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見沼教育ビレッジ(番外編1)~おまけ③-1~
*** 見沼教育ビレッジ(番外編1)~おまけ③-1~***
******<登場人物>**********
新井真治/家の主人
秋絵さん/お手伝いさん
子供たち/高坂知美(中2)
河合春花・森野美里(小4)
真里菜ちゃんと明日香ちゃん(小1)
園長先生/子供たちの小中学校の校長先生
***********************
春花ちゃん美里ちゃんのお仕置きが終わり二人は寝室へ……
真里菜ちゃんと明日香ちゃんは、お姉ちゃん二人のお仕置きが
始まる前に、すでに秋絵さんが隣の部屋で寝かしつけていました
から、二人ともすでに白河夜船のはずでした。
大人たちが居間への帰りしな、それを確認するためチビちゃん
たちの部屋を覗いてみます。
すると、案の定、小さな天使たちは美香のベッドで熟睡してい
ます。
可愛い唇が微妙に動いていましたから、きっと夢の住人たちと
いずれ楽しいお話の真っ最中なのでしょう。
二人にとってお灸のお仕置きはまだ先のことのようでした。
「一区切りつきましたね。やれやれ、ほっとしました」
真治氏はそう言って居間のソファに腰を下ろします。
でも、彼にはまだ大事な仕事が残っていたのです。
「あっ、秋絵さん、お茶」
真治氏の声に合せるように園長先生がこう言いいます。
「ご主人、どうでしょう、今、知美がコーヒーを入れますので
それを召し上がっていただけないでしょうか?」
次のステージは園長先生のこの何気ない一言がきっかけでした。
「えっ、知美さんが入れてくれるんですか?そりゃあ楽しみだ。
……秋絵さん、コーヒーの用意を……ネルドリップでいいですか」
真治氏は園長先生の提案を笑顔で受けます。
もちろん、この時はそれがどんな意味を持つのかなんて考えて
もみませんでした。
「でしたら、少し着替えにお時間をいただきますけど、ご辛抱
ください」
園長先生はそう言うと、知美さんを連れて奥の部屋へと下がり
ます。
コーヒーを入れるだけで、わざわざ着替えるなんておかしな話
ですが、中二の女の子がお茶をいれること自体はべつに不思議な
ことではありませんから、真治氏もさして深く考えずに応じたの
です。
それから10分ほどして、園長先生と知美さんが居間へ戻って
きます。
「まあ、こんな立派な茶器までご用意してくださって……さあ、
あなた、粗相のないようにしなければだめよ」
先生の指示に従い、知美さんはさっそく用意されたコーヒー豆
をミルで挽き始めます。
今回は布製のフィルターをセットしてお湯を注ぐだけなのです
が……その動きは最初からとてもぎこちないものだったのです。
『おやおや、こういうことか……』
真治氏は悔やみます。
『……ペーパーフィルターにしてやればよかったか……いや、
こんな事だとわかっていればインスタントコーヒーでよかったん
だが……うかつだったなあ……』
それは、今、知美さんの身に何が起こっているかを彼が推測で
きたからでした。
ただ、今、思い描いている事を口にするのは、真治氏にもはば
かられます。
知美さんはミルで豆を挽いていた段階で荒い息をしていました。
脂汗が額に浮き、手先が震えています。
布のフィルターをセットしてそこに挽いた豆をいれるだけでも
一苦労な様子で……
「はあ、はあ、はあ」
少しやってはすぐにその手が止まり、何んだか痛みが遠のくの
を待っているようにうずくまってしまいます。
コーヒーを入れる手順は熟知しているみたいなんですが、作業
が途切れ途切れなのでなかなか前に進みません。
そうやって、何度か作業を中断するうち……とうとう知美さん
はその場にうずくまってしまいます。
すると、その瞬間、真治氏の鼻先をある臭いが掠めるのです。
もうこうなると知美さんから出るのは脂汗だけではありません
でした。涙も一緒に光ります。
『仕方ないか……』
真治氏は一つ大きくため息。
実際、このような恐ろしいお仕置きは、美香にも香織にもまだ
した事がありませんでした。
「いいから、行ってきなさい」
打ちひしがれている知美さんにやさしく声をかけたのは真治氏
でした。
もちろん、こうしたことは、園長先生のお仕事なんでしょうが、
居てもたまらず声をかけたのでした。
「…………」
真治氏に声を掛けられた知美さんは動揺します。
そして、動揺したままの顔で、今度は園長先生を探すのでした。
視線を合せた園長先生は……
「……いいわ」
と、一言いって首を振ります。
それは、『この部屋から出なさい』という意味のようでした。
それを待っていたように、今度は秋絵さんが、知美さんに肩を
貸します。
秋絵さんもまた、今ここで何が起こっているのかを理解してい
たみたいです。
すると、園長先生は、傷心の知美さんに向かってさらに冷たく
こう言い放つのでした。
「知美さん、お家のおトイレはだめよ。汚すといけないから。
……お外のトイレでしなさい……いいですね」
「はい、先生」
知美さんは、蚊の泣くような声で答えて、先生に言われた通り
秋絵さんとお庭へ出ようとしますから真治氏が……
「構いませんよ。うちのトイレを使ってください。汚れたら、
掃除すればいいだけのことですから」
と引き止めたのですが、今度は園長先生が……
「ご好意は大変にありがたいのですが、女の子は男性と違って
そういうわけにはいかないのです。ご理解くださいませ」
と丁寧に断りをいれてきます。
いえ、そもそもそのお庭にお外用のトイレなんてありませんで
した。あるのは、お昼のうちに知美さんが園長先生に命じられて
掘った溝があるだけ。
園長先生が言う『お外のトイレ』とはそのことだったのです。
二人が去った後、居間に残った園長先生と真治氏は無口でした。
真治氏は言葉を捜し、園長先生は真治氏が何か話せば答えよう
と思っていました。
そんな真治氏が重い口を開いたのは知美さんが部屋を出てから
数分後のことです。
「私も、こんなことをしている親がいることは知っています。
……娘の言動が腹に据えかねて、こうしたことが頭を掠めた事も
何度かあったかもしれませんが……さすがに、自分の娘で試した
事はありませんでした」
「きっと軽蔑なさってるんでしょうね。……お仕置きとはいえ、
何てハレンチなことを、って……」
「いえ、そういうわけでは……その家のお仕置きは、その家の
事情で色々ですから、よそ者が口を挟むべきではないでしょう」
「仕方ないんです。あの子とご主人のお嬢様とでは住む世界が
違いますもの……」
「それだけ、あの子たちの現実は厳しいということですか?」
「ええ、あの子たちは、生まれながらにして親の業を背負って
生きていかねばならない定めにありますから……特に、モラルや
秩序については、人並み以上に敏感でなければならないんです」
「それで、より厳しいお仕置きをして従わせる………でも……
親はともかく、子供たちに責任ないでしょう?」
「観念的にはそうでも世間の感情は別です。仮にあの子たちが
世間の子と同じような罪を犯しても世間から受けるバッシングは
普通の子と同じではありませんもの」
「それで、教会の中に囲い込もうとするわけですか……」
「教会の中で清く美しく暮らすシスターの元へは、どんな誹謗
中傷も届きません。たとえそこで厳しいお仕置きがあったとして
も、それで済めば、世間の荒波に翻弄されるより心の傷はむしろ
小さくて済むんじゃないでしょうか……私たちはそう考えてるん
です」
「なるほど………ところで、知美ちゃんはどんな罪を犯したん
ですか?」
真治氏の問いに、園長先生は少し考えてから……
「………………脱走ですわ…………修道院を逃げ出したんです」
「脱走……理由は?」
「ありませんわ。ただ、外の世界に出てみたかったんでしょう。
思春期にはよくあります。一般人なら、入信還俗は自由ですが、
あの子たちの場合、親の意向で将来の道が一つに定められてます
から、そこは可哀想なんです」
「将来は修道女……でも、他に選択肢はないんですか?」
「生みの親が承諾すれば養女としてもらわれることはあります。
その場合は、養父がその子の将来を決めることになりますけど」
大人たちがおしゃべりをしている間に、知美ちゃんが居間へと
戻ってきます。
お腹の物はいちおう出してきましたが、園長先生の言いつけに
反して我慢ができませんでしたから、顔は暗いままでした。
そんな知美さん、気がついたように今一度コーヒーを入れよう
としますから……
「もういいわ。あなたの汚れた身体で入れたコーヒーをご主人
に飲んでいただくわけにはいかないもの」
園長先生が差し止めます。
でも、真治氏はそれをさらに打ち消してこう言うのでした。
「そんなことないよ知美さん。僕はいっこうに構わないから。
あらためてコーヒーを入れてくれないか。僕は君の入れてくれる
コーヒーを飲んでみたいんだ。……ね、いいでしょう、先生」
真治氏は園長先生の許可を得ます。
こうして知美さんはあらためてコーヒーをたて、それを真治氏
のテーブルに……
彼は知美さんの置いたカップを丁寧に拾い上げ、口をつけます。
もちろんこれ、真治氏がコーヒーを飲みたいわけではありませ
んでした。
彼は二人の娘の親であり、紳士録にも載るような立派なジェン
トルマンです。ですから、知美さんがたとえ自分の娘でなくても
『お仕置きは挫折で終わらせてはならない』という昔からの格言
をそこに当てはめてあげたのでした。
ただ、だからと言って、彼が何でもかんでも女性の言いなりに
なるフェミニストかというと、それもそうではありませんでした。
真治氏が知美さんの入れたコーヒーを飲み干し、文字通り一息
ついた時でした。
「知美さん、お約束は忘れていないでしょう」
園長先生の声がします。
「はい」
振り向いた知美さんが答えます。
「それを果たしましょうか」
園長先生の声は穏やかで、落ち着いていて、間違っても怒りの
感情がこもった声ではありませんでしたが……園長先生の手には
しっかりとケインが握られています。
何をするのかは明らかでした。
と、ここで再び真治氏が……
「先生、それを私にやらせていただけませんか?」
「……(まさか、じょ…冗談でしょう)……」
知美さんは声こそ出しませんでしたが、顔面蒼白、今にも気絶
しそうな青い顔をして真治氏を見つめます。
『だって、それって約束が……』
彼女の思いは顔に書いてありました。
でも……
「わかりました。本来、これは私の仕事ですが、ここはご主人
にお譲りしましょう」
園長先生はあっさり真治氏のお願いを聞きいれます。
『そんなあ~~~』
それは知美さんにしてみたら、いきなり向こうからやって来た
地獄ということでしょうか。
本当はその場で泣き叫びたいほどのショックだったに違いない
のですが、ただ、育ちのよさ、厳しい躾がそうさせてくれません
でした。
「ご主人はパブリックスクールへの留学経験もおありだとか。
まさかここで本場の鞭打ちを拝見できるとは思いませんでしたわ」
園長先生のお世辞に真治氏は苦笑いを浮かべて……
「いえ、それは関係ありませんよ。私はもっぱらぶたれる方で
したから……でも、せっかくの機会ですし、たまには悪役も交代
した方が、先生のご負担も減るんじゃないかと思いまして」
「まあ、お口の悪い……悪役だなんて……でも、そうかもしれ
ませんね。この子にお仕置きの効果が出るまでにはまだ何十年も
かかるでしょうから……いずれにしても、本当にありがとうござ
います。まさか、こんな事までしていただけるとは思いませんで
したわ。……では、いくつよろしいのでしょうか」
「1ダースで……少し痛いかもしれませんが、14歳ですから、
頑張れるんじゃないでしょうか……先生は、どうぞこの机の前で
知美ちゃんの手を押さえてあげてください」
「はい、承知しました」
大人たちが勝手に話をまとめていきます。
そこに知美さんが割り込む隙はありませんでした。
やがて、大きな花瓶が片付けられ、それを乗せていたテーブル
が鞭打ち台へと代わります。
ちなみにこのテーブルは、真治氏の娘たち、美香や香織も利用
するテーブルでした。
「さあ、ここにうつ伏せになって……」
真治氏にこう言われた知美は振り返って悲しい顔を見せます。
すると、優しい刑吏は穏やかに首を横に振って……
「今日は運悪く悪魔の館に迷い込んだと思って諦めるしかない
んだよ。これを乗り越えたら、また、次には良い事もあるから、
辛抱しなきゃ」
「えっ?……あっ……はい」
知美はハッとします。
『今、自分は何を期待してあんな哀れんだ顔をしてしまったん
だろう』
そう思うと自分が情けなくなりました。
彼女のスカートの丈は幼い頃に比べれば幾分長くなりましたが、
お尻叩きのやり方は幼い頃と同じでした。
「じゃあ、いくよ」
真治氏の穏やか声が掛かりカナリアイエローのフリルスカート
が捲り上げられると、さっきお漏らしをして履き替えたばかりの
ちょっとぶかぶかの白いショーツが顔を出します。
知美さんの顔が緊張と恥ずかしさでポッと赤くなります。
でも、できるのはそれだけ。あとはもう、机に抱きついてされ
るがままだったのでした。
*** 見沼教育ビレッジ(番外編1)~おまけ③-1~***
******<登場人物>**********
新井真治/家の主人
秋絵さん/お手伝いさん
子供たち/高坂知美(中2)
河合春花・森野美里(小4)
真里菜ちゃんと明日香ちゃん(小1)
園長先生/子供たちの小中学校の校長先生
***********************
春花ちゃん美里ちゃんのお仕置きが終わり二人は寝室へ……
真里菜ちゃんと明日香ちゃんは、お姉ちゃん二人のお仕置きが
始まる前に、すでに秋絵さんが隣の部屋で寝かしつけていました
から、二人ともすでに白河夜船のはずでした。
大人たちが居間への帰りしな、それを確認するためチビちゃん
たちの部屋を覗いてみます。
すると、案の定、小さな天使たちは美香のベッドで熟睡してい
ます。
可愛い唇が微妙に動いていましたから、きっと夢の住人たちと
いずれ楽しいお話の真っ最中なのでしょう。
二人にとってお灸のお仕置きはまだ先のことのようでした。
「一区切りつきましたね。やれやれ、ほっとしました」
真治氏はそう言って居間のソファに腰を下ろします。
でも、彼にはまだ大事な仕事が残っていたのです。
「あっ、秋絵さん、お茶」
真治氏の声に合せるように園長先生がこう言いいます。
「ご主人、どうでしょう、今、知美がコーヒーを入れますので
それを召し上がっていただけないでしょうか?」
次のステージは園長先生のこの何気ない一言がきっかけでした。
「えっ、知美さんが入れてくれるんですか?そりゃあ楽しみだ。
……秋絵さん、コーヒーの用意を……ネルドリップでいいですか」
真治氏は園長先生の提案を笑顔で受けます。
もちろん、この時はそれがどんな意味を持つのかなんて考えて
もみませんでした。
「でしたら、少し着替えにお時間をいただきますけど、ご辛抱
ください」
園長先生はそう言うと、知美さんを連れて奥の部屋へと下がり
ます。
コーヒーを入れるだけで、わざわざ着替えるなんておかしな話
ですが、中二の女の子がお茶をいれること自体はべつに不思議な
ことではありませんから、真治氏もさして深く考えずに応じたの
です。
それから10分ほどして、園長先生と知美さんが居間へ戻って
きます。
「まあ、こんな立派な茶器までご用意してくださって……さあ、
あなた、粗相のないようにしなければだめよ」
先生の指示に従い、知美さんはさっそく用意されたコーヒー豆
をミルで挽き始めます。
今回は布製のフィルターをセットしてお湯を注ぐだけなのです
が……その動きは最初からとてもぎこちないものだったのです。
『おやおや、こういうことか……』
真治氏は悔やみます。
『……ペーパーフィルターにしてやればよかったか……いや、
こんな事だとわかっていればインスタントコーヒーでよかったん
だが……うかつだったなあ……』
それは、今、知美さんの身に何が起こっているかを彼が推測で
きたからでした。
ただ、今、思い描いている事を口にするのは、真治氏にもはば
かられます。
知美さんはミルで豆を挽いていた段階で荒い息をしていました。
脂汗が額に浮き、手先が震えています。
布のフィルターをセットしてそこに挽いた豆をいれるだけでも
一苦労な様子で……
「はあ、はあ、はあ」
少しやってはすぐにその手が止まり、何んだか痛みが遠のくの
を待っているようにうずくまってしまいます。
コーヒーを入れる手順は熟知しているみたいなんですが、作業
が途切れ途切れなのでなかなか前に進みません。
そうやって、何度か作業を中断するうち……とうとう知美さん
はその場にうずくまってしまいます。
すると、その瞬間、真治氏の鼻先をある臭いが掠めるのです。
もうこうなると知美さんから出るのは脂汗だけではありません
でした。涙も一緒に光ります。
『仕方ないか……』
真治氏は一つ大きくため息。
実際、このような恐ろしいお仕置きは、美香にも香織にもまだ
した事がありませんでした。
「いいから、行ってきなさい」
打ちひしがれている知美さんにやさしく声をかけたのは真治氏
でした。
もちろん、こうしたことは、園長先生のお仕事なんでしょうが、
居てもたまらず声をかけたのでした。
「…………」
真治氏に声を掛けられた知美さんは動揺します。
そして、動揺したままの顔で、今度は園長先生を探すのでした。
視線を合せた園長先生は……
「……いいわ」
と、一言いって首を振ります。
それは、『この部屋から出なさい』という意味のようでした。
それを待っていたように、今度は秋絵さんが、知美さんに肩を
貸します。
秋絵さんもまた、今ここで何が起こっているのかを理解してい
たみたいです。
すると、園長先生は、傷心の知美さんに向かってさらに冷たく
こう言い放つのでした。
「知美さん、お家のおトイレはだめよ。汚すといけないから。
……お外のトイレでしなさい……いいですね」
「はい、先生」
知美さんは、蚊の泣くような声で答えて、先生に言われた通り
秋絵さんとお庭へ出ようとしますから真治氏が……
「構いませんよ。うちのトイレを使ってください。汚れたら、
掃除すればいいだけのことですから」
と引き止めたのですが、今度は園長先生が……
「ご好意は大変にありがたいのですが、女の子は男性と違って
そういうわけにはいかないのです。ご理解くださいませ」
と丁寧に断りをいれてきます。
いえ、そもそもそのお庭にお外用のトイレなんてありませんで
した。あるのは、お昼のうちに知美さんが園長先生に命じられて
掘った溝があるだけ。
園長先生が言う『お外のトイレ』とはそのことだったのです。
二人が去った後、居間に残った園長先生と真治氏は無口でした。
真治氏は言葉を捜し、園長先生は真治氏が何か話せば答えよう
と思っていました。
そんな真治氏が重い口を開いたのは知美さんが部屋を出てから
数分後のことです。
「私も、こんなことをしている親がいることは知っています。
……娘の言動が腹に据えかねて、こうしたことが頭を掠めた事も
何度かあったかもしれませんが……さすがに、自分の娘で試した
事はありませんでした」
「きっと軽蔑なさってるんでしょうね。……お仕置きとはいえ、
何てハレンチなことを、って……」
「いえ、そういうわけでは……その家のお仕置きは、その家の
事情で色々ですから、よそ者が口を挟むべきではないでしょう」
「仕方ないんです。あの子とご主人のお嬢様とでは住む世界が
違いますもの……」
「それだけ、あの子たちの現実は厳しいということですか?」
「ええ、あの子たちは、生まれながらにして親の業を背負って
生きていかねばならない定めにありますから……特に、モラルや
秩序については、人並み以上に敏感でなければならないんです」
「それで、より厳しいお仕置きをして従わせる………でも……
親はともかく、子供たちに責任ないでしょう?」
「観念的にはそうでも世間の感情は別です。仮にあの子たちが
世間の子と同じような罪を犯しても世間から受けるバッシングは
普通の子と同じではありませんもの」
「それで、教会の中に囲い込もうとするわけですか……」
「教会の中で清く美しく暮らすシスターの元へは、どんな誹謗
中傷も届きません。たとえそこで厳しいお仕置きがあったとして
も、それで済めば、世間の荒波に翻弄されるより心の傷はむしろ
小さくて済むんじゃないでしょうか……私たちはそう考えてるん
です」
「なるほど………ところで、知美ちゃんはどんな罪を犯したん
ですか?」
真治氏の問いに、園長先生は少し考えてから……
「………………脱走ですわ…………修道院を逃げ出したんです」
「脱走……理由は?」
「ありませんわ。ただ、外の世界に出てみたかったんでしょう。
思春期にはよくあります。一般人なら、入信還俗は自由ですが、
あの子たちの場合、親の意向で将来の道が一つに定められてます
から、そこは可哀想なんです」
「将来は修道女……でも、他に選択肢はないんですか?」
「生みの親が承諾すれば養女としてもらわれることはあります。
その場合は、養父がその子の将来を決めることになりますけど」
大人たちがおしゃべりをしている間に、知美ちゃんが居間へと
戻ってきます。
お腹の物はいちおう出してきましたが、園長先生の言いつけに
反して我慢ができませんでしたから、顔は暗いままでした。
そんな知美さん、気がついたように今一度コーヒーを入れよう
としますから……
「もういいわ。あなたの汚れた身体で入れたコーヒーをご主人
に飲んでいただくわけにはいかないもの」
園長先生が差し止めます。
でも、真治氏はそれをさらに打ち消してこう言うのでした。
「そんなことないよ知美さん。僕はいっこうに構わないから。
あらためてコーヒーを入れてくれないか。僕は君の入れてくれる
コーヒーを飲んでみたいんだ。……ね、いいでしょう、先生」
真治氏は園長先生の許可を得ます。
こうして知美さんはあらためてコーヒーをたて、それを真治氏
のテーブルに……
彼は知美さんの置いたカップを丁寧に拾い上げ、口をつけます。
もちろんこれ、真治氏がコーヒーを飲みたいわけではありませ
んでした。
彼は二人の娘の親であり、紳士録にも載るような立派なジェン
トルマンです。ですから、知美さんがたとえ自分の娘でなくても
『お仕置きは挫折で終わらせてはならない』という昔からの格言
をそこに当てはめてあげたのでした。
ただ、だからと言って、彼が何でもかんでも女性の言いなりに
なるフェミニストかというと、それもそうではありませんでした。
真治氏が知美さんの入れたコーヒーを飲み干し、文字通り一息
ついた時でした。
「知美さん、お約束は忘れていないでしょう」
園長先生の声がします。
「はい」
振り向いた知美さんが答えます。
「それを果たしましょうか」
園長先生の声は穏やかで、落ち着いていて、間違っても怒りの
感情がこもった声ではありませんでしたが……園長先生の手には
しっかりとケインが握られています。
何をするのかは明らかでした。
と、ここで再び真治氏が……
「先生、それを私にやらせていただけませんか?」
「……(まさか、じょ…冗談でしょう)……」
知美さんは声こそ出しませんでしたが、顔面蒼白、今にも気絶
しそうな青い顔をして真治氏を見つめます。
『だって、それって約束が……』
彼女の思いは顔に書いてありました。
でも……
「わかりました。本来、これは私の仕事ですが、ここはご主人
にお譲りしましょう」
園長先生はあっさり真治氏のお願いを聞きいれます。
『そんなあ~~~』
それは知美さんにしてみたら、いきなり向こうからやって来た
地獄ということでしょうか。
本当はその場で泣き叫びたいほどのショックだったに違いない
のですが、ただ、育ちのよさ、厳しい躾がそうさせてくれません
でした。
「ご主人はパブリックスクールへの留学経験もおありだとか。
まさかここで本場の鞭打ちを拝見できるとは思いませんでしたわ」
園長先生のお世辞に真治氏は苦笑いを浮かべて……
「いえ、それは関係ありませんよ。私はもっぱらぶたれる方で
したから……でも、せっかくの機会ですし、たまには悪役も交代
した方が、先生のご負担も減るんじゃないかと思いまして」
「まあ、お口の悪い……悪役だなんて……でも、そうかもしれ
ませんね。この子にお仕置きの効果が出るまでにはまだ何十年も
かかるでしょうから……いずれにしても、本当にありがとうござ
います。まさか、こんな事までしていただけるとは思いませんで
したわ。……では、いくつよろしいのでしょうか」
「1ダースで……少し痛いかもしれませんが、14歳ですから、
頑張れるんじゃないでしょうか……先生は、どうぞこの机の前で
知美ちゃんの手を押さえてあげてください」
「はい、承知しました」
大人たちが勝手に話をまとめていきます。
そこに知美さんが割り込む隙はありませんでした。
やがて、大きな花瓶が片付けられ、それを乗せていたテーブル
が鞭打ち台へと代わります。
ちなみにこのテーブルは、真治氏の娘たち、美香や香織も利用
するテーブルでした。
「さあ、ここにうつ伏せになって……」
真治氏にこう言われた知美は振り返って悲しい顔を見せます。
すると、優しい刑吏は穏やかに首を横に振って……
「今日は運悪く悪魔の館に迷い込んだと思って諦めるしかない
んだよ。これを乗り越えたら、また、次には良い事もあるから、
辛抱しなきゃ」
「えっ?……あっ……はい」
知美はハッとします。
『今、自分は何を期待してあんな哀れんだ顔をしてしまったん
だろう』
そう思うと自分が情けなくなりました。
彼女のスカートの丈は幼い頃に比べれば幾分長くなりましたが、
お尻叩きのやり方は幼い頃と同じでした。
「じゃあ、いくよ」
真治氏の穏やか声が掛かりカナリアイエローのフリルスカート
が捲り上げられると、さっきお漏らしをして履き替えたばかりの
ちょっとぶかぶかの白いショーツが顔を出します。
知美さんの顔が緊張と恥ずかしさでポッと赤くなります。
でも、できるのはそれだけ。あとはもう、机に抱きついてされ
るがままだったのでした。
*** 見沼教育ビレッジ(番外編1)~おまけ③-1~***
見沼教育ビレッジ(番外編1)~おまけ②~
*** 見沼教育ビレッジ(番外編1)~おまけ②~***
*)仮置き原稿
******<登場人物>**********
新井真治/家の主人
秋絵さん/お手伝いさん
子供たち/高坂知美(中2)
河合春花・森野美里(小4)
真里菜ちゃんと明日香ちゃん(小1)
園長先生/子供たちの小中学校の校長先生
***********************
夕食が終わり、つかの間の歓談。やがて……
「では、ご主人。ご見学のほどよろしくお願いします」
園長先生の言葉で食堂の全員が仏間となっている和室へと移動
することになった。
春花ちゃんと美里ちゃんへのお仕置きは、ここへ来ていきなり
告げられたわけではない。子どもたち全員が学校を出る時すでに
どんなお仕置きになるかを告げられていたのである。
つまり、真里菜ちゃんや明日香ちゃんのような幼い子はべつに
して、この家を訪ねたときには心の準備はできていたのだ。
ただ、それにしても取り乱さない子どもたちの姿に、真治氏は
好感がもてた。昔の良家の子女はたとえ親からお仕置きされる時
でも気品を失わないように躾られている。そんな古きよき伝統が
こんな孤児院で守られていることが嬉しかったのだ。
そこで、彼、こんな事を提案したのである。
「どうでしょう、私が艾のいくつかに火をつけるというは……
もちろん、お仕置きに差し障りがなければ、ですが……」
すると、先生も……
「まあ、やっていただけるんですか。それは何よりですわ」
と応じたのである。
大人たちが襖を開くと、六畳の仏間にはすでに薄手のお布団が
敷かれ腰枕が二つ置いてある。そこにお線香や艾はもちろんだが、
万が一、粗相した時のためにバスタオルやパンツの着替えまで、
秋絵さんによって抜かりなく用意されていた。
「恐れ入ります、こんなに丁寧にご準備くださって……」
感激した園長先生が秋絵さんにお礼を言うと……
「何でもありませんわ。うちのお嬢様も、こうしたことござい
ますから」
という答えが……
実際、ここの娘である美香や香織もこの薄い布団の上で必死の
形相になったことが1度や2度でなかった。
「さあ、お二人さん。ここで裸になりなさい。残していいのは
靴下だけ。あとは全部脱いで頂戴」
「…………」
「…………」
園長先生の命令にすでに正座していた二人は互いの顔を見合せ
ますが……気まずい雰囲気……
「…………」
「…………」
続いて、締め切られた襖や同じように部屋の隅で正座している
真里菜ちゃんや明日香ちゃん、それに知美おねえちゃんを見ます。
「…………」
「…………」
でも、もう部屋のどこを探しても『やらないですむという方法』
というのは見つかりませんでした。
「さあ、やってしまいましょう。いくらお部屋を眺めていても
お仕置きは終わりませんよ……先程はおじさまのご好意であなた
たちは恥をかかずにすんだかもしれませんけど、私の方は大恥を
かいたの。今度はそうはいきませんよ」
同じように正座をしていても園長先生は背筋を伸ばし凛とした
姿で上から幼い二人を睨みます。
こうまでされては仕方がありませんでした。
春花ちゃんが、最初に自分のブラウスに手をかけて脱ぎ始め、
美里ちゃんがあとに続きます。
「まったく、二人とも手間がかかりますね。新井のおじさまが
ここまでご用意くださったの。今度、私に恥をかかせたら、学校
に戻ってからもう一度お仕置きのやり直しですから。……覚えて
おきなさい。……いいですね」
園長先生は服を脱ぎ始めた二人を前にして更なるお説教です。
対する二人はというと……
「はい、ごめんなさい」
「ごめんなさい」
蚊のなくような声を出すのがやっとでした。
二人は服を脱ぐためにいったん立ち上がりますが、靴下を除き
素っ裸になると再び正座に戻ります。
ただ、その様子はとても落ち着かないものでした。
両手で胸を覆い、お臍の下の割れ目を何とか隠そうとして、前
かがみになってもじもじと太股を締め続けます。
夏のことですから裸になっても寒いということはありませんが、
とてもじっとしていられない様子だったのです。
もちろん、胸など膨らんでいませんし、陰毛だってありません。
大人の兆候なんてまだ何もありませんが、そこは女の子でした。
そんな二人に園長先生はご挨拶を命じます。
「それでは、まず、こんなにも立派なお仕置きの場を用意して
下さった新井のおじさまにお礼をいいましょう。…………ほら、
ちゃんと背筋を伸ばして……『新井のおじさま、お仕置き、あり
がとうございます』」
先生がお手本をみせて、頭をさげますと、小学生は真似しない
わけにはいきませんでした。
「新井のおじさま、お仕置き、ありがとうございます」
「新井のおじさま、お仕置き、ありがとうございます」
二人は靴下以外は素っ裸。でも真治氏に向かって両手を着くと、
園長先生を真似てしっかりご挨拶します。
庶民感覚では自分をお仕置きする親に『ありがとうございます』
なんて変ですが、これもお嬢様仕様。お嬢様の世界でならこれも
常識でした。
「さあ、それでは、まず最初はお尻のお山からよ。お布団の上
に、うつ伏せになって……」
ご挨拶がすむと、園長先生の指示で、二人はうつ伏せに……
すると、今度はそれまでとは打って変わって素早く動きます。
もうこうなったら、早くやって早く終わらすしかありませんで
した。
「何だ、やればできるじゃないの」
園長先生はそう言って艾を丸め始めます。
その手先、手馴れたものでした。
綺麗な円錐形になって艾が七つ八つあっという間にお盆の上に
並べられ、まず最初の二つが二人の左のお尻の山へ乗ります。
「……!……」
「……!……」
据えられた経験のある二人、もうそれだけで背筋に電気が走り
ました。
「あなたたちの悪戯には、私もほとほと手を焼いてきたけど、
今日はいい機会ですからね、新井のおじさまに据えて頂きます。
私なんかと違って、それはそれは熱いですからね。噛み枕を口の
中に入れて、それをしっかり噛み締めて熱さに耐えるんですよ。
わかりましたか?」
「…………」
「…………」
二人の少女は明らかに動揺していました。
『先生の普段やっているお灸より熱いって……どのくらい大変
なんだろう』
取り乱した様子は見せなくても心配で心がパニックに……。
当然ご返事も遅れてしまうのです。
「どうしました?ご返事は?」
園長先生に少し強い調子で命じられて二人は我に返ったみたい
でした。
「はい、先生」
「はい、先生」
真治氏の仕事は艾に火を移すだけのことですから、誰がやって
も結果は同じ。彼がやったからって特別熱いなんてことはありま
せんが、信頼している園長先生の言葉ですから幼い二人は素直に
信じます。
嘘も方便。お仕置きとしては好都合でした。
やがて、真治氏が火のついたお線香を持ってまずは春花ちゃん
のお尻へと近づきます。
艾の乗った付近を少し摘み上げてお線香の火を艾へと移すと、
それはあっという間に下へと降りていきました。
「い~~~~ひ~~~~だめえ~~取って、取って、取って、
いやあ~~~ん」
両足を必死にバタつかせ、噛み枕を吐き出して、腰を振ります。
でも、春花ちゃん、学校や寮ではこうではありませんでした。
幼稚園時代からお転婆娘だった彼女はお灸の経験だって一回や
二回じゃありません。ですが、逆にその事で熱さに慣れてしまい、
最近では、『鞭のお仕置きなんかよりこっちの方が楽よ』なんて
涼しい顔で友だちに吹聴していたくらいでした。
もちろん艾を大きくすれば一時的に効果は上がるでしょうが、
そのぶん痕も大きく残ります。ですから園長先生はそのことには
否定的だったのです。
それが今回……
大人の男性からいきなりお尻の肉を摘まれたショックと熱い火
の玉の痛み、おまけに園長先生から『特別熱い』なんて脅されて
いましたから、熱がる姿もそりゃあ尋常じゃありませんでした。
園長先生としては大成功というわけです。
園長先生は穏やかな笑顔を見せて真治氏に会釈します。それは
協力してくれたことへの無言のお礼でした。
さて、次は美里ちゃんです。
美里ちゃんは、春花ちゃんのお友だちでしたが、春花ちゃんに
比べればおとなしい子でした。
ですから普段から威勢のいい事ばかり言っている春花ちゃんの
狼狽ぶりを間近に見てショックを受けます。
お尻から太股にかけて鳥肌がたち全身が小刻みに震えています。
『どうしよう』『どうしよう』
お灸を据えられる前からうろたえているのがよく分かりました。
もうこれなら、十分にお仕置きの効果ありです。あえてお灸を
据えなくてもよくいらいですが、園長先生は、それでも真治氏に
艾への点火を依頼します。
それは、美里ちゃんだけ許してしまうと春花ちゃんがひがんで
女の子の友情にひびが入りかねないからでした。
ただ……
「ひ~~~~~~~」
美里ちゃんは、お手玉のような噛み枕を吐き出すこともなく、
必死に熱さに耐えて頑張ります。
いえ、そうやって美里ちゃんが頑張れたのは、園長先生が春花
ちゃんの時よりほんの一瞬早く、艾をその親指でもみ消したから
でした。
『この子は反省できた。お仕置きは終わり』というわけです。
ただ、この一箇所だけでお灸のお仕置きが全て終了というわけ
ではありませんでした。
今度は、右のお尻のお山に据えられます。
「い~~~~ひ~~~~だめえ~~取って、取って、取って、
いやあ~~~ん」
春花ちゃんは再び悲鳴を上げます。
二つ目のお灸もそれで慣れるということはありませんでした。
「う~~~~~~ひ~~~~~~~」
美里ちゃんもそれは同じです。
さらに……
「さあ、今度はここ。いつもあなたたちが熱い熱いって泣いて
るお尻のお骨にいきますからね。今まで以上に頑張らないと……
お漏らしすることになるわよ」
園長先生はそう言って二人の尾てい骨を人差し指でグリグリ、
加えて割れ目の中にまで手を入れてオシッコの出口をグリグリ、
真治氏すら赤面するようなことを、同性の強みでさらりとやって
のけます。
たしかに、尾てい骨へのお灸は熱いみたいで……過去、幾度も
お漏らしする子がいました。
「いやあ~~~ごめんなさい!もうしません、しません」
「だめえ~~~あつい、いや、いや、いや、お願いやだあ」
二人とも噛み枕を吐き出して布団をバタ足で蹴り続けます。
こんなことはお尻のお山に据えられていた時はなかったことで
した。
と、ここまでは真治氏もある程度予測していた。
というのも自分の娘たちにも同じようなことをしていたからだ。
今の娘は、自分のお尻を見ず知らずの人に見せることに抵抗が
ないみたいだが、当時は、そんなこと、親が心配する必要がない
ほどありえなかった。
だから、逆に、ここに小さな火傷の痕があったとしても、親は
さして心配しなかったのである。
しかし、園長先生は二人をいったん正座させると、二人にさら
なるお仕置きを命じる。
「少し落ち着いたら、前にも据えていただきましょう。まずは
春花ちゃんから……今度は仰向けになって寝なさい」
真治氏は、何気に言い放った園長先生の言葉に驚いた。
『えっ!?この子たちはそこもやるのか!』
女の子の前とは、おそらくお臍の下、ビーナス丘あたりを指す
のだろうが、そこは子宮のある場所でもある……そこへの施灸は
さすがに女の子には可哀想だと感じられたのだ。
ただ、覚悟を決めてお布団の上に寝そべっている春花ちゃんの
その場所にはすでにしっかりとした灸痕が刻まれている。すでに、
何度か経験があるようだった。
となると、いったん引き受けたからには『これは嫌です』とは
言いにくかった。そこで……
「先生、実は私、あの場所への施灸は経験がないのです」
園長先生の耳元まで行って囁く。
「大丈夫ですわ。艾はこちらで用意して乗せますのでご主人は
お線香の火を艾に移してくださればよろしいかと思います。後は
こちらで処理いたします。大事なことは、この子たちに男性から
お灸を据えられる恥ずかしさを体験させることですから……熱さ
じゃありませんのよ」
先生もまた、子供たちにさえ聞こえないような小声でこう囁く。
真治氏、やらないわけにはいかなかったのである。
今までとやり方は同じ。園長先生がご自分で整形した艾を施灸
の場所へと乗せていく。
ただ、今度はお尻と違い、艾が乗せられところ火をつけられる
ところを子供たちは目の当たりにするわけで、それだけでも十分
に辛い罰だった。
「さあ、しっかり踏ん張りなさい」
今度は園長先生ご自身で春花ちゃんのビーナス丘のその場所を
摘み上げる。
「お願いします」
真治氏は園長先生の言葉を受けて、その盛り上がった丘の天辺
へお線香の赤い頭を近づけた。
「……あっ、熱い……いや、いや、だめ~だめ~」
顔を歪ませ、眉間に皺を寄せて必死に耐える春花ちゃん。
彼女が激しく泣き叫ばなかったのは、むしろこうした事に慣れ
ているからだろう。
「はい、先生、ここにもう一つ」
園長先生は、そのたびに真治氏を呼んで火をつけさせ、終れば
またすぐ隣りに次の艾を乗せていく。
お尻の艾に比べればこちらの艾は小さいが、春花ちゃんのそれ
だって狭いお庭なわけで、そんな処に、春花ちゃんは結局六個も
お灸を据えられるはめになったのだからたまったものではない。
抓られた赤みとお灸の熱による赤みで最後は全体が真っ赤々に
なっていた。
「春花ちゃん、お臍の下がカイロを乗せたみたいに今でも暖か
いでしょう」
園長先生は春花ちゃんが頷くのを確認すると…
「しばらくはそうやってじっとして反省してななさい。絶対に
触っちゃだめよ。綺麗に治らなくなりますからね。わかった」
先生は、再度春花ちゃんが頷くのを確認して今度は美里ちゃん
に取り掛かる。
こちらは春花ちゃんの様子を見ていて怖気づいたのか、すでに
最初からべそをかいていた。
すると、園長先生、タオルで美里ちゃんの涙を拭きながらも、
それを叱るのだ。
「何ですか、こんなに大きな子が、お灸のお仕置きくらいで、
めそめそしたりして……そんな顔しないの。……お仕置きをして
いただく新井のおじさまに失礼よ。ほら、もっとシャキッとしな
さい。……先生がいつも言ってるでしょう。あなただって下級生
から見ればお姉さんなの。……泣けば許されるという歳ではあり
ませんよ」
園長先生は、気の弱い美里ちゃんにあえて冷たく言い放つのだ
った。
一方、真治氏はというと……
その頃この座敷の隅で正座して妹たちのお仕置きの様子を見学
させられている高坂知美の姿を見ていた。
『彼女もきっとこんなお仕置きを受けて育ってきたんだろう。
身じろぎ一つしないというのは驚くに値しないということなんだ
ろうなあ。……今の彼女はどんなお仕置きをされてるんだろう?
……今は、もっと厳しいこと、されてるんだろうなあ』
そう考えると、彼女がお仕置きされている様子が目に浮かぶ。
その妄想はもうお仕置きの域を超えてSMだったのである。
とはいえ、真治氏にそんな趣味があるわけではない。彼にして
みたら春花ちゃんだけでも十分に後ろめたい気持でいたのだ。
ただ今までの行きがかり上、美里ちゃんに対してもやってあげ
なければいけないと思っていたのである。
園長先生と真治氏のコンビで再びお灸の折檻が始まります。
「いやいやいやいや、だめ、熱い熱い熱い…………あああ~ん、
またまたまた、ごめんなさいごめんなさい、いやいやいや、もう
しませんから~~~…………いゃあ~~死んじゃう死んじゃう」
美里ちゃんはビーナスの丘が真っ赤に染まるまで悲鳴や泣き言
を言い続けます。でも、それは春花ちゃんに比べればまだ小さな
声でした。
つまり、大人たちに向かって許し請うために叫んでいたのでは
なく、自分を励ますために叫んでいたのです。
幼い彼女でも今さら泣き言を言って園長先生が許してくれない
ことぐらいは分かります。
でも、何か言ってないと耐えられなかったのでした。
いずれにしろ、真治氏はほっと胸をなでおろします。
『やっと終わった』
そう思ったに違いありません。
ところが、ところが……
「さあ、では最後に、お股の中にも一つすえますかね。二人共
いつもの姿勢をとって頂戴」
園長先生に命じられて、二人は反射的に両足を上げようとしま
したが……どちらからともなく途中でやめてしまいます。
「さあ、どうしたの?いつもの姿勢って忘れちゃったかしら」
園長先生は、再度促しますが、今度は足を上げようとしません。
それどころか、今据えられたビーナスの丘まで両手で覆ってしま
ったのでした。
原因はただ一つ。二人は途中でこの部屋に真治氏がいることを
思い出したのでした。
いつものように園長先生やシスターだけなら問題はありません
でした。だって、そこには女性しかいませんから。どんな大胆な
ポーズにもなれたのです。
「あら、急に恥ずかしくなっちゃった?……困ったわねえ……
いいこと、あなたたち。……ここへあなたたちを連れて来たのは、
あなたたちに恥ずかしいお仕置きを受けてもらおうと思ったから
なの。教会には普段男性がいらっしゃないでしょう。お仕置きで
あなたたちを裸にしても、おしゃべりしたり、走り回ったり……
女の子がそれじゃいけないから、ここに連れて来たの。……でも、
そんなに恥ずかしいなら、こちらもやり甲斐があるというものだ
わ。……さあ、さっさと足を上げてごらんなさい」
園長先生は再度命じます。
もとより、子供たちがこれに従わないはずがありませんでした。
恥ずかしさいっぱいの姿勢。
よくお母さんが赤ちゃんのオムツを換える時にさせるあの姿勢
です。
幼い二人にとってもそれが恥ずかしくないはずがありませんで
した。
さすがに心配になった真治氏が尋ねます。
「今度はどこにお据えになるんですか?」
「どこって、会陰の真ん中ですよ」
あまりにあっけらかんと言われて真治氏は思わずのけぞります。
「…………」
無言のままでいる真治氏に代わって園長先生が説明します。
「男の子だって、オチンチンに据えたりするでしょう。あれと
同じことですわ」
「熱くないんですか?」
「もちろんお灸ですから熱いですけど、特別熱いわけではない
んです。そのあたりも男性と同じですわ。あくまで皮膚の上から
据えるわけで、粘膜にはさわりませんから………何より、そこは
据えた痕が人目につかないでしょう。そういった意味でも好都合
ですの」
「なるほど……」
真治氏は園長先生との会話を成立させる為に相槌をうちますが、
本当は目がくらみそうでした。
そんな、真治氏の様子がわかったからでしょうか、園長先生は
こうも付け加えるのでした。
「女性は、お仕置きをするのもされるのも恐らくは男性よりも
好きなんです」
「えっ!?」
「どうしてだか分かります?」
「………いえ」
「苦痛も愛の一部だと感じられるから………だって、女性には
自分の身体以外に愛を感じる場所がありませんもの。愛する人の
行いは撫でられてもぶたれても同じことなんです。それはこんな
幼い子でもやはり同じなんですよ。大事なことはその人を愛して
いるか否かだけ。私の場合もこの子たちが私を慕ってくれるから
お仕置きとしての愛が成り立つんです」
園長先生は意味深なことを言って笑うのでした。
園長先生はこのあと、秋絵さんに手伝わせ、二人にお股を開か
せてそこにお灸を据えましたが、真治氏もさすがにこれだけには
参加しませんでした。
理屈はありません。強いてあげれば紳士のたしなみということ
でしょうか。
でも、真治氏は二人がお股の中を焼かれるのを見ながらこうも
思うのです。
『もし、これが美香や香織だったら、私だってやったかも……
……お仕置きは愛か……かもしれんな』
と……
*** 見沼教育ビレッジ(番外編1)~おまけ②~***
*)仮置き原稿
******<登場人物>**********
新井真治/家の主人
秋絵さん/お手伝いさん
子供たち/高坂知美(中2)
河合春花・森野美里(小4)
真里菜ちゃんと明日香ちゃん(小1)
園長先生/子供たちの小中学校の校長先生
***********************
夕食が終わり、つかの間の歓談。やがて……
「では、ご主人。ご見学のほどよろしくお願いします」
園長先生の言葉で食堂の全員が仏間となっている和室へと移動
することになった。
春花ちゃんと美里ちゃんへのお仕置きは、ここへ来ていきなり
告げられたわけではない。子どもたち全員が学校を出る時すでに
どんなお仕置きになるかを告げられていたのである。
つまり、真里菜ちゃんや明日香ちゃんのような幼い子はべつに
して、この家を訪ねたときには心の準備はできていたのだ。
ただ、それにしても取り乱さない子どもたちの姿に、真治氏は
好感がもてた。昔の良家の子女はたとえ親からお仕置きされる時
でも気品を失わないように躾られている。そんな古きよき伝統が
こんな孤児院で守られていることが嬉しかったのだ。
そこで、彼、こんな事を提案したのである。
「どうでしょう、私が艾のいくつかに火をつけるというは……
もちろん、お仕置きに差し障りがなければ、ですが……」
すると、先生も……
「まあ、やっていただけるんですか。それは何よりですわ」
と応じたのである。
大人たちが襖を開くと、六畳の仏間にはすでに薄手のお布団が
敷かれ腰枕が二つ置いてある。そこにお線香や艾はもちろんだが、
万が一、粗相した時のためにバスタオルやパンツの着替えまで、
秋絵さんによって抜かりなく用意されていた。
「恐れ入ります、こんなに丁寧にご準備くださって……」
感激した園長先生が秋絵さんにお礼を言うと……
「何でもありませんわ。うちのお嬢様も、こうしたことござい
ますから」
という答えが……
実際、ここの娘である美香や香織もこの薄い布団の上で必死の
形相になったことが1度や2度でなかった。
「さあ、お二人さん。ここで裸になりなさい。残していいのは
靴下だけ。あとは全部脱いで頂戴」
「…………」
「…………」
園長先生の命令にすでに正座していた二人は互いの顔を見合せ
ますが……気まずい雰囲気……
「…………」
「…………」
続いて、締め切られた襖や同じように部屋の隅で正座している
真里菜ちゃんや明日香ちゃん、それに知美おねえちゃんを見ます。
「…………」
「…………」
でも、もう部屋のどこを探しても『やらないですむという方法』
というのは見つかりませんでした。
「さあ、やってしまいましょう。いくらお部屋を眺めていても
お仕置きは終わりませんよ……先程はおじさまのご好意であなた
たちは恥をかかずにすんだかもしれませんけど、私の方は大恥を
かいたの。今度はそうはいきませんよ」
同じように正座をしていても園長先生は背筋を伸ばし凛とした
姿で上から幼い二人を睨みます。
こうまでされては仕方がありませんでした。
春花ちゃんが、最初に自分のブラウスに手をかけて脱ぎ始め、
美里ちゃんがあとに続きます。
「まったく、二人とも手間がかかりますね。新井のおじさまが
ここまでご用意くださったの。今度、私に恥をかかせたら、学校
に戻ってからもう一度お仕置きのやり直しですから。……覚えて
おきなさい。……いいですね」
園長先生は服を脱ぎ始めた二人を前にして更なるお説教です。
対する二人はというと……
「はい、ごめんなさい」
「ごめんなさい」
蚊のなくような声を出すのがやっとでした。
二人は服を脱ぐためにいったん立ち上がりますが、靴下を除き
素っ裸になると再び正座に戻ります。
ただ、その様子はとても落ち着かないものでした。
両手で胸を覆い、お臍の下の割れ目を何とか隠そうとして、前
かがみになってもじもじと太股を締め続けます。
夏のことですから裸になっても寒いということはありませんが、
とてもじっとしていられない様子だったのです。
もちろん、胸など膨らんでいませんし、陰毛だってありません。
大人の兆候なんてまだ何もありませんが、そこは女の子でした。
そんな二人に園長先生はご挨拶を命じます。
「それでは、まず、こんなにも立派なお仕置きの場を用意して
下さった新井のおじさまにお礼をいいましょう。…………ほら、
ちゃんと背筋を伸ばして……『新井のおじさま、お仕置き、あり
がとうございます』」
先生がお手本をみせて、頭をさげますと、小学生は真似しない
わけにはいきませんでした。
「新井のおじさま、お仕置き、ありがとうございます」
「新井のおじさま、お仕置き、ありがとうございます」
二人は靴下以外は素っ裸。でも真治氏に向かって両手を着くと、
園長先生を真似てしっかりご挨拶します。
庶民感覚では自分をお仕置きする親に『ありがとうございます』
なんて変ですが、これもお嬢様仕様。お嬢様の世界でならこれも
常識でした。
「さあ、それでは、まず最初はお尻のお山からよ。お布団の上
に、うつ伏せになって……」
ご挨拶がすむと、園長先生の指示で、二人はうつ伏せに……
すると、今度はそれまでとは打って変わって素早く動きます。
もうこうなったら、早くやって早く終わらすしかありませんで
した。
「何だ、やればできるじゃないの」
園長先生はそう言って艾を丸め始めます。
その手先、手馴れたものでした。
綺麗な円錐形になって艾が七つ八つあっという間にお盆の上に
並べられ、まず最初の二つが二人の左のお尻の山へ乗ります。
「……!……」
「……!……」
据えられた経験のある二人、もうそれだけで背筋に電気が走り
ました。
「あなたたちの悪戯には、私もほとほと手を焼いてきたけど、
今日はいい機会ですからね、新井のおじさまに据えて頂きます。
私なんかと違って、それはそれは熱いですからね。噛み枕を口の
中に入れて、それをしっかり噛み締めて熱さに耐えるんですよ。
わかりましたか?」
「…………」
「…………」
二人の少女は明らかに動揺していました。
『先生の普段やっているお灸より熱いって……どのくらい大変
なんだろう』
取り乱した様子は見せなくても心配で心がパニックに……。
当然ご返事も遅れてしまうのです。
「どうしました?ご返事は?」
園長先生に少し強い調子で命じられて二人は我に返ったみたい
でした。
「はい、先生」
「はい、先生」
真治氏の仕事は艾に火を移すだけのことですから、誰がやって
も結果は同じ。彼がやったからって特別熱いなんてことはありま
せんが、信頼している園長先生の言葉ですから幼い二人は素直に
信じます。
嘘も方便。お仕置きとしては好都合でした。
やがて、真治氏が火のついたお線香を持ってまずは春花ちゃん
のお尻へと近づきます。
艾の乗った付近を少し摘み上げてお線香の火を艾へと移すと、
それはあっという間に下へと降りていきました。
「い~~~~ひ~~~~だめえ~~取って、取って、取って、
いやあ~~~ん」
両足を必死にバタつかせ、噛み枕を吐き出して、腰を振ります。
でも、春花ちゃん、学校や寮ではこうではありませんでした。
幼稚園時代からお転婆娘だった彼女はお灸の経験だって一回や
二回じゃありません。ですが、逆にその事で熱さに慣れてしまい、
最近では、『鞭のお仕置きなんかよりこっちの方が楽よ』なんて
涼しい顔で友だちに吹聴していたくらいでした。
もちろん艾を大きくすれば一時的に効果は上がるでしょうが、
そのぶん痕も大きく残ります。ですから園長先生はそのことには
否定的だったのです。
それが今回……
大人の男性からいきなりお尻の肉を摘まれたショックと熱い火
の玉の痛み、おまけに園長先生から『特別熱い』なんて脅されて
いましたから、熱がる姿もそりゃあ尋常じゃありませんでした。
園長先生としては大成功というわけです。
園長先生は穏やかな笑顔を見せて真治氏に会釈します。それは
協力してくれたことへの無言のお礼でした。
さて、次は美里ちゃんです。
美里ちゃんは、春花ちゃんのお友だちでしたが、春花ちゃんに
比べればおとなしい子でした。
ですから普段から威勢のいい事ばかり言っている春花ちゃんの
狼狽ぶりを間近に見てショックを受けます。
お尻から太股にかけて鳥肌がたち全身が小刻みに震えています。
『どうしよう』『どうしよう』
お灸を据えられる前からうろたえているのがよく分かりました。
もうこれなら、十分にお仕置きの効果ありです。あえてお灸を
据えなくてもよくいらいですが、園長先生は、それでも真治氏に
艾への点火を依頼します。
それは、美里ちゃんだけ許してしまうと春花ちゃんがひがんで
女の子の友情にひびが入りかねないからでした。
ただ……
「ひ~~~~~~~」
美里ちゃんは、お手玉のような噛み枕を吐き出すこともなく、
必死に熱さに耐えて頑張ります。
いえ、そうやって美里ちゃんが頑張れたのは、園長先生が春花
ちゃんの時よりほんの一瞬早く、艾をその親指でもみ消したから
でした。
『この子は反省できた。お仕置きは終わり』というわけです。
ただ、この一箇所だけでお灸のお仕置きが全て終了というわけ
ではありませんでした。
今度は、右のお尻のお山に据えられます。
「い~~~~ひ~~~~だめえ~~取って、取って、取って、
いやあ~~~ん」
春花ちゃんは再び悲鳴を上げます。
二つ目のお灸もそれで慣れるということはありませんでした。
「う~~~~~~ひ~~~~~~~」
美里ちゃんもそれは同じです。
さらに……
「さあ、今度はここ。いつもあなたたちが熱い熱いって泣いて
るお尻のお骨にいきますからね。今まで以上に頑張らないと……
お漏らしすることになるわよ」
園長先生はそう言って二人の尾てい骨を人差し指でグリグリ、
加えて割れ目の中にまで手を入れてオシッコの出口をグリグリ、
真治氏すら赤面するようなことを、同性の強みでさらりとやって
のけます。
たしかに、尾てい骨へのお灸は熱いみたいで……過去、幾度も
お漏らしする子がいました。
「いやあ~~~ごめんなさい!もうしません、しません」
「だめえ~~~あつい、いや、いや、いや、お願いやだあ」
二人とも噛み枕を吐き出して布団をバタ足で蹴り続けます。
こんなことはお尻のお山に据えられていた時はなかったことで
した。
と、ここまでは真治氏もある程度予測していた。
というのも自分の娘たちにも同じようなことをしていたからだ。
今の娘は、自分のお尻を見ず知らずの人に見せることに抵抗が
ないみたいだが、当時は、そんなこと、親が心配する必要がない
ほどありえなかった。
だから、逆に、ここに小さな火傷の痕があったとしても、親は
さして心配しなかったのである。
しかし、園長先生は二人をいったん正座させると、二人にさら
なるお仕置きを命じる。
「少し落ち着いたら、前にも据えていただきましょう。まずは
春花ちゃんから……今度は仰向けになって寝なさい」
真治氏は、何気に言い放った園長先生の言葉に驚いた。
『えっ!?この子たちはそこもやるのか!』
女の子の前とは、おそらくお臍の下、ビーナス丘あたりを指す
のだろうが、そこは子宮のある場所でもある……そこへの施灸は
さすがに女の子には可哀想だと感じられたのだ。
ただ、覚悟を決めてお布団の上に寝そべっている春花ちゃんの
その場所にはすでにしっかりとした灸痕が刻まれている。すでに、
何度か経験があるようだった。
となると、いったん引き受けたからには『これは嫌です』とは
言いにくかった。そこで……
「先生、実は私、あの場所への施灸は経験がないのです」
園長先生の耳元まで行って囁く。
「大丈夫ですわ。艾はこちらで用意して乗せますのでご主人は
お線香の火を艾に移してくださればよろしいかと思います。後は
こちらで処理いたします。大事なことは、この子たちに男性から
お灸を据えられる恥ずかしさを体験させることですから……熱さ
じゃありませんのよ」
先生もまた、子供たちにさえ聞こえないような小声でこう囁く。
真治氏、やらないわけにはいかなかったのである。
今までとやり方は同じ。園長先生がご自分で整形した艾を施灸
の場所へと乗せていく。
ただ、今度はお尻と違い、艾が乗せられところ火をつけられる
ところを子供たちは目の当たりにするわけで、それだけでも十分
に辛い罰だった。
「さあ、しっかり踏ん張りなさい」
今度は園長先生ご自身で春花ちゃんのビーナス丘のその場所を
摘み上げる。
「お願いします」
真治氏は園長先生の言葉を受けて、その盛り上がった丘の天辺
へお線香の赤い頭を近づけた。
「……あっ、熱い……いや、いや、だめ~だめ~」
顔を歪ませ、眉間に皺を寄せて必死に耐える春花ちゃん。
彼女が激しく泣き叫ばなかったのは、むしろこうした事に慣れ
ているからだろう。
「はい、先生、ここにもう一つ」
園長先生は、そのたびに真治氏を呼んで火をつけさせ、終れば
またすぐ隣りに次の艾を乗せていく。
お尻の艾に比べればこちらの艾は小さいが、春花ちゃんのそれ
だって狭いお庭なわけで、そんな処に、春花ちゃんは結局六個も
お灸を据えられるはめになったのだからたまったものではない。
抓られた赤みとお灸の熱による赤みで最後は全体が真っ赤々に
なっていた。
「春花ちゃん、お臍の下がカイロを乗せたみたいに今でも暖か
いでしょう」
園長先生は春花ちゃんが頷くのを確認すると…
「しばらくはそうやってじっとして反省してななさい。絶対に
触っちゃだめよ。綺麗に治らなくなりますからね。わかった」
先生は、再度春花ちゃんが頷くのを確認して今度は美里ちゃん
に取り掛かる。
こちらは春花ちゃんの様子を見ていて怖気づいたのか、すでに
最初からべそをかいていた。
すると、園長先生、タオルで美里ちゃんの涙を拭きながらも、
それを叱るのだ。
「何ですか、こんなに大きな子が、お灸のお仕置きくらいで、
めそめそしたりして……そんな顔しないの。……お仕置きをして
いただく新井のおじさまに失礼よ。ほら、もっとシャキッとしな
さい。……先生がいつも言ってるでしょう。あなただって下級生
から見ればお姉さんなの。……泣けば許されるという歳ではあり
ませんよ」
園長先生は、気の弱い美里ちゃんにあえて冷たく言い放つのだ
った。
一方、真治氏はというと……
その頃この座敷の隅で正座して妹たちのお仕置きの様子を見学
させられている高坂知美の姿を見ていた。
『彼女もきっとこんなお仕置きを受けて育ってきたんだろう。
身じろぎ一つしないというのは驚くに値しないということなんだ
ろうなあ。……今の彼女はどんなお仕置きをされてるんだろう?
……今は、もっと厳しいこと、されてるんだろうなあ』
そう考えると、彼女がお仕置きされている様子が目に浮かぶ。
その妄想はもうお仕置きの域を超えてSMだったのである。
とはいえ、真治氏にそんな趣味があるわけではない。彼にして
みたら春花ちゃんだけでも十分に後ろめたい気持でいたのだ。
ただ今までの行きがかり上、美里ちゃんに対してもやってあげ
なければいけないと思っていたのである。
園長先生と真治氏のコンビで再びお灸の折檻が始まります。
「いやいやいやいや、だめ、熱い熱い熱い…………あああ~ん、
またまたまた、ごめんなさいごめんなさい、いやいやいや、もう
しませんから~~~…………いゃあ~~死んじゃう死んじゃう」
美里ちゃんはビーナスの丘が真っ赤に染まるまで悲鳴や泣き言
を言い続けます。でも、それは春花ちゃんに比べればまだ小さな
声でした。
つまり、大人たちに向かって許し請うために叫んでいたのでは
なく、自分を励ますために叫んでいたのです。
幼い彼女でも今さら泣き言を言って園長先生が許してくれない
ことぐらいは分かります。
でも、何か言ってないと耐えられなかったのでした。
いずれにしろ、真治氏はほっと胸をなでおろします。
『やっと終わった』
そう思ったに違いありません。
ところが、ところが……
「さあ、では最後に、お股の中にも一つすえますかね。二人共
いつもの姿勢をとって頂戴」
園長先生に命じられて、二人は反射的に両足を上げようとしま
したが……どちらからともなく途中でやめてしまいます。
「さあ、どうしたの?いつもの姿勢って忘れちゃったかしら」
園長先生は、再度促しますが、今度は足を上げようとしません。
それどころか、今据えられたビーナスの丘まで両手で覆ってしま
ったのでした。
原因はただ一つ。二人は途中でこの部屋に真治氏がいることを
思い出したのでした。
いつものように園長先生やシスターだけなら問題はありません
でした。だって、そこには女性しかいませんから。どんな大胆な
ポーズにもなれたのです。
「あら、急に恥ずかしくなっちゃった?……困ったわねえ……
いいこと、あなたたち。……ここへあなたたちを連れて来たのは、
あなたたちに恥ずかしいお仕置きを受けてもらおうと思ったから
なの。教会には普段男性がいらっしゃないでしょう。お仕置きで
あなたたちを裸にしても、おしゃべりしたり、走り回ったり……
女の子がそれじゃいけないから、ここに連れて来たの。……でも、
そんなに恥ずかしいなら、こちらもやり甲斐があるというものだ
わ。……さあ、さっさと足を上げてごらんなさい」
園長先生は再度命じます。
もとより、子供たちがこれに従わないはずがありませんでした。
恥ずかしさいっぱいの姿勢。
よくお母さんが赤ちゃんのオムツを換える時にさせるあの姿勢
です。
幼い二人にとってもそれが恥ずかしくないはずがありませんで
した。
さすがに心配になった真治氏が尋ねます。
「今度はどこにお据えになるんですか?」
「どこって、会陰の真ん中ですよ」
あまりにあっけらかんと言われて真治氏は思わずのけぞります。
「…………」
無言のままでいる真治氏に代わって園長先生が説明します。
「男の子だって、オチンチンに据えたりするでしょう。あれと
同じことですわ」
「熱くないんですか?」
「もちろんお灸ですから熱いですけど、特別熱いわけではない
んです。そのあたりも男性と同じですわ。あくまで皮膚の上から
据えるわけで、粘膜にはさわりませんから………何より、そこは
据えた痕が人目につかないでしょう。そういった意味でも好都合
ですの」
「なるほど……」
真治氏は園長先生との会話を成立させる為に相槌をうちますが、
本当は目がくらみそうでした。
そんな、真治氏の様子がわかったからでしょうか、園長先生は
こうも付け加えるのでした。
「女性は、お仕置きをするのもされるのも恐らくは男性よりも
好きなんです」
「えっ!?」
「どうしてだか分かります?」
「………いえ」
「苦痛も愛の一部だと感じられるから………だって、女性には
自分の身体以外に愛を感じる場所がありませんもの。愛する人の
行いは撫でられてもぶたれても同じことなんです。それはこんな
幼い子でもやはり同じなんですよ。大事なことはその人を愛して
いるか否かだけ。私の場合もこの子たちが私を慕ってくれるから
お仕置きとしての愛が成り立つんです」
園長先生は意味深なことを言って笑うのでした。
園長先生はこのあと、秋絵さんに手伝わせ、二人にお股を開か
せてそこにお灸を据えましたが、真治氏もさすがにこれだけには
参加しませんでした。
理屈はありません。強いてあげれば紳士のたしなみということ
でしょうか。
でも、真治氏は二人がお股の中を焼かれるのを見ながらこうも
思うのです。
『もし、これが美香や香織だったら、私だってやったかも……
……お仕置きは愛か……かもしれんな』
と……
*** 見沼教育ビレッジ(番外編1)~おまけ②~***
見沼教育ビレッジ(番外編1)~おまけ①~
*** 見沼教育ビレッジ(番外編1)~おまけ①~***
*)仮置き原稿
******<登場人物>**********
新井真治/家の主人
秋絵さん/お手伝いさん
子供たち/高坂知美(中2)
河合春花・森野美里(小4)
真里菜ちゃんと明日香ちゃん(小1)
園長先生/子供たちの小中学校の校長先生
***********************
真治氏は施設を離れると夕方遅くいったん自宅に戻る。
というのも、そこでまだ一仕事残っていたからなのだ。
彼の家は高級住宅街の一角にあった。
そこは周囲がまだプロパンガスだった時代にあって、その区画
だけ都市ガスが敷設され、水洗トイレを可能にする下水が流れて
いる。
大きな松や槇の木が囲う彼の家は、普通の建売住宅なら五軒や
六軒も建てられるほどに広く、南欧調の外壁や青い芝生、それに
小さいとはいえプールまである。彼自慢の家だ。
そこへ、街灯が灯る時刻になって真治氏は帰ってきたのである。
「ああ、これから帰る。……あと5分というところかな。……
今日はお嬢さん方、来てるんだろう?……で、玄関でのお出迎え
は?……そうか二人ね?……わかった、わかった……」
彼がご自慢のフェラーリに備え付けられた自動車電話で話すの
は、家のお手伝いさん、秋絵さんだ。
今回、家族はみんな見沼に出かけているから、家は彼女一人に
任されていた。
「えっ、!今日は、全部で五人も来てるの?…………なるほど、
先生を入れたら六人ね。…………こっちは大丈夫だよ。とにかく
必ず五分で帰るから、粗相のないように……」
彼はそれだけ言って電話を切る。
「一番上は中二か……他人の目にふれさすには、ちょいと歳が
行き過ぎてないか」
真治氏はポツリと独り言を言ってアクセルをふかした。
このあとは、短い道中。
自宅に近づくと、フェラーリ独特のもの凄いエンジン音が鳴り
響くから彼のご帰還は家にいる誰にもすぐにわかった。
「さあ、あなたたち、お仕事よ。何て言うかは覚えてるわね。
ちゃんとご挨拶するのよ」
真治氏は車をガレージに入れ終わる頃、そんな秋絵さんの声を
聞く。
そうやって玄関先へ回って来ると……
案の定、その玄関先ではまだ幼稚園児くらいの女の子が二人、
手持ち無沙汰で立っていた。
「おじちゃま、お帰りなさい」
いずれも真治氏を見つけるとすぐに駆け寄って来て……
一人が馴れ馴れしく抱きつき、もう一人は……
「かばん、持ちます」
なんてなことを言う。
この二人、真治氏のことを『おじちゃま』だなんて読んでいる
くらいだから、もちろん彼の子どもではない。
近くの教会に預けられた孤児たちなのだ。
実は、真治氏。こうした孤児たちの為に、お仲間たちと一緒に
『臨時の父親』なる一風変わったボランティアをしていた。
このボランティア、教会の子どもたちを月に一度自宅に招いて
もてなすというもので、普段なら澄江夫人や美香や香織といった
子供たちも手伝ってくれるのだが、今、自宅に帰れるのは真治氏
だけ。
しかも具合の悪いことに彼、今週は『罰当番』に当たっていた
ため、自宅へ帰らざるを得なかったのである。
『罰当番』?……
名前だけ聞くとまるで真治氏が罰を受けてるみたいに聞こえる
が、そうではない。
罰を受けるのはあくまで招いた子供たちの方。
学校や寄宿舎、それに月一回行くお招れ先でいけない事をした
子供たちが、教師やシスターからだけなく、外部の人たちからも
罰を与えられるという制度だった。
「いつも顔見知りにばかりお仕置きされていると、子供たちも
慣れてしまって、お仕置きの効果が薄くなります。ここは子ども
たちの為にも、新しい刺激をお願いしたいのです」
とは園長先生の弁。
悪者役にさせられるお父さんたちは、当初、気が進まなかった
が、園長先生に……
「お仕置きは愛情。こうしたことは愛情溢れるお父様方にしか
お頼みできないのです」
と、説得されて引き受けたのだった。
真治氏は、お出迎えしてくれた子供たちがさっさと玄関を開け
て家の中へ戻ろうとするので、試しにその短いスカートをほんの
ちょっと捲ってみた。
すると、そこに可愛いお尻がちょこんと覗く。
二人は慌てて自分のスカートの後ろに手をやるが……
「どうした?……恥ずかしいか?」
真治氏が二人に笑って尋ねると、二人はそろって振り返り……
「恥ずかしい」
と、正直に答えた。
でも、これはお約束。
これが二人へのお仕置きだったのである。
こんなにも幼い子が、見知らぬ人にいきなりお尻を叩かれたら
どうなるか……それを配慮しての罰だった。
二人は、真治氏が家に電話した後、秋絵さんによってショーツ
を脱がされ、玄関先でおじちゃまを出迎えるよう命じられていた。
約束では自らスカートを捲ってお尻を見せる約束だったみたい
だが、忘れてしまったようだ。
もっともこれは彼女たちの為に用意された軽いお仕置き。
年齢が上になるにつれ、お仕置きもきつくなるのは当然のこと
だったのである。
真治氏がお出迎えの二人に先導されて居間へ行くと、秋絵さん
が夕食の準備をしながら待っていた。
「あっ、坊ちゃま……いえ、その旦那様、お帰りなさいまし…
…美香お嬢様はお元気でしたでしょうか?」
秋絵さんはご主人への挨拶もそこそこにさっそく美香のことを
気にかけてくる。彼女が真治氏のことを今でも思わず『坊ちゃん』
と呼んでしまうのは彼がそう呼ばれていた頃から働いていたから。
秋絵さんはこの家では家族同然だったのである。
「ああ、あいつは強いよ。学校からいきなり施設に移したから
さぞやしょげてると思いきや、これがそうでもなかったから安心
したよ。……あげく、自分から私の跡を継ぎたいだなんて言い出
しやがった」
「まあ、頼もしいこと。さすがは、新井家のご長女ですわ」
「なあに、世間を知らんだけのことさ……ところで、電話では
お客さんは五人と聞いていたが、あと一人は?」
真治氏は、すでに玄関先でお出迎えを済ませたチビ二人に加え、
居間へ来る途中、階段の踊り場で壁の方を向いて膝まづく小学校
高学年くらいの少女二人を確認している。
ゆえに、残りはあと一人だった。
「あと、お一人は……」
秋絵さんはそこまで言って、少しだけ考える。
そして……
「あっ、その方は……ただいま、入院中なんです」
と答えた。
彼女の意味深な笑いは、ご主人がその謎を解いてくれることを
きっと期待してのことだろう。
「入院中?………どういうことだ?」
真治氏はしばし考えたが、その答えが出ぬうちに、階段を一人
の老婦人が下りてくる。
「まあまあ、ご主人、お帰りでしたか。申し訳ございません。
さっさと上がり込んだうえにご挨拶にも遅れてしまって……私、
ちょっと、入院患者の方を看ておりまして……」
オープンなこの家の居間は階上からも素通しだった。
「こちらこそ、私一人しか参加できなくて……恐縮です」
「構いませんよ。ご無理を申してるのは私どもの方ですから」
真治氏は園長先生と挨拶を交わし、そこで秋絵さんが謎をかけ
た入院患者の意味を知るのである。
園長先生の言葉はおそらくは秋絵さんの言葉を階上で聞いての
ことだったのだろう。
先生は白髪をなびかせ上品な笑みをたたえて階段を下りてくる。
と、その途中の踊り場で膝まづく二人の少女に気づいた。
「あらあら、あなたたち、まだご挨拶してないの?」
立ち止まり、二人を見下ろしながら尋ねると……
二人は恐る恐る首を振る。
「じゃあ、早くご挨拶しなきゃ。……ちゃんと前を向いて……
さあ……新井のおじさまにご挨拶なさい」
園長先生は命じたが、二人がすぐに向き直ることはなかった。
膝まづく二人のスカートは、すでに目一杯の場所まで捲り上げ
られ、ピン留めされて下りてこない。ショーツもすでに足首まで
弾き下ろされていた。
そんな状態で前を向いたらどうなるか、誰でもわかることだった。
二人は真治氏が自動車電話を切った直後からずっと可愛いお尻
を丸見えにして踊り場の壁とにらめっこをしていたのだ。
当然、真治氏がここへ帰ってくればご挨拶しなければならない
のは分かっていたが、その勇気が出ないままに踊り場で固まって
いたのである。
真治氏もまた、玄関を入るなり二人の姿を確認はしていたが、
この格好の子どもたちに声を掛けてよいものかどうかためらって、
結局は、先に居間へと入って行ったのだ。
「あなたたち、ここでのお作法は教えたわよね。なぜ、教えた
通りにできないの。恥ずかしいなんて言い訳は許さないと言った
はずよ」
園長先生は二人を見下ろし、真治氏に挨拶するよう命じるが、
時期を失していったん固まった身体がすぐに動くはずもなかった。
「………………………………………………………………」
「………………………………………………………………」
二人は押し黙ったまま動こうとしない。
これが玄関先で出迎えた幼稚園児たちなら、人の体の表裏なん
て関係ないのかもしれないが、十歳を超えた女の子にとっては、
とてもデリケートな問題であり、重い決断だったのである。
といって、『やらない』というわけにもいかなかった。
「さあ、どうしたの?あなたたち、ご挨拶もできなくなったの?
……さあ、前を向いて、ご挨拶なさい」
園長先生にせっつかれ、二人の顔は益々青くなる。
どうやら、二人の進退は窮まったようにみえた。
しかし、それでも決断できない二人。
「どうしたの?ご挨拶も満足にできないの。だったら、さらに
厳しいお仕置きもあるのよ。知美お姉ちゃんみたいに三角木馬に
乗ってみる?」
さらに厳しく迫る園長先生の処へ今度は真治氏がやってきた。
彼は、何も言わず二人のショーツを引き上げると……
「さあ、これでご挨拶がしやすくなっただろう。……前を向い
てごらん」
と、優しい声で促す。
慌てて園長先生が……
「いけませんご主人。これはお約束ですから……」
と止めたが……真治氏は聞き入れなかった。
彼の言い分は……
「もう、このくらいの歳になったら可哀想です。私たちの時代
とは違いますから……ここでできなかった分はお仕置きに上乗せ
すればいいでしょう。夕飯が冷めます」
真治氏は優しく微笑んで園長先生を説得。
「…………」
「…………」
二人は園長先生の顔色をしきりに窺います。
そして、園長先生が『仕方ないわね』というため息をついたの
を確認すると、やおら前を向き、あらためてご挨拶するのでした。
「河合春花です。本日はお招きありがとうございます」
「森野美里です。よろしくお願いします」
「おや、おや、こんなに可愛い顔をして……とても、こんな子
たちにお仕置きが必要だなんて思えませんけど……先生、この子
たち、何をしたんですか?」
真治氏がその大きな手で包み込むようにして二人の尖った顎を
すくい上げると、それを見ていた園長先生が苦笑します。
「色々ですわ。教会脇の芋畑からサツマイモを失敬したり……
図書館にある高価な本に落書きしたり……いつだったか音楽室に
あるチューバの中で蛙を飼ってたこともありましたわ。とにかく、
この子たちの悪戯を数え上げたら、今週分だけでも十本の指では
足りませんのよ」
「そりゃあ頼もしい。男の子並みだ。私も腕白盛りの頃はお尻
を叩かれない日は一度もなかったくらいです。学校で、家で、と
毎日でした。ごくたまに一日一度もお尻を叩かれない日があった
りすると、かえって寝つきが悪かったくらいです」
「ま、ご冗談を……」
園長先生が手を口元に当てて笑い、春花も美里もそれには僅か
に顔が緩んで微笑んだように見えた。
「ところで、入院患者の方は……今夜は絶食ですか?」
「いいえ、呼んでまいります。実はまだお仕置きの最中ですの。
ただ、こうした席で食事をさせるのも、お仕置きの一つですから、
お招れさせていただきますわ……」
「そりゃあよかった。……ところで、本日の私のお役目は?」
真治氏が尋ねると、園長先生は緩んだ顔をいくらか元に戻して
……
「ご見学くださればそれで……ただし、今回はお口を出さない
ようにお願いします」
と釘を刺したのだった。
その日夕食、テーブルを最初に囲んだのは真治氏と園長先生。
それにノーパン姿で真治氏をお出迎えしてくれた幼稚園時代から
の親友、真里菜ちゃんと明日香ちゃん。それに、こちらも階段の
踊り場で長い間待たされていた春花ちゃんと美里ちゃん。
この六人だった。
こうした席は、本来なら、にぎやかです。
この催しはお招れと呼ばれ、教会の子供たちにとっては楽しみ
の一つなのです。
『臨時の父親』を名乗るお父様のお宅へお招れした子供たちは
大歓待を受けます。
見知らぬ家でそれまで読んだことのない本や触れたことのない
玩具に出合って、食事もご馳走です。当然、教会で食べる食事よ
り美味しいに決まってます。
それにお友だち同士はしゃぎあっていても、少しぐらい羽目を
外していても、この日は先生も少しだけ大目に見てくれますから
この日の食事風景はどこも大はしゃぎでした。
ですが、ここはそういった意味ではまったく違っていました。
何しろ、ここへ来た子供たちはお仕置きの為にお招れしたわけ
ですから、他のお招れとは意味が違います。これからお仕置きと
いう子どもたちのテンションがあがろうはずもありませんでした。
この先お仕置きがない真里菜ちゃんと明日香ちゃんは明るい声
を響かせていましたが、四年生の春花ちゃんと美里ちゃんは口数
も少なく、どこかうつろな表情です。
それはこれから二人にはしっかりとしたお仕置きが用意されて
いるからでした。
そんななか、少し遅れてもう一人、このお二人さんよりさらに
深刻な問題を抱えたお姉さんが階段を下りてきます。
ただ、彼女はすでに中学生。先生方から大人になる為の訓練を
十分に受けていますから、こうした場合も、ふて腐れたり物憂い
顔をしてはならないと自分でわかっていました。
ですから食堂のテーブルに着く時も、どこか痛いなんて素振り
は見せません。気品のある顔立ちの中に深刻な顔は隠して真治氏
の前に現れたのでした。
「大変遅くなりました。高坂知美と申します。今晩は、お招き
ありがとうごさいました。よろしくお願いします」
真治氏は腫れぼったい目や椅子に座る仕草を見て彼女がすでに
厳しい折檻を受けていることを見抜きますが、それ以上にその凛
としたたたずまいに感銘を受けます。
教会の子供たちは、決してお嬢様という立場ではありませんが、
その躾はある意味お嬢様と同様、いえ、お嬢様以上に厳しいもの
だったのでした。
夕食は秋絵さんの手料理。
時間を掛け腕によりをかけて作った料理は近所のレストランと
比べても引けをとりません。もちろん、子供たちは大満足でした。
『お仕置き前で食事も喉を通らないのでは……』
などと心配した真治氏の予想を見事に裏切ります。
子供たちは現代っ子、『お仕置きはお仕置き』『食事は食事』と
ちゃんと使い分けてるみたいでした。
一方、食欲旺盛な子どもたちを尻目に大人たちはおしゃべりで
盛り上がります。
話題の中心はここにいる子どもたちのこと。
『子供たちは教会の中で、いったいどんな生活をしているのか?』
『友だち仲は?……虐めはあるのか?』
『学校の成績は気にしないのか?』
などなど、真治氏としてもそれは興味津々でした。
真治氏は残酷なまでの体罰には反対でも、体罰そのものを否定
するつもりはありませんから……
『子どもたちが、普段、どんなお仕置きを受けてるのか』
そんなことも園長先生にしきりに尋ねていたのでした。
「子どもたちの生活ですか?……それは、一般のご家庭と大差
ないと思いますよ。ただ、男の子も女の子も聖職の道へ進みます
から、礼儀作法や上下関係は少し厳しいかもしれませんけど……」
「友だち仲ですか?……教会が理想の花園でなかったら信者は
どこに行くんでしょう?ここでは仲良しで暮らすことが当たり前
なんです。子供だってそれは同じ。だから、理由のいかんを問わ
ず、取っ組み合いの喧嘩をしたらお仕置きです。それでも女の子
なので、妬み嫉みはある程度仕方がないでしょうけど……露骨な
虐めなんてしたら……いえ、やはりありえませんわ」
「学校の成績?……多くは望みませんけど、もちろん、怠けて
いる子はお仕置きを受けることになります。……成績が落ちた罰
というより、怠けた罰を受けることになるんです」
「どんなお仕置き?……これも一般のご家庭と大差ないと思い
ますよ。スパンキングは平手も鞭もありますし、閉じ込め、締め
出し……強い気持で子どもの胸に教訓を植えつける時は、浣腸や
お灸、晒し者にするのも選択肢の一つですわ……ただ、優しさや
愛情なしにはそんな事しませんから子供たちもついて来るんです」
園長先生は自分の教育方針を自画自賛で説明する。
一方、子どもたちはというと、耳の痛い大人たちの話は、極力
聞かないようにしていた。その分、食べることに集中していたの
である。
そんな、子供たちのもとへデザートが運ばれ、『やれやれ』と
思っていた矢先のことだ。
真治氏が、またもや彼らの食事の味を落とす振る舞いに出るの
だった。
「ところで先生、食事の後は、どのようになさいますか?」
すると、園長先生……
「春花ちゃんと美里ちゃんには、お灸をすえようと思います。
日頃の『悪戯』の分も含めて、20個くらい下半身に据えれば、
お腹も温まるんじゃないでしょうか」
園長先生の言葉はどこまでも穏やか。でも、その穏やかな言葉
の内容を二人は聞かずに済ますことができなかったのである。
*** 見沼教育ビレッジ(番外編1)~おまけ①~***
*)仮置き原稿
******<登場人物>**********
新井真治/家の主人
秋絵さん/お手伝いさん
子供たち/高坂知美(中2)
河合春花・森野美里(小4)
真里菜ちゃんと明日香ちゃん(小1)
園長先生/子供たちの小中学校の校長先生
***********************
真治氏は施設を離れると夕方遅くいったん自宅に戻る。
というのも、そこでまだ一仕事残っていたからなのだ。
彼の家は高級住宅街の一角にあった。
そこは周囲がまだプロパンガスだった時代にあって、その区画
だけ都市ガスが敷設され、水洗トイレを可能にする下水が流れて
いる。
大きな松や槇の木が囲う彼の家は、普通の建売住宅なら五軒や
六軒も建てられるほどに広く、南欧調の外壁や青い芝生、それに
小さいとはいえプールまである。彼自慢の家だ。
そこへ、街灯が灯る時刻になって真治氏は帰ってきたのである。
「ああ、これから帰る。……あと5分というところかな。……
今日はお嬢さん方、来てるんだろう?……で、玄関でのお出迎え
は?……そうか二人ね?……わかった、わかった……」
彼がご自慢のフェラーリに備え付けられた自動車電話で話すの
は、家のお手伝いさん、秋絵さんだ。
今回、家族はみんな見沼に出かけているから、家は彼女一人に
任されていた。
「えっ、!今日は、全部で五人も来てるの?…………なるほど、
先生を入れたら六人ね。…………こっちは大丈夫だよ。とにかく
必ず五分で帰るから、粗相のないように……」
彼はそれだけ言って電話を切る。
「一番上は中二か……他人の目にふれさすには、ちょいと歳が
行き過ぎてないか」
真治氏はポツリと独り言を言ってアクセルをふかした。
このあとは、短い道中。
自宅に近づくと、フェラーリ独特のもの凄いエンジン音が鳴り
響くから彼のご帰還は家にいる誰にもすぐにわかった。
「さあ、あなたたち、お仕事よ。何て言うかは覚えてるわね。
ちゃんとご挨拶するのよ」
真治氏は車をガレージに入れ終わる頃、そんな秋絵さんの声を
聞く。
そうやって玄関先へ回って来ると……
案の定、その玄関先ではまだ幼稚園児くらいの女の子が二人、
手持ち無沙汰で立っていた。
「おじちゃま、お帰りなさい」
いずれも真治氏を見つけるとすぐに駆け寄って来て……
一人が馴れ馴れしく抱きつき、もう一人は……
「かばん、持ちます」
なんてなことを言う。
この二人、真治氏のことを『おじちゃま』だなんて読んでいる
くらいだから、もちろん彼の子どもではない。
近くの教会に預けられた孤児たちなのだ。
実は、真治氏。こうした孤児たちの為に、お仲間たちと一緒に
『臨時の父親』なる一風変わったボランティアをしていた。
このボランティア、教会の子どもたちを月に一度自宅に招いて
もてなすというもので、普段なら澄江夫人や美香や香織といった
子供たちも手伝ってくれるのだが、今、自宅に帰れるのは真治氏
だけ。
しかも具合の悪いことに彼、今週は『罰当番』に当たっていた
ため、自宅へ帰らざるを得なかったのである。
『罰当番』?……
名前だけ聞くとまるで真治氏が罰を受けてるみたいに聞こえる
が、そうではない。
罰を受けるのはあくまで招いた子供たちの方。
学校や寄宿舎、それに月一回行くお招れ先でいけない事をした
子供たちが、教師やシスターからだけなく、外部の人たちからも
罰を与えられるという制度だった。
「いつも顔見知りにばかりお仕置きされていると、子供たちも
慣れてしまって、お仕置きの効果が薄くなります。ここは子ども
たちの為にも、新しい刺激をお願いしたいのです」
とは園長先生の弁。
悪者役にさせられるお父さんたちは、当初、気が進まなかった
が、園長先生に……
「お仕置きは愛情。こうしたことは愛情溢れるお父様方にしか
お頼みできないのです」
と、説得されて引き受けたのだった。
真治氏は、お出迎えしてくれた子供たちがさっさと玄関を開け
て家の中へ戻ろうとするので、試しにその短いスカートをほんの
ちょっと捲ってみた。
すると、そこに可愛いお尻がちょこんと覗く。
二人は慌てて自分のスカートの後ろに手をやるが……
「どうした?……恥ずかしいか?」
真治氏が二人に笑って尋ねると、二人はそろって振り返り……
「恥ずかしい」
と、正直に答えた。
でも、これはお約束。
これが二人へのお仕置きだったのである。
こんなにも幼い子が、見知らぬ人にいきなりお尻を叩かれたら
どうなるか……それを配慮しての罰だった。
二人は、真治氏が家に電話した後、秋絵さんによってショーツ
を脱がされ、玄関先でおじちゃまを出迎えるよう命じられていた。
約束では自らスカートを捲ってお尻を見せる約束だったみたい
だが、忘れてしまったようだ。
もっともこれは彼女たちの為に用意された軽いお仕置き。
年齢が上になるにつれ、お仕置きもきつくなるのは当然のこと
だったのである。
真治氏がお出迎えの二人に先導されて居間へ行くと、秋絵さん
が夕食の準備をしながら待っていた。
「あっ、坊ちゃま……いえ、その旦那様、お帰りなさいまし…
…美香お嬢様はお元気でしたでしょうか?」
秋絵さんはご主人への挨拶もそこそこにさっそく美香のことを
気にかけてくる。彼女が真治氏のことを今でも思わず『坊ちゃん』
と呼んでしまうのは彼がそう呼ばれていた頃から働いていたから。
秋絵さんはこの家では家族同然だったのである。
「ああ、あいつは強いよ。学校からいきなり施設に移したから
さぞやしょげてると思いきや、これがそうでもなかったから安心
したよ。……あげく、自分から私の跡を継ぎたいだなんて言い出
しやがった」
「まあ、頼もしいこと。さすがは、新井家のご長女ですわ」
「なあに、世間を知らんだけのことさ……ところで、電話では
お客さんは五人と聞いていたが、あと一人は?」
真治氏は、すでに玄関先でお出迎えを済ませたチビ二人に加え、
居間へ来る途中、階段の踊り場で壁の方を向いて膝まづく小学校
高学年くらいの少女二人を確認している。
ゆえに、残りはあと一人だった。
「あと、お一人は……」
秋絵さんはそこまで言って、少しだけ考える。
そして……
「あっ、その方は……ただいま、入院中なんです」
と答えた。
彼女の意味深な笑いは、ご主人がその謎を解いてくれることを
きっと期待してのことだろう。
「入院中?………どういうことだ?」
真治氏はしばし考えたが、その答えが出ぬうちに、階段を一人
の老婦人が下りてくる。
「まあまあ、ご主人、お帰りでしたか。申し訳ございません。
さっさと上がり込んだうえにご挨拶にも遅れてしまって……私、
ちょっと、入院患者の方を看ておりまして……」
オープンなこの家の居間は階上からも素通しだった。
「こちらこそ、私一人しか参加できなくて……恐縮です」
「構いませんよ。ご無理を申してるのは私どもの方ですから」
真治氏は園長先生と挨拶を交わし、そこで秋絵さんが謎をかけ
た入院患者の意味を知るのである。
園長先生の言葉はおそらくは秋絵さんの言葉を階上で聞いての
ことだったのだろう。
先生は白髪をなびかせ上品な笑みをたたえて階段を下りてくる。
と、その途中の踊り場で膝まづく二人の少女に気づいた。
「あらあら、あなたたち、まだご挨拶してないの?」
立ち止まり、二人を見下ろしながら尋ねると……
二人は恐る恐る首を振る。
「じゃあ、早くご挨拶しなきゃ。……ちゃんと前を向いて……
さあ……新井のおじさまにご挨拶なさい」
園長先生は命じたが、二人がすぐに向き直ることはなかった。
膝まづく二人のスカートは、すでに目一杯の場所まで捲り上げ
られ、ピン留めされて下りてこない。ショーツもすでに足首まで
弾き下ろされていた。
そんな状態で前を向いたらどうなるか、誰でもわかることだった。
二人は真治氏が自動車電話を切った直後からずっと可愛いお尻
を丸見えにして踊り場の壁とにらめっこをしていたのだ。
当然、真治氏がここへ帰ってくればご挨拶しなければならない
のは分かっていたが、その勇気が出ないままに踊り場で固まって
いたのである。
真治氏もまた、玄関を入るなり二人の姿を確認はしていたが、
この格好の子どもたちに声を掛けてよいものかどうかためらって、
結局は、先に居間へと入って行ったのだ。
「あなたたち、ここでのお作法は教えたわよね。なぜ、教えた
通りにできないの。恥ずかしいなんて言い訳は許さないと言った
はずよ」
園長先生は二人を見下ろし、真治氏に挨拶するよう命じるが、
時期を失していったん固まった身体がすぐに動くはずもなかった。
「………………………………………………………………」
「………………………………………………………………」
二人は押し黙ったまま動こうとしない。
これが玄関先で出迎えた幼稚園児たちなら、人の体の表裏なん
て関係ないのかもしれないが、十歳を超えた女の子にとっては、
とてもデリケートな問題であり、重い決断だったのである。
といって、『やらない』というわけにもいかなかった。
「さあ、どうしたの?あなたたち、ご挨拶もできなくなったの?
……さあ、前を向いて、ご挨拶なさい」
園長先生にせっつかれ、二人の顔は益々青くなる。
どうやら、二人の進退は窮まったようにみえた。
しかし、それでも決断できない二人。
「どうしたの?ご挨拶も満足にできないの。だったら、さらに
厳しいお仕置きもあるのよ。知美お姉ちゃんみたいに三角木馬に
乗ってみる?」
さらに厳しく迫る園長先生の処へ今度は真治氏がやってきた。
彼は、何も言わず二人のショーツを引き上げると……
「さあ、これでご挨拶がしやすくなっただろう。……前を向い
てごらん」
と、優しい声で促す。
慌てて園長先生が……
「いけませんご主人。これはお約束ですから……」
と止めたが……真治氏は聞き入れなかった。
彼の言い分は……
「もう、このくらいの歳になったら可哀想です。私たちの時代
とは違いますから……ここでできなかった分はお仕置きに上乗せ
すればいいでしょう。夕飯が冷めます」
真治氏は優しく微笑んで園長先生を説得。
「…………」
「…………」
二人は園長先生の顔色をしきりに窺います。
そして、園長先生が『仕方ないわね』というため息をついたの
を確認すると、やおら前を向き、あらためてご挨拶するのでした。
「河合春花です。本日はお招きありがとうございます」
「森野美里です。よろしくお願いします」
「おや、おや、こんなに可愛い顔をして……とても、こんな子
たちにお仕置きが必要だなんて思えませんけど……先生、この子
たち、何をしたんですか?」
真治氏がその大きな手で包み込むようにして二人の尖った顎を
すくい上げると、それを見ていた園長先生が苦笑します。
「色々ですわ。教会脇の芋畑からサツマイモを失敬したり……
図書館にある高価な本に落書きしたり……いつだったか音楽室に
あるチューバの中で蛙を飼ってたこともありましたわ。とにかく、
この子たちの悪戯を数え上げたら、今週分だけでも十本の指では
足りませんのよ」
「そりゃあ頼もしい。男の子並みだ。私も腕白盛りの頃はお尻
を叩かれない日は一度もなかったくらいです。学校で、家で、と
毎日でした。ごくたまに一日一度もお尻を叩かれない日があった
りすると、かえって寝つきが悪かったくらいです」
「ま、ご冗談を……」
園長先生が手を口元に当てて笑い、春花も美里もそれには僅か
に顔が緩んで微笑んだように見えた。
「ところで、入院患者の方は……今夜は絶食ですか?」
「いいえ、呼んでまいります。実はまだお仕置きの最中ですの。
ただ、こうした席で食事をさせるのも、お仕置きの一つですから、
お招れさせていただきますわ……」
「そりゃあよかった。……ところで、本日の私のお役目は?」
真治氏が尋ねると、園長先生は緩んだ顔をいくらか元に戻して
……
「ご見学くださればそれで……ただし、今回はお口を出さない
ようにお願いします」
と釘を刺したのだった。
その日夕食、テーブルを最初に囲んだのは真治氏と園長先生。
それにノーパン姿で真治氏をお出迎えしてくれた幼稚園時代から
の親友、真里菜ちゃんと明日香ちゃん。それに、こちらも階段の
踊り場で長い間待たされていた春花ちゃんと美里ちゃん。
この六人だった。
こうした席は、本来なら、にぎやかです。
この催しはお招れと呼ばれ、教会の子供たちにとっては楽しみ
の一つなのです。
『臨時の父親』を名乗るお父様のお宅へお招れした子供たちは
大歓待を受けます。
見知らぬ家でそれまで読んだことのない本や触れたことのない
玩具に出合って、食事もご馳走です。当然、教会で食べる食事よ
り美味しいに決まってます。
それにお友だち同士はしゃぎあっていても、少しぐらい羽目を
外していても、この日は先生も少しだけ大目に見てくれますから
この日の食事風景はどこも大はしゃぎでした。
ですが、ここはそういった意味ではまったく違っていました。
何しろ、ここへ来た子供たちはお仕置きの為にお招れしたわけ
ですから、他のお招れとは意味が違います。これからお仕置きと
いう子どもたちのテンションがあがろうはずもありませんでした。
この先お仕置きがない真里菜ちゃんと明日香ちゃんは明るい声
を響かせていましたが、四年生の春花ちゃんと美里ちゃんは口数
も少なく、どこかうつろな表情です。
それはこれから二人にはしっかりとしたお仕置きが用意されて
いるからでした。
そんななか、少し遅れてもう一人、このお二人さんよりさらに
深刻な問題を抱えたお姉さんが階段を下りてきます。
ただ、彼女はすでに中学生。先生方から大人になる為の訓練を
十分に受けていますから、こうした場合も、ふて腐れたり物憂い
顔をしてはならないと自分でわかっていました。
ですから食堂のテーブルに着く時も、どこか痛いなんて素振り
は見せません。気品のある顔立ちの中に深刻な顔は隠して真治氏
の前に現れたのでした。
「大変遅くなりました。高坂知美と申します。今晩は、お招き
ありがとうごさいました。よろしくお願いします」
真治氏は腫れぼったい目や椅子に座る仕草を見て彼女がすでに
厳しい折檻を受けていることを見抜きますが、それ以上にその凛
としたたたずまいに感銘を受けます。
教会の子供たちは、決してお嬢様という立場ではありませんが、
その躾はある意味お嬢様と同様、いえ、お嬢様以上に厳しいもの
だったのでした。
夕食は秋絵さんの手料理。
時間を掛け腕によりをかけて作った料理は近所のレストランと
比べても引けをとりません。もちろん、子供たちは大満足でした。
『お仕置き前で食事も喉を通らないのでは……』
などと心配した真治氏の予想を見事に裏切ります。
子供たちは現代っ子、『お仕置きはお仕置き』『食事は食事』と
ちゃんと使い分けてるみたいでした。
一方、食欲旺盛な子どもたちを尻目に大人たちはおしゃべりで
盛り上がります。
話題の中心はここにいる子どもたちのこと。
『子供たちは教会の中で、いったいどんな生活をしているのか?』
『友だち仲は?……虐めはあるのか?』
『学校の成績は気にしないのか?』
などなど、真治氏としてもそれは興味津々でした。
真治氏は残酷なまでの体罰には反対でも、体罰そのものを否定
するつもりはありませんから……
『子どもたちが、普段、どんなお仕置きを受けてるのか』
そんなことも園長先生にしきりに尋ねていたのでした。
「子どもたちの生活ですか?……それは、一般のご家庭と大差
ないと思いますよ。ただ、男の子も女の子も聖職の道へ進みます
から、礼儀作法や上下関係は少し厳しいかもしれませんけど……」
「友だち仲ですか?……教会が理想の花園でなかったら信者は
どこに行くんでしょう?ここでは仲良しで暮らすことが当たり前
なんです。子供だってそれは同じ。だから、理由のいかんを問わ
ず、取っ組み合いの喧嘩をしたらお仕置きです。それでも女の子
なので、妬み嫉みはある程度仕方がないでしょうけど……露骨な
虐めなんてしたら……いえ、やはりありえませんわ」
「学校の成績?……多くは望みませんけど、もちろん、怠けて
いる子はお仕置きを受けることになります。……成績が落ちた罰
というより、怠けた罰を受けることになるんです」
「どんなお仕置き?……これも一般のご家庭と大差ないと思い
ますよ。スパンキングは平手も鞭もありますし、閉じ込め、締め
出し……強い気持で子どもの胸に教訓を植えつける時は、浣腸や
お灸、晒し者にするのも選択肢の一つですわ……ただ、優しさや
愛情なしにはそんな事しませんから子供たちもついて来るんです」
園長先生は自分の教育方針を自画自賛で説明する。
一方、子どもたちはというと、耳の痛い大人たちの話は、極力
聞かないようにしていた。その分、食べることに集中していたの
である。
そんな、子供たちのもとへデザートが運ばれ、『やれやれ』と
思っていた矢先のことだ。
真治氏が、またもや彼らの食事の味を落とす振る舞いに出るの
だった。
「ところで先生、食事の後は、どのようになさいますか?」
すると、園長先生……
「春花ちゃんと美里ちゃんには、お灸をすえようと思います。
日頃の『悪戯』の分も含めて、20個くらい下半身に据えれば、
お腹も温まるんじゃないでしょうか」
園長先生の言葉はどこまでも穏やか。でも、その穏やかな言葉
の内容を二人は聞かずに済ますことができなかったのである。
*** 見沼教育ビレッジ(番外編1)~おまけ①~***
見沼教育ビレッジ (14)
*)仮置き原稿。
****** 見沼教育ビレッジ (14) ******
******<主な登場人物>************
新井美香……中学二年。肩まで届くような長い髪の先に小さく
カールをかけている。目鼻立ちの整った美少女。
ただ本人は自分の顔に不満があって整形したいと
思っている。
新井真治……振興鉄鋼㈱の社長。普段から忙しくしているが、
今回、娘の為に1週間の休暇をとった。
新井澄江……専業主婦。小さな事にまで気のつくまめな人だが、
それがかえって仇になり娘と衝突することが多い。
新井香織……小学5年生で美香の妹。やんちゃでおしゃべり、
まだまだ甘えん坊で好奇心も強い。
ケイト先生…白人女性だが日本生まれの日本育ちで英語が苦手
という変な外人先生。サマーキャンプでは美香の
指導教官なのだが、童顔が災いしてかよく生徒と
間違われる。彼女はすでに美香の両親から体罰の
承諾を得ており、お仕置きはかなり厳しい。
**************************
お父さんのお膝の上で観た私の映画は、そりゃあほろ苦かった
けど、最後には思わず笑ってしまいました。
どうして笑ったかというと……
『へえ~~私のアソコってあんなになってたんだ』
って分かったのがおかしかったのです。
男の子は性器が見える処にあって普段見慣れてるでしょうけど、
女の子は努力しないとあそこは見ません。痒みがあったり、血が
出たりすれば、そりゃあ見ますけど……部屋に鍵を掛け、大胆な
ポーズをとって、鏡に映して……普段そんな努力はしないのです。
『ばっちいものは、見ずにすむならあえて見ない』というのが
女の子のポリシーでした。
ですから、アソコの事は意外と本人も知らないのです。
それを図らずも目の当たりにして、笑ってしまったのでした。
「何だ?何がおかしい?」
お父さんは私に不思議そうに尋ねますが……
「何でもないわ」
私が本当のことを口にするはずかありませんでした。
「さてと、映画は何を見るかな……」
お父さんの前に5つのボタンがありました。
そのどれにも映画のポスターが小さく縮尺版になって貼り付け
てありました。
「美香、あまえはどれがいい?」
お父さんは私に選ばせようとします。
そこで、そのポスターを一通り眺めてから……
「『ベニスに死す』なんていいんじゃないかな。この子、綺麗
だし……」
と、望みを言ったんですが……
「だめだ、だめだ、こんな退廃的な映画は……子供の観るもん
じゃないよ」
あっさり否定されてしまいます。
そして……
「『屋根の上のヴァイオリン弾き』なんていいんじゃないのか?」
と薦めてきますから、今度は私が……
「嫌よ、こんな暗い映画、もっと明るいのがいいわ」
「だったら、ちょっと古いが『俺たちに明日はない』ってのも
あるぞ。……西部劇だ」
「だってあれ、銀行強盗の話でしょう……人が死ぬお話は嫌い
なの……それに、あれ大人の話よね」
私は、最初の『ベニスに死す』を否定されたことで少しむくれ
ていました。
そこで、その妥協案として選んだのが……
「これなんか、いいんじゃない。『小さな恋のメロディ』……
男の子が可愛いわ」
「まあ、いいだろう」
お父さんはあまり乗り気ではなかったみたいですが、承知して
くれます。
一方、私の方もこの時この映画のことはよく知りませんでした。
ポスターのマークレスターが可愛かった。
選んだ理由は、ただ、それだけのだったのです。
「あ~、ビールとつまみ。ハイネケンあるか?……ならそれと
つまみはピーナッツでいいよ。………美香、おまえはどうする?」
お父さんが内線電話でルームサービスに注文を出します。
「私は、オレンジジュースとポップコーンでいいわ」
私はオットマンに足を投げ出して答えました。
ささやかですけど、これでやっと避暑地気分です。
注文の品が部屋に届いてから、お父さんは映画のボタンを押し
ます。
すると、開演のブザーが鳴り、辺りが暗くなります。
映写機が回り始めました。
スクリーンは小さめですが二人だけの貸切映画館は誰に気兼ね
もいりません。
注文したオヤツをつまみながら……もし、観ている映画がつま
らなければ、毛布を掛けてそのままソファで寝てしまえばいいの
ですから……
私は、当初、この映画にあまり興味がわきませんでしたから、
そうするつもりでした。
お父さんに肩を借り、寄り添ってお昼寝するだけでもよかった
のです。
ところが、私はその映画を最後まで見続けます。
『飾り気はないけど、どこまでも美しいイギリスの景色と透き
通るような男性ハーモニーのBGM。……英国の子どもたちって、
こんなにも素敵な学園生活を送ってるんだ。私もトレシーハイド
になりたい。好きな人と一緒にあのトロッコに乗って未来を目指
したい……』
映画を観たことのない人には、何を言っているか分からないで
しょうけど、とにかく大感動したのでした。
もっとも、お父さんはというと……
「まったく呆れた映画だ。どこの世界に、11歳のガキが結婚
なんか考える。おまえが11の時は、まだ、私の膝で甘えられる
だけ甘えてたぞ。……でも、それがまともな子供の姿だ」
お父さんにはこの映画を理解することはできないようでした。
でも、私の11歳も、ただお父さんの膝で甘えていたわけでは
ありませんでした。
それって、むしろ『お付き合い』という気持の方が強くて……
何でも「お父さん」「お母さん」ではありませんでした。
実ることはなくても淡い恋心はすでにありましたから、ダニー
とメロディの世界はまったくのおとぎ話ではなかったのです。
そんな蒸気した顔の私を見て、お父さんは私を抱き寄せます。
顔と顔が出会い、その口からは先ほどのビールの臭いがします。
「いやあ」
私はそのお酒の臭いでお父さんをいったんは拒絶しますが……
「忘れたのかい?まだ、五回、私からのお尻叩きが残ってるよ」
こう言われると私は再びそこへ戻らなければなりません。
そう、私はまだ14歳。彼らからみたらお姉さんのはずですが、
それでもお父さんやお母さん、大人たちが決めたルールのなかで
生きていかなければなりませんでした。
『あ~、私はいつあのトロッコに乗れるんだろう』
私はそう思ってお父さんのお膝に身体を沈めます。
すると、今度はお父さんが……
「こうして、おまえのお尻をいつまで叩けるかな」
お父さんはそう言いながら、私のスカートを上げ、ショーツを
下げます。
さすがに、人前でこの姿を晒すことはなくなりましたが、お父
さんにとってお尻叩きはいまだ現役。熱く厳しいお父さんの平手
の下で、私はまだまだお父さんの子どもを演じなければならない
のでした。
「ピシッ」
「いやあ~」
「何がいやあ~だ。こんな大きなお尻を叩かなきゃいけない私
の方がもっと嫌だ。ほら、ここは家の中じゃないんだ、こんな処
で足を開かない」
私が慌てて、両足を閉じますと……
「ピシッ」
「いやあ~」
再び、両足をバタつかせなければならないほど痛いのがやって
きます。
「少し口をつつしめ。いくら防音装置のある部屋でもそれじゃ
外の人に聞こえるぞ」
お父さんはそう言って、もう一つ……
「ピシッ」
「ひぃ~~~勘弁して~~」
本音が出ます。だって、この時のお尻叩きはとっても痛かった
のです。一発一発がこんな痛い平手は初めてでした。
「どうだ、少しはこたえたか?……おまえは今までのお仕置き
が私の目一杯だと思っていたのかもしれないが、こっちはこっち
で、気を使って緩めてたんだぞ。わかったか?」
「はい、お父さん」
「よ~~し、もうひとふんばりだ。しっかりつかまってなさい。
……ほれ」
「ピシッ」
「いや~~~~~」
私は無意識に太股を開いてバタつかせます。
そんな様子はまたビデオに撮られてしまうかもしれませんが、
こんなキツイお仕置きのもとでは、そんなこと言っていられませ
んでした。
私はもう必死にお父さんのお膝を握りしめます。
きっと、お父さんの太股にはくっきりと痣が残っているに違い
ありません。でも、それも仕方のないことでした。
「『痣のつくほど抓っておくれ、それを惚気の種にする』か、
昔の人はいいことを言うなあ……」
お父さんは、にが笑いを浮かべると、意味不明の独り言を言い
ます。そして、それが終わってから、最後の一発が炸裂したので
した。
「ピシッ」
「ひ~~死ぬ~~~」
「大仰なこと言いなさんな。いまだお尻叩きで死んだ子なんて
いないよ。……さあ、終わったよ」
お父さんは私を立たせ、身なりを整えさせます。
そして、こう言うのでした。
「私は、これから仕事に戻らなきゃならないので、美香とは、
ここでお別れだ。これからはお母さんやケイト先生の言いつけを
守って、頑張るんだぞ」
「もう行っちゃうの?」
私は急に寂しくなりました。
「大丈夫、お母さんは残るから……」
「でも……」
人間なんて勝手なものです。
つい先ほどまで、甘いアバンチュールを想い描いていたのに、
いざ別れるとなると、心が思いっきり子供に戻ってしまいます。
「最後に、お前のお尻を思いっきり叩けてよかったよ」
「もう、お父さんたら、嫌なことばかり言うんだから……」
「そのうちお前にも分かるだろうがな。お尻なんてものは叩く
より叩かれてる時代の方が幸せなんだよ」
「まさかあ~~。そんなわけないじゃない」
私はその場で痛むお尻をさすりながら笑いましたが……でも、
時を経て気づいたのです。『お尻を叩かれる子は愛されてる子』
なんだと……
お父さんの言う通りでした。
でも、いつかは私もお父さんの元を離れて独りで羽ばたかなけ
ればなりません。そう、ダニーとメロディのように……二人して、
トロッコを全力で押して未来へ向かわなければならないのでした。
****** 見沼教育ビレッジ (14) ******
****** 見沼教育ビレッジ (14) ******
******<主な登場人物>************
新井美香……中学二年。肩まで届くような長い髪の先に小さく
カールをかけている。目鼻立ちの整った美少女。
ただ本人は自分の顔に不満があって整形したいと
思っている。
新井真治……振興鉄鋼㈱の社長。普段から忙しくしているが、
今回、娘の為に1週間の休暇をとった。
新井澄江……専業主婦。小さな事にまで気のつくまめな人だが、
それがかえって仇になり娘と衝突することが多い。
新井香織……小学5年生で美香の妹。やんちゃでおしゃべり、
まだまだ甘えん坊で好奇心も強い。
ケイト先生…白人女性だが日本生まれの日本育ちで英語が苦手
という変な外人先生。サマーキャンプでは美香の
指導教官なのだが、童顔が災いしてかよく生徒と
間違われる。彼女はすでに美香の両親から体罰の
承諾を得ており、お仕置きはかなり厳しい。
**************************
お父さんのお膝の上で観た私の映画は、そりゃあほろ苦かった
けど、最後には思わず笑ってしまいました。
どうして笑ったかというと……
『へえ~~私のアソコってあんなになってたんだ』
って分かったのがおかしかったのです。
男の子は性器が見える処にあって普段見慣れてるでしょうけど、
女の子は努力しないとあそこは見ません。痒みがあったり、血が
出たりすれば、そりゃあ見ますけど……部屋に鍵を掛け、大胆な
ポーズをとって、鏡に映して……普段そんな努力はしないのです。
『ばっちいものは、見ずにすむならあえて見ない』というのが
女の子のポリシーでした。
ですから、アソコの事は意外と本人も知らないのです。
それを図らずも目の当たりにして、笑ってしまったのでした。
「何だ?何がおかしい?」
お父さんは私に不思議そうに尋ねますが……
「何でもないわ」
私が本当のことを口にするはずかありませんでした。
「さてと、映画は何を見るかな……」
お父さんの前に5つのボタンがありました。
そのどれにも映画のポスターが小さく縮尺版になって貼り付け
てありました。
「美香、あまえはどれがいい?」
お父さんは私に選ばせようとします。
そこで、そのポスターを一通り眺めてから……
「『ベニスに死す』なんていいんじゃないかな。この子、綺麗
だし……」
と、望みを言ったんですが……
「だめだ、だめだ、こんな退廃的な映画は……子供の観るもん
じゃないよ」
あっさり否定されてしまいます。
そして……
「『屋根の上のヴァイオリン弾き』なんていいんじゃないのか?」
と薦めてきますから、今度は私が……
「嫌よ、こんな暗い映画、もっと明るいのがいいわ」
「だったら、ちょっと古いが『俺たちに明日はない』ってのも
あるぞ。……西部劇だ」
「だってあれ、銀行強盗の話でしょう……人が死ぬお話は嫌い
なの……それに、あれ大人の話よね」
私は、最初の『ベニスに死す』を否定されたことで少しむくれ
ていました。
そこで、その妥協案として選んだのが……
「これなんか、いいんじゃない。『小さな恋のメロディ』……
男の子が可愛いわ」
「まあ、いいだろう」
お父さんはあまり乗り気ではなかったみたいですが、承知して
くれます。
一方、私の方もこの時この映画のことはよく知りませんでした。
ポスターのマークレスターが可愛かった。
選んだ理由は、ただ、それだけのだったのです。
「あ~、ビールとつまみ。ハイネケンあるか?……ならそれと
つまみはピーナッツでいいよ。………美香、おまえはどうする?」
お父さんが内線電話でルームサービスに注文を出します。
「私は、オレンジジュースとポップコーンでいいわ」
私はオットマンに足を投げ出して答えました。
ささやかですけど、これでやっと避暑地気分です。
注文の品が部屋に届いてから、お父さんは映画のボタンを押し
ます。
すると、開演のブザーが鳴り、辺りが暗くなります。
映写機が回り始めました。
スクリーンは小さめですが二人だけの貸切映画館は誰に気兼ね
もいりません。
注文したオヤツをつまみながら……もし、観ている映画がつま
らなければ、毛布を掛けてそのままソファで寝てしまえばいいの
ですから……
私は、当初、この映画にあまり興味がわきませんでしたから、
そうするつもりでした。
お父さんに肩を借り、寄り添ってお昼寝するだけでもよかった
のです。
ところが、私はその映画を最後まで見続けます。
『飾り気はないけど、どこまでも美しいイギリスの景色と透き
通るような男性ハーモニーのBGM。……英国の子どもたちって、
こんなにも素敵な学園生活を送ってるんだ。私もトレシーハイド
になりたい。好きな人と一緒にあのトロッコに乗って未来を目指
したい……』
映画を観たことのない人には、何を言っているか分からないで
しょうけど、とにかく大感動したのでした。
もっとも、お父さんはというと……
「まったく呆れた映画だ。どこの世界に、11歳のガキが結婚
なんか考える。おまえが11の時は、まだ、私の膝で甘えられる
だけ甘えてたぞ。……でも、それがまともな子供の姿だ」
お父さんにはこの映画を理解することはできないようでした。
でも、私の11歳も、ただお父さんの膝で甘えていたわけでは
ありませんでした。
それって、むしろ『お付き合い』という気持の方が強くて……
何でも「お父さん」「お母さん」ではありませんでした。
実ることはなくても淡い恋心はすでにありましたから、ダニー
とメロディの世界はまったくのおとぎ話ではなかったのです。
そんな蒸気した顔の私を見て、お父さんは私を抱き寄せます。
顔と顔が出会い、その口からは先ほどのビールの臭いがします。
「いやあ」
私はそのお酒の臭いでお父さんをいったんは拒絶しますが……
「忘れたのかい?まだ、五回、私からのお尻叩きが残ってるよ」
こう言われると私は再びそこへ戻らなければなりません。
そう、私はまだ14歳。彼らからみたらお姉さんのはずですが、
それでもお父さんやお母さん、大人たちが決めたルールのなかで
生きていかなければなりませんでした。
『あ~、私はいつあのトロッコに乗れるんだろう』
私はそう思ってお父さんのお膝に身体を沈めます。
すると、今度はお父さんが……
「こうして、おまえのお尻をいつまで叩けるかな」
お父さんはそう言いながら、私のスカートを上げ、ショーツを
下げます。
さすがに、人前でこの姿を晒すことはなくなりましたが、お父
さんにとってお尻叩きはいまだ現役。熱く厳しいお父さんの平手
の下で、私はまだまだお父さんの子どもを演じなければならない
のでした。
「ピシッ」
「いやあ~」
「何がいやあ~だ。こんな大きなお尻を叩かなきゃいけない私
の方がもっと嫌だ。ほら、ここは家の中じゃないんだ、こんな処
で足を開かない」
私が慌てて、両足を閉じますと……
「ピシッ」
「いやあ~」
再び、両足をバタつかせなければならないほど痛いのがやって
きます。
「少し口をつつしめ。いくら防音装置のある部屋でもそれじゃ
外の人に聞こえるぞ」
お父さんはそう言って、もう一つ……
「ピシッ」
「ひぃ~~~勘弁して~~」
本音が出ます。だって、この時のお尻叩きはとっても痛かった
のです。一発一発がこんな痛い平手は初めてでした。
「どうだ、少しはこたえたか?……おまえは今までのお仕置き
が私の目一杯だと思っていたのかもしれないが、こっちはこっち
で、気を使って緩めてたんだぞ。わかったか?」
「はい、お父さん」
「よ~~し、もうひとふんばりだ。しっかりつかまってなさい。
……ほれ」
「ピシッ」
「いや~~~~~」
私は無意識に太股を開いてバタつかせます。
そんな様子はまたビデオに撮られてしまうかもしれませんが、
こんなキツイお仕置きのもとでは、そんなこと言っていられませ
んでした。
私はもう必死にお父さんのお膝を握りしめます。
きっと、お父さんの太股にはくっきりと痣が残っているに違い
ありません。でも、それも仕方のないことでした。
「『痣のつくほど抓っておくれ、それを惚気の種にする』か、
昔の人はいいことを言うなあ……」
お父さんは、にが笑いを浮かべると、意味不明の独り言を言い
ます。そして、それが終わってから、最後の一発が炸裂したので
した。
「ピシッ」
「ひ~~死ぬ~~~」
「大仰なこと言いなさんな。いまだお尻叩きで死んだ子なんて
いないよ。……さあ、終わったよ」
お父さんは私を立たせ、身なりを整えさせます。
そして、こう言うのでした。
「私は、これから仕事に戻らなきゃならないので、美香とは、
ここでお別れだ。これからはお母さんやケイト先生の言いつけを
守って、頑張るんだぞ」
「もう行っちゃうの?」
私は急に寂しくなりました。
「大丈夫、お母さんは残るから……」
「でも……」
人間なんて勝手なものです。
つい先ほどまで、甘いアバンチュールを想い描いていたのに、
いざ別れるとなると、心が思いっきり子供に戻ってしまいます。
「最後に、お前のお尻を思いっきり叩けてよかったよ」
「もう、お父さんたら、嫌なことばかり言うんだから……」
「そのうちお前にも分かるだろうがな。お尻なんてものは叩く
より叩かれてる時代の方が幸せなんだよ」
「まさかあ~~。そんなわけないじゃない」
私はその場で痛むお尻をさすりながら笑いましたが……でも、
時を経て気づいたのです。『お尻を叩かれる子は愛されてる子』
なんだと……
お父さんの言う通りでした。
でも、いつかは私もお父さんの元を離れて独りで羽ばたかなけ
ればなりません。そう、ダニーとメロディのように……二人して、
トロッコを全力で押して未来へ向かわなければならないのでした。
****** 見沼教育ビレッジ (14) ******
<僕の小説に抱っこが多いわけ> ~どうでもいい話~
<僕の小説に抱っこが多いわけ> ~どうでもいい話~
僕は、こうして好きでお仕置き小説なんて描いてるけど、僕の
子供時代に、こうしたお仕置き体験がたくさんあったのかという
と、実はあまりなかった。
小説ネタにならないような小さなものはたくさんあったから、
今の基準でみたら大有りなのかもしれないけど……とにかく当時
(50年も前)の隣近所と比べたら、我が家なんて甘やかし放題、
放し飼い状態という感じで、当然、子どもだって山猿だった。
特に小学校時代が凄くて、五年生六年生になっても、ほとんど
自分の部屋のベッドで寝た事がない。寝るのはいつもお母さんの
布団で抱き合って一緒に添い寝。
ごはんはいくつかおかずを箸でつまんで遊んでいるうちに……
「ほらほら、いつまでも片付かないでしょうが」という声と共に
スプーンが口元までやって来るから、それをパクリっとやるだけ。
お母さんとはお風呂も一緒なら、トイレだって一緒で構わなか
った。実はお母さんが座る便座の脇で僕が順番待ちしてた記憶が
何度もあるんだけど、それをお互いが気にしてた記憶がないんだ。
(もちろん、Hな気分なんてさらさらなかった)
そんな馬鹿親、馬鹿息子だったから、お母さんのお膝にノンノ、
つまり腰掛けて遊ぶなんてことも日常茶飯事。母親の方は重くて
大変だったと思うけど頑張ってたね。とにかく、万事が赤ちゃん
扱い。
そんなわけで、僕の小説には、主人公がやたら親の膝に乗りた
がったり、あるいは親が子供を膝に乗せたがったりするシーンが
出てくるけど、あれは作者自身の家庭環境が実際そうだったから
それを描いてるだけなんだ。
僕の小説は、『お仕置き』以外はあくまで自分の経験がベース。
そこでは、『子供はいくつになっても親のお膝に乗りたがるもの、
親は子供をお膝に乗せたがるもの』という固定観念があるので、
こうなっちゃうんです。
*************************
僕は、こうして好きでお仕置き小説なんて描いてるけど、僕の
子供時代に、こうしたお仕置き体験がたくさんあったのかという
と、実はあまりなかった。
小説ネタにならないような小さなものはたくさんあったから、
今の基準でみたら大有りなのかもしれないけど……とにかく当時
(50年も前)の隣近所と比べたら、我が家なんて甘やかし放題、
放し飼い状態という感じで、当然、子どもだって山猿だった。
特に小学校時代が凄くて、五年生六年生になっても、ほとんど
自分の部屋のベッドで寝た事がない。寝るのはいつもお母さんの
布団で抱き合って一緒に添い寝。
ごはんはいくつかおかずを箸でつまんで遊んでいるうちに……
「ほらほら、いつまでも片付かないでしょうが」という声と共に
スプーンが口元までやって来るから、それをパクリっとやるだけ。
お母さんとはお風呂も一緒なら、トイレだって一緒で構わなか
った。実はお母さんが座る便座の脇で僕が順番待ちしてた記憶が
何度もあるんだけど、それをお互いが気にしてた記憶がないんだ。
(もちろん、Hな気分なんてさらさらなかった)
そんな馬鹿親、馬鹿息子だったから、お母さんのお膝にノンノ、
つまり腰掛けて遊ぶなんてことも日常茶飯事。母親の方は重くて
大変だったと思うけど頑張ってたね。とにかく、万事が赤ちゃん
扱い。
そんなわけで、僕の小説には、主人公がやたら親の膝に乗りた
がったり、あるいは親が子供を膝に乗せたがったりするシーンが
出てくるけど、あれは作者自身の家庭環境が実際そうだったから
それを描いてるだけなんだ。
僕の小説は、『お仕置き』以外はあくまで自分の経験がベース。
そこでは、『子供はいくつになっても親のお膝に乗りたがるもの、
親は子供をお膝に乗せたがるもの』という固定観念があるので、
こうなっちゃうんです。
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