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ケンとメリー<2>

 ケンとメリー<2>

 ケンとメリーの故郷、エデン38星雲は地球から88億光年と
いう途方もない距離にあるため、帰郷する為にはブラックホール
の強力な磁場を利用して空間を折り曲げ、その裏側へと抜け出さ
なければならない。

 早い話、ショートカットとして近道を進むわけだが、この判断
には高度な解析力が持つコンピューターが不可欠だ。もし誤った
航路を選択すれば宇宙の藻屑、いや、煙も立たず消えてなくなる
はずだから、コンピューターは生命線なのだ。
 その命綱に機械ではなく正確な動作の保証がない生命体を使う
など通常なら考えられない話だが、彼は賭けに出たのである。

 しかし、ケンの目論みは当たる。
 代理母によって生まれた10人の赤ん坊の新鮮な脳が、彼らの
壊れたCPUの一部となって回路を構成し始めたのだ。

 大量のシナプスを与えられた彼らは、最初こそ心もとない成果
しかあげられなかったが、その能力は日増しに高まり、やがて、
加速度的に上昇していく。演算スピードこそ機械にはかなわない
ものの、目的達成のために必要な方法論や合理化といった作業を
自分たちでやってしまうため、最後は無駄がなく効率的なCPU
として機能していたのである。

 10人の赤ん坊は自分たちが何をしているのかわからないまま、
二人を彼らの母星であるキメラ星へと案内する大事な役目を果た
したのだった。


 二人はブラックホールを越え、エデン38星雲の懐かしい故郷、
キメラ星へと近づいた。

 太陽系をうろついていた時には送受信できなかった通信機器が
回復してキメラ星へ無事を知らせると、たちまちお祝いの通信が
ひっきりなしに宇宙船へかかってくる。

 そんな同胞たちの歓喜の中、二人は喜びのあまりある事を忘れ
てこの星に着陸してしまう。
 まずはこの星の長である執政官、テラ長官に会いにいったのだ
が、そこではすでに宴席が用意されていた。

 二人は、そこで銀河系での調査報告、事故の様子、小型艇での
帰還など一晩では語り尽くせぬほどの物語をお歴々の前で披露。
得意満面だったのだが……。

 「ところで、君が使ったその人類とやらは処分したんだろうな」

 執政官にこう言われた時、ケンは青くなる。
 その顔を見て、事の次第がわかったのだろう。
 執政官は次にこう言ったのだった。

 「分かっていると思うが、いかなる事情があろうと、この星に
いったん入れた生物はそれを入れた者が責任を持たなければなら
ない」

 責任を持つとは、ここではそれを育てることを意味する。
 『キメラ』は本来『天国』の意。ここでは理由なく殺生をする
ことが禁じられているのだ。

 「はははは、とんだところで二人とも親になってしまったな。
出来の悪い子を抱えると苦労するぞ」

 「まあそう言うな、よいではないか、多少、頭は悪いかもしれ
んが、姿形は我々とよく似ているそうな、さほどの違和感もある
まいて」

 「ところで、その子たちのIQはいくつなんだ?」

 「250あるかないかです」

 「我々の半分か。……ま、しかしだ、我々にも発達障害の子は
いるわけだから、何とかなるさ」

 二人は、お歴々から慰めにもならない言葉を贈られて宮殿を去
った。


 帰り道。ケンがつぶやく。
 「うっかりしてたな。ブラックホールを出た段階であいつらは
用済みなんだし、全員殺しておけばよかった」

 すると、少し間があって、メリーが……
 「私、もしあなたがそんなことしようとしたら……きっと反対
してたと思う」

 「どうして?」

 「だって、あの子たちは私たちの命の恩人なんですもの」

 「命の恩人って……あいつらは、僕たちが作ったんじゃないか。
創造主に殺されたら本望だろうよ。それに、姿形こそ我々と似て
いても、あいつらしょせん未開の地に暮らす下等生物なんだから、
飼い方だってよくわかってないし……」

 「でも、私……あの子たち……育てたいの」

 「育てる?」

 「方法は分からないけど、図書館に行けば地球を調査した時の
資料があるから、それで大体の生態はわかると思うの」

 「おいおい、本気で言ってるのか?」

 「本気よ」

 「バカ言えよ。あんなのは動物園に引き渡せば十分さ。要は、
殺さなきゃいいんだし。そもそもあいつらは我々と同じステージ
に立てる生物じゃない。用が済んだら処分。それが真っ当だよ」

 ケンはそう言ったあと、しばらくメリーの顔を見つめていたが
……

 「何だ、何か不満なのか?だってあいつら10人もいるんだぞ」

 ケンがそう言うと、しばらく置いてメリーが……
 「20人よ。だってあの子たちを産んだ母親がいるわ」

 「バカ言え、あの子たちの母親もかよ。だって、あいつらは、
子供を産んだだけじゃないか」

 「そうよ、子供を産んだのは彼女たち。でも、そうじゃないわ。
あなたも知ってるでしょう。あの子たちは母親に抱かれると驚く
ほど能力が向上したもの。あの子たちには母親たちが必要なのよ。
ひょっとしたら母親がいないと育たないかもしれないでしょう。
きっと、そうしたことは私たちとは違うのよ」

 「驚いたねえ。本気で言ってるの?」

 「もちろん本気よ。あなたが嫌なら私だけで育てるから……」

 「資金は?」

 「お父様に出してもらうわ」

 「また、お義父様か……」
 ケンは憤懣やるかたないといった苦い表情だったが……

 「あ~~、わかったよ。だからそういう悲しそうな顔をするな」
 こう言って前言を翻したのである。
 そして……

 「俺も甘いな……」
 とため息をつくのだった。

*********************

ケンとメリー<1>

これは『お仕置き小説』ではなく落書きです。

 ケンとメリー<1>

 ケンとメリーは、その日、無反動型の小型円盤宇宙船に乗って
いた。地球人の表記ならアダムスキー型UFOということになる
だろうか。

 目的は、探検?学術調査?それとも地球制服?。
 いやいや、そうではない。
 実は彼ら、太陽系近くで宇宙船が小惑星流星群に遭ってしまい
間一髪小型艇で脱出してきたのだ。

 要するに、今、乗っているのは大海に漂うゴムボートという訳。

 もっとも、このゴムボート。本来なら自力で故郷の星まで連れ
て行ってくれるのだが、肝心のメイン回路が惑星の直撃でこれも
破損してしまって、もっかは文字通り漂流していたのである。

 万事休すかと思いきや、ケンがあるアイデアを思いつく。

 それは地球の赤ん坊をさらって来て、その脳を拝借。CPUの
一部にしてしまおうというものだった。

 「大丈夫なの?」
 彼の妻、メリーは懐疑的だ。

 「分からないさ。でも、他に方法がない」

 「そんなことしなくてもさ、地球で一番能力の高い電子工学の
学者をさらった方が手っ取り早くない?」

 「バカだなあ、ここは僕たちの星じゃないんだ。住民は未開の
野蛮人。こいつらの能力ときたら自分たちのすぐ近くを回る惑星
に辿り着くだけがやっとなんだぞ。そんなやつらにいったい何が
できるというんだい」

 「じゃあ、なぜ赤ん坊なの?」

 「大人はすでに彼らなりのOSが脳に刻まれてしまってるから
役に立たない。こちらが欲しいのは知識じゃない。あくまで頭脳
そのものなんだ。たしかに奴らは未開の野蛮人に違いないがね、
探せばIQ240程度の脳を持つ個体はいるはずだから、それを
10個繋げて回路にするんだ。こちらの計算では、10人くらい
連れて来れば何とかなるはずなんだが、はたしてそんな優秀な子
が見つかるかどうかだ」

 「でも、赤ん坊のIQなんて、どうしてわかるのよ」

 「それは大丈夫。実は我々の調査隊が何度もここを訪れていて
彼らの遺伝子を解析したデータが残っているんだ。それを頼りに
彼らの固体なかで最も優秀な頭脳を持って生まれる遺伝子の子を
探し当てればいいのさ」

 「だってこいつら何十億もいるのよ。その中から探し出すわけ?
そんなの無理よ」

 「無理じゃないさ。何十億人いても、こちらの望む組み合わせ
を持つ遺伝子は限られてる。そこをたどっていけば必ず見つかる
はずさ。……ただしタイムリミットはある。最初の子を見つけて
から3年以内に10番目の子を見つけなければならない」

 「どうしてさあ、確保してきた個体を冷凍保存すればいいだけ
じゃないの」

 「確かに冷凍保存って方法もあるにはあるんだけど、こうした
ことは新鮮さが大事なんだ。できるだけ生の頭脳でいきたいんだ
よ」

 「私たちだけでそんなことできるの?」
 
 「もちろん、情報収集はこいつらに手伝ってもらうさ」

 「ツエツエバエ……」

 「こいつらが戻ってくれば、解析でだいたいのことは分かる。
あとはベストカップルを結びつければそれでいいってわけ……」

 「でも、そんなに無理しても女の子がちゃんと相手の赤ちゃん
を産んでくれるかしら?」

 「なにロマンチックなこと言ってるんだ。要は、精子と卵子が
あればいいだけじゃないか。適合する男と女をここへ連れて来て
精子と卵子を採取だけすればそれでいいのさ」

 「じゃあ、人工授精……試験管ベビー……」

 「当然そうさ。お前、こいつらにセックスをさせようと思って
たのか?」

 ケンが笑うと、メリーは赤い顔になったが、それが落ち着いて
からメリーも自分の意見を言う。

 「でも、完璧な形で胎児が育つためにはやっぱり母体は必要よ」

 「どうして?」

 「最後まで人工子宮でも胎児は育つけど、そうすると、彼らの
場合、生まれた後、情緒が不安定になりがちで脳の発達にも影響
が出るのよ。獣医が言ってるんだから間違いないわ」

 「なるほど……動作不良ってわけか」

 「そういうこと。……彼らはまだ獣から分離して間がないから
母体は必ずいるわよ」

 「そうか、……なら、やはり女は連れて行くしかないわけだ」

 「そういうことになるわね。……寝床足りる?」

 「大丈夫なんとかなるよ」

 もちろん、自分たちのはるか上空でそんな話がされているとは、
この時、地球人は誰も知らなかった。

***********************

無言のお仕置き

*) お浣腸とお灸がメインの『お仕置き短編小説』
 僕らの親世代ってね、元々口数がすくない人が多いから
子供を叱る時も本当に怒ると説明抜きでお仕置きしてたの。
ま、そんなお話です。

**********************

<ショートショート③>

       ~無言のお仕置き~

 その日はいつものように朝起きて母と一緒に朝の食事を手伝い、
父と母、それに弟二人と一緒に朝ごはんを食べた。
 そこまで、何一ついつもと変わらない。

 ところが、父の「行ってきます」にも弟たちの「行ってきます」
にも「いってらっしゃい」の母が、私が「行ってきます」を言う
と「お待ちなさい」だった。

 「お座りなさい」
 座敷、それも仏間に私を呼んで座らせる。
 これは我が家では危険信号だ。

 『お仕置きだ』
 とっさにそう思った。
 理由も分かっている。
 分かっているが、それは私からとても言えないことだったのだ。

 いや、私だけではない。
 母もそれについては語らなかった。

 ただ、節さん(お手伝い)呼び、
 「お浣腸とお灸の準備をしてちょうだい」
 と言うだけだった。

 『お仕置き』という現実はその通りなのだが、それはいつもと
違っていた。
 いつもなら過去に起こったすでに決着した問題まで洗いざらい
持ち出し長々お説教してからお仕置きする母が、今回はお仕置き
の理由を何一つ説明しないのだ。
 
 母は一切何も語らず、ただ準備ができるのを待っている。
 こんなことは初めてのこと。
 たとえお互い分かりきった理由であってもこれまでなら理由は
必ず説明してきたのに、それがないというのは不気味だった。

 母はただ正座したままで私を見つめているし私もまた正座した
まま母を見つめるしかなかった。
 ただ、私の方から『あれですね』とは言いたくなかったのだ。


 最後に雨戸が閉められて、部屋の電気が灯る。
 すべての準備が終わり、「準備できました」という節さんの声。
 それに反応して狭い座敷の一面に広げられたお道具を一瞥した
母が「ありがとう」と一言、節さんに礼を言う。
 どうやら節さんには口を利くようだとわかった。

 「この子に浣腸してちょうだい。200㏄」
 
 母の命令に節さんが…
 「石鹸でしょうか?」
 と尋ねたが……

 「グリセリンでいいわ」
 母は毅然と言い放つ。

 グリセリンと石鹸では、当然効果がまるで違ってくるわけで、
それがそのまま母の決心でもあった。

 200㏄のグリセリン。それが身体にどんな影響を及ぼすか、
私だって知らないわけではない。

 仮に100㏄くらいならトイレを許すという事もあるだろう。
150㏄なら便器は洗面器かもしれない。でも200㏄なら……
 それはオムツのなかにという意味だった。

 私はここでもだんまりを通した。
 小学生の頃ならお仕置きの恐ろしさ異様な雰囲気に耐えきれず
きっと泣いて詫びていたに違いない。
 でも、今はそれができなかった。

 「お嬢様、お母様のご命令ですから……」
 節さんがそう言って私の脇へに座る。

 今まで何度もやってきたポーズ。抵抗しようとも思わなかった。
 スカートを外し、シミズをたくし上げてショーツを脱ぎとる。

 「さ、さ、お嬢様、あんよを上げてくださいな」
 あんよなどという歳ではないが、節さんはそれほど長くうちで
働いていたのだ。

 仰向けに寝て、両足を高く上げて、全てが母の目の前であから
さまになるように取り計らわれる。
 女三人だけの部屋、恥ずかしくても節さんの手を煩わせること
もなかった。

 右に頭を傾けると、そこにはすでに大きな茶色い薬壜が置いて
あり、そのなかには倍に希釈された200㏄のグリセリン溶液が
入っていた。

 こんな目の前にわざわざそれが置かれているのは私の恐怖心を
煽るため。グリセリン溶液がガラス製のピストン浣腸器によって
吸い上げられるさまを私に見せ付けるためだった。

 極太の浣腸器で2回。
 今とは違いカテーテルなどは使わないからガラスの先端が直に
当たる。
 私にとって大事なことはそれを静かに受け入れること。

 もし肛門を閉じれば、たとえ故意でなくても反抗とみなされ、
その辺りにお灸が据えられる決まりがあった。
 私は何度か失敗して、そこにはすでにいくつかの灸痕を残して
いる。

 それは恐怖心との戦い。そして母への忠誠心の証しでもあった。


 200㏄はさすがに重い。
 お腹が重く、オムツを穿かされる最中、すでに便意が……

 「あああああ」
 もう最初の震えがきた。

 でも、ここで粗相するわけにはいかなかった。
 もし、そんなことをすれば、一日中この部屋を掃除させられる
はめになる。完全にそのこん跡がなくなるまで畳の目一つ一つに
至るまで完全に雑巾がけの拭き掃除をさせられるのだ。

 サボっているところが見つかって、お尻のお山に大きなお灸を
据えられたこともあった。

 200㏄がお腹に入ると、まず脱脂綿で栓をしてからオムツで
お股を閉じる。
 正座に戻って5分間。お腹が大きく波打って破裂しそうな身体
だが、この時間は石に噛り付いてもみっともないことはできない。

 私は、一瞬母に謝ろうかとも考えたが、それをしたところで、
今さらどうにもならないと気づく。
 謝っても謝らなくてもこの窮地に変わりはないのだ。

 5分が過ぎ……
 「節さん、この子を納戸へ」

 母の声はむしろ救われた思いだった。

 「30分たったら。オマルを与えていいわ」
 母はそう言って送り出してくれたが、30分が20分でも無理
なのだから、その時間は意味をなさないように思える。

 『とにかく納戸へ』
 それだけを思っていた。

 節さんが私の肩を抱き納戸へと連れて行く。
 そこは、今は一番行きたくない場所。
 でも、お浣腸を受けたら行かなければならない場所。
 お約束の場所だった。

 うちの納戸は、古い箪笥や長火鉢、籐製の乳母車などが収めら
れているいわば物置だが、普段から掃除が行き届いていて綺麗に
片付けられている。

 しかし、私にとってこの部屋で用があるのは大きな盥と真ん中
に置かれた古びた鉄製の寝台だけ。そしてもっと言えば、柵状に
なったベッドフットの部分だけだった。

 私は節さんによって、そのベッドフットの柵に両手を縛られ、
大きな盥の中で膝まづく。
 今に始まったことではない。お浣腸のお仕置きではいつもこの
ポーズだった。

 幼い頃はここまでも間に合わず穿かされたオムツの中に全てを
ぶちまけていたこともしばしばだったが、今はグリセリンの量が
増えてもそれはなかった。

 強い羞恥心と身体が丈夫になったのが原因なのかもしれない。
ただ今回はそれもできそうにないほど逼迫しているのがわかる。
 今オムツを外そうとしている節さんの顔に掛けてしまわないか、
それが心配だった。
 すると……

 「あなたも強くなったわね。……昔はあなたのオムツを外す時
によく引っ掛けられたわ」
 節さんの言葉にどう答えて良いのか分からなかった。
 そんな余裕もなかった。

 お尻が丸裸になり、これから30分、我慢しなければならない
のだが、そんなのは、あり得ない時間だったのである。

 「あっいや……だめ、……もうだめ、……ああああ、出る出る
……んんんんん、……うううううっ……いやあ、いやあ、いやあ」

 気がふれたように縛られたタオル地の紐を引き伸ばし無意識に
声が出る。


 そして、20分を過ぎた頃。

 「………………………………」

 とうとう耐えられなかった。というより、その瞬間は無感動。
こんな事して恥ずかしいとか、これからどうしようという絶望も
そこにはなかった。ただお尻から流れ出るものをただぼんやりと
太股で感じていただけ。
 むしろ精一杯やったという満足感の方が沸いてきたのである。

 縄目が解かれた時、母がそばにいたのを初めて知ったが、それ
さえ何の感傷もわかなかった。

 「どのくらいだった?」
 母が節さんに尋ねると……答えは……
 「22分です」

 「そう、それじゃあ、8個作ってちょうだい」

 母は節さんに艾を固める仕事を依頼する。
 お浣腸のあとはお灸。それが我が家のごく普通の流れ。
 約束の30分に8分足りないから8個というわけだ。

 節さんが艾を準備する間、母が盥に入った私の下半身を洗う。
 本来なら母が艾を作り、節さんが汚れ仕事を任される方が自然
なんだろうが、これは母なりの愛情。

 私は母の前に汚い裸を晒し続け、17歳にもなったダメな娘を
演じ続ける。
 あまりに深い絶望は、頭の中を空っぽにしてしまい、かえって
現実感がない。恥ずかしさや屈辱感もどこか置き去りにして、私
は母に甘えてる自分がそこにいることに気づく。

 私の下半身が熱いタオルで清められていく。

 黙々と作業する母。
 いつもなら、「どうしていつもあなたはそうなのよ!」などと
母が愚痴を言い続ける時間でもあるのだが今日はそれもなかった。

 盥の中だけが別の世界。私はこの小宇宙で幼女に戻っていく。


 身体が拭き上がると、母に素っ裸にされてベッドの上で仰向け。

 節さんが私を万歳させてその手をベッドヘッドへ結わいつける。
 手順が分かっているから言葉はなくても戸惑いがないのだ。

 私のお臍の下には短い陰毛が生えているが、これが母によって
気持ちよく剃られていく。
 我が家ではお灸のお仕置きがあるたびに陰毛が剃られる。そこ
が天使と同じようにすべすべとなって罰を待つのだ。

 と、そこまでは予定通りだったのだが……

 『あっ、いや、だめ』
 私は、突然、節度をわきまえず身体を揺さぶった。

 両足もベッドフットに縛り付けられて、もうどうにも身動きが
とれらくなってから、私は、艾の大きさがいつになく大きいのを
発見したのだった。

 たちまち現実に引き戻される私の心。
 だが、母はそんな娘の狼狽ぶりにも慌てない。

 むしろ、今まで以上に厳しい顔で、まるで私を突き放すように
睨みつける。

 ビーナス丘に置かれた艾の大きさに私はまだ火がついていない
にも関わらずひきつけを起こしそうになった。

 『いやあ、だめ、だめだって』
 これまでやられたどの施灸よりも大きな艾が、私のお臍の下に
見える。
 今さらながら、でも、本当に今さらながら、それを自分の手で
跳ね除けたかった。

 もちろん、それはかなわない。両手はしっかりベッドヘッドに
両足もしっかりベッドフットに縛られて……それでもかろうじて
動く腰をしばらくは振っていたが、太股に母が圧し掛かり、それ
もできなくなる。

 『何も考えず、意識を現実から切り離そう。辛いお仕置きは、
夢のうちに終わらせるのが一番だ』

 しかし、あたりに漂うお線香の香りがいくら振り払っても私を
夢の世界へ逃がさない。赤い火の玉が涙で滲んでぼやけても、今、
何が起こっているかははっきりと覚醒した心が受け止めている。

 『あっ、いや、だめ、来るな、来るな、来るな』

 艾にお線香の火が移った。
 ただ、大きな艾に火が着いても、すぐには熱さを感じない。
 しかし、それが10秒、20秒と経ち、やがて肌へ火が回って
しまうと……

 「いやあ~~~やめてえ~~~死ぬ~~~とってえ~~~~」

 それが、どんなにか無駄なことだと分かっていても出る奇声。
全身に悪寒が走り、わなわなと震えが止まらない。
 据えられたのは1円玉ほどの大きさ。でも、その一円玉が私の
全身を締め上げ、脳みその全て支配して、あとは何も考えられな
かった。

 たった一壮でもそうだ。

 「もう、次はだめ」
 私は圧し掛かる母に向かって哀願するが、聞き入れられるはず
もなかった。

 「いやあ~~~やめてえ~~~死ぬ~~~とってえ~~~~」

 こんな時、気の利いた言葉は浮かばない。ただ、ただ、今ある
灼熱地獄から逃れたい。思いはそれだけ。それが言葉になるだけ。
あとは何も考えることができなかった。

 三壮目。

 「いやあ~~お母さんごめんなさい。もうしません。しません
から~~~もうしないで、しないで、お願い、ごめんなさい…」

 幼い頃、母に受けた折檻で泣き叫んでいたのと同じ言葉が出る。
そこに17歳の娘のプライドなどはない。

 しかし、そうまでしても、母の表情に変化はなかった。
 毅然とした態度で、冷徹な眼差しも変わらない。そして何より
いまだ一言も私に声をかけなかった。

 四壮目、

 私の戒めが一旦解かれた。しかし、これで解放されたわけでは
ない。仰向けだった身体がうつ伏せなって再び身体が縛られだけ。
 これも我が家のお決まりだ。

 逃げること暴れること母に泣いて詫びることも考えたが、結局
何もしなかった。かつてそうやってみて、うまくいったためしが
なかったからだ。

 お尻のお山に乗っかる艾はとりわけ大きい。
 かつて、「あなたがもっとも我慢しやすい場所に据えてあげる
んだから、このくらいは当然でしょうが」と母に言われたことが
あった。

 灸痕はすでに10円玉の大きさを越え、昔の50円玉くらいの
大きさになって光り、えくぼのようにへこんでいる。

 恥ずかしさの記念は修学旅行などでお友だちとお風呂に入る時
に出てくる。
 幸いそれでからかわれたり虐められたことはなかったが、変に
同情される時があって、それが一番悲しかった。

 実は私、この家のひとり娘で、婿養子を取らなければならない
身の上なのだが、この時、すでにその相手が決まっていた。親の
決めた許婚がいたのだ。

 その未来の旦那さんが、継母の折檻でお尻に大きな灸痕を残し
ていると聞いた母は「どうせ夫婦になるんだし釣り合いをとった
方がいいだろう」と、私へのお仕置きに際しても、お山に大きな
お灸を据えるようになったらしい。

 迷惑と言ってこれほどひどい迷惑もないが、子供の身の悲しさ
親がこれが躾と決めてしまえばそれを甘んじて受ける他はない。
17歳になった今でもそれは変わらない我が家の習慣だったのだ。

 節さんがガーゼのハンカチを猿轡代わりに私の口にくわえさせ、
両手でもって私の後頭部全体に圧し掛かる。
 大きな枕に頭がのめり込み、息も出来ない苦しい姿勢。

 でも、母のお灸はそんな姿勢だったからこそ耐えられたのかも
しれない。それほど熱いお灸だったのだ。

 「ひぃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」

 猿轡のせいで声はでない。どのみちそれがなくても、まともな
言葉なんて口から出てくるはずもなかった。
 叫んで、泣いて、悲鳴をあげて…それで全身が震えるその熱さ
をやり過ごすしかなかったのである。

 『漏れてる』

 4壮目が終わった後、しばらくしてそれに気づいたが、不思議
と恥ずかしいとは感じなかった。
 今、最も大事なことは左のお山へのお仕置きが終わったという
こと。それは喜ばしいことで、普通なら死ぬほど恥ずかしいこと
であっても、それよりもっともっと不幸な出来事の前ではそれは
霞んでしまうのだった。

 5壮目

 今度は右のお山。
 「ひぃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」

 もう何も考えられない。
 念願の放心状態だった。


 『終わった』
 灼熱地獄が終わり、私はその後もしばし放心状態。
 そんな私の身体を節さんが綺麗にしてくれている。

 おねしょシートを取替え、お股を熱いタオルで拭き清める。

 まるで、赤ん坊。
 もしこれが『お山へのお灸』以外の場所で起こっていたら……
私は顔を真っ赤にして、節さんに『ごめんなさい、ごめんなさい』
を連発していたかもしれない。

 しかし、それさえ私にはできなかった。
 今は、ただただお山へのお灸が終わったこの幸福に浸っていた
かったのである。

 6壮目、

 私は再び仰向けに戻される。
 場所は同じビーナスの丘。
 もちろんそれだってとびっきり熱いのだが、何だかそれが楽に
耐えられるのが自分でも不思議だった。

 ただ、本当は耐えられるからって涼しい顔をしてはいけない。
 母のことだから、簡単に耐えられるなら罰を増やそうとなどと
言い出しかねないからだ。

 だが、その時はその余裕さえもなかった。

 7壮目、8壮目、

 私は火が回った瞬間に顔を歪めただけ。あとは平然とした顔で
艾が黒くなっていくのを眺めていた。
 いや、眺めてしまっていたと言うべきかもしれない。

 しかし、母もさすがにそれを咎めなかった。

 母からのお仕置きが終わり、私がホッとしていると、それまで
私に一言も口をきかなかった母が私に向かって一言……

 「いいこと、だめなものはだめなの」

 それだけ言って背を向ける。
 もちろん、それで私が分かると思ったからだ。

 実は母屋からこの納戸へ通じる廊下には押し扉があって母屋と
納戸を隔ているのだが、普段そこは自由に行き来ができていた。
 ところが、ごくたまに、その扉に鍵のかかる時がある。

 『なぜ、今は鍵が掛かっているのだろう?』
 私は幼い頃からそれが疑問だったが父も母も節さんもその謎に
は答えてくれない。

 ただ、成長してわかったことは、鍵の掛かる時、父と母が共に
鍵の掛かった扉の向こう側にいるということだった。
 父だけ、母だけが鍵の向こうにいるということはなかったのだ。

 夫婦が一緒になって用のあること。
 『ひょっとして、それって……』
 それは大人になっていく中で私が見つけた仮説だった。

 すると、人間、自分の立てた仮説は立証したくなるもので、私
は一計を案じて鍵の向こう側へ潜り込む算段をしたのだった。

 ある日、父と母がかわす何気ない会話の中に、微妙な違和感を
を感じた私は、この日、押し扉に鍵が掛かるのではと推測して、
母には風邪を引いたと嘘を言い、自分の部屋に引きこもることに
したのである。鍵が掛かる直前、母が私の居所を確認しているの
もよく知っていたからだ。

 そうしておいて、私は自分の部屋を抜け出す。
 廊下を進み鍵の掛かる押し扉を越え、納戸部屋へ上がる階段下
の物陰で息を殺して待っていると、推測どおり、父と母がそこへ
やってきたのだ。

 二人は仲睦まじく納戸部屋への階段を登って行くが……
 やがて、天井のきしむ音や激しい息遣いが階段下にまで聞こえ
て……。

 『やっぱり』
 と思うほかなかった。

 恥ずかしくなった私は、さっそくその場から立ち去ろうとした
が、やはり、一目見てみたいという欲求が押さえられなくなって
しまう。

 そうっと、そうっと、階段を上がって見たもの。それは母の胸
に顔を埋める父の姿だった。普段は威厳に満ちた父の、あまりに
違う姿に驚いた私は慌てていたのだろう階段で足を踏み外す。

 「どたっ」
 という鈍い音。

 本来、鼠一匹いないはずのこの場所で物音などするはずがない。
当然、気づかれたが……
 
 母が「大丈夫よ何でもないわ。最近、野良猫が入り込むのよ」
と父を説得すると、父も……
 「そうか、やっかいだな」と、応じる。

 私は助かったと思い早々にこの場をあとにしたのだが……。
 こうなったというわけ。

 母は当然そこに誰がいたかは知っていたわけで、お仕置きする
時も、理由はあえて伏せていた。

 ただ……
 「いいこと、だめなものはだめなの」
 とだけ私に諭したのだった。


**********************

<ショートショート②>

<ショートショート②>

 これを言うとみんな「うそだあ~~」なんて言うけど、ホント
なんだよ。
 
 夏休みのとある一日、僕はオヤジさんと一緒にドライブしてた
んだけど、オヤジさん方向音痴で道に迷っちゃった。

 仕方なく山の中にある田舎の橋の上で停車。地図を見直すこと
に……。(当時はカーナビなんて結構なものはないから地図だけ
が頼りだ)

 その時、助手席にいた僕は橋の下を流れる川の中で男の子たち
がはしゃいでるのは知ってたけど、そんなものに興味はなかった。
 『お父さん、熱いんだから、さっさと出発してよ』
 って思ってた。(当時の車にはクーラーなんか付いてないんだ)

 ところが、そこへ女の子たちが数人やってきて「泳ごう」って
言い出したんだけど、そのうちの一人が水着を持ってなかった。

 もちろん、家に取りに行けばあるんだろうけど……彼女、何を
思ったのかショーツまで脱いでスッポンポンで泳ぎ始めたんだ。

 こちらは目が点。
見たいような、見てはいけないような、
 で、結局、割れ目までしっかり見ちゃった。

 目があったもんだから、彼女、思わずしゃがんだけど、それに
しても近くには男の子もいたわけだし、僕らの常識では考えられ
ない行動だった。

 白昼夢だと思いたいけど、とにかくその光景がリアルすぎて、
鼻血もので車は再出発。
 オヤジさんは運転席で地図と格闘してたからこの事は知らない。

 今にして思うんだけど……その女の子にしてみたら、川で遊ぶ
のは生まれながらに兄弟みたいにして付き合ってた子供たちだけ
で、僕みたいなよそ者とは滅多に遭わないから安心しきってたと
思うんだ。

 話の内容からその子、小5らしいんだけど、僕がその時小2で
弟分だからそこは若干救いなのかもしれないけど、それにしても
さ、その歳でも裸の付き合いが可能だなんて……今じゃあ……と
いうより、その当時の僕の家周辺でもさすがに考えられなかった。

 これが本当の『牧歌的生活』っていうんだろうね。
 地域の子供たちは生まれながらに本当の兄弟みたいな身内同然。
よそ者は滅多に現れないし、性の知識を授ける本もテレビもない。
(当時のテレビは健全で今みたいにHな内容は放送しなかった)

 今回は僕みたいなよそ者とたまたま目が合っちゃったもんから
しゃがんじゃったけど、この村の中だけでなら裸でいたって危な
いとか、恥ずかしいなんて思わないんだろうね。

 もちろん今は全国どんな田舎に行ってもそんな子はいないはず
です。(当たり前か……)

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大昔のお話

<ショートショート>

 あれは今を去ること半世紀以上前。小4の時です。
 私、悪ガキの家に遊びに行っておりました。

 最初はゲームなんかしておとなしく遊んでいたのですが、その
うち何のきっかけか、鼠小僧よろしく屋根に上ろうということに
なり、物干し場づたいにそいつん家の屋根に上がったんです。

 すると、眺めいいでしょう。ついつい調子こいちゃいまして、
お隣も、そのお隣りもと跳ね回って大はしゃぎ。その日は何事も
なく帰ったんですが、後日、そいつの家の近隣から雨漏りがする
とクレームが……

 そこで、私も呼び出され、その友達がおふくろさんから大事な
処にお灸をすえられるところを見せられるはめになったという訳。

 私もそいつと一緒だったんだから本当は同罪なんだろうけど、
さすがによその子にそれはできないということで「見てなさい」
ってわけ。

 公開処刑の見学なんてあんまり気持の良いものじゃないけど、
当時はそんなこと珍しくなかったのよ。

 もちろん。私も家に帰ったら母親に大目玉だった。
 殺されるんじゃないかって思うくらい怒られたんだから。

 昔の親はホントやることがきつかった。

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Appendix

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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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