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小暮男爵 / 第2章  / §1 突然・トリップ

小暮男爵 / 第2章

*******//小暮 朱音//*********

 私の名前は小暮 朱音(あかね)。お父様の名前は小暮幸太郎。
 今は爵位なんて関係ないけど、お父様、戦前までは男爵だった
んだって。もっとも、私とお父様には血の繋がりはなくて、私は
貰いっ子。クリスマスの日の夜に教会に捨てられてたって聞いた
けど、詳しい事はわからないわ。そのあとは、施設を転々として
ある施設にいた時、お父様によってここへ拉致されて来たの。

 『拉致だなんてぶっそうだ?』

 でも、仕方がないのよ。その時、私まだやっとオムツが取れた
ところだったから。大人同士決めてしまえば私の気持なんて関係
ないみたいでね、施設の先生は、一人だけでも厄介払いができて
喜んでたみたいよ。

 以来、私は小暮幸太郎の養女としてお父様の別荘で育てられる
ことになったってわけ。
 こう言うと、何だかシンデレラストーリーみたいだけど、実際
には色々と厳しい現実もあるのよ。

 兄弟姉妹が多いってのもその一つかしらね。
 何しろ、お父様が毎年一人ずつ施設から子供を拾ってきて……
今は子供だけ24人もいるんだから……

 えっ、そんなことは第一章で美咲ちゃんが話してたの?

 あっ、そう……じゃあ、ここは省略していいわね……以下は、
私の想い出話。興味があったら読んでね。

**************************

<主な登場人物>

 学校を創った六つのお家

 小暮 幸太郎
 リンカーンに似た風貌。元男爵。
 造船業が本業。奥さんはこの歳になって養女を大量に作る夫に
 嫌気がさして滅多に別荘(子供たちの自宅)へはやってこない。
 あだ名の『先生』は彼がこの組織を立ち上げたことによる敬称。

 進藤 高志
 縞の三つ揃えでスエードのハットを被る。
 家では油絵を描き、ピアノを弾く
 奥さんは(秀子)さん>
 映画製作会社、興行師、画商、などで財を成したとされるが、
 詳しいことは不明。あだ名は芸達者なことから『師匠』。

 真鍋 久子
 古くからある紡績会社を継いで戦前戦中戦後と活躍。女の子が
 就職する際の受け皿ともなっている。自らの関連会社だけでは
 なく服飾関係にも顔がきくため彼女の引きたてにより服飾関係
 の会社を経営したりデザイナーになった子も多い。
 巴御前からとも言われているが『御前』と呼ばれることも。

 佐々木 啓造
 電鉄会社・デパート・不動産の三位一体で財をなした財界人。
 現役の頃は『強奪啓造』と呼ばれて強面のイメージがあったが
 今は好好爺といった風情で子供たちにも優しい。

 高梨 庄治
 謎の多い人物。戦前までは子爵だったというが何によって財を
 成したかは不明。噂では日本海軍の諜報機関だったとか、証券
 業界の風雲児だったとか、色々言われている。海外の人たちと
 のコネクションが多彩な人でもある。

 中条 仁
 ケミカル関係の会社をいくつも持っている。あだ名は『総帥』
 博士号を持つインテリなのだが、何にでも理屈っぽいところが
 玉に瑕といった感じでもある。

 // 小暮男爵家 //
 小暮美咲<小5>~私~
 小暮遥 <小6>
 河合先生<小学生担当の家庭教師>
 小暮 隆明<高3>
 背が高く細面で彫が深い。妹たちの間では
 もっぱらハーフではないかと思われている。
 小暮 小百合<高2>
 肩まで伸びた黒髪を持つ美少女。
 凛とした立ち居振る舞いで気品がある。
 小暮 健治<中3>
 小暮 楓<中2>
 小暮 朱音(あかね)<中1>
 クリスマスの夜に教会に捨てられていた。空想好きで冒険好き。
 武田京子先生<中学生担当の家庭教師>
 小暮 樹理<大学2年生>
 今は東京で寮住まい。弁護士を目指して勉強している。


 // 聖愛学園の先生方 //

久保田先生<教務主任/女性>
 生徒の間ではもっぱらお仕置き係と呼ばれている怖い存在。


 //中1のクラス<担任/青木先生>//
 小暮 朱音


****<< §1 >>***/突然・トリップ/*****


 その日は学校の中間テストをしくじっちゃって、教務の久保田
先生にこっぴどくお尻を叩かれたら、何となく素直にお家の車で
帰る気分になれなくて学校の裏門をそうっと抜け出すと鷲尾の谷
を下りて行ったの。

 あの谷を最後まで下りて行くと、これぞ秘境駅ってのがあって、
落ち込んだ時はいつもこのホームでディーゼルを待って乗り込む
のが習慣なのよ。

 『えっ、そんなことして良いのか?』

 良いわけないじゃない。
 うちの学校、細々した事にまで規則があってうるさいんだから。
鷲尾の谷を降りるんだって、みっかったらお仕置きものだもん。
もちろん『ディーゼル列車に乗ってふけた』なんてわかったら、
スカートの上からゴムのパドルでお尻百叩きだわね。

 あっ、そうか、私の場合は前科があるからね、ひょっとしたら
クラスの子たちが見てる前でパンツまで脱がされるかも(笑)。

 『笑い事じゃない?』

 そりゃあそうだけど、でも、その時はそんな先のことまで考え
てなかったの。
 とにかく、泣きはらした目を妹たちに見せたくなかっただけ。
独りになりたかっただけだもん。

 だってディーゼル列車の車内ってさあ、自動車と違って広々と
してるし、普段とは違う景色が流れるでしょう。田舎の景色独り
占めだもん。その代わり最寄り駅から自宅まではたっぷり2キロ
歩かなきゃならないんだけど、こっちの方が断然、快適なの。

 私の場合、本来はだったら遥や美咲たちと一緒に河合先生の車
だけど、先生にはスクールバスで帰ってきたことにしておくの。
……要するに、ばれなきゃいいのよ。

 メランコリーな気分で谷を下りて来て、『生田』という名前の
駅舎もないような無人駅のホームでディーゼル機関車が牽引する
二両編成の列車を待つの。

 まるで映画のヒロインになった気分。
 ここは前は鉄橋、後ろはトンネルという山の中のそれも谷底に
ある無人駅なんだけど、そこがいいの。鑑賞旅行にはぴったりの
ロケ地だわね。

 こりまま列車に揺られて傷心の旅に出る予定だったんだけど。
 その日はたまたま運が悪かったの。

 ホームの真ん中にある屋根のついてる木製ベンチに誰かが腰を
下ろしてるみたいだから、『おや変だなあ』とは思ったんだけど
……

 『何で、あいつらがいるのさあ』
 がっかりしたわ。

 「おねえちゃ~~~ん」
 「こっち、こっち」

 二人は一生懸命手を振って私を迎えてくれたんだけど、こんな
ありがた迷惑なおせっかいはなかったわ。

 『私は、あなたたちと遭いたくないからここに来たのに……』
 そう思ったけど、今さらどうしようもないしね。トホホだった。

 「あんたたち、河合先生の車で帰らなかったの?」

 「今日は朱音お姉様が久保田先生から極刑を受けると思います
から私たちもスクールバスで帰りますってお断りしたのよ」
 美咲の思わせぶった可愛らしくない言いまわしにカチンときた。

 「へへへ、抜け駆けしようったってだめよ。お姉ちゃんの行動
ぐらいちゃんとお見通しなんだから……こんな日にお姉ちゃまが
みんなと一緒にスクールバスで帰ることなんてありえないもん。
だったら私たちと帰った方がまだいいじゃない。そこで、一人に
なって帰れるルートはないか。そうだここしかないって睨んだの。
大正解」
 勝ち誇ったような遥の言葉にはもっとカチンときた。

 「勝手にしなさい」
 私は捨て台詞を残して、相手にしない事にしたんだけど……。

 「ねえ、久保田先生に何やられたの?」
 「お尻叩きだけ?浣腸は?……お灸までやられなかった?」
 「そもそも、どうしてカンニングなんかしたの?」
 「成績落としたくなかったの。それともお父様に叱られるのが
嫌だったとか……」
 「ねえ、どっちみち家に帰ってもお仕置きされるんでしょう?」

 二人は次々に質問を浴びせかけるけど私は一切無視し続けたの。
 芸能記者に追いかけられる有名芸能人の気持がよ~くわかった
わ。

 だから、この秘境駅にディーゼル機関車の汽笛が聞こえた時は
正直ホッとしたの。

 やがて、その列車はトンネルを抜けて私たちの目の前に現れた。
 
 予定時刻より少し早かったのは知ってたけど後ろに連結された
二両の客車もいつもと同じ色や形のものだったからそれを疑った
りしなかったの。

 だって、ここは田舎の駅でしょう。この時間帯に着く列車って、
15時55分発以外にあり得ないもの。その次もその前も一時間
以上あいてるんだから。
 そりゃあ、『いつものが来た』って思ったわよ。三人一緒にね。

 私たちまるで映画のヒロインになったみたいに大はしゃぎして
その列車を迎えたの。
 実をいうと、ここを運転する運転手さんって決まってて昔から
顔馴染みだから気心は知れてるの。列車がホームに着く前から、
両手を大きく振ってご挨拶したわ。

 もちろんそんなことしなくても定期列車ならちゃんと止まって
くれるはずなんだろうけど『落ち込んでる時ほど明るく振舞う』
というのが私のポリシーだから、そこは映画のワンシーンみたい
に女優気取りでオーバーアクションしてみたんだけど……
 この女の子三人のはしゃぎぶりが思わぬ誤解を招いちゃった。

 「何だ、朱音ちゃんもこれに乗る予定だったんだ?小暮さんの
子供たちはみんな乗るのかな?」
 と、ディーゼル機関車の運転手さんが私の方を振り返ったの。

 その時、私は妹たちと一緒に後ろに連結された客車のドアの前
にいたんだけど、なかなか開かないドアに苛立って美咲がドアを
蹴り始めていた。

 「ほら、あなたたちお行儀が悪いわよ」
 私は妹たちを叱った後、運転手さんに向かっても……
 「乗るのは私たち三人だけよ。早くドアを開けてよ。佐々木の
おじ様に言いつけるわよ」
 と、こちらも苛立ってしまったの。

 だってこの時は、三人が三人とも目の前にある客車がいつもの
定時列車だと思ってたんだから……。

 「わった、わかった、じゃあ、急いで乗って。これ、遅れてる
から」
 と、今度は車掌さんに合図を送ってドアを開けてくれる。

 『何、もたもたしてるんだろう』
 そう思って客車に乗り込んだんだけど、ここまでは何も疑って
なかった。だってえ、やって来た列車はいつもの見慣れた外観の
ディーゼル列車なんだもん。誰だってそう思うわよ。

 三人が乗り込むやいなやドアが閉まってすぐに発車。

 『遅れてるって何言ってるのよ。むしろこれ、いつもより早く
来てるじゃないのさあ。運転手さんの時計の方が狂ってるのよ』
 私は乗り込んだ直後もまだ自分の勘違いに気づいていなかった。

 だけど、あたりを見回すうちに……
 「……?……??……えっ???…………え~~!!!」
 やっと異変に気づいたの。

 だって床に赤い絨毯が敷いてあって天井の照明がシャンデリア
になってる定時列車なんてありえないもの。
 そりゃあ誰だって気づくわよ。私たちの今いる場所が、お召し
列車のエントランスだってね。

 「何よ、これ!いつもと違う」
 「これって、佐々木のおじさま愛用のお召し列車よね」
 妹たちも当然気づいて三姉妹の目は点になって泳いでる。全員、
全身の血の気が一気に引いたわ。

 「お姉ちゃん、これって、まさか……」
 「そのまさかよ。佐々木のおじ様のお召し列車」
 「どうしてそんなのに乗っちゃうのよ」
 「仕方がないでしょう、分からなかったんだもん」
 「ねえ、これに人、乗ってないよね。空だよね。回送車両よね」
 美咲の希望的観測も……ドアの向こうからおじさまたちの声が
聞こえ始めると、たちまち打ち砕かれちゃった。

 三人が三人ともそうだろうけど、その瞬間は、ホント、生きた
心地がしなかったはずよ。

 実はこの路線、鉄道会社を経営する佐々木のおじ様が学校の役
にたつならばと赤字覚悟でわざわざ本線へ続くレールを敷設して
くださった盲腸線なの。

 普段のお客さんは学校に食材を提供している近隣のお百姓さん
たちとか、OBOGが学校に遊びに来る時に利用したり、あとは
私たちが社会科見学や修学旅行みたいに遠出する時にもよく使う
んだけど……そんなものかな。

 この鉄道、私たちにとって役にはたってたけどお昼の時間帯は
ほとんどお客さんが乗ってないから私一人だけ乗せてももらって
も邪魔にはならないというわけで、普段から顔パスで乗せてくれ
てたの。
 もちろん乗車拒否なんてされたことなんて一度もなかったわ。

 降りる駅にはちゃんと駅員さんがいるけど、ここでも、校章を
ちらつかせればそれでOK。駅員さん、通り過ぎる私に何も言わ
ないもの。

 ただね、そうは言ってもこの時ばかりは事情が違ってたの。

 私たちが乗り込んだのは『お召し列車』と呼ばれてて、お父様
たちが大人同士で旅行する時なんかに乗る特別列車。だから車内
はめっちゃ豪華で、造りも一般車両とはまったく違うんだけど、
とにかく外観が通勤列車と同じだから分かりにくいのよ。

 もちろん、子どもは勝手に乗れない列車なんだから、そりゃあ
びびるわよ。

 それに何より、私がこの路線の列車に乗って通学すること自体、
許されていないわけだし……それが見つかっただけで大目玉って
ことになるでしょう。
 もう、絶体絶命だったわ。

 「……ヤバイよ。とにかく降りなきゃ!!!!」

 正気に戻った私は、一番前の窓を開けると、機関車の運転席に
向かって大声で叫んだの。その距離10mくらいあったな。もう
必死だったわ。

 「止めて!お願い……止めてったら!……止めろ~~~」

 何回か叫んでやっと運転手さんに私の声が届いたんだけど……
 「ダメだよ、もう発車しちゃってるし、ここは鉄橋の上。次は
トンネル。こんな処で止められないよ。そもそも、あの駅でも、
本当は止まる予定じゃなかったんだけど、社長直々の命令で臨時
停止したんだ。君たちが必死に手を振るから、ひょっとして何か
あったのかと思ったよ」

 『え~佐々木のおじ様私たちに気づいてたの。……それって、
もっとヤバイじゃない……ヤバイよ……これ絶対にヤバイよ』
 私、風にかき消されながら流れてくる運転手さんの声を途切れ
途切れに聞きながら、頭は真っ白、顔は真っ青になってた。

 「この列車は、みなさんが富士山の麓にある引込み線でお花見
をするため動かしてる特別車両だから一般のお客さんは乗り降り
しないんだ。……とにかく、お父さんに相談しておいでよ」
 と、運転手さん。

 でも、それって……
 『もっとヤバイことになるじゃない。私は隠れて降りたいのに』
 私は思ったけど……でも、それしか方法がなかった。

 ただ、そうはいっても、いきなりドアを開けて『こんにちわ』
だなんてやる勇気がないから、まずは、そうっと大人たちの声が
聞こえるドアに耳を近づけてみたの。

 すると、ドアの向こう側、客室にいる大人たちの会話の中身が
聞こえてきた。

 「いやあ、私も、小暮先生が孤児の面倒をみてると聞いた時は
正直言って酔狂なことをなさるもんだと思いましたけど……でも、
今こうして子どもたちが育ってみると、ちゃんと戦力になってる。
能力もあるし、忠誠心も一般の社員より高い。なるほどそういう
ことかって思い直しましたよ」

 「私も確信があったわけじゃない。最初はそりゃあ不安でした
よ。孤児なんてどうせ発育がよろしくなかろうから育ててみても
ものにならないんじゃないかって不安は常にありました。そこで、
最初はお医者や幼児教育の専門家から意見を聞いて、とにかく、
優秀そうな幼児だけをピックアップしてもらい、その中から私が
選んで一時的に施設から預かることにしたんです。そういう意味
では私なんか本物の篤志家とは言えませんよ」

 「いやいや、たとえそうでもいいじゃないですか。少なくとも
その子たちだけでも未来が開けたんですから……彼らにとっては
大きなアドバンテージですよ」

 「そうそう、それに、いくら純粋な慈善ではないといっても、
こんなこと誰にでもできることじゃない。それこそ純粋に子供が
好きな人でなきゃできませんよ」

 「ま、それは言えてるかもしれませんね。私の場合、息子たち
が現役の子どもの頃は私の方がまだまだ忙しくて充分にかまって
やれなかった。……それで、気がついたら、あいつらいつの間に
か大人になってしまってて……立派になったことは喜ばしいんだ
けど……でも、そうなると今度は抱けない。それがどこか寂しい
んですよ(笑)」

 「子供がまだ現役の頃に抱きたかったというわけですか(笑)
つまりその埋め合わせが欲しかったというわけですね」

 「そういうことです。だから、妻はいまだにおかんむりですよ。
『今さらなぜ子育てなんですか!あなたのわがままには付き合い
きれません』ってわけです」

 「なるほど、たっぷり実の子に愛情を注いできた奥さんにして
みたら、さあいよいよこれから夫婦水入らずという時になって、
なぜ今さら他人の子を……というわけでしょうな。それもわかる
気がします」

 私、ドアに耳を当ててお父様たちの会話を聞いていました。
 もちろんそれって、盗み聞きするつもりでやってたんじゃない
んですが、とにかく中の様子が知りたくて……

 するとバカな妹たちが私の身体に圧し掛かってきますから……

 「……キャー」
 三人の重みで観音扉がいきなり開きます。

 私たちは思わずお父様たちの宴会の席へ……

 『入っちゃった』

 当然、お父様たちは鳩が豆鉄砲を喰ったような顔になってます。
身の置き所がないというのはまさにこういうことなんでしょうね、
その瞬間は、裸で人前に放り出されたくらいショックでした。

 辺りを見回せば、六家のお父様たちがそれぞれにソファに腰を
下ろして複雑な表情。でも、どこか笑ってるようにも見えます。

 この車両は、今で言うサロンカー。床には厚いペルシャ絨毯が
敷き詰められ窓には緞子のカーテン、天井の照明もシャンデリア、
無線電話が引きこまれ、部屋の片隅には本棚や雑誌ラック、各国
の洋酒がずらりと並んだバーカウンターまで……

 何でもこの車両、佐々木のおじ様がお友だちを誘って慰安旅行
する際や国内視察用に作らせた特別列車なんだそうで、この日は
富士山が間近に見える専用の引込み線まで六家の人たちとお花見
に誘ったのでした。

 つまり大人の為のお楽しみですから私たちはおじゃま虫という
わけです。

 そんな中、気を取り直して私がまずしたことは……
 やっぱりこんな時は笑うしかないと思って、六家のおじ様たち
に笑顔で愛想を振りまいてみましたが、さすがに小暮のお父様が
視界に入ると顔は引きつります。
 血の繋がりはなくても私にとっては本当のお父様ですから……
可愛がられてはいてもこんな時は叱られる可能性だって大なわけ
です。

 「朱音、おいで」

 当然ですけど、お父様に呼ばれます。
もうこうなったら観念するしかありませんでした。

 ところが、あれこれ思いをめぐらせたあげく目を開けてみると、
二人の妹たちがこの時すでにお父様の首っ玉にしがみ付いて甘え
ています。
 私は一瞬気が抜けてしまいました。

 これってやっぱり歳の差なんでしょうね。 私だって、ほんの
一、二年前までならこうして無条件にお父様に甘えられてたのか
もしれませんけど、後先のことが考えられるようになった今では
そう簡単に「おとうさま~~」なんて甘い声を出すことができま
せんでした。

 「お久しぶりです」
 お父様が腰を下ろすソファの前に立った私は軽いジョークを…

 でも……
 「何が、お久しぶりだ。朝、会ったばかりじゃないか。今日は
中間テストだったんだろう?……どうだったんだ?」 
 お父様に私のジョークは通じませんでした。

 「それは……えっ……と……」
 教務の先生にさっきお尻をぶたれたばかりですからね。
 いいわけないわけで……口ごもっていると……

 「いやあ」
 私、大きな声で悲鳴を上げます。

 だってえ、お父様ったら私を膝の上にうつ伏せにするんだもん。
そりゃあ誰だって慌てますよ。
 すぐにでもお尻をぶたれるのかと思っちゃうじゃないですか。

 案の定、スカートの上にお父様の手が乗ったから……
 「あっ~」
 って、息を吸ったの。

 ま、このくらいはさすがに許されるんだけど、本当にスカート
が捲られちゃうと、もう無意識に隠したくて手が動いちゃう。
 すると、お父様がその右手をパチン。

 でも、それだけじゃないの……

 「いやあ~」
 思わず声が出ちゃった。

 だって、ほかのおじさまたちがみんな見てる中でしょう。下着
が見えただけでも女の子には恥ずかしいのに、今度はショーツに
手が掛かるから……

 ま、これも普通の子なら、もっと大きな声で「きゃあー」とか
言って悲鳴を上げるんだろうけど、うちは幼い頃からの躾けで、
お仕置きといえどむやみやたらに悲鳴をあげるもんじゃないって
教えられてきたから悲鳴をあげることには抵抗があるの。この時
も必死に我慢したわ。

 あんまりみっともない声を出すとそれを理由にまたお仕置きが
追加されるんだもん。お尻叩きの最中は悲鳴も手足のバタバタも
できるだけ我慢なの。

 そうしたら……
 「どうやら、中間テストの成績が悪かったみたいだな。………
…それも、相当に……」
 お父様、私のお尻に残る痣をみて判断したみたい。

 そりゃそうよ。この時はもう痛みもひいてたけど、ぶたれた時
はもの凄く痛かったんだから。痣くらい残ってるはずだわ。

 すると、お父様、少し考えてから……
 「察するに、教務の久保田先生にお仕置きされたもんだから、
メランコリーになっちゃって、妹たちとは一緒に帰りたくない。
そこで、谷を下りて来てみたら、たまたま列車が来たんで慌てて
乗ったら、それがこれだった。……どうせ、そんなところだろう。
……違うか!?」

 お父様の推察に、私、思わず心臓が縮みそうになったわ。
 心臓発作寸前。

 「……(スルドイ<汗>)……」
 私、答えなかったんだけど、冷や汗タラリだった。

 「どうやら図星みたいだな。しょうのないやつだ」
 お父様の投げやりな言葉に私は思わずカチンときて頭を後ろに
振ったんだけど。

 「何だ、その目は……違うのか?」

 「えっ……それは、そうだけど、仕方がないでしょう。だって
この電車、普通の電車と同じデザインなんだよ。もっと、一目で
見て『わあ素敵な電車』とか分かれば最初から乗らなかったのに」

 「何言ってるんだ。ここの列車に限らず列車に乗ること自体、
お前にとっては校則違反じゃないか。帰りのルートを変える時は
許可がいるが、どうせそんなことはしてこなかったんだろうが」

 お父様にこう言われると、それには反論できなかったの。
 うちの学校は登下校の方法までちゃんと決められていて、私の
場合だと、この列車を利用する時は学校の許可がいるんだけど、
そんなの面倒な許可なんか取ってられなかったから。

 するとそんな親子の会話を聞いていた佐々木のおじさまが笑っ
て……

 「なるほど、そうか。朱音ちゃんとしては、とんだ災難だった
わけだ。いや、この列車の外装が一般の客車と同じなのはお客様
に失礼がないようにと思ってなんだ。サロンカーを運行していな
いうちのような会社が、社長だけ派手な電車で走り回っていたら
お客様が不快に感じられるんじゃないかと思ってね……それで、
わざとこうしてあるんだ」

 中条のおじさまも……
 「別に悪い事をするわけじゃないけど、こういうのを隠れ遊び
と言ってね、あまり他人には見られたくないんだよ」

 「……じゃあ、私、悪いことしちゃったんですね」
 私が何気に言うと、間髪いれずお父様の雷が落ちた。

 「当たり前じゃないか!!」

 「まあ、まあ、いいじゃないですか。どうだい、これも何かの
縁だ。中間テストも終わったことだろうから、これから私たちと
一緒に富士山の麓まで行ってみるかい?」

 佐々木のおじさまは誘ってくれたけど、お父様がお断りしたの。

 「いや、それはいけません。これはご覧のように不躾な娘で、
向こうへ行ってもご迷惑をおかけします。それに今回のことでの
お仕置きもまだ済んでいませんし……」

 「そうですか…お仕置きですか…でも、それもここで済ませる
ことができるんじゃありませんか。他の方々さえよろしければ、
私も協力しますよ」

 佐々木のおじさまが食い下がります。
 すると、その様子を見ていた他のおじさまたちまでが……

 「いいですよ。小暮先生さえよければ。私もそれで……今回の
花見はどうせもうばれてしまったんだし……この子のお仕置きが
終わったら、その後は一緒に連れて行ってもいいんじゃないです
か?」

 「そうそう、女の子を一人だけ連れて行ったとしてもそんなに
邪魔にはなりませんよ」

 「でも、そうなると小暮先生の方が嫌なんじゃありませんか?
可愛い盛りの娘さんのお仕置きを他人の手にはに委ねたくはない
という思いもおありでしょうから」

 真鍋御前がせっかくこう言ってくれたのに、お父様は笑って…

 「いやあ、そんな事ありませんよ。私はみなさんのことを尊敬
していますから、やっていただけるものなら是非ともお願いしま
す」

 「じゃあ、いいんですか?」

 「もちろん。……いやあ、でももしそうなったらこれは豪勢だ。
これだけのメンバーからお尻を叩かれた子どもなんて、日本国中
探してもどこにもいませんよ。……むしろ、こちらお願いします」

 お父様のお膝の上で、しかもまだパンツも太股にかかったまま
の姿勢で私は耳を疑います。あれはおじさま方の戯言。お父様が
そんなこと承知するはずがないと高をくくっていましたからもう
びっくりです。
 でも、お父様は間違いなくそう答えたのでした。

 そして、それが冗談や戯言でない証拠に、お父様は私のパンツ
を元に戻して私を立たせると、こう言うのです。

 「ここでは他の方々も見ておられるんだから、変な声や無様な
姿を見せるんじゃないぞ。心を引き締めてしっかり我慢するんだ。
いいね」

 やっとパンツが穿けた私はお父様の注意を上の空で聞きながら
も、お父様の顔があまりに真剣なので、思わず……
 「マジ?」
 って、つぶやいてしまいました。

 「何だ、マジって……」

 お父様にマジの意味はわかりません。そこで……
 「だって、恥ずかしいよ」
 って、甘えてみますが……

 「何言ってるんだ。この間まで家じゅう素っ裸で駆け回ってた
くせに」
と、請合ってくれません。
 
 「そんなの、はるか昔のことでしょう。お仕置きなんだもん、
それはお父様がやってよ」
 再度、お願いしてみても……

 「バカだな、私はお前の父親なんだから当たり前じゃないか。
でも、こういうことはこういう席だからやってもらえるんだよ。
普段ならどんな事情があろうとお前のような小娘の尻なんて叩い
てもらえないんだ。むしろ、お前にとっては名誉なことだと思わ
なきゃ」

 「名誉って?……お仕置き受けるのが名誉なの?」

 「この場合はそうだよ。お仕置きは愛されてるからお仕置き。
お前は日本でも指折り数えられるような名士の方々から愛される
んだもの、丁重にお受けしなきゃ」

 「だってえ~~」

 「ほら、ぶつくさ言ってないで早く行きなさい」

 私はお父様に突き放されます。
 おじさまたちによるお仕置きはホントにホント、マジでした。

************************

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このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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