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見沼教育ビレッジ / 第1章 / §2~§3

****** 見沼教育ビレッジ(2) ******

 見沼教育ビレッジは、ビレッジという名の通りまるで一つの村
のようでした。

 ひときわ背の高い管理棟を中心にして、教会があり公園があり
体育館があります。テニスコートも図書館も映画館だってあるん
です。手紙だってちゃんと届きます。そして、何より意外だった
のは寄宿舎というか寮というか、子どもたちが集団で寝泊りする
建物がないことでした。

 生徒には一人一軒の一戸建て住宅が割り当てられ、子供たちは
そこで暮らすことになります。その住宅群だけで村の七割程度を
占めていました。まさに、ビレッジというわけです。

 私が寝泊りする家も、当然こうした住宅群の中にありました。

 『まるで建売住宅みたいね』

 整然と同じような建物が並ぶさまは、場末の不動産開発会社が
切り開いた新興住宅地みたいです。

 「ほら、ここがあなたの家もちゃんとあるわよ。似たような家
が多いから気をつけてね。……ほら、間違わないようにちゃんと
名前が書いてあるわ」
 ケイト先生に案内された家のポストにはすでに私の名前があり
ました。


 「さあ入って、入って。ここは今日からあなたの家ですもの。
遠慮はいらないのよ」
 ケイト先生が玄関で手招きします。

 玄関を入ってまず案内されたのは私の部屋でした。

 「ここがあなたの部屋。天蓋付きのベッドなんて素敵でしょう。
……あ、荷物はそこに置いていいわ。後はこの子が自分で片付け
るでしょうから、あなたたちは帰っていいわよ」

 ケイト先生は部屋に着くなり付き添って来た二人に私の荷物を
置かせて返します。ここからはケイト先生と私のマンツーマンで
した。

 実は荷物といっても寮生の身ですから所帯道具のようなものは
ありません。二人が持ってきてくれたのもトランクが二つだけ。
学校の寮から持って来たのは、私服が二三着と下着、それに……
お気に入りの小説や教科書、参考書のたぐいと、洗面道具くらい
でした。

 「私、ここで先生と勉強するんですか?」
 私は部屋をひとあたり見回して尋ねます。そこには天蓋つきの
ベッドの他にも天板の広い机や天井まで届くような大型の本棚、
一人用のソファや大型のベンチチェストなどが置いてありました。

 「ここでの私は、あなたの子守りがお仕事なの。言ってみれば
お母さん役よ。だから、あなたがどんなにわずらわしいと思って
も、私は一日中あなたのそばにいて色んなアドバイスを送り続け
ることになるわ。ただし、勉強の方は専門の先生がいらっしゃる
から、昼間、その方がこちらへ出向いて、ここで教えてくださる
ことになってるの」

 「家庭教師?」

 「まあ、形の上ではそういうことになるかもね。でも、ここの
先生方は世間の家庭教師のように甘くないわよ。ちょっとでも、
集中心を切らすと、即、お仕置き」

 「…オ…シ…オ…キ」

 「耳を思いっきり引っ張られて、このベンチチェスに寝かされ
て、『目を覚ませ~~』ってお尻を叩かれることになるわ。……
もっとも、叩くのはその先生じゃなくて私なんだけどね」

 「ここにうつ伏せになるんですか?」
 
 「軽い時はね」

 「軽い時?」

 「問題のある時は、うつ伏せじゃなくて、そこに仰向けに寝て、
両足を高く上げて鞭をいただくの」

 私はそんな自分の姿を想像して赤面します。
 「まさか、……パンツなんか……脱ぎませんよね」
 ホントにまさかだったんですが……

 「あるわよ。そんなことも……痛くて悲鳴があがるわよ」
 先生は悪戯っぽく笑いますが、こちらはその言葉を聞いた瞬間、
心がすでに瞬間凍結状態になっていました。

 『それって、痛いというより、恥ずかしい』
 と思ったのでした。

 そう思って再びこの部屋を眺めなおすと、ベッドの天蓋からは
人を拘束するための革紐がぶら下がっていますし、天井には頑丈
そうな滑車が据えつけられています。壁に掛かっている牛追い鞭
はもちろん実際には使われないでしょうが、傘立てのような籠に
立てかけられた樺枝の鞭や書棚の引き出しから覗くケインは現役
のようです。

 『いったい、ここはどういう部屋なの……』
 そうこうするうち、私は衝撃的なものを見つけてしまいます。
それは大きなチェストの裏側に隠すようにして置いてありました。

 「……あらあら、気づいちゃった」
 緊張した私の視線をケイト先生は追っていたのでしょう。
 何も言わないのに私の心を読み解きます。

 チェストの裏には卑猥な雑誌によく登場する三角木馬が……

 『まさか、これ……三角木馬じゃないわよね。……うっ……嘘
でしょう。いくらお仕置きでも、これじゃまるでSMなじゃない』

 目を丸くしていると……
 「あらあら、最近の子はおませさんね。あなたみたいな子でも、
これが何かわかるみたいね」

 不安で一杯になった私の心を逆撫でるかのようにケイト先生は
わざわざその組み立て式の木馬を部屋の中央へ引っ張り出すと、
あっという間に組み上げてしまいます。

 「牛追い鞭の方はお飾りだけど、こちらは絶対に使わないとは
お約束できないの。……あら、あなた、随分な驚きようだけと、
これに乗ったことがあるのかしら?」
 先生は木馬をポンポンと叩いて警告します。

 「…………」
 私は慌てて顔を横に振りました。

 「当たり前だけど……これって、とっても痛いわよ」

 私は三角木馬を正視できないて、そこから思わず目を背けたの
ですが、その背けたはずの視線の先にはベッドパンがあります。

 「あら、今度はオマルにご執心なの?……やはり頭のいい子は
色々と好奇心旺盛ね」
 ケイト先生はまごつく私をからかいます。

 「それはあなた専用のトイレ。もちろん、あなただって普段は
家のトイレを使うことができるんだけど……勉強をさぼったり、
悪さばっかりやってると、この部屋に監禁されちゃうことだって
あるから、そういう時には重宝するわよ。……あっ、そうそう、
特に、メンスの時は注意しないと……私たちは慣れてるからいい
けど、あなたは大恥をかくことになるわよ」

 その日、天気は晴天。私に与えられた部屋は日当たりがよくて、
その陽だまりの中に私もいたはずでしたが、幼い私はケイト先生
の思うがまま、何か説明を受けるたびに小さな胸が震えて仕方が
ありませんでした。


 勉強部屋を見終わった私たちは他の場所へも行ってみます。

 「ここがお風呂。二人で入っても狭くない広さでしょう」

 「二人?」

 「そう、私とあなたが一緒に入るの。ここではね、私とあなた
は四六時中いつも一緒なの。食事も、勉強も、お風呂だって一緒
に入るのよ」

 『こんな場所まで二人一緒だなんて……ここではプライバシー
なんてないのかしら?』

 私は心の中だけでつぶやいたはずでしたが……先生は、まるで
私の心の声が聞こえたかのように話し始めます。

 「残念だけど、ここではプライバシーなんてものはないのよ。
ここでの四週間、あなたは身も心も自分のすべてをさらけ出して
生きていかなければならなくなるわ。赤ん坊みたいに……」

 「赤ん坊みたいに……?」

 「泣くのは勝手だけど、それでは何の問題も解決しない。従順
こそが最大の美徳だと、教えるためにそうしてるの。勿論それが
女の子にとってどれほど辛いことかは知ってるけど、ここへ来た
ら辛抱するしかないわね」

 「…………」

 「そんな悲しい顔しないで…………だって、そうしなければ、
あなたは更生されないもの。……あなたが立派に更生することは
ご両親の願いであり、私たちの願いなの。それを忘れないでね」

 「はい、先生」
 私は諦めにも似た境地でそう言ったつもりでしたが……

 「いいご返事だわ」
 ケイト先生は初めて私を褒めてくださいました。

 「ただ、私や先生方、もちろんご両親もそうだけど、あなたを
守る立場にある人に対しては、自分を隠すことが許されていない
けど、それ以外の人に対しての秘密は守られるわ。ここはハイソ
なお嬢様がよく利用するから、この建物だってプライバシー重視
の造りになってるの。どの家も全室冷暖房完備、防音装置付き。
お尻の痛さに大声で悲鳴をあげても、外では聞こえないわ」
 ケイト先生の顔に再び柔和な笑みが戻ります。

 「あなただって、自分がお仕置きされてる姿を他人に覗かれた
くないでしょう?」

 「ええ、まあ」

 「それにね……こうして隔離してしまうと、子どもたちに思い
切ったお仕置きができるから、私たちにとっても都合がいいのよ。
何事も、中途半端はよくないわ」

 『なるほど、まずはお仕置きありきってことみたいね』
 私は思いました。

 「じゃあ、この家の中の悲鳴は外に漏れないんですか?」

 「家の中でやる分にはそうよ。窓を閉めれば、ほとんど悲鳴は
聞こえないわ……だって、どんな時も他人の迷惑をかけちゃいけ
ないでしょう」

 ケイト先生は悪戯っぽく笑ったあと、こうも続けるのです。
 「ただし、中には見せしめとしてお仕置きする場合もあるから、
そんな時は、もちろん別よ」

 『見せしめ!』
 私の心にその言葉は強く残ります。

 「あら?また、驚かせちゃった?……あなたは、感受性が強い
から何にでも反応するのね。……あなたは賢い子だから、私たち
を悩ますこともないでしょうけど、中には我の強い子やおいたが
過ぎる子もいて、そういう場合は、こちらも綺麗事ばかり言って
られないから、非情なこともしなければならなくなるの」

 「それって、どこで……やるんですか?」

 「朝礼やミサのあとで行われることも多いけど…一番多いのは、
やはり自宅の庭よ。ピロリーって知ってる?」

 「えっ……まあ……」
 私は歯切れの悪い返事をします。
 知ってるのに知らないと言えば叱られそうですし、知ってます
なんて大きな声では言いにくいものでした。

 「首と両手を二枚の板で挟んで晒し者にするの。うちのは膝ま
づくタイプだから小さいの。……そうね、百聞は一見にしかず、
ここで説明するより見に行った方が早いわね」

 「…えっ!?………」
 私は何も反応しなかったつもりでしたが、ケイト先生は私の手
を引いて庭へと連れ出します。

 そこは高い生垣に囲まれた10坪ほどの空間でしたが、手入れ
の行き届いた草花が咲き乱れ、ベンチや小さな噴水まであります。
 一見すると住宅街のどこの家庭にでもありそうな庭なのですが、
その庭の片隅に、ケイト先生が説明していた木製の晒し台(ピロ
リー)がありました。

 「あなた、やってみる?」
 「えっ!」
 先生に誘われて私は一瞬驚きましたが、あえて抵抗はしません
でした。どうせ形だけと思っていましたから……

 「まず、この桶の中で膝まづくの」

 まずは古いバスタオルが数枚敷き詰められた大きな桶に入って
膝まづくと……次は、目の前にある半円形にくり貫かれた厚い板
にそれぞれ首と左手右手を乗せます。

 後はその上から同じように三つの半円形のくり貫きがある板が
下りてきてドッキング、首や両手首は板から抜けなくなります。
 それにしても、高さといい、穴の大きさといい、私にぴったり
でした。

 「まるであつらえたみたいですね?」
 何気にこう言うと、先生は涼しい顔で……
 「あつらえたのよ。昨日、あなたの体形を園長先生からお聞き
して、大急ぎであつらえたの。だから、これはあなた専用。……
でも、もしこのキャンプで太ったら調整してあげるわね」

 ケイト先生はいたずらっ子のような笑顔で舌を出します。
 きっと私を和ませようとしてそうしたのでしょうが、私はそれ
を見てまたまた背筋がぞくぞくっとしました。

 最初は、おふざけのつもりでしたが、実際にこうして体を拘束
されてしまうと、やっぱり恐怖です。

 今は服も着ていますし、お尻をケインでぶたれる心配もありま
せんが……これが裸にされ、こんな形にされてお尻をぶたれたら
……そんなこと、想像しただけでお漏らししそうでした。

 「どうしたの?……あなた、震えてるわよ。寒いの?……」
 ケイト先生は意地悪そうな目つきで尋ねます。

 「…………」
 私は窮屈な首を振ることしかできませんでした。

 「あなたはそこまで先生を怒らせないと思うけど…一応言って
おくとね、最悪のケースは、お部屋で浣腸されて……裸でここに
連れて来られて……ここで拘束されたまま、この桶の中でお漏ら
し……なんて事もあるの……この桶はその為のものなのよ。……
つまりはオマルね」
 先生は、まるで幼い子に言って聞かすように、……お部屋……
ピロリー…桶…と、その一つ一つを指差しながら私に説明します。

 「想像してごらんなさいな。自分がそうやって剝き出しのお尻
を叩かれてるところを……」

 「…………」
 たしかに、こうして拘束されていると服は着ていてもその恐怖
が実感できます。

 「ここでぶたれるのはベッドルームでぶたれるのとは違うの。
……たいていの子がたまらず悲鳴をあげるわ。……恐いからよ。
だから、そんな時は、お隣を覗かなくても、鞭音と悲鳴で何やっ
てのるかすぐにわかるってわけ」


 ケイト先生がまさにそんな話をしていた時です。
 まるでその時を計ったかのように女の子が一人、私たちの庭へ
転がり込んできました。

 実は、この庭の大部分が高い生垣によって目隠しされています
が、ただ一箇所、火事など不測の事態が起こった時の為に、自由
にお隣と行き来できる木戸が設けられていました。

 彼女はそこから入ってきたのです。

 とにかく凄い格好でした。
 上半身は裸。下半身だって身につけているのはオムツだけです。
おまけに私と同じように首と両手首を厚い板に挟まれていて……
それをすっぽり被っています。

 初対面の人の前に出るのにあられもない格好と言ってこれほど
ハレンチな姿で現れる人は見たことがありませんでした。

 「!!げっ!!」
 「!!えっ!!」
 驚きはお互い様のようです。

 彼女は私たちの存在に気づくと、まず目が点に……
 そして、数秒後、顔を真っ赤にしてしゃがみ込みます。
 その身体のつくりからして、どうやら私と同年代のようでした。

 「見ないで!!見ないで!!みんな見ないでよお!!」
 彼女はしゃがみ込んだまま叫び続けます。
 普通は両手で胸だけでも隠すんでしょうが、あまりにも大きな
帽子のせいでそれもできませんでした。

 「みんなあっち行ってよ」
 怒っているような泣いてるような声が響きました。
 でも、そのやむにやまれぬ声が、彼女にとっては最も恐い人を
呼び寄せることになるのでした。

 「あ~いたいた」
 女の子を追って再び木戸が開きます。
 入って来たのはケイト先生と同じ大人の女性。ケイト先生より
少し年配の……私の母くらいの年恰好でした。

 「やあ、ケイト、そちらは新人さん?」
 彼女はケイト先生に比べれば大柄で小太り、貫禄があります。

 どうやら、この人はケイト先生のお仲間。今入って来た少女の
指導教官のようでした。

 「そう、今日からここで暮らす短期受講生。初日だから最初に
色々説明しておこうと思って……」

 「ふ~ん、なかなか品のいいお譲ちゃんだ。こんな子が、何か
するとしたら『S』かな」
 その人は拘束された私の姿を頭の天辺から足先まで眺めてから
評価します。
 そして、こんなことを言うのでした。

 「で、親は来るのかい?」

 「ええ、ご両親とも今日の夕方までには……たしか、妹さんも
一緒に……」

 『えっ親って何よ!?香織(妹)まで一緒ってどういうことよ』
 今度、驚いたのは私の方です。

 「百合子先生、何かお手伝いしましょうか?」
ケイト先生は百合子先生に申し出ますが……

 「大丈夫よ。一人でできるから……」
 ケイト先生の申し出をあっさり断ると……

 「ほら、だだこねてたって何も良いことなんておきないよ。…
…あんたもいい加減ここに長いんだし、ちっとは悟らないとね」

 百合子先生はそう言って少女の枷を外すと……
 「さあ、向こうでオムツを替えないと………おや?何すねてる
んだい。……えっ?恥ずかしい?……何、言ってるの!!いつも
すっぽんぽんのくせして……だから言ってるだろう、恥ずかしい
のもお仕置きのうちだって……だいいちこれが最初じゃないんだ
もの。十回もあんたの恥ずかしい処を見せられたらご両親だって
すでに見飽きてるよ。いいかい、ここに入ったら、辛抱して我慢
して卒業するしかないの。一般の学校みたいに中途退学ってのは
ないんだからからね」
 こう言って諭します。

 百合子先生の言葉はケイト先生に比べたら乱暴です。
 でも、少女は泣きながら頷いていました。
 どうやら、これ以上抵抗するつもりもないみたいです。

 「さあ、約束どおり今夜はお灸20個。ご両親もお手伝いして
くださるから、しっかり頑張るんだよ」
 最後まできつい言葉。でも、少女は百合子先生に促されるまま
立ち上がります。

 百合子先生は、そのままオムツ姿の少女に肩を貸すようにして
このお庭を出て行きます。

 少女の一時の激情はすっかり収まったみたいに見えましたが、
私の方は逆でした。
 少女の受けた受難がやがて現実のものになりかねないと思うと、
今度は私の方が、我を忘れて逃げ出したい気分だったのです。

 そんな胸騒ぎを見透かしたかのようケイト先生は穏やかに尋ね
ます。
 「あらあら、あなた目、またが点になってるわよ。大丈夫?」

 「……えっ、」
 私はその言葉で我に返ります。

 「気にしなくていいわ。あの子、もとは札付きの悪だったから。
でもね、あんな子に限って、一皮捲れば気持が弱いのよ。だから、
今は、虚勢じゃなくて本当の強さを教えてる最中なの」

 ケイト先生はそう言いながら私の枷を外してくださいます。
 でも、それはそよ風が一瞬頬を掠めた程度の、ささやかな勇気
しか私に与えませんでした。

 「あのう、私の両親がここに来るって本当でしょうか?」
 私はさっきの先生たちの会話から生じた疑問を尋ねてみます。
 すると、答えは明快でした。

 「ええ、いらっしゃるわよ。昨日あなたに渡したパンフレット
にもちゃんと書いてあったはずよ。ここでの暮らしは原則として
家族一緒なの。場合によっては、ご両親にもあなたのお仕置きを
お手伝いしていただくかもしれなくてよ」

 「そうなんですか」
 私は気のない返事を返します。

 『厳しいお仕置きを両親の前でなんて、なんて残酷なんだろう』
 『両親に取り押さえられながらケイト先生からお仕置きされる
なんて…………それって、どんな気持だろう』
 色々と頭をめぐらしますが、考えれば考えるほど頭は混乱する
ばかりでした。

 「4週間って、けっこう長丁場なの。お互い肩のこらない関係
でいましょうよ。ね」
 ケイト先生はピロリーから私を解放すると、あらためて握手を
求め、ハグしてくれます。

 『そうかあ4週間かあ。その間、私、ずっと缶詰にされちゃう
んだ!あ~あ、大切な夏休みが終わっちゃうじゃないの!』
 私はケイト先生に抱かれながら、身の不運を嘆きます。

 でも、今の私は、次から次に突きつけられる新たな事実の連続
に心の休まる暇がありませんでした。


*************(2)**********

*******  見沼教育ビレッジ (3) ******

 お昼になった。
 美香とケイト先生はいったん家を離れて管理棟にある食堂へと
向かう。
 予約を入れればデリバリーサービスもしてくれるのだが、先生
は美香に村の様子を見せようとして外へ誘ったのだった。

 家並みが途絶えたあたりからマロニエの並木がまっすぐに続き
敷き詰められた石畳には塵一つ落ちていない。木立を吹き渡る風
のざわめきとテニスコートで打ち合うボールの音だけが二人の耳
に届いていた。

 「何だかとっても静かな処なんですね。普段行く軽井沢の別荘
よりこっちの方がよぽど静かだわ」
 美香は大きく伸びをする。

 「ここは、巷の喧騒の中でいつもお転婆している子どもたちの
溜まりたまり場だから、あえて静かな環境にしてあるの。人間、
騒がしい処で暮らすと、心まで刺々しくなって、間違いも起こし
やすくなるから。………もちろん、彼らにが静かにしているのが
苦手なことは知っているわ。……でも、……いえ、だからこそ、
こうした場所でも暮らせるように訓練しているの。……ところで、
あなたは、どう?……こんな環境はお嫌い?」

 「いいえ私はむしろ静かな環境の方がいいです。運動している
より本を読んでる方がすきですから……」

 「そう、それはよかった。あなたの場合はあまり大きな問題を
抱えていないみたいだから、きっとそう答えると思ったわ。……
ところで、あなたはSだったわね」

 「S?」

 「シスター遊びのことよ。時代によって呼び方は色々だけど、
思春期の女の子が一度は通る通過儀礼みたいなものだわ。だから、
ほおっておけばいいんだけど……大人たちは昔の自分を忘れて、
何だかんだと問題視するのよ。特に生理を異にする父親にそれを
理解させるのは至難の業。そこは諦めた方がいいかもしれないわ
ね」

 「そうなんですか……」
 美香は気のない返事を返した。

 「ただね、腐っちゃだめよ。それはそれとしてお付き合いして
あげなくちゃ」

 「おつきあい?」

 「そう、女の子の人間関係は突き詰めればみんなお付き合い。
お仕置きだってごく幼い時は別として、大きくなればお付き合い
で罰を受けてるみたいなものだもの……」

 「えっ?」

 「あら、あなたは、違うのかしら?」

 「それは……」

 「あなたの歳ではまだ難しかったわね。ごめんなさいこんな話、
忘れて………いずれにしても、お父様はあなたが可愛くて仕方が
ないの。だから、こんな些細なことにまで目くじらをたてちゃう
の。そこは理解してあげてね。ちょっとしたことでも放っておけ
ないのよ。だから今度の事でも、お父様を恨んじゃいけないわ。
これはお父様とのお付き合いだと思って受け流すのが、あなたに
とっても一番よ」

 「お仕置きなのに……」
 美香は鳩が豆鉄砲を食ったような顔になる。

 『これまで、父の教えは常に正しくて、お仕置きはその当然の
結論だったはずなのに……それをお付き合いだなんて……』

 美香は、この人は何て歪んだ考えなんだろうと思った。
 思ったけれど……振り返れば、自分だってそう思ってこの試練
を乗り切ろうとしていたのである。

 そんな困惑した美香に気づいた先生は……
 「ごめんなさい、まだ気にしてる?……忘れて……余計なこと
言っちゃったわね」
 先生は慌てて自分の言葉を取り消す。

 そして、無理やり美香の視線をそちらへ向けさすように……
 「ほら、見て見て……あの子、おかしいでしょう……(プッ)」
 ケイト先生は、大人たちに混じってテニスをしている若い娘を
指差すと、なぜかプッとふいた。

 「どうしたんですか?急にふいたりして……」
 怪訝な顔の美香にケイト先生は……
 「なんでもないわ。……ただ、あの子、またオムツ穿かされて
るのかって思ったのよ」

 「オムツ?」
 「そう、よ~く、見て御覧なさい。あの子のアンダースコート。
ね、違うでしょう」

 「あっ、ホントだ。今日の朝、失敗しちゃったんでしょうか?」

 「たぶんね、……あの子、チャコって言うんだけど、昔から、
からっきし堪え性がないのよ。お浣腸すればどこはばからずすぐ
にお漏らすしするし、鞭で叩たこうとすると、鞭が当たる前から
ぴーぴー泣くしね。この間も、お灸をすえようとしたら、まるで
この世の終わりみたいな声だったわ」

 「お灸って……そんなこともお仕置きにあるんですか?」

 「親御さんの許可があればやるわよ」

 「……私は……」

 「あなたはまだじゃない。私が指示されてないから……お灸は
それをやる専門の鍼灸師さんがいらして、私たちは助手で駆りだ
されるの。お灸の場合、暴れる子も多いから人手がいるのよ」

 美香は、ケイト先生の話を聞きながらほっと胸をなでおろして
いた。数は少ないとはいえ彼女自身も経験者だったのだ。

 人心地ついた彼女は、ポツンとつぶやく。
 「……私もやってみたいな」

 「ん?……」

 美香の独り言に気づいた先生が、わざと……
 「えっ!?オムツを?……お灸を?」
 なんて言うから、美香の顔が真っ赤になった。

 「いえ、そうじゃなくて、テニスをです」

 「何だ、そうなの……」
 先生は美香の顔を真っ赤にさせてご満悦だったのである。

 「どうぞ、どうぞ、いいわよ。お昼休みや夕食の前は自由時間
だもの。何してても構わないわ。テニスやろうと映画を見ようと、
あなたの自由よ。クラブハウスに行けば誰か相手してくれるはず
よ。やってみる?」

 「いえ……でも、今、私、お金ないから……」
 美香が恥ずかしそうに言うと……

 「何言ってるの。ここで生活するのにお金なんていらないわ。
食事もスポーツも学用品も、とにかくここで入り用のものは全部、
研修費としてあなたのお父様から事前事後にいただくからそれで
賄われてるの。ただし、タバコは手に入らないわよ。ここでは、
ただ、勉強して……スポーツして……おとなしく寝るだけの生活。
散々お転婆してきた子にとっては退屈で辛い日々でしょうけど、
やがて、みんなこの静かな暮らしにも順応していくわ。あとは、
言葉遣いや礼儀作法を教えて、卒業」

 「……それが四週間なんですね」

 「あなたの場合はね。……でも、長い子は、半年、一年、二年、
ってここにいる子もいるわ。………中学までは義務教育だから、
近くの学校へここから通わせてるの。よほど、ここがお気に入り
みたいよ」
 先生は含み笑いを浮かべたあと、こう続ける。
 「あなたの場合、学業は優秀だし、罪と言ってもシスター遊び
くらいだから、ここの生活に順応するのは早いんじゃないかしら。
ただ、夜は貞操帯をはめてもらうことになるから、ちょっと窮屈
かも……それと、ここの規則で寝る時はパジャマも下着も許され
ないの。私と一緒にすっぽんぽんでベッドに入ることになるわ」

 「えっ!そこで、私、何されるんですか?」
 不安になって美香が尋ねると……

 「何されるって……ご挨拶ね」
 ケイト先生、顔をしかめてちょっとくさったような顔に…でも、
すぐに気を取り直して……
 「何もしないわよ。ただ私とあなたが一緒にベットで寝るだけ。
あなたがベッドで何か変なことをしやしないか、大人たちが心配
してるから、私がお目付け役になって一緒にいるだけの事だわ。
だって、あなた一度信頼を裏切ってるでしょう。だから、新たに
純潔の証しを立てるためにそうしてもらうの。それさえ慣れたら、
後は楽よ。ここではバカンス気分で過ごせるわ」

 「そうなんですか」
 美香が気のない返事を返す。
 バカンス気分はオーバー。何より両親がここへ来るというのが
今の美香には気になっていた。


 マロニエの並木道の両側には、テニス場の他にもボウリング場、
ゲームセンター、映画館やカフェ、お花屋さんやヘアサロンなど
まるでどこかの街が移転してきたように並んでいる。

 「ここには図書館や体育館みたいなものだけじゃなく、色んな
施設があるんですね」

 美香が驚いて尋ねると、ケイト先生の答えは明快だった。
 「だって、お勉強ばかりしていたら飽きるでしょう。誰だって
息抜きは必要だわ。健全な娯楽は次の仕事の活力源よ。真面目に
取り組んだ子にはこうした処へ来て遊べるように自由時間が増え
る仕組みになってるの。逆に、だらけてやってると勉強部屋での
監禁時間が増えて、お仕置き時間も増えるってわけ……」

 「信賞必罰ってことですか?」

 「それほどオーバーな話じゃないけど、やはり人参は必要って
話よ。……それに、ここは父兄同伴が原則でしょう。付き添って
くださる親御さんたちのためにもこんな施設が必要なのよ」


 並木道を過ぎると、二人は高いフェンスで囲われた公園を右に
見ながら進む。
 やがて、目の前が開け、高い処に大時計のある管理棟が現れる。
生徒たちの為の食堂はこの中にあった。

 時分時とあって中は混雑していたが、カフェテリア方式の食堂
は整然と秩序が保たれている。

 「ここで生徒手帳をおばさんに渡してね」
 美香が先生に言われるまま先ほどもらったばかりの生徒手帳を
カウンター越しのおばさんに差し出すと、受け取ったおばさんは
手早くその手帳を機械にかざし、お盆のバーコードも機械に読み
取らせてから、お盆と生徒手帳を美香へ。

 生徒とおばちゃんが一体になった流れ作業。まるで儀式のよう
にスムーズだ。

 「あとはそのお盆に好きなものを乗せてくればいいわ。ただし、
各コーナーに係りの人が立ってるから、必ずその人がそのお盆と
料理の器についてるバーコードを読み取ってから持ってくるのよ。
もし、それをしないで持ってくると、罰を受けることになるから
気をつけてね」

 「あ、……はい」
 美香は、なぜそんな手間の掛かることをするのか分からぬまま
生返事をして料理を取りに行く。

 大広間はまるでホテルのバイキングレストランのようだった。
壁沿いに色んな料理が目移りするほどたくさん並んでいたのが、
美香はこれが初めてということもあってあまり食欲がわかなった。

 スープと生野菜、それに小さなクロワッサンを二つだけ取ると
ケイト先生を探し始める。

 混雑する大食堂は、気がつけば生徒と先生のカップルばかり。
どのペアもまるで親子のような親しさだ。

 そんな熱気にも圧倒されて美香は心細かったが、そのうち先生
の方がまごつく美香に気づいたのだろう。
 「美香、こっちよ」
 という声がかかった。

 声の方を向くと、先生はすでに自分の分の料理をお盆にとって
着席している。いや、そればかりではない。その隣りでは、なぜ
かやけに親しげな女の子が一人、ケイト先生にじゃれついていた
のである。

 近づくと、さっそくその子が……
 「新米さん。ここでは好きなものを好きなだけ取って食べれば
いいの。たとえお相撲さんみたいに沢山食べてもお金はいらない
から心配しないでね」

 ませた口をきくこの子は、でも、見るからにまだ小学生という
姿だった。
 顔が幼く見えるということもあるが、短いフリルのスカートや
襟足を刈り上げたオカッパ頭が美香にそう思わせたのである。

 「あら、あなた、それだけでいいの」
 ケイト先生が美香の持ってきた食事を見て心配するが……

 「あっ、わかった。あなた、何か悪いことしたんでしょう」
 その子が疑いの目で美香の瞳を覗き込む。
 「だから、心配して食べないんだ」

 「悪いこと?」
 美香にはこの女の子の言う意味が分からない。

 「またまた、とぼけちゃって……お浣腸されるかもしれないと
思って控えてるんでしょう?」

 「キャシー!」
 ケイト先生は突然女の子を一喝する。

 「ごはんの時間よ。場所柄をわきまえなさい。……いいこと、
この子は今日ここへ来たばかりなの。そんなことは知らないわ。
だいたい、あなたに他人の事が言えるのかしら……またこんなに
襟足を刈り上げてもらって………あなたと会うと、いつもワカメ
ちゃんカットじゃないの」

 「ワカメちゃんカット?」
 聞きなれない言葉に美香の口から思わず独り言がでた。
 それをケイト先生が説明してくれる。

 「この子のこんな頭、幼い女の子しかしないでしょう。だから、
ここではこういう頭のことをワカメちゃんカットって言うの」
 先生は抱きついてきたキャシーのうなじを愛おしく逆撫でる。

 「この子、キャシーと言ってね、こんなに甘えん坊さんだけど、
けっこうやんちゃなのよ。……こんな頭で、こんな服着てるから、
あなた、小学生に見えたんじゃない。でも、これでれっきとした
中学二年生」

 『私と同学年?』
 美香はこの時初めてこの子が自分と同学年だと知ったのだった。

 「こんな短いスカート穿かされて、こんなヘアスタイルにされ
て……この事自体、立派なお仕置きなんだけど、この子みたいに
悪さばかり繰り返す子は、このスタイルに自分が慣れちゃって、
恥ずかしいなんて思わなくなっちゃうから困まりものだわ」

 「仕方ないわ。だって、これが私のトレードマークだもの」
 キャシーは明るく言い放った。

 「先生はキャシーさんのことよくご存知なんですね」

 美香はケイト先生に向かって話したのだが、それに答えたのは
キャシーだった。
 「ご存知もなにも、ケイト先生は先週まで私の指導教官だった
んだもん。……ねえ、先生。二人はとっても仲良しなんだから…」

 キャシーは甘ったれた声を出したかと思うと、いきなり先生の
懐に顔を突っ込んできて頭をすりすり。

 「コラ、コラ、やめなさい。まったくもう~いつまでたっても
あなたはそうなんだから……」
 ケイト先生は迷惑そうにキャシーを引き離すが、かといって、
そんなに強く叱るわけでもなかった。

 ヘアスタイルもさることながら、その大胆ないちゃつき方にも
美香はあいた口が塞がらなかったのである。
 たしかに美香は学校で友だちと擬似恋愛を楽しんではいたが、
それはあくまで友だち同士。学院内で教師と生徒がこんなふうに
戯れることがあったかといえば、それは絶対に考えられなかった
のである。

 美香はケイト先生にじゃれつくキャシーを見ていて……
 『何なのこの子。節操はないし、貞操観念はないし、幼稚で、
頭も悪そうで、もとは浮浪児かしら?ひょっとして精薄児かも』
 頭の中で散々に酷評してみるのだが……

 でも、そのうち………
 『でも、この二人楽しそうね。まるで息の合った漫才師みたい』
 やがて、自分のそうした思いが、実は嫉妬だと気づくのである。

 実際キャシーは子供っぽいところはあっても美香が考えている
ほど頭が悪い子ではなかった。
 
 「さあ、いつまでやってるの。食事がさめてしまうわ。………
お祈りして、お食事をいただきましょう。」
 ケイト先生がキャシーを跳ね除けて、居住まいを正して食事が
始まる。

 「今日、ここで暖かい食事がとれることを神様に感謝します」
 ケイト先生が最初にお祈りの言葉を述べ、生徒もあとに続く。
お祈りは宗教宗派に関係なくできるように簡素な言葉だけだが、
子どもたちはこの食前の祈りを欠かしてはならなかった。
 これも躾の一つだったからだ。

 ただ、食事が始まっても、二人はまるで親子のように親しげに
話しを続けている。

 キャシーは午前中の出来事を洗いざらい物語り、ケイト先生は、
キャシーのために自分の料理を取り分けて与えたり、ナプキンで
口元を拭いたりする。まるで、幼い子のためにする甲斐甲斐しく
世話を焼く母親のような献身ぶりだった。

 『何もそこまで……』
 とも思うが、美香にはそれがどこかうらやましくもあった。

 そして、気がつけば、他のテーブルでも事情は似たり寄ったり
だったのである。

 『これって、みんな先生と生徒の関係よね。でも、みんな親子
みたいに見えるわ』
 
 美香が驚くのも無理なかった。
 肩を抱いたり、頭を撫でたり、膝の上に抱いて頬ずりなんての
もあった。ある先生などは自分のスプーンに料理を乗せて生徒の
口元まで運んでやっているのだ。

 『幼児じゃあるまいし……』
 美香は思う。たしかに生徒の歳を考えれば異常というべきかも
しれなかった。
 しかし、これがここのやり方。お仕置きのやり方だった。

 「どうしたの、美香?狐につままれたような顔になってるわよ。
羨ましいのかしら?」
 思わず、ケイト先生から声がかかった。

 「そんなこと」
 美香は否定したが……

 「ここでは、先生がお父様お母様の代わりをしているの。それ
も、まだ若い頃のお父様とお母様の代わりをね」

 「どういうことですか?」

 「お父様お母様が若いってことは、あなたたちは、もっと幼い
わけでしょう。そんな幼い頃の思い出をを疑似体験させてるの。
ひねくれ根性の染み付いた子ってね、そのままでは何を言っても
聞く耳をもたないけど、幼児の昔に戻してあげると、話を聞いて
くれるようになるから、まずは、その時代に戻してあげてるのよ」

 「私も……そんなふうに甘えなきゃいけないんですか?」

 「あなたにはたぶん必要ないと思うけど、でも、もしあなたが
手を焼くようなお転婆さんだったら、年齢はどんどん戻されて、
最後は赤ちゃん扱いよ」

 ケイト先生の言葉を追いかけてキャシーが……
 「そうそう、赤ちゃんって大変なのよ。オムツを穿かされて、
おしゃぶりをくわえさせられて、食事は哺乳瓶のミルクだし……
柵で囲われた特性ベビーベットで一日中過ごすの。そりゃあ一日
二日は、この方が楽でいいかなんてたかをくくってるられるけど、
三日も経つと死にそうに寂しくなるわ」

 「(ふふふふふ)」
 キャシーの言葉を聞いた美香は思わず含み笑いをした。そして、
キャシーにこう尋ねたのである。
 「楽しそうね。何日くらいやらされるの?」

 「楽しい?……馬鹿言わないでよ。あなたオママゴトと勘違い
してるからそう思うのよ。最後は先生に必死に懺悔して『どんな
お仕置きでも受けますから許してください』って言わされるんだ
から……」

 「あなた、やられたことあるのね」
 美香はキャシーのその時の姿を連想して笑ってしまう。

 「まあね、こんなに大きくなってから両親にオムツ替えを見ら
れたらどんな気持がするか。それで効果がないと、この人、今度
はお友だちまで呼んで来るんだから……女の子のプライド、ずた
ずた……二度と立ち上がれないんじゃないかと思ったわ。………
あなたも一度体験してみればいいのよ」

 「(あっ、そうか……なるほどね)」
 美香は、言葉にこそださなかったが、少しだけこのお仕置きの
恐さがわかったような気がした。
 「(確かに、そんなことになったら恥ずかしく街を歩けない)」
 と思ったのだ。

 「で、何日くらいやらされるの?」
 美香は続けてキャシーにたずねてみる。

 確かに大変な罰には違いないが、心の奥底から笑いがこみ上げ
てくるから彼女の頬は膨らんでいる。むしろ、笑いを堪えるのに
必死といった顔になっていたのだ。

 その質問にはケイト先生が答えた。
 「期間とかは別に決まってないわ。とにかく改心するまでよ。
ほかのお仕置きでもそうだけど女の子のお仕置きでは期間や量を
あらかじめ決めないの。どんな微罪でお尻を叩く時でも、反省し
なければお尻が赤くなって血が滲むようになっても終わらないの。
そこらが男の子とは違うところだわ」

 「えっ、ここに男の子っているんですか?」

 「この管理棟のエリアは女の子専用だから男の子いないけど、
男の子は男の子で別の管理棟エリアがあるの。二つのエリアには
高い塀があるから、男の子の顔を見る事は普通はないわね」

 ところが、ケイト先生の答えに、キャシーが反論する。
 「普段はそうよ。でも、今日は特別。……ごくたまにだけどね、
男の子を見る事ができるの。それもヌードでよ」
 キャシーの声が弾んでいた。

 「(ヌード?)」
 すると、キャシーの言葉に美香の胸までも高まるのだ。

 彼女だって思春期の女の子。『男の子のヌード…』と聞けば、
ただそれだけで生理的に胸がときめく、顔が赤くなってしまうの
である。

 「ねえ、ちょうどよかったわ。今日、公園で公開処刑があるの。
一緒に見に行かない?」

 「公開処刑?」

 「そう、みんなが見ている前で行われるお仕置きのことよ。…
…何でも、向こうの男の子とこっちの女の子が炭焼き小屋で逢引
してたんですって……男の子はともかくその女の子、大胆なこと
するもんだと思うわ。私ならできないわね。だって公開処刑なん
かされたらプライドずたずたで、これから先もう生きていけない
と思うもの」

 キャシーの意見に、しかし、ケイト先生は……
 「大丈夫よ。あなたは、こんな短いスカート穿いて、こんな頭
にカットされても、こうして元気じゃない。たとえみんなの前で
裸になされて鞭でぶたれるようなことになっても、神経が図太い
んですもの、ちゃんと生きていけるわ」

 「わあ、ひどいよ先生。それじゃあ、まるで私にデリカシーが
ないみたいじゃないですか」

 「あら、あなたにそんな高尚なものあったかしら、あなたとは
二年もつきあったけど、一度もそんなもの感じたことがないわ。
『ひょっとしてこの子、山から逃げてきたお猿さんじゃないか』
って思ったぐらいよ」

 「わあ、ひどい、先生ひどいよ。私だって女の子なんだからね」

 最後は、二人、またじゃれあいだした。
 ただ、美香にしてみると、キャシーが語る公開処刑が具体的に
どんなものなのか、この時は今一つピンとこなかったのある。


*****************(3)********

見沼教育ビレッジ / 第1章 / §4~§5

*****************(4)********


 「ねえ、先生、連れてって……いいでしょう……」
 キャシーはケイト先生の腕を強く引いてまたもやおねだり。
 それって、まるで幼児が親に向かって遊園地に連れて行くよう
だだをこねているのと同じだった。

 実は、公開処刑が行われる公園へは指導教官が付き添わなけれ
ばそもそも入ることが出来なかったのである。

 一方、ケイト先生はというと……
 「そうねえ、どうしようかしらねえ……」
 そんなキャシーの猛攻をのらりくらりとした調子で受け流して
いる。

というのも、これがキャシーだけならまだいいのだが、美香に
は少し刺激が強すぎるのではないかと考えていたのだった。

 と、その時である。

 「あら、あら、何かもめごとかしら?」

 低い声がキャシーの耳元に突き刺さる。
 とたんに、キャシーがその場で立ち上がった。

 それまで散々甘ったるい声を出していたキャシーが、いきなり
直立不動になったのだから、美香だってこれはいったい何事かと
びっくりだ。

 声の主は、白髪の乾いた髪に深い皺を刻んだおばあさん。老女
と呼んで差し支えない人だった。
 その人にケイト先生も立ち上がって深々と一礼する。

 「ケイトさん、どうしました?」
 このおばあさん、まずはケイト先生に事の次第を尋ねた。

 「実は、キャシーが今日の公開処刑を今日ここへ来たばかりの
新井美香に見せたいとせがむものですから、今、どうしようかと
思案しておりまして……」

 「なるほど」
 事情を理解した老婆が、今度は美香へ視線を移すと……

 「あなたね、新井美香さんというのは……」

 「あっ、はい……」
 周りの雰囲気から美香も緊張せざるを得なかった。
 『この人、きっと偉い人なんだわ』
 美香は思ったのだ。

 実際、その判断は間違っていなかった。彼女はこのビレッジの
幹部クラス。一教員にすぎないケイト先生とは身分が違っていた
のである。

 「美香さん。あなた、お父様と一緒にお風呂に入ったことある
かしら?」

 『えっ、お風呂?……どういうこと?』
 美香は、その瞬間、先生がなぜそんな事を訊くのか理解できな
かったが、とりあえず、正直に答えた。

 「あります。父は私が背中を流すと、とても喜びますから…」

 「そうなの。それは感心ね。うらやましいお父様だわ……その
時、あなたも一緒に裸になってお風呂に入るのかしら?」

 「昔はそうでしたけど、今は……ちょっと、恥ずかしくなって
……」

 「何年前まで一緒にお風呂を楽しんでたの?」

 「おととしくらいまでです。…あっ、去年も何度かありました。
……家族旅行の温泉で…ですけど……」

 「そう、それじゃあ、あなた、お父様の身体は見たことあるの
ね」

 『お父さんの身体を見たことがあるかってどういうことだろう』
 美香には老先生の謎が理解できなかったが、とりあえず……

 「はい、先生」
 と、答えたのだった。

 すると……
 「いいんじゃないですか、ケイト先生。…父親とでは感じ方が
違うかもしれませんが、何事も勉強と考えていいと思いますよ」

 この鶴の一声で話は決まり、ケイト先生も、美香が公園の中を
歩くことを許可したのだった。


 帰り道は二人増えて四人の道中。キャシーの参加で明るい道行
となったが、何より変わったのはそのルート。
 今度はフェンスの外側ではなく、公園の中を通って帰ることに
なったのである。

 公園の入口で、二人の教員は自分のカードを警備員にかざして
入る。その際、『この子たちも…』と、一言口ぞえすればそれで
よかった。
 この公園は、一般の入場者はもちろん、ここの生徒であっても
先生と同伴でなければ中に入ることが許されないエリアだった。

 「やったあ~」
 キャシーは、公園に入れたのがよほど嬉しかったのか、ゲート
をくぐるなり満面の笑みで公園内をあちこち走り回る。

 でも、美香はというと……
 『ここって、はしゃぐような処かしら。ただ木が生い茂ってて、
花壇があって、ベンチがあって、それに、噴水、東屋……こんな
公園、どこにでもあるじゃないの。……あの子、ホントにまだ、
子供ね』
 キャシーのはしゃぎぶりを冷ややかな目で見ていたのである。

 「ねえキャシー、ここって何か特別なものでもあるの?だって、
見た感じ普通の公園じゃないの」
 キャシーがひとしきり運動してから自分のそばに戻ってきたの
で美香が尋ねてみると……

 「だからあ、今日は男の子の公開処刑が見られそうなのよ。…
…こんなチャンス滅多にないんだから……」

 「公開処刑って……男の子もここに来るの?」

 「さっき、食堂であなたにも話したはずよ。この間、男の子と
女の子が逢引してるところを先生に見つかったって……うちはね、
男女問わず恋愛厳禁だもん。デートが見つかっただけでも、当然、
お仕置きってことなの」

 「それがここであるの?」

 「そういうこと。……こういう場合、例外的に男の子もここへ
呼んでお仕置きするの」

 「じゃあ、……その……そんな時は女の子も男の子のエリアへ
行ってお仕置きを受けるの?」
 その恐ろしい光景を想像して、美香の瞳孔が目一杯開く。

 「さすがにそれはないわね」
 子供の会話に割り込んだのはケイト先生だった。

 「いくら厳しく対処するといっても、男の子と女の子では受け
るショックが違うもの。ただし、女の子の方には甘いということ
にはならないわ。そういうことって、女の子の世界の中では当然
公開処刑だし、体罰も、ひょっとしたら男の子以上かもしれない
わ。……あなた、知ってるかな?『見るは法楽、見られるは因果』
って言葉」

 「見るは法楽?……見られるは因果?……何それ?……」
 最初、分からなかった美香だったが、途中で思い出した。
 「……ああ、見世物小屋の入口なんかで叫んでる口上ですね」

 「ピンポ~ン。そうそう、それそれ。ここはそういう場所なの。
青天井の大きな見世物小屋。だから、お客さんとして先生と一緒
に見物するぶんには、こんなに面白い見世物はないかもしれない
けど……もし、お仕置きとして連れてこられたら、シャレになら
ないほどの生き地獄よ」

 「ここでお仕置きされるんですね」

 「そういうこと。特に見せしめの罰ではここがよく使われるの。
この公園、もともと先生たちの憩いの場だから、生徒も特に許可
された子以外入ってこないし、もちろん一般人の出入りもなくて、
プライバシーが守れるから、ここではけっこう厳しいお仕置きが
行われるのよ」

 「だから、見るだけなら法楽なのか……」

 「そういうこと。……見るだけじゃないないわよ。参加だって
できるんだから……」
 今度はキャシーがその中へ割り込む。

 「参加?……私たちがお仕置きに参加するの?」

 「そうよ。ほら、あそこの東屋に誰かいるみたいだから行って
みましょうよ。やり方を教えてあげるわ」

 キャシーは美香の手を引っ張ると、その東屋へ。


 (美香の回想)

 私は、キャシーが独りで暴走してるんじゃないかと思って振り
向きましたが……すぐ後ろにいた先生二人もその事に対して咎め
だてする様子はありませんでした。

 「わかった。わかったから、そんなに引っ張らないでよう」
 私はキャシーに文句を言いながらも着いて行きます。

 キャシーが私を連れて来たのは青い瓦屋根の東屋でした。

 東屋というは簡単に言うと公園内の休憩所みたいなところで、
ここは六畳ほどの広さがある建物。建物といっても壁や窓はなく、
あるのは屋根とそれを支える柱だけですから、中の様子が外から
素通しで見えます。

 『ここでもやってるの!!』
 私は思いました。
 女の子が一人、東屋の中に設置されたピロリーに掴まっている
のが見えるのです。

 自分の家の庭で一度体験済みでしたからショックはその時ほど
大きくありませんが、それでも同性がこんなことされているのを
見るのは心地よいことではありませんでした。

 当然のようにその子も全裸でしたが、なぜか大きな袋を頭から
被せられていましたから顔はわかりません。

 「ねえ、あれ、誰なの?」
 私は思わずキャシーに尋ねてしまいます。
 すると……

 「そばにいる先生が担当教官だろうからから、察しはつくけど
……ほら、この子、頭からすっぽり袋を被せられてるでしょう。
こういう時は、その子が誰かわかっても、『誰々ちゃん』って、
声をかけてはいけないルールになってるのよ。……だから、あと
で教えてあげるね」

 キャシーが私に耳打ちします。

 「ねえ、この子何したの?」
 私は同じようにキャシーに耳打ちしました。

 すると……
 「それは、そこに書いてあるわ」
 キャシーは入口の掲示板を指差します。

 そこには彼女のものでしょうか、ショーツが一枚掛けてあり、
黒板には……
 『私は、テストの時間にカンニングをしてしまいました。もう
一度、真人間になってやり直したいので、どうか、皆さんご協力
をお願いします』
 と書かれています。

 この文言から、もちろん、これがカンニングの罰だという事は
分かったのですが、『皆さんご協力をお願い…』の意味がわかり
ませんでした。

 そこで……
 「ねえ、ご協力って、何するの?」
 と、キャシーに尋ねてみると……

 「ご協力って?ああ、あれね。要するに、この子のお仕置きを
手伝って欲しいってことだわ」

 「お仕置きを手伝う?……それって私たちも?」

 「そうよ。ここでは、お仕置きのお手伝い、先生じゃなくても
生徒でもいいの。この子のお尻に火の出るような鞭を与えて反省
を促すの」

 「そんな、残酷な……」

 「ちっとも残酷じゃないわよ。むしろ感謝されるわ。……ほら、
あそこに『30/12』って書いてあるでしょう。……あれはね、
現在12名の方から鞭をいただきましたって印なの。この子は、
どのみちあれが『30/30』つまり30人の人から鞭打たれる
までこの枷から開放してもらえないの。だから、あなたも、私も、
あの子のお尻をぶってあげれば、あの子だってそれだけ早く開放
されるわけだから、あの子から感謝されるってわけ。人助けよ」

 「……私、」
 私はそう言っただけでしたがキャシーは行ってしまいます。

 「あっ、待ってよう」
 私は慌ててキャシーを追いかけようとしましたが……彼女は、
すでに東屋の中。そこへ立ち入る勇気はありませんでした。

 しばらくすると、まだ外に立っていた私に向かってキャシーが
手招きします。

 そこで、恐る恐る私も中に入ってみると、いきなりそこにいた
先生に……
 「あなたも、やってくださるの?」
と、尋ねられ、ゴム製の一本鞭を手渡されそうになります。

 私は、その鞭をまるで不浄な物でも差し出された時のように、
両手を突き出して拒否。後ずさりしたのでした。
 「いえ、違うんです。私は関係ありませんから……」

 いくら行きがかりとはいえ、自分とは何の関係もない女の子の
お尻をぶつなんて、良い子を装ってきた私の常識では考えられま
せんから当然こうなります。

 「あらあら、残念ね。あなた、こうしたことは初めてかしら?」

 先生がやさしく問いかけますから……
 「は……はい、先生」
 怯えながら答えると……

 「難しく考える必要はないのよ。この子のお尻をぶつことは、
虐めとは違うの。誘惑に負けそうになるこの子の心の弱さを強く
する大事なお仕事なんだから……名誉なことなのよ」

 再度、先生に勧められます。
 すると、そばで聞いていたキャシーまでもが……

 「やってあげなよ。さっきも言ったけど、もし、あなたがやら
なかったら他の人がやるだけのことなの。どのみち、30人って
ノルマは決まってるんだから……」

 「えっ、そんなこと言わけても……私……鞭なんて使ったこと
ないし……」

 「だから、いいんじゃない。先輩にしてもそれは好都合のはず
よ」

 「えっ!?(そうか、この人、私たちより年長よね)」
 確かにその通りです。枷に繋がれたその人は私たちより身体も
一回り大きく、胸もお尻も私たちより成熟しています。

 『そうか、弱い者をぶつわけじゃないのね』
 変な安心感が生まれたのも事実でした。

 「だってあなたのような子がぶってもあまり痛くないでしょう。
それでいて一人分稼げるんだもの。芸達者な先生達に厳しくされ
るより、よっぽどラッキーだわ」

 『そうか、そういうものなのか』
 私はキャシーの言葉を単純に信じてしまいます。

 いえ、本当のことを言うと、こんな立派なお尻を、一度、鞭で
しこたま叩いてみたかったのです。
 まさに本心は好機到来なんです。
 でも、私は女の子、そんなこと表立っては言えませんでした。

 「じゃあ、先輩のためにやってみます」
 私の顔は『あくまで周りの勧めで仕方なく』という風に作って
ありましたが、内心の顔は笑っています。
 いえ、すでに笑いが止まらなくなっていました。

 『今まで、お父さんやお母さんからぶたれたことはあるけど、
人をぶつのはこれが初めてよ。お人形さんのお尻と違って、緊張
するなあ』
 鞭を持たされて足が震えているのは、怯えていたからだけでは
ありませんでした。可憐な少女の正体は、その心の内に分け入れ
ば、恥知らずなインプ(小悪魔)だったのです。


 胸の高まりを抑えきれず私は順番を待ちます。
 最初はキャシーでした。

 彼女は慣れた様子で鞭を空なりさせると、その先っちょをお尻
のお山に着けて小さく軽く叩き先輩の緊張を高めます。
 そして、その鞭が、膝まづく先輩のお尻を離れて、大きく弧を
描くと……再び急降下して来て……

 「ピシッ~~」

 東屋の天井に鞭音が反響。
 先輩は身体を固くして耐えます。
 お土産は豊満なお尻についた赤い一本の線でした。

 「あと、二つね」
 とは先生の声。

 そこでキャシーが再び鞭を空なりさせると、先輩の身体一面に
鳥肌が立ちます。
 それは、キャシーの鞭が先生方と同じ威力を持っていることの
証明だったのです。

 パターンは同じです。
 鞭の先っちょがお尻のお山をくすぐってから、やがて離れ……
大きく弧を描いて空中に舞うと……急降下して……

 「ピシッ~~」

 東屋の天井に鞭音が反響し、先輩は身体を固くして耐えます。
 抜けるはずのない厚い板の穴から両手を引き抜こうとするのは
それだけ痛かったからでしょう。
 お土産が増えて、赤い線は二本になります。

 「あと、一つ。これがラストよ」
 先生の声に、キャシーは余裕の笑顔で返事をします。

 その後のキャシーは、前の二回と同じでした。
 鞭のさきっちょがお尻のお山をくすぐり、やがて、大きく弧を
描いて空中を舞ったかと思うと、急降下して……三たび、大きな
お尻を鞭がとらえます。

 「ピシッ~~」
 「いやあ~~」

 東屋の天井に鞭音が反響し、同時に先輩の悲鳴が聞こえます。
 先輩の身体は相変わらず枷に繋がれたままでしたが、その体は、
まるで溶けた雪だるまのように、だらんとピロリーの厚い板に垂
れ下がります。


 お土産の赤い鞭筋は三つ。
 これを六本にするのが私の仕事でした。

 キャシーの動作の見よう見まね。
 「ピシッ~~」
 東屋は音響装置がいいのか。予想以上に反響します。

 そして、二発目……
 「ピシッ~~」
 「いやあ!!!」

 『私なんかの鞭で、そこまでしていただかなくても』
 なんて、こちらが恐縮したくなるのような悲鳴があがります。
そして、ピロリーが本当に倒れるんじゃないかと思うほど、枷に
捕まった先輩はその両手首と自分の首を必死に抜こうとしたので
した。

 「お譲ちゃん、あなた、なかなか筋がいいわよ。では、ラスト
ね」
 先生の声に送られて、私は再び大きな弧を描きます。

 「ピシッ~~」
 「いや!」

 最後、先輩も踏ん張って、あまり大きな悲鳴になりません。

 すると、鞭初心者の私は……
 『あれ、なぜ悲鳴が小さいんだろう?……失敗しちゃったのか
なあ。何がいけなかったんだろう』
 と、思ったのでした。


 たった三回の鞭でしたが私の身体は激しく上気していました。
 興奮状態の私はケイト先生や堀内先生がいつこの東屋を訪れた
のかも知りませんでした。

 お二人は、やはりそれが義務だと思われたのでしょう。
 私たちと同じように鞭をとって、先輩に対し三度の戒めを行い
ます。

 でも、それは、私たち子供が振るった鞭に比べてことさら強い
というものでもありませんでした。

 おそらく私たち二人がきつく叩き過ぎたので調整されたのかも
しれません。
 先輩にとって、先生方は救世主。私たちこそがお邪魔虫だった
ようでした。


************(4)***********

************(5)***********


 美香とキャシー、それに二人の先生たちは、東屋を離れると、
林を抜けて公園の奥へと入っていきます。

 このあたりは広い原っぱになっていました。
 天然の芝がはりめぐらされ、アンツーカーの赤い土がその芝を
取り囲んでいます。

 「まるで、陸上競技場みたいね」
 美香が言うと……キャシーが……
 「だって、ここ、そうだもん。サイズは少し小さいけど、ここ
で体育の授業をやるのよ」

 「体育かあ、私、苦手だなあ……」
 と美香……でも、それをキャシーが励まします。
 「大丈夫よ。運動と言っても、たいていダンスだから。激しい
運動はあまりしないの。ほら、あそこでやってるでしょう。……
激しい運動をさせられるのはお仕置きの時だけよ」

 キャシーの視線の先では、女の子たちがフォークダンスを練習
している。そのカセットで流す音楽が、かすかに二人の歩く場所
まで届くのだ。

 「よかった、体育ってダンスなのね。だったら、私でも何とか
なるわ」
 美香は安堵の色だが……
 「ただし、真面目にやらないとだめよ。……サボってると……
ああなるから……」

 キャシーがそう言って振り返った瞬間だった、二人の女の子が
赤いアンツーカーを全速力で駆け抜け、おしゃべりしながら歩い
ている二人を追い越していく。

 「えっ!!!何?……どういうこと???」
 美香は、その瞬間、狐につままれたような顔になった。

 今、追い越して行ったランナー、帽子を目深に被り、靴と靴下
は確かに穿いていたのだが……それ以外、何も身につけていない
ように見えたのである。

 「ねえ、今の子たち……たしか、服……着てなかったよね」
 美香が確認すると、キャシーはあっさりしたものだった。
 「そうよ、裸だった。それがどうかした?」

 「えっ?」

 驚く美香の顔を見て、キャシーは美香にはそれでは足りないと
悟ったのだろう。言葉を足してくれた。

 「体育の京子先生って陰険なのよ。一通り教えたあと、『それ
では、各自、自主練習』なんて言ってその場を離れるんだけど、
その実、どっかで様子をうかがってて、サボってる子がいると、
ああして全裸でトラックを走らせるの。……裸で走るとねえ……
お股がすれて痛いのよねえ……」
 最後は苦笑するような顔になる。

 「キャシー、あなたも、やられたことあるの?」

 「あるわよ。そのくらい」
 キャシーは自慢げに笑い…
 「私、そんなに良い子に見える?」
 と続ける。
 『新参者をからかってやろうか』
 そんな感じの笑い顔だった。

 「ここって、すぐに裸にさせるのね」
 「まあね、周りに女の子しかいないし、やりやすいんでしょう。
でも京子先生は特にそうよ。……ほら、あそこでサングラスして
生徒たちを怒鳴りまくってるでしょう。……あの人よ」

 「あっ、今、お尻叩いた」
 美香が声を上げると……

 「そうそう、あの先生の鞭は樫の棒なの。折れてもいいように
何本もストックがあるわ」

 「樫の棒って、痛いの?」

 「当たり前じゃない。痛くない鞭じゃお仕置きにんらんいじゃ
ない。……だけど、他の先生がよく使うゴム製の鞭とは感じ方が
違う痛みなの。男の子の痛みっていうのかなあ……お尻の皮じゃ
なくてお尻の中、筋肉が痛いのよ。あの先生、ミストレスだから、
ちょっとした規律違反でも口より先に平手が飛んで来て、次は、
すぐに裸にされちゃうの。生徒とっては要注意の危険人物だわ」

 「ほかの先生は?」
 「京子先生よりましだけど……どの先生も学校の先生と比べた
ら大変よ」
 「厳しいの?」
 「当然そう。みんな立派なサディストよ。女の子を虐めるのが
楽しくて仕方がないって感じだもん。一度ね『男の子より厳しい
なんておかしい』って不満を言ったら、『女の子はあれこれ指図
しないと自分じゃ動かないから体罰は男の子以上に必要なんです』
って、怒鳴られちゃったわ」

 「……(そうか、ここって男の子より厳しいところなんだ。私、
やっていけるかな)……」
 美香は今さらながらここが怖い処だと思ったが、ふとした疑問
をキャシーにぶつけてみる。

 「ねえ、あなたは大丈夫なの?こんな処にいて……」

 「大丈夫じゃないよ。毎朝、浣腸されて、鞭でお尻叩かれて、
何かあればすぐに裸にされて……その日その日でまちまちだけど、
今日一日よい子でいなかったら、夜はお灸だってあるんだから。
今でもちっとも大丈夫じゃないけど、……でも、慣れるのよ」

 「慣れる?」

 「そう慣れちゃうの。最初は私だって、浣腸も、鞭も、裸も、
お灸も、何かやられるたびに暴れて悲鳴上げて、抵抗できるたけ
抵抗してたんだけど、それが、そのうち生活の一部みたいになっ
ちゃって、苦痛じゃなくなるの。それに二年もここにいるとね、
先生たちの癖みたいなものがわかってくるから、こちらもそれに
応じた対応ができるようになって罰を受ける回数も少なくなった
わ」

 「じゃあ、あの東屋にいた先輩はまだ慣れてない人なの?」

 「そういうわけじゃないわ。……ただ、人間って、罰を受ける
ことは承知しててもやりたいこと、やらざるを得ないことっての
がでてくるのよ。今日の公開処刑だって、二人ともそれを犯せば
どうなるかは知ってたはずよ。……でも、やめられなかった……
そういうことじゃない」

 「キャシーさんて……考えが深いんですね」

 それまで軽い人間だとばかり思っていたキャシーのこんな一面
を見て、美香は感慨深げにつぶやく。
 すると、彼女は彼女でこう返すのだ。

 「あなた、私がケイト先生にべたべたしてたから、『こいつ、
そんな人間か』って思ったんでしょう」

 「私はべつに……」
 美香は慌てて否定したが……

 「女の子は色んな顔を持ってて、それを相手に応じて使い分け
なきゃいけないの。……それは、私もここへ来て習ったわ。……
あっ、そうだ。東屋ってあそこだけじゃないの。まだ、三四箇所
あるから、暇なら一緒に回ってあげてもいいのよ」

 「いえ、結構です」
 美香はそれも慌てて否定する。

 「そりゃそうよね。私たちが女の裸見ても楽しくないもん。…
…それは見られる方だって同じように思ってると思うわ。きっと
『あんたたち暇ね』って顔されるだけだもんね」
 キャシーは、裸にされるお仕置きなんて大したことじゃないと
言わんばかりのしたり顔で美香を見つめたのだった。


 さて、そんな二人から50mほど後ろを歩いていた二人の先生。
彼女たちはあえて生徒のすぐそばには寄らず常に少し離れた場所
を保っていた。

 「ケイトさん、私、サディストかしらね」
 堀内先生が、突然、ケイト先生に尋ねる。

 自分たちは内輪の話と思って話していても、子どもの声という
のは自然と大きくなってしまうもの。ひそひそ話のつもりでも、
二人の話す声が風に乗って先生たちの耳にも届いていたのだ。

 「注意してまいりましょうか?」
 ケイト先生は先輩に気を使うが……
 「いいのよ、そんなことは……」
 おばあちゃん先生は笑顔で答える。

 「でも、ひょっとして、これみよがしに私たちに聞かせようと
して話しているのかもしれませんから……」
 再度、助言するケイト先生だが……

 「だったら、なおのこと聞いてあげなければならないわ。……
心遣いは嬉しいけど、生徒の私たちに対する評価や本音を聞く事
も教師としての大事な仕事だもの。ぴたっとくっついていたら、
彼女たち何も話さなくなってしまうもの……そうでしょう」

 「はい、先生」

 「私たちは、一般の学校では持て余すような子どもたちを沢山
抱えてるから、多くの場面で専制的になってしまうけど、それは
あくまで秩序を維持するため。神様になったつもりで、あれこれ
微細なことまで指示してはいけないわ。お仕置きだってそうよ。
正義を楯に何でもこれに頼ってると、そのうち子どもたちだって
こちらに向かって本音を語らなくなるの。お仕置きは、あくまで
子どもたちの為にやることで、こちらの都合は関係ないわ。……
『やられたからやり返すんだ』なんてのはお仕置きの理由として
は論外よ」

 堀内先生はベテラン先生らしく自説を力説するが、同時に裸で
走る少女たちを見ても、それがやりすぎだとは言わなかった。
 彼女にしてみても、今、ここで行われているお仕置きは許容の
範囲だと信じていたのである。


(美香の回想)

 その会場は東屋とは違って広い場所にありました。
 まるで野外ステージのような立派なドーム型の舞台があって、
それを見物するための客席も150席以上あります。

 『何なの、これ。……まるで劇場じゃない。……これじゃあ、
まるでショーだわ』
 私は野外ステージの一番後ろから全体を見渡してそう思います。

 実際、私の感想はそう大きく的を外れていませんでした。

 「あっ、もう始まってるじゃないの。急いで急いで」
 キャシーが私をせかせます。

 私たちが到着した時にはすでに舞台が始まっていて、客席では
50人ほどの観客がすでに事の成り行きを見守っていました。
 見渡せば、先生や生徒だけでなくこの村で働いている職員の人
たちの顔も見えます。

 「あっ、もう……何ぼ~っとしてるのよ。早く早く、いい席が
なくなっちゃうわ。こんなの後ろで見たって楽しくないんだから」
 再び、キャシーがはしゃぐように私をせき立てます。

 そして、観客席の前の方へ前の方へと行こうとしますから……
私……
 「いいわ、私、一番後ろ見てるから」
 と言ったのですが……

 「何言ってるのよ、そんな処じゃ肝心な物が見えないじゃない」
 キャシーは面倒とばかり私の手を引き、無理やり前の席を目指
します。

 「ここ、空いてますか?」
 目ざとく空席を見つけたキャシーが、品のよさそういご婦人に
声を掛けますと……
 「ええ、いいですけど……あなた、あの舞台の子とお友だち
なの?」
 と、席に置いていた荷物を取り片付けながら問い返してきます。

 するとキャシー。間髪をいれず、きっぱりと…
 「はい、そうです」
 と、答えたのでした。

 でも、これ嘘なんです。キャシーと舞台の子との間にはそんな
親しい関係なんてありませんでした。
 彼女、一番前の席で見たいばっかりに嘘を言ったのでした。

 というわけで、私たちは目の前が舞台という特等席で事の成り
行きを見学する事になります。

 私は、『こんな前で、恥ずかしい』と思いましたが仕方があり
ませんでした。


 その舞台では、中央に椅子とテーブルが出ていて、すでに二人
の規則違反者に対する尋問が始まっていました。

 テーブルの右側には、問題の女生徒とこちらの規律担当の樺島
先生。左側は夜這いに来たとされる男の子とやはりその規律担当
の梶先生が、それぞれ対峙しています。

 実はその男の子と女の子なんですが、二人とも頭からすっぽり
と大きな袋を被せられていましたから顔は分かりません。
 もちろん、罪を犯した子たちのプライバシーを尊重して、そう
しているわけですが……人間勝手なもので隠されると中が見たく
なります。

 あっちこっち見る角度を変えて袋の中の顔が見えないかと思い
ましたが、結局、見えませんでした。
 そこで……

 「ねえ東屋の時もそうだったけどさあ、あんな袋を被せられて、
あれって、苦しくないの?」
 私は小声でキャシーにこう尋ねてみました。

 すると……
 「大丈夫よ、私も何回か被ってるけど全然苦しくないわ。帽子
と同じ感覚よ。それに、あれ、荒い生地で出来てるから、こちら
からはその顔が見えないけど、被ってる方は外の景色や人の表情
が割とはっきり分かるの。……あなただってそのうち被らされる
でしょうから、その時わかるわ」

 キャシーが最後にドキッとするようなことを言うので……私は
思わず……
 「馬鹿なこと言わないでよ」
 と大声になってしまい……

 「お静かに……」
 と、さきほどの婦人から注意されてしまいます。


 そうこうするうち、舞台では逢引していた二人に対する尋問が
まだ続いてはいましたが、どうやら話はあらかた煮詰まってきた
ようでした。

 「そう、それでは、あなたは先月開かれた男女交流会の時に、
この子を見初めて言い寄ったけど相手にされなかったからここへ
夜這いに来て、それも相手にされなかったから、彼女を無理やり
炭焼き小屋へ連れ込んだ。…………こういう事でいいのかしら?」
 樺島先生は調書のようなものをとっていました。

 「はい、先生」

 「それで、あなた、深夜の炭焼き小屋で何をするつもりだった
のかしら?」

 「それは……」
 男の子の口が重くなります。

 「そんなこと聞くだけヤボかしらね。……ま、いいわ。でも、
こちらも心配だったから、この子の身体は調べたの」

 樺山先生はそう言って袋の中の男の子の瞳を見つめました。
 このくらいの近さなら、あるいはその子の瞳も見えていたかも
しれません。

 「……(ごくっ)……」
 一方、見つめられた男の子は唾を飲み込んだのがここからでも
わかりました。喉仏のあたりがしきりに動いていましたから。
 それって男の子にとっては緊張の一瞬だったんでしょうね。

 「……幸い、何事もないことがわかったわ」

 「……(ふう)」
 樺山先生に言われて、男の子がほっと肩を落とします。
 身に覚えなんかなくても、そこは気になるみたいでした。

 「ただね、これだけは覚えておいてほしいの。女の子ってね、
身の潔白を証明するだけでも心が傷つくのよ。だから、あなたも
これからは取り扱いには注意してね」

 樺山先生の言葉に相手方の規律委員、梶先生の口元も緩みます。
 実は樺山先生、この男の子のことを評価していました。
 というのも、彼が男の子らしく一人で罪を被る気でいるからで
した。

 『僕が恵子ちゃんを勝手に好きになって、無理やり炭焼き小屋
の鍵を持ってくるように迫ったんです』
 彼は最初からそう言ったそうです。全ての罪は自分にあります
と言いたかったのでしょう。
 でも、その潔さが、樺山先生には嬉しかったみたいでした。

 結果……
 樺山先生と梶先生が話し合い、夜這いについてのお仕置きが決
まります。

 「峰岸君。あなたには、鞭36回をケインで受けてもらいます
けど……いいですか」

 先生方の決めたことですから、今さら男の子が反対するはずも
ありませんが……ただ……

 「この袋、脱いでもいいですか?」
 と尋ねました。

 「いいけど、あなた、顔がわかってもいいの?」
 樺山先生が心配しますが……

 「いいんです。これ被ってると、熱いですから……」
 その時はまだ袋を被っていて、彼の表情を窺い知ることはでき
ませんでしたが、その時、袋の中の彼は何だか笑ってるみたいで
した。

 それで、彼、被り物を取ったのですが……
 そのルックスを見たとたん、私、震い付きたくなりました。

 「……(綺麗~~ここにこんな子いたの)……」
 その瞬間はきっとだらしなく口を開けて見ていたんじゃないか
と思います。

 立ち上がった峰岸君は細身で足が長く、被り物を取ると尖った
顎や切れ長の目がのぞきます。彫が深く整った顔は、まるで青春
映画のスターがそこにいるみたいでした。

 そんな彼が、手ぐしで前髪を書き上げた瞬間、私は自分の髪を
同じように撫でつけます。
 それって、彼のオーラが、今、私の頭にもふりかかったんじゃ
ないか……そんな妄想からだったのです。

 なるほど、こんな先輩に声を掛けられたら夢中にならないはず
はないでしょう。

 でも、最初はそうでも、その後は恵子ちゃんが、自分の方から
峰岸君にアタックをかけたに違いありません。ここへ呼び出した
のも彼女なら、炭焼き小屋の鍵を盗んできたもの彼女に違いない
と、私の女の勘はピピンと反応したのでした。

 そんな裏事情、女の先輩である樺山先生だって知らないはずが
ありません。
 ですが、ここは、せっかく恵子ちゃんを気遣ってくれた峰岸君
の顔を立ててあげることにしたみたいでした。


 ところで、峰岸君、彼が脱いだのは頭を覆っていた袋だけでは
ありませんでした。

 「それでは、準備して……」
 黒縁眼鏡、タイトスカート姿の樺山先生の顔が引き締まります。

 そこで峰岸君、こちらにお尻を向けてテーブルにうつ伏せにな
ったのですが、その際、自らズボンまで下ろそうとしたので……

 「あっ、いいわ。それは必要な時に私がやってあげるから」
 せっかく引き締まった樺山先生の顔がほころんで手が止まりま
した。

 ちなみに、男の子の場合は、女の子のようにたくさんの種類の
お仕置きを心配する必要がありません。男の子にとってお仕置き
といえば、大半が鞭でのお尻叩きと相場が決まっていたのでした。

 彼も、普段通りやることはやっておこうとズボンを脱ぎ始めた
のでした。


 「ねえ、キャシー。先生の持ってるの、あれケインじゃない?
……彼、大丈夫かしら」
 樺山先生が空なりさせている鞭を見て、私は心配になります。

 ケインは私たち女の子の学校では一番強いメッセージですから、
滅多に使われることがありませんでした。おまけにそれで36回
もだなんて絶句してしまいます。私にはそのこと自体信じられま
せんでした。

 ところが、キャシーはそうでもないみたいで……
 「大丈夫よ。彼、男だもん。私たちとは違うわ。それに慣れて
るはずだしね……ズボンの上からなら、どうってことないはずよ」
 「そんなあ、どうってことあるわよ」

 私には苦い経験がありました。
 私たちの学校では、新入生に、悪さをしたり怠けていたりする
とこれからどんな罰を受けるかを実際に体験させる行事があって、
私はケインを経験させられたのですが、他の子が見ているという
プレッシャーに押しつぶされたのか、そこでお漏らしを……

 入学早々赤っ恥なんてものじゃありません。
 以来、ケインを見るたびにオシッコに行きたくなってしまうの
でした。

 「ピシッ!!!」
 やがて、樺島先生の最初の鞭が峰岸さんのお尻に炸裂します。

 「きゃあ!」
 私が驚いてキャシーの二の腕にしがみ付くと……
 「よしよし、嫌だった見なけりゃいいの。目をつぶってなよ」
 まるで幼い子をあやすように言われてしまいます。

 再び…
 「ピシッ!!!」

 「きゃあ」
 青空に突き抜けるような甲高い鞭音だけで、思わず小さな悲鳴
をあげてしまいます。
 まるで、私がぶたれているみたいでした。

 「ピシッ!!!」

 当然ですが、鞭音はやみません。
 私はうっすらと目を開けて、その様子を確認しましたが、樺山
先生の鞭は、とても大きく振りかぶっていてから振り下ろします。
それって、私が過去に受けたものとは、同じ一撃でも質が違って
いました。

 「ピシッ!!!」

 『あんなの受けたら、私、一発で昇天するんじゃないかしら』
 そんなことさえ思いました。

 ただ、私のそんな思いは別にして、峰岸さんは悲鳴はもちろん、
足元さえも震えてはいませんでした。

 「ピシッ!!!」

 「すごいわ、やっぱり男の子って凄いのよ。いくらズボンの上
からでも、あんなに何回もやられて平気なんですもの」

 私の言葉は独り言のような呟きでしたが……キャシーがそれを
拾ってくれます。

 「だから言ってるでしょう。彼、この鞭に慣れてるのよ。……
それに樺島先生って、私たちにとっては恐い先生でも女性だもの。
……これが梶先生だったら、こうはいかないはずよ」

 「梶先生って誰?……ああ、向こうの規律担当の先生のこと?」

 「そうよ。あの先生がぶったらあんなに平然とはしてられない
はずよ」

 「だってあの先生、もう腰が曲がりそうなおじいさんじゃない。
いくらなんでも、あのおじいさんに比べたら樺島先生の方がまだ
ましよ。……若いし、力があると思うけどなあ」

 「そう思うでしょう。ところが、そうでもないの」

 私は半信半疑でしたが、やがて、キャシーの言ってる事実が、
目の前で起きます。


***************(5)**********

見沼教育ビレッジ / 第1章 / §6~§7

***** 見沼教育ビレッジ(6) *****

 最初の12回が終わると、樺山先生は少し荒い息でした。
 そこで少し呼吸を整えてから……

 「では、次はズボンを脱いで行います」
 こう宣言して、彼のズボンを脱がしにかかったのですが……

 「先生、それは私が……」
 こう言って梶先生が手伝います。
 恐らく、ご婦人が紳士のズボンを脱がすというは、お仕置きで
あってもあまりエチケットにないと思って、手を貸されたのかも
しれません。

 いずれにしても、峰岸さんのズボンは脱がされ、私の目の前に
彼のトランクスがで~んと現れました。

 「いやん」
 私はまたキャシーの肩を借ります。

 私の家族は父を除けば女所帯ですから、男性の裸、たとえ下着
姿であってもそんなものを見る機会があまりありませんでした。

 もちろん、父と私は、幼い頃一緒にお風呂に入っていましたが、
父親というのは、性別は男であっても、男性としては見ないもの
なのので、その時は何も感じませんでした。

 そんな様子は、でもキャシーには不思議なものと映るようで…
 「ほら、何カマトトぶってるのよ」
 肩を揺すって私の顔を跳ね上げると……
 「そんなリアクションは、金玉でも見た時に取っておいた方が
いいわ」
 なんて言われてしまいます。

 私は顔が真っ赤に火照っていました。
 だって『金タマ』なんて日本語、意味は知ってはいても一回も
使ったことなんてありませんから、そりゃあ驚きます。

 『この人、どんな育ちをしてるのかしら?』
 とも思いました。

 席を立とうかとも考えましたが、でも、そうこうするうちに、
舞台では第2ステージが始まってしまい、今さら、この場を離れ
にくくなります。

 そこで、再び前を向くことに……
 そこには峰岸君(先輩だけどあえてこう呼びます)の引き締ま
ったお尻がで~んとありました。

 そこへ、樺山先生の鞭が飛んできます。

 「いいこと、邪まな心をあらためなさい」
 これから先はお説教付きです。
 そして、そのお説教の後に……

 「ピシッ」
 鞭が飛びます。

 「はい、先生」
 ズボンを穿いていても大きな音がしていましたが、下着になる
と、鞭音も変わって、だぶだぶのトランクスを揺らします。

 「……(ふぅ~)……」
 まだ下着でしたけど、私は目のやり場に困りました。

 というのも、あのトランクスのなかで、男の子の大事なものが
揺れているかと思うと、目をつむっていてもそれが脳裏に浮かん
できてしまいます。

 「女の子を忘れる最も手っ取り早い方法は、他に夢中になる事
を見つけることよ」

 「ピシッ」
 また、トランクスが揺れ、太股が揺れ、お尻が揺れます。
 すると、また例の妄想が……

 「はい、先生」
 峰岸君の声は、依然、涼やかでしっかりとしています。
 それって、今まで鞭でぶたれていないかのようでした。

 『すごいなあ男の子って…あんなにぶたれても平気なんだもん。
まるでスーパーマンだわ』
 変なことに感心しますが、それでも私のドキドキは別でした。

 「約束しなさい、あの子とはもう付き合わないって……」

 「ピシッ」
 もう、どうしていいのか分かりません。とにかくこれ以上見て
いたら、私の恥ずかしい場所が濡れだすのは目に見えてます。
 ですから、とりあえず目をつぶるしかありませんでした。

 「はい、先生、約束します」
 私は峰岸君の声を聞きながらも、目を閉じ、耳を両手で塞いで
下を向きます。

 「本当に約束できますか?」
 「ピシッ」
 「はい先生」

 「本当に大丈夫?」
 「ピシッ」
 「大丈夫です」

 「本当に大丈夫?約束できるかしら?」
 「ピシッ」
 「大丈夫です。約束します」

 私はどんなことがあっても峰岸君のお仕置きが終わるまで目を
つぶっていようと思ったのですが……

 「?」

 それまで規則正しく打ち込まれていた鞭音が、ある時ぴたりと
やみます。

 すると、不思議なもので、それはそれで気になって、やっぱり
目を開けてしまうのでした。

 すると、私の視界に最初に飛び込んできたのは……にこやかに、
樺山先生がご自分のケインを梶先生に手渡しているところでした。

 「あとは、お願いします、先生」
 どうやら、半分の18回が終わったところで選手交代という事
のようでした。

 でも、バトンを渡された梶先生というのは見るからにお年寄り。
普段から腰が少し曲がっているようにも見えます。ですから私…
 『これで、峰岸君もだいぶ楽になった』
 と思ったのです。

 ところが、ところが……

 「ピシッ」
 たった一撃で峰岸君の背中が反り返ります。

 ただ、梶先生の鞭は、先ほどの樺山先生の鞭に比べてもそんな
に高い音ではありませんでした。

 「ピシッ」
 続けて二発目が飛んできます。

 峰岸君、思わずうつ伏せになっている机に力一杯引き寄せます。
 これって、もの凄く痛い思いをした時のシグナルでした。

 鞭打ち用のテーブルは、机の幅が肩幅より若干広い程度にしか
ありませんから、みんな机を抱くようにして痛みに耐えます。

 きっと、この時は峰岸君は相当に痛かったんだと思います。
 机が浮き上がりそうでした。

 「ピシッ」
 さらに三発目。
 「ひぃ~」
 峰岸君が初めて声を上げました。女の子みたな悲鳴じゃありま
せんけど、その低い声は私の耳にもはっきりと聞こえました。

 「ピシッ」
 四つ目。

 「うっ……」
 また押し殺したようなうめき声。
 それって『僕は男の子だから、悲鳴なんか上げないぞ』という
やせ我慢にも聞こえます。

 でも、不思議でした。
 梶先生は樺山先生のように大きく振りかぶってなんかいません。
その鞭はせいぜい肩の高さくらいまでしか上がっていないのです。
ちょんちょんって軽く叩いているように見えます。なのに、樺山
先生の時より峰岸君ははるかに痛そうでした。

 「ピシッ」
 五つ目。
 相変わらず鞭の当たる音は低く、鈍い音に感じられます。

 「あっ、あああああ」
 その耐えられない痛みからくるうめき声は、今度ははっきりと
聞こえました。

 それって、もちろん私がぶたれていたわけではありませんが、
もう聞いてるだけで辛いうめき声だったのです。

 「ピシッ」

 「ひぃ~~~」
 パンツ姿の最後は少し強めだったみたいで、両手で握った机が
もう一度持ち上がろうとします。
 峰岸君は男の子の意地でやっとそれを止められた感じでした。

 鞭のお仕置きは慣れない子には拘束をかけますが、慣れた子や
上級生に対しては机に備わった革ベルトでの拘束はしません。

 これって一見すると拘束されない方が楽なように思われるかも
しれませんが、実際は逆で、お仕置き中はどんなにキツイ痛みが
襲っても、自分で自分を自制して、自分の体がテーブルから浮き
上がらないようにしなれければなりません。
 これがとっても大変だったのです。

 鞭のお仕置きでは、男女を問わずほんのちょっとでもテーブル
から身体を離せば、新たなお仕置きが追加される規則になってい
ました。


 『終わったあ』
 わたしは、梶先生が一息ついたので、これで終わりかと勝手に
思ってしまいましたが、36回のうち、終わったのは24回分。
まだ、あと12回分が残っていました。

 そこで、梶先生が峰岸君のお尻の方へやってきた時も、きっと
ズボンを元に戻してあげるんだろうと勝手に解釈していたのです。
 ところが……

 「…………」
 梶先生はズボンを穿かすんじゃなくていきなり峰岸君のパンツ
を下ろしたのでした。
 当然。峰岸君の引き締まったお尻が私の目の前に現れます。

 「いやあ!!」
 私に思い違いがあった分反応が遅れて素っ頓狂な悲鳴を上げる
ことになりました。

 当然、その声は周囲の人たちに聞こえたはずで……
 「ちょっと、変な声出さないでよ」
 キャシーに注意されます。

 すると、私はここでもう一つ思い違いをしていました。

 つまりパンツを脱いだ峰岸君の下半身は丸裸だと思ったのです。
 いくらうぶな私でもお父さんとお風呂に入ったことがあります
からそうなったら何が見えるかぐらいは分かります。
 それで、びっくりしてしまって声をあげたのでした。

 私は両手で顔を覆い、そこは見ないようにしていました。目も
つぶっていました。

 でも……
 「ピシッ」という鞭音は相変わらずですし……
 「うっっっ」という峰岸君の息苦しい悲鳴も相変わらずです。

 すると……
 数発後には、やっぱり目が開いてしまいます。

 そして、次の鞭音が聞こえると……
 私は禁断の指の扉を開いて、再び峰岸君のお尻を確認すること
に……

 峰岸君のお尻には、すでに赤い鞭傷が何本も入っていましたが、
私の目的はそれではありませんでした。

 「…………」
 私は悲鳴を上げて拒否しておきながら、それって変かもしれま
せんが、今度はアレを探してしまうのでした。

 ところが……
 「えっ?……何?……」
 目的のものは見つかりません。

 分かったのは、峰岸君が純粋な裸ではないということでした。
 彼は、パンツの下にお祭りなんかで男性がよく穿いている褌を
しめていたのです。
 ですから、目的のものは見つからないわけです。

 すると、人間勝手なもので、ほっとしたという思いのほかに、
『あ~あ、残念』という思いが混じれます。
 しかもその声が思わず独り言となって口から出てしまいます。

 「なあんだ、褌は着けてるんじゃない」

 すると、キャシーが私を振り返り……
 「ん?…………残念だった?」
 って、隣りで笑うのでした。

 私は、慌てて……
 「そんなことないわよ。変なこと言わないでよ」
 と否定しましが、本心は違っていました。

 そんな私の心を見透かすようにキャシーは頭の天辺からつま先
まで私の体の全てを一度じっくり眺めてから元の姿勢に戻ります。


 一方、舞台はいよいよ佳境に……
 「ピシッ」
 「これからは、心を入れ替えるんだな」
 それまで黙って峰岸君のお尻を叩いていた梶先生も最後の数発
ではお説教をいれます。

 「はい……先生……申し訳ありませんでした」
 苦しい息の下で峰岸君が答えます。

 もちろん最後の方は痛みが蓄積しますからその分は差し引いて
考えなければならないでしょうが、それにしても、樺山先生の時
と比べたら峰岸君の疲労度は雲泥の差です。

 ですから……
 『そんなに、たいして力入れてないみたいなのに、凄いなあ。
あんな強そうな男の子を息絶え絶えにしちゃうんだもん』
 私は変なことに感心してしまうのでした。


 公開処刑が終わり周囲の人たちが席を立ち始めるとケイト先生
たちが迎えに来ましたが、ここでキャシーが……

 「すみません、ちょっと、おトイレ…行って来ていいですか?」
 と尋ねます。

 そして、先生の許可が下りると……
 「美香、あなたも行かない」
 と私まで誘います。

 「私は……」
 その瞬間、断ろうとしたのですが……

 「いいから、付き合いなさいよ」
 キャシーはそう言って私の手を引きます。

 『まあ、仕方ないか……』
 そんな心境でした。

 「それじゃあ、ちょっと失礼して二人で行ってきます」

 キャシーは満面の笑みで二人の先生にご挨拶すると、私の肩を
抱いて出かけます。

 そのトイレですが、実はこの舞台の裏手にありました。

 行ってみると、それなりの人が見物していましたからトイレも
混んでいます。
 ただ、キャシーははじめからその列に並ぶつもりはありません
でした。その代わり……

 「こっちよ」
 私の袖をひいて同じ劇場裏手にある建物のドアを開けるのです。

 「何なの?」
 私がいぶかしげに尋ねると、人差し指を唇に当てて……
 「いいから、黙って!絶対に声を出しちゃためよ。面白いもの
見せてあげるんだから」
 そう言って中へ入っていきます。

 そこは舞台でお芝居をする時にでも使うのでしょうか、色んな
小道具や大道具が仕舞われている道具部屋でした。

 「何なの、ここ?」
 私は心配になって尋ねますが、キャシーは……
 「いいから、いいから、とにかく黙って……」
 と言うだけだったのです。

 そして、その薄暗い部屋の片隅へと私を連れて行きます。

 すると、何やら人の気配が……会話も聞こえます。
 キャシーが指を指しますから、何事かと思って覗いてみますと、
その壁のすき間から樺山先生の姿が……それだけじゃありません、
あの舞台では存在感のなかった恵子ちゃんの姿も見えたのです。

 恵子ちゃんはすでに着替え始めていました。
 私はそこで初めて恵子ちゃんもまたその時に備えてTバックを
穿いていたことを知ったのです。

 『そうか、いくら公開処刑と言っても、大事な場所まで丸見え
なんてことはないのか』
 なんて、ここでも変な事に感心してしまいます。

 すると、ここでキャシーが私に耳打ち。
 「ここは舞台の控え室なの。向こうにもう一つあるわ。きっと、
峰岸君たちはそっちを使ってるはずよ」

 どうやらキャシーのお目当ては峰岸君。こちらは的外れみたい
でした。ですから、私たちは部屋の反対側へ、峰岸君のいる部屋
へ場所を変えようとしたのでした。

 ところが……
 その時でした。ちょっとした事件が起こったのです。

 「パシ~ン」
 二人の逃げ足を止めたのは、平手打ちの甲高い音。

 見ると、ぶったのは樺山先生。ぶたれたのは恵子ちゃんでした。

***************(6)**********

****** 見沼教育ビレッジ (7) ******

 「あなた、私が何も知らないと思ってるの」

 樺山先生はそう言って、恵子ちゃんに皺くちゃになった一枚の
便箋を突きつけます。

 すると、恵子ちゃんはそれを受け取りはしましたが……
 押し黙ったまま、それを開いて読もうとはしませんでした。

 「あなた部屋のゴミ箱から出てきたわ。こういうものは人目に
つかないように処分するものよ。それもしないで、炭焼き小屋へ
遊びに行くなんて……あなたもずいぶん舞い上がっていたのね」

 「……私……」
 恵子ちゃんは、何か言わなければならないと思っていたのかも
しれませんが、声にできたのはそれだけでした。

 「そこには、あなたが、炭焼き小屋で待ってるから来て欲しい
と書いてあるわ。……あなたにしては、随分と積極的ね」

 「…………」

 「駿君は好青年だから、きっと男義を出して罪を被ってくれた
んだと思うわ。……おかげで、あなたは人前でお尻を出さないで
すんだわけだから……そりゃあ、あなたにとっては大ラッキーで
しょうけど……それで、片付けていい問題かしらね」

 「……私は……何も……そんなこと……駿ちゃんに頼んだわけ
じゃないし……」
 恵子ちゃんの言葉は途切れ途切れ。まるでオシッコにでも行き
たいかのようにもじもじした様子で弁明します。

 「そりゃあ、あなたが頼んでないのはそうでしょうね。私も、
このことは彼が独りで判断したことだと思うわ。でも、それでは
私の気持がすまないの」

 「そんなあ、だって、あれは、さっき終わったことでしょう。
……それに……私が彼を呼んだっていう証拠はあるんですか?」
 恵子ちゃんは、やばいことになったと思い、思わず言葉に力が
入ってしまいます。

 でも、それって樺山先生には逆効果でした。

 「あなた、何か勘違いしてるわね。駿君がお尻をぶたれたこと
でこの件が全て終わった訳じゃないのよ。あれはあくまであなた
と駿君が逢引したことを咎めただけ。その罪の清算がすんだだけ
だわ」

 「どういうことですか?」

 「だって、あなたは駿君をここへ呼び寄せる手紙を書いて彼に
渡してるみたいだし……炭焼き小屋の鍵だって、部外者の駿君が
そのありかを知ってるはずがないでしょう。そもそも、消灯時間
を過ぎて外出するのは重大な規則違反よ」

 「だって、あれは……………………」
 恵子ちゃんはそう言ったきり言葉が繋がりませんでした。

 「だってあれは駿君が無理やり私を脅して…とでも言いたの?」

 「…………」
 恵子ちゃんが恐々頷きますと……

 「あなた、警備員のおじさんに発見された時、どんな格好して
たかわすれたの?」

 「……(えっ?)……」

 「最もお気に入りのワンピース姿で……普段は宝石箱に入れて
あるリボンをしてなかったかしら?……脅されて連れ出されたと
いう人が、わざわざそんな粧し込んだ格好で外に出るかしらね?」

 「…………」
 恵子ちゃん、真っ青で足元が震えています。
 もう、何も言えないみたいでした。

 そんな恵子ちゃんに樺山先生は追い討ちをかけます。
 「それに大事なことを一つ……女の子の世界ではね、そもそも
証拠なんていらないの……証拠がないといけないのは男性の世界
だけよ。……女の子や子どもの世界では、親や教師は怪しいって
思えばそれで罪は確定。子どもは罰を受けなければならないわ。
……知らなかった?」

 樺山先生の笑顔は私たちにも不気味に映りました。

 「あなたには、消灯時間を過ぎて外出した規則違反で罰を与え
ます」

 「だって、あれは、駿ちゃんに脅されて……無理やり……」
 恵子ちゃんは必死になって最後の自己弁護を試みましたが……

 こんな時、女の子にはよく効く薬がありました。

 「お黙り!!!」
 と一言。

 樺山先生の剣幕に、恵子ちゃんも口を閉じるしかありませんで
した。

 「あなたが独りで炭焼き小屋へ行くところは何人かの人が見て
るけど、その時、駿君が一緒だったと証言した人は誰もいないの。
駿君の証言は嘘だと思ったけど、どうせあなたをかばってのこと
だろうと思ったから許したの。あなたもそれはそれとして駿君の
好意を受けていいのよ。但し、罰は罰としてちゃんと受けなさい。
事実を捻じ曲げることは許さないわ」

 「だってえ~……」
 恵子ちゃんは甘えたような声をだします。
 それって、男性には有効かもしれませんが……

 「いい加減にしないと、街じゅう素っ裸で歩かせるわよ」

 樺山先生、最後は語気荒く言い放ったのでした。

 その剣幕は隠れている私たちにも伝わります。
 ですから、そ~~~と、そ~~~と退散しました。

 結局、この時の罰で恵子ちゃんは管理棟1Fの床磨きをさせら
ることになりました。
 みんなの前で鞭でぶたれることを考えれば、この方がよかった
のかもしれませんが、誰もが通る1Fロビーで掃除婦さんみたい
なことをやらされたわけですから、お嬢様育ちの恵子ちゃんには
辛い罰でもありました。


 さて、私たちの方のその後なんですが……
 私は、こんな危ない目にあってはたまらないとばかり帰ること
を提案したのですが、キャシーの奴、聞き入れませんでした。

 そこで、渋々二件目の覗き見を敢行することになります。

 一軒目は、それでも大道具の陰からこっそりでしたから、まだ
足場もしっかりしています。でも、二件目は、もっと危ない場所
からの観察だったのです。

 実は私たちのいる道具部屋と男性用の控え室は大きなロッカー
で区切られていました。
 そこで、キャシーの提案は、部屋を間仕切るロッカーの破れた
背板の部分から進入。その鍵穴から向こうの部屋を覗こうという
わけです。

 一人一個の割り当てではありましたが、それにしても中は狭く
足場も悪いですから、当初から困難は承知の上でした。

 「ねえ、こんなことして、本当に大丈夫なの?」
 キャシーに尋ねると……
 「大丈夫よ。たしかここには使用禁止の張り紙がはってあった
はずだから、このロッカーへは荷物を入れないはずよ」

 私はキャシーの言葉を信じてやってみることにします。
 いえ、私も峰岸君をもっと間近で見られるチャンスだと思い、
乗ったのです。
 ただ、今にして思えば、若気の至りと思うほかはありませんで
した。

 たしかに、ロッカー自体はキャシーの言う通りでした。
 窮屈でしたが、鍵穴から向こうの部屋が見えます。会話も聞こ
えます。峰岸君が、例の褌姿でテーブルに寝そべり、梶先生から
お尻にお薬を塗ってもらっているところがバッチリ見えます。

 予想していたより少し遠い位置でしたが、でも、これなら十分
楽しめます。
 私はルンルン気分だったのです。

 ところが、しばらくしてお薬を塗り終わると峰岸君はテーブル
を下りどっかへ行ってしまいます。

 『えっ!?どこへ行ったのかしら?』
 鍵穴というのは狭いですから広い範囲が見えません。

 峰岸君がいったん視界から消えるとどこへ行ったのかまったく
分からなくなってしまったのでした。

 そして、心配して探し回ること十数秒、彼はいきなり私の鍵穴
の前に現れます。

 『えっっっっっっっっ!!!!!』
 私は慌てます。

 でも、私が目の前のロッカーに潜んでいるなんて駿君知る由も
ありません知りませんから、悠然として最後の下着を外し始めた
のです。

 『あっ……あわわわわわわ』
 もちろん、声なんて立てられません。

 そして、今度はいきなりロッカーのドアが開いたのでした。

 驚いたの何のって……
 いえ、正確にはその暇さえなかったかもしれません。
 駿君の荷物の上に乗っていた私は、泡を食った拍子にそこから
転げ落ちます。

 でも、悲劇はそれだけではありませんでした。

 慌てた私はその場ですぐに膝まづいたのです。
 裸の男性の足元で膝まづく。それがどういう結果に繋がるか。
もちろんその時はそんな事を考えて行動する余裕がありません
から、それって一瞬の出来事です。

 私の感覚では、ロッカーが開いた瞬間、辺りが明るくなって、
もう次の瞬間は、私の目の前に彼の一物がぶら下がっていた。
 そんな感じでした。

 でも、人間不思議なもので、だからってすぐには反応しません。
その色、形、大きさ……その全てを目の前でじっくりと見てから、
私は我に返り悲鳴をあげたのでした。

 しかも、片手でそれを思いっきり払い除けた反動で、そいつが
鼻に先にちょこんと当たるというおまけまで付いて……
 もう散々でした。


 その後は、どこをどう逃げたのか自分でもわかりません。
 とにかく、夢中であえいでいるうち外に出られた。そんな感じ
でした。

 「あら、随分時間がかかったのね。ケイト先生、あなたたちを
探しに行かれたのよ。キャシーはまだなの?」

 堀内先生に出合いましたが、どうして本当の事が言えましょう
か。
 「それが……途中で、キャシーとはぐれちゃって……」
 そう言ってもじもじするしかありませんでした。

 そのうち、思いがけない場所からすました顔でキャシーが現れ
ます。彼女もきっとあれから隙を見て逃げてきたんでしょう。
 もちろん、堀内先生に彼女も本当のことは言いませんでした。

 「ここのトイレが混んでたんで、ちょっと遠くまで行って借り
たんです」
 なんて言っていましたけ……思えば、女の子の口は嘘ばっかり。
これじゃあ、女の子はみんな天国へは行けないかもしれません。


 さて、しばらくするとケント先生も戻り、私たち四人は再出発。
でも、野外劇場で時間を使ってしまったこともあり、私たちは、
もうこれ以上この公園に留まっているわけにはいきませんでした。

 公園を出て街に戻るとキャシーの家を確認。彼女とは、そこで
別れて、私は再びケイト先生と二人になります。

 すると、先生が信じられないことを言うのでした。

 「どう、峰岸君の裸は魅力的だったかしら?」

 「えっ!!!」
 私の顔色が変わります。
 だって、今の今の出来事なんですから……

 「ああ、立派なお尻でしたね。あんなにぶたれたら可哀想……」
 私は、引きつった笑顔で答えます。

 でも……
 「そうじゃないの。あなたたち、峰岸君を訪ねて楽屋へ行って
きたんでしょう。怒らないから言ってごらんなさい」

 やっぱり、あのことばれてたみたいでした。

 「それは……」
 私は返事に困ります。

 すると……
 「梶先生がね、『そういえば、二匹の可愛い鼠さんたちが遊び
に来てましたよ』って教えてくださったのよ。一匹はあなたよね。
そして、もう一匹はキャシー。……違う?」

 私、色々考えたのですが……結局は……
 「ごめんなさい」
 ということになったのでした。

 「いいのよ、気にしなくも……どうせ、キャシーに誘われたん
でしょうから……それにね、異性の裸に興味があるのは何も男性
の専売特許とは限らないわ。女の子だってそれはあって当然よ。
ただ、このことは、堀内先生には言わないようにね。あの先生、
腰を抜かすともう二度と立てないかもしれないから……」
 ケイト先生は笑っています。
 そして、それだけ言うと、あとは何も言いませんでした。


 そうこうするうち、私たちはここで暮らすための自分の家へと
戻ってきました。

 すると……
 郵便受けには、両親、それに妹の名前が追加されています。
 玄関を入れば、見覚えのある靴が並んでいました。

 そこで居間へと行ってみると……
 お父さん、お母さん、香織、みんなそこに揃っています。
 家族の顔を見ただけなのに涙が溢れます。
 今日一日の中で、こんなに嬉しいことはありませんでした。


****** 見沼教育ビレッジ (7) ******

見沼教育ビレッジ / 第1章 / §8

****** 見沼教育ビレッジ (8) ******

******<主な登場人物>************

 新井美香……中学二年。肩まで届くような長い髪の先に小さく
       カールをかけている。目鼻立ちの整った美少女。
       ただ本人は自分の顔に不満があって整形したいと
       思っている。
 新井真治……振興鉄鋼㈱の社長。普段から忙しくしているが、
       今回、娘の為に1週間の休暇をとった。
 新井澄江……専業主婦。小さな事にまで気のつくまめな人だが、
       それがかえって仇になり娘と衝突することが多い。
 新井香織……小学5年生で美香の妹。やんちゃでおしゃべり、
       まだまだ甘えん坊で好奇心も強い。
 ケイト先生…白人女性だが日本生まれの日本育ちで英語が苦手
       という変な外人先生。サマーキャンプでは美香の
       指導教官なのだが、童顔が災いしてかよく生徒と
       間違われる。彼女はすでに美香の両親から体罰の
       承諾を得ており、お仕置きはかなり厳しい。

**************************

 「お帰り」
 「お帰り」
 「お帰りなさい、お姉ちゃん」

 お父さん、お母さん、それに妹の香織が、一斉に挨拶します。

 「…………」
 こんなこと普段なら当たり前なのに、その時はとても嬉しい事
だったのです。

 お母さんにハグされ、妹を抱きしめます。
 ただ、部屋の一番奥、お気に入りの椅子までここへ持ち込んだ
お父さんの処へは、さすがにすぐには足を運べませんでした。

 ケイト先生がお母さんと挨拶を交わす中で……私はむしろ今日
知り合ったばかりの先生の背中に隠れるようにして立っています。
 普段だったら真っ先に飛んでいくはずのお父さんとは、どこか
視線を合せづらくなっていました。

 そんな様子が気に入らないのか、
 「どうした、美香?私の処へは来てくれないのか?」
 お父さんが痺れを切らして不満を言います。

 すると、それに答えたのは香織でした。
 「無理よ。だって、お姉ちゃん、せっかくのバカンスをパパの
お仕置きのせいで潰されちゃったんだもん。機嫌がいいはずない
じゃない」

 「そうか……やっぱり、そういうことか……」
 お父さんは私を見て苦笑です。それには、少し侮蔑的な表情も
混ざっていました。

 『すねやがって……』
 という思いがあったのかもしれません。

 でも、私の思いはそう単純ではありませんでした。
 もちろん、ここに強制連行された恨みはあります。でも、それ
以上に『お父さんが私のことを今でも怒っているんじゃないか』
という不安が心から拭い去れなかったのでした。

 そんな私の様子をお父さんは見透かしたようにこう言います。
 「美香、怒らないから、ここへおいで」
 
 お父さんは私の足が微妙に震えていたのを見逃しませんでした。

 「はい、お父さん」
 こう言われたら、娘としては行かないわけにはいきません。
 これでもお父さんの良い子ではいたいと思っていましたから。

 男の子は体力がありますし父親とは同性ですから生理的なこと
も含めてわかるはずです。ですから、そこまでは怯えないのかも
しれませんが、女の子にとって父親はとてつもなく大きな存在。
特に怒られた時は、まるで鬼の棲みかに乗り込む桃太郎ように、
気を引き締めなければなりませんでした。


 私がお父さんの処へ行く決心を固めると……
 ケイト先生も私が独りにならないよう、一緒にお父さんの処へ
やってきます。

 「私が、美香さんを担当する指導教官のケイト辻本です」

 名刺を差し出し、大人の挨拶。
 ケイト先生が私と父の間の緩衝材となってくれたのでした。


 「お嬢さんへのご心配事は親しすぎる同性の友達関係だとか」

 「ええ、この子を預かってくださっている学園長からお手紙を
いただいて……それが、気になりまして……」

 「私もあちらの園長先生や寮長先生にお会いしてそのあたりは
詳しく伺いましたが、それ自体は大きな問題ではないと思います。
これは男女に限らずそうなんですが、思春期のはじめ、子供たち
がそうした同性への強い思慕を抱くのはごく普通のことですから」

 「そうなんですか」
 父は小さくため息をつきます。

 「ただ男の子と違って女の子の場合は、こうしたことに夢中に
なりがちで、深入りすると学力の低下に繋がります。お父様は、
それがご心配なのでしょう」

 「ええ、うちには男の子がいませんから、いずれこの子に養子
を取って会社を任せることになると思うのですが、その場合でも
娘には一定の教養を積んでもらわないと……」

 「わかります。このことで学校の成績が下降ぎみなのをご心配
されているわけですね」

 「そういうことです。べつに一流大学を卒業して会社の事業に
参加させようと思ってるわけじゃないんです。平凡な専業主婦で
いいんです。ただ、そうであっても一定の教養は必要でしょうし、
……それに……婿さんの手前も、男性より女性に興味があったん
じゃ具合が悪い」

 「なるほど」
 ケイト先生の顔が思わずほころびます。
 それを押し隠すようにして先生はこう続けたのでした。

 「では、キャリアウーマンというより、よりよい奥さんになる
ためのプログラミングということでよろしいですね」

 「けっこうです。お願いします」
 父はソファに座ったまま深々と頭をさげます。そしてこう尋ね
たのでした。
 「それで、具体的にはどのようになさるのでしょうか?」

 「良妻賢母型で育てる場合に一番大事なのはルーツの確認です」

 「ルーツ?」

 「ルーツといってもご先祖という意味じゃなくて、自分が誰に
どのように愛されて育ってきたかを確認する作業が必要なのです」

 「????」

 「もっと、具体的な手順を言えば、美香さんには一度赤ちゃん
に戻ってもらうことになります。オムツをはめて哺乳瓶でミルク
を飲んで、ガラガラを振ったら笑ってもらいます」

 「????」
 父にしてみたら、先生のお話はいま一つピンときてないみたい
でしたが、私はもっと驚きです。
 『えっ!?何言ってるのよ!聞いてないわよ。そんな話』
 でした。

 「私たち家族は、どのようにすれば……」

 「ええ、ですから、美香さんを中学二年生ではなく赤ちゃんの
ように扱ってくださればそれでいいんです。授乳、オムツ替え、
……あくまで赤ちゃんとして一緒に遊んでくださればいいんです」

 「でも、そんなこと、今さら、美香がやってくれるでしょうか」

 父が不安そうに尋ねると……
 「やってもらうのではありません。この場合はやらせるのです。
素直に従わなければ可哀想ですがきついお仕置きが待っています」

 「なるほど」
 父は唖然として頷いていました。

 「もちろん、最初は恥ずかしくて嫌なことでしょうが、女の子
というのは、すぐに慣れます。その場その場の与えられた環境に
自分を順応させる能力はもともと男の子より優れていますから」

 「そうなんですか……」

 「ええ、女の子がどこにお嫁に行っても自分なりに生きる道を
見つけられるのはその順応性のためなんです。赤ちゃん返りは、
そのための訓練の一つなんです。……それと、もう一つ。幸せの
確認、という意味もあります」

 「幸せの確認?」

 「赤ん坊には何一つ自由がありません。その代わり親が何でも
してくれますから、ある意味人生で一番幸せな時期もあるんです。
そうした自分の幸せのルーツを再確認する事が、その後の人生で
困難へ立ち向かう時に大事なエネルギーとなるんです。私たちは
赤ん坊時代に得た幸せ感が、どれほど大事かを統計的に確認して
いますし、たとえそれが後発的なものであっても、一定の効果が
あることも経験済みなのです」

 「三つ子の魂百までも……ということですかな?」
 お父さんの顔にやっと笑顔が戻りました。

 「一見、馬鹿げて見えるやり方にも理由があるんです。すでに
お渡しした資料にそうしたことは詳しく書いてありますからご覧
ください」

 「なるほど、そういうことでしたか…………それで、私どもは
美香とどのように接すれば……」

 「特別なことは何もありません。普段通りに接してあげていい
と思います。ただし、最初の一週間だけは、赤ちゃんとして扱い
ますから、その時はご協力をお願いします」

 「協力というのは……」

 「主には授乳とオムツ替えです。特に、オムツ替えはお子さん
が大きいので大変だと思いますが、娘のためだと思ってご協力を
お願いします。こうしたことは、やはり他人より親子の方がいい
ので……それと……」
 先生は少し申し訳なさそうに声を低くしてこう続けます。
 「もし美香さんが赤ちゃんらしくないことをしたら、この私が
お仕置きします。かなり厳しいこともすると思いますが、それに
ついては口出しなさらないでください」

 「わかりました。頂いた資料をもっと詳しく読めばよかったん
ですが、不勉強で申し訳ない。実は、ここのことは私の秘書から
聞いて知ったんです。彼女もまたここの出身者のようで……」

 「それは、きっとキャリアウーマン型のカリキュラムを受けら
れたんだと思います。その場合はまったく別の人格になります。
でも、美香さんの場合は、良妻賢母型でよろしいんですね」

 「ええ、結構です」

 『何が結構よ、私はちっとも結構じゃないわよ。私、これから
どうなっちゃうの?』
 私は大人たちの会話を間近で聞いていてとてもショックでした。

 そんな私に、お父さんが声をかけています。
 でも、ショックを受けてる私は、すぐには頭の回線が繋がりま
せんでした。

 「美香、美香、……どうした?美香……聞こえないのか美香」

 途中から、ようやくお父さんの声が聞こえ始めます。

 「…………」
 慌てて父の方を見ると……お父さんはご自分の膝を軽く叩いて
います。それは『この膝に来なさい』という合図なのですが……

 私は、すぐにそこへ行く気にはなれませんでした。

 「おや、おや、どうやら臍を曲げられてしまったか……先生、
この子はやさしい子で、これでは休暇で帰るたびに真っ先に私の
膝に乗ってきたものなんだが……こんな処に連れて来たから……
どうやらそれを根に持ってるみたいですね」
 と、お父さん。

 「違いますよ。私がいるからですわ。美香さんも、もう14歳、
お父さんのお膝は、さすがに人前では恥ずかしいんでしょう……」
 と、ケイト先生。

 でも、私の心はそのどちらでもありませんでした。

 実は、例のロッカーでの出来事が私の頭の中ではまだ尾を引い
ていたのでした。
 あれは微かに触れた程度なのに、私の鼻の頭はあの時の感触を
覚えているのです。
 父の膝を見ても、それが鮮明に蘇ります。

 『お父さんだって同じ物を持ってた』
 そう思うと近寄れませんでした。

 「では、私は、夕食を済ませてからあらためてうかがいます」
 「まあ、先生、そうおっしゃらず、夕食はご一緒に……」
 母が止めますが……

 「いえ、合宿に入ると家族団欒で過ごせるのは食事の時ぐらい
ですから、そうした時は遠慮いたします。その代わりそれ以外の
時間はほぼ一日美香さんと一緒にいますので、そこはご承知おき
ください」
 先生はそう言って席を立ちました。

 ただ、部屋を出る時、私のブラウスの襟や棒タイを直しながら
……。
 「あなたはお父様の思われ人。女の子はね、そんな人を大事に
しなくちゃ生きていけないの。勝手は気ままは許されないわね。
いいから、お父様のお膝へ行って、いつものように甘えなさい」

 「えっ!」

 「これは命令。指導教官としての最初の命令よ」

 「命令?」

 「そう、命令。もし、私がこの部屋にいる間にお父様のお膝に
乗らなかったら、お仕置き」

 「えっ…だって……」

 「だってもあさってもないの。我を張って隣の子みたいになり
たくないでしょう」

 「隣の子って……(えっ!!!?)……(嘘でしょう!!)」
 私の脳裏に途中から昼間のお庭で出合った少女の映像が浮かび
ます。

 「……(何で、そんな事ぐらいでお仕置きされるのよ)……」
 そうは思いましたが枷に挟まれ裸で転がり込んで来た女の子の
事を忘れることは出来ません。ですから嫌でもお父さんのお膝に
乗るしかありませんでした。


 その様子を見て安心したのか、ケイト先生は一旦我が家を離れ
ます。

 一方、私はというと……
 お父さんのお膝に乗ってしまえば、もう昔の私でした。
 妹の香織とお父さんのお膝を奪い合います。

 私は全寮制の学校はお父さんお母さんに会えないから寂しいと
愚痴を言い、学校で起こったことをあれやこれや何でも話します。
 あること、ないこと、尾ひれをつけて……いったん話し始める
と止まりませんでした。

 でも、お父さんはそんな私の話を楽しそうに聞いてくれます。
 思春期になって、口うるさいお母さんとは口げんかすることも
多くなりましたが、お父さんとは昔のまま。
 口数は少なくとも、まるで大仏様に抱かれているような安心感
で、私を包んでくれます。

 そのせいでしょうか、お父さんって、私のお尻やオッパイに、
平気で手を伸ばしますが、私が抵抗したことはほとんどありませ
んでした。

 お父さんのお膝の上では、香織と二人、スカートがまくれ、シ
ョーツが見えても平気で笑っていられます。
 こんな場所、世界中探してもここだけでした。

 ここは私の秘密の場所。普段、学校ではお父さんの悪口ばかり
言っていますから、友達にはこんな姿は見せられませんでした。

 そんなお父さんが食事のあと、あらたまって私に宣言します。

 「私はここの規則だそうだから、一週間は美香と一緒に暮らす
けど、明日からはケイト先生がお前の親代わりだから、どんな事
でも先生に相談して、先生の指示に従って暮らさなきゃいけない。
いいね」

 「はい、お父さん」
 私が神妙に答えると……

 「ねえ、お姉ちゃん、今日からお仕置きなんでしょう。どんな
ことされるの?」
 香織がお父さんに抱きついて聞いてきます。

 でも、それには……
 「お仕置きなんかじゃないよ。お姉ちゃんは試練を受けるだけ。
お勉強をみてもらうだけさ。……そうだ、お前も、今学期は成績
が下がってたなあ、一緒にやってもらおうか」

 こう言うと、香織のやつ笑いながらお父さんの部屋から逃げて
行くのでした。


****** 見沼教育ビレッジ (8) ******

見沼教育ビレッジ / 第1章 / §9~§10

****** 見沼教育ビレッジ (9) ******


 その日も遅くなって、ケイト先生が再び新井家へやって来た。

 持ち込んだ大きな荷物見て、美香はてっきりこれは先生の私物
なのだとばかり思っていたが、先生の私物は僅かで、その大半が
美香の為に準備されたものだったのである。

 先生は美香の両親を彼女の部屋へ集めると、その荷物を解いて
説明を始める。

 「これが、今晩から着るあなた用のパジャマよ」

 美香はタオル地でできているそのパジャマを自分の身体に当て
てみるのだが……
 「これって……赤ちゃんの……」

 「そう、赤ちゃんがよく着てるわね。オールインワンとか……
コンビネーションとか……ロンパースとか、あなたたちの処では
どう呼ばれてるか知らないけど、要するに上下が一体になった服
なの。……ほら、こうやって背中のチャックを閉めると……もう
独りでは脱げないわ」

 先生にパジャマを着せられた美香は突然不安な気持になった。
 そこで……
 「このパジャマって……これでなきゃ…いけないんですか?」

 「そうよ。なかなかお似合いよ」

 「…………」

 「最初の一週間、あなたはすべてにおいて赤ちゃん扱いなの。
だから衣装だってすべて赤ちゃん仕様のものを身につけなければ
ならないわ」

 「…………」

 「あら、心配かしら?……そりゃそうよね。もう何年もやって
ないもの。……でも、堅苦しく考える必要はないのよ。ママゴト
の赤ちゃん役だと思えばいいわ」

 「口をきいてはいけないんですか?」

 「そこはOKよ。口がきけないとお勉強がはかどらないもの。
ただ、ご返事はすべて『はい先生』『はいお父様』『はいお母様』
ってことになるわね。赤ちゃんの間は、『いいえ』という言葉は
タブーよ。相手を否定する言葉は言わないお約束になってるの。
もちろん口答えもできないわ」

 『やっぱり……そうなんだ』
 美香は、夕方、先生と父とが交わしていた会話の内容からある
程度覚悟はしていたものの、こうやって面と向かって現実を突き
つけられるとたじろぐ。

 「あなたが赤ちゃんの間は、着替えも食事もお父様やお母様に
やっていただくことになるわ。……どう、楽チンでしょう。何も
しなくてもいいんだもの。こんな楽な暮らしはないはずよ」

 『それで、お父さんまでここに呼ばれたんだ』
 ケイト先生のイヤミな言い方に美香は顔をしかめた。
 と、同時にその時の様子を頭の中で思い浮かべてみたのである。

 『えっ!?……まさか?』
 その中で、ある疑念が頭に浮かんだのだ。
 でも、その質問はやはり勇気が必要だったのである。

 「あのう……まさか……そのう……オムツも穿くんですか?」

 答えはすぐに返って来る。
 「当然そうよ……あなた、赤ちゃんですもの」

 ケイト先生は驚く美香の顔を楽しんでからこうも付け加える。
 「ただし、それは寝る時じゃなくて、起きてから……お浣腸の
あと、ウンチを10分くらい我慢したら、その後お父様かお母様
に付けてもらうことになるわ」

 「えっ!……両親からオムツを穿かせてもらうんですか?」
 美香はショックのあまり声が震える。
 母はともかく、父にそんな恥ずかしい格好……絶対に嫌だった
からだ。

 「どうして?……恥ずかしいかしら?」

 『…………』
 美香は素直に頷いてみせるが……

 「でも、ここではみんなやってることなのよ。あなた一人だけ
特例にはできないわ。ここではね、恥ずかしいことと痛いことを
繰り返しながら成長していくの。女の子が嫌うことが本当は最も
為になることだってわかったからそうしてるのよ」

 『今からでも逃げ出したいなあ。………でも、今さら後戻りも
できないのよね』
 美香はケイト先生の笑い顔を恨めしく見つめるしかなかった。

 そのケイト先生が追い討ちをかける。
 「オムツだけじゃないわよ。このパジャマだって、下には何も
身につけないから、どのみち一度はご両親の前でスッポンポンに
ならないと着替えられないわ。だいいち、パジャマに着替える前
には、ご両親の前に全裸で膝まづいて、今日一日の反省をしなけ
ればならないの。だから、どのみち、あなたはご両親に対しては、
ご自分の裸を見られることになるの。……どう?わかった?」

 「そうなんですか」
 美香は力のない返事を返す。それが今は精一杯の勇気だった。

 「赤ちゃんになるというのは、単に格好だけの問題じゃなくて
身も心も穢れのない時代に戻るってことなの。そこからやり直す
という意味でそうするのよ。だから、裸になることを嫌がったり、
目上の人のお言いつけに逆らえば、即、お仕置き。でもその時、
弁解やいい訳をしてはいけないことになってるの。何よりそんな
ことしてたら赤ちゃんをいつまでも卒業できないことになって、
ご両親にもご迷惑がかかるのよ」

 「いい訳しちゃいけないんですか?」

 「だって、赤ちゃんがいい訳できるはずないでしょう」

 「そりゃあ、そうですけど……」

 「もし、生意気な口をきいてしまうと、そばで誰が見ていよう
と、裸にひん剥かれて、いやってほどお尻を叩かれることになる
から、そこは注意してね」

 「何も言えなくなるんですね」

 がっかりしたような美香の声が聞こえると……
 「何にも言えないなんて、そんなことはないわ。さっき言った
でしょう。誰とでもちゃんとお話しできるわよ。ただし『いいえ』
『ダメです』って言えないだけ。『はい、お父様…はい、お母様』
という相手をご機嫌にするご返事なら、いつでも言えるわよ」
 ケイト先生はそう言って笑うのだった。

 そんな先生に美香の母、澄江が尋ねる。
 「先生、このようなことは11歳の子にも有効なんでしょうか」

 「ああ、そうでしたね。香織ちゃんのことですね。もちろん、
大丈夫ですよ。親への絶対服従は、女の子の基本的な躾ですから、
独立するまでなら、早過ぎることも遅過ぎることもありません。
……その件は、こちらが終わってからお部屋にうかがいますので、
まずは美香ちゃんの方を先にすませてしまいましょう」

 『えっ!この話、香織も一緒だったの?』
 美香は一瞬驚きましたが、今は妹より自分の事でした。

 「さあ、美香ちゃん、オネムの時間ですからね。お父様お母様
におやすみのご挨拶をしてベッドに入りましょうね」

 ケイト先生の言葉に美香は否も応もなかった。
 何も逆らうつもりもなかったから……
 「おやすみなさいお父さん、おやすみなさいお母さん」
 と普段通りに言ったつもりだったが……

 「あらあら、もう忘れちゃったの」
 ケイト先生に指摘されて美香は思い出す。思い出したくない事
を思い出したのである。
 「……!……」

 「あら、思い出してくれたみたいね。そうなのよ、ここではね、
裸になってご挨拶するの。……これは今のあなたが何一つ持って
いないことを再確認するためにやるの」

 「何一つ持ってないって?」
 美香は素朴な疑問を思わず口に出してしまった。

「そうでしょう。あなたが今着ているお洋服も、玩具も学用品も、
学校の授業料だって、何一つあなたが出したお金ではないはずよ」

 「だって、それは……私は子供だから……」

 「子供だからそんなの当たり前?」

 「ええ」

 「だったら、その当たり前を自覚してもらう為にやってちょう
だい。自分は何も持たない一文無しで、今あるものはすべて親の
愛から出ているということを自覚する為に……女の子は愛されて
こそ幸せなのよ。男の子の様に自分勝手な夢を追いかけてるだけ
では、幸せにはなれないわ。……わかるかしら?」

 「…………」
 美香は少し半信半疑ながら小さく頷く。
 そうしなければならないと思ったからだ。

 「だったら、何が自分を幸せにしているのか、それを常に自覚
しておくことは大事なことよね。あなたのように生まれた時から
親に愛されて育った子どもは、両親の愛って空気みたいにあって
当たり前のものだから、親の愛が冷めるなんて理解しにくいこと
でしょうけど、親の愛といえど無尽蔵ではないの。あなたの対応
次第では、無くなってしまうものなのよ。それを自覚してもらう
為にやってもらうの。……わかったかしら?」

 「はい、先生」

 「そう、それではまず服を脱がせましょう」
 ケイト先生は、母の澄江に向かって語りかけたのだが、美香は
自ら服を脱ぎ始めた。


(美香の回想)

 私はすでに覚悟を決めていましたから、自ら服を脱ぎ始めたの
ですが……
 「あらあら、美香ちゃん……あなた、気が早いのね。ちょっと
待って……あなたお利口さんで、自分で服を脱げるのは知ってる
けど……あなたは、今のところはまだ赤ちゃんなの……ですから、
そうしたことは、お父様やお母様にやっていただきましょう」

 ケイト先生は私の手を止めさせます。

 結局、私は父の前へ連れて来られ、制服の赤い棒タイを外して
もらいます。
 父の仕事はそれだけでした。

 あとは、母がすべて……ブラウス、スカートに始まり、靴下も
スリーマーもジュニアブラも……そして最後のショーツまで……
母の手で私からすべての衣服が剥ぎ取られたのでした。

 『何だか、荘厳な儀式みたい』
 私は思います。もちろん、裸にされたことは恥ずかしいことで
したが、それ以上に裸の自分がとてもドラマチックに感じられて
不思議に逃げ出したいほどの羞恥心はありませんでした。

 父と母が見つめるなか、私は二人の前で膝まづき両手を胸の前
で組みます。
 「これからベッドに入っておやすみします。今日一日のお二人
の御慈愛に感謝します。明日もお二人の良い子で過ごせますよう
に……」

 挨拶の言葉はケイト先生が後ろから小さな声で耳打ちしながら
教えてくださいます。

 私の声は、まるで時代がかったお芝居の台詞を棒読みしただけ
ですから、よその人が見たらさぞや滑稽に映ったことでしょうが、
目の前のお父さんもお母さんもソファに座っていつになく真剣な
表情です。

 すると、こんなママゴトみたいなお芝居でも……

 『お父さんが王様で、お母さんがお妃様。私、お姫様になった
みたい』
 馬鹿な幻想が頭をよぎり私の心は浮き立ちます。

 普段なら絶対に口にしない言葉を話す時、私の心はトリップし、
不思議と恥ずかしさはなくなるのでした。


 ご挨拶が終わると、父と母は協力してタオル地でできた続き服
を私に着せていきます。

 私はこの時、父の前で割れ目まで晒して気まずかったのですが、
父も母もこんなに大きな身体の私に赤ちゃん用のパジャマを着せ
るのが面白かったのか、一転して今度は二人で笑っていました。

 「さあ、これで大きな赤ちゃんが出来上がったわ。……どう?
着心地は?……あなたの体のサイズに合せてぴったりに仕上げた
のよ」
 ケイト先生に尋ねられましたが……

 『何だか、着ぐるみを着せられたみたい。熱くて汗をかきそう』
 というのが正直な気持だったのです。
 ただ、その苦情は言えなくて……

 「大丈夫です」
 とだけ一言。

 「夏場にこのパジャマは熱いとは思うけど、今日だけ我慢してね。
実は、これから妹さんの方へも回らなきゃならないので、あなた
と添い寝ができないのよ」

 「添い寝?」

 「明日からは、私かお父様お母様、その誰かと一緒にベッドを
共にすることになるでしょうから……その時は裸ん坊さんにして
あげられるけど、あなたを独りにすると、また悪い遊びを思い出
さないとも限らないでしょう」

 「悪い遊び?………………」
 私はしばし考えてから……
 「えっ!!私、そんなことしません」
 驚いて否定しますが……

 「そうは言っても、あなたには前科もあることだし……この服
は、そのための服でもあるのよ」

 私はこの時はじめてこのパジャマがオナニー防止用だと知った
のでした。

 私はベッドに寝たまま、お父さんお母さんに『おやすみなさい』
を言います。

 部屋の電気が消え、眠りについたわけですが、このパジャマ、
想像通りとにかく熱くて、とてもすぐに寝られませんでした。

 エアコンは働いていましたが、ものの五分と経たないうちに、
全身汗でびっしょりです。

 なかなか寝付けぬうちに10分、20分と過ぎていきます。

 すると、そのうち……
 「いやあ~~~ごめんなさ~~い、もうしない、もうしません
から~~~ゆるして、ゆるして、しないしないもうしないから」
 妹の香織の大泣きが、遠く聞こえてきます。

 それがどんな理由で、どんなお仕置きをされているのかまでは
分かりませんでしたが、それを子守唄代わりに私はまどろみます。

 妹の悲鳴が子守唄なんて、不謹慎かもしれませんけど、建前は
ともかく姉妹なんて所詮は親の愛を巡って争うライバル関係です
から、ライバルの情報は常に気になります。
 そして、両親がどんなお仕置きをするか、その結果どうなって
しまうか、過去の経験からたいてい想像がつきますから、そんな
妹の痴態を想像するだけでも心はうきうきだったのです。


 『それにしても暑いわ』
 その夜はまるでサウナ風呂の中にいるような暑さでした。

 この続き服のパジャマ。冬は暖かくていいのでしょうが、夏は
熱がこもって最悪です。
 おかげでベッドに入って5分としないうちから体中大汗でした。
ひょっとして、寝付いたのは失神したからかもしれません。


 ところが、朝、起きてみると、状況は一変していました。

 「えっ!!!」
 寝ぼけ眼の私に、その素肌がいま裸でいることを伝えます。

 着ていたはず赤ちゃん服がありません。素肌に当たる感触は、
毛布の肌触りのみ。

 『もし、このままこの毛布を捲られたら……』
 そう考えると、本能的に毛布の裾を自分の体へ捲きつかせます。

 すると、その衝撃でベッドの隣人が目を覚ましたようでした。

 「あら、起きたの?」

 「……け、ケイト先生。……先生がどうしてここに……」

 「そんなに驚かなくてもいいじゃないの。私はあなたの子守り
だもの。一緒に添い寝するのは当たり前だわ。その事は説明した
はずよ」

 「……あ、そうでした。……あのう……私……昨夜、着ていた
パジャマ……着てないみたいなんですけど……」

 「ああ、そのことね。あんなの着て寝たら暑くて寝られないで
しょう。だから脱がしてあげたの」

 「えっ!?」
 私は脱がされた記憶がありませんから頭の回線がショートしま
す。
 「そんなこと……私……」

 「知らないでしょうね。熟睡してたみたいだから……羨ましい
わ。あんな大汗かきながらでもちゃんと寝られるんだもん。……
若いっていいわね」

 「…………」
 そりゃあ女同士の話ですから、ビックリするほどの事はないの
かもしれませんが、ケイト先生に私の裸を見られたのはそれなり
にショックでした。

 いえ、それだけじゃありません。その話にはまだ続きがあった
のです。
 「それで……そのついでってわけでもないんだけど、あなたの
大切な処も拝見したわ」

 「……(!!!)……」
 私は、一段ときつく毛布を絞りめ、先生とは反対の方を向いて
しまいます。

 「悪く思わないでね。これも私のお仕事だから。……どのみち、
ここでは隠し事はできないの。……特に、オナニー癖のある子や
レスポスの恋に身をやつす娘たちは、ちょっとでも疑いがあれば、
それこそ穴という穴を全部調べられることになるわ」

 「……」
 私は、思いあまってケイト先生の方を振り向きます。

 『私はそんな恥ずかしいことなんてしてません』
 と宣言するつもりでした。
 『ほんのちょっぴりだけです』というのは伏せて……

 振り向いた時の目がきっと真剣だったからなのでしょう。
 先生は笑って……
 「大丈夫よ。あなたのは襞は綺麗なものだったわ」

 「えっ!」
 私は自分で振り向いていおきながら先生には何も言わず、また
先生に背を向けてしまいます。

 「あなたの悪戯は、まだ、おっぱいとお豆ちゃん止まりね。…
…どっちも先端にほんの少し炎症があったわ」

 『!!!!!!』
 それを聞いた瞬間、私の頭がボイラーのように沸騰します。
 『馬鹿なことやめてよ!!』
 私は大声を上げたい気分でした。

 「これをお父様にご報告してもいいんだけど、また余計な心配
をなさるかもしれないから、これは、あえて報告しないでおくわ
ね。あなたもその方がいいでしょう」

 『もう、いやだあ~~~そんなところまで見られてたんだあ。
……私、その時なぜ起きなかったんだろう』
 そのことが悔やまれてなりませんでした。

 すると、ここでケイト先生がベッドを抜け出します。

 そこで私も……
 「あっ、起きます。あの~昨日着てたパジャマは?」
 と言ったのですが……

 「ああ、あのパジャマ……あれは汗びっしょりで濡れてるから
着ない方がいいわ。冷たくて風邪ひくわよ。それより、あなたは、
これからお浣腸だから、ベッドに寝てなさい。起きてもやること
ないもの」

 『……(え~~~このままの格好で、お浣腸なの~~~)……』
 私の身体は、今、素っ裸。想像するだにそれは悲しい姿でした。


****** 見沼教育ビレッジ (9) ******

****** 見沼教育ビレッジ (10) ******


 毛布越しに恐々見ていると、ケイト先生はお浣腸の準備をして
いました。

 特大の注射器のような形をしたガラス製のピストン式浣腸器が
湯気のたつ蒸し器に入れられ、今煮沸消毒されているところです。
……薬戸棚からはこげ茶色の薬壜が取り出されていました。

 『あれ、ひょっとしてグリセリンかしら………いやだなあ……
あのお薬、苦手なのよ。もの凄く強烈にお腹が差し込んで………
出した後もお腹が渋ってしょうがないし……きいてみようかしら』

 そんなことを思っていた時でした。楽しそうに鼻歌を口ずさん
でいたケイト先生と目があったので尋ねてみると……

 「あのう……グリセリン使うんですか?」

 「あら、グリセリンなんて知ってるところをみると、あなた、
これやったことがあるのね」

 「ええ、……まあ……」
 言いにくそうに答えると、その先も突っ込まれます。

 「お家で?……それとも学校で?」

 「えっ…………それは…………両方です」
 急に声が小さくなります。私はこんなこと尋ねなきゃよかった
と思いましたが、後の祭りでした。

 「あなた、普通にしている時は、便秘気味なの?」

 「………………」
 私が答えたくなくて無言でいると……

 「お仕置きね……」

 「ええ」

 「うちも同じよ。このお浣腸はお仕置きとしてやるの。だから、
当然、グリセリン。普通は濃度50%溶液だけど、体調が悪い時
は薄めてあげるわ。……ただし、前日おいたが過ぎた子には原液
なんてのもあるから気をつけてね。あなた経験ないかもしれない
けど、原液ってもの凄くお腹が渋るわよ」

 「(原液?)」
 私は目を白黒です。

「まさか、お父様はやらないでしょう?こういうことはお母様の
仕事だものね。……学校では上級生にやってもらったんじゃない
の?」

 「ええ、……まあ……」

 「お浣腸は尾篭な話だから、外聞もあって、学校でも家庭でも、
『うちはこれをお仕置きとしてやっています』なんて言いたがら
ないけど……けっこうあちこちでやってるのよ」

 ケイト先生がビニールシートを広げた時でした。

 「おはようございます、先生」
 お母さんの声。

 お母さんが部屋のドアをお義理にノックをして、両親が一緒に
……いえ、それだけじゃありません。両親の後ろに隠れるように
香織までもが一緒に部屋へ入ってきます。

 『なんで、あんたまでが一緒なのよ。昨夜はぴーぴー泣いてた
くせに、今日はよくそんな笑顔でいられるわね。あんたには関係
ないことでしょう』
 私は香織を見るなり、妹を追い払いたくて仕方がありませんで
した。

 私はどうしてよいのか分からず、とにかく毛布を必死になって
身体に捲きつけます。

 お母さんはともかく、お父さんや香織には、この姿を見られた
くありませんでした。

 「おはよう、お姉ちゃん」
 香織は私のベッドに両手を着くと私の顔を見て満面の笑みです。

 「おはよう、美香。昨日はちゃんと眠れたかい?」
 と、今度はお父さん。

 「おはよう、美香ちゃん。先生ができたら布製のオムツの方が
いいとおっしゃるから……お母さん、あなたの為にオムツ作って
きたの。これ前に作ったのは何年前だったかしらねえ」
 お母さんは昨夜徹夜で縫い上げた布製のオムツとオムツカバー
を三つも持って私の枕元に立ちます。

 家族全員にベッドを囲まれ、進退窮まったというのは、まさに
このことです。
 私は、もう、どうしてよいかわからず、ただ引きつった笑いを
浮かべて応対するしかありませんでした。

 「あら、いい顔ねえ」
 そこへケイト先生もやってきて私の怯えた顔を見つめます。

 「お仕置きを受ける時は、そうした申し訳ないって顔をしてる
のが一番よ……」

 先生はそう言うと、いきなり毛布の裾を持って捲りあげます。
 それがどうなるか、誰にもわかることでした。

 「……大丈夫、大丈夫、見てるのお父様とお母様だけだもの」
 先生はそういいながら今度は私の両足を高く持ち上げます。

 これもどうなるかは誰にでも分かります。
 ただ、先生のそのあまりの手際のよさに私は声を出す暇があり
ません。
 どうやら、私、悲鳴を上げるタイミングを逸したみたいでした。

 「お父様もお手伝いください」

 ケイト先生はそうしたことには距離を置きたいお父さんに声を
かけます。お父さんはそ知らぬふりで壁の方を見ていました。

 それに対して香織は積極的です。こんなチャンスは滅多にない
とばかりに、何も隠すものがなくなった私のお尻を至近距離から
まじまじと見ています。

 『あんた、こんなもの見て面白いの?……だって、あんたと私、
同じ体じゃない』
 なんて言ってやりたくなりました。

 そんな好奇心旺盛な香織にケイト先生がまず声をかけます。

 「香織ちゃん、コレ、お姉ちゃんのお尻に挿してくれるかなあ」

 ケイト先生がそう言って香織に手渡したのはイチヂク浣腸。
 『えっ、香織にやらせるの!!ちょっと、ちょっと、やめてよ』
 私の心はいきなり大慌てです。

 香織だって……
 「やだあ~、ばっちいもん」
 と、最初は断ったのですが……

 「ダメよ。香織。あなたも家族の一員なんだもの。協力しない
と……」
 お母さんが諭します。

 「え~~やらなきゃだめなの?」
 香織は一見不満そうに見えますが……その笑顔はまんざらでも
ない様子。
 私はこの子の姉ですから、そこらの事はよくわかるのでした。

 「香織ちゃん、香織ちゃんはお姉ちゃんが好きでしょう」
 「うん……」
 「だったら、大好きなお姉ちゃんの為にもお仕置きしてあげな
きゃ。お仕置きは愛されてる人からがやらないと効果がないの。
お姉ちゃまのお尻をばっちいなんて言ったらお姉ちゃまに失礼よ」
 「だってえ……」
 香織はなおも渋っていましたが……
 「こういうことはお互い様。あなただって、いつかお姉ちゃま
からこういうことをされることがあるかもしれないわ」
 ケイト先生の説得に香織は満を持して決心したみたいでした。

 『ふん、やりたいくせに!』
 私の方はプンプンです。

 「こう持って……ほら、ここに刺すの。……膨らんでるところ
は私が合図をしないうちは強く握らないでね。お薬が出ますから」
 ケイト先生は手取り足取り香織を指導です。

 そのうち……
 『あっ!!!』
 その瞬間、私のお尻の穴がケイト先生によって開かれました。

 「さあ、ここに差し込んで」

 香織は言われた通りにしましたが、私の方が問題でした。
 イチヂクの先がお尻の穴に当った瞬間、私は思わず門を閉じて
しまいます。

 「ほら、ダメでしょう!幼い子じゃないんだから……」
 ケイト先生、さっそく私にお小言です。

 「ちゃんとやらないと、昨日の香織ちゃんみたいにお灸をすえ
られることになるわよ」
 ケイト先生はとっておきの威し文句を私に投げかけます。

 お灸、それは滅多にないお仕置きでしたが、それでも女の子に
とってはおぞましいお仕置きの一つです。
 そして、それと同時に、昨夜の香織の悲鳴がお灸だと知ったの
でした。

 『……てっことは……私も…………!!!!』
 嫌な予感が頭を掠めた瞬間、嗅ぎ慣れたお線香の香りがします。

 『!!!(いつの間に?)!!!』
 原因はお母さんでした。私がそこへ目をやった時は、お線香が
すでに燃えていて、艾も丸められて、準備万端だったのです。

 「私も一応許可をいただいてるけど、こういうことはお母様に
やっていただくことになると思うわ」

 「…………」もう言葉がありませんでした。

 「わかったら、抵抗しないの。大人しくお浣腸を受けましょう。
……ね、わかった?」
 ケイト先生の声に、私は頷くしかありませんでした。


 香織のイチジクがお尻に刺さり、あの嫌な感触がお尻の穴だけ
でなく身体全体に広がります。

 「よくできたわ。あなた、なかなかお上手よ」
 ケイト先生のお世辞に送られて香織が私のお尻から離れました
から、私は急いで立ち上がろうとします。
 ところが……

 「あら、何やってるの!あなた、まだお浣腸が済んでないのよ」
 ケイト先生がベッドから起き上がろうとしていた私の肩を押し
返します。

 私はベッドに仰向けで、逆戻り。両足も再び上げさせられたの
でした。

 「では、まず、お母様にはこちらで……」
 ケイト先生はあの馬鹿でかい注射器みたいな浣腸器をお母さん
に手渡します。

 『やだなあ、あんな大きなので……イチヂクでいいじゃないの』
 心の中でぶつくさ言いながらその時を待っていると……

 「さあ、いきますよ。今度はちゃんとお尻の筋肉を緩めなさい。
あんまり見苦しい真似をしてると、本当に熱いお灸ですからね」

 お母さんに脅されて、私は最大限の努力はします。そのガラス
の尖った先をお尻の穴で受け入れようと努力はしたのです。
 でも、これは人間の防衛本能。身体が自然に拒否してしまうの
でした。

 「ほら、しっかりしなさい。私に恥をかかせないの!」
 お母さんの突き刺すガラスの先端がお尻の入口をつんつんしま
す。

 「ほら、本当にお灸になりますよ。いいのね、それで……」
 お母さんの更なる脅しにビビッた私は、お尻の門を開けるべく
更に一層の努力をしてみますが、これが身体の中に入ったらどう
なるかを私自身が知っていますから、簡単にはお尻の門は開きま
せんでした。

 と、そのときです。

 「いやっ!!」
 私の大事な場所が誰かの手で触れられます。

 小さな芽を悪戯したのはケイト先生でした。
 でも、おかげでお母さんの思いは叶います。

 「………(あっ、流れてる)………」
 気がついた時は、グリセリンのあの嫌な感覚がお尻の中に……。

 「(いやあ!)」
 私はたまらず両手で顔を覆いますが……

 「ダメよ、顔を隠しちゃ。どんな時でも現実を直視しなきゃ。
あなたにとっての現実は何?……上級生に誘われるまま桃色遊戯
にうつつを抜かしていたあげく、成績を下げて、お父様お母様に
ご心配をかけて……それで、こういう事になったんでしょう?」

 「…………」
 私は小さくそれと分からないほど小さく頷きました。

 「だったら、ちゃんとお仕置きされてる自分も見つめなきゃ。
逃げてちゃ反省にならないわ。自分がどういう姿をしているか、
見にくかったら、鏡を持ってきましょうか?」」

 「いや、やめて」
 私はケイト先生の提案に思わず声が出てしまいました。

 「ほら、ほら、イヤを言ってはいけないと教えたはずよ」
 ケイト先生の声に我に返ります。

 『そうだ、今は赤ちゃん。イヤは言っちゃいけなかったんだ』

 ハッとした私は、
 「ごめんなさい、もう言いません」
 慌てて謝りますが、先生はそれには答えずさっさと私の足元に
鏡を置きます。

 「ほら、よ~~く見て御覧なさい。女の子はなかなか自分では
こんな処見ないから、こんな時はいい機会だわ」

 そう言われて見た鏡には私自身の恥ずかしい場所が……

 こんなの見たいのは男の子だけ。女の子は見たくありません。
 でも……

 「ほら、ちゃんと見なさい!自分の汚い部分から目を背けない
のよ」

 先生の強硬な態度に押されて、私はじっくり私の恥ずかしい処
を鏡ごしに見る事になります。それはすでに薬の効果が効き始め
ていた身としては、『こんな事で時間を取られたくない』という
思いからでもありました。

 「トイレ、行ってもいいですか」
 今度こそ、と思ってそう言ったのですが……
 
 「あら、だめよ。まだ肝心のお父様からのお仕置きが終わって
ないてでしょう」

 ケイト先生の声に……
 「でも、もう出そうなんです」
 と泣き言を言うと……

 「大丈夫よ。幼い子じゃないんだから……しっかりお尻の穴を
閉めていればまだまだこれくらい耐えられるわ。……さあ、恥を
かきたくなかったら頑張りなさい。これも、いい教訓になるわ」
 残酷な答えが返って来ました。

 その瞬間です。私のお腹に大津波が……
 「あっ、だめえ~~」

 ベッドのシーツを必死に両手で握りしめ……下腹に意識を集中
します。

 「ほら、大丈夫でしょう」
 ケイト先生は少しだけ落ち着いた私を見て冷たく言い放ちます。

 確かにその時の大津波は漸(ようよ)うのことで治まりました
が、もうこれ以上あんなお薬を受け入れるのは無理でした。
 ですから、恥を忍んでケイト先生に……

 「もう、ダメなんです。ホントに出ちゃいます」
 と申し上げたのです。
 けれど……

 「さあ、そんな泣き言言ってる間に済ませた方がいいわ。……
お父様、ご準備をお願いします」

 ケイト先生は仕事を先へ進めようとします。

 お父さんの顔も『約束したことだから仕方がない』というお顔
でした。
 その顔で先生からあの注射器のお化けを受け取ります。

 『あっ、お父さんが来る!』
 私に迫る新たな恐怖です。

 ただ、お父さんから受けるお浣腸というのは不思議でした。
 それって心の表面では、お母さんからやられた時より、ずっと
恥ずかしいのです。お父さんは男性ですから……

 でも、私はお父さんが幼い頃からずっとずっと好きでした。
 思春期になって口にはあまり出さなくなりましたが、その気持
はその時も変わっていません。
 すると、不思議なことが起きました。

 「……あっ!」
 お父さんが突き刺したガラスの先端を私のお尻はすんなり受け
入れたのです。

 お母さんの時にはあんなに抵抗したガラスの先を、今度はあの
時より、たくさんお薬がお腹に入っているのに……ちょっとでも
気を緩めたら噴出しそうだというのに……それは、するりと私の
お尻に刺さったのでした。

 「さあ、いくよ。頑張るんだよ」
 お父さんの声に素直に頷きます。

 『あっ…入ってくる……入ってくる』
 私はお父さんのグリセリンを受け入れながら、でも不快な気持
は何一つしませんでした。

 むしろ、その瞬間は恍惚として天井を見ていたのです。

 擬似セックス。
 もちろん、その時はそんなこと思いもしませんが、大人になり
セックスを経験すると、あの時のあれはそんな気持だったんだと
分かるのでした。


 結局、私のお尻には、香織の30ccと両親が50ccずつの
130ccが入ります。

 終わった時、おなかの中は大嵐です。たまになぎの時間がある
といってもそれは短く、すぐにまたお腹の大嵐がやってきます。
ですから、トイレに行こうにも危なくてベッドから起き上がる事
さえ困難になっいました。

 その大嵐の私のお尻りに大きな帆が張られます。

 「おトイレ、おトイレ」
 私は弱弱しく叫びましたが……

 「大丈夫よ、美香さん。今日はもうその心配はないわ。だって
あなた、今は赤ちゃん。このベッドの上で存分におトイレできる
んだもの。……こんなに幸せ、またとないわ」

 『そんなあ~~~』
 私は悪い冗談だと思っていましたが、大人たちは本気だったの
です。

 「お父様、お母様、それではお約束ですので、お願いします。
こんなに大きくなったお子さんの下の世話は大変だと思いますが、
こうした事は他人よりご両親の方がはるかに効果的なのです」

 「分かってますわ。自分の娘ですもの。造作のないことですわ」
 お母さんは満面の笑みで答えます。

 つられてお父さんも……
 「あっ……そうだね」
 承知しましたが、その顔は若干引きつって見えます。

 そんな二人の様子を見ながら私は……
 『何でこんなことしなければならないの?なぜこんことするの
よ!馬鹿じゃないの!』
 とそればかり御題目のように思っていたのです。

 そんな御題目を唱えながら頑張っている私の脇にケイト先生が
立ちます。
 それって、私にしてみたら地獄からの使者でした。

 「ほら、もうオムツはめてもらってるんだから、ここに出して
いいのよ」
 地獄からの使者が私の特大オムツを叩きながら笑います。

 『ちょっと、やめてよ!!』
 私はこの時だって必死です。

 ケイト先生は人のことだと思って笑っていられますが、こちら
は『はい、そうですか』という訳にはいきませんでした。
 油汗を流し、顎を震わせて、それでも必死に頑張っていたので
した。

 そんな私のお腹を、先生はいきなりギュウ~っと押し込んで、
鷲づかみにして揉み始めます。

 「……あああっっっ……だめえ~~~~」

 私は微かに声を上げましたが、抵抗できませんでした。

 生暖かいものがあっという間にお尻全体に広がり、同時に私の
プライドが溶けてなくなります。

 その瞬間は、何が起こったのか理解できませんでした。
 いえ、理解しようとしませんでした。
 そう、理解したくなかったのです。

 『夢よね、こんなの夢よ。現実じゃないわ』
 私の心の奥底から今を認めない言葉が響きます。

 『そうよ、悪い夢みてるだけだわ』
 私はその言葉にすがるしかありませんでした。


****** 見沼教育ビレッジ (10) ******

Appendix

このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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