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3)お尻叩き

3)お尻叩き

 最近はおしゃれにスパンキングなんて横文字を使う人もいます
が、私の子供時代は尻叩きで充分でした。しかもこれ、突発的な
事態で起こることが多くて西洋のようにお仕置きとして体系的に
位置づけられる家は少なかったようです。
 突発的というのは、例えば沸騰しているやかんに、幼児が手を
近づけようとした瞬間、親が慌ててその子を抱き上げ、その場で
お尻を叩くといったシーン。
 こんな場合です。(-.-;)y-゜゜
 ただ我が家に限って言えばですけど、お尻叩きも立派に体罰と
して位置づけられていました。
 幼い子にはそれほど手荒なこともしませんが、学年が上がるに
したがって平手だけでは足りずスリッパや竹の定規やストラップ
なんて名前の革ひも鞭まで登場します。
 親はどこでこれを覚えてきたのか父親母親ともに鞭の扱いには
なれていました。音を立てたり立てなかったり痛くしたりしなか
ったり、みみず腫れも自在にこしらえます。ですから、ちょっと
見た目は悲惨に見える大きな音をたてつけたみみず腫れも意外に
当人は平気だったり、逆にろくに鞭音もせずみみず腫れもさほど
でもないのに一週間も十日も苦しむことだってあります。
 父親は努めて女の子には避けていましたが男の子には容赦有り
ませんし、母親の方は逆に男兄弟の目を避けて女の子へも頻繁に
やっていたみたいです。
 もっとも、ここに言う女の子というのは歳が二桁に乗った子供
のことで、まだつばなれしていない子は性別は女の子と言っても
扱いは男の子と同じで、居間の真ん中で「パンツを脱げ」という
親の号令がかかればそれに逆らう事なんてできませんでした。
 今の子供たちにはピンとこないでしょうけど、当時の父親とい
うのは群れのボスとして絶大な権力を持っていましたから家族の
誰もがその逆鱗にだけは触れないようにと相当に気を使って生活
していました。

2)お灸

2)お灸

 今はほとんどこれをお仕置きで使う家はないとおもいますが、
私の子供の頃にはまだ比較的ポピュラーなお仕置きの一つでした。
特におねしょなんかする子なんかにはこれが効果があるだって、
まことしやかに巷で言われていましたから犠牲者も多かったよう
に思います。
 でもそれだけじゃなくて、許し難い嘘をついたり手に負えない
ような反抗を繰り返すとよくやられてました。
 物はとっても小さくて、大きめのゴマかせいぜい小指の先ほど
の大きさ位しかないんですが、艾というふわふわの綿ぼこりみた
いなのを背中やお尻に置いて火を付けます。
 まさにかちかち山の狸状態、曲がりなりにも火を付けて皮膚を
焼く訳ですからね、そりゃあ熱いなんてもんじゃなくてとにかく
痛いんです。
 おまけにこれはすえ続けるとそこがケロイド状になって皮膚が
テカテカに光り、傍目にも「お灸すえられたな」ってわかります
から、こればかりは親の方もよほどの事がないと決心しませんで
した。
 もちろん子供だって一度経験すればそんなの充分ですからね、
「そんなことやってると、またお灸だよ」なんて親に言われよう
ものなら次の行動は自然と考えます。抑止力という意味では抜群
の効果を持つお仕置きでした。
 ちなみに我が家でもそれほど頻繁ではないにせよおこなわれて
いました。男の子女の子は関係なく一度は全員が経験しています。
お仕置きとしてですからお尻とか足の指の間とか、とにかく火傷
の痕が目立たない処が多かったようですけど、なかにお臍の下と
いうのもあって、これは「そこにはそのうち下草が生えるから」
という判断だったらしいのですが、姉や弟たちに見られながらで
とても恥ずかしい思いをしたのを覚えています。
 我が家では小学生のお仕置きは公開処刑が原則。「恥ずかしい」
なんて言ってみても「恥ずかしいのもお仕置きのうちよ」と受け
合ってくれませんでした。(^^ゞ

1)浣腸

 1)浣腸
 普通の家庭ではこれはあまりないと思います。今お腹にどの位
たまっているかで効果が異なりますし何より後の処理が大変です
から。(^_^;)
 でも、家ではけっこう頻繁でした。子どもに懺悔させる時は、
決まってコレでしたから。子どもの方も慣れたものです。『この
お仕置きがくるな』って感じとると、隠し持ってったイチジクを
使ってさっさとお腹を空にしておくんです。
 本当はいけないんですけど、背に腹は替えられませんから子供
だって必死です。もし、お腹にたまったまま浣腸されてしまうと
大人たちの前で恥をかくことになりかねません。いくら粗相して
もそれが新たなお仕置きには繋がらないとは言っても子供だって
羞恥心もあればプライドだってありますから。
 でもって自らお腹を下した後はもう必死で子供なりに演技する
わけです。
うんちがしたいって顔を作って、身体を小刻みに震えさせて……
いかにもって感じで哀れっぽい声を上げたりたりしてみせる。
 でも、そこは相手も大人だし親なんだから、それは大半見破ら
れちゃうんだけど、だからといって、新たなお仕置きってことに
なるケースはあまりなかったように思う。
 そのあたりは情の問題だから、何でもあげあし取りでお仕置き
ってことでもありませんでした。ただ、やったことが情状酌量の
余地なしと看做されたり、あまりに頻繁にやったりするとその場
でおマルに跨がされて。
 「あなた、自分でお浣腸したわね」(-.-;)y-゜゜
 ってなことになっちゃう。
 こうなると、次は「お灸」ってケースが多かった。…>_<…
 「生理現象を体罰に使うなんて卑劣だ!」という意見もあるで
しょうけど、家庭の中だけのことだし見られるのは親だけだから
世間の人が想像するよりショックは小さかったように思う。
 今の親子は西欧化した社会の中で育てられるから、家の内外で
あまり差がなくて、親子関係もどっか他人行儀な気がするけど、
私たちの頃はよくも悪しくそれは違ってた。
 親子の関係が密だったから、小学校を卒業する頃になっても、
母親の布団で一緒に寝ていたし、部屋の中でフルチンでいても、
それを恥ずかしいと感じることもなかったんだ。
 私の子供時代、家の玄関を一歩はいるとそこは世間に認められ
た治外法権の世界だった。外の世界とはまったく違った法や文化
や哲学で支配されていたんだ。だから、例え外で嫌なことがあっ
たり虐められて逃げ帰ることになっても家の敷居を一歩踏み越え
さえすればそこで救われたんだ。だからどんなに辛いお仕置きが
あっても家庭が嫌にならない。
 心身ともに裸になれる場所のない今の子は、本当の意味で心が
リセットされてないんだろうね。だから些細なことでも虐待され
たとしか感じられないし、受けた傷は癒されないまま深くなる。
彼らが、自殺をしたり、人をあやめたり、といった方法ででしか
心をリセットできないとしたら…不幸だし可哀想な気がするよ。
 昨今は、「お仕置きのない子育てが理想的で文化的だ」なんて
言う人が多いけど私は反対。子供時代の環境がそうだったから、
そう思うのかもしれないけど考え方が逆ですね。もちろん何でも
ぶてば問題解決ってわけじゃないけど、お仕置きもできないよう
な家庭環境が何より問題なんだと僕は思うよ。
 本当に。φ(.. )

『我楽多箱』について

『我楽多箱』(雑記帳)について

文字通り、ガラクタをしまっておく箱です。
作品にはならないけど、何か感じる思いつきや
イメージやインスピレーションのようなものを
入れておいて、作品を作るときの参考にします。

ですから、中身はお仕置きと直接関係のないもの
もたくさんあります。

子供時代の私は色んなオモチャを箱にいれておいて
それを手に取りながら想像をめぐらし創作していました
から、その名残りです。

『えっ、お前、そんな昔から小説書いてたのか?』

ええ、最初の小説(?)は小四のときでしたから、
もうかれこれ駄作ばかり50年になります。
自慢になりませんが……(^o^ゞ




第2回

❅❅❅❅❅❅<< 兼 平 啓 介 >>編❅❅❅❅❅❅

***②************************

 「こんにちは」
 軽い挨拶をしてきたのは女の子の父親の方だった。目があった
から仕方がないという事でもあろうか、しかし、その表情に悪び
れた様子はない。

 「こんにちは。いや、ちょっと通りがかったんですがお嬢さん、
大変ですね」

 むしろ私の方がばつが悪そうに答える。何だかいけないものを
覗き見してしまった、そんな雰囲気になってしまうのだ。
 特に昨今はこんな体罰が他人の目にふれられる処で行われるの
は希だからなおのことだ。

 「ここではあまりお見かけしませんけど……ひょっとして……
兼平先生ですか?」
 いきなり自分の名前を呼ばれて背筋に冷たいものが走った。

 「……」

 「違ったらごめんなさい。テレビでお見かけした兼平啓介先生
にどことなく似ておいでだったものですから」

 「……」
 私は凍り付いたままの笑顔で応じる。もとより、一般の人から
先生などと呼ばれる身分ではない。ただ以前に数回テレビ番組に
呼ばれて「子供の体罰有用論」などというのをぶってしまった事
があり、どうやら、彼はそれで覚えていたようだった。

 「そう言えば、安藤さんが今度有名人を雇い入れるかも…なん
て言ってましたけど、ひょっとして先生のことですかねえ?」

 「そこはピノチオって言いますか?」
 「ええ、安藤さんの哲学でしてね。『子供はみんなピノチオ。
怠け者で恩知らずな小心者』って言うのが彼の口癖なんです。…
…それで、ご自分が引き継いだ小学校も『ピノチオ小学校』って
改名なさったんですよ」

 「そうですか。では、ひょっとしたらそうなのかも知れません
ね。私は…べつに有名人じゃありませんけど」

 「ご謙遜、ご謙遜。先生は私たちの世界では充分有名人ですよ。
ほら、ブログなんかもけっこう人気があるじゃありませんか」

 「そうですか、アクセスしてくれる人がそんなに多いとも思い
ませんが……」

 「そんなことありませんよ。先生のお仕置き体験談やロマンチ
ックな小説を、私いつも読ませて戴いてます。今はこんな時代で、
我々は肩身が狭いですけど、決して間違ったことをしているとは
思ってませんから」

 「ここには子供のお仕置きを肯定するような人が多いんですか」

 「ええ」含み笑顔でお仕置き中の娘をちらりと眺めてから……
というより、多くの人がそのためにここへ引っ越してきたと言っ
た方がいいかもしれませんね」

 父親はそれまで母親に任せていた娘の乗馬を手伝いに行く。

 少女は裸にはなっているが年齢を考えるとそれほど深刻な罰に
は思えなかった。ところが、このあと父親がびっくりするような
事を娘に命じたのである。

 「おしっこをしなさい。やりたいんだろう。いつまで我慢して
いてもおトイレは許してはあげないよ」

 「えっ!」
 私は、はしなくも思わず内心の喜びを押さえきれず顔の表情が
緩んでしまった。

 たしかに、気がつけば彼女はそれらしい素振りでいる。
 まだ赤ちゃんに毛の生えた程度とはいえそこは女の子だから、
やはり私の存在が気になるのだろう。親ならいざ知らず他人には
そんな姿は見せられないといった様子だったのだ。

 「どうしたんだい、おしっこできないのかい」
 少し強い調子で父親に言われて幼い顔が動揺しているのがわか
る。

 「ここでオシッコさせるんですか?」
 「ええ、我が家のお仕置きなんです。軽くお浣腸してますから、
もうそろそろ我慢できなくなるとおもうんですが、この子はなか
なか強情で……」

 「厳しいですね、何をやったんですか?」

 私の問いに上品そうな母親が答えた。
 「学校でテストの時間にお友だちとおしゃべりしてたんで先生
に注意されたのに途中でふてくされてしまって………連絡帳にも
お仕置きしてくださいって書いてあったものですから……」
 
 「こんなお仕置きはよくあるんですか?」

 「あまり大きくなった子にはしませんけど、この村のエリア内
だけでなら中一までは素っ裸で庭に出してもいいことになってる
んです。学校でも同じ罰がありますから」

 「そりゃあ大変だ」
 私はのけぞりそうになって答える。

 「ここは変質者のたぐいは入り込みませんからね、心おきなく
羞恥罰が可能なんです。広場や公園に行くとたいてい一人や二人
お仕置きで晒し台に捕まってる子がいますよ」

 「さらし…台…ですか……」

 「ええ、ピロリーという、首と手首を二枚の板に挟ませるやつ
です。よくヨーロッパ中世の刑具として図鑑に載ってますよ」
 父親は少しおどけて挟まれている姿を再現して見せた。

 「ああ、分かります」
 私も同じように真似てみた。

 「そう、それ。ここでは子供のお仕置き用にとして学校や公園、
図書館なんかにも設置してあるんです」

 「親が使うんですか?」

 「もちろんそうしたケースが多いですが、子供の躾というのは
村全体の問題ですからその子の親でなくとも悪いことをしている
子どもを見つけたら誰でもその台を使うことができるんです」

 「効果がありますか?」
 「もちろん、もちろん。特に女の子には羞恥罰というのが一番
効果がありますからね。どの親御さんもそこは躊躇しないんです」

 「でも、中には『見苦しい』なんて方もいらっしゃるじゃあり
ませんか?」

 「ここでは子どもへのお仕置きや折檻でご近所とのトラブルに
なることはまずありません。他人の子をお仕置きできると言って
も、あくまで子どもを愛していることが絶対の条件ですから……
そこを踏みはず事はないんです」

 「入村条件みたいなものがあるんですか?」

 「一律にこの条件をクリアすればというのはありませんけど、
そのあたりは村長さんの判断にみんな任せてあります」

 「伯爵さんのことですね」

 「伯爵の眼力は確かですよ。おかげで、みなさん信用できる方
たちばかりなんです。何よりここに暮らす人たちはお互い生まれ
育ちや教養が似通ってますから、その意味でもここは過ごしやす
いんです」

 『私を雇いたい』だなんて酔狂なことを言っているから変だな
とは思っていたが、どうやら狙いはこのあたりにあるようで……
正直、うれしさ半分ながら私の心はこの時はまだ困惑していた。

*************************

第1回

❅❅❅❅❅❅<< 兼 平 啓 介 >>編❅❅❅❅❅❅

****************************

<<登場人物>>

兼平啓介(風来坊)
 元は教師だったが、問題を起こして今は塾で通信教育の添削係
をしている。今回「恵庭の里」にあるピノチオ小学校の校長先生、
宮永氏から招待を受けてやってくる。

宮永和夫(ピノチオ小学校の校長先生)
 兼平を子供たちの懲罰係りの先生として採用する。

安藤清胤(元は伯爵。この村の村長さん)
 村民に人望があり、村のまとめ役。

仁科家(恵庭村にある一軒)
 兼平氏が初日偶然そこの女の子のお仕置きに出会う。

************************


***(第1回)***

 あれは五月の終わり、もう夏の日差しが木漏れ日からも容赦な
く差してきて山道はすでに熱かったのを覚えている。

 『道に迷ったかなあ!?』
 と思い始めた矢先、鍬を担いだお百姓とすれ違ったものだから
声をかけてみると。

 「ピノチオ?知らないなあ」
 という答え。

 『仕方がないか』
 と諦めかけてお互い4、5メートル離れた時だった。

 「そうか、」
 思い出したお百姓が振り返り、私と目があう。

 「思い出したよ。ピノチオって小学校のことだろう。宮永先生
の処じゃないかね。……なあんだ、あんた宮永先生ん処へおいで
になるのかね?」

 「えっ、ええ」
 キツネにでも摘まれたように合いの手を打って答えると……

 「なあんだ、そうかね。………いやあ、あそこには可愛らしい
女の子が三人もいて、これがどの子も品がよくてよお、俺なんか
にもちゃんと敬語使うもんだから何だかこっちが恥ずかしくなっ
ちまうけど………どの子もいい子だよ」

 お百姓の話は長くなったが、要約すると、戦後そこには華族様
をはじめとして多くの文人名士が住み着き、いずれも実の子では
ない子を育てているとの事だった。

 お百姓は地元の人が学者村と呼ぶその集落まで案内してくれた。

 『なるほど、ここは周囲とは別世界だ。どの区画も敷地が広い
し、いかにもお屋敷って感じで、お金持ちばかりが住んでいそう
だな』

 そんな思いを抱きながら町並みを観察していると……いきなり
信じられない光景が飛び込んできた。

 「ごめんなさい、いやあ~もうしない、もうしませんから~~
だめえ~~」

 必死に哀願する幼い女の子を無視して、親だろうか、二人の保
護者が少し怒った様子で少女の服を脱がしている。

 「ほら、静かになさい。あなたが悪いんですからね」

 母親らしいその婦人は、そう言うが早いか少女をバンザイさせ
て水玉のワンピを脱がせてしまう。父親らしい男に羽交い締めに
され、母親からシュミーズもショーツも芝の上に脱ぎ散らかされ
てしまった。

 「ほらほら、あんまり騒いでるとママからお仕置きを追加され
ちゃうぞ」

 父親の声に一瞬たじろぐ少女。まだ7歳か8歳ぐらいだろうか、
まだ幼女という言葉の方がぴったりとくる女の子がどんなに抵抗
したところで無駄なことだったのである。

 靴下以外素っ裸にされた少女は、自宅の庭に設置された木馬に
跨るように命じられる。もちろん木馬と言ってもSM雑誌に載っ
ている様な三角木馬ではなく本物の木馬(?)だった。
 背も丸いし足も地面につくから、それ自体痛くも痒くもない。
だったら問題なさそうのだが、やはりこの姿だから恥ずかしいの
だろう。いつの頃から気づいたのか私の視線をしきりに気にして
いる。

 「ほら、早くしなさい。素直にお仕置きを受けられない子には
もっと辛いお仕置きが待ってるよ。この間みたいにお灸をすえて
もらおうか」

 このくらいの歳の子だから親に強くこうしろと言われれば一も
二もない。

『お灸とは古風だなあ。……それにしても着いた早々これじゃあ
「春から縁起がいいやあ」』
 などと呑気な私は内心ほくそ笑む。

 元々ペドォフィリアの性癖を持つ私にとって幼い子の裸や泣き
顔はまたとないご馳走だった。

 私も若い頃は『趣味と実益を兼ねて』などとよからぬ事を夢想
して、教師としてのスタートだったが、色々あって、現在は塾の
添削係。ブラックリストにでかでかと載ってしまった今となって
は、再び教壇に立つこともないと思っていた。

 とひろが、ひょんなことから『私を雇いたい』というお誘いを
受け、この日はそこがどんな処かと見学に赴いたのだった。

***********************

<<プロローグ>>

恵 庭 の 里

【ご注意】
この作品はかなり以前に創作した関係で、『お仕置き小説』と
いってもSM小説的な色彩が濃い内容となってます。ただ、元々、
性的な興奮を目的とするものではなく、ヒューマニズムに対する
私なりの表現として書かれたものですから、子供・幼児への虐待
を奨励する意図はありません。
今日の風潮を考慮してR-18指定ですが扇情的な表現は極力
避けています。ただ、それでも不快に感じられる方が、なかには
いらっしゃるやもしれません。その節はご容赦ください。


❅❅❅❅❅❅<<序章>>❅❅❅❅❅❅


 誰だってそうでしょうけど、子供って寄る辺なき身の上だから
生まれ落ちた処の風習でやっていくしかないのよ



 でも、そんなことって世間の常識と違うわけでしょう?恥ずか
しくなかったの?



 全然σ(^◇^;)だって、周りもみんなそんな感じだもん



 でしょうね?



 あなたわかるの?



 もちろんA子ほどじゃなかったけど、うちも随分世間ズレした
家庭だったから。でも、それなりに大きくなるまでそんなことさ
して気にもとめなかった。『世間ってそんなもんかなあ』ぐらい
にしか思ってなかったから



 でも、よそと自分ちが違うなあっては思ってたんでしょう?



 そりゃあね、でも、それってどうしようもないことじゃない。



 どうしようもないって?



 だからさ、A子が言うように子どもって寄る辺なき身の上って
ことよ。……だって、そこを逃げ出したってどうせ連れ戻される
のはやっぱり親の家だもん



 それに、子どもにとってみればべつに虐待されてるって意識も
ないが普通なの。



 だって、テレビだって雑誌だってあるんだから……よその子は
自分たちより幸せだなあって思うでしょう?



 (-.-;)y-゜゜



 思わないの?



 あこがれはあるわよ。「いいなあ~」って……色々……でも、
そこに行きたいかって言われたら……たぶん、答えはNoだった
んじゃないかなあ。



 どうして?経済的に自立できないから?



 それもあるけど、それだけじゃなくて不安がいっぱいだもの。
それに、うちの親は私のために色々やってくれてるのわかってる
し、ぶっちゃけ、愛されてるって実感があるから、今のままでも
いいかなあって思っちゃうの。



 お仕置きってさあ、例えばどんなことされるの?



 それこそ色々よ。お浣腸、お灸、幼い子には平手でのお尻ペン
ペンだけだけど、大きくなるとベルトとかヘアブラシで叩かれる。



 お灸?



 知らないか(^^ゞ



 わたし、知ってるわよ。小さな草に火をつけるやつでしょう。
(◎-◎;)



 ああ、あれかあ。(・0・)…おばあちゃんがやってたの見た
ことある。
 でもさあ、あれって痕が残るんじゃない?おばあちゃんの背中
テカテカに光ってたもん。聞いたらお灸の痕だって



 千年灸なら痕にはならないけど



 そりゃそうだけど、お仕置きだからね、直にすえられるのよ。
今はもうやらないけど私たちの頃はまだあったわ。特にお年寄り
が好きで、養老院の前を通る時なんか抜き足差し足よ。…もし、
おしゃべりしたり縦笛なんか吹いてると、そこのうるさい婆さん
が次の日学校に苦情を言いに来るの。



 そんなことで?



 だいたいうちの村は大人たちの天下で、子どもはその家来って
いうかペットみたいなものなの。子どもだから大目に見てやろう
なんて気持ちはこれっぱかりもないんだから……なかでも老人、
特にばあさんが威張り散らしてるわ。



 どうして?もうよぼよぼなんでしょう?



 そうそう、それにお金だって今は稼いでないから……そんなに
リッチじゃないはずだし……



 そこが違うのよ。おばあさんって言っても背筋はしゃんと伸び
てるし元気そのもの。お金だってたんまり持ってるわ。だから、
私たちもね、不本意ながらお小遣いをねだったりするのよ。それ
に、そういう人にはたいてい息子がいるでしょう。しかも、悪い
ことに、こいつ、うちの学校の校長先生のお母さんなのよ。



 じゃあえこひいき?



 そう、それもなまやさしいもんじゃないんだから。あいつ何か
っていうとばあさんの肩もつもの。二人が会ってるところなんて
見てられないわ。普段は偉そうなこと言ってるくせにママの顔を
見たとたんでれって目尻さげちゃって……



 校長先生ってマザコンなんだ。



 校長だけじゃないわ。この村の大人、特に男の人は残らずそう
だって言ってもいいくらいよ。うちのパパだって、ママはおばあ
ちゃんが見つけてきたらしいの。



 自由恋愛ってできないの?



 できないっていうより……興味がないみたい



 女の人に?



 う、うん



 嘘!そんなことあるの!?



 パパの気持ちだからはっきりとはわからないけど……とにかく
ママよりママ。つまりおばあちゃんの方を大事にしてるって感じ
がするわ。



 へえ~……でも、それであなたのお母さんは平気なの?



 平気も何も仕方がないでしょう。それが夫婦なんだってママは
言ってたわ。


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**************************

4/10(管理者の独り言)

(誰かに語り掛けるように書いてありますが、
あくまで管理者の独り言です)


4/10

 ここしばらくは忙しいそうなので、更新もままならないと思い、
『昔作った小説でも載せてみるか』なんて軽く考えて貼り付けた
ら、これが昔の作品で内容も過激なんで驚いた。

 『失敗したなあ』って頭をかいても後の祭りで困ってる。

 僕の意識としてはこいつは比較的穏当な作品だったという思い
があったから貼り付け前に最後まで読まなかったのだ。

 たしかに当時は今ほど規制も厳しくなかったからみんな自由に
創作していた。その時の基準ではこれは比較的おとなしめの作品
だったのだが……今日的には「どうなのよ」ってことなのだ。

 今さらながらやりにくい世の中になったものだと思う。

 「恵庭の里」は「亀山からの手紙」のルーツになるような作品
で、少なくとも十年以上は前の筆なんだけど、正直、いつ書いた
かさえ覚えていない。

 もし全部発表したら300ページを越える長編だけど、結局、
どこにも発表しなかった。
 だらだらと長い説明文ばかりの作品で一般受けはしないだろう
と思っていたのだ。

 こいつはあくまで、僕の心の友。日記みたいなものだから……
そのうち別のものに差し替えるかもしれません。

伯爵と二人の娘

  伯 爵 と 二 人 の 娘

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<< 登 場 人 物 >>

 秋葉伯爵………60代半ばの紳士。白髪混じりの頭、浅黒い顔
は皺も刻まれているが、長身で背筋も伸びているロマンスグレイ

 金谷 瞳………赤毛のショートカットにソバカス顔。オーバー
オールがトレードマークの活発な女の子。美佳とは同じ孤児施設
で育った。

角田美佳………肩まで伸ばしたストレートヘアに端整な顔立ち。
清楚な女の子。なぜか『乙女の祈り』だけはピアノが弾ける。瞳
とは同じ時に施設に引き取られる。

松村(執事)……勤続年数12年、秋葉伯爵家に仕えて伯爵を
サポートしている。実直な人柄。

 ハナ(女中頭)…勤続年数30年、亡くなった奥様もその娘の
真理恵様も、そして今探索中の孫の瞳お嬢様まで、伯爵以外では
伯爵家の家族全員を知っている唯一の人。

****************************

 雨の午後だった。玄関先に立った紳士が傘を畳んで白絹の手袋
でスーツの肩を一つ二つはたくとドアが開く。

 「お帰りなさいませ」
 執事といった感じの上品な物腰の男に迎え入れられた紳士は、
傘と手袋を預けてからその場を去ろうとする。

 大理石の床を叩くスリッパの音が高い天井のロビー数回こだま
してから。

 「あ、松村、今日二人客人がくる」
 との声。これに呼応するように。

 「どちら様でしょう」
 神妙な松村執事の顔をしばし低く見てから、伯爵はそれまでの
少し厳めしい顔を崩してから答えた。

 「ヤングレディーだ。金谷瞳嬢だ。この家が見てみたいという
ので誘った。……一晩泊めてやってくれ」

 「では、お嬢様が……」
 驚いた様子の執事に、伯爵は少しがっかりした様子をみせて。
 「あわてるな、確かに生年月日も名前も同じだったが、別人だ」

 「やはり、生い立ちが違っておりましたか……」
 「いや、そんなものは始めから聞かなかった。……ま、聞かず
とも会えばわかる。ここで生まれ、ここで教育を受けた者にしか
できぬ事は多い。それは二日や三日の訓練で物まねできぬものだ。
その仕草、身のこなし、ここで育った者ではなかった」

 「しかしながら、お嬢様がここを去られたのは、まだ、三歳の
お誕生日のころ。そのようなものは……」
 執事が不思議がると……

 「そうではないよ。三歳までにここで仕付けたことは、庶民の
それとは違うからね。たとえ成長していてもそのこん跡が消える
ことなどないのだよ」

 「では、やはり、財産目当ての詐欺ということでございましょ
うか?」

 「いや、それも違うな。たまたま名前と生年月日が一致したに
すぎない。このヤングレディーにしても施設の人たちにもその事
に悪意はないよ。それもまた会えばわかることだ」

 「しかし……それではなぜお招きを……」

 「彼女にも今回いろいろ手間を取らせたからな。その返礼だ」

 「それでは、お連れは?どのようなお方で?」
 「連れ?……ああ、ヤングレディーの連れか。……何でも彼女
の古い親友なのだそうな。…ま、古いといっても彼女の歳だから
ここ五、六年だろうが……」
 伯爵は寂しげに笑うのだった。

*****************************

 「美佳、見て!すごい噴水があるわよ」
「待って、私そんなに早く走れないわ」

 「すごいなあ。この前庭だけでうちの学校の校庭くらいあるわよ。
それにこんなにたくさんお花植えちゃって…維持費だけでも相当
なもんだわ……あっ、パンジーが咲いてる」

 「あっ、駄目よ、そこ!」
 美佳がそう叫ぶが早いか瞳の足を地を這うように一本長い木の
棒が襲う。

 「やだあ!」
 瞳は間一髪、その棒を飛び越える。
 「やだあ!何よこれ!」

 「花時計よ」

 「え!?」
 瞳は振り向く。そして少し離れて見て。
 「ほんとうだあ!信じられない!伯爵って、お庭に花時計まで
作るのね。でも、お金持ちってこれだから嫌いよ。どうせ花時計
を作るんなら、『ここに花時計があります』って書くべきよ」
 瞳は笑っていた。感激していた。憧れていたのだ。

 「ねえ、美佳、でもさあ、お金持ちってケチっていうじゃない。
それっては本当みたいね。だってこんな立派な噴水持ってるのに
水が出てないもん」
 彼女はそう言うと無遠慮に噴水のプールの中へと入っていく。

 「ほら、この女神様、私に似てない?」
 瞳は白亜の女神像に自分をだぶらせポーズを取る。
 そこはプールの中央にせり出した小さな舞台の上で、そこから
見ると周囲に配置された天使たちはまるで自分の僕(しもべ)の
ように見えるのだ。

 「私はヴィーナス。天使たちよ謳え、踊れ、私を称えよ」

 「もうやめなさいよ。急に噴水がでたらあなたびしょ濡れよ」
 得意がって奇声を上げる瞳を美佳はたしなめる。美佳の心に、
漠然とだが言いしれぬ不安の影がさしていた。

 「大丈夫よ。あなたって小心者ね。これってきっと壊れてるよ。
あなたもいらっしゃいよ。ここからの眺めサイコーなんだから。
まるで本物の女神様になった気分よ。『お前たちは何も知らない
人間のくせして、私の言うことがきけないの。こっちへおいで、
そんな恥知らずには私がたっぷりお仕置きしてあげるわ』」

 瞳はまるで女神様にでもなった気分でそう言ったのだろうが、
それは幼い頃お世話になった孤児施設の園長先生の口まね。瞳に
とっては大人の女性としてまず頭に思い浮かぶのは彼女だった。

 「やだ、三時よ、もう離れた方がいいわ」
 美佳の雄叫びが終わるか終わらない瞬間だった、大きな花時計
の秒針が、三時を告げに長針のもとへと戻ってくる。

 そして、秒針が長針と重なり終えた瞬間。

 「?!」

 それまで壊れていたものとばかり思っていた噴水の蛇口から、
一斉に水が噴き出し始める。

 「いやあ~やめてえ~」

 あっという間に水しぶきにかき消されて、瞳が見えなくなる。
美佳は慌てて助けに行こうとしたが滝のように叩きつける厳しい
水圧をはねのけることができない。

 「待ってて」
 美佳はそう言い残すと走り出し、大きな噴水の後ろへと回り込む。
 そこは女神様の背中。そこにすねた表情をしたキューピットの
像が一つ、池の外側を向いて飾ってあった。

 彼女は何を思ったかそのキューピットの股間に右手を差し入れ
ると、感じたコックを思いっきり右へと回したのだった。

 ほどなく噴水の水は止まり、ずぶぬれになった瞳が美佳の元へ
と泣きながら帰ってくる。

 「何よコレ。これから水が出ますって挨拶はないの。まったく
ここの伯爵は不親切なんだから」

 二人にとってはお屋敷を訪れた早々とんだ恐怖体験だったわけ
だが……しかし、このことを二人だけの秘め事とすることはでき
なかった。
 その一部始終を秋葉伯爵が書斎の窓から見ていたのである。

 「お呼びでしょうか?」

 「………………」
 執事がお呼びに従いまかり越したのに、当の伯爵はただ窓の外
を眺めるばかりだった。

 「………………」
 気になった執事が、主人の眺める先を見てやると、ずぶ濡れの
少女が一人、同じ年格好の娘に介抱されている。

 「察しはつきます。まったくもって不作法な連中で……さっき
三時を打ちましたからそれで濡れたのでございましょう」

 「そうだな……それにしても……だ」

 「……」主人の謎の言葉に執事は首を傾げる。

 気づいた伯爵が……
 「ああ、おまえ来てたか。……あの子にあう服を探してくれ、
まさかあのまま家に入れる訳にもいくまい」

 「承知いたしました」
 執事は言いつけに従い窓から離れて部屋を出たが、伯爵はまだ
窓の外を眺めたままだった。

****************************

 玄関の呼び鈴が鳴り、メイド頭のハナが応対に出る。

 「ちょっと、何なのあなたたち、何なのその格好は…とにかく
裏へ回ってちょうだい。玄関は子供は使わないものよ」

 ハナがそんなことを言っている処へ伯爵がやってきた。

 「おう、これは、これは、よく来たね」
 「お招きいただき感謝いたします」
 型どおりの挨拶にも瞳はばつが悪そうだった。

 「ん?どうしたね?外は土砂降りだったのかい?」
 「いえ、噴水のしぶきが少しかかってしまって……」

 「そうか、普段はそんなこともないんだが、きっと風向きが悪
かったんだろう。あれは昼間だけ一時間おきに吹き上げるんだ。
置き時計だってそうだろう。四六時中ボンボンって鳴ってたら、
うるさいじゃないか」

 「そうなんですか」元気のない瞳の声に伯爵が続ける。
 「………でも、本当のことを言うとね、おじさんはケチだから
一時間に五分だけしか動かさないのさ」

 伯爵のイヤミに瞳はますます申し訳なさそうに尋ねた。
 「あのう、タオルを…お借してよろしいでしょうか?」

 「ああ、いいよ。ついでにシャワーを浴びるといい。お湯が出
るからね。少しは落ち着くはずだ」
 その時、執事の声がした。

 「旦那様、このようなものでいかがでしょうか」
 そう言って彼が差し出したのはメイド服だった。
 しかし、これを一瞥して伯爵の顔が曇る。

 「松村、これは女中のものだろうが……」
 「しかしながら、このお屋敷で女性ものとなりますと亡くなら
れた奥様のものか、さもなくば…あとは真理恵様の……子供用の
服はちょっと……」

 「そうだな」
 伯爵は納得したような素振りで美佳に視線を送る。
 何気ないものだが、投げかけられた美佳の心に波紋が広がって
いく。何がどうと理由は言えないのだが鼓動が早くなる。

 そんな二人に瞳が割って入った。
 「わたし、平気です。こんなこと慣れてますから。バスタオル
さえ貸していただければ服が乾くまでそれにくるまってますから」

 「ははは、お客様にそんなことはさせられないよ。まあいい。
ともかく二人ともシャワーを浴びて来なさい。美佳さん、あなた
の袖も濡れたみたいだ。それにしても、非常用のコックなんか、
よく分かったね」

 「いえ、それは……」

 美佳は口ごもった。実際、自分でもそのことは不思議だった。
あの場所からコックの在処(ありか)が見えていたわけではない。
よしんば見えてもそれが何の役立つなんて判断ができるはずも
ない。ましてや彼女は瞳とは異なり臆病な性格だったのである。

 「ともかく、しばらくの間は客用のバスローブがあるからそれ
で我慢してもらって……ハナさん、お二人をシャワー室へご案内
して」
 伯爵は二人のエスコートを女中頭のハナに頼んだ。ところが、
いつもならすぐに動くはずの彼女が、しばし立ちつくしたままで
いる。

 「ハナ、二人をお連れして……」
 「あっ、はい」
 さすがに二度目は慌てたようにその場を離れたが……
 「あ、ハナ、もういい、それは松村に頼むから」

 「申し訳ございません。歳のせいか、ついぼんやりしておりま
して……」
 ハナは恐縮して主人に詫びをいれた。自分がぼんやりしていた
ために仕事を取り上げられたと思ったのだ。

 「気にするな。お前には別の用を思いついたんだ。ちょっと、
こちらへ来てくれるか……」
 伯爵はハナを従え奥向きへと通じる廊下を進む。

 一方、シャワー室へは松村が案内する事になったのだが、ここ
でも、美佳が不可思議な行動をとる。松村の先導で進んだ廊下が
左右に分かれる処で、松村と瞳が右へと折れたのに美佳だけ左へ
折れてしまったのだ。

 「どうしたの?こっちよ」
 瞳の声に美佳はすぐに元へともどったが、なぜ自分だけ勝手に
左へ折れたのか、それは美佳自身にも説明できなかった。

 一方、伯爵はハナを連れて真理恵のクローゼットへ来ていた。
 「どうだろう、あの子にはこれが似合うんじゃないかと思うん
だが……」
 伯爵の取り出したのはレースをあしらった白いワンピース。

 それをハナは最初静かに眺めていたが、やがて……
 「それをオーバーオールのお客様にでしょうか?」
 と言ってみた。

 伯爵はハナの言葉に首を振る。その顔が何を訴えているのか、
ハナはすでに察している様子だった。

 「それはよろしいかと思います。体型も真理恵様とほぼ同じ様
に見えますし……」
 ハナのあえて抑揚を押さえた答えに伯爵はたまらずこう尋ねた
のである。

 「似ていないだろうか?」
 「……それは何とも……ただ、私は玄関を開けた瞬間、真理恵
様が帰られたのかと……」

 「そうか、私も同じ夢を見たよ。書斎から見ていると子供時代
の真理恵がそこにいるかのように感じられて、不思議な気分だ。
…もっとも、私があの子に最後に会ったのが三歳の時。よしんば
あの子がそうだとしても、この家の事をあれこれ覚えているはず
もないとは思うんだが……ただ、あのコックは外からは見えない
はずだし、あの子がどうしてわかったのかと思って……」

 ハナは伯爵の胸の内を察して慰めるように続ける。
 「物事はそう思って見れば何でもそう見えてしまうものです。
軽はずみな事はなさらない方がよいかと思います。まずは事実を
確かめませんと……」

 「そうだな」
 伯爵はそう言うのがやったとだった。

******************************

 二人の少女がシャワーを終えて伯爵の居間へとやってくる。
 瞳は薄い絹のドレス。美佳は上質の綿を細かに編み込んだ純白
のワンピース。いずれも子ども時代の真理恵の服だが、二人には
あつらえたように似合っていた。

 「着いた早々ご迷惑おかけして申し訳ありません」
 美佳の涼やかな声が伯爵の耳に響く。
 「ありあわせのものだから、体に合わないかもしれないが……
バスローブよりましだろうから」

 「やだなあ、伯爵様ったら…今日は何か変よ。私と一緒の時は
そんなんじゃなかったじゃない。…外で気を遣うってのはわかる
けど、ここはお家の中だもん。もっとリラックスしなくちゃあ。
……ねえ、この子だってね、私と同じ孤児なの。何でも、薄汚い
婆さんが預けに来て、それっきりになっちゃったみたいよ」

 伯爵の動揺をよそに瞳は続ける。

 「でも、これっていいものよね。デザインはとってもシンプル
だけど。三万か五万くらいするんじゃない?美佳と私の…どっち
が高いんだろうね?」
 瞳は、美佳と自分のドレスの両方の袖を引っ張っては無邪気に
笑っている。

 「わあ、素敵。伯爵、このシャンデリアも高いんでしょう」

 もとより真理恵の着ていたドレスに一桁というのはない。瞳の
思う額なら摘んだ袖の布地代程度だ。高価な絹地を、名の通った
デザイナーに仕立てさせ、かつ『流行は追わないように』と注文
をつけるのが旧家の一般的な服の仕立て方だった。

 だが、家の者は誰一人そのことに触れない。彼らが気になるの
は、薄汚い婆さんのことなのだ。

 「美佳、伯爵様ってね、世界中を旅してるのよ?ヨーロッパや
アメリカだけじゃなくて、インドやブラジルやコンゴにも行った
ことがあるんだって……」

 独りではしゃぐ瞳を後目(しりめ)に、伯爵も、ハナも、どこ
か緊張してこの場に立っている。それが執事の松村にも伝わり、
やがて当の美佳へもその緊張感が伝わるりかけた時だった。それ
を断ち切るようにようにメイドが声をかける。

 「旦那様、お電話でございます」
 「どなただ」
 「弁護士の内村様と申されております」
 「わかった、出よう」

 こうして伯爵は電話室へといったん姿を消したが瞳は相変わら
ずだった。
 今度は部屋の奥にグランドピアノを見つけて鳴らし始める。

 猫をふんじゃったを得意げに叩く瞳に、悪びれた様子はない。
しばらくは、まるで自分のピアノのようにご満悦だった彼女が、
やがて美佳にもピアノを勧めた。

 「ねえ、あなたも弾いてみなさいよ。あなただってたった一つ
だけど弾ける曲があったでしょう」
 瞳にそう言われて背中を押され、美佳が弾き始めたのは『乙女
の祈り』だった。

 独学でものにした指はぎこちなく決して上手な弾き手ではない。
だが自分が弾いている時とは違う雰囲気がこの場を支配している
ことに瞳は初めて気づくのである。

 そんな緊張感の支配する空間に電話を終えた伯爵が戻ってきた。
彼は、暗い廊下の先に輝く逆光から流れ来る旋律にとうとうその
入口で足を止めてしまったのだった。

 「…………」照れくさそうに口を小さくして笑い「私ここまで
した弾けないんです」と言うと周囲から期せずして拍手が起こる。

 「いいなあ、可愛い子はなにやっても褒められるんだから」
 瞳のイヤミにも笑顔を見せて美佳が立ち上がろうとすると……
その視線に伯爵の顔がのしかかった。

 思わず知らず驚き惑い再び椅子に座り直すと、伯爵はそれ以上
は美佳には近づかず静かにこう尋ねるのだ。

 「この曲が好きなのかい?」
 「母がいつも弾いててそれで……おぼえて……」
 「お母さんは?元気?」
 「亡くなりました。五歳の頃に……」
 「…そう、残念だったね」

 伯爵の心にも美佳の心にも真理恵の姿が浮かぶ。伯爵にしてみ
れば可憐で純真無垢な娘の姿が、美佳にとっては心を病んで物憂
げな顔ばかりしていた母の面影が、いつも弾いていたこの曲と共
に思い出されるのである。

 「この曲は見よう見まねで覚えたのかい?」
 「母の思い出でしたから……施設のピアノを悪戯して覚えたん
です」
 「それにしても凄いじゃないか。独学なんだろう」
 「だからおかしいでしょう?」美佳は寂しくはにかんで俯く。

 「途中までなんです……それに、うるおぼえだし……」

 「いやあ、立派なもんだよ。五歳の記憶でここまで弾きこなす
なんて……」
 伯爵の弾んだ声が何を意味していたか、この時の美佳は知る由
もない。

 しかし、彼女にとって何より幸運だったのはこの曲を母以外の
人に習わなかったことだった。母のピアノの癖それも左右の手が
半音ずれて弾く母の癖をそのまま受け継いでいることが、伯爵に
血のつながった孫が目の前にいると確信させたのだった。

 『美佳、お前がなぜ瞳と名乗らなかったのか、それは知らない。
しかし、お前は三歳までこの屋敷で育ち、政治犯と駆け落ちした
真理恵と一緒に私のもとから姿を消した私の孫、瞳に間違いない
んだよ』

 今まさに自分を抱きしめようとする伯爵の潤んだ瞳は、この時
はまだ美佳の心に届いていなかった。が、伯爵のみならず周囲の
人の誰からも自分が熱く見つめられているという現実は、美佳も
また感じていたのである。

 「わたし……何か、いけないことしたんでしょうか?」
 「どうして?そんなことはないさ。……だから、とっても上手
なピアノだったって褒めてるだろう。……そうだ、こちらへ来て
くれないか、君に見せたいものがあるんだ」
 「何でしょう?」
 「君の知らない世界さ」

 伯爵はまるで恋人にでも話しかけるような口調で美佳を誘い
出す。
 そして連れて行かれたのはさっきシャワー室へ行く途中、自分
だけが左へ曲がり間違えた場所だった。

 左へ折れれば、やがて大きな扉に遮られた廊下は行き止まりに。

 「ここは?……」
 美佳の胸の内にわき起こる再びの焦燥感。
 そんな美佳の心の奥底を見透かしたように伯爵はこう言うのだ。

 「ほら、この扉を両手で思いっきり押してごらん」
 鍵が外された扉は大きくなった美佳には両手でなくとも開ける
ことができた。しかし、美佳が両手でその扉を押し開いた瞬間、
彼女の両手にもやもやしていた過去が蘇るのだ。

 『この先に母がいる』
 誰の声かは知らないが、誰かがそう心の中で叫んでいる。
 明確な記憶とも第六感とも違う心の声が聞こえるのだ。
 小走りに駆けていく自分の姿もまた、三歳のままだったに違い
なかった。

 さらに、障子を開けて入った部屋は和室。しかし、意外なほど
がらんとしていた。伯爵家の令嬢が暮らす部屋としてはあまりに
質素だったのである。

 「真理恵の部屋だ。昔のままにしてある。ほら、あそこに写真
があるだろう」
 いつの間にか後ろに立っている伯爵がその視線で指し示す先に
美佳にも懐かしい顔が……

 「若い!なんて美しい人なんだろう。……でも、これって……
母に似てる!」

 美佳はここで起こったことを色々頭の中で整理してから後ろを
振り向いた。

 そこにはそれまで柔和な顔を保ち続けていた初老の紳士が今は
少し厳しい顔をして彼女を見つめている。

 「あのう……わたし……ひょっとして……ここの」
 「そうだ。お前はここで生まれたんだ」
 「ということは、伯爵様が私のおじい……」
 そこまで言って伯爵はあえて美佳の口を塞ぐ。
 「違う。お父さんだ」
 伯爵はこの時初めて美佳を抱きしめたのだった。

 不可解な言葉を残して抱かれた胸は老いたりといえど男のごつ
ごつとした肉体に違いない。そんな太い腕の中では甘いコロンも
鼻を突く。小さな美佳の上半身は羽交い締めにされて、わずかな
後戻りも体を左右に振ることもできない。そんな彼女の脳裏に、
今、去来するのは甘いノスタルジーより一種の恐怖感だった。

****************************

 押し扉の向こうは、元々伯爵のプライベートエリアで、戦前は
特効警察といえど容易に踏み込むことのできぬ聖域。使用人たち
も伯爵から特別の用を言いつかった者だけが立ち入ることを許さ
れていた。

 真理恵が赤ん坊だった『美佳』いや『瞳』を育てたのはそんな
場所だったのである。

 最も安全な場所に娘を囲い込み、危険な思想犯から娘を守ろう
とした伯爵だったが、真理恵の熱は容易に冷めず、彼女は子供を
連れて家を出てしまう。

 その家出した娘と孫を伯爵は探し続けていたのだった。
 
****************************

 「ねえ、この先には本当に行けないの?」
 瞳が自分の肩を両手で掴んで離さないハナに尋ねると……

 「ここはご主人様の他はどなたもお通しできない処なんです」
 「でも、真理恵さんはここで暮らしてたんでしょう」

 「それは当たり前です。真理恵様は当主様のお嬢様ですもの」
 「だったら、私だって養女だもん、いいじゃないの」

 「養女って……誰が?」
 「私よ、伯爵様は施設にいる時、そうしてもいいって……」

 「まあ、図々しい。お嬢様が見つかった今、旦那様がそんな事
なさるはずがありませんよ」

 「どうしてよ?ここが気に入ったのなら、いつまでここにいて
もいいんだよっておっしゃったのよ」
 
 「だから、それはお嬢様が見つからない場合のことでしょう。
だいたい、あなた、本当にお嬢様の名前を知らないで使ってたの?」

 「だから何回も言ってるでしょう。知らないものは知らないわ。
私はねえ、あの施設では始めから金谷瞳って呼ばれてたもん」

 「だって、五歳にもなって自分の名前が変わったのに気づかな
いなんて子っているかしら?」

 「だから、気づかないんじゃなくて、逆らえなかったの。施設
の米原先生が『あなたは金谷瞳よ』っておっしゃったら、それが
私の名前だって思うしかないじゃない。何か文句あるの」
 瞳の声も甲高くなる。

 「でもねえ」
 ハナの言葉に積極的には同調はしないものの、執事の松村も、
若い女中たちも、そこにいた全員が瞳の話には懐疑的だったので
ある。
 彼らは瞳が美佳が伯爵家のお嬢様と知って彼女に成りすまそう
としたんじゃないかと疑っていたのである。

 しかし、この一連の騒動に瞳の責任はない。二人は孤児施設へ
収容される際、名札が取り違えられ、それがそのまま自分の名前
になっただけのことだった。

 「何を騒いでいるんだ」

 一段落ついた伯爵が、美佳を連れて使用人たちの待つ廊下へと
戻ってきた。

 「おじさん、やっぱり美佳がここんちの子だったの?」

 瞳は伯爵のあいた左手取りすがり唐突に尋ねる。伯爵は、やや
困った顔を見せたが……
 「わからない。まだ事情がはっきりしないからね。ただ、この
子の雰囲気が母親によく似ていることは確かだ」

 「雰囲気?雰囲気って何よ?」

 「そこはかとなく漂う気品のようなものだ」

 「気品ねえ!?そりゃあ、私にはないわね」
 瞳はあっけらかんとして笑って答える。

 しかし、思い出したように……
 「でも、まって。美佳と私は五歳の時から同じ施設で育ったのよ。
彼女だって特別扱いなんてされてこなかったし、そんなのやっぱ
り変よ」

 「別に変ではないんだ。その子の気品というは生まれてだいた
い三歳ころまでには決まってしまうものなんだ。『三つ子の魂百
までも』って諺を知っているかい」

 「…………」瞳は自信なさげに首を横に振る。

 「もし、この美佳が私の探し続けた瞳なら少なくとも三歳まで
はこの屋敷で暮らしているはずだから、その後がどんな環境でも
分かちがたい貴族の気品が備わっていなければならない。彼女は
三歳までを貴族の娘として暮らしたんだからね……」

 「ふうん、つまり『私にはない高貴なものが彼女にはあった』
そういう事ね」瞳はうさんくさそうな目で伯爵を一瞥。「…ま、
わからないでもないわ。そう言えば、美佳って、何やってもトロ
かったもん。おやつの時だって、あの子自分からお菓子を取りに
行こうとしないの。誰かが運んでくれるの待ってるみたいで……
ベッドメイクだって女の子じゃ一番遅いし……だから、ベッドも
おやつも、みんな私かやってあげたんだから……あの子ねえ、私
がいないと施設じゃ生きていけなかったのよ。きっと、そういう
のが貴族らしいってことなのね」

 すねたような冷めたような瞳の顔はすでにあきらめたと言って
いるようにも見える。

 「……つまり、私はもうお払い箱ってわけなんだ」
 しかし、瞳がこう言うと、伯爵の答えは違っていた。

 「お払い箱って?」

 「だって本物のお嬢様がご帰還されたんだもの。…偽物に用は
ないはずでしょ」

 「偽物?何を言っているだ。もともと君が本当の娘でないこと
は百も承知で養女の話を持ちかけたんだよ。本当の娘が現れよう
と現れまいと私の養女になって欲しいという私の気持ちに変わり
はないよ」

 これには瞳も驚いたが何より周囲の大人たちが驚く。養女の話
はまだ口約束だけで籍はまで入っていない。反古にすることなど
たやすいこと思えたのである。それを……

 「………」
 しかし、瞳は複雑な表情を浮かべて伯爵の肩越しに美佳を見る。

 確かに相続権がないとしても一介の孤児にすぎない瞳にとって
形はどうあれ伯爵が後ろ盾になってくれるはずの養女という地位
はシンデレラストーリーだ。
 しかし、すでに本物が現れたその家でこの先自分の立場がどう
なるか。

 これまで妹分として扱ってきた美佳をこれからはお嬢様として
自分が傅く立場になるのだ。
 『そんなことまでしてここにいなくても……』と思ったとして
もそれほど不思議な事ではなかったのである。

 「……」
 瞳は判断がつきかねていた。

 すると、今度は伯爵が、思いもよらぬことを言う。
 「なんだか不安そうだね。だけど、もう決まったことなんだ。
君の親代りだという真島先生とはすでに覚え書きも取り交わした
からね。子供の君が自分の意志では破談にはできないんだよ」

 「えっ……」

 「ただ、こういう事は無理強いしても幸せにはなれないからね。
どうしても君が嫌なら考え直してもいいよ」

 「……………………」

 伯爵が瞳の顔を見直すと、少女のほっぺが一瞬膨らんで見える。
しかし、それは伯爵にとって不快な出来事ではなかった。

 「君はまだ未成年だからね。少なくとも、あと七年半は、君が
自分の気持ちだけでどこに住みたいとは決められないんだ」

 「……………………」
 瞳はしばし押し黙ったままだったが、そのうちぽつりと……

 「……もし、逃げたら?」

 「私では不満なのかい?」

 「……そうではないけど……私は貴族の出じゃないから言葉は
乱暴だし、美佳みたいにお上品には振舞えないもの」

 「何だ、そんなことか……」伯爵は少し苦々しい顔になって…
「私は最初から君にお上品な振る舞いなんて期待していないよ。
明るくて、ほがらか、君が傍にいると私も楽しいからね。それで
養女の話をしたんだ。だから、君は君の姿で私に仕えてくれれば
それでいいんだよ」

 「要するに、まだ11歳の小娘くらいどうにでもなるってこと
なんでしょう」

 「…………」
 伯爵は瞳の少しふて腐れたような物言いに一つ大きく息をつく。

 事実はそうに違いなかったが、あけすけにそう言われるのは、
伯爵も好まなかった。瞳の利発さ押しの強さはもろ刃の剣だった
のである。

 伯爵はこの問題をはっきりさせておかなければならないと思っ
たのだろう。自ら中腰になると、子供たち二人を自分の目の前に
呼ぶ。

 「美佳も、ここへ来なさい」

 彼はそれまで聞き役にまわっていた美佳まで瞳の脇に立たせる
と……
 「瞳、それに、美佳、これからは私がお前たちのお父さんだ。
だから不満があっても伯爵家の一員としてそれにふさわしい立ち
居振る舞いをしなければならない」

 「もう、拒否はできないの」
 瞳が言うと……

 「できないよ。私は伯爵だからね。お前たちよりずっとずっと
偉い人なんだ」
 伯爵は苦々しい顔になって宣言する。本来なら自分の力を誇示
するようなまねはしたくなかったが、この場合は仕方がなかった。

 「……二人は、私たちとは別の社会で暮らしてきたから戸惑う
ことも多いと思うけど、慣れればここも決して住みにくい世界で
はないからね」

 「はい、お父様」
 美佳の言葉にまるでつられたように瞳までもが……
 「はい、お父様」
 と言ってしまったのである。

 「よかったわね」
 美佳に呼びかけられた瞳は、その瞬間、豆鉄砲を食らったよう
な顔になった。ものの弾みとはいえ軽率な自分の判断を恥じた形
だが結果的にはこれが瞳と伯爵の親子の契りとなったのである。

*****************************

 こうして二人の少女は、施設の四人部屋から伯爵の住まう横浜
の洋館へと住まいを移す。

 その屋敷は雑木林に囲まれた小高い丘の上にあって南側だけが
広く開け、日当たりも申し分ない。

 しかも、二人に与えられたのは二階の角部屋。海の見える一番
見晴らしのよい部屋が二人の居室となった。晴れた日には、遠く
外国航路の船が港に入ってくるのが見える。申し分のない眺望だ。

 狭くて暗くて女の子の体臭が壁にまで染み付いた部屋から見れ
ば夢のような、まさに劇的な暮らしぶりの変化だが、ただ一つ、
残念なことがあった。それはこの部屋に二人以外の同居人がいた
こと。
 実はこの部屋、伯爵の部屋だったのである。

 もちろん、彼女たちに与えるための部屋がないわけではない。
部屋はいくつも空いているが、伯爵自身が望んで同居させたので
ある。

 少女たちはこの時すでに11歳。思春期に首を突っ込んでいる
女の子たちにとって、大の大人、それも男性との同居は心穏やか
というわけにはいかなかった。

 それだけではない。伯爵は、当初二人の女の子たちに大人への
階段を登ることを認めなかった。

 下の毛をいつも綺麗に剃り上げさせ、胸が膨らみかけてもブラ
を認めず、お風呂にも一緒に入り、着替えも当然この部屋で行い、
夜は一緒のベッドで裸にして寝かせたのである。

 そう、むしろ伯爵は二人が赤ん坊の方へ戻ることを望んだので
ある。

 もう少し歳がいけば、それは耐えられないほどの苦痛だったの
かもしれないが、まだ子供の要素を残す微妙な年齢で、かつ親の
権威が重くて、二人がこれに逆らうようなこともなかった。

 では、伯爵はなぜこんな無理難題を押し付けたのか。

 それは一も二もなく娘たちに自分を親だと認知させる為だった。
当時の親は身分に関係なく自分の子供に絶対服従を誓わせていた。
絶対服従の存在として親は子どもから認知されなければならない
と考えられていた。ところが施設で自由奔放に育ってきた二人は
よくも悪しくも自立していて、それが伯爵には不満だったのである。

 そこで、遅ればせながら二人に当時の常識を授けるためには、
『幼児の時代から二人を育てなおさなければならない』と考えた
のだった。

 当初は、二人にオムツを穿かせ、哺乳瓶でミルクを与え、絵本
を読み聞かせ、乳母車を押して散歩にでたりもした。

 当然、二人ともイヤイヤは許されない。ミルクはおいしそうに
飲まなければならないし、絵本を読んでもらう時も楽しそうな顔
が必要だった。

 しかし、何より二人を最も悩ませたのはオムツだった。伯爵は
小学生とはいえ11歳にもなっていた二人にお漏らしまで命じた
のである。
 そして、出来なければ……

 所用から館へと戻った伯爵は真っ先に自分の書斎へと向かう。
そこには二人の少女がそれぞれロンパースを着て寝かされている。

 ドアを開けると、二つのベッドの傍らにはそれぞれの家庭教師、
瞳には小島先生、美佳には仁科先生が付き添っていた。

 この二人がいわば彼女たちの母親代わり。まだ貴族の暮らしに
慣れない二人に勉強や生活習慣などはもちろんのこと、言いつけ
を守れないとどうなるかを教え込むのも彼女たちの仕事だったの
である。

 「どうだね。瞳は?」
 二人の様子が気になる伯爵はまず小島先生に瞳の様子を尋ねた。

 「今朝、下剤を与えてましたのでお腹はかなりぐるぐるなって
いるようですが、まだ頑張っておいでです」
 小島先生が答えると、それを遮るように瞳が伯爵に訴える。
 「お父様、おトイレに行きたいんです。お願いです」
 瞳は切ない顔をして伯爵に頼みこむが……

 「瞳ちゃん、残念だけど、それはできないんだ。これから暫く
君はうんちやおしっこを今穿いてるオムツにしなきゃいけない
んだ」

 「どうして?」

 「前にも何回も説明したはずだよ。君は私の子どもになった。
子どもの最初は赤ちゃんだろう。赤ちゃんをやるのは私の子ども
になった君の義務なんだ」

 「だって、恥ずかしいもん」

 「それは分かってる。瞳はもう赤ちゃんじゃないからね。でも、
私の子どもで暮らす以上、これは必要な事なんだ。みんなオムツ
にうんちやおしっこをして、それを親に取り替えてもらいながら
大きくなってるんだ。お父様やお母様の前でたくさん恥ずかしい
ことをして大きくなった子だから可愛がってもらえるんだよ」

 「恥をかかない子は可愛がられないの?」

 「そうだ、お父様お母様の前で子どもはすべてをさらけ出さな
きゃいけないんだ。隠し事をしてはいけないんだよ。その心と体
のすべてをお父様お母様に捧げて、その代わりに、世界中にいる
他のどんな子供よりも飛び切り愛してもらうことができるんだ。
その第一歩が『こんなウンチが出ました』っていうご報告なんだ」

 「…………」
 瞳はこの奇妙奇天烈な理屈に黙して騙らなかったが、それは、
お父様の言っていることがへんてこだと思っていたからではなく、
自分の努力が足りない事を恥じてのことだったのである。

 「美佳、美佳はどうだい。やっぱりだめかな」
 伯爵は仰向けの美佳の顔を覗き込む。

 「ごめんなさい」
 彼女もまた、恥ずかしそうに答えた。

 「いいんだよ。謝らなくても……お父さんだって、お前たちが
とっても辛いことは承知しているからね。……きっと、『今さら
何でこんな事を……』って思ってるだろうけど、これは私達親子
らとっては大事なケジメだからね、外すわけにはいかないんだよ」

 「………ウンチが出そうになると、出さなきゃって思うんです。
でも、止まっちゃうんです」

 「分かるよ。それが当たり前だもの。でも、その当たり前を、
今日はあえてやめてほしいんだ。……このお父さんのために…」

 伯爵がそう言うと、傍らに立つ仁科先生が付け足した。
 「そして、それが何よりあなたのタメなの。……だってお父様
に可愛がっていただけなければあなたの幸せもないの。わかるで
しょう」

 「はい、先生」
 美佳は力なく答える。理屈はわかるのだ。お父様の言いつけ、
仁科先生の言いつけを守らなければならないという理屈は……。
 しかし、いざとなると……そんなハレンチなことは彼女の理性
がさせてくれないのである。

 「仕方ないですね。今日で三日目でしょう。これ以上は子ども
たちにも余計な負担になりますから……」
 伯爵が言えば、仁科先生も……

 「私も、それがよいと思いますわ」

 さらには小島先生までもが……
 「こうした場合、お薬を使うのがむしろ一般的ですから…気に
なさることはありませんわ。伯爵様はお優しいから」

 「わかりました。そうしましょう」
 伯爵が決断して話はまとまったようだった。
 ただ……

 『大人達は何を言っているのだろう』
 ベッドに寝かされた二人の少女たちは、依然としてその真意を
測りかねていたのである。

 「さあ、これからお浣腸しますからね。ある程度我慢したら、
お漏らしですよ」
 仁科先生はその頭を撫でながら美佳を説得する。

 「お浣腸?」

 「そう、お浣腸といってお尻の穴からお薬をいれるの」

 「痛いの?」

 「痛くはないわ。こうするとね、ウンチがしたくなるの」

 「また、我慢したら?」

 「我慢できないくらいウンチしたくなるわ」

 「えっ……」
 美佳の顔に不安の影がさす。

 「仕方ないでしょう。もう、これ以上お腹がはったら、その方
が健康に悪いわ」

 「…………」

*****************************

 それがどれほどの衝撃だったか、それは本人しか分からない。
 ただ、大人達のとてつもない力が自分に覆いかぶさり、自分は
何もできないでいるという現実だけを美佳は見ていた。

 パジャマのズボンが純白のショーツと一緒に引き下ろされて、
両足を高々と持ち上げられると、普段はあまり風を感じない場所
が大人達全員の目の前で明らかになる。

 そして、プラスチックの小さな突起がお尻の穴に差し込まれて
……

 「ア~アアアア~ああ~~」
 声を出していいものか迷った末にでたあえぎ声。
 何か目的があって発したのではない。生理的な声だ。

 イチヂクが潰され、その液体が体の中へと入って来た時の驚き。
 でも、声は出さない。出せないでいた。

 大人達への信頼と圧倒的な圧力の前に、美佳はどうしていいの
か分からない。分からないから、オムツを着けられる時も、声を
出さず抵抗もしなかった。

 ただ、次の衝撃だけは素直に受け入れることはできなかったの
である。

 「あっ!!」
 その瞬間はいきなり襲ってきて、しかも寸前だった。まるで、
山津波のように美佳のお腹を駆け下ってきたのだ。

 「おトイレに行かせてください」
 美佳は仁科先生に頼み込む。
 あっという間の脂汗。もう、一刻の猶予だってできない圧迫感
に身悶えてのお願いだったのだ。
 なのに先生は……

 「もう、少し待ちましょう。今ではまだお薬が完全に効かない
わ」

 つれない返事は予想していなかったからもちろんショックだが、
そんなことは言っていられない。一刻を争うから美佳はベッドを
跳ね起きる。必死にドアを目指そうとしたのである。
 ところが……

 「いやあ」
 おとなしい美佳の滅多に聞けない悲鳴。彼女はその悲鳴と共に
誰かに抱きかかえられたのだ。

 「美佳、我慢しておくれ。今日はおトイレは使えないんだ」

 「えっ!お、お父様」

 美佳は自分がお父様に抱かれている現実に驚いたが、だからと
いっておとなしくしているつもりはなかった。
 『とにかくトイレへ』という思いは変わらないから、抱かれて
いるその手を必死に振りほどこうとしたのである。

 「は、離してください。トイレ……トイレへ行きますから」

 美佳は幼いといってもすでに11歳。六十を過ぎた老人が簡単
に抱きかかえられるものでもないように思えるが、美佳もまた、
本当に全力では抜け出せない。

 「……(あっ!!)……(いやっ!!)……(だめっ!!)」

 身体に力を込めるたびにお臍の下がお留守になるからだ。
 何かやってるうちにオムツの中が暴発したら……そう思うと、
全身全霊でというわけにはいかなかった。

 「あ~、よい子だ。良い子だ。お前は私の赤ちゃんなんだから
ね。忘れてはいけないよ」

 伯爵は美佳がどんなに抵抗しようと、その身体を優しく抱き続
ける。しかし、そんな優しい伯爵の姿を抱かれている美佳は知ら
ない。今の美佳にそんな事を感じる余裕があるはずもなかった。

 「……だめ、……いや、……もうだめ、……だめ~~……」

 最初は黙って耐えていた美佳の口から、うわごとのような声が
漏れ始める、最初は激しく抵抗していた身体はいつの間にか伯爵
の胸の中でおとなしくなった。

 「……いや、……恥ずかしい、……だめ~、……だめ~……」

 しかし、その声も次第に小さくなっていく。

 『もう、どうにもならない』
 そう悟るしかなかった。

 「………あぁ………(はあ)……(はあ)……(はあ)……」
 荒い息を吐きながらちょっとでも動けば飛び出しそうな状態で、
美佳は伯爵の腕を必死に握っていた。悲しくて悲惨な現実だが、
こうしている自分が愛おしく、伯爵の胸の中もその瞬間は不思議
なほど満ち足りていたのである。

 「………………」
 クライマックスは無言のうちに訪れる。
 しかし、その今を、周囲の大人たちが知らぬはずがなかった。

 美佳は伯爵によって再びベッドに戻され、あとは誰もが無言の
ままに仕事をしていく。

 「いや!」

 オムツが外された瞬間、自分の物の匂いがして、美佳は思わず
顔を横に向けるが、抵抗したのはそれだけだった。

 「………………」

 あとは、黙々と自分の為にオムツ替えをする伯爵を見ていた。
 そんな美佳に仁科先生が尋ねる。

 「あなたは世が世なら15万石の御領主様だったかもしれない
お方におしもを取り替えてもらってるのよ。幸せ者ね。……でも、
なぜだか分かる?」

 「…………」

 「その方があなたのお父様だから。伯爵様は単に跡取りとして
あなたを迎え入れたんじゃないの。生まれた時から一緒に暮らす
本当の娘としてここに居てほしいの。本当の娘なら、その父親が
オムツを替えるのは当たり前でしょう」

 「瞳ちゃんも…」

 「もちろんそうよ。伯爵様は二人を一緒に愛そうとなさってる
の……二人に差をつけたりなさらないわ」

 「…………」

 仁科先生は美佳に今回のことを説明するものの、たった一回の
こんなパフォーマンスで幼い子に親の真意が伝わるはずもなく、
結局二人は半年にもわたってオムツを穿き続けることになる。

 二人がお浣腸に頼らず自分の意思でウンチをして、その恥ずか
しい場所を何の抵抗もなく伯爵の目の前に晒せるようになるまで
このパフォーマンスは続けられたのだった。

 そして、その間に二人が学んだのは、「お父様には何一つ隠し
事ができないこと」「お父様は自分達より遥に多くの知識や経験
を持った力持ちであること」そして何より、「自分たちを世界一
愛していること」だった。

 子供たちはお嫁に行くまでお父様には絶対服従。おいたをした
り、怠けたり、約束を破ったりすれば、たとえいくつになっても
お尻が真っ赤になるまで叩かれる厳しい親子関係だったが……
 ただ、それで二人が不幸を感じることはなかった。

 だって、嬉しい思いや悲しい思い。恥ずかしい思いや痛い思い
も、それはみんなみんな伯爵(お父様)の愛の中で起こるコップ
の中の嵐。愛し愛され続けている限り、二人に不幸はなかったの
である。

****************************

天沼薬局

          天 沼 薬 局


***************************

<<主な登場人物>>

合沢家
合沢桂子ちゃん(14歳)セントメリー女学院中等部二年生
合沢春子さん(41歳)桂子ちゃんのお母さん。
お竹さん(69歳)合沢家のお手伝いさん

上村家
上村茜ちゃん(11歳)セントメリー女学院小学校五年生
上村艶子さん(37歳)茜ちゃんのお母さん
節さん(62歳)上村家のお手伝いさん。

天沼薬局
天沼照子さん(58歳)天沼薬局の店主。未亡人。

****************************


 その薬局は住宅地から少しはずれた場所に古くから店を構えて
いました。だらだら坂を登り切った処に一軒だけぽつんと建って
いますが重厚な瓦屋根の造りは街の薬局というより江戸時代から
続く薬種問屋といった風情です。

 「こんなところに」

 知らない人は誰もがペンキの消えかけた看板を見てそう思い
ます。
 あたりは雑木林に被われ、人通りもまばら、商店街の中にある
お店のようにお客さんがひっきりなしに出入りするということも
ありません。

 「営業しているのかな」
 と疑いたくなるようなたたずまいでした。中では初老の未亡人
が独り新聞を読みながら店番をしていますが、30分、1時間、
お客さんが来ないことも珍しくありませんでした。

 でもそんなお店も夕方近くになると、ぽつりぽつりとお客さん
が現れます。
 それも不思議に女の子ばかり。下は8歳くらいから上は高校生
くらいまで。いずれもお店に入る時は辺りを気にしている様子で、
誰かに見られたくないみたいな素振りです。

 「ひょっとしてこのお店、何かヤバイお薬でも取り扱っている
のでしょうか。それにしても8歳の子まで買いにくるなんて」

 いえいえ。そんなことはありませんよ。
*****************************

 「あら、桂子ちゃん。いらっしゃい。お使い?」

 お店に入るなり、まだ中学生とおぼしき少女は緊張します。店
のおばさんにそう言って挨拶されただけでも心臓が口から飛び出
しそうです。

 「あのう……」
 制服姿の少女はそれだけ言ってまた口ごもってしまいました。

 でも、こんなことはいつものこと。店のおばさんは笑顔を絶や
さず辛抱強く次の言葉を待ちます。

 「どうしたの?」

 目の前の少女が何を言いたいのか、おばさんには察しがついて
いましたが、おばさんがそれは言ってはなりません。少女自身が
言わなければならないのです。

 しばらく間があって、少女の心臓がやっと普段の三倍くらいの
早さにまでに戻ったので女の子は思いきって声を出そうとします。
 でも、その瞬間、またも辺りを見回して、おばさんと自分以外
ここには誰もいないことを確認してから大きく一つ深呼吸。声が
出たのはその次でした。

 「イチ、イチヂクカンチョーと消毒用のアルコール。ありま
すか?」

 店のおばさんはやっぱり笑顔のままでした。
 「ありますよ。あなたが使うの?それともお母様かしら?」

 「えっ………………わ、……わたし」
 少女の声はあえぐようにおばさんの耳に届きます。

 「そう、それなら30ccのでいいわね」
 おばさんは試しにこう言ってみましたが、そのとたん、少女の
顔がこわばります。

 「えっ、いえ、あのう~~」申し訳なさそうにうつむいてから
……
「50ccのでお願いします」
 これを言うともう少女の顔は真っ赤でした。今時珍しいおかっ
ぱ頭。額からは玉のような汗が光ります。

 「どうしたの?お仕置き?今度はどんなおいたしたのかしら?」
 おばさんにはこの娘(こ)が店に入ってきた時からそのことが
分かっていましたが……でも、あえて口にしないでいたのです。

 この町では女の子のお仕置きの一つとして年頃の少女が恥ずか
しがるような浣腸や大人用のおむつなどを買いに行かせる習慣が
ありました。
 そうです。間接的に『これから自分がお仕置きを受けます』と
いう事をお店の人や周囲のお客さんに宣言させるわけです。

 これが年頃の娘にとってどれほど恥ずかしい事か、容易に想像
がつきます。ですから、お仕置きを受ける娘の方も少しでも噂が
広がらないように、わざわざお客さんのあまりこないこのような
店を選んでやってくるのでした。

 ただ、この店に関していうと問題はこれだけではありませんで
した。

 「ありがとう」
 おばさんは少女にイチヂク浣腸と消毒用アルコールを渡ししな、
続けて意味深なことを言います。

 「今度の日曜日、午後なら裏の離れが空いてますってお母様に
伝えてね」

 おばさんの笑顔の伝言。でも、これは少女にとって、『地獄へ
堕ちろ』と宣言されたようなものだったのです。

 「(はい)」

 少女は返事をしたつもりでしたがその言葉は心の中に留まり、
ほんのちょっぴり頭を下げてその場を立ち去ります。

 「最近は車も多いから気をつけて帰るのよ」

 おばさんの送る言葉に思わず下唇を噛んだ桂子ちゃんでしたが、
その店を出て行きしな、入れ違いに中年の婦人が入ってきました。

 「あら、珍しいのね、お客さん?」
 「ま、随分な言い方ね。うちだってお得意さんちゃんと持って
るのよ」
 「そう言えば、あの子、どっかで見たことあるわね」
 「何言ってるの。桂子ちゃんよ。写真館の…」
 「ああ、あの桂子ちゃん。大きくなったわね。もう中学生なの。
早いはね、子供が成長するのって……ほら、つい、この間まで裏
の離れで母親にお折檻されて泣いてたのに、もうあんなに大きく
なっちゃったのね」

 「それは今でもよ」

 「えっ、!?じゃあ今の?」

 店のおばさんは笑顔のままで何も言いませんが、その素振りで
このお客さんにもそれはわかります。

 「へえ、中学生になっても裏の離れ使うの?」

 「あの子んちだけじゃないわよ。どうかしたら高校生だって、
うちに来るんだから…」

 「まあ、高校生も!?………」おかみさんは大仰に目を白黒。
「じゃあ、薬は売れなくても商売繁盛ね」

 「馬鹿言わないでよ。そんなことでお金なんてとらないわ」

 「でもさあ、高校生ってのはちょっとなまめかしくない?」
 お客さんが声を一段低くして店のおばさんにささやくと…

 「大丈夫よ、だって正真正銘の親子だもん。私だって古くから
のお付き合いがないなら貸さないわ」

 「ねえ、やっぱり、悲鳴なんか聞こえるんでしょう」

 「それは仕方ないでしょう。母親だって、娘のためによかれと
思ってやってるんだもの。小学生くらいなら私だって部屋に入っ
て手伝うわよ」

 「そうそう、聞いたことがあるわ。セントメリー女学院って、
親にお仕置きを依頼するんですってね。ね、どんなことやるの?」

 「そんなこと聞いてどうするの?」

 「あくまで好学のためよ」

 「そうねえ………」店のおばさんは最初迷っていましたが、でも、
「……やっぱり言えないわ。だってそれはそれでうちの信用だから」
 こう言って口を閉じてしまいます。

 ただ、こういう言い方をするということは…
 「(かなり、きついことするのね)」
 と、このおかみさんに想像させることはできたみたいでした。

 実際セントメリー女学院は躾に厳しく、学校ではできない体罰
を親に求めることもしばしば。下駄を預けられた親の方でも家庭
では、やりにくい娘の折檻を人目に付かないこんな場所を借りて
行うことが常態化していたのでした。

****************************

 次の日曜日の午後。案の定、桂子ちゃんがやってきます。
お母様とお竹さんという女中さんを一人連れて……

 「まあ、まあ、お暑い中大変でしたねえ」

 ガラス戸が開くと店のおばさんがさっそく三人をねぎらいます。
でも、桂子ちゃん一家にはちょっとだけ困ったことが……

 「まあ、上村さんのところがまだ使ってらっしゃるの……」

 「ええ、本日、急に1時間だけ何とかならないかっておっしゃ
って……」

 「そうですか。……いいえ、うちは構いませんよ。上村さんと
いうと茜ちゃんかしらね。あの子まだ小さいと思っていたけど、
もうこちらでご厄介になるくらいのお歳になったのかしら?」

 「11歳ですよ」

 「ま、そんなに……いやだわ私ったら……ついこの間、セント
メリーにご入学されたとばかり思ってたのに……でも、そうなる
と、学校側の注文も多くなりますし、そろそろ試練のお年頃だわ
ね…」

 桂子ちゃんのお母さんは声をひそめます。応じるおばさんも、
さらに小さな声で……

 「ええ、たしかに」

 二人は顔を近づけて含み笑いをします。

 「今回もね、『茜はまだ小学生ですから今日のことは今日中に
かたをつけておきたいから』とおっしゃられて……」

 「わかりますわ。うちの桂子もそうでしたもの。幼い子はその
場でピシッと叱っておいてやらないと、すぐに忘れてしまいます
でしょう」

 「あら桂子ちゃん。お待たせしちゃってるわね。ごめんなさいね」
 おばさんは店先の椅子にぽつんと独りで所在無げに腰を下ろす
桂子ちゃんに向かってすまなさそうに言いますが、桂子ちゃんは
あえておばさんと視線を合わせようとはしませんでした。

 おばさんの笑顔を避けたい桂子ちゃんの視線はやがて店の奥へ
と通じる通路の方へと向きます。そこからは、まだ声変わりする
前の幼い少女が必死に懇願する声が時折風に乗って聞こえていま
した。

 「いやあ~~ごめんなさい、もうしませんしませんから~お灸
しないで、お灸いや、お灸だめえ~ごめんなさい、ごめんなさい」

 やがて……

 「いやあ~~いやあ~~~あつ~~あっ~~~ああああああああ」
 声にならない声。のどに痰をからませての断末魔です。

 でも、それも終わったようでした。

 「さあ、早くなさい。きっと次の方がもうお待ちのはずよ。…
ほら、急いで。いつまでもべそかいてるんじゃないの。だいたい
あなたがちゃんとお仕置きを受けないからこんなに遅くなるんで
しょう」
 茜ちゃんのお母さんのよく通る声が、待合いの桂子ちゃんにも
届きます。

 セントメリーの教えによれば、女の子は親や教師のお仕置きに
泣きわめいたりしてはいけないことになっていました。ですから
不作法な茜ちゃんはこの先さらにお仕置きが増えるかもしれま
せん。
 でも、それって桂子ちゃんにとっても決して他人事ではありま
せんでした。

 「まあ、やっぱりもういらっしゃってたのね。ごめんなさい
ね。今すぐ片づけますから」
 茜ちゃんのお母さんがこちらの様子を見に店先までやって来て、
またすぐに戻っていきます。

 そして、ほどなくして再び店先へ戻ると……
 「やっと、お部屋が片づきましたの。……いらして……」
 「お急ぎにならなくてもいいのに……」
 「いえ、いえ、とんでもない。急に割り込ましていただいて、
恐縮しておりますのよ。尾籠な匂いがまだちょっと残っておりま
して、本当は気が引けるんですが、合沢さんのところなら学校も
同じなので、まずは見ていただこうかと思って……」
 茜ちゃんのお母さんが桂子ちゃんのお母さんを誘います。

 通路の先、中庭を越えてさらにのその奥に離れの部屋がありま
した。
 そこへ、茜ちゃんのお母さんと桂子ちゃんのお母さん、それに
桂子ちゃんが到着しました。

 「何をですの?」
 桂子ちゃんの母親がそう言ったのをきっかけに障子戸が開かれ
中の様子が丸見えになります。

 中では茜ちゃんが正座した女中さんの膝の上にうつぶせになっ
ていました。学校の制服を着ていましたが、短いスカートは捲り
あげられ、ショーツもずり下ろされて可愛いお尻が丸見えです。

 リンゴのような真っ赤なお尻はお尻叩きをされた証でしょう。

 でも、そればかりではありません。茜ちゃんを膝に乗せた女中
さんの辺りには、まだ火のついたお線香がお線香立ての灰の中に
立っています。

 これを見れば茜ちゃんの身に何が起こったかは一目瞭然でした。

 「うちの茜は桂子ちゃんなんかと違ってお転婆でしょう。こう
でもしないとこたえないのよ」

 茜ちゃんのお母さんが合沢家の人たちに見せたかったのは我が
子がお仕置きされたあとの様子でした。

 今日ではまず考えられないでしょうが、昭和40年代のはじめ
頃までは、我が子のお仕置きを他人に見せつけるなんてことも、
そう珍しいことではありませんでした。見せしめもまた子どもの
お仕置きの大事な一つだったのです。

 きっと茜ちゃんは最初からお母さんにキツく言われていたので
しょう。合沢家の人たちが部屋に入ってきた時も、慌てた様子は
ありません。姿勢を崩さず声も出さずに真っ赤な顔をして恥ずか
しさに耐えていました。

 「まあ、まあ、茜ちゃん、大変だったわね。でも、このお薬は
将来きっと効いてくるわよ」
 桂子ちゃんのお母さんはそう言って茜ちゃんを励ましますが、
そんなこと今の彼女には何の助けにもなりません。

 『いってよ~、早く行ってえ~~』
 茜ちゃんはそれだけ願って涙を流しています。今の彼女にでき
ることは何もありませんでした。

 と、ここで茜ちゃんのお母さんが何かに気づきます。
 そこで茜ちゃんに膝を貸している節さん(女中さん)にそっと
耳打ちしました。
 「ここはもういいから、あれ、始末して頂戴」

 『あれ』と言って視線を投げかけたのは部屋の隅。そこには、
室内用の便器、つまりオマルが置いてありました。

 「はい」
 節さんは早々に正座を崩して茜ちゃんの上半身を大事そうに
抱え上げます。

 すると何を思ったのか、茜ちゃんが身を翻し、節さんより先に
立ち上がりました。
 脱兎のごとく駆け出すと部屋の隅にあったオマルを自分で拾い
上げて部屋を出て行こうとします。

 あまりのことに当初は誰も声を上げる暇がありませんでした
が、茜ちゃんが両手にオマルを抱えたまま障子の桟に手をかけた
ところで少し時間を取られましたからお母さんが声をかけます。

 「茜、何やってるの。そんなことは節さんに任せなさい」

 お母さんはこう言いますが……
 「いや」
 茜ちゃんは応じません。

 「そんな危なっかしい格好で……もしひっくり返しでもしたら
どうするつもりなの」

 お母さんの言う通りです。何しろそれは空っぽではないのです
から。

 「それにねえ、あなたはまだ小学生だから仕方がないけど……
女の子なんだから前ぐらい隠しなさいね。恥ずかしいわよ」

 これもお母さんの言う通りでした。茜ちゃんはあまりに慌てて
しまって、ショーツを脱がされていたことも短いスカートがピン
で留まっている事もどうやら忘れているみたいだったのです。

 当然、オマルを抱いた茜ちゃんのお臍から下は誰の目にからも
丸見え。いくら11歳でもそれが恥ずかしくないはずがありません。

 「いやあ~~」
 茜ちゃんはべそをかいてその場にしゃがみ込みます。

 ま、幸いにしてその場に居合わせたのが同じ女性ばかりでした
から、そんなに大きな傷にはならなかったようですが、茜ちゃん
のお母さんにしてみれば我が娘のことながら呆れて声が出ないと
いった顔をしていました。

 「さあ、お嬢ちゃま。これは私が始末しますから……」
 節さんが、へたり込んで正体なくオマルを抱きかかえたままで
いる茜ちゃんに声をかけます。
 ところが…

 「いい、これはいい。私がやるから…」
 茜ちゃんはこう言ってオマルを離そうとしません。でも、お母
さんの考えは違っていました。

 「茜、先様はお待ちになってるの。あなたの我が儘を聞いてる
暇はありませんよ」
 こう言われては、茜ちゃんも抱えているものを渡さないわけに
はいきませんでした。

 「ごめんなさいね。何ぶん我が儘娘なもんだから余計なお手間
を取らせちゃって……」

 茜ちゃんのお母さんの声を聞きながら、桂子ちゃんはふと自分
もこのくらいの歳に初めて母からお浣腸のお仕置きをされたこと
を思い出していました。

 『あれは色んなお仕置きの中でも特に恥ずかしいのよね。特に
最初は死ぬほど恥ずかしくて……終わると母にオマルを抱えさせ
られて、「自分で捨ててきなさい」だもん。お便所でひっくり返
しても完全に落ちきれないからおろおろしてると、「残ったどろ
どろは自分の手で掻き出せばいいでしょう」って言われて………
そりゃあ自分のものに違いないけど、情けなくて悔しくて、涙が
ぼろぼろ出て止まらなかった。最後はお庭の井戸水で綺麗にして
お店にお返したんだけど…ひょっとして今使ってるのも、あの時
のかしら……』

 桂子ちゃんが昔の思い出に浸っていると、母親二人がとんでも
ないことを話していたのです。

 「ねえ、上村さん。よかったらうちの桂子のお仕置き。茜ちゃ
んと一緒にご覧になりませんこと。うちの方が年長さんだから、
きっとお仕置きも厳しいはずよ」

 「やだ、ホントにいいの。助かるわ。茜も最近は生意気になる
一方で困ってたの。中学のお姉さんのお仕置きがどんなものかを
見せていただければ、うちの子の悪さにも少しはブレーキがかか
るんじゃないかしら…」

 「それはうちも同じよ。幼い子に恥ずかしいところを見られた
らしっかり堪えるでしょうから……」

 「ホント、家族同士、女同士じゃ、なれ合いになっちゃって、
効果が薄いですもの。助かりますわ」

 母親たちの会話は、当然、桂子ちゃんを震撼させます。

 慌てて鳩が豆鉄砲を食ったような顔でふりかえりますが…

 「どうかしたの?」
 桂子ちゃんのお母さんは娘が驚いて振り返ったのが不思議だと
でも言わんばかりの冷静さで尋ねました。

 「だって、私、そんなの聞いてないもん」
 桂子ちゃんが泣きそうな顔で口答えすると、お母さんは先ほど
よりさらに不思議そうな顔で桂子ちゃんに近づきます。そして、
鼻息がかかるほど顔と顔を近づけると一瞥しただけで離れ、今度
はいきなりプリーツスカートの裾をまくると持っていた1尺物の
物差しで太股をぴしゃり。

 「『聞いてない』って何なの!生意気言うんじゃありません。
お仕置きは親が必要と思う方法で必要なだけするものなの。……
あなたの指図は受けませんよ。わかりましたか?」

 「…………」

 「どうしたの?私は『わかりましたか?』って聞いているのよ」

 「は、…はい」
 それが桂子ちゃんの精一杯の答えでした。お母さんはさらに…

 「かがみなさい」
 こう言って桂子ちゃんを前屈させると、その両手が足のつま先
にまで届くほどにしておいて、今度は、ゆっくりスカートを捲り
上げます。

 当然、桂子ちゃんのショーツは丸見えになりますが…

 「……」
 「……」

 それはお母さんにとっても、桂子ちゃんにとっても、予想して
いないことでした。

 「桂子、どうしたの。このピンク。……あなた、まさか、今日
はお仕置きがあると分かっててわざとこれ穿いてきたんじゃない
でしょうね」

 「ごめんなさい。まだ白は乾いてなくて…」

 「乾いてないってどういうこと?……あなたの持ってる綿の白
は一枚きりなの?」

 「いいえ」

 「四枚や五枚は楽にあるはずよ。それを全部洗ったの?」

 「……」
 桂子ちゃんは、声はださずに小さく頷いてみせました。

 「呆れてものが言えないわ。あなた、まさか、校則違反のこの
シルクのショーツなんか穿いて学校へは行かなかったでしょうね」

 「それは……してないわ」

 「本当?あなたって子は、どうして毎日自分の下着を洗濯しな
いの?私、下着は一週間まとめて洗えばいいなんて教えたかしら」

 「忙しいかったんです。今週はずっと……」

 「忙しいって…あなた今週は毎日お風呂に入ってたじゃないの。
その時洗えばいいでしょう。まったく、14にもなってだらしが
ないったらないわ。そんなことだから成績がさがるの。この分じゃ、
勉強してるしてるって言っても怪しいもんだわね」

 お母さんはそう言ってる間にも、お竹さんから先ほどより長い
三尺ものの物差しを受け取ると、その先を桂子ちゃんのピンクの
パンティーに軽く押し当てます。

 これは、これから鞭のお仕置きをしますよという合図なのです
が、やはりそのピンクというのがお気に召さないようで、一旦、
その物差しを小脇に抱え込むと、まずは桂子ちゃんのパンティー
を足首までずり下ろしたのでした。

 「……」
 息を飲む桂子ちゃん。しかし、口答えや反論はできません。

 「茜ちゃん、ようく見ておきなさい。女の子はね、お口のきき
方一つでこんなに痛い思いをするのよ」

 そう忠告して放った竹の物差しでしたが、それがお尻に命中す
る前に…

 「いたあ~~い」
 桂子ちゃんは一足早く悲鳴を上げてしまいます。

 「何です、桂子、物差しが当たる前からあんなはしたない声を
上げたりして……お仕置きは遊びじゃないのよ」

 「そんなのわかってます」
 桂子ちゃんは少しふてくされたような様子で口答え。

 「わかってたら、なぜもっと素直にしてないのかしら」
 お母さんもこれにはイラっとしたのでしょう。こちらも、声が
少しだけ低くなります。これは桂子ちゃんにとって危険信号でした。

 「どうやらこんななまぬるいことじゃいけないみたいね。お竹
さん、ここには北条式がその納戸にあったでしょう。………そう
そう、その木馬のことよ。あれを出してきてくださいな」

 「あっ、ハイ」
 お竹さんはすぐに立ち上がります。

 すると、それにつられたように桂子ちゃんもぐっと曲げ込んだ
上体を起こして立ち上がります。

 「やめてよ、あんなの」
 こう言って抗議すると…

 「仕方がないでしょう。ぶたれる前から悲鳴をあげるような子
には、それなりの工夫をしなくちゃしめしがつきませんからね」

 「いやよ、そんなの。今日は……その……上村さんも見てるの
よ」

 「だから何なの?だからいいんでしょう。茜ちゃんにも緊張感
なくお仕置きを受けるととどうなるか。よいご教訓になってよ」

 お母さんの毅然とした物言いに、上村のお母さんも追い打ちを
かけます。

 「大丈夫よ、桂子ちゃん。ここであったことは誰にも言わない
から……おばさん、口は堅いのよ。……茜、あなたもここで見た
ことは誰にも言っちゃだめよ。わかった?」
 お母さんは茜ちゃんに約束させます。

 「はい、お母さん」

 「本当に誰にも言っちゃだめよ。もし、あなたの口から漏れた
ことがわかったら、この間、おじさまの処でやったお仕置きを、
もう一度、やり直しますからね」

 こう言われると茜ちゃんの顔がいっぺんに真っ青になりました。

 「だめ。あれだけはやらないで……もう二度とやらないって、
約束したでしょう」
 茜ちゃんは泣きそうな顔でお母さんの腕にしがみつきます。

 今すぐにここで何かが起こるというわけではないのに茜ちゃん
の身体はガタガタと震えています。彼女にしてみればそれほどの
恐怖体験だったのです。

 「まあ、おじさまの処ではとても大事な教訓を頂いたみたいね」

 桂子ちゃんのお母さんがこれを見て笑うと、同じように茜ちゃ
んのお母さんも笑顔で…
 「そうなんです。実は、つい先日のことなんですが、この子に
女の子の心棒を通しましたので……」

 「まあ、それはそれは大変だったわね。……でも、大丈夫よ。
家の桂子もあなたと同じ頃心棒を通したの。あれはセントメリー
の子なら誰でもやることなんだから……ちっとも恥ずかしいこと
じゃないわ……そうだ、家の桂子のを見せてあげましょうか」

 桂子ちゃんのお母さんがこう言うとたまらず桂子ちゃんも大声
になります。

 「いいかげん、やめてよ!どういうつもりよ!」

 でも、お母さんは…
 「何ですか、いきなり。ごろつきのような声を出してみっとも
ない……」
 お母さんは桂子ちゃんを睨みつけます。そして…

 「よろしいでしょう、別に減るものでもなし………茜ちゃんに
見せてあげれば。あの子だって『これは自分だけじゃないんだ』
って納得できるはずよ」

 「どうして、どうして私がそんなことしなきゃならないのよ」
 桂子ちゃんはお母さんの目の前に勢い込んで正座すると両手で
お母さんの二の腕を掴んで前後に揺すぶります。
 桂子ちゃんはもう必死だったのです。

 でも、お母さんの方は落ち着き払っています。

 「どうして?そもそも、あなた、ここへ何しに来たの?………
お仕置きで来たのよね。だったらいいじゃない。私の方がよっぽ
ど『どうして?』って聞きたいくらいだわ。……それに、あなた、
前のお仕置きが終わった時、私に約束したわよね。『これからは
どんなお仕置きでも素直に受けますから許してください』って…
お家でのお約束…あれは嘘だったのかしら?」

 「だって、あれは……」

 桂子ちゃんは口ごもります。本当なら……
 『お仕置きを他人に見せるなんて言わなかったじゃないの』
 という言葉がそのあとにつくはずですが、お母さんの怖い顔を
見て怖じ気づいてしまいます。

 「さあ、わかったらここへ仰向けになって両足を上げなさい」

 「…………」

 無言のままイヤイヤの意思表示をする桂子ちゃんにお母さんは
……
 「大丈夫よ。ここには女性しかいないもの。恥ずかしがること
ではないでしょう」

 「いやよ、そんなこと聞いてないわ」
 桂子ちゃんはとうとう正座した姿勢はそのまま、くるりとお母
さんに背を向けてしまいます。

 これには茜ちゃんのお母さんも苦笑してしまいます。

 一方、桂子ちゃんのお母さんはというと、ため息を一ついくと
がっくりと肩を落としてしまいます。娘の取った行動がショック
だったのでした。

 こんな事、今の娘さんなら何でも無いことでしょうから、理解
に苦しむかもしれませんが、その昔は子どもが随分大きくなった
後も親が強い躾の権限を持ち続けていましたから、よそ様の前で
こんなあからさまな反抗をされては親の威信に関わります。

 面子を潰された親にしてみれば大問題でしたから……
 「いいわ、あなたが見せたくないというなら。その代わり今の
あなたのその不躾な態度は許せません。もう一度女の子の心棒を
通してあげますからそこで待ってなさい」

 お母さんは毅然としてその場を立つと、凛とした声でこう宣言
して部屋を出ていきました。

 「(えっ!)」
 今度、驚いたのは桂子ちゃんです。他の人も見ていますから、
そんなに取り乱した様子も見せられませんが、顔は真っ青でした。

 案の定、部屋へ戻ってきたお母さんの手には艾の袋やらお線香
なんかが乗ったお盆が……

 「……!!!……」
 自分で蒔いた種とはいえ、それを見た瞬間、桂子ちゃんは凍り
つきます。

 心棒を通すというのは、セントメリー関係者の隠語で大陰唇に
お灸をすえるいう意味なのですが、ここが手足などと比べて特別
に熱いというわけではありませんでした。でも、女の子にとって
そこは特別な場所ですし、まして家族でも無い人から見られなが
らとなれば話はまったく別です。年頃の少女にとってそれが尋常
な精神状態では受け入れられないことは明らかでした。

 「ごめんなさい。お灸だけはしないで…他の罰なら何でも受け
るから」
 事この期に及んで恥も外聞もありません。桂子ちゃんは思わず
お母さんの足首にしがみつきます。

 でも、お母さんはそれを冷静な目で見下ろすと…
 「そうはいきませんよ。あなたは私に他人様の前で恥をかかせ
たんですからね。このくらいは当然です」

 「だって、そんなこと恥ずかしいから…私は茜ちゃんみたいな
赤ちゃんとは違うのよ」

 「何言ってるの。同じでしょ。14になったばかりの小娘が、
生意気言うんじゃありません。あなただって、ついさっきまで、
赤ちゃんだったじゃないの」

 お母さんはきっぱりと言い切ります。お母さんにとってみれば
桂子ちゃんが女を主張するには十年早いとでも言いたげだったの
です。

 子供にとっての一年前は遠い昔の事、ですからその間に自分は
随分と大人に近づいたと思っていますが、親世代にとっての一年
はあっと言う間の出来事。子どもの体に多少変化があったとして
も、手のかかる幼い頃のイメージが強くて、容易に大人とは認め
られないというのが本音でした。

 実はその傾向は、昔ほど、そして家柄のよい娘さんほど強くて、
桂子ちゃんも他人のいない自宅でならお母さんの言いつけを守り、
お尻をまくって、恥ずかしい場所をお母さんに見せることもでき
たでしょう。

 でも、ほとんど面識のない茜ちゃん親子に大事な処を見せると
なったら、そりゃあ誰だって何とか逃れたいと思うのが人情です。

 ただ桂子ちゃんのお母さんにしてみれば、『自分は娘をこんな
にも完璧に仕付けています』ということを茜ちゃんのお母さんに
見せつけたかったわけですから、こちらも譲れませんでした。

 「スカートを脱いでここへ、寝なさい」

 お手伝い歴8年のお竹さんが手回しよく敷いてくれていた布団
の上に桂子ちゃんは仰向けになります。もちろん、今でもイヤに
決まっていますが、もうこれ以上抵抗できないと悟ったようでした。

 制服のスカートが皺にならないようにハンガーに掛けられると
下半身を隠しているのはブラウスの短い裾と白いレースの付いた
スリーマー。そして飾り気のない例のピンクのショーツが一枚。
でも、お母さんに容赦はありません。

 「ショーツもお脱ぎなさい」
 あっさり言われてしまいます。

 そして、それに抵抗するかのように桂子ちゃんがもじもじして
しまうと……

 「今さら恥ずかしがることなんてないでしょう。さあ、さっさ
としなさい。お仕置きはこれだけじゃないのよ」
 と迫られます。

 「……!……」
 もう、やけ。桂子ちゃんは少し乱暴にショーツを脱いでしまう
のですが、そうすると……

 「ほら、また、この子は脱いだものを放り出したりしてお行儀
の悪い」
 お母さんはそう言いながら、くるくるっと縮こまった桂子ちゃ
んのショーツを拾い上げると丁寧に畳んで枕元に置きます。

 「ごめんなさいね。みっともないところお見せしちゃって……」

 桂子ちゃんのお母さんが言えば、茜ちゃんのお母さんも……

 「無理もありませんわ。お年頃ですもの。誰だって恥ずかしい
わよね」
 という返事が返ってきます。

 「よろしいんですよ。無理なさらなくても…」
 と、桂子ちゃんへの助け船のようなものを出しますと…

 「大丈夫ですわ。普段はもう少し場所柄をわきまえてるんです
けど…」

 お母さんは茜ちゃんのお母さんの方を向いている時はにこやか
ですが、そこから目を転じると急に顔つきが厳しくなります。

 「ほら、桂子、ちゃんと足を上げて」

 お母さんにこう命じられて桂子ちゃんはほんの少し両足を浮か
しかけたのですが、途中で止まってしまいました。

 そこでお竹さんがその重たい両足を手伝おうとするとそれには
足を閉じ膝を立てた状態で抵抗します。

 見かねた茜ちゃん家のお手伝い節さんも加勢に入ると、さらに
激しく小さく地団駄を踏んで抵抗しますから、お母さんはさらに
渋い顔です。

 「桂子!いい加減になさい!そんなに聞き分けがないなら日を
改めましょうか!お父様にここへ来ていただきましょう!その方
がよければそうしますよ」

 この声にはさすがに桂子ちゃんもなすすべがありませんでした。

 母親や同性同士ならまだしも、異性である父親にこんな醜態は
絶対に見せたくありません。それは年頃の娘にとって何より辛い
出来事ですから、どんな折檻より効果のある言葉だったのです。

 「………………」
 桂子ちゃんの両足が高々と上がり、さらにそれが左右に大きく
開いて大事な処が全てさらけ出されることになってもそれは仕方
がないと諦めるしかありませんでした。

 でも、お母さんはというと……

 「まったく、あなたって子は……一つ一つに世話が焼けるんだ
から……」
 娘が望み通りの姿勢になっても今ひとつ機嫌がよくありません。

 そんなむしゃくしゃした気持を小さく一つため息をつくことで
振り払ってから…
 「さあ、茜ちゃん。ここへいらっしゃい。見せてあげるわ」
 こう言って、怯えながら様子を窺っていた見ていた茜ちゃんを
笑顔で呼びます。

 でも、こんな状態ですから、よそのおばさんにそう言われても
正座を崩してすぐににじり寄るというわけでもありませんでした。

 そこは本当のお母さんの手を借りなければなりません。
 茜ちゃんは桂子ちゃんのお母さんのお誘いから一拍おいて自分
のお母さんに背中を抱かれるようにしてやって来ます。そこでは
まるで茜ちゃん自身が罪を犯したようでした。

 怖々、茜ちゃんが覗き込むと、そこにはケロイド状に光る丸い
皮膚がまるで小さなセロテープを貼り付けたようにして二つ見え
ます。

 もしこれが男性なら「お~う!」とのけぞるところかもしれま
せん。でも、茜ちゃんは女の子ですからそんな興奮はありません
でした。むしろ、そこはグロテスクで…

 「(うっ、ばっちいものを見た)」
 というのが正直な感想だったのです。

 「ね、これで安心したでしょう。これはあなただけじゃなくて
セントメリーのいわば伝統なの。たいていの子が、ここにお灸を
すえてもらって『ああ、自分は女の子なんだなあ』って実感でき
るようになるのよ」

 お母さんは茜ちゃんを説得しようとしますが…

 「茜、そんなことされなくても自分が女の子だってわかるもん」

 「もちろん、それはそうよ。でも、知識でわかってることと、
身体が実感として覚えてることには雲泥の差があるわ。あなた、
最近は門限が守れてるけど、それはどうして?」

 「えっ!?」

 「私がお灸をすえてあげたからでしょう。おかげで、『そんな
ことしてると、またお灸よ』と言えば、すぐに間違いに気づくで
しょう。効果覿面だわ」

 「……」茜ちゃんは何かを飲み込んで黙ってしまいました。

 「人は頭でわかっていても、そちらの方が楽なら、ついつい、
悪い道へ足を踏み入れてしまうものなの。…でも、それを止めて
くれるのが、お仕置きなの。……もしも、女の子から外れた行為
をしようとした時でも、お股の中に熱いものを入れられた子なら、
その時きっとお股の中がむずがゆくなって、自分が女の子だって
気づくはず。過ちは犯さなくなるわ」

 「男の子はしないの?」

 「男の子はデリケートだから、そんなことをしたら萎縮して、
お仕事ができなくなってしまうわ」

 「でも、女の子だけなんて不公平よ。どうして、女の子はお母
さんのお手伝いして、下着は自分で洗わなきゃいけないの?……
どうして、綺麗な字が書けなきゃいけないの?……どうして、お
友だちと喧嘩しちゃいけないの?…どうしてオナニーしちゃいけ
ないのよ?」

 茜ちゃんは一気にまくし立てます。
 お母さんは最後に出てきた言葉に慌てて伸び上がると、立って
いた茜ちゃんのお口を塞ぎますが、どうやら手遅れのようでした。

 今度は桂子ちゃんのお母さんが苦笑いする番だったのです。

 「仕方がないでしょう。神様がそのようにお造りになったんだ
から」

 「大人って都合が悪くなると何でも神様のせいにするのね」
 茜ちゃんは雄弁です。それは今日にあっては美徳かもしれませ
んが、結婚を前提とする当時の女の子には不要なものでした。

 「お黙りなさい!」
 とうとう茜ちゃんのお母さんの声が大きくなります。

 「まったくあなたって子は…せっかくセントメリーにお世話に
なっているのに、平気で学校を批判するようなことを言って……
そんなことが女の子らしくないことなんですよ。もし、今度そん
なお口のきき方したらもう一度お股の中におやいと入れて鍛えて
あげます。今度はお父様にやっていただきましょうかね」

 「…………」
 こう言われると、茜ちゃんはやはり何かを飲み込んで黙るしか
ありませんでした。

 「大丈夫よ。茜ちゃん。茜ちゃんはまだ小学生。女の子らしく
なんて言われても実感なんて湧かないわよねえ」

 桂子ちゃんのお母さんは娘の身なりを整え直すと、茜ちゃんの
共感者になろうとしてお愛想を言います。すると、それに答えた
のは茜ちゃんのお母さんでした。

 「まったく、変な言葉はすぐに覚えてくるし…男の子とケンカ
はするし…お転婆で困りものなの」

 「男勝りのお年頃。今が一番楽しい時だもの。少しくらいお仕
置きが増えたってお転婆じゃなきゃ人生が楽しくないわよねえ」
 と桂子ちゃんのお母さんが言えば……

 「でも、この頃を自由にさせちゃうと、将来は職業婦人になる
可能性が高いそうよ」
 と、茜ちゃんのお母さんが応じます。

 「まあ、そうなの。それは困るわね」

 「お母さんは、あなたを立派なお家に嫁がせようとして頑張っ
てるの。職業婦人なんかにするつもりはありませんからね」

 「えっ、私、スチュワーデスになりたいって言ったでしょう」
 大人たちの話に茜ちゃんが嘴を突っ込むと…

 「もちろん、それはそれで結構よ。だけど、いずれは結婚しな
きゃならないでしょう。女は自分で稼いで満足するんじゃ寂しい
わ。ご主人に愛され子供たちに愛されて幸せになるものよ。さあ、
今度はあなたが心棒をご覧にいれなさい」

 「えっ、わたしも?」

 「そりゃそうよ。桂子さんにだけ恥ずかしい思いをさせるわけ
にはいかないでしょう」

 「そんなあ、わたし、あんなもの見たいなんて言ってないもの」

 「何です!あんなものって……あなたが見たいかどうかなんて
聞いてません。何より先様に失礼よ」

 「まあまあ、よろしいんですよ」
 桂子ちゃんのお母さんはなだめますが、茜ちゃんのお母さんは
納得しません。

 「もし、お母さんの言う事が素直に従えないなら、明日もまた
今日と同じお仕置きで泣いてもらいますからね」

 「え~~~~」
 これにはさしもの茜ちゃんも言葉がありませんでした。

 そして桂子ちゃんと同じように仰向けになると両足を高く上げ
て開き、自らの御印を、桂子ちゃんをはじめこの部屋にいた女性
ばかり五人に公開したのでした。

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Appendix

このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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