2ntブログ

Entries

駿 と 由梨絵 の 物語

 駿由梨絵物語

< 第 3 話 >

 由梨絵が園長室の厚いドアを開いて外に出ると、何やら前にも
嗅いだことのある甘い香りがかすかに鼻をくすぐる。

 由梨絵は気になって辺りを見回したが、そこには誰もいない。
 真理と瞳が由梨絵に気づいて駆け寄ったが……

 『この子たちの匂いじゃないわ』

 女の子たちとは少し離れた処にもう一人。男の子だ。駿がいた。
でも、その子でもない。

 『駿ちゃんでもないわよね。……まさか……嘘でしょう』

 そんなことを思っていると、駆け寄った女の子たちがさっそく
おしゃべりを始める。

 「ねえ、大丈夫だった?」
 と、真理。
 「大丈夫なわけないでしょう、お仕置きなんだもん」
 と、瞳
 「ねえ、悲鳴あげたの?」
 「大丈夫よ、安心して、ここからは聞こえなかったから」
 「ねえ、パンツ脱がされた?あの先生、そんなこと平気なのよ」
 「あんた、無神経ね、そんなこと聞かなくてもいいでしょう」
 「いいじゃないの、女の子同士なんだもん」

 由梨絵は、いきなり真理と瞳に取り巻かれ質問攻めにあったが、
あの香りが気になって聞いてなかった。だから真理と瞳が二人で
しゃべっている。

 そんな身近な喧騒をよそに、由梨絵は少し離れた柱の影から、
こちらを窺っている少年の姿を気にし始めた。

 女の子同士でなら何とでも、しかし、彼には、園長先生の前で
パンツを脱いだことやそのお尻が真っ赤になったこと、仕方なく
あげた悲鳴のことだって絶対に知られたくなかったのである。

 そんなことを心配していると、さっき嗅いだ甘いパイプの香り
がまた急に強くなる。

 『えっ!やっぱり、まさか!』
 ハッとして振り返ると……

 『お……おじ様!!』
 声は出なかったが生唾は飲んだ。伯爵が学校の催しもの以外で
ここを訪れるなんて、滅多になかったからだ。

 それだけ気にかけていたんだろうが、由梨絵にしたら迷惑千万
なことだ。

 「ごきげんよう、伯爵様」
 「ごきげんよう、伯爵様」
 真理と瞳が気づき、慌てた様子で挨拶する。

 左足を半歩引いて膝を曲げ、両手でスカートを摘んでお辞儀。
 この時代錯誤した仰々しい挨拶は学校を訪れたお客様に生徒が
投げかけるいわば儀式だった。

 「やあ、君たちは、由梨絵のお友だちかね」

 「はいそうです。真理といいます」
 「瞳です」

 「ひょっとして、……君たちは由梨絵のお仕置きが終わるのを
ここで待っていてくれたのかい?」

 「そうです。心配でしたから……」
 「それはお友だちですから、当然です」

 「ありがとう、これからも由梨絵と仲良してやってくださいね」

 「はい、もちろんです」
 「私たちいつも一緒なんです」

 「ねえ、伯爵様は由梨絵ちゃんのお父様なんでしょう」
 「ばかねえ、当たり前じゃない」
 二人は伯爵に迫ったが……

 「よかったな由梨絵。私はてっきりお前が一人ぼっちで園長室
を出てくるものとばかり思っていたから迎えに来てみたんだが、
余計なことだったかもしれないな。お前にこんな情に厚いお友達
が二人もいるなんて知らなかったよ」
 伯爵はそう言って由梨絵の頭を撫でる。

 一方、由梨絵はというと、伯爵に頭を撫でてもらっている間も
なぜか駿君の姿を追っていた。
 ただ、由梨絵のいる位置から彼の姿が見えない。
 どうやら自分の出る幕はないと思ったのか先に帰ってしまった
ようだった。

 ここは女子修道院が経営する学校。男の子も受け入れているが
生徒も先生も女の子が中心の社会。校舎や校庭は隅々まで掃除が
行き届き、教室や廊下には塵一つ落ちていない。全校生徒で管理
する花壇は運動場より大きくて、いつ行っても四季折々の草花が
咲き乱れている。
 休み時間には響く甲高い声も授業時間になるとぴたりとやみ、
先生が講義する声の他は生徒が本のページを捲る音しか聞こえて
こなかった。

 生徒たちによって丹精された草花の庭を通って、伯爵は子ども
たちと一緒に薔薇のアーチをくぐる。このアーチが学校の内と外
を分けているわけだが、ここに校名を刻んだプレートなどはなく、
外から見るとまるで誰でもが入れる公園のような場所だったので
ある。

 校門を出ると、その近くには大きな車寄せがあって、ずらりと
高級外車が並んでいる。
 真理や瞳の顔を見るなり、ワーゲンやシトロエンの運転席側の
ドアが開く。運転手さんたちが自分の仕事に気づいたのだ。

 二人の女の子たちとはここでお別れ。

 「ごきげんよう、伯爵様、ここで失礼します」
 「私もここで……ごきげんよう、失礼いたします」

 「はい、お二人とも今日はありがとう。明日もまた仲良くして
あげてくださいね」

 「ごきげんよう、由梨絵さん」
 「ごきげんよう、明日、また遊びましょうね」
 二人は伯爵と由梨絵に挨拶して別れると、それぞれ自分たちの
屋敷から差し回された車のもとへ。

 子どもたちが自家用車で通学するのは、親たちにとってそれが
一番安全な通学方法だったからだ。

 「ごきげんよう……さようなら」
 「ごきげんよう……さようなら」

 二人は家路へ出発した後もその車内から由梨絵の車に向かって
手を振る。
 伯爵様も車内に乗り合わせた彼らの家庭教師に軽く会釈した。

 戦前、上流層の挨拶は、それが朝でも夕方でも、出合った時も
別れる時も、そのすべてで『ごきげんよう』の一言だった。
 『おはよう』も『さようなら』も、彼らにとっては必要のない
挨拶だったのである。

 ただ戦後になると、世間の常識から乖離してはならじとばかり、
学校でも『おはようございます』『先生、さようなら』といった
言葉が登場してくる。
 二人はそれを思い出して付け足したのだった。

 二人の黒塗りが車寄せを出た後、伯爵も娘の為に愛車シボレー
のドアを開ける。
 ところが……そこには見かけないクッションが置いてあった。

 「……?……」
 由梨絵が不思議そうな顔でそれを手に取ると……

 「お尻がまだ痛いだろうと思ってね、お家から持ってきたんだ」
 伯爵がお姫様の為にした気遣いだったのだが……

 「いらないわ、こんなの。だってお尻なんてもう痛くないもの」
 由梨絵はそっけない。

 すると……
 「おやおや……それじゃあ、私のお膝の上にも乗れるかな?」
 伯爵が悪戯っぽく笑って運転席で膝を叩くと……

 「いいわよ、乗れるわよ」
 由梨絵の顔が急に幸せそうな笑みになる。

 由梨絵は、幼い頃から伯爵の膝の上に乗ってドライブするのが
大のお気に入りだったのだ。浜辺や空き地、民間の駐車場(当時
はまだ多くの駐車場が未舗装だった)など、公道以外のデコボコ
地面を疾走するのは大きなアメ車でもけっこうスリリングだ。

 「ヤッホー」
 歓声と共に小さなお尻が大きな膝の上で跳ね回る。

 「コラコラ、あんまり跳ねると運転できないじゃないか」
 伯爵はハイテンションの由梨絵を叱るが、彼もまたそんな空気
の車内がまんざらでもない。どこかロデオ気分だ。

 伯爵は揺れる車内で由梨絵のスカートの中、お尻や太股に左手
を滑らせると、幾度となくさすっている。由梨絵も幼い頃からの
習慣だからだろうか、安心しきっていてその進入してきた左手を
とがめだてする様子は微塵もなかった。

 やがて、伯爵は由梨絵にハンドルだけでなくクラッチレバーも
切り替えさせるようになる。
 もちろん由梨絵が握るハンドルやクラッチには伯爵の大きな手
が添えられてはいるのだが、こうなると、由梨絵も自ら運転して
いる気分だ。

 「吉田のおじちゃん、ヤッホー、もう一人で運転できるように
なったよ」
 由梨絵は開け放った車の窓から左手を出して振る。
 ちょうど庭の手入れをしていた植木職人のおじさんを見つけた
ところで、もう上機嫌だった。

 その後、伯爵は由梨絵を膝の上に乗せたまま広い車寄せのある
庭を何週かしてみせた。

 普段おとなしいと思われている由梨絵がこの時ばかりは満面の
笑み。正直言ってお尻はまだ痛かったが、おじ様のお膝はいつも
のように快適そのもの。興が乗ると、伯爵が自ら膝を上下に揺ら
してくれるのもいつものことで、その間は由梨絵のはしゃいだ声
が辺り一帯に響いていた。

 だから、本当はこのままおじ様のお膝の上に乗ったまま家まで
帰りつきたいところなんだが……

 「さあ、そろそろ家に帰るよ。降りなさい」
 一息つくと、伯爵に膝から降りるよう命じられてしまう。

 「え~~もうおしまいなの」

 「お前を抱っこして街中を運転してると警察がうるさいんだよ」

 「あ~~あ、つまらないの。おじ様、私、運転上手なんだし、
私が運転してもいいでしょう。何とかならないの。おじ様、伯爵
なんでしょう」
 由梨絵は粘ったが……

 「何ともならないね。だいいち、今の私は伯爵じゃないよ」

 「えっ!違うの?」

 「戦争前まではそうだったから慣例でみんなそう呼んでるけど、
今の私は冠位なんて何もないから、他の人と同じ一人の市民さ。
ちっとも偉くなんてないんだよ。……さあ、降りた、降りた」
 伯爵は車を止めて由梨絵を助手席に移す。

 と、その時だった。
 あれほどはしゃいでいた由梨絵の動きが一瞬、止まってしまう。

 どうやら彼女、その瞬間何かに気づいたみたいだった。

 由梨絵の見つめる先には男の子が一人、サッカーボールを踏ん
づけてこちらを見ている。

 鼻筋の通ったクールな瞳が特徴的なその少年はまだ前髪を切り
揃えた坊ちゃん刈りで赤いほっぺや愛らしい口元から推測すると
どうやら由梨絵と同年代らしかった。

 「……ん?……あっ、そうか、あれは駿君だね……昔一度だけ
話したことがあるけど、その時はまだ赤ちゃんぽかったが………
でも大きくなったなあ……そうだ、思い出したよ。彼、君と同じ
給費生じゃなかったかい?……そうだろう………ん?どうした?
……彼のこと、好きなのか?」
 伯爵は思わず先走ってしまう。

 すると、すぐにちょっぴり怒ったような反応が返って来た。
 「……な、わけないでしょう。関係ないわよ」

 由梨絵の即座な反応。その強い調子。たとえママゴトにしても
まんざらでもないと思った伯爵が、帰り際あらためて車を俊君の
近くへ回し、その顔をあらためて確認することになる。

 「やあ、君、サッカーが好きなの?」

 伯爵が車の窓を開けて尋ねると……
 少年は何も言わず寄宿舎の方へと走り去ってしまった。

 伯爵は由梨絵に悪いことをしたと思ったが、仕方なかった。

 給費生は、身元のしっかりした後見人がいない限り学園生活の
大半を隣接する寮で暮らすことになっている。それは、経済的に
恵まれていない子が多い給費生を環境の整わない家庭に戻しても
その高い学力を保持できないだろうし、何より戻った家や風紀の
悪い地域でよからぬ遊びをおぼえないとも限らないと考えたから
だった。

 給費生というのはそんな窮屈な籠の鳥ではあったが、一方で、
学園側も彼らのことを慮り、なるだけ一般の子と大差のない生活
が送れるよう努めてはいたのである。

 学用品はもちろんのこと、制服や私服、玩具、お小遣いだって
ちゃんと出る。寄宿舎の設備は充実していたし、話し相手になる
教師やシスターもいる。

 ただ、それでも給費生の日常というのは決して楽ではなかった。
 一般の生徒と比べて決定的に欠けているものがあるからだ。

 それは肉親からの愛。

 どんなに親切にされても教師やシスターは所詮他人でしかない。
もちろん仕事の範囲内で是々非々での対応はしてくれるだろうが、
それ以上踏み込んでの面倒はみてくれないことを、彼らは知って
いるのだ。紋切り型の愛情では出てこない暖かさを一般の生徒は
持っている。その現実を彼らは肌で感じているのだった。

 駿君がこの時見ていたのもそんな暖かさだったのかもしれない。


 伯爵の車は由梨絵を助手席に乗せて学園の建つ山を下りて行く。

 すると突然、伯爵が車を止めて……
 「寄宿舎の入口にいた子。あの子、何であそこにいたんだろう?
実家に帰らなかったのかなあ」
 伯爵が由梨絵に尋ねた。

 「だって、あの子、帰る家がないんだもの。すごっく可哀想な
子なんだから。去年、おじいさんが亡くなってちゃって帰る処が
ないみたいなの。孤児になっちゃったって……」

 「ああ、あの子がそうか、去年、一度だけ会議の議題になった」

 「どんなことで?」

 「おじいさんが亡くなって身元引受人がいなくなったんだから
ここを退学させて施設に預けるべきじゃないかって意見がでてね。
ま、規則としてはそうなんだが、シスターや教師たちから異論が
相次いでこっちも驚いたよ」

 「で、どうなったの?」

 「結局、教会が預かるという形でこの学校は卒業させることに
なったんだ」

 「そうか……やっぱり可哀想な子なんだ……」

 「可哀想、可哀想って……まるで他人事みたいに言ってるけど、
お前だってそうじゃないか。私は、お前のお父さんじゃないぞ」

 伯爵がすました顔でまっすぐ前方を見つめて言い放つと由梨絵
は少しすねたような顔をして伯爵に右肩に自分の左肩をぶつけて
くる。

 たしかに由梨絵は伯爵とは赤の他人だ。しかし、伯爵は三歳で
由梨絵を自宅に引き取って以来、実の娘のように可愛がってきた。
 だから由梨絵も、戸籍がどうあれ、この世に伯爵以外の父親は
いなかったのである。

 他人の前で、おじ様と呼ぼうが、伯爵様と敬ってみせようが、
このドライバーは、彼女の頭の中ではその全ての場面でお父様と
変換されてしまう人。二人はそんな不思議な親子だった。

 ところが、そんな由梨絵が、今、気にしているその男の子は、
伯爵にとっても気になる存在だったのである。
 そこで……

 「由梨絵、お前は駿君のことが好きか?」

 伯爵の一言に由梨絵のほほが赤くなった。
 「何でそんなこときくの?……べ…別に……そんなんじゃない
って言ってるでしょう」

 「『そんなんじゃ』って……どういうこと?」
 伯爵はそ知らぬふりで尋ねる。

 「えっ!?」
 由梨絵は思わず出た本音にさらに顔を赤くする。
 結局……

 「だから、それは……単なるクラスメートというだけのことで
……あんまり、口きいたことないし……今日だって私がお仕置き
されてる園長室の近くでこっちを見てたんだから……男の子が、
女の子のお仕置きを待ってるなんて……きっと変なこと思ってる
んだから……薄気味悪いったらないわ」

 「じゃあ、嫌いか?」

 「嫌いって……そういうわけじゃあ……」

 「何だ?どっちなんだ?……まあいい、わかった。それじゃあ、
まず、私が親しくなってみるか」

 伯爵はそう言うと、急ハンドルを切って車をUターンさせる。

 「えっ!どういうこと?」
 由梨絵の身体が大きく左右に振れ、背もたれに頭をぶつける。

 「その子、どうせ週末でも帰る家がないんだろう。だったら、
一度くらいうちに招待してあげようじゃないか。……幸いお前が
部屋の飾りにしてるエンサイクロペディアや文学全集、図鑑類も
彼なら興味があるんじゃないかと思ってさ……」

 「えっ、どういうことよ?……だって、そんなの学校の図書館
にもあるじゃないの」
 由梨絵は慌てて伯爵を引き止めようとしたが……

 「あそこにあるのは版が古いんだ。中には戦前に出版された物
もある。旧字体で書かれた物は今の小学生には読みにくいだろう。
それに知識は常に新しくなるから、できるだけ新しい版のものを
見なきゃ」

 「ふ~~ん。でも、何でうちに呼ぶのよ」

 「いいだろう呼んでも。たまには男の子とも話してみたいんだ」

 「えっ?」
 由梨絵は伯爵の意外な答えに、しばしぽかんとなったが……

 「痛い、こら、やめないか!」

 由梨絵は、次の瞬間、運転手の右足を思い切り蹴ったのだった。

女の子だって大変なんですから  

<< 女の子だって大変なんですから  >>

当時よくやられていたお仕置きはお尻叩きと浣腸とお灸。男の子
と女の子で多少その扱いに違いがあるものの女の子だから免除と
いうものはなかった。
女の子もお尻を叩かれお灸を据えられ、お浣腸を我慢しなければ
お仕置きは終わらなかったのだ。取りたてて特別扱いはなかった
ように思うが強いて差があるとすれば女の子のお仕置きは非公開
が原則ということ。特に小学生でも高学年になると、親や教師も
男の子の目だけは気にしていたようだ。
実際十才を過ぎる頃になると女の子のお仕置きを目にする機会は
めっきり減ってしまった。そこで僕は、世間は女の子に甘いんだ
とばかり思っていたのだが、事実は逆で、むしろ、女の子の方が
お仕置きの機会が多くて、男の子以上にきついことをされること
だってたくさんあったのだ。
もちろんお仕置きと一括りにいっても、注意程度の軽いものから
それこそ折檻と呼べるような激しいものまで様々。太ももをつね
られたり、おやつを抜かれたりお小言だって必要以上に長ければ
それだって子どもにとっては立派なお仕置きなのだ。それを数に
加えると、むしろ女の子の方が大変だったように思う。
もちろんそんなもんは適当に受け流せばいいじゃないかとお思い
かもしれないが、男の子女の子に限らず虫の居所が悪い時という
のがあるわけで、そんな時は親や教師が期待する受け答えができ
ないことがある。時に相手を怒らせてしまうことだってあるのだ。
問題はこんなの時で、これが男の子なら仕方ないかですまされる
ことが、女の子だとこじれてしまうことが多くて、当然だけど、
きついお仕置きに発展してしまうことも。
こうなった時、実は女の子のお仕置きが男の子以上になるケース
が多いみたいだ。
ただ残念なことにこれを直接見る機会は男の子にはあまり無いの
だが、ただ、その子の妹あたりから情報は漏れ伝わりる。恐らく
口止めされていたんだろうが、元々おしゃべりは女の子の呼吸と
やら。おしゃべりできないのが苦しいみたいなので口を割らせる
と、これが事細かに説明してくれました。
そこで語られる内容は女の子特有の脚色はあるにせよ、えっそれ
本当!?って聞き返したくなるほどのものでした。
浣腸ありお灸ありスパンキングはもちろんのこと晒し者にされた
りお気に入りの服を焼かれたり、教科書までやかれちゃった子も
います。そのえげつなさは男の子以上。男の子の罰ってたいてい
お尻叩きだけですからその種類の多さには舌をまくほどだったの
です。

駿 と 由梨絵 の 物語 <第2話>

駿由梨絵物語

 < 第 2 話 >

 『毎日お尻を赤くして』という言葉を由梨絵が聞いていたわけ
ではないが、事実は保護者(伯爵)の言うとおりになった。

 その日の放課後。
 お仕置き台と呼ばれる園長室の机にうつ伏せになった由梨絵は
大きく両足を広げてパンツはすでに剥ぎ取られている。

 今、由梨絵のパンツは、鞭の痛みに驚いてよだれを垂らしても
机が汚れないように彼女の顎の下に敷いてある。

 先生がしっかり検査したから、どうやら汚れはないみたいだが、
自分の物とはいえ舐められるほどの至近距離にパンツがあるのは
由梨絵にとっても悲しかった。

 『恥ずかしいなあ、どうしてパンツまで脱がなきゃならないの
さあ』

 涼しいお尻が先生から丸見えなのは仕方がないとしても、両方
の太股までが開かれているから、今はその中までも丸見えなのだ。
 外の風が、スーっと女の子の大事な場所にまで入り込んで来て、
そのたびに背筋がゾクゾクっとする。

 「さあ、いきますよ」
 園長先生の声に再び背中がゾクゾク、頭がカーっと熱くなる。

 「ピシッ」

 そんな破滅的な緊張感のなか、最初の一撃がお尻に当たった。
 思わず、机の角を掴んでいた両手に力が入る。

 『うっ、痛あ~』
 涙が一滴。……でも、由梨絵は感傷に浸ってもいられなかった。

 「一つ、園長先生ありがとうございます」
 脳天まで達する痛みを堪えて、由梨絵は約束の言葉を口にする。

 ここでは園長先生からお仕置きの鞭をいただく時、数を数え、
一回ごとに『園長先生、ありがとうございます』とお礼を述べる
しきたりになっていたのだ。

 先生の持っている鞭はゴム製のパドル。
 相手が小学生の女の子ということもあって威力のある鞭は使わ
ない。しかもそんなに力いっぱい振り下ろしているわけでもない。
 ただ、大人の目からはママゴト遊びのようにさえ見える光景も
……

 「ごめんなさい、もうしません。ごめんなさい。もうしないで」

 二回目が振り下ろされるのを感じて由梨絵は慌てて懺悔した。
 たった1回ぶたれただけですでにべそをかいているのだ。

 こんな恥ずかしい格好で普段は優しい園長先生にぶたれている。
 もうそれだけで、女の子には泣くのに十分な理由があったのだ。

 ただ、お仕置きはお仕置き。一旦始めると園長先生も簡単には
妥協してくれない。

 「ほらほら、まだ11回も残ってるじゃないの。パンツを穿き
たかったら、さっさと泣き止みなさい。お臍の下が風邪ひくわよ」
 園長先生からの冷たい返事が返って来る。

 「はい……ごめんなさい」
 由梨絵は、か細い声でそれだけ。もうそれが精一杯だった。

 「さあ、いつまで泣いてるの。あなたがどんなに泣いてみても
約束が果たされるまでこのお仕置きは終わりにはなりませんよ。
お約束は12回ですよね。きっちり守ってもらいます」

 こんな時、園長先生はどんなに時間がかかっても、生徒が泣き
止むのを待ってからでないと、次の鞭を与えない。それは、罰を
受ける子が、今なぜ罰を受けているのかを理解しないままでは、
懲戒としての意味がないからだった。

 お仕置きの鞭は、喧嘩やリンチではないから、単に叩けばよい
のではない。子供を自分の犯した罪と向き合わせ、これがその為
の報いなんだということをしっかり頭の中でリンクさせる必要が
あったのである。

 「まだ鞭に慣れていないあなたにはちょっぴり可哀想だけど、
これも神様から与えられた試練だと思って頑張りなさい。いい、
女の子は何事にも耐えることで強くなるの」

 「はい、先生」
 由梨絵は蚊のなくような声で答える。

 「今は苦しいかもしれないけど乗り越えられない試練はないわ。
何よりここは神様から祝福された愛の園だもの。あなたに悪意を
持つ人なんてここには誰もいないのよ。この鞭だって、しっかり
耐えれば、その先にはきっと良いことが待ってるから……さあ、
頑張りましょう。いいですね」

 「…………」
 由梨絵は何か答えたかったのかもしれないが、今は鼻をすする
音だけがする。

 「女の子はね、男の子のように爆発的な力が発揮できないぶん、
どんな時も根気と我慢が大事なの。我慢で幸せを掴むの。だから、
我慢できない子は幸せにもなれないわ」

 先生に励まされ、由梨絵は鼻をすするのをやめて気を取り直す。

 こうして、やっと二つ目がやってくるのだった。

 「ピシッ」

 「ひぃ~~~」
 本当は上げてはいけない悲鳴。でも、由梨絵にしてみるとどう
しようもなかった。声になってしまうのだ。

 「二つ、園長先生ありがとうございます」

 「由梨絵ちゃん、我慢、我慢、我慢しなくちゃ……」
 園長先生の声は優しかったが、体中が小さく震える由梨絵に、
その優しい声が聞こえただろうか。

 「非力な女の子が自分の力で道を切り開くというのは、とても
とても大変なことなの。だから与えられた場所で一所懸命働いて、
そこを幸せな場所に変えていかなくちゃ。女の子にとってはそれ
が幸せの近道よ。でもその為には我慢、我慢、我慢しかないわね。
とにかく我慢を覚えなきゃ女の子は一人前になれないわ……さあ、
次ぎいきますよ。どう?落ち着いたかしら?」

 「…………」
 由梨絵は僅かに首を縦にする。

 「そう……だったら、次、いくわよ。歯を喰いしばって……」

 「ピシッ」

 「ひぃ~~~」
 三つ目。鞭に慣れない由梨絵にとっては一番痛みを感じる頃だ。

 「私、我慢なんかしたくない!!特待生にもなりたくない!!」
 由梨絵は思わず本音を口にするが……

 「だめよ、なりたくないと言っても、もう特待生になってるの。
今さら後戻りはできないわ。さっきも言ったでしょう。女の子は、
与えられた場所で努力するしかないの。我儘を言ったからって、
決して幸せにはならないものなのよ。……さあ、さあ、ちゃんと
数を数えて」

 「三つ、園長先生ありがとうございます」

 「よろしい、じゃあ、次ぎいきますよ。歯を喰いしばりなさい」

 「ピシッ」

 「いやあ~~~」
 思わず叫び声を上げる由梨絵。
 本当は規則違反だが、これが給費生として最初のお仕置きだと
いうこともあって園長先生からも大目に見てもらえたみたいだ。

 「四つ……」
 由梨絵は嗚咽し一つ鼻をすすってから続ける。
 「……園長先生ありがとうございます」

 「ピシッ」

 あとはもうただただ涙声だった。

 「五つ、園長先生ありがとうございます」

 園長先生が振るっているゴム製パドルというのは、その大半が
女の子や幼い子のためのもので、大きな音はするものの、大人に
叩かれてもそれほど酷い痛みにはならない。
 この鞭、慣れれば小学生でも耐えられる程度だった。もちろん、
何度かここへ来て、この鞭に慣れていればの話だが……

 先生の側にしても、失神するほど強い鞭ではお説教が頭に入ら
なくなるから困るのだ。
 なのに由梨絵が大仰に反応しているのは、彼女が人一倍怖がり
で臆病な性格だから。
 決して園長先生が由梨絵に特別残酷なことをしているわけでは
なかった。

 「ピシッ」

 「………………」
 必死に机にしがみ付く由梨絵。

 でも、もう悲鳴は上げなくなった。
 臆病な由梨絵もさすがに痛みに慣れてきたのである。

 勿論、こんな鞭でも本気でぶっていれば回数と共に痛みは増す。
でも、ここではそうはならなかった。ということは、園長先生の
鞭は、慣れることのできる程度の痛みということのようだ。

 「六つ、園長先生ありがとうございます」

 「ピシッ」

 「……『私は世界一不幸な少女だわ』…………」
 鞭の痛みに慣れてきた由梨絵は心の中で悲劇のヒロインを演じ
始める。女の子がよくやる夢想劇。そうやって、今ある現実から
心を逃避させ、鞭の痛みを少しでも紛らわせようとする常套手段
だ。

 すると、そんな事は百も承知の園長先生。今度は頃合いを見計
らい、由梨絵のお尻を軽く触れてチェックする。

 冷たく濡れた指が火照ったお尻に触れると、そのとたん……
 「冷たい!!」
 思わず由梨絵が叫んだ。

 氷水で冷やされた園長先生の指が触れたのだ。
 これで驚かない子はいなかった。
 由梨絵も、たちまち厳しい現実へと引き戻される。

 「はい、由梨絵ちゃん。オネンネしないの。今は反省の時間よ。
反省してちょうだい。先生のお尻叩きは『ただ寝そべっていれば
そのうち終わるでしょう』じゃないの。ちゃんと心を込めて一つ
一つのお鞭の痛みを受け止めなきゃお仕置きの意味がないわね。
いいこと、いいかげんな態度でいる子には鞭の数を増やしますよ」

 園長先生は百戦錬磨。うつ伏せになった由梨絵のちょっとした
心の変化も敏感に感じ取ることができるのだ。

 「ごめんなさい、先生」

 「一つ、一つ心を込めて、ごめんなさいって気持でお鞭を受け
なきゃいけないの。特に女の子はそうしたごめんなさいの気持が
大事なのよ」

 「はい……」
 由梨絵は力なく答えるのだが、それが精一杯だった。

 「……はい、それじゃあ心を込めてもう一度『七つ、園長先生
ありがとうございます』からよ」

 「七つ、園長先生ありがとうございます」

 「ピシッ」

 「……『こんな処にいられないわよ。今夜、逃げ出そう』……」
 その瞬間、由梨絵は衝動的に家出を決意するが……

 「八つ、園長先生ありがとうございます」

 でも、それも実行できなかった。
 だって、物心ついてからずっと、おじ様のお家とこの学校しか
世間を知らない由梨絵。逃げだすとして、いったいどこに逃げる
のか、そこで何をするのか、辛いから逃げ出したいというだけで
今の彼女には何一つあてなどなかったのである。

 「ピシッ」

 「……『今日はお家に帰りたくない』……」
 家に帰れば、学校でぶたれたお尻をおじ様に見せなければなら
ない。それがおじ様とのお約束だった。

 「九つ、園長先生ありがとうございます」

 「ピシッ」

 「……『お家で、おじ様も怒ってるのかなあ』……」

 「十、園長先生ありがとうございます」

 「ピシッ」

 「……『まさか、お家でもお仕置き?嘘だよ、そんなのないよ』……」

 「十一、園長先生ありがとうございます」

 「ピシッ」

 「…………『今日の夕ご飯、何かなあ~』………」

 「十二、園長先生ありがとうございます」

 「はい、おしまい。よく頑張ったわ。……前にも言ったように
女の子は我慢が大事。これもよい訓練になったはずよ」

 由梨絵のお仕置きは園長先生のねぎらいの言葉で終わる。
 お尻はすでに真っ赤。まるで熟れたリンゴみたいだけど、でも、
とにかく最後まで耐えられて、ほっと一息だったのだ。

 ただ、これで由梨絵へのお仕置きがこれで完全に終わったわけ
でない。
 お仕置き台を降りた由梨絵は、園長先生の前に立つとパンツを
脱いだ姿で表と裏を丁寧にチェックされる。
 これは罰ではないかもしれないが、女の子にとってはまた別の
意味で辛い試練だった。

 検査されるのは真っ赤になったお尻やビーナス丘と呼ばれお臍
の下の割れ目。
 これが終わると、再び机の上に仰向けになって両足を高くあげ
なければならない。

 その筋の言葉でいう『ご開帳』というやつだ。

 「恥ずかしい?でも、ちょっとだけ我慢してね」

 園長先生は由梨絵の太股を広げると、その指を大淫唇にかけて
押し開く。普段なら誰にも見せない由梨絵の秘密がいとも簡単に
あらわになっていく。
 『女性だから……』『園長先生だから……』由梨絵はそう思う
しかなかった。

 「まあ、綺麗ね。……最近はここを悪戯する子が増えてるけど、
あなたの場合は悪戯による皺の乱れも色素沈着もないみたいだし、
これなら何の問題もないわ。きっとお父様がちゃんと躾てられる
のね」

 「お父様じゃありません。おじ様です」

 突然のダメ出しに園長先生は苦笑する。
 「そうそう、あなたの場合はおじ様ね。ごめんなさい。でも、
あなたのおじ様はあなたを実の娘と同じように愛されてるのよ。
この綺麗な女の子が、何よりの証拠だわ。女の子って、他人から
見られる処にだけは気を使うけど、こうして見えない処は無頓着。
誰かが注意してあげないと何もしないだらしのない子が多いわ。
実をいうと、こういうところでその子の育ちが分かるものなの。
……でも、あなたは合格。おじ様に感謝しなきゃいけないわ」

 お仕置きのあとは発育検査も兼ねていたのだ。

 「はい、おしまい。次回のテストはもう少し頑張りましょうね。
……もう、パンツを穿いていいわよ」
 園長先生からのお仕置きが、これでやっと終わった。

 園長先生は教育者としてよいことをしたと満面の笑みだったが、
由梨絵にしたら、こうした受難が毎日のように降りかかるのかと
思うと、そりゃあ暗澹たる思いだったのである。

 由梨絵は、もともと学業も中位。悪戯も人並みするし、女の子
らしい嘘だってつく、そのあたりごく普通の少女だった。決して
ほかの子の模範になるような品行方正の生徒という訳ではないの
だが、それが、いきなり給費生となって、彼女自身、世間の風が
急に強く吹き始めたと感じていたのである。

 とりわけ大変だったのは学業だった。

 もともと中くらいの成績でしかなかった子が、次の学期末まで
には上位一割の中にいなければならないというのだから、困った
ものである。

 「そんなの無理!!絶対に無理!!」
 由梨絵は何度も伯爵に懇願したが……

 「無理、無理って、やってみなければわからないじゃないか」
 と、聞き入れてもらえなかった。

 当然、勉強時間は増え、家での自由時間は減らされる。勿論、
頑張ってはいるが、もし、学校でのテストが90点以下ならば、
放課後は園長先生の部屋へ行き、今日のような『励ましの鞭』を
受けなければらない。

 ちなみに、これが一般生徒のだったら励ましの鞭は80点以下。
 ここでも給費生はやはり特別だったのである。

駿 と 由梨絵 の物語

    駿由梨絵物語

 < 第 1 回 >

 由梨絵は現在11歳、肩まで伸びた真っ黒なストレートヘアに
細く白い首筋、高すぎない鼻筋やふっくらほっぺが子どもらしく
愛くるしい顔をしている。わずかに膨らみかけた胸を覆っている
ジャンパースカートの裾を翻しながら、その日も長い廊下をスキ
ップしながらやって来る。それははた目にも快活な彼女の個性を
感じさせて清々しかった。

 「おじさま、何かご用?」
 由梨絵はいきなり分厚い木製ドアを押し開く。
 どうやら書斎に入る時、ノックは普段から不要のようだ。

 「おう、由梨絵か……」

 安藤伯爵は書棚から取り出した大判の書籍を立ち読みしていた
が、大きな鼈甲めがねをおでこに押し上げたままその瞳が明るい
声の方を向いた。

 「学校は終わったのかい?」

 「終わった。宿題も全部すんだよ」

 「それは凄いな、いつもそんな風にきちんとした生活態度なら
いつでも特待生になれるな」

 「無理よ、私がそんなの……私ってそんなに頭なんてよくない
もの」

 「そんなことはないさ。私の娘ならきっと学業も優秀なはずだ
よ」

 「えっ……」
 由梨絵は思わず絶句した。

 
由梨絵は伯爵の娘ではない。彼女との歳の差を思えば伯爵は祖父
に当たるかもしれない。いや、この二人、そもそも血縁者ですら
ないのだ。もちろんそんなことは、当人同士にあっては百も承知
していることだったから、普段は、『由梨絵』『おじ様』と呼び合
っていた。

 「座りなさい」
 伯爵は幼い娘に一人用ソファを勧めるが……。

 「いいわ、いらない。私、立ってるから……」

 「いいから、座りなさい。そうやって落ち着かない動きをして
いたら、まるでオシッコを我慢しているみたいで、こちらが落ち
着かないんだよ。

 「はい」
 由梨絵はその椅子にお尻からポンと弾むように腰を下ろした。

 一方、伯爵は読みかけの本を年季の入った本棚に戻すと……
 「さてっと……」
 由梨絵とは向かい合わせになる二人用のソファに、ゆっくりと
腰を下ろした。

 そこで銀の煙草入れから細身の洋もくを取り出して火をつけ、
それを一服二服くゆらせてから口を開いた。
 その間は彼は何も言わなかったのである。

 そして、

 「君はいつから、私の娘になったんだい?」

 「えっ……」
 その言葉は由梨絵の胸に衝き刺さる。
 それだけ言われただけで彼女には思い当たる節があったのだ。

 「別に、私はおじさまの娘というわけでは……」
 心苦しそうに弁明すると……。

 「そうなのか?……実は、今日、園長先生から『理事長先生は
制服の変更をお考えなのですか?』って質問されたよ」

 「…………」
 由梨絵は口を閉ざす。本当は何か言いたかったが、何を言って
も自分に不利になりそうで言葉にならなかったのだ。

 「僕は知らなかったよ。学校で君は僕の娘として見られている
みたいだね」

 「それは……」
 由梨絵は思わず顔を床に向けてしまう。

 「今さら、話すことでもないけど、君は僕の娘ではないんだ。
旅の途中、飯田という場所で身重の女性が苦しんでいたのを病院
に運んだのがきっかけで連れていた君を引き取ることになった。
恐らくは君のお母さんと妹になっただろう赤ちゃんは亡くなって
しまったけど、なついていた君を街の施設に入れるのは心苦しく
て……それでここに引き取ったんだ」

 「は……はい」
 由梨絵の返事は歯切れが悪い。
 彼女は何がどうなっているのかを理解してしまったようだった。

 「僕は君があまりに可愛いもんだから、本当の娘のようにあれ
もこれもと世話をやいてきた。でも、もし、本当のお父さんなり
血縁の方がここへ現れたら、君を引き渡さなきゃならないからね。
それで、あえて養女にもしなかったんだが、正式に僕の娘になり
たいのかね?」

 「………………」
 由梨絵はこの時はっきり言わなかったが、心の中の答えは常に
イエスだった。

 「君は、学校ではお友だちに僕をお父さんと紹介してるみたい
だね。……だったら、君は理事長の娘というわけだ。……そこで、
お友だちに頼まれた。お父さんを説得して、今の古臭い制服を、
もっと……そのなんだ……君たちの言葉言うところの………何て
いったか……そうそう、イケてるデザインにして欲しいって……」

 「それは……別に……私が、そう言ったわけじゃないけど……
そういう事になっちゃって……」
 由梨絵は顔を真っ赤にして答えた。

 「ま、無理もないか、現に君は僕の家から通ってるわけだから。
だけど、嘘はよくないな。そんなこと吹聴してると今度はもっと
困難なことを、アレもしてこれもやって欲しいって頼まれちゃう
よ」

 「……私は……別に、嘘なんかつくつもりは……」

 「でも、君が否定しなければ、嘘が嘘のまま独り歩きしちゃう
だろう?」

 「……はい」

 「そこでだ、園長先生に頼んで、これからは君のことを給費生
として扱うことにしたんだ」

 「キュウヒセイ?……」
 由梨絵は、使い慣れないその言葉に戸惑ったが……

 「君のクラスでは聡子ちゃんが、たしかそうじゃないか?」
 おじ様の言葉で意味が通じた。

 「えっ!!!給費生って特待生のことなの?」
 由梨絵は驚き、身体が硬直し、目が点になった。

 「そうだよ。昔はそう呼んでた。いいだろう。学費は免除され
てるし、日常生活に必要な物は何でも支給されるから、生活にも
困らない。お小遣いもちゃんと出るんだから気がねなしに使える。
何より、理事長の娘が給費生なわけないから、みんなに嘘をつか
ずにすむしね」

 伯爵はすました顔であっさりと言いのけたが、それは給費生に
おける陽の当たる部分だけのこと。実際の生活がとっても大変な
ことは小学生の由梨絵にもわかっていた。

 給費生というのは、家が貧しいけど学業が優秀なために学校が
学費免除で受け入れた生徒のことで、学費のほか学園生活で必要
な必要最小限の物は何でも支給してもらえる結構な立場ではある
のだが、その代わり、いわば学校の広告塔として模範生でいなけ
ればならなかった。

 学業は成績上位の一割以内。これ以下になると退学させられる
規則になっている。それだけでない。素行や品性でも他の生徒の
模範になるように求められていたから、もし規則違反をして罰を
受ける時は一般の生徒の二倍三倍の罰を受けることがよくあった。

 おまけに、一般の生徒からは、あの子だけ優遇されてるという
やっかみや自分たちとは育ちが違うといった特権意識もあって、
よく虐めの対象にもなるから、居心地の悪さを感じる子も少なく
なかったのである。

 『茨の学園生活』
 頭にそんな言葉が浮かぶ。自分がそんな立場になっちゃう。
 これは由梨絵にしてみたら大変なショックだった。
 だから、恐る恐る伯爵にこう尋ねてみた。

 「これ、お仕置きなの?」

 すると、その不安そうな顔が気になったのだろう。伯爵は笑顔
で由梨絵を抱き上げる。
 「いいや、そうじゃないよ。生活はこれまでと変わらないよ。
お前は今まで通りここで生活していくし、今まで通り私に甘えて
いいんだよ。私もお前に不満は何もないもの。ただ、君が私の事
を誤解してはいけないと思ったからそうするだけさ」

 由梨絵はしばらく伯爵の膝の上で抱かれた。
 愛撫だった。

 でもそれは幼い頃からずっと毎日やってきたことと同じこと。
 伯爵はこれまで由梨絵を実の娘のように育ててきたから食事も
お風呂も音楽会やピクニックもすべて一緒の生活を送ってきた。
つまり由梨絵は娘同様だったのだ。

 だから『給費生になれ』だなんて由梨絵にとっては少なからず
ショックだったに違いない。

 そのショックをいくらか癒してもらってから部屋をでた由梨絵
だったが、その顔は来た時とは違ってうな垂れていたのである。

 さて、そんな由梨絵に代わって、今度は執事の牧田さんが伯爵
の書斎に入ってきた。

 「手続きは済んだか?」

 「はい、完了しました。でも、よろしいのですか」

 「何がだ?」

 「いえ、私はてっきり由梨絵お嬢様を養女になさるのかと……」

 「どうしてだ?ま、どうなるか分からんが今でもそのつもりだ
よ」

 「ならば何も特待生などになさらなくても……特待生ともなり
ますと、色々と……」

 「何だ、そのことか」
 伯爵はソファに腰を下ろして含み笑いをすると……
 「ただな、それならそれで由梨絵が私の家にふさわしい女性に
なってらなければならない。爵位はなくなっても六百年続く我が
家の一員になるのだから……しかし、あの子は特殊な事情で引き
取ったからそんな訓練をこれまで一度もしてこなかった。だから、
今回はその試練のようなものさ」

 「さようですか。それで安心いたしました」

 「安心したかね。お前はあの子が好きなようだな」

 「はい。由梨絵様がそばにいると心が和みます」

 「もともと不憫だから一時的に引き取ったが確かに優しい子だ。
顔がいいわけでもなく学業もスポーツもそこそこだが、あの子が
いると心が乾かない。だから私だって養女にとも思っているんだ。
ただし、これといって才能のない者は努力がいる」

 「たしかに……若い時の苦労は買ってでも、と申しますから」

 「そうだな。男の子ならもう少したってから鍛え始めるのだが、
女の子は成長が早い。むしろ、今が鍛え時なのだ。毎日のように
お尻を赤くして暮らすのも振り返ればいい思い出になるさ」

 伯爵は年代ものの赤ワインをグラスで一口。
 それは可愛い娘への祝杯だった。

おばあちゃん先生のお仕置き

 << おばあちゃん先生のお仕置き >>

 陽だまりの洋室の一人用のソファに腰を下ろして年配の婦人が
うたた寝をしている。

 それを部屋の入口から隠れるように覗き込む幼い少女が三人。
何やら言い争っている。

 「真理ちゃん、入ってよ」
 「いやよ、メグ(恵)ちゃんから入ってよ」
 「だって、あなたが最初にボールを芝生に入れたんじゃない」
 「何よ、あんな高い球、梯子でも持ってこなかったら取れない
じゃない。あんな球を投げた、あなたが悪いんでしょうが」

 すると三人の中では一番背の低い里香が二人を無視して部屋の
中へ……

 「先生、こんにちわ」
 里香は園長先生の身体を揺すっている。

 唖然とする入口の二人。
 「え~~~何するのよ」
 「やめなさいよ」
 二人は園長先生に取り付いた里香を必死に引き戻そうとするが、
里香はお構いなし。

 そのうち、うたた寝から醒めたおばあちゃんが起きてしまう。
 それどころか……

 「園長先生、お仕置き、お願いします」
 大きな声は園長先生を完全に目覚めさせてしまった。

 「あら、里香ちゃん。どうしたの?……あら、真理ちゃん……
メグ(恵)ちゃんも一緒なの。……御用かしら?」

 こうなると、部屋に入りそびれていた二人も中へ入ってこなく
てはならなくなった。

 「先生、園長先生にお仕置きをお願いしなさいって美川先生が」
 里香が、その幼い両の手で、さながら甘えるように園長先生の
お膝を揺する。

 その様子は、まるでお仕置きという意味が分かっていない幼子
のようだった。

 「あら、そうなの。……あなた、何かオイタしたのかしら?」
 先生は少し寝そべった身体を立て直すとき、おずおずと入って
来たほかの二人にも笑顔を振りまく。

 「あら、あなたたちも、お仕置きが必要なの?」

 三人の少女はこの時まだ7歳。
 学校で決められたオカッパの髪、服はライトブルーのシャツに
たけの短い臙脂のフリルスカートといういでたちでアイボリーの
短ソックスを履いている。靴は日本の学校ならどこでも採用して
いる先っちょが赤いゴムになった白い上履きを履いていた。

 「***********」
 「***********」
 二人は先生の前までやって来たが恥ずかしそうにしているだけ
で、何も話さない。

 話さないというより、こうしたことは話しづらい、むしろ里香
の方が異常だった。

 すると、ここでも園長先生のお膝を一足早く占拠していた里香
が口火を切る。

 「今さっき、私たち礼拝堂の裏にある芝生の上でゴルフの練習
していたんだけど、そしたら望月先生がカンカンに怒っちゃって
……」

 「望月先生が……ゴルフって??」園長先生は小首をかしげる。

 「あなたたち、ゴルフボールとかクラブとかお道具はどうした
の?」

 「何?それ……そんなの知らない」里香も先生のお膝の上で、
やっぱり小首を傾げる。

 「とにかくドッヂボールが入ればよかったの。芝生の真ん中で
穴掘りして……花壇の処からボールを蹴って……それでその穴に
何回で入るか競争してたんだけど、真理ちゃんって偉いんだよ。
3回で入れちゃったんだから……」

 「なるほど、そういう事でゴルフなのね」

 「そうだよ、ゴルフってできるだけ少ない回数でボールを穴に
入れた人が勝ちなんでしょう?」

 「そうね、だったらゴルフだわね。……それで、里香ちゃんは
何回で入れたの?」

 「七回。真理ちゃんなんて10回よ。……それで、もう一回、
花壇の処からやろうとしたら望月先生がかけっこでやってきて、
『あなたたち、何やってるの!』って……」
 里香は園長先生に両手で目尻を吊り上げて見せる。

 「どうやら望月先生、怒ってたみたいなの。それで園長先生の
ところでお仕置きしてもらいなさいって……」

 「なるほど、それで私の処へ来たのね」

 「そういうこと……ね、わかった?」
 里香ちゃんは屈託のない笑顔で園長先生を見つめる。

 「お話はわかったわ。……でも、あの芝生は、お姉さんたちが
年に一度開かれるテニス大会の為にだけ使う芝生なの。だから、
普段はああして何も行われていないけど、その日の為にお姉さん
たちがみんなで大事に大事に育ててるから、あそこには普段入っ
ちゃいけないのよ」

 「ふ~~~ん、そうなんだ。それで望月先生が、おばあちゃま
先生のところへ行きなさいって言ったんだ」
 里香は納得したみたいだったが、その顔はすぐに暗くなって…
 「……ねえ、おばあちゃん先生は、私たちをお仕置きするの?」
 不安そうに尋ねた。

 すると……
 「なあんだ、そんなこと心配してたの?大丈夫、しないわよ。
あなたたちはそれが悪いことだって今日初めて知ったんだもの。
もちろん、二度としないでしょう」

 「うん」

 「だったらそれで十分。お仕置きなんて必要ないわ。しません」

 「ほんと!?」
 今度は急に顔が明るくなった。

 「本当よ、こんなことであなたたちをお仕置きしたりしないわ。
私はあなたたちが本当の事を話してくれたことがとても嬉しいの。
だから、それで十分。お仕置きなんて必要ないわ」
 園長先生はそう言うと里香を膝の上からさらに高く抱き上げて
頬ずりする。

 「ホントにほんと」
 里香が念を押すと、他の二人もその場に膝まづいて園長先生の
顔を覗き込んでいた。

 子供たちにとってお仕置きはそれほど一大事なのだ。

 そんな子供たちの気持を察したのだろう。園長先生は三人の顔
を見回すと……
 「ここでは、嘘をつかない子、自分のしたことから逃げない子
にお仕置きしませんって決めてるの。ただ、あそこはお姉ちゃま
たちが大事に育ててる芝生だから、あなたたちが掘った穴は元に
戻さなきゃだめよ」

 園長先生は、里香の頭を撫でて頬ずりすると、いったん膝から
下ろし、代わりに真理を抱く。

 「頭についてるリボンは望月先生が作ってくださったの?」

 「そうよ、似合ってるって……」

 「とってもよくお似合いよ。あなた、あんな高い塀を飛び越え
ていくようなボールを投げられるなんて、運動神経がいいのね」

 「お転婆さんだって言いたいんでしょう」
 真理は少しはにかむような甘えるような仕草で園長先生の胸を
借りている。

 「いいのよ、それって素敵なことだもの。子どもの頃はお転婆
くらいでちょうど良いわ」

 園長先生は真理を下ろすと、最後にメグを抱く。
 メグは穴掘りを一生懸命やったせいか服が多少汚れていたが、
園長先生はそれを気にする様子もなかった。

 「あなたが一番一生懸命に穴を掘ったのね。お友だちのために
そうやって働く事はとっても尊いことよ。……でも、もうそれも
終わったから、今度はお顔とお手々を少し綺麗にしましょう」

 「柴崎、これを濡らしてきてちょうだい」
 園長先生はご自分のハンカチを秘書の柴崎さんに渡す。

 その短い間、園長先生は抱いたメグの額に自分の額を擦り付け
てお互い笑って過ごした。

 やがて、濡らされたハンカチが届くと、おばあちゃん先生は、
「あなたは望月先生にここでの顛末を報告してきてちょうだい」
と、新たな仕事を与える。

 その後は濡らしたハンカチが真っ黒になるまでメグの顔や手を
拭き、真理や里香ともにらめっこをしたり肩車をしたりして過ご
す。その姿はまるで三人の本当のおばあちゃんのようだ。

 それもそのはず、ここはカタリナ会の修道院が経営する特殊な
孤児院。彼女たちも赤ん坊の時からここの寄宿舎で暮らしている
から、他の世界を知らないのだ。
 園長先生のことを、おばあちゃん先生と呼ぶのはそのせいで、
子供たちにしてみれば園長先生といえど身内と変わらなかった。

 こうして、三人が三人ともおばあちゃん先生のお膝に乗ると、
これでお仕置きは終了。

 このくらいの年齢の子がお仕置きを受けるのは、それが他人を
怪我させてしまうかも知れない時と、自分が怪我してしまうかも
しれない時だけ。何をやったにせよ、本格的なお仕置きは、まだ
一度も受けたことがなかった。

 「もう二度と、あの芝生には入りませんってお誓いの言葉だけ
は述べましょうね」

 園長先生に促されて、三人はあらためて床に膝まづく。
 両手を胸の前で組んで……

 「私たちは、もう二度と、お姉様たちが大切にしている芝生の
中に入りません」

 園長先生の言葉に合わせて、三人も……

 「私たちは、もう二度と、お姉様たちが大切にしている芝生の
中には入りません」
 と、唱和する。

 これはこの学校のしきたりのようなもの。園長先生に呼ばれた
時はお仕置きを受けたか否かにかかわらず生徒は必ずこの姿勢で
こうした誓いの言葉を口にしなければ開放してもらえなかった。

 そして、その誓いの言葉が終わりかけた頃、膝まづいた三人は
不思議な音を聞くのである。

 「あっ……ああああ」

 それは誰かのうめき声。でも……

 『何だろう?』
 思わず顔を見合わせる三人。

 でも人生経験の浅い三人にはドアの向こう側にある苦悶の表情
を想像できなかった。

 「さあ、もういいわ。望月先生には私から三人は良い子に戻り
ましたってご報告しておくから心配要らないわよ」

 「ホント!必ずご報告してね」
 真理がほっとした笑顔で……でも、思いは三人とも同じだった。

 「さあ、もういいでしょう。行きなさい。次の授業は理科よね。
先生をお待たせしちゃいけないわ」
 園長先生のやさしい声に送られて、幼い子供たちは部屋をあと
にする。

 すると、三人が部屋を出たのを確認して、おばあちゃん先生は
一人用のソファから立ち上がったのだが……
 その顔は心なしか締まって見えた。

**********************

 「さて、どんな具合かしらね」
 園長先生は奥の扉を前にして一言。
 そして、天上まで続く高い高い本棚を右へと滑らすと……

 『ス~~~~』
 この大きな本棚が引き戸となって奥の部屋へと続いている。

 ただ、今ここにいた小さな子供たちとってそこは縁のない部屋。
ここはもう少し大きくなった子供が何かの折お仕置きをうける為
の部屋だった。

 薄暗かった部屋に、たくさんの白熱燈を従えたシャンデリアが
まばゆい光を放つ。
 それまで薄っすらとしか見えなかった景色が白日の元になる。

 あたりの気配に気を配る園長先生のそのキリリとしまった顔は
幼い子を相手にしていた先ほどまでとは別人だった。

 30平米程の広さの部屋には人一人が乗るには十分な長方形の
テーブルが一つ。
 今は中学校の制服を着た少女を一人、四つん這いにして乗せて
あった。

 「ああああああああっ」
 重苦しい吐息と共に少女の全身が小刻みに震え、それに合わせ
てテーブルも揺れている。

 ひんやりとした部屋の空気が、彼女の頑張りによる熱量だけで
まるでストーブでも炊いているように温まって感じられるから不
思議だ。

 しかし、園長先生の視線は冷ややかだ。

 うつ伏せの少女のお尻はテーブルに押し付けた顔より高い位置
にあって、おまけにスカートが捲り上がっている為にビニールの
オムツカバーが丸見え。
 それが小刻みに揺れて擦れキュキュという音を出していた。

 園長先生は少女のお尻を一瞥すると、自らこの部屋の管理人に
任命した木村先生に擦り寄り小声で尋ねた。

 「木村、どうなの……終わったのかしら?」

 「いえ、半分ほどで止まって、まだ残っています」

 「そう、じゃあ、今、オムツの中はベチョベチョってわけね。
どうりで軽く異臭がすると思ったわ」

 園長先生と木村先生はヒソヒソ話だったが、振り返ると少女の
顔は真っ赤になっている。
 そこで、今度は園長先生の声が大きくなる。

 「わあ~~臭い臭い。この娘、学校でウンコしちゃったんた。
わ~~恥ずかしいわね」
 園長先生はわざと幼い苛めっ子がはやし立てる時のような声を
出した。

 すると、少女が思わずテーブルに顔を伏せて隠す。
 今の少女に園長先生のお茶目なツッコミを相手にしている余裕
はない。
 全身鳥肌の少女は、未だ四つん這いのままで、時折襲う荒波に
必死に向き合っていた。

 「あっ……あああああ」

 少女の頭や額からあふれ出た球のような脂汗は、やがて一つの
雫となって頬を滑り降り、小刻みに震える顎の先端からテーブル
へと落ちる。そこには後悔の涙も含まれていた。

 「さて、どうでしょう。……小坂さん、どうなの?なぜこんな
ことになったのか、思い出してくれたかしら?」

 「はい……」
 力ない声が返って来る。

 「だったら、あなたがしたこと、教えてちょうだい」

 「…………は……はい」
 小さく震える声。でも、やっと搾り出した声だった。

 「そう、それはよかったわ。昔から教師の世界では健忘症の子
にはお鞭よりお浣腸が効くっていわれてるけど、本当みたいね」
 先生は少しおどけた調子だ。

 「カンニングをしました」

 「そう、カンニング」
 園長先生は何やら思わせぶった表情だが、事の顛末は、すでに
知れていた。

 「それじゃあ、あの紙はやっぱりあなたが作ったのね。今度の
テストって、あなたまでもがカンニングしなきゃならないほど、
そんなに大変だったの?」

 「いいえ……あれは……亜紀ちゃんに頼まれて……」

 「なるほど、あなたが自分の為にそんな事やるはずないものね。
……ということは、それって、純粋にお友だちの為なのかしら?」

 「亜紀ちゃん、このテストで合格点取らないと、午後も補修を
やらされて大事なテニスの試合に出してもらえなくなるからって
……それで……」

 「それで答案用紙にまず自分で答えを書いてから回収されない
問題用紙の方を破って、そこに答えを書き移して前の座席の亜紀
ちゃんに渡してあげた。……そういうことかしら?」

 「…………」
 律子は頷くだけで答えた。

 「ところが、その答えを書いた紙を亜紀ちゃんが自分だけじゃ
なく他の子にも回してあげたから、その紙はテストを受けていた
クラス全員に行き渡り、結局、大半の子が満点。……めでたし、
めでたし、というわけね」

 先生の皮肉に律子ちゃんは身の縮む思いだ。

 「…………そうよね」

 最後の『そうよね』には園長先生のため息も混じっていた。

 「あなたは、お友だちの為によかれと思ってやったのかもしれ
ないけど、それって安西先生にしてみたら大迷惑なの。テストは
子どもたちがどの程度教科の内容を理解しているかを示す大事な
指標なんですもの。仮に誰かに教えてもらった答えを書いて百点
がたくさん出たとしても嬉しくないわ。それは分かるでしょう?」

 「……は、はい」
 律子の蚊の泣くような声がする。

 「どう、こんな姿勢でテスト風景を見た事なんてないでしょう?」
 園長先生は、園長室に設置されていたモニターを四つん這いの
律子にも見えるように移動させていた。

 モニターは一台ではない。今、学園の中で何が行われているか
が瞬時に把握できるように、園長室では10台以上のモニターに
学園のあらゆる場所が映し出されていた。

 「あらあら、あなたのおかげてお友だちがみんな今日二回目の
テストを受けてるわ」

 「……私は……」

 「わかってる。あなたはあれは亜紀ちゃんの為にやっただけで
他の子のことは知らないって言いたいんでしょう」

 そして、園長先生はこう付け加える。
 「人間は安易な方法が見つかるとそれに流れるものなの。……
あなたにそのつもりがなくても、こういう事になるわ」

 「私はそんなことまで……」
 律子はそこまで言って口をつぐむ。

 「そんなことまで考えてなかった?でも、意図していなくても
起こった結果には責任を取らなきゃならないわ……それが大人に
なるということなの」

 「私は……ただ……亜紀ちゃんがそれで助かるならと思って……」

 「親切心が裏目に出たってことかしら?……今回は、あなたが
自分の為にカンニングしたわけじゃないけど、罪としては決して
軽くないよ。それと、何よりよくないのは私が最初にカンニング
ペーパーの出所を尋ねた時、あなたが素直に白状しなかったこと。
これが今回の一番の罪だわね」

 「ごめんなさい先生。……私、勇気がなくて……」

 「犯した自分の罪を素直に認めるのは勇気のいることだけど、
ここではあえてそれを求めるの。それはあなた達をこうして援助
してくださるお父様方が、高い学力より天使のような無垢な子で
あって欲しいと願っておられるから。その願いは私たちも同じ。
幼い頃、先生たちとかわした『嘘をつきません』というお約束は
あなたがここの生徒である限り絶対のお約束。知ってるわよね」

 「はい、先生」

 「じゃあ、先生に嘘をつかないというお約束を守れない子は、
理由のいかんを問わず辱めのお仕置きを受けなければならない。
この規則も知ってるでしょう?」

 「はい、先生」

 「よろしい。納得できたんなら、もう、お浣腸はいいわ。木村
に手伝ってもらって、カーテンの向こうで着替えなさい。それが
終わったら、ここへ戻ってケインで一ダース。それで、終わりに
しましょう」

 「えっ、ケイン?……あっ、……は、はい」
 律子ちゃんは明らかに動揺していた。

 ケイン一ダースは女の子としては厳しい罰。女の子の場合は、
通常はトォーズと呼ばれる革紐鞭が多かったからだ。

 「どうしたの?……不満?……これでもあなたのことを考えて
お仕置きは精一杯軽くしたつもりだけど、いやだったら別の罰を
考えなきゃいけないわね」

 「あっ、……い、いいえ……そんな……ありがとうございます」

 律子は慌てたどたどしく消え入りそうな声になる。
 もともと絶対君主の命令を拒否するなんて一介の生徒にはでき
なかった。

 園長先生は律子に一応の区切りをつけると、それまで注目して
こなかったマリア様の肖像が掛かった壁の方を見る。

 そこにはテーブルに乗る少女と比べるといくらか華奢な体つき
の女の子が二人、白い丸首シャツにブルマー姿で膝まづいていた。

 「マコちゃん、リサちゃん、お待たせ……さて、あなたたちは
反省できたかしら」

 園長先生に水を向けられて、二人は思わず顔を見合わせたが、
結局、声がでない。

 二人は小学五年生。小学生は中学生と比べても身体が小さくて
華奢だ。だから、こんな部屋に連れ込まれ大人に見下ろされると
たいていこんな事を思う。

 『怖い。オシッコちびりそう』
 二人は頭の中で同じ事を思っていた。

 律子もそうだが、二人もここで新参者ではない。赤ん坊の頃に
この修道院に引き取られ、以来ずっとシスターたちと一緒に暮ら
している。お姉ちゃん達が通う学校も入学前から出入りしていて
校庭は自宅のお庭の一部。学校の先生が親代わりになって遊んで
くれることもしばしばで、おばあちゃん先生とも普段ならため口
がきけるほど仲がよかった。

 ただ、子供たちに評判の悪いお仕置き部屋へ二人が連れて来ら
れたのは今回が初めてだし、園長先生のこんな怖い顔も初めて。
そのあまりの恐怖に二人とも声が出なくなっていた。

 「時の経つのは早いものね。つい最近まで私はあなたたちの事
を『可愛い赤ちゃん』『元気な赤ちゃん』とばかり思ったけど、
気がつけばあなたたちもすでに11歳。そろそろ赤ちゃんを卒業
させてあげて分別というものを身につけてもらわないといけない
年頃になってる。……今日は、それでここへご招待したの。……
驚いた?」

 「…………」
 「…………」
 二人は無言のまま頷く。それが今の二人に出来る精一杯だった。

 「ここはガールをレディへと創りかえる舞台裏。男の子もそう
だけど、女の子も単に歳を重ねればレディというわけではないの。
お姉様らしい気品や立ち居振る舞いは汗と涙、努力と試練を重ね
て身に着くもの。ここはその訓練の場所なのよ」

 「…………」
 「…………」
 二人はあらためて部屋の中を見回す。
 シャンデリアの輝くこの部屋は一見すると豪華だが、窓もなく
背の高い本棚が防音壁となって悲鳴をあげてもその声が容易には
外へ漏れそうにない。そんな圧迫感が二人を不安にしていた。

 「……目をぱちくりさせて……ビックリした?……正直ね。でも、
その正直でいることが、ここでは何より一番大切なことなのよ。
女の子は、自分を守ろうとして男の子より簡単に嘘をつくけど、
一つ嘘をついてしまうと、それを隠そうとして、次から次に嘘を
つかなければならなくなっていき、やがて自分のついた嘘を必死
に真実だと思い込もうとする。女の子にはよくあるパターンよ」

 「…………」
 「…………」
 二人は生唾を飲んだ。
 この二人にしても経験のない話ではなかったのだ。

 「そうやってあがいてみても、嘘が真実に変わることはないわ。
実際そうやって身を滅ぼした子が何人もいるの。私たちにしても、
そうした子にはたくさんお仕置きしなければならないし、お互い
何一つ徳になることはないのよ」

 「…………」
 「…………」
 二人の顔が青ざめる。

 「オシオキ……」
 マコちゃんが蚊のなくような小さな声でつぶやいた。
 この言葉が重いのはリサちゃんも同じだ。

 「あなたたちも立派なレディになるまでにはこういった部屋で
痛い思いや恥ずかしい思いをたくさん経験することになるわね。
でも、それもこれも、あなたたちのため。それにみんなに愛され
ている子に試練は少ないわ」

 「ホントに?」
 リサちゃんが不思議そうに尋ねた。

 「本当よ。……ここでは『清楚』で『勤勉』で『従順』な子が
愛されるの。生活にだらしのない子や怠け者、我ままばかり言う
子は嫌われるわ。学校で習ったでしょう」

 「はい」

 「中でも最も大事なことは、他人にも自分にも嘘をつかないと。
ここでは正直にさえしていれば恐れる事は何もないわ。お友だち
や先生、お姉様、周りにいる誰もが救いの手が差し伸べてくれる
から心配ないの。女の子はそれを大事にしなきゃ」

 おばあちゃん先生は中腰になってリサちゃんの頭を両手で持つ
と、頭と頭をコッツンコさせた。
 そして、こう続ける。

 「本当よ。ところが、大きくなるにつれて守りたいものが沢山
増えちゃうから、そういう勇気がなかなか出なくなっちゃって、
その結果、ああして恥ずかしい罰をたくさん受けるはめになるの。
……嫌よね、ああいうの」

 おばあちゃん先生の振り向く先に、今まで律子が頑張っていた
テーブルがある。その先、カーテンが引かれた向こう側では……
恥ずかしい音やすすり泣く律子の声が……

 二人がそれを映像としてそれを見る事はなかったが、カーテン
越しでも恐怖は十分に伝わってきていた。

 「お姉ちゃま、嘘をついたんですか?」

 園長先生は、再び幼い二人の方を振り返ると……

 「そうなの。最初は、『私、カンニングなんかしてません!』
って頑張っちゃったの。こちらは調べがついてるから訊いてるの
に……あなたたちだってあんなことするの嫌でしょう?」

 「…………」
 「…………」
 二人は即座に首を縦にする。

 「お浣腸って恥ずかしいし苦しいものね。嫌に決まったるわよ
ね」
 園長先生は静かに微笑むと自らその場に膝まづいて二人を一人
ずつ抱きしめた。

 リサちゃんをひとしきり抱きしめてから、次はマコちゃん……
 これは二人への最後通牒だった。

 「……よし、それじゃあ尋ねるけど、お二人さんは今日は何が
あってここへ行きなさいって秋山先生に言われたの?」

 「それは……」
 「え~~~っと……」
 二人はやはり口が重かったが……

 園長先生が念を押す。
 「リサちゃん、マコちゃん、ここでは嘘をつく子はいらないの」

 先生は事の顛末を知っていたが、あくまで二人の口からそれを
聞きたかったのだ。

 大きなプレッシャーが圧し掛かるなか、リサちゃんがやっとの
ことで口を開く。
 「お掃除の時間にマコちゃんが…『食堂の机を並べて、そこで
かけっこしない』って言うから……私、仕方なく……その……」

 すると、すぐにマコちゃんの反論が返って来た。
 「嘘だね、それリサちゃんが最初に言い出したんでしょう」

 「私は、ここ(食堂)で走ろうなんていってません。ここでも
できるねって言っただけじゃない」

 「嘘よ!リサちゃんが教室よりここ(食堂)の方が長く走れる
からここでやろうって……」
 二人はお互いの肩をぶつけ合う。

 しかし、園長先生にとってそんなことはどうでもよかった。
 「で、机を並べ替えて走路にしたのは誰なの?…リサちゃん?
マリちゃん?」

 「それは……二人で……」
 「自分の走る分は自分で作ったから……」

 「そう、あんな広いお部屋の端から端までに机を並べるのって
大変だったんじゃない?……でも、楽しかったんでしょう?」

 「…………」
 「…………」
 二人は小さく首をこっくり。

 「そりゃあ楽しいわよ。お友だちもたくさん応援してくれてた
みたいだし……食堂のおばちゃんも『急に運動会が始まったから
びっくりした』っておっしゃってたわ」

 「始めは、机を三つだけ並べて石飛するつもりだったんだけど
……リサちゃんが、もっと長くしてかけっこした方が面白いって
言うから……机を全部並べることになっちゃって……」
 マリちゃんはちょっぴり不満そうに反論したが……

 「どちらが最初に思いついたかなんて関係ありません。だって、
最後は二人して机を並べて走路にしたんだもの。この期に及んで
相手が悪いなんて言えないわ」

 「…………」
 「…………」
 二人はシュンとなった。

 「私がいけないって言ってるのはみんなで食事をするテーブル
に上履きのまま上がることです。あなたたちそんなことして汚い
とは思わなかったの。それに、不安定な机の上を走ったりしたら
危ないでしょう。足を踏み外して落ちたりしら、たとえ机の上の
高さからでも大怪我になるところよ。食堂は体育館じゃないの」

 「ごめんなさい」
 「ごめんなさい」
 二人は殊勝な顔でうな垂れる。

 「ほら、見て御覧なさい」
 園長先生はモニターの映像を切り替え、今の食堂の様子を映し
出す。

 「ほら、あなたたちが土足で踏み荒らしたテーブルをお友だち
がお掃除してる。……これって、誰のせいでこうなったの?」

 「…………わたしたちです」
 「…………ごめんなさい」

 「本来なら、あなたたちが首謀者ですからね、率先してお掃除
に参加してもらうところだけど、今日はもっと大事なレッスンが
必要だと思って……それで、今日はこちらに来てもらったのよ。
……どういうことだか、わかるわね。ここに来たのが何の為か?」

 再び、おばあちゃん先生の黒い影が二人の顔に圧し掛かる。

 「はい」
 「はい」

 「何の為だか…わかるかしら?」

 「お仕置きですか?」
 リサちゃんだけが勇気を振り絞って答えたが思いはマリちゃん
も同じだった。
 二人はお仕置きを覚悟していたのである。

 「わかってるなら、それで結構よ」

 「…………」
 「…………」
 二人は先生の鋭い視線に耐え切れず視線を床に落としてしまう。

 「ただ、あなたたちの場合は、まだ小学生だから、鞭でお尻を
叩くお仕置きだけは免除してあげるけど……」

 「えっ、お仕置きしないの?」
 マコちゃんが、思わず視線を上げふっと息をつく。
 「帰っていいの?」
 リサちゃんも目が輝いた。

 「いいわよ。お仕置きが済んだら……」

 「えっ?だってお仕置きはしないって……」

 「そんなこと言った?私は鞭を使ったお仕置きは許してあげる
って言っただけよ。お仕置きはしませんなんて言ってませんよ」

 やっと二人の顔に血の気が戻ったのもつかの間、またシュンと
して下を向いてしまう。

 「ぶったり叩いたりはしませんよ。ただし、一つだけ、あなた
たちには大事なお仕事があるわ」

 「どんなこと?」

 「これから、ここで律子お姉様のお仕置きがあるんだけど……
それをここで見届けてほしいの」

 「えっ……お姉様のお仕置きを……」
 「……それって……見るだけ?」

 「そうよ、見るだけでいいわ。辛いお仕置きを事前に見学して
おけば、あなたたちがこれからオイタがしたくなったとき、思い
とどまるきっかけになるかもしれないでしょう。あなた達だって
中学生になれば、このくらいのお仕置き、ないとはいえないのよ」

 「他山の石とか……」
 「見せしめ?」

 「あら、マコちゃんもリサちゃんも難しい言葉知ってるわね。
その通りよ。律子お姉様だって、先生の前だけでお尻出すのと、
後輩に見られながらお仕置きを受けるのでは心に残るものが違う
んじゃないかしら。より深く反省ができた方が先生も助かるから
これは一石二鳥ね」

 「…………」
 「…………」
 二人にはおばあちゃん先生の笑顔が怖かった。

 そうこうしているうちにカーテンが引かれる。
 現れたのは紺の制服姿をピシッと身につけ、こわいほどの顔で
園長先生を見据える凛とした律子お姉様の姿。
 そこには、先ほどまでオマルにしゃがみ込み、涙を拭い鼻水を
すすりながら泣いていた姿はなかった。

 「園長先生、ありがとうございました」

 律子はこの修道院の作法にのっとって園長先生の前に膝まづき
両手を胸の前に組んで挨拶する。
 それは気品さえ感じさせる姿だった。

 それもそのはずでここで暮らす子供たちは単なる孤児ではない。
世間によくある、親の虐待や経済的に困窮したために施設に預け
られたという孤児たちとは少し事情が異なっていた。
 
 実は、ここの先生方、この子たちの親の素性をご存知なのだ。
しかもその名は、この教団の中にあっては『幹部』と呼ばれる人
ばかり。そんなお偉いさんたちが不義を犯してつくってしまった
のがこの子たちであった。

 堕胎を禁じる教義のもと、産んではみても育てられないわけで、
結局、同じ教団内の修道院で秘密裏に育ててもらうことになる。

 『教会の子供たち』と呼ばれるこの子たちには、当然、親から
養育料が支払われているから経済的には困らない。しかも、将来
ひょっとしたこの教団の幹部になることもありえるわけで、それ
なりの教養や躾も叩き込まれる。但し、人目については困るので、
生活のほとんどが修道院の中という超かごの鳥生活だった。

 「あなたも、中学生になって、少しは女らしく振舞えるように
なりましたね」

 園長先生は律子を褒めると、すぐにマリア様の額が掛かった壁
を向く。
 そして、幼い二人にこう命じたのだった。

 「あなたたち、あなた達もお姉様のお仕置きを見学させていた
だくんだったら、そのままの姿では失礼よ。ブルマーとショーツ
は脱いで見学しなさい」

 おばあちゃん先生の言葉は寝耳に水、青天の霹靂だった。

 『ブルマーとショーツってどういうことよ』
 『どうして私たちまでそんな恥ずかしいことしなきゃならない
のよ』
 二人の頭は混乱する。
 でも、これは園長先生の命令。無視も拒否も出来なかった。

 「…………」
 「…………」
 お互い、顔を見合わせ、両手でそうっとブルマーに手はかけた
ものの、そこから先が進まない。
 結局、ブルマーは下がらなかった。

 すると、園長先生が……
 「何してるの。早くなさい。あなたたちは、ここにお客さんで
来てるんじゃなないのよ。お姉様と同じようにお仕置きで来てる
じゃないの。お姉様のお仕置きをパンツを穿いて見るなんて失礼
よ」

 先生の言葉が真上から降ってきて二人は身が縮む。
 でも、だからって『はい、わかりました』とはならなかった。

 小学生といってもそこは女の子、恥ずかしいのだ。

 そんな乙女の気持を見透かすかのように、暗黒の大王が降りて
くる。

 彼女は二人の前で中腰になると……
 「何、愚図ぐすしてるの!…恥ずかしいの?…いいでしょう!
まわりは女性ばかりなんだから」

 たったこれだけ言う間に二人のブルマーとショーツを下ろして
しまう。

 「お仕置き部屋では先生の命令はすぐに従わなきゃ。お仕置き
が追加されてしまうわよ」

 『恥ずかしい』
 『死にそう』
 二人は頭の中ではぼやきながらも、先生に言われることなく、
胸の前で両手を組む。

 『とにかく、反省のポーズをとらなきゃ』
 『今度は本当にお尻をぶたれちゃうよ』

 二人が怯えるなか、先生は……
 「いい心掛けね。その姿勢でお姉様が美しい心を取り戻すのを
見ていなさい。その間は『お姉様が美しい心を取り戻せますよう
に』って、マリア様にお願いするの……いいですね」

 「はい、先生」
 「はい、先生」
 二人は反射的に声を揃えた。

 「さて、律子ちゃん。妹二人が、あなたのお仕置きを応援して
くれるそうよ。頑張らなくちゃね」
 先生は身体の向きをテーブルに戻すと、まだ何の準備もできて
いない律子ちゃんの顔を見て笑う。

 『夢なら早く醒めてよ~~』
 律子は心の中で叫んだ。

 あまりにも絶望的な状況になると、今、起こっている出来事が
まるで夢をみているように感じられて現実感がなくなってしまう
もの。
 でも、これは悲しい現実。律子ちゃんは、これから恥ずかしく
て痛いお仕置きを覚悟しなければならなかった。

 律子ちゃんは腰枕と呼ばれるクッションにお臍の辺りを乗せて
うつ伏せになると、テーブルの角を両手でしっかり握る。
 ガマ蛙が車に引かれたようにペッチャンコで、お尻だけが高い
無様な姿勢。でも、これが鞭のお仕置きの際に生徒が取らされる
姿勢だった。

 準備はこれだけではない。
 木村さんによってスカートが捲り上げられ、ショーツが下げら
れる。周囲が女子ばかりだから遠慮がないけど、お尻にスースー
風の当たる律子はやはり恥ずかしかった。

 「さあ、行きますよ。よ~~く歯を喰いしばっていないと舌を
噛みますからね」
 園長先生の声。

 最初はケインの先端がお尻のお山を撫で回すだけだったが……
そのうちそれがお尻を離れたと感じると、いきなり衝撃が走った。

 「ピシッ!!」①

 律子ちゃんの両手が思わず全力で机の角を握る。
 その瞬間はヒキ蛙の身体全体に電気が走っていた。

 「いやあ~~痛い」
 大きな声。肩を震わせ、肩まで伸びたストレートヘアが揺れる。
 本当は腰から下も揺らしたかったが、鞭は初心者ということも
あって念のため木村さんが腰を押さえていた。

 「だらしがないわね。このくらいのことで悲鳴をあげて……」

 園長先生は冷淡に言い放つ。
 実際、鞭のお仕置きと言うのは慣れているかどうかで受ける側
の感覚が随分違う。もし、これが幼い頃から親や教師にケインを
当てられていた子だったら悲鳴はおろか呼吸一つ変わらなかった
に違いない。
 先生はその程度でぶったのだ。

 「さあ、次」

 その言葉から10秒ほどあいて……
 「ピシッ」②

 「ひい~~~」
 園長先生にだらしがないと言われて必死に頑張ったから身体を
動かさず泣き言は言わなかったが、お尻が痛いという現実は同じ。
 自然と涙がこぼれる。

 「できるじゃない。このくらい誰でも耐えられるのよ。レディ
はこのくらいのことでジタバタしてはいけないの。恥の上塗りで
しょう。女の子は今自分がどのよう見られているかに細心の注意
を払わなきゃいけないの。……分かったかしら?」

 「はい、先生」
 律子ちゃんはこうしか言えなかった。
 反論なんて出来なかったのだ。

 「さあ、もう一つ。いきますよ」

 再び10秒後……
 「ピシッ」③

 「ひぃ~~~いやあ」
 出すつもりのない声が出る。

 「ふぅ」

 園長先生は一つため息をつくと……
 「…無様ね。そんなことではあなたを中学生と認めるわけには
いかないわね。心がまだ子供なら子供としてしか扱えないわね」

 こう言ってすでに三つの赤い筋が出来ていた律子ちゃんのお尻
へ顔を近づけていくと、何も言わず、少女の太股を……

 「あっ!!……」
 もちろん、律子ちゃんは自分が何をされたか分かったが、悲鳴
も上げなかったし押し開かれた太股も元に戻さなかった。

 そんな律子ちゃんに園長先生はきつい一言。
 「子どものあなたが隠す必要ないでしょう」

 そして……
 「さあ、もう一つ」

 「ピシッ」④

 「ひいっ~~」
 声は出来るだけ絞ったが、肩も頭も大きく揺れる。ついでに、
女の子の恥ずかしい場所も……

 中一の体ではそれはまだ子供のそれにも近かったが、スースー
する場所が恥ずかしいことに変わりはなかった。
 そこを風が通り抜けた瞬間、律子ちゃんの顔が真っ赤になった。

 「恥ずかしい?」

 「は……はい」
 先生の質問に素直に答えると……

 「恥ずかしいのもお仕置きよ。我慢しなくちゃね。できる?」

 「はい」

 「よろしい。では足を閉じないようにしなさいね。閉じたら、
鞭の回数を増やします。いいですね」

 「はい」

 「よろしい、ご返事は合格。では次、いきますよ」

 「ピシッ」⑤

 「あっっっっっっ」

 それは今まで以上にお尻に応えた。
 でも律子は我慢する。わずかな時間でも園長先生とのやり取り
が彼女の支えになっていた。これが無言のまま、太股を開かせ、
ケインで打ち据えていたら律子は大暴れしていたかもしれない。

 「お股が涼しいでしょう。でも、ここで暮らした子どもたちは
全員、こんな恥ずかしい格好をしてきたの。一回だけじゃなく、
何回も……」

 「私も、またぶたれるんですか?」

 「それはあなた次第。ここでは、怠けたり、規則をやぶったり、
お友だちを傷つけたりしない限り、お尻をぶったりしないもの。
あなたは優等生だから、こんな経験、今日が初めてなんでしょう
けど、多くの子はもう2~3回はここを訪れてるのよ」

 「えっ……でも、聞いたこと……」
 
 「口止めされてるからよ。ここであった事は絶対に外で話して
はいけないの。ただ、女の子っておしゃべり好きでしょう。話題
に困ると、ついついお友だちにおしゃべりしてしまうみたいね。
でも、そんなことが先生にバレちゃうと、ここへ連れ戻されて、
それこそ、これまで一度も経験したことのないようなお仕置きを
受けるはめになるわ」

 「オシオキ?……それって、どんなお仕置きなんですか?」

 「それは、あなたもお友だちにこの部屋でこんな事があったよ
っておしゃべりしてみれば分かるわ」

 「……」

 「さすが優等生ね、こんな姿でもお仕置きことが知りたいんだ」

 「そういうわけじゃ……」

 「つい、おしゃべりがながくなったわね。さあ、次、いくわよ」

 「ピシッ」⑥
 「ヒィ~~~~」
 そのあまりの勢いに律子の両目が思わず飛び出す。

 「痛い~~~」
 律子の小さな声も拾われ……
 「ほらほら、愚痴を言わないの。鞭のお仕置きは一発一発噛み
締めて反省しなきゃ」

 「はい」

 「さあ、次」

 「ピシッ」⑦
 「あああああああ」

 律子は地団太を踏む。痛みを逃がそうとして腰を激しく振った。
その中では自ら両足を開いてしまうことも。
 見学する妹たちにも自分の大事な処が丸見えになったが、今は
そんなこと言っていられなかった。

 「ピシッ」⑧
 「いやあ~~やめて~~~」

 「ピシッ」⑨
 「もうしませ~~んから~~」

 「ピシッ」⑩
 「いやあ~~痛い、痛い、だめだめ」

 それから先の律子は半狂乱。自分でもどうやって鞭のお仕置き
を終わらせたのか、覚えていないくらいだった。

 「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ」
 荒い息が止まらないまま園長先生の声を聞く。

 「よく頑張ったわね。もう、おしまいよ」
 園長先生がねぎらうと……

 「いいんですか?あと二つでしょう?一ダースだから……」
 律子は最初そう言ってテーブルを離れなかった。

 「あら、あなた、意外にしっかりしてるのね。ほかの子なら、
そんなの無視して『もうかった』と思ってテーブルを降りるのに
……さすがは級長さんね」
 園長先生は律子の耳元までやって来て微笑む。

 「そんなこと……」
 園長先生の吐息が掛かるなか、律子は思わず頬を赤く染めた。

 「二つはおまけ。あなたが健気にお仕置きに向き合ってくれた
ことへの特別のご褒美よ。さあ、もういいわよ。起きて」

 今の律子は下半身が丸裸。自分の恥ずかしい場所ができる限り
見えないように慎重に身体をよじり、ショーツを上げスカートを
調えてテーブルを降りたのだが……
 あたりを見回すと、周囲ではちょっとした事件が起きていた。

 前にも話したが、先生の命で律子が受けていた厳しいお仕置き
を、マリちゃんとリサちゃんが並んで見ていたのだが……

 その時よほど怖かったのだろう、リサちゃんの方が、その場で
お漏らしを始めてしまったのだ。

 こんな厳しいお仕置きのある学校では幼い子のお漏らしなんて
珍しくない。先生も落ち着いたもので、律子ちゃんにさえ気づか
れないまま、新しいショーツが与えられたリサちゃんは部屋の隅
で正座してべそをかいていた。

 律子はその場面を直接見ていないが、その痕跡は絨毯のシミと
なって残っている。それを見ただけで一目瞭然。何が起こったか、
すぐに理解できたのである。

 さらにそのシミの脇、友だちの粗相と同居させられて迷惑そう
な顔をするマリちゃんと目があった。

 「…………」

 お仕置きを受けた者同士、言葉はかけないものの気持は通じて
いたらしく、律子が笑うとマリも同じように笑って返すのだ。

 ほどなく園長先生が二人の前に現れると……
 二人をマリア様が描かれた肖像画の下に並ばせ、膝まづかせる。

 ここでも二人はショーツを下ろして両手を胸の前で組むことに。
でも、これはこの教団の教義ではハレンチなことでも何でもなか
った。無垢な身体に穢れは宿らないと信じられていたのだ。

 「マリア様、もう二度と悪さはいたしません。これから先も、
どうかマリア様のご加護が得られますように」
 「マリア様、もう二度と悪さはいたしません。これから先も、
どうかマリア様のご加護が得られますように」

 二人はこの姿勢のまま懺悔する。

 懺悔が終わって、おばあちゃん先生が最後に注意したことは、
二人にとってとても大事なことだった。

 「ここで起こったことは決してお友だちに話してはいけません。
もし、あなたたちがお友だちに話せば、今度はあなたたちがあの
テーブルでうつ伏せになるの。そんなの嫌でしょう」

 「はい、先生」
 「はい、先生」

 「よろしい、分かったのならそれでいいわ。ショーツを上げて
帰りなさい」

 園長先生の言葉に二人は大喜び。
 さっそく立ち上がると駆け出すついでにショーツを引き上げた。

 「この部屋でのこと、決してよそで話しちゃだめよ」

 園長先生は駆け出す二人の背中めがけて叫んだが、はたして、
その声は少女たちの耳に届いただろうか。
 二人の少女は、園長室の開かれた扉の向こうで待つ多くのお友
だちの波の中へと消えていった。

 *****************<了>****

Appendix

このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

最新記事

カテゴリ

FC2カウンター

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR