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小暮男爵 ~第一章~ §4 勉強椅子

小暮男爵/第一章

<<目次>>
§1  旅立ち * §11 二人のお仕置き②
§2 お仕置き誓約書 * §12 ランチタイムの話題
§3 赤ちゃん卒業? * §13 お父様の来校
§4 勉強椅子 * §14 お仕置き部屋への侵入
§5 朝のお浣腸 * §15 お股へのお灸
§6 朝の出来事 * §16 瑞穂お姉様のお仕置き
§7 登校 * §17 明君のお仕置き
§8 桃源郷にて * §18 天使たちのドッヂボール
§9 桃源郷からの帰還 * §19 社子春たちのお仕置き
§10 二人のお仕置き① * §20 六年生へのお仕置き

*****<< §4 >>****/勉強椅子/****

 遥ちゃんと離れて久しぶりにお父様と一緒の暮らし。
 つい六ヶ月ほど前まではここが私の勉強部屋兼生活の場でした
から元の生活に戻ったというべきかもしれません。

 この部屋は、本来お父様の書斎。ですから、この部屋の大半は
お父様のスペース。百科事典や美術全集、学術書など、大きくて
重たい本が作りつけの本棚に隙間なく収められて壁と一体化して
いますし、ライティングデスクの上にはお父様が書き物をする為
に集めた資料がいつも山となって積まれています。

 その一角に、こんな部屋の雰囲気とはおよそ似つかわしくない
ピンクの勉強机ピンクの本棚が並んで置いてあるのですが、この
辺りが私の居住スペースでした。

 机の上には学校の教科書や参考書が並び、壁には私が展覧会で
入選した時の絵や習字、家族旅行の写真などが貼られ、本棚には
図鑑や児童書、地球儀、バイエルの教本などが置かれています。

 人目につく場所に置いてあるのはいずれも勉強か習い事に関係
ありそうなものばかり。例外はお父様から買ってもらったピー子
という大きな熊のぬいぐるみくらいでしょうか。これだけは箱に
入りきれないので本棚の一番上で腰掛けていますが。

 でもそれ以外のマンガやオモチャは、お父様との約束ですべて
大きなダンボール箱に入れてあって、使う時だけ取り出すことに
なっていました。

 遊んだ後は、また元のダンボール箱にしまわなければなりませ
んから二度手間なのです。しまう時は『面倒くさいなあ』と思い
ますが、しまい忘れると叱られますから渋々やってました。

 お父様は綺麗好きですから、もしオモチャをしまい忘れる日が
続くようだと『お仕置き』なんてこともあります。
 私はこれまでそうしたことが一度もありませんでしたが、普段
優しいお父様も怒った時はそれはそれは怖いんです。
 お姉様たちへのお仕置きは私のことでもないのに抱っこされて
いる私が逃げ出したくなる程でした。

 我が家の場合、お父様を怒らせた場合、パンツを剥ぎ取られて
お尻を叩かれるというのが一般的なのですが、お仕置きはなにも
お尻叩きと決まっていたわけでありません。ケースバイケースで
種類は色々だったんです。

 お庭や廊下に立たされたり、百行清書なんてのはまだ上品な方
で、悪さがすぎると、例えば自分の部屋のベッドでお浣腸の姿勢
でずっと待たされたり、お庭に自生しているイラクサをパンツの
中に仕込まれて登校させられたり、破廉恥な体罰もたくさん用意
してありました。

 イラクサというのは西洋のおとぎ話なんかに出てくるあれです。
これには刺毛と呼ばれる細かな毛がびっしりはえていますから、
歩くたびにお股にそれが刺さって大変なんです。

 ですから、家から見えない処でパンツから取り出し、学校近く
まで来たらまた入れ直す、なんてズルも上級生になると覚えます。

 登校した後は保健室へ行って先生からイラクサを取っていただ
くんですが、保健の先生からお薬を塗ってもらう処も恥ずかしい
場所ですし、何より半日くらいはそこが痛痒くて仕方ありません
でした。

 ですからクラスに戻ってからも、人目もばからずお股を掻いて
しまいます。
 すると今度は担任の先生から『美咲ちゃん、はしたないわよ』
ってことに……でも、本当に痒いんですからこれは仕方がありま
せんでした。

 ある時、先生に……
 「先生は、やられたことないから分からないのよ」
 なんて啖呵をきったら……
 「そんなことないわ。私も子供の頃は両親から散々やらされた
わよ」
 って言われてしまいました。

 どうやら『イラクサパンツ』というのはこの辺りでは伝統的な
子供のためのお仕置きのようです。

 その他にも、勉強中に居眠りなんかしていると、冷たい鉄板を
イスに敷かれて、そこに裸のお尻を乗せなければならなかったり、
オナニー癖のある子などはゴム製の貞操帯を締めさせられたりも
します。

 この他にも色々ありますよ。特に女の子は種類が豊富でした。
きっと大人たちは子どもにどうやってお仕置きしようか日々考え
ているんじゃないでしょうか。そのくらい女の子へのお仕置きの
種類はバラエティーに富んでいました。

 でも、そんな厳し過ぎるお仕置き事情も先生たちに言わせると、
最近は親が子供に甘いんだそうです。


 さて、話が脇道にそれてしまいましたが、さっきの続きです。

 同居していた遥ちゃんの部屋から元いたお父様の書斎へ、私が
荷物を運び入れると、お父様がさっそく私の学習机の前にご自分
のイスを置き、そこに腰を下ろして太股を叩きます。

 これ、
 『さあ、美咲、お勉強するよ、ここへいらっしゃい』
 というサインです。

 実は私、ここへ来て以来ずっとそうなんですが、ごく最近まで、
つまり六ヶ月前までお父様のお膝の上でしか勉強したことがあり
ませんでした。
 ひらがな、カタカナ、ローマ字、九九も四則の計算も、みんな
みんなお父様のお膝で覚えたんです。

 ですから、私にとって勉強するというのは、まずはお父様の膝
の上に乗ることから始まるのでした。

 「おう、随分重くなったなあ」
 お父様の意外そうな声。
 お父様のお膝は六ヶ月ぶりですが、その間にも私の身長や体重
は増え続けています。

 「やったあ~」
 六ヶ月前を思い出し、腰を浮かして小さく跳ね回る私。楽しい
記憶が蘇ります。この場所、私、嫌いではありませんでした。

 この懐かしいふかふか感。お尻の割れ目に当たる軟らかい棒も、
昔からのことですからね、気になんてなりません。

 私は施設から引き取られて以来。このお膝で育ったようなもの
でした。多くのお姉さまたちは新しい妹がやってくるとその後は
この場所をその子に明け渡さなければなりませんが、私の場合は
大きくなってもここがホームグラウンドでした。
 ここで勉強し、ここで食事をして、ここで着替えも済ませます。
もっと幼い頃はお風呂やトイレまでもお父様と一緒でしたから。

 これは私だけじゃありませんが、ここに呼ばれた子どもたちは
まずお父様のお人形となって人生のスタートを切るのです。

 ただ、私の場合その期間があまりに長いのでお姉さまたちから
『あなた、何から何までお父様で、よく恥ずかしくないわね?』
なんて呆れられてましたけど、私は『それがどうして悪いの?』
って居直ってました。

 だって、食事も、着替えも、お風呂も、トイレも……もちろん
全部独りでできますけど、大好きなお父様にやってもらえるなら、
そっちの方が楽だし楽しいんですもの。だから自分からお父様の
お膝を下りるつもりはまったくありませんでした。

 そのうち『私はお父様にとって特別な存在』なんて特権意識も
芽生えちゃったりします。もちろん、それは勘違いなのですが。


 この夜の私は算数のドリルや漢字の書き取りで2時間びっちり
絞られます。

 実はこのイス、身体の自由がききませんし、勝手に休憩もとれ
ません。おまけに勉強が終わる頃には、私とお父様の体温で全身
汗びっしょりです。決して快適な環境じゃありません。
 おまけに私は勉強が好きじゃありませんから、その間はずっと
大変な思いでした。

 「ほら、よそ見しないの」
 「抱っこされてると頭だってお父様の胸の中から動かせないの。
よそ見なんてできないでしょう!」
 私は口を尖らせます。

 「ほら、またあくびして……あくびなんかしてる暇ないよ」
 「仕方ないじゃない出ちゃうんだから。これは止められないの」
 私はスリッパを履いた足でお父様の向こう脛を蹴ります。効果
ありませんが……。

 「もっと集中して……ケアレスミスが多くなったよ」
 「やってるよ。これが私の精一杯。もう、これ以上無理なの!」
 身体全体をブルブルっと震わせます。これってせめてもの抵抗
でした。

 私はお父様が何か言うたびにぶつくさ。素直じゃありません。
よい生徒じゃなかったんです。
 でも、これもまた幼い日から続くいつもこと。お父様を本当に
イヤイヤしているわけではありませんでした。

 お父様のお膝はいつもふかふか。小さく上下に体を揺さぶると
楽しいですし、大きなお父様の胸の中にセットされた私の背中は
安心感でいっぱいです。
 一瞬のすきを見つけて厚い胸板に横顔を押し付けるなんてのも
心が癒されることでした。

 この時の私はお父様によってどうにも身動きできないほど拘束
されているわけですが、幼い頃からこうやって勉強してきた私に
とっては、これがもっとも落ち着く場所でもあったのです。

 それだけじゃありません。お勉強が終わった後にお父様のお膝
の上で汗を拭いてもらい下着を取り替えるのも私にとってはお気
に入りのひと時でした。

 もちろんそれって、私の心がまだ子供だから成立していた関係
なんでしょうけど。私の周囲には性の情報が何もありませんから
お父様を性の対象として見たことなど一度もありません。
 性の歩みは今の子よりずっとずっとゆっくりでした。

 ただ、そんな私も歳を重ねます。性の情報はなくてもこの頃に
なると本人も気づかないうちに大人の入口に辿り着いていました。

 2時間後……

 「よし、よく頑張ったね。じゃあ、……今日はここまでにして、
ネンネしようか」

 お父様はそう言うと私を膝の上に立たせます。幼い頃と違って
この頃になると身体もだいぶ大きくなっていましたから、これは
大変な作業だと思うのですがお父様は人形が見上げるほど大きく
なってもお構いなしでした。
 わざわざ不安定な膝の上に私を立たせて服を脱がせ始めます。

 私も幼い頃からやっていますから要領はわかっています。
 危なくなれば近くにある本棚の棚を掴んでバランスをとります。
どこかアクロバティクな着替え。でも不思議と膝から転げ落ちる
なんてことはありませんでした。

 我が家ではシャツもパンツも脱いでパジャマだけで寝る習慣に
なっていましたから、着替えの途中私は真っ裸になります。当然、
裸になった私の体はお父様の目と鼻の先に晒されるわけで、その
鼻の先が私のビーナス丘やお臍に当たるなんてことも……。
 ですから、ひょっとしたらそれが目的だったのかもしれません。
お父様、あれで結構スケベでしたから。

 ただ、私とお父様の間にはそれ以上何も起こりませんでした。


 着替えが済んだ私は、そのまま抱きかかえられて、高い高いを
されたり、肩車されたり、頬ずりされたり、お父様がひとしきり
私をお人形さんにします。
 それは、お父様の楽しみであり、私の楽しみでもありました。

 そうやってから一緒の布団に入るのです。

 これってお勉強頑張ったご褒美なんですから、私としては純粋
に嬉しいことなんです。そりゃあ他の人に見られれば恥ずかしい
ことなのかもしれませんが私とお父様だけの場所なら私には何の
問題もありませんでした。

 ところがその夜は久しぶりのお着替えで緊張したのか、下着に
お父様の手が掛かった瞬間、私の顔が一瞬曇ります。

 『えっ!!』
 どぎまぎする私。
 それって、当の私にも説明できない心の動きでした。

 きっと、それまで一度も意識したことのなかった私の性がその
瞬間だけ、人生で初めてうずいたんだと思います。
 いくら外からの情報が無い私でも女の子としての身体が素直に
反応したわけです。

 もちろん、お父様が自分とは違う性であることは私だって幼い
頃から知っています。知ってはいますが、それを体で感じたこと
なんて一度もありません。この時が初めての経験でした。

 私はほんの一瞬顔を曇らせただけでしたが、でもそんな微細な
変化にもお父様は気づきます。

 「どうしたんだい?私の顔に何かついているのかな?」
 お父様は苦笑い。

 「んんん」
 私は首を振ります。
 そして……
 「何でもない」
 私はそう言って素っ裸でお父様に抱きつきます。

 この時、ほんのわずかに膨らみかけていた幼い胸の先がお父様
に触れます。すると、また、あの電気信号が起きました。
 でも、ヴィーナスの丘はスベスベで産毛だけ。若草もまだ萌え
だしていません。
 そんな体で私はお父様に体当たりします。

 「……(う・れ・し・い)……」

 いつものようにお父様に抱きしめられた時、さっきまであった
胸の疼きは消え、いつもの安らぎが戻っていました。

 ん~~~これって、ファザコンというやつでしょうか?

 かもしれません。ただ、私だけじゃなくうちの姉妹はみんなが
そうだった気がします。お母様がいない家にあってお父様は神様
みたいなもの。力も優しさも兼ね備えた絶対的な愛の中心地なの
です。
 誰もが逆らえないだけじゃありません。誰もがその愛を目指す
ことになるのでした。

 『お勉強は大変だけど、ここでお父様に抱いてもらえるのは、
そんな辛い時間を我慢したご褒美』
 私はお勉強を当時そんなふうに考えていました。

 そして、そのフレーズはお仕置きの時も同じでした。
 『お仕置きは大変だけど、辛い時間を耐えたらお父様はきっと
次の瞬間は優しくしてくれる』
 実際、お父様は私の期待を一度も裏切りませんでした。

 我が家ではお勉強もお仕置きも最後は必ずお父様の抱っこの中
でハッピーエンドを迎えることになるのでした。

 ですから、私にとっては膝の上でのお勉強も膝の上でうつ伏せ
になるお尻叩きも同じ出来事(?)。お父様から幸せを得るため
の儀式だったのでした。


**********<4>**************

小暮男爵 ~第一章~ §5 朝のお浣腸

小暮男爵/第一章

***<< §5 >>****/朝のお浣腸/*****

 お父様と私はお勉強を終えると、その後は一緒の布団で寝ます。

 タオルケットでぐるぐる巻きにされて、その身体をギューって
もの凄い力で締め上げられながら、私は学校の事を話しお父様は
ご自分の昔話をなさるのです。その時、ベッドで聞いたお父様の
お話は、脚色もあるでしょうけどまるで童話のように楽しいお話
ばかりでした。

 子供の頃悪戯ばかりしていてよくお尻を鞭でぶたれていた話や
ヨーロッパへ留学していた頃ラグビーの試合で気絶して優勝した
瞬間は覚えていないこと、ヨーロッパのお姫様と秘密のデートを
重ねた思い出、ヨットが遭難して無人島で一週間も過ごしたこと
など色々です。

 どれもこれも面白くて私を興奮させます。
 そして、その興奮がひとしきり収まった頃、私はお父様の胸板
に鼻の先をちょこっとだけ着けて眠りにつくのでした。


 翌朝、
 私は起きると、すでに自分が真っ裸にされていることに気づき
ます。
 ま、それ自体そんなに珍しいことではないのですが……

 『あっ!』
 焦った私はタオルケットを強く引き寄せましたが、どうやら、
それに気づいてお父様も目が覚めたみたいでした。

 「おっ、起きたか」
 ご機嫌な笑顔が目の前に……

 「おはようございます」
 私はちょっぴりくぐもった声になりました。

 「はい、美咲ちゃん、おはよう」
 お父様は私の鼻の頭を撫でただけでしたが、その瞬間、あの時
の胸の痛みが再び現れました。

 『そうか、これって、恥ずかしいってことなんだ』
 私はこの『ドキッ』という衝動が恥ずかしいという感情なんだ
と、この時初めて知ったのでした。
 だって、これまではお父様に限り恥ずかしいなんていう感情は
起きませんでしたから。

 えっ、そんなの変ですか?
 でも、そうなんですよ。

 我が家でのお父様というは、昨今流行の『足長おじさん』風と
か、『親切な他人』風といった軽い存在なんじゃなくて、聖なる
存在、まるで神様みたいなものなんですから。

 だって、この家ではどんなに強そうな下男もどんなに賢そうな
家庭教師もお父様の前ではかしこまっています。大人でも誰一人
逆らえませんから一番偉い人のはずです。ましてや何の力もない
子供の場合はなおさらでしょう。
 私たちができることは愛想よくしていることだけでした。

 子どもたちにとってお父様というのは、その存在が空気みたい
に当たり前で、かつ宇宙みたに巨大なものですから、それが無く
なるとか、そこから離れようなんてそもそも考えることがありま
せん。

 たとえお仕置きにあっても、それは友だちとの喧嘩なんかとは
違って、これはもう自然災害みたいなものですから、諦めるしか
ないということになります。
 だって、降りそそぐ雨に向かって「どうして雨が降るんだ!」
って叫ぶ人はまずいないでしょう。

 その代わり普段たっぷり愛されていますから、お仕置きだけを
とりあげて「私は不幸だ~」って嘆く必要もありません。
 どんなに厳しいお仕置きになったとしても私がお父様を恨むと
いうことにはなりませんでした。

 もし、あなたが自分以外誰一人いなくなった地球で、素っ裸に
なったとしましょう。それって恥ずかしいと感じるでしょうか。
私とお父様の関係って、そんな異次元の関係だったんです。

 そんな人間関係では、他の人の前でなら必ず起きる事が起きま
せんでした。恥ずかしいという感情が起きないのです。
 私はこれまでお父様の前でなら素っ裸になっても特別に感じる
ことは何もありませんでした。

 ところが……
 そのお父様の前で、今、恥ずかしいと感じる。そんな当たり前
のことが、この時初めて起こったのでした。

 でも……

 「ん・どうした?恥ずかしいのか?」
 お父様の方からせっかくそう問いかけてくださったのに、私は
首を振ってしまいます。
 それは、自分の気持が何なのか、その時はまだ確信が持てない
からでした。

 それに気をよくしてか、お父様が……
 「よし、それじゃあ、今日は、まず浣腸しようか。河合先生の
お話では、ここ三四日はお通じがないっておっしゃってたから。
私もさっきお腹を押してみたけど、美咲ちゃんのお腹、やっぱり
張ってるみたいだよ」

 お父様はまだ寝ぼけ眼だった私が一瞬にして飛び上がるような
ことを軽る~く言ってのけます。
 それを聞いた私の目は点になっていました。

 私は茫然自失のまま、お父様が河合先生を内線電話で呼び出し
いるのを聞きます。
 「あっ、先生。美咲にカンチョウしようと思うんですが、今、
お手伝いいただけますか?……あっ、そうですか、お願いします」

 慌てた私は思わず全裸でベッドの脇に仁王立ち。
 でも、そこから先は、体が動きませんでした。

 いえ、本心はこの部屋から逃げ出したいのですが出来なかった
のです。

 そもそも私の場合、たとえ自分のことでなくとも『カンチョウ』
という言葉を聞いただけで、やはり全身鳥肌、全身金縛りでした。

 今、身動きはできませんが、頭の中では不幸の記憶がぐるぐる
回っています。
 苦々しい思い出が次々に蘇って仁王立ちの私を苛むのでした。


 お浣腸でまず嫌なのがあの姿勢です。特に私の家では赤ちゃん
がオムツ換えをする時のような仰向けで両足を高く上げる姿勢で
やらされますから、その瞬間は、無防備で何一つも隠せません。
お父様はともかく、たとえ同性の河合先生でもあそこを覗かれる
のは恥ずかしくてたまりませんでした。

 次はお薬が入ってくるあの瞬間です。お尻の穴に差し込まれた
ガラス管の冷ややかな感触やそこから発射されたグリセリン液が
直腸を逆流していくあの感触。恥ずかしい姿勢ともあいまって、
心は屈辱感でいっぱいになります。

 おまけにお薬の注入が済んでもすぐにトイレへは行けません。
 次は、オムツを当てられて、ウンチを出るのをできるだけ我慢
しなければなりません。たいていはお父様に抱っこされた状態で、
目を真っ赤にして見開き、お父様の襟の辺りを必死に握りしめて
我慢することになります。

 その苦しいことと言ったら、マジで死ぬ思いです。

 ところが、そんな悲痛な思いとは裏腹にお父様の胸の中であや
されていると、そこには別の感情もわきます。安らぎというか、
恍惚感というか、お酒に酔ったみたいというか、とにかく不思議
な気分です。
 この瞬間は私の心の中で天国と地獄が同居しているようでした。

 『もし、穿かされたオムツにやってしまったら……』

 そんな超恥ずかしいことが頭の中を支配するなか、それが一瞬、
とても楽しいことをやっているようにも感じられたりして………
でも、今度はそんな事を思っている自分に気づき、思わずゾッと
して我に返る。
 とにかくお浣腸というのはそんなことの繰り返しだったんです。

 とにかくあれをやられた時は必死に頑張るより道がありません
でした。

 お父様は、娘のことだと思って…
 「大丈夫、大丈夫、どうにもならない時はお漏らししてもいい
から。お父さんだっておまえのオムツ替えくらいしてあげた事が
あるんだよ」
 なんて気楽におっしゃいますが、それはもちろん私が赤ちゃん
の時のことです。こんなに大きくなってから、そんなの絶対に嫌
でした。

 もしこの事がお姉さまたちに知られたら……
 『わあ、この子、普段から赤ちゃんみたいだと思ってたけど、
本当にお漏らしするなんて、姉妹の恥さらしだわ』
 なんて生涯言われ続けるかもしれません。恥ずかしくて、私、
この家で生きていけなくなります。

 私が恥ずかしくないと言ったのはあくまでお父様と二人だけで
いる時だけ。他の人に対しては、みんなそれなりに恥ずかしいと
いう気持を持っていました。


 やがて河合先生が部屋にやってきて手際よく準備を始めます。
注射器を一回り大きくしたようなシリンダー浣腸器や茶色の薬壜
に入ったグリセリン溶液。洗面器にタオル、着替え、オムツ……
私専用のオマルまでがあっという間に目の前に現れたのでした。

 「よし、準備ができたから始めようか。うんちもここでやって
しまおうね」
 お父様の声に気がつくと私はお父様から抱っこされています。

 「いや、私、トイレ行くから」
 私は最後の力を振り絞ってお父様の胸から出ようとしますが、
果たせませんでした。

 「ほら、暴れないの。ちょっとだけ我慢すればいいことなんだ
から」
 その瞬間はすでに放心状態だったのかもしれません。お父様の
声が遠くに聞こえていました。

 もちろんこんなこと、拒否できるものならしたいところですが、
そこは悲しき小学生。お父様がいったんやるとおっしゃったら、
私がそれを拒否なんてできませんし、逃げ出すこともできません。
 そもそもここを逃げ出したとしても私にはどこにも行くあてが
ありませんでした。

 「ねえ、やめて……お願い……ねえ、やめようよ。恥ずかしい
もん」
 私はお父様におねだり声で擦り寄りますが……

 「大丈夫だよ。見てるのは、お父さんと河合先生だけだもん。
それともサッチャン(お手伝いさん)にも手伝ってもらおうか?」
 
 「いや、絶対にいや。…ねえ、これって私へのお仕置きなの?」

 「オシオキ?……いや、そんなつもりはないけど…………ああ、
昨日のことね。たしかに、お父さんと一緒に暮らすこの一週間は
今までより大変かもしれないけど、それは美咲ちゃんにきちっと
した生活習慣を身に着けて欲しいからなんだ。遥ちゃんは、まだ
自分の事で手一杯みたいだから美咲ちゃんは私が手助けしなきゃ
って思ったんだよ」

 「じゃあ、このお浣腸はお仕置きじゃないの?」

 「もちろんそうだよ。お腹に老廃物が溜まってるのは健康にも
よくないからね。いらないものは出してしまわないと」

 「いらないものって……私、わざと溜めてるわけじゃないし…」
 声が小さくなります。

 「それにだ。最近、美咲ちゃんがお友だちと喧嘩したり学校の
成績がイマイチだったりするのも、便秘でお腹が重くるしくて、
ストレスになってるからじゃないかと思ったんだ」

 お父様の言葉には、それなりに説得力がありますが、だからと
言ってそれをあっさり認めるわけにはいきません。

 「そっ……そんなことないよ。わたし全然平気だよ。……関係
ないよそんなこと……ほんのちょっとだもん」
 私は慌てて否定しますが……

 「そう、ほんのちょっだけなんだ。だったら、やっぱりお腹は
張ってるんだ」
 
 「だから大丈夫だよ。そんなことでお友達と喧嘩なんてしない
し、勉強ができないなんてことないもの」
 私は必死に訴えますが……

 「でも、お腹が張ってるのは自分で分かるんだろう?」

 「それ……は」
 私が口ごもると、その後はそのまま押し切られてしまいます。


 素っ裸のままお布団の上に仰向けになって、両足を高く上げ、
その上げた両足が下りないように自分の太股を自分の両手でしっ
かりと支えます。

 やがて大きな注射器のようなガラス製の浣腸器の先が私のお尻
の穴を突き刺すのですが、それを待つこの瞬間が一番嫌でした。

 全てがあからさまになって隠すところがないなんて、逃げ場が
どこにもないなんて、女の子にとっては人格崩壊です。
 
 「さあ、いくわよ。力抜いて」
 河合先生の声がして、ガラス製浣腸器の先端が私のお尻の穴を
突き刺します。

 幼い頃の私はお浣腸が嫌で嫌で仕方がありませんから、先端の
ガラスがお尻の穴に触れた瞬間、肛門を閉めて必死に抵抗した事
がありました。

 ところが、ある時お父様がそれに怒って、ここにお灸をすえた
ものですから、それ以来、ガラス管が私のお尻を突き刺すたびに
涙がこぼれます。

 それって火傷するほどではなくあくまで戒めとしてのショック
療法、脅かしなんですが、女の子にとってお股は聖域ですから、
心の傷は残ったみたいでした。

 お父様は私たちを養女にしていますが、年代的に言うとお父様
と言うより御爺様世代。ですからお灸なんていう古風なお仕置き
もお父様の中ではいまだに現役だったのです。

 お灸は艾の大きさによって体罰としての程度はさまざまですが、
総じてキツイお仕置きの一つでしたからいつもいつもというわけ
ではありませんでした。

 ただ、ここぞという時は、他の姉妹をわざわざお部屋に招いて
から行いますから熱いのと恥ずかしいのが一緒になった公開処刑
です。その光景はどの子にとっても生涯忘れることができません
でした。

 お灸をすえられた回数は人によってさまざま。一学期に一回は
必ずというお転婆さんもいれば、一年か二年に一回あるかないか
というおとなしい子もいます。

 ただ、ここを巣立つまでの間に一度もすえられたことがないと
いう子はいなかったんじゃないでしょうか。
 どの子の肌にも、確かにお父様に育てられましたという証しと
しての灸痕が身体のどこかについていました。

 特に私がやられた肛門へのお灸はとびっきり熱くて、しばらく
はウンチをするたびにそこが沁みますから他のお灸のお仕置きに
比べても大変重いものだったのです。

 このため、ピストン式のガラスの先端がお尻の穴に当たると、
最初は必ず肛門を閉じますが、すぐにそれを思い出して緩めます。

 最初はお浣腸をされたくない一心で肛門をきつく閉じてしまう
のですが、すぐにそれがどんなに厳しいお仕置きに繋がっている
かを思い出して今度は反射的に肛門の筋肉を緩めてしまうのです。

 ならば最初からお尻の筋肉を緩めたままにしておけばよさそう
ですが、それがそうもいきません。
 実はこの一連の作業、頭で判断していたというより、ほとんど
無意識にこうなってしまうのでした。

 『んんんんんん』
 お薬が入ってくる瞬間は毎度毎度何ともいえない不快感です。

 『あ~~トイレ、トイレ』
 私は心の中で叫びます。

 お薬の注入が終わると、すぐにオムツが当てられ、私の身体は
河合先生からお父様に引き渡されますが、この時はすでにトイレ
へ行きたいという状態になっていました。

 『わ~~~だめ~~~』
 グリセリン溶液は即効性がありますから、すぐに効果がでます。
それももの凄い勢いでお腹が下りますからたちまち全身脂汗です。
 そんな状態でも、すぐにおトイレへ行けるわけではありません
でした。

 5分、10分、いえ、時には20分もお父様の胸の中で我慢を
続けなければなりません。

 「ああ、いい子だ。でも、もうちょっと我慢しようね」
 私を河合先生から受け取ったお父様は、玉の汗をかきながらも
パジャマの襟を必死になって握りしめる私の顔を優しく見つめま
す。

 「ああ、いい子だ、いい子だ。頑張れ、頑張れ、もう少しだよ」
 お父様は10歳を越えた娘をまるで赤ん坊のようにあやします。

 「………………」
 おしゃべりな私はお仕置きの最中ですら余計な一言を言っては
お父様をさらに怒らしたりするのですが、さすがにこの時ばかり
は何一言も声がでません。
 もし、何かしゃべったら、それがきっかけで飛び出してしまい
そうなんで、さすがの私も無口になるしかありませんでした。

 『お浣腸』って体(てい)の良い拷問みたなものなんのです。

 ところが、お父様はそんな時でも私を赤ちゃんに見立てて笑わ
そうとします。
 「ほら、美咲ちゃん、笑ってごらん。ベロベロばあ~」

 「いやっ……やめて……」
 私は不快といった感じでその瞬間はお父様を睨みます。

 でもそんな顔は長く続きませんでした。お父様のそんな百面相
を見て笑い上戸の私がつられて笑ってしまいますから……

 「ほら、笑ったあ~」
 お父様はご機嫌でした。

 実際、こんなにも大変な状況なのに傍目には微笑ましい光景と
感じられる不思議な世界もありました。

 さて、お父様からそんな風にしてオモチャにされているうち、
大人用の量を入れられた私のお腹はどうにもならないところまで
きてしまいます。

 お父様のパジャマの襟を必死に掴んで耐えられるだけ耐えては
きたものの、今さらオムツを外されてもトイレへ駆け込む時間は
残っていないと自分で分かります。

 だって、その間に爆発しちゃいますから……

 そんなこんなはお父様もよくご存知でした。
 そこでお父様が空気イスで私を支え、私は室内便器(オマル)
で用をたすことになります。
 トイレットトレーニング時代の赤ちゃんが『ママ、ウンチ』と
言ってやってもらう、あれと同じ姿です。

 終わると素っ裸の私は涙目で嫌なことをしたお父様の大きな胸
を叩き続けますが、その身体が再びお父様の抱っこの中へと吸収
されてしまうと、私はその胸中で隠れるようにまた笑ってしまう
のでした。

 自分でもなぜこんな時に笑ってしまうのかわかりません。
 でも、この時代はまだそんな笑いを押さえることができません
でした。

 私はお外では小学校高学年の女の子です。自分で言うのも変で
すが、わりとしっかりした少女です。でも、お父様との間では、
私の心は依然として幼い頃のまま。お人形のままでした。

 「さあ、抱っこしてあげよう」
 なんてお父様に言われると、その誘惑に勝てません。どんなに
怒り心頭に達している時でも、お父様のこの一言で簡単に擦り寄
ってしまうのです。
 これは理性を離れてどうしようもないことでした。

 そんな様子を見続けてきたお父様はこのフレーズを多様します。
要するに私はまだ赤ちゃんだと思われているわけで、私がお父様
に一人前の娘として認められ色んなことに自由が与えられる日は、
この時点ではまだまだ遠い先のように思われるのでした。

***********<5>*************

小暮男爵 ~第一章~ §1 / 旅立ち

小暮男爵/第一章


<<目次>>
§1  旅立ち        * §11 二人のお仕置き②
§2 お仕置き誓約書   * §12 ランチタイムの話題
§3 赤ちゃん卒業?   * §13 お父様の来校
§4 勉強椅子       * §14 お仕置き部屋への侵入
§5 朝のお浣腸      * §15 お股へのお灸
§6 朝の出来事      * §16 瑞穂お姉様のお仕置き
§7 登校          * §17 明君のお仕置き
§8 桃源郷にて       * §18 天使たちのドッヂボール
§9 桃源郷からの帰還  * §19 社子春たちのお仕置き
§10 二人のお仕置き① * §20 六年生へのお仕置き



*****<< §1 >>****/旅立ち/*****

 その日、私は孤児院の庭で大きな木にぶつかりました。
 見上げると雲衝く大男が私を見下ろしています。
 私は不安げに笑いましたが……すると、三歳になったばかりの
私はいきなりその大男に抱きかかえられます。

 それが、男爵様との最初の出会いでした。
 そして、その時、地面を離れた足が再び施設の土を踏むことは
ありませんでした。

 私は男爵に抱きかかえられたまま孤児院の園長先生にお別れを
言い、そのまま黒塗りのシボレーに乗せられます。

 いきなりの環境の変化。でも、私は泣かなかったそうです。
 私は男爵様の膝の上でまるで何事もなかったかのように変わり
ゆく車窓の景色を眺めていました。

 そうやって連れて来られたのは横浜の山の中にあった男爵様の
別荘。
 別荘と言っても、そこが男爵が住まう家であり、私たち養女、
養子たちが生活する家でした。

 その建物に入り居間のソファまでやって来て私はようやく足を
地面に着けることができます。
 「いいかい、ここが今日からお前の家だ。まずは兄弟(姉妹)
たちを紹介しようね」

 男爵はそこにずらりと居並ぶ新しい兄弟を紹介していきます。
 ただ、いきなり起こった変化の中で私はそれを理解することが
できませんでした。きっと、紹介された十人の兄や姉たち、その
誰一人覚えることがなかったと思います。

 ただ、誰かが……
 「もっと可愛い子かと思ってた」
 という問いかけに男爵が…
 「可愛いじゃないか。何よりこの子は芯が強そうだ。車の中で
一度も泣かなかった」
 と言われ、お父様から頭を撫でられたのを覚えています。

 次は突然のことでした。

 『あっ』
 私はパンツを脱がされるとまるで岩山のような男爵の膝の上に
腰を下ろします。どうやら、その場でお漏らしを始めたようで、
周囲の大人たちが慌ててタオルや替えのパンツを用意し始めます。

 でも、そのことに私は慌てていませんでした。
 というのも、当時の施設ではパンツが濡れたまま遊んでいる子
なんて珍しくないからです。

 「乾くまで待ってればいいのに……」
 私が思わず発してしまった言葉に、周囲はどん引きしてしまい
ます。
 が、男爵様だけは笑っています。
 私もそんな男爵様の顔を不思議そうに見ていました。

 そんな物怖じしない性格が気に入ったのか男爵様はノーパンの
私をさらに強く引き寄せ優しく頬ずりを繰り返します。

 実はこの男爵様、ペドフェリアの傾向があって、子どもたちも
その性癖を満足させるためにここに集められていたのでした。
 いわゆる『子供妾』と呼ばれるやつです。

 ですから養女と言っても、私たちに男爵の財産を相続する権利
はありません。ただ、食べさせてもらい、着させてもらい、住ま
わせてもらうだけの存在でした。

 そうですね、私が得られた報酬らしいものといえば、しっかり
とした教育を受けさせてもらった事とお婿さんを探してもらった
事くらいでしょうか。

 そうそう『男爵様と知り合い』というのも社会に出てから結構
役に立ちました。おかげで、大人になってからも路頭に迷うこと
なく暮らせましたから。そういった意味での報酬はあったみたい
です。

 ただ、男爵はみずからの性欲の満足のために子どもたちを受け
入れているわけですから、実のお子さんのように『蝶よ花よ』と
いうわけにはいきません。
 私たちの生活は沢山の規則で縛られていて、些細な罪も厳しい
体罰で精算することになっていました。

 痛い罰、恥ずかしい罰もここでは日常茶飯事です。
 ですが、不条理な罰というのだけはありませんでした。

 罰には立派な理由がついていて、規則どおりに暮らしていれば
体罰の心配はありません。
 それができない時に厳しいお仕置きとなるわけです。

 ならば安心と言いたいところですが、そうはいきません。
 何しろ相手は子ども。大人と違って分かっていても色んな事を
やらかしますから、お仕置きを受けずに暮らすというのは事実上
不可能だったのです。

 どんなに注意深く慎み深い生活していても、二週間、三週間、
いえ一月に一度くらいは必ず男爵家のお仕置き部屋で泣き叫ぶ事
になるのでした。

 いえ、これは家庭だけじゃありません。
 学校も同じでした。

 養女となった私たちが通う学校はお父様と同じ性癖を持つ方々
が資金を出し合って作った小学校や中学校。よって、お仕置きも
毎日の恒例行事です。何しろお父様たち公認なんですから幼い子
にも容赦はありませんでした。

 お父様たちに協力的な先生方のもと、子供たちは色んな理由を
つけられてはぶたれます。まるで森でさえずる小鳥たちのように
子供たちの悲鳴が人里離れた山の中に響きます。

 それだけじゃありません。学校の敷地に一歩でも入り込めば、
他では絶対に見られない破廉恥なお仕置きが目白押しでした。

 もちろんここは文部省が認可した正規の私立学校ですよ。でも、
ここへ入学できるのは特別な性癖を持つお父様方が吟味に吟味を
重ねた子供たちだけ。

 クラスメイトだってつまりは同じ身の上なわけですから私たち
には比べるものがありません。つまり私たちは自分たちのことを
ことさら不幸と感じる必要がありませんでした。

 住めば都という言葉があるように、私たちにとってはこの山里
がふるさと。男爵様の家が我が家。男爵様が用意してくれたこの
世界でみんな一緒に暮らしていた。……そんな感じでしょうか。

 すべての幸せは男爵様の手の中にあったのかもしれませんが、
それで私たちは十分幸せでした。

 厳しいお仕置きがあると言っているのに幸せだなんて、不思議
ですか?変ですか?

 だってどんなに厳しいお仕置きがあったとしてもそれは生活の
中のほんの一コマ。大半の時間は優しいお父様にたっぷり甘えて
暮らしていたわけですから、差し引きすれば不幸より幸福感の方
が遥に大きいわけです。

 お仕置きがあってもなくても、施設に戻りたいだなんて思った
ことは一度もありませんでした。

**********<1>*************

小暮男爵 ~第一章~ §2 / お仕置き契約書

<主な登場人物>

 学校を創った六つのお家
 小暮
 進藤(高志)(秀子)
 真鍋(久子)
 佐々木
 高梨
 中条


 // 小暮男爵家 //
 小暮美咲<小5>~私~
 小暮遥 <小6>
 河合先生<小学生担当の家庭教師>
 小暮 隆明<高3>
 背が高く細面で彫が深い。妹たちの間では
 もっぱらハーフではないかと思われている。
 小暮 小百合<高2>
 肩まで伸びた黒髪を持つ美少女。
 凛とした立ち居振る舞いで気品がある。
 小暮 健治<中3>
 小暮 楓<中2>
 小暮 朱音(あかね)<中1>
 武田京子先生<中学生担当の家庭教師>
 小暮 樹理<大学2年生>
 今は東京で寮住まい。弁護士を目指して勉強
 している。


 // 聖愛学園の先生方 //
 小宮先生<5年生担当>
 ショートヘアでボーイッシュ小柄
 栗山先生<6年生担当>
 ロングヘアで長身
 高梨先生<図画/一般人>
 創設六家の出身。自らも画家
 桜井先生<体育/男性>
 小柄で筋肉質。元は体操の選手
 倉持先生<社会/男性>
 黒縁メガネで頭はいつもぼさぼさ
 榎田先生<理科/男性>
 牧田先生<お隣りの教室の担任の先生>
 大柄な女の先生。陰で男女(おとこおんな)
なんて呼ばれることもある怖い先生。
 中井先生<家庭科/女性>
 本来の仕事のほかに頼まれるとお灸のお仕置きも
こなす生徒には怖い先生。
 黒川先生<校医/男性>
 温厚なおじいちゃん先生

 //6年生のクラス<担任/栗山先生>//
 小暮 遥
 瑞穂のライバル。飛び降りは参加せず。
 進藤 瑞穂
 学級委員、でもけっこうヤンチャ。
 佐々木 友理奈
 高梨 愛子
 飛び降りは参加せず
 中条 留美
 飛び降りは参加せず
 真鍋 明(男)

 //5年生のクラス<担任/小宮先生>//
 小暮 美咲
 中条 由美子
 高梨 里香
 真鍋 詩織
 お下げ髪、三つ編みを両耳で垂らし先端に
毎日色代わりの小さなリボンをつけている。
 佐々木 麗華
 進藤 広志(男)<家庭教師/会田先生>
 絵が得意。鷲尾の谷はお気に入りのスケッチポイント。


****<< §2 >>***/お仕置き誓約書/***

 小暮家にやって来てからというもの私は一日の多くをお父様の
抱っこの中で過ごしていました。
 私がそう望んだのではありません。リタイヤしたお父様が暇を
もてあましていて幼い私を手離そうとしないのです。

 私は独りになりたくてイヤイヤしたことが何度もあったようで
すが、そんな時でも一時的に河合先生が預かるだけで、またすぐ
にお父様の腕の中に戻されます。

 最初の頃はお遊びの時間はもちろん、食事、お風呂、おトイレ
……そのすべてが一緒の暮らしでした。
 こちらはそうした生活に無理やり慣らされたといったところで
しょうか。

 3歳という年齢を考えればそうした親子もそう不思議でないの
かもしれませんが、幼児期を過ぎてもお父様は私を離しません。

 お父様は、昼間ゴルフに出かけたり、書斎で書き物をしたりと
いう生活でしたが、その場所にもお父様のお人形として私は常に
参加していました。
 そんな時、私の面倒をみるお母さん役が河合先生になります。
彼女は私が幼い時はナニーとして、少し成長してからは家庭教師
として私を支えてくれたのでした。

 それにしてもいつもお父さんと一緒だなんて楽しそうですか?

 いえいえ、そこはそんなにこれは快適な生活ではありませんよ。

 お父様が私を抱く時、そこはゴツゴツとした岩のような筋肉の
ベッドですし、まるで束子のような顎鬚が私の頭や顔にチクチク
当たります。おまけに男性特有の体臭が鼻を突きますから思わず
顔をしかめます。
 母親に抱かれる時ような優雅な世界ではありませんでした。

 幼児にとって、むしろそこは過酷な場所。愛情を押し売りして
くるありがた迷惑な世界だったのです。

 ただ、いいこともありました。
 それは、ここがこの小暮家にあっては最も安全な場所だったと
いうことです。

 というのは、小暮家の子供たちになったら避けて通れないはず
のお仕置きが、お父様に抱かれている私には一度もありませんで
した。

 そりゃあそうでしょう。お父様に四六時中抱かれている私は、
この家では赤ちゃん扱い。そんな赤ちゃんに、体罰を仕掛ける人
なんて誰もいませんから。

 その一方で人畜無害だと考えられていた私が、お姉さまたちの
お仕置きを見学する機会はよくあります。

 躾の厳しい小暮家では、娘といえどお父様の前でパンツを脱ぐ
のは当たり前。お臍の下を裏表しっかりチェックされたり、その
中までも検査されます。

 そうやって近々にお仕置きされていないことをを確認してから
平手や竹の物差しでお尻を叩かれるのです。

 強くは叩きませんがそれでも悲鳴があがることはよくあります。
時には女の子全員を集めてその前でお仕置きなんてことも。

 それだけじゃありません。お父様の家では特に女の子に対して
お浣腸やお灸がなされることも少なからずありましたから、その
恥ずかしさは半端ではありませんでした。

 今なら、これらは『虐待』という領域なのかもしれませんが、
当時は少しぐらい度を越したお仕置きでも、それは父親の権利で
あり愛情。躾の為にはやむを得ないと考えられていましたから、
非難する人は稀だったのです。

 ですから決して理由なくお仕置きするわけではありませんが、
お父様が躾の為にこれは必要と判断すれば、子どもたちはその後
厳しいことになります。

 私は、最初の頃、そうした悲劇の様子をお父様の腕の中でただ
ただ楽しく見学していたのでした。

 というのも、それがどれほど痛いのか、どれほど恥ずかしいか、
そもそもお仕置きをされたことのない私にはわかりません。
 ですから気楽なものなのです。お姉さまの悲鳴や悶絶にも私は
笑顔や拍手で答えます。

 お父様の腕の中から垣間見るお姉さまたちの地獄絵図も幼い私
にとっては退屈しのぎ見せ物(ショー)にすぎませんでした。


 さて、それではこの小暮家の娘たち、いったいどんな時にお父
様からお仕置きされるのでしょうか。
 これには、だいたい四つのパターンがありました。

 『宿題や勉強を怠ける』
 お父様は女の子だから学問はいらないとは思っていませんから
成績が落ちるとお仕置きです。

 『嘘をつく』
 特に自分を守る為につく嘘には厳しい結果が待っていました。

 『お父様や学校の先生、家庭教師、お姉さまなどはもちろん、
庭師や下男、賄いのおばちゃんに至るまでおよそ自分より年長の
人は全て私たちより偉い人というルール』
 家の娘なんだから使用人の名は呼び捨てで構わないなんていう
お嬢様ルールはここにはありません。目上の人は誰であっても、
『○○さん』と敬称を付けて呼ばなければなりませんでした。

 そして、お父様が何より気にしていたのが兄弟の仲でした。

 『兄弟げんかは理由のいかんに関わらずタブー』
 取っ組み合えば無条件で悲鳴が上がるほどのお尻叩きです。
 特に自分より年下の子をいじめようものなら、その結果は悲惨
というほかありませんでした。

 血の繋がらない兄弟姉妹、親子、だからこそ仲良しを一番気に
かけていたのでした。


 では、そんな本格的なお仕置きがいつ開始されるのか。

 男爵様の家ではだいたい10歳くらいから本格的なお仕置きが
始まります。
 いえ、それ以前にもお仕置きはあるにはあるのですが、それは
危ないことをやめさせる為に手を出すといった程度。
 過激なお仕置きではありませんでした。

 たまに河合先生がご自分の判断でお尻叩きをなさることもあり
ますが、驚いた子どもたちがお父様の処へ逃げ帰るという光景が
よくありました。

 それが10歳を過ぎると状況が一変します。お父様がご自身で
判断して子供たちにお仕置きを宣言なさいます。
 それって河合先生の場合とは違い、愛されてきた子どもたちに
してみたら、とても重いことだったのです。

 ですから、お父様はそれに先立ち、子どもたちに誓約書を提出
させます。

 『もし約束を破ったらどのようなお仕置きもお受けします』

 簡単な文面の誓約書です。でも、この一枚の紙切れは、その後、
私たちを長い間縛り付けることになるのでした。

 私も他の姉妹と同じように10歳になった時に誓約書を書いて
います。

 「いいかい美咲。この誓約書は、これから先、お前が児童施設
で暮らしたいのなら、いらないものだから書かなくていいんだよ。
どうするね。施設へ帰るかね」

 お父様はその時わざわざこんなことを言うのです。でも、私の
人生はここから始まったようなもの、はじめから児童施設へ帰る
という選択肢なんてありませんでした。
 私だけじゃありません。恐らくこの誓約書のせいで児童施設へ
帰る決断をした子は一人もいなかったと思います。

 私たちはすでにお父様の実の子でないことを知っていましたが、
私たちは目の前にいるこの人以外に愛された経験がありません。
この人が世界で一番大事なお父様ですし、ちょっぴり口うるさい
ですけど河合先生がお母様です。
 もちろん、お姉さまたちともこのお家とも離れたくありません
から答えは簡単でした。

 むしろ……
 『なぜ、そんな事をわざわざ聞くんだろう。……ひょっとして、
お父様、私のことが嫌いになったのかしら……』
 なんて、余計なことまで心配してしまいます。

 そんな私が誓約書を提出すると、お父様はいつものように私を
膝の上に抱いてあやし始めます。
 10歳を過ぎた少女と赤ちゃんごっこを始めるわけです。

 でも、そんなお父様に私の方も不満はありませんでした。
 女の子は、何かにつけてお付き合いが大事ですから、お父様が
望むなら私は赤ちゃんにだってなります。
 幼い頃やったおママゴトの延長ですから難しいことは何もあり
ませんでした。

 ガラガラが振られると笑い、おじやの入ったスプーンが目の前
に現れれば口を大きく開けて受け入れます。お風呂でもお父様が
私の服を全部脱がせて一緒に湯船に浸かり、流しで身体を隅から
隅まで洗ってもらうなんてことも……

 でも、これだってある日突然こうなったわけではありません。
赤ちゃん時代からの習慣がこの歳になってもたくさん持ち越され
ていただけのこと。お父様にしてみたら、幼児も赤ちゃんも同じ
ということのようでした。

 そして、こうしたことに何一つ抵抗感を示さない私はお父様の
信用を勝ち取っていきます。

 この時、お父様はすでに70歳近く。これまでも多くの女の子
たちを施設から引き取ってきましたが、さすがにこれ以上は無理
ということで私が最後の養女と決めていました。

 つまり、私より年下の子はもうこの館へ来ないわけですから、
ずっと私がお父様のお膝を独占できるわけです。

 そんな事もあって、お父様はずっとこのまま私を幼女のままで
育てたかったのかもしれません。でも、河合先生がそれを許して
くださらないので仕方なく誓約書だけは書かせた、そんな感じで
した。

 そんな事情からか、誓約書は提出したものの、その後も四年生
の間は今までと何ら変わらず私はお父様の赤ちゃんとして過ごす
ことになります。

 でも、さすがに五年生になって、とうとうその時が……
 お父様の家で暮らす少女なら避けて通れない試練の時が訪れた
のでした。

 小五から中一にかけて、大人たちはありとあらゆる機会を使い
子どもたちを躾けようとします。言いつけに背く子は無条件で罰
します。きついきついお仕置きは歳相応とはいえないほどの体罰
です。
 それがこれからは年長のお姉さまたちだけでなく、お父様から
寵愛を受けていたはずの私にも例外なく降りかかろうとしていた
のでした。


**********<2>*************

小暮男爵 ~第一章~ §3 / 赤ちゃん卒業?

小暮男爵

***<< §3 >>****/赤ちゃん卒業?/***

 その日は、夕食までは何も変わったことはありませんでした。
 五年生になってやっとお父様との添い寝から独立できた私は、
夕食の間じゅう一つ年上の遥ちゃんとおしゃべり。遥ちゃんとは
歳が近いこともあって何でも話せる間柄でした。

 ところが、食事が終わって、さて自分の部屋へ戻ろうとした時
です。私は家庭教師の河合先生から呼び止められます。

 「美咲ちゃん、お父様が何か御用があるそうよ。お父様、居間
にいらっしゃるから行ってちょうだいね」

 こう耳元で囁かれたものですから、す~っと頭の中から血の気
が引いていきます。

 『お仕置き!?』
 嫌な言葉が頭をよぎります。
 誰とは限りませんが、夕食後お父様が子供たちを呼び出す時、
そういうケースがたくさんにあったのです。

 でも、行かないわけにはいきません。
 11歳の少女に逃げ場なんてありませんからそこは残酷でした。

 我が家の居間は、普段なら恐い場所ではありません。板張りに
ソファが並ぶ20畳ほどの洋間で、自由時間であれば子供たちが
レコードを掛けたりテレビを見たりします。

 おかげで少し騒々しい場所でもありましたが、お父様にとって
はそんな喧騒もまた楽しいみたいでした。
 ですから、よほどのことがない限り『うるさい』だなんておっ
しゃっいません。

 もちろん子供たちの出入りは自由。ただ我が家では、夕食後、
家庭教師の先生に居間へ行けと言われたら、それは要注意だった
のです。

 ここでは、お父様の耳元でパンパンに膨らました紙袋をパンと
破裂させても、ジャムがべっとり着いた手でお父様の襟を握って
も、お膝に乗って思いっきり跳ね回っても、それを理由に叱られ
たことはありません。
 ただ無礼講のはずのこの場所も子供たちにしてみたら必ずしも
天国ではありませんでした。

 ここはお父様に愛撫されるだけの場所ではありまん。子供たち
にしたらお仕置きを受ける時だってここで受けます。

 たとえ高校生になった娘でも、お父様が命じれば妹たちのいる
この場所でパンツを脱がなければなりませんでした。

 お父様はお家の絶対君主ですから娘たちのお尻を素っ裸にして
平手打ちしたり、お浣腸やお灸をすえることだって、それは可能
なわけです。
 ですからこの場所にはお尻への鞭打ちに際して身体を拘束して
おくラックやお浣腸、お灸などのお仕置き用具もあらかじめ用意
されていました。

 私はこの居間でお姉さまの悲鳴を何度も聞きましたし、あまり
見たくありませんがお姉さまたちの大事な部分だって幾度となく
目の当たりにしてきたのです。

 そんな場所に行くようにと河合先生に耳打ちされた私は心配で
なりません。そこで、まずは入口から中の様子を窺いますが……

 「ほら、どうしたんだ。おいで」
 すぐに気づかれてしまい、お父様が私を中へ招きいれます。

 その顔はいつに変わらぬ笑顔でしたから、こちらも、ついつい
つられていつもと変わらぬ笑顔で部屋の中へ。

 お父様のお誘いにやがて駆け出すと、いつものように無遠慮に
ポンとその膝の上へ飛び乗ります。
 その様子はまるで飼いならされた仔犬のようでした。

 「おう、いい子だ、いい子だ」
 お父様はオカッパ頭の私の髪をなでつけ、その大きな手の平で
私の小さな指を揉みあげます。
 これもまたいつものことでした。

 『取り越し苦労だったのかもしれない』
 お父様がいつも私にやってくる愛情表現で接してきましたから
こちらもそう思ったのです。

 でも、そこからが違っていました。

 「今日、お父さんね、河合先生と一緒に小宮先生に会ってきた
んだ」

 その瞬間『ギクッ』です。
 私はさっそく逃げ出したいという思いに駆られますが……

 「…………」
 その思いはお父様に察知されて大きな腕の中にあらためて抱き
かかえられてしまいます。

 『ヤバイ』
 私は直感します。でも、大好きなお父様の抱っこの中での私は
おとなしくしているしかありませんでした。

 実はクラス担任の小宮先生と私は最近あまり相性がよくありま
せん。

 だって、あの先生、友だちの上履きに押しピンを立てただけの
軽~い悪戯まで取上げて、まるで私がその子を虐めてるみたいな
ことを言いますし、テストの点が合格点にわずかに足りないだけ
でも放課後は居残り勉強です。

 私にとってはこの先生の方がよっぽど『私をいじめてる』って
思っていました。

 「小宮先生、心配してたよ。美咲ちゃんは本当はとってもいい
子のはずなのに、最近、なぜか問題行動が多いって……」

 「モンダイコウドウ?」

 「例えば由美子ちゃんの体操着を隠したり、里香ちゃんの机に
蜘蛛や蛇の玩具を入れたり、瑞穂ちゃんの教科書に落書きしたの
もそうなんだろう?……昨日も男の子たちと一緒に登っちゃいけ
ないって言われてる柿の木に登って落ちたそうじゃないか。幸い
怪我がなかったみたいだけど、柿の木というのは枝が急に折れる
から危ないんだ」

 「うん、わかってる」

 「分かってるならやめなきゃ」
 か細い声で俯く私の頭をお父さんは再び撫でつけます。

 自慢のストレートヘアは友だちにもめったに触れさせませんが、
幼い頃から習慣で慣れてしまったのか、お父様だけはフリーパス
でした。

 「でも、由美子ってこの間体育の時間に私の体操着引っ張って
リレー一番になったんだよ。あの子、いつもずるするんだから。
里香だってそう。宿題のノート見せないなんて意地悪するから、
私もちょっとだけ意地悪しただけ。……瑞穂の教科書は違うわよ。
あれはあの子が『ここに描いて』って頼むから描いてあげただけ
なの。私が勝手に描いたんじゃないわ。そしたらあの子、それが
自分の思ってたより大きかったから騒ぎだしちゃって…おかげで
先生には叱られるし、ホント、こっちの方がよっぽど迷惑してる
んだから」

 私はさっそく早口で反論しましたが……

 「…………」
 見上げるお父様の顔はイマイチでした。

 「それだけじゃないよ。学校の成績も、いま一つパッとしない
みただね。朝の小テストは今週三回も不合格だったみたいだし」

 「あれは……」

 「あれは宿題さえちゃんとやっていれば誰にでもできるテスト
なんだだよ。……不合格ってのは宿題をやってないってことだ。
……違うかい?」

 「それは……先生もそう言ってた」

 「それと……単元ごとのテストは、合格点が何点だったっけ?」

 「80点」

 「そうだね。でも、美咲ちゃんのは、ほとんどが80点以下。
河合先生も最近は勉強に集中していないみたいだって……何か、
やりたくない理由があるのかな」

 「……そういうわけじゃあ……」
 私は即座にまた反論したかったのですが、ちょっぴり考えると、
そのまま口をつぐんでしまいます。

 いえ、この頃は近所の男の子たちとも暇を見つけて一緒に遊ぶ
ことが多くて、それが面白くて仕方がないんです。……だけど、
男の子たちってやたら動き回るのが好きでしょう。だから、家に
帰る頃にはもうくたくたで、何をする気にもならないってわけ。
 勉強もどころじゃありませんでした。

 でも、それを言ったらお父様は納得するでしょうか。
 しそうにありませんよね。だから私は黙ってしまったのでした。

 そもそも原因はうちはお姉さまたちがいけないんです。みんな
揃いも揃って秀才ばかりなんですよ。何かと比べられる妹はいい
迷惑でした。

 「樹理お姉さまはあなたの歳には3年先の教科書をやってたわ」
 とかね。
 「遥お姉さまがこの問題を解いたのは2年生のときよ。凄いで
しょう。誰かさんとは大違いね」
 なんてね。
 河合先生にいちいち比べられるのもしゃくの種だったんです。

 それに、お父様の顔色を窺うと……
 『どうして、お前だけできが悪いんだ』
 って言われそうなんで、強いプレッシャーです。

 「まだ、あるよ。これは小宮先生も笑ってらっしゃったけど。
この間の家庭科の宿題。あれはみんな小百合お姉ちゃんに作って
もらったんだろう?」

 「えっ!…あっ……いや……そ……そんなことは……ないです」
 私は心細く反論しますが……実はそんなことがあったんです。

 「美咲ちゃん、お父さんには本当のことを言わなきゃだめだよ。
お父さん、嘘は嫌いだからね」
 お父様に諭されると……

 「うん」
 あっさり認めてしまいます。
 私は生来もの凄く不器用で特に縫い物はいつも高校生の小百合
お姉様を頼っていました。小百合お姉様はやさしくてたいていの
事はやってくれましたから頼み甲斐があるお姉様なんです。

 「他人に作ってもらった物を提出するのも、これはこれで先生
に嘘をついたことになるんだよ。宿題は下手でも自分で仕上げな
きゃ。……そんなこと、わかってるよね」

 「はあ~い」
 私は消え入りそうな声を出します。
 でも、心の中では……
 『わかってるけど、できませ~~ん』
 でした。

 そして、その心根を隠すように顔はお父様の胸の中へと消えて
いきます。

 これって、甘えです。
 お父様と私は施設から連れてこられて以来ずっと大の仲良し。
少なくとも私はそう思ってます。だって、こんなに身体が大きく
なった今でも、お父様はまるで幼女のように抱いてスキンシップ
してくれますから。

 これって、慣らされちゃったってことなんでしょうけど、私も
またそんなお父様の抱っこが嫌いじゃありませんでした。

 『姉妹の誰よりもお父様は私を可愛がってくださってる』
 そう確信していた私はお父様に嫌われたくありませんでした。

 お父様の命令には何でも従いますし、なされるまま抱かれると、
たまにその冷たい手がお股の中へも入り込んだりしますが、でも、
私はイヤイヤをしたことがありません。
 女の子の一番大事な処だってフリーパスだなんて、広い世界で
お父様ただ一人だけでした。

 ただ、そんな蜜月も終わろうとしていたのです。
 
 「美咲ちゃん、こっちを向いてごらん。これから、大事な話を
するからね」
 お父様はご自分の胸の中に沈んだ私の顔を掘り起こします。

 「お父さん、いつまでも美咲ちゃんが赤ちゃんだと思って来た。
正確に言うと、赤ちゃんのままでいて欲しかったんだ、だから、
これまでは何があっても河合先生に『あの子はまだ幼いから……』
って言い続けてきたんだけど、これからはそうもいかないみたい
なんだ。これからは甘いシロップばかりじゃなくて、時には苦い
お薬も必要なのかもしれないなって思ってるんだ」

 「えっ!?私、お薬飲むの?」

 「はははは、そうじゃないよ」
 お父様は大笑います。

 でも、私は分かっていました。お父様の言う苦いお薬が、実は
お仕置きの意味だということを……でも、とぼけていたのです。

 お父様のお家の同じ屋根の下にはたくさんの姉たちがいます。
 その姉たちがどんな生活をしているのか。
 その扱いが自分とはどう違うのか。
 五年生にもなれば大体の事はわかります。
 そして、そんな特別待遇がいつまでも続かないこともこの歳に
なれば理解できるのでした。

 お父様と顔を合わせるたびに抱っこされてきた私。これまでは
何をやらかしてもお父様の懐に飛び込めば誰からも叱られません
でした。
 そんな私も、これからはお姉さまたちと同じ立場で暮らさなけ
ればならなくなります。
 それをお父様が、今、宣言しようとしていたのでした。

 「これからしばらくはお父さんの部屋で一緒に暮らそう」
 お父様の言葉はその最初の一歩を刻むもの。
 ですから、私は戸惑いながらもイヤとは言いませんでした。

 私が観念したのが分かったからでしょうか。
 「最初は辛いことが多いかもしれないけど、美咲もいつまでも
赤ちゃんというわけにはいかないからね」
 お父様は宣言します。

 お父様の大きな顔が同意を求めて迫ってきます。

 『……(うん)……』
 絶体絶命のピンチ!でしたが……でも、私は頷きます。

 この家で育った幼女が一人前の少女として認められる為の試練
の一週間。
 他のお姉さまたちはもっと幼い頃に済ましてしまった儀式を、
私はこの時初めて受け入れたのでした。


**********<3>*************

Appendix

このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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