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第9話 ②

<第9話> ②
 そう言って娘のショーツに手を掛けたが、真里の方がその手を押さえ
て抵抗するのである。
 「どうしたの?」
 あらためてママが尋ねると…
 「だって……」
 彼女はこちらへと視線を向ける。
 どうやらここに誰かいると感じているらしかった。亀山はその性格上
子供たちには知らされていない秘密が沢山ある街なのだが、私の時代で
さえ、お仕置き部屋の鏡はマジックミラーになっているというのが定説
になっていた。
 当然、真里としても心穏やかではないのだろう。
 ただ、そうは言ってもママがおいそれとそんなことを認めるわけには
いかなかった。
 「どうしたの?その鏡になにかあるの?」
 「だって、それってマジックミラーなんでしょう」
 「そうよ、昔はお父様や司祭様が娘のお仕置きを確認するために使っ
てたの。でも、今は部屋を閉鎖しちゃったから誰も覗けないはずよ」
 「ほんと?」
 「ほんとよ。行ってみる?」
 こう言われたらそりゃあ確認するでしょうから……
 「うん」
 真里は頷いてさっそくスカートのピンを取り始めます。
 すると、その隙に倉田先生は鏡の前へやって来て入口の方へ目配せし
ます。『一旦待避』の指示でした。
 そこで河合氏はさっそく私たちが入ってきた入口へと向かったのです。
そして早々マリア様の像を動かして鍵を下ろそうとしますから…
 「大丈夫ですよ。すぐにここへは入れませんから、それよりもう少し
ドアを開けておかないとタバコの煙が……」
 「あっ、そうか、まずかったなあ」
 河合氏は慌てて煙りを外に出そうとするが、何しろ換気の悪い部屋の
ため思うにまかせない。それでも、真里がこの部屋へ押し入るまでには
相当の時間がかかった。
 というのも、向こう側はドアの前に椅子や机が積み上げられていて、
まずはそれをどかさなければならないのだ。おまけに鍵が三つも掛かり
引き戸もスルスルと開けられる状態ではなかった。
 私たちは先生が鍵を開け始めたところで退散したがそれまででもゆう
に10分は経過していた。
 「ほら、これで満足したかしら?」
 倉田先生は立て付けの悪いドアを押し開けると、してやったりとでも
言わんばかりに言い放ったが、真里は疑い深い眼差しで部屋のあちこち
を嗅ぎ回っている様子だ。
 「もう、いい加減になさい。一目見れば誰もいないのはわかるでしょ
うが」
 「うん、……」でも、ママ、この部屋ただ、
 こちら側のドアは隠し扉で見た目は板壁にした見えないうえにしっか
り施錠されているから子供の眼力で見抜くのは難しかった。
 『そうか、こんな仕掛けになってたのか』
 私は過ぎ去りし日に先生とここを訪れた日の事を思い出していた。
 真里もこれで私とまったく同じ経験をするこになるのだ。
 「ねえ、ママ、この部屋、タバコの匂いがしない?」
 真里はするどい嗅覚でタバコの匂いを嗅ぎだしたが……
 「どうして?」ママは一応鼻を動かしてはみるのだが……
 「いいえ、あなたの気のせいよ」
 と、一蹴されてしまう。
 「さあ、気がすんだら帰るわよ」
 結局、何の発見もないまま真里は先生と裏部屋をあとにした。
 戸を閉めて鍵が掛けられ、以前のように椅子や机をドアの前で積み上
げている様子に聞き耳を立てながら、頃合いを見計らって私たち裏部屋
へと戻ってみる。
 再び、マジックミラーを覗いてみると、真里がすでに下半身をすっぽ
んぽんにされているところだった。
 新たな蒸しタオルが用意され、真里はそれにお股とお尻を任せる。
 亀山での正式なお仕置きの作法では、鞭打ちの時はお股とお尻をママ
や先生から綺麗に拭いてもらうのが慣例になっていた。
 ま、小さい頃ならまだしも大きくなってからは誰も見てないとはいえ
これって結構恥ずかしかったのを覚えている。
 これが終わると、お馬さんと呼ばれる鞭打ち台に自らしがみつかなけ
ればならない。このお馬ちゃん、クッションが効いてるから抱き心地は
申し分ないのだが、結構高いので小さい体には怖かったのを覚えている。
 男の子はパンツも半ズボンも脱がされて下半身はすっぽんぽんだが、
女の子はスカートは捲られて安全ピンで留められている。どちらも同じ
ような哀れな姿だが、女の子にはさらに加えて試練があった。
 「はい、口を開けて」
 ママの指示で真里が口を開くと、そこにねじ込まれたのは今の今まで
自分が穿いていたショーツだったのである。
 「さあ、いくわよ。よう~~く反省してね」
 先生はそう言うと使い込んだトォーズを真里のお尻に添わせるが……
最初はそれだけ。すぐには一発目を振り下ろさない。
 その代わりに、ピタピタとトォーズの革の感触をお尻全体に覚えさせ
ながら、同時にたっぷりとアルコールを浸した脱脂綿でお尻の隅々まで
をしっかり拭き上げるのである。お尻の穴も、女の子は性器も……
 私もああしてやられた一人だが、子供は体温が高いためにアルコール
のひんやり感が余計に強烈で、これからぶたれる革の感触と共にお尻を
なで回されると発狂したいほどの恐怖感だった。
 「えっ、発狂したいほどって、そりゃあいくら何でもオーバーですよ。
だって、そんな辛いことをしてるようには見えないけどなあ」
 私が思い出話をすると、河村氏が冷ややかなので、つい…
 「あれをやられたことのないあなたに何が分かるんですか!あなたも
あの子と同じ頃にこれをやられてみれば、それがどんなに恐ろしいか、
分かりますよ」
 私は河村氏を睨みつけてしまった。亀山のお仕置きは過激な事をして
いるように思われがちだが、お灸を除くとその主体は精神的なもので、
いかに身体を痛めずにお仕置きの効果をあげるかを追求しいる。これも
そんな長年の経験から割り出された一つなのだ。
 亀山では、このくらいの年齢の子にはこれが、こんな性格の子にはこ
れが、今の精神状態ならこの方が、…と、ケースバイケースでお仕置き
のやり方が細かく決められていたのである。
 倉田先生はようやくじらしにじらして最初の一撃を放つ。
 「うっ!!!!」
 それは自分のショーツで猿轡をしているから悲鳴にはならないが、私
の経験でいうなら、その強烈な衝撃は、お馬さんを抱いて逃げ出したい
ほどの痛みだったに違いない。
 最初の一撃は身体が慣れてないせいもあるが目から火花が散るという
表現が決してオーバーじゃないと分かるほどキツいものだったのである。
 倉田先生はここで一旦真里の口からショーツを吐かせるが、その顔は
それまでママに甘えた子供らしいものとは違い、たった一発で唇を振る
わすほどの怯えの表情に変わっていたのである。
 「今日は12回にしましょう。国語が6回、算数が6回よ。いいわね」
 「……」真里は本当は『はい』というつもりだったが、そのあまりの
衝撃に声が出ないでいた。
 「今、1回すんだから、あと11回よ、頑張りなさい」
 倉田先生はそう言うと、再びショーツを真里の口に噛ませ、再び後ろ
に回って脱脂綿に含んだアルコールを可愛いお尻へ丹念に塗り始める。
そして、太股を大きく開かせてはその奥に秘められたまだまだ可愛い蕾
にもしっかりと新鮮な外気を取り込んでやるのだ。
 「………………」
 これには河村氏も満足した様子で、思わず笑みがこぼれる。
 ただ、私はここで育って、この部屋に何度も出入りしている身として
は、時が経った今でも女の子の御印を見てにやつく気にはなれなかった。
 倉田先生は一旦前に回って口に含ませた真里のショーツを取り出すと
 「痛かった?」
 笑顔で尋ねたが返事は返ってこなかった。
 たかが革ベルトとあなどるなかれ、本気の一発は大人だって飛び上が
るほど痛いのだ。子供の真里にとってはこのまま身体をバラバラにされ
るんじゃないかと思うほどの恐怖だったに違いなかった。
 「(今のは何?こっちはそれどころじゃないの!)」
 そんな仕儀だったのだろう。
 「あなたも、もう六年生になったんだから、お仕置きも五年生の時と
同じじゃないの。しっかりパンツを噛んで自分の至らなさを反省なさい」
 先生は動揺の収まらない真里の口に再びショーツを噛ませようとした
が、何か気がついたのかそれをあらためて広げてみる。
 「あらっ?あなた、今ならメンスの時期にはかかってないわよね。…
…痔かしら???まさかね………ひょっとして画鋲の上に腰かけたとか」
 倉田先生はすかさず真里の顔を見る。
 すると、相手は子供だから顔色がすぐに変わってしまうのだ。
 「そう、画鋲だったのね……で、誰なの?」
 倉田先生は当然犯人を聞きたがるが……
 「…………」
 真里はすぐには口を割らなかった。というのもこうした事は子供同士
の遊びの中で起こることで、もし、こんなことで友だちを売ったりした
ら、それこそあとで、仲間はずれにされたり虐められたりしはかねない
からだ。
 とはいえ、先生もこうした問題を看過できなかった。亀山では、『お友
だち同士が仲良くしていなければいけない』という絶対的な決まり事が
存在するからだ。
 もちろん巷にだって仲違いする同級生や反目するクラスメートなんて
珍しくもないだろうが、ここではお父様方がご自分の娘を溺愛している
場合が少なくなく、子供の喧嘩がいつの間にか親の喧嘩となって、その
挙げ句いじめっ子の粛正なんて物騒なことにもなりかねない。
 庶民にはピンとこないかもしれないが権力を持った人たちにとっては、
たかが孤児の一人や二人、お人形をゴミ箱にでも放り投げる様な気安さ
で、それから先の人生を潰すことなど簡単にできるのだ。
 そんな大人の事情もあってか先生は『とにかく、仲良くさせておかな
ければ…』という強迫観念にとらわれ、子供同士の喧嘩や虐めには特に
神経を尖らせていたのである。
 「いいたくないの。でも、そんなことしてると、また虐められるかも
よ」
 「いいの、遊びだったんだから……」
 「遊び?悪ふざけしてたってこと?でも、度が過ぎれば同じことよ。
ここではお友だちと仲良くできない子はお仕置き。そう決まってるの。
あなただって知ってるでしょう。亀山では一番大事なお約束よ」
 「………………」
 「あなたがそのお友だちの事を言いたくないってことは、あなたにも
何か後ろ暗いことがあるんじゃないのかしら。そうなったら、あなたも
お仕置きの列に並ばなきゃならなくなるわね」
 「そんなことありません……」
 「だったらいいじゃないの。先生だってあなた達がどんな遊びをして
いたのか知りたいわ。……でも、それがイヤなんでしょう」
 「イヤってわけじゃ……」
 真里はやっぱり口が重かった。そこで先生は最後の手段……
 「いいわ、だったらおばば様にここへきてもらいましょう。あなたも
おばば様になら話せるでしょうから」
 「だめ、そんなことしないで…」
 さすがにこれには反応が早かった。
 色々やられるお仕置きだがやはりお灸だけは別格で、この山を下りる
までそうたびたびすえられたわけではないのだが、ひとたびすえられる
と、その後3年間はママや教師の脅しだけで効果があるというありがた
いお仕置きだったのである。
 「美枝ちゃんと美子ちゃんです。三人でお仕置きごっこやろうってこ
とになって、画鋲をいくつお尻につけられるか競争してたんです」
 真里はようやく口を割った。聞けばたわいのないことだが、虐めとい
うのはこんなことからエスカレートするから先生としても気が抜けない
ないのである。
 「……でも、二人には私がしゃべったなんて言わないでね」
 「そう、そんなに二人が怖いの」
 「怖いってわけじゃ……」
 真里はそう言ったが、怖いというのが真実だろう。これを口実に仲間
はずれにされたり虐められたりしかねないからだ。
 そんなことはママだって百も承知だったから、この後真里は密告した
二人の前で厳しいお仕置きを受けることになる。そして、その二人には
それよりもさらに厳しい折檻が待っていたのだった。
 これが亀山流のけじめの付け方で、密告された方も目の前で密告者が
厳しい罰を受けているので、自分たちも仕方がないかと思えるのである。
 「へえ、子供の世界にもそんなに大変な深謀遠慮があるんですね」
 河村氏は私が中の様子を説明すると感激したようにこう呟いた。
 「ところで、部屋の四隅に小鳥の巣箱みたいなのが掛かってるけど、
あれは?……」
 「やだなあ、この間図書館で見たじゃないですか、カメラですよ。今
は無人ですけど僕の頃は8ミリか16ミリで専門の方が部屋にいました。
そう言えばカメラ用に照明が点いてて部屋全体ももっと明るかったか」
 「まるで、映画撮りだ」
 「ええ、昔はね。だからお仕置きに至る話し合いは別の部屋でして、
ここでは純粋にお仕置きを受けるだけだったんです。……そうか、今は
話し合いもこの部屋なのか……」
 私は昔と何もかわっていないと思い続けていたがここではじめて隔世
の感を感じたのだった。
 「ねえ、鞭のお仕置きってああやって、一回一回アルコールでお尻を
ぬぐうの?」
 「回数が少ない時は全部やりますけど、今回は12回と言ってるから
最初の三回か四回だけだと思います。あんまり何回もやってると慣れて
効果が薄くなります」
 「さっきの鞭はこっちもびっくりするくらい厳しかったみたいだけど
あんなの12回も受けるの?」
 「鞭の威力というのは、たいてい最初が一番キツくて、あとはそんな
でもないんです。ほら、今、二回目の鞭が派手に「パーン」って鳴った
でしょう。でも、あんな音のする時はかえって痛くないんですよ」
 「その場、その場で使い分けてるんだ」
 「ええ、こんなもの鞭を扱う人のさじ加減ひとつでどうにでもなっち
ゃいますから、真里ちゃんだって最初12回ぶちますって言われた時に
そんなに反抗的な態度をとらなかったからこんなに優しくしてもらえて
るんです。もし、先生を怒らしちゃってキツいのを12回ももらったら
すぐにはお馬さんの背を降りられません…今晩、ベッドで仰向けに寝る
のも無理です」
 「そんなに厳しいんだ」
 「ええ、お仕置きですからね、仕方ないですよ。……お尻叩きなんて
いうと軽い懲罰くらいに思ってる人がいますけど、亀山では、やられて
三日目でもまだ痛いなんてのがあるんですから…こんなチビちゃんには
しませんけど……」
 「そりゃ、そうだろうけど…でも、中学生ならそんなのもありなんだ」
 「ええ、彼らはもう赤ちゃんではないので見せしめを受けることはな
いんですが、その分体罰はキツくなるんです」
 「なるほど」
 「私も赤ちゃんの頃は素っ裸にされるたびに『お姉ちゃん達はいいな、
恥ずかしいことされないから』と思っていましたが、実際なってみると
ケインなんて呼ばれる籐鞭で毎日のようにぶたれてヒーヒーでしたよ」
 「よく考えられてるだね。たしかお仕置きのモットーみたいなのが…
あったよね」
 「安全で、心に残って、…それでいて悪感情は残さない。最後に必ず
抱いてもらうのもその為なんです。特に赤ちゃんのお仕置きってのは、
その効果はどんなに長くても次のご飯までしかもたないようにできてる
んです」
 「じゃあ、それから先は忘れちゃってもいいってこと?」
 「忘れやしません。痛みがなくなるだけです。痛みは去っても心には
残るようにしてあるんです。今、そこで一回一回アルコールで拭いてる
のもその為なんですから…」
 「なるほど、そういう意味か。飴と鞭を使い分け、皮膚感覚を大事に
してるってわけだ」
 「そういうことです。女の子の場合は痛みと快感を微妙にすりあわせ
ながらリビドーを高めたりもします」
 「それって、私のため?」
 「ええ、それもありますが、その後の夫婦生活のために必要なんです。
男性は総じてサディステックなものですからね、受け手の女性はマゾヒ
テックに仕上げるんです。それで結婚させてみて、うまくいかなければ
ここに戻ってくればいいからって送り出すんです」
 「なるほど、お仕置きにはそんな意味まで含まれてるんだ」
 「女王様に言わせると、『お仕置きはすべて子供のためにやってるの。
女の子が偉ぶってお金を稼いでも愛されないなら幸せにはなれないわ』
ということになります」
 私は思わず女王様の物まねまでしてみた。
 「似てる、似てる」
 それは意外にも河村氏にも受けたのだった。

第10話 ①

<第10話> ①
 その週末、私は河村氏の私邸に招かれた。二週間ほど前、真里ちゃん
のお股にお灸がすえられたあの舞台では本来の催し物が開かれ、ピアノ
やフルート、バイオリン、ハープなどの演奏、バレイや日舞、古典文学
の朗読なんてものまである。
 私が子供だった頃と出し物に大きな変化はないが、腕は僕らの頃とは
段違いだ。
 なるほど、これなら僕のピアノを聞いて真里が「下手ねえ~」と言う
はずである。
 僕らの頃はまだ指導法が未熟だったせいかこんなに上手な子はいなか
った。
 「どうですか、先生も一曲お手本を示されては?」
 「いや、もうピアノを外れてから二十年近く経ちますからね。今さら
恥はかきたくありませんよ」
 「そうそう、恥と言えば…真里のお仕置きに行ってきましたよ。結局、
あれは真里が虐められたんじゃなくて、女の子たちが桃色遊技をしたと
いうことでお仕置きになったんですが、いやあ~~ひどいもんでした」
 「ひどい?どんな風に?」
 「あなたに説明を受けたでしょう。壁から突き出している狭いベット。
あれに寝かされてメントールの入った薬剤をたっぷり股の間に塗り込ま
れるんです。私もそれなりに覚悟はしていったんですが、想像以上でね、
辛かったです」
 「悲鳴が上がったでしょう」
 「ええ、それがどの子も…もの凄いんですから。あれ、もの凄く痛い
んでしょうね」
 「私は男なんで…あれは、されたことがないんです。ただ、友だちに
聞いた話では『焼け火箸をそこに押しつけられたぐらいショックだった』
って言ってました」
 「でしょうね、そのくらいの轟音でしたもの。とにかく、少女が人目
もはばからずこんな凄まじい悲鳴を上げるのかってくらいのものだった
んですから……さすがに私もその場に居たたまれませんでしたよ」
 「でも、あれ、その場限りなんですよ」
 「と、言いますと……」
 「だから、ものの一二分でまるで何事もなかったようになっちゃうで
すよ」
 「そう言えばそうか、彼女たち、その後鞭のお仕置きももらったんだ
けど……その時は、もうそんな素振りは見せなかったなあ……」
 「でしょう、あれ、元々傷薬ですからね、染みても害はないんです。
ただ、あれ…後でかゆくなるみたいでしてねえ、寝る時オナニーなんか
しないように貞操帯を着けて帰すのが普通なんですよ」
 「なるほど……」
 河合氏は私に相槌をうつとさっそく真里を捜し始めた。
 そして……
 「真里、こっちへ来なさい」
  彼は真里を自分の目の前に立たせると何も言わずそのスカートを捲り
上げたのである。
 「…………わかった。もう行っていいよ」
 ほんの数秒、スカートの中を確認しただけで彼はスカートを下ろす。
 「なるほど、貞操帯ってショーツの上から穿く物だったんだ」
 「トイレへ行く時なんかは人を頼まないとどうにもならないから結構
辛いんですよ。ま、こちらの方がよほどお仕置きとして辛いかもしれま
せんね」
 「どうして?」
 「一週間くらいあの姿なんです」
 「一週間も……」
 「僕らの頃は『この方がおしとやかになるから』ってよく大人たちに
やらされてましたよ」
 「ここは保守的な街ですからね」
 「いえ、これでも若干変化はしてきてるんです。僕らの前の世代は、
おねしょもお仕置きの対象だったくらいですからね。『今は、おねしょは
お仕置きの対象になりません』って話したら、先輩達にはたいそう羨ま
しがられましたよ」
 「そうかもしれませんね。僕なんか巷の育ちですけど、おねしょのお
仕置きにお灸をすえられたなんて話、よく聞きましたから………あれ、
当時は本人の自覚の問題で、『起きる意思が弱いからおねしょするんだ』
なんて言われてたみたいですね」
 「今はオナニーも解禁されてるそうじゃないですか」
 「ええ、完全にではないそうですが、何でもかんでもお仕置きって事
じゃないみたいです。合沢さんの時代は違ってましたか?」
 「ええ、違ってましたね。特に女の子は絶対のタブーで…見つかると、
必ずと言っていいほどフルハウスなんです」
 「男の子はいいんですか?」
 「いえ、男の子だってダメはダメなんですが、見つかってもやりすぎ
には注意しましょうぐらいで、無罪放免になっちゃいますからね、女の
子たちには不公平だってよく責められましたよ。
 「どうしてなんでしょうね。その落差は?」
 「一つは身体の構造上女の子の方がばい菌が入りやすく炎症を起こし
やすいって問題があるのと、やはり大きいのはオナニーをするような子
は淫乱で純真じゃないっていうお父様方の先入観に配慮したんだと思い
ますね」
 「そりゃあ、あるだろうね、自分の事は差し置いて勝手な話だけど、
やっぱり添い寝してくれる子は性のことなど知らないうぶな子であって
欲しいもの」
 「そういえば、真里ちゃんは先生にお返しになったみたいですね」
 「ああ、本当はこのままずっとそばに置いておきたかったんだけど、
どうやらそうもいかないみたいだからここは分別をつけて手放したんだ。
……ただ、他の子たちもとっても良い子でね。別に、寂しい思いはして
ないよ。とにかくこんないい子たちを育ててくれた先生方には感謝感謝
だ。……そうだ、今夜は泊まっていくといい。当番の子が添い寝してく
れるんだが、妻が里帰りしていないものだから、四人じゃ多すぎるんだ」
 「わかりました」
 「でも、奥さんがよくここへの移住を承知なさいましたね。…実は、
奥さんの反対で断念される方が結構多いんですよ」
 「うちだって同じさ。渋々着いてきた。『何で今さら見ず知らずの子供
の面倒をみなきゃならないの!?』ってね。女にとっちゃ子供の世話は
仕事であって趣味にはならないみたいなんだ。…でも、怒って帰った訳
じゃないよ。その逆。ここで暮らすうちに本格的に移り住んでもいいと
言い出してそのため荷物を取りに帰ったんだ」
 「じゃあご機嫌が直ったんだ」
 「そういうこと。最初は不安だったんだろうが、里子を持つといって
も、こちらの仕事は抱いてあやすだけみたいなものだし、しかもみんな
上品で従順に躾てあるだろう。毎日孫を抱いてるみたいで彼女としても
楽しいんだよ」
 私はこうして河村氏の家で子供たちとの一拍を経験することになった
のである。
 夕食は大広間。当番の子だけがお父様たちと同席できるのは私の頃と
同じルールだ。ただ違う点もいくつかある。まずはBGM。僕たちの頃
も頭上には妙なるメロディーが流れていたがそれは大半がクラシックで、
私のようにピアノの練習が苦手な子はたまたま自分の課題曲がかかると
ご飯が不味くて仕方がなかった。それが今では、正々堂々ビートルズや
カーペンターズが流れているんだから驚きだ。私たちの時代は過ぎ去り
今はこれがクラシックなのかもしれない。
 次に食事の内容。僕らの頃はママと一緒の下座とお父様たちの上座で
は明らかに食事の内容が異なっていた。お酒なんかは当然にしてもお料
理そのものが上座の方がはるかに豪華なのだ。だから当番の日は、普段
食べられないものが食べられるのでわくわくしたものなのなだ。それが
今では上座下座関係なく同じ料理がでてくる。
 『おいおい、これでは当番の日の楽しみが一つ減ってしまうな』
 と思ったが、これも時代の流れなのだろう。料理そのものも…
 『こんなものチビには贅沢だ』
 というしろもの。食品関係で成功した先輩達がこぞって色んな食材を
提供するので仕方がないといえば仕方がないのだがそれだけ日本という
国が豊かになったということでもあるのだろう。
 ただ、食事風景そのものは昔のままだった。上座ではお父様お母様が
愛児を膝の上に乗せてスプーンで口の中へと運び入れているし、下座で
もママが幼い子を抱いて同じ様な格好で食事させている。もう少しだけ
大きくなった子には14歳以上の子がママの代わりをしている。これも
昔のままだ。
 私には楽しく懐かしい光景だが、こんな光景を見たら巷の人たちには
首を傾げるだろう。
 『この子達は一人で食事ができないのか?』
 『ひょっとして身障者なのか?』
 なんて思うかもしれない。もちろん、どちらもNoなのだが、これが
亀山の流儀なのだ。どんなに厳しいお仕置きの直後でも食事の時だけは
無礼講で、たっぷりママやお父様お母様に甘えることができた。そして、
何でもありの亀山のお仕置きだが、唯一、食事を抜く罰というのだけは
なかったのである。
 そんななか、私もせっかくなので先輩として応分の責任を取ることに
した。
 「安西真奈美です。よろしくお願いします」
 その子は椅子に座る私の足下でお約束の乙女の祈りを捧げる。
 「真奈美ちゃん、さあおいで」
 私はかつて何百回もやってもらったことを初めてしてみた。
 両脇を抱えて自分の膝の上に乗せるのだ。正直、この位の歳になると
脇の下が痛いのだが、彼女も亀山の子、そんな事はおくびにも出さない。
 「どれが食べたい?」
 必ず注文を聞いて料理をとりわけスプーンに乗せて「あ~ん」させる。
 「美味しいか?」
 「美味しい」
 「幸せか?」
 「幸せです」
 「そうか、そうか、それはよかった」
 約束通りのたわいのない問答。でもこの時初めて私は大人たちがこう
して子供を抱いて食事させることが嬉しいことなんだと知ったのである。
 というのも、これって子供の立場からすると必ずしも嬉しいことでは
ないからなのだ。
 それは、お膝の上と言っても色々あって必ずしも楽ちんなものばかり
ではないからだ。大人だから口臭体臭のする人もいるし、スプーンの扱
いが乱暴で口の中を怪我しそうになったことやどさくさに紛れて急所を
触ったりする人もいる。子供の立場からすると色々あるからだ。
 しかし、こうして初めて子供を抱いてみて、私はどうして大人たちが
こんなにも膝の上に子供たちを抱きたがるのかわかったような気がする。
 とにかく膝の上に子供を乗せると楽しいのだ。その弾む身体がまるで
私のかたくなになった心をマッサージして解きほぐしてくれているよう
な感じがするのである。
 だから…
 「ねえ、今度の誕生日にバービー人形のお家買って」
 なんて言われると、つい…
 「よし、いいよ」
 なんて、簡単に約束してしまうから不思議だ。
 だから、大人たちは『子供、子供』と低くみるのだが、実は大人の方
がよほど精神構造が単純なのかもしれないと思ったりもする。
 しかし、それで大人と子供、調和が取れているのかもしれない。
 私はまるで生まれた時から抱かれているような馴れ馴れしさで私の胸
にしがみついてくる真奈美を時間の許す限り抱きしめ続けた。
 もちろん、私の経験からしてもそれは真奈美にとって大変迷惑なこと
だったのかもしれないが……
 食事が終わると幼稚園さんたちはお風呂に入り寝床へ直行する。
 彼らはもう他にやるべきことがないからだ。たいていママと一緒にお
風呂へ入り、お父様の処へ行っておやすみのご挨拶。すると、お父様と
お母様は絵本を読んでくれ子守歌を歌ってくれてやがて寝かしつけられ
る事になるのだが、距離感の違いとでもいうか、子供にすればそんな時
でもママが近くにいないと泣いてしまうケースが多かった。遊んでいる
のは子供。遊ばれているのはお父様とお母様。そんな感じで8時を回る
頃には幼稚園児はネンネとなって、今度は小学校の低学年さんがやって
くる。

第10話 ②

<続>亀山からの手紙

第10話 ②

 彼らは夕食の前にはお風呂をすませており、夕食後は、楽器の
練習やバレイや日舞なんかを習っている。そして、幼稚園児が寝
息を立てる頃になって、お父様やお母様にお休みのご挨拶をしに
やってくるのだ。

 この頃になると、子供たちはお父様やお母様の前で習っている
楽器を披露しなければならなかったり、お父様が自慢げに話す昔
話なんかを聞かされるはめになる。いわば里子としての営業活動
を強いられるわけだ。

 しかし、苦労というほどの苦労はなく、折を見て欲しいものを
ねだったり、退屈なら、お父様のお膝の上で抱きついたまま寝て
しまってもよかった。

 そして、下のチビちゃん二人が片づいた後、お父様はちょっと
大きめのチビちゃんである小学校高学年の子らをコテージに訪ね
る。

 彼らは楽器のレッスンを受けた後、割り当てられた勉強部屋で
明日の確認テストのための勉強をしていて、それが終わった頃に
なってお父様が部屋にやって来る算段になっていた。

 だからこの間お仕置きをいただいた真里ちゃんにしても、仮に
ママのお言いつけ通りにやっていれば、お父様がお部屋にいらっ
しゃった時はすでに四回連続で正解を出していてテストの対策は
終わっていなければならないわけで、それができていないという
のは、それまで何かしらさぼっていたに違いなかった。

 この日、お父様が勉強部屋を訪ねたのは僕が夕食の時お世話に
なった(?)真奈美ちゃんの部屋だった。

 お父様が部屋に入ると、彼女はすでに勉強が終わったらしく、
ランドセルに勉強道具を詰め始めていた。

 「もう、終わったのかい?」
 「はい、終わりました」
 「何か分からないことがあるかい?……どんなことでも教えて
あげるよ」
 河合氏は真里のことがあって先を急がなくなったようだが……

 「大丈夫です。明日のテストでお父様の名を辱めるような事は
いたしませんから」
 と、亀山では優等生のお答え。

 いや、自分でも言っていたのだが、何だが、あらためて聞くと
吹き出したくなるほど恥ずかしい。脇を向いて思わず笑ってしま
った。

 「ありがとう、じゃあ、おいで」
 河合氏はそう言うと、真奈美の目の前で中腰になって、両手を
広げる。

 亀山では『さあ、お父様に抱かれにいらっしゃい』という合図。
子供としてはイヤとは言えない合図だ。

 「ようし、良い子だ」
 河合氏はご機嫌で真奈美を拾い上げると、満面の笑みでほっぺ
たを擦りつけながら、抱っこしたまま部屋を出る。
 そして、長い廊下を通って自分の寝所へと真奈美を連れ込むの
だった。

 広い寝室には大きなダブルベッドが二つも並んで置いてあり、
小さな舞台の天井に飾られたミラーボールがビロードのベッドカ
バーに反射して、辺りはまるで夜の湖面のように光り輝いている。

 そこで真奈美はお父様の求めに応じてフルートを吹き、歌を歌
った。

 ファーストオブメイやイエローサブマリンを自分なりに器用に
アレンジして吹き、トップオブザワールドを英語で歌うとお父様
は大満足。

 もともとこうした芸事は、自分の為というよりお父様を喜ばす
為に習っているのだ。

 「君もこんな処で演奏したことがあるんだろう」
 「ええ、僕はピアノでしたけど、演奏が下手でしたから辛かった
です。いつも間違えてばっかりで……」
 「でも、それで叱られたりはしなかったんだろう」
 「それはそうですね」
 「親はね、自分のために一生懸命に弾いてくれれば、それで十分
幸せなんだから……」

 お父様は乙女の祈りをして跪く真奈美をソファーの上にに引き
上げると、その膝の上に下ろして高級チョコレートの箱を開く。

 まるで宝石箱でも見るように目を輝かせる真奈美に「どれでも
好きなものを取りなさい」と勧めるのだ。

 「君の頃も夜のお菓子はあったんだろう?」
 「ええ、今日一日よい子でいたご褒美として…でも、お仕置き
なんかあって良い子でなくても、やっぱりもらいましたけどね…」

 「天野さんは優しかったんだ」
 「ここのお父様はどなたもやさしいです。そもそもよほど子供
好きでなければ、こんな処へ移住して来ないと思いますから」

 「そりゃあそうだ。……ん、もう一つ欲しいのか?……よしよし、
もう一つだけだぞ。それが終わったら歯磨きをしてネンネだ」

 河合氏はママに夜の歯磨きの用意をしてもらう。
 使うのは練り歯磨きと塩。それを指にとって歯と歯茎を丁寧に
マッサージしてもらうのだ。

 「最初は女王様に言われてね、『何もそこまで』と思ったけど、
これがやってみると、結構楽しくてね。なるほど、ここではあり
とあらゆる機会を利用して、子供と触れあって楽しむんだと実感
したよ」

 「僕なんて、小学校時代はお母様から毎日フェラでしたよ」

 「天野先生の奥様というと、美容業界の女傑とうたわれた……」
 「天野美津子です」
 「天野美津子。天野美容室の……あの女史か。そうか、彼女に
そんな趣味があったとは知らなかったなあ」

 「巷での実績は知りませんけど、とにかく、子供が大好きな人
なんです。私が『お風呂はすみました』なんて言っても、『だめ
よ、まだ汚れてるから私が洗ってあげる』って、わざわざ寝室に
大きな盥を持ち込んで行水させるんです。……そして、ベッドに
転がしたら、とにかく体中をキスしまくるんですから………戯れ
ですけどね」

 「なるほど……その中にはオチンチンも、というわけだ。……
じゃあ、お母様が嫌いだった?」

 「いえ、そういうことじゃありません。とにかく物心ついた時
からずっとされてることですからね、もう、習慣になっちゃって
て……」

 「なるほど、物心つく前からなら…問題ないのか」
 「えっ?」
 「なにしろ、僕は真里にとっては外様だからな……」

 河村氏は少し自虐的に笑うと、真奈美を膝の上で仰向けにして
歯磨きを始める。もちろん、これだって親がやらなければならな
い訳はなく、子供の口の中に指を入れると、それが心地よいから
多くのお父様がやっているだけのことなのだ。

 「ん?気持ちいいか?」
 「……」
 真奈美は笑って答える。

 逆に子供といえど本当に不快ならこの笑顔は出せないだろう。
彼女は新しい父親をすでに受け入れているように見えた。

 終わると、ママが、自分が含んだ水を吐き出すためのボールを
口元に用意する。つまり、この瞬間は、普段厳しいママが自分の
下にいてメイドの様な仕事をしているというわけだ。
 そしてそれをさせているのが、今こうして抱かれているお父様
なのだ。子供はお父様の膝の上で大人の上下関係を実感するのだ
った。

 「(お父様って、やっぱりママより偉いんだ)」

 理屈では分かっていてもそれを肌で感じる機会は少ないから、
そういう意味でも有意義なのかもしれない。

 歯磨きが終わると、お父様は子供を自分の目の前に立たせる。
そして、やおら着ている服を一枚一枚丁寧に脱がせる。

 ブラウスやスカートはもちろん、スリーマーやショーツ、靴下
まで……残らず剥ぎ取って、すっぽんぽんにしてしまうのである。

 もちろん真奈美はそれを嫌がらない。実をいうと、真里もここ
までは抵抗しなかったのである。しかし、その場に跪き胸の前で
両手を組んで、次の言葉が出てこなかったのだ。

 「今日も一日。お父様のよい子でいました。どうか明日も一日
よい子でいますように。お父様の元気な赤ちゃんでいますように」

 これはどんな幼い子もやらされるお父様へのオネムのご挨拶。
そしてこの後、お父様が差し出す右手の指をおしゃぶりしなけれ
ばならない。
 これは『極楽では人々が差し出す指を赤ん坊がしゃぶって乳を
貰う』という仏教説話から来ていて、亀山の子はこれをしなけれ
ばお父様のベッドに入ることが許されない。というか、そもそも
お父様の家にいること自体許されない。
 真里はこれができなかったのである。

 対照的に、真奈美はお父様の人差し指と中指それに薬指を丹念
に舐めた。

 「美味しいか?」
 お父様の問いかけにも真奈美は笑顔を絶やさない。
 お父様にしても、愚問は承知の上での問いかけだ。

 「そうかそうか」
 お父様の笑顔は、私たち大人には決して見せることのない全て
を許す慈悲の笑顔だった。
 そして少女への返礼がこの抱っこしての頬ずり。

 彼はこのまま真奈美を抱いてベッドへはいる。親としてはこの
瞬間が何より至福の時なのだ。私は抱かれた経験しかないが、そ
れは抱かれていても分かることだったのである。

 この後、ママは部屋に残るものの、実質的にはパパと娘、二人
っきりの世界だ。そしてこの後、お父様の懐に飛び込んだ娘は、
この一週間自らに起こった出来事の全てお父様に物語る。
 彼女は自分の全てをお父様に聞かせなければならなかったので
ある。

 この内容はママと相談して事前にある程度話の内容を詰めては
いるのだが、中身は何も誇らしいことばかりではない。お仕置き
されたことなんかも包み隠さず話さなければならないのだ。

 もし、お話の中にお父様が期待したものがないと……
 『あれはどうなったの?』 
 なんて言われてしまう。

 前にも述べたが、お父様のもとには娘に関する有りとあらゆる
情報が入ってくる仕組みになっているから、そもそも隠しようが
ないのだ。

 内容によっては口にするだけで顔から火が出るほど恥ずかしい
こともあるが、お父様に問われれば、それを拒否するすべは子供
の側にはなかったのである。

 ただ、それで叱られるかというと、そうではなく、どんな事も
大きな胸がしっかりと受け止めてくれたのだった。

 ベッドの中での会話は幼い子と同じく大半がたわいのない四方
山の話。隣のベッドに入ってるママも、実はお目付役として起き
ているのだが、ママが二人の会話に口を挟むことはなく、娘は、
一人でお父様を接待しなければならない。

 つまり、同じ小学生といっても四年生から上はお父様に対して
百%受け身ではいけなかったのである。

 そして、私の例でも分かる通り、お父様やお母様というのは、
ある種の目的を持って私たちと接しているのだから、ベッドの中
では、かなり際どいことまでしてくるのだが、羽目を外して一線
を越えてくることはなかった。

 ここでは、外からの情報、とりわけ性に関する情報が徹底的に
カットされている。大人といえどもそうした情報は例の図書館へ
行かないと入ってこない。そうした環境の中で、子供たちは物心
つく前からずっと大人たちに抱かれるだけ抱かれて育つ。

 『大人は偉くて優しくて子どもを守ってくれる人』として教え
込まれるのだ。オモチャが欲しいドレスが欲しいといった物欲も
ここでは大人を介してでないと手に入らない事は亀山の子供なら
誰もが知ってることだ。
 だから、ママやお父様に限らずおよそ『大人』に対する親近感
が巷のそれとは比べものにならないくらい強くて、世間でいうと
ころの『他人』はここでは存在しないのである。

 そこまで徹底して純粋培養した子供たちを出資者である大人達
が、大いなる理性をもって一線を越えないぎりぎり線で楽しんで
いる。
 それが亀山という楽園の構図だった。

 ベッドインした子供たちは、手足を揉まれ頭を撫でられお尻を
さすられほっぺや乳首を舐められる。性器を触られることだって
ここでは日常茶飯事だ。

 しかし、その一線さえ越えなければ、何をしてもよかったし、
相手もそれを許している。

 牧歌的で野放図な愛は厳しい見方をすれば子供を手込めにして
いると見えなくもない。しかし、ならば赤ん坊は母親から手込め
にされているのかというと、そうではあるまい。

 性欲を卑しいもの、忌むべきものと考える人たちは性欲を子供
と切り離すことが可能でありそれこそが尊いことだと考えている
ようだが、それはあり得ない理想を追っているにすぎない。

 性欲をもつ大人が子育てに関わる以上、それを抜きにして語ら
れる親子関係は、理想論というより、むしろ不適切と考えるべき
なのだ。

 要は、手込めにされた子供がその後幸せに生きられるか否かで
あり、その基準で子育てや教育は考えられなければならない。

 と、これは女王様の持論だが、私もいわば女王様の子だから、
同じように思うのである。

 膨大な愛の海でイルカにお尻を突かれながらその泳ぎ方を覚え
て育った子供は、やがて陸に上がり自らも膨大な愛の海を作って
そこに我が子を泳がせる。そして、時々イルカになって我が子の
お尻をこづきながら陸に上げてやる。

 そんな太古の昔から続く人間の自然な営みが、今途絶えようと
しているのは悲しいことだ。

 おう、そうだ一つ忘れ物があった。
 実は、真奈美が寝入った頃になって、14歳以上のお姉ちゃま
二人が相次いで『お休みの』の挨拶にやってきた。
 彼らはすでに赤ちゃんを卒業しているので、お父様のベッドに
裸で入ることはないが、指をしゃぶる亀山独特の挨拶はやらなけ
ればならない。

 それぞれにベッド脇に置かれたフィンガーボールでお父様の指
を丁寧に洗うと、本当にそこからミルクが出てるんじゃないかと
思うほど美味しそうにお父様の指をしゃぶる。

 そして、歳下の子たちと同じようにこの一週間の様子をお父様
に物語ったあと、なんとお父様とベッドを共にしたいと望むので
ある。

 巷では思春期の少女が、父親の、しかもこの場合は血の繋がら
ないお父様のベッドで添い寝するなんて、信じられないだろう。
 実は、私も現役時代、お母様には随分可愛がられて育ったが、
さすがに14歳になってからはお母様と添い寝したことがない。
 何かが起こるなどとは思わないが、恥ずかしさが先にたって、
できないのだ。
 なのにこの子たちは平気なのである。

 「ねえ、今夜はお父様と一緒に寝てもいいかな?」
 「えっ、わたしも……」
 その瞬間はお父様より私の方が驚いた。

 一方で新しいお父様を頑なに受け入れない子がいるかと思えば、
もう一方で、すでに大人に近い身体をしているのに、今でもお父
様と一緒にベッドで過ごしたいと願う子もいる。
 女の子というのは実に不思議な生き物なのだ。

 「悪いな、合沢さん。こういう仕儀だから……今夜のところは
客間のベッドを使ってくれないか」
 そういう河合氏の顔はにやけてさえ見えた。

 さすがに素っ裸ではない。パジャマは着ている二人だが、共に
あっけらかんとして先に奥のダブルベッドを占拠している。

 「(ひょっとしたら、何かおねだりじゃないですか?)」
 私がそんな顔をすると…
 「(それでもいいよ)」
 という顔が帰ってきた。

 ということで、河合氏とは無言のまま、顔と顔で挨拶してその
夜は別れたのだった。

   

<序文>

        亀山からの手紙(プロローグ)

<序文>

 私はヘブン(楽園)と呼ばれるこの地で15歳までを過ごしま
した。もともと捨て子だった私は、当初公立の乳児院で過ごして
いましたが、1歳を待たずしてここの会員である天野氏によって
亀山の地へ引き取られます。
 以来、なだらかに広がる丘の街が私の住処となりました。
 そんな経緯もあって、私の記憶はこのヘブンの地から始まります。

 広い敷地を持つ邸宅がいくつも立ち並ぶこの街には私の他にも
多くの子どもたち……といっても孤児ばかりですが…がいます。
天野茂氏もそうした子どもたちの世話する里親の一人。他の邸宅
のお父様同様、若い頃に財を成した資産家で、今はこの地に移り
住み、まるで孤児を育てるのが趣味とでもいわんばかりに家の中
は常に大勢の子供たちであふれていました。
 とはいえ、乳飲み子の私が、最初からこうした街の子供たちと
交わったわけではありませんでした。私が最初に接した世界は、
高橋という名の中年女性の懐。そして、乳房でした。

 彼女は生さぬ仲の私に自分の乳房を吸わせ遊ばせ、自分の産ん
だ子と何ら変わらないように私を育ててくれたのです。
 ですから、私にとって彼女は唯一の母親。産みの母はどこかに
いるでしょうが、私が母と呼べる人は未だに彼女だけなのです。

 一緒に寝て、ごはんを食べて、絵本を読んで、積み木で汽車や
お家を造ります。おまるに跨る時だって、一緒に応援してくれま
した。……そのいずれの時も彼女は私と一緒でしたから……

 もともとシスターでしたが、還俗して私とつき合ってくれたの
です。

 その彼女が私に最初に教えてくれた言葉があります。
 「はい、お父様」
 これはここに住む子供たちなら誰もが忘れてはならない言葉で
した。

 高橋先生(お家以外ではママをこう呼びます)は確かにママの
代わりではありますが法律上の責任者はあくまで天野茂氏。私を
経済的に支えてくれたのも彼でした。ですから、『お父様』(おと
うさま)と呼ぶのはごく当たり前のことだったのです。

 彼は大変な子煩悩で、孤児たちを自宅に引き取っただけでなく
高橋先生のように母親代わりになる人まで付けて面倒をみてくれ
ました。
 ただその代わりといっては何ですが、子供たちは天野のお父様
やその奥さんであるお母様に対しては絶対服従。小さな我が儘も
許されません。
 そこで、まず覚えさせられるのが……
 「はい、お父様」
 どんな時もこの言葉だけは忘れてはいけなかったのです。

 こう書いてしまうと、何か堅苦しい感じですけど、お父様やお
母様は幼い私たちを膝の上に乗せてごはんを食べさせたり、一緒
にお風呂に入って身体を洗ってくれたりします。おまけに滅多に
子供たちを叱ったりしませんから、二人が居間にいる時は誰彼と
なく抱きついて遊んでくれるようにせがみます。

 お父様は、ソファでくつろいでいる時に子供たちが肩に乗って
来ても、髪の毛を引っ張っても、お髭を丸めても、お顔の皺を伸
ばしても、耳元で甲高い声で叫んでも、無頓着に笑っています。

 ただ、そんな時でもお言いつけは守らなければなりません。
 「さあ、勉強の時間だよ」
 「さあ、寝る時間だよ」
 その時、子供たちが言わなければならなかったのが……
 「はい、お父様」
 でした。
 こう言われたら、子どもたちは他の言葉を使ってはいけないの
です。

 先ほど私、お父様たちは子どもたちを叱らないと言いましたが、
それはあくまでお父様やお母様が私たちを叱らないというだけで、
母親代わりとなる先生たちは子供たちをよく叱ります。というか、
当時の事ですから体罰だって当然という世界でした。

 お尻叩きはもちろんのこと、納戸や物置に閉じこめられたり、
素っ裸やパンツ一つでお庭の杭に縛り付けられたり、浣腸をして
それを限界まで我慢させられたり、お灸だってあります。いつも
ではありませんが、恐らくここで育った子供たちのなかでお尻に
お灸の痕つまり火傷の痕がない子はいないと思います。

 でも、みんな自分の面倒をみてくれる母親代わりの先生が大好
きでした。私のママだけでなく、どこのママ達も子どもたちには
献身的なんです。およそ血を分けた本当の子供でもないのに……
『どうして?』って感じでした。

 もちろんそんな情熱は幼い子供にも伝わりますから、ちょっと
くらいお仕置きされたからってママを嫌がる子はいません。

 どんな厳しいお仕置きがあった日も…
 「ごはんよ」
 ママのこの一言を境に、どこの家庭でもまた元の親子関係へと
戻っていきます。

 僕のお家では叱られた次のごはんはママのお膝の上と決まって
いました。そこで必死に甘えて失ったものを取り返します。これっ
て、別にお仕置きの償いにママがそうしているわけではないのです
が、うちのママはお膝の上を占拠した僕にスプーンで食事を運んで
くれます。

 そして……
 「ん?お尻、痛かった?」
 「うん」
 「元気を出して、お義母様には内緒よ」
 「どうして?」
 「大事な赤ちゃんのお尻をぶったなんてわかったらママがお義
父様に叱られちゃうわ」
 なんて言われましてね、本気にしていました。(∩.∩)

 お断りしておきますが、この時僕は幼児ではありません。正真
正銘の11歳。世間の常識ではもう『赤ちゃん』だなんて言われ
る歳ではありませんでした。けれど、この街では身体がどんなに
大きくなろうと14歳になるまでは常に『赤ちゃん』なのです。

 「だって、僕はもう赤ちゃんじゃないもん」
 そんなこと巷では通用してもここでは通用しません。
 ですから、おいたが過ぎると、それまで大人たちから与えられ
ていた自由がすべて剥奪されてしまいます。パンツの代わりに、
おむつをはめさせられ、上下続きのベビー服を着せられてベビー
ベッドの上へ。
 ここで丸一日過ごさなければなりませんでした。

 ええ、私もこの罰を受けたことがありますがとっても変な気分
でした。何しろ枕元にはミルクの入った特大のほ乳瓶、起きあが
りこぼしや天井で廻っているメリーゴーランドも同様で成長した
体に合わせた特注品。
 部屋の隅にはおまるが置いてあって用を足したい時は大人の人
を呼んでベビー服を脱がしてもらいここに跨るんですが……
 終わると……

 「はい、終わったの?じゃあ、モーモーちゃんしましょう」

 こう言われたら牛のように四つんばいになって大人からお尻を
拭いてもらわなければなりません。自分が赤ちゃんに近い頃なら
まだしも、10歳を越えてそれは屈辱的でした。でも仕方があり
ません。それがこのお家のお決まり(しきたり)なのですから…

 そんななか、お勉強だけは年相応にやらさせられます。こんな
ことがあると、担任の先生がベビールームまでわざわざ押しかけ
て来て、今日、学校でやったお勉強を教えてくれるんです。
 親切というか、迷惑というか……

 そうそう、クラスメートもやって来ますね。お見舞いというか、
からかいにですけど……

 でも、一日の大半は天井から吊り下げられたメリーゴーランド
を見て過ごす退屈な一日です。
 こんなにも心が幼児退行しそうなお仕置きを、ママはなぜ考え
ついたのでしょうか。

 実はこれ、ママの発案というより、お父様やお母様の願望から
生まれたもののようでした。法律上の親であるお二人は私たちが
いつまでも幼児のような純粋な心のままで自分たちに仕えてくれ
ることを願っていたのです。

 『私たちの天使ちゃんたちは元気かしら』
 お二人はよくこんな言葉で子供たちを表現していました。

 ですから、先生方も子供たちをそうした方向で仕付けますし、
私たち自身もそんな大人ちの要望に応えようとします。おかげで、
家庭内の雰囲気は、巷の一般家庭よりさらに強く、幼さが色濃く
残っていました。

 ユーミンの歌に…
 『小さい頃は神様がいて、不思議に夢をかなえてくれた。……
毎日愛を届けてくれた』
 こんな歌詞がありましたけど、私たちの日々の暮らしもそんな
感じでした。

 ベビーベッドで、今、僕が寝ていると聞きつけるや、お父様と
お母様は必ずお見舞いにやってきます。そして、ミルクを飲ませ
たりオムツを換えたり絵本を読んできかせたりとまったく幼児と
変わらない対応で僕をあやすのです。

 それは端から見れば大人のおままごと。きっと世間の常識では
11歳にもなった少年にそんなことをしたら…
 「やめろよ、そんなこと!」
 と、ほ乳瓶を投げつけて騒ぐんじゃないかと思います。

 でも、ここではお父様にもお母様にも絶対服従です。お二人の
前では何をされてもいつも笑顔でいなければなりません。たとえ、
オムツ替えで下半身を丸裸にされるようなことがあっても決して
騒いではいけないのです。

 目上の人みんなにそうなのですが、とりわけ『お父様とお母様
には絶対服従』がここで暮らす子供たちのお決まり(義務)だと
ママからは繰り返し口を酸っぱくして教えられていました。

 その代わり、私達はこのお二人からは色んな援助を受ける事が
できました。欲しいオモチャや文房具、服やご本など、ほとんど
二つ返事で買ってもらえますしママから言い渡されたお仕置きも
このお二人に泣きつけば、まけてもらうことができましたから、
便利な人たちでもあったわけです。

 ただ、そのための条件が……
 『心が清いこと、目上の人には従順なこと』
 だったのです。

 要は、赤ちゃんのようにして振る舞うことだったのです。

 この日も、ほ乳瓶を口元にあてがわれましたから、口の周りを
ミルクだらけにして一所懸命飲みますと、二人とも大変にご機嫌
な様子で……
 次は……

 「あなた、せっかくオムツしてるんですもの。……オシッコも
うんちもオムツに出していいのよ」
 と、こうです。

 「…………」
 お母様の笑顔に、僕の顔が引きつる瞬間です。

 いくらこのオムツをしているからって、本当の赤ちゃんを卒業
してしまった子が、そう易々と穿いてるオムツにお漏らしなんか
できません。

 当然おしっこがしたくても我慢することになるのですが……
 そうなると役立つのがお浣腸でした。

 グリセリンという薬液を大きな注射器みたいなもので吸い上げ
て、細いゴム管をセット。水鉄砲みたいにガラス製のピストンを
押すと、ゴム管の先端が僕のお尻の穴に繋がっていますからお薬
がお尻の穴から僕の身体の中へと入って行く仕掛けです。

 「……(絶句)……」
 これって、やったことのある人なら分かると思いますが、その
居心地の悪さは格別です。

 でも、問題はその先でした。

 「ウウウウウウウウウ」
 そんなことをされると、1分とたたずもの凄い便意に襲われる
のです。

 信じられないほどの強烈な下痢です。普通の状態でならありえ
ないようなもの凄いやつですから、当然、トイレへ駆け出したい
ところですが、それはたいてい大人たちから許してもらえません
でした。

 「だめえ~~漏れちゃうよ~~~」
 身の不幸を嘆きながら五分から十分。、年齢が上がると20分
も我慢しなければならないのです。

 この時はガラス製の浣腸器から外れたゴム管をまるでお猿さん
のしっぽのように垂らしてお母様の胸にしがみつきます。

 「ああ、出る。出る。だめ、ごめんなさい。もうしませんから」
 わけも分からず懺悔の言葉を口にしながら、全身鳥肌をたてて
泣きじゃくります。

 ところがお父様もお母様もどうやらそんな僕の断末魔が面白い
らしくて、なかなか許してもらえませんでした。
 結局、お父様が暴れる僕を抱きかかえて、それこそ赤ちゃんに
そうするように、おまるの上で僕の両足を持ってうんちをさせて
くれましたが、出てきたものはほとんど水のような物で……
 その瞬間、僕の顔は真っ赤に火照っていたのを覚えています。

 「もし、僕があの時お漏らししていたら?」
 僕はあとでお母様に尋ねたのですが、お母様はこともなげに…

 「もちろん、その時は私たちで片づけますよ。愛するわが子の
ものですもの、たとえうんちでも汚くなんかないのよ」
 こう言い放つのでした。実際、ママも僕に幾度となくお浣腸の
お仕置きをしかけて、その中には粗相したこともあったのですが、
それでもそれを処理する時、ママが嫌な顔をしているのを見た事
がありませんでした。
 もちろん、僕の方はすっぽんぽんにされてのお着替えですから
こちらは相当に恥ずかしかったのですが、ママは笑っていました。

 そんなこんなで、ここでは子どもたちはかなり長い間赤ちゃん
生活。そして大人たちによってわりと平気で裸にさせられます。
それは何もこの部屋の中だけとか、家の中だけといった閉鎖した
空間に限りませんでした。

 赤ちゃんになるお仕置きの時は、晴れていればお散歩の時間と
いうのがあるのですが、これなんか11歳の子でも寝っ転がれる
ような特大の乳母車に乗せられて、みんなが見ている公園の真ん
中でオムツ替えなんてことになります。

 大事なオチンチンを人前に晒して……
 恥ずかしいのを通り越して、その瞬間は頭の中が真っ白になっ
ていました。

 それにひき換え……
 乳母車を覗き込む大人たちは大喜び。まるで子供にはそもそも
羞恥心なんてあるはずがないと思っているようでした。

 実際、気候の良い時などは、公園内で悪さした子がピロリーと
呼ばれる晒し台に立たされていましたが、そんな中には小学校の
高学年になる女の子の姿も……
 さすがに全裸でいることは希でしたがパンツ一丁という姿なら
それほど珍しくありませんでした。

 ここでは子どもが『恥ずかしい』と主張すること自体悪だった
のです。

 目上の人に「裸になりなさい」「パンツを脱いで」なんて言わ
れれようものならすぐにそうしないとお仕置きが増える事になり
ます。ですから、子供たちにとっては嫌も邑生もありません。

 家庭で、学校で、公園で、仮に裸の子がそこにいたとしても…
 「ふ~ん」
 という程度。別段、珍しくも何ともありませんでした。

 お互い異性の裸は幼い頃から見慣れていたのです。
 とはいえ、思春期にさしかかると身体も少しずつ変化していき
ます。特に女の子の場合は、今まで通りというわけにはいかない
ようでした。

 ま、そんなことは大人たちも承知していたのでしょうが……
 だからといって『女の子への羞恥罰はやめよう』という話には
ならないようでした。

 以下は日記をもとに僕の一日を再現してみました。
 興味のある方だけご覧ください。
 

<第1話>①

(6月10日)
 いつものようにママのおっぱいの中で目が覚めた。退屈なのでお布団
の外へ出ようとしたが失敗。またすぐに引き戻されてしまう。代わりに
ママのおっぱいを舐めてみると…
 「だめよ、おいたしちゃ」
 と気だるく言われてしまった。……でも、やっぱりママのおっぱいが
オモチャにちょうど良いから、もう一度舐めてみる。今度は唇で乳首を
捕まえた。すると、先ほどとは違う答え。
 「しょうがないわねえ」
 という返事。おまけに唇1センチの処へ乳首がやってきたのだ。好意
に甘えて左手の指の腹と舌先でちょんちょんと刺激してみると、そこが
ちょっぴりだけど大きくなったような気が……でも、気のせいかもしれ
ない。
 『ママは起きないなあ。ママが起きないと僕が起きられないから困る
んだけど……仕方がないね。もうちょっとおつぱいで遊ぶか』
 心の声が聞こえたのかママは僕の頭をぐぐぐいっとおっぱいの谷間へ
と押しいれる。
 『わ~~何にも見えないじゃないか』
 と、ここで茜ちゃんが起きた。茜ちゃんは5歳の女の子。僕の妹だ。
 すると、とたんにママが僕の頭を両手で掴むと元あった処へ放り投げ
てしまう。
 『むむ、あっちへ寝返り打っちゃった』
 せっかくママとラブラブだったのに大切な時間を取られた気分だ。
 茜ちゃんがママとやることも僕とそう大差はない。二人はいい雰囲気
だったんだけど……そのうち、急に飛び起きた。
 「あなた、またやったの」
 ママの声が頭にキーンと響く。
 要するに茜ちゃんがまたおねしょをしたのだ。
 ま、おねしょをするような子と一緒に寝たのだから仕方がないんだろ
うけど、ママは不機嫌だ。こんな時は僕が茜のパンツを取り替えなけれ
ばならない。
 迷惑な話だが、僕がお兄ちゃんだからこれも仕方がないのだ。
 「あたしがやる」
 新しいパンツを持っていくと茜は自分で着替えようと僕の持ってきた
パンツに手を伸ばした。
 「だめ!これはお兄ちゃんがやるの」
 僕は断固拒否する。僕も小学校の二年生までおねしょをしていたけど、
パンツを取り替えるのはいつも当時中学生の小百合お姉様だったんだ。
もちろん自分でできることなんだけど、これってお仕置きでもあるから
やらせてもらえないんだ。だから、茜もじっとしてなきゃいけなかった。
 濡れたパジャマのズボンとパンツを下ろすと小さな可愛いワレメが顔
をだした。
 「ほら、じっとしてて…」
 僕は叱りつけるような強い口調でバスタオルをその可愛いお股に当て
る。そして少し荒っぽい感じでそのお股の濡れた処をふき取ってやるだ。
 これも小百合お姉様からやられた通りやってあげてる。
 あとは乾いたパンツを穿かせて、スリーマーも取り替える。その後は
ブラウスにフリル付きの短いスカートを穿かせれば完成だ。
 そうなってはじめて、茜にはやることができた。
 お着替えじゃないよ。それは僕がやったんだから。ママへの「ごめん
なさい」だ。
 ママの前で正座して両手をついて…
 「おねしょしちゃいました。ごめんなさい」
 「あなた、昨日はお夕食のあとこっそり食堂へ行かなかったかしら?」
 「……」茜ちゃんは答えませんでしたが、もじもじしてましたからね、
やっぱりジュースをごくりとやったみたいでした。
 「いいこと、今度、お約束を破ったら本当にお灸をすえますよ。あな
たも見たでしょ。香苗ちゃんのお仕置き。あなたもあんなのやってみた
いのかしら?お灸ってとっても熱いのよ」
 「……」茜ちゃんは激しく首を振ります。
 「だったら、夜、お夕食が終わったらお水を飲むのは我慢しなさい。
いいですね」
 「は~い」
 と、事はそれだけ。終わるとママは茜ちゃんを抱っこします。そして、
ママは茜ちゃんを抱っこしたまま家族三人で食堂へと向かうのでした。
 ええ、この子とも血はまったく繋がってませんけどね、僕たち三人は
家族なんです。(正確には5人かな、ここを巣立ったお姉様がすでに二人
いますから…)
 とにかく、天野のお父様のお家には僕たちみたいな母子家庭みたいな
のが7家族も同居していてそれがみんな朝ごはんを食べに食堂へ集まり
ます。
 事情はどこも同じ。高橋先生のような母親代わりの先生がお父様から
預かった二三人の子供たちを連れてやって来るわけです。
 集まってくる子供たちの年齢はさまざまで、本当の赤ちゃんもいれば
中学卒業間近の15歳の子まで色々です。さすがに14歳を過ぎたお姉
様たちはいつも背筋を伸ばして凛とした立ち居振る舞いですけど、まだ
ろくに仕付けられていない小学生グループはそりゃあ賑やかです。
 ここに集まっている子供たちはいずれも法律上は天野氏の里子たち。
つまり、ママはそれぞれ違うけど大きな屋根の下で一緒に暮らす僕たち
にとってはどの子も等しく兄弟たちでした。
 だから、ここに集まる十数名の子供たちが一家族ともいえるのですが、
ママが違えばやっぱり少しだけ距離があるのは仕方のないことでした。
いえ、同じ屋根の元で暮らす者同士ですから仲はとっても良いんですよ。
ただ、「はい、パンツを脱いで」と言われた時にびっくり箱の蓋を開けた
時のような早さでパンツが脱げるのはやはり自分たちのママだけだった
んです。
 『あ、章くん』
 僕は章(あきら)君を見つけると抱き上げます。すると、章君も僕を
抱き上げてくれます。
 これは親しい友だちなら誰でもやるご挨拶。とにかくこの町では大人
たちが誰彼となく訳もなく子供たちを抱き上げますからそれが子供たち
にも広がって握手代わりのご挨拶になっていました。
 二人は同級生。学校のクラスは違っていましたが、同じ歳の男の子は
この街には私と彼の二人だけでしたから普段からとても仲良しでした。
つまり他はみんな女の子なんです。幼い頃はあまり感じませんでしたが、
この頃は価値観が違ってきて少し肩身が狭いんです。だから立場の弱い
二人はいつも連(つる)んでいました。
 二人は揃ってお父様の処へ行きます。
 この時間帯はご挨拶のラッシュですから二三人待って順番が回ってき
ました。
 その日もいつもの通りお父様の足下で跪くと両手を胸の前に組んで…
 「おはようございます。お父様。健児です。今日もよい子でいます」
 「おはようございます。お父様。章です。今日もよい子でいます」
 二人は異口同音に朝のご挨拶をします。もちろん、僕たちの前にいた
子供たちもこんな調子でご挨拶をしていました。
 「おう、我が家の王子たちは元気だったか」
 お父様は満面の笑みで両手を広げます。すると僕たちは遠慮なくその
膝の上に上がって頭を撫でてもらいます。当時、僕たちの体重が何キロ
あったか覚えていませんが子供二人分ですからね、普通に座っているだ
けでも相当に重かったんじゃないかと思うのですが、僕たちは遠慮なく
お父様のお膝の上でお尻を浮かして跳ねまわります。
 でも、お父様のお顔はそんななかでも終始笑顔でした。
 「おうおう、二人ともお尻をとんとんできるところを見ると、昨日は
誰からもお仕置きされなかったな」
 こう言われると二人とも苦笑いを浮かべるしかありませんでした。
 「………ほら、おめざましだ」
 お父様はテーブルに置かれた硝子ボールの中に大きな手を突っ込むと
チョコとクッキー鷲づかみにして数個ずつ僕たちに手渡してくれます。
 『おめざまし』というのは朝寝坊の子供たちの目が覚めるようにと、
お父様やお母様から与えられるお菓子ことで、朝のご挨拶がすむと誰の
手にも握らせてもらえるものでした。
 朝からお菓子なんていい身分だ?
 いえいえほんの一口二口程度ですからね、成長した子供たちにとって
はあまり有難みはありません。ただ、だからといって「そんなのいらな
い」なんて拒否するのはもちろんタブーでした。
 で、次は隣の席のお母様。やり方は同じです。
 「おはようございます。お母様。健児です。今日もよい子でいます」
「おはようございます。お母様。章です。今日もよい子でいます」
 また二人並んでご挨拶すると今度はお母様が座っている大きな椅子の
脇に招待してくれます。さすがに膝の上というわけにはいきませんので。
 大きな椅子も3人一緒に座ると窮屈なんですが、「結構です。狭い処は
嫌いですから」なんて言う勇気はありませんでした。もちろん、おめざ
ましもその時もらえます。
 この時の僕たちのお仕事はひたすらおめざましを食べることでした。
 「章ちゃん、今度の金曜日には何を聞かせてくれるの?」
 お母様はしばらくのあいだ僕たち二人に頬ずりしたり、頭を撫でたり、
お手々を揉み揉みしていましたが、そのうち、章くんの耳元に息を吹き
かけるようにして尋ねます。
 「フルートです」
 「上手になった?」
 「わかりません。でも、合田先生はとっても上手になったって」
 「まあ、それは楽しみね。今度は何を吹いてくれるの?」
 「愛の挨拶」
 「まあ、そんな難しい曲ができるようになったの?」
 「わかりません。でも頑張ります」
 「健ちゃんは?」
 「えっ!ぼく……オルガンで、主よ、人の望みの喜びよ」
 「あなたの得意な曲ね。楽しみだわ」
 お母様はこう言いましたが僕の気持ちはちょっと複雑でした。という
のも、この週は色々忙しいことが続いてピアノの練習ができなかったの
です。おかげで課題曲はクリアできず、仕方なくいつでも弾ける曲を選
んで弾くことになったのでした。
 僕たち天野家の子供たちは二週間に一度それまでに習った曲をお父様
やお母様の前で披露することになっていました。つまり、沢山いる子供
たちの中で自分をアピールするチャンスなわけです。
 僕はそんなことに感心がありませんでしたが、ママにとっては大切に
育て我が子(?)をお父様たちに売り込もうと一生懸命だったのです。
 ですからこの時、僕は章君に差を付けられたみたいでショックでした。
 「さあ、あなたたち、今日はお当番なんでしょう。ここへお座りなさい」
 お母様に言われて僕たちは勧められるままに隣の椅子に腰を下ろしま
す。実は、天野家では十日に一回程度の当番が定められていて、その日
は食事する場所も普段食事をしている下座の円形テーブルではなくお父
様たちが座る上座の席で一緒にいただくことになっていました。
 これって子供たちにはちょっとした楽しみなんです。(*^^)v
 ここからだと兄弟たちが食事をしている円形テーブルを見下ろすよう
な形になってちょっとだけ偉くなった気分ですし、目の前に並んでいる
料理だっていつもの物とは違います。
 上座の人たちのテーブルには下座の子供たちのテーブルより少し贅沢
な料理が並んでいました。それをこの日ばかりはお父様やお母様におね
だりして手に入れることができるんです。
 もちろんお酒やコーヒー、それにコーラがダメでしたか。でも子供に
害がなければお二人が何でも取り分けてくれたんです。
 あ、そうそう、ある日のこと、お母様がウイスキーボンボンを幼い子
に与えてしまいひっくり返ったなんてことがありましたけど、その後も
この風習は残りました。
 その日の日記によれば僕はお母様からフルーツポンチやタンシチュウ
なんかをもらいご機嫌でした。
 僕が甘えた声で「シチューが欲しい」と言うと…
 「そう、じゃあ、あ~~んして」
 料理を乗せた大きなスプーンが目の前にやって来ます。これを笑顔で
パクリとやってみせるのが子供の義務(?)。後は、取り皿に乗せられた
料理を自分で食べることができますが、とりあえず一口だけはこうして
お母様の要望に応えなければなりませんでした。
 お父様もお母様も実の親ではありません。お金に余裕があるから僕た
ちを引き取ったのです。そのせいか、僕たちに接する時は早く自立して
欲しいというより、いつまでも幼い子のままでいて欲しいという願いの
方が強くこもっていました。
 ですから、高慢な物言いや横柄な態度、聞きかじった知識をひけらか
すといった態度には眉をひそめます。そんなことをするくらいなら、た
とえ年齢にそぐわなくても赤ちゃんの様に振る舞った方がまだましだっ
たのです。
 お母様はお口でスプーン奪い取った僕を喜びます。
 「だめよ、そんなことしちゃ」
 言葉ではそんなこと言っていますが、僕はそれがお母様の本心でない
ことを知っています。その証拠にお母様の顔は満面の笑みです。そして、
僕の口からスプーンを取り上げるとその代わり僕はお母様のお膝へ招か
れました。
 「良い子、良い子。今度は何が欲しいのかしら?」
 こうして頭を撫でられていると、とてもいい気分です。今までだって
普段より高い所から眺めていたのにそれがさらに一段高い処から兄弟た
ちや先生を眺められるんですから…もう、神様か天使様にでもなっちゃ
った気分でした。
 ただ、こうした場合、僕だけというわけにはいきません。
 「ほら、今度は章ちゃんよ。ここへいらっしゃい」
 お母様は僕を下ろして章君にお膝の席を勧めます。
 シャイな章君は当初迷っていましたが、そのうち章君のママが行きな
さいと勧めたので結局彼も僕と同じ幸せを味わうことになったのでした。
 11歳という歳は大人の入口にさしかかっていますから何かにつけて
大人たちに自分を一人前と認めさせたがりますが心の中はまだまだ大人
への依存心が強くて、抱いてもらうととたんに赤ちゃんの心が戻ってし
まい本心は嬉しくてたまりませんでした。
 朝の食事が終わると、子供たちは再び先生に連れられて自分たちのハ
ウス(離れ)へと戻ります。そして学校へ行く準備をします。
 僕と茜ちゃんも高橋先生に幼稚園と小学校の制服を着せてもらって、
これからお出かけです。
 察しのいい方はお気づきかとは思いますが、高橋先生は僕の小学校の
先生でもあります。いえ、うちだけじゃありません。他の家のママたち
だってその大半が幼稚園、小学校、中学校のどこかの先生でした。
 つまり、ここのママたちは家ではママ、学校では先生なのです。
 しかもこの三つの学校は全部同じ敷地にあるんですよ。一応、学校の
敷地はくぎられてますけど、小中学校は教員室も同じだし、幼稚園とは
往来自由。寂しがり屋の子がよくママを探しに小中学校へ出張して来ま
すが、大人たちに幼稚園を隔離しようなんて考えはないみたいでした。
 FAXもメールもない時代でしたが情報交換も頻繁で、どこの学校で
起こったこともすぐにその子のママに筒抜け。ママに隠し事は何一つで
きませんでした。
 天野家だけが特別なんじゃありません。うちのような家がこの町には
他にも十数軒もあって、その子供たちはみんなこの学校へ通うんです。
 早い話、ここは街は全体が巨大な孤児院というわけ。右を向いても、
左を向いても、周囲は同じ境遇の子供たちばかりです。ですから、実の
両親がいる恵まれた子供たちから心ない言葉をかけられる、なんていう
心配だけはありませんでした。
 しかもママのお話しでは『あなた方は特別なの。とっても運がいいの。
恵まれているのよ』という事をよく聞かされます。
 要するに今の境遇に感謝しなさいというのですが、こちらは他の世界
をまったく知らない純粋培養ですからね、いくら『恵まれている』『感謝
しなさい』と言われても『この街にいて特別幸せだなあ』と感じたこと
なんてありませんでした。といって『特別不幸だなあ』と感じたことも
なかったのですが…(^^ゞ
 そうそうこれはお断りしておかなければなりませんね。僕たちだって
365日篭の鳥というわけじゃありません。色んな行事で街を離れる(山
を下りる)事はたびたびありました。ただ、いずれもに大人が付き添っ
ていますし、他の世界の子とふれ合う機会もありませんでした。テレビ
だって11歳になった僕でさえ「ひょこりひょうたん島」と民法の30
分のテレビアニメ以外観ることができませんでした。
 つまり外の情報を得る手段がないわけです。ですから、テレビを観て
いても劇の中で起こる出来事が理解できないなんてことが沢山あったの
です。特にお金はこの町にいる限りほとんど触れることがありませんで
した。もちろん学校では教わりますが、そもそも使う機会がないのです。
 ここでは欲しい物はお金を出して買うものではなく大人からプレゼン
トしてもらうものでした。
 お父様、お母様、もちろんママが多いですが、別にそれだけではあり
ません。担任の先生や園長先生、司祭様にだって、おねだりすればそれ
は叶えられたんです。
 嘘みたいでしょう。親でもない人がおねだりされたからってそう易々
他人の子にプレゼントしてくれるなんて…でも、ここではそもそもその
『他人の子』という概念がありません。ここで働いている誰もが街中で
見かけた子供を自由に抱けますしプレゼントをあげることだってできる
んです。
 そんなことして嫌がらないか?
 人見知りする幼い子は当然いますが、そのうち慣れて平気になります。
そもそも周囲から大人に抱かれたらイヤイヤをしてはいけないと仕付け
られていますから……
 こんなこともあって、この街の誰もがよい子へはプレゼントを惜しみ
ませんでした。だからヘブン(楽園)なんて言われるんでしょうけど、
そのあたりの事情は巷とはだいぶ事情が異なっていたみたいです。
 とにかく私たち子供にすれば、大人たちに気に入られることが何より
大事なお仕事だったわけです。
 従順で、純真で、勤勉で……
 大人たちの要求は自由奔放な子供の気性からするとちょっぴり厳しい
ものがありましたが、可愛がられる喜びからみんな一生懸命着いていっ
たんです。
 それもこれも街に暮らす大人たちがいずれも無類の子供好きで邪な心
を持つ人が誰一人としていなかったから可能だった仕組みみたいです。
 そうそう、さっき言った僕たちの学校は町の外れ南斜面を切り開いた
日当たりの良い場所にありました。そもそも一学年10数名しかいませ
んから設備自体も小規模なんですが先生だけは沢山いらっしゃいまして、
どの先生も子供たちには献身的で、何より子供たちが大好きでした。
 朝、登校して木造だった校舎の玄関を入ると、その玄関先に園長先生
が椅子に座って待っています。
 「はい、健ちゃん。おはよう」
 白髪にメガネをかけたこの先生は、子供の目にはおばあちゃん。その
おばあちゃんが、生徒一人一人の頭を撫でてお手々をさすって抱きしめ
ます。これは朝の儀式みたいなものでした。もちろん、うざったいから
としかとして脇をすり抜けるなんてことはできません。園長先生は子供
たちの名前を全員覚えていましたから誰が逃げたかすぐに分かるんです。
 それだけじゃありません。教室に入ると今度は担任の谷村先生が待ち
構えていて、また、同じように僕たちの頭を撫でてお手々をさすって、
ハグします。ただ一つ違うのは、そのあとほんのちょっとだけですけど
子供たちをだっこしてくれることでした。
 女の子もこのくらいの歳になると先生の抱っこにはあまり乗り気では
なかったみたいですが、僕みたいな甘え坊は時間延長をお願いすること
だってありました。
 すると、たいていOK。こんな時は得てして男の子の方が甘えん坊さ
んなんです。(*^_^*)
 もう五年生ですから、赤ちゃんみたいなだっこは世間的にはおかしい
のかもしれませんが、ここでは…
 「子どもが望むなら抱けるだけ抱いてあげなさい」という園長先生の
方針のもと子供たちはどんな先生に対しても甘え放題でした。
 私たちが孤児なのに性格が暗くないのは、この園長先生の教育方針が
あったからなのかもしれません。
 ただ、でれでれと甘やかしていただけではその子の将来が心配ですし、
教室の秩序だって保てませんから、そこは厳しい処だってたくさんあり
ます。甘やかされている分、そしてお互い親しい分、お仕置き(体罰)
だって厳しかったんです。…>_<…
 この日も美津子ちゃんが朝のホームルームで先生の前に呼ばれました。
 「美津子ちゃん、あなた、昨日、お母様のメイクルームに無断で入っ
て鏡に口紅イタズラ書きしたでしょう…ママからお聞きしたけど、あれ
本当かしら?」
 「……」美津子ちゃんは何も言いませんでしたが、渋々頷きます。
 「そう、それっていけないことだって分かるでしょう?……お母様の
お部屋を汚すことはとってもいけないことなのよ。何故ちゃんと消して
こなかったの?」
 先生に諭された美津子ちゃんきはとっさにこう言います。
 「あれ、消し忘れたんです。本当はあとで消すつもりだったんです」
 でも、そんな言い訳ではおさまりませんでした。
 「いいこと、お母様に対するイタズラはあなた一人の罪ではないの。
三輪先生がお世話するあなたの兄弟にも迷惑がかかることなのよ」
 「真由子ちゃんのこと?」
 「そうよ、あなたがそんな子ならもうあなた方の面倒は看てあげられ
ないって他の子も言われてしまうの。そうなったらそれはあなたの責任
なのよ。そうなったらどうするのかしら?」
 先生は厳しい視線で美津子ちゃんを睨みます。
 私たちのお父様やお母様は広い心で私たちを愛してくださっています
から、こんなことぐらいで手を引くなんてことあり得ませんが、本当の
お母様と比べれば色んな意味で気働きは必要でした。こんなこと言うと、
『それをこんな幼い子に求めるのか?』なんて声があるかしれません。
でも、他人にご飯を食べさせてもらっている以上それは仕方のないこと
でした。
 そりゃあ、公立の施設に行けば子供らしく暮らせてそんな気遣いはい
らないかもしれませんが、その代わり、おっぱいを自由に触れたり舐め
させてくれるママが添い寝してくれるふかふかのベッドまではそこには
ないはずです。この山を下りたら、いつだって無条件で抱いてくれて、
オモチャやお菓子を与えてくれる大人たちには会えないのです。
 そんなことはもうこの位の歳になるとみんな薄々理解していました。
 「あなたがここ(楽園)で暮らしたいのなら、お父様お母様はもっと
大事にしないとね。そのことを心に留めて置きなさい」
 谷村先生はそれだけ言って美津子ちゃんの手を引っ張ります。そして、
少しだけハグしたあと……
 「ごめんなさい、……いや、やめてえ~~もうしません。お義父様、
お義母様を大事にしますから……お尻ぶたないで……」
 気が付くと美津子ちゃんは谷村先生のお膝に乗せられていました。
 短いスカートが捲り上げられ白いショーツの上から平手でポンポンと
お尻を叩かれています。美津子ちゃんは慌てて痛いお尻をかばおうと、
右手を後ろにまわしかけましたが、行く手を助教師の青山先生に押さえ
られてしまいます。
 「いやあ、だめえ~」
 そんな美津子ちゃんと先生たちのやりとりを僕は悲しそうな顔で観て
いました。
 というのは公式見解。(∩.∩)
 こうしないと先生に叱られるからわざとそんな顔をしているだけの話で、
美津子ちゃんが腰掛けた先生のお膝に俯せになった瞬間。(^◇^)
楽しくて仕方がなかったのです。
 大人になると『明日は我が身、気をつけなきゃ』なんてネガティブに
考えがちですが子供の頃はそんなことはまったく考えません。今行われ
てることが自分に関係なければそれでいいんです。むしろ、他の子のお
仕置きなんて、またとない余興なんですから、そんな時はいつも楽しく
て仕方がありませんでした。
 僕はさらに先の展開まで夢想します。
 『お馬、お馬、お馬、∈^0^∋』

Appendix

このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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