数々の大きな戦争を繰り返しているし、二人が太陽系
にいた短い期間でさえ争い事が絶えない。

 ケンにしてみれば、好戦的な彼らを村の外に出すのは虎を野に
放つようなもと思えたのである。

 ところが、彼の目論みは、実際には何の意味もなさなかった。

 というのも、キメラ星の人たちにしてみれば、宇宙の彼方から
やって来た人類というのは、格好の見世物であり研究材料。連日、
異星人を一目見てみたいというジャーナルや一般市民、学者など
が村に押しかけたのだ。

 「いや、彼らは危ない生物ですから……彼らは、我々とは違う
んです。常にどこかで戦争を引き起こし、100年として平和な
時代がないんですから……危ない生物なんです」
 ケンは説得を試みたが、物見高い市民や探究心旺盛な学者たち
にそれは届かない。彼らに拝み倒されて、幾度もコロニーの鍵を
開けることになる。

 彼が苦心したコロニーも、気がつけば観光地になっていた。

 ケンの努力は報われなかったが20人の地球人にとってそれは
好都合だった。
 彼らは、村から一歩も出ずに多くのキメラ星人と交わる機会が
できた。母親たちは求められるままに地球の様子を話して聞かせ
見学に来た市民からはキメラの文化を学ぶ。子どもたちも自然と
キメラ語を覚えるようになった。

 キメラの市民たちは10人の子どもたちが怪物ではないことを
知ると、ケンに子どもたちがキメラの市民権を取れるように働き
かける。
 『我々とほとんど同じ姿形をしている同胞を動物に見る必要は
ない』というのだ。

 結果、地球人の子どもたちはキメラ星の子どもたちと同じよう
にごく平凡に成長していったのである。

 ただ、ケンが苦心して集めたはずのIQ240以上の遺伝子と
いうのはここではさほど異彩を放つことがなかった。学者たちが
何度計っても彼らのIQは140程度、過去にキメラの探検隊が
調べた地球人の平均値をやや越える程度でしかない。

 そのため彼らは発達障害のある子どもとして登録されることに
なる。身障者扱いなわけだが、キメラ星では発達障害があろうと
なかろうと戸籍に載りさえすれば立派な市民。そこに一般市民と
の隔たりはない。ケンが目論むような動物園行きは、この時点で
なくなり、その瞬間メリーが求めたように、二人は一気に20人
もの後見人になったのだった。


 キメラ星はもともとエデンの中のエデンと呼ばれているように
科学文明の発達した星。衣食住の全てがほぼ無償で手に入る楽園
だ。だから、市民が経済的な理由で働く姿はない。
 ケンの家で家族が一気に20人増えたとしても、二人が生活に
困るということはなかった。

 ただ、ここは地球とは完全に違う社会システムで動いている。
だから、ここでの生活の仕方を一つ一つ彼らに……とりわけ母親
たちに、教え込む必要があったのである。

 例えば、スーパーで物を手に入れる時、そこにあるどんなもの
でもただ手に入れることができるが、食べ物以外はそれを勝手に
処分できない。壊れた、時代遅れになったなど、理由はともかく
同じ物を手に入れようと思ったら、前に手に入れた品物を、一旦
店に返却してからでないと新しい物を手に入れられなかった。
 勝手に物を捨てられると星全体が汚されて困るからそこは徹底
していたのである。

 連れて来た生物を勝手に処分できないというのも実はそういう
趣旨だったのだ。

 家具、衣服、家電、もちろん住宅も、耐久消費財は十分な量が
確保されていたが、かといって、国家の決めた数量を超えて手に
入れることもできない。つまりこの星には大金持ちは存在しない
が国家に忠誠を誓っていれば生活に困ることもないというわけだ。

 誰もが同じ程度の生活水準を確保して生活しているわけだが、
かといって社会の中で競うものがない訳ではなかった。

 その一番大きなものが社会貢献。つまり、ボランティアだ。
 公共事業に協力して知恵を出し、新たな技術やシステムを開発
すれば、それが住民たちからの評価ポイントとなって社会的地位
が上がり、高価な研究資材が調達できたり他の星々へ自由に旅行
ができたりする。

 ケンとメリーもそうやって宇宙旅行が可能になり、今回初めて
調査旅行に出ていたのだが、残念ながら遭難してしまったという
わけだ。


 さて、地球から拾ってきたそのゴミのその後だが、子供たちは
母からだけでなく発達障害の子たちを集めた学校にも通い始めて、
キメラの文字を習い、パソコンを操作を習得していく。
 ただ、自分たちがその昔、このパソコンの一部に組み込まれて
大きな仕事をはたしたことなどは伏せられていた。

 ここへ連れて来られた時の様子などは母親から耳にすることが
あるかもしれないが、小型宇宙船で行った作業は自律的に課題を
処理して答えを出す為のOSが組み込まれる前に起こった出来事。
要するに物心がつく前の出来事なんだから、いかに高度な数式を
解析しようと、その時の記憶が彼らに残っているはずがないと、
ケンもメリーも、そして彼らを観察した学者たちも、大人たちは
誰もがそう考えていたのである。

 子供たちは学校に通い始めると、国語や算数といった一般教科
の他、自由に絵を描き、作曲を重ね、ダンスを習って市民として
必要な最小限の能力を習得していく。

 それは、基本的にはこの星の子供たちの日常と何ら変わらない
生活だったが、一つだけこの星の子どもたちと違うところがある
とすれば、それはそれぞれの子が得意分野を持っていたことかも
しれない。

 アランは天文地理のスペシャリストだし……キースはバランス
感覚が抜群で体操が得意。シューティングゲームの名手でもある。

 マルコは図形や絵画の記憶力が抜群で、一度見たものは何でも
写真のように記憶してしまう。
 一方、同じ記憶といってもトーマスは文字や数式の方。これら
のことに抜群の記憶力を持っていて『兄弟(姉妹)の図書館』と
呼ばれるほど博学だった。

 ヒロは普段からおとなしく、成長してもまるで赤ん坊のように
いつも誰かに甘えて生活していたが推理力や構成力に秀でた才能
があって、この先の展開を読むのが得意。彼の予想は、かなりの
確率で当たるため誰もが彼を無視できなかったのである。

 一方、女の子の方だが、こちらも個性豊かだ。

 まずセシル。彼女は作曲やピアノの演奏が得意で、彼女が弾く
ピアノは男の子たちの闘争心を鼓舞すると同時に喧嘩していた男
の子たちを即座に黙らせてしまうほどの鎮静剤効果も持っている。

 次はマリー。薬学、医学に造詣が深く、彼女の出す薬で効果の
ないものはないと言われるほど。また、彼女は相手の心のうちを
見透かす能力を持っていて、特に男の子などは彼女の前に来ると
心が丸裸になってしまうので恐れられていた。

 ジョー。可愛い顔で、同年代の男の子たちから見ても妹のよう
に見える。自身、特に高い能力はないが、彼女が膝の上に来ると
何故かその子の能力が3割もアップする。
 男の子たちにとっては実利も兼ねたスーパーアイドルだ。

 ローズ。ダンスや歌が上手で魅惑的。彼女のハレンチなショー
が始まると、それだけで男の子たちの心は騒がしくなる。男の子
たちが何を好むのか、その鋭い嗅覚で常々嗅ぎわけているのだが、
それだけではない。時に男の子たちをベッドに誘い入れては羽を
伸ばすことも。まさに幼児にして娼婦といった感じもするのだが、
それでいて操だけはちゃんと守っているのだから不思議な少女だ。

 最後にヘレン。感受性が豊かで、霊感も強い。兄弟姉妹は全て
同じ歳なのだが彼女だけがお姉さん格になっている。全ての子の
心のうちを把握していて他の兄弟たちからも信頼されているため
だろうか、彼女が下す決定には他の子たちも従うケースが多い。


 さて、この10人、日頃は兄弟みんな仲がよい。
 昼間はお庭でいつも一緒に遊んでいるし、オヤツの時は大きな
円形テーブルをみんなで囲み母親の膝の上でおしゃべりを楽しん
でいる。

 何とも仲のよい光景だが、実はこの10人、母の膝に抱かれ、
お互いが手を繋いだ瞬間、不思議なことが起こっていたのである。

 その瞬間だけは、彼らの脳裏にブラックホールを越えたあの日
の様子が鮮明に映し出されるのだ。
 無論、それがどのような意味を持つのかは幼児の彼らにはには
分からない。しかし、事実の映像だけはこの瞬間はっきり蘇える
のだった。

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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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