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§5
§5
気がつけば見慣れた浣腸台と呼ばれる黒い革張りのベッドが部屋の隅
にすでに用意されています。
私はできることならこの場でもう一度気絶したい気分でした。
「さあ、行きましょうか。お浣腸でお洋服を汚してはいけないから、
司祭様にお洋服を脱がしていただきましょう」
女王様はそう言って私の背中を押し始めます。私は驚いて後ろを振り
返ろうとしましたが、じたばたしても私の頭はすでに女王様の胸の中に
すっぽり納まってしまって身動きがとれません。目的地の浣腸台はすで
に目の前。もうどうすることもできませんでした。
浣腸台の周囲を八人のおじさまたちが取り囲み、籐製の脱衣かごの脇
には司祭様が立っておられます。
私は幼い頃からの習性で気がつくとその足元に膝まづいていました。
「あなたが14才を迎えるにあたり、これまでに負った穢れを清め、
無垢な心でその日を迎えるため、今日ここでお腹の中を綺麗にします。
よろしいですね」
「……はい」
司祭様の言葉は確認です。どのみち嫌とは言えないませんから確認な
んです。そう答えるしかありませんでした。
こう言うと何だか自由を奪われ権威や権力で脅されて嫌々そう言って
るみたいですが事実は少し違っていました。お父様やママもそうですが、
いつも優しくしてもらっているこれらの人々の命令に従うのは、よい子
にとっては喜びや安心でもあるのです。
『お仕置きされるとわかっているのにそれはないだろう』と思われる
でしょうが、亀山の子供たちはママを親代わりに、お父様をおじい様の
代わりとして、ちょっぴり過干渉でも愛情深く育てられてきましたから
ママやお父様が望むことなら何でも叶えてあげたいと思うものなんです。
司祭様への愛もそれは神様への愛と同じでしたから、司祭様が私の服
を脱がし始めた時も私は何一つ抵抗しませんでした。
純潔な体、無垢な心、天使のような振る舞いはお父様たちが私たちに
大金を投じる理由だったのです。その思いに私たちが自然に応えられる
ようにママが育てて、そのおかげで私たちは本来なら縁もゆかりもない
お父様から、時に実のお子さん以上の愛を得ることができるのでした。
13才の試練というのは、そんな亀山での卒業試験のようなもので、
もし巷で育てていれば羞恥心という鎧をガチガチに着込んでいる年頃の
娘を膝まづかせ、裸にして、何の理由もなくお仕置きすることで、娘の
忠誠心を確認する儀式だったのです。
私は白い短ソックス以外は何も身につけていない状態で黒革張りのベ
ッドへ上がりました。
あとはなされるまま。まずは女王様とママが仰向けになった私の右足
と左足を一本ずつ持ち上げて私の女の子としての中心部が殿方にようく
見えるようにします。
そこをアルコールに浸した脱脂綿で丁寧に消毒してもらうのですが、
何しろ敏感な処ですから声をたてずにやり過ごすということはまずでき
ませんでした。
苦悶の表情を浮かべて頭を激しく左右に振りうなされいるような声を
上げます。そんな私を気遣われてのことでしょう、司祭様が私のおでこ
を優しく撫でてくださいます。
私はそのやさしさに一瞬ほっとしたのですが、次の瞬間とんでもない
ことに気づきます。
いえ、このお仕置き自体は過去に何度もあるんです。でも今回は……
私の頭の付近に司祭様がいらっしゃって、ママと女王様も私のあんよを
担当なさっている…ということは、今、私のお股に触れているのは……
「!!!!!」
私の背筋に衝撃が走りました。私は慌てて身を起こそうとしますが、
それは司祭様に止められてしまいます。その代わり、それが誰なのかを
司祭様は私に教えてくださったのでした。
「今、原口のおじさまがあなたを清めして終わったところです。次は
木村のおじさま。あなたはこれからすべてのおじさま、もちろんお父様
からも自分の大事な処を清めてもらわなければなりません。少し時間が
かかるので寒いでしょうが、辛抱してくださいね。これはあなたにとっ
て、とてもとても大事なことですからね、逃げることはできませんよ」
「…………」私は本当はうなづきたくなかったのです。だってそれま
で司祭様を除いては一度もされたことのなかった殿方からのお清め(ア
ルコール消毒)なんですから。『たとえお父様でもそこまではなさらなか
ったのに…』私は思いましたが『今ここで逆らってもどうにもならない』
と悟るしかなかったのです。
司祭様のおっしゃるとおりお清めは長くかかりました。何しろ八人も
の殿方が代わる代わる念入りに私のお股の中を吹き上げていくのですか
ら……
「(いや、いやあ~、やめてえ~、もうしないで、ひりひりする)」
私は右に左に頭を振りながら心の中で叫びます。いえ、幾つかは言葉
になって外へ飛び出てしまったかもしれませんでした。
大陰唇、小陰唇はもちろん膣前庭や尿道口、ヴァギナやクリトリスだ
って例外ではありませんでした。本当はなりふり構わずベッドから飛び
降りて表に飛び出したいくらいの衝撃だったのです。
それを目いっぱいの力で理性が何とか押しとどめていたのでした。
そのうちアルコールの刺激に慣れたのかお父様やおじさまたちの会話
が耳に入ってくるようになります。
「ほう、この子は綺麗な格好をしてますなあ、家の真美はオナニーの
癖があるせいか、こうした襞がすでにぐちゃぐちゃになってますわ。色
素沈着も始まってますから成長が早いみたいですな。そこへいくと天野
さん処はうらやましい。こんな綺麗な形と肌をしたまま少女になれるん
ですから」
「そんなことはありませんよ。この子だってオナニー用のオムツを穿
かせたことだってあります。あれは一度覚えてしまうと、なかなか治り
ませんから親は苦労します」
「ほんとほんと、真美にはここに三回やいとをすえてみましたが、今
だに親の目を盗んでやってるみたいです」
触られた処は膣前庭でした。お父様やおじさまたちは綿棒を使って私
の大事な部分に無遠慮に触れてきます。殿方にとっては何気ない行為や
会話なのかもしれませんが、聞かされてる、触られてる私からすれば顔
から火が出るほど恥ずかしくて両手で顔を覆わずにはいられません。
その意味でもこのお清めは苦行だったのです。
そんな私の両手を司祭様がやさしく離します。
「どんなに恥ずかしくても顔をかくしちゃいけないよ。君はその体の
すべてでお父様やおじさまたちの愛を受け入れなければならない立場に
あるからね。わかっていると思うけど、亀山の赤ちゃんは、何一つ隠す
ことが許されてないんだ。恥ずかしい処も含めてそのすべてを愛しても
らえる人に捧げて暮らしているんだから……それがここでのルール。…
…知ってるよね」
「はい、司祭様」
「明日からはそれも終わる。多くの恥ずかしい出来事からもさよなら
だ。でも、それと同時に明日からは自分で自分の体を管理しなければな
らなくなる。自分で着替え、自分で髪をすき、自分で体を洗い、自分で
お尻を拭く。巷でなら幼稚園の子でもするような当たり前の事を今から
始めることになるんだ。大げさに言うと明日からが君の本当の人生だ」
「間に合うの?」
「もちろんさ。亀山では今までもみんなそうやって大人になってきた
んだからね」
「でも、明日からは、もうお父様は愛してくださらないの?」
「どうして?そんなことあるわけないじゃないか。誰がそんなことを
言ったの?14になっても15になっても恵子ちゃんは僕のお姫様だよ。
いつでも枕を持って私のベッドにおいで、大歓迎だから」
「お父様!」司祭様の声が聞こえたのでしょうか、お父様が私の枕へ
とやってきました。
「13才の赤ちゃんなんて世間じゃ変だろうけど、私に限らずお父様
になる人たちは一日でも長くよい子たちを抱きたいものだから女王様に
お願いしてそういう形にしてもらったんだ。そり代わり、この山を降り
て行く高校だって、その先の短大だって恵子ちゃんたちがいきなり世間
の風に当たって風邪をひかないように万全の体制を敷いてあるからね、
今まで赤ちゃんだったからってこれから先も何も心配いらないんだよ」
「…………」
そうは言われても私は心配でした。とにかく、自分が特殊な育てられ
方をしたんだということだけはこの時わかりました。
「とにかく『恵子ちゃんがお嫁に行くまでは面倒をみます』って私は
女王様には約束したからその約束だけは守るつもりだけど、私はすでに
老人で、ひょっとしたら恵子ちゃんがお嫁に行く前に天に召されるかも
しれない」
「そんなの嫌よ。お父様、どこか悪いの?」
「いや、そうじゃないよ。万が一だ。万が一そうなってもここにいる
八人のおじさまたちが君を守ってくれるはずだ。おじさまたちと女王様
とでそのお約束がすでにできているからね。でもそのためにはおじさま
たちにも君のことをよく知っておいてもらわないといけないから…」
「それでこんなことしてるの?」
「そういうことだ。恵子ちゃんの性格やら学校の成績なんかはすでに
つたえてあるけど、おじさんたちは君の生身の身体は知らないからね…」
「……わたし……もしお父様が亡くなったら公立の施設へ移りたい」
私は重い口を開きました。でも、もちろん答えはノーだったのです。
「それはできないよ。君はここでの生活しか知らないからわからない
だろうけど、ここは子供たちにとっては幸せすぎる場所なんだ。もし、
外で幸せに暮らしたいならその前に色々準備をしないとね。心がすぐに
風邪をひいてしまうんだよ」
「心が風邪?」
「そう、さっき司祭様がおっしゃってただろう。女の子は好きな人の
前で恥をかいて成長するって。あれはね、あくまで恵子ちゃんを好きな
人、本心で愛していくれる人の前でかく恥だから有効なんだ。ここには
君がすべてをさらけ出しても邪念をいだく人が誰一人としていないから
街のどこで裸になっても君の心に傷なんかつかないけど、そんなことは
巷でなんか絶対にできないことなんだ」
「どうして?」
「巷にはね、愛する気もないのに女の子の身体をもて遊ぶだけの輩が
たくさんいるんだよ。そんな人の前で恥をかいたら、女の子は一生心に
傷を受けることになるからね。外に出て暮らすなら、まずその人が本当
に自分を愛してくれる人なのかどうかを見抜く力が必要なんだ」
「ここにはそんな悪い人はいないってこと?」
「悪い人?う~んそれとは少し違うけど、ま、そういうことだ。私も
ここへ来るまではそんな楽園の存在など信じてはいなかったけど、真実
だった。この世に人の手で創れる極楽があるとしたらここだけだろうね」
「そんなにここってすごいの?」
「そう、すべては女王様の才覚と先生方の献身的な努力が支えている
んだよ。だから、あんよを持ってもらってるお二人には感謝しなればね」
「ま、お上手ですね、私はこの街の管理人にすぎませんわ。この街は
天野様はじめお父様方のお力添えなくして一日もうごきませんもの」
女王様は笑顔で振り返りますが、お父様はそれには首を横に振って応
えていられました。
「ただ、ここは楽園だけど、それだけにここでの常識は巷のそれとは
大きくかけ離れている。だからこれから進む高校と短大で、君は実社会
に出るための勉強をたくさんしなければならないんだよ。途中下車なん
て危険なことはできないんだ」
「間に合うの?」
「もちろんさ。そうやって社会に巣立って、成功した人が何人もいて、
その人たちが惜しみない援助してくれるおかげで、今の君たちは豊かな
食事や有り余る玩具や本や衣装、快適な家にだって住めるだよ。もしも、
ここにいた時代が不満だらけだったら、先輩たちだって、たとえ社会に
出て成功しても亀山に援助をしようなんて思わないはずだろう」
「…………」
「ここでの生活は今も昔もほとんど同じ。先輩たちもここにいた頃は
みんなたくさんのお仕置きを受けて、たくさんの恥ずかしい目にあって、
13才の試練だってもちろんみんな経験してここを巣立っているんだ。
彼らだってここにいる時はここの良さなんてわからない。ほかの世界を
知らないからね。でも実社会に出てみると、ここがどんなに凄い処だっ
たかがわかるから、その楽園を守りたくてみんな援助してくるんだよ」
お父様のそんな言葉の直後でした。誰かが私の肛門をいじります。
「(あっ、いや)」
ママでした。
「もうよろしいでしょうか」
お父様に声をかけます。
「あっ、ごめん、ごめん、つい娘との話しに夢中になってしまって…」
「では、最後にお父様に清めていただきますからね」
ママの指示でお父様は私のバックへと回ります。そして……
「じゃあ、いくよ」
お父様は私のお股の中をアルコールを浸した脱脂綿で吹き始めます。
「……………」
その時もおじさまたちの時と同様、声は出さなかったと思いますが、
私の頬はすでにくすぐったさで緩んでいました。
不思議なものです。まったく同じことをされているのに感じ方が全然
違うのですから。人には話せませんが、その時の私はおしゃぶりのいる
赤ちゃんへと、一瞬戻っていたのでした。
でも、その直後でした。
「……!……」
細く尖ったものがお尻を突き刺したのがわかります。
「……(あっ)……」
イチヂク浣腸の先が肛門の中へと入ってきたのです。
そして、『ぐちゅっ』という、あのえもいわれぬ不快感。
後は、次から次へとおじさまたちが私の身体をイチヂクで突き刺して
いきます。
たった10グラム、されど10グラムの重みが積み重なって終わった
時には90グラムのグリセリン溶液が厳重に締めこまれたオムツの中で
踊っています。
これからが地獄です。
私の体はこれからおじさま方の膝の上を転々として回されます。
お一人、約1分。まるでロシアンルーレットのように、怖い運試しで
すが、みなさん全身に鳥肌を立てて震える私を抱くとなぜかとても喜ん
でおいででした。
8分後、みなさんを一周して最初に抱いていただいた原口さんの膝へ
戻って来ると……
「恵子ちゃん、もうどこでお漏らししてもいいからね」
「好きなおじさまがいたらそこで漏らすといいよ」
「そうそう。その人がオムツを換えてくれるからね」
あちこちからかおじさまたちの声がかかります。
でも、その時の私はたとえ好きな人がいたとしてもその人を選んでお
漏らしするなんて器用なことはできませんでした。とにかくお尻に集中
してほかの事なんて考えられません。ほんのちょっとでも気を許したら
恥ずかしいものが一気にオムツの中へ流れ込むことは間違いありません
でした。
もちろん、このゲームに終わりがないこと、どんなに必死に頑張って
みてもいつかは恥をかかなければならないのはわかっています。でも、
それでも…もう、本能的にお尻に力を入れてしまうのでした。
三週目、私は原口おじさまのお膝で力尽きます。それはおじさまが…
「私でいいかい?」
と尋ねられた時に無意識にうなづいた結果でした。
すると、おじさまは私のオムツの中に手を入れて下腹をさすってくだ
さったのです。
「いやあ~~~」
私は思わず絶叫します。でも、その先はもうどうにもならないことで
した。
気がつけば見慣れた浣腸台と呼ばれる黒い革張りのベッドが部屋の隅
にすでに用意されています。
私はできることならこの場でもう一度気絶したい気分でした。
「さあ、行きましょうか。お浣腸でお洋服を汚してはいけないから、
司祭様にお洋服を脱がしていただきましょう」
女王様はそう言って私の背中を押し始めます。私は驚いて後ろを振り
返ろうとしましたが、じたばたしても私の頭はすでに女王様の胸の中に
すっぽり納まってしまって身動きがとれません。目的地の浣腸台はすで
に目の前。もうどうすることもできませんでした。
浣腸台の周囲を八人のおじさまたちが取り囲み、籐製の脱衣かごの脇
には司祭様が立っておられます。
私は幼い頃からの習性で気がつくとその足元に膝まづいていました。
「あなたが14才を迎えるにあたり、これまでに負った穢れを清め、
無垢な心でその日を迎えるため、今日ここでお腹の中を綺麗にします。
よろしいですね」
「……はい」
司祭様の言葉は確認です。どのみち嫌とは言えないませんから確認な
んです。そう答えるしかありませんでした。
こう言うと何だか自由を奪われ権威や権力で脅されて嫌々そう言って
るみたいですが事実は少し違っていました。お父様やママもそうですが、
いつも優しくしてもらっているこれらの人々の命令に従うのは、よい子
にとっては喜びや安心でもあるのです。
『お仕置きされるとわかっているのにそれはないだろう』と思われる
でしょうが、亀山の子供たちはママを親代わりに、お父様をおじい様の
代わりとして、ちょっぴり過干渉でも愛情深く育てられてきましたから
ママやお父様が望むことなら何でも叶えてあげたいと思うものなんです。
司祭様への愛もそれは神様への愛と同じでしたから、司祭様が私の服
を脱がし始めた時も私は何一つ抵抗しませんでした。
純潔な体、無垢な心、天使のような振る舞いはお父様たちが私たちに
大金を投じる理由だったのです。その思いに私たちが自然に応えられる
ようにママが育てて、そのおかげで私たちは本来なら縁もゆかりもない
お父様から、時に実のお子さん以上の愛を得ることができるのでした。
13才の試練というのは、そんな亀山での卒業試験のようなもので、
もし巷で育てていれば羞恥心という鎧をガチガチに着込んでいる年頃の
娘を膝まづかせ、裸にして、何の理由もなくお仕置きすることで、娘の
忠誠心を確認する儀式だったのです。
私は白い短ソックス以外は何も身につけていない状態で黒革張りのベ
ッドへ上がりました。
あとはなされるまま。まずは女王様とママが仰向けになった私の右足
と左足を一本ずつ持ち上げて私の女の子としての中心部が殿方にようく
見えるようにします。
そこをアルコールに浸した脱脂綿で丁寧に消毒してもらうのですが、
何しろ敏感な処ですから声をたてずにやり過ごすということはまずでき
ませんでした。
苦悶の表情を浮かべて頭を激しく左右に振りうなされいるような声を
上げます。そんな私を気遣われてのことでしょう、司祭様が私のおでこ
を優しく撫でてくださいます。
私はそのやさしさに一瞬ほっとしたのですが、次の瞬間とんでもない
ことに気づきます。
いえ、このお仕置き自体は過去に何度もあるんです。でも今回は……
私の頭の付近に司祭様がいらっしゃって、ママと女王様も私のあんよを
担当なさっている…ということは、今、私のお股に触れているのは……
「!!!!!」
私の背筋に衝撃が走りました。私は慌てて身を起こそうとしますが、
それは司祭様に止められてしまいます。その代わり、それが誰なのかを
司祭様は私に教えてくださったのでした。
「今、原口のおじさまがあなたを清めして終わったところです。次は
木村のおじさま。あなたはこれからすべてのおじさま、もちろんお父様
からも自分の大事な処を清めてもらわなければなりません。少し時間が
かかるので寒いでしょうが、辛抱してくださいね。これはあなたにとっ
て、とてもとても大事なことですからね、逃げることはできませんよ」
「…………」私は本当はうなづきたくなかったのです。だってそれま
で司祭様を除いては一度もされたことのなかった殿方からのお清め(ア
ルコール消毒)なんですから。『たとえお父様でもそこまではなさらなか
ったのに…』私は思いましたが『今ここで逆らってもどうにもならない』
と悟るしかなかったのです。
司祭様のおっしゃるとおりお清めは長くかかりました。何しろ八人も
の殿方が代わる代わる念入りに私のお股の中を吹き上げていくのですか
ら……
「(いや、いやあ~、やめてえ~、もうしないで、ひりひりする)」
私は右に左に頭を振りながら心の中で叫びます。いえ、幾つかは言葉
になって外へ飛び出てしまったかもしれませんでした。
大陰唇、小陰唇はもちろん膣前庭や尿道口、ヴァギナやクリトリスだ
って例外ではありませんでした。本当はなりふり構わずベッドから飛び
降りて表に飛び出したいくらいの衝撃だったのです。
それを目いっぱいの力で理性が何とか押しとどめていたのでした。
そのうちアルコールの刺激に慣れたのかお父様やおじさまたちの会話
が耳に入ってくるようになります。
「ほう、この子は綺麗な格好をしてますなあ、家の真美はオナニーの
癖があるせいか、こうした襞がすでにぐちゃぐちゃになってますわ。色
素沈着も始まってますから成長が早いみたいですな。そこへいくと天野
さん処はうらやましい。こんな綺麗な形と肌をしたまま少女になれるん
ですから」
「そんなことはありませんよ。この子だってオナニー用のオムツを穿
かせたことだってあります。あれは一度覚えてしまうと、なかなか治り
ませんから親は苦労します」
「ほんとほんと、真美にはここに三回やいとをすえてみましたが、今
だに親の目を盗んでやってるみたいです」
触られた処は膣前庭でした。お父様やおじさまたちは綿棒を使って私
の大事な部分に無遠慮に触れてきます。殿方にとっては何気ない行為や
会話なのかもしれませんが、聞かされてる、触られてる私からすれば顔
から火が出るほど恥ずかしくて両手で顔を覆わずにはいられません。
その意味でもこのお清めは苦行だったのです。
そんな私の両手を司祭様がやさしく離します。
「どんなに恥ずかしくても顔をかくしちゃいけないよ。君はその体の
すべてでお父様やおじさまたちの愛を受け入れなければならない立場に
あるからね。わかっていると思うけど、亀山の赤ちゃんは、何一つ隠す
ことが許されてないんだ。恥ずかしい処も含めてそのすべてを愛しても
らえる人に捧げて暮らしているんだから……それがここでのルール。…
…知ってるよね」
「はい、司祭様」
「明日からはそれも終わる。多くの恥ずかしい出来事からもさよなら
だ。でも、それと同時に明日からは自分で自分の体を管理しなければな
らなくなる。自分で着替え、自分で髪をすき、自分で体を洗い、自分で
お尻を拭く。巷でなら幼稚園の子でもするような当たり前の事を今から
始めることになるんだ。大げさに言うと明日からが君の本当の人生だ」
「間に合うの?」
「もちろんさ。亀山では今までもみんなそうやって大人になってきた
んだからね」
「でも、明日からは、もうお父様は愛してくださらないの?」
「どうして?そんなことあるわけないじゃないか。誰がそんなことを
言ったの?14になっても15になっても恵子ちゃんは僕のお姫様だよ。
いつでも枕を持って私のベッドにおいで、大歓迎だから」
「お父様!」司祭様の声が聞こえたのでしょうか、お父様が私の枕へ
とやってきました。
「13才の赤ちゃんなんて世間じゃ変だろうけど、私に限らずお父様
になる人たちは一日でも長くよい子たちを抱きたいものだから女王様に
お願いしてそういう形にしてもらったんだ。そり代わり、この山を降り
て行く高校だって、その先の短大だって恵子ちゃんたちがいきなり世間
の風に当たって風邪をひかないように万全の体制を敷いてあるからね、
今まで赤ちゃんだったからってこれから先も何も心配いらないんだよ」
「…………」
そうは言われても私は心配でした。とにかく、自分が特殊な育てられ
方をしたんだということだけはこの時わかりました。
「とにかく『恵子ちゃんがお嫁に行くまでは面倒をみます』って私は
女王様には約束したからその約束だけは守るつもりだけど、私はすでに
老人で、ひょっとしたら恵子ちゃんがお嫁に行く前に天に召されるかも
しれない」
「そんなの嫌よ。お父様、どこか悪いの?」
「いや、そうじゃないよ。万が一だ。万が一そうなってもここにいる
八人のおじさまたちが君を守ってくれるはずだ。おじさまたちと女王様
とでそのお約束がすでにできているからね。でもそのためにはおじさま
たちにも君のことをよく知っておいてもらわないといけないから…」
「それでこんなことしてるの?」
「そういうことだ。恵子ちゃんの性格やら学校の成績なんかはすでに
つたえてあるけど、おじさんたちは君の生身の身体は知らないからね…」
「……わたし……もしお父様が亡くなったら公立の施設へ移りたい」
私は重い口を開きました。でも、もちろん答えはノーだったのです。
「それはできないよ。君はここでの生活しか知らないからわからない
だろうけど、ここは子供たちにとっては幸せすぎる場所なんだ。もし、
外で幸せに暮らしたいならその前に色々準備をしないとね。心がすぐに
風邪をひいてしまうんだよ」
「心が風邪?」
「そう、さっき司祭様がおっしゃってただろう。女の子は好きな人の
前で恥をかいて成長するって。あれはね、あくまで恵子ちゃんを好きな
人、本心で愛していくれる人の前でかく恥だから有効なんだ。ここには
君がすべてをさらけ出しても邪念をいだく人が誰一人としていないから
街のどこで裸になっても君の心に傷なんかつかないけど、そんなことは
巷でなんか絶対にできないことなんだ」
「どうして?」
「巷にはね、愛する気もないのに女の子の身体をもて遊ぶだけの輩が
たくさんいるんだよ。そんな人の前で恥をかいたら、女の子は一生心に
傷を受けることになるからね。外に出て暮らすなら、まずその人が本当
に自分を愛してくれる人なのかどうかを見抜く力が必要なんだ」
「ここにはそんな悪い人はいないってこと?」
「悪い人?う~んそれとは少し違うけど、ま、そういうことだ。私も
ここへ来るまではそんな楽園の存在など信じてはいなかったけど、真実
だった。この世に人の手で創れる極楽があるとしたらここだけだろうね」
「そんなにここってすごいの?」
「そう、すべては女王様の才覚と先生方の献身的な努力が支えている
んだよ。だから、あんよを持ってもらってるお二人には感謝しなればね」
「ま、お上手ですね、私はこの街の管理人にすぎませんわ。この街は
天野様はじめお父様方のお力添えなくして一日もうごきませんもの」
女王様は笑顔で振り返りますが、お父様はそれには首を横に振って応
えていられました。
「ただ、ここは楽園だけど、それだけにここでの常識は巷のそれとは
大きくかけ離れている。だからこれから進む高校と短大で、君は実社会
に出るための勉強をたくさんしなければならないんだよ。途中下車なん
て危険なことはできないんだ」
「間に合うの?」
「もちろんさ。そうやって社会に巣立って、成功した人が何人もいて、
その人たちが惜しみない援助してくれるおかげで、今の君たちは豊かな
食事や有り余る玩具や本や衣装、快適な家にだって住めるだよ。もしも、
ここにいた時代が不満だらけだったら、先輩たちだって、たとえ社会に
出て成功しても亀山に援助をしようなんて思わないはずだろう」
「…………」
「ここでの生活は今も昔もほとんど同じ。先輩たちもここにいた頃は
みんなたくさんのお仕置きを受けて、たくさんの恥ずかしい目にあって、
13才の試練だってもちろんみんな経験してここを巣立っているんだ。
彼らだってここにいる時はここの良さなんてわからない。ほかの世界を
知らないからね。でも実社会に出てみると、ここがどんなに凄い処だっ
たかがわかるから、その楽園を守りたくてみんな援助してくるんだよ」
お父様のそんな言葉の直後でした。誰かが私の肛門をいじります。
「(あっ、いや)」
ママでした。
「もうよろしいでしょうか」
お父様に声をかけます。
「あっ、ごめん、ごめん、つい娘との話しに夢中になってしまって…」
「では、最後にお父様に清めていただきますからね」
ママの指示でお父様は私のバックへと回ります。そして……
「じゃあ、いくよ」
お父様は私のお股の中をアルコールを浸した脱脂綿で吹き始めます。
「……………」
その時もおじさまたちの時と同様、声は出さなかったと思いますが、
私の頬はすでにくすぐったさで緩んでいました。
不思議なものです。まったく同じことをされているのに感じ方が全然
違うのですから。人には話せませんが、その時の私はおしゃぶりのいる
赤ちゃんへと、一瞬戻っていたのでした。
でも、その直後でした。
「……!……」
細く尖ったものがお尻を突き刺したのがわかります。
「……(あっ)……」
イチヂク浣腸の先が肛門の中へと入ってきたのです。
そして、『ぐちゅっ』という、あのえもいわれぬ不快感。
後は、次から次へとおじさまたちが私の身体をイチヂクで突き刺して
いきます。
たった10グラム、されど10グラムの重みが積み重なって終わった
時には90グラムのグリセリン溶液が厳重に締めこまれたオムツの中で
踊っています。
これからが地獄です。
私の体はこれからおじさま方の膝の上を転々として回されます。
お一人、約1分。まるでロシアンルーレットのように、怖い運試しで
すが、みなさん全身に鳥肌を立てて震える私を抱くとなぜかとても喜ん
でおいででした。
8分後、みなさんを一周して最初に抱いていただいた原口さんの膝へ
戻って来ると……
「恵子ちゃん、もうどこでお漏らししてもいいからね」
「好きなおじさまがいたらそこで漏らすといいよ」
「そうそう。その人がオムツを換えてくれるからね」
あちこちからかおじさまたちの声がかかります。
でも、その時の私はたとえ好きな人がいたとしてもその人を選んでお
漏らしするなんて器用なことはできませんでした。とにかくお尻に集中
してほかの事なんて考えられません。ほんのちょっとでも気を許したら
恥ずかしいものが一気にオムツの中へ流れ込むことは間違いありません
でした。
もちろん、このゲームに終わりがないこと、どんなに必死に頑張って
みてもいつかは恥をかかなければならないのはわかっています。でも、
それでも…もう、本能的にお尻に力を入れてしまうのでした。
三週目、私は原口おじさまのお膝で力尽きます。それはおじさまが…
「私でいいかい?」
と尋ねられた時に無意識にうなづいた結果でした。
すると、おじさまは私のオムツの中に手を入れて下腹をさすってくだ
さったのです。
「いやあ~~~」
私は思わず絶叫します。でも、その先はもうどうにもならないことで
した。
§6
§6
私は絶望と安堵感と虚無感が入り混じる不思議な気持ちの中でお臍の
下の汚れを原口のおじさまの手にゆだねます。それは同時にお父様の身
に万が一の事が起こった時に、後見人代表として原口のおじさまを私が
選んだということにもなるのでした。
もちろん、事実は原口のおじさまが私の難儀を見かねて名乗り出てく
ださったわけですが、そんなことはこの時はどうでもよかったのです。
「(終わったあ~~~~)」
大勢の大人たちの前で素っ裸で、しかもうんちまみれの体を晒して、
でも思うことはただそれだけだったのです。
私は女王様とママそれに原口のおじさまに連れられてお風呂場へ向か
います。そこで汚れた下半身を綺麗に洗うためです。
私をシャワーのある場所に立たせると、ママと女王様が代わる代わる
私のお股にの中に手を入れてはその指の腹で私の汚れた部分を取り除き
ます。
最後は原口のおじさまの手が入ってきましたが、両手を万歳したまま
で立っていなければならず、もちろん悲鳴を上げることなどできません
でした。
おじさまはバックから手を入れて後ろの穴だけでなく前の小さな突起
にまで触れてきます。私はそのたび腰が砕けて中腰になりましたが……
「だめよ、しっかり立ってなきゃ。これからあなたの後見人になって
いただく方なのよ。このくらいのことも耐えられないのかって笑われる
わよ」
「もう少しで終わるから、我慢してなさい。あなたのようにそう何度
も何度も腰をひいたら失礼よ」
ママや女王様にそんな事を言われながら何度も襲い来る蜂に私はただ
ただ耐えるしかありませんでした。
やがて長いお風呂の時間が終わって、私には体操着が与えられます。
私はてっきり試練は終わったものだと思い込んでしまいましたが……
体操着姿で七人のおじさまやお父様が待つ会場へ戻るとそこにおばば様
がいらしたのでビックリ。もう、その場で気絶したい心境だったのです。
「おう、戻ったか。原口先生からは可愛がってもらったか?これから
お世話になる方じゃからな、粗相があってはならんよ」
おばば様は子供たちがお灸のお仕置きを受ける時は必ず現れます。幼
い子にとってはまさに疫病神。私も道端でおばば様を見つけると思わず
物陰に身を隠してしまうほどでした。
そんな私もすでに13才。慣れもあり身体も大きくなった今では発狂
するほどの悲鳴は上げずにすむようになっていましたが、それがほかの
お仕置きに比べても恐ろしい儀式であることに変わりはありませんでし
た。
日本庭園の見える和室に舞台を移し、ほかのおじさまたちが床の間を
背にしてお茶を楽しむなか、私は縁側で正座したママのお膝にお臍をつ
けてうつ伏せに……
ちょうどお尻だけが一段高くなった姿勢で女王様からブルマーとショ
ーツを一緒に引き下ろされてしまいます。
「(いやあ!)」
一瞬にして私の顔が真っ赤になるのがわかります。不思議なことです
がそれはとても恥ずかしくて、むしろ今までやられていたお浣腸の方が
まだましなくらいでした。
ここでもアルコールによる消毒は欠かせません。
ほんの一瞬、お尻の皮膚が熱を奪われるだけのことなのに、それだけ
で全身の毛穴が開き、産毛が逆立ち、鳥肌がたち、頭のてっぺんまで電
気が走ります。
そうしておいて、おばば様はやおらもぐさをお尻のお山の定位置に乗
せると、事前に呼び寄せていたおじさま二人にお線香を握らせて艾に火
をつけさせるのでした。
ところが、そのお灸の熱いこと。今までもお仕置きで数回経験してい
ましたがこれはやはり特別だったのです。
「(ひぃ~~~)」
もう少しで歯が折れるか、悲鳴をあげるところでした。
「どうじゃ、少しは応えたか。最後じゃからな、ようく思い出に残る
ようにしてやるからな」
おばば様の意地悪そうな声が耳元に木霊します。
逃げ出せるものならこのまま逃げ出したいくらいでした。
「よしよし、よう逃げださんじゃったな」
私の気持ちを見透かしたようにおばば様は頭を撫でます。もちろん、
すえられるお灸はまだこれからたくさん残っています。でも私は思わず
たった二つのお灸で涙を流してしまったのでした。
今度は仰向けにされてお臍の下に三つ。ここはその後うっそうとした
茂みで覆われますから、灸痕と呼ばれる火傷の痕も隠れます。そのため
でしょうか、どの子も他の箇所より大きなお灸をすえられていました。
ただそれにしても……
「えっ!」
私はママのお膝に頭を乗せてもらっていますからその様子が自分の目
で確かめられるのですが、乗せられた艾は普段の倍はありそうに大きな
ものだったのです。
「(そんなのいやよ!)」
今さら逃げ出す勇気もない私はせめてもの腰を振ってみます。
すると、おばば様が……
「どうした?怖いか?」不敵な笑いを浮かべて「体も大きゅうなった
んじゃからいつまでも鑿のウンチみたいなもんじゃ、いつ終わったかも
わからんじゃろう。どのみちここを出て高校へ行ったらもっと大きな物
をすえてもらうことになるから今日はその予行演習じゃ」
口の悪いおばば様はいつも人の嫌がることを言って子供を脅かします。
でも、高校に進学してまでお灸のお仕置きがあるなんて私はこの時初め
て知ったのでした。
「さあ、恵子ちゃん、火をつけるからね、我慢してね」
遠藤のおじさまが仰向けになった私のすぐ傍らに座ります。
頭を撫でられると私はお約束の言葉を言わなければなりませんでした。
「お願いします、おじさま」
こうして物凄く熱い、というかお灸の場合は錐で揉まれるような痛み
なんですが、それを我慢すると、次は……
「ありがとうございました」
こういうご挨拶をしなければならなかったのです。お仕置きは愛情の
一部だから子供がお礼を言うのは当たり前という理屈でした。
実際、亀山のお仕置きでは年齢や体格、体調などを考慮して先生方が
細かく手加減をしますから、泣きわめいたり暴れまわったりしてご挨拶
もできないなんてほど過酷なものは存在しませんでした。
次は木村のおじさまが、三つ目は牧田のおじさまが担当です。
頭を撫でてもらい優しく微笑んでから火がつきます。もちろんご挨拶
もちゃんとしました。
両手をママと女王様に押さえられ寝ながらバンザイをするような姿勢
で私は火の山が次第に下へ沈んでいくのを見つめます。
「いぃ~~~ひぃぃぃ」
歯を食いしばってがんばりますが、その熱さは気絶しそうでした。
最後は、なるべく火傷の痕が広がらないように、おばば様が指の腹で
小さなたき火を消してくれます。そして、それが終わるとご挨拶……
ま、こんな姿のまま「ありがとうございます」なんてのも変でしょう
けど…でも、これが亀山のしきたりだったんです。
「よくがんばった。えらいよ。えらい、えらい」
「よい子だったねえ。もうすぐお姉ちゃまだもんな」
お二人はお灸が終わってからも、口々に私を励まし、私の頭を撫でて
くださいます。
『そんなに小さな子でもあるまいに、今さら13の子がそんな事され
ても嬉しくないだろう』
と思われるかもしれませんが、亀山で暮らす子供たちは13になって
も赤ちゃんは赤ちゃん。亀山という無菌室の中で大人たちによって無垢
で純真に育てられましたから、褒められればその顔はほとんど反射的に
笑顔に変わるのでした。
「木村のおじさま、牧田のおじさま、ありがとうございました」
私が胸の前で手を組んでご挨拶するとお二人共とても穏やかな笑顔を
返してくださいます。
「頑張るんだよ、自由はもうすぐそこにあるからね」
木村のおじさまがおっしゃいます。実際、14という歳は私が初めて
自由を手にできる歳となるのでした。
ただ、そのためにはまだまだ試練が残っていたのです。
「(あっ!)」
女王様の手でそれまでは太股に止まっていたブルーマーとショーツが
一気に剥ぎ取られます。そして、高々と両足が持ち上げられるとそれが
頭の上を通過して両耳の脇へと着地したのでした。
「…………」
ま、その姿を想像してみてください。巷で育った子なら絶叫している
んじゃないでしょうか。でも、亀山育ちの私にとってこのポーズはそれ
ほど凄いことではありませんでした。
亀山の子供たちは、お仕置きで、あるいは健康診断と称して、少なく
とも月に一回は大人たちの前でこの姿勢をとらされるのです。ごく幼い
頃からママやお父様、学校の先生や司祭様、色んな大人たちに女の子と
しての自分をさらけ出していましたから、最近恥ずかしく感じるように
なったといっても、ことさら「恥ずかしいことしないで!」なんて騒ぐ
こともなかったのです。
ちなみに、亀山の子は赤ちゃんでいる間はトイレへ行ってもウンチを
流せませんし、お尻を自分で拭くこともできません。お風呂へ行っても
服を脱がすのも、体を洗うのも、再び服を着せるのもすべて自分たちで
勝手にやってはいけなかったのです。そんな中唯一許されていたのは、
メンスの処理だけ。これだけが女を自覚できる貴重な体験だったのです。
ところが、当時の私はまだ子供で、この時期になると周囲の大人たちが
よそよそしく自分を避けるように思えて不満だったのです。
私は、どんな時も大人たちから抱かれたい。いい子いい子して欲しい
と願っていたのです。もちろん抱かれていれば大人たちは私の微妙な処
へも手を伸ばしますし、ぐずればママからのお仕置きの危険もはらんで
います。でも、大人たちに囲まれて抱かれている時の方が、独りでいる
より数段楽しいのです。
天使として大人たちの懐に抱かれ、妖精としてお庭を跳ね回っていた
私たちの義務は大人を疑わないこと、恥ずかしがらないことです。
ですから……
「お股のなかを見せてね」
大人たちはたった一言断れば私たちのお股の中を何度でも心ゆくまで
見ることができたのです。
というわけで、こんなあられのない姿でいてもそれが苦痛という事は
ありませんでした。ただ、体を海老のように曲げられ大きくお股を広げ
られて、それを固定するためママや女王様に体を押さえつけられている
のは苦痛ですし、やはりそこは女の子にとっては感じやすい処ですから
おばば様に艾を置かれると緊張します。
「それではいくよ」
「我慢するんだよ」
ここの担当はお父様と原口のおじさまです。お二人は何だか申し訳な
いようにお線香の火を大陰唇に乗せられた艾に移します。
ここはお父様と後見人になった原口のおじさま以外、担当することは
ありませんでした。
「ひぃ~~~~~」
火が回ると全身に震えがきます。そのくせ顔だけが真っ赤に火照って
熱いのです。まるで一瞬だけ自分がお尻から脳天めがけて槍で串刺しに
あったような、そんなショックでした。
ただここで使う艾は本当に小さいものですから燃え尽きるまでほんの
一瞬の出来事。特別な処にすえられているから特別熱いということでも
ないのです。あくまで、熱くて痛くて大変だったのはお尻のお山にすえ
られるお灸。ここには大きなサイズの艾が置かれます。しかも二回目と
なると先ほどの傷も癒えていませんから痛みは倍化します。
「(いやあ~~~ゆるしてえ~~~)」
私はあまりのことに必死になってママと女王様のくびきから逃れよう
としました。しかも無意識のうちにお漏らしまで……
でも、そのことに誰も大騒ぎしませんでした。そんな私の粗相を片付
けながらおばば様が諭します。
「いいか、この灸痕はお前の誇りじゃ。恥ずかしがることじゃないぞ。
寄る辺なき身の上のお前らが何かに困った時、助けてくれる人もお前と
同じ灸痕をもっとるはずじゃからな。無傷でここを巣立ったら先輩たち
は誰もお前を助けんよ。ほら、もう少しじゃ」
おばば様はゆっくりと噛んで含むように私に話しかけました。残念な
がらここにいる間はされは理解できませんでしたが、結果はおばば様の
言う通りでした。お尻のやけどは一般の人には不幸な傷にしか見えない
でしょうが、私たち亀山の出身者にとってはその傷があるから寄り添え
るのです。その子を仲間として迎え入れることができるのです。
お尻の灸痕は単にそこを出てきたというだけでなくそこで自分たちと
同じ苦労をしてきた証としての大事な身分証だったのです。
結局、私はお尻とお臍の下とお股の中に計7箇所、三回ずつお灸をす
えられました。おかげでお風呂に入ると今でもはっはりそれとわかる傷
が残っていますが、それを恥ずかしいと思ったことはありません。
それが私たち亀山の紋章なのですから。
ちなみにその灸痕は、おばば様があみ出した技法によって独特の文様
になっていますから、よくよく見れば誰でも一般の人のものとは違うと
わかるようになっていました。
試練が終わった時、私は放心状態でした。かつてのお仕置きでもトリ
プルといってお尻たたきとお浣腸とお灸を一緒に受けたことはあります。
でも、こんな疲れたことはありませんでした。
綿のように疲れた身体をおじさま方が代わる代わる抱いていくのがわ
かります。お人形のように抱かれるその瞬間はお愛想笑いさえできませ
んでした。でもその反面、ガラガラやでんでん太鼓を目の前で振っても
らうと、これまた不思議なくらい自然に笑えるのです。
13才ともなればどんなに情報に乏しく育っても自分が女性であると
いう自覚が芽生えます。プライドや傲慢さが二つ合せになって身につき
ます。もう帰れない道ですが、この瞬間だけは純粋に人を信じその人の
腕の中で安らぐことができたような気がしました。普段ならちょっぴり
遠慮していまうおじさままでもがこの時ばかりは王子様だったのです。
「普通親は良きにつけ悪しきにつけ傍目にはばかばかしいことを子供
にしてやる。それがあるから子は親を特別の存在として認識するのじゃ。
お前はててなし児じゃからな、親に戯れることができぬ。しかし、こう
いう形でなら『自分にも特別な存在の人がいる』と認識できるはずじゃ。
お仕置きは人の心を傷つけるなどと、ろくに人を愛したこともない馬鹿
学者どもがのたまわっておるがな、そもそも心に傷を受けずして人生を
まとっとうできる者などおらんよ。……そう、ここではわざと子供の心
に傷をつけておるんじゃ。しかし誰もがその子を愛しておれば誤った道
には進まんし、こんな他人同士でも絆は深まる。こんなことは有史以来
の人の道じゃて、それを否定するとは愚かなことよ」
この日、おばば様は珍しく雄弁でした。
私は絶望と安堵感と虚無感が入り混じる不思議な気持ちの中でお臍の
下の汚れを原口のおじさまの手にゆだねます。それは同時にお父様の身
に万が一の事が起こった時に、後見人代表として原口のおじさまを私が
選んだということにもなるのでした。
もちろん、事実は原口のおじさまが私の難儀を見かねて名乗り出てく
ださったわけですが、そんなことはこの時はどうでもよかったのです。
「(終わったあ~~~~)」
大勢の大人たちの前で素っ裸で、しかもうんちまみれの体を晒して、
でも思うことはただそれだけだったのです。
私は女王様とママそれに原口のおじさまに連れられてお風呂場へ向か
います。そこで汚れた下半身を綺麗に洗うためです。
私をシャワーのある場所に立たせると、ママと女王様が代わる代わる
私のお股にの中に手を入れてはその指の腹で私の汚れた部分を取り除き
ます。
最後は原口のおじさまの手が入ってきましたが、両手を万歳したまま
で立っていなければならず、もちろん悲鳴を上げることなどできません
でした。
おじさまはバックから手を入れて後ろの穴だけでなく前の小さな突起
にまで触れてきます。私はそのたび腰が砕けて中腰になりましたが……
「だめよ、しっかり立ってなきゃ。これからあなたの後見人になって
いただく方なのよ。このくらいのことも耐えられないのかって笑われる
わよ」
「もう少しで終わるから、我慢してなさい。あなたのようにそう何度
も何度も腰をひいたら失礼よ」
ママや女王様にそんな事を言われながら何度も襲い来る蜂に私はただ
ただ耐えるしかありませんでした。
やがて長いお風呂の時間が終わって、私には体操着が与えられます。
私はてっきり試練は終わったものだと思い込んでしまいましたが……
体操着姿で七人のおじさまやお父様が待つ会場へ戻るとそこにおばば様
がいらしたのでビックリ。もう、その場で気絶したい心境だったのです。
「おう、戻ったか。原口先生からは可愛がってもらったか?これから
お世話になる方じゃからな、粗相があってはならんよ」
おばば様は子供たちがお灸のお仕置きを受ける時は必ず現れます。幼
い子にとってはまさに疫病神。私も道端でおばば様を見つけると思わず
物陰に身を隠してしまうほどでした。
そんな私もすでに13才。慣れもあり身体も大きくなった今では発狂
するほどの悲鳴は上げずにすむようになっていましたが、それがほかの
お仕置きに比べても恐ろしい儀式であることに変わりはありませんでし
た。
日本庭園の見える和室に舞台を移し、ほかのおじさまたちが床の間を
背にしてお茶を楽しむなか、私は縁側で正座したママのお膝にお臍をつ
けてうつ伏せに……
ちょうどお尻だけが一段高くなった姿勢で女王様からブルマーとショ
ーツを一緒に引き下ろされてしまいます。
「(いやあ!)」
一瞬にして私の顔が真っ赤になるのがわかります。不思議なことです
がそれはとても恥ずかしくて、むしろ今までやられていたお浣腸の方が
まだましなくらいでした。
ここでもアルコールによる消毒は欠かせません。
ほんの一瞬、お尻の皮膚が熱を奪われるだけのことなのに、それだけ
で全身の毛穴が開き、産毛が逆立ち、鳥肌がたち、頭のてっぺんまで電
気が走ります。
そうしておいて、おばば様はやおらもぐさをお尻のお山の定位置に乗
せると、事前に呼び寄せていたおじさま二人にお線香を握らせて艾に火
をつけさせるのでした。
ところが、そのお灸の熱いこと。今までもお仕置きで数回経験してい
ましたがこれはやはり特別だったのです。
「(ひぃ~~~)」
もう少しで歯が折れるか、悲鳴をあげるところでした。
「どうじゃ、少しは応えたか。最後じゃからな、ようく思い出に残る
ようにしてやるからな」
おばば様の意地悪そうな声が耳元に木霊します。
逃げ出せるものならこのまま逃げ出したいくらいでした。
「よしよし、よう逃げださんじゃったな」
私の気持ちを見透かしたようにおばば様は頭を撫でます。もちろん、
すえられるお灸はまだこれからたくさん残っています。でも私は思わず
たった二つのお灸で涙を流してしまったのでした。
今度は仰向けにされてお臍の下に三つ。ここはその後うっそうとした
茂みで覆われますから、灸痕と呼ばれる火傷の痕も隠れます。そのため
でしょうか、どの子も他の箇所より大きなお灸をすえられていました。
ただそれにしても……
「えっ!」
私はママのお膝に頭を乗せてもらっていますからその様子が自分の目
で確かめられるのですが、乗せられた艾は普段の倍はありそうに大きな
ものだったのです。
「(そんなのいやよ!)」
今さら逃げ出す勇気もない私はせめてもの腰を振ってみます。
すると、おばば様が……
「どうした?怖いか?」不敵な笑いを浮かべて「体も大きゅうなった
んじゃからいつまでも鑿のウンチみたいなもんじゃ、いつ終わったかも
わからんじゃろう。どのみちここを出て高校へ行ったらもっと大きな物
をすえてもらうことになるから今日はその予行演習じゃ」
口の悪いおばば様はいつも人の嫌がることを言って子供を脅かします。
でも、高校に進学してまでお灸のお仕置きがあるなんて私はこの時初め
て知ったのでした。
「さあ、恵子ちゃん、火をつけるからね、我慢してね」
遠藤のおじさまが仰向けになった私のすぐ傍らに座ります。
頭を撫でられると私はお約束の言葉を言わなければなりませんでした。
「お願いします、おじさま」
こうして物凄く熱い、というかお灸の場合は錐で揉まれるような痛み
なんですが、それを我慢すると、次は……
「ありがとうございました」
こういうご挨拶をしなければならなかったのです。お仕置きは愛情の
一部だから子供がお礼を言うのは当たり前という理屈でした。
実際、亀山のお仕置きでは年齢や体格、体調などを考慮して先生方が
細かく手加減をしますから、泣きわめいたり暴れまわったりしてご挨拶
もできないなんてほど過酷なものは存在しませんでした。
次は木村のおじさまが、三つ目は牧田のおじさまが担当です。
頭を撫でてもらい優しく微笑んでから火がつきます。もちろんご挨拶
もちゃんとしました。
両手をママと女王様に押さえられ寝ながらバンザイをするような姿勢
で私は火の山が次第に下へ沈んでいくのを見つめます。
「いぃ~~~ひぃぃぃ」
歯を食いしばってがんばりますが、その熱さは気絶しそうでした。
最後は、なるべく火傷の痕が広がらないように、おばば様が指の腹で
小さなたき火を消してくれます。そして、それが終わるとご挨拶……
ま、こんな姿のまま「ありがとうございます」なんてのも変でしょう
けど…でも、これが亀山のしきたりだったんです。
「よくがんばった。えらいよ。えらい、えらい」
「よい子だったねえ。もうすぐお姉ちゃまだもんな」
お二人はお灸が終わってからも、口々に私を励まし、私の頭を撫でて
くださいます。
『そんなに小さな子でもあるまいに、今さら13の子がそんな事され
ても嬉しくないだろう』
と思われるかもしれませんが、亀山で暮らす子供たちは13になって
も赤ちゃんは赤ちゃん。亀山という無菌室の中で大人たちによって無垢
で純真に育てられましたから、褒められればその顔はほとんど反射的に
笑顔に変わるのでした。
「木村のおじさま、牧田のおじさま、ありがとうございました」
私が胸の前で手を組んでご挨拶するとお二人共とても穏やかな笑顔を
返してくださいます。
「頑張るんだよ、自由はもうすぐそこにあるからね」
木村のおじさまがおっしゃいます。実際、14という歳は私が初めて
自由を手にできる歳となるのでした。
ただ、そのためにはまだまだ試練が残っていたのです。
「(あっ!)」
女王様の手でそれまでは太股に止まっていたブルーマーとショーツが
一気に剥ぎ取られます。そして、高々と両足が持ち上げられるとそれが
頭の上を通過して両耳の脇へと着地したのでした。
「…………」
ま、その姿を想像してみてください。巷で育った子なら絶叫している
んじゃないでしょうか。でも、亀山育ちの私にとってこのポーズはそれ
ほど凄いことではありませんでした。
亀山の子供たちは、お仕置きで、あるいは健康診断と称して、少なく
とも月に一回は大人たちの前でこの姿勢をとらされるのです。ごく幼い
頃からママやお父様、学校の先生や司祭様、色んな大人たちに女の子と
しての自分をさらけ出していましたから、最近恥ずかしく感じるように
なったといっても、ことさら「恥ずかしいことしないで!」なんて騒ぐ
こともなかったのです。
ちなみに、亀山の子は赤ちゃんでいる間はトイレへ行ってもウンチを
流せませんし、お尻を自分で拭くこともできません。お風呂へ行っても
服を脱がすのも、体を洗うのも、再び服を着せるのもすべて自分たちで
勝手にやってはいけなかったのです。そんな中唯一許されていたのは、
メンスの処理だけ。これだけが女を自覚できる貴重な体験だったのです。
ところが、当時の私はまだ子供で、この時期になると周囲の大人たちが
よそよそしく自分を避けるように思えて不満だったのです。
私は、どんな時も大人たちから抱かれたい。いい子いい子して欲しい
と願っていたのです。もちろん抱かれていれば大人たちは私の微妙な処
へも手を伸ばしますし、ぐずればママからのお仕置きの危険もはらんで
います。でも、大人たちに囲まれて抱かれている時の方が、独りでいる
より数段楽しいのです。
天使として大人たちの懐に抱かれ、妖精としてお庭を跳ね回っていた
私たちの義務は大人を疑わないこと、恥ずかしがらないことです。
ですから……
「お股のなかを見せてね」
大人たちはたった一言断れば私たちのお股の中を何度でも心ゆくまで
見ることができたのです。
というわけで、こんなあられのない姿でいてもそれが苦痛という事は
ありませんでした。ただ、体を海老のように曲げられ大きくお股を広げ
られて、それを固定するためママや女王様に体を押さえつけられている
のは苦痛ですし、やはりそこは女の子にとっては感じやすい処ですから
おばば様に艾を置かれると緊張します。
「それではいくよ」
「我慢するんだよ」
ここの担当はお父様と原口のおじさまです。お二人は何だか申し訳な
いようにお線香の火を大陰唇に乗せられた艾に移します。
ここはお父様と後見人になった原口のおじさま以外、担当することは
ありませんでした。
「ひぃ~~~~~」
火が回ると全身に震えがきます。そのくせ顔だけが真っ赤に火照って
熱いのです。まるで一瞬だけ自分がお尻から脳天めがけて槍で串刺しに
あったような、そんなショックでした。
ただここで使う艾は本当に小さいものですから燃え尽きるまでほんの
一瞬の出来事。特別な処にすえられているから特別熱いということでも
ないのです。あくまで、熱くて痛くて大変だったのはお尻のお山にすえ
られるお灸。ここには大きなサイズの艾が置かれます。しかも二回目と
なると先ほどの傷も癒えていませんから痛みは倍化します。
「(いやあ~~~ゆるしてえ~~~)」
私はあまりのことに必死になってママと女王様のくびきから逃れよう
としました。しかも無意識のうちにお漏らしまで……
でも、そのことに誰も大騒ぎしませんでした。そんな私の粗相を片付
けながらおばば様が諭します。
「いいか、この灸痕はお前の誇りじゃ。恥ずかしがることじゃないぞ。
寄る辺なき身の上のお前らが何かに困った時、助けてくれる人もお前と
同じ灸痕をもっとるはずじゃからな。無傷でここを巣立ったら先輩たち
は誰もお前を助けんよ。ほら、もう少しじゃ」
おばば様はゆっくりと噛んで含むように私に話しかけました。残念な
がらここにいる間はされは理解できませんでしたが、結果はおばば様の
言う通りでした。お尻のやけどは一般の人には不幸な傷にしか見えない
でしょうが、私たち亀山の出身者にとってはその傷があるから寄り添え
るのです。その子を仲間として迎え入れることができるのです。
お尻の灸痕は単にそこを出てきたというだけでなくそこで自分たちと
同じ苦労をしてきた証としての大事な身分証だったのです。
結局、私はお尻とお臍の下とお股の中に計7箇所、三回ずつお灸をす
えられました。おかげでお風呂に入ると今でもはっはりそれとわかる傷
が残っていますが、それを恥ずかしいと思ったことはありません。
それが私たち亀山の紋章なのですから。
ちなみにその灸痕は、おばば様があみ出した技法によって独特の文様
になっていますから、よくよく見れば誰でも一般の人のものとは違うと
わかるようになっていました。
試練が終わった時、私は放心状態でした。かつてのお仕置きでもトリ
プルといってお尻たたきとお浣腸とお灸を一緒に受けたことはあります。
でも、こんな疲れたことはありませんでした。
綿のように疲れた身体をおじさま方が代わる代わる抱いていくのがわ
かります。お人形のように抱かれるその瞬間はお愛想笑いさえできませ
んでした。でもその反面、ガラガラやでんでん太鼓を目の前で振っても
らうと、これまた不思議なくらい自然に笑えるのです。
13才ともなればどんなに情報に乏しく育っても自分が女性であると
いう自覚が芽生えます。プライドや傲慢さが二つ合せになって身につき
ます。もう帰れない道ですが、この瞬間だけは純粋に人を信じその人の
腕の中で安らぐことができたような気がしました。普段ならちょっぴり
遠慮していまうおじさままでもがこの時ばかりは王子様だったのです。
「普通親は良きにつけ悪しきにつけ傍目にはばかばかしいことを子供
にしてやる。それがあるから子は親を特別の存在として認識するのじゃ。
お前はててなし児じゃからな、親に戯れることができぬ。しかし、こう
いう形でなら『自分にも特別な存在の人がいる』と認識できるはずじゃ。
お仕置きは人の心を傷つけるなどと、ろくに人を愛したこともない馬鹿
学者どもがのたまわっておるがな、そもそも心に傷を受けずして人生を
まとっとうできる者などおらんよ。……そう、ここではわざと子供の心
に傷をつけておるんじゃ。しかし誰もがその子を愛しておれば誤った道
には進まんし、こんな他人同士でも絆は深まる。こんなことは有史以来
の人の道じゃて、それを否定するとは愚かなことよ」
この日、おばば様は珍しく雄弁でした。
< 序 >
< 序 > ~続・亀山からの手紙~
その楽園(ヘブン)が私にもたらしてくれたものは、知識でも
お金でもましてや名声や権力などではありませんでした。
一言で言ってしまえば『心の平安』たったそれだけのこと。
でも、それが何より大事なんだと、私もお父様の歳に近づいて
思います。
たしかに、お父様に幼い子に対する性的な快楽を求める気持が
まったくなかったと言ったら嘘になりましょう。しかし、それは
極めて希薄な、とるに足らないほどのリビドーであって、現に、
私たちは多くの場面でお父様の前で裸になり、幾晩も裸でベッド
をともにしましたが、そこで耐え難い苦痛を受けたなどと言う事
は一度もありません。
お父様、お義母様の手はお年寄りですからその手もしわがれて
いて、ガサガサと幼い肌を手荒く刺激します。すべすべのママの
手に比べれば心持ちがよいはずありません。
しかし、その豊富な知識と経験に基づくホラ話を聞きながら、
その手に触れられていると不思議と勇気が湧いてきます。ここに
いれば大丈夫なんだという気持になります。
それは言葉にできないまか不思議なパワーでした。
そのパワーが体の隅々まで行き渡るように、ママはお父様への
絶対服従を仕付けたのです。私たちはお父様のお人形であり空の
器なのです。お父様たちは若いエキスを求めてここへ来られたの
でしょうが、私たちもまた功なり名を遂げた方の不思議なオーラ
を全身に浴び、心を癒されて成長していったのでした。
絶対服従というと屈辱的な人間関係のように思う人がいるかも
しれませんが、そもそも赤ん坊は母親の絶対服従の中で暮らして
いますが何の不幸もないでしょう。
それは母親がその子を愛しているからです。
幼い子も同じで、知識も経験もとるに足らない幼子がいきなり
名船長になるはずがありません。最初は親の愛の船に乗り込んで
色んな知識や経験を無条件で受け入れて航海術を身につけるべき
でしょう。
13歳まで赤ちゃんというと、多くの人が無理のある考えだと
思うようですが、私は、おかげで孤児にもかかわらず亀山という
ふる里と天野茂という偉大な先達から生きるノウハウを得ること
ができました。
亀山では赤ちゃんである13歳まではお父様に限らず、どんな
大人たちにも絶対服従です。そして基礎的なことに絞って教育を
受けるのです。
漢字の読み書きと簡単な計算。綺麗な字が書けて……古典詩を
諳んじて……あとは楽器が弾けて、ちゃんとしたご挨拶ができれ
ばそれでいいのです。少ない教材を繰り返し繰り返しやるので、
子供たちに人気はありませんが、それでも間違っても偏差値を上
げるための教育というのはしません。
ですが、それで不足はありませんでした。知識は、14歳から
でも十分間に合いますが、生き方というものは幼い頃身につけた
ものを生涯ずっと背負い続けることになりますから。『三つ子の
魂百でも…』というわけです。
亀山から多くの成功者が出ているのは、血は繋がっていなくて
も一度成功した人の身につけたものを受け継ぐことができたから
だと思うのです。
その楽園(ヘブン)が私にもたらしてくれたものは、知識でも
お金でもましてや名声や権力などではありませんでした。
一言で言ってしまえば『心の平安』たったそれだけのこと。
でも、それが何より大事なんだと、私もお父様の歳に近づいて
思います。
たしかに、お父様に幼い子に対する性的な快楽を求める気持が
まったくなかったと言ったら嘘になりましょう。しかし、それは
極めて希薄な、とるに足らないほどのリビドーであって、現に、
私たちは多くの場面でお父様の前で裸になり、幾晩も裸でベッド
をともにしましたが、そこで耐え難い苦痛を受けたなどと言う事
は一度もありません。
お父様、お義母様の手はお年寄りですからその手もしわがれて
いて、ガサガサと幼い肌を手荒く刺激します。すべすべのママの
手に比べれば心持ちがよいはずありません。
しかし、その豊富な知識と経験に基づくホラ話を聞きながら、
その手に触れられていると不思議と勇気が湧いてきます。ここに
いれば大丈夫なんだという気持になります。
それは言葉にできないまか不思議なパワーでした。
そのパワーが体の隅々まで行き渡るように、ママはお父様への
絶対服従を仕付けたのです。私たちはお父様のお人形であり空の
器なのです。お父様たちは若いエキスを求めてここへ来られたの
でしょうが、私たちもまた功なり名を遂げた方の不思議なオーラ
を全身に浴び、心を癒されて成長していったのでした。
絶対服従というと屈辱的な人間関係のように思う人がいるかも
しれませんが、そもそも赤ん坊は母親の絶対服従の中で暮らして
いますが何の不幸もないでしょう。
それは母親がその子を愛しているからです。
幼い子も同じで、知識も経験もとるに足らない幼子がいきなり
名船長になるはずがありません。最初は親の愛の船に乗り込んで
色んな知識や経験を無条件で受け入れて航海術を身につけるべき
でしょう。
13歳まで赤ちゃんというと、多くの人が無理のある考えだと
思うようですが、私は、おかげで孤児にもかかわらず亀山という
ふる里と天野茂という偉大な先達から生きるノウハウを得ること
ができました。
亀山では赤ちゃんである13歳まではお父様に限らず、どんな
大人たちにも絶対服従です。そして基礎的なことに絞って教育を
受けるのです。
漢字の読み書きと簡単な計算。綺麗な字が書けて……古典詩を
諳んじて……あとは楽器が弾けて、ちゃんとしたご挨拶ができれ
ばそれでいいのです。少ない教材を繰り返し繰り返しやるので、
子供たちに人気はありませんが、それでも間違っても偏差値を上
げるための教育というのはしません。
ですが、それで不足はありませんでした。知識は、14歳から
でも十分間に合いますが、生き方というものは幼い頃身につけた
ものを生涯ずっと背負い続けることになりますから。『三つ子の
魂百でも…』というわけです。
亀山から多くの成功者が出ているのは、血は繋がっていなくて
も一度成功した人の身につけたものを受け継ぐことができたから
だと思うのです。
第 1 話 ①
< 第 1 話 > ①
私は紀尾井倶楽部へ久しぶりに入った。ゴシック様式のご大層な造り、
亀山を出て成功した人たちのサロンだ。私も亀山出身ということで会員
にはしてもらっているが出世はできなかったので肩身が狭くて頻繁に出
入りしているという訳ではなかった。
今回も半年ぶりに男女の裸身を象ったギリシャ彫刻の下をくぐる。
広い円形の玄関ホールにはすでに受付が用意されていた。
近づくと、
「こんにちわ、ご出席ありがとうございます」
まだ中学生とおぼしき女の子が二人立ち上がってお辞儀をしてくれる。
おそらくアルバイトでかり出されたのだろう。亀山はこんな催しに子供
達を貸し出してはしっかりアルバイト料をせしめるのだ。
ま、私だって亀山にいた頃はそうやって稼がしてもらったのだから、
これには文句は言えない。
「これっ」
私はまず10万円の入った小切手入りの封筒を手渡した。これは今回
修道院を改築するための寄付。今日はそれが目的のパーティなのだ。こ
んなのが年に2回くらいあってこっちはそのたびに寄付金を迫られる。
ちなみに10万円は一口だから最低水準。出せる人はその十倍も百倍
も包むのだが私はこれしかできない。弁護士といえば聞こえは良いが、
少額の債権取立てなどでやって細々と生計をやりくりしている身だから
10万円が出せる限界だったのである。
二人の少女から恭しく赤い薔薇を胸に飾ってもらって宴会場に入ると
そこは立食パーティだった。
いずれも和気藹々。さながら年始の賀詞交換会といった趣だ。いや、
女性が多いのでその分いっそう華やかではある。そしてここには亀山の
OBOGだけでなく現役のお父様や先生方の顔もあった。亀山を離れて
長いので中に知らない人もいるが多くが見知った顔ばかりだ。
「おう、健太、元気じゃったか」
中で顔も手もしわくちゃの婆さまが襲いかからんばかりんやって来て
私の両肩につかまる。
「お前、良子ちゃんにちゃんとご飯を食べさせてもろうとるか」
こうきかれてこちらは苦笑するしかなかった。
「大丈夫ですよ。おばば様、今ではちゃん自分で稼いでますから…」
おばば様は俺が司法試験で苦労している頃までを覚えていてその時分
同棲していた同じ亀山出の今の奥さんから散々いびられていたのを心配
して今でもこう言うのである。
「いいわねえ、あなたは…今でもおばば様から心配してもらって…」
「まったく、あなたは甘え上手を見習いたいわ。私なんかおばば様か
ら一学期に三度もお灸すえられたんだから……」
「いいじゃないの、それくらい。私なんかお父様の前で大股開きさせ
られて…それで……」
さすがにその先は口に出したくない様子だったが顔は笑っていた。
広い宴会場のあちらこちらで女性特有の嬌声が上がっている。私はそ
んな雰囲気が嫌いではなかった。脳のどこかで昔に戻ったような錯覚が
起きているのを楽しむのである。
おばば様は今は引退しているが、私たちが亀山にいた頃は主にお灸の
お仕置きを担当していてどの子にも恐れられていた。やたらお仕置きの
多い亀山だが、中でもお灸のお仕置きはどの子にとってもその思い出が
強烈だったのである。
といって昔の子供たちが今もこの老婆を嫌っているとか敬遠している
とかはない。お尻やお臍の下、陰部に至るまで下半身を中心にあわせて
20個以上も灸痕が残っている身だが、それがない亀山出というのもい
ないわけで、灸痕は自分が亀山の出身者であるという証のようなものだ
ったのである。
おばば様は確かに怖い存在だったが、ママがヒステリー気味にお仕置
きしようとしてる時には助けてくれたこともあった。
そして、何より私たちが彼女を否定できなかったのは、自分たちの実
の母親が自分たちを亀山に預ける時、このおばば様によって自分たちが
すえられたのと同じ位置にお灸をすえているという事実だった。
これは亀山の規則で、実母が18歳で子供に会いに来た時本人である
事を証明するために取られた処置なのだが、お灸を全身にすえられた母
親はおばば様に赤ん坊を預けて、そのままおばば様の家を立ち去る。
つまり彼女はこの亀山で実の母親の顔を見知っている唯一の人だった
のである。
そんなこんなで人それぞれに複雑な思いが渦巻く老婆だが、亀山時代
も今も彼女を悪く言う人は誰もいなかった。
この催しには亀山から楽団が来ている。ピアノやヴァイオリン、クラ
リネットやフルート、ハーブの奏者もいる。いずれも亀山の中では芸達
者な子供たちだ。
彼らは私たちのこうした催しには必ずやって来て3、4曲演奏しては
けっこう高額なギャラを持って帰る。それだけではない。お父様たちは
自分の配下にある組織で何か催しものがあるとやはり同じように楽団を
送りこんでは分不相応な報酬を払わせるのだ。
しかし、それとてもとはといえばお父様側から会社の経費として支出
されたものなので、いわばマッチポンプなのだが、お父様としては直接
お小遣いとして渡すより余計な経費がかかっても子供たちが自分で稼い
だお金という形にしてやりたかったのである。
「ねえ、健ちゃんは大学を卒業する時、いくらあったの?」
女の子にこう問いかけられて私は一瞬ためらったが…
「450万」
今さら隠してもしょうがないと思った。
「えっ」
「すごい!」
「じゃあ18歳で最初に貯金通帳をもらった時はいくらあったのよ」
「1000万くらい」
「う、うそ。そんなにどこで稼いだのよ」
周囲にちょっとしたさざ波がたった。
実は、私は演奏そのものはへたくそだったから章くんのようにプロと
して演奏会を開きその収入が加算されたものではなかったが、幼い頃か
らピアノをめちゃくちゃに弾いてはそれを作曲と称して音符にしていた。
それが高津先生の手を経てレコードになり、お父様の圧力で学校や子供
関係の公共施設に流れて行いって、その印税という形で貯金通帳にたま
っていたのである。
私は紀尾井倶楽部へ久しぶりに入った。ゴシック様式のご大層な造り、
亀山を出て成功した人たちのサロンだ。私も亀山出身ということで会員
にはしてもらっているが出世はできなかったので肩身が狭くて頻繁に出
入りしているという訳ではなかった。
今回も半年ぶりに男女の裸身を象ったギリシャ彫刻の下をくぐる。
広い円形の玄関ホールにはすでに受付が用意されていた。
近づくと、
「こんにちわ、ご出席ありがとうございます」
まだ中学生とおぼしき女の子が二人立ち上がってお辞儀をしてくれる。
おそらくアルバイトでかり出されたのだろう。亀山はこんな催しに子供
達を貸し出してはしっかりアルバイト料をせしめるのだ。
ま、私だって亀山にいた頃はそうやって稼がしてもらったのだから、
これには文句は言えない。
「これっ」
私はまず10万円の入った小切手入りの封筒を手渡した。これは今回
修道院を改築するための寄付。今日はそれが目的のパーティなのだ。こ
んなのが年に2回くらいあってこっちはそのたびに寄付金を迫られる。
ちなみに10万円は一口だから最低水準。出せる人はその十倍も百倍
も包むのだが私はこれしかできない。弁護士といえば聞こえは良いが、
少額の債権取立てなどでやって細々と生計をやりくりしている身だから
10万円が出せる限界だったのである。
二人の少女から恭しく赤い薔薇を胸に飾ってもらって宴会場に入ると
そこは立食パーティだった。
いずれも和気藹々。さながら年始の賀詞交換会といった趣だ。いや、
女性が多いのでその分いっそう華やかではある。そしてここには亀山の
OBOGだけでなく現役のお父様や先生方の顔もあった。亀山を離れて
長いので中に知らない人もいるが多くが見知った顔ばかりだ。
「おう、健太、元気じゃったか」
中で顔も手もしわくちゃの婆さまが襲いかからんばかりんやって来て
私の両肩につかまる。
「お前、良子ちゃんにちゃんとご飯を食べさせてもろうとるか」
こうきかれてこちらは苦笑するしかなかった。
「大丈夫ですよ。おばば様、今ではちゃん自分で稼いでますから…」
おばば様は俺が司法試験で苦労している頃までを覚えていてその時分
同棲していた同じ亀山出の今の奥さんから散々いびられていたのを心配
して今でもこう言うのである。
「いいわねえ、あなたは…今でもおばば様から心配してもらって…」
「まったく、あなたは甘え上手を見習いたいわ。私なんかおばば様か
ら一学期に三度もお灸すえられたんだから……」
「いいじゃないの、それくらい。私なんかお父様の前で大股開きさせ
られて…それで……」
さすがにその先は口に出したくない様子だったが顔は笑っていた。
広い宴会場のあちらこちらで女性特有の嬌声が上がっている。私はそ
んな雰囲気が嫌いではなかった。脳のどこかで昔に戻ったような錯覚が
起きているのを楽しむのである。
おばば様は今は引退しているが、私たちが亀山にいた頃は主にお灸の
お仕置きを担当していてどの子にも恐れられていた。やたらお仕置きの
多い亀山だが、中でもお灸のお仕置きはどの子にとってもその思い出が
強烈だったのである。
といって昔の子供たちが今もこの老婆を嫌っているとか敬遠している
とかはない。お尻やお臍の下、陰部に至るまで下半身を中心にあわせて
20個以上も灸痕が残っている身だが、それがない亀山出というのもい
ないわけで、灸痕は自分が亀山の出身者であるという証のようなものだ
ったのである。
おばば様は確かに怖い存在だったが、ママがヒステリー気味にお仕置
きしようとしてる時には助けてくれたこともあった。
そして、何より私たちが彼女を否定できなかったのは、自分たちの実
の母親が自分たちを亀山に預ける時、このおばば様によって自分たちが
すえられたのと同じ位置にお灸をすえているという事実だった。
これは亀山の規則で、実母が18歳で子供に会いに来た時本人である
事を証明するために取られた処置なのだが、お灸を全身にすえられた母
親はおばば様に赤ん坊を預けて、そのままおばば様の家を立ち去る。
つまり彼女はこの亀山で実の母親の顔を見知っている唯一の人だった
のである。
そんなこんなで人それぞれに複雑な思いが渦巻く老婆だが、亀山時代
も今も彼女を悪く言う人は誰もいなかった。
この催しには亀山から楽団が来ている。ピアノやヴァイオリン、クラ
リネットやフルート、ハーブの奏者もいる。いずれも亀山の中では芸達
者な子供たちだ。
彼らは私たちのこうした催しには必ずやって来て3、4曲演奏しては
けっこう高額なギャラを持って帰る。それだけではない。お父様たちは
自分の配下にある組織で何か催しものがあるとやはり同じように楽団を
送りこんでは分不相応な報酬を払わせるのだ。
しかし、それとてもとはといえばお父様側から会社の経費として支出
されたものなので、いわばマッチポンプなのだが、お父様としては直接
お小遣いとして渡すより余計な経費がかかっても子供たちが自分で稼い
だお金という形にしてやりたかったのである。
「ねえ、健ちゃんは大学を卒業する時、いくらあったの?」
女の子にこう問いかけられて私は一瞬ためらったが…
「450万」
今さら隠してもしょうがないと思った。
「えっ」
「すごい!」
「じゃあ18歳で最初に貯金通帳をもらった時はいくらあったのよ」
「1000万くらい」
「う、うそ。そんなにどこで稼いだのよ」
周囲にちょっとしたさざ波がたった。
実は、私は演奏そのものはへたくそだったから章くんのようにプロと
して演奏会を開きその収入が加算されたものではなかったが、幼い頃か
らピアノをめちゃくちゃに弾いてはそれを作曲と称して音符にしていた。
それが高津先生の手を経てレコードになり、お父様の圧力で学校や子供
関係の公共施設に流れて行いって、その印税という形で貯金通帳にたま
っていたのである。
第 1 話 ②
< 第 1 話 > ②
「いいなあ、私なんか最初から180万しかなかったのよ。だから、
自分で結婚資金も稼いだの。章君もそうだけど男の子は恵まれすぎよ」
清美が笑う。しかし、そんなはずはない。お父様が結婚相手と結婚式
の費用を清美にだけ出さないなんてことはあり得ないからだ。
むしろ私はなまじお金があるばっかりに司法試験に身が入らず10年
も無駄な時間を費やしてしまった。恥ずかしい話だが、私がやっとの事
で合格できたのは、そうした資金が底をつき、章くんがアメリカへ渡っ
て彼とセッションする舞台のアルバイト料も入らなくなってからだった。
要するに私という男はお尻に火がつかなければ何もできない怠け者な
のである。
舞台では亀山の最近の様子がビデオ上映され……バザーが開かれ……
ビンゴ大会になり……と、ここまでは普通なのだが、その賞品というの
がここでは世間の常識とは違っていたのである。
「湯川水紀と言います。合沢おじまさま、よろしくお願いします」
僕の前に思いがけず手にした豪華な商品がやってきた。それは今まで
清らかな音色のフルートでお客様を楽しませていた少女だ。
『なかなかの美少女じょじゃないか』
思わずスケベ心が顔を出す。
「いくつ?」
「11歳です」
私は歳だけ聞いて彼女の肩を抱く。そして、他の人たちと同じように
地下への階段を下りていった。
「おじさんでもいいけど、お兄様じゃだめかい」
「えっ!」
はにかむ顔がまだ初々しい。
「いえ、お兄いちゃま、お願いします」
このビルの地下には『ここは温泉旅館か』と見まがうばかりの大浴場
があるのだ。このビル自慢の施設。その脱衣場で私はおもむろに彼女の
服を脱がせ始めた。いや、私だけではない。周囲みな手にした賞品の服
を脱がせ始めている。
ま、普通に育った子にいきなり見ず知らずの大人がそんなことをすれ
ば嫌がるか暴れ出すところだろうが、そこは私たちの世界で育った天使
たち。抵抗する子など誰もいない。
水紀ちゃんも私がすっぽんぽんにしても笑顔こそみせるものの困った
様子など何一つ見せなかった。
思えば遠い昔、私もどこかの温泉宿で見知らぬ人に裸にされて一緒に
温泉に浸かったことがあったが、その日も恐らく今日と同じ趣旨だった
のだろう。私も今の水紀ちゃん同様、何一つ特別な感情がなかった。理
由は簡単で、亀山で暮らしていれば大人達が自分たちをこうしてお風呂
に入れてくれるのがごく自然な形なのだ。
亀山の子供たちは大人がやるどんなことにもことにも逆らってはなら
ないし、どんな時も心を空っぽにして大人たちの愛を受け入れなければ
ならない。
これは物心ついた時から繰り返しママたちから教え込まれる絶対的な
約束事で、13歳まではどんな無理難題を命じられても異を唱えること
なんてできない身の上だったのである。
もちろん、だからといって大人が好き勝手やっているわけではない。
事情は逆で周囲を固める大人たちは常に子供の幸せを第一に考えて気を
つかっている。10歳を越える子にも赤ちゃんと同じ気遣いをしている
からこそこんな強いことが言えるのだ。
赤ちゃんと同じ無垢な心のままで育てるとなると、どうやらこうした
方法しかなかったようである。亀山で大人たちとまともにものが言える
ようになるのは14歳からだった。
無論、私たちの方も我が産土を汚すつもりは毛頭なく、単純にこの子
と一緒にお風呂に入れればそれで良かった。
私たちはかつてお父様お母様に愛されたように自分たちも我が子を愛
したいとは思っている。しかし巷でそれを実現することは不可能に近い。
もう四年生にもなった娘をお風呂に誘っても変態扱いされるのがオチだ。
だから卑猥な感情をもってこの子をどうこうしようというのではない。
亀山でやっていたように柔らかで華奢な体を抱いて、撫でて、身体を
洗い、自慢話をしてやる。その子もまた、自分に対して優しく嫌がらず
に接してくれればそれで天国だった。お父様が、毎夜毎夜堪能していた
美しい夢をこのお風呂場でつかの間得られる満足。それがこの時の賞品
だったのである。
「水紀ちゃんはママやお父様お母様以外の人にこうしてお風呂に入れ
てもらったことがあるの?」
私は大きな湯船の中で少女をゆったりと抱き上げてたずねてみる。
「賄いのおばちゃんに一枝さんって方がいらっしゃるんですが、その
方からはよく身体を洗っていただきます」
よそ行きの言葉は私を意識してのことだろう。
「そう、それでは僕のような見ず知らずの人間とは初めてなんだ」
「はい」
「じゃあ怖いだろう。見知らぬおじさんの前で裸になっちゃうのは」
「………」ふっと一瞬、間があって本心が顔に出る。しかし、そこは
女の子、すぐに気を取り直すと……
「大丈夫です。ママが一緒にお風呂に入ればあなたにとって必ず良い
ことがありますからって……おじさま…いえ、えっと~おにいちゃまは
亀山を出て成功なさったんでしょう。そうした方は、あなたにとって、
とても心強いお味方になってくださるからって……」
私は思わず苦笑してしまう。もともと亀山の子は大人たちから可愛が
られるように教育されるから、ある面でとても物分かりがいい。しかし、
こうまで言われると、その歳で自分はどう受け答えただろうかと考えて
しまった。
「わたし、何かいけない事言いましたか?」
水紀が心配してたずねるので私は彼女の頭を撫でる。
「そうじゃないんだ。君の答があまりに大人びてたからびっくりした
だけ」
私はそう言って水紀の頬に自分の頬をすり寄せる。
「ただ、残念だけど、僕は君の力になって上げられるほど優秀な人間じゃないんだ」
「でも、弁護士さんなんでしょう」
「それはそうだが、弁護士もピンキリでね、私はキリの方なんだ」
「そうなんですか」
「ごめんね」
「いいえ、そんなこと……だって、どんな先輩も私よりは優れていら
っしゃいますから……」
「ありがとう。そんなこと言ってくれたのは君だけだよ」
私は自分の抱いた子に、実はヨイショされているのに気づいて、内心
笑いが止まらなかった。
『なるほど、こんなにも気持ちのいいものだったんだ。だからこそ、
お父様たちは私たちを育てていたのか』
私は今の今になって、お父様たちが大金を投じて何を得ていたのかを
感じることができたのである。そして…
『私もその時代幾度となくお風呂でお父様に抱かれたが、あまりにも
何気なく過ごしてしまって、はたして天野のお父様を喜ばすことができ
ていたんだろうか』
と心配にもなったのだった。
「亀山は楽しいかい?」
「えっ、……あっ、はい。楽しいです」
私のささやきに、また、間があいた。でも、その正直さが心地よいの
だ。
「辛いこともあるだろう。何でこんなにお仕置きばっかりされるんだ
ろうって思ってるんじゃないの?……僕は思ってたよ。」
「…………」水紀は私の腕の中に抱かれたまま下を向いて答えない。
「もう、君の歳になって中庭で裸にされたら、そりゃあ恥ずかしいく
てね。亀山以外の孤児院に行きたいと思ったことが何度もあったよ」
「…………でも、それはわたしがいけないことしたから……」
小さな小さな声、抱いているこの近さでも聞きそびれてしまうほどの
ささやきが聞こえた。
「……そうか、それなら、ひょっとしてお灸のことかな?」
最後の言葉で水紀の顔が思わず上を向く。恐らくその瞬間彼女のツボ
にヒットしたんだろう。見れば水紀のお臍の下にある灸痕はまだ新しか
った。
「熱かったかい?」
「…………」
「熱いというより痛かっただろう。錐でもまれるようなもの凄い痛み
だからね、あれは……」
「わたし、お灸だけはすえられないようにしようと思ってたんです。
……だって、痕がつくでしょう。だからイヤだなって思って……なのに
……わたし、お転婆だから」
「いいじゃないか、女の子はお転婆なくらいでちょうどいいんだよ。
元気な証拠だもん。それに、痕がついたことを気にするなって言っても、
しちゃうだろうけど、それは亀山で暮らす以上仕方がないことなんだ」
「…………」
「でも大丈夫。君はしらないだろうけど、ここを卒業して桜花(女の
子が行く全寮制の高校)に入るまでには全員のお尻に火傷の痕はついて
るから……実は、お灸をもらわずこの山を下りる子は誰もいないんだ。
それに、これは君が18歳になって本当のお母さんと出会う時に必要な
ものなんだ」
「知ってます。でも、それは母にすえた場所の記録さえ残っていれば
いいんじゃないですか?」
「確かにそれで、あるお母さんが赤ちゃんをここに預けたという証明
にはなるだろうけど、その子が君だという証明にはならないんだよ」
「どうして?」
「実はね、ここに預けに来たお母さんのことを知っているのは亀山の
中でもおばば様だけなんだ。だから、もしおばば様がなくなったら、二
人が親子だって証明はできなくなってしまうんだよ」
「それは、今はDNAで…」
私はそこまで言った水紀の言葉を遮る。
「それに、お灸の痕があるからみんな同じ境遇、同じ出身として力を
合わせることもできる。もし、何もなかったらその事は隠して生きてい
こうとする人だって少なくないはずだ。OBOGが人生で成功した後も
こうして亀山を自分のことのように援助してくれるのはその痕が体から
消えないからでもあるんだよ。体の傷は残酷なことのように君には映る
かもしれないけど、そのおかげで亀山はずっとずっと孤児を受け入れ続
けられるんだ」
「…………」
水紀は黙っていた。もとよりこんな幼い子にそんな理屈が理解できる
はずもないから、この社会の現実を解いても無意味なのかもしれないが、
やがて彼女も社会に出てそれなりの地位を占めるようになれば分かって
くれんじゃないか、そう思って話したのだった。
「おにいちゃまも…やっぱり、痕があるの?」
「そりゃああるさ。見て見るかい?」
こう言うと、水紀は思わず身体を硬くする。でも、好奇心の方が勝っ
たようで…小さく頷いて見せた。
私は湯船から這い出ると洗い場で四つんばいになる。そのお尻の傷を
水紀もしゃがみ込んで恐る恐る眺めた。
「お医者様に行って消したいとはおもわなかった?」
「一度だけ、思ったよ。でも、考え直したんだ。これを消してしまっ
たら、僕の青春も昔からのお友だちも消えてしまうような気がしてね…
…それで、やめてしまったんだ」
「ふうん」
水紀の小さく可愛い指先が私の灸痕を撫でているのがわかる。
「あんまりよくわからないね」
「もう、最後にすえられてから随分時間が経つからね。目立たなくな
っちゃったんだ。でも、角度を変えて見てごらん。皮膚がそこだけキラ
キラ光ってるのがわかるはずだから……」
「あっ、ほんと、分かるよ。お灸の痕が光ってる。…ねえ、これって
恥ずかしくないの?」
「あまり親しくない人と一緒にお風呂に入る時は、ちょっぴり恥ずか
しいかな。でも、これを見て笑うような人とはお風呂に入らないから…
…それに、今となってはこのお灸の痕が僕の誇りでもあるんだ」
「変なの?……わたしなんか、こんな傷があったらお嫁に行けないん
じゃないかって心配なのに……」
「そんなことないよ。お父様がきっといい人を見つけてくれるから」
「他の人にもそう言われたわ。お父様がそんなここと気にしない立派
な人を紹介してくれるって、でも、わたし、お婿さんになる人は自分で
見つけたいの」
「そうか、お父様は嫌いか」
「そんなことないわ。緑川のお父様は立派な方だし、私は子供たちの
中でも一番可愛がられてるの。だって、いつも一番長く抱っこしてもら
えるんだから……でも、お婿さんは自分で見つけたいの。背が高くて、
ブラウンの巻き毛がふわふわっとしてて、蒼い瞳なの。もう決めてるの。
だけど、そんな時、こんな火傷の痕があったら嫌われるんじゃないかと
思って……」
「大丈夫さ。水紀ちゃんが本当に好きなら、男はそんな事を気にした
りはしないから……」
「ほんと?」
「ああ、本当さ。逆に、そんな事をとやかく言うようなら君のことが
本当はそんなに好ではないってことなんだ。だいたい、君はいつお尻の
火傷をその人に見せるつもりなんだい?……お互いが仲良くなってから
じゃないかい?……だったら大丈夫だよ」
「……」
水紀は答えなかったが、代わりに私の背中に顔をすり寄せたのである。
「いいなあ、私なんか最初から180万しかなかったのよ。だから、
自分で結婚資金も稼いだの。章君もそうだけど男の子は恵まれすぎよ」
清美が笑う。しかし、そんなはずはない。お父様が結婚相手と結婚式
の費用を清美にだけ出さないなんてことはあり得ないからだ。
むしろ私はなまじお金があるばっかりに司法試験に身が入らず10年
も無駄な時間を費やしてしまった。恥ずかしい話だが、私がやっとの事
で合格できたのは、そうした資金が底をつき、章くんがアメリカへ渡っ
て彼とセッションする舞台のアルバイト料も入らなくなってからだった。
要するに私という男はお尻に火がつかなければ何もできない怠け者な
のである。
舞台では亀山の最近の様子がビデオ上映され……バザーが開かれ……
ビンゴ大会になり……と、ここまでは普通なのだが、その賞品というの
がここでは世間の常識とは違っていたのである。
「湯川水紀と言います。合沢おじまさま、よろしくお願いします」
僕の前に思いがけず手にした豪華な商品がやってきた。それは今まで
清らかな音色のフルートでお客様を楽しませていた少女だ。
『なかなかの美少女じょじゃないか』
思わずスケベ心が顔を出す。
「いくつ?」
「11歳です」
私は歳だけ聞いて彼女の肩を抱く。そして、他の人たちと同じように
地下への階段を下りていった。
「おじさんでもいいけど、お兄様じゃだめかい」
「えっ!」
はにかむ顔がまだ初々しい。
「いえ、お兄いちゃま、お願いします」
このビルの地下には『ここは温泉旅館か』と見まがうばかりの大浴場
があるのだ。このビル自慢の施設。その脱衣場で私はおもむろに彼女の
服を脱がせ始めた。いや、私だけではない。周囲みな手にした賞品の服
を脱がせ始めている。
ま、普通に育った子にいきなり見ず知らずの大人がそんなことをすれ
ば嫌がるか暴れ出すところだろうが、そこは私たちの世界で育った天使
たち。抵抗する子など誰もいない。
水紀ちゃんも私がすっぽんぽんにしても笑顔こそみせるものの困った
様子など何一つ見せなかった。
思えば遠い昔、私もどこかの温泉宿で見知らぬ人に裸にされて一緒に
温泉に浸かったことがあったが、その日も恐らく今日と同じ趣旨だった
のだろう。私も今の水紀ちゃん同様、何一つ特別な感情がなかった。理
由は簡単で、亀山で暮らしていれば大人達が自分たちをこうしてお風呂
に入れてくれるのがごく自然な形なのだ。
亀山の子供たちは大人がやるどんなことにもことにも逆らってはなら
ないし、どんな時も心を空っぽにして大人たちの愛を受け入れなければ
ならない。
これは物心ついた時から繰り返しママたちから教え込まれる絶対的な
約束事で、13歳まではどんな無理難題を命じられても異を唱えること
なんてできない身の上だったのである。
もちろん、だからといって大人が好き勝手やっているわけではない。
事情は逆で周囲を固める大人たちは常に子供の幸せを第一に考えて気を
つかっている。10歳を越える子にも赤ちゃんと同じ気遣いをしている
からこそこんな強いことが言えるのだ。
赤ちゃんと同じ無垢な心のままで育てるとなると、どうやらこうした
方法しかなかったようである。亀山で大人たちとまともにものが言える
ようになるのは14歳からだった。
無論、私たちの方も我が産土を汚すつもりは毛頭なく、単純にこの子
と一緒にお風呂に入れればそれで良かった。
私たちはかつてお父様お母様に愛されたように自分たちも我が子を愛
したいとは思っている。しかし巷でそれを実現することは不可能に近い。
もう四年生にもなった娘をお風呂に誘っても変態扱いされるのがオチだ。
だから卑猥な感情をもってこの子をどうこうしようというのではない。
亀山でやっていたように柔らかで華奢な体を抱いて、撫でて、身体を
洗い、自慢話をしてやる。その子もまた、自分に対して優しく嫌がらず
に接してくれればそれで天国だった。お父様が、毎夜毎夜堪能していた
美しい夢をこのお風呂場でつかの間得られる満足。それがこの時の賞品
だったのである。
「水紀ちゃんはママやお父様お母様以外の人にこうしてお風呂に入れ
てもらったことがあるの?」
私は大きな湯船の中で少女をゆったりと抱き上げてたずねてみる。
「賄いのおばちゃんに一枝さんって方がいらっしゃるんですが、その
方からはよく身体を洗っていただきます」
よそ行きの言葉は私を意識してのことだろう。
「そう、それでは僕のような見ず知らずの人間とは初めてなんだ」
「はい」
「じゃあ怖いだろう。見知らぬおじさんの前で裸になっちゃうのは」
「………」ふっと一瞬、間があって本心が顔に出る。しかし、そこは
女の子、すぐに気を取り直すと……
「大丈夫です。ママが一緒にお風呂に入ればあなたにとって必ず良い
ことがありますからって……おじさま…いえ、えっと~おにいちゃまは
亀山を出て成功なさったんでしょう。そうした方は、あなたにとって、
とても心強いお味方になってくださるからって……」
私は思わず苦笑してしまう。もともと亀山の子は大人たちから可愛が
られるように教育されるから、ある面でとても物分かりがいい。しかし、
こうまで言われると、その歳で自分はどう受け答えただろうかと考えて
しまった。
「わたし、何かいけない事言いましたか?」
水紀が心配してたずねるので私は彼女の頭を撫でる。
「そうじゃないんだ。君の答があまりに大人びてたからびっくりした
だけ」
私はそう言って水紀の頬に自分の頬をすり寄せる。
「ただ、残念だけど、僕は君の力になって上げられるほど優秀な人間じゃないんだ」
「でも、弁護士さんなんでしょう」
「それはそうだが、弁護士もピンキリでね、私はキリの方なんだ」
「そうなんですか」
「ごめんね」
「いいえ、そんなこと……だって、どんな先輩も私よりは優れていら
っしゃいますから……」
「ありがとう。そんなこと言ってくれたのは君だけだよ」
私は自分の抱いた子に、実はヨイショされているのに気づいて、内心
笑いが止まらなかった。
『なるほど、こんなにも気持ちのいいものだったんだ。だからこそ、
お父様たちは私たちを育てていたのか』
私は今の今になって、お父様たちが大金を投じて何を得ていたのかを
感じることができたのである。そして…
『私もその時代幾度となくお風呂でお父様に抱かれたが、あまりにも
何気なく過ごしてしまって、はたして天野のお父様を喜ばすことができ
ていたんだろうか』
と心配にもなったのだった。
「亀山は楽しいかい?」
「えっ、……あっ、はい。楽しいです」
私のささやきに、また、間があいた。でも、その正直さが心地よいの
だ。
「辛いこともあるだろう。何でこんなにお仕置きばっかりされるんだ
ろうって思ってるんじゃないの?……僕は思ってたよ。」
「…………」水紀は私の腕の中に抱かれたまま下を向いて答えない。
「もう、君の歳になって中庭で裸にされたら、そりゃあ恥ずかしいく
てね。亀山以外の孤児院に行きたいと思ったことが何度もあったよ」
「…………でも、それはわたしがいけないことしたから……」
小さな小さな声、抱いているこの近さでも聞きそびれてしまうほどの
ささやきが聞こえた。
「……そうか、それなら、ひょっとしてお灸のことかな?」
最後の言葉で水紀の顔が思わず上を向く。恐らくその瞬間彼女のツボ
にヒットしたんだろう。見れば水紀のお臍の下にある灸痕はまだ新しか
った。
「熱かったかい?」
「…………」
「熱いというより痛かっただろう。錐でもまれるようなもの凄い痛み
だからね、あれは……」
「わたし、お灸だけはすえられないようにしようと思ってたんです。
……だって、痕がつくでしょう。だからイヤだなって思って……なのに
……わたし、お転婆だから」
「いいじゃないか、女の子はお転婆なくらいでちょうどいいんだよ。
元気な証拠だもん。それに、痕がついたことを気にするなって言っても、
しちゃうだろうけど、それは亀山で暮らす以上仕方がないことなんだ」
「…………」
「でも大丈夫。君はしらないだろうけど、ここを卒業して桜花(女の
子が行く全寮制の高校)に入るまでには全員のお尻に火傷の痕はついて
るから……実は、お灸をもらわずこの山を下りる子は誰もいないんだ。
それに、これは君が18歳になって本当のお母さんと出会う時に必要な
ものなんだ」
「知ってます。でも、それは母にすえた場所の記録さえ残っていれば
いいんじゃないですか?」
「確かにそれで、あるお母さんが赤ちゃんをここに預けたという証明
にはなるだろうけど、その子が君だという証明にはならないんだよ」
「どうして?」
「実はね、ここに預けに来たお母さんのことを知っているのは亀山の
中でもおばば様だけなんだ。だから、もしおばば様がなくなったら、二
人が親子だって証明はできなくなってしまうんだよ」
「それは、今はDNAで…」
私はそこまで言った水紀の言葉を遮る。
「それに、お灸の痕があるからみんな同じ境遇、同じ出身として力を
合わせることもできる。もし、何もなかったらその事は隠して生きてい
こうとする人だって少なくないはずだ。OBOGが人生で成功した後も
こうして亀山を自分のことのように援助してくれるのはその痕が体から
消えないからでもあるんだよ。体の傷は残酷なことのように君には映る
かもしれないけど、そのおかげで亀山はずっとずっと孤児を受け入れ続
けられるんだ」
「…………」
水紀は黙っていた。もとよりこんな幼い子にそんな理屈が理解できる
はずもないから、この社会の現実を解いても無意味なのかもしれないが、
やがて彼女も社会に出てそれなりの地位を占めるようになれば分かって
くれんじゃないか、そう思って話したのだった。
「おにいちゃまも…やっぱり、痕があるの?」
「そりゃああるさ。見て見るかい?」
こう言うと、水紀は思わず身体を硬くする。でも、好奇心の方が勝っ
たようで…小さく頷いて見せた。
私は湯船から這い出ると洗い場で四つんばいになる。そのお尻の傷を
水紀もしゃがみ込んで恐る恐る眺めた。
「お医者様に行って消したいとはおもわなかった?」
「一度だけ、思ったよ。でも、考え直したんだ。これを消してしまっ
たら、僕の青春も昔からのお友だちも消えてしまうような気がしてね…
…それで、やめてしまったんだ」
「ふうん」
水紀の小さく可愛い指先が私の灸痕を撫でているのがわかる。
「あんまりよくわからないね」
「もう、最後にすえられてから随分時間が経つからね。目立たなくな
っちゃったんだ。でも、角度を変えて見てごらん。皮膚がそこだけキラ
キラ光ってるのがわかるはずだから……」
「あっ、ほんと、分かるよ。お灸の痕が光ってる。…ねえ、これって
恥ずかしくないの?」
「あまり親しくない人と一緒にお風呂に入る時は、ちょっぴり恥ずか
しいかな。でも、これを見て笑うような人とはお風呂に入らないから…
…それに、今となってはこのお灸の痕が僕の誇りでもあるんだ」
「変なの?……わたしなんか、こんな傷があったらお嫁に行けないん
じゃないかって心配なのに……」
「そんなことないよ。お父様がきっといい人を見つけてくれるから」
「他の人にもそう言われたわ。お父様がそんなここと気にしない立派
な人を紹介してくれるって、でも、わたし、お婿さんになる人は自分で
見つけたいの」
「そうか、お父様は嫌いか」
「そんなことないわ。緑川のお父様は立派な方だし、私は子供たちの
中でも一番可愛がられてるの。だって、いつも一番長く抱っこしてもら
えるんだから……でも、お婿さんは自分で見つけたいの。背が高くて、
ブラウンの巻き毛がふわふわっとしてて、蒼い瞳なの。もう決めてるの。
だけど、そんな時、こんな火傷の痕があったら嫌われるんじゃないかと
思って……」
「大丈夫さ。水紀ちゃんが本当に好きなら、男はそんな事を気にした
りはしないから……」
「ほんと?」
「ああ、本当さ。逆に、そんな事をとやかく言うようなら君のことが
本当はそんなに好ではないってことなんだ。だいたい、君はいつお尻の
火傷をその人に見せるつもりなんだい?……お互いが仲良くなってから
じゃないかい?……だったら大丈夫だよ」
「……」
水紀は答えなかったが、代わりに私の背中に顔をすり寄せたのである。