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小暮男爵 << §20 >> 放課後
小暮男爵
***<< §20 >>****
長い長い園長先生へのお別れのご挨拶がすんで部屋を出ると、
そこに六年生クラスの子たちが待っていました。
私たちと同じように六人の子どもたちを担任の栗山先生が引率
していらっしゃいましたが、こちらのご用は、おそらく社子春と
いうことではないみたいです。
だって、栗山先生、タイトスカートでしたから……。
私はその中にいた遥お姉様と笑顔でご挨拶。
相手もこの時は笑顔でしたが、その顔はすでに引きつっていて、
無理に笑おうとしているのが子供の私にもよく分かります。
そのあたり女の子は相手の表情を敏感に感じ取るものなのです。
『お姉様たち、やっぱり、あれで呼ばれたのよね』
私は思います。あれというのは自習時間に起きた乱痴気騒ぎ。
あれは昼休み、お父様たちによってお仕置き済みなはずですが、
それはあくまで家庭での事。彼女たちに対する学校でのお仕置き
はまだこれからでした。
そこで、それが今、ここで行われる。私はそう読んだのです。
すると、とたんに楽しい想像がいくつも頭に浮かびます。
お姉様たちがこれからどんなお仕置きを受けるのか。
その様子が走馬灯のように頭のなかを駆け巡るのです。
リンゴと同じくらい真っ赤になるまでお尻を叩かれ、失神寸前
までお浣腸のウンチを我慢して、歯が折れそうになほど熱いお灸
に耐えます。
『うっふ』
その悪魔チックな妄想は一つ一つ私の頬を緩めます。
園長先生や小宮先生、いえ、他の多くの先生方が私たちを天使
のようだなんておだてますが、これは真っ赤な嘘です。生身の私
たちは人の不幸が三度のごはんより大好きな悪魔の心を持つ少女。
ただそれを顔の外に出さないだけでした。
ところが不覚にもそんなにやけた顔をした瞬間、誰が私の肩を
叩きます。
「五年生のご用はもうすんだの?」
振り返ると、河合先生が立っていました。
「はい」
顔面蒼白でのご返事。
もちろん、河合先生に私の心の内が読めるはずありませんが、
それでもその顔は一瞬青ざめていました。
「遅くなればマイクロバスで送ってもらえるでしょうけど……
遥ちゃんと一緒に帰る?」
「はい、そうします。ちょっとだけ心配だから……」
これも嘘です。
本当は、お尻をぶたれて泣き顔で出てくる遥お姉ちゃんが見て
みたいだけでした。
「そう、それじゃあ食堂でチョコレートパフェでも食べようか」
「やったあ~~」
河合先生のお勧(すす)めにテンションが上がります。
こちらはもちろん本当でした。
放課後の食堂。一般の学校ならランチが済めばもう用はありま
せんから、調理のおばさんたちもすでに帰宅している頃かもしれ
ませんが、ここは学校の先生だけでなく、家庭教師やお父様方、
臨時の先生たち、OB、OGなど色んな方が利用されますから、
午後も軽食や喫茶をやっていました。
子供たちも大人が注文してくれれば飲食できます。
チョコレートパフェは当時の私にしたら十分なご馳走でした。
そのパフェを頬張りながら、私はぼやきます。
「今日、園長先生になにされたと思う?」
「お仕置き?」
「そう、スカート上げて、パンツまで下げさせられて、全~部
丸見えだったんだから……その格好で10分も立たされたのよ。
……あの人、絶対、変態よ。……ヘンタイ……」
私はチョコレートパフェのせいでテンションが上がりっぱなし。
四方のテーブルみんなに聞こえるような大きな声で自分が下半身
を裸にさせられた話を叫んでいたのでした。
河合先生は、犬のような食べっぷりでパフェを頬張る私から、
園長室での出来事を順を追って尋ねていきます。
「…………なるほど、そういうことだったの」
パフェがきいたのか、私は密室での出来事を洗いざらいぶちま
けたのでした。
そしてそれは、やがて今日の出来事を離れて、普段の生活での
不満にまで及びます。
「だいたい、うちはなぜ月に1度身体検査があるの。あんなの
年に一回やれば十分よ。それも校医の黒川先生の前でお股開いて
あそこまで見せるなんて。だいだい黒川先生がヘンタイなのよ。
嬉しそうにニヤニヤしながらアソコ触ってくるんだもん」
と、そこまで絶叫した時でした。
聞きなれた声が耳元でします。
「誰が変態なんだい?」
「あっ、お父様」
私は思わず『やばっ』と思いましたが手遅れでした。
ちなみに、『お父様』とか『お姉様』とかいう仰々しい言葉が
気になってる方がいるみたいなんで断っておきますが、これって
特別相手を敬ってそう言ってるんじゃないんです。『お父様』は
私たちにとっては単なる名詞。ごく幼い頃に、「この人のことは
『お父様』と呼びなさい」「この人はあなたの『お姉様』なのよ」
って教えられたから未だにそう呼んでるだけなんです。
そのお父様が……
「誰が変態なんだい?」
大きな顔をパフェのそばへ寄せてきます。
「いえ、それは……えっと……」
私は一瞬息が詰まって心臓がどぎまぎ。ここでは理由のいかに
関わらず大人批判は禁じられていますからびっくりでした。
河合先生の場合は日頃から『何でも私に打ち明けてちょうだい』
って姉御肌を見せていましたから心安いのですが、誰にでもそう
できるわけではありません。目に余るようなら、当然、お仕置き
でした。
「美咲ちゃん、目上の人を変態扱いしてはいけないよ。まして
ここは食堂、色んな人が近くにいる場所で大声で話をしたら他の
人たちだって不快な思いをするからね」
「ごめんなさい」
「君の場合はまだ世間も道理も知らない子供の立場なんだから、
まずは、目上の人の愛情を余すところなく受け入れるところから
はじめなきゃ。お父さんは、君に悪影響が及ぶような人とは接触
させていないつもりだ。園長先生も、小宮先生も、もちろん黒川
先生だって君が批判できるような底の浅い人物ではないはずだ」
「ごめんなさい。本当にごめんなさい」
私は平謝りでした。
「先生、どうしたんだね、美咲がだいぶ興奮してたみたいだが、
何かあったのかね」
お父様は河合先生に事情を尋ねられます。
「…………そういうことか」
河合先生の説明をすっかり聞き終えると、お父様は『なるほど』
と納得なさったみたいでした。そして、こうおっしゃったのです。
「美咲ちゃん、君も学級委員をやっていたからわかるだろう。
リーダーというのは孤独なんだよ。部下は自分のことを信頼して
くれているだろうか、自分は愛されているだろうかって、いつも
気になってるんだ。だからそれを確かめたいんだけど、上下関係
があるとまともに尋ねても下の者はなかなか本心を打ち明けくれ
ないから、勢いこんな方法をとるんだ」
「こんな方法って?」
「だって、今日はみんなで社子春をやったんだろう?」
「トシシュン?」
「知らないかね、社子春というお話を……」
お父様の言葉に私は頭をめぐらします。すると、昔読んだこと
のある童話がヒットしました。
「君たちにとって小宮先生は単なる担任の先生じゃないんだ。
入学以来ずっと面倒をみてもらっているお母さんでもあるんだ。
だから、お母さんとしては、自分が困った時、この子たちは本当
に助けてくれるだろうかって心配になるんだったんだと思うよ。
それを試したかったんじゃないかな」
「私たちが先生を助けるの?」
「そうだよ。困難であればあるほど下の者が一致団結して上の
人の指示に従って行動してくれないと、難局はのりきれないもの。
どんな時でもお母さんを助けてくれますか?って試しているのさ」
「お母さんを助ける?…………それで、社子春…………じゃあ、
なぜ園長先生は私たちのパンツを脱がせたの?」
「それは、君たちがまだこんなに小さな子供なんですよって、
小宮先生に見せつけるためじゃないかな」
「ん?……だって、私たち子供じゃない」
私は意味が分かりませんでした。だって、私たちが子供なのは、
べつに裸にならなくても分かってるはずですから。
「そりゃそうなんだけど、君たちくらいの年齢になると、世間
常識や分別はなくても知識だけは相当ついてくるから、大人の方
もついつい子供と分かっていても大人と同じように扱ってしまう
ことがあるんだ。でも、そうやって任せても、結局は気まぐれで
責任感のない対応に終始する事が多くて思うように結果がでない。
ストレスは溜まる一方ってわけさ。……そこで園長先生は原点に
戻って『ほら御覧なさい。この子たち、まだこんなに子供でしょ』
ってやったんじゃないのかな。あくまで想像だけどね、そう思う
んだよ」
「…………」
「分からないか?ま、無理もない。大人になったらわかるよ。
……それにだ、周りにいたのはどうせ女の先生だけなんだし……
いいんじゃないのか、そのくらいは……」
「そのくらいじゃないよ。乙女の純情を踏みにじられたのよ」
私がむくれてみせると……
「そうか、乙女の純情かあ~~、それじゃあ、お父さんも今夜
あたり、お家でその乙女の純情とやらを見せてもらおうかな」
お父様は冗談めかしにそう言ってのけますが、それって小学生
にとっては現実の危機なのです。ですから、私は慌てて河合先生
の陰に隠れるのでした。
1時間ほどして三人は遥お姉様を迎えに行きます。
そこには私たち家族だけでなく他の家族もいました。六家では
おおむね各学年に一人ずつ子供がいますから、各家のお父様たち
だってそこには顔をみせています。
下級生の姉妹やその家庭教師、お父様たちで園長室のドアの前
はごった返していました。
「ねえねえ、美咲ちゃん、聞いてよ。さっきまで凄かったんだ
から」
「そうそう、もの凄い悲鳴があがってたの」
「あれ、ケインじゃない。風切る音が聞こえたから」
「嘘おっしゃい。こんな厚いドアの外からそんな音が聞こえる
わけないでしょう」
「聞こえました。私、ドアに耳を近づけてずっと聞いてたもん」
「ばかねえ、ケインなんて私たち小学生には使わないわよ」
「使います」
麗華ちゃんがむきになります。
私が現れたとたん、話を聞いてもらえる相手が現れたと思った
んでしょうね、クラスメイトたちから速射砲のような言葉の連射
で襲い掛かってきます。
でも、彼女たちが明かす、ドアの外からの諜報活動はこれだけ
ではありませんでした。
「ねえ、中でお浣腸があったみたいよ。黒川先生入っていった
もん」
「それだけじゃないの。中井先生まで呼ばれたんだから、……
きっとお灸よ」
「すごいでしょう、トリプルのお仕置きだったみたいよ」
詩織ちゃんは満面の笑み。
どうやら悪魔の心を持つ少女は私だけではないようでした。
そうやって、女の子たちがわいわい騒いでいるうちに、ドアが
開きます。
すると、お友だちは自分のお姉様の顔を見つけて擦り寄ります。
すると先ほどまで笑顔から一変、その顔は深い同情心に包まれて
いました。
どうやら女の子が天使なのは、女の子として営業中の時だけの
ようです。
私も人だかりのなか遥お姉様を探します。
『あっ、いたいた』
ドアから最後に出てきました。
下唇を噛んで必死に泣き顔を見せないようにしているのがよく
分かります。
「お姉様~~」
私が呼びかけると、気が着いて笑い返してきました。
「大変だったね」
私はねぎらいのつもりで言ったんですが……
「大したことじゃないわ」
首を振って前髪を跳ね上げます。
『無理しちゃってえ~』
とは思いますが、そこがまた遥お姉様の良い所でもあります。
ところが……
「遥、大丈夫か?」
お父様がそこへ現れたとたん、お姉様はお父様の胸の中で泣き
始めたのでした。
「痛かった。先生、ひどいことするんだよ。こんなこと今まで
一度もされたことなかったのに……」
私に対してなら絶対に出さない甘えた声が、大きな胸の中から
聞こえます。でも、これが女の子でした。
「仕方がないじゃないか。お仕置きだもの。辛くないお仕置き
ってのはないよ。それも年長になれば、段々きつくなってくる。
身体が大きくなった子に幼稚園時代と同じことをやっても効果が
ないだろう」
「ねえ、お昼休みにお父様にやられたのとどっちが凄かったの?」
私が不用意に尋ねると、お姉様はそれまで隠していた顔を私に
向けて睨みつけます。
「…………」
ですから、それ以上は聴けなくなってしまいました。
お父様は、「食堂で少し休んでいこうか」と提案しましたが、
お姉様が「すぐに帰りたい」と言うので、そのままリンカーンに。
自宅までの1時間近い道中、遥お姉様はその車内で自分の体を
両手で支えながら座っていました。いえ、なるだけお尻がシート
に着かないようにしていたわけですから、正確には立っていたと
いうべきかもしれません。
ポンコツリンカーンのシートはすでに中のクッション材が飛び
出す始末でしたから、決して乗り心地のよいものではありません
が、それでもこんな姿で乗っているお姉様を見たのは初めてです。
何があったかは一目瞭然でした。
そして、家に帰ったあとも……
お姉様は私と一緒にお風呂に入ることを拒否します。
普段そんなことをしたら「家族が多いのに、そんなわがままは
認められません。後の人に迷惑がかかるでしょう」って河合先生
に叱られるところですが、それも今日はありませんでした。
「あなたは先に宿題をすませてらっしゃい」
遥お姉様がお風呂の間、私は勉強部屋へ追いやられます。
その時河合先生が普段より優しくお姉様に接しているのがよく
わかりました。
きっと、お尻は出血していてもおかしくないくらい腫上がって
いるはずですから、そこを洗う時はとても神経を使っていたんだ
と思います。そして、お姉様の愚痴も聞いてあげてたんだと思い
ます。お姉様のお風呂はいつもより長い時間がかかっていました。
ちょうど宿題をすませた頃、私にお風呂の番が回ってきました。
私は、お姉様のことについてお風呂の中で……
「お尻真っ赤になってた?」
「ずっと泣いてたでしょう?」
「ねえ、みんな、お浣腸があったって言ってたけど、ホント?」
「お灸もあったって……どこにすえられてた?」
いくつも質問を繰り出しましたが、河合先生の答えは一つだけ。
「知りません」
でも、あまりにしつこく尋ねますから、私の身体を洗いながら
……
「それはあなたに関係のないことでしょう。そういうことはね、
プライバシーと言って無理にこじ開けて見ようとしてはいけない
ものなの。あなたも自分がされたお仕置きを根掘り葉掘り尋ねら
れるのは嫌でしょう。自分がされて嫌な事は他人にもしてはいけ
ないわ。確かにここのお仕置きはよそと比べても厳しいでしょう
けど、それは、ここが他所の何倍も大きな愛情に包まれてるから
それができるってことなの。だから遥ちゃんも、どんなに厳しい
お仕置きがあってもそれを恨むことはないはずよ。あなただって
そうでしょう。お父様に厳しいお仕置きされたらお父様を恨む?」
「それは……」
私は返事に困ります。私だってその直後は確かに恨みますが、
お父様が相手だとすぐに忘れてしまうからでした。
「でしょう、あなたの場合はまだまだお父様大好きだものね」
最後はちょっぴり私を腐します。
でも、それはそうでした。当時の私はまだまだ『お父様ラブ』
の時代。たとえお仕置きがあってもここではその後のフォローが
ありますからお仕置きが憎しみに変わることはありませんでした。
その日の夕食。
遥お姉様の席はいつもの場所とは違っていました。
普段は小学生同士私とおしゃべりしながら食事をするのですが、
こんな時、お父様はご自分の席の隣にその子を席を用意させます。
罪を犯した子はその日お父様の隣りで食事しなければなりません
でした。
それだけではありません、まずはその席の脇に立って、普段は
しないご挨拶を……
「今日は、学校で自習の時間に騒ぎを起こしてお仕置きを頂き
ました。これからは良い子になりますから、お姉様、美咲ちゃん、
また今までどおり仲良くしてください。お願いします」
頭をペコリとさげて反省のご挨拶が済むと姉妹みんなから拍手
してもらえますが、こんな拍手、嬉しくも晴れがましくも何でも
ありません。
でも、『ご飯いらないからやりたくない』というわけにはいき
ませんでした。
それだけじゃありません。この時座るイスなんですが、これも
普段の物とは違っていたんです。
お尻の痛みを和らげる円形のクッションが座面に敷かれている
のはいいとして、問題はその椅子の形です。まるでレストランに
置かれた幼児用の椅子のようで、そこに座るとバーが下ろされ、
簡単には脱出できないようになります。
ちょっとした拘束椅子でした。
さらに問題はその食事の仕方。隣りに座る河合先生が親切にも
胸元に大きな涎掛けを掛けてくれるのですが、これは『あなたは
今、幼児なんですよ』という目印。ですから、食事そのものも、
この時は一人で楽しむことができませんでした。
「あ~~ん」
河合先生が、そのたびに料理の乗ったスプーンを幼児となった
お姉様の口元へ運びます。
「ほら、遥ちゃん、あ~~~ん」
時にはお父様も参加して二人で赤ちゃんごっこです。
ですから、お姉様の食事はそのスプーンをパクリとやるだけ。
まるで離乳食を口元へ運んでもらって食べる幼児のような食事
風景です。
でも、これってお仕置きなんでしょうか?
お父様にしたら、『お前はまだ幼児と同じなんだぞ!』という
戒めだったのかもしれません。
実際、プライドの高い遥お姉様は渋い顔でご飯をを食べていま
したから。
でも、私の場合、これはお仕置きになっていませんでした。
普段からお父様ラブの私にしたらこんなのは大歓迎なんです。
喜んで赤ちゃんを引き受けて食べ物をこぼしたりミルクをわざと
口の周りに着けたりしてお父様の注意をひきつけます。
ここぞとばかり甘えに甘えてむしろ本人はご満悦でした。
実際そうやってみてもお父様が私を叱ったことが一度もありま
せんでしたから。
食事が済むと、今度はそれぞれ自分の部屋に戻ってお勉強。
普段なら河合先生が小学生二人の面倒を一緒にみるところなん
ですが、その日はあいにくとお姉様が厄日でしたから、お父様も
遥お姉様の応援に出かけます。
これはお仕置きでショックを受けている遥お姉様を慰めるため、
あるいは叱咤激励するためでした。
私の経験から言ってもこの時のお父様はとてもやさしくてお膝
に抱っこしてもらいながら、河合先生とマンツーマンで勉強する
ことになります。
お父様の抱っこは子供の私には格別の安心感で、よく居眠りを
しては叱られていました。
お姉様だってその事情は同じだと思います。普段、私と一緒に
いる時は『私はあなたとは違うの、もう大人なの』ってな感じで
すましていますが、彼女にとってもお父様はいまだ特別な存在で
あるはずです。
実際、二人きりの時、お姉様が幼い子のようにお父様に甘える
姿を私は何度も見ていました。
一方、その時の私の方はというと……こちらも一人で勉強して
いたわけではありません。
隆明お兄様と小百合お姉様が私の面倒をみるようにお父様から
言いつかっていました。
このお二人はそれぞれ高三と高二。小学生の私からみればもう
立派に大人です。ですから同じ兄弟姉妹といっても、同類とか、
ライバルといった関係ではありませんでした。
私は、他の大人の人たちと同じようにこの二人にも甘えます。
最初は、「ほら、甘えないの」って叱られますけど、めげずに
甘えていると、私も遥お姉様と同じように隆明お兄様のお膝の上
でノンノしてお勉強することが許されます。
「やったー」
私はどんなに乱暴に跳ね回ってもびくともしない筋肉質の椅子
に大喜び。
『これで、お姉様と一緒にお勉強できるわ』
そんな嬉しい思いでした。
とはいえ、勉強はノルマ制。一応2時間とはなっていますが、
時間がきたから終了ではありません。全ての課題が出来るまでは
その人間椅子から開放してもらえませんでした。
二時間半後、お父様と遥お姉様が、私の勉強部屋になっている
お父様の書斎にやってきます。
「そちらは、まだ終わっていないのか?」
「いえ、こちらも、もうすぐ終わりますから」
「大丈夫てせす。もう少しですから……」
お兄様お姉様は私を急がせて、ほどなく私の方も今日の勉強が
終了します。
このあと、二人の残る仕事と言えば、お父様と一緒に寝るだけ
でした。
私たちは、洗面所へ行って歯を磨くと、お父様の書斎に戻って
素っ裸の上にパジャマだけを身につけるとお父様のベッドの中へ
飛び込みます。
この時、二人は11歳と12歳。今の基準でならもう親と添い
寝する歳ではないのかもしれませんが、当時は小学校を卒業する
まで親と添い寝をしている子も、そう珍しくありませんでした。
こんな時のお父様は愛情の大盤振る舞い。
ベッドの中でも私たちの身体を触りまくります。
頭をなでなで。
ほっぺをすりすり。
お背中トントン。
お尻よしよし。
お手々をモミモミ。
あんよもモミモミ。
果ては、オッパイの先を指の腹でスリスリしたり、お股の中に
手を入れたりもします。
お父様も、私も、遥お姉様も、コチョコチョ攻撃に大笑いして
身もだえます。
こんなこと他の人なら許しませんけど、お父様の場合は特別。
実際、こういうことって、二人にとっては決して嫌じゃありま
せんでした。
ベッドインした三人の濃密な時間が過ぎていきます。
Hじゃありませんよ。赤ちゃん時代からの習慣がその時もまだ
続いていただけでした。
お父様は、どんな罪でお仕置きされた場合も、それが終われば、
一定時間、私たちを最大限甘やかして、辛い心が癒されるように
配慮してくださったのです。
こうしたベッドの中での秘め事は親しい友人や他の姉妹にさえ
決して語られることがありませんが、私にとっても、遥お姉様に
とっても、それは今まで生きてきた中で、一番楽しい瞬間だった
のかもしれません。
***************
<これまでの登場人物>
学校を創った六つのお家
小暮
進藤(高志)
真鍋(久子)
佐々木
高梨
中条
小暮男爵家
小暮美咲<小5>~私~
小暮遥 <小6>
河合先生
<小学生担当の家庭教師>
小暮 隆明<高3>
小暮 小百合<高2>
小暮 健治<中3>
小暮 楓<中2>
小暮 朱音(あかね)<中1>
学校の先生方
小宮先生<5年生担当>
ショートヘアでボーイッシュ小柄
栗山先生<6年生担当>
ロングヘアで長身
高梨先生<図画/一般人>
創設六家の出身。自らも画家
桜井先生<体育/男性>
小柄で筋肉質。元は体操の選手
倉持先生<社会/男性>
黒縁メガネで頭はいつもぼさぼさ
牧田<お隣りの教室の担任の先生>
大柄な女の先生。陰で男女(おとこおんな)
なんて呼ばれることもある怖い先生。
中井先生<家庭科/女性>
本来の仕事のほかに頼まれるとお灸のお仕置きも
こなす生徒には怖い先生。
黒川先生<校医/男性>
温厚なおじいちゃん先生
6年生のクラス
小暮 遥
進藤 瑞穂
佐々木 友理奈
高梨 愛子
中条 留美
真鍋 明(男)
5年生のクラス
小暮 美咲
中条 由美子
高梨 里香
真鍋 詩織
佐々木 麗華
進藤 広志(男)
*************
***<< §20 >>****
長い長い園長先生へのお別れのご挨拶がすんで部屋を出ると、
そこに六年生クラスの子たちが待っていました。
私たちと同じように六人の子どもたちを担任の栗山先生が引率
していらっしゃいましたが、こちらのご用は、おそらく社子春と
いうことではないみたいです。
だって、栗山先生、タイトスカートでしたから……。
私はその中にいた遥お姉様と笑顔でご挨拶。
相手もこの時は笑顔でしたが、その顔はすでに引きつっていて、
無理に笑おうとしているのが子供の私にもよく分かります。
そのあたり女の子は相手の表情を敏感に感じ取るものなのです。
『お姉様たち、やっぱり、あれで呼ばれたのよね』
私は思います。あれというのは自習時間に起きた乱痴気騒ぎ。
あれは昼休み、お父様たちによってお仕置き済みなはずですが、
それはあくまで家庭での事。彼女たちに対する学校でのお仕置き
はまだこれからでした。
そこで、それが今、ここで行われる。私はそう読んだのです。
すると、とたんに楽しい想像がいくつも頭に浮かびます。
お姉様たちがこれからどんなお仕置きを受けるのか。
その様子が走馬灯のように頭のなかを駆け巡るのです。
リンゴと同じくらい真っ赤になるまでお尻を叩かれ、失神寸前
までお浣腸のウンチを我慢して、歯が折れそうになほど熱いお灸
に耐えます。
『うっふ』
その悪魔チックな妄想は一つ一つ私の頬を緩めます。
園長先生や小宮先生、いえ、他の多くの先生方が私たちを天使
のようだなんておだてますが、これは真っ赤な嘘です。生身の私
たちは人の不幸が三度のごはんより大好きな悪魔の心を持つ少女。
ただそれを顔の外に出さないだけでした。
ところが不覚にもそんなにやけた顔をした瞬間、誰が私の肩を
叩きます。
「五年生のご用はもうすんだの?」
振り返ると、河合先生が立っていました。
「はい」
顔面蒼白でのご返事。
もちろん、河合先生に私の心の内が読めるはずありませんが、
それでもその顔は一瞬青ざめていました。
「遅くなればマイクロバスで送ってもらえるでしょうけど……
遥ちゃんと一緒に帰る?」
「はい、そうします。ちょっとだけ心配だから……」
これも嘘です。
本当は、お尻をぶたれて泣き顔で出てくる遥お姉ちゃんが見て
みたいだけでした。
「そう、それじゃあ食堂でチョコレートパフェでも食べようか」
「やったあ~~」
河合先生のお勧(すす)めにテンションが上がります。
こちらはもちろん本当でした。
放課後の食堂。一般の学校ならランチが済めばもう用はありま
せんから、調理のおばさんたちもすでに帰宅している頃かもしれ
ませんが、ここは学校の先生だけでなく、家庭教師やお父様方、
臨時の先生たち、OB、OGなど色んな方が利用されますから、
午後も軽食や喫茶をやっていました。
子供たちも大人が注文してくれれば飲食できます。
チョコレートパフェは当時の私にしたら十分なご馳走でした。
そのパフェを頬張りながら、私はぼやきます。
「今日、園長先生になにされたと思う?」
「お仕置き?」
「そう、スカート上げて、パンツまで下げさせられて、全~部
丸見えだったんだから……その格好で10分も立たされたのよ。
……あの人、絶対、変態よ。……ヘンタイ……」
私はチョコレートパフェのせいでテンションが上がりっぱなし。
四方のテーブルみんなに聞こえるような大きな声で自分が下半身
を裸にさせられた話を叫んでいたのでした。
河合先生は、犬のような食べっぷりでパフェを頬張る私から、
園長室での出来事を順を追って尋ねていきます。
「…………なるほど、そういうことだったの」
パフェがきいたのか、私は密室での出来事を洗いざらいぶちま
けたのでした。
そしてそれは、やがて今日の出来事を離れて、普段の生活での
不満にまで及びます。
「だいたい、うちはなぜ月に1度身体検査があるの。あんなの
年に一回やれば十分よ。それも校医の黒川先生の前でお股開いて
あそこまで見せるなんて。だいだい黒川先生がヘンタイなのよ。
嬉しそうにニヤニヤしながらアソコ触ってくるんだもん」
と、そこまで絶叫した時でした。
聞きなれた声が耳元でします。
「誰が変態なんだい?」
「あっ、お父様」
私は思わず『やばっ』と思いましたが手遅れでした。
ちなみに、『お父様』とか『お姉様』とかいう仰々しい言葉が
気になってる方がいるみたいなんで断っておきますが、これって
特別相手を敬ってそう言ってるんじゃないんです。『お父様』は
私たちにとっては単なる名詞。ごく幼い頃に、「この人のことは
『お父様』と呼びなさい」「この人はあなたの『お姉様』なのよ」
って教えられたから未だにそう呼んでるだけなんです。
そのお父様が……
「誰が変態なんだい?」
大きな顔をパフェのそばへ寄せてきます。
「いえ、それは……えっと……」
私は一瞬息が詰まって心臓がどぎまぎ。ここでは理由のいかに
関わらず大人批判は禁じられていますからびっくりでした。
河合先生の場合は日頃から『何でも私に打ち明けてちょうだい』
って姉御肌を見せていましたから心安いのですが、誰にでもそう
できるわけではありません。目に余るようなら、当然、お仕置き
でした。
「美咲ちゃん、目上の人を変態扱いしてはいけないよ。まして
ここは食堂、色んな人が近くにいる場所で大声で話をしたら他の
人たちだって不快な思いをするからね」
「ごめんなさい」
「君の場合はまだ世間も道理も知らない子供の立場なんだから、
まずは、目上の人の愛情を余すところなく受け入れるところから
はじめなきゃ。お父さんは、君に悪影響が及ぶような人とは接触
させていないつもりだ。園長先生も、小宮先生も、もちろん黒川
先生だって君が批判できるような底の浅い人物ではないはずだ」
「ごめんなさい。本当にごめんなさい」
私は平謝りでした。
「先生、どうしたんだね、美咲がだいぶ興奮してたみたいだが、
何かあったのかね」
お父様は河合先生に事情を尋ねられます。
「…………そういうことか」
河合先生の説明をすっかり聞き終えると、お父様は『なるほど』
と納得なさったみたいでした。そして、こうおっしゃったのです。
「美咲ちゃん、君も学級委員をやっていたからわかるだろう。
リーダーというのは孤独なんだよ。部下は自分のことを信頼して
くれているだろうか、自分は愛されているだろうかって、いつも
気になってるんだ。だからそれを確かめたいんだけど、上下関係
があるとまともに尋ねても下の者はなかなか本心を打ち明けくれ
ないから、勢いこんな方法をとるんだ」
「こんな方法って?」
「だって、今日はみんなで社子春をやったんだろう?」
「トシシュン?」
「知らないかね、社子春というお話を……」
お父様の言葉に私は頭をめぐらします。すると、昔読んだこと
のある童話がヒットしました。
「君たちにとって小宮先生は単なる担任の先生じゃないんだ。
入学以来ずっと面倒をみてもらっているお母さんでもあるんだ。
だから、お母さんとしては、自分が困った時、この子たちは本当
に助けてくれるだろうかって心配になるんだったんだと思うよ。
それを試したかったんじゃないかな」
「私たちが先生を助けるの?」
「そうだよ。困難であればあるほど下の者が一致団結して上の
人の指示に従って行動してくれないと、難局はのりきれないもの。
どんな時でもお母さんを助けてくれますか?って試しているのさ」
「お母さんを助ける?…………それで、社子春…………じゃあ、
なぜ園長先生は私たちのパンツを脱がせたの?」
「それは、君たちがまだこんなに小さな子供なんですよって、
小宮先生に見せつけるためじゃないかな」
「ん?……だって、私たち子供じゃない」
私は意味が分かりませんでした。だって、私たちが子供なのは、
べつに裸にならなくても分かってるはずですから。
「そりゃそうなんだけど、君たちくらいの年齢になると、世間
常識や分別はなくても知識だけは相当ついてくるから、大人の方
もついつい子供と分かっていても大人と同じように扱ってしまう
ことがあるんだ。でも、そうやって任せても、結局は気まぐれで
責任感のない対応に終始する事が多くて思うように結果がでない。
ストレスは溜まる一方ってわけさ。……そこで園長先生は原点に
戻って『ほら御覧なさい。この子たち、まだこんなに子供でしょ』
ってやったんじゃないのかな。あくまで想像だけどね、そう思う
んだよ」
「…………」
「分からないか?ま、無理もない。大人になったらわかるよ。
……それにだ、周りにいたのはどうせ女の先生だけなんだし……
いいんじゃないのか、そのくらいは……」
「そのくらいじゃないよ。乙女の純情を踏みにじられたのよ」
私がむくれてみせると……
「そうか、乙女の純情かあ~~、それじゃあ、お父さんも今夜
あたり、お家でその乙女の純情とやらを見せてもらおうかな」
お父様は冗談めかしにそう言ってのけますが、それって小学生
にとっては現実の危機なのです。ですから、私は慌てて河合先生
の陰に隠れるのでした。
1時間ほどして三人は遥お姉様を迎えに行きます。
そこには私たち家族だけでなく他の家族もいました。六家では
おおむね各学年に一人ずつ子供がいますから、各家のお父様たち
だってそこには顔をみせています。
下級生の姉妹やその家庭教師、お父様たちで園長室のドアの前
はごった返していました。
「ねえねえ、美咲ちゃん、聞いてよ。さっきまで凄かったんだ
から」
「そうそう、もの凄い悲鳴があがってたの」
「あれ、ケインじゃない。風切る音が聞こえたから」
「嘘おっしゃい。こんな厚いドアの外からそんな音が聞こえる
わけないでしょう」
「聞こえました。私、ドアに耳を近づけてずっと聞いてたもん」
「ばかねえ、ケインなんて私たち小学生には使わないわよ」
「使います」
麗華ちゃんがむきになります。
私が現れたとたん、話を聞いてもらえる相手が現れたと思った
んでしょうね、クラスメイトたちから速射砲のような言葉の連射
で襲い掛かってきます。
でも、彼女たちが明かす、ドアの外からの諜報活動はこれだけ
ではありませんでした。
「ねえ、中でお浣腸があったみたいよ。黒川先生入っていった
もん」
「それだけじゃないの。中井先生まで呼ばれたんだから、……
きっとお灸よ」
「すごいでしょう、トリプルのお仕置きだったみたいよ」
詩織ちゃんは満面の笑み。
どうやら悪魔の心を持つ少女は私だけではないようでした。
そうやって、女の子たちがわいわい騒いでいるうちに、ドアが
開きます。
すると、お友だちは自分のお姉様の顔を見つけて擦り寄ります。
すると先ほどまで笑顔から一変、その顔は深い同情心に包まれて
いました。
どうやら女の子が天使なのは、女の子として営業中の時だけの
ようです。
私も人だかりのなか遥お姉様を探します。
『あっ、いたいた』
ドアから最後に出てきました。
下唇を噛んで必死に泣き顔を見せないようにしているのがよく
分かります。
「お姉様~~」
私が呼びかけると、気が着いて笑い返してきました。
「大変だったね」
私はねぎらいのつもりで言ったんですが……
「大したことじゃないわ」
首を振って前髪を跳ね上げます。
『無理しちゃってえ~』
とは思いますが、そこがまた遥お姉様の良い所でもあります。
ところが……
「遥、大丈夫か?」
お父様がそこへ現れたとたん、お姉様はお父様の胸の中で泣き
始めたのでした。
「痛かった。先生、ひどいことするんだよ。こんなこと今まで
一度もされたことなかったのに……」
私に対してなら絶対に出さない甘えた声が、大きな胸の中から
聞こえます。でも、これが女の子でした。
「仕方がないじゃないか。お仕置きだもの。辛くないお仕置き
ってのはないよ。それも年長になれば、段々きつくなってくる。
身体が大きくなった子に幼稚園時代と同じことをやっても効果が
ないだろう」
「ねえ、お昼休みにお父様にやられたのとどっちが凄かったの?」
私が不用意に尋ねると、お姉様はそれまで隠していた顔を私に
向けて睨みつけます。
「…………」
ですから、それ以上は聴けなくなってしまいました。
お父様は、「食堂で少し休んでいこうか」と提案しましたが、
お姉様が「すぐに帰りたい」と言うので、そのままリンカーンに。
自宅までの1時間近い道中、遥お姉様はその車内で自分の体を
両手で支えながら座っていました。いえ、なるだけお尻がシート
に着かないようにしていたわけですから、正確には立っていたと
いうべきかもしれません。
ポンコツリンカーンのシートはすでに中のクッション材が飛び
出す始末でしたから、決して乗り心地のよいものではありません
が、それでもこんな姿で乗っているお姉様を見たのは初めてです。
何があったかは一目瞭然でした。
そして、家に帰ったあとも……
お姉様は私と一緒にお風呂に入ることを拒否します。
普段そんなことをしたら「家族が多いのに、そんなわがままは
認められません。後の人に迷惑がかかるでしょう」って河合先生
に叱られるところですが、それも今日はありませんでした。
「あなたは先に宿題をすませてらっしゃい」
遥お姉様がお風呂の間、私は勉強部屋へ追いやられます。
その時河合先生が普段より優しくお姉様に接しているのがよく
わかりました。
きっと、お尻は出血していてもおかしくないくらい腫上がって
いるはずですから、そこを洗う時はとても神経を使っていたんだ
と思います。そして、お姉様の愚痴も聞いてあげてたんだと思い
ます。お姉様のお風呂はいつもより長い時間がかかっていました。
ちょうど宿題をすませた頃、私にお風呂の番が回ってきました。
私は、お姉様のことについてお風呂の中で……
「お尻真っ赤になってた?」
「ずっと泣いてたでしょう?」
「ねえ、みんな、お浣腸があったって言ってたけど、ホント?」
「お灸もあったって……どこにすえられてた?」
いくつも質問を繰り出しましたが、河合先生の答えは一つだけ。
「知りません」
でも、あまりにしつこく尋ねますから、私の身体を洗いながら
……
「それはあなたに関係のないことでしょう。そういうことはね、
プライバシーと言って無理にこじ開けて見ようとしてはいけない
ものなの。あなたも自分がされたお仕置きを根掘り葉掘り尋ねら
れるのは嫌でしょう。自分がされて嫌な事は他人にもしてはいけ
ないわ。確かにここのお仕置きはよそと比べても厳しいでしょう
けど、それは、ここが他所の何倍も大きな愛情に包まれてるから
それができるってことなの。だから遥ちゃんも、どんなに厳しい
お仕置きがあってもそれを恨むことはないはずよ。あなただって
そうでしょう。お父様に厳しいお仕置きされたらお父様を恨む?」
「それは……」
私は返事に困ります。私だってその直後は確かに恨みますが、
お父様が相手だとすぐに忘れてしまうからでした。
「でしょう、あなたの場合はまだまだお父様大好きだものね」
最後はちょっぴり私を腐します。
でも、それはそうでした。当時の私はまだまだ『お父様ラブ』
の時代。たとえお仕置きがあってもここではその後のフォローが
ありますからお仕置きが憎しみに変わることはありませんでした。
その日の夕食。
遥お姉様の席はいつもの場所とは違っていました。
普段は小学生同士私とおしゃべりしながら食事をするのですが、
こんな時、お父様はご自分の席の隣にその子を席を用意させます。
罪を犯した子はその日お父様の隣りで食事しなければなりません
でした。
それだけではありません、まずはその席の脇に立って、普段は
しないご挨拶を……
「今日は、学校で自習の時間に騒ぎを起こしてお仕置きを頂き
ました。これからは良い子になりますから、お姉様、美咲ちゃん、
また今までどおり仲良くしてください。お願いします」
頭をペコリとさげて反省のご挨拶が済むと姉妹みんなから拍手
してもらえますが、こんな拍手、嬉しくも晴れがましくも何でも
ありません。
でも、『ご飯いらないからやりたくない』というわけにはいき
ませんでした。
それだけじゃありません。この時座るイスなんですが、これも
普段の物とは違っていたんです。
お尻の痛みを和らげる円形のクッションが座面に敷かれている
のはいいとして、問題はその椅子の形です。まるでレストランに
置かれた幼児用の椅子のようで、そこに座るとバーが下ろされ、
簡単には脱出できないようになります。
ちょっとした拘束椅子でした。
さらに問題はその食事の仕方。隣りに座る河合先生が親切にも
胸元に大きな涎掛けを掛けてくれるのですが、これは『あなたは
今、幼児なんですよ』という目印。ですから、食事そのものも、
この時は一人で楽しむことができませんでした。
「あ~~ん」
河合先生が、そのたびに料理の乗ったスプーンを幼児となった
お姉様の口元へ運びます。
「ほら、遥ちゃん、あ~~~ん」
時にはお父様も参加して二人で赤ちゃんごっこです。
ですから、お姉様の食事はそのスプーンをパクリとやるだけ。
まるで離乳食を口元へ運んでもらって食べる幼児のような食事
風景です。
でも、これってお仕置きなんでしょうか?
お父様にしたら、『お前はまだ幼児と同じなんだぞ!』という
戒めだったのかもしれません。
実際、プライドの高い遥お姉様は渋い顔でご飯をを食べていま
したから。
でも、私の場合、これはお仕置きになっていませんでした。
普段からお父様ラブの私にしたらこんなのは大歓迎なんです。
喜んで赤ちゃんを引き受けて食べ物をこぼしたりミルクをわざと
口の周りに着けたりしてお父様の注意をひきつけます。
ここぞとばかり甘えに甘えてむしろ本人はご満悦でした。
実際そうやってみてもお父様が私を叱ったことが一度もありま
せんでしたから。
食事が済むと、今度はそれぞれ自分の部屋に戻ってお勉強。
普段なら河合先生が小学生二人の面倒を一緒にみるところなん
ですが、その日はあいにくとお姉様が厄日でしたから、お父様も
遥お姉様の応援に出かけます。
これはお仕置きでショックを受けている遥お姉様を慰めるため、
あるいは叱咤激励するためでした。
私の経験から言ってもこの時のお父様はとてもやさしくてお膝
に抱っこしてもらいながら、河合先生とマンツーマンで勉強する
ことになります。
お父様の抱っこは子供の私には格別の安心感で、よく居眠りを
しては叱られていました。
お姉様だってその事情は同じだと思います。普段、私と一緒に
いる時は『私はあなたとは違うの、もう大人なの』ってな感じで
すましていますが、彼女にとってもお父様はいまだ特別な存在で
あるはずです。
実際、二人きりの時、お姉様が幼い子のようにお父様に甘える
姿を私は何度も見ていました。
一方、その時の私の方はというと……こちらも一人で勉強して
いたわけではありません。
隆明お兄様と小百合お姉様が私の面倒をみるようにお父様から
言いつかっていました。
このお二人はそれぞれ高三と高二。小学生の私からみればもう
立派に大人です。ですから同じ兄弟姉妹といっても、同類とか、
ライバルといった関係ではありませんでした。
私は、他の大人の人たちと同じようにこの二人にも甘えます。
最初は、「ほら、甘えないの」って叱られますけど、めげずに
甘えていると、私も遥お姉様と同じように隆明お兄様のお膝の上
でノンノしてお勉強することが許されます。
「やったー」
私はどんなに乱暴に跳ね回ってもびくともしない筋肉質の椅子
に大喜び。
『これで、お姉様と一緒にお勉強できるわ』
そんな嬉しい思いでした。
とはいえ、勉強はノルマ制。一応2時間とはなっていますが、
時間がきたから終了ではありません。全ての課題が出来るまでは
その人間椅子から開放してもらえませんでした。
二時間半後、お父様と遥お姉様が、私の勉強部屋になっている
お父様の書斎にやってきます。
「そちらは、まだ終わっていないのか?」
「いえ、こちらも、もうすぐ終わりますから」
「大丈夫てせす。もう少しですから……」
お兄様お姉様は私を急がせて、ほどなく私の方も今日の勉強が
終了します。
このあと、二人の残る仕事と言えば、お父様と一緒に寝るだけ
でした。
私たちは、洗面所へ行って歯を磨くと、お父様の書斎に戻って
素っ裸の上にパジャマだけを身につけるとお父様のベッドの中へ
飛び込みます。
この時、二人は11歳と12歳。今の基準でならもう親と添い
寝する歳ではないのかもしれませんが、当時は小学校を卒業する
まで親と添い寝をしている子も、そう珍しくありませんでした。
こんな時のお父様は愛情の大盤振る舞い。
ベッドの中でも私たちの身体を触りまくります。
頭をなでなで。
ほっぺをすりすり。
お背中トントン。
お尻よしよし。
お手々をモミモミ。
あんよもモミモミ。
果ては、オッパイの先を指の腹でスリスリしたり、お股の中に
手を入れたりもします。
お父様も、私も、遥お姉様も、コチョコチョ攻撃に大笑いして
身もだえます。
こんなこと他の人なら許しませんけど、お父様の場合は特別。
実際、こういうことって、二人にとっては決して嫌じゃありま
せんでした。
ベッドインした三人の濃密な時間が過ぎていきます。
Hじゃありませんよ。赤ちゃん時代からの習慣がその時もまだ
続いていただけでした。
お父様は、どんな罪でお仕置きされた場合も、それが終われば、
一定時間、私たちを最大限甘やかして、辛い心が癒されるように
配慮してくださったのです。
こうしたベッドの中での秘め事は親しい友人や他の姉妹にさえ
決して語られることがありませんが、私にとっても、遥お姉様に
とっても、それは今まで生きてきた中で、一番楽しい瞬間だった
のかもしれません。
***************
<これまでの登場人物>
学校を創った六つのお家
小暮
進藤(高志)
真鍋(久子)
佐々木
高梨
中条
小暮男爵家
小暮美咲<小5>~私~
小暮遥 <小6>
河合先生
<小学生担当の家庭教師>
小暮 隆明<高3>
小暮 小百合<高2>
小暮 健治<中3>
小暮 楓<中2>
小暮 朱音(あかね)<中1>
学校の先生方
小宮先生<5年生担当>
ショートヘアでボーイッシュ小柄
栗山先生<6年生担当>
ロングヘアで長身
高梨先生<図画/一般人>
創設六家の出身。自らも画家
桜井先生<体育/男性>
小柄で筋肉質。元は体操の選手
倉持先生<社会/男性>
黒縁メガネで頭はいつもぼさぼさ
牧田<お隣りの教室の担任の先生>
大柄な女の先生。陰で男女(おとこおんな)
なんて呼ばれることもある怖い先生。
中井先生<家庭科/女性>
本来の仕事のほかに頼まれるとお灸のお仕置きも
こなす生徒には怖い先生。
黒川先生<校医/男性>
温厚なおじいちゃん先生
6年生のクラス
小暮 遥
進藤 瑞穂
佐々木 友理奈
高梨 愛子
中条 留美
真鍋 明(男)
5年生のクラス
小暮 美咲
中条 由美子
高梨 里香
真鍋 詩織
佐々木 麗華
進藤 広志(男)
*************
小暮男爵 << §19 >> 杜子春のお仕置き
小暮男爵
***<< §19 >>****
体育が終わると、次は今日最後の授業、社会科です。
私たちの社会科はちょっと変わっていてマイクロバスに乗って
街や野山や港、時には山奥のダムなんかまで足を伸ばして授業が
行われます。要するに社会科見学なんですがその頻度が他の学校
に比べてとても多いのでした。
そのため本来教室でやるような講義は、道中のマイクロバスの
中で済まして現地ではその後提出させられるレポートの情報収集。
帰りのバスの中では今日のまとめみたいな講義もありましたが、
大半は先生と一緒に歌を歌ったりお友だちとのおしゃべりしたり
と、まるでピクニック気分です。……かなりユニークでしょう。
先週は二時間を使って街のコンビナートを見てまわり、教科書
にはない公害のことを知りました。
実はこれ、公害の発生源を沢山持っているお父様たちにとって
はあまり語ってほしくないことなんだそうですが、大事なことだ
からと倉持先生が教えてくださったんです。
それをおとといレポートにまとめて発表会をしたばかりです。
ですから、今日は何をするのかな?と思っていたら……
ま、予想はしてましたけど、単元テストでした。
私たちの学校は一般の学校のように教科書の内容を先生が教室
で授業することが少なくて、特に理科や社会は大半が宿題として
家でやってこなければなりません。
それで、そのことに不満を言うと……
「そんなのたいして時間のかからないことだもの。家でやって、
学校でもやってたら時間の無駄でしょう。学校は学校でしかでき
ないことをやりましょうよ」
倉持先生はあっけらかんとそう言います。
たしかに、ここではどの子にも家庭教師がついてはいますけど
それにしても……と、子供ながらに思ってました。
というのは、学校では教えないくせに、教科書の内容について
各単元ごとにテストはやるんですよね。
先生が教えない内容をテストだけするなんて、理不尽だと思い
ませんか。でも、うちの学校ではこれが当たり前だったんです。
おまけにこのテスト、80点未満だとお仕置きなんてことも。
もっと理不尽なわけです。
子どもたちは陰でぶつくさ言っていますが、テストがあること
その子の家庭教師に伝えてありますから、前日はどの家庭でも、
そこの家庭教師が試験範囲の単元を子供に勉強させます。
そのため、この単元テストで不合格点を取ってお仕置きされた
なんて話あまり聞きませんが、それでもそこは分別のない小学生
のこと、家庭教師が手におえないほど反抗して、あげく匙を投げ
られたなんてことはあります。
こうなると不合格ってことも……
こうした場合、目上の人への反抗と不勉強というダブルパンチ
ですからね、学校でのお仕置きも土曜日の午後に居残りさせられ
たり日曜日に呼び出されたりしてトラウマになるほど相当きつい
ことをされます。
当時、『特別反省会』なんて呼ばれていましたが、実質的には
『特別お仕置き会』です。
私は、在学中に三度この会に呼ばれる憂き目に遭いましたが、
二度目、三度目は園長室のドアノブを握る手がぶるぶると震えて
うまく回せなかったいくらいです。
この時は周囲に他の子供たちはいませんし、先生方も心を鬼に
して取り組みますから、情け容赦がありません。
ですから、いくらおしゃべりな私でもこの事をお友だちに報告
する気にはなれませんでした。
さて、それはともかく、授業が終われば、教室をお掃除して、
ホームルーム。
それが終われば、また、あのポンコツリンカーンに乗って帰る
ことになります。
最近は小学校でも部活が盛んだと聞いていますが、私の通った
小学校は学芸会や体育祭、文化祭など個別の催し物に関する準備
では居残ることはありましたが、それ以外は全員帰宅部でした。
園長室で一人ずつ園長先生にさようならを言ってお別れです。
「今日の単元テスト100点だったそうね。がんばったわね。
もう、ここにお仕置きで呼ばれることはないわね」とか……
「今日、主催者の方からご連絡があって、あなたが出品した絵
がまた入選したそうよ。これで三回連続かしらね」とか……
「あなたお掃除がとっても上手なのね。あなたがお掃除すると、
教室が見違えるほど綺麗になるって牧田先生おっしゃってたわ」
とか……色々です。
園長先生は今日のお別れに来た一人一人を抱きしめると生徒が
喜びそうなことを見つけて褒めてくれます。
チビちゃんたちと上級生では掃除時間の関係で下校時間に微妙
なずれがありますし、何といってもここは全校生徒が50名程度、
の小規模な学校。他の学校なら一クラス分でしかありませんから、
こんなことも可能なのでした。
ところが、そんな麗しいお別れの儀式がこの日に限ってはあり
ませんでした。
下級生たちは順調に下校したのですが、上級生、それも五年生
と六年生のクラスが、ホームルームが終わった後も教室から出る
ことを許されなかったのです。
こんな時は、誰からともなくヒソヒソ話が始まります。
「ねえ、何かしら?」
「良いことじゃないわよね、絶対」
「叱られるってこと?」
「たぶんね」
「やだなあ、私たち何したっけ?」
「何言ってるの。体育で広志君、むくれちゃったじゃないの」
「だってあれは広志君が悪いんでしょう?私たち悪くないもの」
「そうはいかないわよ。体育の授業を混乱させた連帯責任とか
言われるんじゃないの?」
「レンタイセキニン?何よそれ。私たち関係ないでしょう!?」
「そうでもないわよ。麗華ちゃんなんか、『ピルエットも回れ
ないにあんた生意気なのよ』とかなんとか言っちゃっていたし」
「えっ!?あたしなの?……だって、あれは……みんな言って
ねから、つい……」
『ひょっとして、お仕置き?』
そんな恐怖がふと女の子たちの頭をの中をよぎります。
園長先生は確かに滅多にお仕置きなんてしませんが……それは
過去においてもゼロということではありませんでした。
重苦しい空気が流れるなか、園長室に呼ばれていた小宮先生が
帰っていらっしゃいました。
「え~と、今日これからお招れに行く子いますか?」
先生は、最初私たちにそう尋ねて、私たちの中にそうした子が
いない事を確認します。
というのも、私たちの間ではお父様たちが自宅に他の家の子を
招き入れることがたびたびだったのです。街の公立小学校のよう
にお友だちの大半がご近所さんではない私たちは、いったん帰宅
してしまうとお友だちと親交を深めるチャンスがまずありません。
そこで親たちが意図的に誕生会やお祝いの会を開いて子供たちを
自宅に招き入れ、お友だちがどんな性格か、今自分の娘とどんな
関係かをチェックしていたのでした。
「……それでは、そうした予定はないようですから……」
私はこの瞬間、小宮先生がふっと寂しい顔をなさったようで、
気になりました。これって、根拠のない女の子の感なんですが、
私の感はたいてい当たってしまうのでした。
「実は、園長先生があなたたちとお話がしたいそうですから、
これからみんなで園長室へまいります」
先生は取り立てて何の説明もしません。その後は表情も変えず
に私たちを園長室へ連れて行きます。
でも、私は何か特別な事情があると睨んでいました。
園長室、そこは日当たりの良い8畳ほどの洋室。厚いペルシャ
絨毯が敷かれ先生が執務するための大きな事務机がありますが、
そのほかの家具は、生徒を抱っこするためのソファと大きな花瓶、
それにクラシックな書棚くらいでしょうか、ちなみにその書棚の
引き出しには、良い子へのご褒美としてお菓子がストックされて
いました。
お菓子?
そう、お菓子です。
園長先生がご褒美といってお菓子を渡す学校なんて、おそらく
日本国中でここだけかもしれません。
幼い頃の私たちは朝夕二回必ず園長先生に抱かれ、下校時には
小さなお土産までもらって帰っていました。
つまり、立場は園長先生でも私たちにとってはおばあちゃんと
いった存在に近かったのでした。
一般の人たちから見れば学校の先生が何もそんなことまでって
思うかもしれませんが私たちには初めから親類縁者がいません。
甘えられる人がいないのです。そこで、担任の先生がお母さんの
代わりを、園長先生がお婆ちゃんの代わりをしてくれていたので
した。
もちろん、そう取り計らったのはお父様たち。
この学校が同じ境遇の少人数の子供たちだけで構成されている
のも、ここが単に知識を学ぶ場だけでなく家庭としても機能する
ようにとの思惑があったからなのです。
では、なぜ、そんな巨費を投じてまで私たちを優遇してくれた
のかというと、そこにはお父様たちなりの計算もあるのですが、
それについては小学生の私たちはまったく与り知らぬことでした。
今は、とにかく全員が緊張して園長室へとやってきます。
すると、ドアが閉まっていました。
『どうしてドアが閉まってるんだろう?』
また不安になります。
えっ、園長室のドアが閉まっていて当たり前じゃないか?
違うんです。うちの場合、子供たちがお別れの挨拶に立ち寄り
ますから、どんなに寒い日でもこの時間はドアが必ず開いていた
のです。
それが閉まっているというのは、それだけでも、『何かある』
と思えるのでした。
「小宮です。よろしいでしょうか?」
小宮先生がノックすると……
「小宮先生ね、どうぞ入ってらして……」
という声がします。
そこで、ぞろぞろと部屋の中へ入っていくと……
「わあ、いらっしゃい。……みんな、一緒に来てくれたのね。
さあ、入ってちょうだい」
私たちの前にいる園長先生はいつもと変わらない笑顔でした。
園長先生が事務机に座り、小宮先生がその脇に立って、私たち
は園長先生の前に並びます。これが私たちの定位置。小宮先生に
手を引かれ園長室で叱られる時もこれが定位置でした。
『何となく嫌な感じだなあ』
と思っていると、全員が揃ったのを確認して園長先生がやおら
お話しを始めます。
「実はね……このところの、あなたたちのクラスの様子が気に
なっていたの。先々週は由美子ちゃんと詩織ちゃんが大喧嘩する
し……先週は、単元テストで合計7回も不合格が出たでしょう。
それぞれ不合格を取った人は違うけど、ああした業者テストは、
ひねった難しい問題はないから、ちゃんと宿題さえやっていたら
誰でもちゃんと100点が取れる仕組みになってるのよ。それが
できないっていうことは……ちゃんと宿題をやってないから……
でしょう、……麗華ちゃん、里香ちゃん、違う?」
園長先生の問いかけに二人は俯いてしまいます。
「今週もあったでしょう。お掃除の時間に雑巾を投げ合って、
お隣りでまだ授業されていた牧田先生に叱られたの。……あれは、
誰だっけ?……それに今日だって美咲ちゃんと広志君がフェンス
の外へ突き抜けちゃうんだもの。先生方も心の休まる暇がないわ」
園長先生はこのほかにも色々とここしばらくの私たちの悪事や
怠け癖なんかを並べ立てます。
結局、六人のうちそこに登場しない子は一人もいませんでした。
一言で言ってしまうと『あなたたち、たるんでるわよ』という
わけです。
ただ、だからと言って、今回私たちがお尻の心配をする必要は
ありませんでした。
というのは……
「そこで、もう少しあなた方をしっかりと指導していただこう
と思って、今回は小宮先生に私のお仕置きを受けてもらうことに
したの」
「そんなあ~~」
由美子ちゃんが思わず声を上げます。
でも、気持は他の五人も同じでした。
ただ、園長先生がこうおっしゃったとたん、私だけは……
『えっ、また?』
と思いました。
実は今から3年前、私たちが小2の頃です。同じようなことが
あったんです。
『私たちのせいで小宮先生が園長先生からお仕置きされる』
園長先生にそう聞かされた時は、今以上にショックでした。
『どうしよう』『どうしよう』『どうしよう』『どうしよう』
『どうしよう』『どうしよう』
六人が六人とも同じ気持です。でも、女の子って、こんな時は
からっきし意気地がありません。
『先生は助けたい。でも、自分はぶたれたくない』
というわけです。
そんな中、この時は麗華ちゃんがジャンヌダルクでした。
彼女は園長先生に泣きながら、『私がお仕置きをうけますから、
小宮先生を許してください』と直訴したんです。
すると、園長先生も小宮先生もふき出しちゃって……
でも、二人とも、とても嬉しそうに笑っていました。
麗華ちゃんは園長先生に抱っこされ泣き止むまであやされます。
結局、その日、子どもたちは誰一人ぶたれませんでしたし小宮
先生も無事だったんですが、それって、残りの五人にしてみると
気持は複雑でした。
『これって、先生方が私たちを試したんだろうか?……もし、
そうなら、麗華ちゃん以外の私たちって自分勝手で薄情な子ども
だって見られちゃったんじゃないだろうか………』
そんな疑念が頭の中から離れませんでした。
今回だって事情は同じです。
ですから『誰かが手を上げたら八方丸く収まるんじゃないか』
と思って、お互いの顔を見合わせるのですが……
『ならば、私が……』なんて名乗り出る子はいません。
前回、名乗り出てくれた麗華ちゃんも今回は下を向いてしまい
ます。
小2から小5。その間に私たちは随分大人になっていました。
一時の感情に流されず多くの事が理性で判断できるようになって
いましたから。
でも、それって裏を返せば、ずるくなってるってことなのかも
しれません。
お互い顔を見合わせるだけで、いっこうにらちがあきませんで
した。
そのうち、園長先生が……
「……それでね、今日はあなたたちには小宮先生のお仕置きを
お手伝して欲しいと思ってここへ呼んだのよ。やっていただける
かしら?」
ここでまた、私たち六人はお互いに顔を見合わせることになり
ます。
しばしの沈黙のあと、詩織ちゃんが尋ねます。
「私たち、何をすればいいんですか?」
すると、園長先生は……
「あら、詩織ちゃんやってくれるの?簡単なことよ。これから
私が小宮先生のお尻をこのおしゃもじみたいな形をしたパドルで
100回叩くから、あなたたちは先生が懲罰台から逃げ出さない
ように両手と両足をしっかり押さえてくれていればいいの。……
簡単でしょう」
園長先生は笑っていますが、私たちにとって事はそう簡単では
ありませんでした。
だって、小宮先生というのはこの学校に入学以来ずっと私たち
の担任の先生。うちは先生が学校を辞めない限り卒業までずっと
同じ先生が担任に着く決まりになっていました。
確かにいつもラブってわけじゃありません。反発して口をきか
なくなったこともありますし、恥ずかしいお仕置きだって一度や
二度じゃありませんけど、それでも先生は私たちにとっては学校
でのお母さん。
今、そのお母さんが目の前でお尻をぶたれようとしているのに、
それを手伝うなんて簡単に応じられることではありませんでした。
とうとうと言うか、仕方なくというか、やけっぱちというか、
そのあたり明確な理由はありませんけど、私が口を開きます。
何の因果かこの時私は学級委員をしていたのです。
その責任が後押ししたみたいでした。
「園長先生、私が代わりにお尻をぶたれたら小宮先生は許して
もらえますか」
私の場合は、麗華ちゃんみたいに激情型ではありません。仕方
なく、本当に仕方なくですから声は絞り出すようにしかでません
でした。
「あら、美咲ちゃんが代わりになるの。級長さんともなると、
大変ね」
園長先生は、苦りきった私の顔をちょっとだけ微笑ましく観察
しながらも、お腹のうちはとっくにご存知でした。
「せっかくだけど、その心配はいらないわ。だってあなた達は
その時すでに罰を受けてるもの。罰を受けたらそれでおしまい。
それがここのルールですもの。せっかく良い子に戻ってるのに、
また罰を受ける必要ないでしょう。これは先生と小宮先生の問題
なのよ」
「……でも、それだと……小宮先生が可哀想だから……」
歯切れの悪い言葉で反論してみると……
「大丈夫よ。小宮先生は大人だもの。あなたたちに比べれば、
身体もしっかりしてらっしゃるから、こんなおばあちゃんの鞭で
音を上げることなんかないはずよ」
園長先生は取りあってくれません。
そればかりか……
「小宮先生、あなた幸せ者ね。こんなやさしい生徒に囲まれて
……私を悪者にして……羨ましい限りだわ」
こう言って茶化します。
そして約束通り、小宮先生は普段なら子どもたちがうつ伏せに
なるはずの懲罰台(といってもそれは単なる古い机なんですが)
に身をかがめます。
もうその後は園長先生の指示通り動くしかありませんでした。
私が先生の右手を、由美子ちゃんが左手を握ります。後ろでは、
里香ちゃんが右足を、詩織ちゃんが左足を押さえます。
そして、麗華ちゃんと広志君が捲りあげたフリルのスカートが
落ちてこないように持っている係りでした。
実は、小宮先生、普段はタイトなスカートを穿いていることが
多いのですが、この日のことは始めから決まっていたのでしょう。
突風に煽られたら捲れあがりそうなフリフリのスカートをはいて
いました。
先生は大人ですから、さすがにパンツまで脱げとはおっしゃい
ませんでしたが、それでも、薄いショーツ一枚では豊満なヒップ
ラインは隠せません。
私たちは否応無しにそれを目にします。広志君は、頬をぽっと
赤くしたみたいでした。
そんな広志君の脇に立つ園長先生は見上げるような巨人です。
それは園長先生の身体が単に大きいというだけでなく、私たちが
全員腰を落として低く身構えていますから、先生がそこに現れる
と、私たちからはまるで赤鬼が立っているように見えるのでした。
園長先生は、決して怖い顔をしているわけではありませんが、
迫力は十分でした。
「さあ、みんなにご注意よ。しっかり聞いてちょうだい。……
いいこと、お仕置きの最中はみんなその場を動かないでください。
下手に動くとこのパドルが当たってしまって危ないですからね。
どうしても動きたい時は手を上げずに私に声をかけて頂戴。……
いいですね。」
園長先生はそう言って子供たちに注意を促したあと小宮先生に
対しても……
「いいこと、あなたもそうよ。あなたが動くと、子どもたちに
危険が及びますからね、そこは十分に注意してちょうだい」
こう耳元で注意なさるのでした。
「さあ、いきますよ」
園長先生はこう宣言して、まず最初の一撃を振り下ろします。
「パシッ」
園長先生を振り下ろしたパドルが鈍い音を立てると……
「一つ、園長先生、お仕置きありがとうございます」
小宮先生はこう答えます。
これは私たちの学校でのしきたりみたいなもので、お尻叩きの
間は、一つ二つと数を数えて、最後にありがとうございましたと
付け加えなければならないのです。
もちろん、通常は子供が言うわけですが、先生の場合も例外は
認められていないみたいでした。
いずれにしてもこれを延々百回もやるわけですから大変です。
ただ、その一回一回に挨拶をしなければなりませんから、鞭の
一つ一つもそんなに強く叩かれることはありません。
最初の頃は痛みの蓄積もありませんから、本当なら小宮先生も
鼻歌交じりのはずですが、教え子の手前、園長先生の手前楽そう
な顔もできません。
そこで真剣な面持ちで罰を受けます。
ただ、20回30回と進むうち、その顔にも変化が現れます。
真剣な顔というより、苦痛に満ちた歪んだ顔になるのです。
園長先生の振り下ろす鞭の勢いが変化したわけではありません。
一つ一つの衝撃は小さくてもそれが数を重ねるごとにお尻の奥に
蓄積されていきますから、重苦しい、息が詰まるような鈍痛が、
徐々にひどくなっていきます。
最初の頃は鼻歌まじりで応じられていても、この頃になると、
お尻をさすりたくて仕方がなくなります。
そして40回、50回ともなると、たとえ軽くぶたれていても
その衝撃は思いっきりぶたれたのと変わらないほど厳しくなり、
……
「あっ、いや」
決して嬉しいことではないはずなのに思わずよがり声のような
ものが漏れるようになります。
こうなってからが、お尻叩きは本当のお仕置きでした。
「あっ、いや、だめ」
最初は三回に一回ぐらいで出ていたよがり声が、二回に一回と
なり、やがて60回を越えるあたりでは毎回聞こえるようになり
ます。
でも、そうなると、私のハートはまたチクチクと痛むことに。
小宮先生の苦痛は、まだ耐えられる段階なのかもしれませんが、
その声を聞くだびに良心がチクチクします。
先生へのお仕置きの原因が私たちにあることへの罪悪感でした。
「あっ、あああああ」
園長先生の鞭が小宮先生のお尻をとらえるたびに小さなうめき
声が私の耳元で反響します。
私はそのたび『どうしよう』『どうしよう』とそればかり思う
ようになるのでした。
そんな時です。
「みんなも同じ姿勢のままでは大変でしょう。ちょっと、休憩
しましょうか」
それまで一度も休まなかった園長先生が、ここで休憩を入れて
くださったのです。
今までが70発。残りがちょうど30発のところでした。
すると、そこで私が口を開きます。
それって今考えても、『どうして私そんなことしたんだろう?』
と思うようなことでした。
「園長先生、小宮先生のお仕置き、私たちが代わってあげられ
ないでしょうか?」
恐らく小宮先生の激しい息遣いに後先考えずに言ってしまった
んだと思います。おまけに……
「残り30回を五人で分けて、一人6回で……」
私は笑顔で園長先生と交渉します。
もちろんお友だちに『こうしよう』だなん相談したことはあり
ません。これは全ては私の独断なのです。
すると、園長先生、しばし思いをめぐらしているご様子でした
が、笑顔になって、まず、私以外の子供たちに尋ねます。
「ねえ麗華ちゃん。学級委員さんがあんなことおっしゃってる
けど、あなたはそれでいいの?」
「えっ、それは……」
麗華ちゃん、いきなりの質問に、当然のように戸惑います。
でも、考えた末の答えは……
「はい、大丈夫です」
でした。
園長先生は次々に子供たちに尋ねてまわります。
もちろん、みんな思わぬ質問で最初はどぎまぎですが、やがて
出てくる答えはどの子もイエスでした。
みんな私のわがままを受け入れてくれたんです。
「そう、それじゃあ、そうしましょうか」
園長先生は応じてくれますが、懲罰台から開放された小宮先生
の方がむしろ浮かない顔でした。
「あなたたち、気持は嬉しいけど、やめなさい。園長先生の鞭
は痛いのよ」
小宮先生はそうおっしゃいましたが、もう、それは覚悟の上で
した。他の子の中には話の流れの中でやむを得ずお付き合いして
しまったという子だっていたかもしれませんが、私は小宮先生の
苦しそうな息に耐えられなくなっていたのでした。
ところが、私たちへの罰は、懲罰台ではありませんでした。
私たちは、園長先生が執務する大きな事務机の前に一列に並ば
されます。
そして、まず私から……
「美咲ちゃん、スカートを上げて……」
私がスカートを上げると、問答無用でショーツが引き下ろされ
……。
「前かがみになるの。……そうよ、私にしっかりお尻を見せて
ちょうだい」
お仕置きですから園長先生の声もいつもより厳しい声ですが、
仕方ありません。
もう、あとは……
「ピシッ、ピシッ、ピシッ、ピシッ、ピシッ、」
立て続けに5回、パドルでお尻をぶたれました。
「次は麗華ちゃんね。スカートを上げてちょうだい……あっ、
美咲ちゃん、あなたはまだスカートを下ろすの早いわよ」
園長先生は私がスカートの裾を下ろすことを認めませんでした。
「ピシッ、ピシッ、ピシッ、ピシッ、ピシッ、」
麗華ちゃんもゴム製パドルでのお仕置きは同じです。
そして、お仕置きのあと、スカートの裾をそのまま持ち上げて
いなければならないのも同じでした。
「次、由美子ちゃん」
こうして園長先生は次から次に子どもたちのお尻を叩いていき、
六人のお尻叩きが終わると、そこに下半身丸出しの六人が並ぶ事
に……
「どう?お尻は痛かった?」
園長先生は私たちに尋ねますが……
「………………」
それに答える子はいませんでした。
いえ、五回ぶたれましたけど、痛みはそれほどでもないのです。
ただ、この姿が悲しくて答える気にはなれませんでした。
女の子って気が小さくて猜疑心の強いところがありますからね、
『何だか、かえってまずいことしちゃったのかな』とか『まだ、
何かお仕置きされるのかなあ』とか思っちゃうんです。
「お尻、あまり痛くなかったでしょう?少し遠慮したからよ。
あなたたちが、そんなにも強く小宮先生のことを慕ってるなんて
思わなかったからびっくりしたわ」
「それって、よかったんですか?」
由美子ちゃんが尋ねます。
「もちろんよ。ごく幼い時と違ってある程度分別がついてから
そうした決断をするには相当な勇気が必要だわ。あなた方は偉い
なって思ったの。そんな社子春みたいな子、本気でぶてないもの。
ただね、あなたたちもいったんは小宮先生の罰を肩代わりすると
言ったんだから、その約束は最後まで果たさなければならないわ。
だから、ぶたれない代わりにしばらくそうやって立ってなさい」
『え~~、そっちの方がきついよ~~』
私は思いましたが、仕方がありません。
女の子はこのあと引き上げたスカートの裾がピンで留められ、
男の子は半ズボンとパンツが足首まで引き下ろされて、それぞれ
恥ずかしい姿のまま10分ほど立たされます。
今、こんなことやったらきっと警察沙汰でしょうけど、でも、
当時、私たちの学校ではこうしたこともそう珍しいことではあり
ませんでした。
チャイルドポルノなんて言葉がまだ一般的ではなかった時代。
小学生の下半身なんて人畜無害と考えられていましたから、親や
教師が子供を晒しものにして罰の一部として見せしめにしていて
もそれに文句を言う人がいなかったのです。
もちろん、晒し者になってるこちらはとっても恥ずかしかった
わけですが、お仕置きという大義名分のもと、大人たちは子ども
の羞恥心にはとんと無頓着でした。
むしろ、園長先生はこの姿を見て……
「可愛いじゃないですか、小宮先生。この頃が無邪気で穢れが
なくて、それでいて扱いやすくて、一番いい時期ね。だから昔は、
新米教師が入ってくると、まずは4年生5年生の担任をやらせた
ものなのよ」
「そうなんですか」
「あなたは考えすぎなの。こんなに良い子たちが、あなたから
離れたり、裏切ったりするものですか」
「ほんと、私もそう思いました」
「こんな天使たちを直接指導できるなんて、羨ましくてよ」
二人のこの会話が何を意味するのか、幼い私にはその時はまだ
わかりませんでしたが、今はわかります。
どうやらこの催し、園長先生が小宮先生に自信を持たせようと
企画されたものだったみたいです。でもそう考えると、私もほん
のちょっぴりですがお手伝いできたみたいでした。
**********************
<これまでの登場人物>
学校を創った六つのお家
小暮
進藤(高志)
真鍋(久子)
佐々木
高梨
中条
小暮男爵家
小暮美咲<小5>~私~
小暮遥 <小6>
河合先生
<小学生担当の家庭教師>
小暮 隆明<高3>
小暮 小百合<高2>
小暮 健治<中3>
小暮 楓<中2>
小暮 朱音(あかね)<中1>
学校の先生方
小宮先生<5年生担当>
ショートヘアでボーイッシュ小柄
栗山先生<6年生担当>
ロングヘアで長身
高梨先生<図画/一般人>
創設六家の出身。自らも画家
桜井先生<体育/男性>
小柄で筋肉質。元は体操の選手
倉持先生<社会/男性>
黒縁メガネで頭はいつもぼさぼさ
牧田<お隣りの教室の担任の先生>
大柄な女の先生。陰で男女(おとこおんな)
なんて呼ばれることもある怖い先生。
6年生のクラス
小暮 遥
進藤 瑞穂
佐々木 友理奈
高梨 愛子
中条 留美
真鍋 明(男)
5年生のクラス
小暮 美咲
中条 由美子
高梨 里香
真鍋 詩織
佐々木 麗華
進藤 広志(男)
******************
***<< §19 >>****
体育が終わると、次は今日最後の授業、社会科です。
私たちの社会科はちょっと変わっていてマイクロバスに乗って
街や野山や港、時には山奥のダムなんかまで足を伸ばして授業が
行われます。要するに社会科見学なんですがその頻度が他の学校
に比べてとても多いのでした。
そのため本来教室でやるような講義は、道中のマイクロバスの
中で済まして現地ではその後提出させられるレポートの情報収集。
帰りのバスの中では今日のまとめみたいな講義もありましたが、
大半は先生と一緒に歌を歌ったりお友だちとのおしゃべりしたり
と、まるでピクニック気分です。……かなりユニークでしょう。
先週は二時間を使って街のコンビナートを見てまわり、教科書
にはない公害のことを知りました。
実はこれ、公害の発生源を沢山持っているお父様たちにとって
はあまり語ってほしくないことなんだそうですが、大事なことだ
からと倉持先生が教えてくださったんです。
それをおとといレポートにまとめて発表会をしたばかりです。
ですから、今日は何をするのかな?と思っていたら……
ま、予想はしてましたけど、単元テストでした。
私たちの学校は一般の学校のように教科書の内容を先生が教室
で授業することが少なくて、特に理科や社会は大半が宿題として
家でやってこなければなりません。
それで、そのことに不満を言うと……
「そんなのたいして時間のかからないことだもの。家でやって、
学校でもやってたら時間の無駄でしょう。学校は学校でしかでき
ないことをやりましょうよ」
倉持先生はあっけらかんとそう言います。
たしかに、ここではどの子にも家庭教師がついてはいますけど
それにしても……と、子供ながらに思ってました。
というのは、学校では教えないくせに、教科書の内容について
各単元ごとにテストはやるんですよね。
先生が教えない内容をテストだけするなんて、理不尽だと思い
ませんか。でも、うちの学校ではこれが当たり前だったんです。
おまけにこのテスト、80点未満だとお仕置きなんてことも。
もっと理不尽なわけです。
子どもたちは陰でぶつくさ言っていますが、テストがあること
その子の家庭教師に伝えてありますから、前日はどの家庭でも、
そこの家庭教師が試験範囲の単元を子供に勉強させます。
そのため、この単元テストで不合格点を取ってお仕置きされた
なんて話あまり聞きませんが、それでもそこは分別のない小学生
のこと、家庭教師が手におえないほど反抗して、あげく匙を投げ
られたなんてことはあります。
こうなると不合格ってことも……
こうした場合、目上の人への反抗と不勉強というダブルパンチ
ですからね、学校でのお仕置きも土曜日の午後に居残りさせられ
たり日曜日に呼び出されたりしてトラウマになるほど相当きつい
ことをされます。
当時、『特別反省会』なんて呼ばれていましたが、実質的には
『特別お仕置き会』です。
私は、在学中に三度この会に呼ばれる憂き目に遭いましたが、
二度目、三度目は園長室のドアノブを握る手がぶるぶると震えて
うまく回せなかったいくらいです。
この時は周囲に他の子供たちはいませんし、先生方も心を鬼に
して取り組みますから、情け容赦がありません。
ですから、いくらおしゃべりな私でもこの事をお友だちに報告
する気にはなれませんでした。
さて、それはともかく、授業が終われば、教室をお掃除して、
ホームルーム。
それが終われば、また、あのポンコツリンカーンに乗って帰る
ことになります。
最近は小学校でも部活が盛んだと聞いていますが、私の通った
小学校は学芸会や体育祭、文化祭など個別の催し物に関する準備
では居残ることはありましたが、それ以外は全員帰宅部でした。
園長室で一人ずつ園長先生にさようならを言ってお別れです。
「今日の単元テスト100点だったそうね。がんばったわね。
もう、ここにお仕置きで呼ばれることはないわね」とか……
「今日、主催者の方からご連絡があって、あなたが出品した絵
がまた入選したそうよ。これで三回連続かしらね」とか……
「あなたお掃除がとっても上手なのね。あなたがお掃除すると、
教室が見違えるほど綺麗になるって牧田先生おっしゃってたわ」
とか……色々です。
園長先生は今日のお別れに来た一人一人を抱きしめると生徒が
喜びそうなことを見つけて褒めてくれます。
チビちゃんたちと上級生では掃除時間の関係で下校時間に微妙
なずれがありますし、何といってもここは全校生徒が50名程度、
の小規模な学校。他の学校なら一クラス分でしかありませんから、
こんなことも可能なのでした。
ところが、そんな麗しいお別れの儀式がこの日に限ってはあり
ませんでした。
下級生たちは順調に下校したのですが、上級生、それも五年生
と六年生のクラスが、ホームルームが終わった後も教室から出る
ことを許されなかったのです。
こんな時は、誰からともなくヒソヒソ話が始まります。
「ねえ、何かしら?」
「良いことじゃないわよね、絶対」
「叱られるってこと?」
「たぶんね」
「やだなあ、私たち何したっけ?」
「何言ってるの。体育で広志君、むくれちゃったじゃないの」
「だってあれは広志君が悪いんでしょう?私たち悪くないもの」
「そうはいかないわよ。体育の授業を混乱させた連帯責任とか
言われるんじゃないの?」
「レンタイセキニン?何よそれ。私たち関係ないでしょう!?」
「そうでもないわよ。麗華ちゃんなんか、『ピルエットも回れ
ないにあんた生意気なのよ』とかなんとか言っちゃっていたし」
「えっ!?あたしなの?……だって、あれは……みんな言って
ねから、つい……」
『ひょっとして、お仕置き?』
そんな恐怖がふと女の子たちの頭をの中をよぎります。
園長先生は確かに滅多にお仕置きなんてしませんが……それは
過去においてもゼロということではありませんでした。
重苦しい空気が流れるなか、園長室に呼ばれていた小宮先生が
帰っていらっしゃいました。
「え~と、今日これからお招れに行く子いますか?」
先生は、最初私たちにそう尋ねて、私たちの中にそうした子が
いない事を確認します。
というのも、私たちの間ではお父様たちが自宅に他の家の子を
招き入れることがたびたびだったのです。街の公立小学校のよう
にお友だちの大半がご近所さんではない私たちは、いったん帰宅
してしまうとお友だちと親交を深めるチャンスがまずありません。
そこで親たちが意図的に誕生会やお祝いの会を開いて子供たちを
自宅に招き入れ、お友だちがどんな性格か、今自分の娘とどんな
関係かをチェックしていたのでした。
「……それでは、そうした予定はないようですから……」
私はこの瞬間、小宮先生がふっと寂しい顔をなさったようで、
気になりました。これって、根拠のない女の子の感なんですが、
私の感はたいてい当たってしまうのでした。
「実は、園長先生があなたたちとお話がしたいそうですから、
これからみんなで園長室へまいります」
先生は取り立てて何の説明もしません。その後は表情も変えず
に私たちを園長室へ連れて行きます。
でも、私は何か特別な事情があると睨んでいました。
園長室、そこは日当たりの良い8畳ほどの洋室。厚いペルシャ
絨毯が敷かれ先生が執務するための大きな事務机がありますが、
そのほかの家具は、生徒を抱っこするためのソファと大きな花瓶、
それにクラシックな書棚くらいでしょうか、ちなみにその書棚の
引き出しには、良い子へのご褒美としてお菓子がストックされて
いました。
お菓子?
そう、お菓子です。
園長先生がご褒美といってお菓子を渡す学校なんて、おそらく
日本国中でここだけかもしれません。
幼い頃の私たちは朝夕二回必ず園長先生に抱かれ、下校時には
小さなお土産までもらって帰っていました。
つまり、立場は園長先生でも私たちにとってはおばあちゃんと
いった存在に近かったのでした。
一般の人たちから見れば学校の先生が何もそんなことまでって
思うかもしれませんが私たちには初めから親類縁者がいません。
甘えられる人がいないのです。そこで、担任の先生がお母さんの
代わりを、園長先生がお婆ちゃんの代わりをしてくれていたので
した。
もちろん、そう取り計らったのはお父様たち。
この学校が同じ境遇の少人数の子供たちだけで構成されている
のも、ここが単に知識を学ぶ場だけでなく家庭としても機能する
ようにとの思惑があったからなのです。
では、なぜ、そんな巨費を投じてまで私たちを優遇してくれた
のかというと、そこにはお父様たちなりの計算もあるのですが、
それについては小学生の私たちはまったく与り知らぬことでした。
今は、とにかく全員が緊張して園長室へとやってきます。
すると、ドアが閉まっていました。
『どうしてドアが閉まってるんだろう?』
また不安になります。
えっ、園長室のドアが閉まっていて当たり前じゃないか?
違うんです。うちの場合、子供たちがお別れの挨拶に立ち寄り
ますから、どんなに寒い日でもこの時間はドアが必ず開いていた
のです。
それが閉まっているというのは、それだけでも、『何かある』
と思えるのでした。
「小宮です。よろしいでしょうか?」
小宮先生がノックすると……
「小宮先生ね、どうぞ入ってらして……」
という声がします。
そこで、ぞろぞろと部屋の中へ入っていくと……
「わあ、いらっしゃい。……みんな、一緒に来てくれたのね。
さあ、入ってちょうだい」
私たちの前にいる園長先生はいつもと変わらない笑顔でした。
園長先生が事務机に座り、小宮先生がその脇に立って、私たち
は園長先生の前に並びます。これが私たちの定位置。小宮先生に
手を引かれ園長室で叱られる時もこれが定位置でした。
『何となく嫌な感じだなあ』
と思っていると、全員が揃ったのを確認して園長先生がやおら
お話しを始めます。
「実はね……このところの、あなたたちのクラスの様子が気に
なっていたの。先々週は由美子ちゃんと詩織ちゃんが大喧嘩する
し……先週は、単元テストで合計7回も不合格が出たでしょう。
それぞれ不合格を取った人は違うけど、ああした業者テストは、
ひねった難しい問題はないから、ちゃんと宿題さえやっていたら
誰でもちゃんと100点が取れる仕組みになってるのよ。それが
できないっていうことは……ちゃんと宿題をやってないから……
でしょう、……麗華ちゃん、里香ちゃん、違う?」
園長先生の問いかけに二人は俯いてしまいます。
「今週もあったでしょう。お掃除の時間に雑巾を投げ合って、
お隣りでまだ授業されていた牧田先生に叱られたの。……あれは、
誰だっけ?……それに今日だって美咲ちゃんと広志君がフェンス
の外へ突き抜けちゃうんだもの。先生方も心の休まる暇がないわ」
園長先生はこのほかにも色々とここしばらくの私たちの悪事や
怠け癖なんかを並べ立てます。
結局、六人のうちそこに登場しない子は一人もいませんでした。
一言で言ってしまうと『あなたたち、たるんでるわよ』という
わけです。
ただ、だからと言って、今回私たちがお尻の心配をする必要は
ありませんでした。
というのは……
「そこで、もう少しあなた方をしっかりと指導していただこう
と思って、今回は小宮先生に私のお仕置きを受けてもらうことに
したの」
「そんなあ~~」
由美子ちゃんが思わず声を上げます。
でも、気持は他の五人も同じでした。
ただ、園長先生がこうおっしゃったとたん、私だけは……
『えっ、また?』
と思いました。
実は今から3年前、私たちが小2の頃です。同じようなことが
あったんです。
『私たちのせいで小宮先生が園長先生からお仕置きされる』
園長先生にそう聞かされた時は、今以上にショックでした。
『どうしよう』『どうしよう』『どうしよう』『どうしよう』
『どうしよう』『どうしよう』
六人が六人とも同じ気持です。でも、女の子って、こんな時は
からっきし意気地がありません。
『先生は助けたい。でも、自分はぶたれたくない』
というわけです。
そんな中、この時は麗華ちゃんがジャンヌダルクでした。
彼女は園長先生に泣きながら、『私がお仕置きをうけますから、
小宮先生を許してください』と直訴したんです。
すると、園長先生も小宮先生もふき出しちゃって……
でも、二人とも、とても嬉しそうに笑っていました。
麗華ちゃんは園長先生に抱っこされ泣き止むまであやされます。
結局、その日、子どもたちは誰一人ぶたれませんでしたし小宮
先生も無事だったんですが、それって、残りの五人にしてみると
気持は複雑でした。
『これって、先生方が私たちを試したんだろうか?……もし、
そうなら、麗華ちゃん以外の私たちって自分勝手で薄情な子ども
だって見られちゃったんじゃないだろうか………』
そんな疑念が頭の中から離れませんでした。
今回だって事情は同じです。
ですから『誰かが手を上げたら八方丸く収まるんじゃないか』
と思って、お互いの顔を見合わせるのですが……
『ならば、私が……』なんて名乗り出る子はいません。
前回、名乗り出てくれた麗華ちゃんも今回は下を向いてしまい
ます。
小2から小5。その間に私たちは随分大人になっていました。
一時の感情に流されず多くの事が理性で判断できるようになって
いましたから。
でも、それって裏を返せば、ずるくなってるってことなのかも
しれません。
お互い顔を見合わせるだけで、いっこうにらちがあきませんで
した。
そのうち、園長先生が……
「……それでね、今日はあなたたちには小宮先生のお仕置きを
お手伝して欲しいと思ってここへ呼んだのよ。やっていただける
かしら?」
ここでまた、私たち六人はお互いに顔を見合わせることになり
ます。
しばしの沈黙のあと、詩織ちゃんが尋ねます。
「私たち、何をすればいいんですか?」
すると、園長先生は……
「あら、詩織ちゃんやってくれるの?簡単なことよ。これから
私が小宮先生のお尻をこのおしゃもじみたいな形をしたパドルで
100回叩くから、あなたたちは先生が懲罰台から逃げ出さない
ように両手と両足をしっかり押さえてくれていればいいの。……
簡単でしょう」
園長先生は笑っていますが、私たちにとって事はそう簡単では
ありませんでした。
だって、小宮先生というのはこの学校に入学以来ずっと私たち
の担任の先生。うちは先生が学校を辞めない限り卒業までずっと
同じ先生が担任に着く決まりになっていました。
確かにいつもラブってわけじゃありません。反発して口をきか
なくなったこともありますし、恥ずかしいお仕置きだって一度や
二度じゃありませんけど、それでも先生は私たちにとっては学校
でのお母さん。
今、そのお母さんが目の前でお尻をぶたれようとしているのに、
それを手伝うなんて簡単に応じられることではありませんでした。
とうとうと言うか、仕方なくというか、やけっぱちというか、
そのあたり明確な理由はありませんけど、私が口を開きます。
何の因果かこの時私は学級委員をしていたのです。
その責任が後押ししたみたいでした。
「園長先生、私が代わりにお尻をぶたれたら小宮先生は許して
もらえますか」
私の場合は、麗華ちゃんみたいに激情型ではありません。仕方
なく、本当に仕方なくですから声は絞り出すようにしかでません
でした。
「あら、美咲ちゃんが代わりになるの。級長さんともなると、
大変ね」
園長先生は、苦りきった私の顔をちょっとだけ微笑ましく観察
しながらも、お腹のうちはとっくにご存知でした。
「せっかくだけど、その心配はいらないわ。だってあなた達は
その時すでに罰を受けてるもの。罰を受けたらそれでおしまい。
それがここのルールですもの。せっかく良い子に戻ってるのに、
また罰を受ける必要ないでしょう。これは先生と小宮先生の問題
なのよ」
「……でも、それだと……小宮先生が可哀想だから……」
歯切れの悪い言葉で反論してみると……
「大丈夫よ。小宮先生は大人だもの。あなたたちに比べれば、
身体もしっかりしてらっしゃるから、こんなおばあちゃんの鞭で
音を上げることなんかないはずよ」
園長先生は取りあってくれません。
そればかりか……
「小宮先生、あなた幸せ者ね。こんなやさしい生徒に囲まれて
……私を悪者にして……羨ましい限りだわ」
こう言って茶化します。
そして約束通り、小宮先生は普段なら子どもたちがうつ伏せに
なるはずの懲罰台(といってもそれは単なる古い机なんですが)
に身をかがめます。
もうその後は園長先生の指示通り動くしかありませんでした。
私が先生の右手を、由美子ちゃんが左手を握ります。後ろでは、
里香ちゃんが右足を、詩織ちゃんが左足を押さえます。
そして、麗華ちゃんと広志君が捲りあげたフリルのスカートが
落ちてこないように持っている係りでした。
実は、小宮先生、普段はタイトなスカートを穿いていることが
多いのですが、この日のことは始めから決まっていたのでしょう。
突風に煽られたら捲れあがりそうなフリフリのスカートをはいて
いました。
先生は大人ですから、さすがにパンツまで脱げとはおっしゃい
ませんでしたが、それでも、薄いショーツ一枚では豊満なヒップ
ラインは隠せません。
私たちは否応無しにそれを目にします。広志君は、頬をぽっと
赤くしたみたいでした。
そんな広志君の脇に立つ園長先生は見上げるような巨人です。
それは園長先生の身体が単に大きいというだけでなく、私たちが
全員腰を落として低く身構えていますから、先生がそこに現れる
と、私たちからはまるで赤鬼が立っているように見えるのでした。
園長先生は、決して怖い顔をしているわけではありませんが、
迫力は十分でした。
「さあ、みんなにご注意よ。しっかり聞いてちょうだい。……
いいこと、お仕置きの最中はみんなその場を動かないでください。
下手に動くとこのパドルが当たってしまって危ないですからね。
どうしても動きたい時は手を上げずに私に声をかけて頂戴。……
いいですね。」
園長先生はそう言って子供たちに注意を促したあと小宮先生に
対しても……
「いいこと、あなたもそうよ。あなたが動くと、子どもたちに
危険が及びますからね、そこは十分に注意してちょうだい」
こう耳元で注意なさるのでした。
「さあ、いきますよ」
園長先生はこう宣言して、まず最初の一撃を振り下ろします。
「パシッ」
園長先生を振り下ろしたパドルが鈍い音を立てると……
「一つ、園長先生、お仕置きありがとうございます」
小宮先生はこう答えます。
これは私たちの学校でのしきたりみたいなもので、お尻叩きの
間は、一つ二つと数を数えて、最後にありがとうございましたと
付け加えなければならないのです。
もちろん、通常は子供が言うわけですが、先生の場合も例外は
認められていないみたいでした。
いずれにしてもこれを延々百回もやるわけですから大変です。
ただ、その一回一回に挨拶をしなければなりませんから、鞭の
一つ一つもそんなに強く叩かれることはありません。
最初の頃は痛みの蓄積もありませんから、本当なら小宮先生も
鼻歌交じりのはずですが、教え子の手前、園長先生の手前楽そう
な顔もできません。
そこで真剣な面持ちで罰を受けます。
ただ、20回30回と進むうち、その顔にも変化が現れます。
真剣な顔というより、苦痛に満ちた歪んだ顔になるのです。
園長先生の振り下ろす鞭の勢いが変化したわけではありません。
一つ一つの衝撃は小さくてもそれが数を重ねるごとにお尻の奥に
蓄積されていきますから、重苦しい、息が詰まるような鈍痛が、
徐々にひどくなっていきます。
最初の頃は鼻歌まじりで応じられていても、この頃になると、
お尻をさすりたくて仕方がなくなります。
そして40回、50回ともなると、たとえ軽くぶたれていても
その衝撃は思いっきりぶたれたのと変わらないほど厳しくなり、
……
「あっ、いや」
決して嬉しいことではないはずなのに思わずよがり声のような
ものが漏れるようになります。
こうなってからが、お尻叩きは本当のお仕置きでした。
「あっ、いや、だめ」
最初は三回に一回ぐらいで出ていたよがり声が、二回に一回と
なり、やがて60回を越えるあたりでは毎回聞こえるようになり
ます。
でも、そうなると、私のハートはまたチクチクと痛むことに。
小宮先生の苦痛は、まだ耐えられる段階なのかもしれませんが、
その声を聞くだびに良心がチクチクします。
先生へのお仕置きの原因が私たちにあることへの罪悪感でした。
「あっ、あああああ」
園長先生の鞭が小宮先生のお尻をとらえるたびに小さなうめき
声が私の耳元で反響します。
私はそのたび『どうしよう』『どうしよう』とそればかり思う
ようになるのでした。
そんな時です。
「みんなも同じ姿勢のままでは大変でしょう。ちょっと、休憩
しましょうか」
それまで一度も休まなかった園長先生が、ここで休憩を入れて
くださったのです。
今までが70発。残りがちょうど30発のところでした。
すると、そこで私が口を開きます。
それって今考えても、『どうして私そんなことしたんだろう?』
と思うようなことでした。
「園長先生、小宮先生のお仕置き、私たちが代わってあげられ
ないでしょうか?」
恐らく小宮先生の激しい息遣いに後先考えずに言ってしまった
んだと思います。おまけに……
「残り30回を五人で分けて、一人6回で……」
私は笑顔で園長先生と交渉します。
もちろんお友だちに『こうしよう』だなん相談したことはあり
ません。これは全ては私の独断なのです。
すると、園長先生、しばし思いをめぐらしているご様子でした
が、笑顔になって、まず、私以外の子供たちに尋ねます。
「ねえ麗華ちゃん。学級委員さんがあんなことおっしゃってる
けど、あなたはそれでいいの?」
「えっ、それは……」
麗華ちゃん、いきなりの質問に、当然のように戸惑います。
でも、考えた末の答えは……
「はい、大丈夫です」
でした。
園長先生は次々に子供たちに尋ねてまわります。
もちろん、みんな思わぬ質問で最初はどぎまぎですが、やがて
出てくる答えはどの子もイエスでした。
みんな私のわがままを受け入れてくれたんです。
「そう、それじゃあ、そうしましょうか」
園長先生は応じてくれますが、懲罰台から開放された小宮先生
の方がむしろ浮かない顔でした。
「あなたたち、気持は嬉しいけど、やめなさい。園長先生の鞭
は痛いのよ」
小宮先生はそうおっしゃいましたが、もう、それは覚悟の上で
した。他の子の中には話の流れの中でやむを得ずお付き合いして
しまったという子だっていたかもしれませんが、私は小宮先生の
苦しそうな息に耐えられなくなっていたのでした。
ところが、私たちへの罰は、懲罰台ではありませんでした。
私たちは、園長先生が執務する大きな事務机の前に一列に並ば
されます。
そして、まず私から……
「美咲ちゃん、スカートを上げて……」
私がスカートを上げると、問答無用でショーツが引き下ろされ
……。
「前かがみになるの。……そうよ、私にしっかりお尻を見せて
ちょうだい」
お仕置きですから園長先生の声もいつもより厳しい声ですが、
仕方ありません。
もう、あとは……
「ピシッ、ピシッ、ピシッ、ピシッ、ピシッ、」
立て続けに5回、パドルでお尻をぶたれました。
「次は麗華ちゃんね。スカートを上げてちょうだい……あっ、
美咲ちゃん、あなたはまだスカートを下ろすの早いわよ」
園長先生は私がスカートの裾を下ろすことを認めませんでした。
「ピシッ、ピシッ、ピシッ、ピシッ、ピシッ、」
麗華ちゃんもゴム製パドルでのお仕置きは同じです。
そして、お仕置きのあと、スカートの裾をそのまま持ち上げて
いなければならないのも同じでした。
「次、由美子ちゃん」
こうして園長先生は次から次に子どもたちのお尻を叩いていき、
六人のお尻叩きが終わると、そこに下半身丸出しの六人が並ぶ事
に……
「どう?お尻は痛かった?」
園長先生は私たちに尋ねますが……
「………………」
それに答える子はいませんでした。
いえ、五回ぶたれましたけど、痛みはそれほどでもないのです。
ただ、この姿が悲しくて答える気にはなれませんでした。
女の子って気が小さくて猜疑心の強いところがありますからね、
『何だか、かえってまずいことしちゃったのかな』とか『まだ、
何かお仕置きされるのかなあ』とか思っちゃうんです。
「お尻、あまり痛くなかったでしょう?少し遠慮したからよ。
あなたたちが、そんなにも強く小宮先生のことを慕ってるなんて
思わなかったからびっくりしたわ」
「それって、よかったんですか?」
由美子ちゃんが尋ねます。
「もちろんよ。ごく幼い時と違ってある程度分別がついてから
そうした決断をするには相当な勇気が必要だわ。あなた方は偉い
なって思ったの。そんな社子春みたいな子、本気でぶてないもの。
ただね、あなたたちもいったんは小宮先生の罰を肩代わりすると
言ったんだから、その約束は最後まで果たさなければならないわ。
だから、ぶたれない代わりにしばらくそうやって立ってなさい」
『え~~、そっちの方がきついよ~~』
私は思いましたが、仕方がありません。
女の子はこのあと引き上げたスカートの裾がピンで留められ、
男の子は半ズボンとパンツが足首まで引き下ろされて、それぞれ
恥ずかしい姿のまま10分ほど立たされます。
今、こんなことやったらきっと警察沙汰でしょうけど、でも、
当時、私たちの学校ではこうしたこともそう珍しいことではあり
ませんでした。
チャイルドポルノなんて言葉がまだ一般的ではなかった時代。
小学生の下半身なんて人畜無害と考えられていましたから、親や
教師が子供を晒しものにして罰の一部として見せしめにしていて
もそれに文句を言う人がいなかったのです。
もちろん、晒し者になってるこちらはとっても恥ずかしかった
わけですが、お仕置きという大義名分のもと、大人たちは子ども
の羞恥心にはとんと無頓着でした。
むしろ、園長先生はこの姿を見て……
「可愛いじゃないですか、小宮先生。この頃が無邪気で穢れが
なくて、それでいて扱いやすくて、一番いい時期ね。だから昔は、
新米教師が入ってくると、まずは4年生5年生の担任をやらせた
ものなのよ」
「そうなんですか」
「あなたは考えすぎなの。こんなに良い子たちが、あなたから
離れたり、裏切ったりするものですか」
「ほんと、私もそう思いました」
「こんな天使たちを直接指導できるなんて、羨ましくてよ」
二人のこの会話が何を意味するのか、幼い私にはその時はまだ
わかりませんでしたが、今はわかります。
どうやらこの催し、園長先生が小宮先生に自信を持たせようと
企画されたものだったみたいです。でもそう考えると、私もほん
のちょっぴりですがお手伝いできたみたいでした。
**********************
<これまでの登場人物>
学校を創った六つのお家
小暮
進藤(高志)
真鍋(久子)
佐々木
高梨
中条
小暮男爵家
小暮美咲<小5>~私~
小暮遥 <小6>
河合先生
<小学生担当の家庭教師>
小暮 隆明<高3>
小暮 小百合<高2>
小暮 健治<中3>
小暮 楓<中2>
小暮 朱音(あかね)<中1>
学校の先生方
小宮先生<5年生担当>
ショートヘアでボーイッシュ小柄
栗山先生<6年生担当>
ロングヘアで長身
高梨先生<図画/一般人>
創設六家の出身。自らも画家
桜井先生<体育/男性>
小柄で筋肉質。元は体操の選手
倉持先生<社会/男性>
黒縁メガネで頭はいつもぼさぼさ
牧田<お隣りの教室の担任の先生>
大柄な女の先生。陰で男女(おとこおんな)
なんて呼ばれることもある怖い先生。
6年生のクラス
小暮 遥
進藤 瑞穂
佐々木 友理奈
高梨 愛子
中条 留美
真鍋 明(男)
5年生のクラス
小暮 美咲
中条 由美子
高梨 里香
真鍋 詩織
佐々木 麗華
進藤 広志(男)
******************
小暮男爵 << §18 >> 天使のドッヂボール
小暮男爵
***<< §18 >>****/軽い話、ノンH
午後の最初の授業は体育。もともと一学年一クラスで六人しか
いない学校で何をやるにも人数が足りませんから、体育の授業は
五六年生合同で行われていました。
それでも十二名と少ないですけど、このくらいいればなんとか
ドッヂボールの試合ぐらい出来ます。
うちは女の子中心の学校ですから、体育も普段はダンスばかり
やっていました。
それが女性から男性に先生が代わって、球技もやりましょうと
いうことになり、最初はテニスやゴルフをやりましたが、もっと
子どもらしいことをというお父様たちの希望からドッヂボールを
始めることになったのです。
大きな球を投げ合うなんて、それまでの人生で一度もしたこと
がなった子供たちですから前の二時間はひたすらその球を投げる
ことと取ることの練習でした。
二人で一組。お互いが山なりのボールを放っては相手にそれを
キャッチしてもらいます。
最初はまったく取れませんでしたが、練習の甲斐あってゆるい
ボールならみんながなんとか取れるようになります。
そこで『今日は試合をしてみましょう』ということになったの
です。
もちろんこの日の為に先生から教えていただいたルールも一応
覚えてはきましたが……。
試合は五年生と六年生の対抗戦。いよいよ試合開始です。
六年生チームも五年生チームもお互い六人のうち四人が内野、
二人が外野に散ります。
さぞや、血湧き肉踊る熱戦が……
と思った方も多いでしょうが、私たちのドッヂボールでは血も
湧きませんし、肉も踊りませんでした。
例えば、一人の内野の子が、相手の内野の子めがけてボールを
投げるとします。
こんな時、普通は何も言わず運動神経のなさそうな子をめがけ
て投げるんだと思いますが、私たちの学校ではそれは違っていま
した。
「これから投げま~~す。瑞穂お姉様、お願いしま~~~す」
必ず、自分が投げる球をとっていただく方を指名して投げるの
です。
もちろん、こんなルール教科書には書いてありません。先生が
こうしなさいっておっしゃったわけでもありません。
でも私たちの場合はやり始めるとごく自然にこうなるのでした。
投げられたボールを瑞穂お姉様がキャッチすると、今度は……
「美咲ちゃん取ってね~~」
こう言ってからこちらへ投げ返してきます。
そして、このキャッチに失敗すると……
「ごめんなさい」
と言って、取り損ねた子は外野へ……。
これ、一見すると他でやってるドッヂボールと同じように見え
るかもしれませんが、実は、外野へ回る子の謝ってる相手が違う
んです。
彼女、味方に対して失敗してごめんなさいを言っているのでは
ありません。投げてくれた人に対して、『せっかく投げてくれた
のに、取れなくてごめんなさいね』って謝ってから外野に向かう
のでした。
そして、ここが一番違うのですが、私たちのドッヂボールでは
内野の数は減らないんです。
どうしてかというと……
相手方のリーダー、この場合は瑞穂お姉様が、「じゃあ、次は
里香ちゃん。入ってえ~~」というふうに、今、外野をやってる
相手側の子を指名して、外野へ回る子の代わりにその子が内野へ
入ってくるんです。
ですから、内野4と外野2の数はいつも同じでした。
こんなの、どこのルールブックに載っていないでしょうけど、
私たちの世界では、お友だちみんながボールに触れるようにと、
自然とこうなります。
これって私たちだけのローカルルール。でもこの方が私たちに
とっては気持ちよかったのも事実でした。
当然、試合終了で人数を数えてみても差なんてありませんから、
試合はいつも引き分け。勝ち負けなんてつきません。
私たちはそれがよかったのでした。
ローカルルールはまだあります。
外野にいる子は相手の内野の子に球をぶつけたりはしません。
ひたすら遠くへ飛んでいったボールを拾ってくるだけの球拾い。
そして……
「これ、どうぞ」
と言って取ってきたボールを相手の内野に手渡すだけの仕事で
した。
すると、今度はボールをもらった相手が……
「ありがとう。次は、あなたを指名してあげるからね」
と、こうなるのでした。
幼い頃からお父様や先生に『仲良し』『仲良し』で育てられた
私たちにはお友だちが敵になるというのが、どうにも理解できま
せんでした。
ですから、試合に勝ったとしても満足感がありません。逆に、
『相手の方に悪いことをした』なんて思っちゃいますから、それ
は心持の悪いことだったんです。
上手で投げた球を受けられない子には、前に来てもらって下手
で投げます。大事なことは相手がミスする事を喜ぶんじゃなくて、
逆に、取れるような球を投げてあげること。お友だちから投げて
もらった球をちゃんとキャッチしてあげること。
これが大事なことだったんです。
ですから内野全員がキャッチできると、もうそれだけで歓声が
あがります。それが最高の満足でした。
そんな私たちのドッヂボールで事件が起きます。
内野にいた広志君、そうフェンスの破れたのを利用して一緒に
谷底まで降りていって、先生にお尻を叩かれた時のあの子です。
その子が、相手の内野だった留美お姉様が後ろに下がろうした
時に転んでしまったのを見て……
「留美お姉ちゃま、取って~~」
そう言って持っていたボールを高く放り投げたのでした。
前に投げたのと違い狙って狙えるものではありませんが、不幸
にして高く上がったボールが加速度をつけてお姉様の頭に当たっ
てしまいます。
「きゃあ」
ボールは大きく弾んで外野へと飛んで行き留美お姉様の大きな
声が聞こえました。
みんなびっくりです。
「大丈夫?」
「怪我なかった?」
「医務室に行く?」
たちまち、五六年生の女の子たちが心配して中条さんのもとへ
集まりますが、広志君だけは涼しい顔です。それどころか……
「留美お姉ちゃま、取れなかったんだから外野に行ってよ」
広志君の声がします。
これには女の子全員、カチンときました。
全員が広志君の方を振り返ると睨みつけます。
これには広志君も少しびびったみたいですが、すぐにこう言う
のです。
「だって、僕はルールどおりにやってるんだよ。取れない方が
悪いんじゃないか」
たしかに、広志君は留美お姉様に一声かけてから投げましたが、
それって明らかに悪意があります。
「何言ってるの!倒れてる子はどこからボールが来るか分から
ないでしょう!そんなことして投げたら危ないじゃない」
私たちを代表して瑞穂お姉様が反論します。
でも、広志君は折れませんでした。
「どうしてさあ、僕たち、みんなドッヂボールやってんだよ。
だったら、そのルールに従ってたら別に何しててもいいだろう。
だいたい、留美お姉様は普段から鈍いんだよ」
これには女の子全員、さらに『カチン!』です。
愛子お姉様が、
「あんたなんか内野やってる資格ないわよ」
友理奈お姉様が、
「そうよ、あなたこそ外野へ行きなさいよ」
あとはもうみんな……
「そうよ、そうよ、外野で頭を冷やすべきよ」
「賛成、あなたがいたら楽しく遊べないもの」
「だいたい男の子のくせに、あなた生意気なんだから」
「そうよ、あなたなんかピルエットも満足に回れないくせに、
どうしてこんな時だけ態度がでかいのよ」
五年生の子も混じって速射砲の一斉攻撃です。
これには、広志君もたじたじでした。
でも広志君、心の中でそんな女の子たちの意見をもっともだと
思っていたわけではありませんでした。
広志君はボールを激しく地面に叩きつけるとコートを去ります。
顔を真っ赤にして、泣いて怒ってる、そんな感じだったのです。
ほかの子がたいして怪我もしていない留美お姉様の処へ集まる
なか、私は広志君を心配して跡をつけます。
見ると、そんな広志君を迎え入れたのは進藤のお父様でした。
(親子ですから当たり前と言えばそれまでなんですが……)
実はこのドッヂボールの試合、昼休みに行われたお仕置きの後
で、お父様方が揃ってコートサイドで見学なさっていたのです。
広志君は、最初進藤のお父様が差し出す手を払い除けて一度は
もっと遠くへ行こうとしますが、次にお父様が息子を両手で抱き
しめ、立ったまま懐の中に入れてしまうと、それからは広志君も
抵抗しませんでした。
私はその時、広志君が泣いているように見えました。
きっと悔しかったんだと思います。
広志君は広志君で、自分のしたことが正しいと信じてるみたい
でしたから。
抱き合う親子のもとに他のお父様たちも集まってきます。
「だいぶ派手にやられてたみたいだね」
と、佐々木のお父様が……
「女の子というのはいったん火がつくと見境がなくなるから」
と、今度は高梨のお父様も……
他のお父様たちも次々に口を開きます。
「ここは女の子社会だからね、調和第一というわけだ」
「でも、これだと男の子には住みにくいですかね」
「確かにそれはあるだろうね。男の子と女の子では生きていく
哲学みたいなものが違うから。私なんて未だに奥さんの考えてる
ことが分からないくらいだ」
そして、中条のお父様が……
「大丈夫、ヒロちゃんの言っていることは正しいよ」
こう言うと、そこでやっと広志君は顔をあげます。
やっと自分の考えに賛同してくれる人が見つかってほっとした
のかもしれません。
中条のお父様は続けます。
「ドッヂボールの試合だけでみると、君の言ってる事は正しい
んだよ。そもそも内野がボールを投げるのにいちいち声を掛ける
なんてよそじゃやってないだろうし、内野の子が転んだからって
立ち上がるのを待ってる子もいないだろう。逆にチャンスだから
ぶつけちゃえって、ボールぶつけちゃってもそれも構わないさ」
「ほんとう」
広志君は中条のお父様の方を向きます。すると、今まで泣いて
いたのがはっきりとわかりました。
「本当さあ、大半の学校ではそうやってドッヂボールをやって
るんだから。……ただね、ドッヂボールのルールはそうでもこの
学校の生徒としては、それとは別に守らなければならないルール
があるんだ。女の子たちはそれを言ってるんだよ」
「どういうこと?」
「『お友だちとは、いつも仲良しでいましょう』ってことさ。
うちではこれが一番大切なルールなんだ。どんな規則や成績より
これが最優先のルールなんだよ。君だってそれは知ってるよね。
もう耳にたこができるほど聞かされてるだろうから」
「う、うん……」
「ドッヂボールをやってる時も君がこの学校の生徒である以上
それは守らなきゃいけないんだ。こんなことしたらお友だちの体
が傷つくとか、こんなことしたら仲が悪くなりそうだと思ったら、
それはドッヂボールのルールに書いてなくてもやっちゃいけない。
……わかるだろう?」
「うん……」
広志君は小さな声で答えます。
「いや、私も驚きましたよ。この子たちは自分たちでちゃんと
自分たちにあったルールを創っちゃうんだから、大人顔負けだ。
しかも、こうして見る限りそれが美しく機能している。まさに、
これは天使たちのドッヂボールですよ」
広志君を迎えにやってきた桜井先生が、お父様たちを前にして
大仰に驚いてみせます。
もちろん、それってお父様たちを前にしてのお世辞があるかも
しれませんが、先生は子供たちを褒めちぎります。感心しきりで
した。
そして、最後に……
「とにもかくにもだ、ここは女の子たちに謝って、また仲間に
加えてもらわなきゃね。このまま逃げてちゃ男が廃るよ。さあ、
先生と一緒に行こう。一緒に謝ってあげるから……」
そう言って広志君の手を引こうとします。
すると、広志君が気の弱いことを言うのです。
「僕……また、ドッヂボールできるかな?」
「もちろんさ、もし、『広志君と一緒に体育をやるのが嫌だ』
何て言ったら今度はその子の方がお友だちと仲良くできなかった
ってことになるもの」
と、桜井先生。
「大丈夫だよ広志。もし姉ちゃんが嫌だなんて言ったら、私が
この場でお仕置きしてやるから」
進藤のお父様は広志君の肩越しにそう言って笑うのでした。
「ただし、最初にお前が謝らなきゃ、話にならないよ」
最後は進藤のお父様が広志君の肩を押してコートへ戻ります。
するとそれとほぼ同時に私もまた小暮のお父様に後ろから両肩
を掴まれました。
「美咲ちゃんは広志君のことが好きなのか?」
ぼそぼそっとした小さな声。でも唐突にお父様から言われて、
思わず私の心臓が止まりそうになります。
私は振り返ると……
「そんなわけないじゃない」
怒ったような顔で否定するのですが……
「そうか、午前中は一緒にスケッチしてたみたいだし、午後も
こうやって跡を追ってくるぐらいだから、気があるのかと思った
んだが、違ったか?」
「馬鹿馬鹿しい。変な想像しないでよ。そんなの偶然。偶然よ。
あんなのタイプじゃないもの。私はもっとカッコいい子がいいの。
郷ひろみ、みたいな」
私はむきになって否定します。
「そうか、広志君はタイプじゃないのか。残念だなあ。お前が
その気なら進藤さんところと縁続きになれたんだが……」
お父様は苦笑いです。
私は十一歳。漠然とした美形の男子への憧れはありましたが、
具体的な想いはまだ何もありません。
広志君のことだって、あまりにも幼い頃から彼を知っています
から彼のいやな処だって沢山知っているわけで、本当にそんなの
偶然だと思っていました。
でも、お父様は人生の大先輩。私以上に私の心の奥底をご存知
だったみたいです。
さて、私のことはともかく、広志君がコートに戻ってきます。
「ごめんね、ボールぶつけて……」
彼は留美お姉様にごめんなさいを言ってから、瑞穂お姉様にも
謝ります。
「ごめんなさい。勝手にコートから離れて……」
殊勝な心がけと言いたいところですが、実は広志君、バックに
大勢のお父様たちや桜井先生を引き連れていました。
お父様たちにしてみたら広志君がちゃんとごめんなさいを言え
るかどうかを確かめるために一緒に着いてきただけなんでしょう
けど、女の子の立場からすると、それってまるで自分たちの方が
お父様たちに叱られてるみたいでした。
広志君、大勢の保護者に見守られながらのごめんなさいだった
のです。
また、ドッヂボールが再会され、当然、広志君もそれに加わり
ます。
絶対に勝ち負けの着かない天使のドッヂボール。勝った喜びも
負けた悔しさもここにはありませんが、私たちにとっては忘れ得
ないボールゲームの思い出だったのです。
**********************
*****************
<これまでの登場人物>
学校を創った六つのお家
小暮
進藤(高志)
真鍋(久子)
佐々木
高梨
中条
小暮男爵家
小暮美咲<小5>~私~
小暮遥 <小6>
河合先生
<小学生担当の家庭教師>
小暮 隆明<高3>
小暮 小百合<高2>
小暮 健治<中3>
小暮 楓<中2>
小暮 朱音(あかね)<中1>
学校の先生方
小宮先生<5年生担当>
ショートヘアでボーイッシュ小柄
栗山先生<6年生担当>
ロングヘアで長身
高梨先生<図画/一般人>
創設六家の出身。自らも画家
6年生のクラス
小暮 遥
進藤 瑞穂
佐々木 友理奈
高梨 愛子
中条 留美
真鍋 明(男)
5年生のクラス
小暮 美咲
中条 由美子
高梨 里香
真鍋 詩織
佐々木 麗華
進藤 広志(男)
********************
***<< §18 >>****/軽い話、ノンH
午後の最初の授業は体育。もともと一学年一クラスで六人しか
いない学校で何をやるにも人数が足りませんから、体育の授業は
五六年生合同で行われていました。
それでも十二名と少ないですけど、このくらいいればなんとか
ドッヂボールの試合ぐらい出来ます。
うちは女の子中心の学校ですから、体育も普段はダンスばかり
やっていました。
それが女性から男性に先生が代わって、球技もやりましょうと
いうことになり、最初はテニスやゴルフをやりましたが、もっと
子どもらしいことをというお父様たちの希望からドッヂボールを
始めることになったのです。
大きな球を投げ合うなんて、それまでの人生で一度もしたこと
がなった子供たちですから前の二時間はひたすらその球を投げる
ことと取ることの練習でした。
二人で一組。お互いが山なりのボールを放っては相手にそれを
キャッチしてもらいます。
最初はまったく取れませんでしたが、練習の甲斐あってゆるい
ボールならみんながなんとか取れるようになります。
そこで『今日は試合をしてみましょう』ということになったの
です。
もちろんこの日の為に先生から教えていただいたルールも一応
覚えてはきましたが……。
試合は五年生と六年生の対抗戦。いよいよ試合開始です。
六年生チームも五年生チームもお互い六人のうち四人が内野、
二人が外野に散ります。
さぞや、血湧き肉踊る熱戦が……
と思った方も多いでしょうが、私たちのドッヂボールでは血も
湧きませんし、肉も踊りませんでした。
例えば、一人の内野の子が、相手の内野の子めがけてボールを
投げるとします。
こんな時、普通は何も言わず運動神経のなさそうな子をめがけ
て投げるんだと思いますが、私たちの学校ではそれは違っていま
した。
「これから投げま~~す。瑞穂お姉様、お願いしま~~~す」
必ず、自分が投げる球をとっていただく方を指名して投げるの
です。
もちろん、こんなルール教科書には書いてありません。先生が
こうしなさいっておっしゃったわけでもありません。
でも私たちの場合はやり始めるとごく自然にこうなるのでした。
投げられたボールを瑞穂お姉様がキャッチすると、今度は……
「美咲ちゃん取ってね~~」
こう言ってからこちらへ投げ返してきます。
そして、このキャッチに失敗すると……
「ごめんなさい」
と言って、取り損ねた子は外野へ……。
これ、一見すると他でやってるドッヂボールと同じように見え
るかもしれませんが、実は、外野へ回る子の謝ってる相手が違う
んです。
彼女、味方に対して失敗してごめんなさいを言っているのでは
ありません。投げてくれた人に対して、『せっかく投げてくれた
のに、取れなくてごめんなさいね』って謝ってから外野に向かう
のでした。
そして、ここが一番違うのですが、私たちのドッヂボールでは
内野の数は減らないんです。
どうしてかというと……
相手方のリーダー、この場合は瑞穂お姉様が、「じゃあ、次は
里香ちゃん。入ってえ~~」というふうに、今、外野をやってる
相手側の子を指名して、外野へ回る子の代わりにその子が内野へ
入ってくるんです。
ですから、内野4と外野2の数はいつも同じでした。
こんなの、どこのルールブックに載っていないでしょうけど、
私たちの世界では、お友だちみんながボールに触れるようにと、
自然とこうなります。
これって私たちだけのローカルルール。でもこの方が私たちに
とっては気持ちよかったのも事実でした。
当然、試合終了で人数を数えてみても差なんてありませんから、
試合はいつも引き分け。勝ち負けなんてつきません。
私たちはそれがよかったのでした。
ローカルルールはまだあります。
外野にいる子は相手の内野の子に球をぶつけたりはしません。
ひたすら遠くへ飛んでいったボールを拾ってくるだけの球拾い。
そして……
「これ、どうぞ」
と言って取ってきたボールを相手の内野に手渡すだけの仕事で
した。
すると、今度はボールをもらった相手が……
「ありがとう。次は、あなたを指名してあげるからね」
と、こうなるのでした。
幼い頃からお父様や先生に『仲良し』『仲良し』で育てられた
私たちにはお友だちが敵になるというのが、どうにも理解できま
せんでした。
ですから、試合に勝ったとしても満足感がありません。逆に、
『相手の方に悪いことをした』なんて思っちゃいますから、それ
は心持の悪いことだったんです。
上手で投げた球を受けられない子には、前に来てもらって下手
で投げます。大事なことは相手がミスする事を喜ぶんじゃなくて、
逆に、取れるような球を投げてあげること。お友だちから投げて
もらった球をちゃんとキャッチしてあげること。
これが大事なことだったんです。
ですから内野全員がキャッチできると、もうそれだけで歓声が
あがります。それが最高の満足でした。
そんな私たちのドッヂボールで事件が起きます。
内野にいた広志君、そうフェンスの破れたのを利用して一緒に
谷底まで降りていって、先生にお尻を叩かれた時のあの子です。
その子が、相手の内野だった留美お姉様が後ろに下がろうした
時に転んでしまったのを見て……
「留美お姉ちゃま、取って~~」
そう言って持っていたボールを高く放り投げたのでした。
前に投げたのと違い狙って狙えるものではありませんが、不幸
にして高く上がったボールが加速度をつけてお姉様の頭に当たっ
てしまいます。
「きゃあ」
ボールは大きく弾んで外野へと飛んで行き留美お姉様の大きな
声が聞こえました。
みんなびっくりです。
「大丈夫?」
「怪我なかった?」
「医務室に行く?」
たちまち、五六年生の女の子たちが心配して中条さんのもとへ
集まりますが、広志君だけは涼しい顔です。それどころか……
「留美お姉ちゃま、取れなかったんだから外野に行ってよ」
広志君の声がします。
これには女の子全員、カチンときました。
全員が広志君の方を振り返ると睨みつけます。
これには広志君も少しびびったみたいですが、すぐにこう言う
のです。
「だって、僕はルールどおりにやってるんだよ。取れない方が
悪いんじゃないか」
たしかに、広志君は留美お姉様に一声かけてから投げましたが、
それって明らかに悪意があります。
「何言ってるの!倒れてる子はどこからボールが来るか分から
ないでしょう!そんなことして投げたら危ないじゃない」
私たちを代表して瑞穂お姉様が反論します。
でも、広志君は折れませんでした。
「どうしてさあ、僕たち、みんなドッヂボールやってんだよ。
だったら、そのルールに従ってたら別に何しててもいいだろう。
だいたい、留美お姉様は普段から鈍いんだよ」
これには女の子全員、さらに『カチン!』です。
愛子お姉様が、
「あんたなんか内野やってる資格ないわよ」
友理奈お姉様が、
「そうよ、あなたこそ外野へ行きなさいよ」
あとはもうみんな……
「そうよ、そうよ、外野で頭を冷やすべきよ」
「賛成、あなたがいたら楽しく遊べないもの」
「だいたい男の子のくせに、あなた生意気なんだから」
「そうよ、あなたなんかピルエットも満足に回れないくせに、
どうしてこんな時だけ態度がでかいのよ」
五年生の子も混じって速射砲の一斉攻撃です。
これには、広志君もたじたじでした。
でも広志君、心の中でそんな女の子たちの意見をもっともだと
思っていたわけではありませんでした。
広志君はボールを激しく地面に叩きつけるとコートを去ります。
顔を真っ赤にして、泣いて怒ってる、そんな感じだったのです。
ほかの子がたいして怪我もしていない留美お姉様の処へ集まる
なか、私は広志君を心配して跡をつけます。
見ると、そんな広志君を迎え入れたのは進藤のお父様でした。
(親子ですから当たり前と言えばそれまでなんですが……)
実はこのドッヂボールの試合、昼休みに行われたお仕置きの後
で、お父様方が揃ってコートサイドで見学なさっていたのです。
広志君は、最初進藤のお父様が差し出す手を払い除けて一度は
もっと遠くへ行こうとしますが、次にお父様が息子を両手で抱き
しめ、立ったまま懐の中に入れてしまうと、それからは広志君も
抵抗しませんでした。
私はその時、広志君が泣いているように見えました。
きっと悔しかったんだと思います。
広志君は広志君で、自分のしたことが正しいと信じてるみたい
でしたから。
抱き合う親子のもとに他のお父様たちも集まってきます。
「だいぶ派手にやられてたみたいだね」
と、佐々木のお父様が……
「女の子というのはいったん火がつくと見境がなくなるから」
と、今度は高梨のお父様も……
他のお父様たちも次々に口を開きます。
「ここは女の子社会だからね、調和第一というわけだ」
「でも、これだと男の子には住みにくいですかね」
「確かにそれはあるだろうね。男の子と女の子では生きていく
哲学みたいなものが違うから。私なんて未だに奥さんの考えてる
ことが分からないくらいだ」
そして、中条のお父様が……
「大丈夫、ヒロちゃんの言っていることは正しいよ」
こう言うと、そこでやっと広志君は顔をあげます。
やっと自分の考えに賛同してくれる人が見つかってほっとした
のかもしれません。
中条のお父様は続けます。
「ドッヂボールの試合だけでみると、君の言ってる事は正しい
んだよ。そもそも内野がボールを投げるのにいちいち声を掛ける
なんてよそじゃやってないだろうし、内野の子が転んだからって
立ち上がるのを待ってる子もいないだろう。逆にチャンスだから
ぶつけちゃえって、ボールぶつけちゃってもそれも構わないさ」
「ほんとう」
広志君は中条のお父様の方を向きます。すると、今まで泣いて
いたのがはっきりとわかりました。
「本当さあ、大半の学校ではそうやってドッヂボールをやって
るんだから。……ただね、ドッヂボールのルールはそうでもこの
学校の生徒としては、それとは別に守らなければならないルール
があるんだ。女の子たちはそれを言ってるんだよ」
「どういうこと?」
「『お友だちとは、いつも仲良しでいましょう』ってことさ。
うちではこれが一番大切なルールなんだ。どんな規則や成績より
これが最優先のルールなんだよ。君だってそれは知ってるよね。
もう耳にたこができるほど聞かされてるだろうから」
「う、うん……」
「ドッヂボールをやってる時も君がこの学校の生徒である以上
それは守らなきゃいけないんだ。こんなことしたらお友だちの体
が傷つくとか、こんなことしたら仲が悪くなりそうだと思ったら、
それはドッヂボールのルールに書いてなくてもやっちゃいけない。
……わかるだろう?」
「うん……」
広志君は小さな声で答えます。
「いや、私も驚きましたよ。この子たちは自分たちでちゃんと
自分たちにあったルールを創っちゃうんだから、大人顔負けだ。
しかも、こうして見る限りそれが美しく機能している。まさに、
これは天使たちのドッヂボールですよ」
広志君を迎えにやってきた桜井先生が、お父様たちを前にして
大仰に驚いてみせます。
もちろん、それってお父様たちを前にしてのお世辞があるかも
しれませんが、先生は子供たちを褒めちぎります。感心しきりで
した。
そして、最後に……
「とにもかくにもだ、ここは女の子たちに謝って、また仲間に
加えてもらわなきゃね。このまま逃げてちゃ男が廃るよ。さあ、
先生と一緒に行こう。一緒に謝ってあげるから……」
そう言って広志君の手を引こうとします。
すると、広志君が気の弱いことを言うのです。
「僕……また、ドッヂボールできるかな?」
「もちろんさ、もし、『広志君と一緒に体育をやるのが嫌だ』
何て言ったら今度はその子の方がお友だちと仲良くできなかった
ってことになるもの」
と、桜井先生。
「大丈夫だよ広志。もし姉ちゃんが嫌だなんて言ったら、私が
この場でお仕置きしてやるから」
進藤のお父様は広志君の肩越しにそう言って笑うのでした。
「ただし、最初にお前が謝らなきゃ、話にならないよ」
最後は進藤のお父様が広志君の肩を押してコートへ戻ります。
するとそれとほぼ同時に私もまた小暮のお父様に後ろから両肩
を掴まれました。
「美咲ちゃんは広志君のことが好きなのか?」
ぼそぼそっとした小さな声。でも唐突にお父様から言われて、
思わず私の心臓が止まりそうになります。
私は振り返ると……
「そんなわけないじゃない」
怒ったような顔で否定するのですが……
「そうか、午前中は一緒にスケッチしてたみたいだし、午後も
こうやって跡を追ってくるぐらいだから、気があるのかと思った
んだが、違ったか?」
「馬鹿馬鹿しい。変な想像しないでよ。そんなの偶然。偶然よ。
あんなのタイプじゃないもの。私はもっとカッコいい子がいいの。
郷ひろみ、みたいな」
私はむきになって否定します。
「そうか、広志君はタイプじゃないのか。残念だなあ。お前が
その気なら進藤さんところと縁続きになれたんだが……」
お父様は苦笑いです。
私は十一歳。漠然とした美形の男子への憧れはありましたが、
具体的な想いはまだ何もありません。
広志君のことだって、あまりにも幼い頃から彼を知っています
から彼のいやな処だって沢山知っているわけで、本当にそんなの
偶然だと思っていました。
でも、お父様は人生の大先輩。私以上に私の心の奥底をご存知
だったみたいです。
さて、私のことはともかく、広志君がコートに戻ってきます。
「ごめんね、ボールぶつけて……」
彼は留美お姉様にごめんなさいを言ってから、瑞穂お姉様にも
謝ります。
「ごめんなさい。勝手にコートから離れて……」
殊勝な心がけと言いたいところですが、実は広志君、バックに
大勢のお父様たちや桜井先生を引き連れていました。
お父様たちにしてみたら広志君がちゃんとごめんなさいを言え
るかどうかを確かめるために一緒に着いてきただけなんでしょう
けど、女の子の立場からすると、それってまるで自分たちの方が
お父様たちに叱られてるみたいでした。
広志君、大勢の保護者に見守られながらのごめんなさいだった
のです。
また、ドッヂボールが再会され、当然、広志君もそれに加わり
ます。
絶対に勝ち負けの着かない天使のドッヂボール。勝った喜びも
負けた悔しさもここにはありませんが、私たちにとっては忘れ得
ないボールゲームの思い出だったのです。
**********************
*****************
<これまでの登場人物>
学校を創った六つのお家
小暮
進藤(高志)
真鍋(久子)
佐々木
高梨
中条
小暮男爵家
小暮美咲<小5>~私~
小暮遥 <小6>
河合先生
<小学生担当の家庭教師>
小暮 隆明<高3>
小暮 小百合<高2>
小暮 健治<中3>
小暮 楓<中2>
小暮 朱音(あかね)<中1>
学校の先生方
小宮先生<5年生担当>
ショートヘアでボーイッシュ小柄
栗山先生<6年生担当>
ロングヘアで長身
高梨先生<図画/一般人>
創設六家の出身。自らも画家
6年生のクラス
小暮 遥
進藤 瑞穂
佐々木 友理奈
高梨 愛子
中条 留美
真鍋 明(男)
5年生のクラス
小暮 美咲
中条 由美子
高梨 里香
真鍋 詩織
佐々木 麗華
進藤 広志(男)
********************
小暮男爵 << §17 >> 明君のお仕置き
小暮男爵
***<< §17 >>****
次は明君の番です。明君のお父様、いえ、お母様は真鍋久子と
おっしゃって古くからの紡績会社、東亜紡績の会長さんです。
ご主人が亡くなられた後を継いで戦中戦後を乗り切った女傑と
お聞きしていますが、子どもの私にはそのあたり詳しくは分かり
ません。
ただ、この学校の卒業生の多くが彼女の引き立てでデザイナー
になったり、アパレル関係の会社に就職しているんだそうです。
お父様たちの間では、家での躾が女の子には厳しいことから、
ちょっぴり皮肉を込めて真鍋御前なんておっしゃってますけど、
私たち外の家の子にとっては、何でも相談に乗ってくれる親切な
おば様です。
それに厳しいと言ってもそれはあくまで女の子についてだけ。
明君のような男の子に対しては逆にべたべた甘々でした。
この時も、先立って行われたお父様たちの話し合いで、明君の
お仕置きに最後まで反対したのだそうです。
「男の子はそのくらい元気があった方がよくありませんか」
というのがその理由だったみたいですが、結局……
「これは、クラスの子がみんな一緒にお仕置きを受けることが
大事なんです。男女も関係ありません。人は思い出を語るとき、
その時の感情を持って語りません。お仕置きのような辛い思い出
だって未来では楽しく語れるんです。むしろ、楽しい思い出より
辛い思い出の方が、人は強い連帯意識や共感を感じます。我々が
ボロボロになった国土を立て直せたのは戦争に行ったからです。
それもどん底の負け戦だったから。そこで我々は悟ったんです。
見渡せば焼け野原、みんな同じ立場の日本人なんだって。社会は
一度リセットされて身分も地位も関係ないところからスタートが
きれたんです。これは戦勝国にはない我々だけの特権なんです。
このクラスも同じでしょう。顔が整ってるとか、スタイルがいい、
成績が、運動が、性格が、子どもの世界にだって大人と同じ様な
しがらみは沢山あります。それをクラスの一員としてみんな平等
なんだって実感させるには、全員を同じ方法でお仕置きするのが
最も手っ取り早い方法なんです。だからたった一人の抜け駆けが
あっても意味がなくなるんです」
中条のお父様がこんな大演説をぶって真鍋御前を説得なさった
んだそうです。
私たちは孤児でお父様に養ってもらってる身でしかありません。
それでも、お父様を自慢し、自分の家のお兄様お姉様を自慢して、
それがまるで自分の実績ででもあるかのように振舞うことがよく
あります。それがお父様たちには心地よくなかったのでしょう。
こうして真鍋のお母様は明君のお仕置きを承諾したわけですが、
明君が私たちにお尻を見せることには最後まで反対だったみたい
でした。
「出世前の男の持ち物を何も女の子が覗かなくても……」
ということなんですが、これも最後はお父様たちの反対多数で
押し切られてしまいます。
こうして難産の末に明君の大事な処が私達の目の前に現れます。
『何をやるにも全員同じで…』というわけです。
いえ、私はそんなもの見たいとは思わなかったのですが、いざ、
それが現れると、やはり、心穏やかではいられませんでした。
「!!!」
私だって女の子ですから、その瞬間は全身に電気が走って目を
そらします。
それって単にグロテスクだからというのではありません。何か
別の感情が湧き起こって私はそこから逃げたいと思ったのでした。
「????」
ところが、それからすぐ、今度は無性にそれが見たくて仕方が
なくなります。
「*****」
顔を覆っていた両手の指を少しだけ開いて……そのすき間から
そうっと……
そんな私の様子にお父様が気づきます。
「どうした?そんなに明君が気になるのか?美咲ちゃんだって
三年生までは一緒にプールにもお風呂にも入ってたぞ」
意地悪なことを言われて私の顔は火照りますした。
実際、私たちの学校ではプールの時も三年生まではお互い水着
を着けません。林間学校、スキー合宿、お泊まり会のお風呂でも
当然のように一緒だったんです。
ですから、私だって男の子のオチンチンを見たことはあるわけ
なんですが、その時はこうしてまじまじと見たわけではありませ
んでした。
「どうした?辛いなら、あえて見なくてもいいよ」
お父様にはこう言われましたが私は首を振ります。
すると……
「『あるものをあるがままに見て恥ずかしがらない』人として
これは大事なんだが女の子はこれが最も苦手だからなあ。だから
プールもお風呂も、あえて裸で通したんだ。ま、できるのは幼い
うちだけだが、それでも、最初からわけも分からず恥ずかしがる
より、この方がずっといいんだよ。何事も、経験しておくにこし
た事はないんだから……」
私はお父様の言ってる意味が分からないまま頷きます。
私って人の話をぼうっと聞いているだけでもすぐに合いの手を
いれてしまう癖があるんです。
それが災いしました。
「御前、私がお手伝いしましょう。もちろん、こうしたことは
お母様自らなさるのがいいですが施灸は慣れないと大変ですから」
明君へのお灸を据えそびれている真鍋のお母様に小暮のお父様
が手を上げたのです。
「そうですか、あいにく私は不器用で……お願いできますか?」
真鍋のお母様は断りません。
「ええ、大丈夫ですよ。幸いここに適当な助手もおりますから」
小暮のお父様の一言。助手って誰でしょうか。
「ん?……助手って?……」
私は最初『適当な助手』の意味がわかりませんでしたが、手を
引かれたのですぐにそれが私のことだと気づきます。
「えっ?!!え~~~~!!!」
次の瞬間、私は震撼します。
お父様の意図は、ズバリ私に間近で男の子のアソコを見せる事。
でも、それってやっぱり女の子には身の毛のよだつ事態でした。
「ほら、ここに座って手伝いなさい」
お父様の命令ですから仕方なくそうしましたが、そこは明君の
ばっちい物が目の前30センチくらいにある場所だったのです。
『堪忍してよ~』
そう思って思わず視線をそらしたのですが……
「だめだよ。ちゃんと見なきゃ。人間に備わるもので不浄な物
なんて何もないんだから」
お父様はそう言いますが……
『ばっちい物は、ばっちいの!これ女の子の常識!真実なんて
女の子はいらないの。美しければそれでいいの!嘘とまやかしで
十分よ!!』
私は心の中で反論します。
でも、ここが女の子の弱いところなんでしょうね。声に出す事
ができませんでした。
すると、事態はさらに悪化します。
「ほら触ってごらん」
お父様は私の左手をその大きな手で包み込むと、そのまま目の
前にある明君の陰嚢を握らせます。
生暖かくて、ぐにゃっとした感触。空気が抜けて皺皺になった
古い古いゴムボールというところでしょうか。それでも触れると
『これ生きてる』って感じますから蝦蟇蛙を手づかみしたような
感触でもあります。
いずれにしても、こんな感触の物を触ったのはこれが生まれて
初めてでした。
「いやっ!」
私は拒絶しようとしますが、お父様に左手を押さえられていて、
離そうにも離せません。
「どうした?嫌かい?でも、何事も経験しておくにこしたこと
はないんだよ。美咲ちゃんだって、将来、男の子が産まれたら、
どのみち竿も袋も握ることになるんだから」
お父様は笑いますが……
「離して!その時はその時よ。私が産んだ子なら可愛いもの。
その時は何だってやってあげるんだから……」
私は偽らざる本音を口にします。
「明君じゃだめかい?」
お父様は自嘲ぎみにおっしゃったのですが、私はハッとして我
に帰ります。
「そういうわけじゃないけど……」
私は明君がクラスメイトで仲良くしなければならないお友だち
であることを思い出したのでした。お友だちとはどういう関係で
なければならないか。先生やお父様の言葉を思い出したのでした。
『お友だちとはどんなことも分かち合わなければなりません。
どんな些細なことも隠してはなりません。それさえ守っていれば
私たちはお父様は違ってもみんな本当の兄弟姉妹ように必ず幸せ
になります』
幼い頃、周囲の大人たちに毎日のように聞かされた言葉です。
その言葉に、今、私は反しているんじゃないか、そう思ったの
でした。
そんな私の気持をお父様は察したみたいでした。
ですから、こう言います。
「さあ、これから、明君のお仕置きをするけど、美咲ちゃん、
お友だちでしょう。手伝ってね」
こう言われた時、私は逆らえません。ここで言う『お友だち』
『仲良くする』というのは、私たちとっては通り一遍の徳目では
ありません。家でも学校でも、それは一番大事にしなければなら
ない約束事だったのです。
「えっ、私が?!!」
私はお父様から火のついたお線香を握らされます。
どうやら、私が明君の大事な場所にお仕置きをしなければなら
ないみたいでした。
「大丈夫、お父さんがついてるから」
お父様はお線香を持つ私の右手をしっかり包み込んでいます。
こんな時、明君だってそりゃ泣きそうでしょうけど、私だって
泣き出しそうでした。
「明ちゃん、あなたが先生に『あなたも一緒に飛び降りていま
せんでしたか』って尋ねられた時、どうして正直に言わないの。
嘘をつくからこんなことになるのよ。正直でない子はお仕置き。
仕方がないわね。しっかり我慢するのよ」
真鍋御前様は明君に最後の忠告をして、明君の陰嚢を持ち上げ
ます。
色素沈着のない、まだ皮膚と同じ色の丸い玉が持ち上げられ、
どうやら、その根元にお灸が据えられるみたいでした。
身体の真ん中を縦に真っ二つにして通る蟻の門渡りと呼ばれる
線がおチンチン袋にも筋となって通っています。その筋を挟んで
両サイドに小さく艾が置かれます。
それは女の子なら会陰に当たる場所でした。
そこに艾を置いたのはお父様。そして、そこに火を着けるのは
私の持っているお線香です。
『どうしよう、どうしよう』
そう思ううちお線香がどんどん置かれた艾の位置に近づきます。
もちろんそれを操作しているのは私の手を包み込んでいるお父様
なのですが、火がついた瞬間は、やっぱりショックでした。
大丈夫と思っていてもやっぱり心配です。
「あっ~」
明君は小さなうめき声をあげます。
『大変なことしちゃった』
その瞬間は、やらされたことでしたが、やっぱりそう思わざる
を得ませんでした。
艾が小さいので二箇所とも熱いのはほんの一瞬です。
もみ消す必要もないくらいの火事なんですが、人にお灸を据え
てあげるなんてこれが初めてですから、罪悪感でその瞬間は強い
ショックだったのです。
でも、これで終わりではありませんでした。
もう一箇所残っています。
「さあ、次はここに、お願いするわね」
真鍋のお母様が、今度は明君の竿を摘み上げ、それが戻らない
ように人差し指と中指で押さえながら私にお願いします。
お母様の手で引き上げられたオチンチンは全てに皮膚が被った
ロケット型。先っちょに皮膚が余って皺皺になっています。
これって赤ちゃんと同じ。典型的な子どものオチンチンです。
この位の歳になると、中には大人の身体へと変化し始める子も
いますが、明君の場合はお臍の下もツルツルの純粋な子どもの姿
でした。
ひょっとして明君がひんな姿でなかったら、お父様だって私に
こんなことまでさせなかったかもしれません。
さて、次なる目標地点はというと、引き上げられたオチンチン
の裏側。陰茎と陰嚢の根元の部分です。
ここも普通にしていれば、たとえ素っ裸でも外から見える場所
ではありませんでした。
とはいえ、仰向けに寝かされて、両足を高く上げさせられて、
がんじがらめに押さえつけられてる姿は男の子だって相当に惨め
なはずです。
でも、勇気のない私は、『もう許してあげて』なんてお父様に
言えませんでした。
「さあ、次はここだよ」
お父様の声。
私はお父様のロボットとなって二つ目の場所にもお灸をすえ
ます。
その瞬間きっと熱かったんでしょう。男の子のそこがぴくぴく
っと動いて、私はびっくり。
耐えてる明君ではなく、私の方が思わず明君の太股にお線香の
火の玉をくっつけそうになりました。
『やれやれ、終わった』
と思ったのですが……ところがそうは問屋がおろさないのです。
「明ちゃん、あなた男の子なんだから、瑞穂ちゃんだって三回
耐えてるのに一回だけじゃだらしがないわ。もう一回やっていた
だきましょう」
明君の解放を止めたのは、なんとこのお仕置きには反対だった
はずの真鍋のお母様です。
「もう一回、お願いできますか?」
真鍋のお母様がうちのお父様にお願いします。
「えっ、またやるの?」
明君が心配顔で見上げますが、お母様は涼しい顔です。
きっと、お灸を据えてみた結果、大したことがなさそうなので
急遽思いついたのかもしれません。
「男の子は女の子と同じじゃいけないの。女の子が三回なら、
あなたは五回ぐらい我慢して男義をみせなきゃ」
お母様の命令ですからね、明君、諦めるしかありませんでした。
そして、私もまた、諦めるしかなかったのです。
据える場所は同じ場所。
でも今度はお母様自らその袋を摘み上げて『さあ、どうぞ』と
言わんばかりに私の目の前で目一杯押し広げます。
恐々やっていた最初とは大違いでした。
『あっ、さっきの……』
そこにはさっき私がすえたばかりの赤い点が二つ残っています。
そこに新しい艾が乗せられて……
「さあ、それじゃあもう一回だ」
お父様の指示でお線香を近づけます。
もちろん、それって私の右手をお父様が動かしているわけで、
私の意志とは関係ありませんが、明君に対する罪悪感が消える事
はありませんでした。
「あああああああ」
小さな吐息が聞こえます。
『あんな処に据えられて本当に大丈夫なのかしら?』
私は女の子ですからそこへ据えられた男の子の気持なんて分か
りませんが、それでも、その場所が私たちの会陰や大淫唇と同じ
ような処だとお父様に聞かされて、少しほっとした気持になった
のも事実でした。
というのも、私も恥ずかしい場所へお灸を据えられましたけど、
ここが特別熱かったという記憶はありませんでしたから。
明君も二回目までは何とかを持ちこたえていました。
ただ、三回目ともなると……
「いやあ、やめて~~~、熱いからいやだあ、ごめんなさい、
お母さん、やめてよ~~~」
上級生らしからぬ泣き言が聞こえます。
実際、お灸というのは最初に据えられた時の驚きを別にすれば
連続して据えられると後の方が応えます。
一回目より二回目、二回目より三回目が辛いのでした。
ところが、真鍋のお母様はそんな明君を叱ります。
「情けない声を出さないの!!あなた男の子でしょう!!この
くらいのこと、一年生のチビちゃんだって黙って耐えてるわよ!」
御前様の大声が広間一杯に広がります。
いつもは優しいお母さんの怒鳴り声にビックリしたんでしょう
か。明君は、その後、一言も泣き言を言いませんでした。
こうして、最初の二人が三回だったおかげで、以後は他の子も
お灸は三回になり、とんだとばっちりを受けたわけですが、ただ、
その後は大した混乱もなくお灸のお仕置きは粛々と行われました。
何人もの家庭教師から身体が1ミリも動かせないように押さえ
込まれて、女の子の一番恥ずかしい場所をみんなの前で晒し続け
る。お灸は大したことがなくても、もうそれだけで外へ行ったら
虐待でしょう。
でも私たちの場合、クラスメイトはみんな幼馴染で同じ境遇の
子供たち。お父様も家庭教師も、事前に話し合って同じ価値観で
私たちに語りかけます。ですから、私たちにとってはこれが常識。
これが宇宙の全てなのです。
叱られること、お仕置きされることは辛くても、それだけ切り
離して考えることなんかできません。私たちにとっては、これも
またお父様たちとの楽しい生活の一部でしかありませんでした。
長い長いお仕置きの時間が終わり、すでに午後の最初の授業が
始まっています。ただそんな場合でも、この学校ではオーナーで
あるお父様たちのお仕置きが優先されます。
この大広間の入口では次の時間を担当する体育の桜井先生の顔
が見え隠れしていましたが、お父様たちは慌てる素振りを見せま
せんでした。
それはまだ最後の大事なご挨拶が残っていたからなのです。
お姉様たちはすでに正座してして待っているご自分のお父様の
前に向き合うように正座します。
お父様も娘もこの時は決して白い歯を見せません。
まるで武道の試合前のような緊張感の中、小暮のお父様が代表
して声を掛けました。
「それでは、礼をしましょう」
こう言うと、娘たちは一斉に両手を畳に着けて……
「お父様、お仕置きありがとうございました」
子供たちの声が合唱となって大広間に響きます。
お仕置きにお礼を言うなんて変なのかもしれませんが、これは
私たち間ではむしろ常識で、幼い頃からお灸に限らずお仕置きを
された後は必ずお父様にお礼を言う習慣になっていました。
これも、もし、にやけた顔で挨拶なんかすると……お仕置きの
やり直しなんてこともあります。だからこそ子供たちだって真剣
なのでした。
ただ問題はこれだけではありませんでした。
礼が終わると子供たちはそれぞれのお父様のお膝に引き取られ
ます。幼い子のようにお父様から抱っこよしよしってされるわけ
です。
これって、本当に幼い頃なら嬉しいんですが、ある程度年齢が
上がってくると、うっとうしくなります。
でも、これも嫌がっていると……
『まさか、お仕置きのやり直しとか?』
ピンポーン。大正解。
私たちはお父様の庇護のもと、何不自由なく暮らしているよう
に見えるかもしれませんますが、お父様のお人形としての役目は
常にきっちり求められます。
ですから、このお膝では『お仕置きで元の良い子に戻りました』
というアピールが求められるのです。
お父様からは、頬ずりをされたり、頭やお尻を撫でられたり、
顔を胸のなかへ押し付けられたりもしますが、それを常に満面の
笑みで返さなければなりません。お父様の天使であり続けなけれ
ばなりません。
そんな睦み事が5分程度あって……
「よし、良い子になった。さあ、午後の授業に出ておいで……」
次がいよいよ午後の授業となるのでした。
*******************
***<< §17 >>****
次は明君の番です。明君のお父様、いえ、お母様は真鍋久子と
おっしゃって古くからの紡績会社、東亜紡績の会長さんです。
ご主人が亡くなられた後を継いで戦中戦後を乗り切った女傑と
お聞きしていますが、子どもの私にはそのあたり詳しくは分かり
ません。
ただ、この学校の卒業生の多くが彼女の引き立てでデザイナー
になったり、アパレル関係の会社に就職しているんだそうです。
お父様たちの間では、家での躾が女の子には厳しいことから、
ちょっぴり皮肉を込めて真鍋御前なんておっしゃってますけど、
私たち外の家の子にとっては、何でも相談に乗ってくれる親切な
おば様です。
それに厳しいと言ってもそれはあくまで女の子についてだけ。
明君のような男の子に対しては逆にべたべた甘々でした。
この時も、先立って行われたお父様たちの話し合いで、明君の
お仕置きに最後まで反対したのだそうです。
「男の子はそのくらい元気があった方がよくありませんか」
というのがその理由だったみたいですが、結局……
「これは、クラスの子がみんな一緒にお仕置きを受けることが
大事なんです。男女も関係ありません。人は思い出を語るとき、
その時の感情を持って語りません。お仕置きのような辛い思い出
だって未来では楽しく語れるんです。むしろ、楽しい思い出より
辛い思い出の方が、人は強い連帯意識や共感を感じます。我々が
ボロボロになった国土を立て直せたのは戦争に行ったからです。
それもどん底の負け戦だったから。そこで我々は悟ったんです。
見渡せば焼け野原、みんな同じ立場の日本人なんだって。社会は
一度リセットされて身分も地位も関係ないところからスタートが
きれたんです。これは戦勝国にはない我々だけの特権なんです。
このクラスも同じでしょう。顔が整ってるとか、スタイルがいい、
成績が、運動が、性格が、子どもの世界にだって大人と同じ様な
しがらみは沢山あります。それをクラスの一員としてみんな平等
なんだって実感させるには、全員を同じ方法でお仕置きするのが
最も手っ取り早い方法なんです。だからたった一人の抜け駆けが
あっても意味がなくなるんです」
中条のお父様がこんな大演説をぶって真鍋御前を説得なさった
んだそうです。
私たちは孤児でお父様に養ってもらってる身でしかありません。
それでも、お父様を自慢し、自分の家のお兄様お姉様を自慢して、
それがまるで自分の実績ででもあるかのように振舞うことがよく
あります。それがお父様たちには心地よくなかったのでしょう。
こうして真鍋のお母様は明君のお仕置きを承諾したわけですが、
明君が私たちにお尻を見せることには最後まで反対だったみたい
でした。
「出世前の男の持ち物を何も女の子が覗かなくても……」
ということなんですが、これも最後はお父様たちの反対多数で
押し切られてしまいます。
こうして難産の末に明君の大事な処が私達の目の前に現れます。
『何をやるにも全員同じで…』というわけです。
いえ、私はそんなもの見たいとは思わなかったのですが、いざ、
それが現れると、やはり、心穏やかではいられませんでした。
「!!!」
私だって女の子ですから、その瞬間は全身に電気が走って目を
そらします。
それって単にグロテスクだからというのではありません。何か
別の感情が湧き起こって私はそこから逃げたいと思ったのでした。
「????」
ところが、それからすぐ、今度は無性にそれが見たくて仕方が
なくなります。
「*****」
顔を覆っていた両手の指を少しだけ開いて……そのすき間から
そうっと……
そんな私の様子にお父様が気づきます。
「どうした?そんなに明君が気になるのか?美咲ちゃんだって
三年生までは一緒にプールにもお風呂にも入ってたぞ」
意地悪なことを言われて私の顔は火照りますした。
実際、私たちの学校ではプールの時も三年生まではお互い水着
を着けません。林間学校、スキー合宿、お泊まり会のお風呂でも
当然のように一緒だったんです。
ですから、私だって男の子のオチンチンを見たことはあるわけ
なんですが、その時はこうしてまじまじと見たわけではありませ
んでした。
「どうした?辛いなら、あえて見なくてもいいよ」
お父様にはこう言われましたが私は首を振ります。
すると……
「『あるものをあるがままに見て恥ずかしがらない』人として
これは大事なんだが女の子はこれが最も苦手だからなあ。だから
プールもお風呂も、あえて裸で通したんだ。ま、できるのは幼い
うちだけだが、それでも、最初からわけも分からず恥ずかしがる
より、この方がずっといいんだよ。何事も、経験しておくにこし
た事はないんだから……」
私はお父様の言ってる意味が分からないまま頷きます。
私って人の話をぼうっと聞いているだけでもすぐに合いの手を
いれてしまう癖があるんです。
それが災いしました。
「御前、私がお手伝いしましょう。もちろん、こうしたことは
お母様自らなさるのがいいですが施灸は慣れないと大変ですから」
明君へのお灸を据えそびれている真鍋のお母様に小暮のお父様
が手を上げたのです。
「そうですか、あいにく私は不器用で……お願いできますか?」
真鍋のお母様は断りません。
「ええ、大丈夫ですよ。幸いここに適当な助手もおりますから」
小暮のお父様の一言。助手って誰でしょうか。
「ん?……助手って?……」
私は最初『適当な助手』の意味がわかりませんでしたが、手を
引かれたのですぐにそれが私のことだと気づきます。
「えっ?!!え~~~~!!!」
次の瞬間、私は震撼します。
お父様の意図は、ズバリ私に間近で男の子のアソコを見せる事。
でも、それってやっぱり女の子には身の毛のよだつ事態でした。
「ほら、ここに座って手伝いなさい」
お父様の命令ですから仕方なくそうしましたが、そこは明君の
ばっちい物が目の前30センチくらいにある場所だったのです。
『堪忍してよ~』
そう思って思わず視線をそらしたのですが……
「だめだよ。ちゃんと見なきゃ。人間に備わるもので不浄な物
なんて何もないんだから」
お父様はそう言いますが……
『ばっちい物は、ばっちいの!これ女の子の常識!真実なんて
女の子はいらないの。美しければそれでいいの!嘘とまやかしで
十分よ!!』
私は心の中で反論します。
でも、ここが女の子の弱いところなんでしょうね。声に出す事
ができませんでした。
すると、事態はさらに悪化します。
「ほら触ってごらん」
お父様は私の左手をその大きな手で包み込むと、そのまま目の
前にある明君の陰嚢を握らせます。
生暖かくて、ぐにゃっとした感触。空気が抜けて皺皺になった
古い古いゴムボールというところでしょうか。それでも触れると
『これ生きてる』って感じますから蝦蟇蛙を手づかみしたような
感触でもあります。
いずれにしても、こんな感触の物を触ったのはこれが生まれて
初めてでした。
「いやっ!」
私は拒絶しようとしますが、お父様に左手を押さえられていて、
離そうにも離せません。
「どうした?嫌かい?でも、何事も経験しておくにこしたこと
はないんだよ。美咲ちゃんだって、将来、男の子が産まれたら、
どのみち竿も袋も握ることになるんだから」
お父様は笑いますが……
「離して!その時はその時よ。私が産んだ子なら可愛いもの。
その時は何だってやってあげるんだから……」
私は偽らざる本音を口にします。
「明君じゃだめかい?」
お父様は自嘲ぎみにおっしゃったのですが、私はハッとして我
に帰ります。
「そういうわけじゃないけど……」
私は明君がクラスメイトで仲良くしなければならないお友だち
であることを思い出したのでした。お友だちとはどういう関係で
なければならないか。先生やお父様の言葉を思い出したのでした。
『お友だちとはどんなことも分かち合わなければなりません。
どんな些細なことも隠してはなりません。それさえ守っていれば
私たちはお父様は違ってもみんな本当の兄弟姉妹ように必ず幸せ
になります』
幼い頃、周囲の大人たちに毎日のように聞かされた言葉です。
その言葉に、今、私は反しているんじゃないか、そう思ったの
でした。
そんな私の気持をお父様は察したみたいでした。
ですから、こう言います。
「さあ、これから、明君のお仕置きをするけど、美咲ちゃん、
お友だちでしょう。手伝ってね」
こう言われた時、私は逆らえません。ここで言う『お友だち』
『仲良くする』というのは、私たちとっては通り一遍の徳目では
ありません。家でも学校でも、それは一番大事にしなければなら
ない約束事だったのです。
「えっ、私が?!!」
私はお父様から火のついたお線香を握らされます。
どうやら、私が明君の大事な場所にお仕置きをしなければなら
ないみたいでした。
「大丈夫、お父さんがついてるから」
お父様はお線香を持つ私の右手をしっかり包み込んでいます。
こんな時、明君だってそりゃ泣きそうでしょうけど、私だって
泣き出しそうでした。
「明ちゃん、あなたが先生に『あなたも一緒に飛び降りていま
せんでしたか』って尋ねられた時、どうして正直に言わないの。
嘘をつくからこんなことになるのよ。正直でない子はお仕置き。
仕方がないわね。しっかり我慢するのよ」
真鍋御前様は明君に最後の忠告をして、明君の陰嚢を持ち上げ
ます。
色素沈着のない、まだ皮膚と同じ色の丸い玉が持ち上げられ、
どうやら、その根元にお灸が据えられるみたいでした。
身体の真ん中を縦に真っ二つにして通る蟻の門渡りと呼ばれる
線がおチンチン袋にも筋となって通っています。その筋を挟んで
両サイドに小さく艾が置かれます。
それは女の子なら会陰に当たる場所でした。
そこに艾を置いたのはお父様。そして、そこに火を着けるのは
私の持っているお線香です。
『どうしよう、どうしよう』
そう思ううちお線香がどんどん置かれた艾の位置に近づきます。
もちろんそれを操作しているのは私の手を包み込んでいるお父様
なのですが、火がついた瞬間は、やっぱりショックでした。
大丈夫と思っていてもやっぱり心配です。
「あっ~」
明君は小さなうめき声をあげます。
『大変なことしちゃった』
その瞬間は、やらされたことでしたが、やっぱりそう思わざる
を得ませんでした。
艾が小さいので二箇所とも熱いのはほんの一瞬です。
もみ消す必要もないくらいの火事なんですが、人にお灸を据え
てあげるなんてこれが初めてですから、罪悪感でその瞬間は強い
ショックだったのです。
でも、これで終わりではありませんでした。
もう一箇所残っています。
「さあ、次はここに、お願いするわね」
真鍋のお母様が、今度は明君の竿を摘み上げ、それが戻らない
ように人差し指と中指で押さえながら私にお願いします。
お母様の手で引き上げられたオチンチンは全てに皮膚が被った
ロケット型。先っちょに皮膚が余って皺皺になっています。
これって赤ちゃんと同じ。典型的な子どものオチンチンです。
この位の歳になると、中には大人の身体へと変化し始める子も
いますが、明君の場合はお臍の下もツルツルの純粋な子どもの姿
でした。
ひょっとして明君がひんな姿でなかったら、お父様だって私に
こんなことまでさせなかったかもしれません。
さて、次なる目標地点はというと、引き上げられたオチンチン
の裏側。陰茎と陰嚢の根元の部分です。
ここも普通にしていれば、たとえ素っ裸でも外から見える場所
ではありませんでした。
とはいえ、仰向けに寝かされて、両足を高く上げさせられて、
がんじがらめに押さえつけられてる姿は男の子だって相当に惨め
なはずです。
でも、勇気のない私は、『もう許してあげて』なんてお父様に
言えませんでした。
「さあ、次はここだよ」
お父様の声。
私はお父様のロボットとなって二つ目の場所にもお灸をすえ
ます。
その瞬間きっと熱かったんでしょう。男の子のそこがぴくぴく
っと動いて、私はびっくり。
耐えてる明君ではなく、私の方が思わず明君の太股にお線香の
火の玉をくっつけそうになりました。
『やれやれ、終わった』
と思ったのですが……ところがそうは問屋がおろさないのです。
「明ちゃん、あなた男の子なんだから、瑞穂ちゃんだって三回
耐えてるのに一回だけじゃだらしがないわ。もう一回やっていた
だきましょう」
明君の解放を止めたのは、なんとこのお仕置きには反対だった
はずの真鍋のお母様です。
「もう一回、お願いできますか?」
真鍋のお母様がうちのお父様にお願いします。
「えっ、またやるの?」
明君が心配顔で見上げますが、お母様は涼しい顔です。
きっと、お灸を据えてみた結果、大したことがなさそうなので
急遽思いついたのかもしれません。
「男の子は女の子と同じじゃいけないの。女の子が三回なら、
あなたは五回ぐらい我慢して男義をみせなきゃ」
お母様の命令ですからね、明君、諦めるしかありませんでした。
そして、私もまた、諦めるしかなかったのです。
据える場所は同じ場所。
でも今度はお母様自らその袋を摘み上げて『さあ、どうぞ』と
言わんばかりに私の目の前で目一杯押し広げます。
恐々やっていた最初とは大違いでした。
『あっ、さっきの……』
そこにはさっき私がすえたばかりの赤い点が二つ残っています。
そこに新しい艾が乗せられて……
「さあ、それじゃあもう一回だ」
お父様の指示でお線香を近づけます。
もちろん、それって私の右手をお父様が動かしているわけで、
私の意志とは関係ありませんが、明君に対する罪悪感が消える事
はありませんでした。
「あああああああ」
小さな吐息が聞こえます。
『あんな処に据えられて本当に大丈夫なのかしら?』
私は女の子ですからそこへ据えられた男の子の気持なんて分か
りませんが、それでも、その場所が私たちの会陰や大淫唇と同じ
ような処だとお父様に聞かされて、少しほっとした気持になった
のも事実でした。
というのも、私も恥ずかしい場所へお灸を据えられましたけど、
ここが特別熱かったという記憶はありませんでしたから。
明君も二回目までは何とかを持ちこたえていました。
ただ、三回目ともなると……
「いやあ、やめて~~~、熱いからいやだあ、ごめんなさい、
お母さん、やめてよ~~~」
上級生らしからぬ泣き言が聞こえます。
実際、お灸というのは最初に据えられた時の驚きを別にすれば
連続して据えられると後の方が応えます。
一回目より二回目、二回目より三回目が辛いのでした。
ところが、真鍋のお母様はそんな明君を叱ります。
「情けない声を出さないの!!あなた男の子でしょう!!この
くらいのこと、一年生のチビちゃんだって黙って耐えてるわよ!」
御前様の大声が広間一杯に広がります。
いつもは優しいお母さんの怒鳴り声にビックリしたんでしょう
か。明君は、その後、一言も泣き言を言いませんでした。
こうして、最初の二人が三回だったおかげで、以後は他の子も
お灸は三回になり、とんだとばっちりを受けたわけですが、ただ、
その後は大した混乱もなくお灸のお仕置きは粛々と行われました。
何人もの家庭教師から身体が1ミリも動かせないように押さえ
込まれて、女の子の一番恥ずかしい場所をみんなの前で晒し続け
る。お灸は大したことがなくても、もうそれだけで外へ行ったら
虐待でしょう。
でも私たちの場合、クラスメイトはみんな幼馴染で同じ境遇の
子供たち。お父様も家庭教師も、事前に話し合って同じ価値観で
私たちに語りかけます。ですから、私たちにとってはこれが常識。
これが宇宙の全てなのです。
叱られること、お仕置きされることは辛くても、それだけ切り
離して考えることなんかできません。私たちにとっては、これも
またお父様たちとの楽しい生活の一部でしかありませんでした。
長い長いお仕置きの時間が終わり、すでに午後の最初の授業が
始まっています。ただそんな場合でも、この学校ではオーナーで
あるお父様たちのお仕置きが優先されます。
この大広間の入口では次の時間を担当する体育の桜井先生の顔
が見え隠れしていましたが、お父様たちは慌てる素振りを見せま
せんでした。
それはまだ最後の大事なご挨拶が残っていたからなのです。
お姉様たちはすでに正座してして待っているご自分のお父様の
前に向き合うように正座します。
お父様も娘もこの時は決して白い歯を見せません。
まるで武道の試合前のような緊張感の中、小暮のお父様が代表
して声を掛けました。
「それでは、礼をしましょう」
こう言うと、娘たちは一斉に両手を畳に着けて……
「お父様、お仕置きありがとうございました」
子供たちの声が合唱となって大広間に響きます。
お仕置きにお礼を言うなんて変なのかもしれませんが、これは
私たち間ではむしろ常識で、幼い頃からお灸に限らずお仕置きを
された後は必ずお父様にお礼を言う習慣になっていました。
これも、もし、にやけた顔で挨拶なんかすると……お仕置きの
やり直しなんてこともあります。だからこそ子供たちだって真剣
なのでした。
ただ問題はこれだけではありませんでした。
礼が終わると子供たちはそれぞれのお父様のお膝に引き取られ
ます。幼い子のようにお父様から抱っこよしよしってされるわけ
です。
これって、本当に幼い頃なら嬉しいんですが、ある程度年齢が
上がってくると、うっとうしくなります。
でも、これも嫌がっていると……
『まさか、お仕置きのやり直しとか?』
ピンポーン。大正解。
私たちはお父様の庇護のもと、何不自由なく暮らしているよう
に見えるかもしれませんますが、お父様のお人形としての役目は
常にきっちり求められます。
ですから、このお膝では『お仕置きで元の良い子に戻りました』
というアピールが求められるのです。
お父様からは、頬ずりをされたり、頭やお尻を撫でられたり、
顔を胸のなかへ押し付けられたりもしますが、それを常に満面の
笑みで返さなければなりません。お父様の天使であり続けなけれ
ばなりません。
そんな睦み事が5分程度あって……
「よし、良い子になった。さあ、午後の授業に出ておいで……」
次がいよいよ午後の授業となるのでした。
*******************
小暮男爵 << §16 >> 瑞穂お姉様のお仕置き
小暮男爵
***<< §16 >>****
瑞穂お姉様のお父様は進藤高志さんとおっしゃる実業家。今は
経営の大半を息子さんが受け継いでいらっしゃいますが、戦前は
関東一円に数多くの軍需工場を持つ社長さんだったんだそうです。
もちろん戦前のご様子など私は知りませんが、こちらでは縞の
三つ揃えにスエードのハットを被った姿でよくお目にかかります。
家に遊びに行くと、いつも油絵を描いてらっしゃるか、ピアノを
弾いてらっしゃるかしていて多趣味な方でもあります。
もちろん、子供は大好きで、ご自宅の居間でお見かけする時は
誰かしら子どもたちがその膝の上に乗って遊んでいました。
私が遊びに行った際、当時三歳だった弘治君という男の子が、
お膝の上でお漏らしをしてしまいましたが、お父様はまるで何事
もなかったかのように顔色一つ変えませんでした。
そうした愛された兄弟(姉妹)の中でも、瑞穂お姉様のことは
特に可愛がっていられたと人伝えに聞いたことがあります。瑞穂
お姉様は明るく頭もよくて、難しい話題にもお父様のお話相手が
務まる子だと評判だったのです。
ただ、そんな甘い関係も、この場では封印しなければなりませ
んでした。
進藤のお父様は、あられもない格好のお姉様を間近に見ながら
蝋燭からお線香に火を移してお線香たてに立てます。
その顔は普段見る柔和なお顔とは違って、厳しく引き締まって
おられました。
「恥ずかしい?」
進藤のお父様に尋ねられた瞬間、お姉様の生唾を飲む様子が、
こちらからも垣間見えます。
「…………」
でも、お姉様はそれには答えません。
緊張しているせいでしょうか、私には、お姉様が自らの誇りを
失いたくないと意地を張っているようにも見えました。
「私は『恥ずかしいのか?』と尋ねているのに答えてくれない
のかね」
「あっ、はい、恥ずかしいです」
お姉様は慌てて答えます。
勿論そんなことわかりきっていますが、進藤のお父様に限らず
お父様たちって、惨めな姿をした子どもたちに『恥ずかしいです』
と言わせたがります。
そして、その返答はたいていこうでした。
「仕方ないな、お仕置きだから………お父さん、お前にわざと
そんな格好させてるんだ。お前が、よ~~く反省できるようにね」
「はい、ごめんなさい」
お姉様は嗚咽交じりの小さな声で答えます。
「いいかい瑞穂。なぜお前がこんな格好をしなければならなく
なったか、わかってるだろう?」
「私が二階の窓から傘を差して飛び降りたから……でしょう?」
お姉様が自信なさげに答えると……
「確かにそれもあるけど……それについては、栗山先生が処置
してくださったから、まだいいとして……私たちが問題にしてる
のはね、実はそのことだけじゃないだ」
「えっ?どういうこと?…………」
お姉様の小さな声には意外というに思いが込められています。
「君がメリーポピンズを始めた時に、どうして遥ちゃんたちも
誘ってあげなかったのかなってことさ」
「どうしてって……それは…………」
お姉様は少し考えてから……
「だって、あんまりいいことじゃないし、誘ったら悪いかなと
思って……」
「じゃあ、明君が真似した時は何で止めなかったの?」
「えっ……それは…………」
「そうじゃないでしょう。そんな事で遥ちゃんに声をかけたら
バカにされるんじゃないかって、心配したんじゃないの?」
「えっ…………」
お姉様は答えませんでしたが、どうやら図星のようでした。
瑞穂お姉様とうちの遥お姉様はお互いライバル。たった六人の
中ですが、二人は勉強でも図工でも音楽でも、とにかくどんな事
でも張り合っていました。
「図星みたいだね。いいかい、いつも言ってるように、クラス
のお友だちとは誰とでも仲良しでなきゃいけないんだ。仲間外れ
はよくないな。特にお前は級長さんじゃないか。たった六人でも、
君はみんなのリーダーなんだよ」
「キュウチョウ?」
「そうか、今は学級委員って呼ぶんだっけ……でも同じだろう?
君はクラスを代表して色んな行事をこなす立場にあるんだから、
いつもクラスがまとまるように気を配ってなきゃいけないのに、
それが自分から悪さを始めたり仲間はずれの子を作ったりしたん
だから……これって、いいわけないよね」
「でもあれは、遊びだから……遥ちゃんはやらないと思って」
「遊び?でも、声を掛けてみなけりゃわからないんじゃないか。
『たとえ、悪戯をする時でもみんなで一緒にやりましょう』って、
教えたよね。これは他のお父さん達も同じ考えなんだから他の子
もお父さん達からそう教わってるはずだよ。ここでは悪戯する事
より、友だちを仲間はずれにする事の方が罪が重いんだ」
「…………」
お姉様はその教えに気がついたみたいでした。
これは私も小暮のお父様によく言われていました。
『みんなで悪さをしてもそれはみんなで罰を受ければいいんだ。
簡単に償える。お尻が痛いだけだもん。でも、お友だちを傷つけ
てしまうと、その償いはそんなに簡単なことじゃないんだよ』
私たちの学校では、クラスに六人しか生徒がいません。でも、
六人しかいないからこそ、その六人は、誰もが大親友でなければ
ならないのでした。
「それに、たとえ瑞穂が勝手に始めたことでも、他の子にすれ
ば、級長さんがやってるんなら一緒にやってみようと思うんじゃ
ないのかな。……それとも、その子たちは私が誘ったんじゃない
勝手に始めたんだから自分には責任がないって言うつもりかい?」
「えっ…だって、そんなこと誰だって、悪いことだと分かって
るはずだから……」
「そうかな?お父さんそうは思わないよ。級長さんがやってる
ってことは、他の子がやってるってこととは同じにはならないん
だよ。ほかの子すれば『級長さんがやってるんなら大丈夫だろう』
って思っちゃうもの」
「それは……」
「お父さんも、お前にこんな格好をさせたくはなかったけど、
やってしまった罪の重さを考えると仕方がないと思ってるんだ。
しかも今回は、小暮のお父様が『お嬢さんだけお仕置きするのは
酷ですから、全員に同じお仕置きをしましょう』とおっしゃって
くださったからこうなったんだ」
「ふう……」
お姉様から思わずため息が漏れます。
それはがっかりという顔でした。
これがお姉様のどういう気持の表れだったのかは知りませんが、
進藤のお父様にとってその顔つきは、あまり良い印象ではありま
せんでした。
「…しかし、そうなると、お前に与えられる罰はむしろ軽いと
言えるかもしれないな」
お父様はそう言ってお姉様の顔色を窺います。
そして、こう続けるのでした。
「……そこでだ、今回は、ほかのお父様たちとのお話合いで、
会陰と大淫唇に一回ずつ、合計三箇所すえる予定にしてたんだが
……お前の場合はこんなバカな遊びを最初に始めた張本人だし、
クラス委員でもあるわけだから……お仕置きが他の子と一緒じゃ
不公平なんじゃないかと思ってな」
お父様はこう言って再びお姉様の顔色を窺います。
そして、最後に進藤のお父様はこう宣言するのでした。
「……だから、今回は、各箇所三回ずつ私が直接据えてやる。
……それでいいな」
でも、これには瑞穂お姉様びっくりでした。
「いや、だめよ。だめ。ちょっと待って……そんなことしたら、
私、死んじゃうもん。そしたら、化けてでてやるんだからね」
瑞穂お姉様は、どうにもならないほど体を押さえ込まれたこの
恥ずかしい姿勢のままオカッパ頭を左右に振って叫びます。
顔は真っ赤、もちろん本気で自分の身体を心配しての事でした。
「大仰だなあ、大丈夫だよ」
進藤のお父様は軽くあしらいますが……
「だめえ~~~そんなことしたらお嫁にいけないもん」
必死に起き上がろうとして頭だけこちらを向いたお姉様の目に
はすでに涙が光っていました。
きっと怖かったんだと思います。必死だったんでしょう。
そりゃそうです。こんな姿でいるだけでも超恥ずかしいのに、
これから、女の子にとって一番大事な処へお線香の火が近づいて
来るというんですから、そりゃあただ事じゃありません。
でも、そんな親子喧嘩の様子を見守るお父様たちはというと、
あたふたとしていて落ち着きのない人など一人もいませんでした。
恥ずかしいお股へのお灸は、何もこれが初めての試みではあり
ません。ここでは女の子が成長するたびにお灸が据えられます。
お灸はいわば通過儀礼みたいなもの。据える場所も、据える艾
の大きさもあらかじめ決まっていて、痕もほとんど目立ちません
でした。
大事なことは皮膚を焼くことではなく、全員で恥ずかしい思い
をしたこと。そんな体験を持つ事がお父様たちにとっては大事な
ことだったみたいです。
「大丈夫だよ。心配しなくて……お父さんがそんな危ないこと
ミホ(瑞穂)ちゃんにすると思うかい。据える処はどこも皮膚の
上だからね、熱いのは熱いけどお尻に据えられるのと同じ熱ささ」
「でも、三回…据えるんでしょう」
「それはそうだけど、艾が小さいからね、すぐに消えるし痕も
目立たない。死んじゃうだの。お嫁にいけないだのって心配する
ことじゃないよ。現にここの卒業生はほとんどがこのお仕置きの
経験者だけど、みんな元気に働いてるし、お嫁に行って赤ちゃん
産んでるじゃないか」
「そう…………」
瑞穂お姉様はお父様の説得に安心したのか、それとも単に首が
疲れただけなのか、元の姿勢に戻ります。
「さあ、始めるよ。いつまでもこんな格好でいたら、その方が
よっぽど恥ずかしいだろう。風邪ひかないうちにさっさと終わら
せなきゃ」
お父様に言われて最後は瑞穂お姉様も観念したみたいでした。
最後に、お父様が自ら猿轡を瑞穂お姉様の口にくわえさせたの
ですが、それにはお姉様、抵抗する素振りをみせませんでした。
ただ、それが終わると、瑞穂お姉様の身体はさらに厳しく拘束
されることになります。
最後になって他の家の家庭教師の先生たちも瑞穂お姉様の体を
押さえにかかったのでした。
左右の足を押さえるのに一人ずつ追加され、目隠しがなされ、
お腹にも一人別の人が乗ります。
幼い女の子一人にいったい何人の大人が…と思いたくなります
が、全ては安全を考慮してのこと。そして何より、瑞穂お姉様が
『今日ここに据えられたんだ』と心に刻む為の演出だったのです。
実際、施灸自体は蚊に刺されたほどにしか熱くありません。
それを印象深くドラマチックにしてお仕置きの効果をあげるの
がここでの先生たちの仕事でした。
そのため進藤のお父様は見ている私たちに、これでもかという
ほど瑞穂お姉様のアソコを広げて見せてくれました。
大淫唇や会陰だけではありません。小陰唇も膣前庭も尿道口も、
もちろんクリトリスや膣口、お尻の穴まで、瑞穂お姉様の陰部は
あますところなく外の風に当たることになります。
そうしておいて約束の場所に艾が置かれます。
たしかに、それは小さなもの。大きな胡麻くらいでしょうか。
私にはその程度にしか見えないほど小さなものだったのですが、
でも、こうやって大勢でがんじがらめに身体を拘束され、猿轡や
アイマスクまでされて、普段なら外には出ない場所を全て全開に
しているお姉様に艾がどんな大きさかなんて分かりません。
驚異、恐怖、焦燥で気が遠くなりかけたかもしれません。
その思いを進藤のお父様が現実へ引き寄せます。
「それじゃあ、すえるからね」
お姉様が必死に暴れる……いえ、暴れようとして押さえつけら
れてるさなか、艾に火が移ります。
「うっっっっっっっっ」
確かに会陰へそれは一瞬で終わりましたが、膨らみのある肉球
へ、すぐに次の使者がやってきます。
「うっっっっっっっっ」
「うっっっっっっっっ」
三火の施灸が終わり他の子はこれで終了なのですが、お姉様の
場合はさらに六回の試練が続きます。
「うっっっっっっっっ」
「うっっっっっっっっ」
「うっっっっっっっっ」
「うっっっっっっっっ」
「うっっっっっっっっ」
「うっっっっっっっっ」
約束は守られました。
お姉様は取り乱すことなく、お父様も必要以上のことはなさい
ませんでした。
黒い点が三箇所。それって他の子より大きいかもしれませんが、
それでもそんなに大きな点ではありません。
そして、その黒い点が興奮しているためでしょうか、脈打って
いるのがはっきりとわかりました。
『私も、ああなるんだわ』
私は先々の事にあまり頓着しない性格でしたが、この時ばかり
はさすがに身が引き締まります。
だって、このお仕置き。ここにいる限り私も必ず受けることに
なるのですから。
ただ、それはそれとして、お姉様の痴態を見ていた私の体には
ある変化が起きていました。お臍の奥底からは何だかドロドロと
したものが湧き出して来るのです。
お臍の下の方で湧き出したそれはお腹へ胸へと登り、やがて顎
へ。顎の骨、歯根、歯茎、最後は前歯の先から出て行きましたが、
最後に一言。
『私もやられてみたい』
脳裏に不思議なメッセージを残して立ち去ったのでした。
全ての戒めが解かれて自由になった瑞穂お姉様は憔悴しきって
いますが、なぜでしょうか、私はそんな瑞穂お姉様に自分自身を
重ねて憧れてしまうのでした。
「ふうっ」
大きなため息がでます。
最初から強烈なお仕置きを見学するはめになった私でしたが、
次は、別の意味で、私にとってはもっともっと強烈でした。
***********************
***<< §16 >>****
瑞穂お姉様のお父様は進藤高志さんとおっしゃる実業家。今は
経営の大半を息子さんが受け継いでいらっしゃいますが、戦前は
関東一円に数多くの軍需工場を持つ社長さんだったんだそうです。
もちろん戦前のご様子など私は知りませんが、こちらでは縞の
三つ揃えにスエードのハットを被った姿でよくお目にかかります。
家に遊びに行くと、いつも油絵を描いてらっしゃるか、ピアノを
弾いてらっしゃるかしていて多趣味な方でもあります。
もちろん、子供は大好きで、ご自宅の居間でお見かけする時は
誰かしら子どもたちがその膝の上に乗って遊んでいました。
私が遊びに行った際、当時三歳だった弘治君という男の子が、
お膝の上でお漏らしをしてしまいましたが、お父様はまるで何事
もなかったかのように顔色一つ変えませんでした。
そうした愛された兄弟(姉妹)の中でも、瑞穂お姉様のことは
特に可愛がっていられたと人伝えに聞いたことがあります。瑞穂
お姉様は明るく頭もよくて、難しい話題にもお父様のお話相手が
務まる子だと評判だったのです。
ただ、そんな甘い関係も、この場では封印しなければなりませ
んでした。
進藤のお父様は、あられもない格好のお姉様を間近に見ながら
蝋燭からお線香に火を移してお線香たてに立てます。
その顔は普段見る柔和なお顔とは違って、厳しく引き締まって
おられました。
「恥ずかしい?」
進藤のお父様に尋ねられた瞬間、お姉様の生唾を飲む様子が、
こちらからも垣間見えます。
「…………」
でも、お姉様はそれには答えません。
緊張しているせいでしょうか、私には、お姉様が自らの誇りを
失いたくないと意地を張っているようにも見えました。
「私は『恥ずかしいのか?』と尋ねているのに答えてくれない
のかね」
「あっ、はい、恥ずかしいです」
お姉様は慌てて答えます。
勿論そんなことわかりきっていますが、進藤のお父様に限らず
お父様たちって、惨めな姿をした子どもたちに『恥ずかしいです』
と言わせたがります。
そして、その返答はたいていこうでした。
「仕方ないな、お仕置きだから………お父さん、お前にわざと
そんな格好させてるんだ。お前が、よ~~く反省できるようにね」
「はい、ごめんなさい」
お姉様は嗚咽交じりの小さな声で答えます。
「いいかい瑞穂。なぜお前がこんな格好をしなければならなく
なったか、わかってるだろう?」
「私が二階の窓から傘を差して飛び降りたから……でしょう?」
お姉様が自信なさげに答えると……
「確かにそれもあるけど……それについては、栗山先生が処置
してくださったから、まだいいとして……私たちが問題にしてる
のはね、実はそのことだけじゃないだ」
「えっ?どういうこと?…………」
お姉様の小さな声には意外というに思いが込められています。
「君がメリーポピンズを始めた時に、どうして遥ちゃんたちも
誘ってあげなかったのかなってことさ」
「どうしてって……それは…………」
お姉様は少し考えてから……
「だって、あんまりいいことじゃないし、誘ったら悪いかなと
思って……」
「じゃあ、明君が真似した時は何で止めなかったの?」
「えっ……それは…………」
「そうじゃないでしょう。そんな事で遥ちゃんに声をかけたら
バカにされるんじゃないかって、心配したんじゃないの?」
「えっ…………」
お姉様は答えませんでしたが、どうやら図星のようでした。
瑞穂お姉様とうちの遥お姉様はお互いライバル。たった六人の
中ですが、二人は勉強でも図工でも音楽でも、とにかくどんな事
でも張り合っていました。
「図星みたいだね。いいかい、いつも言ってるように、クラス
のお友だちとは誰とでも仲良しでなきゃいけないんだ。仲間外れ
はよくないな。特にお前は級長さんじゃないか。たった六人でも、
君はみんなのリーダーなんだよ」
「キュウチョウ?」
「そうか、今は学級委員って呼ぶんだっけ……でも同じだろう?
君はクラスを代表して色んな行事をこなす立場にあるんだから、
いつもクラスがまとまるように気を配ってなきゃいけないのに、
それが自分から悪さを始めたり仲間はずれの子を作ったりしたん
だから……これって、いいわけないよね」
「でもあれは、遊びだから……遥ちゃんはやらないと思って」
「遊び?でも、声を掛けてみなけりゃわからないんじゃないか。
『たとえ、悪戯をする時でもみんなで一緒にやりましょう』って、
教えたよね。これは他のお父さん達も同じ考えなんだから他の子
もお父さん達からそう教わってるはずだよ。ここでは悪戯する事
より、友だちを仲間はずれにする事の方が罪が重いんだ」
「…………」
お姉様はその教えに気がついたみたいでした。
これは私も小暮のお父様によく言われていました。
『みんなで悪さをしてもそれはみんなで罰を受ければいいんだ。
簡単に償える。お尻が痛いだけだもん。でも、お友だちを傷つけ
てしまうと、その償いはそんなに簡単なことじゃないんだよ』
私たちの学校では、クラスに六人しか生徒がいません。でも、
六人しかいないからこそ、その六人は、誰もが大親友でなければ
ならないのでした。
「それに、たとえ瑞穂が勝手に始めたことでも、他の子にすれ
ば、級長さんがやってるんなら一緒にやってみようと思うんじゃ
ないのかな。……それとも、その子たちは私が誘ったんじゃない
勝手に始めたんだから自分には責任がないって言うつもりかい?」
「えっ…だって、そんなこと誰だって、悪いことだと分かって
るはずだから……」
「そうかな?お父さんそうは思わないよ。級長さんがやってる
ってことは、他の子がやってるってこととは同じにはならないん
だよ。ほかの子すれば『級長さんがやってるんなら大丈夫だろう』
って思っちゃうもの」
「それは……」
「お父さんも、お前にこんな格好をさせたくはなかったけど、
やってしまった罪の重さを考えると仕方がないと思ってるんだ。
しかも今回は、小暮のお父様が『お嬢さんだけお仕置きするのは
酷ですから、全員に同じお仕置きをしましょう』とおっしゃって
くださったからこうなったんだ」
「ふう……」
お姉様から思わずため息が漏れます。
それはがっかりという顔でした。
これがお姉様のどういう気持の表れだったのかは知りませんが、
進藤のお父様にとってその顔つきは、あまり良い印象ではありま
せんでした。
「…しかし、そうなると、お前に与えられる罰はむしろ軽いと
言えるかもしれないな」
お父様はそう言ってお姉様の顔色を窺います。
そして、こう続けるのでした。
「……そこでだ、今回は、ほかのお父様たちとのお話合いで、
会陰と大淫唇に一回ずつ、合計三箇所すえる予定にしてたんだが
……お前の場合はこんなバカな遊びを最初に始めた張本人だし、
クラス委員でもあるわけだから……お仕置きが他の子と一緒じゃ
不公平なんじゃないかと思ってな」
お父様はこう言って再びお姉様の顔色を窺います。
そして、最後に進藤のお父様はこう宣言するのでした。
「……だから、今回は、各箇所三回ずつ私が直接据えてやる。
……それでいいな」
でも、これには瑞穂お姉様びっくりでした。
「いや、だめよ。だめ。ちょっと待って……そんなことしたら、
私、死んじゃうもん。そしたら、化けてでてやるんだからね」
瑞穂お姉様は、どうにもならないほど体を押さえ込まれたこの
恥ずかしい姿勢のままオカッパ頭を左右に振って叫びます。
顔は真っ赤、もちろん本気で自分の身体を心配しての事でした。
「大仰だなあ、大丈夫だよ」
進藤のお父様は軽くあしらいますが……
「だめえ~~~そんなことしたらお嫁にいけないもん」
必死に起き上がろうとして頭だけこちらを向いたお姉様の目に
はすでに涙が光っていました。
きっと怖かったんだと思います。必死だったんでしょう。
そりゃそうです。こんな姿でいるだけでも超恥ずかしいのに、
これから、女の子にとって一番大事な処へお線香の火が近づいて
来るというんですから、そりゃあただ事じゃありません。
でも、そんな親子喧嘩の様子を見守るお父様たちはというと、
あたふたとしていて落ち着きのない人など一人もいませんでした。
恥ずかしいお股へのお灸は、何もこれが初めての試みではあり
ません。ここでは女の子が成長するたびにお灸が据えられます。
お灸はいわば通過儀礼みたいなもの。据える場所も、据える艾
の大きさもあらかじめ決まっていて、痕もほとんど目立ちません
でした。
大事なことは皮膚を焼くことではなく、全員で恥ずかしい思い
をしたこと。そんな体験を持つ事がお父様たちにとっては大事な
ことだったみたいです。
「大丈夫だよ。心配しなくて……お父さんがそんな危ないこと
ミホ(瑞穂)ちゃんにすると思うかい。据える処はどこも皮膚の
上だからね、熱いのは熱いけどお尻に据えられるのと同じ熱ささ」
「でも、三回…据えるんでしょう」
「それはそうだけど、艾が小さいからね、すぐに消えるし痕も
目立たない。死んじゃうだの。お嫁にいけないだのって心配する
ことじゃないよ。現にここの卒業生はほとんどがこのお仕置きの
経験者だけど、みんな元気に働いてるし、お嫁に行って赤ちゃん
産んでるじゃないか」
「そう…………」
瑞穂お姉様はお父様の説得に安心したのか、それとも単に首が
疲れただけなのか、元の姿勢に戻ります。
「さあ、始めるよ。いつまでもこんな格好でいたら、その方が
よっぽど恥ずかしいだろう。風邪ひかないうちにさっさと終わら
せなきゃ」
お父様に言われて最後は瑞穂お姉様も観念したみたいでした。
最後に、お父様が自ら猿轡を瑞穂お姉様の口にくわえさせたの
ですが、それにはお姉様、抵抗する素振りをみせませんでした。
ただ、それが終わると、瑞穂お姉様の身体はさらに厳しく拘束
されることになります。
最後になって他の家の家庭教師の先生たちも瑞穂お姉様の体を
押さえにかかったのでした。
左右の足を押さえるのに一人ずつ追加され、目隠しがなされ、
お腹にも一人別の人が乗ります。
幼い女の子一人にいったい何人の大人が…と思いたくなります
が、全ては安全を考慮してのこと。そして何より、瑞穂お姉様が
『今日ここに据えられたんだ』と心に刻む為の演出だったのです。
実際、施灸自体は蚊に刺されたほどにしか熱くありません。
それを印象深くドラマチックにしてお仕置きの効果をあげるの
がここでの先生たちの仕事でした。
そのため進藤のお父様は見ている私たちに、これでもかという
ほど瑞穂お姉様のアソコを広げて見せてくれました。
大淫唇や会陰だけではありません。小陰唇も膣前庭も尿道口も、
もちろんクリトリスや膣口、お尻の穴まで、瑞穂お姉様の陰部は
あますところなく外の風に当たることになります。
そうしておいて約束の場所に艾が置かれます。
たしかに、それは小さなもの。大きな胡麻くらいでしょうか。
私にはその程度にしか見えないほど小さなものだったのですが、
でも、こうやって大勢でがんじがらめに身体を拘束され、猿轡や
アイマスクまでされて、普段なら外には出ない場所を全て全開に
しているお姉様に艾がどんな大きさかなんて分かりません。
驚異、恐怖、焦燥で気が遠くなりかけたかもしれません。
その思いを進藤のお父様が現実へ引き寄せます。
「それじゃあ、すえるからね」
お姉様が必死に暴れる……いえ、暴れようとして押さえつけら
れてるさなか、艾に火が移ります。
「うっっっっっっっっ」
確かに会陰へそれは一瞬で終わりましたが、膨らみのある肉球
へ、すぐに次の使者がやってきます。
「うっっっっっっっっ」
「うっっっっっっっっ」
三火の施灸が終わり他の子はこれで終了なのですが、お姉様の
場合はさらに六回の試練が続きます。
「うっっっっっっっっ」
「うっっっっっっっっ」
「うっっっっっっっっ」
「うっっっっっっっっ」
「うっっっっっっっっ」
「うっっっっっっっっ」
約束は守られました。
お姉様は取り乱すことなく、お父様も必要以上のことはなさい
ませんでした。
黒い点が三箇所。それって他の子より大きいかもしれませんが、
それでもそんなに大きな点ではありません。
そして、その黒い点が興奮しているためでしょうか、脈打って
いるのがはっきりとわかりました。
『私も、ああなるんだわ』
私は先々の事にあまり頓着しない性格でしたが、この時ばかり
はさすがに身が引き締まります。
だって、このお仕置き。ここにいる限り私も必ず受けることに
なるのですから。
ただ、それはそれとして、お姉様の痴態を見ていた私の体には
ある変化が起きていました。お臍の奥底からは何だかドロドロと
したものが湧き出して来るのです。
お臍の下の方で湧き出したそれはお腹へ胸へと登り、やがて顎
へ。顎の骨、歯根、歯茎、最後は前歯の先から出て行きましたが、
最後に一言。
『私もやられてみたい』
脳裏に不思議なメッセージを残して立ち去ったのでした。
全ての戒めが解かれて自由になった瑞穂お姉様は憔悴しきって
いますが、なぜでしょうか、私はそんな瑞穂お姉様に自分自身を
重ねて憧れてしまうのでした。
「ふうっ」
大きなため息がでます。
最初から強烈なお仕置きを見学するはめになった私でしたが、
次は、別の意味で、私にとってはもっともっと強烈でした。
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