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小暮男爵 <第一章> §16 / 瑞穂お姉様のお仕置き /
小暮男爵 / 第一章
<<目次>>
§1 旅立ち*§11二人のお仕置き②
§2 お仕置き誓約書 * §12 ランチタイムの話題
§3 赤ちゃん卒業? * §13 お父様の来校
§4 勉強椅子 * §14 お仕置き部屋への侵入
§5 朝のお浣腸 * §15 お股へのお灸
§6 朝の出来事 * §16 瑞穂お姉様のお仕置き
§7 登校 * §17 明君のお仕置き
§8 桃源郷にて * §18 天使たちのドッヂボール
§9 桃源郷からの帰還 * §19 社子春たちのお仕置き
§10二人のお仕置き① * §20 六年生へのお仕置き
**<< §16 >>**/瑞穂お姉様のお仕置き/**
瑞穂お姉様のお父様は進藤高志さんとおっしゃる実業家。今は
経営の大半を息子さんが受け継いでいらっしゃいますが、戦前は
関東一円に数多くの軍需工場を持つ社長さんだったんだそうです。
もちろん戦前のご様子など私は知りませんが、こちらでは縞の
三つ揃えにスエードのハットを被った姿でよくお目にかかります。
家に遊びに行くと、いつも油絵を描いてらっしゃるか、ピアノを
弾いてらっしゃるかしていて多趣味な方でもあります。
もちろん、子供は大好きで、ご自宅の居間でお見かけする時は
誰かしら子どもたちがその膝の上に乗って遊んでいました。
私が遊びに行った際、当時三歳だった弘治君という男の子が、
お膝の上でお漏らしをしてしまいましたが、お父様はまるで何事
もなかったかのように顔色一つお変えになりませんでした。
そうした愛された兄弟(姉妹)の中でも、瑞穂お姉様のことは
特に可愛がっていられたと人伝えに聞いたことがあります。瑞穂
お姉様は明るく頭もよくて、難しい話題にもお父様のお話相手が
務まる子だと評判だったのです。
ただ、そんな甘い関係もこの場では封印しなければなりません。
進藤のお父様は、あられもない格好のお姉様を間近に見ながら
揺らめく百目蝋燭の炎から太くて長いお線香に火を移して真鍮製
のお線香たてにこれを立てます。
百目蝋燭というのは、江戸時代芝居小屋の照明に使われていた
特大の蝋燭で、瑞穂お姉様の周りを照らすくらいなら四方に立て
るだけで十分な明るさがあります。
その蝋燭の怪しい光に照らされてお父様の顔は普段見る柔和な
お顔とは違い、厳しく引き締まっておられました。
「恥ずかしい?」
進藤のお父様に尋ねられた瞬間、お姉様の生唾を飲む様子が、
こちらからも垣間見えます。
普段見ることのない百目蝋燭の大きな炎の揺らめきとその光を
照り返して鈍く光る真鍮製の大きな線香たて。そのお線香たてに
立っているお線香も特大ですから、その香りがすでに部屋全体に
たなびいています。
私たちよりもう少し以前の子なら、お灸も沢山据えられていた
でしょうからこうした雰囲気にも場慣れしていたかもしれません。
でも、私たちにとってここはもう完全に異空間。
普段活発な瑞穂お姉様の目が泳いでいたとしても不思議なこと
ではありませんでした。
「…………」
それは緊張しているのでしょうか、自らの誇りを失いたくない
と意地を張っているのでしょうか、お姉様は天井を見つめたまま
何も答えません。
「私は『恥ずかしいのか?』と尋ねているのに答えてくれない
のかね」
お父様の問いかけがお姉様を正気に戻したみたいでした。
「あっ、はい、恥ずかしいです」
お姉様は慌てて答えます。
勿論そんなことわかりきっていますが、進藤のお父様に限らず
お父様たちって、自ら惨めな姿にしておきながら、子どもたちに
『恥ずかしいか?』と問いかけます。
そして、その時のお父様の返答はたいていこうでした。
「仕方ないな、お仕置きなんだから我慢しなさい……お父さん、
お前にわざとこんな格好をさせてるんだ。……お前が、よ~~く
反省できるようにね。……わかるだろう?」
「はい、ごめんなさい」
お姉様は嗚咽交じりの小さな声で答えます。
「いいかい瑞穂。なぜお前がこんな格好をしなければならなく
なったか、わかってるだろう?」
「私が……二階の窓から傘を差して飛び降りたから……です」
お姉様が自信なさげに答えると……
「確かにそれもあるけど……それについては、栗山先生が処置
してくださったから、まだいいとして……私たちが問題にしてる
のはね、実はそのことだけじゃないだ」
「えっ?どういうこと?…………」
お姉様の小さな声には意外というに思いが込められています。
「君がメリーポピンズを始めた時に、どうして遥ちゃんたちも
誘ってあげなかったのかなってことさ」
「どうしてって……それは…………」
お姉様は少し考えてから……
「だって、あんまりいいことじゃないし、誘ったら悪いかなと
思って……」
「じゃあ、明君が真似した時は何で止めなかったの?」
「えっ……それは…………」
「そうじゃないでしょう。そんな事で遥ちゃんに声をかけたら
バカにされるんじゃないかって、心配したんじゃないの?」
「えっ…………」
お姉様は答えませんでしたが、どうやら図星のようでした。
瑞穂お姉様とうちの遥お姉様はお互いライバル。たった六人の
中ですが、二人は勉強でも図工でも音楽でも、とにかくどんな事
でも張り合っていました。
「図星みたいだね。いいかい、いつも言ってるように、クラス
のお友だちとは誰とでも仲良しでなきゃいけないんだ。それが、
うちのルールだろう。仲間外れはよくないな。特に、お前は級長
さんじゃないか。たった六人でも君はみんなのリーダーなんだよ」
「キュウチョウ?」
「そうか、今は学級委員って呼ぶんだっけ……でも同じだろう?
君はクラスを代表して色んな行事をこなす立場にあるんだから、
いつもクラスがまとまるように気を配ってなきゃいけないのに、
それが自分から悪さを始めたり仲間はずれの子を作ったりしたん
だから……これって、いいわけないよね」
「でも、あれは遊びだから……遥ちゃんはやらないと思って」
「遊び?でも、声を掛けてみなけりゃわからないじゃないか。
『たとえ、悪戯をする時でもみんなで一緒にやりましょう』って、
教えなかったかい?」
「……はい、お父様から聞きました」
弱弱しい声が聞こえます。瑞穂お姉様がこんな声を出すなんて
私の知りうる限り初めです。
「これは他のお父さんたちも同じ考えのはずだから、他の家の
子だってその子のお父さんからそう教わってるはずだよ」
確かに私も小暮のお父様によく言われていました。
「……はい、わかります」
「ここでは、悪戯することより友だちを仲間はずれにすること
の方が罪が重いんだ」
「…………」
お姉様はその教えにあらためて気がついたみたいでした。
「みんなで悪さをしてもそれはみんなで罰を受ければいいんだ。
簡単に償える。お尻が痛いだけだもん。でも、お友だちを傷つけ
てしまうと、その償いはそんなに簡単なことじゃ終わらないんだ」
私たちの学校では、クラスに生徒が六人しかいません。でも、
六人しかいないからこそ、その六人は、誰もが大親友でなければ
ならないのでした。
「それに、たとえ瑞穂が勝手に始めたことでも、他の子にすれ
ば、級長さんがやってるんなら一緒にやってみようと思うんじゃ
ないのかな」
「……それは……」
「それとも、その子たちは私が誘ったんじゃない勝手に始めた
んだから自分には責任がないって言うつもりかい?」
「えっ…だって、そんなこと誰だって、悪いことだと分かって
るはずだから……」
「そうかな?お父さんそうは思わないよ。級長さんがやってる
ってことは、他の子がやってるのとは同じにはならないんだよ。
ほかの子すれば『級長さんがやってるんなら大丈夫だろう』って
思っちゃうもの」
「それは……」
瑞穂お姉様は絶句します。きっと、色々言いたいことはあった
でしょうが、それ以上は言えませんでした。
「お父さんも、お前にこんな格好をさせたくはなかったけど、
やってしまった罪の重さを考えると仕方がないと思ってるんだ。
しかも今回は、小暮のお父様が『お嬢さんだけお仕置きするのは
酷ですから、全員に同じお仕置きにしましょう』とおっしゃって
くださったからこうなったんだ。本来なら、お前が他の子と同じ
お仕置きというのはあり得ないんだよ」
「ふう……」
お姉様から思わずため息が漏れます。
それはがっかりという顔でした。
これがお姉様のどういう気持の表れだったのかは知りませんが、
進藤のお父様にとってその顔つきは、あまり良い印象ではありま
せんでした。
「みんな平等って良いことのように聞こえるかもしれないけど
……でも、そうなると……お前に与えられる罰は、むしろ軽いと
言えるかもしれないな」
お父様はそう言ってお姉様の顔色を窺います。
そして、こう続けるのでした。
「……そこでだ、今回は、ほかのお父様たちとのお話合いで、
会陰と大淫唇に一回ずつ、合計三箇所すえる予定にしてたんだが
……お前の場合はこんなバカな遊びを最初に始めた張本人だし、
クラス委員でもあるわけだから……お仕置きが他の子と一緒じゃ
お前だって肩身が狭いだろうから……」
お父様はこう言って再びお姉様の顔色を窺います。
そして、最後に進藤のお父様はこう宣言するのでした。
「……今回、ほかの子は各箇所一回ずつだが、お前の場合は、
各箇所三回ずつ私が直接据えてやる。……それでいいな」
これには瑞穂お姉様もびっくりでした。
思わず、起き上がろうとしますが、それは先生に阻まれてしま
います。
一回でもショックなお灸を三回ですからね、それって当然なの
かもしれません。
「いや、だめよ。だめ。ちょっと待って……そんなことしたら、
私、本当に死んじゃうもん。そしたら化けてでてやるんだからね」
この期に及んで瑞穂お姉様は強気に出ます。これまでは、猫を
被ってたんでしょうか。
どうにもならないほど体を押さえ込まれたこの恥ずかしい姿勢
のままオカッパ頭を左右に振って叫びます。
顔は真っ赤、もちろん本気で自分の身体のことを心配していた
のでした。
「大仰だなあ、お前は何でも大仰に考えるからいけない。……
お父さんが大丈夫と言えば大丈夫だよ」
進藤のお父様は軽くあしらいますが……
「だめえ~~~そんなことしたら、私、お嫁にいけないもん」
必死に起き上がろうとして頭だけこちらを向いたお姉様の目に
はすでに涙が光っていました。
きっと怖かったんだと思います。必死だったんでしょう。
そりゃそうです。こんな姿でいるだけでも超恥ずかしいのに、
これから、女の子にとって一番大事な処へお線香の火が近づいて
来るというんですから、そりゃあ誰にしたってたまったもんじゃ
ありません。
でも、そんな親子喧嘩の様子を見守るお父様たちはというと、
落ち着き払って事の成り行きを見つめています。あたふたとして
いる人など一人もいませんでした。
恥ずかしいお股へのお灸は、何もこれが初めての試みではあり
ません。ここでは女の子が成長するたびにお灸が据えられます。
お灸のお仕置きはいわば成長の証しであり、通過儀礼みたいな
もの。据える場所も据える艾の大きさもあらかじめ決まっていて、
痕もほとんど目立ちませんでした。
大事なことは皮膚を焼くことではなく、全員で恥ずかしい思い
を共有すること。そんな体験を持つことがお父様たちにとっては
大事なことだったみたいです。
「大丈夫だよ。心配しなくて……お父さんがそんな危ないこと
ミホ(瑞穂)ちゃんにすると思うかい。据える処はどこも皮膚の
上だからね、熱いのは熱いけどお尻に据えられるのと同じ熱さだ
から……」
「でも、三回……据えるんでしょう」
「それはそうだけど、艾が小さいからね、すぐに消えるし痕も
目立たない。死んじゃうだの。お嫁にいけないだのって心配する
ことじゃないよ。現にここの卒業生はほとんどがこのお仕置きの
経験者だけど、みんな元気に働いてるし、お嫁に行って赤ちゃん
だってちゃんと産んでるもの」
「そう……なんだ……」
瑞穂お姉様はお父様の説得に安心したのか、それとも単に首が
疲れただけなのか、元の姿勢に戻ります。
「さあ、始めるよ。いつまでもこんな格好でいたら、その方が
よっぽど恥ずかしいだろう。風邪ひかないうちにさっさと終わら
せなきゃね」
お父様に言われて最後は瑞穂お姉様も観念したみたいでした。
最後に、お父様が自ら猿轡を瑞穂お姉様の口にくわえさせたの
ですが、それには姉様も抵抗する素振りをみせませんでした。
ただ、それが終わると、瑞穂お姉様の身体はさらに厳しく拘束
されることになります。
最後になって他の家の家庭教師の先生たちも瑞穂お姉様の体を
押さえにかかったのです。
左右の足を押さえるのに一人ずつ追加され、目隠しがなされ、
お腹にも一人別の人が乗ります。
幼い女の子一人にいったい何人の大人が必要なんだと思いたく
なりますが、全ては安全を考慮してのこと。そして何より、瑞穂
お姉様が『今日ここにお灸を据えられたんだ』と心に刻むための
これもお父様たちの演出だったのです。
実際、施灸自体は蚊に刺されたほどにしか熱くありません。
でもそれを印象深くドラマチックにしてお仕置きの効果を上げ
るのがここでの先生たちのお仕事だったのでした。
そのため進藤のお父様は見ている私たちに、これでもかという
ほど瑞穂お姉様のアソコを広げて見せてくれました。
大淫唇や会陰だけではありません。小陰唇も膣前庭も尿道口も、
もちろんクリトリスや膣口、お尻の穴まで、瑞穂お姉様の陰部は
あますところなく外の風に当たることになります。
そうしておいて約束の場所に艾が置かれます。
たしかに、それは小さなもの。大きな胡麻くらいでしょうか。
私にはその程度にしか見えないほど小さなものだったのですが、
でも、こうやって大勢でがんじがらめに身体を拘束され、猿轡や
アイマスクまでされて、普段なら外には出ない場所を全て全開に
している今のお姉様に、乗せられた艾がどんな大きさだったか、
なんて分かりっこありませんでした。
驚異、恐怖、焦燥で気が遠くなりかけたかもしれません。
その思いを進藤のお父様が現実へ引き寄せます。
「それじゃあ、すえるからね」
お姉様が必死に暴れる……いえ、暴れようとして押さえつけら
れてるさなか、艾に火が燃え移ります。
「うっっっっっっっっ」
会陰へのそれは一瞬で終わりましたが、膨らみのある肉球には
すぐに次の使者がやってきます。
「うっっっっっっっっ」
「うっっっっっっっっ」
三火の施灸が終わり、他の子なら、これで終了のはずですが、
お姉様の場合はさらに六回の試練が続きます。
「うっっっっっっっっ」
「うっっっっっっっっ」
「うっっっっっっっっ」
「うっっっっっっっっ」
「うっっっっっっっっ」
「うっっっっっっっっ」
猿轡からうめき声が漏れ、首を振るたびに脂汗が畳に飛び散り
ます。でも、どうにかこうにか約束は守られました。
お姉様は取り乱すことなく、お父様も必要以上のことはなさい
ませんでした。
結果、お姉様には黒い点が三箇所残りましたが、それって他の
施灸箇所から見れば、まだまだ小さなもの。それに火傷が治って
皮膚の色が戻ってくれば恐らく見分けもつかなくなるでしょう。
ただ、その黒い点を見て私だけは興奮しています。瑞穂お姉様
のお仕置きが終わっても自分の胸が脈打っているのがはっきりと
わかりました。
『私も、ああなるんだわ』
普段、先の事にはあまり頓着しない私もこの時ばかりはさすが
に身が引き締まります。
だって、このお仕置き。ここにいる限りは私もいずれ受ける事
になるのですから。
ただ、それはそれとして、お姉様の痴態を見ていた私の体には
ある変化が起きていました。お臍の奥底からは何だかドロドロと
したものが湧き出して来るのです。
お臍の下の方で湧き出したそれは、やがて電気となってお腹へ
胸へと登っていき、やがて、顎へ、顎の骨、歯根、歯茎、最後は
前歯の先から出て行きましたが、その電気が立ち去る瞬間に一言。
『私もやられてみたい』
脳裏に不思議なメッセージを残して立ち去ったのでした。
全ての戒めが解かれて自由になった瑞穂お姉様は憔悴しきって
いますが、なぜでしょうか、お仕置きを受けていないはずの私の
方がまだ興奮しています。
私は、そんな瑞穂お姉様に自分自身を重ねて憧れてしまうので
した。
「ふうっ」
お姉様の大事な処が隠れてしまった瞬間、深呼吸と共に大きな
ため息がでます。
最初から強烈なお仕置きを見学するはめになった私でしたが、
次は、別の意味で、私にとってはもっともっと強烈なものを目撃
することになるのでした。
************<16>***********
<<目次>>
§1 旅立ち*§11二人のお仕置き②
§2 お仕置き誓約書 * §12 ランチタイムの話題
§3 赤ちゃん卒業? * §13 お父様の来校
§4 勉強椅子 * §14 お仕置き部屋への侵入
§5 朝のお浣腸 * §15 お股へのお灸
§6 朝の出来事 * §16 瑞穂お姉様のお仕置き
§7 登校 * §17 明君のお仕置き
§8 桃源郷にて * §18 天使たちのドッヂボール
§9 桃源郷からの帰還 * §19 社子春たちのお仕置き
§10二人のお仕置き① * §20 六年生へのお仕置き
**<< §16 >>**/瑞穂お姉様のお仕置き/**
瑞穂お姉様のお父様は進藤高志さんとおっしゃる実業家。今は
経営の大半を息子さんが受け継いでいらっしゃいますが、戦前は
関東一円に数多くの軍需工場を持つ社長さんだったんだそうです。
もちろん戦前のご様子など私は知りませんが、こちらでは縞の
三つ揃えにスエードのハットを被った姿でよくお目にかかります。
家に遊びに行くと、いつも油絵を描いてらっしゃるか、ピアノを
弾いてらっしゃるかしていて多趣味な方でもあります。
もちろん、子供は大好きで、ご自宅の居間でお見かけする時は
誰かしら子どもたちがその膝の上に乗って遊んでいました。
私が遊びに行った際、当時三歳だった弘治君という男の子が、
お膝の上でお漏らしをしてしまいましたが、お父様はまるで何事
もなかったかのように顔色一つお変えになりませんでした。
そうした愛された兄弟(姉妹)の中でも、瑞穂お姉様のことは
特に可愛がっていられたと人伝えに聞いたことがあります。瑞穂
お姉様は明るく頭もよくて、難しい話題にもお父様のお話相手が
務まる子だと評判だったのです。
ただ、そんな甘い関係もこの場では封印しなければなりません。
進藤のお父様は、あられもない格好のお姉様を間近に見ながら
揺らめく百目蝋燭の炎から太くて長いお線香に火を移して真鍮製
のお線香たてにこれを立てます。
百目蝋燭というのは、江戸時代芝居小屋の照明に使われていた
特大の蝋燭で、瑞穂お姉様の周りを照らすくらいなら四方に立て
るだけで十分な明るさがあります。
その蝋燭の怪しい光に照らされてお父様の顔は普段見る柔和な
お顔とは違い、厳しく引き締まっておられました。
「恥ずかしい?」
進藤のお父様に尋ねられた瞬間、お姉様の生唾を飲む様子が、
こちらからも垣間見えます。
普段見ることのない百目蝋燭の大きな炎の揺らめきとその光を
照り返して鈍く光る真鍮製の大きな線香たて。そのお線香たてに
立っているお線香も特大ですから、その香りがすでに部屋全体に
たなびいています。
私たちよりもう少し以前の子なら、お灸も沢山据えられていた
でしょうからこうした雰囲気にも場慣れしていたかもしれません。
でも、私たちにとってここはもう完全に異空間。
普段活発な瑞穂お姉様の目が泳いでいたとしても不思議なこと
ではありませんでした。
「…………」
それは緊張しているのでしょうか、自らの誇りを失いたくない
と意地を張っているのでしょうか、お姉様は天井を見つめたまま
何も答えません。
「私は『恥ずかしいのか?』と尋ねているのに答えてくれない
のかね」
お父様の問いかけがお姉様を正気に戻したみたいでした。
「あっ、はい、恥ずかしいです」
お姉様は慌てて答えます。
勿論そんなことわかりきっていますが、進藤のお父様に限らず
お父様たちって、自ら惨めな姿にしておきながら、子どもたちに
『恥ずかしいか?』と問いかけます。
そして、その時のお父様の返答はたいていこうでした。
「仕方ないな、お仕置きなんだから我慢しなさい……お父さん、
お前にわざとこんな格好をさせてるんだ。……お前が、よ~~く
反省できるようにね。……わかるだろう?」
「はい、ごめんなさい」
お姉様は嗚咽交じりの小さな声で答えます。
「いいかい瑞穂。なぜお前がこんな格好をしなければならなく
なったか、わかってるだろう?」
「私が……二階の窓から傘を差して飛び降りたから……です」
お姉様が自信なさげに答えると……
「確かにそれもあるけど……それについては、栗山先生が処置
してくださったから、まだいいとして……私たちが問題にしてる
のはね、実はそのことだけじゃないだ」
「えっ?どういうこと?…………」
お姉様の小さな声には意外というに思いが込められています。
「君がメリーポピンズを始めた時に、どうして遥ちゃんたちも
誘ってあげなかったのかなってことさ」
「どうしてって……それは…………」
お姉様は少し考えてから……
「だって、あんまりいいことじゃないし、誘ったら悪いかなと
思って……」
「じゃあ、明君が真似した時は何で止めなかったの?」
「えっ……それは…………」
「そうじゃないでしょう。そんな事で遥ちゃんに声をかけたら
バカにされるんじゃないかって、心配したんじゃないの?」
「えっ…………」
お姉様は答えませんでしたが、どうやら図星のようでした。
瑞穂お姉様とうちの遥お姉様はお互いライバル。たった六人の
中ですが、二人は勉強でも図工でも音楽でも、とにかくどんな事
でも張り合っていました。
「図星みたいだね。いいかい、いつも言ってるように、クラス
のお友だちとは誰とでも仲良しでなきゃいけないんだ。それが、
うちのルールだろう。仲間外れはよくないな。特に、お前は級長
さんじゃないか。たった六人でも君はみんなのリーダーなんだよ」
「キュウチョウ?」
「そうか、今は学級委員って呼ぶんだっけ……でも同じだろう?
君はクラスを代表して色んな行事をこなす立場にあるんだから、
いつもクラスがまとまるように気を配ってなきゃいけないのに、
それが自分から悪さを始めたり仲間はずれの子を作ったりしたん
だから……これって、いいわけないよね」
「でも、あれは遊びだから……遥ちゃんはやらないと思って」
「遊び?でも、声を掛けてみなけりゃわからないじゃないか。
『たとえ、悪戯をする時でもみんなで一緒にやりましょう』って、
教えなかったかい?」
「……はい、お父様から聞きました」
弱弱しい声が聞こえます。瑞穂お姉様がこんな声を出すなんて
私の知りうる限り初めです。
「これは他のお父さんたちも同じ考えのはずだから、他の家の
子だってその子のお父さんからそう教わってるはずだよ」
確かに私も小暮のお父様によく言われていました。
「……はい、わかります」
「ここでは、悪戯することより友だちを仲間はずれにすること
の方が罪が重いんだ」
「…………」
お姉様はその教えにあらためて気がついたみたいでした。
「みんなで悪さをしてもそれはみんなで罰を受ければいいんだ。
簡単に償える。お尻が痛いだけだもん。でも、お友だちを傷つけ
てしまうと、その償いはそんなに簡単なことじゃ終わらないんだ」
私たちの学校では、クラスに生徒が六人しかいません。でも、
六人しかいないからこそ、その六人は、誰もが大親友でなければ
ならないのでした。
「それに、たとえ瑞穂が勝手に始めたことでも、他の子にすれ
ば、級長さんがやってるんなら一緒にやってみようと思うんじゃ
ないのかな」
「……それは……」
「それとも、その子たちは私が誘ったんじゃない勝手に始めた
んだから自分には責任がないって言うつもりかい?」
「えっ…だって、そんなこと誰だって、悪いことだと分かって
るはずだから……」
「そうかな?お父さんそうは思わないよ。級長さんがやってる
ってことは、他の子がやってるのとは同じにはならないんだよ。
ほかの子すれば『級長さんがやってるんなら大丈夫だろう』って
思っちゃうもの」
「それは……」
瑞穂お姉様は絶句します。きっと、色々言いたいことはあった
でしょうが、それ以上は言えませんでした。
「お父さんも、お前にこんな格好をさせたくはなかったけど、
やってしまった罪の重さを考えると仕方がないと思ってるんだ。
しかも今回は、小暮のお父様が『お嬢さんだけお仕置きするのは
酷ですから、全員に同じお仕置きにしましょう』とおっしゃって
くださったからこうなったんだ。本来なら、お前が他の子と同じ
お仕置きというのはあり得ないんだよ」
「ふう……」
お姉様から思わずため息が漏れます。
それはがっかりという顔でした。
これがお姉様のどういう気持の表れだったのかは知りませんが、
進藤のお父様にとってその顔つきは、あまり良い印象ではありま
せんでした。
「みんな平等って良いことのように聞こえるかもしれないけど
……でも、そうなると……お前に与えられる罰は、むしろ軽いと
言えるかもしれないな」
お父様はそう言ってお姉様の顔色を窺います。
そして、こう続けるのでした。
「……そこでだ、今回は、ほかのお父様たちとのお話合いで、
会陰と大淫唇に一回ずつ、合計三箇所すえる予定にしてたんだが
……お前の場合はこんなバカな遊びを最初に始めた張本人だし、
クラス委員でもあるわけだから……お仕置きが他の子と一緒じゃ
お前だって肩身が狭いだろうから……」
お父様はこう言って再びお姉様の顔色を窺います。
そして、最後に進藤のお父様はこう宣言するのでした。
「……今回、ほかの子は各箇所一回ずつだが、お前の場合は、
各箇所三回ずつ私が直接据えてやる。……それでいいな」
これには瑞穂お姉様もびっくりでした。
思わず、起き上がろうとしますが、それは先生に阻まれてしま
います。
一回でもショックなお灸を三回ですからね、それって当然なの
かもしれません。
「いや、だめよ。だめ。ちょっと待って……そんなことしたら、
私、本当に死んじゃうもん。そしたら化けてでてやるんだからね」
この期に及んで瑞穂お姉様は強気に出ます。これまでは、猫を
被ってたんでしょうか。
どうにもならないほど体を押さえ込まれたこの恥ずかしい姿勢
のままオカッパ頭を左右に振って叫びます。
顔は真っ赤、もちろん本気で自分の身体のことを心配していた
のでした。
「大仰だなあ、お前は何でも大仰に考えるからいけない。……
お父さんが大丈夫と言えば大丈夫だよ」
進藤のお父様は軽くあしらいますが……
「だめえ~~~そんなことしたら、私、お嫁にいけないもん」
必死に起き上がろうとして頭だけこちらを向いたお姉様の目に
はすでに涙が光っていました。
きっと怖かったんだと思います。必死だったんでしょう。
そりゃそうです。こんな姿でいるだけでも超恥ずかしいのに、
これから、女の子にとって一番大事な処へお線香の火が近づいて
来るというんですから、そりゃあ誰にしたってたまったもんじゃ
ありません。
でも、そんな親子喧嘩の様子を見守るお父様たちはというと、
落ち着き払って事の成り行きを見つめています。あたふたとして
いる人など一人もいませんでした。
恥ずかしいお股へのお灸は、何もこれが初めての試みではあり
ません。ここでは女の子が成長するたびにお灸が据えられます。
お灸のお仕置きはいわば成長の証しであり、通過儀礼みたいな
もの。据える場所も据える艾の大きさもあらかじめ決まっていて、
痕もほとんど目立ちませんでした。
大事なことは皮膚を焼くことではなく、全員で恥ずかしい思い
を共有すること。そんな体験を持つことがお父様たちにとっては
大事なことだったみたいです。
「大丈夫だよ。心配しなくて……お父さんがそんな危ないこと
ミホ(瑞穂)ちゃんにすると思うかい。据える処はどこも皮膚の
上だからね、熱いのは熱いけどお尻に据えられるのと同じ熱さだ
から……」
「でも、三回……据えるんでしょう」
「それはそうだけど、艾が小さいからね、すぐに消えるし痕も
目立たない。死んじゃうだの。お嫁にいけないだのって心配する
ことじゃないよ。現にここの卒業生はほとんどがこのお仕置きの
経験者だけど、みんな元気に働いてるし、お嫁に行って赤ちゃん
だってちゃんと産んでるもの」
「そう……なんだ……」
瑞穂お姉様はお父様の説得に安心したのか、それとも単に首が
疲れただけなのか、元の姿勢に戻ります。
「さあ、始めるよ。いつまでもこんな格好でいたら、その方が
よっぽど恥ずかしいだろう。風邪ひかないうちにさっさと終わら
せなきゃね」
お父様に言われて最後は瑞穂お姉様も観念したみたいでした。
最後に、お父様が自ら猿轡を瑞穂お姉様の口にくわえさせたの
ですが、それには姉様も抵抗する素振りをみせませんでした。
ただ、それが終わると、瑞穂お姉様の身体はさらに厳しく拘束
されることになります。
最後になって他の家の家庭教師の先生たちも瑞穂お姉様の体を
押さえにかかったのです。
左右の足を押さえるのに一人ずつ追加され、目隠しがなされ、
お腹にも一人別の人が乗ります。
幼い女の子一人にいったい何人の大人が必要なんだと思いたく
なりますが、全ては安全を考慮してのこと。そして何より、瑞穂
お姉様が『今日ここにお灸を据えられたんだ』と心に刻むための
これもお父様たちの演出だったのです。
実際、施灸自体は蚊に刺されたほどにしか熱くありません。
でもそれを印象深くドラマチックにしてお仕置きの効果を上げ
るのがここでの先生たちのお仕事だったのでした。
そのため進藤のお父様は見ている私たちに、これでもかという
ほど瑞穂お姉様のアソコを広げて見せてくれました。
大淫唇や会陰だけではありません。小陰唇も膣前庭も尿道口も、
もちろんクリトリスや膣口、お尻の穴まで、瑞穂お姉様の陰部は
あますところなく外の風に当たることになります。
そうしておいて約束の場所に艾が置かれます。
たしかに、それは小さなもの。大きな胡麻くらいでしょうか。
私にはその程度にしか見えないほど小さなものだったのですが、
でも、こうやって大勢でがんじがらめに身体を拘束され、猿轡や
アイマスクまでされて、普段なら外には出ない場所を全て全開に
している今のお姉様に、乗せられた艾がどんな大きさだったか、
なんて分かりっこありませんでした。
驚異、恐怖、焦燥で気が遠くなりかけたかもしれません。
その思いを進藤のお父様が現実へ引き寄せます。
「それじゃあ、すえるからね」
お姉様が必死に暴れる……いえ、暴れようとして押さえつけら
れてるさなか、艾に火が燃え移ります。
「うっっっっっっっっ」
会陰へのそれは一瞬で終わりましたが、膨らみのある肉球には
すぐに次の使者がやってきます。
「うっっっっっっっっ」
「うっっっっっっっっ」
三火の施灸が終わり、他の子なら、これで終了のはずですが、
お姉様の場合はさらに六回の試練が続きます。
「うっっっっっっっっ」
「うっっっっっっっっ」
「うっっっっっっっっ」
「うっっっっっっっっ」
「うっっっっっっっっ」
「うっっっっっっっっ」
猿轡からうめき声が漏れ、首を振るたびに脂汗が畳に飛び散り
ます。でも、どうにかこうにか約束は守られました。
お姉様は取り乱すことなく、お父様も必要以上のことはなさい
ませんでした。
結果、お姉様には黒い点が三箇所残りましたが、それって他の
施灸箇所から見れば、まだまだ小さなもの。それに火傷が治って
皮膚の色が戻ってくれば恐らく見分けもつかなくなるでしょう。
ただ、その黒い点を見て私だけは興奮しています。瑞穂お姉様
のお仕置きが終わっても自分の胸が脈打っているのがはっきりと
わかりました。
『私も、ああなるんだわ』
普段、先の事にはあまり頓着しない私もこの時ばかりはさすが
に身が引き締まります。
だって、このお仕置き。ここにいる限りは私もいずれ受ける事
になるのですから。
ただ、それはそれとして、お姉様の痴態を見ていた私の体には
ある変化が起きていました。お臍の奥底からは何だかドロドロと
したものが湧き出して来るのです。
お臍の下の方で湧き出したそれは、やがて電気となってお腹へ
胸へと登っていき、やがて、顎へ、顎の骨、歯根、歯茎、最後は
前歯の先から出て行きましたが、その電気が立ち去る瞬間に一言。
『私もやられてみたい』
脳裏に不思議なメッセージを残して立ち去ったのでした。
全ての戒めが解かれて自由になった瑞穂お姉様は憔悴しきって
いますが、なぜでしょうか、お仕置きを受けていないはずの私の
方がまだ興奮しています。
私は、そんな瑞穂お姉様に自分自身を重ねて憧れてしまうので
した。
「ふうっ」
お姉様の大事な処が隠れてしまった瞬間、深呼吸と共に大きな
ため息がでます。
最初から強烈なお仕置きを見学するはめになった私でしたが、
次は、別の意味で、私にとってはもっともっと強烈なものを目撃
することになるのでした。
************<16>***********
小暮男爵 <第一章> §17 / 明君のお仕置き /
小暮男爵 / 第一章
***<< §17 >>***/明君のお仕置き/***
次は明君の番です。明君のお父様、いえ、お母様は真鍋久子と
おっしゃって古くからの紡績会社、東亜紡績の会長さんです。
ご主人が亡くなられた後を継いで戦中戦後を乗り切った女傑と
お聞きしていますが、子どもの私にはそのあたり詳しくは分かり
ません。
ただ、この学校の卒業生の多くが彼女の引き立てでデザイナー
になったり、アパレル関係の会社に就職してたりして働いている
んだそうです。
ちなみに、私たちの制服はそうしたOGたちが毎年持ち回りで
製作しているのでその年ごとにデザインが変わります。ですから、
世間でよくある伝統のユニホームというものはありませんでした。
逆に言えばそれほどこの業界には多くの人材を輩出してきたと
いうわけです。
さてこの御婦人、お父様たちの間ではお家の中での躾が厳しい
ことから、ちょっぴり皮肉を込めて『真鍋御前』なんておっしゃ
られていましたが、私たちのような外の家の子から見ると何でも
相談に乗ってくれる親切なおば様でした。
それに厳しいと言ってもそれはあくまで女の子についてだけ。
明君のような男の子に対しては逆に私たちが『どうしてそこまで』
と思うほどべたべた甘々だったのです。
この時も、先立って行われたお父様たちの話し合いで、明君の
お仕置きに対して最後まで反対したのは真鍋御前だったそうです。
「男の子はそのくらい元気があった方がよくありませんか」
というのがその理由だったみたいですが……結局。
「これは、クラスの子がみんな一緒にお仕置きを受けることが
大事なんです。男女も関係ありません。人は思い出を語るとき、
その時の感情を未来に持ち越して語りません。お仕置きのような
辛い思い出だって未来では楽しく語れるんです。むしろ、楽しい
思い出より辛い思い出の方が人は強い連帯意識や共感を感じます。
我々がボロボロになった国土を立て直せたのは、逆説的に言うと、
戦争に行ったからです。それもどん底の負け戦だったから。……
そこで我々は悟ったんです。見渡せば焼け野原、みんな同じ立場
の日本人なんだって。おかげで日本は一度リセットされて地位も
身分も関係ないところからスタートがきれたんです。これは英国
のような戦勝国にはない我々だけの特権なんです。このクラスも
同じでしょう。見渡せば、顔が整ってる、スタイルがいい、成績
がいい、運動ができる、人に好かれる……同じ子供、同じ孤児と
いっても大人と同じようなしがらみはたくさんあります。それを
クラスの一員としてみんな平等なんだって実感させるには全員を
同じ方法でお仕置きするのが最も手っ取り早い方法なんですよ。
ですからたった一人の抜け駆けもあったら意味がなくなるんです」
中条のお父様がこんな大演説をぶって真鍋御前を説得なさった
んだそうです。
私たちは世間的には孤児で、今はお父様に養ってもらってる身
でしかありません。それでもお父様を自慢し、自分の家のお兄様
お姉様を自慢してそれがまるで自分の実績ででもあるかのように
振舞うことがよくあります。
それがお父様たちには心地よくなかったみたいでした。
こうして真鍋のお母様は明君のお仕置きを承諾したわけですが、
明君が私たちにお尻を見せることには最後まで反対だったみたい
でした。
「出世前の男の持ち物を何も女の子が覗かなくても……」
ということなんですが、これも最後はお父様たちの反対多数で
押し切られてしまいます。
こうして難産の末に明君の大事な処が私達の目の前に現れます。
『何をやるにも全員同じで…』というわけです。
いえ、私はそんなもの見たいとは思わなかったのですが、いざ、
それが現れると、やはり、心穏やかではいられませんでした。
「!!!」
私だって女の子ですから、その瞬間は全身に電気が走って目を
そらします。
それって単にグロテスクだからというのではありません。何か
別の感情が湧き起こって私はそこから逃げたいと思ったのでした。
「????」
ところが、それからすぐ、今度は無性にそれが見たくて仕方が
なくなります。
そこがまた不思議でした。
「*****」
最初は顔を覆っていた両手の指を少しだけ開いて、そのすき間
から、そうっと……
そんな私の様子にお父様が気づきます。
「どうした?そんなに明君のことが気になるのか?美咲ちゃん
だって、三年生までは一緒にプールにもお風呂にも入ってたじゃ
ないか」
意地悪なことを言われて私の顔は火照りました。
実際、私たちの学校ではプールの時も三年生まではお互い水着
を着けません。林間学校、スキー合宿、お泊まり会のお風呂でも
当然のように一緒だったんです。
ですから、私だって男の子のオチンチンを見たことはあるわけ
なんですが、その時はこうしてまじまじと見たわけではありませ
んでした。
「どうした?辛いなら、あえて見なくてもいいよ」
お父様にはこう言われましたが私は首を振ります。
すると……
「『あるものをあるがままに見て恥ずかしがらない』というの
は人として大事なことなんだが女の子はこれが苦手だからなあ。
だからプールもお風呂も幼いうちはあえて裸で通したんだ。ま、
できるのは幼いうちだけだが、それでも最初からわけも分からず
恥ずかしがるより、この方がずっといいんだよ。何事も経験して
おいて損はないんだから……」
私はお父様の言ってる意味が分からないまま頷きます。
私って人の話をぼうっと聞いているだけでもすぐに合いの手を
いれてしまう癖があったんです。
でも、それが災いしました。
「御前、私がお手伝いしましょう。もちろん、こうしたことは
お母様自らなさるのがいいですが施灸は慣れないと大変ですから。
幸いうちには適当な助手もおりますから」
明君へのお灸を据えそびれている真鍋のお母様に小暮のお父様
が手を上げたのです。
「そうですか、あいにく私は不器用で……お願いできますか?」
真鍋のお母様は断りません。
「ええ、大丈夫ですよ。お任せください」
お父様は代役をかってでます。
でも、助手って誰でしょうか?
「ん?……助手って?……」
私は、最初、お父様のおっしゃる『適当な助手』の意味がわか
りませんでしたが、手を引かれて驚きます。
「ほら、行くよ」
「えっ?!!え~~~~!!!」
次の瞬間、私は震撼しました。
お父様の意図は、ズバリ私に間近で男の子のアソコを見せる事。
でも、それってやっぱり女の子には身の毛のよだつ事態でした。
「ほら、ここに座って……私を手伝いなさい」
お父様の命令ですから仕方なくそうしましたが、そこは明君の
ばっちい物が目の前30センチくらいにある場所だったのです。
『堪忍してよ~』
そう思って思わず視線をそらそうとしたのですが……
「だめだよ。ちゃんと見なきゃ」
いち早くお父様が気づいて私の顔を正面に向けなおします。
「人間に備わるもので不浄な物なんて一つもないんだから」
お父様はそう言いますが……
『ばっちい物は、ばっちいの!これ女の子の常識!真実なんて
女の子にはいらないの。美しければそれでいいの!夢でいいの!
嘘とまやかしで十分よ!!』
私は心の中で反論します。
でも、ここが女の子の弱いところなんでしょうね。どうしても
声に出す事ができませんでした。
すると、事態はさらに悪化します。
「ほら触ってごらん」
お父様は私の左手をその大きな手で包み込むと、そのまま目の
前にある明君の陰嚢を握らせます。
生暖かくて、ぐにゃっとしてて……空気が抜けて皺皺になった
古い古いゴムボールといったところでしょうか。それでも触れて
いると、『これ生きてる』って感触があります。まるで蝦蟇蛙を
手づかみしたような気持悪さでした。
いずれにしても、こんなに薄気味悪い物を直接手で触れたのは
生まれて初めて。
「いやっ!」
私は拒絶しようとしますが、お父様に左手を押さえられていて、
離そうにも離れません。
「どうした?嫌かい?でも、さっきも言ったようにどんな事も
経験しておくにこしたことはないんだよ。……美咲ちゃんだって、
将来男の子が産まれたら、どのみち竿も袋も握ることになるんだ
から」
お父様のしたり顔を見て、ついに私もキレます。
「離して!その時はその時よ。私が産んだ子なら可愛いもの。
その時は何だってやってあげるんだから……」
私は偽らざる本音を口にします。
「明君じゃだめかい?」
お父様は自嘲ぎみにおっしゃったのですが、私はハッとして我
に帰ります。
『当たり前じゃないの!』
という言葉を飲み込んで……
「そういうわけじゃないけど……」
と言う言葉に変更。とたんに元気がなくなってしまいます。
私は明君がクラスメイトで仲良くしなければならないお友だち
だということをその場で思い出したのでした。
『お友だちとはどういう関係でいなければならないか』
先生やお父様の言葉を思い出したのでした。
『お友だちとはどんなことも分かち合わなければなりません。
どんな些細なことも隠してはなりません。それさえ守っていれば
私たちはお父様が違っていてもみんな本当の兄弟姉妹ように必ず
幸せになります』
幼い頃、周囲の大人たちに毎日のように聞かされた言葉でした。
その言葉に、今、私は反しているんじゃないか、そう思ったの
でした。
そんな私の気持をお父様は察したみたいでした。
ですから、こう言います。
「さあ、これから、明君のお仕置きをするけど、美咲ちゃん、
お友だちでしょう。手伝ってね」
こう言われた時、私は逆らえません。ここで言う『お友だち』
『仲良くする』というのは、私たちにとってはとおり一遍の徳目
ではありません。家でも学校でも、それは一番大事にしなければ
ならない約束事だったのです。
「えっ、私が?!!」
私はお父様から火のついたお線香を握らされます。
どうやら、私が明君の大事な場所にお仕置きをしなければなら
ないみたいでした。
「大丈夫、お父さんがついてるから」
お父様はお線香を持つ私の右手をしっかり包み込みます。
こんな時は、明君だってそりゃ泣きそうだったでしょうけど、
私だって泣き出しそうでした。
「明ちゃん、あなたが先生に『あなたも一緒に飛び降りていま
せんでしたか』って尋ねられた時、どうして正直に言わないの。
嘘をつくからこんなことになるのよ。正直でない子はお仕置き。
仕方がないわね。しっかり我慢するのよ」
真鍋御前様が珍しく明君を強い調子で叱ります。
そうしておいて、真鍋御前は明君の陰嚢を自ら持ち上げたので
した。
色素沈着のない、まだ皮膚と同じ色の皺皺の丸い袋が持ち上が
ります。
どうやら、その根元にお灸が据えられるみたいでした。
身体の真ん中を縦に真っ二つにして通る蟻の門渡りと呼ばれる
線がおチンチン袋にも筋となって通っています。その筋を挟んで
両サイドに小さな小さな艾が置かれます。
これは女の子なら会陰に当たる部分でした。
そこに艾を置いたのはお父様。そして、そこに火を着けるのは
私の持っているこのお線香です。
『えっ!?……どうしよう、どうしよう』
そう思っているうちにもお線香がどんどん置かれた艾の位置に
近づきます。もちろんそれを操作しているのは私ではありません。
私の手を包み込んでいるお父様なのですが、艾に火がついた瞬間
は、罪悪感でいっぱい。やっぱりショックでした。
お父様がなさることですから大丈夫とは思っていてもやっぱり
心配だったのです。
「あっ~」
明君は小さなうめき声をあげます。
『大変なことしちゃった』
その瞬間は、やらされたことでしたが、やっぱりそう思わざる
を得ませんでした。
艾が小さいので二箇所とも熱いのはほんの一瞬です。
もみ消す必要もないくらいの火事なんですが、人にお灸を据え
てあげたことなんてこれまで一度もありませんでしたから、その
瞬間は頭の中の血がすべて引いて顔面蒼白になっていました。
「ふう……」
ため息を一つ。でも、これで終わりではありませんでした。
もう一箇所残っています。
「美咲ちゃん、次はここに、お願いするわね」
真鍋のお母様が、今度は明君の竿を摘み上げ、それが戻らない
ようにと人差し指と中指で押さえながら私に指示します。
お母様の手で引き上げられたオチンチンは表より少し色が濃く
なっていますが、お父様のようにはなっていません。その全てに
皮膚が被ったロケット型。先端だって皮膚が余って皺皺になって
います。
要するにこれって赤ちゃんのと同じってこと。典型的な子ども
のオチンチンでした。
この位の歳になると、中には大人の身体へと変化し始める子も
いますが、明君の場合はお臍の下もツルツルで純粋な子どもの姿
をしていたのでした。
ひょっとして明君がこんな姿でなかったら、お父様だって私に
こんなことまではさせなかったかもしれません。
さて、次なる目標地点はというと、引き上げられたオチンチン
の裏側。陰茎と陰嚢の間、竿の根元部分です。
ここも普通にしていれば、たとえ素っ裸でも外から見える場所
ではありませんからお父様たちにしてみたら好都合でした。
そんな配慮がなされているとは言っても、仰向けに寝かされて、
両足を高く上げさせられて、がんじがらめに押さえつけられてる
男の子の姿って相当に惨めです。
でも、勇気のない私は、『もう許してあげて』なんてお父様に
言えませんでした。
「さあ、次はここだよ」
お父様の声に従いお線香が動きます。
私はお父様のロボットとなって二つ目の場所にもお灸をすえる
つもりでしたが、気がつくと、お線香を動かしているのは私自身。
お父様は力を入れていません。
私はハッとして動きを止め、後退りしようとしましたがそれは
お父様が許してくださいませんでした。
再び艾に火がつきます。
「あっ、いや……」
その瞬間きっと熱かったんでしょう。男の子のそこがぴくぴく
っと動いて、私はびっくり。
耐えてる明君ではなく、私の方が思わず明君の太股にお線香の
火の玉をくっつけそうになりました。
『やれやれ、終わった』
私はそう思ったのですが……
ところが、そうは問屋がおろさなかったのです。
「明ちゃん、あなた男の子なんだから、瑞穂ちゃんだって三回
耐えてるのに一回だけじゃだらしがないわ。もう一回やっていた
だきましょう」
明君の解放を止めたのは、なんとこのお仕置きに当初は反対だ
ったはずの真鍋のお母様でした。
「小暮先生、もう一回、お願いできますか?」
真鍋のお母様がうちのお父様にお願いします。
「えっ、またやるの?」
明君が心配顔で見上げますが、お母様は涼しい顔です。
きっと、お灸を据えてみた結果、大したことがなさそうなので
安心なさったんだと思います。
でも、そうなると、見栄やプライドが頭をもたげます。
明君はそんなお母様の生贄になったのでした。
「明ちゃん、男の子は女の子と同じじゃいけないの。女の子が
三回なら、あなたは五回ぐらい我慢して男義をみせなきゃ」
真鍋御前の鼻息が急に荒くなります。
お母様の命令ですからね、明君、諦めるしかありませんでした。
そして、私もまた、諦めるしかなかったのです。
据える場所はまたしても同じ場所。
でも今度はお母様自らその袋を摘み上げ、『ココ、ココ』って
指でポイントを指し示し『さあ、どうぞ』と言わんばかりに私の
目の前でその部分を目一杯押し広げるのです。
イヤイヤやっていた最初とは大違いでした。
『あっ、さっきの……』
そこにはさっき私がすえたばかりの赤い点が二つ残っています。
そこに新しい艾が乗せられて……
「さあ、それじゃあもう一回だ」
お父様の指示でお線香を近づけます。
もちろん、それってお線香を持つ私の右手をお父様が動かして
いるわけで、その事に私の意志は関係ありませんが、明君に対す
る私の罪悪感が消える事はありませんでした。
「あああああああ」
今度は小さな吐息が少し大きくなって聞こえます。
「大丈夫なの?」
私が振り向いてもお父様は左手で私の頭を撫でるだけ。
私は女の子ですからそこへ据えられた男の子の気持なんて分か
りませんが、それでも、その場所が私たちの会陰や大淫唇と同じ
くらい大切な場所だとはわかっていました。
頼りはお父様だけ。お父様を信頼するだけでした。
明君も二回目までは何とかを持ちこたえていました。
ただ、三回目ともなると……
「いやあ、やめて~~~、熱いからいやだあ、ごめんなさい、
お母さん、やめてよ~~~」
上級生らしからぬ泣き言が聞こえます。
実際、お灸というのは最初に据えられた時の驚きを別にすれば
連続して据えられると後の方が応えます。
一回目より二回目、二回目より三回目が辛いのでした。
ところが、真鍋のお母様はそんな明君を叱ります。
「情けない声を出さないの!!あなた男の子でしょう!!この
くらいのこと、一年生のチビちゃんだって黙って耐えてるわよ!」
御前様の大声が広間一杯に広がります。
いつもは優しいお母さんの怒鳴り声にビックリしたんでしょう
か。明君は、その後、一言も泣き言を言いませんでした。
こうして、最初の二人が三回だったおかげで、以後は他の子も
お灸は三回になり、とんだとばっちりを受けたわけですが、ただ、
その後は大した混乱もなくお灸のお仕置きは粛々と行われました。
何人もの家庭教師から身体が1ミリも動かせないように押さえ
込まれて、女の子の一番恥ずかしい場所をみんなの前で晒し続け
る。お灸はそのものは大したことがなくても、もうそれだけで、
外へ行ったら虐待でしょう。
でも私たちの場合、クラスメイトはみんな幼馴染で同じ境遇の
子供たち。お父様や家庭教師、学校の先生はいつも私たちを膝に
乗せ頭を撫でてくれる人。周囲に気を使わなければならない人が
ここには誰もいないんです。誰もが善良で、気心の知れた人たち
しか周りにいない平和な村で、私たちは叱られたことやお仕置き
されたことをそれだけ切り離して考えたりしません。
私たちにとってはお仕置きだってお父様たちとの楽しい生活の
一部でしかありませんでした。
さて……
長い長いお仕置きの時間が終わり、すでに午後の最初の授業が
始まっています。ただそんな場合でも、この学校ではオーナーで
あるお父様たちの子供たちに対するお仕置きが優先されます。
この大広間の入口では、すでに次の時間を担当する体育の桜井
先生の顔が見え隠れしていましたが、お父様たちは慌てる素振り
を見せませんでした。
それはまだ最後の大事なご用事が残っていたからなのです。
お姉様たちはすでにご自分のお父様の前に向き合うように正座
しています。
すると、まるで武道の試合後のような空気感のなかで、小暮の
お父様が代表して声を掛けます。
「それでは、礼をしましょう」
こう言うと、娘たちは一斉に両手を畳に着けて……
「お父様、お仕置きありがとうございました」
子供たちの声が合唱となって大広間に響きます。
お仕置きに対して子供の側がお礼を言うなんて、世間的には変
なのかもしれませんが、これは私たち間ではむしろ常識で、幼い
頃からお灸に限らずお仕置きをされた後は、必ずお父様や先生に
お礼を言う習慣になっていました。
ですから、これもお仕置きの一部。もし、にやけた顔なんかで
ご挨拶すると、お仕置きのやり直しなんてこともありますから、
子供たちだってこの礼が終わるまで息が抜けませんでした。
礼が終わると子供たちはそれぞれのお父様のお膝に引き取られ
ます。幼い子のようにお父様から抱っこよしよしってされるわけ
です。
これって、本当に幼い頃なら嬉しいんですが、ある程度年齢が
上がってくると、むしろうっとうしくなります。
でも、これも嫌がったりすると……
ひょっとして、お仕置きのやり直しとか?
ピンポーン。大正解。
私たちはお父様の庇護のもと、何不自由なく暮らしているよう
に見えるかもしれませんますが、お父様のお人形としての役目は
常にきっちり求められます。
ですから、このお膝では『お仕置きで元の良い子に戻りました』
というアピールが求められるわけです。
お父様からは、頬ずりをされたり、頭やお尻を撫でられたり、
顔を胸のなかへ押し付けられたりもしますが、それを常に満面の
笑みで返さなければなりません。
私たち子どもは常にお父様の天使であり続けなければならない。
これもまたこの世界の大事な約束事だったのです。
そんな親子の睦み事が5分程度あって……
「よし、良い子になった。さあ、午後の授業に出ておいで……」
これでやっと開放です。
これから、いよいよ午後の授業となるのでした。
*************<17>**********
***<< §17 >>***/明君のお仕置き/***
次は明君の番です。明君のお父様、いえ、お母様は真鍋久子と
おっしゃって古くからの紡績会社、東亜紡績の会長さんです。
ご主人が亡くなられた後を継いで戦中戦後を乗り切った女傑と
お聞きしていますが、子どもの私にはそのあたり詳しくは分かり
ません。
ただ、この学校の卒業生の多くが彼女の引き立てでデザイナー
になったり、アパレル関係の会社に就職してたりして働いている
んだそうです。
ちなみに、私たちの制服はそうしたOGたちが毎年持ち回りで
製作しているのでその年ごとにデザインが変わります。ですから、
世間でよくある伝統のユニホームというものはありませんでした。
逆に言えばそれほどこの業界には多くの人材を輩出してきたと
いうわけです。
さてこの御婦人、お父様たちの間ではお家の中での躾が厳しい
ことから、ちょっぴり皮肉を込めて『真鍋御前』なんておっしゃ
られていましたが、私たちのような外の家の子から見ると何でも
相談に乗ってくれる親切なおば様でした。
それに厳しいと言ってもそれはあくまで女の子についてだけ。
明君のような男の子に対しては逆に私たちが『どうしてそこまで』
と思うほどべたべた甘々だったのです。
この時も、先立って行われたお父様たちの話し合いで、明君の
お仕置きに対して最後まで反対したのは真鍋御前だったそうです。
「男の子はそのくらい元気があった方がよくありませんか」
というのがその理由だったみたいですが……結局。
「これは、クラスの子がみんな一緒にお仕置きを受けることが
大事なんです。男女も関係ありません。人は思い出を語るとき、
その時の感情を未来に持ち越して語りません。お仕置きのような
辛い思い出だって未来では楽しく語れるんです。むしろ、楽しい
思い出より辛い思い出の方が人は強い連帯意識や共感を感じます。
我々がボロボロになった国土を立て直せたのは、逆説的に言うと、
戦争に行ったからです。それもどん底の負け戦だったから。……
そこで我々は悟ったんです。見渡せば焼け野原、みんな同じ立場
の日本人なんだって。おかげで日本は一度リセットされて地位も
身分も関係ないところからスタートがきれたんです。これは英国
のような戦勝国にはない我々だけの特権なんです。このクラスも
同じでしょう。見渡せば、顔が整ってる、スタイルがいい、成績
がいい、運動ができる、人に好かれる……同じ子供、同じ孤児と
いっても大人と同じようなしがらみはたくさんあります。それを
クラスの一員としてみんな平等なんだって実感させるには全員を
同じ方法でお仕置きするのが最も手っ取り早い方法なんですよ。
ですからたった一人の抜け駆けもあったら意味がなくなるんです」
中条のお父様がこんな大演説をぶって真鍋御前を説得なさった
んだそうです。
私たちは世間的には孤児で、今はお父様に養ってもらってる身
でしかありません。それでもお父様を自慢し、自分の家のお兄様
お姉様を自慢してそれがまるで自分の実績ででもあるかのように
振舞うことがよくあります。
それがお父様たちには心地よくなかったみたいでした。
こうして真鍋のお母様は明君のお仕置きを承諾したわけですが、
明君が私たちにお尻を見せることには最後まで反対だったみたい
でした。
「出世前の男の持ち物を何も女の子が覗かなくても……」
ということなんですが、これも最後はお父様たちの反対多数で
押し切られてしまいます。
こうして難産の末に明君の大事な処が私達の目の前に現れます。
『何をやるにも全員同じで…』というわけです。
いえ、私はそんなもの見たいとは思わなかったのですが、いざ、
それが現れると、やはり、心穏やかではいられませんでした。
「!!!」
私だって女の子ですから、その瞬間は全身に電気が走って目を
そらします。
それって単にグロテスクだからというのではありません。何か
別の感情が湧き起こって私はそこから逃げたいと思ったのでした。
「????」
ところが、それからすぐ、今度は無性にそれが見たくて仕方が
なくなります。
そこがまた不思議でした。
「*****」
最初は顔を覆っていた両手の指を少しだけ開いて、そのすき間
から、そうっと……
そんな私の様子にお父様が気づきます。
「どうした?そんなに明君のことが気になるのか?美咲ちゃん
だって、三年生までは一緒にプールにもお風呂にも入ってたじゃ
ないか」
意地悪なことを言われて私の顔は火照りました。
実際、私たちの学校ではプールの時も三年生まではお互い水着
を着けません。林間学校、スキー合宿、お泊まり会のお風呂でも
当然のように一緒だったんです。
ですから、私だって男の子のオチンチンを見たことはあるわけ
なんですが、その時はこうしてまじまじと見たわけではありませ
んでした。
「どうした?辛いなら、あえて見なくてもいいよ」
お父様にはこう言われましたが私は首を振ります。
すると……
「『あるものをあるがままに見て恥ずかしがらない』というの
は人として大事なことなんだが女の子はこれが苦手だからなあ。
だからプールもお風呂も幼いうちはあえて裸で通したんだ。ま、
できるのは幼いうちだけだが、それでも最初からわけも分からず
恥ずかしがるより、この方がずっといいんだよ。何事も経験して
おいて損はないんだから……」
私はお父様の言ってる意味が分からないまま頷きます。
私って人の話をぼうっと聞いているだけでもすぐに合いの手を
いれてしまう癖があったんです。
でも、それが災いしました。
「御前、私がお手伝いしましょう。もちろん、こうしたことは
お母様自らなさるのがいいですが施灸は慣れないと大変ですから。
幸いうちには適当な助手もおりますから」
明君へのお灸を据えそびれている真鍋のお母様に小暮のお父様
が手を上げたのです。
「そうですか、あいにく私は不器用で……お願いできますか?」
真鍋のお母様は断りません。
「ええ、大丈夫ですよ。お任せください」
お父様は代役をかってでます。
でも、助手って誰でしょうか?
「ん?……助手って?……」
私は、最初、お父様のおっしゃる『適当な助手』の意味がわか
りませんでしたが、手を引かれて驚きます。
「ほら、行くよ」
「えっ?!!え~~~~!!!」
次の瞬間、私は震撼しました。
お父様の意図は、ズバリ私に間近で男の子のアソコを見せる事。
でも、それってやっぱり女の子には身の毛のよだつ事態でした。
「ほら、ここに座って……私を手伝いなさい」
お父様の命令ですから仕方なくそうしましたが、そこは明君の
ばっちい物が目の前30センチくらいにある場所だったのです。
『堪忍してよ~』
そう思って思わず視線をそらそうとしたのですが……
「だめだよ。ちゃんと見なきゃ」
いち早くお父様が気づいて私の顔を正面に向けなおします。
「人間に備わるもので不浄な物なんて一つもないんだから」
お父様はそう言いますが……
『ばっちい物は、ばっちいの!これ女の子の常識!真実なんて
女の子にはいらないの。美しければそれでいいの!夢でいいの!
嘘とまやかしで十分よ!!』
私は心の中で反論します。
でも、ここが女の子の弱いところなんでしょうね。どうしても
声に出す事ができませんでした。
すると、事態はさらに悪化します。
「ほら触ってごらん」
お父様は私の左手をその大きな手で包み込むと、そのまま目の
前にある明君の陰嚢を握らせます。
生暖かくて、ぐにゃっとしてて……空気が抜けて皺皺になった
古い古いゴムボールといったところでしょうか。それでも触れて
いると、『これ生きてる』って感触があります。まるで蝦蟇蛙を
手づかみしたような気持悪さでした。
いずれにしても、こんなに薄気味悪い物を直接手で触れたのは
生まれて初めて。
「いやっ!」
私は拒絶しようとしますが、お父様に左手を押さえられていて、
離そうにも離れません。
「どうした?嫌かい?でも、さっきも言ったようにどんな事も
経験しておくにこしたことはないんだよ。……美咲ちゃんだって、
将来男の子が産まれたら、どのみち竿も袋も握ることになるんだ
から」
お父様のしたり顔を見て、ついに私もキレます。
「離して!その時はその時よ。私が産んだ子なら可愛いもの。
その時は何だってやってあげるんだから……」
私は偽らざる本音を口にします。
「明君じゃだめかい?」
お父様は自嘲ぎみにおっしゃったのですが、私はハッとして我
に帰ります。
『当たり前じゃないの!』
という言葉を飲み込んで……
「そういうわけじゃないけど……」
と言う言葉に変更。とたんに元気がなくなってしまいます。
私は明君がクラスメイトで仲良くしなければならないお友だち
だということをその場で思い出したのでした。
『お友だちとはどういう関係でいなければならないか』
先生やお父様の言葉を思い出したのでした。
『お友だちとはどんなことも分かち合わなければなりません。
どんな些細なことも隠してはなりません。それさえ守っていれば
私たちはお父様が違っていてもみんな本当の兄弟姉妹ように必ず
幸せになります』
幼い頃、周囲の大人たちに毎日のように聞かされた言葉でした。
その言葉に、今、私は反しているんじゃないか、そう思ったの
でした。
そんな私の気持をお父様は察したみたいでした。
ですから、こう言います。
「さあ、これから、明君のお仕置きをするけど、美咲ちゃん、
お友だちでしょう。手伝ってね」
こう言われた時、私は逆らえません。ここで言う『お友だち』
『仲良くする』というのは、私たちにとってはとおり一遍の徳目
ではありません。家でも学校でも、それは一番大事にしなければ
ならない約束事だったのです。
「えっ、私が?!!」
私はお父様から火のついたお線香を握らされます。
どうやら、私が明君の大事な場所にお仕置きをしなければなら
ないみたいでした。
「大丈夫、お父さんがついてるから」
お父様はお線香を持つ私の右手をしっかり包み込みます。
こんな時は、明君だってそりゃ泣きそうだったでしょうけど、
私だって泣き出しそうでした。
「明ちゃん、あなたが先生に『あなたも一緒に飛び降りていま
せんでしたか』って尋ねられた時、どうして正直に言わないの。
嘘をつくからこんなことになるのよ。正直でない子はお仕置き。
仕方がないわね。しっかり我慢するのよ」
真鍋御前様が珍しく明君を強い調子で叱ります。
そうしておいて、真鍋御前は明君の陰嚢を自ら持ち上げたので
した。
色素沈着のない、まだ皮膚と同じ色の皺皺の丸い袋が持ち上が
ります。
どうやら、その根元にお灸が据えられるみたいでした。
身体の真ん中を縦に真っ二つにして通る蟻の門渡りと呼ばれる
線がおチンチン袋にも筋となって通っています。その筋を挟んで
両サイドに小さな小さな艾が置かれます。
これは女の子なら会陰に当たる部分でした。
そこに艾を置いたのはお父様。そして、そこに火を着けるのは
私の持っているこのお線香です。
『えっ!?……どうしよう、どうしよう』
そう思っているうちにもお線香がどんどん置かれた艾の位置に
近づきます。もちろんそれを操作しているのは私ではありません。
私の手を包み込んでいるお父様なのですが、艾に火がついた瞬間
は、罪悪感でいっぱい。やっぱりショックでした。
お父様がなさることですから大丈夫とは思っていてもやっぱり
心配だったのです。
「あっ~」
明君は小さなうめき声をあげます。
『大変なことしちゃった』
その瞬間は、やらされたことでしたが、やっぱりそう思わざる
を得ませんでした。
艾が小さいので二箇所とも熱いのはほんの一瞬です。
もみ消す必要もないくらいの火事なんですが、人にお灸を据え
てあげたことなんてこれまで一度もありませんでしたから、その
瞬間は頭の中の血がすべて引いて顔面蒼白になっていました。
「ふう……」
ため息を一つ。でも、これで終わりではありませんでした。
もう一箇所残っています。
「美咲ちゃん、次はここに、お願いするわね」
真鍋のお母様が、今度は明君の竿を摘み上げ、それが戻らない
ようにと人差し指と中指で押さえながら私に指示します。
お母様の手で引き上げられたオチンチンは表より少し色が濃く
なっていますが、お父様のようにはなっていません。その全てに
皮膚が被ったロケット型。先端だって皮膚が余って皺皺になって
います。
要するにこれって赤ちゃんのと同じってこと。典型的な子ども
のオチンチンでした。
この位の歳になると、中には大人の身体へと変化し始める子も
いますが、明君の場合はお臍の下もツルツルで純粋な子どもの姿
をしていたのでした。
ひょっとして明君がこんな姿でなかったら、お父様だって私に
こんなことまではさせなかったかもしれません。
さて、次なる目標地点はというと、引き上げられたオチンチン
の裏側。陰茎と陰嚢の間、竿の根元部分です。
ここも普通にしていれば、たとえ素っ裸でも外から見える場所
ではありませんからお父様たちにしてみたら好都合でした。
そんな配慮がなされているとは言っても、仰向けに寝かされて、
両足を高く上げさせられて、がんじがらめに押さえつけられてる
男の子の姿って相当に惨めです。
でも、勇気のない私は、『もう許してあげて』なんてお父様に
言えませんでした。
「さあ、次はここだよ」
お父様の声に従いお線香が動きます。
私はお父様のロボットとなって二つ目の場所にもお灸をすえる
つもりでしたが、気がつくと、お線香を動かしているのは私自身。
お父様は力を入れていません。
私はハッとして動きを止め、後退りしようとしましたがそれは
お父様が許してくださいませんでした。
再び艾に火がつきます。
「あっ、いや……」
その瞬間きっと熱かったんでしょう。男の子のそこがぴくぴく
っと動いて、私はびっくり。
耐えてる明君ではなく、私の方が思わず明君の太股にお線香の
火の玉をくっつけそうになりました。
『やれやれ、終わった』
私はそう思ったのですが……
ところが、そうは問屋がおろさなかったのです。
「明ちゃん、あなた男の子なんだから、瑞穂ちゃんだって三回
耐えてるのに一回だけじゃだらしがないわ。もう一回やっていた
だきましょう」
明君の解放を止めたのは、なんとこのお仕置きに当初は反対だ
ったはずの真鍋のお母様でした。
「小暮先生、もう一回、お願いできますか?」
真鍋のお母様がうちのお父様にお願いします。
「えっ、またやるの?」
明君が心配顔で見上げますが、お母様は涼しい顔です。
きっと、お灸を据えてみた結果、大したことがなさそうなので
安心なさったんだと思います。
でも、そうなると、見栄やプライドが頭をもたげます。
明君はそんなお母様の生贄になったのでした。
「明ちゃん、男の子は女の子と同じじゃいけないの。女の子が
三回なら、あなたは五回ぐらい我慢して男義をみせなきゃ」
真鍋御前の鼻息が急に荒くなります。
お母様の命令ですからね、明君、諦めるしかありませんでした。
そして、私もまた、諦めるしかなかったのです。
据える場所はまたしても同じ場所。
でも今度はお母様自らその袋を摘み上げ、『ココ、ココ』って
指でポイントを指し示し『さあ、どうぞ』と言わんばかりに私の
目の前でその部分を目一杯押し広げるのです。
イヤイヤやっていた最初とは大違いでした。
『あっ、さっきの……』
そこにはさっき私がすえたばかりの赤い点が二つ残っています。
そこに新しい艾が乗せられて……
「さあ、それじゃあもう一回だ」
お父様の指示でお線香を近づけます。
もちろん、それってお線香を持つ私の右手をお父様が動かして
いるわけで、その事に私の意志は関係ありませんが、明君に対す
る私の罪悪感が消える事はありませんでした。
「あああああああ」
今度は小さな吐息が少し大きくなって聞こえます。
「大丈夫なの?」
私が振り向いてもお父様は左手で私の頭を撫でるだけ。
私は女の子ですからそこへ据えられた男の子の気持なんて分か
りませんが、それでも、その場所が私たちの会陰や大淫唇と同じ
くらい大切な場所だとはわかっていました。
頼りはお父様だけ。お父様を信頼するだけでした。
明君も二回目までは何とかを持ちこたえていました。
ただ、三回目ともなると……
「いやあ、やめて~~~、熱いからいやだあ、ごめんなさい、
お母さん、やめてよ~~~」
上級生らしからぬ泣き言が聞こえます。
実際、お灸というのは最初に据えられた時の驚きを別にすれば
連続して据えられると後の方が応えます。
一回目より二回目、二回目より三回目が辛いのでした。
ところが、真鍋のお母様はそんな明君を叱ります。
「情けない声を出さないの!!あなた男の子でしょう!!この
くらいのこと、一年生のチビちゃんだって黙って耐えてるわよ!」
御前様の大声が広間一杯に広がります。
いつもは優しいお母さんの怒鳴り声にビックリしたんでしょう
か。明君は、その後、一言も泣き言を言いませんでした。
こうして、最初の二人が三回だったおかげで、以後は他の子も
お灸は三回になり、とんだとばっちりを受けたわけですが、ただ、
その後は大した混乱もなくお灸のお仕置きは粛々と行われました。
何人もの家庭教師から身体が1ミリも動かせないように押さえ
込まれて、女の子の一番恥ずかしい場所をみんなの前で晒し続け
る。お灸はそのものは大したことがなくても、もうそれだけで、
外へ行ったら虐待でしょう。
でも私たちの場合、クラスメイトはみんな幼馴染で同じ境遇の
子供たち。お父様や家庭教師、学校の先生はいつも私たちを膝に
乗せ頭を撫でてくれる人。周囲に気を使わなければならない人が
ここには誰もいないんです。誰もが善良で、気心の知れた人たち
しか周りにいない平和な村で、私たちは叱られたことやお仕置き
されたことをそれだけ切り離して考えたりしません。
私たちにとってはお仕置きだってお父様たちとの楽しい生活の
一部でしかありませんでした。
さて……
長い長いお仕置きの時間が終わり、すでに午後の最初の授業が
始まっています。ただそんな場合でも、この学校ではオーナーで
あるお父様たちの子供たちに対するお仕置きが優先されます。
この大広間の入口では、すでに次の時間を担当する体育の桜井
先生の顔が見え隠れしていましたが、お父様たちは慌てる素振り
を見せませんでした。
それはまだ最後の大事なご用事が残っていたからなのです。
お姉様たちはすでにご自分のお父様の前に向き合うように正座
しています。
すると、まるで武道の試合後のような空気感のなかで、小暮の
お父様が代表して声を掛けます。
「それでは、礼をしましょう」
こう言うと、娘たちは一斉に両手を畳に着けて……
「お父様、お仕置きありがとうございました」
子供たちの声が合唱となって大広間に響きます。
お仕置きに対して子供の側がお礼を言うなんて、世間的には変
なのかもしれませんが、これは私たち間ではむしろ常識で、幼い
頃からお灸に限らずお仕置きをされた後は、必ずお父様や先生に
お礼を言う習慣になっていました。
ですから、これもお仕置きの一部。もし、にやけた顔なんかで
ご挨拶すると、お仕置きのやり直しなんてこともありますから、
子供たちだってこの礼が終わるまで息が抜けませんでした。
礼が終わると子供たちはそれぞれのお父様のお膝に引き取られ
ます。幼い子のようにお父様から抱っこよしよしってされるわけ
です。
これって、本当に幼い頃なら嬉しいんですが、ある程度年齢が
上がってくると、むしろうっとうしくなります。
でも、これも嫌がったりすると……
ひょっとして、お仕置きのやり直しとか?
ピンポーン。大正解。
私たちはお父様の庇護のもと、何不自由なく暮らしているよう
に見えるかもしれませんますが、お父様のお人形としての役目は
常にきっちり求められます。
ですから、このお膝では『お仕置きで元の良い子に戻りました』
というアピールが求められるわけです。
お父様からは、頬ずりをされたり、頭やお尻を撫でられたり、
顔を胸のなかへ押し付けられたりもしますが、それを常に満面の
笑みで返さなければなりません。
私たち子どもは常にお父様の天使であり続けなければならない。
これもまたこの世界の大事な約束事だったのです。
そんな親子の睦み事が5分程度あって……
「よし、良い子になった。さあ、午後の授業に出ておいで……」
これでやっと開放です。
これから、いよいよ午後の授業となるのでした。
*************<17>**********
小暮男爵 <第一章> §14 / お仕置き部屋への侵入
小暮男爵 / 第一章
<<目次>>
§1 旅立ち * §11 二人のお仕置き②
§2 お仕置き誓約書 * §12 ランチタイムの話題
§3 赤ちゃん卒業? * §13 お父様の来校
§4 勉強椅子 * §14 お仕置き部屋への侵入
§5 朝のお浣腸 * §15 お股へのお灸
§6 朝の出来事 * §16 瑞穂お姉様のお仕置き
§7 登校 * §17 明君のお仕置き
§8 桃源郷にて * §18 天使たちのドッヂボール
§9 桃源郷からの帰還 * §19 社子春たちのお仕置き
§10 二人のお仕置き① * §20 六年生へのお仕置き
**<< §14 >>**/お仕置き部屋への侵入/**
私は、当初下り階段に足を踏み入れる勇気がわきませんでした。
ここは私たち子供にとっては怖い場所でもありますからね、もし
これが一年前だったら、そのまま踵を返してお昼休みは友だちと
遊んでいたと思います。
でも、この時は妙に遥お姉様のことが気になっていました。
『遥お姉様が心配だもん。ちょっとだけ覗いてみうよ』
最初、私の心の奥底から聞こえてきたのは天使の声でした。
「お姉ちゃ~~ん。遥お姉ちゃん、いる~~」
姉思いの優しい眼差し。妹の声が闇の奥で響きます。
でも反応がありません。そこで、もう一度声を掛けようとした
その時です……
『あなた、何考えてるのよ。お父様に見つかったらお仕置きよ。
バカなことはやめて引き返しなさいよ』
理性の声が私を引きとめます。
『そりゃそうね。バカなことはしない方がいいに決まってるわ』
私は理性の声に従います。
ところが、理性の声にいったんは納得したにも関わらず、私は
その深い闇を見つめて帰ろうとしませんでした。地下への階段を
見つめたまま動きませんでした。
そうこうするうち闇の奥から次なる声が聞こえてきます。
悪魔の囁く声です。
『さあ下りておいでよ。遥お姉ちゃんの悲鳴が聞こえるかもよ。
何時も虐められてるお姉ちゃんの悲鳴って、聞いてみたいよね。
わくわくするわよね』
それが背徳的な思いなのは小学生の私にも分かります。
もし、お父様に見つかったら、私も同じお部屋に連れ込まれて
一緒にお仕置きなんてこともありえます。それも分かっています。
『何やってるのよ!!その場から離れなさいよ!!お父様から
お仕置きされても知らないよ!』
理性が私を必死に押しとどめますが……
今度は理性が誘惑に負けてしまいました。
いつの間にか私は暗い階段を下り始めていたのです。
何の事はありません。結局私って子は、愛より理性、理性より
誘惑に弱い子だったのでした。
暗い階段をゆっくりゆっくり下りきると、がらんとした空間に
薄暗い明かりが一つ。照明はありますが、スイッチを入れると、
誰かが来たと奥にいる人に分かってしまいますから、思いとどま
ってしまいました。
やっと物の形がわかる程度の明るさだけを頼りに奥へと進むと、
地上とは明らかに違う空気感がこの場を支配しています。
ひんやりした風が背筋を通り抜け、それに追われるようにして
さらに歩みを進めると目の前に防音耐火の大扉があって私を威嚇
します。
『ここから出て行け!』
『中に入ってこい!』
このまったく違う二つの声が聞こえます。
この鉄の大扉は私の最後の決心を待っているみたいでした。
『そうよね、もしお姉様をお仕置きだったら、これが開いてる
はずないわよね』
実は、床から天井までを覆いつくすこの大扉自体が開けられる
事は滅多にありませんが、普段、人が出入りする為に大扉の一部
に小さな扉が設置してあります。
私はそこを押してみることにしました。
すると……
『開いてるわ。こいつ、お仕置きが始まっちゃうと閉められる
って聞いてたけど……でも、これだったら大丈夫よね……大丈夫、
大丈夫、本当に大丈夫よね……』
私は自分の小さな胸に『大丈夫』『大丈夫』を何度も問いかけ、
慎重に慎重に小さな扉の先を窺います。
まるで、探偵か泥棒さんの気分です。
『ふぅ、やったあ~~~』
やったことは小さな扉をくぐっただけ。でも、大冒険でした。
すると、この先には廊下に並んだ七つの部屋が見えます。
手前六つは六家のプライベートルーム。もちろん小暮家の部屋
もその並びの中にあって『小暮』のプレートが掛かっていますが、
人の気配はしません。
もし、そこに誰かいれば、ドアに耳を着けることで分かります。
でも、そこに人のいる気配はしませんでした。
今、人の気配がするのは一番奥にある大広間の部屋だけ。その
奥のからは複数の人の話し声がします。
『やっぱりね、多分そうじゃないかと思ったのよ。来た甲斐が
あったわ。きっと六年生の子全員、お昼休みを利用してお父様方
にここへ呼ばれたのよ』
私は胸を高鳴らせ、足音をしのばせて廊下をさらに奥へ奥へと
進むことにしました。
実はここにある七つの部屋のうち手前の六つの部屋は各家専用
の個室。ドアには、お父様方のお名前『小暮』『進藤』『真鍋』
『太田』『佐々木』『中条』といったプレートが張ってあります。
でも一番奥にある七つ目の部屋だけは違っていました。
ここは普段お父様方の寄り合い所(サロン)みたいな使われ方
をしている場所で、基本的に子供たちも出入りが自由です。
実際、放課後の習い事というのはここで行われていますから、
今が放課後なら問題ありません。私がコソコソ入ってくる必要も
ないわけです。
ただ、習い事というのは昼休みに行われることはありません。
お父様がお昼休みにお姉様をここに呼んだ。
それが問題なのでした。
そこは30畳ほどの広さがある大広間。
間仕切りはありませんが、その一部は一段高くなった畳敷きの
舞台になっていて、お茶、お花、日舞、などの習い事はこの舞台
の上で先生とお稽古します。
そんな様子をお父様方も一段低い板張りの床にソファやデッキ
チェアなどを持ち込んで参観なさいます。
ですから、その限りでは何の問題もないのですが、この畳敷き
の舞台、行われるのはお稽古だけではありませんでした。
その畳の上、実は子どもたちがお仕置きを受ける場にもなって
いたのです。
もし問題が個人だけ、あるいは一つの家の中だけで収まるよう
ならお父様たちは個室を使いますが、なかに複数の家の子が同じ
問題を起こした場合などは、この大広間が使われるようでした。
今回は、まさにそんなケースだったのです。
私は、最初、大広間の扉に耳を押しつけて中の様子を探ろうと
しましたが、防音装置が施されているために音は聞こえても何を
言っているのかまでわかりません。
思い切ってドアを開けてみようとしましたが、これも施錠され
ていて果たせませんでした。
そこで、今度はこの部屋に隣接する隣りの部屋の扉をそうっと
押してみると、こちらは開きますから……。
『やったあ~~ラッキー』
私は心の中で叫びます。
実はこの部屋、映写室でした。大きな映写機の脇でこっそりと
小さい窓を覗くと隣の部屋の様子が手に取るようにわかります。
正直、私としては願ったり叶ったり。特等席をゲットできたので
した。
お父様たちはたんにお金持ちというだけでなく仕事をリタイヤ
していますから、そもそも世間のお父さんたちのように忙しくは
ありません。ただ、そのぶん子どもたちの生活についても細かな
処までもが気になるみたいで、家庭教師、学校の先生を問わず、
我が子に関するありとあらゆる情報を求めていました。
そこで学校側もそんなお父様方の要望を答えて、私たちの成長
記録を最大限フィルムに収めるようにしていました。ここには、
その報告フィルムを上映するための映写機が置かれていたのです。
(こんなこと今なら当然ビデオでしょうが、当時はそんなもの
ありませんから記録は全て映画として撮られていました)
カメラは学校のいたるところで回されていました。
勉強の様子だけじゃありません。食堂の風景、休み時間の遊び、
おしゃべり……先生に暇があればという条件付ですが、至る所で
撮影会だったのです。
特定のカメラマンがいるわけではありません。手の空いた先生
がカメラをまわして私たちがいつも被写体になっていたのは承知
していましたが、それを特段意識した事もありませんでした。
最初は物珍しさから「何やってるの?」と説明を求めますが、
そのうちそれは学校の備品の一つとなって、たとえカメラが回っ
ていても注意を払わなくなります。
そうですねえ、カメラって胤子先生の胸像と同じくらいの意識
でしょうか。
ただ、お仕置きの様子だけは意識します。
これは後日の証拠とするため、先生方もけっこう克明に記録に
残すのです。裸のお尻はもちろん、おへその下の割れ目やお股の
中まで……こんな時、カメラに遠慮はありませんでした。
しかも悪さが続くと、お父様からここへ呼び出されて、自分が
受けたそんな恥ずかしいお仕置きの数々を見せられます。
そんなお仕置きされてる映画だなんて、そりゃあ子どもだって
恥ずかしいですから、それからしばらくはカメラが回っていると
意識しますが、これまた子どものことですから、そのうち忘れて、
いつの日かまた恥ずかしいフィルムを見せられることになるので
した。
でも、今回はどうやらそれも違うみたいでした。この映写室に
人はいませんし、その準備をしている様子もありません。
小窓から覗いてみると……
六年生全員(といっても、ご案内のように六人です)が畳敷き
になった舞台の上で正座させられていました。
その様子を見ているのは、うちのお父様をはじめ、この学校を
買い取った六人のお父様たち。こちらは板張りの床にお気に入り
の籐椅子を並べて座ってらっしゃいます。
こちらからですとお父様方の顔は分かりませんが、向かい合う
形の子どもたちの顔はよく見えます。
どの子も『まずいことになったなあ』という顔ばかりでした。
私の家もそうですが、ここにいるお父様方というのは、功なり
名を遂げた末に老後の楽しみとして施設から私たちを引き取った
紳士淑女の方々ばかりです。
ですから、普段の生活では、子どもから嫌われるような虐待や
お仕置きのたぐいは極力なさいません。
そうしたことは家庭教師や学校の先生にお任せして、ご自分は
小鳥たちが肩にもたれたり膝に乗ってくるのをじっと待っておい
でだったのです。
ただ、そんな好好爺然としたお父様も24時間365日決して
子供たちを叱ることがないのかというと、そこはそうではありま
せんでした。
年に一度か二度、お転婆さんには三度くらいでしょうか、子供
たちの頭上に雷が落ちます。
運が良いのか悪いのか、私が覗いたその日はそんなたまたまの
一日でした。
「遥、なぜお前がここに呼ばれたか分かるか?」
小暮のお父様が、その低い声で居並ぶ六人の子供たちを前に、
いきなり遥お姉様を指名します。
それは私の名前ではありませんが、お父様の声に私の心臓も、
バックンバックンです。ろくにぶたれたことがなくてもお父様は
お父様。そのリンカーンみたいな風貌で見つめられると、子ども
たちはそれだけで身が引きしまる思いがするのでした。
「………………」
少し長い沈黙。
お姉様はお父様の質問に答えられませんでしたが、その胸の内
をお父様が代弁します。
「その顔だと…お前は『今回の飛び降り事件に参加してない。
先生から罰も受けてない。だから、私は悪くない』そう言いたい
みたいだな」
「…………」
お姉様の顔が思わず上がりました。
「だけど、お父さんたちの考えは違うんだ。これは四時間目に
罰を受けなかったメグ(愛子)ちゃんや留美ちゃんのお父さんも
一緒の考えだから、二人も私の話を一緒に聞きなさい」
「はい、おじさま」
「わかりましたおじさま」
二人は神妙な顔でお父様に答えます。
『お父様、きついお仕置きをなさるつもりだわ』
私は思いつきます。
女の子は人の心の動きに敏感です。幼い頃ならともかく、もう
このくらいの歳になると大人たちが自分たちをどうしようとして
いるか、おおよそ察しがつきます。
頭に思い描くお姉さま方の未来は辛い現実でしたが、子どもは
親がやると決めたらそれを受け入れるほかありません。この場合
も、『何か抗弁すれば、ごめんなさいをすれば許してもらえる』
とは期待できそうにありませんでした。
「まず、私たちが嫌だったのは、お友だちが自習時間に騒いで
いるのにおまえたちがそれを止めなかったことだ。…悪さをして
いるお友だちをおまえたちは一度でも注意したかね?」
「………………」
「してないよね」
「………………」
お姉様は頷きます。それが精一杯でした。お父様の迫力に押さ
れて声が出ないのです。
私より一つ年上と言っても、遥お姉様はまだ小学生。お父様の
ただならない気配を感じ取れば、もうそれだけでシュンとなって
しまいます。
いえ、遥お姉様だけじゃありません。そこに居並ぶ六年生の子
全員が、この時はすでにしょげていました。
実はこの学校の生徒は全員がお父様たちによって施設から連れ
てこられた子どもたちばかり。しかも親が知れている子は一人も
いません。あとからトラブルになるのを防ぐため、天涯孤独な子
以外、引き取らなかったのでした。
つまり、養父のお父様はそれぞれに違っていても、天涯孤独な
身の上ということでは皆同じ立場だったのです。
「いいかい、お前たちはそれぞれに育てていただいてるお父様
が違ってもみんな同じ境遇の兄弟なんだから、仲良くしなきゃ。
助け合わなきゃいけないんだ。自分だけ勉強や運動ができれば、
それでいいんじゃない。むしろ抜け駆けするような子はここでは
許さない。仲良くできない子は許さない。わがままな子は施設に
戻ってもらう。そう約束したよね」
「はい…」
「はい、お父様」
「…約束しました」
三人は小さな声で答えます。
「今度の事、仲良しのすることなのかな?ほかの子が悪さして
いるさなか、自分たちだけはちゃんと自習してましたって、栗山
先生に報告したそうじゃないか。……それって、本当に良い事を
したって言えるの?」
「えっ……」
三人は戸惑います。
だって、この遊びを始めたのは他の三人で、私たちは関係あり
ません。この三人が教室の窓からの飛び降りゲームを始めた頃は
たしかに自分たちは真面目に自習していましたから、先生に嘘も
ついていません。ですからそれで十分だとお姉さまたちは思って
いたみたいでした。
『自分たちはこの悪戯の首謀者じゃない』というわけです。
私の子供時代、戦争はすでに終わっていました。教育はすでに
個人主義で動いていましたからこんな主張も先生を前にしてなら
受け入れられたと思います。先生方は戦後がどのように変わった
かをよくご存知でしたから。
でも、戦前の教育をしっかり受けてこられたお父様方をこれで
満足させることはできませんでした。
もし、クラスの誰かが悪さをしたら他の子はそれを止めるのが
当たり前。そんな努力もしないで『自分は悪くない』という主張
は認められない。お父様たちはそう考えておいででした。
うちの場合、仲良しというのは連帯責任でもあるのです。
「河合先生の報告によると『遥が真面目に自習してたのは最初
の頃だけで、教室が騒がしくなるとすぐに席を離れてお友だちの
飛び降りる様子を見物してた。最後は、笑顔で拍手したりして、
とても楽しそうに見えた』とあるけど……これは河合先生が私に
嘘をついてるのかな?」
お父様は河合先生からの報告書を眺めながら再度質問します。
「………………」
答えは返ってきませんでした。
実は家庭教師の先生方は父兄席に陣取って授業を見学はします
が授業に口は出しません。こうした自習の時間でもそれは同じで、
子供たちがよほど危険な遊びでも始めない限り(今回はそれほど
危険と判断しなかったのでしょう)授業に口を出すことはありま
せんでした。
「…………それは………だって、私が始めたわけじゃあ……」
遥お姉様はそれだけ言うとあとは言葉になりませんでした。
「確かにそうだ。やり始めたのは遥じゃない。でも、お友だち
の飛び降りを見学するだけでも私たちからすると参加してた事に
かわりはないんだよ。だってその間は座席を離れ窓から身を乗り
出して友だちが飛び降りるのを見てたわけだし、『私は真面目に
自習してました』なんて栗山先生に言ってはいけないだろうね。
それって嘘をついた事になるもの」
「…………」
「お友だちが悪さをしていると思ったのなら、そのお友だちを
止めてあげなきゃ。それが無理でも先生に御報告に行かなきゃ。
遥はどっちもしてないだろう?それって仲良しのお友だちにする
ことなのかな。遥のやってることはお父さん達の目には自分一人
抜け駆けしていい子に見られようとしている自分勝手な行動……
そんな風にしか映らないんだけどなあ」
「……そんなこと言ったって…わたし、飛んでないし……」
絞り出すようなお姉さまの声が聞こえました。
「これが一般の学校なら、お友だちと言っても所詮他人だし、
それでいいのかもしれない。なにせ、今は個人主義の時代だから。
でも、お父さんたちは、ここにいる子どもたちには全員が本当の
兄弟のようになってほしいと思ってるんだ。……なぜだかわかる
かい?」
「……」
遥お姉様は首を振ります。
「残念だけど、君たちには本当のお父さんやお母さんがいない。
ということは、帰る家だってないってことなんだ。……だろう?」
「えっ、……だって、それは、お父様が……」
驚いたお姉様が上目遣いにつぶやきます。
「私のことかい?ありがとう。もちろん私が生きているうちは
おまえたちをずっと愛し続けるよ。でも、私ももう若くはない。
君たちが成人するまで生きてるかどうかさえ知れないじゃないか」
「そんなこと……」
「それから先はどうするね。……今住んでいる家は私が死ねば
すぐに人手に渡るだろうから君たちが住むことはできないんだよ」
「えっ?」
お姉様はきょとんとした顔になります。
子供にとって誰かが死ぬなんてこと頭の片隅にもありませんで
した。私だってそれは同じです。お父様というのは未来永劫私達
を守り続けてくれる人だと信じていましたから。
「もちろん、それでも人生が順調なら、帰る家なんてなくても
問題ないだろうね。……だけど、人間良いときばかりじゃない。
もし、家庭や仕事がうまくいかなかったら、その時はどうするね?」
「どうするって……」
「その立場にならないと分からないだろうけど、帰る家がない
って、とっても辛いことなんだよ。だから、君たちが社会に出た
あと、もし人生につまづいても路頭に迷わないように、私たちは
この学校を作ったんだ。だから、ここには他の境遇で育った子は
一人も入れてない。ここは同じ境遇同じ価値観で育った子だけの
学校にしてある。ここは学校であると同時に君たちにとってここ
が故郷となるようにあえてそうしたんだ」
「ふるさと?」
「そう、この学校が君たちのふるさとだ。だから、もし辛い事
があったら、ここに帰ってしばらく休んでいけばいい。ここには
長期滞在できるゲストハウスもあるから、臨時教員になって得意
分野の授業をしたり、可愛い後輩たちを抱いてあげてお尻をピシ
ピシ叩いてやればいいんだよ。今はまだお尻を叩かれる側の君達
だって、やがては後輩たちのためにお尻を叩く日がくるんだから」
「…………」
その瞬間、お姉様の頬がわずかに緩んだように見えました。
「私たちが口をすっぱくして『みんな仲良く』『みんな仲良く』
って言い続けるのは、単に一緒に何かしましたとか、褒められま
しただけじゃなくて、叱られた事も、お友だちみんなで共有して
欲しいんだ」
「叱られたことも?…………」
「そう、叱られたこともだ」
お父様はお姉様の狐につままれたような顔を見て笑います。
「一緒に悪さをして一緒にお仕置きを受けて欲しい。お仕置き
はご褒美じゃないけど、同じ罰を受けた思い出として大人になれ
ば笑って話せるし、何よりそれで兄弟の絆も強まるから無駄には
ならないんだ。一番いけないのはね、『他の子が悪さしてるのに、
自分だけ知らんぷりしてるって事』みんなが助け合い愛し合って
暮らしてるこの場所でそんな薄情なことしかできないようなら、
君たちが人生最初に拾われた施設に帰ってもらうかもしれない」
「…………」
お姉様はお父様の言葉に思わずのけぞります。
実は、お父様の言う『施設へ帰れ』という言葉は、幼い頃から
お父様たちに大事にされてきた私たちにとっては究極の威し文句
でした。
私達には南極大陸で捨てられるくらいのショックだったんです。
そもそも私たちは物心つく前にここへ来て生活を始めています
から誰の頭の中にも施設時代の思い出なんか存在しないのです。
そんな未知の場所へ戻るなんて、たとえこの先厳しいお仕置き
が待っていたとしてもありえない決断でした。
ですから……
「ごめんなさい、お父様、遥は悪い子でした。どんなお仕置き
も受けます。いい子になります」
遥お姉様はあっさり降参します。畳敷きの舞台を下りてお父様
の足元ににじり寄り両手を胸の前に組んで懺悔します。
愛情深い両親に育てられた人からすれば、こんなこと、お芝居
がかって見えるかもしれません。でも絶対的な後ろ盾を持たない
私たちにしてみると、それは仕方がありませんでした。
残り二人も事情は同じです。二人は、自分たちのお父様の前で
懺悔します。
施設に戻されたくないという思いは、ここでは誰の胸の中にも
共通して存在していたからでした。
ただ、これでハッピーエンドではありません。
「わかった、ならば今日はお前たちのお股にお灸をすえること
にしよう。そうすれば、これから先も今の話が実感できるだろう
から……」
「!!!」
「!!!」
「!!!」
お父様の一言に、三人のお姉様方の顔色が青くなります。
お姉様方の顔から血の気が引いく様子がこんなに離れていても
はっきりとわかりましたから、それは相当なショックだったんだ
と思います。
確かに懺悔はしました。お仕置きも受けます。
でも、まさか、お股にお灸だなんて……
三人ともそんなことまでは考えていなかったみたいでした。
そしてそれは実際に悪さをしていた残り三人にも当然のように
飛び火します。
「他の三人も同じだよ。今日は、六人に同じお仕置きを受けて
もらうからね。六人まとめてお股にお灸のお仕置き。わかったね」
お父様の宣言にも子供たちは誰一人反応しませんでした。
「………………」
「ご返事は!」
お父様の野太い声が広間一杯に響き渡ります。
「はい、ごめんなさい」
「はい、お願いします」
「お灸、受けます」
揃いもそろってイヤイヤながらがはっきりわかるご返事だった
のですが、さすがにお父様方もそれを責めたりはなさいませんで
した。
今から見ると随分乱暴なお仕置きのような気もしますが、当時
それは一般家庭でもまったく例のないことではありませんでした。
(もちろん極めてレアなケースではありますが……)
いずれにしても、お父様たちの願いは、子どもたち全員が同じ
お仕置きを受けることで単なるクラスメイトではない運命共同体
みたいな意識を持ってくれること。これからも弱い立場の子同士、
しっかりスクラムを組んで生きていって欲しいということでした。
***********<14>************
<<目次>>
§1 旅立ち * §11 二人のお仕置き②
§2 お仕置き誓約書 * §12 ランチタイムの話題
§3 赤ちゃん卒業? * §13 お父様の来校
§4 勉強椅子 * §14 お仕置き部屋への侵入
§5 朝のお浣腸 * §15 お股へのお灸
§6 朝の出来事 * §16 瑞穂お姉様のお仕置き
§7 登校 * §17 明君のお仕置き
§8 桃源郷にて * §18 天使たちのドッヂボール
§9 桃源郷からの帰還 * §19 社子春たちのお仕置き
§10 二人のお仕置き① * §20 六年生へのお仕置き
**<< §14 >>**/お仕置き部屋への侵入/**
私は、当初下り階段に足を踏み入れる勇気がわきませんでした。
ここは私たち子供にとっては怖い場所でもありますからね、もし
これが一年前だったら、そのまま踵を返してお昼休みは友だちと
遊んでいたと思います。
でも、この時は妙に遥お姉様のことが気になっていました。
『遥お姉様が心配だもん。ちょっとだけ覗いてみうよ』
最初、私の心の奥底から聞こえてきたのは天使の声でした。
「お姉ちゃ~~ん。遥お姉ちゃん、いる~~」
姉思いの優しい眼差し。妹の声が闇の奥で響きます。
でも反応がありません。そこで、もう一度声を掛けようとした
その時です……
『あなた、何考えてるのよ。お父様に見つかったらお仕置きよ。
バカなことはやめて引き返しなさいよ』
理性の声が私を引きとめます。
『そりゃそうね。バカなことはしない方がいいに決まってるわ』
私は理性の声に従います。
ところが、理性の声にいったんは納得したにも関わらず、私は
その深い闇を見つめて帰ろうとしませんでした。地下への階段を
見つめたまま動きませんでした。
そうこうするうち闇の奥から次なる声が聞こえてきます。
悪魔の囁く声です。
『さあ下りておいでよ。遥お姉ちゃんの悲鳴が聞こえるかもよ。
何時も虐められてるお姉ちゃんの悲鳴って、聞いてみたいよね。
わくわくするわよね』
それが背徳的な思いなのは小学生の私にも分かります。
もし、お父様に見つかったら、私も同じお部屋に連れ込まれて
一緒にお仕置きなんてこともありえます。それも分かっています。
『何やってるのよ!!その場から離れなさいよ!!お父様から
お仕置きされても知らないよ!』
理性が私を必死に押しとどめますが……
今度は理性が誘惑に負けてしまいました。
いつの間にか私は暗い階段を下り始めていたのです。
何の事はありません。結局私って子は、愛より理性、理性より
誘惑に弱い子だったのでした。
暗い階段をゆっくりゆっくり下りきると、がらんとした空間に
薄暗い明かりが一つ。照明はありますが、スイッチを入れると、
誰かが来たと奥にいる人に分かってしまいますから、思いとどま
ってしまいました。
やっと物の形がわかる程度の明るさだけを頼りに奥へと進むと、
地上とは明らかに違う空気感がこの場を支配しています。
ひんやりした風が背筋を通り抜け、それに追われるようにして
さらに歩みを進めると目の前に防音耐火の大扉があって私を威嚇
します。
『ここから出て行け!』
『中に入ってこい!』
このまったく違う二つの声が聞こえます。
この鉄の大扉は私の最後の決心を待っているみたいでした。
『そうよね、もしお姉様をお仕置きだったら、これが開いてる
はずないわよね』
実は、床から天井までを覆いつくすこの大扉自体が開けられる
事は滅多にありませんが、普段、人が出入りする為に大扉の一部
に小さな扉が設置してあります。
私はそこを押してみることにしました。
すると……
『開いてるわ。こいつ、お仕置きが始まっちゃうと閉められる
って聞いてたけど……でも、これだったら大丈夫よね……大丈夫、
大丈夫、本当に大丈夫よね……』
私は自分の小さな胸に『大丈夫』『大丈夫』を何度も問いかけ、
慎重に慎重に小さな扉の先を窺います。
まるで、探偵か泥棒さんの気分です。
『ふぅ、やったあ~~~』
やったことは小さな扉をくぐっただけ。でも、大冒険でした。
すると、この先には廊下に並んだ七つの部屋が見えます。
手前六つは六家のプライベートルーム。もちろん小暮家の部屋
もその並びの中にあって『小暮』のプレートが掛かっていますが、
人の気配はしません。
もし、そこに誰かいれば、ドアに耳を着けることで分かります。
でも、そこに人のいる気配はしませんでした。
今、人の気配がするのは一番奥にある大広間の部屋だけ。その
奥のからは複数の人の話し声がします。
『やっぱりね、多分そうじゃないかと思ったのよ。来た甲斐が
あったわ。きっと六年生の子全員、お昼休みを利用してお父様方
にここへ呼ばれたのよ』
私は胸を高鳴らせ、足音をしのばせて廊下をさらに奥へ奥へと
進むことにしました。
実はここにある七つの部屋のうち手前の六つの部屋は各家専用
の個室。ドアには、お父様方のお名前『小暮』『進藤』『真鍋』
『太田』『佐々木』『中条』といったプレートが張ってあります。
でも一番奥にある七つ目の部屋だけは違っていました。
ここは普段お父様方の寄り合い所(サロン)みたいな使われ方
をしている場所で、基本的に子供たちも出入りが自由です。
実際、放課後の習い事というのはここで行われていますから、
今が放課後なら問題ありません。私がコソコソ入ってくる必要も
ないわけです。
ただ、習い事というのは昼休みに行われることはありません。
お父様がお昼休みにお姉様をここに呼んだ。
それが問題なのでした。
そこは30畳ほどの広さがある大広間。
間仕切りはありませんが、その一部は一段高くなった畳敷きの
舞台になっていて、お茶、お花、日舞、などの習い事はこの舞台
の上で先生とお稽古します。
そんな様子をお父様方も一段低い板張りの床にソファやデッキ
チェアなどを持ち込んで参観なさいます。
ですから、その限りでは何の問題もないのですが、この畳敷き
の舞台、行われるのはお稽古だけではありませんでした。
その畳の上、実は子どもたちがお仕置きを受ける場にもなって
いたのです。
もし問題が個人だけ、あるいは一つの家の中だけで収まるよう
ならお父様たちは個室を使いますが、なかに複数の家の子が同じ
問題を起こした場合などは、この大広間が使われるようでした。
今回は、まさにそんなケースだったのです。
私は、最初、大広間の扉に耳を押しつけて中の様子を探ろうと
しましたが、防音装置が施されているために音は聞こえても何を
言っているのかまでわかりません。
思い切ってドアを開けてみようとしましたが、これも施錠され
ていて果たせませんでした。
そこで、今度はこの部屋に隣接する隣りの部屋の扉をそうっと
押してみると、こちらは開きますから……。
『やったあ~~ラッキー』
私は心の中で叫びます。
実はこの部屋、映写室でした。大きな映写機の脇でこっそりと
小さい窓を覗くと隣の部屋の様子が手に取るようにわかります。
正直、私としては願ったり叶ったり。特等席をゲットできたので
した。
お父様たちはたんにお金持ちというだけでなく仕事をリタイヤ
していますから、そもそも世間のお父さんたちのように忙しくは
ありません。ただ、そのぶん子どもたちの生活についても細かな
処までもが気になるみたいで、家庭教師、学校の先生を問わず、
我が子に関するありとあらゆる情報を求めていました。
そこで学校側もそんなお父様方の要望を答えて、私たちの成長
記録を最大限フィルムに収めるようにしていました。ここには、
その報告フィルムを上映するための映写機が置かれていたのです。
(こんなこと今なら当然ビデオでしょうが、当時はそんなもの
ありませんから記録は全て映画として撮られていました)
カメラは学校のいたるところで回されていました。
勉強の様子だけじゃありません。食堂の風景、休み時間の遊び、
おしゃべり……先生に暇があればという条件付ですが、至る所で
撮影会だったのです。
特定のカメラマンがいるわけではありません。手の空いた先生
がカメラをまわして私たちがいつも被写体になっていたのは承知
していましたが、それを特段意識した事もありませんでした。
最初は物珍しさから「何やってるの?」と説明を求めますが、
そのうちそれは学校の備品の一つとなって、たとえカメラが回っ
ていても注意を払わなくなります。
そうですねえ、カメラって胤子先生の胸像と同じくらいの意識
でしょうか。
ただ、お仕置きの様子だけは意識します。
これは後日の証拠とするため、先生方もけっこう克明に記録に
残すのです。裸のお尻はもちろん、おへその下の割れ目やお股の
中まで……こんな時、カメラに遠慮はありませんでした。
しかも悪さが続くと、お父様からここへ呼び出されて、自分が
受けたそんな恥ずかしいお仕置きの数々を見せられます。
そんなお仕置きされてる映画だなんて、そりゃあ子どもだって
恥ずかしいですから、それからしばらくはカメラが回っていると
意識しますが、これまた子どものことですから、そのうち忘れて、
いつの日かまた恥ずかしいフィルムを見せられることになるので
した。
でも、今回はどうやらそれも違うみたいでした。この映写室に
人はいませんし、その準備をしている様子もありません。
小窓から覗いてみると……
六年生全員(といっても、ご案内のように六人です)が畳敷き
になった舞台の上で正座させられていました。
その様子を見ているのは、うちのお父様をはじめ、この学校を
買い取った六人のお父様たち。こちらは板張りの床にお気に入り
の籐椅子を並べて座ってらっしゃいます。
こちらからですとお父様方の顔は分かりませんが、向かい合う
形の子どもたちの顔はよく見えます。
どの子も『まずいことになったなあ』という顔ばかりでした。
私の家もそうですが、ここにいるお父様方というのは、功なり
名を遂げた末に老後の楽しみとして施設から私たちを引き取った
紳士淑女の方々ばかりです。
ですから、普段の生活では、子どもから嫌われるような虐待や
お仕置きのたぐいは極力なさいません。
そうしたことは家庭教師や学校の先生にお任せして、ご自分は
小鳥たちが肩にもたれたり膝に乗ってくるのをじっと待っておい
でだったのです。
ただ、そんな好好爺然としたお父様も24時間365日決して
子供たちを叱ることがないのかというと、そこはそうではありま
せんでした。
年に一度か二度、お転婆さんには三度くらいでしょうか、子供
たちの頭上に雷が落ちます。
運が良いのか悪いのか、私が覗いたその日はそんなたまたまの
一日でした。
「遥、なぜお前がここに呼ばれたか分かるか?」
小暮のお父様が、その低い声で居並ぶ六人の子供たちを前に、
いきなり遥お姉様を指名します。
それは私の名前ではありませんが、お父様の声に私の心臓も、
バックンバックンです。ろくにぶたれたことがなくてもお父様は
お父様。そのリンカーンみたいな風貌で見つめられると、子ども
たちはそれだけで身が引きしまる思いがするのでした。
「………………」
少し長い沈黙。
お姉様はお父様の質問に答えられませんでしたが、その胸の内
をお父様が代弁します。
「その顔だと…お前は『今回の飛び降り事件に参加してない。
先生から罰も受けてない。だから、私は悪くない』そう言いたい
みたいだな」
「…………」
お姉様の顔が思わず上がりました。
「だけど、お父さんたちの考えは違うんだ。これは四時間目に
罰を受けなかったメグ(愛子)ちゃんや留美ちゃんのお父さんも
一緒の考えだから、二人も私の話を一緒に聞きなさい」
「はい、おじさま」
「わかりましたおじさま」
二人は神妙な顔でお父様に答えます。
『お父様、きついお仕置きをなさるつもりだわ』
私は思いつきます。
女の子は人の心の動きに敏感です。幼い頃ならともかく、もう
このくらいの歳になると大人たちが自分たちをどうしようとして
いるか、おおよそ察しがつきます。
頭に思い描くお姉さま方の未来は辛い現実でしたが、子どもは
親がやると決めたらそれを受け入れるほかありません。この場合
も、『何か抗弁すれば、ごめんなさいをすれば許してもらえる』
とは期待できそうにありませんでした。
「まず、私たちが嫌だったのは、お友だちが自習時間に騒いで
いるのにおまえたちがそれを止めなかったことだ。…悪さをして
いるお友だちをおまえたちは一度でも注意したかね?」
「………………」
「してないよね」
「………………」
お姉様は頷きます。それが精一杯でした。お父様の迫力に押さ
れて声が出ないのです。
私より一つ年上と言っても、遥お姉様はまだ小学生。お父様の
ただならない気配を感じ取れば、もうそれだけでシュンとなって
しまいます。
いえ、遥お姉様だけじゃありません。そこに居並ぶ六年生の子
全員が、この時はすでにしょげていました。
実はこの学校の生徒は全員がお父様たちによって施設から連れ
てこられた子どもたちばかり。しかも親が知れている子は一人も
いません。あとからトラブルになるのを防ぐため、天涯孤独な子
以外、引き取らなかったのでした。
つまり、養父のお父様はそれぞれに違っていても、天涯孤独な
身の上ということでは皆同じ立場だったのです。
「いいかい、お前たちはそれぞれに育てていただいてるお父様
が違ってもみんな同じ境遇の兄弟なんだから、仲良くしなきゃ。
助け合わなきゃいけないんだ。自分だけ勉強や運動ができれば、
それでいいんじゃない。むしろ抜け駆けするような子はここでは
許さない。仲良くできない子は許さない。わがままな子は施設に
戻ってもらう。そう約束したよね」
「はい…」
「はい、お父様」
「…約束しました」
三人は小さな声で答えます。
「今度の事、仲良しのすることなのかな?ほかの子が悪さして
いるさなか、自分たちだけはちゃんと自習してましたって、栗山
先生に報告したそうじゃないか。……それって、本当に良い事を
したって言えるの?」
「えっ……」
三人は戸惑います。
だって、この遊びを始めたのは他の三人で、私たちは関係あり
ません。この三人が教室の窓からの飛び降りゲームを始めた頃は
たしかに自分たちは真面目に自習していましたから、先生に嘘も
ついていません。ですからそれで十分だとお姉さまたちは思って
いたみたいでした。
『自分たちはこの悪戯の首謀者じゃない』というわけです。
私の子供時代、戦争はすでに終わっていました。教育はすでに
個人主義で動いていましたからこんな主張も先生を前にしてなら
受け入れられたと思います。先生方は戦後がどのように変わった
かをよくご存知でしたから。
でも、戦前の教育をしっかり受けてこられたお父様方をこれで
満足させることはできませんでした。
もし、クラスの誰かが悪さをしたら他の子はそれを止めるのが
当たり前。そんな努力もしないで『自分は悪くない』という主張
は認められない。お父様たちはそう考えておいででした。
うちの場合、仲良しというのは連帯責任でもあるのです。
「河合先生の報告によると『遥が真面目に自習してたのは最初
の頃だけで、教室が騒がしくなるとすぐに席を離れてお友だちの
飛び降りる様子を見物してた。最後は、笑顔で拍手したりして、
とても楽しそうに見えた』とあるけど……これは河合先生が私に
嘘をついてるのかな?」
お父様は河合先生からの報告書を眺めながら再度質問します。
「………………」
答えは返ってきませんでした。
実は家庭教師の先生方は父兄席に陣取って授業を見学はします
が授業に口は出しません。こうした自習の時間でもそれは同じで、
子供たちがよほど危険な遊びでも始めない限り(今回はそれほど
危険と判断しなかったのでしょう)授業に口を出すことはありま
せんでした。
「…………それは………だって、私が始めたわけじゃあ……」
遥お姉様はそれだけ言うとあとは言葉になりませんでした。
「確かにそうだ。やり始めたのは遥じゃない。でも、お友だち
の飛び降りを見学するだけでも私たちからすると参加してた事に
かわりはないんだよ。だってその間は座席を離れ窓から身を乗り
出して友だちが飛び降りるのを見てたわけだし、『私は真面目に
自習してました』なんて栗山先生に言ってはいけないだろうね。
それって嘘をついた事になるもの」
「…………」
「お友だちが悪さをしていると思ったのなら、そのお友だちを
止めてあげなきゃ。それが無理でも先生に御報告に行かなきゃ。
遥はどっちもしてないだろう?それって仲良しのお友だちにする
ことなのかな。遥のやってることはお父さん達の目には自分一人
抜け駆けしていい子に見られようとしている自分勝手な行動……
そんな風にしか映らないんだけどなあ」
「……そんなこと言ったって…わたし、飛んでないし……」
絞り出すようなお姉さまの声が聞こえました。
「これが一般の学校なら、お友だちと言っても所詮他人だし、
それでいいのかもしれない。なにせ、今は個人主義の時代だから。
でも、お父さんたちは、ここにいる子どもたちには全員が本当の
兄弟のようになってほしいと思ってるんだ。……なぜだかわかる
かい?」
「……」
遥お姉様は首を振ります。
「残念だけど、君たちには本当のお父さんやお母さんがいない。
ということは、帰る家だってないってことなんだ。……だろう?」
「えっ、……だって、それは、お父様が……」
驚いたお姉様が上目遣いにつぶやきます。
「私のことかい?ありがとう。もちろん私が生きているうちは
おまえたちをずっと愛し続けるよ。でも、私ももう若くはない。
君たちが成人するまで生きてるかどうかさえ知れないじゃないか」
「そんなこと……」
「それから先はどうするね。……今住んでいる家は私が死ねば
すぐに人手に渡るだろうから君たちが住むことはできないんだよ」
「えっ?」
お姉様はきょとんとした顔になります。
子供にとって誰かが死ぬなんてこと頭の片隅にもありませんで
した。私だってそれは同じです。お父様というのは未来永劫私達
を守り続けてくれる人だと信じていましたから。
「もちろん、それでも人生が順調なら、帰る家なんてなくても
問題ないだろうね。……だけど、人間良いときばかりじゃない。
もし、家庭や仕事がうまくいかなかったら、その時はどうするね?」
「どうするって……」
「その立場にならないと分からないだろうけど、帰る家がない
って、とっても辛いことなんだよ。だから、君たちが社会に出た
あと、もし人生につまづいても路頭に迷わないように、私たちは
この学校を作ったんだ。だから、ここには他の境遇で育った子は
一人も入れてない。ここは同じ境遇同じ価値観で育った子だけの
学校にしてある。ここは学校であると同時に君たちにとってここ
が故郷となるようにあえてそうしたんだ」
「ふるさと?」
「そう、この学校が君たちのふるさとだ。だから、もし辛い事
があったら、ここに帰ってしばらく休んでいけばいい。ここには
長期滞在できるゲストハウスもあるから、臨時教員になって得意
分野の授業をしたり、可愛い後輩たちを抱いてあげてお尻をピシ
ピシ叩いてやればいいんだよ。今はまだお尻を叩かれる側の君達
だって、やがては後輩たちのためにお尻を叩く日がくるんだから」
「…………」
その瞬間、お姉様の頬がわずかに緩んだように見えました。
「私たちが口をすっぱくして『みんな仲良く』『みんな仲良く』
って言い続けるのは、単に一緒に何かしましたとか、褒められま
しただけじゃなくて、叱られた事も、お友だちみんなで共有して
欲しいんだ」
「叱られたことも?…………」
「そう、叱られたこともだ」
お父様はお姉様の狐につままれたような顔を見て笑います。
「一緒に悪さをして一緒にお仕置きを受けて欲しい。お仕置き
はご褒美じゃないけど、同じ罰を受けた思い出として大人になれ
ば笑って話せるし、何よりそれで兄弟の絆も強まるから無駄には
ならないんだ。一番いけないのはね、『他の子が悪さしてるのに、
自分だけ知らんぷりしてるって事』みんなが助け合い愛し合って
暮らしてるこの場所でそんな薄情なことしかできないようなら、
君たちが人生最初に拾われた施設に帰ってもらうかもしれない」
「…………」
お姉様はお父様の言葉に思わずのけぞります。
実は、お父様の言う『施設へ帰れ』という言葉は、幼い頃から
お父様たちに大事にされてきた私たちにとっては究極の威し文句
でした。
私達には南極大陸で捨てられるくらいのショックだったんです。
そもそも私たちは物心つく前にここへ来て生活を始めています
から誰の頭の中にも施設時代の思い出なんか存在しないのです。
そんな未知の場所へ戻るなんて、たとえこの先厳しいお仕置き
が待っていたとしてもありえない決断でした。
ですから……
「ごめんなさい、お父様、遥は悪い子でした。どんなお仕置き
も受けます。いい子になります」
遥お姉様はあっさり降参します。畳敷きの舞台を下りてお父様
の足元ににじり寄り両手を胸の前に組んで懺悔します。
愛情深い両親に育てられた人からすれば、こんなこと、お芝居
がかって見えるかもしれません。でも絶対的な後ろ盾を持たない
私たちにしてみると、それは仕方がありませんでした。
残り二人も事情は同じです。二人は、自分たちのお父様の前で
懺悔します。
施設に戻されたくないという思いは、ここでは誰の胸の中にも
共通して存在していたからでした。
ただ、これでハッピーエンドではありません。
「わかった、ならば今日はお前たちのお股にお灸をすえること
にしよう。そうすれば、これから先も今の話が実感できるだろう
から……」
「!!!」
「!!!」
「!!!」
お父様の一言に、三人のお姉様方の顔色が青くなります。
お姉様方の顔から血の気が引いく様子がこんなに離れていても
はっきりとわかりましたから、それは相当なショックだったんだ
と思います。
確かに懺悔はしました。お仕置きも受けます。
でも、まさか、お股にお灸だなんて……
三人ともそんなことまでは考えていなかったみたいでした。
そしてそれは実際に悪さをしていた残り三人にも当然のように
飛び火します。
「他の三人も同じだよ。今日は、六人に同じお仕置きを受けて
もらうからね。六人まとめてお股にお灸のお仕置き。わかったね」
お父様の宣言にも子供たちは誰一人反応しませんでした。
「………………」
「ご返事は!」
お父様の野太い声が広間一杯に響き渡ります。
「はい、ごめんなさい」
「はい、お願いします」
「お灸、受けます」
揃いもそろってイヤイヤながらがはっきりわかるご返事だった
のですが、さすがにお父様方もそれを責めたりはなさいませんで
した。
今から見ると随分乱暴なお仕置きのような気もしますが、当時
それは一般家庭でもまったく例のないことではありませんでした。
(もちろん極めてレアなケースではありますが……)
いずれにしても、お父様たちの願いは、子どもたち全員が同じ
お仕置きを受けることで単なるクラスメイトではない運命共同体
みたいな意識を持ってくれること。これからも弱い立場の子同士、
しっかりスクラムを組んで生きていって欲しいということでした。
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小暮男爵 <第一章> §15 / お股へのお灸
小暮男爵 / 第一章
***<< §15 >>****/お股へのお灸/***
『お股にお灸ですって~ひど~い、残酷すぎるよ』
私は思いました。
いえ、私が思ったぐらいですから、当事者はもっとショックな
はずです。
特に瑞穂お姉様は、慌てて舞台を下りると進藤のお父様の目の
前までやってきて訴えます。
「ひどいよ。だって、私、もう先生からお尻叩かれてるのよ。
もう、お仕置き済んでるのに……」
でも……
「だめだ。これはお父さんたちみんなで話し合って決めたこと
だからね、可愛いお前の頼みでも変更はできないんだ」
「そんなの勝手に決めないでよ。私お嫁に行けなくなっちゃう
でしょう」
「大仰だなあ。もう、お嫁入りの心配してるのかい?」
「もうって……私だって女の子よ。傷物にされたら大変だもん」
「傷物かあ。傷物はよかったなあ。そんな言葉、どこで覚えた
んだい?」
「どこって……」
「(ははは)お仕置きでそんな深刻な傷を作ったりはしないよ。
そもそも、お父さんがお前がお嫁にいけなくなるようなひどい事
すると思うのかい?そんなにお父さんは信用できない?」
「え~~~だってえ~~お灸って痕が残るじゃない」
「そりゃあ、多少はね。……でも目立つほどの痕じゃないし…
…それに、そんな場所、誰も覗かないじゃないか」
「だって、お父さんは私の……覗くじゃない」
瑞穂お姉様は両手でお父様の襟を掴みながら必死に食い下がり
ます。でも最後はお父様に懇願しているというより私にはどっか
甘えているようにも見えました。
「だって私は君の親だもの、君が一人前になるまでは君の全て
を知っておかないいけないからさ。それに、これはお前たちだけ
の特別なお仕置きじゃないんだ。紫苑も美香も、そのまたずっと
先の先輩たちもみんなみんな一度はお股の中にお灸を据えられて
卒業してるんだよ。言ってみればここの伝統みたいなものなのさ」
「うそよ……何なの、その伝統って……そんな野蛮な伝統って
うちにあったの?」
瑞穂お姉様はそう言って絶句します。
でも、私はそれが意外だったので……
「うそ、瑞穂お姉様、お股のお灸のこと知らないんだ。そんなの
みんな知ってるよ」
思わずつぶやいてしまいました。
実は私のお家では、この恥ずかしいお仕置きはそんなに珍しい
ものではありません。
何を隠そう普段お仕置きに縁のなかった私でさえ、これだけは
一足早く体験済みでしたから。
あれは四年生の終わり、春休みで宿題もないから毎日が日曜日。
遥お姉ちゃんとわけもなく家中を走り回ってたら、廊下に飾って
あった大きな花瓶を割っちゃって……
お父様がもの凄い剣幕、
『お前たち、勉強もしないで何を浮かれてるからだ!!』って、
廊下で正座してお説教されたあと、仏間に引っ張って行かれて、
二人並べて素っ裸。
お手伝いに来た河合先生に泣いてとりなしを頼んだんだけど、
結局ダメで、二人とも仰向けに寝かされると、両足を高く上げる
あの恥ずかしいポーズのまま、河合先生に体を押さえつけられて、
女の子の一番恥ずかしい処を大人たちに全~部見られながら……
「ひぃ~~~」って感じでお灸を据えられたことがあったの。
だから遥お姉様だって当然これはもう経験済みだと思ったのよ。
あの時は信じられないくらい恥ずかったし死ぬほど怖かったし
で二人共頭はパニック状態。気が狂ったみたいに泣き叫んだから、
その時の様子は家中の人がみんな知ってるわ。
小百合お姉様や楓お姉様は……
『こんなことぐらいでどうして?……ひょっとしてあんたたち、
何か他にやらかしたんでしょう?』
って同情してくれたけど、あの時期はお父様と一緒にやってた
お勉強は逃げだしてばかりだし、逆に悪さは毎日のようにやって
たから、お仕置きは花瓶だけの問題だけじゃなかったみたいなの。
そう言えば、あの時はパニくっていたのでお灸がもの凄く熱く
感じたけど、その後随分たってからお灸の痕を確認してみたら、
どうにもなってなかったわ。
えっ、どうして?すぐに確認しなかったのか?
もし酷いことになっていたら、私はお父様を恨んでしまいそう
で、それが怖かったのです。
でも、後で河合先生に聴いたら、お父様、お線香の頭をほんの
ちょっと着けただけで、実際に艾を乗せてお灸をすえてないって
言われました。どうやら始めから脅かしだけのつもりみたいです。
えっ、それでその後、お父様とはどうなったか?……
別にどうにもなりませんよ。今までの生活と何一つ変わりあり
ません。
お父様を見つけると、いつも抱っこをおねだりして背中に抱き
つきますし、何かと我儘言ってはお父様を困らせます。
私はそんなお父様の困ったお顔を見るのが大好きでしたから。
私の場合は、お股にお灸を据えられた前も後も甘えん坊さんで
悪い子だったんです。それに何より実年齢以上に赤ちゃんでした。
たまに河合先生が忙しくて、お父様が私をお風呂に入れること
があるのですが、そんな時はお風呂場で裸ん坊さんのままタオル
ケットに包まれて、お姫様抱っこで書斎のソファにベッドイン。
包まれたタオルケットで汗を拭いてもらい、全身をマッサージ。
ほっぺやお乳にも乳液をスリスリしてもらったら、最後は下着を
着けずにパジャマを着てお父様のお膝で一緒に夜のお勉強開始。
これがごく一般的なスケジュールでした。
お姉様たちからは「お父様に甘えすぎ」って言われていたけど、
そもそもお父様がその習慣を変えようとなさらないし私も変えて
もらいたいなんて思わなかったから大きくなってもずっと続いて
いたんです。
ベッドでお股を広げていても相手がお父様ならあえて隠すなん
てことはしなかったの。大胆でしょう。
だって、お父様からならお仕置き以外何をされても楽しいんだ
もの。『楽しいことしてえ~~』って感じで大の字だったわ。
お灸のお仕置きの時はあんなに騒いだのに、終わったら、もう
その日からケロッとしてたんだから。
それに、これはその後本当にお灸を据えられて感じたんだけど、
お灸の痕ってつまりは火傷の痕なわけだから、しばらくは歩くと
そこが微妙に摺れて『あっ、ここ、ここに据えられたんだ』って
わかるのよ。でも、私にとってそれは傷じゃなかった。それって
私の体をお父様がつねに見守ってくれてるみたいで、逆に嬉しか
ったの。
こんな言葉、子供の私が使っちゃいけないかもしれないけど、
お股へのお灸って、お父様に手込めにされた気分なのよ。
据えられた時はたしかに死ぬ思いだったけど、終わってみると、
お父様の愛を自分だけが独り占めできたような、そんな不思議な
高揚感が残ったわ。
これを正直にお父様に話したら……
「『手込め』ねえ……」
最初は複雑な表情だったけど、そのうち……
「……でも、そうかも知れないな。……だったら最後まで面倒
みてあげなきゃね」
私の頭を撫でていつものように抱っこ。
そして……
「いずれにしても嬉しいよ。お前のことだから、こんな厳しい
お仕置きもきっと受け入れてくれるだろうと思ってはいたけど、
ちょっぴり心配もしてたんだ。お前がネガティブになっていない
なら、それが何よりだ」
お父様、そう言うと突然お顔がほころんで……
「ほ~~~ら、お父さんだよ~~~」
よっぽど嬉しかったんでしょうね、お父様は私を目よりも高く
持ち上げると、何度も何度も頬ずりして、なかなか床に下ろして
くれませんでした。
「でも、熱かったよ!ホントに据えるんだもん」
私はお父様のご機嫌が直ってから、あらためて愚痴を言います。
これは私に限らないと思いますが、愛されて育った子どもって、
厳しいお仕置きを言い渡されても『今は怒ってるけど、そのうち
許してくれるんじゃないかしら』って、心ひそかに期待している
ものなんです。
それが最後までいっちゃったものだから、そこが私にとっての
不満でした。
この時のお姉様たちも、端から見える暗い表情ほどには深刻に
考えてじゃなかったかもしれません。
ただ、お姉様たちの様子が心配になりますから、私はその後も
目を皿のようにして隣の部屋の様子を窺っていました。
すると、お父様たちどうやら今回は本気みたいで、お仕置きの
衣装である体操服をご自身で娘に着せ始めます。
すると……
「あっ、ずるい!私の時は素っ裸だったのよ!素っ裸にしろ!」
またしてもつまらない独り言。女の子って妙なところに意固地
なんです。特に扱いが平等でないと怒ります。
私は心の奥底から湧き起こる怒りで思わず目の前のガラス窓を
叩いてしまいました。
が……
その後の手順は私の時と同じでした。
天井の蛍光灯が消され、部屋は一時的に真っ暗。
すぐにお父様たちが手分けして部屋のあちこちに置かれた蜀台
の百目蝋燭に火をつけて回りますから、人の顔が判別できる程度
にはなりますが、揺らめく炎の明かりは電気の明かりと比べれば
はるかに暗くて子供たちには不気味で怖いものです。
この舞台設定だけでも幼い子供たちには十分お仕置きでした。
そんな時代劇のセットのような中で、まず、お父様とその娘が
畳敷きの舞台で、お互い正座して向き合います。
すると、娘が両手を畳に着けてご挨拶。
「お父様、お仕置きお願いします」
なかなか子どもの側から言いにくい言葉ですが、言わなければ
お仕置きは始まりません。始まらなければ終わらないわけで……
この言葉は絶対に言わなければならない言葉でした。
ご挨拶が終わると、その場で仰向けに寝かされて、お父様から
せっかく着せてもらったブルマーとショーツを剥ぎ取られます。
その瞬間、大切な谷間が現れ、やがて両足も持ち上げられます。
女の子だからここで悲鳴の一つも上げたいところですが、そこ
はぐっと我慢します。私たちの世界では追加の罰を受けないため
にもお仕置きの間は極力声を出してはいけませんでした。
各家々の家庭教師が、仰向けになったお姉様方の両肩を両膝で
踏んで押さえ、高く上がった両足の太股をしっかりと鷲づかみに
して支えます。
女の子にとってはこれ以上ないほど惨めで、恥ずかしいポーズ
です。私も同じ姿勢になりましたけど、お股の中をスースー風が
通って屈辱的というか、風邪をひきそうでした。
ただ、こうしたお姉様たちの痴態を眺めていても、私には何の
興味も湧きませんでした。
だって、女の子にしてみたらあんなグロテスクでばっちいもの、
鑑賞する対象じゃありませんから。
ただ、明君に視線が移ると、それは別でした。
『見ちゃいけない』と思いつつも男の子のアレには視線がいっ
ちゃいます。
『へえ~、男の子のって、あんな感じなんだ。真ん中にまるで
縫ったみたいに筋が入ってる』
声には出さないけど滅多に見られない映像に私の心は興奮状態。
いつしか小さなガラス窓にへばりついて明君のアソコを食い入る
ように見つめていました。
すると明君……
突然、大胆にも私に向かってピースサインを送ります。
どうやら、私と目が合ったみたいでした。
男の子って、恥ずかしいって言葉を知らないんでしょうか?
女の子なら絶対にしないと思います。
「?」
それに気づいた明君のお母様がこちらを振り返ります。
さらに、つられる様にして他のお父様たちもこちらを振り返り
ましたから……
『あっ!!ヤバイ』
私は思わず身を隠そうとしたのです。
ところが、あまりに突然だったので、踏み台にしていた小さな
椅子の角で足を滑らせてしまい、真っ逆さま……
「ガラガラ、ガッシャーン」
場内に大きな音が木霊して、私はお尻をしたたか打ってしまい
ました。
「いてててて」
でも、すぐには起き上がれません。
『やばい、逃げなきゃ』
そうは思いましたが、お尻が痛くて痛くてなかなか立てません
でした。出来たのはその場によろよろと立ち上がるところまで。
そこへお父様たちが駆けつけます。
「何だ、美咲じゃないか……大丈夫だったか?」
真っ先に駆けつけた小暮のお父様が私を抱き起こしてくれます。
気がつくと、明君のお母様も瑞穂ちゃんのお父様も様子を見に
きていました。
「へへへへへ」
こういう場合って、もう笑ってごまかすしかありませんでした。
「あれあれ、美咲ちゃんだったのかあ。くぐり戸開いてた?」
「はい」
小さな声で答えると……
「鍵を誰かさんが掛け忘れちゃったみたいだね」
瑞穂お姉さまのお父さん、進藤先生が笑えば、明くんのお母様
真鍋の御前様も続きます。
「あらあら、これはとんだところを見られちゃったみたいね。
……あなた、男の子の物なんて初めて?そんなことないわよね。
うちの明とも一緒にお風呂入ってるから……」
真鍋の御前様は、私が小さなガラス窓に顔を押し付け豚さんに
なってこちらを見ている私の姿を発見なさったのです。
きっと私が男の子の物に興味津々と思われたのでしょう。
とんだ恥さらしだったわけです。
「えっ……まあ」
私は俯きます。
「でも、驚いたでしょう。みんなあんな凄い格好なんですもの
ね」
真鍋の御前様は終始にこやかで私を叱るという雰囲気ではあり
ませんでしたが、お父様は……
「大丈夫ですよ。この子はすでに経験済みですから」
あっさり私の過去をばらしてしまいます。
「経験済みって?……まさか、この子に、なさったんですか?」
「ええ、今年の三月に……」
「それは、また……手回しのよろしいことで……」
「ま、いずれ六年生になったら同級生たちと一緒にあらためて
やらせるつもりではいますが、何しろこの子はお転婆ですからね、
そのくらいしないと効果がないんですよ。この子に限って言えば
予行演習というところです」
「そりゃまた、とんだ災難だったわけだ」
進藤先生は私の頭を鷲づかみにします。
こんなこと、今だったら笑いことではすまないでしょうけど、
当時の親たちにとってこれはお仕置き、あくまで教育の一部。
お灸も躾としてやってるわけですから、親たちも子どもたちに
そんなに深刻なことをしているとは受け止めていませんでした。
「まあ、見ていたんなら仕方がない。その代わりお前も手伝い
なさい」
お父様はそれがさも当然とでも言わんばかりに私の手を引いて
六年生がお仕置きを受けている隣りの大広間へ……。
私、まるで罪人のようにして大広間へと入っていきます。
すると、その入口でいきなり河合先生に組み伏せられている遥
お姉様と目があってしまいます。
それって、お互いばつの悪い思いです。
『あ~あ、下りてこなきゃよかった』
そうは思いましたが後の祭りでした。
六年生六人に対するお灸のお仕置きは畳の上で行われています。
たくさんの、それこそ必要以上に沢山の蝋燭とお線香が周囲で
たかれるなか、私が騒ぎを起こしたために点けられていた蛍光灯
の明かりが消えて、あたりは再び揺らめくローソクの明かりだけ
に……
お線香の香りが辺りに漂い、揺らめく蝋燭の明かりだけが頼り
というのは、それだけで小学生にはプレッシャーです。
もし怒りに任せてお灸をすえるだけなら、こんな仰々しい舞台
装置は必要ありません。
大切なことは、クラスのみんなが一緒にお仕置きを受ける場を
持つこと。そして、その思い出をこれから先も決して忘れないで
ほしいから、お父様たちは子どもが嫌がるお股へのお灸と決め、
ロケーションにも凝ったのでした。
お父様曰く……
子供時代に味わった恥ずかしい思い出や辛い思い出も、大人に
なれば楽しい思い出に変わる。でも、その辛い時代を共有した人
との絆はその後も切れることはない。
小暮のお父様だけでなく他のお父様たちも同じ考えだったよう
です。六人のお父様たちはご自身の戦争体験を通してどなたもが
そう考えていたみたいでした。
これって、今なら当然異論があるでしょうが、私たちはそんな
戦争帰りの人たちから教育を受けた世代なのです。
ですから、時として、今では考えられないようなお仕置きまで
美化されてしまう傾向になるのでした。
さて家庭教師の先生方はというと、子どもたちの両足を開ける
だけ開かせ、且つその体が微動だにしないよう厳重に押さえ込み
ます。
場所はとっても狭い処。まさにピンポイントで手術というわけ
です。もし、驚いて両足を閉じたりしたら他の箇所が火傷しかね
ません。それだけに先生たちもここは真剣でした。
私も何回かこの窮屈な姿勢でお灸をすえられた経験があります
が、これってたんに熱かったというだけでなく女の子にとっては
泣くに泣けないくらい恥ずかしいお仕置きでしたから決して忘れ
ることがありませんでした。
家庭教師の「こちら準備できました」という声に合せ、その子
のお父様が一人また一人と一段高くなかった舞台に上がります。
すると、『ついに来た~』といった感じで子どもたちの顔にも
緊張感が走ります。
お父様が怖いのはどの子もみんな同じなのですが、ただ、その
受け止め方は人様々で、努めて平静を装っている子がいる一方で、
すでに全身を震わせプレッシーに押し潰されそうな子もいます。
ですから、こんな時には不足の事態が起きることも……
「おやおや、やっちゃったねえ」
友理奈ちゃんのお父様は目の前で噴出した噴水に笑いが押さえ
きれませんでした。
女の子のお漏らしもこんな姿勢でやれば男の子並です。
「あらあら、大変、大変」
たちまち他の家庭教師やお父様たちも気がついて、雑巾バケツ
やらボロ布などが用意され、友理奈ちゃんは隣の部屋に隔離され
てしまいます。
お姉様たちも、せっかく脱いだパンツ、せっかく上げた両足で
したが全員いったん元に戻されて正座しなおすことになりました。
畳に残る染みも、他のお姉様たちにはっきり見えたはず。誰が
何を引き起こしたかだって、はっきり分かったはずでした。
誰の目にも事実は明らかでしたが、でもそれを言葉で指摘する
子はここには誰もいません。
こうした事態が起こったとき、何をして何をしてはいけないか、
私たちは幼い頃から厳しく躾られています。家庭では家庭教師が、
学校では学校の先生が、もちろんお父様からも口をすっぱくして
注意を受けます。私たちは常に相手の立場や心情を思いやる子で
なければいけないと教えられてきたのです。
もし、約束を破って友理奈ちゃんを笑ったりしたら、どの家の
子でも間違いなくお仕置きでしょう。
お父様方が私たちに求めたのは、天才や秀才、スポーツマンや
芸術家といった一芸に秀でた子どもではなく、天使様のような、
純な心を持つ少女がお気に入りなのですから、不純な心の持ち主
はいらないということになります。
ですから私たちの場合『お友だちと仲良く』と言われていても、
いじめや仲間はずれ、取っ組み合いの喧嘩さえしなければいいと
いう単純なものではありません。家庭でも、学校でも、常に相手
を敬うベストな友だち付き合いが求められていたのでした。
もちろん幼い身で現実には難しいですけど努力は必要でした。
今回のお仕置きの理由が『お友だちと仲良く出来なかった』と
いうは、お父様たちのそんな気持を反映したものだったのです。
ですから、『お漏らしをした子を笑っちゃいけない』ぐらいの
ことは全員がわかっていました。
しばらくすると、友理奈ちゃんが佐々木のお父様や家庭教師の
先生に連れられて隣りの部屋から戻って来ます。
「みなさん、ごめんなさい」
小さな声で謝ってから再び畳敷きのステージへと上がります。
この歳でお漏らしするなんて、そりゃあ恥ずかしいに決まって
ます。もちろんそれをみんなに見られたことも分かっています。
それでいて誰も何も言わないのは友理奈お姉様にとってもかえっ
て辛いことだったんじゃないでしょうか。私はそう思います。
友理奈お姉様は、お友だちの視線を避けるように俯いたまま、
お父様の処へ。
すると、佐々木のお父様が両手を広げて……
「おいで、友理奈。しばらくここで休もう」
友理奈ちゃんは畳の上に正座した佐々木のお父様のお膝にお尻
をおろします。
お膝の上に抱っこなんてこの歳ではちょっぴり恥ずかしいかも
しれないけれど、誰もその事を笑ったりしません。
もちろん『どんな時でもお友だちを笑ってはいけない』という
約束事はありますが、実はこれ、ここでは他の子だってよくやる
自然な光景でした。
幼い頃からことあるごとに抱かれ続けてきた私たちにとって、
お父様のお膝はお椅子と同じ。『お座りなさい』と言われれば、
素直に座ります。家庭教師の先生でも、学校の先生でも、いえ、
見知らぬ人のお膝にだってごく自然に腰を下ろすのがここの流儀
なのです。
でも、自分のお父様のお膝はやはり誰にとっても格別でした。
座り慣れてるせいか他の誰よりもお尻が優しくてフィットして
心が落着きます。
お灸のお仕置きに限りませんが、子供にとって辛いお仕置きを
受けなければならない時は、そのショックが少しでも軽減される
ようにと、こういう形で待たされることが多いようでした。
お仕置きは見知らぬ人からの闇討ちではありません。沢山沢山
その子を愛してきた人がその子の危険を察知して発する危険信号
みたいなものですから、他の人からやられたら悲鳴のあがるよう
な辛い体験も「静かになさい!」と一言命じるだけで、その子は
歯を喰いしばって我慢できるのでした。
お仕置き前の緊張感のなか、お父様方が畳の上で車座になって
雑談されていますが、正座されているその膝の上にはそれぞれの
お子さんたち、つまり六年生のお姉様方が腰を下ろして頭を撫で
られています。
私はおじゃま虫なわけですが、お父様の背中に張り付くことは
許されていました。
緊張が少しだけほぐれた後、最初に口火を切ったのは、進藤の
お父様。つまり瑞穂お姉様のお父様でした。
「それでは、よろしいでしょうか。当初は一斉にお灸をと考え
ておりましたが友理奈ちゃんの落ち着く時間も必要でしょうから
今回は一人ずつやっていきたいと思います。まずは瑞穂からやら
せていただきますけど、よろしいでしょうか」
瑞穂お姉様が初陣を飾ることには他のお父様たちも異議はなく、
二人は車座の中心へと進みます。
そこが、言わば子供たちの刑場というわけです。
もうこうなったら覚悟を決めるしかありませんでした。
瑞穂お姉様と進藤のお父様は、まずお互いが向かい合って正座
します。最初からのやり直しですから……
「お父様、お仕置きをお願いします」
瑞穂お姉様は畳に両手を着いてご自分のお父様ご挨拶。
『お仕置きは愛を受けるわけだから、ご挨拶は必要なんだよ』
私たちはお父様からこう教えられていました。
もちろん小暮家だけではありません。他の五つの家でもこれは
共通の作法でした。
「それでは始める。みなさんの見ている前だからね、みっとも
ない声は出さないように……いいね」
「はい、お父様」
瑞穂お姉様は健気に答えます。
でも、心の中は震えていたはずです。女の子がこんなにも沢山
の人たちの前でお股を晒してお灸を据えられるなんて、五年生の
私が想像しただけでも恐ろしいことですから、体が変化し始めた
六年生なら、なおさらだったに違いありません。
でも、避けて通れませんでした。
『私の時は河合先生とお父様だけだったからまだよかったけど、
こんなに沢山の人たちからみられていたらショックだわ』
私がそう思って辺りを見回すと、それまで車座になって座って
いた親子がいつの間にか瑞穂お姉様のお股の奥がよく見える場所
へと移動しています。
気がつけば、私だけが取り残されていました。
そして、私も……
「美咲ちゃん。そこでは他の人が見えないよ。こちらへいらっ
しゃい」
膝の上に遥お姉様を抱いてお父様が私を呼び寄せます。
「お友だちのお仕置きを見学するのも、お友だちとしての責任
だけど、美咲ちゃんだけ特等席では他の人たちが見えないよ」
お父様はこう私に注意したのでした。
でも、これってふざけてそうおっしゃったんじゃありません。
ここではお友だちがお仕置きを受ける姿を見学するのもお友だち
としての大事な義務なのです。
お父様は大真面目にこうおっしゃったのでした。
************<15>***********
***<< §15 >>****/お股へのお灸/***
『お股にお灸ですって~ひど~い、残酷すぎるよ』
私は思いました。
いえ、私が思ったぐらいですから、当事者はもっとショックな
はずです。
特に瑞穂お姉様は、慌てて舞台を下りると進藤のお父様の目の
前までやってきて訴えます。
「ひどいよ。だって、私、もう先生からお尻叩かれてるのよ。
もう、お仕置き済んでるのに……」
でも……
「だめだ。これはお父さんたちみんなで話し合って決めたこと
だからね、可愛いお前の頼みでも変更はできないんだ」
「そんなの勝手に決めないでよ。私お嫁に行けなくなっちゃう
でしょう」
「大仰だなあ。もう、お嫁入りの心配してるのかい?」
「もうって……私だって女の子よ。傷物にされたら大変だもん」
「傷物かあ。傷物はよかったなあ。そんな言葉、どこで覚えた
んだい?」
「どこって……」
「(ははは)お仕置きでそんな深刻な傷を作ったりはしないよ。
そもそも、お父さんがお前がお嫁にいけなくなるようなひどい事
すると思うのかい?そんなにお父さんは信用できない?」
「え~~~だってえ~~お灸って痕が残るじゃない」
「そりゃあ、多少はね。……でも目立つほどの痕じゃないし…
…それに、そんな場所、誰も覗かないじゃないか」
「だって、お父さんは私の……覗くじゃない」
瑞穂お姉様は両手でお父様の襟を掴みながら必死に食い下がり
ます。でも最後はお父様に懇願しているというより私にはどっか
甘えているようにも見えました。
「だって私は君の親だもの、君が一人前になるまでは君の全て
を知っておかないいけないからさ。それに、これはお前たちだけ
の特別なお仕置きじゃないんだ。紫苑も美香も、そのまたずっと
先の先輩たちもみんなみんな一度はお股の中にお灸を据えられて
卒業してるんだよ。言ってみればここの伝統みたいなものなのさ」
「うそよ……何なの、その伝統って……そんな野蛮な伝統って
うちにあったの?」
瑞穂お姉様はそう言って絶句します。
でも、私はそれが意外だったので……
「うそ、瑞穂お姉様、お股のお灸のこと知らないんだ。そんなの
みんな知ってるよ」
思わずつぶやいてしまいました。
実は私のお家では、この恥ずかしいお仕置きはそんなに珍しい
ものではありません。
何を隠そう普段お仕置きに縁のなかった私でさえ、これだけは
一足早く体験済みでしたから。
あれは四年生の終わり、春休みで宿題もないから毎日が日曜日。
遥お姉ちゃんとわけもなく家中を走り回ってたら、廊下に飾って
あった大きな花瓶を割っちゃって……
お父様がもの凄い剣幕、
『お前たち、勉強もしないで何を浮かれてるからだ!!』って、
廊下で正座してお説教されたあと、仏間に引っ張って行かれて、
二人並べて素っ裸。
お手伝いに来た河合先生に泣いてとりなしを頼んだんだけど、
結局ダメで、二人とも仰向けに寝かされると、両足を高く上げる
あの恥ずかしいポーズのまま、河合先生に体を押さえつけられて、
女の子の一番恥ずかしい処を大人たちに全~部見られながら……
「ひぃ~~~」って感じでお灸を据えられたことがあったの。
だから遥お姉様だって当然これはもう経験済みだと思ったのよ。
あの時は信じられないくらい恥ずかったし死ぬほど怖かったし
で二人共頭はパニック状態。気が狂ったみたいに泣き叫んだから、
その時の様子は家中の人がみんな知ってるわ。
小百合お姉様や楓お姉様は……
『こんなことぐらいでどうして?……ひょっとしてあんたたち、
何か他にやらかしたんでしょう?』
って同情してくれたけど、あの時期はお父様と一緒にやってた
お勉強は逃げだしてばかりだし、逆に悪さは毎日のようにやって
たから、お仕置きは花瓶だけの問題だけじゃなかったみたいなの。
そう言えば、あの時はパニくっていたのでお灸がもの凄く熱く
感じたけど、その後随分たってからお灸の痕を確認してみたら、
どうにもなってなかったわ。
えっ、どうして?すぐに確認しなかったのか?
もし酷いことになっていたら、私はお父様を恨んでしまいそう
で、それが怖かったのです。
でも、後で河合先生に聴いたら、お父様、お線香の頭をほんの
ちょっと着けただけで、実際に艾を乗せてお灸をすえてないって
言われました。どうやら始めから脅かしだけのつもりみたいです。
えっ、それでその後、お父様とはどうなったか?……
別にどうにもなりませんよ。今までの生活と何一つ変わりあり
ません。
お父様を見つけると、いつも抱っこをおねだりして背中に抱き
つきますし、何かと我儘言ってはお父様を困らせます。
私はそんなお父様の困ったお顔を見るのが大好きでしたから。
私の場合は、お股にお灸を据えられた前も後も甘えん坊さんで
悪い子だったんです。それに何より実年齢以上に赤ちゃんでした。
たまに河合先生が忙しくて、お父様が私をお風呂に入れること
があるのですが、そんな時はお風呂場で裸ん坊さんのままタオル
ケットに包まれて、お姫様抱っこで書斎のソファにベッドイン。
包まれたタオルケットで汗を拭いてもらい、全身をマッサージ。
ほっぺやお乳にも乳液をスリスリしてもらったら、最後は下着を
着けずにパジャマを着てお父様のお膝で一緒に夜のお勉強開始。
これがごく一般的なスケジュールでした。
お姉様たちからは「お父様に甘えすぎ」って言われていたけど、
そもそもお父様がその習慣を変えようとなさらないし私も変えて
もらいたいなんて思わなかったから大きくなってもずっと続いて
いたんです。
ベッドでお股を広げていても相手がお父様ならあえて隠すなん
てことはしなかったの。大胆でしょう。
だって、お父様からならお仕置き以外何をされても楽しいんだ
もの。『楽しいことしてえ~~』って感じで大の字だったわ。
お灸のお仕置きの時はあんなに騒いだのに、終わったら、もう
その日からケロッとしてたんだから。
それに、これはその後本当にお灸を据えられて感じたんだけど、
お灸の痕ってつまりは火傷の痕なわけだから、しばらくは歩くと
そこが微妙に摺れて『あっ、ここ、ここに据えられたんだ』って
わかるのよ。でも、私にとってそれは傷じゃなかった。それって
私の体をお父様がつねに見守ってくれてるみたいで、逆に嬉しか
ったの。
こんな言葉、子供の私が使っちゃいけないかもしれないけど、
お股へのお灸って、お父様に手込めにされた気分なのよ。
据えられた時はたしかに死ぬ思いだったけど、終わってみると、
お父様の愛を自分だけが独り占めできたような、そんな不思議な
高揚感が残ったわ。
これを正直にお父様に話したら……
「『手込め』ねえ……」
最初は複雑な表情だったけど、そのうち……
「……でも、そうかも知れないな。……だったら最後まで面倒
みてあげなきゃね」
私の頭を撫でていつものように抱っこ。
そして……
「いずれにしても嬉しいよ。お前のことだから、こんな厳しい
お仕置きもきっと受け入れてくれるだろうと思ってはいたけど、
ちょっぴり心配もしてたんだ。お前がネガティブになっていない
なら、それが何よりだ」
お父様、そう言うと突然お顔がほころんで……
「ほ~~~ら、お父さんだよ~~~」
よっぽど嬉しかったんでしょうね、お父様は私を目よりも高く
持ち上げると、何度も何度も頬ずりして、なかなか床に下ろして
くれませんでした。
「でも、熱かったよ!ホントに据えるんだもん」
私はお父様のご機嫌が直ってから、あらためて愚痴を言います。
これは私に限らないと思いますが、愛されて育った子どもって、
厳しいお仕置きを言い渡されても『今は怒ってるけど、そのうち
許してくれるんじゃないかしら』って、心ひそかに期待している
ものなんです。
それが最後までいっちゃったものだから、そこが私にとっての
不満でした。
この時のお姉様たちも、端から見える暗い表情ほどには深刻に
考えてじゃなかったかもしれません。
ただ、お姉様たちの様子が心配になりますから、私はその後も
目を皿のようにして隣の部屋の様子を窺っていました。
すると、お父様たちどうやら今回は本気みたいで、お仕置きの
衣装である体操服をご自身で娘に着せ始めます。
すると……
「あっ、ずるい!私の時は素っ裸だったのよ!素っ裸にしろ!」
またしてもつまらない独り言。女の子って妙なところに意固地
なんです。特に扱いが平等でないと怒ります。
私は心の奥底から湧き起こる怒りで思わず目の前のガラス窓を
叩いてしまいました。
が……
その後の手順は私の時と同じでした。
天井の蛍光灯が消され、部屋は一時的に真っ暗。
すぐにお父様たちが手分けして部屋のあちこちに置かれた蜀台
の百目蝋燭に火をつけて回りますから、人の顔が判別できる程度
にはなりますが、揺らめく炎の明かりは電気の明かりと比べれば
はるかに暗くて子供たちには不気味で怖いものです。
この舞台設定だけでも幼い子供たちには十分お仕置きでした。
そんな時代劇のセットのような中で、まず、お父様とその娘が
畳敷きの舞台で、お互い正座して向き合います。
すると、娘が両手を畳に着けてご挨拶。
「お父様、お仕置きお願いします」
なかなか子どもの側から言いにくい言葉ですが、言わなければ
お仕置きは始まりません。始まらなければ終わらないわけで……
この言葉は絶対に言わなければならない言葉でした。
ご挨拶が終わると、その場で仰向けに寝かされて、お父様から
せっかく着せてもらったブルマーとショーツを剥ぎ取られます。
その瞬間、大切な谷間が現れ、やがて両足も持ち上げられます。
女の子だからここで悲鳴の一つも上げたいところですが、そこ
はぐっと我慢します。私たちの世界では追加の罰を受けないため
にもお仕置きの間は極力声を出してはいけませんでした。
各家々の家庭教師が、仰向けになったお姉様方の両肩を両膝で
踏んで押さえ、高く上がった両足の太股をしっかりと鷲づかみに
して支えます。
女の子にとってはこれ以上ないほど惨めで、恥ずかしいポーズ
です。私も同じ姿勢になりましたけど、お股の中をスースー風が
通って屈辱的というか、風邪をひきそうでした。
ただ、こうしたお姉様たちの痴態を眺めていても、私には何の
興味も湧きませんでした。
だって、女の子にしてみたらあんなグロテスクでばっちいもの、
鑑賞する対象じゃありませんから。
ただ、明君に視線が移ると、それは別でした。
『見ちゃいけない』と思いつつも男の子のアレには視線がいっ
ちゃいます。
『へえ~、男の子のって、あんな感じなんだ。真ん中にまるで
縫ったみたいに筋が入ってる』
声には出さないけど滅多に見られない映像に私の心は興奮状態。
いつしか小さなガラス窓にへばりついて明君のアソコを食い入る
ように見つめていました。
すると明君……
突然、大胆にも私に向かってピースサインを送ります。
どうやら、私と目が合ったみたいでした。
男の子って、恥ずかしいって言葉を知らないんでしょうか?
女の子なら絶対にしないと思います。
「?」
それに気づいた明君のお母様がこちらを振り返ります。
さらに、つられる様にして他のお父様たちもこちらを振り返り
ましたから……
『あっ!!ヤバイ』
私は思わず身を隠そうとしたのです。
ところが、あまりに突然だったので、踏み台にしていた小さな
椅子の角で足を滑らせてしまい、真っ逆さま……
「ガラガラ、ガッシャーン」
場内に大きな音が木霊して、私はお尻をしたたか打ってしまい
ました。
「いてててて」
でも、すぐには起き上がれません。
『やばい、逃げなきゃ』
そうは思いましたが、お尻が痛くて痛くてなかなか立てません
でした。出来たのはその場によろよろと立ち上がるところまで。
そこへお父様たちが駆けつけます。
「何だ、美咲じゃないか……大丈夫だったか?」
真っ先に駆けつけた小暮のお父様が私を抱き起こしてくれます。
気がつくと、明君のお母様も瑞穂ちゃんのお父様も様子を見に
きていました。
「へへへへへ」
こういう場合って、もう笑ってごまかすしかありませんでした。
「あれあれ、美咲ちゃんだったのかあ。くぐり戸開いてた?」
「はい」
小さな声で答えると……
「鍵を誰かさんが掛け忘れちゃったみたいだね」
瑞穂お姉さまのお父さん、進藤先生が笑えば、明くんのお母様
真鍋の御前様も続きます。
「あらあら、これはとんだところを見られちゃったみたいね。
……あなた、男の子の物なんて初めて?そんなことないわよね。
うちの明とも一緒にお風呂入ってるから……」
真鍋の御前様は、私が小さなガラス窓に顔を押し付け豚さんに
なってこちらを見ている私の姿を発見なさったのです。
きっと私が男の子の物に興味津々と思われたのでしょう。
とんだ恥さらしだったわけです。
「えっ……まあ」
私は俯きます。
「でも、驚いたでしょう。みんなあんな凄い格好なんですもの
ね」
真鍋の御前様は終始にこやかで私を叱るという雰囲気ではあり
ませんでしたが、お父様は……
「大丈夫ですよ。この子はすでに経験済みですから」
あっさり私の過去をばらしてしまいます。
「経験済みって?……まさか、この子に、なさったんですか?」
「ええ、今年の三月に……」
「それは、また……手回しのよろしいことで……」
「ま、いずれ六年生になったら同級生たちと一緒にあらためて
やらせるつもりではいますが、何しろこの子はお転婆ですからね、
そのくらいしないと効果がないんですよ。この子に限って言えば
予行演習というところです」
「そりゃまた、とんだ災難だったわけだ」
進藤先生は私の頭を鷲づかみにします。
こんなこと、今だったら笑いことではすまないでしょうけど、
当時の親たちにとってこれはお仕置き、あくまで教育の一部。
お灸も躾としてやってるわけですから、親たちも子どもたちに
そんなに深刻なことをしているとは受け止めていませんでした。
「まあ、見ていたんなら仕方がない。その代わりお前も手伝い
なさい」
お父様はそれがさも当然とでも言わんばかりに私の手を引いて
六年生がお仕置きを受けている隣りの大広間へ……。
私、まるで罪人のようにして大広間へと入っていきます。
すると、その入口でいきなり河合先生に組み伏せられている遥
お姉様と目があってしまいます。
それって、お互いばつの悪い思いです。
『あ~あ、下りてこなきゃよかった』
そうは思いましたが後の祭りでした。
六年生六人に対するお灸のお仕置きは畳の上で行われています。
たくさんの、それこそ必要以上に沢山の蝋燭とお線香が周囲で
たかれるなか、私が騒ぎを起こしたために点けられていた蛍光灯
の明かりが消えて、あたりは再び揺らめくローソクの明かりだけ
に……
お線香の香りが辺りに漂い、揺らめく蝋燭の明かりだけが頼り
というのは、それだけで小学生にはプレッシャーです。
もし怒りに任せてお灸をすえるだけなら、こんな仰々しい舞台
装置は必要ありません。
大切なことは、クラスのみんなが一緒にお仕置きを受ける場を
持つこと。そして、その思い出をこれから先も決して忘れないで
ほしいから、お父様たちは子どもが嫌がるお股へのお灸と決め、
ロケーションにも凝ったのでした。
お父様曰く……
子供時代に味わった恥ずかしい思い出や辛い思い出も、大人に
なれば楽しい思い出に変わる。でも、その辛い時代を共有した人
との絆はその後も切れることはない。
小暮のお父様だけでなく他のお父様たちも同じ考えだったよう
です。六人のお父様たちはご自身の戦争体験を通してどなたもが
そう考えていたみたいでした。
これって、今なら当然異論があるでしょうが、私たちはそんな
戦争帰りの人たちから教育を受けた世代なのです。
ですから、時として、今では考えられないようなお仕置きまで
美化されてしまう傾向になるのでした。
さて家庭教師の先生方はというと、子どもたちの両足を開ける
だけ開かせ、且つその体が微動だにしないよう厳重に押さえ込み
ます。
場所はとっても狭い処。まさにピンポイントで手術というわけ
です。もし、驚いて両足を閉じたりしたら他の箇所が火傷しかね
ません。それだけに先生たちもここは真剣でした。
私も何回かこの窮屈な姿勢でお灸をすえられた経験があります
が、これってたんに熱かったというだけでなく女の子にとっては
泣くに泣けないくらい恥ずかしいお仕置きでしたから決して忘れ
ることがありませんでした。
家庭教師の「こちら準備できました」という声に合せ、その子
のお父様が一人また一人と一段高くなかった舞台に上がります。
すると、『ついに来た~』といった感じで子どもたちの顔にも
緊張感が走ります。
お父様が怖いのはどの子もみんな同じなのですが、ただ、その
受け止め方は人様々で、努めて平静を装っている子がいる一方で、
すでに全身を震わせプレッシーに押し潰されそうな子もいます。
ですから、こんな時には不足の事態が起きることも……
「おやおや、やっちゃったねえ」
友理奈ちゃんのお父様は目の前で噴出した噴水に笑いが押さえ
きれませんでした。
女の子のお漏らしもこんな姿勢でやれば男の子並です。
「あらあら、大変、大変」
たちまち他の家庭教師やお父様たちも気がついて、雑巾バケツ
やらボロ布などが用意され、友理奈ちゃんは隣の部屋に隔離され
てしまいます。
お姉様たちも、せっかく脱いだパンツ、せっかく上げた両足で
したが全員いったん元に戻されて正座しなおすことになりました。
畳に残る染みも、他のお姉様たちにはっきり見えたはず。誰が
何を引き起こしたかだって、はっきり分かったはずでした。
誰の目にも事実は明らかでしたが、でもそれを言葉で指摘する
子はここには誰もいません。
こうした事態が起こったとき、何をして何をしてはいけないか、
私たちは幼い頃から厳しく躾られています。家庭では家庭教師が、
学校では学校の先生が、もちろんお父様からも口をすっぱくして
注意を受けます。私たちは常に相手の立場や心情を思いやる子で
なければいけないと教えられてきたのです。
もし、約束を破って友理奈ちゃんを笑ったりしたら、どの家の
子でも間違いなくお仕置きでしょう。
お父様方が私たちに求めたのは、天才や秀才、スポーツマンや
芸術家といった一芸に秀でた子どもではなく、天使様のような、
純な心を持つ少女がお気に入りなのですから、不純な心の持ち主
はいらないということになります。
ですから私たちの場合『お友だちと仲良く』と言われていても、
いじめや仲間はずれ、取っ組み合いの喧嘩さえしなければいいと
いう単純なものではありません。家庭でも、学校でも、常に相手
を敬うベストな友だち付き合いが求められていたのでした。
もちろん幼い身で現実には難しいですけど努力は必要でした。
今回のお仕置きの理由が『お友だちと仲良く出来なかった』と
いうは、お父様たちのそんな気持を反映したものだったのです。
ですから、『お漏らしをした子を笑っちゃいけない』ぐらいの
ことは全員がわかっていました。
しばらくすると、友理奈ちゃんが佐々木のお父様や家庭教師の
先生に連れられて隣りの部屋から戻って来ます。
「みなさん、ごめんなさい」
小さな声で謝ってから再び畳敷きのステージへと上がります。
この歳でお漏らしするなんて、そりゃあ恥ずかしいに決まって
ます。もちろんそれをみんなに見られたことも分かっています。
それでいて誰も何も言わないのは友理奈お姉様にとってもかえっ
て辛いことだったんじゃないでしょうか。私はそう思います。
友理奈お姉様は、お友だちの視線を避けるように俯いたまま、
お父様の処へ。
すると、佐々木のお父様が両手を広げて……
「おいで、友理奈。しばらくここで休もう」
友理奈ちゃんは畳の上に正座した佐々木のお父様のお膝にお尻
をおろします。
お膝の上に抱っこなんてこの歳ではちょっぴり恥ずかしいかも
しれないけれど、誰もその事を笑ったりしません。
もちろん『どんな時でもお友だちを笑ってはいけない』という
約束事はありますが、実はこれ、ここでは他の子だってよくやる
自然な光景でした。
幼い頃からことあるごとに抱かれ続けてきた私たちにとって、
お父様のお膝はお椅子と同じ。『お座りなさい』と言われれば、
素直に座ります。家庭教師の先生でも、学校の先生でも、いえ、
見知らぬ人のお膝にだってごく自然に腰を下ろすのがここの流儀
なのです。
でも、自分のお父様のお膝はやはり誰にとっても格別でした。
座り慣れてるせいか他の誰よりもお尻が優しくてフィットして
心が落着きます。
お灸のお仕置きに限りませんが、子供にとって辛いお仕置きを
受けなければならない時は、そのショックが少しでも軽減される
ようにと、こういう形で待たされることが多いようでした。
お仕置きは見知らぬ人からの闇討ちではありません。沢山沢山
その子を愛してきた人がその子の危険を察知して発する危険信号
みたいなものですから、他の人からやられたら悲鳴のあがるよう
な辛い体験も「静かになさい!」と一言命じるだけで、その子は
歯を喰いしばって我慢できるのでした。
お仕置き前の緊張感のなか、お父様方が畳の上で車座になって
雑談されていますが、正座されているその膝の上にはそれぞれの
お子さんたち、つまり六年生のお姉様方が腰を下ろして頭を撫で
られています。
私はおじゃま虫なわけですが、お父様の背中に張り付くことは
許されていました。
緊張が少しだけほぐれた後、最初に口火を切ったのは、進藤の
お父様。つまり瑞穂お姉様のお父様でした。
「それでは、よろしいでしょうか。当初は一斉にお灸をと考え
ておりましたが友理奈ちゃんの落ち着く時間も必要でしょうから
今回は一人ずつやっていきたいと思います。まずは瑞穂からやら
せていただきますけど、よろしいでしょうか」
瑞穂お姉様が初陣を飾ることには他のお父様たちも異議はなく、
二人は車座の中心へと進みます。
そこが、言わば子供たちの刑場というわけです。
もうこうなったら覚悟を決めるしかありませんでした。
瑞穂お姉様と進藤のお父様は、まずお互いが向かい合って正座
します。最初からのやり直しですから……
「お父様、お仕置きをお願いします」
瑞穂お姉様は畳に両手を着いてご自分のお父様ご挨拶。
『お仕置きは愛を受けるわけだから、ご挨拶は必要なんだよ』
私たちはお父様からこう教えられていました。
もちろん小暮家だけではありません。他の五つの家でもこれは
共通の作法でした。
「それでは始める。みなさんの見ている前だからね、みっとも
ない声は出さないように……いいね」
「はい、お父様」
瑞穂お姉様は健気に答えます。
でも、心の中は震えていたはずです。女の子がこんなにも沢山
の人たちの前でお股を晒してお灸を据えられるなんて、五年生の
私が想像しただけでも恐ろしいことですから、体が変化し始めた
六年生なら、なおさらだったに違いありません。
でも、避けて通れませんでした。
『私の時は河合先生とお父様だけだったからまだよかったけど、
こんなに沢山の人たちからみられていたらショックだわ』
私がそう思って辺りを見回すと、それまで車座になって座って
いた親子がいつの間にか瑞穂お姉様のお股の奥がよく見える場所
へと移動しています。
気がつけば、私だけが取り残されていました。
そして、私も……
「美咲ちゃん。そこでは他の人が見えないよ。こちらへいらっ
しゃい」
膝の上に遥お姉様を抱いてお父様が私を呼び寄せます。
「お友だちのお仕置きを見学するのも、お友だちとしての責任
だけど、美咲ちゃんだけ特等席では他の人たちが見えないよ」
お父様はこう私に注意したのでした。
でも、これってふざけてそうおっしゃったんじゃありません。
ここではお友だちがお仕置きを受ける姿を見学するのもお友だち
としての大事な義務なのです。
お父様は大真面目にこうおっしゃったのでした。
************<15>***********
小暮男爵 ~第一章~ §12 / ランチタイムの話題
小暮男爵/第一章
<<目次>>
§1 旅立ち * §11 二人のお仕置き②
§2 お仕置き誓約書 * §12 ランチタイムの話題
§3 赤ちゃん卒業? * §13 お父様の来校
§4 勉強椅子 * §14 お仕置き部屋への侵入
§5 朝のお浣腸 * §15 お股へのお灸
§6 朝の出来事 * §16 瑞穂お姉様のお仕置き
§7 登校 * §17 明君のお仕置き
§8 桃源郷にて * §18 天使たちのドッヂボール
§9 桃源郷からの帰還 * §19 社子春たちのお仕置き
§10 二人のお仕置き① * §20 六年生へのお仕置き
***<< §12 >>**/ランチタイムの話題/**
私たちの学校でのお昼はその為だけに作られた食堂で頂きます。
体育館の半分ほどの広さに丸い窓がアクセントのその部屋には
ペルシャ絨毯が敷き詰められクラスごとの大きなテーブルが置か
れていました。
テーブルに並ぶ食器もちょっぴり値の張る陶器や磁器、銀製品。
子供用のプラスチックやアルミの食器などでは真の躾はできない
とお父様方が揃えられたのです。そのためこの場所は子どもさえ
いなければまるでホテルの宴会場のようにも見えます。
子どもにはちょっと贅沢すぎる空間ですが、この学校には父兄
の他にも卒業生の方々がよく臨時講師として招かれておりました
から、そうした人たちが食事するスペースも確保しておかなけれ
ばなりません。
OBOGの中には、お父様方傘下の企業で現社長の腹心として
取締役に着いている紳士とか大学教授、弁護士、医師、高級官僚
など成功者の方々がたくさんいらっしゃいます。そうした方々を
まさか埃たつ教室に招いてプラスチックの食器で食事をさせると
いうわけにはいきませんでした。
そんな高級レストラン(?)に最初にやってくるのは上級生の
お姉さんたちが親しみを込めてチビちゃんと呼ぶ小学一年生から
三年生の小学校下級生の子たちです。
時間割の都合上このチビちゃんたちがたいてい一番のりでした。
彼らはまず中庭で摘んできた草花を各テーブルに置かれた一輪
挿しの花瓶に生けて回ります。
それが済むとお姉さま方のテーブルを回って、お皿やナイフ、
フォーク、スプーン、箸箱といったものを並べていきます。
身長がちょっぴり足りませんからそのための専用の踏み台まで
用意されていました。
もちろん私もチビちゃんと呼ばれていた頃はこれをやっていま
した。
でも、このお仕事、なぜか自分たちが食べる分の食器について
はやらないのです。
チビちゃんたちが食べる分を持ってくるのは少し遅れて食堂に
入って来る上級生のお姉さまたち。
まず厨房入った中学生のお姉さまグループがチビちゃんたちの
ための料理を盛り付け、小学四年生から六年生の上級生グループ
が配膳台でそれを受け取って、お腹をすかせたチビちゃんたちの
テーブルへ運びます。
要するに小学校高学年グループは、ウェートレスさんの仕事を
することになるのでした。
配膳台から出てくるチビちゃんたちの料理は色んな料理が一つ
のお皿に盛られたワンプレートスタイル。一見すると社員食堂や
学食などで提供される定食のようにも見えますが、アレルギーや
どうしてもその食材に手を着けられない子の為に個別の盛り付け
が細かく指示されていました。
そのため、お料理の取り違えが起こらないようにボールやお皿、
グラスにまでその子の好きな花が家紋代わりに描かれていますし、
箸も箸箱もその子専用。スプーンやフォークなどの食器には一つ
一つ名前が掘り込まれています。もちろん料理を運ぶトレイにも
ちゃんとその子の名前が貼り付けてありました。
つまりここの給食は一応決まった献立はあるのですが、その子
の事情に応じて料理も食器もすべてがオーダーメイドなのです。
ですから給仕役の私たちもそれを間違えるわけにはいきません。
食器と料理を慎重に確認してからトレイに乗せチビちゃんたちの
待つテーブルを回ります。
その子の前に来てもう一度確認。
「愛子ちゃんのお皿、チューリップだったわよね」
って、その子にあらためて確認を取ってからお料理を並べます。
そもそも何で上級生の私たちがチビちゃんたちの為に給仕役を
やらされるの?という不満もないことはないのですが……
それを先生に言うと……
「何言ってるの、あなたたちは女の子なんだから当たり前です」
の一言で片付けられてしまいます。
実際ここは戦前まで華族様専用の学校でしたから、当然こんな
仕事もありませんでしたが、戦後、お父様が学校を買い取られて
からは『これからは何事も平民の流儀に習って…』と大きく方向
転換されたんだそうです。
ちなみに、園長先生がおっしゃるには、昔の名残りがあるのは
胤子先生への一礼といつでも誰に対しても同じ『ごきげんよう』
というご挨拶だけなんだそうです。
他の子の不満はともかく、私としては料理をテーブルに運んで
行く先でチビちゃんたちが必ず……
「ありがとうございます。お姉さま」
と笑顔で迎えてくれるのが励みでした。
上級生も……
「午後も先生お友だちに囲まれて幸せが続きますように」
と返すのが一般的です。
最後にその子の手を取って、ハンドキスをして別れます。
これは西洋の習慣ではなく、いつの頃からか始まったこの学校
独自のしきたり。あくまでサービスです。
ところが、相手は幼いですからね、嫌いな先輩のキスだと露骨
にそこをゴシゴシと拭ったりします。
その後、私たちはこの日のお昼をご一緒する先生の為に料理を
運び、中学生のお姉様たちのテーブルも回ります。
そして最後が、私たちのテーブルでした。
文字通り小学校高学年組は給食の給仕役をやらされてる訳です
が、私自身はそれがそんなに苦痛ではありませんでした。
だって、そのことでみんな笑顔になってくれますから、多くの
人の役に立っているという実感がありました。
大事な事はみんなで助け合って食事の準備をすること。他の人
にやっていただいたことには感謝すること。うちの学校にあって
は給食はそんな常識を学ぶ場だったんです。
さて、そうやって苦労のあげくいただく料理なんですが、実は
部屋の内装に比べるとこちらはそんなに豪華版じゃありません。
この日のメニューは、トマトシチューにサラダ、黒パン、牛乳、
ちょっぴりのフルーツといったところでしょうか。
シチューやサラダ、それにフルーツといったものはチビちゃん
たちのワンプレートとは違って、あえて個別にせずクラスごとに
置かれた大きな鉢に入れてあります。
それを担任の小宮先生から分けてもらうことになっていました。
もちろんこれだって自分たちで勝手に取り分けた方が手っ取り
早いんですが、夕食のお肉の塊をわざわざお父様が切り分けて、
一皿ずつ家族に振舞うのと同じで、全ては権威づけの為でした。
私たちの置かれた特殊事情で、小宮先生は学校の先生であると
同時に私たちにとってはお母様でもあるわけですから、私たちが
素直に尊敬の念を抱けるよう工夫されていたのでした。
さて、普段のお昼はこんな感じで豪華な料理はでません。
ただ、例外があって、月に一度、外からシェフが来て私たちに
本格的なコース料理を振舞ってくれる日があります。
この日の料理は確かに豪華なんですが、テーブルマナーを学ぶ
のが本来の目的ですからお行儀よくしていなければなりませんし、
慣れないフォークやナイフと格闘しなければなりません。
おかげで、お料理そのものをそんなに美味しいと感じる余裕は
ありませんでした。
実は、さっき名前の彫られたフォークやナイフがあるって言い
ましたけど、普段の食事であれはたいていお飾りなんです。
当時、私たちが日常的に使っていたのは、あくまで自分の箸箱
から取り出すマイ箸。チビちゃんたちはその方が食べやすいので
スプーンやフォークを使いますが、私たちの年齢になると大半が
箸を使って食べます。食卓には練習用にと毎回フォークやナイフ
が並べられますが、一度も料理に触れることなく下げられること
がほとんどでした。
そんなことより、女の子たちにとって一番のご馳走は気の置け
ないお友だちとのおしゃべり。これが何よりのご馳走でした。
ですから、私たちは席に着くなりすぐにおしゃべりを始めます。
園長先生が手を叩いて一瞬場内が静まりますが、それが続くのは
全員が唱和する「いただきます」の瞬間まで。すぐに、さっきの
続きが始まるのでした。
そんなおしゃべりを楽しむ大事な時間に慣れない洋食器は邪魔
でしかない。わかるでしょう。
「ねえ、ねえ、お尻、痛かった?今も赤くなってるの?ねえ、
教えてよ。私のところからだと、前の子が邪魔になってはっきり
見えなかったのよ」
お下げ髪の詩織ちゃんがあけすけに尋ねます。
『えっ、また……』
私はうんざり。そして、返事に困ります。
実はお仕置きが終わって図画教室に行く時も、授業が終わって
この食堂へ来る時もお友だちの話題はこればっかり。
私はお友だちからしつこく同じ質問を受けていました。
でも、その時は……
「私、慣れてるから」
なんて半笑いで応えていたのですが、父兄も同席しているこの
テーブルで言われるとさすがにカチンときます。
正直、『あなたさあ、他のお友だちの話、聞いてなかったの!』
って怒鳴りたい気分でした。
でもそれをやっちゃうと恥の上塗りにもなりますから、あえて
黙っていたのです。
「ダメよ、詩織ちゃん。場所柄をわきまえなさい。お食事中に
するお話じゃないでしょう」
さっそく、詩織の家庭教師、町田先生がたしなめます。
実は、付き添いの家庭教師さんたち、授業中は教え子の様子を
黙って見守るだけですが、休み時間になると、今の授業で分から
なさそうにしていた箇所にアドバイスを送りにやってきます。
そしてお昼には、まるで学校の先生のような顔をして教え子の
隣りに座り、私たちと同じメニューの昼食をいただくのでした。
入学したての頃は右も左もわかりませんから学校まで着いきて
くれる家族同然の家庭教師の存在を頼もしく思っていましたが、
上級生ともなると、いつも監視される生活は逆にうっとうしいと
感じられることが多くなります。
ただ、こんな時だけは助かりました。
今にして思うと、家庭教師がそばにいたから授業で分からない
処も即座にフォローされますし、後ろ盾になってくれますから、
お友だちから仲間はずれにされたり虐められたりすることもあり
ません。それに、うっかり今日の宿題を忘れてたとしても、家庭
教師も一緒に聞いていますから家に帰ってからやり忘れるなんて
こともありませんでした。
それに何より一番大きな利点は、学校で落ち込むようなこと、
例えば今回のようなお仕置きがあっても、家庭教師という身内が
その胸を貸してくれること、甘えさせてくれることでした。
「ねえ、広志君、鷲尾の谷ってどんな処なの?」
今度は里香ちゃんが広志君に尋ねています。
すると広志君、最初困った顔をしましたが、すぐに持ってきた
自分の絵を見せます。そして、ぶっきらぼうに……
「こういう処さ」
「わあ~~~」
「すご~~い」
「綺~~~麗」
たちまち女の子たちが立ち上がり里香ちゃんの席は人だかりに。
「ほらほら、食事中ですよ」
小宮先生の声も耳に入らないほどの人気だったのです。
「絵の周りの、この黒い縁は何?」
「洞穴だよ。その中から外を見て描いたんだ」
「ねえねえ、上から下がってるこの蔓は?」
「山葡萄」
「じゃあ、この岩の間に咲いてる花は?」
「山百合」
広志君は女の子の質問にそっけなく答えます。
「ねえ、この棒は何なの?」
「棒じゃないよ。雲の間から陽が差してるのさ」
「ねえ、こんなにもくもくの雲なんて本当に湧くの?」
「湧くよ。榎田先生に聞いたけど、あの辺は気流の関係で黒く
て厚い雲が湧きやすいんだって。学校はあの谷より高い処にある
からこの雲は下に見えるんだって」
広志君の絵は小学生としてはとても細密で遠くの町の様子まで
細かく描きわけられています。
こんな細かな絵ですから、図画授業の時間内ではまだ完成して
いませんでした。ただ、そんな未完成の絵でも見てみたいという
希望者は何も子供たちだけではありませんでした。
「ほらほら、席へ戻りなさい」
小宮先生がそう言って里香ちゃんから絵を取上げると、今度は
家庭教師の人たちがその絵を一目見ようと席を立ちます。
「わあ、こんな表現、小学生がするのね。しかも様になってる
ところが凄いわ」
「本当。神秘的ね。この光の帯から本当に天使が降りてきそう
だもの」
「ねえ、この百合よく描けてると思わない。まさに谷間に咲く
白百合って感じかしら」
「私はこの街のシルエットがたまらないわ。よくこんなに精密
に描けるもんね」
小宮先生も群がる家庭教師軍団に呆れ顔。これでは叱ったはず
の生徒に示しがつきませんでした。
でも、それほどまでに広志君の絵は上手だったのです。
一方、その頃、当の広志君はというと、自分の絵が評価されて
いることにはまったく興味がない様子で、隣のテーブルにばかり
視線を走らせています。
『?』
視線の先を追うとそこは六年生のテーブル。そしてそこに何が
あったかというと、大きな鏡でした。
前にも説明しましたが、鏡というのは私たちの隠語で、実際は
磨かれた鉄板です。その鉄板を座面に敷いて女の子が一人、食堂
の椅子に腰を下ろしています。
『あれかあ』
女の子はスカートを目一杯広げて何とか鉄の座布団を隠そうと
していますが、鏡の角が飛び出して光っていたのです。
光の奥は、当然、ノーパン。
広志君はそれを見ていたのでした。
『まったく、男の子ってどうしてああスケベなんだろう』
私は広志君に軽蔑の眼差しを送りましたが、当の広志君は……
もう夢中で、私の事など気づく様子がありません。
実は、昼食の最中は授業ではありませんから、ちょっとぐらい
の粗相では罰は受けないものなのです。
それがこうして昼食の最中も鏡を敷かされてるわけですから、
『瑞穂お姉様ったら前の授業でよほど担任の先生を怒らせたに
違いないわ』
私は直感的にそう思います。
「ねえ、ジロジロ見てたらみっともないわよ」
私が広志君に注意すると……
「いいじゃないか、お仕置きなんだもん。僕らだってたっぷり
見られたんだし……自業自得だよ」
「だって、可哀想でしょう」
「そんなことないよ。僕たちの方がよっぽど可哀想だよ。お尻
までみんなに見られたんだよ」
「そりゃそうだけど、笑わなくてもいいでしょう……」
「別に笑ってなんかいないよ。でも、お昼の時間まで鏡の上に
座らされてるんだもん。これからきっと厳しいお仕置きがあると
思うよ。それを想像してると何だか楽しくなっちゃうんだよね。
美咲ちゃんはそんなの思わないの?」
「思いません!」
急に声が大きくなってしまいました。
「まったく、男の子って悪趣味ね。よその子の不幸を利用して
楽しむなんて……そっとしておいてあげればいいじゃないの」
「いいじゃないか、思うだけなんだから……誰にも迷惑かけて
ないし……」
広志君口を尖らせます。
「…………」私は呆れたという顔をします。
でも、そう言ってる私だって、表向きはともかく、心の中では
思わず、瑞穂お姉さまが鏡の上に座っている原因をあれこれ想像
してしまうのでした。
『ほんと、瑞穂お姉様どうしたのかしら?単元テストの成績が
ものすごく悪かったとか……』
単元テストというのは一学期に十回ほどある業者テストのこと
で、復習を兼ねて行われます。九十点と言いたいところですが、
女の子の場合は八十点を越えていればお咎めなしでした。
『違うなあ、あのテストはたとえ六十点でも、やらされるのは
たいてい担任の先生との居残り特訓だけだもの』
『カンニング!?……もしそうなら、そりゃあ怖いことになる
かもしれないけど、まさかね。瑞穂お姉さまは頭がいいんだもの。
そんなの必要ないわ』
『それとも、先生に悪戯?……お姉様って、学級委員のくせに
わりとヤンチャなのよね。……ぶうぶうクッションを先生の椅子
に仕込むとか、蛇や蛙の玩具を教卓の引き出しに入れておくとか。
……ん~~~でも瑞穂お姉様が今さらそんな幼い子みたいなこと
するはずないか……』
『先生にたてついた?ってのは……ちょっと癇癪持ちだけど、
栗山先生とは仲がいいもんね、そもそも学級委員やってるのも、
栗山先生のご指名なんだから。……あ~あ、思いつかないわね。
……廊下を走った?……そんな事ぐらいじゃこんな罰受けないか。
……それとも、お友だちとの喧嘩した?……違うわね。たしかに
あれで男の子みたいな処もあるけど……』
いくら考えても答えなんて出てくるはずがありません。
もちろん、直接、本人に確かめるのが手っ取り早いでしょうが、
それって嫌われちゃう可能性もありますから、女の子としては、
あえてそんなリスクを犯してまで尋ねたいとは思いませんでした。
ところが……
その答えは、意外に早くやってきます。
話題のテーブルから、六年生の担任、栗山先生がお鍋を抱えて
こちらのテーブルへやって来たのです。
栗山先生は私たちの小宮先生を訪ねたのでした。
「ねえ、シチュー残っちゃってるけど、食べない?」
「どうしたの?いつも足らないって言ってるくせに……」
「今日は全員食欲がないみたいなのよ」
当初の用件はコレだったのですが……
「原因は、あれ?」
小宮先生は瑞穂お姉様に視線を送ります。
「察しがいいわね。そういうことよ」
「ねえ、ミホ(瑞穂)、どうしたの?」
小宮先生が私に代わって尋ねてくださいました。
すると……
「四時間目、授業時間が中途半端になっちゃったから各自自習
にしておいたんだけど…そうしたらあの子たち、授業中二階から
飛び降りて遊んでたのよ」
「二階から!?」
「ほら、私の教室の窓の下に伐採した木の枝や葉っぱが集めら
れてて小山になってるところがあるでしょう。あそこに向かって
飛び降りる遊びを始めちゃったってわけ」
「危ないことするわね。一歩間違えれば大怪我じゃないの。…
…で、それをミホ(瑞穂)が?」
「そうなのよ。あの子が最初にやり始めたの。何しろあの子、
他人に乗せられやすいから……友だちに囃し立てられられると、
ついつい悪ノリしちゃって……どうやら三回も窓の庇から飛んだ
らしいわ」
「帰りは?」
「正々堂々、玄関からご帰還よ。……何度も何度も同じ生徒が
授業中に廊下を通るんでおかしいなと思って窓の外に身を乗り出
してみたら、女の子が傘を差してスカートを翻して二階の窓から
飛び降りるのが目に入ったってわけ」
「あなた見たの?」
「違うわよ」
「じゃあ、誰かに見つかったの?」
「梅津先生」
「おや、おや、一番まずいのに見つかっちゃったわけだ」
「こうなったら、私だって叱らないわけにはいかないでしょう。
瑞穂と囃し立ててた数人を運動場に連れて行って、全員を肋木に
縛りつけておいてお尻叩き」
「あらあら、……パンツ下ろして?」
「そこまではしないけど、スカートは上げて革のスリッパで、
しっかり1ダースは叩いてあげたわ」
「どおりでポンポンと小気味のいい音が運動場から聞こえると
思ったら、あれ、あなただったのね。要するに私がこの子たちを
お仕置きしたしわ寄せがあなたに来たってわけだ」
「ま、そういうことになるのかな」
「あらあらごめんなさい。とんだ肉体労働させちゃったわね」
「やあねえ、冗談よ。決まってるじゃない。そうじゃなくて、
この子たちも、もう六年生だし……お鞭の味も少しは覚えさせて
おこうかと思って……いつまでも平手でお尻ペンペンでもないで
しょう」
「なるほど、それで今日は食事も喉を通らないってわけね」
「瑞穂もさすがに応えたみたいで、お尻叩きのあとも泣いてた
から、お仕置きも兼ねてお尻を冷やさせてるのよ」
先生二人はひそひそ話でしたが、女の子たちは、全員そ知らぬ
ふりで聞き耳をたてています。
誰にしてもこんな美味しい話を聞かない手はありませんでした。
『瑞穂お姉さま、この分じゃお家に帰ってからもお仕置きね』
私は思わずお灸を据えられて悲鳴を上げている瑞穂お姉さまを
想像してしまいます。
それって悲劇でも同情でも何でもありません。
邪まな思いが私の心を喜ばせ、いつしか口元が緩みます。
ここまで来ると、私に広志君のことをとやかく言う資格なんて
ありませんでした。
そして、それはいつしか瑞穂お姉さまではなく私自身がお父様
からお仕置きを受けている映像へと変化していきます。
誰にも気取られないように平静を装ってはいましたが、心の中
ではどす黒い雲が幾重にも渦を捲いて神様からいただいたはずの
清らかな光を閉じ込めてしまいます。
しだいに甘い蜜が身体の中心線を痺れさせ子宮を絞りあげます。
吐息が乱れ呼吸が速くなります。
邪悪な願望が心の中で渦巻いて、糸巻き車の針に指を刺すよう
悪魔が囁きます。
『私も、お姉様みたいに鏡を敷いて震えてみたい。お父様から
お仕置きされてみたい。息もできないくらいに身体を押さえつけ
られて、身体が木っ端微塵になるほどお尻を叩かれたら……ああ、
最後はお父様の胸の中で愛されるの。ううう……幸せだろうなあ』
私は独り夢想してもだえていました。
最もして欲しくないことなのに、本当にそうなったら逃げ回る
くせに、私の心は悲劇を渇望してさ迷っていました。
そう、私の心の中では思い描く悲劇の先にはなぜか悦楽の都が
あるような気がしてならないのでした。
***********<12>************
<<目次>>
§1 旅立ち * §11 二人のお仕置き②
§2 お仕置き誓約書 * §12 ランチタイムの話題
§3 赤ちゃん卒業? * §13 お父様の来校
§4 勉強椅子 * §14 お仕置き部屋への侵入
§5 朝のお浣腸 * §15 お股へのお灸
§6 朝の出来事 * §16 瑞穂お姉様のお仕置き
§7 登校 * §17 明君のお仕置き
§8 桃源郷にて * §18 天使たちのドッヂボール
§9 桃源郷からの帰還 * §19 社子春たちのお仕置き
§10 二人のお仕置き① * §20 六年生へのお仕置き
***<< §12 >>**/ランチタイムの話題/**
私たちの学校でのお昼はその為だけに作られた食堂で頂きます。
体育館の半分ほどの広さに丸い窓がアクセントのその部屋には
ペルシャ絨毯が敷き詰められクラスごとの大きなテーブルが置か
れていました。
テーブルに並ぶ食器もちょっぴり値の張る陶器や磁器、銀製品。
子供用のプラスチックやアルミの食器などでは真の躾はできない
とお父様方が揃えられたのです。そのためこの場所は子どもさえ
いなければまるでホテルの宴会場のようにも見えます。
子どもにはちょっと贅沢すぎる空間ですが、この学校には父兄
の他にも卒業生の方々がよく臨時講師として招かれておりました
から、そうした人たちが食事するスペースも確保しておかなけれ
ばなりません。
OBOGの中には、お父様方傘下の企業で現社長の腹心として
取締役に着いている紳士とか大学教授、弁護士、医師、高級官僚
など成功者の方々がたくさんいらっしゃいます。そうした方々を
まさか埃たつ教室に招いてプラスチックの食器で食事をさせると
いうわけにはいきませんでした。
そんな高級レストラン(?)に最初にやってくるのは上級生の
お姉さんたちが親しみを込めてチビちゃんと呼ぶ小学一年生から
三年生の小学校下級生の子たちです。
時間割の都合上このチビちゃんたちがたいてい一番のりでした。
彼らはまず中庭で摘んできた草花を各テーブルに置かれた一輪
挿しの花瓶に生けて回ります。
それが済むとお姉さま方のテーブルを回って、お皿やナイフ、
フォーク、スプーン、箸箱といったものを並べていきます。
身長がちょっぴり足りませんからそのための専用の踏み台まで
用意されていました。
もちろん私もチビちゃんと呼ばれていた頃はこれをやっていま
した。
でも、このお仕事、なぜか自分たちが食べる分の食器について
はやらないのです。
チビちゃんたちが食べる分を持ってくるのは少し遅れて食堂に
入って来る上級生のお姉さまたち。
まず厨房入った中学生のお姉さまグループがチビちゃんたちの
ための料理を盛り付け、小学四年生から六年生の上級生グループ
が配膳台でそれを受け取って、お腹をすかせたチビちゃんたちの
テーブルへ運びます。
要するに小学校高学年グループは、ウェートレスさんの仕事を
することになるのでした。
配膳台から出てくるチビちゃんたちの料理は色んな料理が一つ
のお皿に盛られたワンプレートスタイル。一見すると社員食堂や
学食などで提供される定食のようにも見えますが、アレルギーや
どうしてもその食材に手を着けられない子の為に個別の盛り付け
が細かく指示されていました。
そのため、お料理の取り違えが起こらないようにボールやお皿、
グラスにまでその子の好きな花が家紋代わりに描かれていますし、
箸も箸箱もその子専用。スプーンやフォークなどの食器には一つ
一つ名前が掘り込まれています。もちろん料理を運ぶトレイにも
ちゃんとその子の名前が貼り付けてありました。
つまりここの給食は一応決まった献立はあるのですが、その子
の事情に応じて料理も食器もすべてがオーダーメイドなのです。
ですから給仕役の私たちもそれを間違えるわけにはいきません。
食器と料理を慎重に確認してからトレイに乗せチビちゃんたちの
待つテーブルを回ります。
その子の前に来てもう一度確認。
「愛子ちゃんのお皿、チューリップだったわよね」
って、その子にあらためて確認を取ってからお料理を並べます。
そもそも何で上級生の私たちがチビちゃんたちの為に給仕役を
やらされるの?という不満もないことはないのですが……
それを先生に言うと……
「何言ってるの、あなたたちは女の子なんだから当たり前です」
の一言で片付けられてしまいます。
実際ここは戦前まで華族様専用の学校でしたから、当然こんな
仕事もありませんでしたが、戦後、お父様が学校を買い取られて
からは『これからは何事も平民の流儀に習って…』と大きく方向
転換されたんだそうです。
ちなみに、園長先生がおっしゃるには、昔の名残りがあるのは
胤子先生への一礼といつでも誰に対しても同じ『ごきげんよう』
というご挨拶だけなんだそうです。
他の子の不満はともかく、私としては料理をテーブルに運んで
行く先でチビちゃんたちが必ず……
「ありがとうございます。お姉さま」
と笑顔で迎えてくれるのが励みでした。
上級生も……
「午後も先生お友だちに囲まれて幸せが続きますように」
と返すのが一般的です。
最後にその子の手を取って、ハンドキスをして別れます。
これは西洋の習慣ではなく、いつの頃からか始まったこの学校
独自のしきたり。あくまでサービスです。
ところが、相手は幼いですからね、嫌いな先輩のキスだと露骨
にそこをゴシゴシと拭ったりします。
その後、私たちはこの日のお昼をご一緒する先生の為に料理を
運び、中学生のお姉様たちのテーブルも回ります。
そして最後が、私たちのテーブルでした。
文字通り小学校高学年組は給食の給仕役をやらされてる訳です
が、私自身はそれがそんなに苦痛ではありませんでした。
だって、そのことでみんな笑顔になってくれますから、多くの
人の役に立っているという実感がありました。
大事な事はみんなで助け合って食事の準備をすること。他の人
にやっていただいたことには感謝すること。うちの学校にあって
は給食はそんな常識を学ぶ場だったんです。
さて、そうやって苦労のあげくいただく料理なんですが、実は
部屋の内装に比べるとこちらはそんなに豪華版じゃありません。
この日のメニューは、トマトシチューにサラダ、黒パン、牛乳、
ちょっぴりのフルーツといったところでしょうか。
シチューやサラダ、それにフルーツといったものはチビちゃん
たちのワンプレートとは違って、あえて個別にせずクラスごとに
置かれた大きな鉢に入れてあります。
それを担任の小宮先生から分けてもらうことになっていました。
もちろんこれだって自分たちで勝手に取り分けた方が手っ取り
早いんですが、夕食のお肉の塊をわざわざお父様が切り分けて、
一皿ずつ家族に振舞うのと同じで、全ては権威づけの為でした。
私たちの置かれた特殊事情で、小宮先生は学校の先生であると
同時に私たちにとってはお母様でもあるわけですから、私たちが
素直に尊敬の念を抱けるよう工夫されていたのでした。
さて、普段のお昼はこんな感じで豪華な料理はでません。
ただ、例外があって、月に一度、外からシェフが来て私たちに
本格的なコース料理を振舞ってくれる日があります。
この日の料理は確かに豪華なんですが、テーブルマナーを学ぶ
のが本来の目的ですからお行儀よくしていなければなりませんし、
慣れないフォークやナイフと格闘しなければなりません。
おかげで、お料理そのものをそんなに美味しいと感じる余裕は
ありませんでした。
実は、さっき名前の彫られたフォークやナイフがあるって言い
ましたけど、普段の食事であれはたいていお飾りなんです。
当時、私たちが日常的に使っていたのは、あくまで自分の箸箱
から取り出すマイ箸。チビちゃんたちはその方が食べやすいので
スプーンやフォークを使いますが、私たちの年齢になると大半が
箸を使って食べます。食卓には練習用にと毎回フォークやナイフ
が並べられますが、一度も料理に触れることなく下げられること
がほとんどでした。
そんなことより、女の子たちにとって一番のご馳走は気の置け
ないお友だちとのおしゃべり。これが何よりのご馳走でした。
ですから、私たちは席に着くなりすぐにおしゃべりを始めます。
園長先生が手を叩いて一瞬場内が静まりますが、それが続くのは
全員が唱和する「いただきます」の瞬間まで。すぐに、さっきの
続きが始まるのでした。
そんなおしゃべりを楽しむ大事な時間に慣れない洋食器は邪魔
でしかない。わかるでしょう。
「ねえ、ねえ、お尻、痛かった?今も赤くなってるの?ねえ、
教えてよ。私のところからだと、前の子が邪魔になってはっきり
見えなかったのよ」
お下げ髪の詩織ちゃんがあけすけに尋ねます。
『えっ、また……』
私はうんざり。そして、返事に困ります。
実はお仕置きが終わって図画教室に行く時も、授業が終わって
この食堂へ来る時もお友だちの話題はこればっかり。
私はお友だちからしつこく同じ質問を受けていました。
でも、その時は……
「私、慣れてるから」
なんて半笑いで応えていたのですが、父兄も同席しているこの
テーブルで言われるとさすがにカチンときます。
正直、『あなたさあ、他のお友だちの話、聞いてなかったの!』
って怒鳴りたい気分でした。
でもそれをやっちゃうと恥の上塗りにもなりますから、あえて
黙っていたのです。
「ダメよ、詩織ちゃん。場所柄をわきまえなさい。お食事中に
するお話じゃないでしょう」
さっそく、詩織の家庭教師、町田先生がたしなめます。
実は、付き添いの家庭教師さんたち、授業中は教え子の様子を
黙って見守るだけですが、休み時間になると、今の授業で分から
なさそうにしていた箇所にアドバイスを送りにやってきます。
そしてお昼には、まるで学校の先生のような顔をして教え子の
隣りに座り、私たちと同じメニューの昼食をいただくのでした。
入学したての頃は右も左もわかりませんから学校まで着いきて
くれる家族同然の家庭教師の存在を頼もしく思っていましたが、
上級生ともなると、いつも監視される生活は逆にうっとうしいと
感じられることが多くなります。
ただ、こんな時だけは助かりました。
今にして思うと、家庭教師がそばにいたから授業で分からない
処も即座にフォローされますし、後ろ盾になってくれますから、
お友だちから仲間はずれにされたり虐められたりすることもあり
ません。それに、うっかり今日の宿題を忘れてたとしても、家庭
教師も一緒に聞いていますから家に帰ってからやり忘れるなんて
こともありませんでした。
それに何より一番大きな利点は、学校で落ち込むようなこと、
例えば今回のようなお仕置きがあっても、家庭教師という身内が
その胸を貸してくれること、甘えさせてくれることでした。
「ねえ、広志君、鷲尾の谷ってどんな処なの?」
今度は里香ちゃんが広志君に尋ねています。
すると広志君、最初困った顔をしましたが、すぐに持ってきた
自分の絵を見せます。そして、ぶっきらぼうに……
「こういう処さ」
「わあ~~~」
「すご~~い」
「綺~~~麗」
たちまち女の子たちが立ち上がり里香ちゃんの席は人だかりに。
「ほらほら、食事中ですよ」
小宮先生の声も耳に入らないほどの人気だったのです。
「絵の周りの、この黒い縁は何?」
「洞穴だよ。その中から外を見て描いたんだ」
「ねえねえ、上から下がってるこの蔓は?」
「山葡萄」
「じゃあ、この岩の間に咲いてる花は?」
「山百合」
広志君は女の子の質問にそっけなく答えます。
「ねえ、この棒は何なの?」
「棒じゃないよ。雲の間から陽が差してるのさ」
「ねえ、こんなにもくもくの雲なんて本当に湧くの?」
「湧くよ。榎田先生に聞いたけど、あの辺は気流の関係で黒く
て厚い雲が湧きやすいんだって。学校はあの谷より高い処にある
からこの雲は下に見えるんだって」
広志君の絵は小学生としてはとても細密で遠くの町の様子まで
細かく描きわけられています。
こんな細かな絵ですから、図画授業の時間内ではまだ完成して
いませんでした。ただ、そんな未完成の絵でも見てみたいという
希望者は何も子供たちだけではありませんでした。
「ほらほら、席へ戻りなさい」
小宮先生がそう言って里香ちゃんから絵を取上げると、今度は
家庭教師の人たちがその絵を一目見ようと席を立ちます。
「わあ、こんな表現、小学生がするのね。しかも様になってる
ところが凄いわ」
「本当。神秘的ね。この光の帯から本当に天使が降りてきそう
だもの」
「ねえ、この百合よく描けてると思わない。まさに谷間に咲く
白百合って感じかしら」
「私はこの街のシルエットがたまらないわ。よくこんなに精密
に描けるもんね」
小宮先生も群がる家庭教師軍団に呆れ顔。これでは叱ったはず
の生徒に示しがつきませんでした。
でも、それほどまでに広志君の絵は上手だったのです。
一方、その頃、当の広志君はというと、自分の絵が評価されて
いることにはまったく興味がない様子で、隣のテーブルにばかり
視線を走らせています。
『?』
視線の先を追うとそこは六年生のテーブル。そしてそこに何が
あったかというと、大きな鏡でした。
前にも説明しましたが、鏡というのは私たちの隠語で、実際は
磨かれた鉄板です。その鉄板を座面に敷いて女の子が一人、食堂
の椅子に腰を下ろしています。
『あれかあ』
女の子はスカートを目一杯広げて何とか鉄の座布団を隠そうと
していますが、鏡の角が飛び出して光っていたのです。
光の奥は、当然、ノーパン。
広志君はそれを見ていたのでした。
『まったく、男の子ってどうしてああスケベなんだろう』
私は広志君に軽蔑の眼差しを送りましたが、当の広志君は……
もう夢中で、私の事など気づく様子がありません。
実は、昼食の最中は授業ではありませんから、ちょっとぐらい
の粗相では罰は受けないものなのです。
それがこうして昼食の最中も鏡を敷かされてるわけですから、
『瑞穂お姉様ったら前の授業でよほど担任の先生を怒らせたに
違いないわ』
私は直感的にそう思います。
「ねえ、ジロジロ見てたらみっともないわよ」
私が広志君に注意すると……
「いいじゃないか、お仕置きなんだもん。僕らだってたっぷり
見られたんだし……自業自得だよ」
「だって、可哀想でしょう」
「そんなことないよ。僕たちの方がよっぽど可哀想だよ。お尻
までみんなに見られたんだよ」
「そりゃそうだけど、笑わなくてもいいでしょう……」
「別に笑ってなんかいないよ。でも、お昼の時間まで鏡の上に
座らされてるんだもん。これからきっと厳しいお仕置きがあると
思うよ。それを想像してると何だか楽しくなっちゃうんだよね。
美咲ちゃんはそんなの思わないの?」
「思いません!」
急に声が大きくなってしまいました。
「まったく、男の子って悪趣味ね。よその子の不幸を利用して
楽しむなんて……そっとしておいてあげればいいじゃないの」
「いいじゃないか、思うだけなんだから……誰にも迷惑かけて
ないし……」
広志君口を尖らせます。
「…………」私は呆れたという顔をします。
でも、そう言ってる私だって、表向きはともかく、心の中では
思わず、瑞穂お姉さまが鏡の上に座っている原因をあれこれ想像
してしまうのでした。
『ほんと、瑞穂お姉様どうしたのかしら?単元テストの成績が
ものすごく悪かったとか……』
単元テストというのは一学期に十回ほどある業者テストのこと
で、復習を兼ねて行われます。九十点と言いたいところですが、
女の子の場合は八十点を越えていればお咎めなしでした。
『違うなあ、あのテストはたとえ六十点でも、やらされるのは
たいてい担任の先生との居残り特訓だけだもの』
『カンニング!?……もしそうなら、そりゃあ怖いことになる
かもしれないけど、まさかね。瑞穂お姉さまは頭がいいんだもの。
そんなの必要ないわ』
『それとも、先生に悪戯?……お姉様って、学級委員のくせに
わりとヤンチャなのよね。……ぶうぶうクッションを先生の椅子
に仕込むとか、蛇や蛙の玩具を教卓の引き出しに入れておくとか。
……ん~~~でも瑞穂お姉様が今さらそんな幼い子みたいなこと
するはずないか……』
『先生にたてついた?ってのは……ちょっと癇癪持ちだけど、
栗山先生とは仲がいいもんね、そもそも学級委員やってるのも、
栗山先生のご指名なんだから。……あ~あ、思いつかないわね。
……廊下を走った?……そんな事ぐらいじゃこんな罰受けないか。
……それとも、お友だちとの喧嘩した?……違うわね。たしかに
あれで男の子みたいな処もあるけど……』
いくら考えても答えなんて出てくるはずがありません。
もちろん、直接、本人に確かめるのが手っ取り早いでしょうが、
それって嫌われちゃう可能性もありますから、女の子としては、
あえてそんなリスクを犯してまで尋ねたいとは思いませんでした。
ところが……
その答えは、意外に早くやってきます。
話題のテーブルから、六年生の担任、栗山先生がお鍋を抱えて
こちらのテーブルへやって来たのです。
栗山先生は私たちの小宮先生を訪ねたのでした。
「ねえ、シチュー残っちゃってるけど、食べない?」
「どうしたの?いつも足らないって言ってるくせに……」
「今日は全員食欲がないみたいなのよ」
当初の用件はコレだったのですが……
「原因は、あれ?」
小宮先生は瑞穂お姉様に視線を送ります。
「察しがいいわね。そういうことよ」
「ねえ、ミホ(瑞穂)、どうしたの?」
小宮先生が私に代わって尋ねてくださいました。
すると……
「四時間目、授業時間が中途半端になっちゃったから各自自習
にしておいたんだけど…そうしたらあの子たち、授業中二階から
飛び降りて遊んでたのよ」
「二階から!?」
「ほら、私の教室の窓の下に伐採した木の枝や葉っぱが集めら
れてて小山になってるところがあるでしょう。あそこに向かって
飛び降りる遊びを始めちゃったってわけ」
「危ないことするわね。一歩間違えれば大怪我じゃないの。…
…で、それをミホ(瑞穂)が?」
「そうなのよ。あの子が最初にやり始めたの。何しろあの子、
他人に乗せられやすいから……友だちに囃し立てられられると、
ついつい悪ノリしちゃって……どうやら三回も窓の庇から飛んだ
らしいわ」
「帰りは?」
「正々堂々、玄関からご帰還よ。……何度も何度も同じ生徒が
授業中に廊下を通るんでおかしいなと思って窓の外に身を乗り出
してみたら、女の子が傘を差してスカートを翻して二階の窓から
飛び降りるのが目に入ったってわけ」
「あなた見たの?」
「違うわよ」
「じゃあ、誰かに見つかったの?」
「梅津先生」
「おや、おや、一番まずいのに見つかっちゃったわけだ」
「こうなったら、私だって叱らないわけにはいかないでしょう。
瑞穂と囃し立ててた数人を運動場に連れて行って、全員を肋木に
縛りつけておいてお尻叩き」
「あらあら、……パンツ下ろして?」
「そこまではしないけど、スカートは上げて革のスリッパで、
しっかり1ダースは叩いてあげたわ」
「どおりでポンポンと小気味のいい音が運動場から聞こえると
思ったら、あれ、あなただったのね。要するに私がこの子たちを
お仕置きしたしわ寄せがあなたに来たってわけだ」
「ま、そういうことになるのかな」
「あらあらごめんなさい。とんだ肉体労働させちゃったわね」
「やあねえ、冗談よ。決まってるじゃない。そうじゃなくて、
この子たちも、もう六年生だし……お鞭の味も少しは覚えさせて
おこうかと思って……いつまでも平手でお尻ペンペンでもないで
しょう」
「なるほど、それで今日は食事も喉を通らないってわけね」
「瑞穂もさすがに応えたみたいで、お尻叩きのあとも泣いてた
から、お仕置きも兼ねてお尻を冷やさせてるのよ」
先生二人はひそひそ話でしたが、女の子たちは、全員そ知らぬ
ふりで聞き耳をたてています。
誰にしてもこんな美味しい話を聞かない手はありませんでした。
『瑞穂お姉さま、この分じゃお家に帰ってからもお仕置きね』
私は思わずお灸を据えられて悲鳴を上げている瑞穂お姉さまを
想像してしまいます。
それって悲劇でも同情でも何でもありません。
邪まな思いが私の心を喜ばせ、いつしか口元が緩みます。
ここまで来ると、私に広志君のことをとやかく言う資格なんて
ありませんでした。
そして、それはいつしか瑞穂お姉さまではなく私自身がお父様
からお仕置きを受けている映像へと変化していきます。
誰にも気取られないように平静を装ってはいましたが、心の中
ではどす黒い雲が幾重にも渦を捲いて神様からいただいたはずの
清らかな光を閉じ込めてしまいます。
しだいに甘い蜜が身体の中心線を痺れさせ子宮を絞りあげます。
吐息が乱れ呼吸が速くなります。
邪悪な願望が心の中で渦巻いて、糸巻き車の針に指を刺すよう
悪魔が囁きます。
『私も、お姉様みたいに鏡を敷いて震えてみたい。お父様から
お仕置きされてみたい。息もできないくらいに身体を押さえつけ
られて、身体が木っ端微塵になるほどお尻を叩かれたら……ああ、
最後はお父様の胸の中で愛されるの。ううう……幸せだろうなあ』
私は独り夢想してもだえていました。
最もして欲しくないことなのに、本当にそうなったら逃げ回る
くせに、私の心は悲劇を渇望してさ迷っていました。
そう、私の心の中では思い描く悲劇の先にはなぜか悦楽の都が
あるような気がしてならないのでした。
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