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美国園 <2> 身体検査

<2> 身体検査

 ~ 中一グループ ~
 進藤佳苗(しんどう・かなえ)
 松倉亜美(まつくら・あみ)
 三井由香里(みつい・ゆかり)
 吉田恵子(よしだ・けいこ)
 木島弥生(きじま・やよい)

 ~ 小四グループ ~
 広瀬里香(ひろせ・りか)
 朝比奈愛美(あさひな・えみ)
 須藤美佐江(すどう・みさえ)
 小西聡子(こにし・さとこ)
 新村真紀(にいむら・まき)

 ~ 修道院のシスターたち ~
エリザベス・サトウ<院長先生>
 小林・樹理(こばやし・じゅり)<鞭・担当>
湯浅・良子(ゆあさ・りょうこ)<浣腸・担当>
 日下部・秀子(くさかべ・ひでこ)<お灸・担当>

#####################

 ガイダンスは、その後、この場を取り仕切る主任シスターが、
部屋割りだったり、一日の大まかな日課だったりを説明して終了
するが、少女たちがこれでこの講堂から開放されるわけではない。

 一度、このサマースクールに参加した子なら知ってることだが、
彼女たちはこれから身体検査を受けなければならなかった。

 「何よ、私たち、まだここにいなきゃいけないわけ?」
 弥生がこの中では唯一の経験者である佳苗に小声で訪ねる。

 「これから身体検査があるの。部屋を案内されるのはその後よ」
 佳苗はさらに小さな声。
 その声に他の子たちも聞き耳を立てている。

 中一の生徒は全部で五人。中学生といってもつい数ヶ月前まで
は小学生だったわけで、心の中は全員まだ小学生の方に近かった。

 「ねえ、身体検査って、どんなことするの?」
 恵子き佳苗に尋ねたが……

 「ばかねえ、あんたの学校は、身体検査ってやらなかったの。
身長とか体重なんかはかったりするやつじゃないの」
 答えたのは由香里だった。

 ところが、経験者の佳苗が、それにため息交じりで異を唱える。
 「普通はそうだけど、ここのはそんな生易しいものじゃないの」

 「えっ!違うの!」
 思わず亜美まで……。

 すると、それまで我慢して聞いていたシスターも、役目柄、雀
たちにものを言わなければならなくなる。

 「おかしいわね、この辺で何か人の声がしたようだけど、気の
せいかしら?」

 近づいてきたシスターに五人組は思わず顔を伏せた。
 そりゃそうだろう、五人まとめて前の舞台に引きずり出されて
お尻をぶたれたら、そりゃあたまったものではない。

 「身体検査は身体検査。あなた方をぶったり叩いたりはしない
から安心なさい。今しがた四年生の子たちが始めたところだけど、
あなたたちの番まで少し時間があるから、その間はこれをやって
なさい」

 シスターは、子供たちに薄いレジュメとノート、シャーペン、
消しゴムなどを配り始める。

 「これは何ですか?」
 亜美が思わず口走ってしまい、それで一瞬にして顔を青くする。
 彼女、一言二言口走っただけでお尻を叩かれた子を思い出した
のだ。

 しかし、今度はシスターがそれを見て微笑んだだけ。過激な事
は何も起こらなかった。

 「いいこと、このレジュメの中には聖書の一節が書かれてるの。
これをこちらのノートに心を込めて清書して欲しいの。どのみち
これはあなた方の日課の一つだから毎日やらされることだけど、
今日は手が空いてるから、ここでやってしまいましょう」

 「はい、先生」
 子供たちは五人とも素直に命じられた仕事に取り掛かる。
 こうしてみる限り、この子達が不良娘とはとても思えなかった。

 「字は綺麗にこしたことはないけど、とにかく丁寧に書くこと
が大事よ。乱雑に書かれたノートを提出してもやり直しさせます
からね」
 シスターはそう言って立ち去ってくれた。


 五人は当初こそ真面目にやっていたが、それがそうは長く続く
はずもない。気にしないつもりでいても、どうしても、目の前の
身体検査が気になってしまうのだ。

 というのも、その身体検査というのが自分たちの学校でやって
いるのとは随分と様子が違うからだった。


 身体検査は、各学年ごとにステージへ上がり、他の学年の子は
自分たちの席でバイブルの一節を清書して時を過ごす。

 もちろん、場内は私語厳禁だから観客席は静寂のまま。でも、
それだけに舞台上でのやりとりは遠くの席までもはっきりと聞き
取れる。

 いくら見るな聞くなと言われてもそれは無理。
 むしろ、身体検査の様子をほかの子にも見せたいと思っている
としか考えられない舞台設定だったのである。


 最初は小学四年生のグループ。
 ここに招待された中ではもっとも年下の子たちだ。

 この五人組、係のシスターから背中を押されるようにして舞台
に上がると、院長先生を始めとしてこの修道院のお偉いさんたち
が居並ぶ細長いテーブルの前で、まずは自己紹介しなければなら
ない。

 オーディション会場というか面接会場というか、そんな雰囲気
の中での自己紹介。幼い子にしてみれば、罪など犯さなくても、
間近に大人たちの顔を見ただけで今にも舞い上がってしまいそう
な、そんなスチュエーションでの自己紹介だったのである。

 「(えっ)……広瀬……里香……(えっ)四年生です。学校は
……(えっ)桃園第二小学校」

 里香はこの舞台に上がってきた時から、すでに嗚咽ばかりして
いた。そう、泣いていたのである。
 それはこの場の雰囲気から仕方のないことに思われたのだが…。

 「里香ちゃん、泣くのはもうやめましょう。みっともないわよ」
 院長先生は背筋を伸ばして毅然と言い放つ。

 そして、次の瞬間……
 「いやあ!!」

 一人のシスターが彼女の白いワンピの裾を捲りあげて上半身を
前屈させる。言わずと知れたお尻叩きのポーズ。
 里香は、てっきりお尻をぶたれると思って驚いたのだった。

 ただ、シスターの動きはここまで。里香がお尻をぶたれること
はなかったのである。

 「里香ちゃん、あなたお芝居がとっても上手だけど児童劇団に
でも所属してるの?」

 「いいえ」
 里香の顔が少し怖い。

 「あなたの嘘泣きはとっても上手だけど、ここでは通用しない
わよ。本当に泣いてる時って、お尻を捲られてもあんなに素早く
反応しないものなの。あなたがあんなに素早いのは、泣きながら
こちらの様子を窺ってるから……つまり、嘘泣き。……違う?」

 「えっ!」
 里香の顔が青くなる。

 「きっと、お父様にはそれでうまくいっていたのね。あなたの
お父様は心の広いお方だからあなたの涙を受け入れてくださった
んだと思うけど、私たちは子どもたちをお仕置きするのが仕事だ
もの。嘘泣きなんかに振り回されてる暇はないのよ」

 この言葉は、観客席に座る他の子の心にも同じように響いたと
みえて、それまで泣いていた子もぴったりと泣きやんでしまった
のだった。

 「朝比奈愛美、城南大付属小学校四年生です」

 「須藤美佐江、セントメリー小学校四年生です」

 「小西聡子、西町小学校四年生です」

 「新村真紀、新港小学校四年生です」

 五人のお偉いさんたちの前に並んだ五人の子供たち。彼女達が
簡単な自己紹介をする。それを大人たちは真剣な眼差しで見ていた。

 こんな情報、手元の資料を見ればすむ話であえて自己紹介など
させる必要はない。それをあえてやさせるのは、その子の個性を
事前に知っておくため。

 彼らはいわばお仕置きのプロ。こんなにも些細な情報からでも
その子の人となりを、かなり正確に知ることができたのである。

 それが確認できたところで、再び院長先生が口を開いた。

 「さて、それではこれから身体検査を行いますが、ここからは
今までのような特別扱いはしませんからね」

 「?」
 院長先生の言葉にそれを聞いていた舞台の五人、観客席で聖書
の一節を写している子供たち、そのほとんどが「?」と思った。

 というのも、これまでここで一度も特別扱いなんてされた事が
ない思ったからだ。

 すると……
 「他の学校では身体検査だからと言って裸になることはないと
思いますが、ここでは服を全て脱いでから測定します。あなた方
も今からはここの生徒になるのですから、これからはここの流儀
に従って行動してもらいます。……いいですね?」

 「……………………」

 「ご返事が聞こえませんけど、お口が故障中ならお尻に尋ねて
もいいのよ」

 「えっ……いやだ」
 「だめ……そんなの」
 「ごめんなさい」
 「わかりました」
 「先生のお言いつけに従います」

 「そう、お口は故障してなかったのね。わかりました。では、
まず、そのワンピースから脱ぎなさい。次に、ブラもショーツも
取り去るのです」

 「……………………」
 五人とも院長先生の言葉の意味は理解していた。要するに全裸
になりなさいと言われているのだ。

 しかし、理解はしていたけど、それをすぐに実行できるのか、
というと……。

 そこで、院長先生が……
 「どうしたの?恥ずかしい?」
 と尋ねてみると……五人は正直に頷いてみせた。

 「でも、ココでの身体検査はあなた方の学校で普段やっている
ものより項目が多くて時間がかかるのよ。そのたびに、いちいち
脱ぎ着している暇はないわ。……あら、里香さん。何かしら?」

 里香が恐る恐る手を上げたので院長先生は質問を許した。
 ここでは勝手に口をきくことはできないが、こうやって事前に
手を上げれば目上の人も質問を許可してくれるルールだったのだ。

 「どんな処、計るんですか?」

 「身長や体重、胸囲はもちろんだけど、ここでは乳輪や乳首の
大きさ、それにオシッコの出口や肛門、赤ちゃんが出てくる穴も
事前にちゃんと計っておくのよ」

 院長先生はさらりと言ってのけるが、それって舞台に上がった
チビちゃんでなくても大問題だった。いや、むしろ年長者の方が
それって深刻だったに違いない。

 「ねえ、あれ、……マジじゃないよね」
 清書中の由香里が回りに聞こえないよう小声でそうっと佳苗に
尋ねてみると……答えはあっさりだった。

 「私たちもよ。ここに呼ばれた子は全員、身体に開いてる穴と
いう穴は全部調べられるの。写真だって撮られるわ」

 「写真??……嘘でしょう」
 鳥肌のたつ思いは由香里だけではない。佳苗の答えが聞こえた
周囲の子たち全員が卒倒しそうなほどのショックを受けたのだ。

 佳苗は続ける。
 「院長先生のおっしゃる通りよ。このくらいのこと、ここでは
どうってことないわ。だって、これは自分のサイズを測られてる
だけで痛くも痒くもないんだから。……恥ずかしいなんてすぐに
慣れるわよ。だって、ここは周りじゅうみんな女子だけだもん」

 佳苗は中一グループでは唯一の経験者。昨年初めてここへ連れ
て来られた時は何をするにも怯えていたようだったが、二年目に
なる今年は、どこか達観したようなところを友だちに見せ付けて
余裕の表情をしているのだった。


 一方、舞台の上では院長先生が佳苗と同じようなことを言って
いた。
 「そう、そう、写真も36枚くらい撮るわよ。その一枚一枚で
いちいち脱ぎ着していたら時間だけかかって仕方がないもの。…
…でも、いいでしょう。ここは女の子だけの世界なんだし、恥ず
かしくなんてないはずよ」

 『恥ずかしくないって……私たちだって恥ずかしいわよ!!』
 里香は思うが……それを押さえて、院長先生にはこう尋ねた。

 「あのう……そんなに沢山の場所を計るって……大事なこと…
なんですか?」

 「大事よ。これからお仕置きしていくのに、あなたたちの最初
の姿を正確に控えておけば、お仕置きがすんだ後も、決して無理
なことはいたしておりませんって、お父様にご報告できるもの。
あなた方はあなた方のお父様からの大切な預かり物ですからね、
傷物にしたなんて訴えられてはこちらもたいへんだもの」

 院長先生の誇らしげな態度に、里香は思った……
 『ということは、そんな恥ずかしい処までお仕置きされるのか
しら?』

 しかし里香が抵抗できたのはそこまで。そんな疑問を院長先生
にぶつける勇気までは持ち合わせていなかったのである。

 舞台に上がった女の子達はいずれも10歳前後。総じて規則や
権威に対してはまだ従順な年齢だ。ましてや自分だけ恥ずかしい
思いをするわけじゃない。他の子もお姉さんたちも一緒に検査を
受けるのだから、これはこれで仕方がないかと判断するのが普通
だった。

 つまり、学園の大人たちはまずはやりやすい子たちから始めた
ということになるのかもしれない。

 ところが、そんな矢先、一瞬の隙を突いて舞台の一番端にいた
真紀という赤毛の子が逃げ出す。
 あっという間の出来事。もちろん、先生方にサヨナラの挨拶は
なかった。

 降りてきた階段を一気に駆け上がり、さっき入って来た入口を
今度は出口として目指したのだ。

 まさに脱走。
 ところが、もう少しで出口という処へやって来ても大人たちは
誰一人驚いていない。

 というのも……

 「バカなね、逃げられるわけないじゃない。可哀想な子」
 佳苗が清書する手を休めずにつぶやく。

 講堂の出口はすでに子供たちが入場するとすぐにロックされて
しまい、身体検査が終わるまで誰一人出入りできない。
 真紀だけではない。ここいる子供たちのすべてがすでに袋の鼠
だったのだ。

 真紀は身分の軽いシスターたちと少しだけ鬼ごっこを楽しんだ
だけですぐに元いたグループと合流する。

 「あなた、ずいぶん元気がいいのね。まるで、男の子みたいよ」
 院長先生は余裕綽々。あらためて、親や学校から送られてきた
報告書に目を通す。

 「なるほど……あなたの場合、もともと衝動的に行動する性格
があったのね。休み時間は教室を駆け回り、授業中も脇見が多い。
休み時間が終わっても教室に戻らない。色々ここに書いてあるわ。
きっと同じことを長い時間続けられないものだから今日も飽きて
しまったのね。いいでしょう、では、さっそく始めましょうか」

 院長先生は原因がわかってほっとした笑顔だった。

 この壇上にいるのは院長先生だけではない。これから子供たち
の世話を焼くことになる教育係りや生活担当、規律指導といった
古参シスターたちも細長い机を前にして腰を下ろしている。
 そんな彼女達にしても、脱走を計った子が舞台を走り去る際、
チラリと視線を送っただけ。強張った表情になる人はいなかった。

 10歳の子を相手におたおたしていたら、これから先、中学生
や高校生といった年長の子どもたちに対応できない。そんなこと
のようだった。

 むしろ、脱走者が場内を駆け回っている間も舞台に残っている
子供たちのことを少しでも知っておこうと、誰もが手元の資料と
目の前にいる子供たちの顔をしきりに見比べている。

 そんな手元の資料と自分の顔とを何度も往復している大人たち
の視線の方が幼い子たちにとっては怖かったから彼女たちもまた
逃げた友だちの方へ視線を送る余裕はなかった。


 幼い子供たちは、大勢のシスターや表面上は事務作業に忙しい
お姉様たちの視線を気にしつつも舞台で裸になっていく。

 学園から与えられたばかりの白いワンピースを脱ぎ、ブラ……
といっても彼女たちの場合はまだ胸の辺りが若干広めに作られた
女児用のシャツなのだが、それを脱ぐと自分のオッパイを世間に
晒してしまうため、すぐにエイヤー!とはいかなかった。

 大人の目には生まれた時から何ら変わっていないように見える
オッパイだって女の子にとっては恥ずかしいと感じる身体の一部
なのだ。

 そこで……
 誰か脱いだら自分も……という思いで辺りを窺う。
 すると……
 互いに顔を見合わせ、それっきりになってしまう。
 躊躇が躊躇を生み、子供たちの手が止ってしまったのだ。

 こうした事はよくあることだが、これでは埒が明かないと判断
したのだろう。院長先生が少しだけ渋い顔になった。

 すると、先ほど脱走者を取り押さえた若いシスターたちが5人
ばかり舞台に上がって来て……

 「いやあ~~」
 「だめえ~~」
 「やめて~~」
 「ごめんなさい」
 「エッチ~~いやあ」

 その一瞬は、いきなり下着に手をかけられた少女たちの悲鳴が
講堂内に木霊したが……それも、すぐに静かになる。

 「ビシッ!!」
 院長先生が3フィートもある柳の枝鞭で机を叩いたのだ。

 これは高校生のお姉様用。もっぱら脅かしに使われている鞭だ。
 もちろん、これで小学生のお尻は叩かない。
 子どもたちが、もう抗うことは出来ないと悟ってくれることが
この鞭の使命だったのである。

 「…………」
 これ以上逆らえばどうなるか、想像したくない現実が目の前に
ぶら下がって、子供たちは観念する。

 以後は、手のひらを返したように大人たちの言いつけを従順に
守る天使となったのである。


 身長、体重、視力検査や肺活量といったほかでも行われている
検査に加えて、胸の膨らみ具合や乳輪、乳首のサイズ、はては、
ベッドに仰向けにして両足を上げさせ、女の子の大事な処にある
大淫唇、小陰唇、会陰、膣前庭、ヴァギナ、アヌス、尿道口から
クリトリスに至るまで、二人がかり三人がかりで、ノギスを使い
正確に計測する。

 しかも、そうやって計測された箇所は全て写真に納めるという
徹底ぶりだった。

 もちろん、これには子どもたちへのお仕置きという本来の意味
とはまた違った、別の役割が隠されていたわけだが、もとより、
子供たちがそれに気づくことはなかったのである。

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St.Mary学園の憂鬱~番外編~

            St.Mary学園の憂鬱
                 ~番外編~

       <<夏休み地獄編>>④

<初めてのお浣腸>

 しばらくして、三人の前に白衣を着た髪の長い女性が現れた。
目鼻立ちのはっきりした顔立ちでスレンダーな体形をしている。
恐らく学校一の美女なんだろうが、ここには美しくなる事を諦め
た中高年の先生と何が美しいのかさえ分からないガキしかいない
のが残念なところで、A3の3人も今は自分の事で手一杯、とて
も美人を鑑賞する余裕などなかった。

 「私が、この学校の医務担当教諭、桜井里美です。よろしく」

 彼女はそう言うと右手に持った乗馬鞭を胸の前で振って左手で
受ける。
 医務担当の先生と乗馬鞭なんておかしな取り合わせだが、勿論、
これには理由があった。

 「医務担当といっても、あなた方が風邪をひいたり怪我をした
りした時だけお世話するわけじゃないの。……あなた方の場合は
すでに、『不良少女』という病気にかかっているので、ここでは
私の完全看護が必要となるわ。……私の言ってる意味、わかるで
しょう」

 「…………」
 三人は小さく頷いたが……

 「あらあら、ワンちゃんじゃないんだから、ご返事がうなづく
だけってのは困ったものね」

 彼女はそう言うともまず最初に千穂の処へやってきて……
 「合沢さん。スカートの裾を持って胸の上まで持ち上げてごら
んなさい」

 「えっ……」
 千恵は言葉に詰まった。そして、恐る恐る回りを見回した始め
たのだが、そのキョロキョロした視線を遮るように桜井先生の顔
が迫る。

 「どうしたの?東京の学校じゃあ、初対面の先生の言いつけは
無視していいって習ったの?」

 「……いいえ……」
 千恵は仕方なく、スカートの裾を上げ始める。
 もちろん、嫌だったが、仕方がなかった。St.Maryでは先生や
目上の人の言いつけは絶対だったのである。

 そして白いショーツが現れると、そのお尻めがけて持っていた
乗馬鞭を一閃。

 「痛い!」
 思わず、叫んだが……

 「あなた、日本語を知らないわね。こんな場合は『痛い』じゃ
なくて、『ごめんなさい』でしょう。……それと、私がさっき、
『わかるでしょう』って尋ねたんだから、『はい』ってお答えが
欲しいわね。

 「あっ……はい」
 千恵は慌てて答えた。

 「いちいち説明してあげてもいいけど、そんなことしなくても、
ご存知よね?こんな事はあなたたちの学校でも散々話題になって
るでしょうから……あなた、ここの医務担当がどんなお仕事か、
知ってるでしょう?」

 「はい、先生」

 「よろしい、それでこそSt.Maryの生徒よ」

 桜井先生は今度は幸恵の処へやってくる。

 「…では、佐竹さん。あなたも同じよ。先生の質問にうなづく
だけというご返事はSt.Maryにはないはずよね」

 「はい、先生」
 幸恵は自らスカートを持ち上げる。

 そして……
 「ピシッ」

 腰が引けるほど痛かったが、ショーツの上からでもありどこの
St.Maryでもごく普通にやるお仕置きだった。

 すると、ここで千穂がスカートを下ろし始めるので……
 「合沢さん、こんな時はお友だちが全部終わるまでスカートは
下ろさない約束じゃなかったしら」

 こう言われて千恵は慌ててスカートを上げなおす。

 「St.Maryの生徒なら、そんなことは小学生でも知ってる事よ。
お仕置きの作法も忘れてしまうなんて……ここは、しっかり鍛え
直さなきゃならないみたいね」

 そう言って、今度は静香の処へと映る。

 「ピシッ」
 もちろん、やることは同じだった。

 桜井先生は、そうやって自らスカートを捲りあげた三人の少女
たちの真ん中に立ってその姿を確認すると、やっと、スカートを
下ろしてよいという許可を出す。

 女子校というと何だかほんわかムードのイメージだが、男より
細かなところに気づくぶん規則は細かいし、お嬢様の多い学校で
は、精神的に自由な子が多い為、上下関係をはっきりさせないと
秩序が保てない場合が多く、徹底した階級社会。とにかく融通の
きかないことでは男子校以上というところが多かった。

 「あえて、ぐだぐだ説明はしませんけど、私が『鬼の番人』よ。
あなたたち、学校では私の事そう呼んでしょう」
 桜井先生が不気味な笑みを浮かべる。

 「…………」
 一方の三人はお互いに青くなった顔を見合わせる。実際、彼女
の仕事にはそんな呼び名がついていた。

 「……いいわよ、それはそれで間違ってないから。要するに、
私は単なる保健の先生ではなくて、あなたたちのお仕置き係でも
あるの。医務担当がお仕置き係だと生徒たちの健康を損なわずに
お仕置きができるでしょう。だからそうなってるの。わかった?」

 「はい、先生」
 今度は三人から声が出た。

 「いいご返事だわ。……私が担当するのは主にお浣腸。朝は、
起床後すぐにここへ来てお浣腸してあげますからね。あなた達は、
石けん水500㏄を20分間我慢するの。最初はちょっと大変に
思うかもしれないけど慣れればどうってことないわ」

 「…………」

 「どうしたの?みんな怖い顔して……大丈夫よ。あなたたち、
もう中学生になって身体も大きいんだし、20分ぐらいなら我慢
できるわ。以前の子たちもそうやってきたんですもの。あなた達
だけできないってことはないでしょう。だいいち、そのくらいは
頑張らなくちゃ、お仕置きにならないじゃないの」

 すると、ここで静香が恐る恐る口を開く。
 「もし、失敗したら、新たにお仕置きがあるんですか?」

 「誰がみてもわざとって感じでなければ、それはないけど……
自分のベッドの上で四つん這いになって我慢することになるから、
シーツが汚れるでしょう。それは自分で洗うことになるわ。ほら、
あなたたちのベッドの上に陶器製の花瓶みたいなものが固定され
てるでしょう。そこに石けん水を入れるの」

 「…………」
 三人は後ろを振り返り、そしてその容器を確認すると、あらた
めて自らの身の不運に落胆することになる。

 「あと、これは……良い子にしていれば関係ないことだけど、
先生方の不評をかうと、罰浣(ばっかん)と言って、グリセリンの
お浣腸をしなくちゃいけない事があるの。その時も私がお手伝い
することになるわ」

 「グリセリンって、あの……お腹が渋る……あのお薬ですか?」
 幸恵が心配そうに尋ねると……

 「そうよ、あなた、やってもらったことがあるのね。とっても
気持悪かったでしょう。そうならないように、頑張ることね」

 「他にどんな罰があるんですか?」

 「ここでのお仕置きかしら?」

 「そうです」

 「私はあまりそうした事には関わらないけど……脇見したり、
授業に集中してないと、助教師の先生から蜀台の蝋を手の甲に垂
らされたり、居眠りなんかしてると椅子に冷たい鉄板を敷かれて、
その上に剥出しのお尻を乗せて勉強しなければならなくなったり
もするけど……一生懸命にやっていれば鞭をもらう事はないわ。
だって、先生だって、あなたたちがどんなに出来の悪い生徒かは
ようくご存知なんですもの。無理な事はおっしゃらないはずよ。
ただ……」

 「ただ?」

 「聖書の時間というのがあるけど、これは贖罪のための時間の
ことなの。ここでは、あなたたちが自分たちの学校でやらかして
しまった罪を償わなければならないわ」

 「要するに、それってお仕置きの時間ってことですよね」
 静香が尋ねると……

 「ええ、そうよ。朝のお浣腸とこの聖書の時間がAをもらった
あなたたちが受けなければならない特別なレッスンなの」
 桜井先生は諭すように子供達に宣言した。

 「お尻ぶたれるんですか」
 幸恵が心配そうに尋ねても……

 「そうよ、かわいそうだけど、仕方がないわね。あなたたちは
それだけの罪を犯したんですもの。昔の世界に戻るためには一度
試練を受ける以外に道はないわ」

 「パンツ脱ぐんですよね」
 と、千穂。

 「そうよ、ここでは鞭をいただく時はたいてい裸のお尻なの。
でも、いいでしょう。まわりは女の子ばかりだもの。恥ずかしく
ないはずよ」

 「そんなあ~~」
 幸恵は甘えた声になった。

 「聖書の時間は、先生から指示された聖書の言葉を綺麗に清書
して先生の処へ持って行くのがお仕事なの。もし合格だったら、
お尻に鞭を三つ下さるわ」

 「合格したのに鞭なんですか?」
 千穂が思わず甲高い声を上げる。

 「仕方がないでしょう。お仕置きなんだから。お仕置きに鞭は
つきものよ。だいたいそれを八回繰り返したら、その日は部屋を
出られるけど、もし、汚い字だったり書き間違いなんかがあると、
やり直しさせられるわ。もし、そうなったら鞭の数も増えるから
覚悟してね」

 「どのくらい?」
 「そうねえ……6回か、9回か、12回。その時の先生の気分
しだいよ」

 「えっ、そんなに……」
 幸恵は泣きそうな顔になったが……

 「大丈夫よ、この鞭はそんなに痛くはしないから……それに、
Bの子は部屋に入らないから、見られるのは同じ罰を受けてるA
の子だけ。同じ立場の子だけだもの、恥ずかしくなんてないわ」

 桜井先生はそう言って励ましてくれたが、幸恵にはため息しか
でてこなかった。

 「さてと……では、慣れておいた方がいいでしょうから、一度
ここでやってみましょう」

 こう言われて、三人が思ったことはみんな同じことだった。

 『やってみましょうって何をよ。まさか、ここでお浣腸?』
 三人の背筋が一瞬にして凍る。
 でも、現実はその通りだったのである。

 「有村さん、手が空いたらこちらへ回って……」

 桜井先生は廊下で一声かけると、部屋に戻ってベッド脇の壁に
備え付けになっている陶器製の容器にゴムの管を装着し始める。

 「これから何を……」
 千穂が勇気を振り絞って尋ねると……

 「何をって、お浣腸よ。朝のお浣腸を今ここで体験してもらう
の。だって、いきなり寝起きにやったら混乱するでしょう」

 「もう、やるんですか?」
  静香も恐々尋ねる。

 「もうって、何?あなたたちここへはピクニックで来たつもり
でいたの?」

 「…………」

 「……分からなかったら教えてあげるけど、あなた達はここへ
お仕置きを受けに来たのよ。…だったら、お浣腸なんていつでも
いいじゃない。どのみち、ここに来たら何回となくやられること
だもの。慣れとくにこしたことはないわ」

 そんなやりとりをしているうちにも看護婦の有村さんが大きな
ワゴンを押しながら部屋の中に入ってくる。
 「さあ、ここが最後の部屋ね。ここの子たちは、お利口さんに
してられるかしらね。騒いでてこずらせると、後で痛~~いお鞭
だし、粗相すると恥ずかしいですかしらね。覚悟を決めて頑張り
なさいね」

 彼女が押していたワゴンには、石鹸液の入った大きなポットや
紙オムツ、大判タオル、救急箱などこの場で直接必要な物のほか、
ガラス製のピストン式浣腸器やグリセリンの入ったガラス壜まで
もが積み込まれていたのである。

 「さあ、千穂ちゃんから始めましょうね」

 桜井先生がその手を掴もうとすると、千穂は一瞬反射的に体を
よじった。が、抵抗出来たのはそれだけだった。
 他のスチュエーションでなら、絶対にこんなことにはならない
かもしれない。けれど、幼い少女には、この時それ以上の抵抗は
できなかったのである。

 千恵はベッドで四つん這いにされスカートが捲り上げられる。
ただ、無理やり力ずくでそうさせられたというのではない。
 桜井先生はただ号令をかけるだけでよかった。

 「四つん這いになりなさい」
 「スカートをあげて……汚れるからもっと思いっきり跳ね上げ
るの」

 と、ここで、桜井先生は千恵の様子を心配そうに覗き込むお友
だちの存在に気づく。
 「ほら、ほら、あなたたちもよ。自分のベッドで四つん這いに
なるの。あなたたちだって人のことを見物できる立場じゃないの
よ」

 こうして追い払われた幸恵と静香も抵抗らしい抵抗はしない。
自ら進んでベッドに上がると、やはり同じようにスカートに手を
かける。

 「明日の朝からはパジャマ姿だからいいけど、今日のところは
スカートが落ちてくるといけないから自分で持って支えなさいね」

 桜井先生の言葉は千恵には残酷に響いた。これが必死になって
抵抗したあげく何もできなくてこうなったのなら諦められるのに、
こうやって自分のスカートを自分で持ってなきゃならないなんて、
これではまるで自分もこのパーティーに参加しているようで辛か
ったのである。

 「!」
 しかし、そんな乙女の感傷に付き合ってくれるほど大人たちは
暇ではない。
 千恵のショーツが太股へ引き下ろされたかと思うと……

 「!」
 可愛いお尻が二つに割られ……

 「!」
 カテーテルの先がお尻の穴へと挿入される。そこには逆流防止
の為の栓がついていて、まるで固いウンチがお腹の中へと戻って
いくようだ。

 『何よこれ、いやだなあ、この感じ……』
 そんな事を思っていると……

 「!」
 あっという間に千恵の直腸には石けん水の大波が……

 「あっ……いや……嫌……」
 千恵は、思わず声を上げお尻をよじったが、この期に及んでは
すでにどうしようもない。

 「いやあ~~~止めてえ~~~」
 涙声で訴える千恵を、大人たちは……

 「500㏄入ったら、それ以上は入らないから我慢しなさい」

 「出ちゃう、出ちゃう、出ちゃう」
 哀れな声で叫んでも……

 「だから大丈夫だって、栓を抜かない限り、こぼれやしないわ」

 彼女達はすでに隣りのベッドで幸恵を介抱しており、そこから
千恵に声をかけてきた。


 三人に500㏄ずつ平等に石鹸液が行き渡ると、カーテルという
赤い尾っぽを付けた三匹の猿が並んでるように見えて、傍からは
とてもユーモラスだが、もちろん、三人に自分たちがどのように
見られているかなど、かまっている余裕はなかった。

 「うううううううううう」
 「いいいいいいいいいい」
 「ああああああああああ」

 三人それぞれに唸り方に差はあるものの、思いは一緒。
 『こんなところで絶対にウンチはできない』
 その一念で必死に耐え、脂汗を滝のように流し、全身を細かく
震えさせていたのである。

 「みなさん、頑張ってるみたいだけど、そんなに力をいれなく
ても大丈夫よ。今日の場合、あなた方のお尻の穴にはしっかりと
した栓がねじ込んでありますからね。たとえ、気を緩めたとして
もベッドを汚すことにはならないわ」

 三人とも、桜井先生の言葉が聞き取れなかったわけではない。
理解は出来ていた。
 しかし、だからと言ってトイレットトレーニング以来の習慣を
今ここでおいそれと変更できるなんて子は誰もいなかった。時折
襲う強烈な便意には、やはり必死になって肛門を閉じてしまう。
まるで熱病患者のように、全身を細かく震わせ、滝のような脂汗
を流しながら、全員その時が来るまで必死に耐えたのである。


 目の前に置かれた大きな砂時計の砂がなくなり、約束の時間に
なると、三人はベッドから下ろされ、オマルに跨がされて、そこ
で初めてお尻の栓を抜いてもらう。

 「********」
 それが抜かれた瞬間、出てくるのはほとんど水のようなウンチ。
お腹へ入れた500㏄がそっくりそのまま、そこへ戻される格好だ
った。

 「さあ、オマルに全部出しておきなさい。後でお漏らしなんて
恥ずかしいわよ。…………いいかしらね、終わったらテッシュを
使ってから、もう一度ベッドへ戻るの。オムツを当ててあげます
からね」

 桜井先生の声に、三人はベッドへ仰向けになり、女の子の最も
恥ずかしい場所を蒸しタオルとベビーパウダーでいじられながら
オムツを穿かされたのだが、それに抵抗する子は誰もいなかった。
 正確にはさっきのお浣腸で抵抗する気力を奪われていたという
べきかもしれない。

 「あなた方が明日から身につける下半身の下着は、そのオムツ
だけです。それは一度脱ぐと二度と元のようにはなりませんから、
注意してくださいね。それから、Aの子たちは一般のおトイレを
使用できません。おトイレに用のある時はすべて保健室へ行って、
そこのオマルに跨ってもらいます」

 「……お、終わったらどうするんですか?」
 幸恵が小さな声で尋ねると……

 「終わったら、私か有村さん、シスターなんかもいますから、
また今みたいにキレイ、キレイしてから、別のオムツを穿かせて
あげますよ。……どう、楽チンでしょう。あなたたちみたいに、
頭の程度が小学生レベルの子供たちは、オシモも赤ちゃん扱いで、
ちょうど釣り合いが取れてるんじゃなくて………」

 桜井先生の強烈な嫌味に三人は声がなかった。


*****************<4>******

St.Mary学園の憂鬱~番外編~

        St.Mary学園の憂鬱
                 ~番外編~

       <<夏休み地獄編>>③

<初めての寄宿舎>

 千穂は一旦車に戻ると、そのまま校門脇の駐車場へ。
 そこは今回この合宿に参加する百名以上の生徒と父兄でごった
がえしていた。

 『みんな楽しそうね』
 千穂は羨ましそうにそれを眺める。

 ここにいる子はみんなこれからお仕置きされに行くようなもの
だから楽しかろうはずはないが、他の子はこの校門をくぐる間際
までこうして身内が付き添ってくれるのだ。
 これは自分とは大きな違いだった。

 お爺さんの死後、未成年の彼女にも後見人はついていたのだが、
その人達はこんな処へ来る人たちではなかった。

 『あっ、佐竹さん』

 佐竹幸恵は、裏金融のドンである啓一お爺ちゃんが、ひときわ
でかいリムジンで乗り付けていて、その中へ引き入れている。

 「こなくて……いいのに」
 幸恵はおじいちゃまのだっこの中で甘えていた。

 「私を恨んでいるかい?こんな処へ入れて……」
 おじいちゃまに言われて幸恵は首を振る。
 「怖がらなくていいんだよ。お仕置きなんて、ほんのちょっと
で、すむからね。頑張ったご褒美は何がいい。何でもいいぞ…」
 おじいちゃまはやさしく孫娘を撫でた。
 老人にすれば可愛くて仕方がないといった感じだったし、幸恵
もここでは幼い子供に戻っている。

 『あっ、南条さん』

 軍用ジープの側にはサングラスを掛けた中年女性と静香がいた。

 「来ないって言ったじゃないか」
 「ごめん、時間が空いちゃったの。……下着持ってきたわ」
 「ここは、支給される下着以外着用できないの知ってるだろう」
 「大丈夫、ベッドのマットレスに挟んでおけばいいわ。何かの
時に役立つはずよ。この辺、夜は冷えるから……」
 「余計なことだけど、貰っとくよ」

 千恵にはこんな会話をする相手がいなかった。
 しかし、この門をくぐれば三人の立場が一緒になる。
 それだけが彼女には救いだったのである。

 千恵が小石を蹴りながら校門で待っていると、静香がお母さん
に肩を抱かれてやってくる。
 でも、千恵に気づくと、すぐに笑顔になって駆け出した。

 「チャオ。待っててくれたの?」
 静香の明るい言葉の後ろ10m位の処に、サングラスを外した
静香のおかあさんの姿があった。

 一方、幸恵はお爺様がその小柄な両肩を抱きながらやってくる。
大柄なお爺様に小柄な幸恵の身体がすっぽり収まっていて、正面
から以外、幸恵の顔が見えない。

 そんな彼女も二人を見かけると……
 「こんにちわ」
 と挨拶した。

 「幸恵、お友だちかね?」
 お爺様の声に……
 「ええ、さっきお知り合いになったクラスメートの方たちです」

 「そう、孫をよろしくお願いしますよ。何ぶん気が小さいので
ご迷惑をおかけすることもあるかもしれませんが、ご親切には、
それなりに報いますので、どうかよろしくお願いします」

 老紳士はこれがマフィアのボスかと思うほど丁寧な物言いで、
中学生二人に挨拶したのだった。

 ところが、その瞬間……
 肝心の幸恵が、校門を背に脱兎のごとく逃げ出したのである。

 あっけに取られる二人。
 でも、啓一氏は落ち着いたものだった。

 「運動会にはまだ早いのに、困ったものです。でも、大丈夫。
すぐに戻りますよ」

 啓一氏の言葉通り。幸恵がその場へ戻るのに3分とは掛からな
かった。
 ただし、今度は……

 「馬鹿やろう、こんなの恥ずかしいだろう。下ろせ、下ろせよ」

 黒づくめのスーツに身を包んだ男性が、手足をバタバタつかせ
ている幸恵を肩に乗せて運んで来る。それはまるで荷物のようだ。

 「いやあ、だめえ~~ごめんなさい」

 幸恵の大音響がご近所に流れる中、その荷物は床几(しょうぎ)
に腰を下ろした啓一氏の膝の上へ……

 「だめえ~~~もうしないから、ごめんなさい」

 啓一氏は何も言わず、荷解きとばかりに幸恵のスカートをまく
りあげて、そのお尻をぴしゃりぴしゃりと五つ六つほど叩いた。

 そして、その荷物を再び抱き上げると、校門の中へと運び……
穏やかに立たせて捨てたのだった。

 「べえ~~~」

 幸恵はお爺様にアカンべーをすると、今度は学校の中へと走り
去ったのである。

 『あの子、幼児か!?』
 二人は、思わずこぼれ出そうな笑いをこらえつつそう思うのだ
った。


 入園式は百人の生徒が一同に会せる礼拝堂で行われた。
 A3クラスの住人は、その中でもたった3人きり。この少し前、
衣裳部屋でピンクのブラウスに紫のプリーツスカートを渡されて
それに着替えたところだった。

 他の子が学校の制服でよかったのに対し、A3クラスの子だけ
はこの格好で通さなければならないのは慣例だからだが、落第生
中の落第生に対する見せしめという意味もあったに違いない。

 「ねえ、この色の取り合わせ、おかしいわよね。デザイナーの
センスがないんだわ」

 幸恵は両脇の二人に同意を求める。彼女はいつの間にか、三人
の真ん中に座って、今はしきりに与えられた服の品定めをしてい
たが、そのうち、「A3の子、うるさいわよ」という声で黙って
しまう。

 演壇に立ったのは、理事長先生。札幌から鹿児島まで、全国に
12箇所もあるSt.Mary学園の統括責任者だ。

 「みなさんは色んな事情からここへいらっしゃったと思います。
中には中間期末のテストの時にたまたま体調が悪かっただけ、と、
嘆いている方もいるかもしれません。でも、それは言い訳です。
決められた日時に体調を整えるのもあなた方り責任だからです。
でも、大丈夫ですよ。次回からは、そんな愚痴が出ないように、
ここでは日々の日課もしっかり管理しますから。………………」

 演説しているのは御歳80歳の学園の大長老。ブロンドの髪に
高い鼻、青い瞳はどこから見ても西洋人だが、アメリカから日本
に来て長いせいか日本人以上に流暢な日本語で話している。
 とはいえジェネレーションのギャップは大きく、生まれてまだ
14、5年しかたたない子供たちと話題が合うはずもなかった。
 子どもたちにしてみれば、それが義務だから仕方なく、欠伸を
押し殺しながらも、その演説を聴いていたのである。

 ところが……
 そんなことに頓着のない幸恵だけは前のテーブルにほっぺたを
押し付けると、すやすやと昼寝を始めたのだ。

 「ちょっと、やめなさいよ」
 「幸恵、叱られるわよ」
 「だって、眠いもん」
 両サイドの二人が心配して、起こそうとするが、彼女は一向に
意に介さない。

 すると、たちまちシスターがやって来て……
 幸恵を無言で連れて行く。
 二人はてっきりお尻を鞭で叩かれるものだと思っていたが……

 大幹部が演説しているさなか、それを邪魔するような音はたて
られない。そこで、彼らが取った方法が……

 「ショーツを脱ぎなさい」
 小さな声だがそこはまだ中学生。大柄なシスターに上から目線
ですごまれると抵抗できなかった。そこで幸恵がその指示に従う
と……

 「これに座って。スカートを持ち上げてお尻をじかに乗せるの」
 厚い鉄板が敷かれた座板の上に、ショーツを脱いだ剥き出しの
お尻が当たるから幸恵は顔をしかめる。

 「どう?冷たいでしょう。目が覚めたかしら?…………何なら、
先生のお話が終わった後に、熱~~い鞭でもう一度お尻を暖めて
あげてもいいのよ」
 シスターの意地悪な言葉に幸恵はただ下を向いてしまう。

 「……あなたたちは怠惰という罪を犯しました。でも、恐れる
ことはありません。罪は清算すればよいのです。電車に乗るのと
同じです。目的地までの切符を買わなかったあなたたちは、その
ままでは駅を出ることができません。でも、そこで精算すれば、
出られるでしょう。その先に罪はありません。ここも同じです。
駅に精算所があるようにここは学校の精算所なのです。どうか、
二学期はまた晴れがましい気持でみなさんの学校の門をくぐって
ください。健闘をお祈りします」

 理事長先生のお話が終わると、幸恵は千穂や静香のもとへ返さ
れた。幸い、鞭のお仕置きはなく、どうなることかと思っていた
二人はほっと胸をなでおろしたのだが……
 当の幸恵はというと、ほんの一瞬だが、意地悪なシスターたち
を下から睨みつけて、どこか不満そうな顔を見せたのである。

 「馬鹿ねえ、何であんな時に机に顔をつけて寝るのよ。どうな
っても知らないわよ」
 千穂が言えば……
 「いい度胸してるわ。それって、天然?学校でもいつもそんな
なの?」
 静香も驚きを隠せない。

 しかし、幸恵はというと……
 「まったく、度胸がないんだから……」
 視線をさっきのシスターたちに向けてつぶやく。

 二人には『度胸がない』って誰の度胸の事だか、まるで意味が
わからなかったのである。

************************

 三人は、ほかの大勢の子供たちと共に教科書やノートといった
勉強道具だけが入ったかばんを持ってこれから寝泊りする寄宿舎
へ向った。

 部屋はグループごとに分かれており、素行には問題のないB1
やB2といった大勢のグループを収容する大部屋もあれば、素行
にも成績にも問題のあるA2やA3といった少人数の為の小部屋
もあった。

 ちなみに、今回、A2で来た子は四人、A3で来た子は千穂、
幸恵、静香の三人だけである。
 当然、彼らには大きな部屋は割り当てられず、奥の四人部屋が
割り振られていた。

 「わあ、快適じゃない。私、ベッドはもっと狭いのかと思って
たけど、これなら私でも大の字で寝られるわ」
 千穂がさっそく白いシーツのベッドにダイブする。

 部屋にはこの他、自習用の机と本棚、それに絹地の笠を被った
昔ながらの白熱灯スタンドが備え付けられていたが、あとは何も
ない部屋だったのである。

 ふと見ると、そんな娘たちの部屋の入口に、短髪で恰幅の良い
ジャージ姿の中年オヤジが立っているから、静香が思わず……
 「あんた、誰?」
 と言ってしまう。

 「誰って、何だ。お前こそ誰だ?……人にものを尋ねる時は、
まず、自分から名乗るもんでしょうが……大阪のSt.Meryでは、
そういう事も教わらなかったのかい。失礼だよ。南条静香さん」

 「えっ、私、知ってるんですか?」

 「頭の格好見りゃわかるよ。今回は、東京、名古屋、大阪から
一人ずつ来るって聞いてたからね。見たところ、モヒカンはお前
さんだけじゃないか。昔から、素行の悪い生徒にお仕置きとして
強いる髪型は各学校で決まってるんだ。……お前さん処の大阪が
モヒカン。東京は丸刈り。名古屋がワカメちゃんカット。………
だから、誰が誰だか、ここに来たら一目でわかったよ。私は若林
輝子。ここの責任者。断っとくが、私は男じゃないよ」

 こう言われて三人が緊張しないはずがなかった。まるでヤクザ
のチンピラみたいなのが舎監だなんていうんだから『これって、
冗談か?』とさえ思ったほどだったのである。

 「今日は全部で101人来てるけど、そのうちBクラスの子が
81人。この子たちは主にお勉強できている良い子ちゃんだから
問題はないが、問題はAグループ。つまりお前たちだ。お前達の
場合は素行に問題のある生徒としてここに送り込まれているわけ
で、ここではお勉強だけでなく、その清算もしなきゃいけない。
ましてや、お前達みたいに3教科とも赤点だなんで言ったら一日
がどれほど大変だか、わかるよな」

 「はい、覚悟はしてきました」
 静香が言うと……

 「それは結構だ。とにかく泣いても騒いでも、こちらが定めた
ノルマをこなすまではここから出られないから。いちおう3週間
って学校では教えられたと思うけど、それはあくまで、すべてが
うまくいった場合のことで、それで出られるのは大半がBの子だ。
Aの子は4週間から5週間が当たり前で、夏休み終了ぎりぎり迄
ここにいた子も珍しくないから、そのへんは覚悟はしとくんだな」

 「…………」
 三人はヤクザ先生にすごまれて声もでなかった。

 「何だ、急にしゅんとしちゃったな。今年のA3は意外に純情
じゃないか」
 若林先生はにこやかに笑うと……
 「いいか、ここにAで来るってことは、お前達がそれだけ学校
に迷惑をかけたってことだから、その罪は償わなきゃいけない。
……でも、従順に罰を受ければ試練はそんなに長くはかからない。
要は、自分の我を捨ててマリア様や先生に身も心も委ねられるか
どうかってこと。それができた子から卒業だ」

 「…………」
 三人は青ざめた顔のまま一言も言葉がでなかった。

 「何だか、お通夜みたいになっちゃったな。ここには色んなの
が来るから、こちらも最初から甘い顔はできないけど、お前たちが、
誠心誠意ここで頑張るなら三週間はあっと言う間だよ」

 「…………」
 三人は小さく頷いた。

 すると、若林先生が廊下に向って叫ぶ。
 「桜井先生、終わったら、こちらもお願いします」

****************<3>*******

St.Mary学園の憂鬱~番外編~

           St.Mary学園の憂鬱
                 ~番外編~

         <<夏休み地獄編>>②

<クラスメート>

 山間を縫うように走る黒塗りの高級車。
 それが、見晴らしのいい丘の上に差し掛かった時、急停止する。

 「またでございますか?」
「またって何よ、今日はこれが初めてよ」
 「もう、学校まで五分とかかりません。そこでなさったら……」
 老人の声を背に車を降りる少女。

 白いブラウスに紺のプリーツスカート。背伸びをするその顔は
けっこう可愛らしい。でも、なぜか頭は丸刈りだった。

 「あっ、お嬢様」
 老人が後を追って車を降りるが、その時は少女はすでに緑の坂
を駆け下りていた。

 「やれやれ」
 老人をため息をつくが、追いかけるようなことはしなかった。

 少女は丘を駆け下りると茂みの中へ突進。
 背の高い草の陰でしゃがむと……

 「********」

 ティシュをその場に捨てる。

 「やっぱりウンコは外でなきゃ……」
 およそ女の子らしくない事を言ったあと、遠くを見つめる。
 「誰よ、あれ?……私以外に、野ぐそ?……まさかね」

 少女は腰を上げた。


 一方、こちらはそんな野生児のような少女に見られているとも
知らず一心不乱にマーガレットで花占いをしている少女。
 同じようにしゃがんでいても、やってることはまるで違うのだ。

 「……やる……やらない……やる……やらない……やる………
やらない……やる……やらない……やる……やらない……やる」

 とうとう花びらが残り五枚となって、『やる』という花びらを
引く。この先、四枚目がやらない。三枚目がやる。二枚目がやら
ない。最後は……
 もう、結果は見えていた。

 少女はそこでためらいながらも、再び花びらを引き抜き始める。

 「……やらない……やる……やらない……」
 そして、最後の一枚を引き抜いた時……

 「!」
 少女の目の前に新たなマーガレットが現れた。

 驚いて少女が振り返ると、そこに野ぐその女の子がいる。
 「本当はやりたくないんでしょ。だったらこれ使ったらいいわ」

 そう声をかけられ、おかっぱ頭の少女は顔を赤くして再び向き
直る。
 おかっぱ頭といっても、彼女のヘアスタイルはおしゃれなヘア
カットなどではない。襟剃りした首の上に、ヘルメットのような
黒髪が乗っかるワカメちゃんカットだ。
 そんな幼女のような髪型をしているが、顔も身体もしっかりと
中学生に見えるから、そのアンバランスがおかしかった。

 その笑い声にムカッときたのか、おかっぱ頭の少女がふたたび
振り向く。
 「あなた、誰なの?」

 ところが、その答えは意外な処からやってきたのである。

 「野ぐその好きなお姉さんよ」

 「!」
 今度は、その野ぐそのお姉さんが顔を真っ赤にして振りかえる
番だ。

 「あなた、誰よ?」
 もの凄い剣幕で睨みつけるが、スケッチブックを抱えたその子
はモヒカン刈りにした髪を風に靡かせるだけで動じない。

 「あなたって馬鹿じゃないの。観察力ってものが何もないのね。
見ればわかるでしょう。みんな同じ服、St.Maryの制服を着てる
のよ。お仲間に決まってるじゃない」

 「あたしの…………してたの…………その~……見てたの?」
 言いにくそうにたずねると、それには答えず、モヒカンの少女
はスケッチブックを開いてわたす。

 「!」
 そこにはさっき草むらでしゃがんでた自分の姿がスケッチされ
ていたのである。

 「そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃない。私、あなたの
名前だって知ってるわよ」

 「?」

 「合沢千穂さんでしょう。槍投げ関東大会3位の実力者よね。
お爺様は有名な植物学者の合沢啓一氏。ご両親が離婚した関係で
そのお爺様に育てられたんだけど、フィールドワークでお爺様と
一緒に野山を歩くうち、野ぐその楽しさに目覚めた。……そんな
ところかしらね」

 「あなた、誰よ!」

 「私?……私は、南条静香。あなたと同じA3よ。ちなみに、
その子もA3なの」

 「えっ、こんな大人しそうな子が……」

 「そうでもないわよ。この子、佐竹幸恵って言って、名古屋の
St.Maryじゃ知らない人がいないくらいの有名人よ。……だって、
気に入らないお友だちを何人も病院送りにしてるんだから」

 「この子が?……」
 千穂はあらためてマーガレットの少女を見直すが、どこをどう
見ても、身体は華奢だし顔は大人しそうだし、武闘派のイメージ
ではなかった。

 「この子のお爺さんはね、名古屋マフィアのボスなの。しかも、
この子を溺愛してるそうよ。だから、孫娘を泣かす奴は許せない
みたいで……まだ、死人がでてないのが不思議なくらいだって、
うちの調査員が言ってたわ」

 「調査員?」

 「そうなの。うちの家業は興信所なのよ。アーバン探偵社って
いうんだけど、知らない?……本社は大阪にあるけど、いちおう
全国展開してて、関東にもけっこうお店があるのよ」

 「名前だけは……」

 「ついでに教えてあげるとね、今でもこの子の舎弟さんたちが、
校門を入るまではあちこちで見張ってるみたいよ」

 「えっ!」
 千穂があわててあたりを見回すと、それまで気がつかなかった
が、黒づくめの男たちがあちこちからこちらを見ている。

 『ということは、私の野ぐそも見られてたってことかしら…』
 千穂は今さらながら背筋が寒くなった。

 そんな千穂の耳に囁くような幸恵の声が届く。
 「私は、……たしかに、お爺様は名古屋で金融業をしています。
でも、私はそんな怖い事なんてしてません。ただ、私がお爺様に
悲しい顔をすると、お爺様のお友達の方々が心配してくださって、
時々、不幸な事が起こるみたいですけど…それって私のせいじゃ
ないんです」

 『それって、「その通りです」って言ったのと同じじゃない。
この子、ピントずれてる』
 千穂は思った。

 「でも、不思議よね。あそこには今日は百人を超える子が入る
のよ。その中で、A3は私たち3人きりなのに、こうして同じ処
に集まっちゃうんだから……」
 静香が言うと……

 「仕方がありません。私、行きます」
 幸恵が立ち上がる。

 「行くって、どこへ?」
 千恵が幸恵に尋ねると……

 「ですからリフォーム学校です。みなさんも私と一緒に行って
くださるんでしょう。だったら、心強いですから……」
 幸恵の言葉に……

 「あんた、ひっとして、さっきの花占い、『やる』『やらない』
ってやつ、あれ、学校に行くか行かないか決めてたの?」
 千恵が驚くと……

 「ええ、逃げ出そうか、どうしようかと思って……」
 こともなげに幸恵が言うから……

 「あんた、長生きするわね。あんな沢山の人たちがお見送りに
来てるのに、今さら逃げられるわけないでしょう」
 千恵が言えば……

 「だって、あの方たちは私のお味方ですもの。わけを話せば、
お父様の処へ連れて行ってくださるわ」

 「あのねえ……」
 千恵の言葉を遮って静香が……
 「いいから、いいから、この子と私達じゃ住む世界が違うの。
……さあ、参りましょうか、お姫様。……ところで、お姫様は、
お鞭とか受けたことがありますか?……そうですか、見たことは
おありなんですね。……それでは、私達と一緒に初めての経験を
なさいませ」

 静香は幸恵の肩を抱いて丘を下りて行く。
 その下りた処に地獄の世界は口を開けて待っていたのだった。

************************

St.Mary学園の憂鬱 ~番外編~

          St.Mary学園の憂鬱
                 ~番外編~

         <<夏休み地獄編>>①

*********** 登場人物 **********

14歳:A3グループ(素行及び英国数全てが落第点の生徒)
 合沢千穂(あいざわちほ)  /たわし頭、体育会系 
 佐竹幸恵(さたけゆきえ)  /ワカメカット、優柔不断 
 南条静香(なんじょうしずか)/モヒカン、芸術家系 

 若林先生/寮母    大隅先生/英語  小泉先生/数学
 桜井先生/医務担当 柏木先生/国語  広兼先生/神父様

***************************

<リフォームスクールの一日/事情説明>

 A3グループともなると学期末の三者面談でも『意外』という
顔をする子はいなかった。
 A3グループなんていうと優秀な子の集まりのようだが、実は
まったくの逆。

 とにかく、素行が悪いうえに3教科全部が赤点だなんて子は、
ある意味自分のことを悟っているから、教師に通知表を開示され
ても……
 『あっ、そう』
 という感想しかない。

 むしろ、これで親がこの学校のことを諦めてくれたらと思って
いるのだが、親は親で、『St. Mary 学園』のブランド力に対する
未練やら、高い入学金や授業料を今さら無駄にしたくないなどと
いうはしたない思いもあって、なかなか退学しますとは言わない。

 となると、出来の悪い少女たちにその皺寄せがやってくるわけ
で、こうした子供達の夏休みは悲惨の一言だった。

 実はSt.Mary学園にはこうした劣等生たちを教育しなおす為の
専門の学校があった。

 『St. Mary's reform school(セントメリーズ リフォームスクール)』
 名前だけ聞くと『服飾関係の学校かな?』なんて思われるかも
しれないが、ここでリフォームするのは服ではなく人間。
 要するに少年院、感化院、更生施設なんてのと同じ場所なのだ。

 当然、子供たちは行きたくないが、A3ともなると自由参加と
言うわけにはいかない。学校から行かなきゃ退学って条件を突き
つけられているから否応なしだ。
 しかも、3週間も……
 おかげで、彼らの夏休みの半分はこれでふっ飛ぶ事になるのだ。

 おまけに、そこでの日課がこれまた超ハードときている。
 1教科や2教科のBランクの生徒たちは、まだ夜にお友だちと
愚痴を言い合う余裕もあるが、素行まで問題視されている彼女達
の場合は3教科の学習だけでなく『だらけた生活態度を改める』
という大義名分のもと、最初から厳しいお仕置きありきの日課が
待っていた。


 まず、朝6時。

 森の水車のメロディーで目を覚ますと、すぐに医務担当の桜井
先生が係の看護婦を引き連れてやって来る。
 生徒達は寝ていたそのベッドの上でそのまま高圧浣腸。

 A3グループ用のこの部屋では、毎日、器具を持って来るのも
面倒だとばかり、ベッド脇の壁には石鹸水を入れるための容器が
始めから備え付けられている。だから、看護婦は三人分の石鹸水
が入った大きなポットとタオルや紙おむつなど必要なものだけを
手押しワゴンに積んで押してくる。

 A3の少女達は廊下でそのワゴンの音がするたびに……
 『また、一日が始まるんだ』
 とため息をつくのだった。

 石鹸水は500㏄。丸裸のお尻のままたっぷり20分は四つん
這いの姿勢で我慢させられる。

 万が一にも失敗すると、その日は一日中、オムツを穿かされる。
おまけに、たとえその後は何のミスなく一日過ごせたとしても、
夜は、同部屋のみんなが見ている前でグリセリン浣腸と鞭。
 だから、この部屋は住人は朝から気を抜けなかった。

 他の部屋の子たちは、この間、身づくろいをしてベッドメイク。
朝食の食器を並べたり、庭の掃除なんかもさせられるが、それは
A3の子たちは免除。
 その頃、それどころではない事態なのだから仕方がない。


 6時40分からミサ

 他の子たちには浣腸が課せられていないため身づくろいをする
時間が十分にあるが、A3部屋の住人たちはケツカッチンだから、
パジャマ姿での参加となる。
 これもまたお仕置きの一つだ。

 ミサは神父様の簡単な説教と全員での賛美歌。
 儀式は簡素なものだが、ただ、前日に悪質な規則違反をやらか
した子がいると、そうした子供たちへのお仕置き(たいていは、
お尻への鞭打ち)を他の子も見学しなければならない。


 7時00分から朝食

 数少ない楽しみだから、女の子たちとしてはワイワイガヤガヤ
おしゃべりしながら食べたいところだが、ここでは、それはでき
ない。
 もともと、St.Mary学園では普段の学校生活でもお昼を
取る時には聖書の朗読が流れている。
 いわんや、ここにはお仕置きで来ている合宿なのだから、当然、
おしゃべりは厳禁。当番の子が聖書を朗読するなか、無言で食べ
なければならない。
 とても消化に悪い食事スタイルだ。


 8時00まで自由時間

 朝食が終わると、授業が始まるまでは本来、自由時間なのだが、
こんな落ちこぽれだってこの時間は勉強している。
 というのも、授業が始まってすぐに昨日の授業内容を確認する
復習テストがあるのだ。
 もちろん、そのテストが何点でもかまわなのなら、こんな奴ら
勉強なんてしないだろうけど、その出来しだいでお尻に鞭が飛ん
でくるとあっては、やらないわけにはいかないのだ。


 8時00から9時45分まで英語の授業。

 教室には4名までしか入れない。先生だって出来の悪い子たち
を大人数いっぺんに教えられるわけもなく、当然といえば当然の
処置だが、それだけに教室内はピリピリムード。
 わき見、私語は当然厳禁。
 やってくるように言われた英語の訳や構文、慣用句の暗記など
宿題になっていたことをやっていない場合は、授業の最初に行わ
れる復習テスト同様、夕方は鞭で泣かなければならない。


9時45分メインの授業終了。

 たまたまこの学期だけ点数が低かった真面目な子はこれで十分
だが、毎学期ごとここに来るような子は前の学年で習うような事
にも知識の穴が多くこれでは足りない。そこで10時15分まで
30分間マンツーマンの授業が行われる。
 これ、赤点が1教科だけの子の場合はそれでいいが、次の国語
も赤点だった子は次の授業までが15分しかなく、復習テストの
為の予習時間がなくなってしまう。
 ただ、そんな事情は考慮してくれないから復習テストで合格点
を取れない子は、やはり、夕食前にお仕置きの鞭を受けなければ
ならない。
 とっても残酷なシステムなのだ。


 10時30分から12時15分まで国語の授業。

 4人クラスでピリピリ授業は英語と同じ。
 まず復習テストがあって、宿題のチェックがあって、それらが
不出来なら、夕方は鞭をもらいに再び先生の部屋を訪れなければ
ならないのも英語の授業と同じだ。


 12時25分から昼食。

 やっぱり、当番の子が聖書を朗読するなか、ごはんを食べる。
 昔、よほどストレスが溜まっていたんだろうね、一人の少女が
「うるさい!」って叫んだことがあったらしいんだけど、次の日、
ミサの後、みんなの見ている前で1ダースの鞭のお仕置きだった。
 女の子は男の子より辛抱強いけどキレることだってあるのだ。


 13時30分から15時15分まで数学の授業。

 ただし、出来の悪い子は12時45分から13時15分までの
国語の補習授業も受けなければならないから、3教科も赤点なん
か取っちゃうと、ゆっくりと食事もできない有様なのだ。
 もちろん、この授業だって英語や国語とやり方は同じ。復習の
テストや宿題のやり忘れなどは当然のように夕方は鞭だ。


 15時45分まで数学の授業。

 ここでも事情は同じ。出来の悪い子にはマンツーマンの補習が
待っている。3教科赤点の子は、ほとんどが15時45分が教科
の終了時間だ。
 それでも、ことが教科だけの問題ならこれで終わり。これから
はしばし自由の身となれるのだが、学校生活で素行も悪かった子
の場合は、これだけではすまない。


 16時00分から聖書の時間。

 『この子は素行にも問題がある』と学校で判断された場合は、
この授業にも出席しなければならない。
 ここでは表向き『聖書を講読し、清書する』という授業内容に
なっているが、実際には、先学期の不行跡に対する大人たちから
の『お仕置きの時間』にのだ。
 生徒たちは指定された聖書の聖句を綺麗に書き写すと、それを
先生のところへ持って行き、その出来栄えに関係なく鞭をお尻に
三つもらってから新しい箇所を指定されて座席に帰る。という事
を繰り返すのだ。
 もちろん汚い字は不合格。ノルマがあって、生徒は先生の処で
8回、鞭の数にして24回をお尻に受けるまでは教室を出る事が
できなかった。


 17時00分からお仕置きスパタイム。

 お昼の授業で鞭の指示を受けた子が、その先生の部屋を回って
鞭をもらう時間。先生の部屋の前にはこの時間になると四五人の
子が順番を待っている。
 なお、素行をとがめられて聖書の時間を勤めている子は17時
にここへ来ることができないため、夕食後の19時以降にドアを
ノックすることになる。


 18時00分から夕食。

 ここでも、当番の子が聖書を朗読している。
 『飯が不味くなるからやめろ!』
 なんて言って見たいだろうと思うけど、そこは従順な女の子、
我慢してもくもくと食べている。
 あ、言い忘れたが、この食事、まずくはないものの残すことは
許されていない。嫌いな食材があっても全部残さず食べなければ
ならないのだ。アレルギーは事前にチェックしてあるから、出て
きたものを食べないのはわがままと言われ、当然お仕置きの対象
となるのだ。


 18時30分夕へのミサ。

 神父様の説教に賛美歌。ただお説教の内容は宗教的な事という
より、今日あった規則違反への注意が主だ。
 もし、重大な規則違反があったら、その生徒は他の生徒の前で
お尻への鞭をもらうことになる。


 19時00分からお仕置きスパタイム。

 主に、聖書の時間と重なった子たちが、この時間に鞭を受ける。


 19時00分から22時00分まで、入浴、自由時間。

 入浴は順番に呼び出されて浴室で裸になるのだが、これも食事
の食べ残しと同じで生徒の側が拒否できない。というのは、体を
洗う専門のメイドがいて、彼女に、自分のお尻が今日はどれほど
傷ついているかを観察させなければならないのだ。
 それが終われば、本当にやれやれなのだが、それだってテレビ
を見てくつろぐというわけにはいかない。明日の為に予習と復習
をしなければならない。
 そうやって時間を潰していくと、10時の消灯時間なんてあっ
という間だった。


 22時00分、消灯。

 これ以降はベッドに入って寝る意外にない。もし他の事をして
いたら、たとえそれが勉強でも、他の部屋へ引っ張られて行って
お尻が可哀想なことになる。
 消灯時間は厳格に守られていた。


 というわけで……
 もともと、勉強が苦手な子にかなり無理なスケジュールを強い
ているから、全てがうまくいくわけではない。予定の3週間が、
4週間、5週間と伸びる子も珍しくないが、大半の子は次の学期
には見違えるような成績をあげているから、鞭の効用もまんざら
ではないなと思うのである。
 さて、これはそんなリフォームスクールへ放り込まれた娘たち
の物語である。

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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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