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〘 第10 回 〙 一週間のオムツ

          亀山物語
                     合沢啓治(著)
〘 第10回 〙 一週間のオムツ
***************************

<主な登場人物>


私(合沢啓治)/亀山愛育院の孤児。由美子の弟。

小島先生   /私の家庭教師であり、実質的には僕のママ。

大石胤子   /亀山村の村長さん。(三代目)女王様。

榊原 美里  /同級生の恋人。片想い。

森下景子先生 /由美子お姉様の家庭教師(ママ)であり、
       /かつ、学校では担任の先生でもある。

合沢由美子  /私をリンチにかけたお姉様の一人。私の姉。

小川静子   /泣き虫。リンチ四人組の一人。

桐山香織   /おっちょこちょいで早とちり。四人組の一人。
       途中でお灸をすえられそうになる。

安西遥香   /優等生だが、今回の事件に関与。四人組の一人。
途中でお漏らしをしてオムツ替えをさせられる。

美代子と彰子 /今回私のリンチには加わらなかったお姉様。

 お義父様  /亀山の子供たちは誰もがお義父様の子供として
(合沢徹)   /その家で家庭教師(ママ)と一緒に暮らしている。

 お義母様  /お義父様の奥さん。元々はお義父様のお付き合い
(合沢早苗)  /で亀山に来たのだが、今は子供たちにも優しい。

桐山高志 /幼稚園児(5歳)。由美子のお友達、香織の弟。 

 大原先生/高志君のママ。

 おばば様/亀山のお灸担当係。子供たちの実母を知る老婆。

****************************
****<10>********************

 由美子お姉様はこのあと一週間ほどお義父様の邸宅で寝泊まり
する事になりました。
 お姉様に対する公のお仕置きは済みましたが、お義父様として
は何か物足りなく感じておられたのでしょう。とりわけ姉と弟が
仲良くしているところを見てみたい、そんな欲求から、お姉様に
ここへ泊まり込むようお命じになったようでした。

 当然、私も一緒。とんだとばっちりでした。

 ちなみに私たち里子はいわば居候(?)の身ですから、普段は
お義父様の邸宅ではなく、同じ敷地内にあるママ(家庭教師)と
一緒の建物で暮らしています。

 私のママは小島と言い、お姉様のママは森下という姓でした。
つまり二人は同じ敷地内であっても別々の建物で暮らしています。
腹違いならぬ、先生違いの姉弟なんです。ただ、合沢のお義父様
にしてみれば、そこに区別はありません。

 今回の事件も、お姉様が単によその子を虐めたというだけなく、
手下を使って弟をリンチにかけたのがお気に障ったみたいでした。

 「えっ!一週間もお義父様の処で寝るの!」
 私はママに対して不満を口にしましたが、もちろん請け合って
もらえるはずもありませんでした。

 お義父様の処へ行ってお泊まりするのは何もこれが初めてでは
ありません。家の子には月に一回や二回お泊まり当番みたいなの
があってその晩はお義父様の布団に一緒に寝ます。だからそれは
いいのですが一週間は長すぎると思ったのでした。

 というのも、私は大の甘えん坊でマザコン。寝る時も常にママ
と一緒に寝たかったのです。
 ただ、お義父様の処へ行ってのお泊まりは何も悪いことばかり
ではありませんでした。

 お義父様の処へお泊まりした子は朝夕の食事もお義父様たちと
同じテーブルに着く事ができます。そこには普段私たちが座る席
には並ばない豪華な料理が並んでいましたから、子どもたちには
楽しみの一つでした。

 私はお義父様のお膝の上から好きなものを指さして取ってもら
います。それはちょっとした優越感で、特にデザートはお義父様
におねだりして何でもかんでもちょっとずつ運んでもらっては、
結局全部食べていました。

 飽食の時代となった今日では食事で子どもを釣るなんてピンと
こない話かもしれませんが、当時は日本もまだまだ貧しい時代。
子供にとって美味しい食べ物は魅力的だったのです。

 それともう一つ大きいのがテレビです。テレビはすでにママと
一緒に住んでる長屋(コテージ)にもありましたが、これは有線で、
マンガさえも事前に検閲されて届きます。つまりビデオ。

 亀山には、当時まだ高価だったビデオ装置が司祭様の執務室に
設置してあって、刺激的な場面や子供にとって好ましくない内容
は司祭様がみんなカットしてしまうのです。

 「今週はなぜ鉄人28号が映らないの?」
 「司祭様が見てはいけないって判断なさったからよ」
 「来週は?」
 「さあ、はっきりとは言えないけどたぶん大丈夫でしょ」
 こんなママとの会話がしょっちゅうでした。そのたびに悔しい
思いをします。

 それがお義父様の居間では生の放送を見ることができるんです。
これは子供たちにとっては友だちに自慢できるまたとない情報で
した。とりわけ番組がカットされた週にそこに居合わせたりした
ら、翌日はヒーロー間違いなしだったのです。

 ことほどさように亀山の情報管理は徹底しています。もちろん
性に関する本や雑誌などは子供の目の届くところには一冊も置い
てありませんでした。

 こうして情報管理を徹底しているからこそ、天使の心を持った
子供たちが親や教師に絶対服従で暮らすことができるのでした。

 そんな絶対服従はもちろんお姉様だって同じことです。その日
お義父様のお屋敷に行ってまず私の目に飛び込んだのは、そんな
絶対服従の場面でした。

 居間に通された私はいきなり由美子お姉様がオムツ一つの姿で
お義父様にごめんなさいをしているところを目撃します。

 お姉様は厚い絨毯の上に正座すると、頭を床にこすりつけてい
ます。

 「私が悪うございました。どうぞお許しください」

 立会人は森下先生。つまり彼女のママです。ママは自分が預か
った子がお義父様たちに嫌われないよう細心の注意を払います。
お姉様に対する公のお仕置きはすでに済んでいましたが、それで
お義父様やお義母様の溜飲が下がったかどうかは分かりません。
ですから、あらためて由美子お姉様にお義父様の前でオムツ一つ
で謝るよう言いつけたのでした。

 「よい、もうよいよ。今日は寒い。風邪をひくから早く何か着
なさい。ただな、お前は今回の首謀者だ。公のお仕置きは四人が
みんな同じになったが、お前には、もう少し何かしてもらわんと
釣り合いがとれんじゃろう」

 「はい、承知しています」

 「そこでだ。お前には今日から一週間、オムツを穿いてもらう。
うんちもおしっこもそこにしてもらう」

 「……」
 この時、お姉様は一言も発しませんでしたが、思わず冷や汗が
こめかみを流れるのと一緒に唾を飲み込むのが分かりました。

 当たり前です。いい歳をして今さらオムツに粗相なんてできる
はずがありませんから。
 そんなお姉様の気持ちをもてあそぶように笑顔のお義父様は、
次にはこうおっしゃるのでした。

 「……もし、オムツにするのが嫌なら私たちの前でしなさい。
ここでやってもいいよ。赤ちゃん時代に戻ってオマルに跨って、
オシッコやうんちをするんだ。それはどちらでもいいよ。ただし、
無理に我慢するようなら躾浣腸をして家じゅうの人に見てもらう
からね、そのつもりでいなさい。いいね」

 「………………」
 お姉様はしばらく口を開きませんでしたが、ママが…
 「ご返事は?」
 と言って促すと、ようやく重い口を開いて、
 「はい、お義父様。承知しました」
 とぼそぼそっと口ごもるように答えます。

 「それとだ、この一週間の間は毎日二時間、啓治の勉強をみて
やってほしい。いいね」
 「はい」
 それは突然のことで私もびっくりです。

 こうして、私とお姉様の一週間がスタートしたのでした。

 私の場合はお義父様の処から学校へ通うというだけで、生活に
特別大きな変化はありませんが、お姉様はオムツ生活ですからね、
やっぱり大変だったようでした。

 朝、女中さんから新しいおむつを穿かせてもらうと、私の手を
引いてお義父様お義母様へのご挨拶。これいつもはママの仕事で、
私の場合、朝はママの胸の中で目を覚ますと、まずは顔を洗い、
パジャマを私服に着替えてママと一緒にお義父様の母屋へご挨拶
に行きます。

 居間にはここで暮らす12人ほどの孤児たちが上は15歳から
下はゼロ歳まで一斉に集まってきますからとても賑やかです。

 「おはようございますお義父様。今日もよい子でいます。元気
な子でいます。お義父様の天使として頑張ります」

 小学生ならこんなご挨拶を例の乙女の祈りポーズで行うと、ご
褒美にお義父様が頭を撫でてくれたり、お膝に抱っこしてくれた
りして、『おめざまし』と呼ばれるお菓子を握らしてくれます。

 これはチョコレートやビスケットがほんの一欠片(ひとかけら)
入っているだけの包みなんですが、これにもちゃんとお礼を言わ
なければなりませんでした。

 「ありがとうございました」

 お義父様へのご挨拶が済むと、おめざましを食卓へ持って行き、
席に着いてから食べます。もちろん一欠片ですからあっという間
になくなりますが、それでも朝から甘い物を口にできますから、
子供としてはルンルン気分です。

 食堂は奥の一段高いところがお義父様やお義母様が食事をされ
る細長いテーブル席で、そこには昨日お泊まりした子どもたちも
一緒に座っています。
 他の子供たちは各先生方、つまりママと一緒に丸いテーブルを
囲むのがしきたりになっていました。

 ですから、この日は母親代わりのお姉様に手を引かれて居間で
お義父様にご挨拶を済ませるともらったおめざましをお義父様の
席で食べていました。

 「だめよ、啓ちゃん、そこはお義父様のお席でしょう」

 お姉様にそう言われて、右手を強く引っ張られましたが、私は
居座ります。実際、お義父様は自分の席に子どもがいたとしても
それを叱るような人ではありません。この日の朝も、こどもたち
からの朝の挨拶を受けたお義父様が食堂へやってくると、私をみ
つけて……

 「おう、啓ちゃん、おめざましは美味しかったか?」

 そう言って、ゴボウか大根でも引き抜くように私を持ち上げる
と、膝の上に抱いてくれたのでした。

 昨日の夜お泊まりしたのは私より年下の子が一人だけ。その子
はお義母様の膝に乗りますから、お義父様のお膝はまだ空いてる
わけで、子供としては利用しない手はありませんでした。

 ただ、こんな風にお義父様やお義母様のお膝をありがたがるの
はごく幼い子か小学生くらいまでの男の子で、女の子は小学校も
高学年くらいになると一人で食事したくなるみたいでした。

 私は女の子ではありませんから、お義父様の膝の上からあれが
欲しいこれが欲しいと言っては手当たり次第に料理を食い散らか
します。おかげで食事が終わる頃には口の周りが料理の油でべっ
とりと汚れていました。

 それをお義父様にナプキンで綺麗にぬぐってもらってから自分
の顔をお義父様の胸でぐりぐりこすりつけます。
 まるで幼児がやるようなことですが、ここではそういった事は
いっこうに構わないことでした。

 規則を守ってさえいれば、甘える分には誰にどれだけ甘えても
よかったのです。自慢にはならないでしょうが私はこの時期まで
家に『マイほ乳瓶』なるものを隠し持っていて気が向けばママに
授乳してもらっていたのです。
 (つまりママも応じてくれていました)

 もちろん授乳自体は親子のお遊びですが、それが許されるほど
亀山の子供たちは大人に甘えていました。

 なのにお姉様ときたらお義父様に媚びを売ることもなく背筋を
伸ばして取り澄ました顔で食事をしているじゃありませんか。
 私の目にはむしろその事の方がよほど不可思議な光景と映った
のでした。

 で、食事が終われば、お姉様は再び私の手を引いて部屋へ戻り
ます。お義父様の処へお泊りする時は南西側に突き出した一部屋
が二人の勉強部屋でした。ここにすでにランドセルを始めとして
主だった学用品がすべて運び込まれています。

 でも、普段、お姉様とは離れて暮らしていますから僕には勝手
の違う事ばかりです。
 まごまごしているとお姉様がランドセルに時間割通りの教科書
やノートなんかを詰めてくれました。これも普段はママがやって
くれていたことなのです。

 当然、私服から制服に着替えるのも彼女の仕事です。
 「ほら、バンザイして…」
 「ほら、ズボンに足を入れて…」
 「ハンカチはこれを持って行きなさい」
 もう何から何までお母さんと同じ仕事を彼女は引き受けていた
のでした。

 その仕事が終わって僕の準備ができてからお姉様は自分の事を
始めます。亀山の男の子は大人たちに甘えるだけで何もできませ
んが、女の子たちは後輩の面倒をみることができるように厳しく
仕付けられていました。

 こうして二人の通学準備が整ったところへお義母様がやってき
ます。
 お義母様は私の通学準備が完璧なのを見て大変満足そうでした。

 「これはあなたがしてあげたの?」

 「はい」

 「良い心がけね。女の子はこうでないといけないわ。それじゃ、
これをお持ちなさいな」
 お義母様は二通のお手紙をお姉様に渡します。そこにはオムツ
少女が困らないよう、色々な配慮を求める文面がしたためられて
いました。

 「一通は担任の先生。もう一通は保健の先生にお渡しなさい。
そして学校に行ったらまず保健室へ行ってオムツを脱がしてもら
いなさい。それは放課後下校する時に、また穿いて帰ってくれば
いいからいいから……」

 「でも…」

 「大丈夫、心配いらないわ。だいいちこの暖かいのにそんな物
で体育なんかやったらお尻じゅうあせもだらけよ。そのあたりは
お二人に手紙を書いたからうまく取りはからってくれるはずよ」

 「はい、ありがとうございます」

 「お礼にはおよばないわ。あなたへの罰はすでに終わってるん
ですもの。今さらオムツを穿くことはないわ」

 「はい、お義母様。感謝します」

 「ただ、おばば様からすえられたお灸の痕は、三四日治療しな
きゃならないので、夜は私たちの前でお尻バンザイをしなければ
ならなくなるわね。それと、お義父様の見える位置で、オマルに
跨っておしっこをしなければならないわ」

 「あっ、はい」
 由美子お姉様にとってお義母様の提案が好ましくないのは確か
です。ですからその顔はちょっぴり曇りますが、すべてはお義父
様とお義母様の間で起こることですから、まずはよしとしなけれ
ばならないと思ったのでしょう。すぐに笑顔を取り戻して、それ
ほど暗い影はありませんでした。

 「だって、『丸一日、娘がおしっこをしませんでした』なんて変
でしょう。分かるわね」
 「はい、お義母様」

 お姉様は笑顔で答えます。13にもなった娘が親の前でオマル
を使うなんて巷の常識では考えられないでしょうけど、普段から
学校でも家庭でもうんちの時は必ず大人に見てもらう習慣になっ
ている亀山ではそれはそんなに変なことではありませんでした。

 このうんちの量が記録されてその後その子にお浣腸のお仕置き
があった時どのくらい浣腸液を入れるかの参考になります。

 ちなみに、お尻を拭く時も自分でトイレットペーパーは使いま
せん。先生やママから「さあ、モ~さんになりますよ」と言われ
ると、四つんばいになってお尻を高く上げ、その姿勢のまま待っ
ていると拭いてくれます。これは「今でもあなたは赤ちゃんなん
ですよ」という戒めで、自分がまだ子供であることを確認させる
ためでした。

 「あなたも何かと大変だけど、もうちょっと頑張ってみなさい。
来週の日曜日はきっと良いことがあるから…」

 「えっ、来週の日曜日ですか」
 お姉様が念を押しましたから、お義母様は慌てて…
 「ばかねえ、その時はお仕置きも終わってるし、何より気持ち
が晴れるでしょう。それだけよ」
 こう言ってごまかしたのです。その時はその日曜日に何がある
のか、私はもちろん、お姉様も全く理解していませんでした。

 お義母様は部屋を出ていこうとしましたが、思い出したように
振り返って…
 「あっ、それから……この一週間は謹慎期間ですからね、もし
粗相があれば、どんな小さなものでもみんなお仕置きの対象よ。
それと昼食が終わったら保健室でメンタムをお股に塗ってもらっ
て百行清書。終わらなければ放課後やればいいわ」

 「はい、お義母様」

 「まあ、あなたはそんな事ないでしょうけど、中にはお仕置き
が終わったうれしさに後の事をすっかり忘れてしまってお仕置き
のやり直しを受けた子もいるの。気をつけてね」

 「はい、お義母様」

 お姉様は殊勝な顔でご返事しましたが、中にはくどい物言いに
じれて…
 『そんなの分かってるから言わなくていいわよ』
 なんてうそぶく子もいます。でも、それは決して本人のために
はなりませんでした。

 いえ、そんなに露骨な返事をしなくても、不愉快な思いが顔に
出てしまっただけでも、そんな子には、あとで別のことを理由に
してキツいお仕置きが待っています。

 女の子の世界では長々とくどくどしいお説教を申し訳なさそう
に聞くのもお仕置きの一つでした。


***************************

〘 第11回 〙 ピロリーの二人

          亀山物語
                     合沢啓治(著)
〘 第11回 〙 お仕置きのあとは……
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<主な登場人物>


私(合沢啓治)/亀山愛育院の孤児。由美子の弟。

小島先生   /私の家庭教師であり、実質的には僕のママ。

大石胤子   /亀山村の村長さん。(三代目)女王様。

榊原 美里  /同級生の恋人。片想い。

森下景子先生 /由美子お姉様の家庭教師(ママ)であり、
       /かつ、学校では担任の先生でもある。

合沢由美子  /私をリンチにかけたお姉様の一人。私の姉。

小川静子   /泣き虫。リンチ四人組の一人。

桐山香織   /おっちょこちょいで早とちり。四人組の一人。
       途中でお灸をすえられそうになる。

安西遥香   /優等生だが、今回の事件に関与。四人組の一人。
途中でお漏らしをしてオムツ替えをさせられる。

美代子と彰子 /今回私のリンチには加わらなかったお姉様。

 お義父様  /亀山の子供たちは誰もがお義父様の子供として
(合沢徹)   /その家で家庭教師(ママ)と一緒に暮らしている。

 お義母様  /お義父様の奥さん。元々はお義父様のお付き合い
(合沢早苗)  /で亀山に来たのだが、今は子供たちにも優しい。

桐山高志 /幼稚園児(5歳)。由美子のお友達、香織の弟。 

 大原先生/高志君のママ。

 おばば様/亀山のお灸担当係。子供たちの実母を知る老婆。

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****<11>********************

 お姉様は学校へ出かける間際、女中さんからメンタム(メント
ールの入った傷薬)をお股に塗ってもらいます。これは私も何度
かお世話になりましたが、塗られた直後は何でもありませんが、
すぐに全身をかきむしりたくなるようなもの凄い衝撃が走ります。
ま、二三分もすれば落ち着きますが、30分くらいはメントール
特有のすうすうする感じが残って、『今はまだ謹慎中なんだ』と
思い知らされることになるのでした。

 お姉様は謹慎中の一週間こんな薬を一日六回も女の子の大事な
処に塗らなければなりませんでした。もちろんこれを自分で塗る
ことなんて許されていませんから、誰かしら大人の人の前でお尻
バンザイをしなければならないことになります。

 お姉様だってその時は『今はまだ謹慎中なんだ』という思いが
強くしているはずです。
 そんな思いを胸にお姉様は私の手を引いて登校するのでした。

 一方私はというと当時11歳。手を引いてもらわなくても十分
登校できる歳になっていましたがそんな事とは関係なくお姉様は
姉として、弟である私の面倒を見なければならなかったのです。
ですから、もし登校途中に私に何かあるとお姉様の責任になりま
す。

 それを知った私はお姉様を困らしてやろうと、わざとお姉様の
手を振りきり、塀をよじ登ったり高い崖のふちへ行っておどけた
りしてみましたが、さすがにそんな時はお姉様も怒ってしまって、
捕まると平手のスパンキングが待っていました。

 お姉様は私の半ズボンを脱がすと、あたり構わずお尻をピシャ
ピシャ叩き始めます。時にはクラスメートのいる前でもやるもの
ですから、さすがに私の方が観念してしまいました。

 学校では二人とも学年が違いますから別の教室で勉強していて
互いの様子は分かりません。ですが、真面目に授業を受けていた
と思います。とにかく厳しい学校で、授業中の私語はもちろん、
わき見やあくびですら見つかると助教師がそばにやって来て、手
の甲を軽く叩きます。こうなったら求めに応じて叩かれた右手を
そこへ差し出すしかありませんでした。

 すると、助教師は持っていた蝋燭を傾けてその手の甲に蝋涙を
垂らします。

 「…………」

 本来なら『熱いじゃないか!』と言ってやりたいところですが、
亀山の学校でそんなことを言ったら、今度は起立を求められ、教室
から連れ出されて教務の先生の処へ連れて行かれます。そこで待ち
受ける厳しいお仕置きのことを考えると、ここはやせ我慢して黙っ
ているほかありませんでした。

 特にお姉様の場合は謹慎中の身の上ですからね、普段だったら
お手々が白くお化粧するだけで済んだものが、いきなりお仕置き
部屋へ直行なんてこともありえます。あげく教務の先生から痛い
お土産をもらって教室へ戻ってくると、クラスメートが失笑する
中を通って自分の席へ戻らなければなりませんでした。

 月曜、火曜とそんなことがなかったみたいなので、お姉さまも
きっと緊張していたのでしょう。

 ところが人間慣れてきた頃が怖いというのは本当で、このまま
何事も起こらないみたいだな思っていた矢先、僕はお姉様を校庭
の裏庭で見かけてしまいます。

 彼女、しょうこにもなくピロリーに捕まっていました。しかも、
お義母様がせっかく免除してくださったオムツまで着けて。

 この時お姉様は一応制服を着ていましたが、スカートはすでに
捲り上げられていました。そこに飴色のオムツカバーに包まれた
お尻を発見したというわけです。

 「何々『この生徒、休み時間にお友だちととっくみあいの喧嘩
を始めたため、ここに晒し置くものなり』か」

 私は今日の登校時、お姉様からズボンもパンツも脱がされて、
お尻叩きされていたので、意趣返しとばかりわざと大人のような
抑揚をつけて、大きな声を張り上げて立て看板に書かれた罪状を
読み上げます。

 当然、お姉様は渋い顔でした。

 「しっ、しっ……帰れ。帰りなさいよ」

 私を追い払おうとしますが、あちらはあまり大きな声を出せま
せんから、それももどかしい様子でした。

 私はわざと大仰な身振りで辺りをうかがいます。というのも、
こうした場合は事故がないようお目付役の先生がそばにいるのが
普通だったのです。

 幸いその時は5メートルほど離れた処にお姉様の喧嘩相手の子
が晒されているのですが、先生はそちらに手を取られていました
から小さい声ならまだ出せましたが、私がなかなか離れてくれま
せんので、つい声が大きくなって…

 「だから、帰れって言ってるでしょう!」
 とうとうその声が先生に届いてしまったようでした。

 「由美子さん、なんて大声だしてるの。………あら、啓治君が
来てたのね」
 森脇先生が駆けつけます。

 「啓ちゃん、お姉様、もう少しここでご用があるから向こうへ
行っていなさい。ね」
 先生にこう言われたら引き下がるより仕方がありません。本当
は罪状の書かれた看板に引っ掛けてあるトォーズでお姉様のお尻
をビシャとやりたかったのですが、それは新たな姉弟(きょうだ
い)喧嘩のもとになると思って先生が私を遠ざけたようでした。

 えっ、そんなことができるのか?(^_^;)

 ええ、これができるんです。ピロリーに捕まった罪人のお尻は
先生の許可があれば生徒でもトォーズでピシャッとやれたんです。
僕もごく幼い頃はよくやっていました。

 でも小学校も高学年になると力もついてきますし色気もでてき
ますからね、先生たちが敬遠することが多くて……先ほど話した
公開処刑はむしろ例外で、10歳を越えた女の子が裸になってお
仕置きを受ける場合、男の子は閉め出される事がほとんどでした。

 この時も僕は鶏を追うように庭の外へと誘導されます。

 庭の入口にある木戸を出ると錠を下ろされてしまいましたから
これで万事休すって感じに見えますが、実は数々の探検の成果と
してこの裏庭を覗き見できる場所をすでに確保していましたから
早速そちらへ直行します。

 場所は時計台の最上部にある屋根裏部屋。時計台を登る階段は
子供が乗っても今にも抜け落ちそうだし、辺り一面埃だらけで、
蜘蛛の巣をいくつもかき分けなければならない困難な行程ですが、
すでに色気づいていた僕は興味津々、その程度の困難は大した事
ではありませんでした。

 「よし、ばっちり」

 壊れた板壁の隙間から二本のピロリーが見えた時は狂喜乱舞。
ただし、たどり着いた時は制服が真っ黒になっていました。

 かなり遠い距離からでしたから、何もかも鮮明に見えるわけで
はありませんが、意外にも下界からの声は聞こえてきますから、
それで十分楽しめます。

 腹這いになった私の股間はすでに半ズボン越しに床板を『窮屈』
『窮屈』と言いながら押し続けています。こんな事ほんの半年前
まではないことでした。

 えっ、この間の公開処刑の時だって同じじゃないか?(^_^;)
 確かにそうなんです。あの方が過激でしたし色々なものを見る
ことができたんですけど、あれはお義父様たちのお祭りのような
ものでお義父様たち大人は楽しめたでしょうけど、僕たち子供は
あの中で大人と一緒になっては楽しむことなんてできません。

 それに比べて今回は、独りでのぞき見というハレンチな方法で
すから、それだけでもググッと感じるものがあります。

 本当はこの時間、私にはピアノのレッスンがありますからさぼ
ればお仕置きなのですが、それにも増してこのショーは見たいと
思ったのでした。

 最初に目に飛び込んできたのは由美子お姉様のママ。そう森下
先生です。

 『えっ、先生、いつの間に来たんだろう?』
 僕の目はまずお姉様のピロリーに釘付けになります。

 「まったく、いつまでたっても世話をかける子ね。あなたは、
今、謹慎中の身なのよ」

 「わかってる」お姉様はちょっとふてくされたような小さな声。

 「よく言うわ。わかってないからこんな騒ぎを起こすんでしょ
うが……私は今、とっても忙しいの。これ以上、私の仕事を増や
さないで欲しいもんだわ」

 ママはそう言いながらもお姉様が挟まれている大きな厚い板を
一旦外します。

 「ごめんなさい」
 お姉様はほっと一息、ひょっとしたらこれで許されたと思った
のかもしれません。しかし、それは早合点でした。

 「ごめんですむなら警察はいらないわ」
 ママはこう言いながらお姉様のオムツを取り外し始めます。

 「…………」
 お姉様はこれで、自分がまだ許されていない事を知ったようで
した。

 それにしても、お姉様としては唯一身につけているものを剥ぎ
取られているわけですから本来なら『やめて!』とか何とか叫び
そうなものですが、お姉様はまるでそうなることが約束されてい
たかのように静かにしていました。

 「さあ、この台の上に乗りなさい」
 ママの指示で低い跳び箱ほどの高さの台に乗るとお姉様は再び
大きな厚い板に首と両手首を挟まれるのでした。そして、今度は
その台に乗った分、相対的に頭が下がりお尻が上がることになり
ます。

 その窮屈そうポーズのまま…
 「足を開いて………もっと………もっとよ………まったく、…
…何ちまちまやってるの。私は両方の足を開きなさいって言って
いるのよ。聞こえた?」

 「はい、ママ」

 「ママじゃなくて先生。学校では私はあなたのママじゃなくて
先生でしょう。幼い子に言って聞かせるようなことを今さら言わ
せないの」

 「ごめんなさい。森下先生」

 ママが手伝ってお姉様の足がようやく60度くらい開きました。
 こちらは遠く高い位置から見ていますから、細かなところまで
見えませんが、向こうに回り込めば女の子自身が丸見えになって
いるはずでした。

 「本当は我慢を教えなきゃいけないから、お浣腸の方がいいん
でしょうけど、今週はすでに公開処刑でやってるし、森脇先生が
彰子ちゃんの処で使ってらっしゃるから、こちらは鞭にします。
12回しっかり心に刻むんですよ」

 「え~~~12回も~~~」
 お姉様が不満そうに言うと…

 「あっ、そう。12回で不足なら倍の24回にします」
 「そんなあ~~~」
 お姉様は悲劇のヒロインみたいに見えますが、その声はどこか
甘えて聞こえました。お姉様にとってここにいる女性は、やはり
『森下先生』なんて呼ぶ人ではなくママそのもの。そばにいると
赤ちゃんの時代から慣れ親しんだ匂いがします。その胸を見ると
今でも抱きつきたくなります。
 そのためでしょうか…

 「ピシ~ッ!」
 「ひぃ~」

 公開処刑の時よりお尻に当たる鞭の音が高く大きく響きます。
お尻に巻き付くトォーズの痛みはお尻だけじゃなくて身体全体に
圧迫感を与えます。だから「ひぃ~」という悲鳴もことさらでは
なく自然に口をついて出てしまうのでした。

 「ピシ~ッ!」
 「ひぃ~」

 「ピシ~ッ!」
 「ひぃ~」
 「まったくうるさいわね、このくらい黙って受けられないの!」
 ママは腰に手をやってお姉様を睨みます。

 「ごめんなさい」
 「あんまりだらしのない態度だと本当に24回にするからね」

 「ピシ~ッ!」
 「……ぃ~」

 お姉様が頑張れたのは次の一回だけ。また…
 「ピシ~ッ!」
 「ひぃ~」

 「ピシ~ッ!」
 「ひぃ~いやあ~~~」
 「何がいや~よ。こっちがよっぽどいや~だわ」

 「ピシ~ッ!」
 「ひぃ~」
 鞭の音は高くママはカンカンですが、これはお姉様にとっては
それほど不幸なことではありませんでした。鞭の音が高いので、
よほど堪えるようにぶってるはずだと端からは見えますが、事実
は逆で相手が堪えるようにぶつ時の方が音はむしろ低くなります。

 そんな時は猿轡までして不慮の事故にそなえますが、この場合
は必要がなかったみたいでした。

 つまりこれは森下ママが娘に意地悪している訳ではありません。
むしろわざと高い音を響かせて、『娘をこんなにも厳しく仕付け
ています』というパフォーマンスをしているだけでした。

 そして、そんなことは暗黙の了解事項として娘も知っています
から、こちらもいつもよりちょっぴりオーバーリアクションです。

 とはいえ、これはお姉様が鞭に慣れているからのこうなるだけ
のことで慣れていない人が受ければどのみち痛さに耐えかねて、
思わず首や手首を縮めては挟まれている板にこすりつけることに
なります。地団駄を踏んで、顔を歪めて、腰をひねって、そりゃ
あ端で見ていられないほど惨めです。

 恐らくその当時の私がその鞭を受けていたら、そうなっていた
はずです。でも、お姉様の場合は僕より身体も大きいし、二年も
経験豊富ですから鞭に対する胆力が十分についています。それを
考えると、お姉様にママが本気で罰を与えるつもりはないようで
した。

 もっともこれはあとで冷静になってから感じたことで、時計台
の屋根裏部屋で見ていた時は、その高い音が響くたびに、大興奮
して、しきりに腰を床に打ち付けていました。(^^ゞ

 一方、彰子ちゃんの方はというと、森脇先生がお浣腸の準備を
していました。これはお薬の入った容器を高い処に吊り下げてお
き、そこから伸びるカテーテルという管をお尻の穴に差し入れて
その高低差を利用してお薬をお腹の中へと入れるという高圧浣腸
です。

 公開処刑の対象にならなかった彼女は今週まだ浣腸のお仕置き
を受けていません。児童の体に負担をかけるからという理由で、
亀山ではお仕置き浣腸は一週間に一度だけと決められていました。
ですからお姉様は免れましたが彰子お姉様は当然のごとくお浣腸
の罰を受けなければならなかったのでした。

 私はそんな彰子お姉様を不憫だとは思いつつも凝視してはいま
せんでした。やっぱりそれってばっちいですからね、子供の私に
お浣腸は興奮の対象ではありませんでしたから。

 とはいえその様子はやはり気になるのです。そのあたりは微妙
な心理の綾でした。

 お浣腸が100㏄ほど入り苦悶する彰子お姉様の様子は、遠く
からでも容易にうかがい知れます。特に、時間が経過してお腹が
苦しくなると、腰を振り始め地団駄を踏みダメだと分かっていて
も挟まれた首や手首を激しく動かして枷から逃れようとします。

 その時、ぎーぎーというその音がここまで上がってきますが、
それはと殺場に向かう牛の泣き声にも似て悲しい姿です。いえ、
現に僕だって同じ立場に立ったことがあるんですからお姉様への
同情は禁じ得ません。

 なのに、なのに、こんな時、僕の心は悪魔が支配します。

 『ふふふふふふ、もうすぐ爆発するぞ、楽しみ、楽しみ。バス
ケットにみんなぶちまけちゃえ。…でも、やった後、彰子お姉様
ってどんな顔をするのかなあ。こりゃあ見物(みもの)じゃあ~』

 僕は彰子お姉様の苦しむ姿を見つめながら、内心…いえ、内心
だけじゃありません、にやけきった顔を羽目板にこすりつけ床を
叩いて二人の様子を笑っていたのでした。

 「あっ、やったあ~~」

 お姉様は僕の予想した通り足下にある大きなバスケットにお腹
の中の物をすべてぶちまけます。ピローでのお仕置きはこうした
場合を想定して足下には盥(たらい)ほどもある大きなバスケッ
トにボロ布を幾重にも敷き詰め急な粗相に備えることにしていま
した。

 「もういいの、もういいのよ、泣かないの。今さらどうしよう
もないでしょう。……これはお仕置きなんだから仕方がないの。
それより、もう、まだお腹にあるんなら出しちゃいなさい。着替
えた後に教室なんかでまた粗相すると、それこそみんなの笑い者
になっちゃうわよ」

 森脇先生は彰子お姉様をなだめながらも、その粗相を手際よく
処理します。

 そんな先生の姿を見ていて、僕は一つ不思議なことに気が付き
ました。だってこれって僕だったらとっても嫌な仕事のはずです。
誰だってそのはずです。なのに先生は嫌そうな顔を見せません。
むしろ楽しんでいるかのようのです。それが子供の僕には不思議
で仕方がありませんでした。

 そんな私も子供ができてやっとその理由がわかりました。森脇
先生は彰子お姉様にとってママですが、お姉様もまた、森脇先生
にとっては我が子なんです。それに気づけば理由は簡単なことで
した。

 最近は自分の産んだ子供の戻したものも食べられない親が多い
と聞きましたがそんな人たちにはこの気持は分からないかもしれ
ません。(^_^;)

 いずれにしてもその時の僕は有頂天、周りに気を配ることなど
ありませんでした。
 そんな私がいきなり襟首を持たれて張り付いた床から引き剥が
されます。

 「えっ!」

 驚いたなんてもんじゃありません。本当に心臓が止まるんじゃ
ないかと思いました。

****************************

〘 第 12 回 〙 お仕置きのあとは……

          亀山物語
                     合沢啓治(著)
〘 第 12 回 〙 お仕置きのあとは……
***************************

<主な登場人物>


私(合沢啓治)/亀山愛育院の孤児。由美子の弟。

小島先生   /私の家庭教師であり、実質的には僕のママ。

大石胤子   /亀山村の村長さん。(三代目)女王様。

榊原 美里  /同級生の恋人。片想い。

森下景子先生 /由美子お姉様の家庭教師(ママ)であり、
       /かつ、学校では担任の先生でもある。

合沢由美子  /私をリンチにかけたお姉様の一人。私の姉。

小川静子   /泣き虫。リンチ四人組の一人。

桐山香織   /おっちょこちょいで早とちり。四人組の一人。
       途中でお灸をすえられそうになる。

安西遥香   /優等生だが、今回の事件に関与。四人組の一人。
途中でお漏らしをしてオムツ替えをさせられる。

美代子と彰子 /今回私のリンチには加わらなかったお姉様。

 お義父様  /亀山の子供たちは誰もがお義父様の子供として
(合沢徹)   /その家で家庭教師(ママ)と一緒に暮らしている。

 お義母様  /お義父様の奥さん。元々はお義父様のお付き合い
(合沢早苗)  /で亀山に来たのだが、今は子供たちにも優しい。

桐山高志 /幼稚園児(5歳)。由美子のお友達、香織の弟。 

 大原先生/高志君のママ。

 おばば様/亀山のお灸担当係。子供たちの実母を知る老婆。

****************************
****<12>********************

 「ん?坊主、何してる」

 私を抱き上げ自分の懐の中に収めたのは玄さんという時計守の
おじさんでした。
 髭もじゃらで厳つい顔をしていますが、心根のやさしい人で、
この時計台にはよく連れて来てくれました。

 ここからさらに階段を登って屋根裏部屋まで行くと、そこは、
亀山の中でも一番高い処ですからかなり遠くまで見渡せます。

 遠くを走る汽車やはるか彼方にぼんやりと見える町並みを見て
いると、そのどこかに本当のお母さんがいるようで感傷的になる
こともしばしばでした。ですから…

 「どうした?こんな処で…今日はてっぺんまで登らないのか?」

 玄さんはこう言いましたが、どうやらすぐに僕の目的がわかっ
たようでした。

 「何だ、…お前、あれを見てたのか?なるほど、てっぺんまで
登ると女の子がかえって遠くなるというわけか」
 玄さんは恥ずかしそうにしている私の頭をなでます。私は照れ
くさくて玄さんの胸に顔を隠しましたが……

 「お前も一丁前に女の子の裸が見たくなったか?」
 と追求されると、それには…
 「違うよ、たまたま見えただけだから…」
 と応じたのですが、通じるはずもありません。

 「いいんだぞ、男の子なんだから自然なことだ」
 こう言ってもう一度頭を撫でます。
 普通は11歳ともなればこんなこと嫌がる子が多いのかもしれ
ませんが、ここでは大人のこうした愛撫を嫌がってはいけないと
繰り返し教わってきましたから、この時もあえて抵抗はしません
でした。

 すると、玄さんはこの窮屈なスペースであぐらをかきその中に
私をいれて頬ずりまでします。愛おしくて仕方がないそんな様子
で抱きしめるのでした。

 玄さんはあれで10分も僕をもてあそんだでしょうか、でも、
それがここで女の子の裸を見ていたことを他言しない条件だった
のです。

 「いいか、服の汚れをできるだけ落として帰るんだぞ。ママが
心配するからな。そして、どうして服が汚れているのかって尋ね
られたら、玄さんと一緒に時計の修理をしてたって言えばいい。
間違ってもお姉ちゃんたちがここでされてた事を他所で口にした
らいかんぞ。おまえ、また虐められるからな」

 「わかった。分かったから、家まで肩車で送ってよ」
 僕がおねだりすると…

 「しょうがない奴だなあ。だいたいお前はもう重過ぎるんだ。
こんな重いやつを肩に乗っけたらこっちの首の骨が折ちまうよ」
 なんて言いつつも、結局は肩に乗せてくれます。

 前にも言いましたが、この街に住む人で子供が嫌いな人なんて
誰一人いませんでした。子供を見れば愛撫したくてたまらない。
そんな無類の子ども好きだけがこの亀山に住むことを許されてい
たからなんです。

 ここでは誰もが通りすがりの子供を自由に抱いてあやせますし、
抱かれた子供もそれを嫌がりません。大人に抱かれて嫌がれば、
ママや先生たちからお仕置きが待っているからそうするのですが、
おかげで子供たちの方にも免疫ができてしまって、見ず知らずの
人にいきなり抱かれても怖がるような子は誰もいませんでした。
大人の人になされるがまま笑顔で抱かれ続けます。それがまた、
大人を喜ばせ次はもっと愛されることになります。

 そんなハッピーな環境は、何よりお義父様たちの願いであり、
そんな環境が用意されているからこそ、お義父様たちはわざわざ
ここへ移り住むのでした。

 そんな私たちの事を無菌室で育てられた実験動物みたいに言う
人もいます。確かに当たらずとも遠からずでしょうけど、でも、
少なくとも不幸は感じていませんでした。
 そうなんです。あんなにも厳しいお仕置きに毎日のようにさら
されていても、大人のように大きくなった身体をもてあそばれ、
赤ん坊扱いされていても『少年(少女)時代は不幸でしたか?』
と問われれば、おそらくここの子供たち全員、答えはNoだと思
います。

 大人を百%信頼してそこで甘えて暮らすという生き方は巷では
できにくい特殊な環境かもしれませんが、決して不幸じゃありま
せんでした。現にお仕置きを受けた後は大人たちはいつも以上に
優しいですし、そうやって優しくされることで子供たちもその人
の気持を理解できるようになりますから。

 『雨降って地固まる』っていうことでしょうか。
 ママにお仕置きされるとそれまで以上にママと一緒にいたいと
いう思いが逆に強まるんです。本当ですよ。σ(^◇^;)

 そんなこんなで、亀山では、お仕置きでその人との人間関係が
ぎくしゃくしたり、心が傷ついたということはありませんでした。
 偉そうなこと言っちゃったけど、本当かなあ。(^_^;)
 でも、僕はそう思ってます。(^◇^;)


 さて、その日の夕食。僕たちお泊まり組はお義父様やお義母様
のお隣に席を取ります。それ自体は自然な習慣だったのですが、
ここに特注の幼児椅子が登場するやいなや、他の子供たちの顔が
ほころび始めます。それはこの椅子が何を意味するか、みんなが
知っているからでした。

 「由美子お姉様、お仕置きされたのよ」
 「ほら、彰子お姉様もよ」
 「何されたのかしら?」
 「鞭じゃない」
 「そうじゃないわ、ちらっと見たけど、裏庭のピロリーにこの
二人捕まってたみたいなの」
 「えっ、そうなの。じゃ、お浣腸?」
 「彰子お姉様はね。でも、由美子お姉様は、この間公開処刑で
今週分のお浣腸はすんでるから、きっとお鞭のはずよ」
 「二人ともやめなさいよ。お食事の席でお浣腸の話なんか」

 こんな会話が交わされている食堂で、二人は用意された特注の
幼児椅子に予定通り座ります。
 ファミレスなんかに用意されてる幼児用の椅子。勿論サイズ的
には少し大きく作ってありますが、あれに中学生が座るわけです
から、傍から見ればもうそれだけで滑稽です。

 由美子お姉様がお義父様の右脇、彰子お姉様はお義母様の左脇
でした。でもって空いているお義父様の左脇には私が、お義母様
の右脇は由香ちゃんという九才の可愛い妹が席を占めまています。

 お仕置きに関係ない私と妹は座面の高さを調整しただけの普通
の椅子でしたが、お二人が腰を下ろした椅子には前に小さなテー
ブルが付いていまして、この椅子に座ると、前のテーブルが邪魔
して料理にまで手が届きません。つまりお姉様二人は自分で手を
伸ばして好きな料理を食べられないというわけなんです。

 『じゃあ、絶食!』(◎-◎;)
 いえいえ、そんなことはありません。何かとお仕置きの厳しい
亀山ではありますが『食事抜き』『おやつ抜き』というお仕置き
だけはありませんでした。

 考えてみてください。子供が大好きという大人が二人も、すぐ
そばに寄り添ってるんですよ。どうするかわかるでしょう。
(^0^;)

 『!』(◎-◎;)

 「ピンポーン!」当たりです。(^◇^;)この二人の親は、
自分の食事もそっちのけで両脇を囲む子供たちに食事をさせます。

 特に自分では食事ができない可哀想な子(?)にはスプーンに
料理を乗せて口元まで運んでくれるんです。
 そう、まるで離乳食をもらう赤ちゃんみたいにです。
 親切でしょう。(^^ゞ

 ま、女の子たちにしてみると、この儀式は屈辱的で、そのこと
自体がお仕置きじゃないか、なんて勝手にほざいてましたけど、
本心は違うんじゃないかと僕はみています。

 『おまえはやられたことがあるのか?』(◎-◎;)

 当たり前田のクラッカー。(う~ん、あまりに古すぎた)
 ここに住んでる子供たちでお義父様お義母様のスプーンで食事
をしなかった子なんて誰もいませんよ。

 もっとも僕はスプーンパクリの食事のことを別に何とも思って
いませんでしたけどね。
 だって、楽じゃないですか。何もしないのに料理の方が勝手に
口の中に入って来るんですから。(^^ゞ

 それだけじゃありませんよ。僕なんて、わざと赤ちゃん言葉で
話しかけてお義母様のご機嫌を取ると拘束椅子から出してもらい
お義母様の膝の上で食事をしたことだって何度もありました。

 ええ、亀山ってところは偉そうにしてるより、甘え上手な子が
得をするように出来ているんです。

 ごく幼い頃ですけどね、お義母様に抱かれている時に、本物の
おっぱいが目の前に現れたのには、さすがに面食らいましたけど、
でも、据え膳食わぬは男の恥とか言いますから、ありがたくいた
だきました。(^^ゞ

 『これって、愛なの?お仕置きなの?』(◎-◎;)

 だからさっきから言ってるでしょう。お仕置きって、愛の一部
なんだって。

 これだってもともとはお仕置きされた子をねぎらうために始め
たみたいなんですけどね。なかには『嫌なことをされてる』って
思う子だっているでしょうから、その場合はお仕置きの延長って
ことになります。

 実際、自尊心の強い子の中には耐えられない子がいて、あまり
にいやいやがキツいもんだから、とうとう下はすっぽんぽんで、
コーナータイムさせられたなんてケースがありましたけど……

 それは特殊なケース。大半の子は営業用の笑顔を全面に出して
お義父様やお義母様子のお小言を聞き流しながら口元まで届いた
スプーンをぱくりとやって食事します。(≡^∇^≡)

 「いいこと、二度とこんなおいたをしてはいけませんよ。もし、
これから一週間の間いい子でいたら、あなたが欲しがってたGI
ジョーのお人形を買って上げますからね」
 なんて言われながら食事をするんです。

 うまく立ち回ると色々得することも多いので、『焼け太りだ』
なんてお仕置きされなかった子からひがまれることも……。

 この二人のお姉様たちもそこは女の子ですからね。ちゃっかり
しています。この赤ちゃん食事会で日頃欲しいと思っていた物を
色々買ってもらう約束を取り付けたみたいでした。

 『お仕置きに関係ない子は何ももらえないのか?』(◎-◎;)
 もちろんそんなことはありません。お泊まりの日はクリスマス
や誕生日と同じで、お義父様サンタさんから沢山のプレゼントが
届きます。

 ただ、昼間お仕置きがあった子には……
 『それでもお前たちをを愛されてるんだよ』
 という実感を与えてから寝かしたいというお義父様お義母様の
配慮なんです。

 だから、子供の方も普段以上に赤ちゃんとして振る舞うことが
求められるのでした。
 食事もそうですし、寝る時もお泊まりする他の子の見ている前
で、わざとオムツを穿かされます。もちろん、それを嫌がったり
悲鳴を上げたりしてはいけませんでした。

 「キューピットはいつも裸だよ。だけど恥ずかしがらないだろ
う」
 お義父様は夜のオムツ換えでお尻バンザイをしている子が恥ず
かしがると、いつもこんな事を言っていました。

 そうは言っても、こっちだって生身の人間ですからね、10歳
を越えたらそりゃあ恥ずかしいです。でも、それが僕たち子供の
仕事だと思って割り切るしかありませんでした。

 『割り切れない子もいるの?』

 いますね。これだけ甘々の環境で育ってるのにプライドが高い
というか、自尊心が強いというか……それは、巷でなら当たり前
なのかもしれないけど、順応性のない子は不幸になりますね。

 ただ……
 そんな子はどうしてもお仕置きが多くなるから、その時は……
 『またやられてる。可哀想に……』
 って思ってたけど……でも、今、思い返してみると、そんな子
はそんな子なりに大人たちのお仕置きで遊んでたんじゃないかっ
て思えちゃうんですよ。

 『???』

 だって、そんな子だってここでは見捨てられるわけじゃなく、
お仕置きの後はやっぱり他の子と同じように可愛がってもらえて
たし、厳しいお仕置きを受ければ受けるほどその後のべたべたも
濃厚になるから、私たち以上にその子は赤ちゃんにされてたとも
言えるわけで……

 何より、大人になったその子たちって、僕たち以上に亀山を愛
しているし、社会に出てからも何かと亀山のこと気にかけてて、
奉仕してるもの。

 『奉仕?』

 そう、ここのOBやOGは社会で成功すると何かにつけて後輩
たちを援助してくれるんです。

 学校の校舎や修道院なんてここ出身の土建業者が建てたものが
ほとんどだし、学校の制服も毎年新しいデザインの物がアパレル
関係のOGから送られてきます。肉や野菜は専属契約を結ぶ近く
の農家からやってくるけどそれ以外の食料品や学用品、電化製品
なんかも、みんなみんなここの出身者が提供しているです。

 ついでに言うと、近くにある総合病院の医療スタッフなんて、
半分以上がここの出身者だから仮病なんか使ってばれちゃうと、
この病院に送り込まれてハレンチな検査でヒーヒーいわされちゃ
うんだ。みんな恐れて『魔の病院』って呼んでるくらいだもん。

 もちろんママ(先生)の中にもここの出身の人は少なくなくて
……『恐怖のお仕置き連鎖』なんだ。(>_<")

 彼女たちにしてみればここがふる里。ここがお家。どんなにお
仕置きが厳しかったとしても、それを含めて生活習慣を変更して
欲しくないって思うようなんですよ。

 『一大勢力?』(◎-◎;)

 ま、そうなのかもしれませんけど、最近はちょっとでも厳しく
お仕置きすると「虐待だあ」なんて言われてしまいますからね、
あまり世間には知られないようにしてるんです。

 『あなたもお仕置きは支持?』

 そうですねえ。それで子供が不幸になってるなんて思えません
から。要は愛されている人から受けるかどうかじゃないですか。
愛されていないと感じる人からは髪に触れられただけでも虐待と
感じますよ。


***************************

〘 第 13 回 〙中華屋さんでの思い出

          亀山物語
                     合沢啓治(著)
〘 第13回〙 中華屋さんでの思い出
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<主な登場人物>

私(合沢啓治)/亀山愛育院の孤児。由美子の弟。

小島先生   /私の家庭教師であり、実質的にはママ。

大石胤子   /亀山村の村長さん。(三代目)女王様。

榊原 美里  /同級生の恋人。片想い。

森下景子先生 /由美子お姉様の家庭教師(ママ)であり、
       /かつ、学校では担任の先生でもある。

合沢由美子  /私をリンチにかけたお姉様の一人。私の姉。

小川静子   /泣き虫。リンチ四人組の一人。

桐山香織   /おっちょこちょいで早とちり。四人組の一人。
       途中でお灸をすえられそうになる。

安西遥香   /優等生だが、今回の事件に関与。四人組の一人。
途中でお漏らしをしてオムツ替えをさせられる。

美代子と彰子 /今回私のリンチには加わらなかったお姉様。

 お義父様  /亀山の子供たちは誰もがお義父様の子供として
(合沢徹)   /その家で家庭教師(ママ)と一緒に暮らしている。

 お義母様  /お義父様の奥さん。元々はお義父様のお付き合い
(合沢早苗)  /で亀山に来たのだが、今は子供たちにも優しい。

桐山高志 /幼稚園児(5歳)。由美子のお友達、香織の弟。 

 大原先生/高志君のママ。

 おばば様/亀山のお灸担当係。子供たちの実母を知る老婆。

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****<13>********************

 話を元に戻すけど、二人のお姉様たちはベッドインする時には
下の毛をすっかり綺麗にされてから、オムツだけを穿かされて、
寝かされるんだ。

 『最後のお仕置き(◎-◎;)!』

 そうじゃないよ。オムツだけでも身につけてさせてくれるのは
お義父様の配慮なんだ。だって当番でお泊まりする子はすっぽん
ぽんだもん。(^^ゞ

 『(◎-◎;)!』

 そう、パジャマも下着も何にもなし。全裸でベッドインだから、
お義父様もお義母様も添い寝した子供たちには触り放題という訳
です。(^_^;)

 『おちんちんも触られた?』(◎-◎;)

 はい。お義父様からもお義母様からも(^◇^;)

 お尻の穴に太い指が入ってきたり、鼻の頭や顎の先、ほっぺた
なんかを舐められたなんてしょっちゅうです。ちなみに、指先は
特にお気に入りみたいで、普段お膝の上にいる時にもよくしゃぶ
られました。(^0^;)

 でも、卑猥な感じってのはありませんでしたよ。相手の心の中
までは知りませんけど、こちらはそれで変な気持になったことは
ありません。

 何と言っても私たちは天使ですからね。そんなことで騒ぎ立て
たりはしないんです。σ(^◇^;)

 このあたりがきっと世間から『あいつらは子供妾だ!』なんて
陰口をたたかれる所以なんでしょうけど、今では『それが何か、
問題でも?』と開き直ってます。

 そんなふうに訓練されて育てられたせいなのかもしれませんが、
それでお義父様やお義母様が満足されるなら、私に不満なんてあり
ませんもの。

 ママとの間もそうですけど、濃厚な愛に身を委ねている時って
とっても気持がいいんです。本当に身体がとろけてしまうんじゃ
ないかって思えるほどのエクスタシーが、射精とは無関係に存在
するんです。本当ですよ。(*^_^*)

 そんなシチュエーションに性的な色が付くのは、実は、亀山を
離れてからなんです。

 お話がまたあさってにの方向に行きかけているので戻しますが、
この日の夜、お仕置きでお泊まりした由美子お姉様をお義父様は
ゴルフを誘います。

 公開処刑の時も誘いましたからこれで二度目です。大人なら、
『これは何かあるな』とにらむところでしょうが、お姉様には、
その意図がわかりませんでした。

 「ええ、ではお供します」

 お姉様自身は、最初それほど乗り気ではありませんでしたが、
結局お付き合いする事になりました。というのも、ゴルフはとも
かく亀山の子供たちにとって亀山を下りて外の空気を吸えるチャ
ンスはそれほど多くないのです。

 『ピクニックと思えばいいから』という軽い気持で受けたみた
いでした。

 亀山のゴルフというはゴルフ場を一日貸し切って行います。
 みなさん有名人ですから見かけない子供と一緒の処を文屋さん
にスクープされないようにという配慮でした。

 いえ、ゴルフ場だけではありませんよ。子連れでお出かけする
場所はデパートであろうと、遊園地であろうと、劇場、避暑地、
その他何でも目的地は貸し切りでした。

 『え、そんなに簡単に貸し切りってできるのか?』

 大丈夫なんですよ。(*^^)v
 それはすべてどちらかの家のお義父様の持ち物か関係先なんで
すから。

 私達はお義父様の財産に直接手をつけることはできませんが、
進学、就職、独立、何をやるにもお義父様から援助を受けていま
した。

 その日のゴルフは安西家との対抗戦でした。といっても、この
ゴルフは競技ではありません。一つのボールをその家の子供たち
が順番に打っていって少ない打数で入れた家が勝ちというもの。
 家族で楽しむお遊びです。

 とりわけチビちゃんが登場すると、クラブを握る可愛らしい手
をお義父様が包み込むように握ってスイング。実際上はお義父様
が打ってしまいます。

 そのホールごと勝った方は負けた方に何かおねだりできますが、
賞品といってもお義父様のポケットマネーでどうにでもなる程度
の物しか出ません。
 子供たちが持ち回りで賞品を得ていき、片方に賞品が偏るよう
なら、そちらのお義父様がボールをわざとあさっての方へ打って
ハンデを作るといったことまでなさいます。
 そういった意味では八百長試合でもあったわけです。

 親睦が目的ですし、気晴らしができたらそれでよかったのです。
ですからプレー中は無礼講。お姉様たちはファッションを決め、
おすまししてクラブを振っていましたが、男の子やチビちゃん達
は短いパターでチャンバラなんか始めちゃいます。
 でも、今日ばかりはちょっとやそっとのことではお仕置きされ
る心配がありませんでしたから心の休養にはなったみたいでした。

 ちなみに、安西さんの処でも子供たちの中に厳しいお仕置きを
受けたばかりの子がいて、そのあたりの事情はうちと似通ってい
ます。
 どちらのお義父様も子供たちに苦いお薬を飲ませた後、口直し
にと甘い飴をなめさせようとしたのでしょう。これはそんな飴の
役割を果たす行事だったのです。

 そんなこんなで無事、親睦ゴルフは終了。9ホールだけ三時間
くらいかけて回りました。

 そして、そのお昼。安西のお義父様は知り合いのレストランへ
私たちを誘ってくださったのですが、なぜか、お義父様がそれを
丁寧にお断りになります。

 実は、ゴルフは外出するための大義名分。これからが行く処が
どうやら本当の目的の場所だったようでした。

 ベンツが丘陵地にあるゴルフ場を出て向かったのは横浜の市街。
それも下町の一角でした。

 ポンコツの国産車ばかりが並ぶ駐車場に、ベンツとワーゲンを
止めて合沢家の人たちが入ったのは風采の上がらない店主が経営
する薄汚れた中華屋。普段こうした催し物の時にお義父様が利用
するレストランとは比べるべくもありません。

 「いらっしゃい」

 店主の無愛想な声に一同は店の中へ入りますが、中も外観同様、
一目で安物とわかる椅子やテーブルに囲まれています。おまけに
そのぐらつくテーブルには、女中部屋にさえこんな物は掛かって
いないだろうとという薄汚れたビニールのテーブルクロスが……
 幼い僕でさえ、そこは違和感のある場所でした。

 ただ、ここもお約束通り貸し切りです。

 総勢12名がおのおの好きな処に陣取ると、さほど広くない店
の中は合沢家の一族だけで満席になります。

 そんななか、お義父様が由美子お姉様にだけは自分の隣に座る
よう命じます。

 「ぼくも……」
 さっそくそう言って甘えてみたのですがですが……
 「今日はだめだ」
 つれなく拒否されてしまいます。

 お父様の隣りを射止めたのは、由美子お姉様だけ。今日だけは
誰もお義父様のお膝を許されませんでした。

 「何にいたしましょうか?」

 恐る恐る中年のウェートレスが注文を取りに来ます。
 そりゃあ、これだけの大所帯。しかもお義父様はイギリス紳士
然としていて明らかに場違いな雰囲気です。
 そんなことからでしょうか、メモを持つ手はすでに震えていま
した。いえ、それだけではありません。すでに額も汗でびっしょり。
 ただでさえ、薄汚れた店内なのに、食欲がなくなります。

 「何を食べたい?」

 お義父様は由美子お姉様に尋ねますが、どうやらその表情は、
僕と同じで『こんな場末の中華屋では食べたくない』という様子
でした。

 「私、このお店のお料理のことはよく分かりませんから、お義
父様と同じものをいただきます」
 お姉様が素っ気なく答えるので…

 「メニューも見ないでそんなことを言うのはこのお店にも失礼
だぞ。いいからメニューを開きなさい」
 お義父様にこう言われてはお姉様もそうせざるを得ません。

 そこでお姉様が渋々メニューを開くと、今度は…
 「酢豚と書かれている処を指してごらん」
 こう言われますからお姉様は不審そうな目をしつつもその通り
にします。

 このあたりからお姉様はどうも様子がおかしいと思っていたの
かもしれません。
 お姉様が酢豚と書かれたメニューを指さすと、注文を取りに来
た中年ウェートレスがその皺くちゃの顔をメニューに近づけてい
きます。

 「(この人、目が悪いのかなあ)」
 と思いました。何しろその顔はお姉様の指に触れるんじゃない
かという処まで接近しましたから。

 その光景は明らかに異常でした。

 驚いたお姉様が指を引っ込めると、今度はお義父様が…
 「それじゃ分からないだろう。もう一度指してあげなさい」
 と言うのです。

 口で言えばすむはずのやりとりをなぜこんなことしているのか
私にはまったく理解できませんでした。

 おまけに、お義父様は落ち着かない様子のウェートレスを自分
のすぐそばに引き寄せると、自らその手をいきなり取ってお姉様
の指の上に無理矢理乗せてしまいます。

 「これだそうだ。酢豚」
 お義父様が注文すると…

 「……あっ、は、はい」
 ウェートレスは一拍おいて小さな声で答えます。

 ほんの一瞬の奇妙な出来事。ひょっとしたら一秒もなかったか
もしれません。でも、その婦人にとっては瞬時にして永遠の感触、
神の手に触れたのも同じショックだったに違いありませんでした。

 「………………」
 お姉様は、当初動揺したように見え、少し時間がたつと不機嫌
そうな様子でメニューを覗き込みます。
 そして、それで顔を隠しながら私に尋ねるのです。

 「他の子は?…啓治、あなた何が食べたいの?」

 私だったら見過ごすようなこと。でも、そこはさすがに女の子。
こんな事だけでお義父様の意図を感じ取ったみたいでした。

 お姉様は、それ以降も中年のウェートレスを追い求めるような
視線の動きは見せませんでしたが、ただ、いつも以上におすまし
して食べていました。こんな食堂で……

 帰りしな、お義父様はその中年ウェートレスから赤いセーター
を託されます。しかしそれはお義父様が受け取ることのできない
ものだったのです。

 何度か押し問答の末、お義父様は一旦それを受け取りましたが、
赤いセーターは、次の報告の日に他の物と一緒に彼女のロッカー
に入れてあったそうです。

 亀山に我が子を預けた実の母親はおばば様によって全身にお灸
をすえた後、鍵を一つ与えられるのですが、これは、以後半年に
一度だけ、我が子の成長記録と沢山の写真を収めた報告書を受け
取るための私書箱の鍵でした。

 その荷物が届くのが報告の日なのです。

 ただし、これは亀山からの一方的なもので、母親の方から手紙
や品物をここに入れても我が子には届きません。
 そして何より、この報告を二回連続受け取らない時はもう報告
はやってこないことになっていました。

 幸い由美子お姉様の母親は毎回この報告を受けていましたから
娘が今どんな顔をしているか、どんな身体つきなのかも知ってい
ました。ですから、お店に入ってきたとたん、それが我が子だと
分かったはずです。

 一方、お義父様も事前に人を頼んでロッカーから報告書を持ち
帰る婦人を付けさせていました。こちらも彼女が由美子お姉様の
母親だと知っていたはずでした。

 ただし、子供たちが18歳になる前に実の母親に会わせる事は
お義父様といえどできません。ですから、あくまで偶然を装い、
この店に立ち寄ることにしたのです。

 その後、お姉様が一度だけお義父様に事の真相を尋ねてみた事
があったそうですが、その時も…

 「あれは偶然あそこに入っただけ。ウェートレスがどんな人か
私は覚えていないよ」
 とそっけなかったそうです。

 ですが、由美子お姉様にとっては、これが公開処刑やその後の
厳しいお仕置きに対する一番の癒しとなったのは確かでした。

 その後、お姉様の部屋には、とある中年婦人の肖像画が小さく
掲げられましたが、それは、あの時のウェートレスを思いだして
描いたものに違いありませんでした。

 亀山の孤児たちは、仲間内では、よく実の母親のことを興味の
ない存在のように言います。今お世話になっているママやお義父
様がすべてだと……。
 ですが、それは強がっているだけ。そう思っていないとここで
は暮らす気力が湧いてこないからそう言っているだけの事なの
です。
 本気でそう思っている子なんて一人もいませんよ。

 母親なんて、ごく自然に得られた人にとっては『そんなもんか』
という程度のものでしょうけど、得られなかった者にとっては、
どこまでも『永遠のマドンナ』であり、『永遠の憧れ』なんです。

 お義父様やお義母様、もちろんママは大好きですが、どんなに
親切にしてもらっていても、やっぱり実の母親に会いたいという
思いは生涯心のどこかに持ち続けているもの。

 母への思いは神様と同じように手の届かないものなのですが、
その幻影は神様より遙かに身近で感じるものだったのです。


(追伸)
 あの赤いセーターは確かに次の報告日にロッカーに入れられて
返されましたが、後日、まったく同じように作られたセーターを
お姉様が着て写真に収まっていたのを見たことがあります。

 きっとお義父様がまったく同じに作らせたんでしょうね。由美
子お姉様はそんな器用な人ではありませんから。(∩.∩)

            
***************** <終> *** 

天沼薬局

          天 沼 薬 局


***************************

<<主な登場人物>>

合沢家
合沢桂子ちゃん(14歳)セントメリー女学院中等部二年生
合沢春子さん(41歳)桂子ちゃんのお母さん。
お竹さん(69歳)合沢家のお手伝いさん

上村家
上村茜ちゃん(11歳)セントメリー女学院小学校五年生
上村艶子さん(37歳)茜ちゃんのお母さん
節さん(62歳)上村家のお手伝いさん。

天沼薬局
天沼照子さん(58歳)天沼薬局の店主。未亡人。

****************************


 その薬局は住宅地から少しはずれた場所に古くから店を構えて
いました。だらだら坂を登り切った処に一軒だけぽつんと建って
いますが重厚な瓦屋根の造りは街の薬局というより江戸時代から
続く薬種問屋といった風情です。

 「こんなところに」

 知らない人は誰もがペンキの消えかけた看板を見てそう思い
ます。
 あたりは雑木林に被われ、人通りもまばら、商店街の中にある
お店のようにお客さんがひっきりなしに出入りするということも
ありません。

 「営業しているのかな」
 と疑いたくなるようなたたずまいでした。中では初老の未亡人
が独り新聞を読みながら店番をしていますが、30分、1時間、
お客さんが来ないことも珍しくありませんでした。

 でもそんなお店も夕方近くになると、ぽつりぽつりとお客さん
が現れます。
 それも不思議に女の子ばかり。下は8歳くらいから上は高校生
くらいまで。いずれもお店に入る時は辺りを気にしている様子で、
誰かに見られたくないみたいな素振りです。

 「ひょっとしてこのお店、何かヤバイお薬でも取り扱っている
のでしょうか。それにしても8歳の子まで買いにくるなんて」

 いえいえ。そんなことはありませんよ。
*****************************

 「あら、桂子ちゃん。いらっしゃい。お使い?」

 お店に入るなり、まだ中学生とおぼしき少女は緊張します。店
のおばさんにそう言って挨拶されただけでも心臓が口から飛び出
しそうです。

 「あのう……」
 制服姿の少女はそれだけ言ってまた口ごもってしまいました。

 でも、こんなことはいつものこと。店のおばさんは笑顔を絶や
さず辛抱強く次の言葉を待ちます。

 「どうしたの?」

 目の前の少女が何を言いたいのか、おばさんには察しがついて
いましたが、おばさんがそれは言ってはなりません。少女自身が
言わなければならないのです。

 しばらく間があって、少女の心臓がやっと普段の三倍くらいの
早さにまでに戻ったので女の子は思いきって声を出そうとします。
 でも、その瞬間、またも辺りを見回して、おばさんと自分以外
ここには誰もいないことを確認してから大きく一つ深呼吸。声が
出たのはその次でした。

 「イチ、イチヂクカンチョーと消毒用のアルコール。ありま
すか?」

 店のおばさんはやっぱり笑顔のままでした。
 「ありますよ。あなたが使うの?それともお母様かしら?」

 「えっ………………わ、……わたし」
 少女の声はあえぐようにおばさんの耳に届きます。

 「そう、それなら30ccのでいいわね」
 おばさんは試しにこう言ってみましたが、そのとたん、少女の
顔がこわばります。

 「えっ、いえ、あのう~~」申し訳なさそうにうつむいてから
……
「50ccのでお願いします」
 これを言うともう少女の顔は真っ赤でした。今時珍しいおかっ
ぱ頭。額からは玉のような汗が光ります。

 「どうしたの?お仕置き?今度はどんなおいたしたのかしら?」
 おばさんにはこの娘(こ)が店に入ってきた時からそのことが
分かっていましたが……でも、あえて口にしないでいたのです。

 この町では女の子のお仕置きの一つとして年頃の少女が恥ずか
しがるような浣腸や大人用のおむつなどを買いに行かせる習慣が
ありました。
 そうです。間接的に『これから自分がお仕置きを受けます』と
いう事をお店の人や周囲のお客さんに宣言させるわけです。

 これが年頃の娘にとってどれほど恥ずかしい事か、容易に想像
がつきます。ですから、お仕置きを受ける娘の方も少しでも噂が
広がらないように、わざわざお客さんのあまりこないこのような
店を選んでやってくるのでした。

 ただ、この店に関していうと問題はこれだけではありませんで
した。

 「ありがとう」
 おばさんは少女にイチヂク浣腸と消毒用アルコールを渡ししな、
続けて意味深なことを言います。

 「今度の日曜日、午後なら裏の離れが空いてますってお母様に
伝えてね」

 おばさんの笑顔の伝言。でも、これは少女にとって、『地獄へ
堕ちろ』と宣言されたようなものだったのです。

 「(はい)」

 少女は返事をしたつもりでしたがその言葉は心の中に留まり、
ほんのちょっぴり頭を下げてその場を立ち去ります。

 「最近は車も多いから気をつけて帰るのよ」

 おばさんの送る言葉に思わず下唇を噛んだ桂子ちゃんでしたが、
その店を出て行きしな、入れ違いに中年の婦人が入ってきました。

 「あら、珍しいのね、お客さん?」
 「ま、随分な言い方ね。うちだってお得意さんちゃんと持って
るのよ」
 「そう言えば、あの子、どっかで見たことあるわね」
 「何言ってるの。桂子ちゃんよ。写真館の…」
 「ああ、あの桂子ちゃん。大きくなったわね。もう中学生なの。
早いはね、子供が成長するのって……ほら、つい、この間まで裏
の離れで母親にお折檻されて泣いてたのに、もうあんなに大きく
なっちゃったのね」

 「それは今でもよ」

 「えっ、!?じゃあ今の?」

 店のおばさんは笑顔のままで何も言いませんが、その素振りで
このお客さんにもそれはわかります。

 「へえ、中学生になっても裏の離れ使うの?」

 「あの子んちだけじゃないわよ。どうかしたら高校生だって、
うちに来るんだから…」

 「まあ、高校生も!?………」おかみさんは大仰に目を白黒。
「じゃあ、薬は売れなくても商売繁盛ね」

 「馬鹿言わないでよ。そんなことでお金なんてとらないわ」

 「でもさあ、高校生ってのはちょっとなまめかしくない?」
 お客さんが声を一段低くして店のおばさんにささやくと…

 「大丈夫よ、だって正真正銘の親子だもん。私だって古くから
のお付き合いがないなら貸さないわ」

 「ねえ、やっぱり、悲鳴なんか聞こえるんでしょう」

 「それは仕方ないでしょう。母親だって、娘のためによかれと
思ってやってるんだもの。小学生くらいなら私だって部屋に入っ
て手伝うわよ」

 「そうそう、聞いたことがあるわ。セントメリー女学院って、
親にお仕置きを依頼するんですってね。ね、どんなことやるの?」

 「そんなこと聞いてどうするの?」

 「あくまで好学のためよ」

 「そうねえ………」店のおばさんは最初迷っていましたが、でも、
「……やっぱり言えないわ。だってそれはそれでうちの信用だから」
 こう言って口を閉じてしまいます。

 ただ、こういう言い方をするということは…
 「(かなり、きついことするのね)」
 と、このおかみさんに想像させることはできたみたいでした。

 実際セントメリー女学院は躾に厳しく、学校ではできない体罰
を親に求めることもしばしば。下駄を預けられた親の方でも家庭
では、やりにくい娘の折檻を人目に付かないこんな場所を借りて
行うことが常態化していたのでした。

****************************

 次の日曜日の午後。案の定、桂子ちゃんがやってきます。
お母様とお竹さんという女中さんを一人連れて……

 「まあ、まあ、お暑い中大変でしたねえ」

 ガラス戸が開くと店のおばさんがさっそく三人をねぎらいます。
でも、桂子ちゃん一家にはちょっとだけ困ったことが……

 「まあ、上村さんのところがまだ使ってらっしゃるの……」

 「ええ、本日、急に1時間だけ何とかならないかっておっしゃ
って……」

 「そうですか。……いいえ、うちは構いませんよ。上村さんと
いうと茜ちゃんかしらね。あの子まだ小さいと思っていたけど、
もうこちらでご厄介になるくらいのお歳になったのかしら?」

 「11歳ですよ」

 「ま、そんなに……いやだわ私ったら……ついこの間、セント
メリーにご入学されたとばかり思ってたのに……でも、そうなる
と、学校側の注文も多くなりますし、そろそろ試練のお年頃だわ
ね…」

 桂子ちゃんのお母さんは声をひそめます。応じるおばさんも、
さらに小さな声で……

 「ええ、たしかに」

 二人は顔を近づけて含み笑いをします。

 「今回もね、『茜はまだ小学生ですから今日のことは今日中に
かたをつけておきたいから』とおっしゃられて……」

 「わかりますわ。うちの桂子もそうでしたもの。幼い子はその
場でピシッと叱っておいてやらないと、すぐに忘れてしまいます
でしょう」

 「あら桂子ちゃん。お待たせしちゃってるわね。ごめんなさいね」
 おばさんは店先の椅子にぽつんと独りで所在無げに腰を下ろす
桂子ちゃんに向かってすまなさそうに言いますが、桂子ちゃんは
あえておばさんと視線を合わせようとはしませんでした。

 おばさんの笑顔を避けたい桂子ちゃんの視線はやがて店の奥へ
と通じる通路の方へと向きます。そこからは、まだ声変わりする
前の幼い少女が必死に懇願する声が時折風に乗って聞こえていま
した。

 「いやあ~~ごめんなさい、もうしませんしませんから~お灸
しないで、お灸いや、お灸だめえ~ごめんなさい、ごめんなさい」

 やがて……

 「いやあ~~いやあ~~~あつ~~あっ~~~ああああああああ」
 声にならない声。のどに痰をからませての断末魔です。

 でも、それも終わったようでした。

 「さあ、早くなさい。きっと次の方がもうお待ちのはずよ。…
ほら、急いで。いつまでもべそかいてるんじゃないの。だいたい
あなたがちゃんとお仕置きを受けないからこんなに遅くなるんで
しょう」
 茜ちゃんのお母さんのよく通る声が、待合いの桂子ちゃんにも
届きます。

 セントメリーの教えによれば、女の子は親や教師のお仕置きに
泣きわめいたりしてはいけないことになっていました。ですから
不作法な茜ちゃんはこの先さらにお仕置きが増えるかもしれま
せん。
 でも、それって桂子ちゃんにとっても決して他人事ではありま
せんでした。

 「まあ、やっぱりもういらっしゃってたのね。ごめんなさい
ね。今すぐ片づけますから」
 茜ちゃんのお母さんがこちらの様子を見に店先までやって来て、
またすぐに戻っていきます。

 そして、ほどなくして再び店先へ戻ると……
 「やっと、お部屋が片づきましたの。……いらして……」
 「お急ぎにならなくてもいいのに……」
 「いえ、いえ、とんでもない。急に割り込ましていただいて、
恐縮しておりますのよ。尾籠な匂いがまだちょっと残っておりま
して、本当は気が引けるんですが、合沢さんのところなら学校も
同じなので、まずは見ていただこうかと思って……」
 茜ちゃんのお母さんが桂子ちゃんのお母さんを誘います。

 通路の先、中庭を越えてさらにのその奥に離れの部屋がありま
した。
 そこへ、茜ちゃんのお母さんと桂子ちゃんのお母さん、それに
桂子ちゃんが到着しました。

 「何をですの?」
 桂子ちゃんの母親がそう言ったのをきっかけに障子戸が開かれ
中の様子が丸見えになります。

 中では茜ちゃんが正座した女中さんの膝の上にうつぶせになっ
ていました。学校の制服を着ていましたが、短いスカートは捲り
あげられ、ショーツもずり下ろされて可愛いお尻が丸見えです。

 リンゴのような真っ赤なお尻はお尻叩きをされた証でしょう。

 でも、そればかりではありません。茜ちゃんを膝に乗せた女中
さんの辺りには、まだ火のついたお線香がお線香立ての灰の中に
立っています。

 これを見れば茜ちゃんの身に何が起こったかは一目瞭然でした。

 「うちの茜は桂子ちゃんなんかと違ってお転婆でしょう。こう
でもしないとこたえないのよ」

 茜ちゃんのお母さんが合沢家の人たちに見せたかったのは我が
子がお仕置きされたあとの様子でした。

 今日ではまず考えられないでしょうが、昭和40年代のはじめ
頃までは、我が子のお仕置きを他人に見せつけるなんてことも、
そう珍しいことではありませんでした。見せしめもまた子どもの
お仕置きの大事な一つだったのです。

 きっと茜ちゃんは最初からお母さんにキツく言われていたので
しょう。合沢家の人たちが部屋に入ってきた時も、慌てた様子は
ありません。姿勢を崩さず声も出さずに真っ赤な顔をして恥ずか
しさに耐えていました。

 「まあ、まあ、茜ちゃん、大変だったわね。でも、このお薬は
将来きっと効いてくるわよ」
 桂子ちゃんのお母さんはそう言って茜ちゃんを励ましますが、
そんなこと今の彼女には何の助けにもなりません。

 『いってよ~、早く行ってえ~~』
 茜ちゃんはそれだけ願って涙を流しています。今の彼女にでき
ることは何もありませんでした。

 と、ここで茜ちゃんのお母さんが何かに気づきます。
 そこで茜ちゃんに膝を貸している節さん(女中さん)にそっと
耳打ちしました。
 「ここはもういいから、あれ、始末して頂戴」

 『あれ』と言って視線を投げかけたのは部屋の隅。そこには、
室内用の便器、つまりオマルが置いてありました。

 「はい」
 節さんは早々に正座を崩して茜ちゃんの上半身を大事そうに
抱え上げます。

 すると何を思ったのか、茜ちゃんが身を翻し、節さんより先に
立ち上がりました。
 脱兎のごとく駆け出すと部屋の隅にあったオマルを自分で拾い
上げて部屋を出て行こうとします。

 あまりのことに当初は誰も声を上げる暇がありませんでした
が、茜ちゃんが両手にオマルを抱えたまま障子の桟に手をかけた
ところで少し時間を取られましたからお母さんが声をかけます。

 「茜、何やってるの。そんなことは節さんに任せなさい」

 お母さんはこう言いますが……
 「いや」
 茜ちゃんは応じません。

 「そんな危なっかしい格好で……もしひっくり返しでもしたら
どうするつもりなの」

 お母さんの言う通りです。何しろそれは空っぽではないのです
から。

 「それにねえ、あなたはまだ小学生だから仕方がないけど……
女の子なんだから前ぐらい隠しなさいね。恥ずかしいわよ」

 これもお母さんの言う通りでした。茜ちゃんはあまりに慌てて
しまって、ショーツを脱がされていたことも短いスカートがピン
で留まっている事もどうやら忘れているみたいだったのです。

 当然、オマルを抱いた茜ちゃんのお臍から下は誰の目にからも
丸見え。いくら11歳でもそれが恥ずかしくないはずがありません。

 「いやあ~~」
 茜ちゃんはべそをかいてその場にしゃがみ込みます。

 ま、幸いにしてその場に居合わせたのが同じ女性ばかりでした
から、そんなに大きな傷にはならなかったようですが、茜ちゃん
のお母さんにしてみれば我が娘のことながら呆れて声が出ないと
いった顔をしていました。

 「さあ、お嬢ちゃま。これは私が始末しますから……」
 節さんが、へたり込んで正体なくオマルを抱きかかえたままで
いる茜ちゃんに声をかけます。
 ところが…

 「いい、これはいい。私がやるから…」
 茜ちゃんはこう言ってオマルを離そうとしません。でも、お母
さんの考えは違っていました。

 「茜、先様はお待ちになってるの。あなたの我が儘を聞いてる
暇はありませんよ」
 こう言われては、茜ちゃんも抱えているものを渡さないわけに
はいきませんでした。

 「ごめんなさいね。何ぶん我が儘娘なもんだから余計なお手間
を取らせちゃって……」

 茜ちゃんのお母さんの声を聞きながら、桂子ちゃんはふと自分
もこのくらいの歳に初めて母からお浣腸のお仕置きをされたこと
を思い出していました。

 『あれは色んなお仕置きの中でも特に恥ずかしいのよね。特に
最初は死ぬほど恥ずかしくて……終わると母にオマルを抱えさせ
られて、「自分で捨ててきなさい」だもん。お便所でひっくり返
しても完全に落ちきれないからおろおろしてると、「残ったどろ
どろは自分の手で掻き出せばいいでしょう」って言われて………
そりゃあ自分のものに違いないけど、情けなくて悔しくて、涙が
ぼろぼろ出て止まらなかった。最後はお庭の井戸水で綺麗にして
お店にお返したんだけど…ひょっとして今使ってるのも、あの時
のかしら……』

 桂子ちゃんが昔の思い出に浸っていると、母親二人がとんでも
ないことを話していたのです。

 「ねえ、上村さん。よかったらうちの桂子のお仕置き。茜ちゃ
んと一緒にご覧になりませんこと。うちの方が年長さんだから、
きっとお仕置きも厳しいはずよ」

 「やだ、ホントにいいの。助かるわ。茜も最近は生意気になる
一方で困ってたの。中学のお姉さんのお仕置きがどんなものかを
見せていただければ、うちの子の悪さにも少しはブレーキがかか
るんじゃないかしら…」

 「それはうちも同じよ。幼い子に恥ずかしいところを見られた
らしっかり堪えるでしょうから……」

 「ホント、家族同士、女同士じゃ、なれ合いになっちゃって、
効果が薄いですもの。助かりますわ」

 母親たちの会話は、当然、桂子ちゃんを震撼させます。

 慌てて鳩が豆鉄砲を食ったような顔でふりかえりますが…

 「どうかしたの?」
 桂子ちゃんのお母さんは娘が驚いて振り返ったのが不思議だと
でも言わんばかりの冷静さで尋ねました。

 「だって、私、そんなの聞いてないもん」
 桂子ちゃんが泣きそうな顔で口答えすると、お母さんは先ほど
よりさらに不思議そうな顔で桂子ちゃんに近づきます。そして、
鼻息がかかるほど顔と顔を近づけると一瞥しただけで離れ、今度
はいきなりプリーツスカートの裾をまくると持っていた1尺物の
物差しで太股をぴしゃり。

 「『聞いてない』って何なの!生意気言うんじゃありません。
お仕置きは親が必要と思う方法で必要なだけするものなの。……
あなたの指図は受けませんよ。わかりましたか?」

 「…………」

 「どうしたの?私は『わかりましたか?』って聞いているのよ」

 「は、…はい」
 それが桂子ちゃんの精一杯の答えでした。お母さんはさらに…

 「かがみなさい」
 こう言って桂子ちゃんを前屈させると、その両手が足のつま先
にまで届くほどにしておいて、今度は、ゆっくりスカートを捲り
上げます。

 当然、桂子ちゃんのショーツは丸見えになりますが…

 「……」
 「……」

 それはお母さんにとっても、桂子ちゃんにとっても、予想して
いないことでした。

 「桂子、どうしたの。このピンク。……あなた、まさか、今日
はお仕置きがあると分かっててわざとこれ穿いてきたんじゃない
でしょうね」

 「ごめんなさい。まだ白は乾いてなくて…」

 「乾いてないってどういうこと?……あなたの持ってる綿の白
は一枚きりなの?」

 「いいえ」

 「四枚や五枚は楽にあるはずよ。それを全部洗ったの?」

 「……」
 桂子ちゃんは、声はださずに小さく頷いてみせました。

 「呆れてものが言えないわ。あなた、まさか、校則違反のこの
シルクのショーツなんか穿いて学校へは行かなかったでしょうね」

 「それは……してないわ」

 「本当?あなたって子は、どうして毎日自分の下着を洗濯しな
いの?私、下着は一週間まとめて洗えばいいなんて教えたかしら」

 「忙しいかったんです。今週はずっと……」

 「忙しいって…あなた今週は毎日お風呂に入ってたじゃないの。
その時洗えばいいでしょう。まったく、14にもなってだらしが
ないったらないわ。そんなことだから成績がさがるの。この分じゃ、
勉強してるしてるって言っても怪しいもんだわね」

 お母さんはそう言ってる間にも、お竹さんから先ほどより長い
三尺ものの物差しを受け取ると、その先を桂子ちゃんのピンクの
パンティーに軽く押し当てます。

 これは、これから鞭のお仕置きをしますよという合図なのです
が、やはりそのピンクというのがお気に召さないようで、一旦、
その物差しを小脇に抱え込むと、まずは桂子ちゃんのパンティー
を足首までずり下ろしたのでした。

 「……」
 息を飲む桂子ちゃん。しかし、口答えや反論はできません。

 「茜ちゃん、ようく見ておきなさい。女の子はね、お口のきき
方一つでこんなに痛い思いをするのよ」

 そう忠告して放った竹の物差しでしたが、それがお尻に命中す
る前に…

 「いたあ~~い」
 桂子ちゃんは一足早く悲鳴を上げてしまいます。

 「何です、桂子、物差しが当たる前からあんなはしたない声を
上げたりして……お仕置きは遊びじゃないのよ」

 「そんなのわかってます」
 桂子ちゃんは少しふてくされたような様子で口答え。

 「わかってたら、なぜもっと素直にしてないのかしら」
 お母さんもこれにはイラっとしたのでしょう。こちらも、声が
少しだけ低くなります。これは桂子ちゃんにとって危険信号でした。

 「どうやらこんななまぬるいことじゃいけないみたいね。お竹
さん、ここには北条式がその納戸にあったでしょう。………そう
そう、その木馬のことよ。あれを出してきてくださいな」

 「あっ、ハイ」
 お竹さんはすぐに立ち上がります。

 すると、それにつられたように桂子ちゃんもぐっと曲げ込んだ
上体を起こして立ち上がります。

 「やめてよ、あんなの」
 こう言って抗議すると…

 「仕方がないでしょう。ぶたれる前から悲鳴をあげるような子
には、それなりの工夫をしなくちゃしめしがつきませんからね」

 「いやよ、そんなの。今日は……その……上村さんも見てるの
よ」

 「だから何なの?だからいいんでしょう。茜ちゃんにも緊張感
なくお仕置きを受けるととどうなるか。よいご教訓になってよ」

 お母さんの毅然とした物言いに、上村のお母さんも追い打ちを
かけます。

 「大丈夫よ、桂子ちゃん。ここであったことは誰にも言わない
から……おばさん、口は堅いのよ。……茜、あなたもここで見た
ことは誰にも言っちゃだめよ。わかった?」
 お母さんは茜ちゃんに約束させます。

 「はい、お母さん」

 「本当に誰にも言っちゃだめよ。もし、あなたの口から漏れた
ことがわかったら、この間、おじさまの処でやったお仕置きを、
もう一度、やり直しますからね」

 こう言われると茜ちゃんの顔がいっぺんに真っ青になりました。

 「だめ。あれだけはやらないで……もう二度とやらないって、
約束したでしょう」
 茜ちゃんは泣きそうな顔でお母さんの腕にしがみつきます。

 今すぐにここで何かが起こるというわけではないのに茜ちゃん
の身体はガタガタと震えています。彼女にしてみればそれほどの
恐怖体験だったのです。

 「まあ、おじさまの処ではとても大事な教訓を頂いたみたいね」

 桂子ちゃんのお母さんがこれを見て笑うと、同じように茜ちゃ
んのお母さんも笑顔で…
 「そうなんです。実は、つい先日のことなんですが、この子に
女の子の心棒を通しましたので……」

 「まあ、それはそれは大変だったわね。……でも、大丈夫よ。
家の桂子もあなたと同じ頃心棒を通したの。あれはセントメリー
の子なら誰でもやることなんだから……ちっとも恥ずかしいこと
じゃないわ……そうだ、家の桂子のを見せてあげましょうか」

 桂子ちゃんのお母さんがこう言うとたまらず桂子ちゃんも大声
になります。

 「いいかげん、やめてよ!どういうつもりよ!」

 でも、お母さんは…
 「何ですか、いきなり。ごろつきのような声を出してみっとも
ない……」
 お母さんは桂子ちゃんを睨みつけます。そして…

 「よろしいでしょう、別に減るものでもなし………茜ちゃんに
見せてあげれば。あの子だって『これは自分だけじゃないんだ』
って納得できるはずよ」

 「どうして、どうして私がそんなことしなきゃならないのよ」
 桂子ちゃんはお母さんの目の前に勢い込んで正座すると両手で
お母さんの二の腕を掴んで前後に揺すぶります。
 桂子ちゃんはもう必死だったのです。

 でも、お母さんの方は落ち着き払っています。

 「どうして?そもそも、あなた、ここへ何しに来たの?………
お仕置きで来たのよね。だったらいいじゃない。私の方がよっぽ
ど『どうして?』って聞きたいくらいだわ。……それに、あなた、
前のお仕置きが終わった時、私に約束したわよね。『これからは
どんなお仕置きでも素直に受けますから許してください』って…
お家でのお約束…あれは嘘だったのかしら?」

 「だって、あれは……」

 桂子ちゃんは口ごもります。本当なら……
 『お仕置きを他人に見せるなんて言わなかったじゃないの』
 という言葉がそのあとにつくはずですが、お母さんの怖い顔を
見て怖じ気づいてしまいます。

 「さあ、わかったらここへ仰向けになって両足を上げなさい」

 「…………」

 無言のままイヤイヤの意思表示をする桂子ちゃんにお母さんは
……
 「大丈夫よ。ここには女性しかいないもの。恥ずかしがること
ではないでしょう」

 「いやよ、そんなこと聞いてないわ」
 桂子ちゃんはとうとう正座した姿勢はそのまま、くるりとお母
さんに背を向けてしまいます。

 これには茜ちゃんのお母さんも苦笑してしまいます。

 一方、桂子ちゃんのお母さんはというと、ため息を一ついくと
がっくりと肩を落としてしまいます。娘の取った行動がショック
だったのでした。

 こんな事、今の娘さんなら何でも無いことでしょうから、理解
に苦しむかもしれませんが、その昔は子どもが随分大きくなった
後も親が強い躾の権限を持ち続けていましたから、よそ様の前で
こんなあからさまな反抗をされては親の威信に関わります。

 面子を潰された親にしてみれば大問題でしたから……
 「いいわ、あなたが見せたくないというなら。その代わり今の
あなたのその不躾な態度は許せません。もう一度女の子の心棒を
通してあげますからそこで待ってなさい」

 お母さんは毅然としてその場を立つと、凛とした声でこう宣言
して部屋を出ていきました。

 「(えっ!)」
 今度、驚いたのは桂子ちゃんです。他の人も見ていますから、
そんなに取り乱した様子も見せられませんが、顔は真っ青でした。

 案の定、部屋へ戻ってきたお母さんの手には艾の袋やらお線香
なんかが乗ったお盆が……

 「……!!!……」
 自分で蒔いた種とはいえ、それを見た瞬間、桂子ちゃんは凍り
つきます。

 心棒を通すというのは、セントメリー関係者の隠語で大陰唇に
お灸をすえるいう意味なのですが、ここが手足などと比べて特別
に熱いというわけではありませんでした。でも、女の子にとって
そこは特別な場所ですし、まして家族でも無い人から見られなが
らとなれば話はまったく別です。年頃の少女にとってそれが尋常
な精神状態では受け入れられないことは明らかでした。

 「ごめんなさい。お灸だけはしないで…他の罰なら何でも受け
るから」
 事この期に及んで恥も外聞もありません。桂子ちゃんは思わず
お母さんの足首にしがみつきます。

 でも、お母さんはそれを冷静な目で見下ろすと…
 「そうはいきませんよ。あなたは私に他人様の前で恥をかかせ
たんですからね。このくらいは当然です」

 「だって、そんなこと恥ずかしいから…私は茜ちゃんみたいな
赤ちゃんとは違うのよ」

 「何言ってるの。同じでしょ。14になったばかりの小娘が、
生意気言うんじゃありません。あなただって、ついさっきまで、
赤ちゃんだったじゃないの」

 お母さんはきっぱりと言い切ります。お母さんにとってみれば
桂子ちゃんが女を主張するには十年早いとでも言いたげだったの
です。

 子供にとっての一年前は遠い昔の事、ですからその間に自分は
随分と大人に近づいたと思っていますが、親世代にとっての一年
はあっと言う間の出来事。子どもの体に多少変化があったとして
も、手のかかる幼い頃のイメージが強くて、容易に大人とは認め
られないというのが本音でした。

 実はその傾向は、昔ほど、そして家柄のよい娘さんほど強くて、
桂子ちゃんも他人のいない自宅でならお母さんの言いつけを守り、
お尻をまくって、恥ずかしい場所をお母さんに見せることもでき
たでしょう。

 でも、ほとんど面識のない茜ちゃん親子に大事な処を見せると
なったら、そりゃあ誰だって何とか逃れたいと思うのが人情です。

 ただ桂子ちゃんのお母さんにしてみれば、『自分は娘をこんな
にも完璧に仕付けています』ということを茜ちゃんのお母さんに
見せつけたかったわけですから、こちらも譲れませんでした。

 「スカートを脱いでここへ、寝なさい」

 お手伝い歴8年のお竹さんが手回しよく敷いてくれていた布団
の上に桂子ちゃんは仰向けになります。もちろん、今でもイヤに
決まっていますが、もうこれ以上抵抗できないと悟ったようでした。

 制服のスカートが皺にならないようにハンガーに掛けられると
下半身を隠しているのはブラウスの短い裾と白いレースの付いた
スリーマー。そして飾り気のない例のピンクのショーツが一枚。
でも、お母さんに容赦はありません。

 「ショーツもお脱ぎなさい」
 あっさり言われてしまいます。

 そして、それに抵抗するかのように桂子ちゃんがもじもじして
しまうと……

 「今さら恥ずかしがることなんてないでしょう。さあ、さっさ
としなさい。お仕置きはこれだけじゃないのよ」
 と迫られます。

 「……!……」
 もう、やけ。桂子ちゃんは少し乱暴にショーツを脱いでしまう
のですが、そうすると……

 「ほら、また、この子は脱いだものを放り出したりしてお行儀
の悪い」
 お母さんはそう言いながら、くるくるっと縮こまった桂子ちゃ
んのショーツを拾い上げると丁寧に畳んで枕元に置きます。

 「ごめんなさいね。みっともないところお見せしちゃって……」

 桂子ちゃんのお母さんが言えば、茜ちゃんのお母さんも……

 「無理もありませんわ。お年頃ですもの。誰だって恥ずかしい
わよね」
 という返事が返ってきます。

 「よろしいんですよ。無理なさらなくても…」
 と、桂子ちゃんへの助け船のようなものを出しますと…

 「大丈夫ですわ。普段はもう少し場所柄をわきまえてるんです
けど…」

 お母さんは茜ちゃんのお母さんの方を向いている時はにこやか
ですが、そこから目を転じると急に顔つきが厳しくなります。

 「ほら、桂子、ちゃんと足を上げて」

 お母さんにこう命じられて桂子ちゃんはほんの少し両足を浮か
しかけたのですが、途中で止まってしまいました。

 そこでお竹さんがその重たい両足を手伝おうとするとそれには
足を閉じ膝を立てた状態で抵抗します。

 見かねた茜ちゃん家のお手伝い節さんも加勢に入ると、さらに
激しく小さく地団駄を踏んで抵抗しますから、お母さんはさらに
渋い顔です。

 「桂子!いい加減になさい!そんなに聞き分けがないなら日を
改めましょうか!お父様にここへ来ていただきましょう!その方
がよければそうしますよ」

 この声にはさすがに桂子ちゃんもなすすべがありませんでした。

 母親や同性同士ならまだしも、異性である父親にこんな醜態は
絶対に見せたくありません。それは年頃の娘にとって何より辛い
出来事ですから、どんな折檻より効果のある言葉だったのです。

 「………………」
 桂子ちゃんの両足が高々と上がり、さらにそれが左右に大きく
開いて大事な処が全てさらけ出されることになってもそれは仕方
がないと諦めるしかありませんでした。

 でも、お母さんはというと……

 「まったく、あなたって子は……一つ一つに世話が焼けるんだ
から……」
 娘が望み通りの姿勢になっても今ひとつ機嫌がよくありません。

 そんなむしゃくしゃした気持を小さく一つため息をつくことで
振り払ってから…
 「さあ、茜ちゃん。ここへいらっしゃい。見せてあげるわ」
 こう言って、怯えながら様子を窺っていた見ていた茜ちゃんを
笑顔で呼びます。

 でも、こんな状態ですから、よそのおばさんにそう言われても
正座を崩してすぐににじり寄るというわけでもありませんでした。

 そこは本当のお母さんの手を借りなければなりません。
 茜ちゃんは桂子ちゃんのお母さんのお誘いから一拍おいて自分
のお母さんに背中を抱かれるようにしてやって来ます。そこでは
まるで茜ちゃん自身が罪を犯したようでした。

 怖々、茜ちゃんが覗き込むと、そこにはケロイド状に光る丸い
皮膚がまるで小さなセロテープを貼り付けたようにして二つ見え
ます。

 もしこれが男性なら「お~う!」とのけぞるところかもしれま
せん。でも、茜ちゃんは女の子ですからそんな興奮はありません
でした。むしろ、そこはグロテスクで…

 「(うっ、ばっちいものを見た)」
 というのが正直な感想だったのです。

 「ね、これで安心したでしょう。これはあなただけじゃなくて
セントメリーのいわば伝統なの。たいていの子が、ここにお灸を
すえてもらって『ああ、自分は女の子なんだなあ』って実感でき
るようになるのよ」

 お母さんは茜ちゃんを説得しようとしますが…

 「茜、そんなことされなくても自分が女の子だってわかるもん」

 「もちろん、それはそうよ。でも、知識でわかってることと、
身体が実感として覚えてることには雲泥の差があるわ。あなた、
最近は門限が守れてるけど、それはどうして?」

 「えっ!?」

 「私がお灸をすえてあげたからでしょう。おかげで、『そんな
ことしてると、またお灸よ』と言えば、すぐに間違いに気づくで
しょう。効果覿面だわ」

 「……」茜ちゃんは何かを飲み込んで黙ってしまいました。

 「人は頭でわかっていても、そちらの方が楽なら、ついつい、
悪い道へ足を踏み入れてしまうものなの。…でも、それを止めて
くれるのが、お仕置きなの。……もしも、女の子から外れた行為
をしようとした時でも、お股の中に熱いものを入れられた子なら、
その時きっとお股の中がむずがゆくなって、自分が女の子だって
気づくはず。過ちは犯さなくなるわ」

 「男の子はしないの?」

 「男の子はデリケートだから、そんなことをしたら萎縮して、
お仕事ができなくなってしまうわ」

 「でも、女の子だけなんて不公平よ。どうして、女の子はお母
さんのお手伝いして、下着は自分で洗わなきゃいけないの?……
どうして、綺麗な字が書けなきゃいけないの?……どうして、お
友だちと喧嘩しちゃいけないの?…どうしてオナニーしちゃいけ
ないのよ?」

 茜ちゃんは一気にまくし立てます。
 お母さんは最後に出てきた言葉に慌てて伸び上がると、立って
いた茜ちゃんのお口を塞ぎますが、どうやら手遅れのようでした。

 今度は桂子ちゃんのお母さんが苦笑いする番だったのです。

 「仕方がないでしょう。神様がそのようにお造りになったんだ
から」

 「大人って都合が悪くなると何でも神様のせいにするのね」
 茜ちゃんは雄弁です。それは今日にあっては美徳かもしれませ
んが、結婚を前提とする当時の女の子には不要なものでした。

 「お黙りなさい!」
 とうとう茜ちゃんのお母さんの声が大きくなります。

 「まったくあなたって子は…せっかくセントメリーにお世話に
なっているのに、平気で学校を批判するようなことを言って……
そんなことが女の子らしくないことなんですよ。もし、今度そん
なお口のきき方したらもう一度お股の中におやいと入れて鍛えて
あげます。今度はお父様にやっていただきましょうかね」

 「…………」
 こう言われると、茜ちゃんはやはり何かを飲み込んで黙るしか
ありませんでした。

 「大丈夫よ。茜ちゃん。茜ちゃんはまだ小学生。女の子らしく
なんて言われても実感なんて湧かないわよねえ」

 桂子ちゃんのお母さんは娘の身なりを整え直すと、茜ちゃんの
共感者になろうとしてお愛想を言います。すると、それに答えた
のは茜ちゃんのお母さんでした。

 「まったく、変な言葉はすぐに覚えてくるし…男の子とケンカ
はするし…お転婆で困りものなの」

 「男勝りのお年頃。今が一番楽しい時だもの。少しくらいお仕
置きが増えたってお転婆じゃなきゃ人生が楽しくないわよねえ」
 と桂子ちゃんのお母さんが言えば……

 「でも、この頃を自由にさせちゃうと、将来は職業婦人になる
可能性が高いそうよ」
 と、茜ちゃんのお母さんが応じます。

 「まあ、そうなの。それは困るわね」

 「お母さんは、あなたを立派なお家に嫁がせようとして頑張っ
てるの。職業婦人なんかにするつもりはありませんからね」

 「えっ、私、スチュワーデスになりたいって言ったでしょう」
 大人たちの話に茜ちゃんが嘴を突っ込むと…

 「もちろん、それはそれで結構よ。だけど、いずれは結婚しな
きゃならないでしょう。女は自分で稼いで満足するんじゃ寂しい
わ。ご主人に愛され子供たちに愛されて幸せになるものよ。さあ、
今度はあなたが心棒をご覧にいれなさい」

 「えっ、わたしも?」

 「そりゃそうよ。桂子さんにだけ恥ずかしい思いをさせるわけ
にはいかないでしょう」

 「そんなあ、わたし、あんなもの見たいなんて言ってないもの」

 「何です!あんなものって……あなたが見たいかどうかなんて
聞いてません。何より先様に失礼よ」

 「まあまあ、よろしいんですよ」
 桂子ちゃんのお母さんはなだめますが、茜ちゃんのお母さんは
納得しません。

 「もし、お母さんの言う事が素直に従えないなら、明日もまた
今日と同じお仕置きで泣いてもらいますからね」

 「え~~~~」
 これにはさしもの茜ちゃんも言葉がありませんでした。

 そして桂子ちゃんと同じように仰向けになると両足を高く上げ
て開き、自らの御印を、桂子ちゃんをはじめこの部屋にいた女性
ばかり五人に公開したのでした。

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Appendix

このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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