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§3

§3

 震える私に女王様は耳元で囁きます。
 「あなたが『そんなの嫌だ』って言うのなら無理強いはできないけど」
 「もし、嫌だって言ったらどうなるんですか?」
 私は心細く訪ねてみます。けれど、その答えを聞いたところで気が変
わるはずもありませんでした。
 「どうにもならないわよ。お父様からお借していた服をお返しして、
素っ裸で山を下ればいいだけのことだもの」
 「(やっぱり裸になるんだ)」私は思いました。
 「裏門を出たところで公立の孤児院から職員の人がお迎えに来てくれ
ているから、その人についていけばいいの。やってみる?昔はそんな子
もいたのよ」
 「………………」
 私は激しく頭を振って女王様の胸の中へ顔を埋めていきます。13歳
の子が幼児と同じような甘え方をするんですから、巷の人たちが見れば
きっと滑稽に映るかもしれません。でも、亀山ではごく自然なこと。…
…そして「これからお仕置きになるけどいいわね」と大人たちに言われ
て……
 「はい、お願いします」
 とつい言ってしまうのも亀山の子としてはごく自然な習性でした。
 「賢明な判断よ。大昔にはお仕置きがいやで公立の孤児院へ移った子
もいたにはいたけど、最終的にはほとんどの子戻ってきたもの。何事も
経験を積むのは大事だけど何も好んで遠回りすることもないわ」
 「どんなお仕置きを受ければいいんですか?」
 「どんなって、全部よ。お尻叩きもお浣腸もお灸も……まずはここに
おみえのおじさま方のお膝でスパンキングのお仕置きをいただくの……
大丈夫、平手で10回くらいだから大したことないわ」
 女王様は穏やかな顔でおっしゃいますが、一人10回ってことは……
おじさまは八人だから80回です。「いくら平手でもそれは…」という数
でした。
 そんな不安げな顔を察したのでしょう。女王様は付け加えます。
 「そんなに耐えられない?大丈夫、一人一人の間にコーナータイムが
あるからしっかり歯を食いしばっていれば泣き叫ぶほどではないわ」
 「でも、八十回もあるんでしょう?」
 「んんん」女王様は首を振ります。「お父様も私も司祭様も加わるから
全部で百十回よ」
 「…………」
 私はそれを聞いただけで気が遠くなりそうでした。だってママのお仕
置きの中にお尻百叩きというのがあるのですが、ママの厳しい平手の下
ではどんな大きな子もドアの中だけに悲鳴を隠すことができませんでし
た。
 「不安そうね。でも、あなただってこれまで色んなお仕置きをいただ
いてきたでしょう。もう慣れっこじゃないかしら?」
 「そんなこと……」
 私は不安を顔に出します。確かに亀山で育てばお尻叩きをされたこと
のない子なんていません。それも10回や20回とかじゃなく桁が一つ
二つ違うくらいの回数です。場を踏んでいるといえばそうですが、だか
らと言って慣れっこというのは違う気がしました。
 特に幼い日に受けたお仕置きの記憶はそれはそれは強烈で、さながら
天地がひっくり返って地獄に落とされたみたいでした。「殺される!!」
って叫びたいくらいの恐怖なんです。
 それがトラウマになっていますから、身体が大きくなっても恐怖心は
人一倍あります。恐らく幼い頃お尻叩きのお仕置きを受けていない子に
とっては「なんだ、この程度か」と思うような軽いお尻叩きでも私たち
亀山の子を怯えさせるには十分なのです。
 ですから、実際のお仕置きではそれを考慮して通常の罰ではそれほど
強くお尻を叩かれることがありませんでした。
 「仕方がないでしょう。小学校の四年生から今までの分、全部だもの。
それだけじゃないのよ。それが終わったらお浣腸やお灸だってあるわ。
いずれも普段あまりお見せできない処を今日は最後なんだし、しっかり
ご覧いただくの」
 「えっ、…………」
 そりゃあ頭の悪い私だってそれがどういう事かは分かります。
 「あっ、イヤ……」
 ですから、私は思わず女王様のお膝から逃げ出そうとしました。
 いえ、後先考えての事じゃありません。女のカンでとっさにヤバイと
感じたからでした。
 でも、女王様は巧みに私が膝の上から逃げ去るのを阻止します。その
あたりは普段から子供を抱き慣れているせいもあってうまいものでした。
 「はいはい、そんなに暴れないで頂戴。あなたがもしこのお膝から転
げ落ちたりしたら私はまた新たな折檻を考えなきゃならなくなるのよ。
あまり大人を困らせるものじゃないわ」
 「…………」
 私は急におとなしくなってしまいます。それはちらりとママの視線が
こちらへ届いたからでしすが、それだけではありません。女王様の言葉
にあった折檻という言葉が引っ掛かったのでした。『お仕置き』と『折檻』
国語的には同じ様な意味かもしれませんが、亀山では『折檻』というと
お仕置きにはない『情け容赦のない体罰』という意味が込められていま
した。
 女の先生にありがちなヒステリー症状による子供の被害や迷惑。これ
だったのです。
 「いいこと、何度も言うけどこれが赤ちゃん時代最後のお仕置きなの。
それなりに頑張って我慢しないと卒業できないわよ」
 「えっ、そんなあ~……もし、合格しなかったらどうなるの……」
 「どうにもならないわ。今まで通り、赤ちゃんのままよ。……たまに
いるのよ。ぐずぐず言って意気地のない子が……身体はもう立派な大人
なのに学校の中庭や公園で裸になってる子。あなたもそんな意気地なし
の仲間になりたいのかしら?」
 「そんなこと……」私は言葉を濁します。私に限ったことではありま
せんが女の子は他人から美しく見られたいし羨ましがられたいんです。
自分の汚い(きたない)ものやハンディキャップは最大限隠し通したい。
ですから、日頃から『恥をかきたくない。惨めな思いはしたくない』と
そればかり思っていて、男の子のように積極的にはなれない子が多いん
です。それを根底から否定するようなことなんて普通ならできるはずが
ありません。
 でも、お父様やおじさまには愛されたいし、女王様や司祭様にだって
嫌われたくありません。それに何より私は亀山の子供なんですから他の
子がやっているのに自分だけやらないというわけにはいきませんでした。
お友だちから仲間はずれにされたくはないのです。
 そんなこんなで私は女王様のお膝で迷っていましたが、結論というか
踏ん切りなんて簡単につくはずもありませんでした。
 でも結局は……
 「さあ、始めますよ」
 という女王様の一言で決まりです。そうなんです。
 私は亀山では赤ちゃんなんですからね、始めから結論は出ていました。
 『お父様には絶対服従』
 この鉄の掟の前には何を言っても無駄なんです。でも、女王様は私の
為に手や足を揉み揉み、頭を撫で撫で、お背中トントン、お尻よしよし、
ほっぺたを摺り摺りして私の心が落ち着くのをじっと待っていてくれた
のでした。
 私は女王様のお膝を降りると、最初のおじさま原口さんの足下へ跪き
ます。このおじさまが最初になったのは単に女王様の席から一番近い処
にいらっしゃったからでした。
 八人のおじさまたちは小さなテーブル付きの椅子に腰を下ろすと扇形
に広がって私と女王様の様子をご覧になっていました。ある方はタバコ
を燻(くゆ)らしながら、ある方はワインを飲みながら、本を読みなが
らとか、鼻歌を口ずさみながらという方もいらっしゃいました。
 どの方もゆめゆめ私が裸でこの場を駆け出して裏門へ走るなんてこと
は考えてらしゃいませんが、焦る様子もなくその時を待っておられます。
 この亀山に籍を置くお父様たちは何も私たちの泣き顔だけがお目当て
でこの地へ移住されたわけではありませんでした。笑った顔、困った顔、
甘えた顔、そのすべてを愛してくださっていたのです。
 ですから、私が女王様のお膝の上でお仕置きを受ける決断をするまで
だって、お父様たちにとっては大事なショーの一部だったのです。
 わなわなと震えながら……
 「原口のおじさま、どうか綺麗な身体で14歳をむかえられますよう
に……」私はここで少し詰まりましたが、すぐに勇気を奮い起こします。
「…お仕置きをお願いします」
 乙女の祈りのポーズのまま漏らしそうなほど緊張している私に女王様
が耳元で囁きます。
 「キツいお仕置きよ」
 「あ、キツいお仕置きを…」
 と、そこまで言ったところで今度は原口のおじさまが私の言葉を遮り
ます。
 「いいよ、どのみち僕はそんなにキツいお仕置きはできないから」
 原口のおじさまは男性としては小柄で小太りでした。顔もハンサムで
はありませんが、いつも柔和に笑っておいでで普段からよく抱かれてい
ました。
 前にも述べましたが、亀山の子供が大人に抱かれるのは義務のような
もので「この人は生理的に受け付けません」なんて理由で拒否する権利
はありませんから誰であろうと両手を広げられたらまるでお風呂に入る
時のようにその胸の中へ飛び込みます。
 私は原口のおじさまの胸の中で暫くよい子よい子された後、おじさま
が軽くひざを叩きますからそこへ俯せになります。
 もうあとはなされるまま我慢するだけでした。
 短いスカートが捲りあげられ、ショーツが無造作に下げられます。
 そんなこといつものことでした。ただ……
 「ぴしっ」「……?……」
 その衝撃にはいつもと違う感覚を覚えます。
 「ぴしっ」「……おっ…」
 痛みの質がそれまでとは違います。
 「ぴしっ」「……あっ…」
 これまで私のお尻を叩いていたのは大人でも女性でした。ですから、
どんなに痛いといってもそれは皮膚の表面をひりひりさせるような痛み
だったのです。
 「ぴしっ」「……ああああ」
 私はたった4発でもがいてしまいます。男性のスパンキングは、一発
一発に重みがあって身体が持ち上がるような衝撃なのです。そして痛み
は皮膚の表面というより身体の中からやって来ます。
 「ぴしっ」「わぁぁぁぁぁ」
 5発目、私は大きく体をよじっておじさまの膝から転げ落ちかけます。
でも、そんなこと周囲の大人たちが許すはずがありませんでした。この
時すでに女王様からは両手を押さえられ、ママからは両足をつかまれて
います。
 「(あっ、ママ)」
 もし、痛みに任せて両足でママの顔面を蹴り上げたら……そう思うと
痛みに耐えるしかありませんでした。
 「ぴしっ」「……ひぃやあ~」
 6発目、私は自分が惨めになるのを恐れて何とか我慢しようとしたの
ですが、その思いとは裏腹に悲鳴が部屋中に響きます。
 「ぴしっ」「いやあ~だめ~」
 7発目、原口のおじさまはそれほど強く叩いているわけではありませ
んが、手首のスナップがほんの少し利いただけで脳天に響くほどの痛み
でした。
 「おう、痛かったか。ごめんごめん」
 原口のおじさまは私の悲鳴があまりに大きかったので一度赤くなった
お尻をさすってくださいました。
 と、その時です。私の脳裏にある過去の記憶がよみがえります。
 それは7才の時のことでした。初めてのピアノの発表会で着たドレス
が見当たらないのでママに尋ねますとお父様が見知らぬ女の子にそれを
あげてしまったというのです。私はママの制止も振り切り、血相変えて
お父様の処へ行くと青筋立ててまくし立てました。
 「お父様は鬼よ。悪魔だわ。どうせ私なんか愛してないんでしょう。
悪魔なんてここにいないで地獄で暮らせばいいんだわ」
 なんてことまで言ってしまったみたいです。当人は興奮していて覚え
ていませんが、お父様が終始笑っていたのは覚えています。
 そして当初は「いや、あれはその子が欲しいって言うから……」とか
「ちょうどサイズもぴったりで似合ってたから」なんて言い訳がましい
ことばかり言っていましたが、そのうち「また、すぐに同じのを買って
あげるから」とまで言ってくれたのです。
 でも、私の怒りは収まらず、
 「あれがいいの。あれじゃなきゃだめなの」
 と床を踏み鳴らしてだだをこねます。
 結局10分位もお父様の目の前で金切り声を上げては大演説をぶった
みたいです。その間、心配したママが幾度となく止めに入りましたが、
私はききません。そしてそんなママを止めたのは、なぜかお父様でした。
 「いいから、ほっときなさい」
 こう言ってママに癇癪を起こさせなかったのです。
 とはいえ、10分後、私は疲れ、のどが枯れてしまいました。
 すると、そんな私の処へママが寄ってきて…
 「どうなの?もういいのかしら?おしまいでいいの?」
 と念を押しますから、それとなくうなづきますと、私の体が急に持ち
上がり、そして何か尋ねる間もなく私の身体はお父様のお膝の上にうつ
伏せになって横たえられたのでした。
 「・・?・・」
 やがて、私の頭の方へ回ったママの顔が大きくクローズアップして私
の目の前へ現れると、思いもかけないことを言うのです。
 「お父様、お仕置きをお願いしますって言いなさい」
 「えっ!………」
 私はこの期に及んで初めてことの重大性を知ったのでした。
 「………………」
 私が口ごもっていると…
 「さあ、言いなさい。でないとお庭に引き出してみんなの見てる前で
お仕置きしますよ。その方がいいの」
 ママの言い方は明らかに脅迫です。お庭に出てみんなの前で下半身を
さらけ出すなんて女の子にはとってもできないことなんです。ですから
答えは一つしか残っていないのですが、子供が自分の方からお仕置きを
お願いするなんてとても勇気の要ることだったのです。
 「………………」
 困っている私にお父様は助け舟を出してくださいます。
 「もう、いいでしょう先生。私も軽い気持ちであげちゃったんです。
この子がそれほど気に入っていたとは知らなかったものだから……」
 こう言ってもらったのですが、先生、いえママは納得しませんでした。
 「そうはまいりませんわ。お父様は鬼だの悪魔だの、ましてや地獄に
落ちろだなんて、たとえどのような事情があっても口に出して言っては
ならないことですから……そういうことにはけじめをつけませんと…」
 そう言っていきなり今度は私のショーツをあっさり足首のところまで
引き下ろしたのでした。
 「………………」
 7才の時ですから羞恥心といってもそれほど強いものではありません
が、その瞬間の映像が原口のおじさまのお膝の上でフラッシュバックし
たのでした。
 「『お願いします』は?」
 再び私の目の前に大きなママの顔が現れて脅迫します。
 「お父様、お願いします」
 意に沿わないことですが仕方ありませんでした。か細い声でつぶやく
とお父様は頭を撫でてくれました。
 お父様は自ら子供をお仕置きしたりなさいませんが、ママや司祭様の
ような人たちから頼まれた時だけは別で、この時もママの要請があった
ので私のお尻を叩きました。ただ、それは懲らしめのためにというより
付いた埃を払う程度の衝撃だったのを覚えています。
 ちなみにお父様が女の子にあげたというその服は、私が18才の時、
実の母親と再開した際に彼女の押入れで見つけることになります。実は
亀山ではお父様が里子の実母と接触する事は禁じられていました。勿論
物をあげたりする事もできませんから、私には知らない女の子にあげた
なんて苦しい言い訳をしていたのでした。
 お父様は誰に対しても優しい人だったのです。
 原口のおじさまは10回の約束を終えると私を膝の上に抱いて楽しそ
うでした。頭を撫でたり、頬ずりをしたり、両手の指を揉んだり、殿方
が私たちになさることはだいたい似通っています。そして、おじさまの
里子である克子さんがピアノが上手だと言って私をうらやましがってい
たとか、14才の誕生日には万年筆でいいかい、なんてことをおっしゃ
るのでした。
 原口のおじさまに限りませんが、私たちがおじさまと呼ぶ人たちは、
いずれも万が一お父様が私の面倒を看られなくなった時にその代わりを
務めてくださる方々で、普段は色んな記念日ごとにプレゼントをいただ
けるからその分だけ親密という関係でした。
 もともと私たちはこの亀山に暮らすすべての大人の人たちの愛を拒絶
できない立場にあります。だから、その人がどんな仕事をしているかは
関係ありません。大人が両手を広げる処へは必ず飛び込まなければなり
ませんし自分の方から誰彼かまわず抱きついて行っても「迷惑だ!」と
言って叱る人はいませんでした。
 特に幼いころは、どなたにせよ抱きつけば高い高いをしてもらったり
お菓子をもらったりできますから私も結構手当たり次第に抱きついた方
でした。原口のおじさまにも克子ちゃんのお家で籐椅子に座っておられ
たおじさまの首っ玉にしがみついていた記憶があります。その時は原口
のおじさまは家のお父様と兄弟なのかと思っていました。
 そんなおじさまは別れ際「14才になっても遊びにおいで」と言って
くださいました。もうその頃にはお尻の痛みも癒えていました。

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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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