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12/4 御招ばれ<第2章>(2)
12/4 御招ばれ<第2章>(2)
*)ソフトなソフトなお仕置き小説です。
私的には……ですが(^◇^)
あっ、このあたりはR-18解除です。
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<主な登場人物>
春花……11歳の少女。孤児院一のお転婆で即興ピアノが得意。
レニエ枢機卿が日本滞在中に彼の通訳をしていた仁科
遥との間につくった隠し子。
美里……11歳の少女。春花の親友。春花に乗せられて悪戯も
するが、春花より女の子らしい。絵が得意な少女。
植松大司教が芸者小春に産ませた子。
二人は父親の意向で母親から引き離されこの施設に
預けられたが、彼女たち自身は父母の名前を知らない。
安藤幸太郎……安藤家の現当主、安藤家は元伯爵家という家柄。
町外れの丘の上に広大なお屋敷を構えている。
教養もあり多趣味。当然子どもは好きなのだが、
その愛し方はちょっと変わっていた。
安藤美由紀……幸太郎の娘。いわゆる行かず後家というやつ。
日常生活では幸太郎の世話を焼くファザコン。
子どもたちがお泊まりにくればその世話も焼く
のだが、彼女の子供たちへの接し方も世間の常識
にはかなっていなかった。
柏村さん………表向き伯爵様のボディーガードということだが
秘書や執事、探偵といった仕事まで幅広くこなす。
三山医師………ほとんど幸太郎氏だけが患者というお抱え医師。
当然、幸太郎氏の意図を汲んで動く。
****************************
安藤家にお招ばれできたのは、春花や美里のように伯爵様から
ご指名を受けた子どもたち6名と希望者の中から抽選で選ばれた
6名の子どもたちの合計12名でした。
安藤家の場合、受け入れる子どもの数が多いため、3人の先生
方も子守役としてチャーターされたバスに一緒に乗りこみます。
先生たちも子どもたちと一緒にお泊まりというわけです。
こんなこと他の家庭へのお招ばれではありません。
全ては安藤家への特別な配慮。教会側も子供のこととはいえ、
旧華族様には最大限の気を使っていたのでした。
でも、それはあくまで大人の事情。
子どもたちにしてみたら、小高い丘の上にまるでお城のように
建つお屋敷は一度は行ってみたい遊園地みたいなもの。その魅力
はドレスアップしての豪華な食事や天蓋つきのふわふわベッドと
いうだけじゃありませんでした。
広い広いお庭には、急坂を利用して作った50mもある滑り台
や古い手動式のメリーゴーランド。坂道を下って遊ぶゴーカート。
テニスコートも孤児につき立ち入り禁止なんてことはありません
でした。
雨の日は、お外で遊べないのでカードゲームや大型モニターの
あるテレビ室などで過ごすことになりますが、そこにもピンホン
やボウリング場(ただし自分でピンを立てる手動式ですが)など
があって子供たちは飽きることがありませんでした。
もちろん、体を動かすことが苦手なチビっ子インテリさんたち
の為に図書室も開放してあります。
もう、至れり尽くせりです。
でもこれ、すべて安藤のおじいちゃんが訪ねて来る子供たちの
ために用意したものだったのです。
「やったあ~~あれよ、あれ、きっとあれだわ」
春花が美里の肩を激しく叩いて歓声をあげます。
「あれって、お城じゃないの」
美里がいぶかしがると……
「だから、さっきから言ってるでしょう。本物のお城はむかし
焼け落ちちゃったけど、そのあと伯爵様がお家を建てる時わざと
お城の形にして造ったって……ねえ、先生、そうだよね」
バスの車内に春花の底抜けに明るい声が響き渡ります。
町田先生が答えました。
「そうよ。だけど、あのお城は、伯爵様が地元の発展を願って
観光用として造られたものなの。伯爵様があのお城に住んでらっ
しゃるわけじゃないのよ」
「なあんだ、お城に住んでるわけじゃないんだ。……じゃあ、
伯爵様は、今どこに住んでるの?」
「お城の近くに立派なご自宅があるわ」
「へえ~、伯爵様のお家って小さいんだ」
「どうしてそうなるのよ」
「だって、そこはお城より小さいんでしょう」
「そりゃあそうだけど……あのねえ、春花ちゃん。今はお城に
住む人なんて誰もいないの。伯爵様のお住まいはたしかにお城に
比べたら小さいかもしれないけど、そこはもの凄く広くて立派な
お屋敷なのよ」
「あ~あ、がっかり。せっかくお城でお姫様気分が味わえると
思ったのに……」
町田先生と春花のとんちんかんな会話が終了してもバスはまだ
延々と山道を登り続けます。
結局、15分もアクセルをふかしてやっと、子どもたちを乗せ
た観光バスは、お屋敷の車寄せまで辿り着いたのでした。
ここで、一行はバスを下りる前、先生から注意を受けます。
でも、それって目新しいものではありませんでした。
学校で一回、バスに乗ってから一回、先生はすでに二回も同じ
事を話しています。
『またか……』
みんながそう思うのも無理からぬこと。
でも、ここで帰されてら今までの苦労が水の泡ですから、耳に
タコでも聞くしかありませんでした。
「いいですか、伯爵様のお屋敷に入ったらお行儀よくしていな
ければなりません。大声をだしたり、廊下を走ったり、もちろん
喧嘩はだめです。次に、家の中にはたくさんのお部屋があります
けど、私たちに与えられた部屋以外、勝手に入ってはいけません。
ドアを開けて部屋の中を覗くのもだめです。……春花ちゃん聞い
てますか?」
町田先生は、高級外車がずらりと並ぶ車寄せの風景に見とれて
いる春花ちゃんを狙って注意します。
そして、心配だったのでしょう。こう付け加えたのでした。
「もし、勝手にお部屋を覗くような子がいたらお仕置きです。
お招ばれに来ているからひどい事はしないだろうと思ってるなら
今から考えを改めなさい。ここも寮と同じです。容赦はしません。
寮にいる時と同じようにパンツを脱がして竹の物差しでピシピシ
お仕置きです。……いいですね」
「は~い」
子供たちの力のない声が響きます。
小学生グループは比較的真剣な顔ですが、中学生グループは、
過去に何度も経験していますから『どうせ、そんなの脅かしだけ』
と高をくくった顔でした。
と、まあここまでなら他の学校の修学旅行でもありそうな注意
かもしれませんが、伯爵邸へのお招ばれは、これだけではありま
せんでした。
町田先生からマイクを受け取った大隅先生が次にこんなことを
言うのです。
「いいですか、みなさん。これはたまに勘違いする子がいるの
であえて言いますが、みなさんはお招ばれで来たといってもまだ
子どもの身分です。それに対して、伯爵様をはじめ、ここで働い
ているお手伝いさんや庭で働いている男の人たちはみなさん大人
の人たちです。ですから、あなた方はその方たちの指示に従って
生活しなければなりません。間違っても『私はお客様なんだから』
なんて大柄な態度をとってはいけませんよ」
「は~い」
これまた子供たちの力のない声が響きます。
「ねえ、町田先生、横柄な態度ってどういう態度なの?」
春花ちゃんが尋ねると、先生は笑って……
「横柄ねえ~……あなたの普段の態度がそうよ」
「えっ?…………」
ショックな言葉が返ってきます。
それに加えて、美人の誉れ高い町田先生は、春花ちゃんにこう
も付け加えるのでした。
「伯爵様はよく子どもたちを膝の上に抱きかかえられるけど、
それは子どもたちがとってもお好きだからそうされるだけなの。
決してそれを嫌がっちゃだめよ。伯爵様が気分を害されてしまう
から」
「わかった。……でも、たぶん大丈夫よ。……だって、この間
も伯爵様に抱っこされたけど、私そんなに嫌じゃなかったから…」
春花ちゃんは町田先生に白い歯を見せて笑うのでした。
子供たちはバスを下りると建物の裏手にある入口へ移動します。
もちろん、正面玄関は車寄せの近くに立派なものがあるのですが、
そこは伯爵邸の正式な玄関。ご家族でさえ普段は裏へ回ります。
いくら招待されているといっても子ども風情が出入りできる場所
ではありませんでした。
ご家族が普段利用している入口は裏玄関と呼ばれていて決して
勝手口ではありません。そこは、まるで温泉旅館の玄関みたいに
広くて、子供たちは玄関先で待っていたお屋敷の女中さんに案内
されて奥へと進むことになります。
「おじゃまします」
少女達は玄関を入ると一様に案内してくれる女中さんへご挨拶。
その明るく華やかな声が奥の座敷へも通ります。
そこまではよかったのですが、女が三人寄ったら姦しいとか、
この場合は12人もの集団です。静かにしていろという方が始め
から無理でした。
「わあ、綺麗なお庭!」
「坪庭って言うのよ」
「私、知ってるわ。こういうのって鹿威しとか水琴窟とかいう
んでしょう。うちにはないタイプのお庭よね」
「当たり前よ、教会に灯篭なんかあっても似合わないもの」
「ねえ、ねえ、これ花瓶よね?……でも、でっかいわね。……
私の身長より大きくないかしら?」
「きっとヨーロッパのお金持ちが持ってたのを伯爵様が買った
のよ。フランス映画で見たことあるもの」
「じゃあ、これ……メイドインフランス?」
「馬鹿ねえ、それも言うならセーヴルじゃないの」
子供たちの議論に、訳知り顔で先生が口を挟みます。
「違うわ。これは有田焼だからメイドインジャパンよ。先代の
伯爵様が輸出仕様の花瓶を特注されたの。ここに伯爵家の御紋が
さりげなく入ってるわ」
「へえ、だったら日本製なんだ。……ねえ、そういうのって、
底に書いてあるのかしら。『メイド・イン・アリタ』って………
ねえ、ねえ、倒してみるから手伝って……」
その子が友だちに声を掛けて大きな花瓶を倒そうとしますから、
先生、今度は大慌てで……
「馬鹿なことしないでちょうだい!もし壊したらどうするの!」
大声で叫びましたが、時すでに遅く花瓶は倒されてしまいます。
「ねえ、ねえ、これって、私だったら中に入れそうよ」
「相変わらずあんたは子供ね。入っちゃえば、かくれんぼする
時、使えるかもよ」
先生、子供たちの声を聞きながら生きた心地がしませんでした。
「あれ?この人、誰だろう?」
「きっと、ここのご先祖よ。何かで功績があったから、きっと
銅像にしてもらってるのよ」
「何かって?」
「そんなこと知らないわよ。私ここんちの子じゃないんだもん」
「わあ、生意気。この人、髭なんてはやしてる」
「昔の人はよく髭を蓄えてたのよ。珍しいことではないわ。…
……ほら、あなたたち何やってるの!!」
「ねえ、ねえ、この廊下、スケートができるくらいツルツルに
磨いてあるよ。ほら……」
「いや、ホント、楽しい。私、滑ってみようか」
子供たちは中庭の日本庭園に驚き、伊万里の大きな花瓶に驚き、
ご先祖の胸像の頭を叩きます。
先生は、伯爵様のお屋敷ということもあって、なるべく大声を
出さず、そのたびごとに子供たちへ丁寧な説明を繰り返してきま
したが、さすがにスリッパを脱いで花瓶の置かれた廊下を滑ろう
としますから……
「いいかげんになさい!!」
町田先生、とうとう堪忍袋の緒が切れたみたいでした。
「幸恵、美登里、こっちへいらっしゃい」
先生に呼ばれた二人。何をされるかはわかっていました。
「……お尻を出して……」
二人は先生の命令で両手を膝につけてかがみます。
中学生の制服ですからそれだけではパンツが見えたりしません
が、こうした場合、スカートの上からというのはありえません。
スカートが捲りあげられ、町田先生愛用の洗濯ばさみでずり落
ちないように止められてしまいます。
「ピシ~!!」(ひぃ~)
「ピシ~!!」(あっっ)
パンツの上から平手でした。
「ピシ~!!」(うっ~)
「ピシ~!!」(いやっ)
一人ずつ交互にお尻を叩かれます。
「ピシ~!!」(ひゃ~)
「ピシ~!!」(だめっ)
結局、たった3発です。
先の行事もありますし、まさかこんな処でパンツまで脱がせる
訳にもいきませんから、こんなものですが、学校や寄宿舎でなら、
パンツも剥ぎ取られ、硬質ゴムの特製パドルで12回、たっぷり
と自分の間違いを反省させられるところでした。
ただ、それでほかの子たちの行いがあらたまったかというと、
そんなことはありませんでした。
ワイワイキャーキャー、かしまし娘さんたちの賑やかな道中が
続きます。
「こちらで、しばしお待ちください」
女中さんに案内されてやってきたのは、次の間と呼ばれている
控え室。伯爵邸の居間はその隣りの部屋でした。
女中さんが伯爵様に取り次いでから御目文字ということになり
ます。
もちろん伯爵様に話は通っていますからすぐにお許しがでます。
唐紙一つ向こうのことに大仰だと思われるかもしれませんが、
一口に居間と言っても、そこは庶民サイズではありませんでした。
50畳はあろうかというだだっぴろさです。
女中さんが唐紙を開けた瞬間、いきなりはるか遠くに一人掛け
用のソファ見えて、そこに伯爵様が腰を下ろしているのがわかり
ます。その遠近感から春花たち新参者は思わず立ちくらみが起き
そうでした。
「あ~、来たね。待ってたよ」
伯爵様は満面の笑みで手招きします。
それは施設で見た時と同じ好好爺の姿です。背後のお医者様や
看護婦さん、それに柏村さんも、やはり後ろで控えていました。
「お邪魔します」
伯爵様にそれに呼応して女の子たちがペルシャ絨毯の海を進み
ます。
「ご招待、ありがとうございます」
先頭きって伯爵様の前に進み出たのは、やはりこのお屋敷へは
ご常連の一人、谷口敬子ちゃんでした。
「おう、敬子ちゃん。元気にしてたかい?」
伯爵様は親しく握手を交わし頬ずりをして、次には敬子ちゃん
を御自身の膝の上に乗せてしまいます。
敬子ちゃんはすでに中学生。大人の膝の上に乗る年齢ではない
のかもしれませんが、これがこのお屋敷のルールでした。
伯爵様の膝に乗れば、頭もお尻も太股も身体じゅうありとあら
ゆるところを撫でられます。中には頬に生えている産毛が可愛い
と思わずほっぺたを舐められた子も……
濃密なスキンシップはおじいさんの望みですから誰に対しても
こうします。
ですから、これが嫌な子はたとえどんなご馳走が出ても二度と
このお屋敷へは来ませんでした。
「敬子ちゃんも子供だ子どもだと思ってたけど、いつの間にか
もう立派なヤングレディーだな」
おじいちゃんは敬子ちゃんをまるでお気に入りのぬいぐるみの
ように抱きしめます。それは、こうすることで若い子のエキスが
自分に乗り移ると考えてわざとやってるみたいでした。
伯爵様との儀式が終わると、敬子ちゃんは伯爵様のお膝に乗っ
たまま、顔を男の胸の中に押し付けて甘えます。
伯爵様は、子どもたちが甘える分にはどんなに甘えてきても、
決して嫌な顔をなさいませんでした。
一息ついて敬子ちゃんは、あらためて小さな箱取り出します。
「これ、私が刺繍したんです。よろしかったら使ってください」
箱の中には白いハンカチが一枚。広げるとそこには色とりどり
の糸で縫い上げられた草花の刺繍が……
「ほう、この刺繍は敬子ちゃんがやったの?……独りで?……
そうかい……こんなに細かな仕事をしたら随分と時間がかかった
だろう。……ありがとう。大事にするよ」
伯爵様は目を細めて喜びます。
こうしたやりとりは何も敬子ちゃんだけの事ではありません。
この後に並ぶ全ての子供たちが伯爵様の為に何かしらプレゼント
を用意していました。
ここでのプレゼントは、お招れを受けた子どもたちが伯爵様に
そのお礼として差し上げるお土産のことなのですが、子供のこと
ですから、もちろん高価なものなんてありませんでした。
中学生位になると、自分で刺繍を入れた絹のハンカチや手袋、
手編みのマフラー、蝋けつ染めのシガーケースなんていうのまで
持ち込むようになりますが小学生の頃はもっと素朴です。伯爵様
の似顔絵や画用紙でできた紙人形、押し花の栞、なんてのが定番
でした。
いえいえ、何も形ある物とは限りませんよ。
楽器が得意ならピアノやヴァイオリンの演奏でもいいですし、
得意な歌を熱唱したり有名な詩を暗記して朗読しても構いません。
中には何を勘違いしたのか、100点のテストをプレゼントに
持ってきた幼い子もいました。ただそんな時でも、伯爵様は常に
笑顔です。その子と一緒に満点のテストをご覧になって……
「お~~凄いじゃないか。末は博士になれるぞ」
とニコニコ。答案用紙を大事そうに胸ポケットにしまわれると、
その子の頭をいつまでも愛おしくなでておいででした。
そんな常連客のあと、恐る恐るペルシャ絨毯の海を渡ってきた
美里ちゃんの番が回ってきます。
美里ちゃんのプレゼントは、やはり得意の水彩画でした。
「おう、これは私だね、水彩で仕上げてくれたんだ。ん~~、
陰影も綺麗についてるし、私も一段と美男子になって嬉しいよ。
よし、これも一緒に飾ろう」
伯爵様はそう言って美里ちゃんのプレゼントを柏村さんに手渡
すと空いてる壁を指示します。
そこにはすでにたくさんの絵が飾られていました。
気がつけば、他の子の絵に混じって、分不相応なくらい立派な
額に先日伯爵様に手渡した美里ちゃんの絵が飾られていました。
「おいで」
伯爵様はあたりをキョロキョロ見回していた美里ちゃんの目の
前に両手を出してご自分の膝の上に抱き上げます。
最初は、頭をなでなでしたり、ほっぺを頬ずりしたりしていま
したが、そのうち、その可愛らしい指をパクリ。これはほかの子
にはない特別な愛情表現でした。
きっと、『食べちゃいたいくらい可愛いよ』ということなんで
しょうが、でも何よりよかったのは美里ちゃんがそんな伯爵様を
嫌がらなかったこと。むしろ、笑って応えたことだったのです。
そのご褒美ということでしょうか。以後、里美ちゃんは自分が
望みさえすれば、伯爵様が必ず招待客の一人としてリストアップ
すると約束してくれたのです。そう、このお屋敷の永久会員です。
豪華な料理も、ふかふかのベッドも、図書室の高価な美術書も、
美里ちゃんはそのすべてを笑顔一つで手に入れることができたの
でした。
****************(2)*********
*)ソフトなソフトなお仕置き小説です。
私的には……ですが(^◇^)
あっ、このあたりはR-18解除です。
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<主な登場人物>
春花……11歳の少女。孤児院一のお転婆で即興ピアノが得意。
レニエ枢機卿が日本滞在中に彼の通訳をしていた仁科
遥との間につくった隠し子。
美里……11歳の少女。春花の親友。春花に乗せられて悪戯も
するが、春花より女の子らしい。絵が得意な少女。
植松大司教が芸者小春に産ませた子。
二人は父親の意向で母親から引き離されこの施設に
預けられたが、彼女たち自身は父母の名前を知らない。
安藤幸太郎……安藤家の現当主、安藤家は元伯爵家という家柄。
町外れの丘の上に広大なお屋敷を構えている。
教養もあり多趣味。当然子どもは好きなのだが、
その愛し方はちょっと変わっていた。
安藤美由紀……幸太郎の娘。いわゆる行かず後家というやつ。
日常生活では幸太郎の世話を焼くファザコン。
子どもたちがお泊まりにくればその世話も焼く
のだが、彼女の子供たちへの接し方も世間の常識
にはかなっていなかった。
柏村さん………表向き伯爵様のボディーガードということだが
秘書や執事、探偵といった仕事まで幅広くこなす。
三山医師………ほとんど幸太郎氏だけが患者というお抱え医師。
当然、幸太郎氏の意図を汲んで動く。
****************************
安藤家にお招ばれできたのは、春花や美里のように伯爵様から
ご指名を受けた子どもたち6名と希望者の中から抽選で選ばれた
6名の子どもたちの合計12名でした。
安藤家の場合、受け入れる子どもの数が多いため、3人の先生
方も子守役としてチャーターされたバスに一緒に乗りこみます。
先生たちも子どもたちと一緒にお泊まりというわけです。
こんなこと他の家庭へのお招ばれではありません。
全ては安藤家への特別な配慮。教会側も子供のこととはいえ、
旧華族様には最大限の気を使っていたのでした。
でも、それはあくまで大人の事情。
子どもたちにしてみたら、小高い丘の上にまるでお城のように
建つお屋敷は一度は行ってみたい遊園地みたいなもの。その魅力
はドレスアップしての豪華な食事や天蓋つきのふわふわベッドと
いうだけじゃありませんでした。
広い広いお庭には、急坂を利用して作った50mもある滑り台
や古い手動式のメリーゴーランド。坂道を下って遊ぶゴーカート。
テニスコートも孤児につき立ち入り禁止なんてことはありません
でした。
雨の日は、お外で遊べないのでカードゲームや大型モニターの
あるテレビ室などで過ごすことになりますが、そこにもピンホン
やボウリング場(ただし自分でピンを立てる手動式ですが)など
があって子供たちは飽きることがありませんでした。
もちろん、体を動かすことが苦手なチビっ子インテリさんたち
の為に図書室も開放してあります。
もう、至れり尽くせりです。
でもこれ、すべて安藤のおじいちゃんが訪ねて来る子供たちの
ために用意したものだったのです。
「やったあ~~あれよ、あれ、きっとあれだわ」
春花が美里の肩を激しく叩いて歓声をあげます。
「あれって、お城じゃないの」
美里がいぶかしがると……
「だから、さっきから言ってるでしょう。本物のお城はむかし
焼け落ちちゃったけど、そのあと伯爵様がお家を建てる時わざと
お城の形にして造ったって……ねえ、先生、そうだよね」
バスの車内に春花の底抜けに明るい声が響き渡ります。
町田先生が答えました。
「そうよ。だけど、あのお城は、伯爵様が地元の発展を願って
観光用として造られたものなの。伯爵様があのお城に住んでらっ
しゃるわけじゃないのよ」
「なあんだ、お城に住んでるわけじゃないんだ。……じゃあ、
伯爵様は、今どこに住んでるの?」
「お城の近くに立派なご自宅があるわ」
「へえ~、伯爵様のお家って小さいんだ」
「どうしてそうなるのよ」
「だって、そこはお城より小さいんでしょう」
「そりゃあそうだけど……あのねえ、春花ちゃん。今はお城に
住む人なんて誰もいないの。伯爵様のお住まいはたしかにお城に
比べたら小さいかもしれないけど、そこはもの凄く広くて立派な
お屋敷なのよ」
「あ~あ、がっかり。せっかくお城でお姫様気分が味わえると
思ったのに……」
町田先生と春花のとんちんかんな会話が終了してもバスはまだ
延々と山道を登り続けます。
結局、15分もアクセルをふかしてやっと、子どもたちを乗せ
た観光バスは、お屋敷の車寄せまで辿り着いたのでした。
ここで、一行はバスを下りる前、先生から注意を受けます。
でも、それって目新しいものではありませんでした。
学校で一回、バスに乗ってから一回、先生はすでに二回も同じ
事を話しています。
『またか……』
みんながそう思うのも無理からぬこと。
でも、ここで帰されてら今までの苦労が水の泡ですから、耳に
タコでも聞くしかありませんでした。
「いいですか、伯爵様のお屋敷に入ったらお行儀よくしていな
ければなりません。大声をだしたり、廊下を走ったり、もちろん
喧嘩はだめです。次に、家の中にはたくさんのお部屋があります
けど、私たちに与えられた部屋以外、勝手に入ってはいけません。
ドアを開けて部屋の中を覗くのもだめです。……春花ちゃん聞い
てますか?」
町田先生は、高級外車がずらりと並ぶ車寄せの風景に見とれて
いる春花ちゃんを狙って注意します。
そして、心配だったのでしょう。こう付け加えたのでした。
「もし、勝手にお部屋を覗くような子がいたらお仕置きです。
お招ばれに来ているからひどい事はしないだろうと思ってるなら
今から考えを改めなさい。ここも寮と同じです。容赦はしません。
寮にいる時と同じようにパンツを脱がして竹の物差しでピシピシ
お仕置きです。……いいですね」
「は~い」
子供たちの力のない声が響きます。
小学生グループは比較的真剣な顔ですが、中学生グループは、
過去に何度も経験していますから『どうせ、そんなの脅かしだけ』
と高をくくった顔でした。
と、まあここまでなら他の学校の修学旅行でもありそうな注意
かもしれませんが、伯爵邸へのお招ばれは、これだけではありま
せんでした。
町田先生からマイクを受け取った大隅先生が次にこんなことを
言うのです。
「いいですか、みなさん。これはたまに勘違いする子がいるの
であえて言いますが、みなさんはお招ばれで来たといってもまだ
子どもの身分です。それに対して、伯爵様をはじめ、ここで働い
ているお手伝いさんや庭で働いている男の人たちはみなさん大人
の人たちです。ですから、あなた方はその方たちの指示に従って
生活しなければなりません。間違っても『私はお客様なんだから』
なんて大柄な態度をとってはいけませんよ」
「は~い」
これまた子供たちの力のない声が響きます。
「ねえ、町田先生、横柄な態度ってどういう態度なの?」
春花ちゃんが尋ねると、先生は笑って……
「横柄ねえ~……あなたの普段の態度がそうよ」
「えっ?…………」
ショックな言葉が返ってきます。
それに加えて、美人の誉れ高い町田先生は、春花ちゃんにこう
も付け加えるのでした。
「伯爵様はよく子どもたちを膝の上に抱きかかえられるけど、
それは子どもたちがとってもお好きだからそうされるだけなの。
決してそれを嫌がっちゃだめよ。伯爵様が気分を害されてしまう
から」
「わかった。……でも、たぶん大丈夫よ。……だって、この間
も伯爵様に抱っこされたけど、私そんなに嫌じゃなかったから…」
春花ちゃんは町田先生に白い歯を見せて笑うのでした。
子供たちはバスを下りると建物の裏手にある入口へ移動します。
もちろん、正面玄関は車寄せの近くに立派なものがあるのですが、
そこは伯爵邸の正式な玄関。ご家族でさえ普段は裏へ回ります。
いくら招待されているといっても子ども風情が出入りできる場所
ではありませんでした。
ご家族が普段利用している入口は裏玄関と呼ばれていて決して
勝手口ではありません。そこは、まるで温泉旅館の玄関みたいに
広くて、子供たちは玄関先で待っていたお屋敷の女中さんに案内
されて奥へと進むことになります。
「おじゃまします」
少女達は玄関を入ると一様に案内してくれる女中さんへご挨拶。
その明るく華やかな声が奥の座敷へも通ります。
そこまではよかったのですが、女が三人寄ったら姦しいとか、
この場合は12人もの集団です。静かにしていろという方が始め
から無理でした。
「わあ、綺麗なお庭!」
「坪庭って言うのよ」
「私、知ってるわ。こういうのって鹿威しとか水琴窟とかいう
んでしょう。うちにはないタイプのお庭よね」
「当たり前よ、教会に灯篭なんかあっても似合わないもの」
「ねえ、ねえ、これ花瓶よね?……でも、でっかいわね。……
私の身長より大きくないかしら?」
「きっとヨーロッパのお金持ちが持ってたのを伯爵様が買った
のよ。フランス映画で見たことあるもの」
「じゃあ、これ……メイドインフランス?」
「馬鹿ねえ、それも言うならセーヴルじゃないの」
子供たちの議論に、訳知り顔で先生が口を挟みます。
「違うわ。これは有田焼だからメイドインジャパンよ。先代の
伯爵様が輸出仕様の花瓶を特注されたの。ここに伯爵家の御紋が
さりげなく入ってるわ」
「へえ、だったら日本製なんだ。……ねえ、そういうのって、
底に書いてあるのかしら。『メイド・イン・アリタ』って………
ねえ、ねえ、倒してみるから手伝って……」
その子が友だちに声を掛けて大きな花瓶を倒そうとしますから、
先生、今度は大慌てで……
「馬鹿なことしないでちょうだい!もし壊したらどうするの!」
大声で叫びましたが、時すでに遅く花瓶は倒されてしまいます。
「ねえ、ねえ、これって、私だったら中に入れそうよ」
「相変わらずあんたは子供ね。入っちゃえば、かくれんぼする
時、使えるかもよ」
先生、子供たちの声を聞きながら生きた心地がしませんでした。
「あれ?この人、誰だろう?」
「きっと、ここのご先祖よ。何かで功績があったから、きっと
銅像にしてもらってるのよ」
「何かって?」
「そんなこと知らないわよ。私ここんちの子じゃないんだもん」
「わあ、生意気。この人、髭なんてはやしてる」
「昔の人はよく髭を蓄えてたのよ。珍しいことではないわ。…
……ほら、あなたたち何やってるの!!」
「ねえ、ねえ、この廊下、スケートができるくらいツルツルに
磨いてあるよ。ほら……」
「いや、ホント、楽しい。私、滑ってみようか」
子供たちは中庭の日本庭園に驚き、伊万里の大きな花瓶に驚き、
ご先祖の胸像の頭を叩きます。
先生は、伯爵様のお屋敷ということもあって、なるべく大声を
出さず、そのたびごとに子供たちへ丁寧な説明を繰り返してきま
したが、さすがにスリッパを脱いで花瓶の置かれた廊下を滑ろう
としますから……
「いいかげんになさい!!」
町田先生、とうとう堪忍袋の緒が切れたみたいでした。
「幸恵、美登里、こっちへいらっしゃい」
先生に呼ばれた二人。何をされるかはわかっていました。
「……お尻を出して……」
二人は先生の命令で両手を膝につけてかがみます。
中学生の制服ですからそれだけではパンツが見えたりしません
が、こうした場合、スカートの上からというのはありえません。
スカートが捲りあげられ、町田先生愛用の洗濯ばさみでずり落
ちないように止められてしまいます。
「ピシ~!!」(ひぃ~)
「ピシ~!!」(あっっ)
パンツの上から平手でした。
「ピシ~!!」(うっ~)
「ピシ~!!」(いやっ)
一人ずつ交互にお尻を叩かれます。
「ピシ~!!」(ひゃ~)
「ピシ~!!」(だめっ)
結局、たった3発です。
先の行事もありますし、まさかこんな処でパンツまで脱がせる
訳にもいきませんから、こんなものですが、学校や寄宿舎でなら、
パンツも剥ぎ取られ、硬質ゴムの特製パドルで12回、たっぷり
と自分の間違いを反省させられるところでした。
ただ、それでほかの子たちの行いがあらたまったかというと、
そんなことはありませんでした。
ワイワイキャーキャー、かしまし娘さんたちの賑やかな道中が
続きます。
「こちらで、しばしお待ちください」
女中さんに案内されてやってきたのは、次の間と呼ばれている
控え室。伯爵邸の居間はその隣りの部屋でした。
女中さんが伯爵様に取り次いでから御目文字ということになり
ます。
もちろん伯爵様に話は通っていますからすぐにお許しがでます。
唐紙一つ向こうのことに大仰だと思われるかもしれませんが、
一口に居間と言っても、そこは庶民サイズではありませんでした。
50畳はあろうかというだだっぴろさです。
女中さんが唐紙を開けた瞬間、いきなりはるか遠くに一人掛け
用のソファ見えて、そこに伯爵様が腰を下ろしているのがわかり
ます。その遠近感から春花たち新参者は思わず立ちくらみが起き
そうでした。
「あ~、来たね。待ってたよ」
伯爵様は満面の笑みで手招きします。
それは施設で見た時と同じ好好爺の姿です。背後のお医者様や
看護婦さん、それに柏村さんも、やはり後ろで控えていました。
「お邪魔します」
伯爵様にそれに呼応して女の子たちがペルシャ絨毯の海を進み
ます。
「ご招待、ありがとうございます」
先頭きって伯爵様の前に進み出たのは、やはりこのお屋敷へは
ご常連の一人、谷口敬子ちゃんでした。
「おう、敬子ちゃん。元気にしてたかい?」
伯爵様は親しく握手を交わし頬ずりをして、次には敬子ちゃん
を御自身の膝の上に乗せてしまいます。
敬子ちゃんはすでに中学生。大人の膝の上に乗る年齢ではない
のかもしれませんが、これがこのお屋敷のルールでした。
伯爵様の膝に乗れば、頭もお尻も太股も身体じゅうありとあら
ゆるところを撫でられます。中には頬に生えている産毛が可愛い
と思わずほっぺたを舐められた子も……
濃密なスキンシップはおじいさんの望みですから誰に対しても
こうします。
ですから、これが嫌な子はたとえどんなご馳走が出ても二度と
このお屋敷へは来ませんでした。
「敬子ちゃんも子供だ子どもだと思ってたけど、いつの間にか
もう立派なヤングレディーだな」
おじいちゃんは敬子ちゃんをまるでお気に入りのぬいぐるみの
ように抱きしめます。それは、こうすることで若い子のエキスが
自分に乗り移ると考えてわざとやってるみたいでした。
伯爵様との儀式が終わると、敬子ちゃんは伯爵様のお膝に乗っ
たまま、顔を男の胸の中に押し付けて甘えます。
伯爵様は、子どもたちが甘える分にはどんなに甘えてきても、
決して嫌な顔をなさいませんでした。
一息ついて敬子ちゃんは、あらためて小さな箱取り出します。
「これ、私が刺繍したんです。よろしかったら使ってください」
箱の中には白いハンカチが一枚。広げるとそこには色とりどり
の糸で縫い上げられた草花の刺繍が……
「ほう、この刺繍は敬子ちゃんがやったの?……独りで?……
そうかい……こんなに細かな仕事をしたら随分と時間がかかった
だろう。……ありがとう。大事にするよ」
伯爵様は目を細めて喜びます。
こうしたやりとりは何も敬子ちゃんだけの事ではありません。
この後に並ぶ全ての子供たちが伯爵様の為に何かしらプレゼント
を用意していました。
ここでのプレゼントは、お招れを受けた子どもたちが伯爵様に
そのお礼として差し上げるお土産のことなのですが、子供のこと
ですから、もちろん高価なものなんてありませんでした。
中学生位になると、自分で刺繍を入れた絹のハンカチや手袋、
手編みのマフラー、蝋けつ染めのシガーケースなんていうのまで
持ち込むようになりますが小学生の頃はもっと素朴です。伯爵様
の似顔絵や画用紙でできた紙人形、押し花の栞、なんてのが定番
でした。
いえいえ、何も形ある物とは限りませんよ。
楽器が得意ならピアノやヴァイオリンの演奏でもいいですし、
得意な歌を熱唱したり有名な詩を暗記して朗読しても構いません。
中には何を勘違いしたのか、100点のテストをプレゼントに
持ってきた幼い子もいました。ただそんな時でも、伯爵様は常に
笑顔です。その子と一緒に満点のテストをご覧になって……
「お~~凄いじゃないか。末は博士になれるぞ」
とニコニコ。答案用紙を大事そうに胸ポケットにしまわれると、
その子の頭をいつまでも愛おしくなでておいででした。
そんな常連客のあと、恐る恐るペルシャ絨毯の海を渡ってきた
美里ちゃんの番が回ってきます。
美里ちゃんのプレゼントは、やはり得意の水彩画でした。
「おう、これは私だね、水彩で仕上げてくれたんだ。ん~~、
陰影も綺麗についてるし、私も一段と美男子になって嬉しいよ。
よし、これも一緒に飾ろう」
伯爵様はそう言って美里ちゃんのプレゼントを柏村さんに手渡
すと空いてる壁を指示します。
そこにはすでにたくさんの絵が飾られていました。
気がつけば、他の子の絵に混じって、分不相応なくらい立派な
額に先日伯爵様に手渡した美里ちゃんの絵が飾られていました。
「おいで」
伯爵様はあたりをキョロキョロ見回していた美里ちゃんの目の
前に両手を出してご自分の膝の上に抱き上げます。
最初は、頭をなでなでしたり、ほっぺを頬ずりしたりしていま
したが、そのうち、その可愛らしい指をパクリ。これはほかの子
にはない特別な愛情表現でした。
きっと、『食べちゃいたいくらい可愛いよ』ということなんで
しょうが、でも何よりよかったのは美里ちゃんがそんな伯爵様を
嫌がらなかったこと。むしろ、笑って応えたことだったのです。
そのご褒美ということでしょうか。以後、里美ちゃんは自分が
望みさえすれば、伯爵様が必ず招待客の一人としてリストアップ
すると約束してくれたのです。そう、このお屋敷の永久会員です。
豪華な料理も、ふかふかのベッドも、図書室の高価な美術書も、
美里ちゃんはそのすべてを笑顔一つで手に入れることができたの
でした。
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12/3 御招ばれ<第2章>(1)
12/3 御招ばれ<第2章>(1)
*)ソフトなソフトなお仕置き小説です。私的にはですが(^◇^)
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<主な登場人物>
春花……11歳の少女。孤児院一のお転婆で即興ピアノが得意。
レニエ枢機卿が日本滞在中に彼の通訳をしていた仁科
遥との間につくった隠し子。
美里……11歳の少女。春花の親友。春花に乗せられて悪戯も
するが、春花より女の子らしい。絵が得意な少女。
植松大司教が芸者小春に産ませた子。
二人は父親の意向で母親から引き離されこの施設に
預けられたが、彼女たち自身は父母の名前を知らない。
安藤幸太郎……安藤家の現当主、安藤家は元伯爵家という家柄。
町外れの丘の上に広大なお屋敷を構えている。
教養もあり多趣味。当然子どもは好きなのだが、
その愛し方はちょっと変わっていた。
安藤美由紀……幸太郎の娘。いわゆる行かず後家というやつ。
日常生活では幸太郎の世話を焼くファザコン。
子どもたちがお泊まりにくればその世話も焼く
のだが、彼女の子供たちへの接し方も世間の常識
にはかなっていなかった。
柏村さん………表向き伯爵様のボディーガードということだが
秘書や執事、探偵といった仕事まで幅広くこなす。
三山医師………ほとんど幸太郎氏だけが患者というお抱え医師。
当然、幸太郎氏の意図を汲んで動く。
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次の御招ばれの日が来ました。
招待してくださるお父様たちがホールにずらりと居並ぶなかで、
春花と美里は、他の紳士たちと談笑する大西先生の脇を、抜き足
差し足ですり抜けていきます。
そう、まるで門限破りした子が親に見つからないようにそうっ
と家の中へ入り込む、そんな感じでした。
『どうして二人がそんなことをしたのか?』ですか……
だって、このお二人さん、もうここ何ヶ月も続けて大西先生の
処へご厄介になっているでしょう。それが今回は方向転換して、
他に適当な家はないかと物色しているもんですから、大西先生に
見つかりたくなかったのです。
どうやら二人には、大西先生と顔を合せるのは気まずいという
思いがあるみたいでした。
でも、大西先生は紳士ですからね、そんな二人が逃げるように
安藤伯爵のもとへ出かけて行ったとしても何も言いません。
先生は、先月、二人に茜さんへの厳しいお仕置きを見学させて
いましたからね、『あれを見てきっと嫌気がさしたんだろう』と
分かっていたみたいでした。
ですから、全ては承知の上……
「おや?あの二人、今日は先生のところに来ませんね。鞍替え
されちゃいましたかね?」
話相手の渡辺さんにからかわれても、先生、余裕の笑顔でした。
「いや、いいんですよ。二人には、先月、娘のお仕置きを見せ
ちゃいましたから……。きっと、それが恐かったんでしょう」
「おやおや、それはまたどうして?娘さんのお仕置きそんなに
急を要するようなことだったんですか?そんなこと二人が帰って
からでもよかったでしょうに……」
「もちろん普段ならそんなことしませんよ。ただ、あの子たち、
本気で私のところで暮らしたいという希望を持ってるみたいで。
だったら、私の方も『本気で娘として育ててあげますよ』という
つもりで、わざとそういうところも見せたんです」
「なるほど、『娘として本気で受け入れるためにはお仕置きも
当然、受け入れてもらいますよ』というわけですな。生真面目な
先生らしいや」
渡辺さんは笑います。
「でも、そんなことしたら、あの二人、もう二度と先生のお宅
に来なくなっちゃうんじゃありませんか?」
渡辺さん心配してそう言うと……
「別にそれはそれで構いませんよ。無理強いする必要もありま
せんから。それより、あの子たちには今のうちにいろんな家庭を
知っておいて欲しいんです。将来、あの子たちが聖職者となった
時、こちらも浮世離れした説教は聞きたくありませんから」
先生はあっさりとこう言い放ちます。
ただ、先生、心のうちでは……
『二人はいずれ私の処へ戻る』
という確信めいたものはあったみたいでした。
春花と美里の二人はとあるおじいさんの処へとやってきます。
そこでは、すでに数人の子供たちがこのおじいさんの前に並ん
でいました。
二人はその列に迷わず並びます。
「やっぱり人気あるわね。安藤伯爵様」
春花が美里に耳打ち。
「私、こんな絵で大丈夫かしら?」
美里は心配そうに持ってきた自分の絵を眺めます。
「そんなのやってみなきゃわからないでしょう。とにかくチャ
レンジあるのみよ。抽選の列に並ぶのはそれからでもできるもの」
春花は意気軒昂。この時彼女は小さなオモチャのピアノを抱え
ていました。
実は、このお招ばれ会。子供の側だけでなくお父さん側も施設
の子どもたちを指名することができました。
もし、相思相愛ならめでたく親子カップル成立というわけです。
大西先生の場合は、お金持ちというほどではありませんから、
お招ばれの定員は二人だけですが、安藤伯爵の場合は、町一番の
資産家ですから、子どもたちをいつも12名以上も招待してくれ
ます。
広いお庭にはたくさんの遊具が並び、図書室には毎週通っても
読みきれないほどの本があります。もちろん食事だって豪華です
し、天蓋つきのベッドなんて恐らくここ以外ではお目にかかれな
いかもしれません。
ですから、そんなにリッチなお宅で週末を暮らそうと、多くの
子どもたちが手に手に自慢の品を携え、伯爵様のご指名を得よう
として売り込みをかけてきます。
春花と美里が並んだのもまさにそのための行列だったのでした。
子どもたちは、自分の番がきて伯爵の前に立つと、自分が最も
得意とする自慢できる芸を披露します。
歌の上手い子は歌を歌いますし、楽器のできる子はそれを演奏
してみせます。手先の器用な子は自分で刺繍した手袋やハンカチ
をプレゼントするというのもごくポピュラーな方法でした。
いえ、いえ、なかには女の武器を使う子も……
「おじいちゃま、抱っこ」
そう言って、いきなりおじいちゃんのお膝に飛び乗る子もいる
のです。
伯爵様は車椅子生活ですが、子ども好きで知られた人ですから、
たとえ少々お膝に負担がかかってもそんな子を邪険にはしません。
もし、笑顔の少女の頭を伯爵様が優しく撫でてくれたら、もう
女の子の勝ちでした。
ただこれには年齢制限や体重制限がありますから、ごく幼い子
に限られます。春花や美里にはもうその資格がありませんでした。
そんな幼い子の飛び道具を見た後に、とうとう春花と美里の番
がやってきます。
二人は、この時伯爵様だけでなく、その後ろに控える大人三人
からも自分の芸を見られることになります。
というのも、伯爵様はご高齢で病がちでしたから、どこへ出か
ける時もお医者様と看護婦さん、それに屈強なボディーガードの
三人を引き連れていたのです。
「安藤のおじいちゃま、どうか、私たちを自宅に招待してくだ
さい。お願いします」
「安藤のおじいちゃま、どうか、私たちを自宅に招待してくだ
さい。お願いします」
心臓が飛び出そうな緊張のなか二人は美しく揃ったハーモニー
で安藤老人に売り込みを掛けます。
実は、どちらが最初か決めていなかったのです。
その二人の声に伯爵様は満面の笑み。ですから、まずは第一歩、
そこは成功したみたいでしたが……でも、すぐに鋭い質問が飛ん
できます。
「君たちは、たしか…大西君の処へよく遊びに行ってたみたい
だけど、今日はそちらへは行かないのかね?」
予期しない質問に二人は戸惑いますが、春花が意を決して先月
のことを……。
「先週も大西先生の処へ行ったんですが……そこで娘さんの、
お仕置きを見ちゃって……それで、他の処でもいいかなあって」
「なるほど……それで恐くなって、今週は私の処へ来たという
わけか……でも、君たち自身はぶたれたりしなかったんだろう?」
「ええ、それは……」
「そうか、君たちが何か粗相をしたわけじゃないんだね」
「……はい」
「よし、よし、だったら問題ないな……で、君たちは何を披露
してくれるのかな?」
「………………………………………………」
出し物を伯爵様にせがまれた二人、踏み出すのに少しだけ勇気
が必要でしたが、この時は先に美里ちゃんが動きます。
「わたし、伯爵様のために絵をかきました」
「そうか、見せてごらん」
老伯爵は、美里ちゃんが差し出す絵を受け取る瞬間、その手を
とって美里ちゃんの身体をそっくりご自分の膝の上へ乗せてしま
います。
車椅子生活の伯爵でしたが、その腕力は相当のものでした。
こうして、おじいちゃんは美里ちゃんをお膝に乗せてその絵を
鑑賞することになります。
「パステルと水彩か……ん?……これは……ほう、これ私かね。
なかなか上手じゃないか。特徴をよくとらえてる。下手な似顔絵
描きよりよほど味があっていいじゃないか」
伯爵様は笑顔。好感触でした。
「こちらは、水彩の風景画か。ここの中庭だね。綺麗な風景だ。
風がそよいでいる感じがよく出てる」
こちらも好評価でしたが、突然、伯爵はボディーガードの柏村
さんを呼び寄せます。そして……
「柏村、水彩の道具を借りてきてくれ」
と、命じるのです。
思わず柏村さん、『えっ!?水彩絵の具ならこちらに……』と
言おうとして口をつぐんでしまいました。
実は伯爵、自分で描いた絵を見せに来る子があまりに多いので
絵の具はいつも手元に準備しているのです。
しかし、柏村さんはその事にはふれませんでした。
「承知しました」
と一言だけ。絵の具を借りに舎監の部屋へと出かけます。
その水彩の道具が届くまで、老伯爵は美里ちゃんの絵を褒めち
ぎります。そして、学校の事、寮での生活、お友だちの事などを
丁寧に尋ねたのでした。
その間、おじいちゃんは美里ちゃんの身体を触り続けます。
頭をなで、髭剃り後のざらざらした自分の頬を押し付けて頬ず
りしたり、まだ可愛らしい両手も両足もごつごつとした皺枯れた
大きな手で揉み上げます。
太股も、ショートパンツを穿いた股間も伯爵には無関係な場所
でした。
「あっ……」
美里ちゃんにしたら気持のよいはずもありません。思わず声を
上げそうになりますが、何とかギリギリ耐えられる程度だったの
で我慢します。
すると、伯爵様はさらにエスカレート。
「あっ、あ~~ん」
とうとう切ない声が出てしまいました。
本当なら、横っ面張り倒してお膝から降りるところかもしれま
せんが、美里ちゃんにはその気はありませんでした。
いえ、正確に言うと、最初はあったんですが、段々にその気が
なくなってしまったのです。
悩ましく不快な思いを切ない快感へと変化させるテクニックを
伯爵は熟知しています。
「あっ…あああ……(はあ)(はあ)……いやっ……あああっ」
最初は嫌がっていた伯爵の指を美里ちゃんが自ら待ち望むよう
になるまでさほど時間はかかりませんでした。
「ああっ、あつい……いやあ~……だめえ~~~」
抱かれている伯爵様に聞こえないような小さな吐息が漏れます。
そのあたりは老獪そのもの。伊達に70有余年、プレイボーイ
として生きてきてはいませんでした。
「御前様、行って参りました」
柏村さんが絵の具を借りて戻って来るまでわずかに10分ほど
だったでしょうか。もうその頃には、美里ちゃんは家で10年も
飼われている飼い猫のように伯爵様の懐に抱かれて甘えていたの
でした。
「ほら、見ててごらん」
伯爵様は美里ちゃんの絵を画板に張り付けると、絵の具を溶い
て自ら筆を取り描き始めます。
美里ちゃんを膝に乗せたまま、画板も膝の上で……
それって、とっても窮屈な姿勢なのですが、見る間に見違える
ほど美しく仕上がりました。
「影はこうやってつけるんだ………光の当たってる部分は……
…こうやると立体感がでるだろう。………よし、ぐんと見栄えが
よくなった」
伯爵様は、最後には美里ちゃんの筆を握らせ、その上から自分
の手を被せて補正していきます。
「きれい」
美里ちゃんは感嘆します。
それはまるで別の人が描いた絵のようでした。
「よし、これでいい。……どうだい?私のタッチは嫌いかい?」
伯爵様のお膝の上で美里ちゃんは首を振ります。
「よくなったと思います」
「そりゃあよかった。これは額に入れて、……そうだな食堂に
でも飾ってあげるよ。だから、今週はそれを見に私の処へいらっ
しゃい」
美里ちゃん、絵は不合格だったかもしれませんが、お招ばれに
は合格したみたいでした。
「次の子は……ああ、春花ちゃんって言ったけ」
伯爵様は春花ちゃんが自己紹介をする前にその名前を言い当て
ます。
というのは、春花ちゃんがこの施設ではちょっとした有名人だ
からでした。
いえ、学校の成績がいいとか、運動ができるとか、他の子には
できない特技があるといったそんな名誉なことではないんです。
悪戯が好きな彼女、幼い頃から先生や友だちに悪戯を仕掛けて
まわる困ったちゃんだったのです。
そのため、毎日のように先生からお尻を叩かれては庭の晒し台
に括り付けられる日々。おかげでここへ出入りする大人たちも、
自然とその名前を覚えるようになったというわけでした。
「春花ちゃんは何を見せてくれるのかな?」
伯爵様が尋ねると、即座に…
「見せるんじゃないわ。聞かせるの。私のピアノを聞いてくだ
さい」
春花ちゃんはそう言って、抱えてきたオモチャのピアノを床に
デンと置きます。
「おう、そうか、そうか、それは失礼したな、じゃあ聞かせて
もらおうか」
伯爵様は丁寧に大人の応対をしますが、何しろ相手は子ども、
そして玩具のピアノですからね、内心、その出来栄えなんて期待
していませんでした。
案の定、春花ちゃんは右手だけで黒鍵もない小さな鍵盤を叩き
始めます。
でも、それは意外なものでした。
「ほう……」
伯爵様も驚くような美しいメロディーだったのです。
『ハ長調にまだこんな麗しい旋律が残っていたなんて……でも、
いったい何と言う曲だろう?聞いたことがないが……』
こう思った伯爵様は春花ちゃんの演奏が終わるや盛大な拍手の
次にこう尋ねたのでした。
「よかったよ。春花ちゃん。この曲は何という名前なの?」
すると春花ちゃん、きょとんとした目を伯爵様に向けて、逆に
意外なことを尋ね返すのです。
「今日は何月何日?」
「11月8日だよ」
「そう、じゃあ『11月8日』」
「11月8日って?」
伯爵様は一応ご自分の記憶をたどってみましたが、そんな名前
の曲は思い当たりませんでした。
そんな伯爵様の怪訝な表情を見て春花ちゃんは……
「だから、今の今作ったんだもん。出来立てほやほやよ。名前
なんてあるわけないわ。だから、譜面に書くときはいつも今日の
日付だけ入れておくの。偉い作曲家さんの作ったのを弾いた方が
よかった?」
「そういうわけじゃないけど……じゃあ、今のは即興なんだ」
伯爵様は驚きます。でも、春花ちゃんはあっけらかんとして…
「そうよ、私の思いつき。その時の気分で指が勝手に動くの。
だからもう二度と弾けない。カレン先生がいれば楽譜に起こして
もらえるけど……(はははは)そういうのじゃだめ?……だって、
私、他に特技なんてないから……」
最後は苦笑いでした。
ところが、伯爵様の方はまんざらでもない様子で……
「カレン先生って老シスターの?」
「そうよ、おばあちゃん。カレン先生のピアノを悪戯してたら、
筋がいいって褒められちゃった。あなたはメロディーメーカーと
しては非凡なものがあるわねって……ねえ、非凡って何?」
伯爵様は非凡の説明はせず、さらにこう尋ねます。
「それじゃあ、今までもそうやって何曲も弾いてきたのかい?」
「そうよ、新しいメロディーが浮かぶととにかくカレン先生の
処へ行くの。毎晩でもOKよ。……そこで先生が譜面におこして
くれるわ。でも、名前は付けないのよ。日付だけ。だから、今の
曲は11月8日って曲なのよ」
春花はどうせだめだろうと思っていました。だめもとのチャレ
ンジだったのです。
だって、ピアノの上手な子はこの施設に何人もいますから……
ところが……
「じゃあ11月10日や11月11日も弾いてくれるのかな?」
「えっ!?」
「私の家に来て、居間にあるうちのピアノで弾いてほしいんだ。
11月10日と11月11日」
「ほんと!?」
美里ちゃんに続き春花ちゃんもお招ばれ、合格のようでした。
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*)ソフトなソフトなお仕置き小説です。私的にはですが(^◇^)
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<主な登場人物>
春花……11歳の少女。孤児院一のお転婆で即興ピアノが得意。
レニエ枢機卿が日本滞在中に彼の通訳をしていた仁科
遥との間につくった隠し子。
美里……11歳の少女。春花の親友。春花に乗せられて悪戯も
するが、春花より女の子らしい。絵が得意な少女。
植松大司教が芸者小春に産ませた子。
二人は父親の意向で母親から引き離されこの施設に
預けられたが、彼女たち自身は父母の名前を知らない。
安藤幸太郎……安藤家の現当主、安藤家は元伯爵家という家柄。
町外れの丘の上に広大なお屋敷を構えている。
教養もあり多趣味。当然子どもは好きなのだが、
その愛し方はちょっと変わっていた。
安藤美由紀……幸太郎の娘。いわゆる行かず後家というやつ。
日常生活では幸太郎の世話を焼くファザコン。
子どもたちがお泊まりにくればその世話も焼く
のだが、彼女の子供たちへの接し方も世間の常識
にはかなっていなかった。
柏村さん………表向き伯爵様のボディーガードということだが
秘書や執事、探偵といった仕事まで幅広くこなす。
三山医師………ほとんど幸太郎氏だけが患者というお抱え医師。
当然、幸太郎氏の意図を汲んで動く。
****************************
次の御招ばれの日が来ました。
招待してくださるお父様たちがホールにずらりと居並ぶなかで、
春花と美里は、他の紳士たちと談笑する大西先生の脇を、抜き足
差し足ですり抜けていきます。
そう、まるで門限破りした子が親に見つからないようにそうっ
と家の中へ入り込む、そんな感じでした。
『どうして二人がそんなことをしたのか?』ですか……
だって、このお二人さん、もうここ何ヶ月も続けて大西先生の
処へご厄介になっているでしょう。それが今回は方向転換して、
他に適当な家はないかと物色しているもんですから、大西先生に
見つかりたくなかったのです。
どうやら二人には、大西先生と顔を合せるのは気まずいという
思いがあるみたいでした。
でも、大西先生は紳士ですからね、そんな二人が逃げるように
安藤伯爵のもとへ出かけて行ったとしても何も言いません。
先生は、先月、二人に茜さんへの厳しいお仕置きを見学させて
いましたからね、『あれを見てきっと嫌気がさしたんだろう』と
分かっていたみたいでした。
ですから、全ては承知の上……
「おや?あの二人、今日は先生のところに来ませんね。鞍替え
されちゃいましたかね?」
話相手の渡辺さんにからかわれても、先生、余裕の笑顔でした。
「いや、いいんですよ。二人には、先月、娘のお仕置きを見せ
ちゃいましたから……。きっと、それが恐かったんでしょう」
「おやおや、それはまたどうして?娘さんのお仕置きそんなに
急を要するようなことだったんですか?そんなこと二人が帰って
からでもよかったでしょうに……」
「もちろん普段ならそんなことしませんよ。ただ、あの子たち、
本気で私のところで暮らしたいという希望を持ってるみたいで。
だったら、私の方も『本気で娘として育ててあげますよ』という
つもりで、わざとそういうところも見せたんです」
「なるほど、『娘として本気で受け入れるためにはお仕置きも
当然、受け入れてもらいますよ』というわけですな。生真面目な
先生らしいや」
渡辺さんは笑います。
「でも、そんなことしたら、あの二人、もう二度と先生のお宅
に来なくなっちゃうんじゃありませんか?」
渡辺さん心配してそう言うと……
「別にそれはそれで構いませんよ。無理強いする必要もありま
せんから。それより、あの子たちには今のうちにいろんな家庭を
知っておいて欲しいんです。将来、あの子たちが聖職者となった
時、こちらも浮世離れした説教は聞きたくありませんから」
先生はあっさりとこう言い放ちます。
ただ、先生、心のうちでは……
『二人はいずれ私の処へ戻る』
という確信めいたものはあったみたいでした。
春花と美里の二人はとあるおじいさんの処へとやってきます。
そこでは、すでに数人の子供たちがこのおじいさんの前に並ん
でいました。
二人はその列に迷わず並びます。
「やっぱり人気あるわね。安藤伯爵様」
春花が美里に耳打ち。
「私、こんな絵で大丈夫かしら?」
美里は心配そうに持ってきた自分の絵を眺めます。
「そんなのやってみなきゃわからないでしょう。とにかくチャ
レンジあるのみよ。抽選の列に並ぶのはそれからでもできるもの」
春花は意気軒昂。この時彼女は小さなオモチャのピアノを抱え
ていました。
実は、このお招ばれ会。子供の側だけでなくお父さん側も施設
の子どもたちを指名することができました。
もし、相思相愛ならめでたく親子カップル成立というわけです。
大西先生の場合は、お金持ちというほどではありませんから、
お招ばれの定員は二人だけですが、安藤伯爵の場合は、町一番の
資産家ですから、子どもたちをいつも12名以上も招待してくれ
ます。
広いお庭にはたくさんの遊具が並び、図書室には毎週通っても
読みきれないほどの本があります。もちろん食事だって豪華です
し、天蓋つきのベッドなんて恐らくここ以外ではお目にかかれな
いかもしれません。
ですから、そんなにリッチなお宅で週末を暮らそうと、多くの
子どもたちが手に手に自慢の品を携え、伯爵様のご指名を得よう
として売り込みをかけてきます。
春花と美里が並んだのもまさにそのための行列だったのでした。
子どもたちは、自分の番がきて伯爵の前に立つと、自分が最も
得意とする自慢できる芸を披露します。
歌の上手い子は歌を歌いますし、楽器のできる子はそれを演奏
してみせます。手先の器用な子は自分で刺繍した手袋やハンカチ
をプレゼントするというのもごくポピュラーな方法でした。
いえ、いえ、なかには女の武器を使う子も……
「おじいちゃま、抱っこ」
そう言って、いきなりおじいちゃんのお膝に飛び乗る子もいる
のです。
伯爵様は車椅子生活ですが、子ども好きで知られた人ですから、
たとえ少々お膝に負担がかかってもそんな子を邪険にはしません。
もし、笑顔の少女の頭を伯爵様が優しく撫でてくれたら、もう
女の子の勝ちでした。
ただこれには年齢制限や体重制限がありますから、ごく幼い子
に限られます。春花や美里にはもうその資格がありませんでした。
そんな幼い子の飛び道具を見た後に、とうとう春花と美里の番
がやってきます。
二人は、この時伯爵様だけでなく、その後ろに控える大人三人
からも自分の芸を見られることになります。
というのも、伯爵様はご高齢で病がちでしたから、どこへ出か
ける時もお医者様と看護婦さん、それに屈強なボディーガードの
三人を引き連れていたのです。
「安藤のおじいちゃま、どうか、私たちを自宅に招待してくだ
さい。お願いします」
「安藤のおじいちゃま、どうか、私たちを自宅に招待してくだ
さい。お願いします」
心臓が飛び出そうな緊張のなか二人は美しく揃ったハーモニー
で安藤老人に売り込みを掛けます。
実は、どちらが最初か決めていなかったのです。
その二人の声に伯爵様は満面の笑み。ですから、まずは第一歩、
そこは成功したみたいでしたが……でも、すぐに鋭い質問が飛ん
できます。
「君たちは、たしか…大西君の処へよく遊びに行ってたみたい
だけど、今日はそちらへは行かないのかね?」
予期しない質問に二人は戸惑いますが、春花が意を決して先月
のことを……。
「先週も大西先生の処へ行ったんですが……そこで娘さんの、
お仕置きを見ちゃって……それで、他の処でもいいかなあって」
「なるほど……それで恐くなって、今週は私の処へ来たという
わけか……でも、君たち自身はぶたれたりしなかったんだろう?」
「ええ、それは……」
「そうか、君たちが何か粗相をしたわけじゃないんだね」
「……はい」
「よし、よし、だったら問題ないな……で、君たちは何を披露
してくれるのかな?」
「………………………………………………」
出し物を伯爵様にせがまれた二人、踏み出すのに少しだけ勇気
が必要でしたが、この時は先に美里ちゃんが動きます。
「わたし、伯爵様のために絵をかきました」
「そうか、見せてごらん」
老伯爵は、美里ちゃんが差し出す絵を受け取る瞬間、その手を
とって美里ちゃんの身体をそっくりご自分の膝の上へ乗せてしま
います。
車椅子生活の伯爵でしたが、その腕力は相当のものでした。
こうして、おじいちゃんは美里ちゃんをお膝に乗せてその絵を
鑑賞することになります。
「パステルと水彩か……ん?……これは……ほう、これ私かね。
なかなか上手じゃないか。特徴をよくとらえてる。下手な似顔絵
描きよりよほど味があっていいじゃないか」
伯爵様は笑顔。好感触でした。
「こちらは、水彩の風景画か。ここの中庭だね。綺麗な風景だ。
風がそよいでいる感じがよく出てる」
こちらも好評価でしたが、突然、伯爵はボディーガードの柏村
さんを呼び寄せます。そして……
「柏村、水彩の道具を借りてきてくれ」
と、命じるのです。
思わず柏村さん、『えっ!?水彩絵の具ならこちらに……』と
言おうとして口をつぐんでしまいました。
実は伯爵、自分で描いた絵を見せに来る子があまりに多いので
絵の具はいつも手元に準備しているのです。
しかし、柏村さんはその事にはふれませんでした。
「承知しました」
と一言だけ。絵の具を借りに舎監の部屋へと出かけます。
その水彩の道具が届くまで、老伯爵は美里ちゃんの絵を褒めち
ぎります。そして、学校の事、寮での生活、お友だちの事などを
丁寧に尋ねたのでした。
その間、おじいちゃんは美里ちゃんの身体を触り続けます。
頭をなで、髭剃り後のざらざらした自分の頬を押し付けて頬ず
りしたり、まだ可愛らしい両手も両足もごつごつとした皺枯れた
大きな手で揉み上げます。
太股も、ショートパンツを穿いた股間も伯爵には無関係な場所
でした。
「あっ……」
美里ちゃんにしたら気持のよいはずもありません。思わず声を
上げそうになりますが、何とかギリギリ耐えられる程度だったの
で我慢します。
すると、伯爵様はさらにエスカレート。
「あっ、あ~~ん」
とうとう切ない声が出てしまいました。
本当なら、横っ面張り倒してお膝から降りるところかもしれま
せんが、美里ちゃんにはその気はありませんでした。
いえ、正確に言うと、最初はあったんですが、段々にその気が
なくなってしまったのです。
悩ましく不快な思いを切ない快感へと変化させるテクニックを
伯爵は熟知しています。
「あっ…あああ……(はあ)(はあ)……いやっ……あああっ」
最初は嫌がっていた伯爵の指を美里ちゃんが自ら待ち望むよう
になるまでさほど時間はかかりませんでした。
「ああっ、あつい……いやあ~……だめえ~~~」
抱かれている伯爵様に聞こえないような小さな吐息が漏れます。
そのあたりは老獪そのもの。伊達に70有余年、プレイボーイ
として生きてきてはいませんでした。
「御前様、行って参りました」
柏村さんが絵の具を借りて戻って来るまでわずかに10分ほど
だったでしょうか。もうその頃には、美里ちゃんは家で10年も
飼われている飼い猫のように伯爵様の懐に抱かれて甘えていたの
でした。
「ほら、見ててごらん」
伯爵様は美里ちゃんの絵を画板に張り付けると、絵の具を溶い
て自ら筆を取り描き始めます。
美里ちゃんを膝に乗せたまま、画板も膝の上で……
それって、とっても窮屈な姿勢なのですが、見る間に見違える
ほど美しく仕上がりました。
「影はこうやってつけるんだ………光の当たってる部分は……
…こうやると立体感がでるだろう。………よし、ぐんと見栄えが
よくなった」
伯爵様は、最後には美里ちゃんの筆を握らせ、その上から自分
の手を被せて補正していきます。
「きれい」
美里ちゃんは感嘆します。
それはまるで別の人が描いた絵のようでした。
「よし、これでいい。……どうだい?私のタッチは嫌いかい?」
伯爵様のお膝の上で美里ちゃんは首を振ります。
「よくなったと思います」
「そりゃあよかった。これは額に入れて、……そうだな食堂に
でも飾ってあげるよ。だから、今週はそれを見に私の処へいらっ
しゃい」
美里ちゃん、絵は不合格だったかもしれませんが、お招ばれに
は合格したみたいでした。
「次の子は……ああ、春花ちゃんって言ったけ」
伯爵様は春花ちゃんが自己紹介をする前にその名前を言い当て
ます。
というのは、春花ちゃんがこの施設ではちょっとした有名人だ
からでした。
いえ、学校の成績がいいとか、運動ができるとか、他の子には
できない特技があるといったそんな名誉なことではないんです。
悪戯が好きな彼女、幼い頃から先生や友だちに悪戯を仕掛けて
まわる困ったちゃんだったのです。
そのため、毎日のように先生からお尻を叩かれては庭の晒し台
に括り付けられる日々。おかげでここへ出入りする大人たちも、
自然とその名前を覚えるようになったというわけでした。
「春花ちゃんは何を見せてくれるのかな?」
伯爵様が尋ねると、即座に…
「見せるんじゃないわ。聞かせるの。私のピアノを聞いてくだ
さい」
春花ちゃんはそう言って、抱えてきたオモチャのピアノを床に
デンと置きます。
「おう、そうか、そうか、それは失礼したな、じゃあ聞かせて
もらおうか」
伯爵様は丁寧に大人の応対をしますが、何しろ相手は子ども、
そして玩具のピアノですからね、内心、その出来栄えなんて期待
していませんでした。
案の定、春花ちゃんは右手だけで黒鍵もない小さな鍵盤を叩き
始めます。
でも、それは意外なものでした。
「ほう……」
伯爵様も驚くような美しいメロディーだったのです。
『ハ長調にまだこんな麗しい旋律が残っていたなんて……でも、
いったい何と言う曲だろう?聞いたことがないが……』
こう思った伯爵様は春花ちゃんの演奏が終わるや盛大な拍手の
次にこう尋ねたのでした。
「よかったよ。春花ちゃん。この曲は何という名前なの?」
すると春花ちゃん、きょとんとした目を伯爵様に向けて、逆に
意外なことを尋ね返すのです。
「今日は何月何日?」
「11月8日だよ」
「そう、じゃあ『11月8日』」
「11月8日って?」
伯爵様は一応ご自分の記憶をたどってみましたが、そんな名前
の曲は思い当たりませんでした。
そんな伯爵様の怪訝な表情を見て春花ちゃんは……
「だから、今の今作ったんだもん。出来立てほやほやよ。名前
なんてあるわけないわ。だから、譜面に書くときはいつも今日の
日付だけ入れておくの。偉い作曲家さんの作ったのを弾いた方が
よかった?」
「そういうわけじゃないけど……じゃあ、今のは即興なんだ」
伯爵様は驚きます。でも、春花ちゃんはあっけらかんとして…
「そうよ、私の思いつき。その時の気分で指が勝手に動くの。
だからもう二度と弾けない。カレン先生がいれば楽譜に起こして
もらえるけど……(はははは)そういうのじゃだめ?……だって、
私、他に特技なんてないから……」
最後は苦笑いでした。
ところが、伯爵様の方はまんざらでもない様子で……
「カレン先生って老シスターの?」
「そうよ、おばあちゃん。カレン先生のピアノを悪戯してたら、
筋がいいって褒められちゃった。あなたはメロディーメーカーと
しては非凡なものがあるわねって……ねえ、非凡って何?」
伯爵様は非凡の説明はせず、さらにこう尋ねます。
「それじゃあ、今までもそうやって何曲も弾いてきたのかい?」
「そうよ、新しいメロディーが浮かぶととにかくカレン先生の
処へ行くの。毎晩でもOKよ。……そこで先生が譜面におこして
くれるわ。でも、名前は付けないのよ。日付だけ。だから、今の
曲は11月8日って曲なのよ」
春花はどうせだめだろうと思っていました。だめもとのチャレ
ンジだったのです。
だって、ピアノの上手な子はこの施設に何人もいますから……
ところが……
「じゃあ11月10日や11月11日も弾いてくれるのかな?」
「えっ!?」
「私の家に来て、居間にあるうちのピアノで弾いてほしいんだ。
11月10日と11月11日」
「ほんと!?」
美里ちゃんに続き春花ちゃんもお招ばれ、合格のようでした。
***************(1)**********
11/4 御招ばれ(15)
11/4 御招ばれ(15)
*)ソフトなソフトなお仕置き小説です。私的には…(^◇^)
***************************
<主な登場人物>
春花……11歳の少女。孤児院一のお転婆で即興ピアノが得意
美里……11歳の少女。春花の親友。春花に乗せられて悪戯も
するが、春花より女の子らしい。絵が得意な少女。
大西泰幸……中世史の研究をする大学の先生。実の子はすでに
医者として独立、『茜』という養女をもらっているが、
春花や美里も養女にしたいという希望を持っている。
大西一枝……大西泰幸の妻、専業主婦。茜を厳しく躾けるが、
茜は彼女を慕っている。
大西茜……大西泰幸の養女。13歳で春花や美里よりお姉さん
だが、楚々とした感じのお嬢さんとして躾けられている。
高瀬先生……古くから大西家に出入りしているお医者様。特に
子供達へお仕置きがある時は浣腸や導尿などでお手伝い
もする。
明子さん……長い間大西家に仕えている住み込みの女中さん。
大西家の生き字引。
****************************
茜さんがお父様の前へやってくると……お父様の顔は今までの
ようににこやかではありませんでした。
真剣な顔、少し怒ったような顔にも見えます。
その顔を見ながら茜さんは膝まづき、両手を胸の前に組んで
……
「お父様、お仕置き、お願いします」
茜さんのはっきりした声が部屋のどこにいても聞こえました。
いつもなら、茜ちゃんがこの言葉を口にすればそれに呼応して
お父さんの顔もにこやかな顔へと変わるのですが、この時ばかり
は恐い顔のまま。
いえ、チンピラが凄んでるのとは違いますから、こういうのは
恐いというより威厳があると言うべきかもしれません。
茜さんのご挨拶が終わると、お父さんはその威厳のある顔で…
「恐かったかい?よく、勇気を出して来たね。でも今の君には
それが大事なんだよ。逃げないってことがね。あとは、歯を喰い
しばって必死に頑張るだけだ。……大丈夫。逃げなかった茜には、
これから先、きっと、いいことがあるから」
お父さんは茜さんを励まします。そのうえで……
「……よし、じゃあ、ここにうつ伏せだ」
お父さんは拘束台のテーブルを指差すのでした。
茜さんが上半身をテーブルに横たえると、そのテーブルが傾斜
して頭の方が下がり、お尻が一番高い位置に来て、茜さんとして
はとても窮屈な姿勢をとらされることになります。
でもそれだけじゃありません。両手首も両足も革ベルトで拘束
されてしまいすから、これから先は泣いてもわめいても逃げ出す
ことは不可能でした。
「わかってるだろうけど、これから先は何があっても声は出さ
ないようにしなさい。お前も、もう小さな子供じゃないんだから
恥ずかしいまねはしないように」
お父さんはこう注意してから白いワンピースの裾を捲ります。
せっかく穿きなおせたショーツも再び脱がされてしまいますが、
もうこれは運命と諦めるしかありませんでした。
「………………」
こんな格好、そりゃあ恥ずかしいに決まってます。ですけど、
その気持は、自分の心の中に納めておくしかありませんでした。
そんな茜さんのもとへ今度はお母さんがやってきます。
お母さんもまたにこやかではありませんでした。
厳しい顔のまま一言……
「口を開けなさい」
何をするのか、されるのか、茜さんは分かっていました。
「うっぐ」
開いた口の中にタオルハンカチが入ります。
お母さんがまずやったこと。それは茜さんにまず猿轡を噛ます
ことでした。
一方、お父さんは、すでに長さ二尺の物差しを手にしています。
この長さがお尻をぶつにはちょうどいい長さでした。
「!!!!」
茜さんが突然緊張します。
お父さんが試しに竹の物差しそれを振り下ろしたのです。
茜さんの口はお母さんによって猿轡がされていましたが、耳は
耳栓なんてしてませんから、その空なりの音をどうしても拾って
しまうのです。
『ブン』『ブン』という音が、茜さんの身体を硬直させます。
『何でよう!何でお母さん、耳も塞いでくれなかったのよ!』
茜ちゃんは勝手なことを思いながらも、その音を聞いただけで
もう生きた心地がしませんでした。
「茜、しっかり歯を喰いしばって我慢するんだぞ」
お父さんは茜ちゃんの頭を左手で鷲づかみにすると、お仕置き
の前、最後の注意を与えます。
「…………」
茜ちゃんは自分では『はい』と言ったつもりでしたが、言葉に
はなりませんでした。
過去にそれがどれほど痛いかを経験している茜さんには、とに
かく恐くて恐くて、それどころではありませんでした。
「ピタ、ピタ、ピタ」
小さく三つ、お父さんの竹の物差しが茜ちゃんの可愛いお尻を
とらえます。でもこれは鞭打ちではありません。
『さあ、これから、ぶちますよ』という警告でした。
そして、約束どおりいよいよ本体がやってきます。
「ぴしっ~~」
乾いた音が部屋中に鳴り響きます。
『ぎゃあ~~~』
猿轡をしていなければ茜ちゃんはきっとこんな悲鳴だったこと
でしょう。
それほどの衝撃でせした。
お尻に当たった衝撃は電気となって背骨を走り脳天を突き抜け
て一瞬でどっかへ行ってしまいました。
茜ちゃんは必死に拘束台の天板を握っていましたが、すぐには
震えが止まりません。両手が震え、両足だって茜ちゃんの意思と
は無関係に跳ね回ります。
おかげで、ソファにいる春花と美里には、お姉様の大事な処が
丸見え。お互い女の子同士ですからそんなものが見えたとしても
別に驚いたりはしませんが、二人とも茜さんの慌てふためく様子
がよほどおかしかったのかソファの上で笑い転げていました。
茜さんはたった1回ぶたれただけなのに、この騒ぎ。
でも、お母さんはその最初の1回が一番辛いことを知っていま
した。普段は厳しいお母さんが茜さんを励まします。
「茜、心をしっかり持つの」
「いや、痛いもん、だめ」
茜さんはお母さんが顔を近づけてくると、さっそくすがるよう
にして愚痴を言います。
「弱音を吐いちゃだめ。お仕置きは始まったばかりよ」
お母さんはやさしい眼差しで額に手を置きます。
すると、そこへお父さんもやって来ました。
「どうした?痛かったかい?」
お父さんがそう言ったとたん、茜ちゃんは張り付けられている
拘束台の板の上に顔を押し付けます。
『お父さんなんて顔も見たくない』ということでしょうか?
というより、恥ずかしいという気持の方が大きかったみたいで
した。
「痛いのは当たり前だよ、お仕置きなんだからね……」
お父さんがこう言うと、茜ちゃんはぶっきらぼうに……
「恥ずかしい」
と背けた顔で答えます。
「恥ずかしいか……それも仕方がないな。お仕置きは、痛くて
当たり前、恥ずかしくて当たり前。どのみち子どもにとって嫌な
ことをするわけだから。痛いのも恥ずかしいのも我慢しなくちゃ」
お父さんはそう言って茜さんの顔を覗き込もうとしましたが、
茜ちゃんは顔をあげません。どうやらすねてるみたいでした。
いえ、甘えてると言った方が正しいかもしれません。
すると、ここでお父さんが意外な事を言います。
「大丈夫だよ茜、そのうち慣れるから……」
えっ!?本当でしょうか?
だって、さっきまでハンドスパンキングで相当やられてるのに、
その上この鞭。これからもっともっと痛くなると思うのですが…
実際……
「茜、歯を喰いしばりなさい」
お父さんにこう言われて受けた次の鞭は……
「ピシッ!!」
「ひぃ~~」
お尻に鞭が当たった瞬間、茜さんの身体が弓なりになりました。
ですから相当痛かったはずですが、茜さんは悲鳴を上げません
でした。
相変わらずお母さんだけは娘の頭を撫で続けていますが、そん
なことが何の役にもたたないほど痛かったに違いないのです。
ところが……
「さあ、三つ目だよ。しっかりテーブルを握ってなさい!」
お父さんの声に茜さんは従います。
「ピシッ!!」
「ひぃ~~」
茜さんは自分の身体がバラバラになるんじゃないかと思った程
でした。
でも、最初のようなうめき声は上げません。
いえ、それどころじゃないって感じで、とにかく鞭が近づくと
必死に机にしがみ付く。それだけでした。
「茜、どうだい?だんだん慣れてきたかな?」
お父さんの不気味な言葉が頭から振ってきます。
『何言ってるんだろう』
茜さんは思います。とにかく今は、このラックにしがみ付いて
いるしかありませんでした。
そして、四つ目。
「ピシッ!!」
「…………」
もうどんなに小さな声も出ませんでした。本当は、お母さんへ
愚痴も言いたいし、お父さんへ恨みがましい悲鳴も聞かせたいん
です。でも、今の茜さんにとってはその何もかもが無理でした。
そう、机にしがみ付いていること以外は……
「どうやら、少しは鞭の味が染みてきたみたいだな。……さあ、
いくよ。もう一つだ」
「ピシッ!!」
「…………」
茜さんのお尻にはすでに真っ赤な筋が何本も刻まれています。
「反省できたのかな?できないようだと、まだまだ続くよ」
お父さんはそう言ってから、しばらく茜さんのお尻の赤い筋を
見ていました。もともと相手が13歳の少女ということですから
お父さんだって思いっきりぶってたわけではいません。それなり
に手加減してやっていたのですが……
「…………」
女の子の肌というのはお父さんの予想以上にデリケートにでき
ているみたいでした。
「ピシッ!!」
「…………」
やや弱い当たりになった6発目を終えると、お父さんは、何も
言わず春花と美里が陣取るソファへとむかいます。
小休止でしょうか?
お父さんは二人の座るソファにご自分も腰を下ろすと、笑みを
浮かべてこう言います。
「驚いただろう?恐かったかい?」
二人は顔を見合わせ、お互いどうしようか考えていましたが、
そのうちどちらからともなく頷きます。
「正直だね。でも、とてもいいことだよ。人間正直でなくちゃ。
……実際、恐いことをしてるんだから、当たり前なんだ」
不安そうにしている二人に向かって大西先生は微笑みました。
その笑顔に少しほっとしたのでしょうか、春花が、上目遣いに
尋ねます。
「お姉ちゃまは、いつもああしてぶたれてるの?」
「いつもじゃないさ。男の子だと一学期に一二度必ずあるけど、
女の子の場合は年に一度くらいかな。でも、ないってことはない
ってことさ。今日はたまたまだよ」
「私たちも、ここで暮らすとお姉ちゃんみたいにぶたれるの?」
今度は美里が尋ねます。
「大丈夫。私が見ている限り二人はとってもいい子だからね、
そんな心配はいらないと思うよ。それに、少しぐらいミスしても、
悪戯してもだからってすぐに鞭を使うわけじゃないんだ。ここで
張り付けられるのは、親の言いつけを何度言っても聞かなかった
飛び切りの悪い子だけさ」
「うん」
美里は小さく頷きます。
「……ただ、うちの子になったら、こんな事が絶対にないとは
言えないからね、二人にはあらかじめそんな怖いところも見せて
おこうと思ったんだ」
「ふうん、お仕置きって孤児院だけじゃないんだ。私たち孤児
だから先生たちにお仕置きされるのかって思ってた」
「そうなの、だから普通の家で暮らせばお仕置きなんかされず
にすむんじゃないかと思って……違うんだね」
「孤児院にいるからお仕置き?そんな馬鹿な……今はオリバー
ツイストの時代じゃないんだよ」
お父さんは明るく笑いました。そして……
「ただね、どんな家に生まれてもお仕置きのない家というのは
まずないんだ。修道院のお仕置きなんて軽い方さ」
「そうなの?」
「どうしてわかるの?私たちのお仕置き、見たことあるの?」
「君たちがお仕置きされてるところなんて僕は見たことないよ。
だけど、君たち、とっても明るいじゃないか。厳しいお仕置きの
ある厳格な家で育つとね、子どもの性格まで暗くなっちゃうけど、
君たちにはそれがないから、すぐにわかるんだ」
「普通のお家は私たちの孤児院より厳しいの?」
美里が心配そうに尋ねると……
「そういう処が多いかもしれないね。輝かしい歴史のある家で
あればあるほど、守らなければならない約束事が多くなるんだ。
当然、叱られることも多くなるってわけだ。……ただ、お仕置き
って、とっても恥ずかしいことが多いから、普通は家族以外の人
には絶対に見せないんだ。君たちが知らないのも無理ないよ」
「じゃあ、おじさまの処はどうして私たちに見せたの?」
「僕はあいにく嘘やごまかしが嫌いなんだよ。せっかく君達が
ここで一緒に暮らしたいと言ってくれているのに、後から『こん
なはずじゃなかった』なんて言われたくないんだ。まずはありの
ままの姿を見せて、それでもここで暮らしたいなら、どうぞいら
っしゃいってことなんだ」
「…………」
「…………」
二人は思わず顔を見合わせ、お互い『ふっ』とため息です。
子供にとって、とりわけ女の子にとって父親に叱られるという
のは、たとえぶたれなくてもとてもショックな出来事です。
ましてや、こんな台に張り付けられてお尻丸出し。竹の物差し
でピシャリピシャリだなんて……二人にとっても、とても耐えら
れそうにありませんでした。
「どうした?そんな深刻な顔して?……ひょっとして、あてが
外れたかな。おじさんはもっと優しい人だと思ってたんだろう」
お父さんはソファに座ったままで二人をまとめて抱きしめます。
いきなり窮屈な姿勢にさせられた二人でしたが、二人ともそれ
自体は嫌ではありませんでした。
荒々しく大きな胸板は安心感の証でもあります。ここが私たち
のバックグラウンドだったら楽しいだろうに……そう思う気持は
二人の心の中に残っていました。
ただ、お仕置きは絶対に受けたくありません。特に、目の前で
見たお姉ちゃまのお仕置きは……
もちろん、そんなことは百も承知している大西先生は、二人に
こんなことを言います。
「べつに無理してうちに来なくてもいいんだよ。世の中、立派
な里親さんは、他にたくさんいらっしゃるからね。院長先生に、
『気が変わりました』って言えばいいんだよ。
「他の家でも、ここと同じお仕置きってあるんですか?」
春花が心細そうに尋ねると……
「どんなお仕置きをするかはその家しだいだけど、お仕置きの
ない家というのは期待しない方がいいと思うよ」
「なあ~んだ、そうなのか。私たち孤児だもん、最悪だね」
美里がかっかりと言った顔をします。
すると、お父さんはいきなり美里の両脇に手を入れ、目よりも
高く差し上げます。そして、その身体を揺らしながらこう言うの
でした。
「どうしてそうなるの?美里ちゃん?……そもそも里子を受け
入れようとする家で、子どもが嫌いな家なんてあるわけないじゃ
ないか。いいかい、お仕置きっていうのはね、子どもを愛してる
からやるんだ。嫌いだったらやらないことなんだよ」
「ホント?だったら、おじさんも子供が好きなの?」
「おじさんじゃない。お父さんだろう?」
「あ、そうでした。お父さんも、茜お姉様が好きなの?」
美里の声に、お父さんはさらにその身体を高く差し上げて……
「もちろんさあ。もちろん、君たちも大好きだよ」
すると、それを見ていた春花まで……
「私も……」
お父さんに抱っこをおねだり。
「よし、いいよ……ほら、高い、高い」
お父さんは美里を下ろし、春花も自分の頭の上へ差し上げます。
もう、そんな事をしてもらうにはお姉さん過ぎる二人でしたが、
その瞬間は『キャッキャ、キャッキャ』その場は明るい笑い声に
包まれたのでした。
****************************
*)ソフトなソフトなお仕置き小説です。私的には…(^◇^)
***************************
<主な登場人物>
春花……11歳の少女。孤児院一のお転婆で即興ピアノが得意
美里……11歳の少女。春花の親友。春花に乗せられて悪戯も
するが、春花より女の子らしい。絵が得意な少女。
大西泰幸……中世史の研究をする大学の先生。実の子はすでに
医者として独立、『茜』という養女をもらっているが、
春花や美里も養女にしたいという希望を持っている。
大西一枝……大西泰幸の妻、専業主婦。茜を厳しく躾けるが、
茜は彼女を慕っている。
大西茜……大西泰幸の養女。13歳で春花や美里よりお姉さん
だが、楚々とした感じのお嬢さんとして躾けられている。
高瀬先生……古くから大西家に出入りしているお医者様。特に
子供達へお仕置きがある時は浣腸や導尿などでお手伝い
もする。
明子さん……長い間大西家に仕えている住み込みの女中さん。
大西家の生き字引。
****************************
茜さんがお父様の前へやってくると……お父様の顔は今までの
ようににこやかではありませんでした。
真剣な顔、少し怒ったような顔にも見えます。
その顔を見ながら茜さんは膝まづき、両手を胸の前に組んで
……
「お父様、お仕置き、お願いします」
茜さんのはっきりした声が部屋のどこにいても聞こえました。
いつもなら、茜ちゃんがこの言葉を口にすればそれに呼応して
お父さんの顔もにこやかな顔へと変わるのですが、この時ばかり
は恐い顔のまま。
いえ、チンピラが凄んでるのとは違いますから、こういうのは
恐いというより威厳があると言うべきかもしれません。
茜さんのご挨拶が終わると、お父さんはその威厳のある顔で…
「恐かったかい?よく、勇気を出して来たね。でも今の君には
それが大事なんだよ。逃げないってことがね。あとは、歯を喰い
しばって必死に頑張るだけだ。……大丈夫。逃げなかった茜には、
これから先、きっと、いいことがあるから」
お父さんは茜さんを励まします。そのうえで……
「……よし、じゃあ、ここにうつ伏せだ」
お父さんは拘束台のテーブルを指差すのでした。
茜さんが上半身をテーブルに横たえると、そのテーブルが傾斜
して頭の方が下がり、お尻が一番高い位置に来て、茜さんとして
はとても窮屈な姿勢をとらされることになります。
でもそれだけじゃありません。両手首も両足も革ベルトで拘束
されてしまいすから、これから先は泣いてもわめいても逃げ出す
ことは不可能でした。
「わかってるだろうけど、これから先は何があっても声は出さ
ないようにしなさい。お前も、もう小さな子供じゃないんだから
恥ずかしいまねはしないように」
お父さんはこう注意してから白いワンピースの裾を捲ります。
せっかく穿きなおせたショーツも再び脱がされてしまいますが、
もうこれは運命と諦めるしかありませんでした。
「………………」
こんな格好、そりゃあ恥ずかしいに決まってます。ですけど、
その気持は、自分の心の中に納めておくしかありませんでした。
そんな茜さんのもとへ今度はお母さんがやってきます。
お母さんもまたにこやかではありませんでした。
厳しい顔のまま一言……
「口を開けなさい」
何をするのか、されるのか、茜さんは分かっていました。
「うっぐ」
開いた口の中にタオルハンカチが入ります。
お母さんがまずやったこと。それは茜さんにまず猿轡を噛ます
ことでした。
一方、お父さんは、すでに長さ二尺の物差しを手にしています。
この長さがお尻をぶつにはちょうどいい長さでした。
「!!!!」
茜さんが突然緊張します。
お父さんが試しに竹の物差しそれを振り下ろしたのです。
茜さんの口はお母さんによって猿轡がされていましたが、耳は
耳栓なんてしてませんから、その空なりの音をどうしても拾って
しまうのです。
『ブン』『ブン』という音が、茜さんの身体を硬直させます。
『何でよう!何でお母さん、耳も塞いでくれなかったのよ!』
茜ちゃんは勝手なことを思いながらも、その音を聞いただけで
もう生きた心地がしませんでした。
「茜、しっかり歯を喰いしばって我慢するんだぞ」
お父さんは茜ちゃんの頭を左手で鷲づかみにすると、お仕置き
の前、最後の注意を与えます。
「…………」
茜ちゃんは自分では『はい』と言ったつもりでしたが、言葉に
はなりませんでした。
過去にそれがどれほど痛いかを経験している茜さんには、とに
かく恐くて恐くて、それどころではありませんでした。
「ピタ、ピタ、ピタ」
小さく三つ、お父さんの竹の物差しが茜ちゃんの可愛いお尻を
とらえます。でもこれは鞭打ちではありません。
『さあ、これから、ぶちますよ』という警告でした。
そして、約束どおりいよいよ本体がやってきます。
「ぴしっ~~」
乾いた音が部屋中に鳴り響きます。
『ぎゃあ~~~』
猿轡をしていなければ茜ちゃんはきっとこんな悲鳴だったこと
でしょう。
それほどの衝撃でせした。
お尻に当たった衝撃は電気となって背骨を走り脳天を突き抜け
て一瞬でどっかへ行ってしまいました。
茜ちゃんは必死に拘束台の天板を握っていましたが、すぐには
震えが止まりません。両手が震え、両足だって茜ちゃんの意思と
は無関係に跳ね回ります。
おかげで、ソファにいる春花と美里には、お姉様の大事な処が
丸見え。お互い女の子同士ですからそんなものが見えたとしても
別に驚いたりはしませんが、二人とも茜さんの慌てふためく様子
がよほどおかしかったのかソファの上で笑い転げていました。
茜さんはたった1回ぶたれただけなのに、この騒ぎ。
でも、お母さんはその最初の1回が一番辛いことを知っていま
した。普段は厳しいお母さんが茜さんを励まします。
「茜、心をしっかり持つの」
「いや、痛いもん、だめ」
茜さんはお母さんが顔を近づけてくると、さっそくすがるよう
にして愚痴を言います。
「弱音を吐いちゃだめ。お仕置きは始まったばかりよ」
お母さんはやさしい眼差しで額に手を置きます。
すると、そこへお父さんもやって来ました。
「どうした?痛かったかい?」
お父さんがそう言ったとたん、茜ちゃんは張り付けられている
拘束台の板の上に顔を押し付けます。
『お父さんなんて顔も見たくない』ということでしょうか?
というより、恥ずかしいという気持の方が大きかったみたいで
した。
「痛いのは当たり前だよ、お仕置きなんだからね……」
お父さんがこう言うと、茜ちゃんはぶっきらぼうに……
「恥ずかしい」
と背けた顔で答えます。
「恥ずかしいか……それも仕方がないな。お仕置きは、痛くて
当たり前、恥ずかしくて当たり前。どのみち子どもにとって嫌な
ことをするわけだから。痛いのも恥ずかしいのも我慢しなくちゃ」
お父さんはそう言って茜さんの顔を覗き込もうとしましたが、
茜ちゃんは顔をあげません。どうやらすねてるみたいでした。
いえ、甘えてると言った方が正しいかもしれません。
すると、ここでお父さんが意外な事を言います。
「大丈夫だよ茜、そのうち慣れるから……」
えっ!?本当でしょうか?
だって、さっきまでハンドスパンキングで相当やられてるのに、
その上この鞭。これからもっともっと痛くなると思うのですが…
実際……
「茜、歯を喰いしばりなさい」
お父さんにこう言われて受けた次の鞭は……
「ピシッ!!」
「ひぃ~~」
お尻に鞭が当たった瞬間、茜さんの身体が弓なりになりました。
ですから相当痛かったはずですが、茜さんは悲鳴を上げません
でした。
相変わらずお母さんだけは娘の頭を撫で続けていますが、そん
なことが何の役にもたたないほど痛かったに違いないのです。
ところが……
「さあ、三つ目だよ。しっかりテーブルを握ってなさい!」
お父さんの声に茜さんは従います。
「ピシッ!!」
「ひぃ~~」
茜さんは自分の身体がバラバラになるんじゃないかと思った程
でした。
でも、最初のようなうめき声は上げません。
いえ、それどころじゃないって感じで、とにかく鞭が近づくと
必死に机にしがみ付く。それだけでした。
「茜、どうだい?だんだん慣れてきたかな?」
お父さんの不気味な言葉が頭から振ってきます。
『何言ってるんだろう』
茜さんは思います。とにかく今は、このラックにしがみ付いて
いるしかありませんでした。
そして、四つ目。
「ピシッ!!」
「…………」
もうどんなに小さな声も出ませんでした。本当は、お母さんへ
愚痴も言いたいし、お父さんへ恨みがましい悲鳴も聞かせたいん
です。でも、今の茜さんにとってはその何もかもが無理でした。
そう、机にしがみ付いていること以外は……
「どうやら、少しは鞭の味が染みてきたみたいだな。……さあ、
いくよ。もう一つだ」
「ピシッ!!」
「…………」
茜さんのお尻にはすでに真っ赤な筋が何本も刻まれています。
「反省できたのかな?できないようだと、まだまだ続くよ」
お父さんはそう言ってから、しばらく茜さんのお尻の赤い筋を
見ていました。もともと相手が13歳の少女ということですから
お父さんだって思いっきりぶってたわけではいません。それなり
に手加減してやっていたのですが……
「…………」
女の子の肌というのはお父さんの予想以上にデリケートにでき
ているみたいでした。
「ピシッ!!」
「…………」
やや弱い当たりになった6発目を終えると、お父さんは、何も
言わず春花と美里が陣取るソファへとむかいます。
小休止でしょうか?
お父さんは二人の座るソファにご自分も腰を下ろすと、笑みを
浮かべてこう言います。
「驚いただろう?恐かったかい?」
二人は顔を見合わせ、お互いどうしようか考えていましたが、
そのうちどちらからともなく頷きます。
「正直だね。でも、とてもいいことだよ。人間正直でなくちゃ。
……実際、恐いことをしてるんだから、当たり前なんだ」
不安そうにしている二人に向かって大西先生は微笑みました。
その笑顔に少しほっとしたのでしょうか、春花が、上目遣いに
尋ねます。
「お姉ちゃまは、いつもああしてぶたれてるの?」
「いつもじゃないさ。男の子だと一学期に一二度必ずあるけど、
女の子の場合は年に一度くらいかな。でも、ないってことはない
ってことさ。今日はたまたまだよ」
「私たちも、ここで暮らすとお姉ちゃんみたいにぶたれるの?」
今度は美里が尋ねます。
「大丈夫。私が見ている限り二人はとってもいい子だからね、
そんな心配はいらないと思うよ。それに、少しぐらいミスしても、
悪戯してもだからってすぐに鞭を使うわけじゃないんだ。ここで
張り付けられるのは、親の言いつけを何度言っても聞かなかった
飛び切りの悪い子だけさ」
「うん」
美里は小さく頷きます。
「……ただ、うちの子になったら、こんな事が絶対にないとは
言えないからね、二人にはあらかじめそんな怖いところも見せて
おこうと思ったんだ」
「ふうん、お仕置きって孤児院だけじゃないんだ。私たち孤児
だから先生たちにお仕置きされるのかって思ってた」
「そうなの、だから普通の家で暮らせばお仕置きなんかされず
にすむんじゃないかと思って……違うんだね」
「孤児院にいるからお仕置き?そんな馬鹿な……今はオリバー
ツイストの時代じゃないんだよ」
お父さんは明るく笑いました。そして……
「ただね、どんな家に生まれてもお仕置きのない家というのは
まずないんだ。修道院のお仕置きなんて軽い方さ」
「そうなの?」
「どうしてわかるの?私たちのお仕置き、見たことあるの?」
「君たちがお仕置きされてるところなんて僕は見たことないよ。
だけど、君たち、とっても明るいじゃないか。厳しいお仕置きの
ある厳格な家で育つとね、子どもの性格まで暗くなっちゃうけど、
君たちにはそれがないから、すぐにわかるんだ」
「普通のお家は私たちの孤児院より厳しいの?」
美里が心配そうに尋ねると……
「そういう処が多いかもしれないね。輝かしい歴史のある家で
あればあるほど、守らなければならない約束事が多くなるんだ。
当然、叱られることも多くなるってわけだ。……ただ、お仕置き
って、とっても恥ずかしいことが多いから、普通は家族以外の人
には絶対に見せないんだ。君たちが知らないのも無理ないよ」
「じゃあ、おじさまの処はどうして私たちに見せたの?」
「僕はあいにく嘘やごまかしが嫌いなんだよ。せっかく君達が
ここで一緒に暮らしたいと言ってくれているのに、後から『こん
なはずじゃなかった』なんて言われたくないんだ。まずはありの
ままの姿を見せて、それでもここで暮らしたいなら、どうぞいら
っしゃいってことなんだ」
「…………」
「…………」
二人は思わず顔を見合わせ、お互い『ふっ』とため息です。
子供にとって、とりわけ女の子にとって父親に叱られるという
のは、たとえぶたれなくてもとてもショックな出来事です。
ましてや、こんな台に張り付けられてお尻丸出し。竹の物差し
でピシャリピシャリだなんて……二人にとっても、とても耐えら
れそうにありませんでした。
「どうした?そんな深刻な顔して?……ひょっとして、あてが
外れたかな。おじさんはもっと優しい人だと思ってたんだろう」
お父さんはソファに座ったままで二人をまとめて抱きしめます。
いきなり窮屈な姿勢にさせられた二人でしたが、二人ともそれ
自体は嫌ではありませんでした。
荒々しく大きな胸板は安心感の証でもあります。ここが私たち
のバックグラウンドだったら楽しいだろうに……そう思う気持は
二人の心の中に残っていました。
ただ、お仕置きは絶対に受けたくありません。特に、目の前で
見たお姉ちゃまのお仕置きは……
もちろん、そんなことは百も承知している大西先生は、二人に
こんなことを言います。
「べつに無理してうちに来なくてもいいんだよ。世の中、立派
な里親さんは、他にたくさんいらっしゃるからね。院長先生に、
『気が変わりました』って言えばいいんだよ。
「他の家でも、ここと同じお仕置きってあるんですか?」
春花が心細そうに尋ねると……
「どんなお仕置きをするかはその家しだいだけど、お仕置きの
ない家というのは期待しない方がいいと思うよ」
「なあ~んだ、そうなのか。私たち孤児だもん、最悪だね」
美里がかっかりと言った顔をします。
すると、お父さんはいきなり美里の両脇に手を入れ、目よりも
高く差し上げます。そして、その身体を揺らしながらこう言うの
でした。
「どうしてそうなるの?美里ちゃん?……そもそも里子を受け
入れようとする家で、子どもが嫌いな家なんてあるわけないじゃ
ないか。いいかい、お仕置きっていうのはね、子どもを愛してる
からやるんだ。嫌いだったらやらないことなんだよ」
「ホント?だったら、おじさんも子供が好きなの?」
「おじさんじゃない。お父さんだろう?」
「あ、そうでした。お父さんも、茜お姉様が好きなの?」
美里の声に、お父さんはさらにその身体を高く差し上げて……
「もちろんさあ。もちろん、君たちも大好きだよ」
すると、それを見ていた春花まで……
「私も……」
お父さんに抱っこをおねだり。
「よし、いいよ……ほら、高い、高い」
お父さんは美里を下ろし、春花も自分の頭の上へ差し上げます。
もう、そんな事をしてもらうにはお姉さん過ぎる二人でしたが、
その瞬間は『キャッキャ、キャッキャ』その場は明るい笑い声に
包まれたのでした。
****************************
10/31 御招ばれ(14)
10/31 御招ばれ(14)
*)ソフトなソフトなお仕置き小説です。私的には…(^◇^)
***************************
<主な登場人物>
春花……11歳の少女。孤児院一のお転婆で即興ピアノが得意
美里……11歳の少女。春花の親友。春花に乗せられて悪戯も
するが、春花より女の子らしい。絵が得意な少女。
大西泰幸……中世史の研究をする大学の先生。実の子はすでに
医者として独立、『茜』という養女をもらっているが、
春花や美里も養女にしたいという希望を持っている。
大西一枝……大西泰幸の妻、専業主婦。茜を厳しく躾けるが、
茜は彼女を慕っている。
大西茜……大西泰幸の養女。13歳で春花や美里よりお姉さん
だが、楚々とした感じのお嬢さんとして躾けられている。
高瀬先生……古くから大西家に出入りしているお医者様。特に
子供達へお仕置きがある時は浣腸や導尿などでお手伝い
もする。
明子さん……長い間大西家に仕えている住み込みの女中さん。
大西家の生き字引。
****************************
「茜さん。お父様が教えてくださるって、よかったわね」
お母さんは『めでたしめでたし』みたいなことを言いますが、
茜さんにしたら、これからしばらくはお父さんに管理された憂鬱
な日が続くわけで、素直に喜べるわけがありませんでした。
そんな気持、もっと大人になればうまくセーブできるんでしょ
うが、13歳になったばかり茜さんには自分の気持を素直に表現
することしかできませんでした。
「何がよかったのよ!!ちっともよくないわよ!!」
口をへの字にすると、眉間に皺を寄せ、お母さんを睨み返して
しまいます。
「あかね!」
お父さんは即座に厳しい顔をして茜ちゃんを睨みますが……
「あ~あ」
出るのはため息ばかり。お母さんへの謝罪の言葉はいっこうに
ありません。
でもそれは、親しい関係なんだから、親子なんだから、すねて
も許されるはずでした。少なくともこれまではそうだったのです。
「しょがない子だなあ、あまえはもう小学生じゃないんだよ」
お父さんにこう言われても……
「は~~い」
気のない返事をするのが精一杯だったのです。
「茜、やる気がないのならやめてもいいんだよ」
お父さんの突然の言葉に、茜さんは心臓に杭を刺された思いが
します。
「えっ!?」
目を丸くした茜さん。そのまま声が出ませんでした。
いえ、お父さんの家庭教師なんてやめてもらいたいというのは
本音なんですが、それが許されない立場にあることも、茜さんは
十分感じていたのでした。
『そんなのやりたくありません。やめたいです』
素直にそんなこと言ったらどうなるでしょうか。
お父さんからぶたれるでしょうか。
いえ、ぶたれるよりもっと辛いことが起きやしないか……
茜さんはそっちを心配していたのでした。
『妹たちもやがてこの家に来るというし、このまま無視され、
スポイルされ、自分だけがこの両親から相手にされなくなったら
どうしよう』
茜さんの心配は、もちろん実の親子だって起こり得ることです。
でも、血の繋がりのない茜さんにとってはより深刻な問題だった
のでした。
「茜。お前は頭もいいし私でなくても里親はすぐに見つかるよ」
案の定、お父さんは茜さんの気持を見透かして、わざとこんな
事を言います。
もちろん、お父さんは茜さんを愛しています。誰かが茜さんを
欲しいと言ってきても、絶対にどこへもやったりはしません。
でも、時たまこうして脅してやれば、茜はより強く私を求めて
くるはず……大人は、そう読むのでした。
実際、これまではこういった脅かしが不首尾になることは一度
もありませんでした。
この時も、茜ちゃんはお父さんに擦り寄ります。
そして、お父さんが手を出せば、茜ちゃんの身体に触れられる
距離にまで近づいてから…
「お父さん、私のこと、嫌い?」
と言います。
「どうして?…大好きだよ。今も昔も、子どもの中で茜が一番
大好きだって言ってるだろう」
お父さんはそう言って、茜ちゃんを身体ごと抱き上げて膝の上
で頬ずりします。
お尻の痛みが遠のいた今は、気持ちよさだけが茜ちゃんを包み
ます。それは親子の儀式のようなものでした。
「何で泣いてる?私がお前をどっかにやるとでも思ったのか?」
幼い時からの習慣。茜ちゃんは、いまだにこの頬ずりから逃れ
られないでした。
ところがこうなると、お父さんのペース。
次はとんでもないわがままだって茜ちゃんは飲まなければなら
なくなるのでした。
「それでね。茜。お父さんとしては今日の事をお前が忘れない
ために鞭を使おうと思うんだ」
「………………………………お尻、ぶつの?」
茜ちゃんはそれだけ小さく言って生唾を一つごくんと飲みます。
「ああ、お父さんはその方がいいと思うんだ。言葉ってのは、
時間が経つと忘れちゃうからね。茜には、もっと忘れない方法で
心に刻んでおいてもらいたいんだ」
「パンツも脱ぐの?」
「ああ、パンツも脱いだお尻に竹の物差しでね。……嫌かい?」
お父さんの声は穏やかでした。
「……………………………………」
『嫌かい?』って……そりゃ嫌に決まってます。茜さんは声が
ありませんでした。……でも、『嫌』と言ってみても結果が同じ
なのも分かっていました。
いえ、茜ちゃんだってこの家の子、2歳からこの家でお父さん
と一緒に暮らしています。裸でベッドを共にした事だって何度も
あります。気心の知れた親子です。
ですから、お父さんがこんなことを言い出すことぐらい、その
流れの中から読めます。べつに、青天の霹靂というわけじゃあり
ませんが、それでもあらためてお父さんにお仕置きを宣言される
と、子供としてはどう返事をしてよいのかわかりませんでした。
そもそも幼い頃のお仕置きはこんなことを打診しません。茜が
悪いことをすれば、お父さんもお母さんも、いきなりスカートを
捲りあげて茜のお尻をぶち始めます。
それが、前回、小学5年生の時のお仕置きでお父さんが初めて
こんな事を尋ねたような気がします。
『あの時、私、どうしたっけ?』
茜ちゃんは考えますが、昔の事で思い出せませんでした。
困っていると、その答えをお母さんが耳元で教えてくれました。
「茜、そんな時は『はい、お受けします』と言うの。お父様は
あなたの覚悟をきいてらっしゃるんだから、しっかりご挨拶しな
ければいけないの。いいこと、あなたも中学生、もう幼い子じゃ
ないんだから、自分の罪を償う勇気を持っていなきゃいけないわ」
「はい、お母さん」
お父様にも当然聞こえているお母さんの助言を受けて茜ちゃん
は、あらためてお父さんにご挨拶。
「はい、お受けします」
茜ちゃん、お父さんに抱っこされたままでご挨拶でした。
でも、お父さんは怒りません。とっても満足そうな笑顔を浮か
べて茜ちゃんの頭を撫でるのでした。
大西家での子供たちへの鞭打ちは、ごく幼い時は、お父さんや
お母さんが膝に抱きかかえてヘアブラシやパドルを使って行われ
ますが、その子が大きくなると、それ専用の拘束台を使って行わ
れます。
それは普段お父さんの書斎においてあり、まわりの家具に調和
して一見ライティングデスクにしか見えませんが、部屋の隅から
引き出されてソファの代わりにそこへ置かれると、受刑者はその
姿に恐れおおののくことになります。
一度でもその台に乗ったことのある者はそれがどれ程の物かを
知っているからでした。
茜ちゃんのずっと上のお兄様たちでさえ、その時の強烈な痛み、
恥ずかしさをいまだに忘れられずいました。ましてや茜ちゃんは
女の子ですから、小学5年生の時にこの台に張り付けられた記憶
はまだ心の中に鮮烈に残っていました。
大人たちが拘束台の準備をするさなか、茜ちゃんは呆然として
その様子を見ていたのですが、過去の辛い思い出に縛られたので
しょう。拘束台を見つめたままパンツを穿くことさえ忘れていま
した。
「何してるの茜。パンツくらい穿きなさい。みっともないわよ」
気がついたお母さんがやって来て呆(ほう)けた顔の茜ちゃん
にパンツを穿かせようとしますが、その時、あることに気づいて
手じかにあったタオルで茜ちゃんの太股を手早く拭きあげます。
『まったく、この子ったら……』
お母さんは心の中で思います。
茜ちゃんはお漏らしをしていたのです。すでにお浣腸も済んで
いましたが、最後にお腹を洗った時の残りがいくらかまだ膀胱に
残っていたのでしょう。
二筋三筋太股を雫が伝っていたのです。
茜ちゃんはそれも気づかぬほどぼんやりしていたのでした。
お母さんは、そんな茜ちゃんに何も言いませんでした。
お母さんは、茜ちゃんにパンツを穿かせると、皺になっていた
白いワンピースの裾を整え、髪を手ぐしでセット、ハンカチで涙
を拭き、鼻をかんで、茜さんを元のお嬢さんの姿へと戻していき
ます。
「よし、できた。どこ見ても立派なお嬢様よ」
お母さんは完成した茜さんを前にして満足そうです。
そして、こう言って励ます……いえ、叱るのでした。
「茜、お父様の鞭はあなたの為に振り下ろされるの。だから、
あなたはお尻だけじゃなくそれをあなたの身体全体でしっかりと
受け止めなければならないわ。悲鳴なんか上げて、そこから逃げ
ようとしちゃいけないの。ただただお父様の鞭の痛み耐えるの。
分かるかしら」
「…………」
お母さんの力説にも関わらずこの時の茜ちゃんはまだお人形で
した。
「あなたはまだ幼くて詳しい理屈は分からないでしょうけど、
この鞭は刑罰の鞭ではないの。お父様の鞭が強ければ強いほど、
痛みが強ければ強いほど、お父様があなたを愛してらっしゃると
という事なのよ。……わかった?」
「…………」
茜さんは小さく頷きます。
すると……
「わかったんなら、さあ、行ってらっしゃい」
お母さんは茜ちゃんを送り出します。
もちろん、そこに待っているのはお父さんでした。
*************************
*)ソフトなソフトなお仕置き小説です。私的には…(^◇^)
***************************
<主な登場人物>
春花……11歳の少女。孤児院一のお転婆で即興ピアノが得意
美里……11歳の少女。春花の親友。春花に乗せられて悪戯も
するが、春花より女の子らしい。絵が得意な少女。
大西泰幸……中世史の研究をする大学の先生。実の子はすでに
医者として独立、『茜』という養女をもらっているが、
春花や美里も養女にしたいという希望を持っている。
大西一枝……大西泰幸の妻、専業主婦。茜を厳しく躾けるが、
茜は彼女を慕っている。
大西茜……大西泰幸の養女。13歳で春花や美里よりお姉さん
だが、楚々とした感じのお嬢さんとして躾けられている。
高瀬先生……古くから大西家に出入りしているお医者様。特に
子供達へお仕置きがある時は浣腸や導尿などでお手伝い
もする。
明子さん……長い間大西家に仕えている住み込みの女中さん。
大西家の生き字引。
****************************
「茜さん。お父様が教えてくださるって、よかったわね」
お母さんは『めでたしめでたし』みたいなことを言いますが、
茜さんにしたら、これからしばらくはお父さんに管理された憂鬱
な日が続くわけで、素直に喜べるわけがありませんでした。
そんな気持、もっと大人になればうまくセーブできるんでしょ
うが、13歳になったばかり茜さんには自分の気持を素直に表現
することしかできませんでした。
「何がよかったのよ!!ちっともよくないわよ!!」
口をへの字にすると、眉間に皺を寄せ、お母さんを睨み返して
しまいます。
「あかね!」
お父さんは即座に厳しい顔をして茜ちゃんを睨みますが……
「あ~あ」
出るのはため息ばかり。お母さんへの謝罪の言葉はいっこうに
ありません。
でもそれは、親しい関係なんだから、親子なんだから、すねて
も許されるはずでした。少なくともこれまではそうだったのです。
「しょがない子だなあ、あまえはもう小学生じゃないんだよ」
お父さんにこう言われても……
「は~~い」
気のない返事をするのが精一杯だったのです。
「茜、やる気がないのならやめてもいいんだよ」
お父さんの突然の言葉に、茜さんは心臓に杭を刺された思いが
します。
「えっ!?」
目を丸くした茜さん。そのまま声が出ませんでした。
いえ、お父さんの家庭教師なんてやめてもらいたいというのは
本音なんですが、それが許されない立場にあることも、茜さんは
十分感じていたのでした。
『そんなのやりたくありません。やめたいです』
素直にそんなこと言ったらどうなるでしょうか。
お父さんからぶたれるでしょうか。
いえ、ぶたれるよりもっと辛いことが起きやしないか……
茜さんはそっちを心配していたのでした。
『妹たちもやがてこの家に来るというし、このまま無視され、
スポイルされ、自分だけがこの両親から相手にされなくなったら
どうしよう』
茜さんの心配は、もちろん実の親子だって起こり得ることです。
でも、血の繋がりのない茜さんにとってはより深刻な問題だった
のでした。
「茜。お前は頭もいいし私でなくても里親はすぐに見つかるよ」
案の定、お父さんは茜さんの気持を見透かして、わざとこんな
事を言います。
もちろん、お父さんは茜さんを愛しています。誰かが茜さんを
欲しいと言ってきても、絶対にどこへもやったりはしません。
でも、時たまこうして脅してやれば、茜はより強く私を求めて
くるはず……大人は、そう読むのでした。
実際、これまではこういった脅かしが不首尾になることは一度
もありませんでした。
この時も、茜ちゃんはお父さんに擦り寄ります。
そして、お父さんが手を出せば、茜ちゃんの身体に触れられる
距離にまで近づいてから…
「お父さん、私のこと、嫌い?」
と言います。
「どうして?…大好きだよ。今も昔も、子どもの中で茜が一番
大好きだって言ってるだろう」
お父さんはそう言って、茜ちゃんを身体ごと抱き上げて膝の上
で頬ずりします。
お尻の痛みが遠のいた今は、気持ちよさだけが茜ちゃんを包み
ます。それは親子の儀式のようなものでした。
「何で泣いてる?私がお前をどっかにやるとでも思ったのか?」
幼い時からの習慣。茜ちゃんは、いまだにこの頬ずりから逃れ
られないでした。
ところがこうなると、お父さんのペース。
次はとんでもないわがままだって茜ちゃんは飲まなければなら
なくなるのでした。
「それでね。茜。お父さんとしては今日の事をお前が忘れない
ために鞭を使おうと思うんだ」
「………………………………お尻、ぶつの?」
茜ちゃんはそれだけ小さく言って生唾を一つごくんと飲みます。
「ああ、お父さんはその方がいいと思うんだ。言葉ってのは、
時間が経つと忘れちゃうからね。茜には、もっと忘れない方法で
心に刻んでおいてもらいたいんだ」
「パンツも脱ぐの?」
「ああ、パンツも脱いだお尻に竹の物差しでね。……嫌かい?」
お父さんの声は穏やかでした。
「……………………………………」
『嫌かい?』って……そりゃ嫌に決まってます。茜さんは声が
ありませんでした。……でも、『嫌』と言ってみても結果が同じ
なのも分かっていました。
いえ、茜ちゃんだってこの家の子、2歳からこの家でお父さん
と一緒に暮らしています。裸でベッドを共にした事だって何度も
あります。気心の知れた親子です。
ですから、お父さんがこんなことを言い出すことぐらい、その
流れの中から読めます。べつに、青天の霹靂というわけじゃあり
ませんが、それでもあらためてお父さんにお仕置きを宣言される
と、子供としてはどう返事をしてよいのかわかりませんでした。
そもそも幼い頃のお仕置きはこんなことを打診しません。茜が
悪いことをすれば、お父さんもお母さんも、いきなりスカートを
捲りあげて茜のお尻をぶち始めます。
それが、前回、小学5年生の時のお仕置きでお父さんが初めて
こんな事を尋ねたような気がします。
『あの時、私、どうしたっけ?』
茜ちゃんは考えますが、昔の事で思い出せませんでした。
困っていると、その答えをお母さんが耳元で教えてくれました。
「茜、そんな時は『はい、お受けします』と言うの。お父様は
あなたの覚悟をきいてらっしゃるんだから、しっかりご挨拶しな
ければいけないの。いいこと、あなたも中学生、もう幼い子じゃ
ないんだから、自分の罪を償う勇気を持っていなきゃいけないわ」
「はい、お母さん」
お父様にも当然聞こえているお母さんの助言を受けて茜ちゃん
は、あらためてお父さんにご挨拶。
「はい、お受けします」
茜ちゃん、お父さんに抱っこされたままでご挨拶でした。
でも、お父さんは怒りません。とっても満足そうな笑顔を浮か
べて茜ちゃんの頭を撫でるのでした。
大西家での子供たちへの鞭打ちは、ごく幼い時は、お父さんや
お母さんが膝に抱きかかえてヘアブラシやパドルを使って行われ
ますが、その子が大きくなると、それ専用の拘束台を使って行わ
れます。
それは普段お父さんの書斎においてあり、まわりの家具に調和
して一見ライティングデスクにしか見えませんが、部屋の隅から
引き出されてソファの代わりにそこへ置かれると、受刑者はその
姿に恐れおおののくことになります。
一度でもその台に乗ったことのある者はそれがどれ程の物かを
知っているからでした。
茜ちゃんのずっと上のお兄様たちでさえ、その時の強烈な痛み、
恥ずかしさをいまだに忘れられずいました。ましてや茜ちゃんは
女の子ですから、小学5年生の時にこの台に張り付けられた記憶
はまだ心の中に鮮烈に残っていました。
大人たちが拘束台の準備をするさなか、茜ちゃんは呆然として
その様子を見ていたのですが、過去の辛い思い出に縛られたので
しょう。拘束台を見つめたままパンツを穿くことさえ忘れていま
した。
「何してるの茜。パンツくらい穿きなさい。みっともないわよ」
気がついたお母さんがやって来て呆(ほう)けた顔の茜ちゃん
にパンツを穿かせようとしますが、その時、あることに気づいて
手じかにあったタオルで茜ちゃんの太股を手早く拭きあげます。
『まったく、この子ったら……』
お母さんは心の中で思います。
茜ちゃんはお漏らしをしていたのです。すでにお浣腸も済んで
いましたが、最後にお腹を洗った時の残りがいくらかまだ膀胱に
残っていたのでしょう。
二筋三筋太股を雫が伝っていたのです。
茜ちゃんはそれも気づかぬほどぼんやりしていたのでした。
お母さんは、そんな茜ちゃんに何も言いませんでした。
お母さんは、茜ちゃんにパンツを穿かせると、皺になっていた
白いワンピースの裾を整え、髪を手ぐしでセット、ハンカチで涙
を拭き、鼻をかんで、茜さんを元のお嬢さんの姿へと戻していき
ます。
「よし、できた。どこ見ても立派なお嬢様よ」
お母さんは完成した茜さんを前にして満足そうです。
そして、こう言って励ます……いえ、叱るのでした。
「茜、お父様の鞭はあなたの為に振り下ろされるの。だから、
あなたはお尻だけじゃなくそれをあなたの身体全体でしっかりと
受け止めなければならないわ。悲鳴なんか上げて、そこから逃げ
ようとしちゃいけないの。ただただお父様の鞭の痛み耐えるの。
分かるかしら」
「…………」
お母さんの力説にも関わらずこの時の茜ちゃんはまだお人形で
した。
「あなたはまだ幼くて詳しい理屈は分からないでしょうけど、
この鞭は刑罰の鞭ではないの。お父様の鞭が強ければ強いほど、
痛みが強ければ強いほど、お父様があなたを愛してらっしゃると
という事なのよ。……わかった?」
「…………」
茜さんは小さく頷きます。
すると……
「わかったんなら、さあ、行ってらっしゃい」
お母さんは茜ちゃんを送り出します。
もちろん、そこに待っているのはお父さんでした。
*************************
10/29 御招ばれ(13)
10/29 御招ばれ(13)
*)ソフトなソフトなお仕置き小説です。私的には…(^◇^)
***************************
<主な登場人物>
春花……11歳の少女。孤児院一のお転婆で即興ピアノが得意
美里……11歳の少女。春花の親友。春花に乗せられて悪戯も
するが、春花より女の子らしい。絵が得意な少女。
大西泰幸……中世史の研究をする大学の先生。実の子はすでに
医者として独立、『茜』という養女をもらっているが、
春花や美里も養女にしたいという希望を持っている。
大西一枝……大西泰幸の妻、専業主婦。茜を厳しく躾けるが、
茜は彼女を慕っている。
大西茜……大西泰幸の養女。13歳で春花や美里よりお姉さん
だが、楚々とした感じのお嬢さんとして躾けられている。
高瀬先生……古くから大西家に出入りしているお医者様。特に
子供達へお仕置きがある時は浣腸や導尿などでお手伝い
もする。
明子さん……長い間大西家に仕えている住み込みの女中さん。
大西家の生き字引。
****************************
「さあ、お父様のお膝へいらっしゃい」
お母さんが強い調子で茜さんの腕をとります。
慌てた茜さんは突然のことに嫌々をしますが、それはお母さん
の腕を振りほどくほどではありませんでした。それが後々どんな
結果になって自分に跳ね返ってくるかを知っていたからでした。
「おいで……目が覚めるから」
お父さんがご自分の膝を叩いて指示します。
「!」
もう、こうなったらダメです。
茜さんはそこへ行くしかありませんでした。
幼い頃からお尻を叩かれていた茜さんにとってお父様のお膝は
世間で言う『お尻ペンペン』なんて生易しいものではありません。
ギロチン台並みの恐怖です。
でも、そこへ行くしかありませんでした。
「お父様、お仕置き、お願いします」
茜さんはお父さんに一声掛けてその膝にうつ伏せなって寝ます。
『お仕置き、お願いします』なんて、ぶたれる子供の側が言う
セリフじゃないかもしれませんが、これも大西家のしきたりです。
大西家では、朝、『おはようございます』を言うのと同じでした。
「恐がらなくてもいいからね。茜は女の子だから私からの経験
があまりないかもしれないけど、私もお尻叩きは上手なんだよ」
お父さんはそう言って、まずスカートの上から叩き始めます。
リズミカルに軽快に……
「……パン……パン……パン……パン……パン……パン……」
茜ちゃん、最初は『あれ?これって、お父さんの方が楽だ』と
勘違いしたのですが、すぐにその間違いに気づきます。
最初の数回はまだそんなに痛くありませんでした。
でも、10回を過ぎる頃から辛くなります。
「パン……パン……パン……パン(あっいや)……パン(ひぃ)
……パン(あっ、だめ)……パン(あっ)……パン(痛~~い)」
普段お母さんからやられているスパンキングは、お尻の表面が
ピリピリするような乾いた感じの痛みなのですが、お父さんのは、
一発一発がお尻の肉の奥まで届く感じの重い痛みです。
しかもお父さんのスパンキングは、お母さんと違って短い時間
では終わりませんでした。
徐々に、徐々に蓄積されていく痛みの中で、茜ちゃんのお尻は
しだいに悲鳴を上げ始めます。
「パン(あっ、いやあ~~~)……パン(だめえ~~~)……
パン(お願い、お母さんやめさせて~)……パン(あっいやいや)
……パン(ひぃ~~~)……パン(ああん、お母さん許して~)」
茜ちゃんは、お父さんにお尻をぶたれていたのですが、許しを
求めたのは自分の両手を握るお母さんでした。
ところが、そのお母さんは……
「何やってるの。これくらいのことで、両足をバタつかせたり
して、幼い子じゃないの、みっともないことはやめなさい」
と、逆に茜ちゃんを叱るのでした。
いえ、それだけではありません。
今度はお父さんが茜ちゃんのスカートを捲りあげようとします
から……
「いやあん、しないで!!パンツ見えちゃう!!いや!!ダメ
エッチ、レディーに失礼よ」
茜ちゃんは慌てて抵抗を試みますが、できたのは口だけでした。
本当は右手でお尻をかばいにいきたいのですが、お父さんの膝
の上で万歳した格好の茜さんはその両手ともお母さんにしっかり
握られていてピクリとも動かせません。
「あ~~ん、イヤだって……」
その間にもお父さんのお尻叩きは再会します。
今度はショーツの上から。当然スカートの上からより痛いこと
になります。
「パン(あっ、いやあ痛い痛い~~~)……パン(だめえ~~~)
……パン(お願い、お母さんやめさせて~ホントに痛いんだって)
……パン(あっいやいやいやいや)……パン(ひぃ!ごめんなさい)
……パン(ああん、お母さん許して~誰でもいいから許してよ)」
茜ちゃん、まだまだ口だけは達者でした。
いえ、こうして必死に叫んでいないとお父さんの平手の痛みに
耐えられないから……というのが本当の理由かもしれません。
ところが、真っ赤な顔をして奮闘する茜ちゃんの苦労をよそに
お父さんは涼しい顔。おまけに、茜ちゃんの最後の砦にまで手を
かけるのでした。
「……!!!……」
白い綿のショーツが剥ぎ取られてしまいますが、なぜかその時、
茜ちゃんに大声はありませんでした。
妹分の二人がさっきから笑いを堪えながら見ているのは知って
いますから、もうこれ以上恥の上塗りをしたくないと思ったので
しょうか。
もちろん、そんなことにはおかまいなく、二人は固唾を飲んで
茜ちゃんの裸のお尻を見ています。
男の子でないのがまだしもなのかもしれませんが、女の子にと
ってはこれ以上ない屈辱でした。
それに、当然のことですが、何の防御もない生のお尻はさらに
堪えます。
「パン(いやあ~~もうぶたないで~~~ぶたないで~~~)
……パン(痛い、痛い、痛い~~痛いんだって~~お願~~い)
……パン(ひい~~~だめえ~~~壊れるから~~お願いよ~)
……パン(お母さんやめさせて~ホントに痛いんだってえ~~)
……パン(ああ~ん、お母さん許して~何でもする、何でもする
から~~~)」
痰を絡ませながら必死に哀願する茜ちゃん。
でも、お父さんからは、なかなかお許しが得られませんでした。
「パン(いやあ~だめえ~)……パン(痛い、痛い、痛い~)
……パン(ひい~~)……パン(だめえ~壊れるから~~)……
……パン(お願い、やめてよ~)……パン(お母さんやめさせて)
……パン(ホントに痛いんだってえ~~)……パン(ああ~ん)
……パン(いやいやいや)……パン(お母さん許して、お願い、
お願い~何でもする、何でもするから~~~)」
70回を超え、茜ちゃんはひところより口数が少なくなってい
ました。
泣き疲れ、声も枯れて、もう大声も出なくなっていたのです。
そして、その頃になってやっと許されます。
茜ちゃんは床に転がると必死でお尻をさすりましたが、痛みは
すぐには引かず、5分くらいは床に泣き崩れたままただただ自分
のお尻をマッサージしていました。
やがて、少し落ち着いた頃、お父さんと目と目があって初めて
自分の姿に気がついたみたいで……慌ててお父さんの足元に膝ま
づくと、両手を胸の前で組んでご挨拶します。
「お仕置き、ありがとうございました」
これも『お父様、お仕置きお願いします』という最初のご挨拶
同様、大西家のしきたり(躾と呼ぶべきかもしれません)でした。
もっとも、これはほんの序の口。
これはあくまで眠そうにしている茜ちゃんの目を覚まさすため
で、本当のお仕置きはこれから……ということのようでした。
「目が醒めたかい?」
少し仏頂面のお父さんの顔がいきなり茜ちゃんに迫ってきます。
大人のそんな顔、恐いですからね。
「はい」
嗚咽の収まらない茜ちゃんでしたが小さな声が聞こえます。
すると、お父さんはとたんに笑顔になって茜ちゃんを膝の上へ
抱き上げます。
「お~~しばらく抱かないうちに重くなったなあ」
お父さんの言葉はまるで幼児か赤ちゃんを抱いた時のようです。
でも、お尻がお父さんの膝に乗っかると茜ちゃんは顔をしかめ
ます。そこはまだ完全に癒えていませんから、お愛想でも笑顔は
難しかったのでしょう。
「どうした?まだ痛いか?……だったら、静かにして私の話を
聞きなさい。いいね」
『動くとお尻が痛いよ』というわけです。
お父さんは、茜ちゃんの頬にご自分の息がかかるほど強く抱き
しめます。
普段ならタバコの臭いお父さんの顔に嫌々をするところですが、
今は、お父さんのお膝をお尻が摺れただけで飛び上がるほど痛い
ですから、おとなしくタバコの臭いを嗅ぐことになるのでした。
「いいかい、茜。人はいろんな家に生まれる。農家もあれば、
八百屋さん、鍛冶屋さん、サラリーマン、人それぞれだ。でも、
どんな家に生まれようと、その家を盛り立てなければならない。
お父さんお母さんをお手伝いしなきゃいけない。それが子どもの
義務なんだよ。農家の一樹君も、八百屋さんの真理子ちゃんも、
鍛冶屋の高志君だって、みんなお家のお手伝いをしてるだろう。
それは、茜、君だって同じなんだよ」
「……私もお手伝いするの?」
茜ちゃんはぽつんと独り言のように言います。それはそれまで
一度も考えた事がなかったからでした。
「茜ちゃん、お父さんの仕事は何だい?」
「大学の先生」
「そう、お家で商売してるわけじゃないよね。でも、お父さん
は茜ちゃんに手伝って欲しいんだ」
「どんなことお手伝いするの?……お父さんの助手さんとか?」
茜ちゃんは首を傾げます。
「いや、それはまだ無理だろうけど、大学教授の娘らしくして
いて欲しいんだよ。茜ちゃんは世の中の事はまだ分からないかも
しれないけど、大学の先生、お医者さん、弁護士さんなんて仕事
は世間での信用が大事なんだ。『普段偉そうなこと言ってても、
あいつの娘、学校じゃ劣等生らしぞ。娘一人満足に育てられない
奴にこんな仕事頼んで大丈夫かなあ』なんて、思われちゃうと、
お父さんもお仕事がやりにくいからね」
「つまり私はお父さんの娘にはふさわしくないってことなの?」
「そんなことはないよ。私はお前を施設から引き取ってから、
ずっと愛してきたし、これからだって、お前がどんな成績でも、
嫌いになることなんて事ないはずだよ。だって、お父さんはお前
を見初(みそ)めてここへ連れて来たんだから……」
「……うん」
「でも、お前はどうなんだい。私とは血の繋がりもないし……
こんなお尻をぶつようなお父さんは嫌いかい?」
「…………」
茜ちゃんは首を横に振りました。
理由は簡単です。
今日はたまたまお尻をぶたれていますが、普段の茜ちゃんは、
お父さんに甘えてばかりいます。お父さんとは楽しい時間がほと
んどなのです。ですから、短い時間のお仕置きのために、楽しい
時間を犠牲にするという選択はありえませんでした。
茜ちゃんは考えます。
『要するに、お父さんを愛しているなら成績を上げなさいって
ことよね。でも、私、頭悪いし、頑張っても成績あがるかなあ』
そんなことを思っていると……
「よかった、茜も私を愛しているんだね。よし、だったら明日
からは私がお勉強の面倒みてあげるから、また一緒に頑張ろうね」
お父さんがこんなこと言うのです。
「えっ、(お父さんと一緒に!!)」
茜ちゃんは驚きます。
いえ、小学校時代の茜ちゃんはお父さんのお膝の上で勉強して
いました。お父さんにしてみれば相当に重いお荷物だったと思い
ますが、何しろこれが最も効率的だったからお父さんも仕方なく
続けていたのでした。
そんな昔の姿が頭をよぎったので驚いたのでした。
今さらお父さんにだっこされて勉強するなんて、嬉しいけど、
恥ずかし過ぎます。
すると、そんな茜ちゃんの心の中を察するように……
「もう、抱っこはしないよ。こんな重い荷物、いつまでも膝の
上に乗せて置けないからね……でも、それ以外は今までとおりだ。
集中心を欠いたような態度なら、すぐに竹の物差しで目覚ましだ。
あんまりだらしがないなら、お灸だってまたすえるよ。それに、
日曜日の朝は必ずお浣腸。便秘なんかしてるとそれが気になって
頭の回転も鈍くなるからね」
『また、始まるのか。お父さんと一緒のお勉強。何だか体よく
言いくるめられちゃった感じだなあ』
茜ちゃんは心の中でため息をつくのでした。
***************************
*)ソフトなソフトなお仕置き小説です。私的には…(^◇^)
***************************
<主な登場人物>
春花……11歳の少女。孤児院一のお転婆で即興ピアノが得意
美里……11歳の少女。春花の親友。春花に乗せられて悪戯も
するが、春花より女の子らしい。絵が得意な少女。
大西泰幸……中世史の研究をする大学の先生。実の子はすでに
医者として独立、『茜』という養女をもらっているが、
春花や美里も養女にしたいという希望を持っている。
大西一枝……大西泰幸の妻、専業主婦。茜を厳しく躾けるが、
茜は彼女を慕っている。
大西茜……大西泰幸の養女。13歳で春花や美里よりお姉さん
だが、楚々とした感じのお嬢さんとして躾けられている。
高瀬先生……古くから大西家に出入りしているお医者様。特に
子供達へお仕置きがある時は浣腸や導尿などでお手伝い
もする。
明子さん……長い間大西家に仕えている住み込みの女中さん。
大西家の生き字引。
****************************
「さあ、お父様のお膝へいらっしゃい」
お母さんが強い調子で茜さんの腕をとります。
慌てた茜さんは突然のことに嫌々をしますが、それはお母さん
の腕を振りほどくほどではありませんでした。それが後々どんな
結果になって自分に跳ね返ってくるかを知っていたからでした。
「おいで……目が覚めるから」
お父さんがご自分の膝を叩いて指示します。
「!」
もう、こうなったらダメです。
茜さんはそこへ行くしかありませんでした。
幼い頃からお尻を叩かれていた茜さんにとってお父様のお膝は
世間で言う『お尻ペンペン』なんて生易しいものではありません。
ギロチン台並みの恐怖です。
でも、そこへ行くしかありませんでした。
「お父様、お仕置き、お願いします」
茜さんはお父さんに一声掛けてその膝にうつ伏せなって寝ます。
『お仕置き、お願いします』なんて、ぶたれる子供の側が言う
セリフじゃないかもしれませんが、これも大西家のしきたりです。
大西家では、朝、『おはようございます』を言うのと同じでした。
「恐がらなくてもいいからね。茜は女の子だから私からの経験
があまりないかもしれないけど、私もお尻叩きは上手なんだよ」
お父さんはそう言って、まずスカートの上から叩き始めます。
リズミカルに軽快に……
「……パン……パン……パン……パン……パン……パン……」
茜ちゃん、最初は『あれ?これって、お父さんの方が楽だ』と
勘違いしたのですが、すぐにその間違いに気づきます。
最初の数回はまだそんなに痛くありませんでした。
でも、10回を過ぎる頃から辛くなります。
「パン……パン……パン……パン(あっいや)……パン(ひぃ)
……パン(あっ、だめ)……パン(あっ)……パン(痛~~い)」
普段お母さんからやられているスパンキングは、お尻の表面が
ピリピリするような乾いた感じの痛みなのですが、お父さんのは、
一発一発がお尻の肉の奥まで届く感じの重い痛みです。
しかもお父さんのスパンキングは、お母さんと違って短い時間
では終わりませんでした。
徐々に、徐々に蓄積されていく痛みの中で、茜ちゃんのお尻は
しだいに悲鳴を上げ始めます。
「パン(あっ、いやあ~~~)……パン(だめえ~~~)……
パン(お願い、お母さんやめさせて~)……パン(あっいやいや)
……パン(ひぃ~~~)……パン(ああん、お母さん許して~)」
茜ちゃんは、お父さんにお尻をぶたれていたのですが、許しを
求めたのは自分の両手を握るお母さんでした。
ところが、そのお母さんは……
「何やってるの。これくらいのことで、両足をバタつかせたり
して、幼い子じゃないの、みっともないことはやめなさい」
と、逆に茜ちゃんを叱るのでした。
いえ、それだけではありません。
今度はお父さんが茜ちゃんのスカートを捲りあげようとします
から……
「いやあん、しないで!!パンツ見えちゃう!!いや!!ダメ
エッチ、レディーに失礼よ」
茜ちゃんは慌てて抵抗を試みますが、できたのは口だけでした。
本当は右手でお尻をかばいにいきたいのですが、お父さんの膝
の上で万歳した格好の茜さんはその両手ともお母さんにしっかり
握られていてピクリとも動かせません。
「あ~~ん、イヤだって……」
その間にもお父さんのお尻叩きは再会します。
今度はショーツの上から。当然スカートの上からより痛いこと
になります。
「パン(あっ、いやあ痛い痛い~~~)……パン(だめえ~~~)
……パン(お願い、お母さんやめさせて~ホントに痛いんだって)
……パン(あっいやいやいやいや)……パン(ひぃ!ごめんなさい)
……パン(ああん、お母さん許して~誰でもいいから許してよ)」
茜ちゃん、まだまだ口だけは達者でした。
いえ、こうして必死に叫んでいないとお父さんの平手の痛みに
耐えられないから……というのが本当の理由かもしれません。
ところが、真っ赤な顔をして奮闘する茜ちゃんの苦労をよそに
お父さんは涼しい顔。おまけに、茜ちゃんの最後の砦にまで手を
かけるのでした。
「……!!!……」
白い綿のショーツが剥ぎ取られてしまいますが、なぜかその時、
茜ちゃんに大声はありませんでした。
妹分の二人がさっきから笑いを堪えながら見ているのは知って
いますから、もうこれ以上恥の上塗りをしたくないと思ったので
しょうか。
もちろん、そんなことにはおかまいなく、二人は固唾を飲んで
茜ちゃんの裸のお尻を見ています。
男の子でないのがまだしもなのかもしれませんが、女の子にと
ってはこれ以上ない屈辱でした。
それに、当然のことですが、何の防御もない生のお尻はさらに
堪えます。
「パン(いやあ~~もうぶたないで~~~ぶたないで~~~)
……パン(痛い、痛い、痛い~~痛いんだって~~お願~~い)
……パン(ひい~~~だめえ~~~壊れるから~~お願いよ~)
……パン(お母さんやめさせて~ホントに痛いんだってえ~~)
……パン(ああ~ん、お母さん許して~何でもする、何でもする
から~~~)」
痰を絡ませながら必死に哀願する茜ちゃん。
でも、お父さんからは、なかなかお許しが得られませんでした。
「パン(いやあ~だめえ~)……パン(痛い、痛い、痛い~)
……パン(ひい~~)……パン(だめえ~壊れるから~~)……
……パン(お願い、やめてよ~)……パン(お母さんやめさせて)
……パン(ホントに痛いんだってえ~~)……パン(ああ~ん)
……パン(いやいやいや)……パン(お母さん許して、お願い、
お願い~何でもする、何でもするから~~~)」
70回を超え、茜ちゃんはひところより口数が少なくなってい
ました。
泣き疲れ、声も枯れて、もう大声も出なくなっていたのです。
そして、その頃になってやっと許されます。
茜ちゃんは床に転がると必死でお尻をさすりましたが、痛みは
すぐには引かず、5分くらいは床に泣き崩れたままただただ自分
のお尻をマッサージしていました。
やがて、少し落ち着いた頃、お父さんと目と目があって初めて
自分の姿に気がついたみたいで……慌ててお父さんの足元に膝ま
づくと、両手を胸の前で組んでご挨拶します。
「お仕置き、ありがとうございました」
これも『お父様、お仕置きお願いします』という最初のご挨拶
同様、大西家のしきたり(躾と呼ぶべきかもしれません)でした。
もっとも、これはほんの序の口。
これはあくまで眠そうにしている茜ちゃんの目を覚まさすため
で、本当のお仕置きはこれから……ということのようでした。
「目が醒めたかい?」
少し仏頂面のお父さんの顔がいきなり茜ちゃんに迫ってきます。
大人のそんな顔、恐いですからね。
「はい」
嗚咽の収まらない茜ちゃんでしたが小さな声が聞こえます。
すると、お父さんはとたんに笑顔になって茜ちゃんを膝の上へ
抱き上げます。
「お~~しばらく抱かないうちに重くなったなあ」
お父さんの言葉はまるで幼児か赤ちゃんを抱いた時のようです。
でも、お尻がお父さんの膝に乗っかると茜ちゃんは顔をしかめ
ます。そこはまだ完全に癒えていませんから、お愛想でも笑顔は
難しかったのでしょう。
「どうした?まだ痛いか?……だったら、静かにして私の話を
聞きなさい。いいね」
『動くとお尻が痛いよ』というわけです。
お父さんは、茜ちゃんの頬にご自分の息がかかるほど強く抱き
しめます。
普段ならタバコの臭いお父さんの顔に嫌々をするところですが、
今は、お父さんのお膝をお尻が摺れただけで飛び上がるほど痛い
ですから、おとなしくタバコの臭いを嗅ぐことになるのでした。
「いいかい、茜。人はいろんな家に生まれる。農家もあれば、
八百屋さん、鍛冶屋さん、サラリーマン、人それぞれだ。でも、
どんな家に生まれようと、その家を盛り立てなければならない。
お父さんお母さんをお手伝いしなきゃいけない。それが子どもの
義務なんだよ。農家の一樹君も、八百屋さんの真理子ちゃんも、
鍛冶屋の高志君だって、みんなお家のお手伝いをしてるだろう。
それは、茜、君だって同じなんだよ」
「……私もお手伝いするの?」
茜ちゃんはぽつんと独り言のように言います。それはそれまで
一度も考えた事がなかったからでした。
「茜ちゃん、お父さんの仕事は何だい?」
「大学の先生」
「そう、お家で商売してるわけじゃないよね。でも、お父さん
は茜ちゃんに手伝って欲しいんだ」
「どんなことお手伝いするの?……お父さんの助手さんとか?」
茜ちゃんは首を傾げます。
「いや、それはまだ無理だろうけど、大学教授の娘らしくして
いて欲しいんだよ。茜ちゃんは世の中の事はまだ分からないかも
しれないけど、大学の先生、お医者さん、弁護士さんなんて仕事
は世間での信用が大事なんだ。『普段偉そうなこと言ってても、
あいつの娘、学校じゃ劣等生らしぞ。娘一人満足に育てられない
奴にこんな仕事頼んで大丈夫かなあ』なんて、思われちゃうと、
お父さんもお仕事がやりにくいからね」
「つまり私はお父さんの娘にはふさわしくないってことなの?」
「そんなことはないよ。私はお前を施設から引き取ってから、
ずっと愛してきたし、これからだって、お前がどんな成績でも、
嫌いになることなんて事ないはずだよ。だって、お父さんはお前
を見初(みそ)めてここへ連れて来たんだから……」
「……うん」
「でも、お前はどうなんだい。私とは血の繋がりもないし……
こんなお尻をぶつようなお父さんは嫌いかい?」
「…………」
茜ちゃんは首を横に振りました。
理由は簡単です。
今日はたまたまお尻をぶたれていますが、普段の茜ちゃんは、
お父さんに甘えてばかりいます。お父さんとは楽しい時間がほと
んどなのです。ですから、短い時間のお仕置きのために、楽しい
時間を犠牲にするという選択はありえませんでした。
茜ちゃんは考えます。
『要するに、お父さんを愛しているなら成績を上げなさいって
ことよね。でも、私、頭悪いし、頑張っても成績あがるかなあ』
そんなことを思っていると……
「よかった、茜も私を愛しているんだね。よし、だったら明日
からは私がお勉強の面倒みてあげるから、また一緒に頑張ろうね」
お父さんがこんなこと言うのです。
「えっ、(お父さんと一緒に!!)」
茜ちゃんは驚きます。
いえ、小学校時代の茜ちゃんはお父さんのお膝の上で勉強して
いました。お父さんにしてみれば相当に重いお荷物だったと思い
ますが、何しろこれが最も効率的だったからお父さんも仕方なく
続けていたのでした。
そんな昔の姿が頭をよぎったので驚いたのでした。
今さらお父さんにだっこされて勉強するなんて、嬉しいけど、
恥ずかし過ぎます。
すると、そんな茜ちゃんの心の中を察するように……
「もう、抱っこはしないよ。こんな重い荷物、いつまでも膝の
上に乗せて置けないからね……でも、それ以外は今までとおりだ。
集中心を欠いたような態度なら、すぐに竹の物差しで目覚ましだ。
あんまりだらしがないなら、お灸だってまたすえるよ。それに、
日曜日の朝は必ずお浣腸。便秘なんかしてるとそれが気になって
頭の回転も鈍くなるからね」
『また、始まるのか。お父さんと一緒のお勉強。何だか体よく
言いくるめられちゃった感じだなあ』
茜ちゃんは心の中でため息をつくのでした。
***************************