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駿 と 由梨絵 の 物語

 駿由梨絵物語

 < 第 4 話 >

 学校に戻ったシボレー。しかしその車がそこに長居することは
なかった。

 由梨絵が伯爵と一緒に寄宿舎を訪ねると、最初に応対した舎監
のおばさん、いえ、先生は……
 「まあ、理事長先生からのお招きなんて光栄なことですわ」
 という返事。
 たまたまそばにいたシスターもまた……
 「是非、お願いします」
 とのこと。

 たちまち駿君が呼ばれ……
 「あなたビックニュースよ。この週末、伯爵様がね、あなたを
ご自宅にご招待してくださるそうなの。こんなチャンス、滅多に
ないわよ。よかったわね」
 となった。

 「さあさあ、よそ行きの服にさっさと着替えてらっしゃい……
そうだ、臙脂のタータンチェックのジャケットがあったでしょう。
あれがいいわ。」
 「急いで着替えるのよ。伯爵様をお待たせしてはいけないわ」

 それは大人たちにとっても青天の霹靂。しかし、何しろ理事長
の鶴の一声なんだから嫌も応ない。選択の余地なんてなかった。

 一介の給費生でしかない駿君は、口を開く間さえない早業で、
宿題ドリルの入ったランドセルを背負わされる

 「あのう~~ぼく……どうすれば……」
 そう言っただけ。後はそのまま伯爵様に黙って着いて行くだけ
だった。

 シボレーが再び発車すると今度は駿君が助手席に座り由梨絵は
後部座席に回った。
 駿君は伯爵にとってはお客様ということのようだった。

 流れる景色をぼんやりと眺めている駿君に向かって伯爵が……
 「おじいさんが亡くなったあとは、週末はずっと学校だったの?」

 「だいたい、そう……」

 「そうか……だったら誰もいなくなった学校に一人ぼっちじゃ
寂しかっただろう?」

 「もう、慣れてるから……たまにシスターが参加する催し物に
一緒に着いて行くこともありますけど……」

 「催し物って?」

 「寄付集めのバザーだとか、聖書の読書会だとか……」

 「ああ、なるほど、そういうことね。遊園地とかじゃないんだ」
 伯爵が思わず失笑する。

 「そういうのは……遠足でなら行ったことがあります」

 「じゃあ普段は勉強ばっかりの生活というわけだ?大変だね。
息が詰まっちゃわないか?」

 「そんなことありません。知識を身につけるのは楽しい事です
から……」

 「おやおや、誰かさんに聞かせたいことばだな」

 伯爵が呆れてため息をつくと……
 「誰かさんって誰よ」
 由梨絵が返事をした。

 「それにたくさん勉強しないと立派な聖職者になれませんから
……」

 「聖職者…か……君は、もう将来のことを決めているのかい?」

 「はっきりとは……でも、僕みたいな給費生はだいたいみんな
そうみたいだから……」

 「そうでもないさ、給費生だから聖職者にならなきゃいけない
と決まってるわけじゃない。学校の先生になる人は大勢いるし、
大学の先生や研究者の道に進んだ人も少なくないんだよ。まあ、
プロ野球選手とかいうのは難しいかもしれないけど……ひょっと
して舎監さんとか、シスター先生に何か言われたのかい?」

 「別にそういうわけじゃないけど……でも、僕は、お爺さんが
死んで後ろ盾が何もないから……」

 「おやおや若い美空で随分と消極的だなあ。まだ若いんだから
もっと大きな夢を持たなきゃ……いいかい、今の世の中、中世の
昔とは違うんだ。給費生だって君に能力さえあれば、パトロンは
自然に集まるんだ。沢山の人が君を後押ししてくれるよ。君は、
なまじ頭がいいもんだから、世の中の事を先読みしすぎるみたい
だね。どんな扉も叩いてみなければ開かない。チャレンジせずに
諦めちゃいけないな。……そもそも君はまだ小学生じゃないか。
今からそんな弱気でどうするんだ」

 「………………」
 駿君は相変わらず外の景色ばかり眺めている。

 そこで……
 「私がパトロンになってあげようか?」

 その瞬間、駿君の顔色が微妙に変化したのを、伯爵は運転席で
見逃さなかった。

 『脈ありということか……』
 伯爵は心の中で思う。
 そこで、さらに誘ってみた。

 「何なら週末はいつも私の家に来ればいい。誰もいない寄宿舎
なんかより、こっちの方がずっと楽しいぞ。私も、ちょうど君の
ような男の子を探していたところなんだ。由梨絵は良い子だが、
勉強がからっきしだめなんだ。そこで、給費生にでもしてみたら
少しは頑張るかと思ったんだが、相変わらず怠け者で困ってるよ。
そこで適当な競争相手というか家庭教師がいないかと探していた
ところなんだ」

 伯爵が俊君を誘う間、由梨絵は後部座席から足で運転席を蹴り
続けていた。きっと怠け者とかなんか言われて頭にきたのだろう。
もちろん運転する背中に由梨絵の衝撃は届いてはずだが、伯爵は
お構い無しに話を続ける。

 「えっ!!?」
 いきなり持ちかけられた話に戸惑う駿君。

 しかし、伯爵の目にその顔は『嫌ではないな』と映った。

 「ちょっと、変なこと言わないでよ。駿ちゃんはクラスメイト。
私と同じ歳なのに私の家庭教師になんかなれるわけないじゃない」
 それまでおとなしくしていた由梨絵が二人の会話に嘴を挟む。

 すると、伯爵は上を向き、明るい笑顔で……
 「なれるさ。確かに歳は同じだけど、むしろお前が同じなのは
それだけだじゃないか。勉強、運動、図工や音楽、素行にいたる
までお前が駿君より勝ってるものなんて何もないだろう。駿君と
比べたら、月とすっぽん。お前にはちょうどいい家庭教師だよ」

 これを聞いた由梨絵はさらに強く前の座席を蹴った。

 「もう、嫌!いつもそうやって、私をバカにするんだから……」
 由梨絵は自分の座席に置いてあったクッションで伯爵の頭を…

 「バカ、やめないか、運転しているのに危ないだろうが……」
 
 由梨絵は自分と接している時はどちらかと言うとおとなしい子。
悪戯にせよ、おふざけだったにせよ、そもそも、由梨絵がこんな
行動に出ること自体、伯爵には意外だった。

 「まったくしょうがない子だ。そんな癇癪持ちなら、駿君にも
お前をお仕置きする権限を与えてあげないといけないな」
 腹立ち紛れにこう言うと今度は由梨絵の攻撃がピタリと止まる。

 「えっ!」
 由梨絵はおじ様の怒りに戸惑い身体が固まってしまったのだ。

 冗談にもせよ自分が駿君からお尻叩きを受けるなんて、思わず
想像してしまっただけでも背筋が寒くなるほどのショックだった。

 ただ、それって駿君が嫌いだからそうなったのではない。
 むしろ俊君が好きだからこそ、自分の想像が心の中をどぎまぎ
とさせ、身体を硬直させたのだった。

 「君は模範生だから学校でも寄宿舎でもお仕置きなんてされた
ことないだろうが、こいつは私の家でも学校でもしょっちゅうだ。
もし、悪さしたら遠慮なくお尻を引っぱたいて構わないからな」

 「ちょっと、おじ様、バカ言わないでよ」

 由梨絵はむくれたが、伯爵は無視して笑うだけだった。

 「私もお尻をぶたれたことぐらいあります。小学校の一二年生
の頃は学校の先生や舎監の先生、シスターさんからも……」

 「ほう、君でもやっぱりあるのか。そんなことが……」

 伯爵は大仰に驚いてみせ……そして、後部座席に向かって叫ぶ。
 「よかったな、由梨絵。お尻ぶたれたのは、どうやらお前だけ
じゃなかったみたいだぞ」

 「何がよかったのよ。そんなの当たり前じゃない」
 由梨絵はクッションを膝の上に抱きかかえて、ちょっぴり恥ず
かしく、そしておかんむりだった。

 「あ、そうか、わかったぞ。そいつはたいてい膝の上でだろう。
ズボンの上から平手でお尻ペンペンってやつだ。どうせ鞭なんて
使わないんだろう」

 「はい、鞭でぶたれたことはありません。それに、終わると、
そのまま膝の上で抱きしめてもらって、頭や背中を良い子良い子
って撫でてもらうんです。それがけっこう嬉しくて……たまに、
わざと悪戯したこともあったんです」

 「おやおや、わざと……それもまた凄いな」

 「……でも、すぐにわざとだって、バレちゃって……」

 「ま、先生たちはプロだからな。幼児の言ってることが本当か
嘘か、一発で見抜けるようじゃなきゃ仕事にならないかもしれ
ないな。で、そんな時はどうしたの。やっぱり、お尻をぶたれた?」

 「いえ、その時はお膝の上にノンノしてよい子よい子だけです」

 「なるほど、そういうことか……でも、君の言うお仕置きは、
たいてい先生たちの戯れだよ」

 「戯れ?」

 「戯れで悪ければスキンシップだ。可愛くて仕方がないのさ」

 「可愛いって……誰が?」

 「誰がって、君に決まってるじゃないか」
 伯爵は内心ほくそ笑む。

 駿君の説明に伯爵は表情こそ変えなかったものの、心の内では
……
 『そうか、この子、お仕置きに憧れがあるのか。すべての人に
愛されて育った子は、お仕置きさえも愛としかとらえられないと
言うが、まさに幸せの王子様というわけだ。……境遇はともかく
私と同じ匂いがする子だ。……抱いてみたいが……どうするか』

 伯爵は、心の境遇をが自分と似通っているこの子を益々自分の
手元に置きたいと願うようになったのである。

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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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