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第 7 話
< 第 7 話 >
真里への儀式が終わったあと、一週間ほど過ぎてから私は河村さんに
頼まれて一緒に図書館を案内することになった。もちろんそんな仕事は
他に誰でもできそうなものだが、巷での面識がある私の方が心強いのか
私を指名してきたのだった。
「どうですか、その後、真里ちゃんとは?」
「ええ、私の方は順調です。最初、パジャマを用意したんですが先生
から止められたんでしょうね次の日からは着なくなりました。それでも
いきなり親しみの湧かない男の隣に裸で寝るのは可哀想だと思い。タオ
ルケットを捲いて寝るようにしたんです。でも、それもNGだったらし
く、三日目はついに私の隣で裸で寝てくれました。そして四日目、恐る
恐る抱いてみると抵抗らしい抵抗は何もしませんでしたが震えてました
からね、『寒いのか?』って言ったら笑ってました。以降は他の子と同じ
です。今日の出来事をあれやこれや聞いて、これからやりたいことや夢
なんかを聞いて…私は想いで話しをして…幼い子には絵本を読んでやっ
たりします」
「いい、お父様ですね」
「いえ、自分の子供たちにはこんなこと、したことありませんでした。
当時は忙しかったもんでね。なかなか子供の相手はしてやれなくて……
娘とも一緒に風呂に入れたのは、たしか幼稚園まででしたよ。以後は、
一緒にお風呂に入ろうなんて言おうものなら変態扱いですからね。でも
ここでは15の子でも一緒にお風呂なんですね」
「それが子供たちの仕事なんですよ。私たちはお父様に可愛がられる
ように動きますし、そうなるようにママや先生方から訓練され続けるん
です」
「どうりで……ここの子供たちはなんて無垢で純粋でよく躾られてて
なんて子供らしい子供なんだろうって思ってましたけど、あれは私たち
を喜ばせるお芝居だったんですね」
「いえ、純粋なお芝居じゃありませんよ。義務感をもってお父様たち
とは接っしますが、心にもないことをしてるってわけじゃないんです。
子供ですからね、抱かれれば素直に嬉しいし、お風呂で身体を洗っても
らうのも、同じお布団のなかで身体を撫でてもらうのも、それはそれで
楽しいことなんです」
「でも、それって子供たちには辛いことを強いてるじゃありませんか」
「確かに大人たちの期待に応えることができないとお仕置きお仕置き
で追いまくられますからその点は辛いですけど、ただお父様はお仕置き
なんてしませんからね、お父様との関係で辛いと思ったことはありませ
んよ」
「でも、先週は真里にわたし……」
「あれは例外中の例外ですよ。その代わり、慣れるまでは真里を毎晩
抱き続けてくださいって言われたでしょう」
「ええ、……でも、うまくいってますよ」
「女王様はそうなることを見越して河村さんお願いしたんだと思いま
す。ご自分でお灸をすえてその責任をとっていただく」
「せ、責任ですか……」
「いえ、そう堅苦しく考える必要はありませんよ。慣れるまで真里を
毎晩抱いてやればいいんです。普段、夜とぎの子供は日替わりでしょう
けど、真里だけは特別に毎晩抱いてくださいということなんですから」
「なるほどそういうことなんですか」
「相手は子供ですからね。大人のようには割り切れない子もいるわけ
です」
「そりゃそうでしょうね。かたや物心ついた時から抱かれ続けた親、
こちらはいきなり現れたおじさん。こりゃ勝負になりませんよ」
「でも、そんなことも想定して躾ているので大半は大丈夫なんですが
……」
「だから、例外中の例外ってわけですか」
「今夜あたり、あの子のお股の中に手を入れてみてごらんなさい」
「えっ、そんなこと」
「大丈夫ですよ。といってあまり卑猥な動きをされても困りますけど、
触れたという程度なら問題はありません。……私なんて男でしたけど、
お母様から毎晩のようにオチンチンを触られ、キスされ、ありとあらゆ
る処を濃厚なスキンシップで責められましたけど、別に不快と感じた事
なんてありませんでした。いえ僕だけじゃありませんよ。亀山で育った
子はどの子も大人のスキンシップを楽しい遊びとして躾られてますから
ね、少々のことでは驚かないんです」
「真里のような思春期の子でも…ですか」
「はい、そのあたりは巷の子供たちとは感性が違うはずです」
「…………」
河村氏は口を閉じてしまったが、後日、この事で礼を言われた。恐ら
くそんな子供がいるなんて彼には信じられなかったんだろう。しかし、
亀山とはそんな処だ。だからこそ、資産家が金を使いわざわざ移住まで
して子供の世話をする不思議な場所なのだ。
雑談するうち目的地に着いた。そこは子供が立ち入ることのできない
大人たち専用の図書館だ。
「ここって、学校ですよね?勝手に入って大丈夫なんですか?身分証
か何か……」
「そんなもの必要ありませんよ。ここに限らず亀山はどこでも大半が
出入り自由なんです。そもそも怪しい人はこの山には入れませんから。」
それは私にとっての常識だから思わず心の中でふいてしまった。
「…河村さんだって温泉宿の大浴場に入ったことがあるでしょう?」
「ええ、まあ…」
「その時、身分証なんか提示して湯船に浸かりますか?」
「……」
「ここも同じなんです。お互い同じ常識を共有する者同士の信頼関係
で成り立っているんです。ですから、亀山のゲートをくぐる時は色々と
チェックがありますけど、入ってしまえば、中は自分の常識やモラルの
範囲で自由に行動して構わないんです。でなければ年頃の娘を素っ裸に
して公園の枷に繋ぎ止めとくなんてことができるわけないじゃないです
か。逆に言うと、そんなことができる処だからこそここは楽園なんです」
「なるほど……だから外国人には門戸を開いていないのか」」
「さあ、こちらです」
講堂の中二階まで一旦上がってその奥にある目立たない扉を開ける。
小さな踊り場の先に石造りの階段があって、螺旋状に地下へと降りて
いけるようになっている。その階段は鍵のかかった厚い木の扉で行き止
まり。だが脇にあいた小窓に部屋の鍵を置くと用務員のおじさんが扉を
開けてくれる手はずになっていた。
「どうぞ、河村様、合沢様」
作業服姿の用務員さんは厚い木の扉を開き丁重に二人を招き入れる。
入ると応接セットといった感じのソファとテーブルがあってバーカウン
ターも備わっている。広さも五六人がちょうど心地よいという程度だ。
「酒も飲めるんですか?」
「ええ、固いことは言いませんが、ドアを出れば学校ですからそこは
ご理解ください」
「なるほど、生活のすべての面で私の良識が試されるというわけだ」
「亀山への入場を許されている人はすでにその資質が高く評価されて
いる方ばかりですから堅苦しく考える必要はありませんが、多くの人の
美学に反するようなら問題となることもあります。ただ、ここについて
言うなら、多少の醜態は大目に見てもらえます。夜まで待って外に出れ
ばいいんですから」
「なるほど」
二人の会話に先ほどの用務員さんが顔を出す。
「ご予約がございませんでしたのでこのような姿で失礼いたします。
お飲物は?」
「ドライマティーニ」
「ぼくはスクリュードライバーで」
「承知しました。こちらが本日のメニューでございます」
そう言って置いていった厚手の表紙の薄い本。
「メニューですか」
河村氏はそう言って手に取った。どうやらそれが本当にメニューだと
思って中を開いたようだった。
「…………」
驚きの表情が楽しい。
中にはずらりと昨日今日起こった事件が……
「なるほど」
事のあらましまで記(しる)したお仕置きの記録がそこには写真付き
で載せてあった。
「お気に入りのものがあれば取り寄せることができますよ」
私は自分に渡されたメニューを見ながら河村氏に勧める。
メニューはあくまでサンプル。学校のお仕置きは必ず動く絵となって
残っていたのだ。
「どれもいいですね。迷ってしまいます。でも、これ全部というわけ
にはいかないんでしょう」
「もちろん可能ですが、一皿3万円ですけど、よろしいですか?」
「ということはこれ五本で15万円か……」河村氏はしばし笑ってい
たが、「いいでしょう。でも、ビデオは持ち帰れるんでしょう?」という
ので、その説明をしようとしたら用務員さんがドライマティーニとスク
リュードライバーを銀盆の上に乗せて現れた。
「残念ながら旦那様、それはここでしか見ることができないんです。
ただ一旦お買いあげになられたものはここに来ていただければいつでも
無料でご覧になれますが……」
「持ち出しはできないのか」河村氏は苦笑したが、それはあきらめた
ということではなかった。
「分かりました。五本とも買い取りますよ。正直、私はこういう事が
嫌いではないものですから……」
「それはようございました」
用務員さんはメニューを下げようとしたが…
「おう、これは失礼いたしました。今日のメニューには由香里お嬢様
のが含まれております。たしか、由香里様は河村様の……」
「ああ、そうだよ。だからこそそれを一番始めに見てみたいと思って
たんだ」
「でしたら、これに代金は発生しません。親御さんがご自分の娘さん
の折檻をご覧になるのは当たり前のことですから」
「そうか……」河村氏の笑い皺がさらに深くなった。
「ところで、もっと古いものもあるのかね。例えば、ここの合沢先生
がここにいらした頃のものとか……」
「ええ、ございますけど、当時は8ミリか16ミリフィルムでしたの
であまり画質がよろしくございませんが……」
「かまわないよ。探してみてくれないか。……ね、合沢先生」
河村氏が悪戯っぽく笑う。
「…………仕方ありませんね。本当はあまりお見せしたくないんです
が、拒否する権限もありませんから……ま、よろしいでしょう。来月、
一万円振り込まれますから、それで寝酒でも買います」
「ん、どういうこと?」
「ここで先生が支払われたお金はそのフィルムに映っている子の口座
に振り込まれる仕組みになってるんです。現役の子は手数料なしの3万
円、大学卒業前の子は手数料1万円を引いて2万円、私のような社会人
だと2万円が手数料で1万円が振り込まれるというわけです」
「なるほど育英資金になってるわけか。ささやかだけど何もないより
ましだ」
「これだけじゃないんですよ。みんな楽器を習ってるでしょう」
「ああ、みんな上手なんで驚いてる」
「その演奏会が年に10回くらい開かれるんですが、そこでのギャラ
ンティーなんかも個人口座に振り込まれるんです」
「へえ~~じゃあみんなプロなんだ。どうりでうまいはずだ。でも、
そのレッスン料なんかは?」
「もちろんお父様が払います。それに演奏会といっても多くがお父様
とコネクションのある会社で開かれるものでマッチポンプみたいな催し
ものも少なくありませんから子供たちが純粋にお金を稼いだとは言えな
いかもしれませんが……」
「つまり、はじめから我が子にお金を渡す目的で自分で演奏会を開く
ってことだ」
「ええ」
恥ずかしそうに答えると…
「でも、いいじゃないか。それだけ愛されてるって事だもん。いや、
実をいうとね。世間色々うるさい事を言う人がいるから、ひょっとして
もっとうさんくさい処なんじゃないかって心配してたんだ。でも、今の
君の話を聞いて安心したよ。ここのお父様たちは本当に子供好きで子供
を愛しているってわかったから……」
「本当は直接お金を渡した方が安上がりなんだけど、それじゃあ子供
のためにならないからって……」
「そうでしょうね、分かりますよ」
「女王様やお父様達が知恵を出し合って成人になるまでにいくらかで
もお金を残してやろうというので色んな催し物に引っ張られるんです。
でも世間を知らない子供たちはそんな大人の愛情なんかも分かりません
からね。『孤児だからってこき使うなよな。僕たちだって遊びたいんだ
ぞ!』って影で言ってました」
「親の心子知らずですね」
「貯金通帳は一応見せられるんで、お金が貯まっていく様子は分かる
んですが、どのみち数字だけで使えませんから実感が湧かないんです」
「どのくらいになるんですか?」
「人によってそれぞれでしょうけど……僕の場合は一番多い時で……
三千万円くらいじゃなかったかなあ」
「三千万ですか。そんなに……」
「僕は男の子でしたし、それにめちゃくちゃに弾いたピアノ曲がレコ
ードになってちょっぴり売れたりしたもんだから……」
「男の子の方が稼ぐんですか?」
「社会人になった時の支度金として稼がせてくれるんですよ。女の子
の場合、お嫁入りの相手も結婚資金もお父様が出すケースが多いもんで
すから、手元資金はそんなにいらないんです。もし、結婚生活がうまく
いかなくてもここへ戻って先生をやるって方法もありますし……でも、
そう言うと彼女たち怒ります。そんな考えが女性の自立を妨げてるって
ね」
「ねえ先生、そんな音楽の才能がおありだったら、先生はなぜそちら
の道には進まれなかったんですか?」
「そちらって音楽ですか?」
「作曲がお得意とか……さっき言われてましたでしょう……」
「ああ、あれですか。あれは、一応、五線紙に音符は書きましたけど、
当時の音楽の先生がよりよく手直ししてくれたから完成できたんです。
僕の力だけじゃないんです。それに完成したそのレコードを売ってくだ
さったのも天野お父様なんですから僕の誇れるものは何もないんですよ。
とにかく、お父様も女王様も私たちの口座にお金が振り込まれるように
色んな仕組みを考えてくださってるんです。これだけじゃありませんよ。
これなんかその一部です」
「そうか、そう聞いては五本では足りないな。百本くらい買ってあげ
ないと……」
「それは豪勢ですね。でも無理なさらなくてもいいですよ。ここには
それこそ膨大な量の映像が眠っていますから。暇をみつけていらっしゃ
って、興味を引く物があれば、ぼちぼちお買い上げくだされば、それで
いいんですから。ドライマティーニはこちらによろしいですか」
用務員さんがいつの間にか蝶ネクタイ姿になってカクテルを運んでく
る。
「ねえ、このビデオを本人と楽しむというのは悪趣味だろうか」
「構いませんよ。合沢様がご承知なら…」
「いや、今の子供たちとですよ」
「それはちょっと……先生がお仕置きの一つとしてそうしたことなさ
ることはありますけど、いずれにしてもここへは子供を呼べませんから」
「あっそうか、肝心なことを忘れてた」
「スクリュードライバーをお持ちしました」
「ありがとう」私は用務員さんからカクテルを受け取ると河村さんに
助言する。
「簡単なことですよ。その子のお父様と仲良しになればいいんです」
「なるほど、その手があったか」
このあと、河村氏は太古の昔に撮られた私のお仕置きフィルムを探し
出すと、楽しそうにその当時の様子を質問してくるのだが、私としては
いくら過去のことでも恥ずかしい思いでにつき合わされるのは苦痛で、
適当に調子をあわせることになる。
ただ、……
『おれ、こんな顔をしてお灸をが我慢してたのか』
『あの美少女、大きくなってからはいつも凛としていて近寄りがたか
ったのに、こんな事して泣き叫んでた時もあったんだなあ』
『あっ、高橋先生、若い!』
『あっ、これ覚えてるよ。クラスの子全員素っ裸にされて校庭を三周
走らされた時のやつだ』
などという発見もあったので決して無意味ではなかったのだが……。
真里への儀式が終わったあと、一週間ほど過ぎてから私は河村さんに
頼まれて一緒に図書館を案内することになった。もちろんそんな仕事は
他に誰でもできそうなものだが、巷での面識がある私の方が心強いのか
私を指名してきたのだった。
「どうですか、その後、真里ちゃんとは?」
「ええ、私の方は順調です。最初、パジャマを用意したんですが先生
から止められたんでしょうね次の日からは着なくなりました。それでも
いきなり親しみの湧かない男の隣に裸で寝るのは可哀想だと思い。タオ
ルケットを捲いて寝るようにしたんです。でも、それもNGだったらし
く、三日目はついに私の隣で裸で寝てくれました。そして四日目、恐る
恐る抱いてみると抵抗らしい抵抗は何もしませんでしたが震えてました
からね、『寒いのか?』って言ったら笑ってました。以降は他の子と同じ
です。今日の出来事をあれやこれや聞いて、これからやりたいことや夢
なんかを聞いて…私は想いで話しをして…幼い子には絵本を読んでやっ
たりします」
「いい、お父様ですね」
「いえ、自分の子供たちにはこんなこと、したことありませんでした。
当時は忙しかったもんでね。なかなか子供の相手はしてやれなくて……
娘とも一緒に風呂に入れたのは、たしか幼稚園まででしたよ。以後は、
一緒にお風呂に入ろうなんて言おうものなら変態扱いですからね。でも
ここでは15の子でも一緒にお風呂なんですね」
「それが子供たちの仕事なんですよ。私たちはお父様に可愛がられる
ように動きますし、そうなるようにママや先生方から訓練され続けるん
です」
「どうりで……ここの子供たちはなんて無垢で純粋でよく躾られてて
なんて子供らしい子供なんだろうって思ってましたけど、あれは私たち
を喜ばせるお芝居だったんですね」
「いえ、純粋なお芝居じゃありませんよ。義務感をもってお父様たち
とは接っしますが、心にもないことをしてるってわけじゃないんです。
子供ですからね、抱かれれば素直に嬉しいし、お風呂で身体を洗っても
らうのも、同じお布団のなかで身体を撫でてもらうのも、それはそれで
楽しいことなんです」
「でも、それって子供たちには辛いことを強いてるじゃありませんか」
「確かに大人たちの期待に応えることができないとお仕置きお仕置き
で追いまくられますからその点は辛いですけど、ただお父様はお仕置き
なんてしませんからね、お父様との関係で辛いと思ったことはありませ
んよ」
「でも、先週は真里にわたし……」
「あれは例外中の例外ですよ。その代わり、慣れるまでは真里を毎晩
抱き続けてくださいって言われたでしょう」
「ええ、……でも、うまくいってますよ」
「女王様はそうなることを見越して河村さんお願いしたんだと思いま
す。ご自分でお灸をすえてその責任をとっていただく」
「せ、責任ですか……」
「いえ、そう堅苦しく考える必要はありませんよ。慣れるまで真里を
毎晩抱いてやればいいんです。普段、夜とぎの子供は日替わりでしょう
けど、真里だけは特別に毎晩抱いてくださいということなんですから」
「なるほどそういうことなんですか」
「相手は子供ですからね。大人のようには割り切れない子もいるわけ
です」
「そりゃそうでしょうね。かたや物心ついた時から抱かれ続けた親、
こちらはいきなり現れたおじさん。こりゃ勝負になりませんよ」
「でも、そんなことも想定して躾ているので大半は大丈夫なんですが
……」
「だから、例外中の例外ってわけですか」
「今夜あたり、あの子のお股の中に手を入れてみてごらんなさい」
「えっ、そんなこと」
「大丈夫ですよ。といってあまり卑猥な動きをされても困りますけど、
触れたという程度なら問題はありません。……私なんて男でしたけど、
お母様から毎晩のようにオチンチンを触られ、キスされ、ありとあらゆ
る処を濃厚なスキンシップで責められましたけど、別に不快と感じた事
なんてありませんでした。いえ僕だけじゃありませんよ。亀山で育った
子はどの子も大人のスキンシップを楽しい遊びとして躾られてますから
ね、少々のことでは驚かないんです」
「真里のような思春期の子でも…ですか」
「はい、そのあたりは巷の子供たちとは感性が違うはずです」
「…………」
河村氏は口を閉じてしまったが、後日、この事で礼を言われた。恐ら
くそんな子供がいるなんて彼には信じられなかったんだろう。しかし、
亀山とはそんな処だ。だからこそ、資産家が金を使いわざわざ移住まで
して子供の世話をする不思議な場所なのだ。
雑談するうち目的地に着いた。そこは子供が立ち入ることのできない
大人たち専用の図書館だ。
「ここって、学校ですよね?勝手に入って大丈夫なんですか?身分証
か何か……」
「そんなもの必要ありませんよ。ここに限らず亀山はどこでも大半が
出入り自由なんです。そもそも怪しい人はこの山には入れませんから。」
それは私にとっての常識だから思わず心の中でふいてしまった。
「…河村さんだって温泉宿の大浴場に入ったことがあるでしょう?」
「ええ、まあ…」
「その時、身分証なんか提示して湯船に浸かりますか?」
「……」
「ここも同じなんです。お互い同じ常識を共有する者同士の信頼関係
で成り立っているんです。ですから、亀山のゲートをくぐる時は色々と
チェックがありますけど、入ってしまえば、中は自分の常識やモラルの
範囲で自由に行動して構わないんです。でなければ年頃の娘を素っ裸に
して公園の枷に繋ぎ止めとくなんてことができるわけないじゃないです
か。逆に言うと、そんなことができる処だからこそここは楽園なんです」
「なるほど……だから外国人には門戸を開いていないのか」」
「さあ、こちらです」
講堂の中二階まで一旦上がってその奥にある目立たない扉を開ける。
小さな踊り場の先に石造りの階段があって、螺旋状に地下へと降りて
いけるようになっている。その階段は鍵のかかった厚い木の扉で行き止
まり。だが脇にあいた小窓に部屋の鍵を置くと用務員のおじさんが扉を
開けてくれる手はずになっていた。
「どうぞ、河村様、合沢様」
作業服姿の用務員さんは厚い木の扉を開き丁重に二人を招き入れる。
入ると応接セットといった感じのソファとテーブルがあってバーカウン
ターも備わっている。広さも五六人がちょうど心地よいという程度だ。
「酒も飲めるんですか?」
「ええ、固いことは言いませんが、ドアを出れば学校ですからそこは
ご理解ください」
「なるほど、生活のすべての面で私の良識が試されるというわけだ」
「亀山への入場を許されている人はすでにその資質が高く評価されて
いる方ばかりですから堅苦しく考える必要はありませんが、多くの人の
美学に反するようなら問題となることもあります。ただ、ここについて
言うなら、多少の醜態は大目に見てもらえます。夜まで待って外に出れ
ばいいんですから」
「なるほど」
二人の会話に先ほどの用務員さんが顔を出す。
「ご予約がございませんでしたのでこのような姿で失礼いたします。
お飲物は?」
「ドライマティーニ」
「ぼくはスクリュードライバーで」
「承知しました。こちらが本日のメニューでございます」
そう言って置いていった厚手の表紙の薄い本。
「メニューですか」
河村氏はそう言って手に取った。どうやらそれが本当にメニューだと
思って中を開いたようだった。
「…………」
驚きの表情が楽しい。
中にはずらりと昨日今日起こった事件が……
「なるほど」
事のあらましまで記(しる)したお仕置きの記録がそこには写真付き
で載せてあった。
「お気に入りのものがあれば取り寄せることができますよ」
私は自分に渡されたメニューを見ながら河村氏に勧める。
メニューはあくまでサンプル。学校のお仕置きは必ず動く絵となって
残っていたのだ。
「どれもいいですね。迷ってしまいます。でも、これ全部というわけ
にはいかないんでしょう」
「もちろん可能ですが、一皿3万円ですけど、よろしいですか?」
「ということはこれ五本で15万円か……」河村氏はしばし笑ってい
たが、「いいでしょう。でも、ビデオは持ち帰れるんでしょう?」という
ので、その説明をしようとしたら用務員さんがドライマティーニとスク
リュードライバーを銀盆の上に乗せて現れた。
「残念ながら旦那様、それはここでしか見ることができないんです。
ただ一旦お買いあげになられたものはここに来ていただければいつでも
無料でご覧になれますが……」
「持ち出しはできないのか」河村氏は苦笑したが、それはあきらめた
ということではなかった。
「分かりました。五本とも買い取りますよ。正直、私はこういう事が
嫌いではないものですから……」
「それはようございました」
用務員さんはメニューを下げようとしたが…
「おう、これは失礼いたしました。今日のメニューには由香里お嬢様
のが含まれております。たしか、由香里様は河村様の……」
「ああ、そうだよ。だからこそそれを一番始めに見てみたいと思って
たんだ」
「でしたら、これに代金は発生しません。親御さんがご自分の娘さん
の折檻をご覧になるのは当たり前のことですから」
「そうか……」河村氏の笑い皺がさらに深くなった。
「ところで、もっと古いものもあるのかね。例えば、ここの合沢先生
がここにいらした頃のものとか……」
「ええ、ございますけど、当時は8ミリか16ミリフィルムでしたの
であまり画質がよろしくございませんが……」
「かまわないよ。探してみてくれないか。……ね、合沢先生」
河村氏が悪戯っぽく笑う。
「…………仕方ありませんね。本当はあまりお見せしたくないんです
が、拒否する権限もありませんから……ま、よろしいでしょう。来月、
一万円振り込まれますから、それで寝酒でも買います」
「ん、どういうこと?」
「ここで先生が支払われたお金はそのフィルムに映っている子の口座
に振り込まれる仕組みになってるんです。現役の子は手数料なしの3万
円、大学卒業前の子は手数料1万円を引いて2万円、私のような社会人
だと2万円が手数料で1万円が振り込まれるというわけです」
「なるほど育英資金になってるわけか。ささやかだけど何もないより
ましだ」
「これだけじゃないんですよ。みんな楽器を習ってるでしょう」
「ああ、みんな上手なんで驚いてる」
「その演奏会が年に10回くらい開かれるんですが、そこでのギャラ
ンティーなんかも個人口座に振り込まれるんです」
「へえ~~じゃあみんなプロなんだ。どうりでうまいはずだ。でも、
そのレッスン料なんかは?」
「もちろんお父様が払います。それに演奏会といっても多くがお父様
とコネクションのある会社で開かれるものでマッチポンプみたいな催し
ものも少なくありませんから子供たちが純粋にお金を稼いだとは言えな
いかもしれませんが……」
「つまり、はじめから我が子にお金を渡す目的で自分で演奏会を開く
ってことだ」
「ええ」
恥ずかしそうに答えると…
「でも、いいじゃないか。それだけ愛されてるって事だもん。いや、
実をいうとね。世間色々うるさい事を言う人がいるから、ひょっとして
もっとうさんくさい処なんじゃないかって心配してたんだ。でも、今の
君の話を聞いて安心したよ。ここのお父様たちは本当に子供好きで子供
を愛しているってわかったから……」
「本当は直接お金を渡した方が安上がりなんだけど、それじゃあ子供
のためにならないからって……」
「そうでしょうね、分かりますよ」
「女王様やお父様達が知恵を出し合って成人になるまでにいくらかで
もお金を残してやろうというので色んな催し物に引っ張られるんです。
でも世間を知らない子供たちはそんな大人の愛情なんかも分かりません
からね。『孤児だからってこき使うなよな。僕たちだって遊びたいんだ
ぞ!』って影で言ってました」
「親の心子知らずですね」
「貯金通帳は一応見せられるんで、お金が貯まっていく様子は分かる
んですが、どのみち数字だけで使えませんから実感が湧かないんです」
「どのくらいになるんですか?」
「人によってそれぞれでしょうけど……僕の場合は一番多い時で……
三千万円くらいじゃなかったかなあ」
「三千万ですか。そんなに……」
「僕は男の子でしたし、それにめちゃくちゃに弾いたピアノ曲がレコ
ードになってちょっぴり売れたりしたもんだから……」
「男の子の方が稼ぐんですか?」
「社会人になった時の支度金として稼がせてくれるんですよ。女の子
の場合、お嫁入りの相手も結婚資金もお父様が出すケースが多いもんで
すから、手元資金はそんなにいらないんです。もし、結婚生活がうまく
いかなくてもここへ戻って先生をやるって方法もありますし……でも、
そう言うと彼女たち怒ります。そんな考えが女性の自立を妨げてるって
ね」
「ねえ先生、そんな音楽の才能がおありだったら、先生はなぜそちら
の道には進まれなかったんですか?」
「そちらって音楽ですか?」
「作曲がお得意とか……さっき言われてましたでしょう……」
「ああ、あれですか。あれは、一応、五線紙に音符は書きましたけど、
当時の音楽の先生がよりよく手直ししてくれたから完成できたんです。
僕の力だけじゃないんです。それに完成したそのレコードを売ってくだ
さったのも天野お父様なんですから僕の誇れるものは何もないんですよ。
とにかく、お父様も女王様も私たちの口座にお金が振り込まれるように
色んな仕組みを考えてくださってるんです。これだけじゃありませんよ。
これなんかその一部です」
「そうか、そう聞いては五本では足りないな。百本くらい買ってあげ
ないと……」
「それは豪勢ですね。でも無理なさらなくてもいいですよ。ここには
それこそ膨大な量の映像が眠っていますから。暇をみつけていらっしゃ
って、興味を引く物があれば、ぼちぼちお買い上げくだされば、それで
いいんですから。ドライマティーニはこちらによろしいですか」
用務員さんがいつの間にか蝶ネクタイ姿になってカクテルを運んでく
る。
「ねえ、このビデオを本人と楽しむというのは悪趣味だろうか」
「構いませんよ。合沢様がご承知なら…」
「いや、今の子供たちとですよ」
「それはちょっと……先生がお仕置きの一つとしてそうしたことなさ
ることはありますけど、いずれにしてもここへは子供を呼べませんから」
「あっそうか、肝心なことを忘れてた」
「スクリュードライバーをお持ちしました」
「ありがとう」私は用務員さんからカクテルを受け取ると河村さんに
助言する。
「簡単なことですよ。その子のお父様と仲良しになればいいんです」
「なるほど、その手があったか」
このあと、河村氏は太古の昔に撮られた私のお仕置きフィルムを探し
出すと、楽しそうにその当時の様子を質問してくるのだが、私としては
いくら過去のことでも恥ずかしい思いでにつき合わされるのは苦痛で、
適当に調子をあわせることになる。
ただ、……
『おれ、こんな顔をしてお灸をが我慢してたのか』
『あの美少女、大きくなってからはいつも凛としていて近寄りがたか
ったのに、こんな事して泣き叫んでた時もあったんだなあ』
『あっ、高橋先生、若い!』
『あっ、これ覚えてるよ。クラスの子全員素っ裸にされて校庭を三周
走らされた時のやつだ』
などという発見もあったので決して無意味ではなかったのだが……。
第 8 話
< 第 8 話 >
また数日して河村氏が私を誘ってきた。出会った時『一ヶ月ほど滞在
したいが宿泊費が心配だ』などと言ってしまったため、彼が私のホテル
代を一月分前払いしてしまったのだ。そのためこちらもつき合わざるえ
なくなっていた。
場所は河村氏の邸宅。中庭にいるというのでそちらに回ってみると、
一見ワイルドに見えるイギリス庭園風の芝の上で彼は籐椅子に寝そべっ
ていた。
庭の奥には小さな滝と泉がしつらえられていて、滝の水は若い女性が
肩に担いだ壺の中から流れ落ちている。そして、その泉のほとりでは、
小学四年生になった楓ちゃんがママにお尻を洗ってもらっていた。
「どうですか、ここでの暮らしは?」
「どうもこうもない。最初こそ不安だったが、今となってはどうして
もっと早く移住しなかったのかと悔やまれるくらいだ」
「では順調なんですね」
「順調すぎて怖いくらいだ。真里も今ではすっかりうちの娘だ。先生
は『もうそろそろこちらで引き取ります』なんていってるが、僕の方が
離れがたくなってる」
「いえ、手放しても当番の日にはまた添い寝できますよ。一週間か、
10日のうちには……」
「そんなことはわかってるよ。でも、その辛抱すら効かないんだ。私
自身、自分がこんなにも分別のない人間だったのかと思うほどでね。…
…何度も何度も、『こんな小娘に…』って思うよ。でも愛おしくて仕方が
ないんだ。君たちはいったい幼い頃からどんな躾を受けて育ってるんだ」
「どんなっていわれましても、他を知りませんから……とにかく私達
の目標はお父様に可愛がられること、愛されることだって口を酸っぱく
して教えられるんです。器楽の演奏もバレイも古典詩の暗唱も…およそ
学校で教わるものはすべてお父様に恥をかかせないために一生懸命やら
なきゃいけない。そんな感じでした」
「なるほど、わかるような気がするよ。真里もね、最近になって……
……」河村氏はそこまで言うと思いだし笑いで一度吹き出してから言葉
を続ける。
「寝床で、『おいた』までするようになってね」
「『おいた』ですか……ひょっとしてそれ、添い寝の時に乳首を舐めら
れたとか……」
「そう、それ……驚いたよ。女性ならいざ知らず男の小さな乳だから
……どうして?ってこっちは戸惑ってるんだが、向こうは無邪気に笑っ
てるからね」
「それは亀山では親に対して親愛の情を示す表現なんです。お父様に
抱かれた時は自分の気持ちを無にして甘えなさいって先生にはよく言わ
れますけど、どうしていいか分からない時によくやるんです。私なんか
お母様でしたから本当に赤ちゃんです。でも幸いにしてここに移住する
人でこれが嫌いという人はまずいませんから……おいたと言ってもこの
おいたはお仕置き覚悟でやってるわけじゃないんです」
「やっぱり、僕のためにやってくれてたんだね」
「お嫌いですか?」
「お好きです」
河村氏は破顔一笑。青空に顔を向けて高笑いだった。
「もし、そんなに仲良くなれたんなら、本当にもう先生に任せた方が
いいです。他の子の手前というのもありますから。ここにいる子たちは
みんな孤児で、しかも女の子でしょう、みんな平等に扱ってやらないと
臍を曲げちゃうんですよ」
「ええ、分かってます。先生にもそこの処は注意されましたから……」
河村氏はしばらく間をおいてからこう続ける。「………時に、合沢さん。
これはできないなら聞き流して欲しいんだが……」
「何ですか、あらたまって?」
「この間あなたと図書館に行ったでしょう。あれから、私、あそこに
独りで通ううちに真里をお仕置きしてみたくなりましてね。もちろん、
自分の手で子供をお仕置きできないのは知っています。でも、ああした
映像ではなくライブでお仕置きの様子を見れないものかと思ってるんで
すよ……」
「自宅ではなく学校でのお仕置きを見たいという事ですよね」
「自宅では先生方が色々配慮してくださるし公園ではベンチの老婦人
にチップをわたせば面白いものも見せてもらえるんだが……」
「学校は教育現場ですからね……もし、今すぐどうしてもということ
なら『できません』とお答えするしかありませんね。たしかに、ここは
お仕置きの多い街です。でも、何の落ち度もない子供を折檻すれば先生
との人間関係に悪影響を及ぼしますし、子供の発育にとっても有害です
から……」
と、ここで河村氏は私の言葉を遮った。
「わかっています。その説明は何度も受けましたから。ここは孤児院
であって、巷の売春宿や風俗店ではないとおっしゃりたいんでしょう。
承知してますよ。ただ、真里が本当に何か悪さをした時、私がその場に
立ち会えないものかと思いましてね……親として」
「そういうことですか。それなら可能ですよ。……毎回お仕置き部屋
に乗り込んで行くというのはちょっと無理でしょうが、マジックミラー
越しでよろしければ真里ちゃんがお仕置き部屋へ行くたび倉田先生から
連絡してもらえるはずです」
「そんな制度があるんですか」
河村氏の顔に赤みがさした。正直な驚きと笑顔がなぜか嬉しい。
自分もお仕置きされて育った身なのだが、大人になると不思議なもの
で『子供のお仕置き反対』とはならない。自分もそれで散々苦労したく
せに今度は今の子供たちがお仕置きされてる姿が見たくて仕方がない。
それも品も教養もないスラムの子ではなく自分と同程度の環境で育った
子の泣き顔にひかれるというのだから人間立場が変われば得手勝手なも
のだ。
しかし、ここは私のような身勝手者の欲求を満たしてくれる場所とし
て作られているのだから、その為の準備は怠りなかった。
「そのことは説明されてないんですか?」
「ええ」
「今の制度は知りませんが、おそらく今でもそうした配慮はしてくれ
るんじゃないかと思いますよ。それに誰でもよければ教室の中二階でも
一日何回かは子供のお仕置きは見ることができます」
「ええ、それは利用させてもらっています。中庭でのストリップも…」
「そうですか、お仕置き部屋に連れ込まれるその先が見たいという訳
ですか。でも、あそこの目的はあくまで感化や躾、訓戒といったもので
すからね、脅しただけで終わりというケースもあります。あまり過激な
ものは期待なさらない方がいいかもしれませんよ」
「どのくらいの頻度でそのお仕置き部屋へは呼び出されるものなんで
しょうか?」
「その子の性格にもよりますけど週に二三回というのが一般的でしょ
うかね」
「そんなに……」
「いえ、だから毎度毎度厳しいお仕置きがそこで展開されるわけじゃ
ないんですよ。厳しい罰になったとしてもせいぜいそこで行われるのは
トォーズでのお尻叩きくらいです。跳び箱みたいな処に俯せに寝かされ
てお尻を叩かれるんです。…親御さんが見学なさってる時は両足を広げ
させます。……ですからね、ある程度の歳になると、先生に『両足を広
げなさい』って言われただけで『あっ、お父様が見に来てるんだ』って
わかったものなんですよ」
「なるほど、それじゃ部屋に入って見てても同じですね」
「いえ、それでも直に見られてるのとはショックが違いますよ。……
ああ、あと、一学期のうちには二回か三回。お転婆な子なら月に二三回、
お父様の前でのお仕置きというのがあります。これはお尻叩きだけじゃ
なくお灸もお浣腸もしますからね、子供としてはお父様に見られながら
という事もあってもの凄くショックです。その代わり、終わったあとは
数日お父様と添い寝ができますからね。女の子の中にはわざとお仕置き
される子だっているくらいなんです」
「まさか、そんな馬鹿な……」
「いえ、本当ですよ。生き証人の私が言うんだから間違いありません」
「でも、逆に『よい子でいよう、お仕置きされないように注意しよう』
と思ってる子は大人になるまでずうっと私の前でのお仕置きがなかった
ってことになるんじゃありませんか」
「そう思うでしょう。ところが、子どもが一度も罪を犯さず一学期を
乗り切るなんて事ありませんから。回数はもちろんお転婆さんたちより
減りますけどね、一学期に一二度はそんなの子もお父様の前で恥をかく
ように仕組まれてるんです。そして、そういう良い子というのは、一旦
お仕置きとなると慣れていませんからね、色々と粗相もしがちで、より
罰が重くなってひーひー言わされることが多いです」
「でも、それじゃあ、その子があまりに可哀想じゃありませんか?…
…そんなことして性格が歪んだりしませんかね」
「たしかに……私も子供の頃、そんなタイプの子が好きで、その子が
お仕置きされた時は随分心配したんですが、その後の様子を見てると、
そうでもないみたいなんです。むしろそれまでより明るくなりました」
「まさか……それは、悟られまいとしてわざと明るく振る舞ってたん
じゃないですか?」
「いえ、違うんです。わざとそうしてるんじゃなくて本心からほっと
してたみたいなんです」
「信じられないなあ。どうしてですか?そんな嫌なことされてるのに」
「彼女が私にこう言ったんです。『女の子は、何をされたかが問題なん
じゃないの、誰にされたかが問題なの』ってね」
「誰にって……それは自分の面倒を見てくれてる先生の事ですか」
「確かにママがお仕置きの実行犯ですけど、そうじゃありませんよ。
ママはママ。確かに人生の先輩で先生ですけど、同性じゃないですか」
「というと、お父様ですか?……ま、まさか、孫ほども歳が違うんで
すよ。そんなおじいちゃんを……」
「でも、優しいでしょう。滅多に自分にお仕置きなんて仕掛けないし、
何でも買ってもらえる。そして、他に比べるものがないからですけど、
異性じゃないですか。憧れをもったとしても不思議じゃありませんよ」
「でもねえ……」
「女の子たちはそのほとんどが本心からお父様に可愛がられたいと思
ってるんです」
「ほんとうですか?」
河村氏は懐疑的な笑顔で僕を見つめる。でも、本当なら嬉しい。そん
な顔でもある。
「その子も、他の子がみんなお仕置きの後、お父様にそれまで以上に
可愛がられている事実を見聞きするにつけ疎外感を感じるようになった
みたいなんです」
「でも、痛い目にあって、大恥かいてでしょう。信じられないなあ。
それとも私が男性だから分からないのかなあ」
河村氏は自問自答するように苦笑した。
「いえ、そういう事だと思いますよ。男性には女性の気持ちが、女性
には男性の気持ちがよく分からない。子供だって同じです。特に女の子
は自分に強いコンプレックスをもってますからね。それを癒すために、
何事によらず徹底的に平等に扱ってもらわないと納得しないんです」
「ええ、そんなことを女王様にも言われたのできる限り平等に扱って
るつもりなんですけどね。プレゼントなんかも同じ歳格好の子には喧嘩
にならないように同じような物をプレゼントするようしていますから」
「そんな、ぬいぐるみやドレスなんかと同じように、自分に対するお
仕置きも平等の中に含まれるんです。……男には理解しにくいのですが、
彼女たち、とにかく仲間はずれにだけはなりたくないみたいなんですよ」
「…………」
河村氏は苦笑いをしながら首を振るが、私もこれには私なりの確信が
あった。私は彼女たちの中に混じって生きてきたからだ。
当たり前のことだが、お仕置きは女の子にとっても苦痛だ。年齢が上
がれば恥ずかしさも加わって、やがてそちらが主体になってくる。特に
厳しいお仕置きが終わった直後は放心状態で魂の抜け殻みたいなってし
まうものなのだが、その抜け殻をここでは放っておいてくれなかった。
先生やママ、お父様たちがよってたかって抱いてくれるのだ。
『放っておいてやればいいのに』
なんてよく思ったものだが、前にも述べたようにが亀山では子供の方
から『抱かれたくありません』は言えなかったから仕方がなかった。
もちろんこれは女の子たちにも悪評で、口を揃えて……
「放っておいてくれればいいのに……まるで赤ん坊みたいに抱くのよ、
感じ悪いったらないわ…後で抱くくらいならぶたなきゃいいじゃないの」
なんてなことを言っては友だち同士では盛り上がっている。
だから当初は『男の子も女の子も気持は同じなんだ』と思っていた。
しかし、それはあくまで彼女たちのたてまえであって本心ではなかった
のである。
子供たちは、厳しいお仕置きを受けた夜はその日が当番でなくても、
お父様とベッドを共にしなければならない。素っ裸の娘が血の繋がりの
ないで大人と一緒に一晩過ごすのだから何かあっても不思議じゃないと
思う人もいるだろうが、そんなことぐらいで野獣と化すような人は、こ
の亀山ではいくらお金があってもお父様にはなれない。
いや、問題は子どもの方で、女の子たちはこんな時、ママやお父様に
抱かれるだけで、友だちにも言えないある種複雑な満足感が心に生じる
のを期待していたのだ。
それを、普段はお仕置きされることを良しとしない『よい子』たちも
女の嗅覚として感じ取っているからこそ、彼女たちもお仕置きに憧れる
ようになる。
ただ、彼女たちの場合、お仕置きに興味はあるものの自ら進んで罪を
犯す勇気などない子がほとんどだから、先生り方が頃合いを見計らって
アシストしてあげるのだった。
『お仕置きと愛撫』
これを聞いて「ん?」と思われた方も多いだろう。そう、マゾヒティ
クな快感を亀山ではあえて教育や躾の中にそこはかとなく身に備わらせ
ているのだ。
『女の子はマゾヒティクな満足を得て暮らす方が幸せです。ですから
ここではそのように育てております。そこで結婚相手には少しサディス
テックな殿方が望ましいのですがどなたか心当たりがおありでしょうか』
私はお父様の一人が女王様に娘にはどんな相手が望ましいかと訪ねら
れた時の答えをようく覚えている。
実際、亀山の厳しいお仕置きは遠く結婚生活をも見越した教育であり
躾であったのは間違いないだろう。
また数日して河村氏が私を誘ってきた。出会った時『一ヶ月ほど滞在
したいが宿泊費が心配だ』などと言ってしまったため、彼が私のホテル
代を一月分前払いしてしまったのだ。そのためこちらもつき合わざるえ
なくなっていた。
場所は河村氏の邸宅。中庭にいるというのでそちらに回ってみると、
一見ワイルドに見えるイギリス庭園風の芝の上で彼は籐椅子に寝そべっ
ていた。
庭の奥には小さな滝と泉がしつらえられていて、滝の水は若い女性が
肩に担いだ壺の中から流れ落ちている。そして、その泉のほとりでは、
小学四年生になった楓ちゃんがママにお尻を洗ってもらっていた。
「どうですか、ここでの暮らしは?」
「どうもこうもない。最初こそ不安だったが、今となってはどうして
もっと早く移住しなかったのかと悔やまれるくらいだ」
「では順調なんですね」
「順調すぎて怖いくらいだ。真里も今ではすっかりうちの娘だ。先生
は『もうそろそろこちらで引き取ります』なんていってるが、僕の方が
離れがたくなってる」
「いえ、手放しても当番の日にはまた添い寝できますよ。一週間か、
10日のうちには……」
「そんなことはわかってるよ。でも、その辛抱すら効かないんだ。私
自身、自分がこんなにも分別のない人間だったのかと思うほどでね。…
…何度も何度も、『こんな小娘に…』って思うよ。でも愛おしくて仕方が
ないんだ。君たちはいったい幼い頃からどんな躾を受けて育ってるんだ」
「どんなっていわれましても、他を知りませんから……とにかく私達
の目標はお父様に可愛がられること、愛されることだって口を酸っぱく
して教えられるんです。器楽の演奏もバレイも古典詩の暗唱も…およそ
学校で教わるものはすべてお父様に恥をかかせないために一生懸命やら
なきゃいけない。そんな感じでした」
「なるほど、わかるような気がするよ。真里もね、最近になって……
……」河村氏はそこまで言うと思いだし笑いで一度吹き出してから言葉
を続ける。
「寝床で、『おいた』までするようになってね」
「『おいた』ですか……ひょっとしてそれ、添い寝の時に乳首を舐めら
れたとか……」
「そう、それ……驚いたよ。女性ならいざ知らず男の小さな乳だから
……どうして?ってこっちは戸惑ってるんだが、向こうは無邪気に笑っ
てるからね」
「それは亀山では親に対して親愛の情を示す表現なんです。お父様に
抱かれた時は自分の気持ちを無にして甘えなさいって先生にはよく言わ
れますけど、どうしていいか分からない時によくやるんです。私なんか
お母様でしたから本当に赤ちゃんです。でも幸いにしてここに移住する
人でこれが嫌いという人はまずいませんから……おいたと言ってもこの
おいたはお仕置き覚悟でやってるわけじゃないんです」
「やっぱり、僕のためにやってくれてたんだね」
「お嫌いですか?」
「お好きです」
河村氏は破顔一笑。青空に顔を向けて高笑いだった。
「もし、そんなに仲良くなれたんなら、本当にもう先生に任せた方が
いいです。他の子の手前というのもありますから。ここにいる子たちは
みんな孤児で、しかも女の子でしょう、みんな平等に扱ってやらないと
臍を曲げちゃうんですよ」
「ええ、分かってます。先生にもそこの処は注意されましたから……」
河村氏はしばらく間をおいてからこう続ける。「………時に、合沢さん。
これはできないなら聞き流して欲しいんだが……」
「何ですか、あらたまって?」
「この間あなたと図書館に行ったでしょう。あれから、私、あそこに
独りで通ううちに真里をお仕置きしてみたくなりましてね。もちろん、
自分の手で子供をお仕置きできないのは知っています。でも、ああした
映像ではなくライブでお仕置きの様子を見れないものかと思ってるんで
すよ……」
「自宅ではなく学校でのお仕置きを見たいという事ですよね」
「自宅では先生方が色々配慮してくださるし公園ではベンチの老婦人
にチップをわたせば面白いものも見せてもらえるんだが……」
「学校は教育現場ですからね……もし、今すぐどうしてもということ
なら『できません』とお答えするしかありませんね。たしかに、ここは
お仕置きの多い街です。でも、何の落ち度もない子供を折檻すれば先生
との人間関係に悪影響を及ぼしますし、子供の発育にとっても有害です
から……」
と、ここで河村氏は私の言葉を遮った。
「わかっています。その説明は何度も受けましたから。ここは孤児院
であって、巷の売春宿や風俗店ではないとおっしゃりたいんでしょう。
承知してますよ。ただ、真里が本当に何か悪さをした時、私がその場に
立ち会えないものかと思いましてね……親として」
「そういうことですか。それなら可能ですよ。……毎回お仕置き部屋
に乗り込んで行くというのはちょっと無理でしょうが、マジックミラー
越しでよろしければ真里ちゃんがお仕置き部屋へ行くたび倉田先生から
連絡してもらえるはずです」
「そんな制度があるんですか」
河村氏の顔に赤みがさした。正直な驚きと笑顔がなぜか嬉しい。
自分もお仕置きされて育った身なのだが、大人になると不思議なもの
で『子供のお仕置き反対』とはならない。自分もそれで散々苦労したく
せに今度は今の子供たちがお仕置きされてる姿が見たくて仕方がない。
それも品も教養もないスラムの子ではなく自分と同程度の環境で育った
子の泣き顔にひかれるというのだから人間立場が変われば得手勝手なも
のだ。
しかし、ここは私のような身勝手者の欲求を満たしてくれる場所とし
て作られているのだから、その為の準備は怠りなかった。
「そのことは説明されてないんですか?」
「ええ」
「今の制度は知りませんが、おそらく今でもそうした配慮はしてくれ
るんじゃないかと思いますよ。それに誰でもよければ教室の中二階でも
一日何回かは子供のお仕置きは見ることができます」
「ええ、それは利用させてもらっています。中庭でのストリップも…」
「そうですか、お仕置き部屋に連れ込まれるその先が見たいという訳
ですか。でも、あそこの目的はあくまで感化や躾、訓戒といったもので
すからね、脅しただけで終わりというケースもあります。あまり過激な
ものは期待なさらない方がいいかもしれませんよ」
「どのくらいの頻度でそのお仕置き部屋へは呼び出されるものなんで
しょうか?」
「その子の性格にもよりますけど週に二三回というのが一般的でしょ
うかね」
「そんなに……」
「いえ、だから毎度毎度厳しいお仕置きがそこで展開されるわけじゃ
ないんですよ。厳しい罰になったとしてもせいぜいそこで行われるのは
トォーズでのお尻叩きくらいです。跳び箱みたいな処に俯せに寝かされ
てお尻を叩かれるんです。…親御さんが見学なさってる時は両足を広げ
させます。……ですからね、ある程度の歳になると、先生に『両足を広
げなさい』って言われただけで『あっ、お父様が見に来てるんだ』って
わかったものなんですよ」
「なるほど、それじゃ部屋に入って見てても同じですね」
「いえ、それでも直に見られてるのとはショックが違いますよ。……
ああ、あと、一学期のうちには二回か三回。お転婆な子なら月に二三回、
お父様の前でのお仕置きというのがあります。これはお尻叩きだけじゃ
なくお灸もお浣腸もしますからね、子供としてはお父様に見られながら
という事もあってもの凄くショックです。その代わり、終わったあとは
数日お父様と添い寝ができますからね。女の子の中にはわざとお仕置き
される子だっているくらいなんです」
「まさか、そんな馬鹿な……」
「いえ、本当ですよ。生き証人の私が言うんだから間違いありません」
「でも、逆に『よい子でいよう、お仕置きされないように注意しよう』
と思ってる子は大人になるまでずうっと私の前でのお仕置きがなかった
ってことになるんじゃありませんか」
「そう思うでしょう。ところが、子どもが一度も罪を犯さず一学期を
乗り切るなんて事ありませんから。回数はもちろんお転婆さんたちより
減りますけどね、一学期に一二度はそんなの子もお父様の前で恥をかく
ように仕組まれてるんです。そして、そういう良い子というのは、一旦
お仕置きとなると慣れていませんからね、色々と粗相もしがちで、より
罰が重くなってひーひー言わされることが多いです」
「でも、それじゃあ、その子があまりに可哀想じゃありませんか?…
…そんなことして性格が歪んだりしませんかね」
「たしかに……私も子供の頃、そんなタイプの子が好きで、その子が
お仕置きされた時は随分心配したんですが、その後の様子を見てると、
そうでもないみたいなんです。むしろそれまでより明るくなりました」
「まさか……それは、悟られまいとしてわざと明るく振る舞ってたん
じゃないですか?」
「いえ、違うんです。わざとそうしてるんじゃなくて本心からほっと
してたみたいなんです」
「信じられないなあ。どうしてですか?そんな嫌なことされてるのに」
「彼女が私にこう言ったんです。『女の子は、何をされたかが問題なん
じゃないの、誰にされたかが問題なの』ってね」
「誰にって……それは自分の面倒を見てくれてる先生の事ですか」
「確かにママがお仕置きの実行犯ですけど、そうじゃありませんよ。
ママはママ。確かに人生の先輩で先生ですけど、同性じゃないですか」
「というと、お父様ですか?……ま、まさか、孫ほども歳が違うんで
すよ。そんなおじいちゃんを……」
「でも、優しいでしょう。滅多に自分にお仕置きなんて仕掛けないし、
何でも買ってもらえる。そして、他に比べるものがないからですけど、
異性じゃないですか。憧れをもったとしても不思議じゃありませんよ」
「でもねえ……」
「女の子たちはそのほとんどが本心からお父様に可愛がられたいと思
ってるんです」
「ほんとうですか?」
河村氏は懐疑的な笑顔で僕を見つめる。でも、本当なら嬉しい。そん
な顔でもある。
「その子も、他の子がみんなお仕置きの後、お父様にそれまで以上に
可愛がられている事実を見聞きするにつけ疎外感を感じるようになった
みたいなんです」
「でも、痛い目にあって、大恥かいてでしょう。信じられないなあ。
それとも私が男性だから分からないのかなあ」
河村氏は自問自答するように苦笑した。
「いえ、そういう事だと思いますよ。男性には女性の気持ちが、女性
には男性の気持ちがよく分からない。子供だって同じです。特に女の子
は自分に強いコンプレックスをもってますからね。それを癒すために、
何事によらず徹底的に平等に扱ってもらわないと納得しないんです」
「ええ、そんなことを女王様にも言われたのできる限り平等に扱って
るつもりなんですけどね。プレゼントなんかも同じ歳格好の子には喧嘩
にならないように同じような物をプレゼントするようしていますから」
「そんな、ぬいぐるみやドレスなんかと同じように、自分に対するお
仕置きも平等の中に含まれるんです。……男には理解しにくいのですが、
彼女たち、とにかく仲間はずれにだけはなりたくないみたいなんですよ」
「…………」
河村氏は苦笑いをしながら首を振るが、私もこれには私なりの確信が
あった。私は彼女たちの中に混じって生きてきたからだ。
当たり前のことだが、お仕置きは女の子にとっても苦痛だ。年齢が上
がれば恥ずかしさも加わって、やがてそちらが主体になってくる。特に
厳しいお仕置きが終わった直後は放心状態で魂の抜け殻みたいなってし
まうものなのだが、その抜け殻をここでは放っておいてくれなかった。
先生やママ、お父様たちがよってたかって抱いてくれるのだ。
『放っておいてやればいいのに』
なんてよく思ったものだが、前にも述べたようにが亀山では子供の方
から『抱かれたくありません』は言えなかったから仕方がなかった。
もちろんこれは女の子たちにも悪評で、口を揃えて……
「放っておいてくれればいいのに……まるで赤ん坊みたいに抱くのよ、
感じ悪いったらないわ…後で抱くくらいならぶたなきゃいいじゃないの」
なんてなことを言っては友だち同士では盛り上がっている。
だから当初は『男の子も女の子も気持は同じなんだ』と思っていた。
しかし、それはあくまで彼女たちのたてまえであって本心ではなかった
のである。
子供たちは、厳しいお仕置きを受けた夜はその日が当番でなくても、
お父様とベッドを共にしなければならない。素っ裸の娘が血の繋がりの
ないで大人と一緒に一晩過ごすのだから何かあっても不思議じゃないと
思う人もいるだろうが、そんなことぐらいで野獣と化すような人は、こ
の亀山ではいくらお金があってもお父様にはなれない。
いや、問題は子どもの方で、女の子たちはこんな時、ママやお父様に
抱かれるだけで、友だちにも言えないある種複雑な満足感が心に生じる
のを期待していたのだ。
それを、普段はお仕置きされることを良しとしない『よい子』たちも
女の嗅覚として感じ取っているからこそ、彼女たちもお仕置きに憧れる
ようになる。
ただ、彼女たちの場合、お仕置きに興味はあるものの自ら進んで罪を
犯す勇気などない子がほとんどだから、先生り方が頃合いを見計らって
アシストしてあげるのだった。
『お仕置きと愛撫』
これを聞いて「ん?」と思われた方も多いだろう。そう、マゾヒティ
クな快感を亀山ではあえて教育や躾の中にそこはかとなく身に備わらせ
ているのだ。
『女の子はマゾヒティクな満足を得て暮らす方が幸せです。ですから
ここではそのように育てております。そこで結婚相手には少しサディス
テックな殿方が望ましいのですがどなたか心当たりがおありでしょうか』
私はお父様の一人が女王様に娘にはどんな相手が望ましいかと訪ねら
れた時の答えをようく覚えている。
実際、亀山の厳しいお仕置きは遠く結婚生活をも見越した教育であり
躾であったのは間違いないだろう。
第9話 ①
<第9話> ①
河村氏の自宅中庭で楓ちゃんのお仕置きを見ながら雑談してから三日
後、河村氏からまたまたお呼びがかかる。
倉田先生が今日午後三時から真里をお仕置きするから見学したいなら
お仕置き部屋の裏部屋に来て欲しいと連絡があったというのだ。
そこで、お仕置き部屋の裏部屋へ案内して欲しいというのだが……
『そんなのは手近にいた先生にでも聞けば教えてくれるよ』
と思いながらも出かけていく事になった。
「ほう、こんな処から入るですか。図書館といいお仕置き部屋といい、
ここは凝ってますね、まるで少年時代の秘密基地のようだ」
お仕置き部屋は北の角部屋。でも、その裏部屋へ通常入るには礼拝堂
の隅にある懺悔聴聞室の奥の扉を背をかがめて抜け、人一人やっと通れ
る細い廊下を30mほども進んだ先にあるマリア様の像を90度廻さな
ければならない。
そうやって鍵が外れた引き戸を開けてはじめて入ることができた。
「なるほど、ここですか」
河村氏は1m四方もある大きなマジックミラーの窓を感慨深げに眺め
る。見えているのはもちろん隣のお仕置き部屋の風景。大人一人用のソ
ファや病院の診察室にあるような黒革張りのベッド、大きな薬棚にはお
浣腸用のグリセリンやピストン式の硝子製浣腸器、導尿用のカテーテル
や膿盆、オムツだってそんなにいらないだろうと思うほど沢山用意され
ていた。その隣は蒸し器、こいつはいつ来ても必ず湯気を立てていた。
この他にも壁には普段使わないケインが麗々しくかざってあったり、
壁から突き出た短いベッド。こいつは仰向けに寝かされ両足をバンザイ
させて固定するもので、ここに寝かされると内診台と同じで大事な処は
全て丸見えになるから晒し刑としてよく使われている。
その他、子供が親や教師に折檻されている場面を描いた油彩が掲げら
れ、幼い子などはこの絵を見ただけでビビっていた。いや、私はビビっ
ていた。
しかし、それらはむしろ添え物で、使われる頻度は低かった。ここで
圧倒的に用があるのは中央に置かれたお馬ちゃんだったのである。
こいつは背もたれのないソファに四本の足を足して高くしたようもの
で、用途はもちろんお尻叩き。先生が立った姿勢でトォーズを振り下ろ
すのに丁度いい高さに設定されていたから子供にとっては随分高い処に
乗せられたというかんじがした。
いずれにしても、かつてここの常連だった者としては笑って眺められ
る景色ではなかった。
「昔と変わった処がありますか?」
河村氏の質問にハッと我に返った。
「いえ、それがおどろくほど昔のままなんで驚きました。ガラス戸の
薬棚や蒸し器なんかも昔のままだと思います。壁に掛けてあるタペスト
リーや絵画なんかは僕の知らないものもありますけど……」
「あそこに奇妙な棚がありますよね。あれは何か乗せるものなんです
か?」
「どれですか?……ああ、あれですか。あれはラックなんて呼ばれて
ましたけど、要するに晒し台です。物じゃなく子供を乗せるんですよ。
あの棚に子供を仰向けに寝かせて、両足を上げさせて壁の革ひもで固定
するんです。どんなことになるか、想像がつきますか?」
「だいたい……要するに女の子なら『ご開帳』ということですよね」
「そういうことです。男の子はやってもあまり効果がないため滅多に
やられませんでしたけど、女の子の場合はここへ来ても反省の色がない
と判断されればあそこで30分間は反省させられるんです」
「わっ、そりゃあ大変だ」
河村さんはそう言ったが、顔は笑っていた。
「私も一度だけあそこに登ったことがあるんですが、とにかく窮屈で
死にそうでした。女の子と違ってあまり恥ずかしさはなかったんですが、
メントール入りの傷薬をたっぷり感じやすい処に塗られますからね……
もうそれだけで悲鳴なんですよ。女の子の中には少々のお仕置きでは声
を出さない剛の者もいたんですが、さすがにこれだけはその子も悲鳴を
あげてました」
「よく、幼児虐待だなんて言われませんでしたね」
「今の基準でならこれに限らずどれも虐待でしょうけど、それを虐待
ではなくお仕置きにしているのは、先生やお父様方の理性あってのこと
なんだと思います。実際、僕も子供の頃に受けたこんなお仕置きの事を
『虐待されて大変でしたね』なんて言われるとあまりいい気持ちはしま
せん。もちろん、お父様方の心の中には純粋な教育的見地に基づかない
欲求があったのは承知していますが、それがあったとして私自身は天野
のお父様に拾われて不幸せだったなんて思ったことはありませんからね」
「天野のお父様は優しかった?」
「ええ……ま、私だけじゃありません。ここではお父様が優しくない
と秩序が崩れてしまうんです。私たちにとってお父様というのは最後の
砦ですからね。そこで厳しい目に合うともう行き場がなくなってしまう
ですよ。……精神的に…………孤児というのはどんなに可愛がられても
絶対的な存在を持っていませんから、お父様にはその役割が期待されて
るんですよ」
「だから、何があっても自らお仕置きしてはいけないというわけか」
「家庭ではママがお仕置きしてお父様が抱くというのがパターンです。
ただ、ママや先生、それに司祭様なんかがお仕置きを手伝わせてくれる
事があって、その時は子供をお仕置きできます」
「それで満足できなければ、『どうぞお引き取りを…』ということか」
「それで満足できそうにない人ははじめからこの地を踏むことはない
んです。そこは女王様が厳しくチェックしますから……」
「それで、今まで間違いはなかった」
「ええ、……ま、私が全てを知ってる訳じゃありませんが……」
「あっ、倉田先生が入ってきましたよ」
倉田先生は向こう側のドアを開けて入ってくると、我々が覗いている
窓、向こうの部屋からは鏡のある場所を通過、手前の扉から一旦外へと
出た。
そして、我々がこの部屋に入ってきたのとは反対側にある扉の向こう
からこう言って注意したのである。
「その部屋は一応防音装置に守られてはいますが、大きな声や物音は
させないようにお願いします」
「承知しました。本日はありがとうございました」
河村氏がお礼を言うと……
「それから、場合によっては真里共々この部屋へお邪魔するかもしれ
ませんので、その時はマリア様の場所まで避難して真里とは会わない様
にお願いします」
「隣の廊下まで撤退すればいいんですね」
「はい、その際はマリア様の向きを変えて鍵をかけておいてください」
「わかりました」
「では、真里を部屋へ呼びますのでよろしくお願いします」
先生はこう言ってお仕置き部屋へと戻っていった。
そして数分後。向こう側のドアがノックされる。
「倉田真里です」
「真里ちゃんね、入ってらっしゃい」
と、ここで先生がステレオのスイッチを入れる。
流れ始めたのはお世辞にも上手とは言えないショパン。しかも……
「…………」
先生の仕掛けたちょっとした悪戯。といっても、嫌な思いをしたのは
真里ちゃんではなかった。
「ママ~~」
真里ちゃんはドアを閉めるまでは神妙な顔をしていたが、それが終わ
ると、さっそく一人掛け用のソファに飛びついていく。
お膝に馬乗りになって顔を胸にこすりつける。無論、その顔は満面の
笑みだ。
「ほらほら、お膝でそんなに跳ねないの。もう、あなたも重くなって
抱っこが大変だわ」
「ん、けちんぼ……いいじゃないこのくらい」
「……ところで、あなた、今日はママが呼んだんだっけ……」
「あっ、そうか」
真里はそう言われると慌ててママの膝を降りて挨拶する。
「倉田真里です。倉田先生、お呼びでしょうか」
急に麗々しい挨拶を始める。私たちの時代もそうだが、ママというの
はあくまで家庭の中だけの呼び名で学校では自分の母親(=と言っても
血の繋がりはないが)といえど何々先生と呼ばなければならなかったの
である。
とはいえ、相手は子供。僕もそうだったが二人っきりの時はやっぱり
ママ。
彼女も先生にご挨拶はしたものの、すぐに腰をくねらせて意味ありげ
な笑顔になった。露骨に甘えたいとアピールしているのだった。
「しょうがないわね、いらっしゃい」
作戦成功、真里は再びママのお膝をゲットしたのだった。
「しょうがないわね、こんなに大きくなっちゃって……ママのお膝が
壊れそうだわ」
「でも、やっぱり赤ちゃんは赤ちゃんなんでしょう?」
「それはそうだけど……」
「ねえ、さっきからかかってるピアノ、誰が弾いてるの?」
「合沢健児って人。ここのOBらしいわ」
「男の子なの?それにしてもずいぶん下手ね」
「でも、一年に500曲も作曲して、当時は東京や大阪の発表会では
人気者だったって書かれてたわ」
「信じられない。こんなに下手くそなピアノしか弾けないのに……」
「大きな声ださないの。聞こえたらどうするの」
「聞こえるわけないじゃない。だって、もうここにはいない子なんで
しょう」
「そりゃあそうだけど……」
先生は部屋の鏡を見て思わせぶった笑顔を見せる。もう、私は顔が火
照って真っ赤だった。
「ところで、あなた、ここに呼ばれた訳は知ってるわよね」
「……う、うん」真里は話題が変わると急に肩を落とした。
ま、この部屋に呼ばれて誉められることは期待できないが、先生の他
に人がいない処から見てそれほど重大な罪を犯したわけではないはずだ。
もし、ここに司祭様や女王様がいたら、真里だっていきなり抱きつきは
しないはずである。
あれは四年生の時だったか、ここへ真美ちゃんという女の子と一緒に
呼び出されたんだが、部屋にはいるといきなりおばば様の姿が目に入っ
てしまい、二人とも腰を抜かしそうになったことがあった。僕の方は、
ま、それで済んだんだが、真美ちゃんは恐怖のあまりってことなんだろ
う、部屋に入った処で立ちすくんでしまい、そのままお漏らしをしちゃ
ったことがあった。
これには大人たちの方が慌てたのを覚えている。当時のお仕置きはそ
れほどまでに怖かったのだが、今はその雰囲気をみているとずいぶんと
子供たちが楽そうにみえる。これも時代の変化なのだろう。
「誰にここへ来なさいって言われたの?」
倉田先生は真里の耳元で囁く。
「石川先生、今週は、書き取りの確認テストが一回しか合格してない
から……」
「漢字の書き取りだけじゃないでしょう。算数の佐々木先生も今週は
合格したのが火曜日と木曜日だけっておっしゃってたわ。月、水、金は
不合格だったでしょう」
「でも、不合格になった日は居残りさせられて、ちゃんと覚えたよ」
「それは当たり前の事をしただけじゃない。もし、あなた一人がわか
りませんなんてことになったら、次の単元に授業が進めなくて他のお友
だちにも迷惑がかかるでしょう。自慢になることじゃないわ。だいいち
そのたびに助教師の平林先生にご厄介をかけてるのよ」
「えっ、それは………う、うん」
「確認テストは毎日の宿題なの。家で四回は連続して満点とれるまで
繰り返し練習しなきゃいけないことになってるけど、あなた、お父様の
処でちゃんとやってる?」
「それは……」
真里は口ごもった。確認テストというのは授業でやった内容が知識と
して定着しているかを確かめるためやるテストで、応用問題はなく出題
される問題もあらかじめ提示されているから、要はそれを暗記してくれ
ばそれでよかった。とりわけ国語の書き取りと算数の計算問題は、毎日、
授業の最初に小テストとして必ず行われるから、そのぶんはみんな否応
なしに勉強せざる得なかった。
もし、さぼると、今日の真里ちゃんみたいなことになるのだ。
「そうか」
と、その時河村氏から思わず声が出た。
「どうしたんですか?」
「いやね、先生からは四回続けて全問正解を出すまでやらせてくださ
いって言われてたんだが、今の今まで忘れてたよ。私の方も早く真里が
抱きたくて仕方がないもんだから、彼女が一度でも全問正解を出すと、
ついついお菓子を与えて機嫌をとって、勉強部屋から居間へ連れ戻して
たんだ。いや、真里には悪いことをしたなあ」
「そうですか、そんな時は自分が家庭教師をかって出ればいいんです
よ。私も経験があります。正直、子供としてはあまり歓迎されないけど、
お互い人間椅子としての心地よさはあります。もちろん、長時間あの子
を膝の上に抱けるなら、ですけれど……」
「大丈夫、そのためにここへ来たんだ。そのくらいの苦行には耐えて
みせるよ」
私たちが小さな声で雑談をしている間に、お仕置き部屋の中では一つ
の結論がまとまったようだった。
「だって、お父様が居間の方へいらっしゃいって言うから……」
「まだ、お勉強が完全ら終わってないのに?」
「…………」真里は小さくかむりを縦にした。
「そんなはずないわ。ママはお父様に四回続けて完全に正答がでる迄
お勉強を続けさせてくださいってお願いしてるもの」
「だって、お父様は一回でもできると『もういいんじゃないか』って
…………だから、しょうがなくて……」
「どうして、しょうがないの?『まだ、終わってません』って断れば
いいでしょう」
「だって、お父様に逆らっちゃいけないって……」
「逆らってなんかいないでしょう。まだ、終わってないんだから、終
わってませんって言うだけだもの」
「だって……」
「これはお父様の問題じゃなくて、あなたの問題なのよ。お父様が、
よしんば『遊びましょ』ってお誘いしたとしても、だからって、宿題を
やってこないでもいいってことにはならないのよ。それとも、お父様は、
あなたに『お勉強をやめて、こちらへ来なさい』っておっしゃったの?
……違うでしょう」
「…………」
真里は下唇を噛んだまま。納得したわけではなかったが、子供の身分
ではこんな場合にだって親がそう主張すれば納得するしかなかった。
「石川先生も佐々木先生もとってもあなたのことを心配なさってたわ」
「えっ、だって算数は二回合格してるし……」
「何言ってるの、この一週間は不合格だった日の方が多いじゃないの。
こういうテストはお家でちゃんとやってくれば必ず合格するテストなの。
不合格ってことは、『宿題をちゃんとやって来ませんでした』ということ
でしょう。ママだってお二人の先生方と同じでとっても心配だわ。……
だからこのあたりでね、『がんばれ~~』って励ましてあげた方がいいん
じゃないかと思うんだけど。…………どうかしらね」
こうママに言われて、真里は傍目からも分かるほど真っ青になった。
もとよりここに呼ばれた段階である程度覚悟はしてきているが、それで
もひょっとして許してもらえるかもしれないと楽観的に考えてしまうの
が子供なのだ。それがあらためて親や教師に面と向かって言われること
で『さあ大変だ!』ということになる。そのあたり子どもというのは、
とっても近視眼的だったのである。
ちなみに『励ます』というのは亀山独特の隠語で『お尻をぶちます』
という意味。この他にも『我慢を教えてあげます』とか『お腹の悪い虫
を追い出しちゃいましょう』なんて言われたらお浣腸。お灸は『気付け
薬』だし、『ちょっとのぼせちゃったみたいだから、お外の風に当たりま
しょうか』なんて言われたら素っ裸で晒し台送りという具合だ。
「ゴメンナサイ、来週からはちゃんと合格しますから……」
弱々しい声で釈明してみたが……
「そうして頂戴。あなた一人が遅れをとると、クラスみんなに迷惑が
かかりますからね。……でも、今週の分は今週の分でちゃんと精算しな
ければならないわ。それに、あなただって何かきっかけがないと頑張れ
ないでしょう」
「…………」
真里は一生懸命首を横にふったが……
「何?そんな事してもらわなくてもできますって言うの?……無理よ。
ママはあなたのことずっと見てきてるけど、そうやって改心したことな
んて一度もなかったもの」
「今度は一生懸命やるから…」
「『今度は、』『今度は、』ってのも何回も聞いたけど、できたためしが
ないじゃない。やっぱりここはピリッと辛いものを食べた方がいいわ。
お尻をぶってもらってその違和感が残ってうちは『ああ、そうだった』
って思い出すでしょうから……」
「そんなことないよ」
「そんなことあります。あなたの浮気癖だってそうじゃないの。『新し
いお父様がいやだあ~~』なんてだだをこねて、結局、お股にお灸して
もらったらピタッと修まったじゃないの。あれ、今でも違和感は残って
るでしょう」
「……」真里は下唇を噛んだまま静かに頷く。
「ま、一年くらいはほんのちょっぴり感じる程度残るでしょうけど、
それでいいの。また、我が儘が言いたくなったらその火傷の痕があなた
を止めてくれるわ。……いいこと、ここのお父様はどなたに当たっても
大変な人格者ばかりなの。本来なら世間知らずのあなたごときにえり好
みされるような人たちではないのよ。それを河村のお父様は自分が悪者
になることであなたを引き取ってくださったんだから。感謝しなければ
罰(ばち)が当たるわ」
「…………」
「女の子というは与えられた場所で花を咲かせるようにできてるの。
あなたにはまだわからないでしょうけど、ここは最高の花壇だわ」
「……」真里は不承不承という顔だったが小さく頷いてみせる。
「さあさあ、分かったらさっさとお仕置きも済ましてしまいましょう」
「えっ、やっぱりやるの……やだあ~~」
その口振りはママのお説教を納得すれば許されると思っていたのかも
しれない。ところが意に反してママの態度が強硬だったから驚いたのだ。
真里はそれまでの抱っこから下ろされてママの目の前に立たされる。
そして、膝上丈の短いフレアスカートの裾を何の遠慮もなく跳ね上げる
のだった。
「…………」
その跳ね上げられた裾はお腹の辺りにピンで留められ、真綿のような
木綿のショーツがむき出しになってしまったが、そこは女同士、しかも
相手がママなのだからそんなに抵抗もなかった。
「さあ、ショーツも脱いで……」
ママは次を指示して蒸し器へと向かう。そこには熱々に蒸し上がった
タオルが数枚入れてあった。
ママはそれを少し空気に触れさせてさまし始めるが、見ると娘が何だ
かもじもじしているので……
「どうしたの?早くなさい」
とせき立ててみるのだが言うことをきかなかった。
そこで程良い温度までさました蒸しタオルを二枚ほど持って戻ると…
「さあ、早くなさい」
河村氏の自宅中庭で楓ちゃんのお仕置きを見ながら雑談してから三日
後、河村氏からまたまたお呼びがかかる。
倉田先生が今日午後三時から真里をお仕置きするから見学したいなら
お仕置き部屋の裏部屋に来て欲しいと連絡があったというのだ。
そこで、お仕置き部屋の裏部屋へ案内して欲しいというのだが……
『そんなのは手近にいた先生にでも聞けば教えてくれるよ』
と思いながらも出かけていく事になった。
「ほう、こんな処から入るですか。図書館といいお仕置き部屋といい、
ここは凝ってますね、まるで少年時代の秘密基地のようだ」
お仕置き部屋は北の角部屋。でも、その裏部屋へ通常入るには礼拝堂
の隅にある懺悔聴聞室の奥の扉を背をかがめて抜け、人一人やっと通れ
る細い廊下を30mほども進んだ先にあるマリア様の像を90度廻さな
ければならない。
そうやって鍵が外れた引き戸を開けてはじめて入ることができた。
「なるほど、ここですか」
河村氏は1m四方もある大きなマジックミラーの窓を感慨深げに眺め
る。見えているのはもちろん隣のお仕置き部屋の風景。大人一人用のソ
ファや病院の診察室にあるような黒革張りのベッド、大きな薬棚にはお
浣腸用のグリセリンやピストン式の硝子製浣腸器、導尿用のカテーテル
や膿盆、オムツだってそんなにいらないだろうと思うほど沢山用意され
ていた。その隣は蒸し器、こいつはいつ来ても必ず湯気を立てていた。
この他にも壁には普段使わないケインが麗々しくかざってあったり、
壁から突き出た短いベッド。こいつは仰向けに寝かされ両足をバンザイ
させて固定するもので、ここに寝かされると内診台と同じで大事な処は
全て丸見えになるから晒し刑としてよく使われている。
その他、子供が親や教師に折檻されている場面を描いた油彩が掲げら
れ、幼い子などはこの絵を見ただけでビビっていた。いや、私はビビっ
ていた。
しかし、それらはむしろ添え物で、使われる頻度は低かった。ここで
圧倒的に用があるのは中央に置かれたお馬ちゃんだったのである。
こいつは背もたれのないソファに四本の足を足して高くしたようもの
で、用途はもちろんお尻叩き。先生が立った姿勢でトォーズを振り下ろ
すのに丁度いい高さに設定されていたから子供にとっては随分高い処に
乗せられたというかんじがした。
いずれにしても、かつてここの常連だった者としては笑って眺められ
る景色ではなかった。
「昔と変わった処がありますか?」
河村氏の質問にハッと我に返った。
「いえ、それがおどろくほど昔のままなんで驚きました。ガラス戸の
薬棚や蒸し器なんかも昔のままだと思います。壁に掛けてあるタペスト
リーや絵画なんかは僕の知らないものもありますけど……」
「あそこに奇妙な棚がありますよね。あれは何か乗せるものなんです
か?」
「どれですか?……ああ、あれですか。あれはラックなんて呼ばれて
ましたけど、要するに晒し台です。物じゃなく子供を乗せるんですよ。
あの棚に子供を仰向けに寝かせて、両足を上げさせて壁の革ひもで固定
するんです。どんなことになるか、想像がつきますか?」
「だいたい……要するに女の子なら『ご開帳』ということですよね」
「そういうことです。男の子はやってもあまり効果がないため滅多に
やられませんでしたけど、女の子の場合はここへ来ても反省の色がない
と判断されればあそこで30分間は反省させられるんです」
「わっ、そりゃあ大変だ」
河村さんはそう言ったが、顔は笑っていた。
「私も一度だけあそこに登ったことがあるんですが、とにかく窮屈で
死にそうでした。女の子と違ってあまり恥ずかしさはなかったんですが、
メントール入りの傷薬をたっぷり感じやすい処に塗られますからね……
もうそれだけで悲鳴なんですよ。女の子の中には少々のお仕置きでは声
を出さない剛の者もいたんですが、さすがにこれだけはその子も悲鳴を
あげてました」
「よく、幼児虐待だなんて言われませんでしたね」
「今の基準でならこれに限らずどれも虐待でしょうけど、それを虐待
ではなくお仕置きにしているのは、先生やお父様方の理性あってのこと
なんだと思います。実際、僕も子供の頃に受けたこんなお仕置きの事を
『虐待されて大変でしたね』なんて言われるとあまりいい気持ちはしま
せん。もちろん、お父様方の心の中には純粋な教育的見地に基づかない
欲求があったのは承知していますが、それがあったとして私自身は天野
のお父様に拾われて不幸せだったなんて思ったことはありませんからね」
「天野のお父様は優しかった?」
「ええ……ま、私だけじゃありません。ここではお父様が優しくない
と秩序が崩れてしまうんです。私たちにとってお父様というのは最後の
砦ですからね。そこで厳しい目に合うともう行き場がなくなってしまう
ですよ。……精神的に…………孤児というのはどんなに可愛がられても
絶対的な存在を持っていませんから、お父様にはその役割が期待されて
るんですよ」
「だから、何があっても自らお仕置きしてはいけないというわけか」
「家庭ではママがお仕置きしてお父様が抱くというのがパターンです。
ただ、ママや先生、それに司祭様なんかがお仕置きを手伝わせてくれる
事があって、その時は子供をお仕置きできます」
「それで満足できなければ、『どうぞお引き取りを…』ということか」
「それで満足できそうにない人ははじめからこの地を踏むことはない
んです。そこは女王様が厳しくチェックしますから……」
「それで、今まで間違いはなかった」
「ええ、……ま、私が全てを知ってる訳じゃありませんが……」
「あっ、倉田先生が入ってきましたよ」
倉田先生は向こう側のドアを開けて入ってくると、我々が覗いている
窓、向こうの部屋からは鏡のある場所を通過、手前の扉から一旦外へと
出た。
そして、我々がこの部屋に入ってきたのとは反対側にある扉の向こう
からこう言って注意したのである。
「その部屋は一応防音装置に守られてはいますが、大きな声や物音は
させないようにお願いします」
「承知しました。本日はありがとうございました」
河村氏がお礼を言うと……
「それから、場合によっては真里共々この部屋へお邪魔するかもしれ
ませんので、その時はマリア様の場所まで避難して真里とは会わない様
にお願いします」
「隣の廊下まで撤退すればいいんですね」
「はい、その際はマリア様の向きを変えて鍵をかけておいてください」
「わかりました」
「では、真里を部屋へ呼びますのでよろしくお願いします」
先生はこう言ってお仕置き部屋へと戻っていった。
そして数分後。向こう側のドアがノックされる。
「倉田真里です」
「真里ちゃんね、入ってらっしゃい」
と、ここで先生がステレオのスイッチを入れる。
流れ始めたのはお世辞にも上手とは言えないショパン。しかも……
「…………」
先生の仕掛けたちょっとした悪戯。といっても、嫌な思いをしたのは
真里ちゃんではなかった。
「ママ~~」
真里ちゃんはドアを閉めるまでは神妙な顔をしていたが、それが終わ
ると、さっそく一人掛け用のソファに飛びついていく。
お膝に馬乗りになって顔を胸にこすりつける。無論、その顔は満面の
笑みだ。
「ほらほら、お膝でそんなに跳ねないの。もう、あなたも重くなって
抱っこが大変だわ」
「ん、けちんぼ……いいじゃないこのくらい」
「……ところで、あなた、今日はママが呼んだんだっけ……」
「あっ、そうか」
真里はそう言われると慌ててママの膝を降りて挨拶する。
「倉田真里です。倉田先生、お呼びでしょうか」
急に麗々しい挨拶を始める。私たちの時代もそうだが、ママというの
はあくまで家庭の中だけの呼び名で学校では自分の母親(=と言っても
血の繋がりはないが)といえど何々先生と呼ばなければならなかったの
である。
とはいえ、相手は子供。僕もそうだったが二人っきりの時はやっぱり
ママ。
彼女も先生にご挨拶はしたものの、すぐに腰をくねらせて意味ありげ
な笑顔になった。露骨に甘えたいとアピールしているのだった。
「しょうがないわね、いらっしゃい」
作戦成功、真里は再びママのお膝をゲットしたのだった。
「しょうがないわね、こんなに大きくなっちゃって……ママのお膝が
壊れそうだわ」
「でも、やっぱり赤ちゃんは赤ちゃんなんでしょう?」
「それはそうだけど……」
「ねえ、さっきからかかってるピアノ、誰が弾いてるの?」
「合沢健児って人。ここのOBらしいわ」
「男の子なの?それにしてもずいぶん下手ね」
「でも、一年に500曲も作曲して、当時は東京や大阪の発表会では
人気者だったって書かれてたわ」
「信じられない。こんなに下手くそなピアノしか弾けないのに……」
「大きな声ださないの。聞こえたらどうするの」
「聞こえるわけないじゃない。だって、もうここにはいない子なんで
しょう」
「そりゃあそうだけど……」
先生は部屋の鏡を見て思わせぶった笑顔を見せる。もう、私は顔が火
照って真っ赤だった。
「ところで、あなた、ここに呼ばれた訳は知ってるわよね」
「……う、うん」真里は話題が変わると急に肩を落とした。
ま、この部屋に呼ばれて誉められることは期待できないが、先生の他
に人がいない処から見てそれほど重大な罪を犯したわけではないはずだ。
もし、ここに司祭様や女王様がいたら、真里だっていきなり抱きつきは
しないはずである。
あれは四年生の時だったか、ここへ真美ちゃんという女の子と一緒に
呼び出されたんだが、部屋にはいるといきなりおばば様の姿が目に入っ
てしまい、二人とも腰を抜かしそうになったことがあった。僕の方は、
ま、それで済んだんだが、真美ちゃんは恐怖のあまりってことなんだろ
う、部屋に入った処で立ちすくんでしまい、そのままお漏らしをしちゃ
ったことがあった。
これには大人たちの方が慌てたのを覚えている。当時のお仕置きはそ
れほどまでに怖かったのだが、今はその雰囲気をみているとずいぶんと
子供たちが楽そうにみえる。これも時代の変化なのだろう。
「誰にここへ来なさいって言われたの?」
倉田先生は真里の耳元で囁く。
「石川先生、今週は、書き取りの確認テストが一回しか合格してない
から……」
「漢字の書き取りだけじゃないでしょう。算数の佐々木先生も今週は
合格したのが火曜日と木曜日だけっておっしゃってたわ。月、水、金は
不合格だったでしょう」
「でも、不合格になった日は居残りさせられて、ちゃんと覚えたよ」
「それは当たり前の事をしただけじゃない。もし、あなた一人がわか
りませんなんてことになったら、次の単元に授業が進めなくて他のお友
だちにも迷惑がかかるでしょう。自慢になることじゃないわ。だいいち
そのたびに助教師の平林先生にご厄介をかけてるのよ」
「えっ、それは………う、うん」
「確認テストは毎日の宿題なの。家で四回は連続して満点とれるまで
繰り返し練習しなきゃいけないことになってるけど、あなた、お父様の
処でちゃんとやってる?」
「それは……」
真里は口ごもった。確認テストというのは授業でやった内容が知識と
して定着しているかを確かめるためやるテストで、応用問題はなく出題
される問題もあらかじめ提示されているから、要はそれを暗記してくれ
ばそれでよかった。とりわけ国語の書き取りと算数の計算問題は、毎日、
授業の最初に小テストとして必ず行われるから、そのぶんはみんな否応
なしに勉強せざる得なかった。
もし、さぼると、今日の真里ちゃんみたいなことになるのだ。
「そうか」
と、その時河村氏から思わず声が出た。
「どうしたんですか?」
「いやね、先生からは四回続けて全問正解を出すまでやらせてくださ
いって言われてたんだが、今の今まで忘れてたよ。私の方も早く真里が
抱きたくて仕方がないもんだから、彼女が一度でも全問正解を出すと、
ついついお菓子を与えて機嫌をとって、勉強部屋から居間へ連れ戻して
たんだ。いや、真里には悪いことをしたなあ」
「そうですか、そんな時は自分が家庭教師をかって出ればいいんです
よ。私も経験があります。正直、子供としてはあまり歓迎されないけど、
お互い人間椅子としての心地よさはあります。もちろん、長時間あの子
を膝の上に抱けるなら、ですけれど……」
「大丈夫、そのためにここへ来たんだ。そのくらいの苦行には耐えて
みせるよ」
私たちが小さな声で雑談をしている間に、お仕置き部屋の中では一つ
の結論がまとまったようだった。
「だって、お父様が居間の方へいらっしゃいって言うから……」
「まだ、お勉強が完全ら終わってないのに?」
「…………」真里は小さくかむりを縦にした。
「そんなはずないわ。ママはお父様に四回続けて完全に正答がでる迄
お勉強を続けさせてくださいってお願いしてるもの」
「だって、お父様は一回でもできると『もういいんじゃないか』って
…………だから、しょうがなくて……」
「どうして、しょうがないの?『まだ、終わってません』って断れば
いいでしょう」
「だって、お父様に逆らっちゃいけないって……」
「逆らってなんかいないでしょう。まだ、終わってないんだから、終
わってませんって言うだけだもの」
「だって……」
「これはお父様の問題じゃなくて、あなたの問題なのよ。お父様が、
よしんば『遊びましょ』ってお誘いしたとしても、だからって、宿題を
やってこないでもいいってことにはならないのよ。それとも、お父様は、
あなたに『お勉強をやめて、こちらへ来なさい』っておっしゃったの?
……違うでしょう」
「…………」
真里は下唇を噛んだまま。納得したわけではなかったが、子供の身分
ではこんな場合にだって親がそう主張すれば納得するしかなかった。
「石川先生も佐々木先生もとってもあなたのことを心配なさってたわ」
「えっ、だって算数は二回合格してるし……」
「何言ってるの、この一週間は不合格だった日の方が多いじゃないの。
こういうテストはお家でちゃんとやってくれば必ず合格するテストなの。
不合格ってことは、『宿題をちゃんとやって来ませんでした』ということ
でしょう。ママだってお二人の先生方と同じでとっても心配だわ。……
だからこのあたりでね、『がんばれ~~』って励ましてあげた方がいいん
じゃないかと思うんだけど。…………どうかしらね」
こうママに言われて、真里は傍目からも分かるほど真っ青になった。
もとよりここに呼ばれた段階である程度覚悟はしてきているが、それで
もひょっとして許してもらえるかもしれないと楽観的に考えてしまうの
が子供なのだ。それがあらためて親や教師に面と向かって言われること
で『さあ大変だ!』ということになる。そのあたり子どもというのは、
とっても近視眼的だったのである。
ちなみに『励ます』というのは亀山独特の隠語で『お尻をぶちます』
という意味。この他にも『我慢を教えてあげます』とか『お腹の悪い虫
を追い出しちゃいましょう』なんて言われたらお浣腸。お灸は『気付け
薬』だし、『ちょっとのぼせちゃったみたいだから、お外の風に当たりま
しょうか』なんて言われたら素っ裸で晒し台送りという具合だ。
「ゴメンナサイ、来週からはちゃんと合格しますから……」
弱々しい声で釈明してみたが……
「そうして頂戴。あなた一人が遅れをとると、クラスみんなに迷惑が
かかりますからね。……でも、今週の分は今週の分でちゃんと精算しな
ければならないわ。それに、あなただって何かきっかけがないと頑張れ
ないでしょう」
「…………」
真里は一生懸命首を横にふったが……
「何?そんな事してもらわなくてもできますって言うの?……無理よ。
ママはあなたのことずっと見てきてるけど、そうやって改心したことな
んて一度もなかったもの」
「今度は一生懸命やるから…」
「『今度は、』『今度は、』ってのも何回も聞いたけど、できたためしが
ないじゃない。やっぱりここはピリッと辛いものを食べた方がいいわ。
お尻をぶってもらってその違和感が残ってうちは『ああ、そうだった』
って思い出すでしょうから……」
「そんなことないよ」
「そんなことあります。あなたの浮気癖だってそうじゃないの。『新し
いお父様がいやだあ~~』なんてだだをこねて、結局、お股にお灸して
もらったらピタッと修まったじゃないの。あれ、今でも違和感は残って
るでしょう」
「……」真里は下唇を噛んだまま静かに頷く。
「ま、一年くらいはほんのちょっぴり感じる程度残るでしょうけど、
それでいいの。また、我が儘が言いたくなったらその火傷の痕があなた
を止めてくれるわ。……いいこと、ここのお父様はどなたに当たっても
大変な人格者ばかりなの。本来なら世間知らずのあなたごときにえり好
みされるような人たちではないのよ。それを河村のお父様は自分が悪者
になることであなたを引き取ってくださったんだから。感謝しなければ
罰(ばち)が当たるわ」
「…………」
「女の子というは与えられた場所で花を咲かせるようにできてるの。
あなたにはまだわからないでしょうけど、ここは最高の花壇だわ」
「……」真里は不承不承という顔だったが小さく頷いてみせる。
「さあさあ、分かったらさっさとお仕置きも済ましてしまいましょう」
「えっ、やっぱりやるの……やだあ~~」
その口振りはママのお説教を納得すれば許されると思っていたのかも
しれない。ところが意に反してママの態度が強硬だったから驚いたのだ。
真里はそれまでの抱っこから下ろされてママの目の前に立たされる。
そして、膝上丈の短いフレアスカートの裾を何の遠慮もなく跳ね上げる
のだった。
「…………」
その跳ね上げられた裾はお腹の辺りにピンで留められ、真綿のような
木綿のショーツがむき出しになってしまったが、そこは女同士、しかも
相手がママなのだからそんなに抵抗もなかった。
「さあ、ショーツも脱いで……」
ママは次を指示して蒸し器へと向かう。そこには熱々に蒸し上がった
タオルが数枚入れてあった。
ママはそれを少し空気に触れさせてさまし始めるが、見ると娘が何だ
かもじもじしているので……
「どうしたの?早くなさい」
とせき立ててみるのだが言うことをきかなかった。
そこで程良い温度までさました蒸しタオルを二枚ほど持って戻ると…
「さあ、早くなさい」
第9話 ②
<第9話> ②
そう言って娘のショーツに手を掛けたが、真里の方がその手を押さえ
て抵抗するのである。
「どうしたの?」
あらためてママが尋ねると…
「だって……」
彼女はこちらへと視線を向ける。
どうやらここに誰かいると感じているらしかった。亀山はその性格上
子供たちには知らされていない秘密が沢山ある街なのだが、私の時代で
さえ、お仕置き部屋の鏡はマジックミラーになっているというのが定説
になっていた。
当然、真里としても心穏やかではないのだろう。
ただ、そうは言ってもママがおいそれとそんなことを認めるわけには
いかなかった。
「どうしたの?その鏡になにかあるの?」
「だって、それってマジックミラーなんでしょう」
「そうよ、昔はお父様や司祭様が娘のお仕置きを確認するために使っ
てたの。でも、今は部屋を閉鎖しちゃったから誰も覗けないはずよ」
「ほんと?」
「ほんとよ。行ってみる?」
こう言われたらそりゃあ確認するでしょうから……
「うん」
真里は頷いてさっそくスカートのピンを取り始めます。
すると、その隙に倉田先生は鏡の前へやって来て入口の方へ目配せし
ます。『一旦待避』の指示でした。
そこで河合氏はさっそく私たちが入ってきた入口へと向かったのです。
そして早々マリア様の像を動かして鍵を下ろそうとしますから…
「大丈夫ですよ。すぐにここへは入れませんから、それよりもう少し
ドアを開けておかないとタバコの煙が……」
「あっ、そうか、まずかったなあ」
河合氏は慌てて煙りを外に出そうとするが、何しろ換気の悪い部屋の
ため思うにまかせない。それでも、真里がこの部屋へ押し入るまでには
相当の時間がかかった。
というのも、向こう側はドアの前に椅子や机が積み上げられていて、
まずはそれをどかさなければならないのだ。おまけに鍵が三つも掛かり
引き戸もスルスルと開けられる状態ではなかった。
私たちは先生が鍵を開け始めたところで退散したがそれまででもゆう
に10分は経過していた。
「ほら、これで満足したかしら?」
倉田先生は立て付けの悪いドアを押し開けると、してやったりとでも
言わんばかりに言い放ったが、真里は疑い深い眼差しで部屋のあちこち
を嗅ぎ回っている様子だ。
「もう、いい加減になさい。一目見れば誰もいないのはわかるでしょ
うが」
「うん、……」でも、ママ、この部屋ただ、
こちら側のドアは隠し扉で見た目は板壁にした見えないうえにしっか
り施錠されているから子供の眼力で見抜くのは難しかった。
『そうか、こんな仕掛けになってたのか』
私は過ぎ去りし日に先生とここを訪れた日の事を思い出していた。
真里もこれで私とまったく同じ経験をするこになるのだ。
「ねえ、ママ、この部屋、タバコの匂いがしない?」
真里はするどい嗅覚でタバコの匂いを嗅ぎだしたが……
「どうして?」ママは一応鼻を動かしてはみるのだが……
「いいえ、あなたの気のせいよ」
と、一蹴されてしまう。
「さあ、気がすんだら帰るわよ」
結局、何の発見もないまま真里は先生と裏部屋をあとにした。
戸を閉めて鍵が掛けられ、以前のように椅子や机をドアの前で積み上
げている様子に聞き耳を立てながら、頃合いを見計らって私たち裏部屋
へと戻ってみる。
再び、マジックミラーを覗いてみると、真里がすでに下半身をすっぽ
んぽんにされているところだった。
新たな蒸しタオルが用意され、真里はそれにお股とお尻を任せる。
亀山での正式なお仕置きの作法では、鞭打ちの時はお股とお尻をママ
や先生から綺麗に拭いてもらうのが慣例になっていた。
ま、小さい頃ならまだしも大きくなってからは誰も見てないとはいえ
これって結構恥ずかしかったのを覚えている。
これが終わると、お馬さんと呼ばれる鞭打ち台に自らしがみつかなけ
ればならない。このお馬ちゃん、クッションが効いてるから抱き心地は
申し分ないのだが、結構高いので小さい体には怖かったのを覚えている。
男の子はパンツも半ズボンも脱がされて下半身はすっぽんぽんだが、
女の子はスカートは捲られて安全ピンで留められている。どちらも同じ
ような哀れな姿だが、女の子にはさらに加えて試練があった。
「はい、口を開けて」
ママの指示で真里が口を開くと、そこにねじ込まれたのは今の今まで
自分が穿いていたショーツだったのである。
「さあ、いくわよ。よう~~く反省してね」
先生はそう言うと使い込んだトォーズを真里のお尻に添わせるが……
最初はそれだけ。すぐには一発目を振り下ろさない。
その代わりに、ピタピタとトォーズの革の感触をお尻全体に覚えさせ
ながら、同時にたっぷりとアルコールを浸した脱脂綿でお尻の隅々まで
をしっかり拭き上げるのである。お尻の穴も、女の子は性器も……
私もああしてやられた一人だが、子供は体温が高いためにアルコール
のひんやり感が余計に強烈で、これからぶたれる革の感触と共にお尻を
なで回されると発狂したいほどの恐怖感だった。
「えっ、発狂したいほどって、そりゃあいくら何でもオーバーですよ。
だって、そんな辛いことをしてるようには見えないけどなあ」
私が思い出話をすると、河村氏が冷ややかなので、つい…
「あれをやられたことのないあなたに何が分かるんですか!あなたも
あの子と同じ頃にこれをやられてみれば、それがどんなに恐ろしいか、
分かりますよ」
私は河村氏を睨みつけてしまった。亀山のお仕置きは過激な事をして
いるように思われがちだが、お灸を除くとその主体は精神的なもので、
いかに身体を痛めずにお仕置きの効果をあげるかを追求しいる。これも
そんな長年の経験から割り出された一つなのだ。
亀山では、このくらいの年齢の子にはこれが、こんな性格の子にはこ
れが、今の精神状態ならこの方が、…と、ケースバイケースでお仕置き
のやり方が細かく決められていたのである。
倉田先生はようやくじらしにじらして最初の一撃を放つ。
「うっ!!!!」
それは自分のショーツで猿轡をしているから悲鳴にはならないが、私
の経験でいうなら、その強烈な衝撃は、お馬さんを抱いて逃げ出したい
ほどの痛みだったに違いない。
最初の一撃は身体が慣れてないせいもあるが目から火花が散るという
表現が決してオーバーじゃないと分かるほどキツいものだったのである。
倉田先生はここで一旦真里の口からショーツを吐かせるが、その顔は
それまでママに甘えた子供らしいものとは違い、たった一発で唇を振る
わすほどの怯えの表情に変わっていたのである。
「今日は12回にしましょう。国語が6回、算数が6回よ。いいわね」
「……」真里は本当は『はい』というつもりだったが、そのあまりの
衝撃に声が出ないでいた。
「今、1回すんだから、あと11回よ、頑張りなさい」
倉田先生はそう言うと、再びショーツを真里の口に噛ませ、再び後ろ
に回って脱脂綿に含んだアルコールを可愛いお尻へ丹念に塗り始める。
そして、太股を大きく開かせてはその奥に秘められたまだまだ可愛い蕾
にもしっかりと新鮮な外気を取り込んでやるのだ。
「………………」
これには河村氏も満足した様子で、思わず笑みがこぼれる。
ただ、私はここで育って、この部屋に何度も出入りしている身として
は、時が経った今でも女の子の御印を見てにやつく気にはなれなかった。
倉田先生は一旦前に回って口に含ませた真里のショーツを取り出すと
「痛かった?」
笑顔で尋ねたが返事は返ってこなかった。
たかが革ベルトとあなどるなかれ、本気の一発は大人だって飛び上が
るほど痛いのだ。子供の真里にとってはこのまま身体をバラバラにされ
るんじゃないかと思うほどの恐怖だったに違いなかった。
「(今のは何?こっちはそれどころじゃないの!)」
そんな仕儀だったのだろう。
「あなたも、もう六年生になったんだから、お仕置きも五年生の時と
同じじゃないの。しっかりパンツを噛んで自分の至らなさを反省なさい」
先生は動揺の収まらない真里の口に再びショーツを噛ませようとした
が、何か気がついたのかそれをあらためて広げてみる。
「あらっ?あなた、今ならメンスの時期にはかかってないわよね。…
…痔かしら???まさかね………ひょっとして画鋲の上に腰かけたとか」
倉田先生はすかさず真里の顔を見る。
すると、相手は子供だから顔色がすぐに変わってしまうのだ。
「そう、画鋲だったのね……で、誰なの?」
倉田先生は当然犯人を聞きたがるが……
「…………」
真里はすぐには口を割らなかった。というのもこうした事は子供同士
の遊びの中で起こることで、もし、こんなことで友だちを売ったりした
ら、それこそあとで、仲間はずれにされたり虐められたりしはかねない
からだ。
とはいえ、先生もこうした問題を看過できなかった。亀山では、『お友
だち同士が仲良くしていなければいけない』という絶対的な決まり事が
存在するからだ。
もちろん巷にだって仲違いする同級生や反目するクラスメートなんて
珍しくもないだろうが、ここではお父様方がご自分の娘を溺愛している
場合が少なくなく、子供の喧嘩がいつの間にか親の喧嘩となって、その
挙げ句いじめっ子の粛正なんて物騒なことにもなりかねない。
庶民にはピンとこないかもしれないが権力を持った人たちにとっては、
たかが孤児の一人や二人、お人形をゴミ箱にでも放り投げる様な気安さ
で、それから先の人生を潰すことなど簡単にできるのだ。
そんな大人の事情もあってか先生は『とにかく、仲良くさせておかな
ければ…』という強迫観念にとらわれ、子供同士の喧嘩や虐めには特に
神経を尖らせていたのである。
「いいたくないの。でも、そんなことしてると、また虐められるかも
よ」
「いいの、遊びだったんだから……」
「遊び?悪ふざけしてたってこと?でも、度が過ぎれば同じことよ。
ここではお友だちと仲良くできない子はお仕置き。そう決まってるの。
あなただって知ってるでしょう。亀山では一番大事なお約束よ」
「………………」
「あなたがそのお友だちの事を言いたくないってことは、あなたにも
何か後ろ暗いことがあるんじゃないのかしら。そうなったら、あなたも
お仕置きの列に並ばなきゃならなくなるわね」
「そんなことありません……」
「だったらいいじゃないの。先生だってあなた達がどんな遊びをして
いたのか知りたいわ。……でも、それがイヤなんでしょう」
「イヤってわけじゃ……」
真里はやっぱり口が重かった。そこで先生は最後の手段……
「いいわ、だったらおばば様にここへきてもらいましょう。あなたも
おばば様になら話せるでしょうから」
「だめ、そんなことしないで…」
さすがにこれには反応が早かった。
色々やられるお仕置きだがやはりお灸だけは別格で、この山を下りる
までそうたびたびすえられたわけではないのだが、ひとたびすえられる
と、その後3年間はママや教師の脅しだけで効果があるというありがた
いお仕置きだったのである。
「美枝ちゃんと美子ちゃんです。三人でお仕置きごっこやろうってこ
とになって、画鋲をいくつお尻につけられるか競争してたんです」
真里はようやく口を割った。聞けばたわいのないことだが、虐めとい
うのはこんなことからエスカレートするから先生としても気が抜けない
ないのである。
「……でも、二人には私がしゃべったなんて言わないでね」
「そう、そんなに二人が怖いの」
「怖いってわけじゃ……」
真里はそう言ったが、怖いというのが真実だろう。これを口実に仲間
はずれにされたり虐められたりしかねないからだ。
そんなことはママだって百も承知だったから、この後真里は密告した
二人の前で厳しいお仕置きを受けることになる。そして、その二人には
それよりもさらに厳しい折檻が待っていたのだった。
これが亀山流のけじめの付け方で、密告された方も目の前で密告者が
厳しい罰を受けているので、自分たちも仕方がないかと思えるのである。
「へえ、子供の世界にもそんなに大変な深謀遠慮があるんですね」
河村氏は私が中の様子を説明すると感激したようにこう呟いた。
「ところで、部屋の四隅に小鳥の巣箱みたいなのが掛かってるけど、
あれは?……」
「やだなあ、この間図書館で見たじゃないですか、カメラですよ。今
は無人ですけど僕の頃は8ミリか16ミリで専門の方が部屋にいました。
そう言えばカメラ用に照明が点いてて部屋全体ももっと明るかったか」
「まるで、映画撮りだ」
「ええ、昔はね。だからお仕置きに至る話し合いは別の部屋でして、
ここでは純粋にお仕置きを受けるだけだったんです。……そうか、今は
話し合いもこの部屋なのか……」
私は昔と何もかわっていないと思い続けていたがここではじめて隔世
の感を感じたのだった。
「ねえ、鞭のお仕置きってああやって、一回一回アルコールでお尻を
ぬぐうの?」
「回数が少ない時は全部やりますけど、今回は12回と言ってるから
最初の三回か四回だけだと思います。あんまり何回もやってると慣れて
効果が薄くなります」
「さっきの鞭はこっちもびっくりするくらい厳しかったみたいだけど
あんなの12回も受けるの?」
「鞭の威力というのは、たいてい最初が一番キツくて、あとはそんな
でもないんです。ほら、今、二回目の鞭が派手に「パーン」って鳴った
でしょう。でも、あんな音のする時はかえって痛くないんですよ」
「その場、その場で使い分けてるんだ」
「ええ、こんなもの鞭を扱う人のさじ加減ひとつでどうにでもなっち
ゃいますから、真里ちゃんだって最初12回ぶちますって言われた時に
そんなに反抗的な態度をとらなかったからこんなに優しくしてもらえて
るんです。もし、先生を怒らしちゃってキツいのを12回ももらったら
すぐにはお馬さんの背を降りられません…今晩、ベッドで仰向けに寝る
のも無理です」
「そんなに厳しいんだ」
「ええ、お仕置きですからね、仕方ないですよ。……お尻叩きなんて
いうと軽い懲罰くらいに思ってる人がいますけど、亀山では、やられて
三日目でもまだ痛いなんてのがあるんですから…こんなチビちゃんには
しませんけど……」
「そりゃ、そうだろうけど…でも、中学生ならそんなのもありなんだ」
「ええ、彼らはもう赤ちゃんではないので見せしめを受けることはな
いんですが、その分体罰はキツくなるんです」
「なるほど」
「私も赤ちゃんの頃は素っ裸にされるたびに『お姉ちゃん達はいいな、
恥ずかしいことされないから』と思っていましたが、実際なってみると
ケインなんて呼ばれる籐鞭で毎日のようにぶたれてヒーヒーでしたよ」
「よく考えられてるだね。たしかお仕置きのモットーみたいなのが…
あったよね」
「安全で、心に残って、…それでいて悪感情は残さない。最後に必ず
抱いてもらうのもその為なんです。特に赤ちゃんのお仕置きってのは、
その効果はどんなに長くても次のご飯までしかもたないようにできてる
んです」
「じゃあ、それから先は忘れちゃってもいいってこと?」
「忘れやしません。痛みがなくなるだけです。痛みは去っても心には
残るようにしてあるんです。今、そこで一回一回アルコールで拭いてる
のもその為なんですから…」
「なるほど、そういう意味か。飴と鞭を使い分け、皮膚感覚を大事に
してるってわけだ」
「そういうことです。女の子の場合は痛みと快感を微妙にすりあわせ
ながらリビドーを高めたりもします」
「それって、私のため?」
「ええ、それもありますが、その後の夫婦生活のために必要なんです。
男性は総じてサディステックなものですからね、受け手の女性はマゾヒ
テックに仕上げるんです。それで結婚させてみて、うまくいかなければ
ここに戻ってくればいいからって送り出すんです」
「なるほど、お仕置きにはそんな意味まで含まれてるんだ」
「女王様に言わせると、『お仕置きはすべて子供のためにやってるの。
女の子が偉ぶってお金を稼いでも愛されないなら幸せにはなれないわ』
ということになります」
私は思わず女王様の物まねまでしてみた。
「似てる、似てる」
それは意外にも河村氏にも受けたのだった。
そう言って娘のショーツに手を掛けたが、真里の方がその手を押さえ
て抵抗するのである。
「どうしたの?」
あらためてママが尋ねると…
「だって……」
彼女はこちらへと視線を向ける。
どうやらここに誰かいると感じているらしかった。亀山はその性格上
子供たちには知らされていない秘密が沢山ある街なのだが、私の時代で
さえ、お仕置き部屋の鏡はマジックミラーになっているというのが定説
になっていた。
当然、真里としても心穏やかではないのだろう。
ただ、そうは言ってもママがおいそれとそんなことを認めるわけには
いかなかった。
「どうしたの?その鏡になにかあるの?」
「だって、それってマジックミラーなんでしょう」
「そうよ、昔はお父様や司祭様が娘のお仕置きを確認するために使っ
てたの。でも、今は部屋を閉鎖しちゃったから誰も覗けないはずよ」
「ほんと?」
「ほんとよ。行ってみる?」
こう言われたらそりゃあ確認するでしょうから……
「うん」
真里は頷いてさっそくスカートのピンを取り始めます。
すると、その隙に倉田先生は鏡の前へやって来て入口の方へ目配せし
ます。『一旦待避』の指示でした。
そこで河合氏はさっそく私たちが入ってきた入口へと向かったのです。
そして早々マリア様の像を動かして鍵を下ろそうとしますから…
「大丈夫ですよ。すぐにここへは入れませんから、それよりもう少し
ドアを開けておかないとタバコの煙が……」
「あっ、そうか、まずかったなあ」
河合氏は慌てて煙りを外に出そうとするが、何しろ換気の悪い部屋の
ため思うにまかせない。それでも、真里がこの部屋へ押し入るまでには
相当の時間がかかった。
というのも、向こう側はドアの前に椅子や机が積み上げられていて、
まずはそれをどかさなければならないのだ。おまけに鍵が三つも掛かり
引き戸もスルスルと開けられる状態ではなかった。
私たちは先生が鍵を開け始めたところで退散したがそれまででもゆう
に10分は経過していた。
「ほら、これで満足したかしら?」
倉田先生は立て付けの悪いドアを押し開けると、してやったりとでも
言わんばかりに言い放ったが、真里は疑い深い眼差しで部屋のあちこち
を嗅ぎ回っている様子だ。
「もう、いい加減になさい。一目見れば誰もいないのはわかるでしょ
うが」
「うん、……」でも、ママ、この部屋ただ、
こちら側のドアは隠し扉で見た目は板壁にした見えないうえにしっか
り施錠されているから子供の眼力で見抜くのは難しかった。
『そうか、こんな仕掛けになってたのか』
私は過ぎ去りし日に先生とここを訪れた日の事を思い出していた。
真里もこれで私とまったく同じ経験をするこになるのだ。
「ねえ、ママ、この部屋、タバコの匂いがしない?」
真里はするどい嗅覚でタバコの匂いを嗅ぎだしたが……
「どうして?」ママは一応鼻を動かしてはみるのだが……
「いいえ、あなたの気のせいよ」
と、一蹴されてしまう。
「さあ、気がすんだら帰るわよ」
結局、何の発見もないまま真里は先生と裏部屋をあとにした。
戸を閉めて鍵が掛けられ、以前のように椅子や机をドアの前で積み上
げている様子に聞き耳を立てながら、頃合いを見計らって私たち裏部屋
へと戻ってみる。
再び、マジックミラーを覗いてみると、真里がすでに下半身をすっぽ
んぽんにされているところだった。
新たな蒸しタオルが用意され、真里はそれにお股とお尻を任せる。
亀山での正式なお仕置きの作法では、鞭打ちの時はお股とお尻をママ
や先生から綺麗に拭いてもらうのが慣例になっていた。
ま、小さい頃ならまだしも大きくなってからは誰も見てないとはいえ
これって結構恥ずかしかったのを覚えている。
これが終わると、お馬さんと呼ばれる鞭打ち台に自らしがみつかなけ
ればならない。このお馬ちゃん、クッションが効いてるから抱き心地は
申し分ないのだが、結構高いので小さい体には怖かったのを覚えている。
男の子はパンツも半ズボンも脱がされて下半身はすっぽんぽんだが、
女の子はスカートは捲られて安全ピンで留められている。どちらも同じ
ような哀れな姿だが、女の子にはさらに加えて試練があった。
「はい、口を開けて」
ママの指示で真里が口を開くと、そこにねじ込まれたのは今の今まで
自分が穿いていたショーツだったのである。
「さあ、いくわよ。よう~~く反省してね」
先生はそう言うと使い込んだトォーズを真里のお尻に添わせるが……
最初はそれだけ。すぐには一発目を振り下ろさない。
その代わりに、ピタピタとトォーズの革の感触をお尻全体に覚えさせ
ながら、同時にたっぷりとアルコールを浸した脱脂綿でお尻の隅々まで
をしっかり拭き上げるのである。お尻の穴も、女の子は性器も……
私もああしてやられた一人だが、子供は体温が高いためにアルコール
のひんやり感が余計に強烈で、これからぶたれる革の感触と共にお尻を
なで回されると発狂したいほどの恐怖感だった。
「えっ、発狂したいほどって、そりゃあいくら何でもオーバーですよ。
だって、そんな辛いことをしてるようには見えないけどなあ」
私が思い出話をすると、河村氏が冷ややかなので、つい…
「あれをやられたことのないあなたに何が分かるんですか!あなたも
あの子と同じ頃にこれをやられてみれば、それがどんなに恐ろしいか、
分かりますよ」
私は河村氏を睨みつけてしまった。亀山のお仕置きは過激な事をして
いるように思われがちだが、お灸を除くとその主体は精神的なもので、
いかに身体を痛めずにお仕置きの効果をあげるかを追求しいる。これも
そんな長年の経験から割り出された一つなのだ。
亀山では、このくらいの年齢の子にはこれが、こんな性格の子にはこ
れが、今の精神状態ならこの方が、…と、ケースバイケースでお仕置き
のやり方が細かく決められていたのである。
倉田先生はようやくじらしにじらして最初の一撃を放つ。
「うっ!!!!」
それは自分のショーツで猿轡をしているから悲鳴にはならないが、私
の経験でいうなら、その強烈な衝撃は、お馬さんを抱いて逃げ出したい
ほどの痛みだったに違いない。
最初の一撃は身体が慣れてないせいもあるが目から火花が散るという
表現が決してオーバーじゃないと分かるほどキツいものだったのである。
倉田先生はここで一旦真里の口からショーツを吐かせるが、その顔は
それまでママに甘えた子供らしいものとは違い、たった一発で唇を振る
わすほどの怯えの表情に変わっていたのである。
「今日は12回にしましょう。国語が6回、算数が6回よ。いいわね」
「……」真里は本当は『はい』というつもりだったが、そのあまりの
衝撃に声が出ないでいた。
「今、1回すんだから、あと11回よ、頑張りなさい」
倉田先生はそう言うと、再びショーツを真里の口に噛ませ、再び後ろ
に回って脱脂綿に含んだアルコールを可愛いお尻へ丹念に塗り始める。
そして、太股を大きく開かせてはその奥に秘められたまだまだ可愛い蕾
にもしっかりと新鮮な外気を取り込んでやるのだ。
「………………」
これには河村氏も満足した様子で、思わず笑みがこぼれる。
ただ、私はここで育って、この部屋に何度も出入りしている身として
は、時が経った今でも女の子の御印を見てにやつく気にはなれなかった。
倉田先生は一旦前に回って口に含ませた真里のショーツを取り出すと
「痛かった?」
笑顔で尋ねたが返事は返ってこなかった。
たかが革ベルトとあなどるなかれ、本気の一発は大人だって飛び上が
るほど痛いのだ。子供の真里にとってはこのまま身体をバラバラにされ
るんじゃないかと思うほどの恐怖だったに違いなかった。
「(今のは何?こっちはそれどころじゃないの!)」
そんな仕儀だったのだろう。
「あなたも、もう六年生になったんだから、お仕置きも五年生の時と
同じじゃないの。しっかりパンツを噛んで自分の至らなさを反省なさい」
先生は動揺の収まらない真里の口に再びショーツを噛ませようとした
が、何か気がついたのかそれをあらためて広げてみる。
「あらっ?あなた、今ならメンスの時期にはかかってないわよね。…
…痔かしら???まさかね………ひょっとして画鋲の上に腰かけたとか」
倉田先生はすかさず真里の顔を見る。
すると、相手は子供だから顔色がすぐに変わってしまうのだ。
「そう、画鋲だったのね……で、誰なの?」
倉田先生は当然犯人を聞きたがるが……
「…………」
真里はすぐには口を割らなかった。というのもこうした事は子供同士
の遊びの中で起こることで、もし、こんなことで友だちを売ったりした
ら、それこそあとで、仲間はずれにされたり虐められたりしはかねない
からだ。
とはいえ、先生もこうした問題を看過できなかった。亀山では、『お友
だち同士が仲良くしていなければいけない』という絶対的な決まり事が
存在するからだ。
もちろん巷にだって仲違いする同級生や反目するクラスメートなんて
珍しくもないだろうが、ここではお父様方がご自分の娘を溺愛している
場合が少なくなく、子供の喧嘩がいつの間にか親の喧嘩となって、その
挙げ句いじめっ子の粛正なんて物騒なことにもなりかねない。
庶民にはピンとこないかもしれないが権力を持った人たちにとっては、
たかが孤児の一人や二人、お人形をゴミ箱にでも放り投げる様な気安さ
で、それから先の人生を潰すことなど簡単にできるのだ。
そんな大人の事情もあってか先生は『とにかく、仲良くさせておかな
ければ…』という強迫観念にとらわれ、子供同士の喧嘩や虐めには特に
神経を尖らせていたのである。
「いいたくないの。でも、そんなことしてると、また虐められるかも
よ」
「いいの、遊びだったんだから……」
「遊び?悪ふざけしてたってこと?でも、度が過ぎれば同じことよ。
ここではお友だちと仲良くできない子はお仕置き。そう決まってるの。
あなただって知ってるでしょう。亀山では一番大事なお約束よ」
「………………」
「あなたがそのお友だちの事を言いたくないってことは、あなたにも
何か後ろ暗いことがあるんじゃないのかしら。そうなったら、あなたも
お仕置きの列に並ばなきゃならなくなるわね」
「そんなことありません……」
「だったらいいじゃないの。先生だってあなた達がどんな遊びをして
いたのか知りたいわ。……でも、それがイヤなんでしょう」
「イヤってわけじゃ……」
真里はやっぱり口が重かった。そこで先生は最後の手段……
「いいわ、だったらおばば様にここへきてもらいましょう。あなたも
おばば様になら話せるでしょうから」
「だめ、そんなことしないで…」
さすがにこれには反応が早かった。
色々やられるお仕置きだがやはりお灸だけは別格で、この山を下りる
までそうたびたびすえられたわけではないのだが、ひとたびすえられる
と、その後3年間はママや教師の脅しだけで効果があるというありがた
いお仕置きだったのである。
「美枝ちゃんと美子ちゃんです。三人でお仕置きごっこやろうってこ
とになって、画鋲をいくつお尻につけられるか競争してたんです」
真里はようやく口を割った。聞けばたわいのないことだが、虐めとい
うのはこんなことからエスカレートするから先生としても気が抜けない
ないのである。
「……でも、二人には私がしゃべったなんて言わないでね」
「そう、そんなに二人が怖いの」
「怖いってわけじゃ……」
真里はそう言ったが、怖いというのが真実だろう。これを口実に仲間
はずれにされたり虐められたりしかねないからだ。
そんなことはママだって百も承知だったから、この後真里は密告した
二人の前で厳しいお仕置きを受けることになる。そして、その二人には
それよりもさらに厳しい折檻が待っていたのだった。
これが亀山流のけじめの付け方で、密告された方も目の前で密告者が
厳しい罰を受けているので、自分たちも仕方がないかと思えるのである。
「へえ、子供の世界にもそんなに大変な深謀遠慮があるんですね」
河村氏は私が中の様子を説明すると感激したようにこう呟いた。
「ところで、部屋の四隅に小鳥の巣箱みたいなのが掛かってるけど、
あれは?……」
「やだなあ、この間図書館で見たじゃないですか、カメラですよ。今
は無人ですけど僕の頃は8ミリか16ミリで専門の方が部屋にいました。
そう言えばカメラ用に照明が点いてて部屋全体ももっと明るかったか」
「まるで、映画撮りだ」
「ええ、昔はね。だからお仕置きに至る話し合いは別の部屋でして、
ここでは純粋にお仕置きを受けるだけだったんです。……そうか、今は
話し合いもこの部屋なのか……」
私は昔と何もかわっていないと思い続けていたがここではじめて隔世
の感を感じたのだった。
「ねえ、鞭のお仕置きってああやって、一回一回アルコールでお尻を
ぬぐうの?」
「回数が少ない時は全部やりますけど、今回は12回と言ってるから
最初の三回か四回だけだと思います。あんまり何回もやってると慣れて
効果が薄くなります」
「さっきの鞭はこっちもびっくりするくらい厳しかったみたいだけど
あんなの12回も受けるの?」
「鞭の威力というのは、たいてい最初が一番キツくて、あとはそんな
でもないんです。ほら、今、二回目の鞭が派手に「パーン」って鳴った
でしょう。でも、あんな音のする時はかえって痛くないんですよ」
「その場、その場で使い分けてるんだ」
「ええ、こんなもの鞭を扱う人のさじ加減ひとつでどうにでもなっち
ゃいますから、真里ちゃんだって最初12回ぶちますって言われた時に
そんなに反抗的な態度をとらなかったからこんなに優しくしてもらえて
るんです。もし、先生を怒らしちゃってキツいのを12回ももらったら
すぐにはお馬さんの背を降りられません…今晩、ベッドで仰向けに寝る
のも無理です」
「そんなに厳しいんだ」
「ええ、お仕置きですからね、仕方ないですよ。……お尻叩きなんて
いうと軽い懲罰くらいに思ってる人がいますけど、亀山では、やられて
三日目でもまだ痛いなんてのがあるんですから…こんなチビちゃんには
しませんけど……」
「そりゃ、そうだろうけど…でも、中学生ならそんなのもありなんだ」
「ええ、彼らはもう赤ちゃんではないので見せしめを受けることはな
いんですが、その分体罰はキツくなるんです」
「なるほど」
「私も赤ちゃんの頃は素っ裸にされるたびに『お姉ちゃん達はいいな、
恥ずかしいことされないから』と思っていましたが、実際なってみると
ケインなんて呼ばれる籐鞭で毎日のようにぶたれてヒーヒーでしたよ」
「よく考えられてるだね。たしかお仕置きのモットーみたいなのが…
あったよね」
「安全で、心に残って、…それでいて悪感情は残さない。最後に必ず
抱いてもらうのもその為なんです。特に赤ちゃんのお仕置きってのは、
その効果はどんなに長くても次のご飯までしかもたないようにできてる
んです」
「じゃあ、それから先は忘れちゃってもいいってこと?」
「忘れやしません。痛みがなくなるだけです。痛みは去っても心には
残るようにしてあるんです。今、そこで一回一回アルコールで拭いてる
のもその為なんですから…」
「なるほど、そういう意味か。飴と鞭を使い分け、皮膚感覚を大事に
してるってわけだ」
「そういうことです。女の子の場合は痛みと快感を微妙にすりあわせ
ながらリビドーを高めたりもします」
「それって、私のため?」
「ええ、それもありますが、その後の夫婦生活のために必要なんです。
男性は総じてサディステックなものですからね、受け手の女性はマゾヒ
テックに仕上げるんです。それで結婚させてみて、うまくいかなければ
ここに戻ってくればいいからって送り出すんです」
「なるほど、お仕置きにはそんな意味まで含まれてるんだ」
「女王様に言わせると、『お仕置きはすべて子供のためにやってるの。
女の子が偉ぶってお金を稼いでも愛されないなら幸せにはなれないわ』
ということになります」
私は思わず女王様の物まねまでしてみた。
「似てる、似てる」
それは意外にも河村氏にも受けたのだった。
第10話 ①
<第10話> ①
その週末、私は河村氏の私邸に招かれた。二週間ほど前、真里ちゃん
のお股にお灸がすえられたあの舞台では本来の催し物が開かれ、ピアノ
やフルート、バイオリン、ハープなどの演奏、バレイや日舞、古典文学
の朗読なんてものまである。
私が子供だった頃と出し物に大きな変化はないが、腕は僕らの頃とは
段違いだ。
なるほど、これなら僕のピアノを聞いて真里が「下手ねえ~」と言う
はずである。
僕らの頃はまだ指導法が未熟だったせいかこんなに上手な子はいなか
った。
「どうですか、先生も一曲お手本を示されては?」
「いや、もうピアノを外れてから二十年近く経ちますからね。今さら
恥はかきたくありませんよ」
「そうそう、恥と言えば…真里のお仕置きに行ってきましたよ。結局、
あれは真里が虐められたんじゃなくて、女の子たちが桃色遊技をしたと
いうことでお仕置きになったんですが、いやあ~~ひどいもんでした」
「ひどい?どんな風に?」
「あなたに説明を受けたでしょう。壁から突き出している狭いベット。
あれに寝かされてメントールの入った薬剤をたっぷり股の間に塗り込ま
れるんです。私もそれなりに覚悟はしていったんですが、想像以上でね、
辛かったです」
「悲鳴が上がったでしょう」
「ええ、それがどの子も…もの凄いんですから。あれ、もの凄く痛い
んでしょうね」
「私は男なんで…あれは、されたことがないんです。ただ、友だちに
聞いた話では『焼け火箸をそこに押しつけられたぐらいショックだった』
って言ってました」
「でしょうね、そのくらいの轟音でしたもの。とにかく、少女が人目
もはばからずこんな凄まじい悲鳴を上げるのかってくらいのものだった
んですから……さすがに私もその場に居たたまれませんでしたよ」
「でも、あれ、その場限りなんですよ」
「と、言いますと……」
「だから、ものの一二分でまるで何事もなかったようになっちゃうで
すよ」
「そう言えばそうか、彼女たち、その後鞭のお仕置きももらったんだ
けど……その時は、もうそんな素振りは見せなかったなあ……」
「でしょう、あれ、元々傷薬ですからね、染みても害はないんです。
ただ、あれ…後でかゆくなるみたいでしてねえ、寝る時オナニーなんか
しないように貞操帯を着けて帰すのが普通なんですよ」
「なるほど……」
河合氏は私に相槌をうつとさっそく真里を捜し始めた。
そして……
「真里、こっちへ来なさい」
彼は真里を自分の目の前に立たせると何も言わずそのスカートを捲り
上げたのである。
「…………わかった。もう行っていいよ」
ほんの数秒、スカートの中を確認しただけで彼はスカートを下ろす。
「なるほど、貞操帯ってショーツの上から穿く物だったんだ」
「トイレへ行く時なんかは人を頼まないとどうにもならないから結構
辛いんですよ。ま、こちらの方がよほどお仕置きとして辛いかもしれま
せんね」
「どうして?」
「一週間くらいあの姿なんです」
「一週間も……」
「僕らの頃は『この方がおしとやかになるから』ってよく大人たちに
やらされてましたよ」
「ここは保守的な街ですからね」
「いえ、これでも若干変化はしてきてるんです。僕らの前の世代は、
おねしょもお仕置きの対象だったくらいですからね。『今は、おねしょは
お仕置きの対象になりません』って話したら、先輩達にはたいそう羨ま
しがられましたよ」
「そうかもしれませんね。僕なんか巷の育ちですけど、おねしょのお
仕置きにお灸をすえられたなんて話、よく聞きましたから………あれ、
当時は本人の自覚の問題で、『起きる意思が弱いからおねしょするんだ』
なんて言われてたみたいですね」
「今はオナニーも解禁されてるそうじゃないですか」
「ええ、完全にではないそうですが、何でもかんでもお仕置きって事
じゃないみたいです。合沢さんの時代は違ってましたか?」
「ええ、違ってましたね。特に女の子は絶対のタブーで…見つかると、
必ずと言っていいほどフルハウスなんです」
「男の子はいいんですか?」
「いえ、男の子だってダメはダメなんですが、見つかってもやりすぎ
には注意しましょうぐらいで、無罪放免になっちゃいますからね、女の
子たちには不公平だってよく責められましたよ。
「どうしてなんでしょうね。その落差は?」
「一つは身体の構造上女の子の方がばい菌が入りやすく炎症を起こし
やすいって問題があるのと、やはり大きいのはオナニーをするような子
は淫乱で純真じゃないっていうお父様方の先入観に配慮したんだと思い
ますね」
「そりゃあ、あるだろうね、自分の事は差し置いて勝手な話だけど、
やっぱり添い寝してくれる子は性のことなど知らないうぶな子であって
欲しいもの」
「そういえば、真里ちゃんは先生にお返しになったみたいですね」
「ああ、本当はこのままずっとそばに置いておきたかったんだけど、
どうやらそうもいかないみたいだからここは分別をつけて手放したんだ。
……ただ、他の子たちもとっても良い子でね。別に、寂しい思いはして
ないよ。とにかくこんないい子たちを育ててくれた先生方には感謝感謝
だ。……そうだ、今夜は泊まっていくといい。当番の子が添い寝してく
れるんだが、妻が里帰りしていないものだから、四人じゃ多すぎるんだ」
「わかりました」
「でも、奥さんがよくここへの移住を承知なさいましたね。…実は、
奥さんの反対で断念される方が結構多いんですよ」
「うちだって同じさ。渋々着いてきた。『何で今さら見ず知らずの子供
の面倒をみなきゃならないの!?』ってね。女にとっちゃ子供の世話は
仕事であって趣味にはならないみたいなんだ。…でも、怒って帰った訳
じゃないよ。その逆。ここで暮らすうちに本格的に移り住んでもいいと
言い出してそのため荷物を取りに帰ったんだ」
「じゃあご機嫌が直ったんだ」
「そういうこと。最初は不安だったんだろうが、里子を持つといって
も、こちらの仕事は抱いてあやすだけみたいなものだし、しかもみんな
上品で従順に躾てあるだろう。毎日孫を抱いてるみたいで彼女としても
楽しいんだよ」
私はこうして河村氏の家で子供たちとの一拍を経験することになった
のである。
夕食は大広間。当番の子だけがお父様たちと同席できるのは私の頃と
同じルールだ。ただ違う点もいくつかある。まずはBGM。僕たちの頃
も頭上には妙なるメロディーが流れていたがそれは大半がクラシックで、
私のようにピアノの練習が苦手な子はたまたま自分の課題曲がかかると
ご飯が不味くて仕方がなかった。それが今では、正々堂々ビートルズや
カーペンターズが流れているんだから驚きだ。私たちの時代は過ぎ去り
今はこれがクラシックなのかもしれない。
次に食事の内容。僕らの頃はママと一緒の下座とお父様たちの上座で
は明らかに食事の内容が異なっていた。お酒なんかは当然にしてもお料
理そのものが上座の方がはるかに豪華なのだ。だから当番の日は、普段
食べられないものが食べられるのでわくわくしたものなのなだ。それが
今では上座下座関係なく同じ料理がでてくる。
『おいおい、これでは当番の日の楽しみが一つ減ってしまうな』
と思ったが、これも時代の流れなのだろう。料理そのものも…
『こんなものチビには贅沢だ』
というしろもの。食品関係で成功した先輩達がこぞって色んな食材を
提供するので仕方がないといえば仕方がないのだがそれだけ日本という
国が豊かになったということでもあるのだろう。
ただ、食事風景そのものは昔のままだった。上座ではお父様お母様が
愛児を膝の上に乗せてスプーンで口の中へと運び入れているし、下座で
もママが幼い子を抱いて同じ様な格好で食事させている。もう少しだけ
大きくなった子には14歳以上の子がママの代わりをしている。これも
昔のままだ。
私には楽しく懐かしい光景だが、こんな光景を見たら巷の人たちには
首を傾げるだろう。
『この子達は一人で食事ができないのか?』
『ひょっとして身障者なのか?』
なんて思うかもしれない。もちろん、どちらもNoなのだが、これが
亀山の流儀なのだ。どんなに厳しいお仕置きの直後でも食事の時だけは
無礼講で、たっぷりママやお父様お母様に甘えることができた。そして、
何でもありの亀山のお仕置きだが、唯一、食事を抜く罰というのだけは
なかったのである。
そんななか、私もせっかくなので先輩として応分の責任を取ることに
した。
「安西真奈美です。よろしくお願いします」
その子は椅子に座る私の足下でお約束の乙女の祈りを捧げる。
「真奈美ちゃん、さあおいで」
私はかつて何百回もやってもらったことを初めてしてみた。
両脇を抱えて自分の膝の上に乗せるのだ。正直、この位の歳になると
脇の下が痛いのだが、彼女も亀山の子、そんな事はおくびにも出さない。
「どれが食べたい?」
必ず注文を聞いて料理をとりわけスプーンに乗せて「あ~ん」させる。
「美味しいか?」
「美味しい」
「幸せか?」
「幸せです」
「そうか、そうか、それはよかった」
約束通りのたわいのない問答。でもこの時初めて私は大人たちがこう
して子供を抱いて食事させることが嬉しいことなんだと知ったのである。
というのも、これって子供の立場からすると必ずしも嬉しいことでは
ないからなのだ。
それは、お膝の上と言っても色々あって必ずしも楽ちんなものばかり
ではないからだ。大人だから口臭体臭のする人もいるし、スプーンの扱
いが乱暴で口の中を怪我しそうになったことやどさくさに紛れて急所を
触ったりする人もいる。子供の立場からすると色々あるからだ。
しかし、こうして初めて子供を抱いてみて、私はどうして大人たちが
こんなにも膝の上に子供たちを抱きたがるのかわかったような気がする。
とにかく膝の上に子供を乗せると楽しいのだ。その弾む身体がまるで
私のかたくなになった心をマッサージして解きほぐしてくれているよう
な感じがするのである。
だから…
「ねえ、今度の誕生日にバービー人形のお家買って」
なんて言われると、つい…
「よし、いいよ」
なんて、簡単に約束してしまうから不思議だ。
だから、大人たちは『子供、子供』と低くみるのだが、実は大人の方
がよほど精神構造が単純なのかもしれないと思ったりもする。
しかし、それで大人と子供、調和が取れているのかもしれない。
私はまるで生まれた時から抱かれているような馴れ馴れしさで私の胸
にしがみついてくる真奈美を時間の許す限り抱きしめ続けた。
もちろん、私の経験からしてもそれは真奈美にとって大変迷惑なこと
だったのかもしれないが……
食事が終わると幼稚園さんたちはお風呂に入り寝床へ直行する。
彼らはもう他にやるべきことがないからだ。たいていママと一緒にお
風呂へ入り、お父様の処へ行っておやすみのご挨拶。すると、お父様と
お母様は絵本を読んでくれ子守歌を歌ってくれてやがて寝かしつけられ
る事になるのだが、距離感の違いとでもいうか、子供にすればそんな時
でもママが近くにいないと泣いてしまうケースが多かった。遊んでいる
のは子供。遊ばれているのはお父様とお母様。そんな感じで8時を回る
頃には幼稚園児はネンネとなって、今度は小学校の低学年さんがやって
くる。
その週末、私は河村氏の私邸に招かれた。二週間ほど前、真里ちゃん
のお股にお灸がすえられたあの舞台では本来の催し物が開かれ、ピアノ
やフルート、バイオリン、ハープなどの演奏、バレイや日舞、古典文学
の朗読なんてものまである。
私が子供だった頃と出し物に大きな変化はないが、腕は僕らの頃とは
段違いだ。
なるほど、これなら僕のピアノを聞いて真里が「下手ねえ~」と言う
はずである。
僕らの頃はまだ指導法が未熟だったせいかこんなに上手な子はいなか
った。
「どうですか、先生も一曲お手本を示されては?」
「いや、もうピアノを外れてから二十年近く経ちますからね。今さら
恥はかきたくありませんよ」
「そうそう、恥と言えば…真里のお仕置きに行ってきましたよ。結局、
あれは真里が虐められたんじゃなくて、女の子たちが桃色遊技をしたと
いうことでお仕置きになったんですが、いやあ~~ひどいもんでした」
「ひどい?どんな風に?」
「あなたに説明を受けたでしょう。壁から突き出している狭いベット。
あれに寝かされてメントールの入った薬剤をたっぷり股の間に塗り込ま
れるんです。私もそれなりに覚悟はしていったんですが、想像以上でね、
辛かったです」
「悲鳴が上がったでしょう」
「ええ、それがどの子も…もの凄いんですから。あれ、もの凄く痛い
んでしょうね」
「私は男なんで…あれは、されたことがないんです。ただ、友だちに
聞いた話では『焼け火箸をそこに押しつけられたぐらいショックだった』
って言ってました」
「でしょうね、そのくらいの轟音でしたもの。とにかく、少女が人目
もはばからずこんな凄まじい悲鳴を上げるのかってくらいのものだった
んですから……さすがに私もその場に居たたまれませんでしたよ」
「でも、あれ、その場限りなんですよ」
「と、言いますと……」
「だから、ものの一二分でまるで何事もなかったようになっちゃうで
すよ」
「そう言えばそうか、彼女たち、その後鞭のお仕置きももらったんだ
けど……その時は、もうそんな素振りは見せなかったなあ……」
「でしょう、あれ、元々傷薬ですからね、染みても害はないんです。
ただ、あれ…後でかゆくなるみたいでしてねえ、寝る時オナニーなんか
しないように貞操帯を着けて帰すのが普通なんですよ」
「なるほど……」
河合氏は私に相槌をうつとさっそく真里を捜し始めた。
そして……
「真里、こっちへ来なさい」
彼は真里を自分の目の前に立たせると何も言わずそのスカートを捲り
上げたのである。
「…………わかった。もう行っていいよ」
ほんの数秒、スカートの中を確認しただけで彼はスカートを下ろす。
「なるほど、貞操帯ってショーツの上から穿く物だったんだ」
「トイレへ行く時なんかは人を頼まないとどうにもならないから結構
辛いんですよ。ま、こちらの方がよほどお仕置きとして辛いかもしれま
せんね」
「どうして?」
「一週間くらいあの姿なんです」
「一週間も……」
「僕らの頃は『この方がおしとやかになるから』ってよく大人たちに
やらされてましたよ」
「ここは保守的な街ですからね」
「いえ、これでも若干変化はしてきてるんです。僕らの前の世代は、
おねしょもお仕置きの対象だったくらいですからね。『今は、おねしょは
お仕置きの対象になりません』って話したら、先輩達にはたいそう羨ま
しがられましたよ」
「そうかもしれませんね。僕なんか巷の育ちですけど、おねしょのお
仕置きにお灸をすえられたなんて話、よく聞きましたから………あれ、
当時は本人の自覚の問題で、『起きる意思が弱いからおねしょするんだ』
なんて言われてたみたいですね」
「今はオナニーも解禁されてるそうじゃないですか」
「ええ、完全にではないそうですが、何でもかんでもお仕置きって事
じゃないみたいです。合沢さんの時代は違ってましたか?」
「ええ、違ってましたね。特に女の子は絶対のタブーで…見つかると、
必ずと言っていいほどフルハウスなんです」
「男の子はいいんですか?」
「いえ、男の子だってダメはダメなんですが、見つかってもやりすぎ
には注意しましょうぐらいで、無罪放免になっちゃいますからね、女の
子たちには不公平だってよく責められましたよ。
「どうしてなんでしょうね。その落差は?」
「一つは身体の構造上女の子の方がばい菌が入りやすく炎症を起こし
やすいって問題があるのと、やはり大きいのはオナニーをするような子
は淫乱で純真じゃないっていうお父様方の先入観に配慮したんだと思い
ますね」
「そりゃあ、あるだろうね、自分の事は差し置いて勝手な話だけど、
やっぱり添い寝してくれる子は性のことなど知らないうぶな子であって
欲しいもの」
「そういえば、真里ちゃんは先生にお返しになったみたいですね」
「ああ、本当はこのままずっとそばに置いておきたかったんだけど、
どうやらそうもいかないみたいだからここは分別をつけて手放したんだ。
……ただ、他の子たちもとっても良い子でね。別に、寂しい思いはして
ないよ。とにかくこんないい子たちを育ててくれた先生方には感謝感謝
だ。……そうだ、今夜は泊まっていくといい。当番の子が添い寝してく
れるんだが、妻が里帰りしていないものだから、四人じゃ多すぎるんだ」
「わかりました」
「でも、奥さんがよくここへの移住を承知なさいましたね。…実は、
奥さんの反対で断念される方が結構多いんですよ」
「うちだって同じさ。渋々着いてきた。『何で今さら見ず知らずの子供
の面倒をみなきゃならないの!?』ってね。女にとっちゃ子供の世話は
仕事であって趣味にはならないみたいなんだ。…でも、怒って帰った訳
じゃないよ。その逆。ここで暮らすうちに本格的に移り住んでもいいと
言い出してそのため荷物を取りに帰ったんだ」
「じゃあご機嫌が直ったんだ」
「そういうこと。最初は不安だったんだろうが、里子を持つといって
も、こちらの仕事は抱いてあやすだけみたいなものだし、しかもみんな
上品で従順に躾てあるだろう。毎日孫を抱いてるみたいで彼女としても
楽しいんだよ」
私はこうして河村氏の家で子供たちとの一拍を経験することになった
のである。
夕食は大広間。当番の子だけがお父様たちと同席できるのは私の頃と
同じルールだ。ただ違う点もいくつかある。まずはBGM。僕たちの頃
も頭上には妙なるメロディーが流れていたがそれは大半がクラシックで、
私のようにピアノの練習が苦手な子はたまたま自分の課題曲がかかると
ご飯が不味くて仕方がなかった。それが今では、正々堂々ビートルズや
カーペンターズが流れているんだから驚きだ。私たちの時代は過ぎ去り
今はこれがクラシックなのかもしれない。
次に食事の内容。僕らの頃はママと一緒の下座とお父様たちの上座で
は明らかに食事の内容が異なっていた。お酒なんかは当然にしてもお料
理そのものが上座の方がはるかに豪華なのだ。だから当番の日は、普段
食べられないものが食べられるのでわくわくしたものなのなだ。それが
今では上座下座関係なく同じ料理がでてくる。
『おいおい、これでは当番の日の楽しみが一つ減ってしまうな』
と思ったが、これも時代の流れなのだろう。料理そのものも…
『こんなものチビには贅沢だ』
というしろもの。食品関係で成功した先輩達がこぞって色んな食材を
提供するので仕方がないといえば仕方がないのだがそれだけ日本という
国が豊かになったということでもあるのだろう。
ただ、食事風景そのものは昔のままだった。上座ではお父様お母様が
愛児を膝の上に乗せてスプーンで口の中へと運び入れているし、下座で
もママが幼い子を抱いて同じ様な格好で食事させている。もう少しだけ
大きくなった子には14歳以上の子がママの代わりをしている。これも
昔のままだ。
私には楽しく懐かしい光景だが、こんな光景を見たら巷の人たちには
首を傾げるだろう。
『この子達は一人で食事ができないのか?』
『ひょっとして身障者なのか?』
なんて思うかもしれない。もちろん、どちらもNoなのだが、これが
亀山の流儀なのだ。どんなに厳しいお仕置きの直後でも食事の時だけは
無礼講で、たっぷりママやお父様お母様に甘えることができた。そして、
何でもありの亀山のお仕置きだが、唯一、食事を抜く罰というのだけは
なかったのである。
そんななか、私もせっかくなので先輩として応分の責任を取ることに
した。
「安西真奈美です。よろしくお願いします」
その子は椅子に座る私の足下でお約束の乙女の祈りを捧げる。
「真奈美ちゃん、さあおいで」
私はかつて何百回もやってもらったことを初めてしてみた。
両脇を抱えて自分の膝の上に乗せるのだ。正直、この位の歳になると
脇の下が痛いのだが、彼女も亀山の子、そんな事はおくびにも出さない。
「どれが食べたい?」
必ず注文を聞いて料理をとりわけスプーンに乗せて「あ~ん」させる。
「美味しいか?」
「美味しい」
「幸せか?」
「幸せです」
「そうか、そうか、それはよかった」
約束通りのたわいのない問答。でもこの時初めて私は大人たちがこう
して子供を抱いて食事させることが嬉しいことなんだと知ったのである。
というのも、これって子供の立場からすると必ずしも嬉しいことでは
ないからなのだ。
それは、お膝の上と言っても色々あって必ずしも楽ちんなものばかり
ではないからだ。大人だから口臭体臭のする人もいるし、スプーンの扱
いが乱暴で口の中を怪我しそうになったことやどさくさに紛れて急所を
触ったりする人もいる。子供の立場からすると色々あるからだ。
しかし、こうして初めて子供を抱いてみて、私はどうして大人たちが
こんなにも膝の上に子供たちを抱きたがるのかわかったような気がする。
とにかく膝の上に子供を乗せると楽しいのだ。その弾む身体がまるで
私のかたくなになった心をマッサージして解きほぐしてくれているよう
な感じがするのである。
だから…
「ねえ、今度の誕生日にバービー人形のお家買って」
なんて言われると、つい…
「よし、いいよ」
なんて、簡単に約束してしまうから不思議だ。
だから、大人たちは『子供、子供』と低くみるのだが、実は大人の方
がよほど精神構造が単純なのかもしれないと思ったりもする。
しかし、それで大人と子供、調和が取れているのかもしれない。
私はまるで生まれた時から抱かれているような馴れ馴れしさで私の胸
にしがみついてくる真奈美を時間の許す限り抱きしめ続けた。
もちろん、私の経験からしてもそれは真奈美にとって大変迷惑なこと
だったのかもしれないが……
食事が終わると幼稚園さんたちはお風呂に入り寝床へ直行する。
彼らはもう他にやるべきことがないからだ。たいていママと一緒にお
風呂へ入り、お父様の処へ行っておやすみのご挨拶。すると、お父様と
お母様は絵本を読んでくれ子守歌を歌ってくれてやがて寝かしつけられ
る事になるのだが、距離感の違いとでもいうか、子供にすればそんな時
でもママが近くにいないと泣いてしまうケースが多かった。遊んでいる
のは子供。遊ばれているのはお父様とお母様。そんな感じで8時を回る
頃には幼稚園児はネンネとなって、今度は小学校の低学年さんがやって
くる。